(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】リザーバタンクおよび車両用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 11/26 20060101AFI20230126BHJP
G01F 23/62 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
B60T11/26 A
G01F23/62 C
(21)【出願番号】P 2017242476
(22)【出願日】2017-12-19
【審査請求日】2020-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂木 訓
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-221020(JP,A)
【文献】特開平09-030397(JP,A)
【文献】特開2011-025736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 11/26
G01F 23/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液の貯溜室が形成されたリザーバ本体と、
前記貯溜室内に設けられ、内側にフロート室を形成する略円筒状のフロートガイドと、
液面の変位に伴って前記フロートガイド内側のフロート室内を上下動するフロートおよび前記フロートの位置を検出する検出器を有する液面検出装置と、を備えたリザーバタンクあって、
前記フロートガイドに設けられ、前記フロートガイドの壁を水平方向に貫通し、前記貯溜室と前記フロート室とを連通するスリットと、
前記スリットに連続して前記フロートガイドの壁の内面に設けられ、前記スリットと前記フロート室とを連通する作動液路と、を備え、
前記作動液路は、前記フロートガイドの壁の内面から径方向外側に凹んでおり、
前記作動液路の底面は、前記フロートガイドの壁の内面の位置よりも径方向外側に位置して
おり、
前記スリットは、前記フロートガイドの上部側に設けられており、前記作動液路は、前記スリットの下端から下方へ延長して直線状に形成されていることを特徴とするリザーバタンク。
【請求項2】
前記作動液路は、溝状であることを特徴とする請求項1に記載のリザーバタンク。
【請求項3】
前記スリットは、前記フロートガイドの上縁部から前記フロートガイドの軸方向下側に向けて形成されており、
前記スリットの下端位置は、前記フロートが規定位置に下がった際に作動液の液量の異常が検出される液面位置であることを特徴とする請求項1
または請求項
2に記載のリザーバタンク。
【請求項4】
前記作動液路は、前記フロートが規定位置に下がった際に作動液の液量の異常が検出される液面位置よりも下方となる領域に延出していることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載のリザーバタンク。
【請求項5】
前記フロートガイドは、車両搭載時の車両前方側となる部分が車両後方側となる部分よりも上方に突出していることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載のリザーバタンク。
【請求項6】
前記スリットおよび前記作動液路は、前記フロートガイドの軸方向から見て車両搭載時の車両後方側に形成されており、前記フロートガイドの軸心を通る車両前後方向の基準線を基準として、前記フロートガイドの周方向に偏倚した位置に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載のリザーバタンク。
【請求項7】
請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載のリザーバタンクを備えた車両用ブレーキ装置であって、
前記リザーバタンクから作動液の供給を受けるマスタシリンダ装置を備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリザーバタンクおよび車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リザーバタンクとして、車両用のマスタシリンダ装置や車両用の液圧制御装置を備えた車両用ブレーキ装置に用いられるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1のリザーバタンクでは、リザーバ本体内のフロート室を形成するフロートガイドを従来よりも高く形成している。特許文献1のリザーバタンクによれば、車両の制動時にリザーバタンクが前傾姿勢となっても、フロート室に所要の液量が確保されることとなり、フロート室内の液面高さが保持される。
【0003】
フロートガイドには、液面検出装置が誤作動しないようにスリットが形成されている。スリットは、フロート室とその外側の貯溜室とを連通しており、フロート室と貯溜室との作動液の通流を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のリザーバタンクでは、フロートガイドの前後方向の後端部となる部位にスリットが形成されていた。このため、フロートが後側に片寄った場合に、フロートがスリットを塞いで作動液の通流に影響を及ぼすおそれがあった。その結果、リザーバタンクの液面検知機能の特性に一時的に変化が生じる可能性があった。
【0006】
本発明は、フロートがスリット側に片寄った場合でもフロート室と貯溜室との作動液の通流を確保することができ、リザーバタンクの液面検知機能の特性に変化が生じるのを好適に防止するリザーバタンクおよび車両用ブレーキ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために創案された本発明のリザーバタンクは、作動液の貯溜室が形成されたリザーバ本体と、前記貯溜室内に設けられ、内側に略円形のフロート室を形成するフロートガイドと、を備えている。また、リザーバタンクは、液面の変位に伴って前記フロートガイド内側のフロート室内を上下動するフロートおよび前記フロートの位置を検出する検出器を有する液面検出装置を備えている。さらに、リザーバタンクは、前記フロートガイドに設けられ、前記フロートガイドの壁を水平方向に貫通し、前記貯溜室と前記フロート室とを連通するスリットと、前記スリットに連続して前記フロートガイドの壁の内面に設けられ、前記フロートガイドの壁内を水平方向の途中まで延び、前記スリットと前記フロート室とを連通する作動液路と、を備えている。前記作動液路は、前記フロートガイドの壁の内面から径方向外側に凹んでおり、前記作動液路の底面は、前記フロートガイドの壁の内面の位置よりも径方向外側に位置している。前記スリットは、前記フロートガイドの上部側に設けられており、前記作動液路は、前記スリットの下端から下方へ延長して直線状に形成されていることを特徴とする。
【0008】
かかるリザーバタンクによると、フロートガイド内において仮にフロートがスリット側に片寄ってスリットがフロートで塞がれたとしても、スリットに連続する作動液路を通じてフロート室内と貯溜室とが連通する状態となり、作動液の通流が確保される。これにより、フロート室内における作動液の液面が適正なものとなり、液面検知機能の特性に変化が生じることを好適に防止することができる。
また、スリットが、フロートガイドの上部側に設けられ、作動液路が、スリットの下端から下方へ延長して直線状に形成されているので、スリットと作動液路とを一体に構成することができる。したがって、成形性および生産性に優れたリザーバタンクが得られる。
なお、前記の上部側とは、車両搭載時における車両のボンネット側方向に位置する部分をいう。
【0009】
また、作動液路が溝状であることが好ましい。この場合には、作動液路をフロートガイドの内面に容易に形成することができる。
【0010】
また、前記スリットは、前記フロートガイドの上縁部から前記フロートガイドの軸方向下側に向けて形成されており、前記スリットの下端位置は、前記フロートが規定位置に下がった際に作動液の液量の異常が検出される液面位置であることが好ましい。このように構成することによって、スリットがフロートガイドの底面まで形成されている場合に比べて、フロート室から貯溜室への作動液の移動量を抑えて、フロート室に貯溜される作動液の液量を確保することができる。これにより、フロート室内における作動液の液面が適正なものとなり、液面検知機能の特性に変化が生じることを好適に防止することができる。
【0011】
また、前記作動液路は、前記フロートが規定位置に下がった際に作動液の液量の異常が検出される液面位置よりも下方となる領域に延出しているのがよい。このように構成することによって、フロートが規定位置に下がった際に作動液の液量の異常が検出される液面位置にフロートが近づいた状態で、フロートが片寄ってスリットを塞いでも、作動液路を通じてフロート室と貯溜室との連通を確保することができる。これにより、フロート室内におけるブレーキ液の液面が適正なものとなり、液面検知機能の特性に変化が生じることを好適に防止することができる。
【0012】
また、前記作動液路は、溝状であることが好ましい。このように構成することによって、作動液路をフロートガイドの内面に容易に形成することができる。
【0013】
また、前記フロートガイドは、車両搭載時の車両前方側となる部分が車両後方側となる部分よりも上方に突出していることが好ましい。このように構成することによって、制動時の車両の前傾でリザーバタンクが前傾した場合にも、フロート室の車両前方側となる部分を作動液が越流して貯溜室に移動することを抑制することができる。これにより、液面検知機能の特性に変化が生じることを好適に防止することができる。
【0014】
また、前記スリットおよび前記作動液路は、前記フロートガイドの軸方向から見て車両搭載時の車両後方側に形成されており、前記フロートガイドの軸心を通る車両前後方向の基準線を基準として、前記フロートガイドの周方向に偏倚した位置に配置されていることが好ましい。このように構成することによって、車両の前傾だけではなく、急発進による車両の後傾や旋回による車両の左右傾きに伴ってリザーバタンクが傾いても、フロート室から貯溜室への作動液の移動を抑制することができる。これにより、フロート室内における作動液の液面が適正なものとなり、液面検知機能の特性に変化が生じることを好適に防止することができる。
【0016】
また、本発明のリザーバタンクを備えた車両用ブレーキ装置は、前記リザーバタンクから作動液の供給を受けるマスタシリンダ装置を備えることが好ましい。かかる車両用ブレーキ装置では、フロートの片寄りでスリットが塞がれても、スリットに連続する作動液路を通じてフロート室内と貯溜室とが連通する状態となり、これらの間で作動液の通流が確保される。これにより、フロート室内における作動液の液面が適正なものとなり、液面検知機能の特性に変化が生じることを好適に防止可能な車両用ブレーキ装置が得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、フロートがスリット側に片寄った場合でもフロート室と貯溜室との作動液の通流を確保することができ、リザーバタンクの液面検知機能の特性に変化が生じることを好適に防止するリザーバタンクおよび車両用ブレーキ装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るリザーバタンクの左側面図である。
【
図4】リザーバタンクの下部半体を示す平面図である。
【
図5】フロートを取り外したリザーバタンクの下部半体を示す斜視図である。
【
図6】フロートガイドの要部を示す拡大斜視図である。
【
図7】スリットおよび作動液路を示す拡大斜視図である。
【
図8】スリットおよびリブを後方から見た拡大斜視図である。
【
図9】スリットおよび作動液路を示す拡大縦断面図である。
【
図10】スリットおよび作動液路を示す拡大平面図である。
【
図11】リザーバタンクを前傾させたときの液面の様子を示す説明図である。
【
図12】リザーバタンクが適用される車両用ブレーキ装置を示す一部切断側面図である。
【
図13】本発明の第2実施形態に係るリザーバタンクの下部半体を示す斜視図である。
【
図14】スリットおよび作動液路の拡大斜視図である。
【
図15】スリットおよび作動液路を示す拡大平面図である。
【
図16】スリットおよび作動液路を示す拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、説明において、同一の要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。また、以下の説明において、リザーバタンクの「前後」「上下」を言うときは
図1等に示す方向を基準とし、「左右」を言うときは
図4に示す方向を基準とする。
【0020】
(第1実施形態)
図1~
図4に本実施形態のリザーバタンク1を示す。以下では、車両用ブレーキ装置を構成するマスタシリンダ装置に接続されるリザーバタンク1を例示する。ただし、リザーバタンク1が接続される装置を限定するものではない。なお、マスタシリンダ装置の構成の詳細は後記する。
【0021】
リザーバタンク1は、
図1に示すように、作動液注入口2、作動液供給口3a,3bを備えたリザーバ本体5を備えている。作動液注入口2は、リザーバ本体5の上部に設けられており、キャップ2aで塞がれる。作動液としてのブレーキ液は、作動液注入口2を通じてリザーバ本体5の内部に注入される。作動液供給口3a,3bは、リザーバ本体5の下面の前後に間隔を隔てて設けられている。作動液供給口3a,3bは、後記するように、マスタシリンダ装置にそれぞれ接続されるようになっている。
【0022】
リザーバ本体5は樹脂製である。リザーバ本体5は、
図1~
図3に示すように、下部半体51と上部半体52とからなる。リザーバ本体5の内部は、ブレーキ液を貯溜する貯溜室5aになっている。下部半体51と上部半体52とは、
図1に示すように、その対向端に形成されたフランジ51a,52aを接合面S(
図3参照)で熱融着することにより液密に接着されている。下部半体51の内面と上部半体52の内面とは、上下方向に連続している。下部半体51の内側には、
図4に示すように、前部側に前側貯溜室5a1が形成され、後部側に後側貯溜室5a2が形成されている。
【0023】
下部半体51の略中央部には、
図5に示すように、略円筒状のフロートガイド53が立設されている。フロートガイド53の軸心O1は、
図4に示すように、リザーバ本体5の左右方向の中央部よりも右側に偏倚している。これに対応して、下部半体51の右壁部51bは、右側方に膨出形成されている。下部半体51の右壁部51bとフロートガイド53の右壁部53bとの間には、平面視円弧状の右間隙51cが形成されている。右間隙51cは、右仕切壁51dによって前後に仕切られている。右間隙51cは、下部半体51の右壁部51bとフロートガイド53の右壁部53bとの間に亘って左右方向に形成されている。これにより、右仕切壁51dよりも前側の右間隙51cは、前側貯溜室5a1に連通しており、また、右仕切壁51dよりも後側の右間隙51cは、後側貯溜室5a2に連通している。
【0024】
下部半体51の左壁部51eとフロートガイド53の左壁部53eとの間には、左間隙51fが形成されている。左間隙51fは、右間隙51cよりも左右方向に幅広となっている。左間隙51fには、フロートガイド53の左壁部53eから下部半体51の左壁部51eに向けて左方へ延在する左仕切壁51hが設けられている。左仕切壁51hの左端は、下部半体51の左壁部51eに接続されておらず、左壁部51eとの間に隙間51jを形成している。これにより、この隙間51jを通じて前側貯溜室5a1と後側貯溜室5a2との間をブレーキ液が移動する。
【0025】
フロートガイド53の内側には、フロート室54が形成されている。フロート室54には、液面検出装置55が配設されている。液面検出装置55は、リザーバ本体5内のブレーキ液が適正貯溜範囲の最低レベルに近づいたこと(リザーバ本体5内のブレーキ液量異常)を検出するものである。液面検出装置55は、フロート56と、検出器57と、を備えている。
【0026】
フロート56は、発泡樹脂材等の軽量材からなる。フロート56は、
図5に示すように、円板状の基部56aと、基部56aの前後の下部にそれぞれ一体に垂設されたガイド部56b,56bと、を備えている。フロート56の前縁部および後縁部には、基部56aからガイド部56bに亘って断面U溝状の係合溝56c,56cが形成されている。係合溝56c,56cは、フロートガイド53の内面の前部および後部に形成されたガイドリブ53a,53a(
図5参照)に係合している。フロート56は、フロート室54内のブレーキ液の液面の変動に伴って浮動する(上下動する)。フロート56の基部56aの中央下部には、円形の磁石56eが取り付けられている。
【0027】
検出器57は、フロート56が規定位置に下がったことを検出するものであり、フロート56の磁石56eにより作動する図示しないリードスイッチが備わる。リードスイッチは、ブレーキ液の適正貯溜範囲の最低レベルの液面位置51m(
図5参照)にフロート56が近づいたときに作動するように設定されている。リードスイッチによってリザーバタンク1内のブレーキ液量異常が検出される。
【0028】
フロートガイド53の後右壁部には、
図6に示すように、スリット60およびスリット60に連通する作動液路61が形成されている。スリット60および作動液路61は、フロートガイド53の軸方向から見て車両搭載時の車両後方側に形成されており、フロートガイド53の軸心O1を通る車両前後方向の基準線L1(
図4参照)を基準として、フロートガイド53の周方向右側に偏倚した位置に配置されている。
【0029】
スリット60は、フロートガイド53の後右壁部を貫通する縦長の切欠きであり、フロート室54と後側貯溜室5a2とを連通している。フロート室54には、スリット60を通じて後側貯溜室5a2にブレーキ液が流入する。スリット60は、
図5,
図6に示すように、車両搭載時におけるフロートガイド53の上部側に設けられており、フロートガイド53の上縁部からフロートガイド53の軸方向下側に向けて延在している。フロートガイド53の軸方向において、スリット60の底面60bの位置は、ブレーキ液の適正貯溜範囲の最低レベルの液面位置51m(
図5参照、MINレベル)と略同じ位置である。つまり、フロート室54には、少なくとも最低レベルの液面位置51mに対応するブレーキ液量が確保されるようになっている。
【0030】
フロートガイド53の外面には、
図6~
図8に示すように、スリット60および作動液路61の形成位置に対応して、縦長のリブ60aが一体に突設されている。リブ60aは、フロートガイド53の軸方向全長に亘って延在しており、上部60a1がスリット60の左右外縁部に沿うように二股に分かれている。これによって、スリット60の左右縁部が補強されている。
【0031】
スリット60は、
図6,
図10に示すように、リブ60aによって右後方へ延在しており、後側の右間隙51cに開口している。これにより、スリット60を介してフロート室54と後側の右間隙51cとの間でブレーキ液の通流が可能となっている。なお、右間隙51cは、左間隙51fに比べて幅狭であるので、幅広の左間隙51f側にスリット60が設けられている場合に比べてブレーキ液の移動量を抑えることができる。
リザーバタンク1にブレーキ液を注入するときには、作動液注入口2を通じて後側貯溜室5a2に注入されたブレーキ液が後側の右間隙51cに流入し、右間隙51cからスリット60を介してフロート室54に流入するようになっている。
【0032】
作動液路61は、縦長溝状に形成されたブレーキ液の通路である。作動液路61は、スリット60の下端部に連続するようにフロートガイド53の内面に凹設されており、スリット60の下端から下方へ延長して直線状に形成されている。
作動液路61の底面61aは、
図9,
図10に示すように、フロートガイド53の内面53kの位置よりも径方向外側に位置している(径方向外側にオフセットしている)。本実施形態では、
図10に示すように、作動液路61の底面61aがフロートガイド53の湾曲した外面の周方向延長上に位置している。
【0033】
作動液路61の下部は、
図7に示すように、検出器57が作動する規定位置にフロート56が下がった状態(二点鎖線で図示した状態)で、フロート56よりも下方となる領域に延出(露出)するように形成されている。これにより、検出器57が作動する規定位置にフロート56が下がった状態でも作動液路61およびスリット60を通じてブレーキ液の通流が確保されるようになっている。つまり、仮に検出器57が作動する規定位置でスリット60側にフロート56が片寄ることでスリット60の下部がフロート56で塞がれたとしても、作動液路61を介してフロート室54内とスリット60とが連通する状態となり、ブレーキ液の通流が可能となる。なお、
図7において、符号56gは、フロート56によって塞がれる領域を示し、また、破線で示す矢印は、作動液路61からスリット60へのブレーキ液の通流を示している。本実施形態では、フロート56のうち、基部56aのみがスリット60に対向する位置関係となっている。このため、フロート56によって塞がれる領域56gは、基部56aの厚みに対応したものとなっている。なお、スリット60の形成位置によっては、フロート56の基部56aおよびガイド部56bの両方がスリット60に対向する位置関係となる場合がある。この場合に塞がれる領域56gは、基部56aおよびガイド部56bを併せた厚みに対応したものとなる。
【0034】
フロートガイド53は、
図6に示すように、車両搭載時の車両前方側となる前部53cが車両後方側となる後部53gよりも上方に突出している。前部53cは、
図2に示すように、下部半体51のフランジ51aよりも上方に延在しており、
図3に示すように、上部半体52の内側に入り込んでいる。前部53cは、
図5に示すように、フロートガイド53の上縁部から傾斜して立ち上がる左右稜線部53d,53dと、左右稜線部53d,53dに連続する平らな稜線部53jと、を備えている。左右稜線部53d,53dの傾斜角度は、側面視で略45度となるように設定されている。なお、傾斜角度は任意に設定することができる。
【0035】
図11はリザーバタンク1を前傾させたときの液面の様子を示す説明図である。
図11において、二点鎖線で示す液面M1は、前側貯溜室5a1における前傾時の液面であり、同様に、液面M2は、後側貯溜室5a2における前傾時の液面である。また、液面M3は、フロート室54における前傾時の液面である。
【0036】
フロートガイド53の前部53cは、上記のように上方に突出しているので、リザーバタンク1が前傾して液面M3が変動した際に、フロート室54から前方へブレーキ液が越流することを抑制する作用をなす。
【0037】
また、傾斜した左右稜線部53d,53dが液面M3に倣って左右の壁部として存在することとなり、リザーバタンク1が前傾して液面M3が変動した際に、フロート室54から左右側方へブレーキ液が越流することを抑制する作用をなす。
なお、
図11において、符号S1は、検出器57が作動する規定位置を示している。液面M3は、前部53cの作用によって規定位置S1よりも上方に位置している。これにより、フロート56が規定位置S1まで下がることがなく、検出器57の誤作動が生じることがない。
【0038】
上部半体52は、
図3に示すように、前側貯溜室5a1、後側貯溜室5a2およびフロート室54の上方を覆う覆い部52bを備えている。覆い部52bは、上板部52b1と、上板部52b1の下面に一体に設けられた前側垂下部52b2、後側垂下部52b3および中央垂下部52cを備えている。
上板部52b1は、後側から前側に向けて漸次上方へ傾斜しており、内面に段差を有しない形状となっている。上板部52b1の前端部は作動液注入口2に接続されている。これにより、作動液注入口2を通じてブレーキ液が注入された際に、上板部52b1の内面を伝って後側から前側にエアーが移動し易く、エアー抜きが行い易い。
【0039】
作動液注入口2の下部内側には、異物捕集用の網状のフィルター59が装着されている。作動液注入口2の下方部位に、
図1に示すように、ブレーキ液の適正貯溜範囲の最高レベルの液面位置52m(MAXレベル)が設定されている。
【0040】
前側垂下部52b2、後側垂下部52b3および中央垂下部52cは、
図2に示すように、フランジ52aよりも下方へ突出している。前側垂下部52b2は、
図3に示すように、前側貯溜室5a1の上部に挿入されており、前側貯溜室5a1のブレーキ液の容量を調整する作用をなす。また、後側垂下部52b3は、後側貯溜室5a2の上部に挿入されており、後側貯溜室5a2のブレーキ液の容量を調整する作用をなす。これにより、前側貯溜室5a1および後側貯溜室5a2に注入可能なブレーキ液の容量が抑えられる。また、前側垂下部52b2および後側垂下部52b3は、ブレーキ液の波立ちを抑制する作用をなす。
【0041】
中央垂下部52cは、フロート室54の上部に挿入されている。中央垂下部52cは、フロート56の基部56aに対峙し、フロート56が必要以上に浮き上がることを規制している。
【0042】
次に、本実施形態のリザーバタンク1が適用される車両用ブレーキ装置Aについて、
図12を参照して説明する。
車両用ブレーキ装置Aは、液圧発生装置としてタンデム式のマスタシリンダ装置70を備えている。マスタシリンダ装置70は、図示しないブレーキペダル(ブレーキ操作子)の操作に応じ、ブレーキペダルの踏力をブレーキ液圧に変換するものである。マスタシリンダ装置70は、前後2つのポート71,72を備えている。ポート71,72には、シール部材73,73を介して作動液供給口3a,3bが装着される。マスタシリンダ装置70内には、ポート71,72に連通する前後2つの図示しない圧力室が備わる。各圧力室には、ピストンが収容されている。各ピストンは、ブレーキペダルの踏力を受けて摺動し、圧力室内のブレーキ液を加圧する。各圧力室は、図示しない車輪ブレーキに通じる液圧路に連通している。
【0043】
マスタシリンダ装置70の上部には、連結部75が形成されている。連結部75には、リザーバタンク1の下部半体51の下面に設けられた取付脚部4が装着されている。連結部75と取付脚部4とは、これらを貫通するスプリングピン76によって固定されている。
【0044】
以上説明した本実施形態のリザーバタンク1によれば、フロートガイド53内において仮にフロートがスリット60側に片寄ってスリット60がフロート56で塞がれたとしても、スリット60に連続する作動液路61を通じてフロート室54内と後側貯溜室5a2とが連通する状態となり、ブレーキ液の通流が確保される。これにより、フロート室54内におけるブレーキ液の液面が適正なものとなり、液面検出装置55による液面検知機能の特性に変化が生じるのを好適に防止することができる。
【0045】
また、スリット60は、フロートガイド53の上部側に設けられ、作動液路61は、スリット60の下端から下方へ延長して直線状に形成されているので、スリット60と作動液路61とを一体に構成することができる。したがって、成形性および生産性に優れたリザーバタンク1が得られる。
【0046】
また、スリット60の下端位置は、ブレーキ液の適正貯溜範囲の最低レベルの液面位置51m(MINレベル)に対応しているので、スリット60がフロートガイド53の底面まで形成されている場合に比べて、フロート室54から後側貯溜室5a2へのブレーキ液の移動量を抑えることができる。これにより、フロート室54に貯溜されるブレーキ液の液量を確保することができる。したがって、フロート室54内におけるブレーキ液の液面が適正なものとなり、液面検出装置55による液面検知機能の特性に変化が生じるのを好適に防止することができる。
【0047】
また、作動液路61は、ブレーキ液の適正貯溜範囲の最低レベルの液面位置51mにフロート56が近づいた状態で、フロート56よりも下方となる領域に延出している。これにより、ブレーキ液の液面が適正貯溜範囲の最低レベルの液面位置51mにフロート56が近づいた状態で、フロート56が片寄ってスリット60を塞いでも、作動液路61を通じてフロート室54と後側貯溜室5a2との連通を確保することができる。これにより、フロート室54内におけるブレーキ液の液面が適正なものとなり、液面検出装置55による液面検知機能の特性に変化が生じるのを好適に防止することができる。
【0048】
また、作動液路61は、溝状であるので、作動液路61をフロートガイド53の内面に容易に形成することができる。
【0049】
また、フロートガイド53は、前部53cが上方に突出しているので、制動時の車両の前傾でリザーバタンク1が前傾した場合にも、フロート室54の前部53cからブレーキ液がこぼれて前側貯溜室5a1に移動するのを抑制することができる。これにより、液面検出装置55による液面検知機能の特性に変化が生じるのを好適に防止することができる。
【0050】
また、スリット60および作動液路61は、車両後方側において、基準線L1を基準としてフロートガイド53の周方向に偏倚した位置に配置されている。これにより、車両の前傾だけではなく、急発進による車両の後傾や旋回による車両の左右傾きでリザーバタンク1が傾いても、フロート室54から後側貯溜室5a2へのブレーキ液の移動を抑制することができる。
【0051】
また、作動液路61の底面61aは、フロートガイド53の内面53kよりも径方向外側に位置しているので、フロートガイド53の壁部を利用して作動液路61を容易に形成することができる。また、フロートガイド53の容積を好適に確保することができる。これにより、液面検出装置55による液面検知機能の特性に変化が生じるのを好適に防止することができる。また、フロートガイド53の壁部が薄肉構造である場合にも、フロートガイド53の壁部の外側スペース(右間隙51c)を利用して作動液路61を容易に形成することができる。
【0052】
また、車両用ブレーキ装置Aは、リザーバタンク1から作動液の供給を受けるマスタシリンダ装置70を備えている。かかる車両用ブレーキ装置Aでは、フロート56の片寄りでスリット60が塞がれても、スリット60に連続する作動液路61を通じてフロート室54内と後側貯溜室5a2とが連通する状態となり、これらの間でブレーキ液の通流が確保される。これにより、フロート室54内におけるブレーキ液の液面が適正なものとなり、液面検出装置55による液面検知機能の特性に変化が生じるのを好適に防止することができる車両用ブレーキ装置Aが得られる。
【0053】
(第2実施形態)
図13~
図16を参照して第2実施形態のリザーバタンク1について説明する。本実施形態が前記第1実施形態と異なるところは、作動液路61Aの底面53nがフロートガイド53の内面53kと面一に形成されている点である。
【0054】
フロートガイド53の内面53kには、縦長の内リブ60e,60eが一体に突設されている。内リブ60e,60eは、スリット60の左右開口縁に沿って形成されている。内リブ60e,60eは、フロートガイド53の軸方向全長に亘って形成されている。スリット60は、
図14,
図15に示すように、内リブ60e,60eによってフロート室54内に突出している。なお、スリット60の左右縁部が補強されている。
【0055】
作動液路61Aは、左右の内リブ60e,60eの対向する内面60e1,60e1とこれらに挟まれた底面53nとで囲われて縦長溝状に形成されたブレーキ液の通路である。底面53nは、フロートガイド53の内面53kと周方向に連続しており内面53kと略面一である。作動液路61Aは、スリット60の下端部に連続するように形成されており、スリット60の下端から下方へ延長して直線状に形成されている。
【0056】
作動液路61の下部は、
図16に示すように、検出器57(
図3参照)が作動する規定位置にフロート56が下がった状態(図中二点鎖線で図示した状態)で、フロート56よりも下方となる領域に延出(露出)している。これにより、検出器57が作動する規定位置にフロート56が下がった状態でも作動液路61Aおよびスリット60を通じてブレーキ液の通流が確保されるようになっている。つまり、仮に検出器57が作動する規定位置でスリット60側にフロート56が片寄ることでスリット60の下部がフロート56で塞がれても、作動液路61Aを介してフロート室54内とスリット60とが連通する状態となり、ブレーキ液の通流が可能となる。なお、
図16において、符号56gは、フロート56によって塞がれる領域を示している。本実施形態では、フロート56のうち、基部56aのみがスリット60に対向する位置関係となっている。このため、フロート56によって塞がれる領域56gは、基部56aの厚みに対応したものとなっている。なお、スリット60の形成位置によっては、フロート56の基部56aおよびガイド部56bの両方がスリット60に対向する位置関係となる場合がある。この場合に塞がれる領域56gは、基部56aおよびガイド部56bを併せた厚みに対応したものとなる。
【0057】
本実施形態のリザーバタンク1では、作動液路61Aの底面53nをフロートガイド53の内面53kと略面一に形成し、フロートガイド53の内面53kに内リブ60e,60eを設けることで、フロートガイド53の内面53kをそのまま利用して作動液路61Aを容易に形成することができる。
【0058】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0059】
例えば、前記第1実施形態では、スリット60および作動液路61をフロートガイド53の軸心O1に沿って直線状に形成したものを示したが、これに限られることはなく、軸心O1に対して傾斜させてもよい。このことは前記第2実施形態についても同様である。
【0060】
また、前記第1実施形態では、スリット60および作動液路61を基準線L1を基準として、フロートガイド53の周方向右側に偏倚した位置に配置したものを示したが、これに限られない。例えば、これとは反対側となる、フロートガイド53の周方向左側に偏倚した位置に配置してもよい。このことは前記第2実施形態についても同様である。
【0061】
また、前記第1実施形態および第2実施形態において、作動液路61,61Aは、溝状のものを示したが、これに限られることはなく、スリット60との間でブレーキ液の通流を確保することができるものであれば、凹状に窪ませた構成であってもよい。
【0062】
また、リザーバタンク1は、車両の図示しないブラケットに保持して、例えば、車両のエンジンルーム内の側壁等に支持してもよい。また、リザーバタンク1は、図示しない取付フランジや取付フック等を介して前記したブラケットに固定してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 リザーバタンク
2 作動液注入口
5 リザーバ本体
5a 貯溜室
5a1 前側貯溜室
5a2 後側貯溜室
53 フロートガイド
53c 前部(車両前方側となる部分)
53k 内面
54 フロート室
55 液面検出装置
56 フロート
57 検出器
60 スリット
61 作動液路
61a 底面
61n 底面
60e 内リブ
60e1 内リブの内面
61A 作動液路
70 マスタシリンダ装置
A 車両用ブレーキ装置
L1 基準線