(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性シートとその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230126BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230126BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20230126BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20230126BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230126BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20230126BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20230126BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/22
C08K3/28
C08L83/04
C08J5/18 CFH
C09K5/14 E
H01L23/36 D
H01L23/36 M
(21)【出願番号】P 2022562882
(86)(22)【出願日】2022-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2022033235
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2022004460
(32)【優先日】2022-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】神谷 優希
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/137086(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/137970(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/136542(WO,A1)
【文献】特開2018-021156(JP,A)
【文献】特開2013-147600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C09K 5/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂と硬化触媒と熱伝導性粒子を含む熱伝導性組成物であって、
前記マトリックス樹脂100質量部に対し、前記熱伝導性粒子は、
(a)平均粒子径が100μmを超える球状アルミナが600~1500質量部、
(b)平均粒子径1μm以下のアルミナが100~400質量部、
(c)平均粒子径0.8~150μm窒化アルミニウムが500~1500質量部
を含み、前記熱伝導性組成物の硬化前の
コンパウンドを、-0.1Paの減圧状態で5分間脱泡した後の可塑度が80以下であることを特徴とする熱伝導性組成物。
【請求項2】
前記熱伝導性組成物の硬化前の脱泡後の可塑度が70以下である請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率は7.3W/m・K以上である請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
前記熱伝導性組成物の硬化物のASKER C硬さが50以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
前記マトリックス樹脂は、付加硬化型シリコーンポリマー、過酸化物硬化型シリコーンポリマー及び縮合型シリコーンポリマーから選ばれる少なくとも一つである請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
前記マトリックス樹
脂100質量部に対し、さらにシランカップリング剤を0.1~10質量部添加する請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
前記(c)の窒化アルミニウムの形状は不定形破砕状である請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の熱伝導性組成物
がシートに成形されていることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項9】
前記熱伝導性シートの厚みは0.2~10mmの範囲である請求項8に記載の熱伝導性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適な熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性シートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCPU等の半導体の性能向上はめざましくそれに伴い発熱量も膨大になっている。そのため発熱するような電子部品には放熱体が取り付けられ、半導体と放熱部との密着性を改善する為に熱伝導性シートが使われている。機器の小型化、高性能化、高集積化に伴い熱伝導性シートには柔らかさ、高熱伝導性が求められている。従来、熱伝導性シートとして特許文献1~4等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2021-518466号公報
【文献】再表2020-137970号公報
【文献】再表2018-088416号公報
【文献】特開2016-216523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性シートは、熱伝導率を高くすると、組成物の可塑度が高くなり、成形加工性が悪くなるという問題があった。
本発明は前記従来の問題を解決するため、熱伝導率が高く、かつ組成物の可塑度は低く、成形加工性が良好な熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性シートとその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の熱伝導性組成物は、熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂と硬化触媒と熱伝導性粒子を含む熱伝導性組成物であって、前記マトリックス樹脂100質量部に対し、前記熱伝導性粒子は、
(a)平均粒子径が100μmを超える球状アルミナが600~1500質量部、
(b)平均粒子径1μm以下のアルミナが100~400質量部、
(c)平均粒子径0.8~150μm窒化アルミニウムが500~1500質量部
を含み、前記熱伝導性組成物の硬化前のコンパウンドを、-0.1Paの減圧状態で5分間脱泡した後の可塑度が80以下である。
【0006】
本発明の熱伝導性シートは、前記の熱伝導性組成物がシートに成形されている。
【0007】
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、前記の熱伝導性組成物を真空脱泡し、圧延し、シート成形した後に加熱硬化させて熱伝導性シートを製造する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、前記組成とすることにより、熱伝導率が高く、かつ組成物の可塑度は低く、成形加工性が良好な熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性シートを提供できる。具体的には、前記熱伝導性組成物の硬化前の脱泡後の可塑度が80以下であり、好ましい熱伝導率は7.3W/m・K以上である。また本発明の熱伝導性シートの製造方法は、組成物の可塑度が低く、成形加工性が良好であることから、連続シート成形が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態における熱伝導性シートの使用方法を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2A-Bは本発明の一実施例における試料の熱伝導率の測定方法を示す模式的説明図である。
【
図3】
図3は本発明の一実施形態で使用する不定形破砕状窒化アルミニウムの外観写真(倍率100倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、マトリックス樹脂と硬化触媒と熱伝導性粒子を含む熱伝導性組成物である。マトリックス樹脂は、シリコーンゴム、シリコーンゲル、アクリルゴム、フッ素ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましい。この中でもシリコーンが好ましく、エラストマー、ゲル、パテ又はグリースなどである。シリコーンの硬化システムは過酸化物、付加、縮合等いかなる方法を用いてもよい。シリコーンは耐熱性が高いことから好ましい。また、周辺への腐食性がないこと、系外に放出される副生成物が少ないこと、深部まで確実に硬化することなどの理由により付加反応型であることが好ましい。
【0011】
マトリックス樹脂成分100質量部に対し、熱伝導性粒子は次のとおり添加する。
(a)平均粒子径が100μmを超える球状アルミナが600~1500質量部であり、好ましくは600~1400質量部である。前記球状アルミナは、平均粒子径が100μmを超え150μm以下が好ましく、より好ましくは平均粒子径102~140μmであり、さらに好ましくは104~130μmである。
(b)平均粒子径1μm以下のアルミナが100~400質量部であり、好ましくは150~350質量部である。前記アルミナは、平均粒子径が0.05~1μmが好ましく、より好ましくは平均粒子径0.1~0.9μmであり、さらに好ましくは0.1~0.9μmである。前記アルミナの形状は、球状でもよいし不定形破砕状(以下「不定形」ともいう)でもよい。
(c)平均粒子径0.8~150μm窒化アルミニウムが500~1500質量部であり、好ましくは600~1400質量部であり、より好ましくは700~1400質量部である。前記窒化アルミニウムは、平均粒子径が0.8~140μm以下が好ましく、より好ましくは平均粒子径0.8~130μmであり、さらに好ましくは0.9~120μmである。前記窒化アルミニウムの形状は不定形破砕状が好ましい。
【0012】
前記熱伝導性組成物の硬化前の真空脱泡後の可塑度は80以下であり、好ましくい可塑度は1~80、より好ましくは5~70である。これにより、組成物の可塑度は低く、成形加工性が良好な熱伝導性組成物が得られる。可塑度は、JIS K 6300-3,ISO 2007:1991に従い、ウォーレス可塑度計(Wallace plastometer)を使用し、測定温度25℃において、2枚の金属プレート間に試料を一定荷重(100N),一定時間(15秒)で圧縮した後の厚さ(t)を圧縮前の厚さ(t0)で割った値を可塑度(P0=t/t0×100)で求める。P0が小さいほど柔軟であることを示す。
【0013】
前記熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率は7.3W/m・K以上が好ましく、より好ましくは7.3~20W/m・K、さらに好ましくは7.5~17W/m・Kであり、とくに好ましくは8~15W/m・Kである。これにより熱伝導率が高く、TIM(Thermal Interface Material)として好適である。
【0014】
前記熱伝導性組成物の硬化物のASKER C硬さは50以下が好ましく、より好ましくは10~50、さらに好ましくは15~45である。これにより、発熱体及び放熱体(ヒートシンク)への追従性が良好となる。
【0015】
前記マトリックス樹脂成分100質量部に対し、さらにシランカップリング剤を0.1~10質量部添加することが好ましく、より好ましくは0.5~7質量部添加する。シランカップリング剤は、熱伝導性粒子の表面に被覆され(表面処理)、マトリックス樹脂に充填されやすくなるとともに、熱伝導性粒子へ硬化触媒が吸着されるのを防ぎ、硬化阻害を防止する効果がある。これは保存安定性に有用である。シランカップリング剤は、R(CH3)aSi(OR’)4-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物がある。R(CH3)aSi(OR’)4-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるアルコキシシラン化合物(以下単に「シラン」という。)は、一例としてメチルトリメトキシラン,エチルトリメトキシラン,プロピルトリメトキシラン,ブチルトリメトキシラン,ペンチルトリメトキシラン,ヘキシルトリメトキシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン,ヘキサデシルトリメトキシシラン,ヘキサデシルトリエトキシシシラン,オクタデシルトリメトキシシラン,オクタデシルトリエトキシシシラン等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、一種又は二種以上混合して使用することができる。
【0016】
前記(c)の窒化アルミニウムの形状は不定形破砕状であるのが好ましい。不定形破砕状窒化アルミニウムは入手しやすい。
図3は本発明の一実施形態で使用する不定形破砕状窒化アルミニウムの外観写真(倍率100倍)である。
【0017】
本発明の前記熱伝導性組成物はシートに成形されている熱伝導性シートであるシートであると汎用性が高く、TIMとして好適である。熱伝導性シートの厚みは0.2~10mmの範囲が好ましい。
【0018】
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、前記熱伝導性組成物を真空脱泡し、圧延し、シート成形した後に加熱硬化させて熱伝導性シートとする。真空脱泡は、前記熱伝導性組成物(コンパウンド)を-0.08~-0.1 Paの圧力に減圧し、5~10分間程度置き、脱泡する。圧延はロール圧延加工、プレス加工などがあるが、ロール圧延加工は連続生産が可能であることから、ロール圧延加工が好ましい。
【0019】
前記熱伝導性組成物の絶縁破壊電圧(JIS K6249)は、7~16kV/mmであるのが好ましい。これにより、電気的絶縁性の高い熱伝導性シートとすることができる。
【0020】
前記熱伝導性組成物の体積抵抗率(JIS K6249)は、1010~1014Ω・cmであるのが好ましい。これにより、電気的絶縁性の高い熱伝導性シートとすることができる。
【0021】
本発明の一例として、付加反応型シリコーン組成物(未硬化組成物)の場合は、下記組成のコンパウンドが好ましい。
A マトリックス樹脂成分
マトリックス樹脂成分は、下記(A1)(A2)を含む。(A1)+(A2)で100質量部とする。
(A1)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状オルガノポリシロキサン
(A2)架橋成分:1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、前記A成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、1モル未満の量
前記(A1)(A2)成分以外に反応基を持たないオルガノポリシロキサンを含んでもよい。
B 熱伝導性粒子
熱伝導性粒子はマトリックス樹脂100質量部に対し、次のとおりとする。
(a)平均粒子径が100μmを超える球状アルミナが600~1500質量部、
(b)平均粒子径1μm以下のアルミナが100~400質量部、
(c)平均粒子径0.8~150μm窒化アルミニウムが500~1500質量部
C 白金系金属触媒:マトリックス樹脂成分に対して質量単位で0.01~1000ppmの量
D その他添加剤:硬化遅延剤、着色剤等;任意量、シランカップリング剤
【0022】
以下、各成分について説明する。
(1)ベースポリマー成分(A1成分)
ベースポリマー成分は、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンであり、アルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンは本発明のシリコーンゴム組成物における主剤(ベースポリマー成分)である。このオルガノポリシロキサンは、アルケニル基として、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個有する。粘度は25℃で10~1000000mPa・s、特に100~100000mPa・sであることが作業性、硬化性などから望ましい。
具体的には、下記一般式(化1)で表される1分子中に2個以上かつ分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンを使用する。側鎖はアルキル基で封鎖された直鎖状オルガノポリシロキサンである。25℃における粘度は10~1000000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0023】
【0024】
式中、R1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、R2はアルケニル基であり、kは0又は正の整数である。ここで、R1の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基、シアノエチル基等が挙げられる。R2のアルケニル基としては、例えば炭素原子数2~6、特に2~3のものが好ましく、具体的にはビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。一般式(1)において、kは、一般的には0≦k≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦k≦2000、より好ましくは10≦k≦1200を満足する整数である。
【0025】
A1成分のオルガノポリシロキサンとしては一分子中に例えばビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6のケイ素原子に結合したアルケニル基を3個以上、通常、3~30個、好ましくは、3~20個程度有するオルガノポリシロキサンを併用しても良い。分子構造は直鎖状、環状、分岐状、三次元網状のいずれの分子構造のものであってもよい。好ましくは、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、25℃での粘度が10~1000000mPa・s、特に100~100000mPa・sの直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0026】
アルケニル基は分子のいずれかの部分に結合していればよい。例えば、分子鎖末端、あるいは分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合しているものを含んでも良い。なかでも下記一般式(化2)で表される分子鎖両末端のケイ素原子上にそれぞれ1~3個のアルケニル基を有し(但し、この分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基が、両末端合計で3個未満である場合には、分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合したアルケニル基)を、例えばジオルガノシロキサン単位中の置換基として、少なくとも1個有する直鎖状オルガノポリシロキサンであって、上記でも述べた通り25℃における粘度が10~1,000,000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0027】
【0028】
式中、R3は互いに同一又は異種の非置換又は置換一価炭化水素基であって、少なくとも1個がアルケニル基である。R4は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、R5はアルケニル基であり、l,mは0又は正の整数である。ここで、R3の一価炭化水素基としては、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。
また、R4の一価炭化水素基としても、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、上記R1の具体例と同様のものが例示できるが、但しアルケニル基は含まない。R5のアルケニル基としては、例えば炭素数2~6、特に炭素数2~3のものが好ましく、具体的には前記式(化1)のR2と同じものが例示され、好ましくはビニル基である。l,mは、一般的には0<l+m≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦l+m≦2000、より好ましくは10≦l+m≦1200で、かつ0<l/(l+m)≦0.2、好ましくは、0.0011≦l/(l+m)≦0.1を満足する整数である。
【0029】
(2)架橋成分(A2成分)
本発明のA2成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは架橋剤として作用するものであり、この成分中のSiH基とA成分中のアルケニル基とが付加反応(ヒドロシリル化)することにより硬化物を形成するものである。かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を2個以上有するものであればいずれのものでもよく、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は2~1000、特に2~300程度のものを使用することができる。
【0030】
水素原子が結合するケイ素原子の位置は特に制約はなく、分子鎖の末端でも分子鎖非末端(分子鎖途中)でもよい。また、水素原子以外のケイ素原子に結合した有機基としては、前記一般式(化1)のR1と同様の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基が挙げられる。
【0031】
A2成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては下記構造のものが例示できる。
【化3】
【0032】
上記の式中、R6は互いに同一又は異種のアルキル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アルコキシ基、水素原子であり、少なくとも2つは水素原子である。Lは0~1,000の整数、特には0~300の整数であり、Mは1~200の整数である。
【0033】
(3)触媒成分(C成分)
C成分の触媒成分はヒドロシリル化反応に用いられる触媒を用いることができる。例えば白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒が挙げられる。
【0034】
(4)熱伝導性粒子(B成分)
B成分の熱伝導性粒子は合計量で、マトリックス成分であるA成分100質量部に対して1,200~3,400質量部添加するのが好ましい。これにより熱伝導率を高く保つことができる。
【0035】
本発明では、熱伝導性粒子は平均粒子径が異なる3種類以上の無機粒子を併用する。このようにすると大きな粒子の間に小さな粒子径の熱伝導性無機粒子が埋まり、最密充填に近い状態で充填でき、熱伝導性が高くなる。
【0036】
(5)その他添加剤
本発明の組成物には、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えばベンガラ、酸化チタン、酸化セリウムなどの耐熱向上剤、難燃助剤、硬化遅延剤などを添加してもよい。着色、調色の目的で有機或いは無機顔料を添加しても良い。前記のシランカップリング剤を添加してもよい。
【0037】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施形態における熱伝導性シートを放熱構造体10に組み込んだ模式的断面図である。熱伝導性シート11bは、半導体素子等の電子部品13の発する熱を放熱するものであり、ヒートスプレッダ12の電子部品13と対峙する主面12aに固定され、電子部品13とヒートスプレッダ2との間に挟持される。また、熱伝導シート11aは、ヒートスプレッダ12とヒートシンク15との間に挟持される。そして、熱伝導シート11a,11bは、ヒートスプレッダ2とともに、電子部品13の熱を放熱する放熱部材を構成する。ヒートスプレッダ12は、例えば方形板状に形成され、電子部品13と対峙する主面12aと、主面12aの外周に沿って立設された側壁12bとを有する。ヒートスプレッダ2は、側壁12bに囲まれた主面12aに熱伝導シート11bが設けられ、また主面12aと反対側の他面12cに熱伝導シート11aを介してヒートシンク15が設けられる。電子部品13は、例えば、BGA等の半導体素子であり、配線基板14へ実装されている。
【実施例】
【0038】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。各種パラメーターについては下記記載の方法で測定した。
【0039】
<熱伝導率>
熱伝導性シリコーンゴムシートの熱伝導率は、ホットディスク(ISO/CD 22007-2準拠)により測定した。この熱伝導率測定装置1は
図2Aに示すように、ポリイミドフィルム製センサ2を2個の試料3a,3bで挟み、センサ2に定電力をかけ、一定発熱させてセンサ2の温度上昇値から熱特性を解析する。センサ2は先端4が直径7mmであり、
図2Bに示すように、電極の2重スパイラル構造となっており、下部に印加電流用電極5と抵抗値用電極(温度測定用電極)6が配置されている。熱伝導率は以下の式(数1)で算出する。
【数1】
<硬さ>
熱伝導性シリコーンゴムシートの硬さは、ASKER C(ASTM D2240:2021)に従い測定した。参考のため、SHORE 00(JIS K 7312:1996)硬さも測定した。
<可塑度>
可塑度は、JIS K 6300-3:2019,ISO 2007:1991に従い、ウォーレス可塑度計(Wallace plastometer)を使用し、測定温度23℃において、2枚の金属プレート間に試料を一定荷重(100N),一定時間(15秒)で圧縮した後の厚さ(t)を圧縮前の厚さ(t
0)で割った値を可塑度(P
0=t/t
0×100)で求めた。P
0が大きいほど柔軟であることを示す。真空前可塑度は、コンパウンドを作成した状態の可塑度である。脱泡後可塑度はコンパウンドを作成した後、-0.1Paの減圧状態で5分間脱泡した後の可塑度である。コンパウンドは脱泡した後にシート成形することから、脱泡後可塑度は重要である。
【0040】
(実施例1~10、比較例1~4)
1.材料成分
(1)ポリオルガノシロキサン(A成分)
市販のポリオルガノシロキサンを含む2液室温硬化シリコーンポリマー(シリコーン成分)を使用した。一方の液(A液)には、ベースポリマー成分(A成分のうちのA1成分)と白金族系金属触媒が含まれており、他方の液(B液)には、ベースポリマー成分(A成分のうちのA1成分)と架橋剤成分(A成分のうちのA2成分)であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが含まれる。
(2)熱伝導性粒子(B成分)
表1に記載の熱伝導性粒子を使用した。平均粒子径は、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定において、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)である。この測定器としては、例えば堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA-950S2がある。表中のμmの前の数値は各粒子の平均粒子径である。また表中のAlNは窒化アルミニウムの略語である。
(3)白金族系金属触媒(C成分)
追加の白金族系金属触媒として、白金-ビニルジシロキサン錯体を使用した。尚、上記の通り2液室温硬化シリコーンポリマー(シリコーン成分)には白金族系金属触媒が含まれている。各実施例のシリコーン組成物の調製に際し、ポリオルガノシロキサンが十分に一次硬化するように、追加の白金族系金属触媒を、シリコーン成分100質量部(100g)に対して2質量部(2g)添加した。
【0041】
2.コンパウンド
各材料について前記表1に示す量を計量し、それらを混合装置に入れてコンパウンドとした。表1において、各材料の量を、シリコーン成分(2液室温硬化シリコーンポリマー)を100質量部(100g)とした場合の量(質量部)で記載している。このコンパウンドは-0.1Paの減圧状態で5分間脱泡した。
【0042】
3.シート成形加工
離型処理をしたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで前記コンパウンドを挟み込み、等速ロールにて厚み2.0mmのシート状にロール圧延成形し、100℃、15分加熱硬化し、熱伝導性シリコーンゴムシートを成形した。以上の条件と結果を表1及び2に示す。
【0043】
【0044】
【0045】
以上の実施例のとおり、シリコーンゴム100質量部に対し、熱伝導性粒子は、前記マトリックス樹脂100質量部に対し、前記熱伝導性粒子は、
(a)平均粒子径が100μmを超える球状アルミナが600~1500質量部、
(b)平均粒子径1μm以下のアルミナが100~400質量部、
(c)平均粒子径0.8~150μm窒化アルミニウムが500~1500質量部
であることにより、熱伝導率が高く、かつ組成物の脱泡後の可塑度が低いことが確認できた。
これに対して比較例1は、(a)成分がなく、比較例2は(a)成分はあるが添加量が少なく、比較例3は(b)成分の添加量が少なく、比較例4は(a)成分がなく、かつ(c)成分が少ないため、いずれも脱泡後の可塑度は好ましくなかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の熱伝導性組成物及び熱伝導性シートは、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適である。
【符号の説明】
【0047】
1 熱伝導率測定装置
2 センサ
3a,3b 試料
4 センサの先端
5 印加電流用電極
6 抵抗値用電極(温度測定用電極)
10 放熱構造体
11a,11b 熱伝導性シート
12 ヒートスプレッダ
13 電子部品
14 配線基板
15 ヒートシンク
【要約】
熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂と硬化触媒と熱伝導性粒子を含む熱伝導性組成物であって、前記マトリックス樹脂100質量部に対し、前記熱伝導性粒子は、(a)平均粒子径が100μmを超える球状アルミナが600~1500質量部、(b)平均粒子径1μm以下のアルミナが100~400質量部、(c)平均粒子径0.8~150μm窒化アルミニウムが500~1500質量部を含み、前記熱伝導性組成物の硬化前の脱泡後の可塑度が80以下である。これにより、熱伝導率が高く、かつ組成物の可塑度は低く、成形加工性が良好な熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性シートとその製造方法を提供する。