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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】ビール様飲料
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/04 20190101AFI20230126BHJP
   C12C 5/02 20060101ALI20230126BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20230126BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C12G3/04
C12C5/02
A23L2/00 A
A23L2/52
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018062644
(22)【出願日】2018-03-28
(62)【分割の表示】P 2017559140の分割
【原出願日】2017-11-08
(65)【公開番号】P2018099140
(43)【公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2016226053
(32)【優先日】2016-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】大橋 巧弥
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 誠一
(72)【発明者】
【氏名】西塚 太一
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/051127(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/039936(WO,A1)
【文献】特開2010-130902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 3/04
C12C 5/02
A23L 2/00
A23L 2/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルラ酸の量が濃度0.8~10ppm(w/v)であり、糖質の量が濃度2.0g/100ml以下であり、実質的にアルコールを含有しないビール様飲料であって、
フェルラ酸の量が濃度0.1ppm以下の前記ビール様飲料と比較した場合に、のどに対する抵抗感が増強されている、前記ビール様飲料。
【請求項2】
フェルラ酸の量が濃度0.8~3.2ppmである、請求項1に記載のビール様飲料。
【請求項3】
糖質の量が0.5g/100ml未満である、請求項1又は2に記載のビール様飲料。
【請求項4】
麦から得られた成分又は麦芽から得られた成分を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のビール様飲料。
【請求項5】
ビール様清涼飲料である、請求項1~4のいずれか一項に記載のビール様飲料。
【請求項6】
非発酵ビール様飲料である、請求項1~5のいずれか一項に記載のビール様飲料。
【請求項7】
糖質の量が濃度2.0g/100ml以下であり、フェルラ酸の量が濃度0.1ppm以下であり、実質的にアルコールを含有しないビール様飲料のフェルラ酸の量を濃度0.8~10ppm(w/v)に調節する工程を包含する、前記ビール様飲料ののどに対する抵抗感を増強する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビール様飲料に関し、特に、糖質の量が低減されたビール様飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
「ビール」とは麦芽、ホップ及び水などを原料として、これらを発酵させて得られる飲料をいう。「ビール様」とは、味及び香りがビールを想記させる程度に同様であることをいう。「アルコール飲料」とはエチルアルコールを実質的な量で含有する飲料をいう。日本の酒税法では、体積アルコール度数1%以上の飲料を酒類としている。この酒類はアルコール飲料の一例である。本願明細書において、文言「アルコール」はエチルアルコールを意味する。
【0003】
近年の消費者の健康志向から、低糖質のビール様飲料に対する需要が高まっている。しかし、糖質はコク感を生じさせる栄養成分の一つである。糖質の量が低減されたビール様飲料は、コク感を生じる栄養成分が少なくなっている。そのため、低糖質のビール様飲料には、栄養物を飲み込む際にのど、特にのどの前方部(即ち、軟口蓋や口蓋垂の近辺又は舌の後方部)が感じる充足感、引っかかる感覚が通常のビールに劣るという問題がある。本明細書では、栄養物を飲み込む際にのどの前方部が感じる充足感、引っかかる感覚を「のどに対する抵抗感」という。
【0004】
特許文献1には、ビールらしい飲み応えとビールらしいキレ感を備えた、プリン体ゼロ、糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料とその製造方法が記載されている。特許文献1のビールテイスト発酵アルコール飲料は、炭素源、窒素源及び水溶性食物繊維を含む発酵前液を発酵させて得られるものである。
【0005】
プリン体ゼロ、糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料は、ビールであれば本来有している栄養成分が少ないため、のどに対する抵抗感が不足している。水溶性食物繊維は呈味性に乏しい素材であり、発酵前液に含有させたとしても、各種栄養成分に相当する香味を増大させることができない。それゆえ、特許文献1のビールテイスト発酵アルコール飲料は依然としてのどに対する抵抗感が不足しているものである。つまり、のどに対する抵抗感は特許文献1でいう飲み応えとは相違する感覚である。
【0006】
特許文献2には、遊離フェルラ酸を高含有し、かつ、4-ビニルグアイアコール(4-VG)の生成を抑制して、発酵アルコール飲料の香味バランスを保持したビール、発泡酒などが記載されている。特許文献2の発酵アルコール飲料は、飲料に生体内抗酸化作用等の機能性を付与するために遊離フェルラ酸を高含有させている。そして、発酵アルコール飲料の香味バランスを保持するために4-ビニルグアイアコール(4-VG)の生成を抑制している。つまり、特許文献2には、遊離フェルラ酸が発酵アルコール飲料の香味や飲み応えの改善に寄与することは記載されていない。
【0007】
特許文献3には、非発酵ビール風味飲料について、通常のビールと対比するとのどにグッとくる飲み応え及び飲んだ後のキレの良さが劣る問題があること、及びこれらの問題が特定量の高分子糖及び甘味物質を含有させることで解決されることが記載されている。特許文献3には、高分子糖として、難消化性デキストリン等のデンプン分解物が記載されている。また、高分子等の添加量の下限が8mg/mlであることが記載されている。
【0008】
高分子糖は高分子化合物であり、適量含有させた場合に溶液の流動性(レオロジー)が変化する。高分子糖を上記の量で含む特許文献3のビール風味飲料は流動性が低下し、嚥下時にのどを通過し難くなると考えられる。その結果、特許文献3のビール風味飲料は、のどにグッとくる飲み応えが奏されると考えられる。
【0009】
特許文献3の非発酵ビール風味飲料ののどにグッとくる飲み応え感は、のどの後方部、およそ喉仏の近辺にて主として知覚される感覚である。これは、高分子糖を含むビール様飲料が嚥下時にのどを通過し難くなっていることを示す現象である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2016-116454号公報
【文献】特開2010-148485号公報
【文献】国際公開第2013/080354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、糖質の量が低減されたビールテイスト飲料にもかかわらず、のどに対する抵抗感が増大されたビール様飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、フェルラ酸の量が濃度0.4~10ppm(w/v)であり、糖質の量が濃度2.0g/100ml以下であり、アルコールの量が濃度10%(v/v)以下である、ビール様飲料を提供する。
【0013】
ある一形態においては、フェルラ酸の量が濃度0.4~3.2ppmである。
【0014】
ある一形態においては、糖質の量が0.5g/100ml未満である。
【0015】
ある一形態においては、上記ビール様飲料は麦から得られた成分又は麦芽から得られた成分を含むものである。
【0016】
ある一形態においては、上記ビール様飲料は実質的にアルコールを含有しないビール様清涼飲料である。
【0017】
ある一形態においては、上記ビール様飲料は発酵原料の発酵物から得られた成分を含むものである。
【0018】
ある一形態においては、上記ビール様飲料はアルコールの量が濃度3%以上である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、糖質の量が低減されたビールテイスト飲料にもかかわらず、のどに対する抵抗感を示すビール様飲料が提供された。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ビール様飲料とは、その味及び香りがビールを想起させる程度に同様である飲料をいう。ビール様飲料はアルコールを含んでいても含んでいなくてもよい。ビール様飲料は、原料として麦芽、麦、ホップを使用して製造したものであっても、これらを使用しないで製造したものであってもよい。また、ビール様飲料は、発酵過程を経て製造してものであっても、発酵過程を経ないで製造したものであってもよい。
【0021】
本発明のビール様飲料は、実質的にアルコールを含有しないビール様清涼飲料であってよく、実質的にアルコールを含有するビール様アルコール飲料であってもよい。ビール様アルコール飲料である場合、本発明のビール様飲料は、好ましくは、アルコールの量が濃度10%(v/v)以下、好ましくは濃度3~9%、より好ましくは濃度5~8%である。アルコールを含有している場合、のどに対する抵抗感がより向上し易くなる。
【0022】
ビール様飲料のアルコールの量は、従来から知られている方法により調節することができる。ビール様飲料のアルコールの量は、例えば、デンプン原料や糖原料を発酵させてビール様飲料を製造する場合に、デンプン原料や糖原料の使用量を増減させる等、醸造条件を工夫することで調節してよい。ビール様飲料のアルコールの量は、ビール様飲料にアルコール類、飲用水又は炭酸水を添加することで調節してもよい。
【0023】
ビール様飲料に添加するアルコール類としては、アルコールを含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウィスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒であってもよい。本発明に用いられるアルコール類としては、ビール様飲料の呈味性に対してあまり影響を与えることなくアルコール濃度を高められることから、原料用アルコールや、ウオッカ等の特徴的な香味が少ない蒸留酒が好ましく、原料用アルコールがより好ましい。
【0024】
本発明のビール様飲料は、糖質の量が低減されたビール様飲料である。本発明のビール様飲料の糖質の量は、濃度2.0g/100ml以下である。糖質の量が濃度2.0g/100mlを超えるとコク感が生じるため、のどに対する抵抗感を向上させる必要性が低くなる。また、糖質の量が濃度2.0g/100mlを超えると低糖質とはいえず、消費者の需要に応えられなくなる。
【0025】
本発明のビール様飲料の糖質の量は、好ましくは濃度1.0g/100ml以下、より好ましくは濃度0.5g/100ml未満である。ビール様飲料の糖質の量は、従来から知られている方法により調節することができる。尚、ビール様飲料の糖質の量は、例えば、平成27年3月30日消食表第139号通達に記載の方法に則って分析することで、決定することができる。
【0026】
本発明のビール様飲料は、例えば、以下に説明する方法により製造することができる。本明細書における発酵飲料とは、発酵原料の種類にかかわらず、発酵原料を酵母により発酵させる発酵工程を経て製造される飲料を意味する。
【0027】
発酵原料とは酵母を使用して発酵させることができるビール様飲料の原料をいう。発酵原料には、麦芽、穀類及び副原料が含まれる。副原料とは、麦芽と穀類以外の発酵原料を意味する。該副原料としては、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等のデンプン原料、及び液糖や砂糖等の糖原料が挙げられる。液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれる。
【0028】
発酵ビール様飲料とは、発酵工程を経て製造される飲料であって、ビールらしさを有する飲料を意味する。具体的には、ビール、発泡酒等が挙げられる。なお、本発明でいうビール様アルコール飲料とは、その味及び香りがビールを想起させる程度に同様であり、アルコールを実質的な量で含有する飲料である。ビール用アルコール飲料は、原料として麦芽、麦、ホップを使用して製造する必要はなく、発酵させて製造する必要もない。
【0029】
発酵飲料の製造方法は、発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程を有する。酵母を接種する前の発酵原料液又は前記発酵工程中の発酵液に、アルコール類を添加することもできる。
【0030】
発酵原料液等に添加するアルコール類の量は、目的の製品品質、特に最終製品たる発酵飲料の目的とするアルコール濃度を考慮して適宜調整できる。例えば、発酵原料液等に添加するアルコール類の量としては、添加したアルコール類により、製造される発酵飲料のアルコール濃度が1容量%以上増大させられる量が好ましく、製造される発酵飲料のアルコール濃度が1~4容量%増大させられる量がより好ましい。
【0031】
発酵原料液等に添加するアルコール類としては、アルコールを含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウィスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒であってもよい。本発明に係る発酵飲料の製造方法において用いられるアルコール類としては、発酵飲料の呈味性に対してあまり影響を与えることなくアルコール濃度を高められることから、原料用アルコールや、ウオッカ等の特徴的な香味が少ない蒸留酒が好ましく、原料用アルコールがより好ましい。
【0032】
発酵飲料の製造方法において、アルコール類を添加する時期は、仕込工程以降であればよいが、発酵工程にアルコール類を添加する場合には、添加したアルコール類を充分に発酵液と馴染ませることができるため、アルコール類を添加した後にも発酵が充分に進行することが好ましい。具体的には、例えば、アルコール類を添加した後の発酵液のアルコール濃度が、発酵完了までの間にアルコール類添加時点よりも1容量以上は増大するように、アルコール類を添加することが好ましい。
【0033】
発酵開始前にアルコール類を添加する場合、発酵原料液にアルコール類を添加して混合した後に酵母を接種してもよく、発酵原料液に酵母を接種した後にアルコール類を添加して混合し、発酵を開始してもよい。また、発酵原料液を予め、酵母を接種する第1の液汁と、アルコール類を混合する第2の液汁とに分けて調製し、両者を混合して発酵を開始させてもよい。発酵原料を含む第1の液汁と発酵原料とアルコール類を含む第2の液汁とをそれぞれ別個に調製し、第1の液汁に酵母を接種した後、当該第1の液汁とアルコール類を含む第2の液汁とを混合して得られた混合物(酵母を接種した発酵原料液)を発酵させる。
【0034】
前記第1の液汁と前記第2の液汁は、互いに混合しやすいように、比重が実質的に同一なるように調製されることが好ましい。例えば、前記第1の液汁と前記第2の液汁の比重値の差が、0.017以下となるように調製されることが好ましく、0.010以下となるように調製されることがより好ましい。また、前記第1の液汁と前記第2の液汁の比重値は、両方とも1.030~1.047の範囲内であることも好ましい。
【0035】
なお、本願明細書において、液汁や発酵原料液の比重値は、固有振動周期測定方式の密度比重計(例えば、京都電子工業株式会社製「DA-510」)により、液の温度20℃で測定された値である。
【0036】
第1の液汁と第2の液汁は、それぞれ2以上に分けて調製してもよい。第1の液汁を2以上に分けて調製した場合、各液汁にそれぞれ酵母を接種する。第1の液汁と第2の液汁を2以上に分けて調製した場合には、第1の液汁と第2の液汁は、交互に発酵タンクに投入することが好ましい。2以上に分けて調製した第1の液汁と第2の液汁を交互に投入することにより、両者が混合し易くなり、より迅速に均一な発酵原料液となる。
【0037】
酵母を接種する前の発酵原料液や発酵中の発酵液にアルコール類を添加すると、発酵が早く停止してしまい、発酵が不充分となる場合がある。発酵工程において、発酵液にガスをバブリングすることにより、発酵原料液や発酵中の発酵液にアルコール類を添加した場合でも、充分に発酵させることができる。
【0038】
バブリングに用いるガスとしては、ガスであれば特に限定されるものではないが、炭酸ガスや窒素ガスが好ましい。炭酸ガスや窒素ガスを用いてバブリングすることにより、発酵液中の溶存酸素量も低下させられるため、最終的に製造される発酵飲料中の溶存酸素量も低くすることができる。つまり、ガスバブリングにより、アルコール類を添加しても充分な発酵を行うことができる上に、保存安定性が高く、香味劣化が抑制された発酵飲料を製造することができる。
【0039】
バブリングの条件は、バブリングを行う容器の容量や大きさ、内部に含む発酵液の量等を考慮して適宜決定することができるが、流量が所定の時間で均一となる条件で行うことが好ましい。また、過度にバブリングして発酵液が起泡しないような条件で行うことも好ましい。具体的には、例えば、発酵液3000L当たり2~55L/分の割合、好ましくは2~20L/分の割合で行うことができる。
【0040】
ガスバブリングにより、発酵液中の溶存酸素が低下するため、ガスバブリングは、発酵液中の酵母の増殖が終了した後に開始することが好ましい。酵母の増殖の程度は、発酵液の浮遊酵母数を指標にして知ることができる。酵母が活発に増殖している時期には発酵液の浮遊酵母数は増大し、酵母の増殖が終了すると、酵母は沈降し、発酵液の浮遊酵母数も低下する。このため、発酵液の浮遊酵母数を経時的に測定し、浮遊酵母数のピークを確認した後に、発酵液へのガスのバブリングを開始することが好ましい。
【0041】
発酵飲料の製造方法により製造する発酵飲料が発酵ビール様飲料の場合、酵母を接種する前の発酵原料液又は前記発酵工程中の発酵液に、アルコール類を添加する以外は、一般的な発酵ビール様飲料と同様にして製造できる。一般的な発酵ビール様飲料は、仕込(発酵原料液調製)、発酵、貯酒、濾過の工程で製造することができる。
【0042】
まず、仕込工程(発酵原料液調製工程)として、穀物原料及び糖質原料からなる群より選択される1種以上から発酵原料液を調製する。具体的には、まず、穀物原料と糖質原料の少なくともいずれかと原料水とを含む混合物を調製して加温し、穀物原料等の澱粉質を糖化させる。糖液の原料としては、穀物原料のみを用いてもよく、糖質原料のみを用いてもよく、両者を混合して用いてもよい。穀物原料としては、例えば、大麦や小麦、これらの麦芽等の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられる。穀物原料は、穀物シロップ、穀物エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる穀物粉砕物として用いることが好ましい。穀物類の粉砕処理は、常法により行うことができる。穀物粉砕物としては、麦芽粉砕物、コーンスターチ、コーングリッツ等のように、粉砕処理の前後において通常なされる処理を施したものであってもよい。用いられる穀物粉砕物は、麦芽粉砕物であることが好ましい。麦芽粉砕物を用いることにより、ビールらしさがよりはっきりとした発酵ビール様アルコール飲料を製造することができる。麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであればよい。また、本発明において用いられる穀物原料としては、1種類の穀物原料であってもよく、複数種類の穀物原料を混合したものであってもよい。例えば、主原料として麦芽粉砕物を、副原料として米やトウモロコシの粉砕物を用いてもよい。糖質原料としては、例えば、液糖等の糖類が挙げられる。
【0043】
当該混合物には、穀物原料等と水以外の副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、ホップ、食物繊維、酵母エキス、果汁、苦味料、着色料、香草、香料等が挙げられる。また、必要に応じて、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。
【0044】
糖化処理は、穀物原料等由来の酵素や、別途添加した酵素を利用して行う。糖化処理時の温度や時間は、用いた穀物原料等の種類、発酵原料全体に占める穀物原料の割合、添加した酵素の種類や混合物の量、目的とする発酵ビール様アルコール飲料の品質等を考慮して、適宜調整される。例えば、糖化処理は、穀物原料等を含む混合物を35~70℃で20~90分間保持する等、常法により行うことができる。
【0045】
糖化処理後に得られた糖液を煮沸することにより、煮汁(糖液の煮沸物)を調製することができる。糖液は、煮沸処理前に濾過し、得られた濾液を煮沸処理することが好ましい。また、この糖液の濾液に替わりに、麦芽エキスに温水を加えたものを用い、これを煮沸してもよい。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。
【0046】
煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵ビール様アルコール飲料を製造することができる。特にホップは、煮沸処理前又は煮沸処理中に添加することが好ましい。ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気成分を効率よく煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。
【0047】
仕込工程後、発酵工程前に、調製された煮汁から、沈殿により生じたタンパク質等の粕を除去することが好ましい。粕の除去は、いずれの固液分離処理で行ってもよいが、一般的には、ワールプールと呼ばれる槽を用いて沈殿物を除去する。この際の煮汁の温度は、15℃以上であればよく、一般的には50~100℃程度で行われる。粕を除去した後の煮汁(濾液)は、プレートクーラー等により適切な発酵温度まで冷却する。この粕を除去した後の煮汁が、発酵原料液となる。
【0048】
次いで、発酵工程として、冷却した発酵原料液に酵母を接種して、発酵を行う。冷却した発酵原料液は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0049】
発酵原料液にアルコール類を添加して混合した後に酵母を接種してもよく、酵母を接種した発酵原料液にアルコール類を添加して混合してもよい。また、発酵原料液に酵母を接種して発酵を開始後に、アルコール類を添加してもよい。更に、前述のように、発酵原料液の一部にアルコール類を混合し、残りの発酵原料液に酵母を接種し、両者を混合して発酵を開始させてもよい。
【0050】
さらに、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去して、目的の発酵ビール様アルコール飲料を得ることができる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が0.4~0.6μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。
【0051】
発酵飲料の製造方法においては、アルコール類を発酵完了前または発酵完了後に添加することにより、発酵原料の使用量が少ない場合であっても、アルコール濃度の高い発酵飲料を製造することができる。つまり、本発明に係る発酵飲料の製造方法を用いることにより、発酵原料の使用量を、最終製品中の糖質濃度が0.5g/100mL未満となるように抑えた場合であっても、アルコール濃度が4~10容量%と充分に高い発酵ビール様アルコール飲料を製造することができる。
【0052】
本発明のビール様飲料は、フェルラ酸を特定量含有するビール様飲料である。本発明のビール様飲料のフェルラ酸の量は、濃度0.4~10ppm(w/v)である。フェルラ酸の量が濃度0.4ppm未満であるとのどに対する抵抗感が不十分になり、10ppmを超えると香味のバランスが悪くなることがある。本発明のビール様飲料のフェルラ酸の量は、好ましくは濃度0.4~3.2ppm、より好ましくは濃度0.5~1.6ppmである。
【0053】
フェルラ酸は低分子化合物である。それゆえ、少量であれば、含有させた場合でも溶液の流動性が低下することはない。本発明のビール様飲料ののどに対する抵抗感は、のどの前方部、およそ口蓋垂の近辺にて主として知覚される感覚である。フェルラ酸がこれほどの低濃度で効果を及ぼした例は見られず詳細は不明であるが、作用部位が口腔内の応答であることから、味覚を刺激し引き起こされた現象であると推察され、嚥下時にのどを通過し難くなることで奏される感覚ではないと考えられる。
【0054】
ビール様飲料のフェルラ酸の量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析法を用いて測定できる。例えば、ビール様飲料を氷冷し、脱気した試料を、HPLC装置に注入し、処理すればよい。測定条件の一例は次の通りである。
【0055】
[表1]
【0056】
ビール様飲料のフェルラ酸の量は、例えば、デンプン原料を発酵させてビール様飲料を製造する場合に、デンプン原料として麦芽を使用する等、醸造条件を工夫することで調節してよい。ビール様飲料のフェルラ酸の量は、ビール様飲料にフェルラ酸を含有する食品又は食品添加物を添加することで調節してもよい。
【実施例
【0057】
次に実施例及び参考例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。実施例及び参考例に記載したフェルラ酸濃度は発明の詳細な説明の欄に記載した方法により測定した。
【0058】
<実施例1>
発泡酒(麦芽エキス、ホップ、糖類、カラメル色素、食物繊維、大豆たんぱく、調味料(アミノ酸))、及びスピリッツ(大麦)を原材料とするビール様発酵麦芽飲料(アサヒビール社製「アサヒオフ」(商品名))を市場より入手した。なお、このビール様アルコール飲料の糖質は、0.5g/100mL未満であり、アルコール度数は、3%(v/v)である。これを実施例1の対照区とした。対照区の飲料に食品添加物フェルラ酸(築野食品工業社製)を適量添加することで、ビール様発酵麦芽飲料のフェルラ酸濃度(ppm(w/v))を表2に示す量に調節した。フェルラ酸は10000ppm(w/v)となるようにエタノールに溶かしたものを添加した。
【0059】
得られたビール様発酵麦芽飲料の官能試験は次のようにして行った。即ち、ビール類専門パネル6名が上記ビール様発酵麦芽飲料を試飲し、のどに対する抵抗感及びビールとしてのバランスを採点した。採点基準は以下の評価軸を採用した。評価点は6人の採点の平均値を採用した。
【0060】
のどに対する抵抗感とは、栄養物を飲み込む際にのどの前方部が感じる充足感、引っかかる感覚をいう。
評価軸:1(弱い)-2(少し弱い)-3(対照と同等)-4(少し強い)-5(強い)
評価点が3.5点以上の場合にのどに対する抵抗感が上がったと評価した。
【0061】
ビールとしてのバランスとは、香味に調和感があり、飲みやすいことをいう。
評価軸:1(悪い)-2(少し悪い)-3(対照と同等)-4(少し良い)-5(良い)
評価点が3.5点以上の場合にビールとしてのバランスがよくなったと評価した。
【0062】
また、官能に関するパネルのコメントをまとめた。欄内の数値はその官能を指摘した人数を示す。結果を表2に示す。
【0063】
[表2]
【0064】
フェルラ酸は0.4ppmという大変低濃度からのどに対する抵抗感を上昇させることが認められた。フェルラ酸の量が多くなりすぎるとのどに残る感じが強くなり、ビール様の香味のバランスが悪くなった。
【0065】
<実施例2>
食物繊維、大豆ペプチド、ホップ、香料、酸味料、カラメル色素、アスコルビン酸、アセスルファムカリウムを含有する発酵させていないビール用清涼飲料を作成し、こちらに食品添加物フェルラ酸(築野食品工業社製)を添加することで、フェルラ酸濃度0.1ppm(対照区A)及び0.8ppm(試験区A)のビール様清涼飲料水を得た。
【0066】
実施例1の対照区と同じビール様発酵麦芽飲料(糖質濃度0.5g/100ml未満、アルコール度数3%)を市場より入手した。上記ビール様発酵麦芽飲料に原料用アルコールを添加することで、ビール様発酵麦芽飲料のアルコール濃度を表3及び表4に示す量に調節した。これらを対照区B~Gとした。
【0067】
対照飲料に食品添加物フェルラ酸(築野食品工業社製)を添加することで、ビール様発酵麦芽飲料のフェルラ酸濃度を0.8ppmに調節した。実施例1と同様にして、得られた飲料ののどに対する抵抗感を評価した。結果を表3、4及び5に示す。比較はアルコール度数が同一の組ごとに行った。すなわち、例えば、対照区Aと試験区Aを比較し、対照区Bと試験区Bを比較した。
【0068】
[表3]
【0069】
[表4]
【0070】
[表5]
【0071】
フェルラ酸には、特定のアルコール濃度範囲においてビール様発酵麦芽飲料ののどに対する抵抗感を強化する効果が認められた。
【0072】
<実施例3>
フェルラ酸はカルボキシル基およびフェノール性水酸基を有し、抗酸化剤として知られている。そこで、通常使用される抗酸化剤及び酸味料などを準備し、同様の効果が得られるかどうか試験した。比較する抗酸化剤及び酸味料は次の通りとした。
【0073】
[表6]
【0074】
参考例と同じビール様発酵麦芽飲料(糖質濃度0.5g/100ml未満、アルコール度数3%)を市場より入手した。上記ビール様発酵麦芽飲料に原料用アルコールを添加することでアルコールを4%とし無添加区とした。添加区は食品添加物フェルラ酸(築野食品工業社製)及び表6の添加物を添加することで、ビール様発酵麦芽飲料の添加物濃度を0.8ppmに調節した。
【0075】
実施例1と同様にして、得られた飲料ののどに対する抵抗感及びビールとしてのバランスを評価した。HORIBA社製pHメーター「F-72」(商品名)を使用して、ビール様発酵麦芽飲料のpHを測定した。結果を表7に示す。
【0076】
[表7]
【0077】
通常使用される添加物の中で、特にフェルラ酸について、ビール様発酵麦芽飲料ののどに対する抵抗感を上昇させる効果が認められた。
【0078】
<実施例4>
実施例1の対照区と同じビール様発酵麦芽飲料(糖質濃度0.5g/100ml未満、アルコール度数3%)を市場より入手した。上記ビール様発酵麦芽飲料に原料用アルコールを添加することで、ビール様発酵麦芽飲料のアルコール濃度を6%に調節し、DE11.8の澱粉分解物(松谷化学工業社製「パインデックス#2」(商品名))を添加することで、糖質濃度を表8に示す通りに調節した。なお、パインデックス#2は、各試料に添加する体積が同一になるように濃度を適宜調節した水溶液として添加した。これらを実施例4の対照飲料とした。
【0079】
対照飲料に食品添加物フェルラ酸(築野食品工業社製)を添加することで、ビール様発酵麦芽飲料のフェルラ酸濃度を0.4ppmに調節した。実施例1と同様にして、得られた飲料のアルコール刺激感及びビールとしてのバランスを評価した。比較は、糖質濃度が同一の組ごとに行った。すなわち、例えば、糖質濃度0.3%の対照飲料に対し、糖質濃度0.3%にフェルラ酸を添加したものを試験飲料として評価した。結果を表8に示す。
【0080】
[表8]
【0081】
フェルラ酸にはビール様発酵麦芽飲料ののどに対する抵抗感を強化する効果が認められた。但し、糖質濃度が増大した場合は、糖質によるのどに対する抵抗感が生じ、フェルラ酸による効果がわかりにくくなった。