(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】捺染インクジェット用水性顔料インク、捺染物の製造方法、及びインクセット
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20230126BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20230126BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230126BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230126BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20230126BHJP
D06P 5/00 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C09D11/322
D06P5/30
B41J2/01 123
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 114
C09D11/54
D06P5/00 101
B41M5/00 132
(21)【出願番号】P 2018096023
(22)【出願日】2018-05-18
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】山崎 貴久
(72)【発明者】
【氏名】林 暁子
(72)【発明者】
【氏名】魚住 俊介
(72)【発明者】
【氏名】甲 こころ
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-221141(JP,A)
【文献】特表2017-517640(JP,A)
【文献】特開2011-031479(JP,A)
【文献】特開2019-090014(JP,A)
【文献】特開2019-090015(JP,A)
【文献】特開2009-96914(JP,A)
【文献】特開2019-90014(JP,A)
【文献】特開昭61-83267(JP,A)
【文献】特表2001-501999(JP,A)
【文献】特開2015-187254(JP,A)
【文献】特表平3-506048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01
B41J 2/165- 2/20
B41J 2/21- 2/215
B41M 5/00
B41M 5/50
B41M 5/52
C09D 11/00- 13/00
D06P 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、第1水分散性樹脂、第2水分散性樹脂、及び水を含む捺染インクジェット用水性顔料インクであって、
前記第1水分散性樹脂は、水分散性ウレタン樹脂、水分散性(メタ)アクリル樹脂及び水分散性スチレン(メタ)アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂であり、
前記第1水分散性樹脂は、水分散性ウレタン樹脂を含み、
前記第2水分散性樹脂は、水分散性ポリエステル樹脂であり、
前記第2水分散性樹脂のガラス転移点が5℃以上であり、
前記第1水分散性樹脂及び前記第2水分散性樹脂の合計が、インクの全質量に対して2~18質量%であり、
前記第1水分散性樹脂に対する前記第2水分散性樹脂の質量比(第2水分散性樹脂/第1水分散性樹脂)が0.1~5.0である、
捺染インクジェット用水性顔料インク。
【請求項2】
前記第1水分散性樹脂のガラス転移点が22℃以下である、請求項1に記載の捺染インクジェット用水性顔料インク。
【請求項3】
前記第2水分散性樹脂の数平均分子量が10,000以上である、請求項1又は2に記載の捺染インクジェット用水性顔料インク。
【請求項4】
前記第1水分散性樹脂のガラス転移点が10℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の捺染インクジェット用水性顔料インク。
【請求項5】
塩基性物質をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の捺染インクジェット用水性顔料インク。
【請求項6】
ポリエステル繊維を含む布帛用である、請求項1~5のいずれか1項に記載の捺染インクジェット用水性顔料インク。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の捺染インクジェット用水性顔料インクを用いて、布帛にインクジェット印刷する工程を含む、捺染物の製造方法。
【請求項8】
前記布帛が、ポリエステル繊維を含む布帛である、請求項7に記載の捺染物の製造方法。
【請求項9】
前記布帛が、ポリエステル繊維を30質量%以上含む布帛である、請求項8に記載の捺染物の製造方法。
【請求項10】
インクジェット印刷する工程の前に、カチオン性物質を含む前処理剤を前記布帛に塗布する前処理工程をさらに含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の捺染物の製造方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の捺染インクジェット用水性顔料インクと、カチオン性物質を含む前処理剤と、を含むインクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、捺染インクジェット用水性顔料インク、捺染物の製造方法、及び
インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
織物、編み物、不繊布等の布帛等に、文字、絵、図柄等の画像を捺染する方法として、
スクリーン捺染法やローラー捺染法の他に、近年では、コンピュータで画像処理して実質
無版で捺染することができる捺染インクジェット方法が注目されている。
【0003】
被服などに用いられる布帛では、画像の発色はもちろんのこと、高い摩擦堅牢性も求め
られている。
【0004】
捺染用顔料インクでは、摩擦堅牢度を向上させるため、インクに含まれている樹脂とし
てウレタン、アクリル、スチレン-アクリルなどの樹脂を用いることが提案されている(
特許文献1~3)。また、摩擦堅牢度を向上させる手法として、オーバーコートとして色
材を含まない樹脂層で画像をコートして保護する方法も提案されている(特許文献4及び
5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-148563号公報
【文献】特開2015-160860号公報
【文献】特開2015-193742号公報
【文献】特開2010-150453号公報
【文献】特開2013-221141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一目的は、摩擦堅牢度の優れた捺染物を製造することができる捺染インクジェ
ット用水性顔料インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、顔料、第1水分散性樹脂、第2水分散性樹脂、及び水を
含む捺染インクジェット用水性顔料インクであって、前記第1水分散性樹脂は、水分散性
ウレタン樹脂、水分散性(メタ)アクリル樹脂及び水分散性スチレン(メタ)アクリル樹
脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂であり、前記第2水分散性樹脂は、水
分散性ポリエステル樹脂であり、前記第1水分散性樹脂及び前記第2水分散性樹脂の合計
が、インクの全質量に対して2~18質量%であり、前記第1水分散性樹脂に対する前記
第2水分散性樹脂の質量比(第2水分散性樹脂/第1水分散性樹脂)が0.1~5.0で
ある、捺染インクジェット用水性顔料インクが提供される。
本発明の他の実施形態によれば、上記の捺染インクジェット用水性顔料インクを用いて
、布帛にインクジェット印刷する工程を含む、捺染物の製造方法が提供される。
本発明の他の実施形態によれば、上記の捺染インクジェット用水性顔料インクと、カチ
オン性物質を含む前処理剤と、を含むインクセットが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態の捺染インクジェット用水性顔料インクによれば、摩擦堅牢度の優れ
た捺染物を製造することができる。
本発明の実施形態の捺染物の製造方法によれば、摩擦堅牢度の優れた捺染物を製造する
ことができる。
本発明の実施形態のインクセットによれば、摩擦堅牢度の優れた捺染物を製造すること
ができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定される
ことはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことは言うまでもない。
【0010】
<捺染インクジェット用水性顔料インク>
実施形態の捺染インクジェット用水性顔料インクは、顔料、第1水分散性樹脂、第2水
分散性樹脂、及び水を含む捺染インクジェット用水性顔料インクであって、第1水分散性
樹脂は、水分散性ウレタン樹脂、水分散性(メタ)アクリル樹脂及び水分散性スチレン(
メタ)アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂であり、第2水分散
性樹脂は、水分散性ポリエステル樹脂であり、第1水分散性樹脂及び第2水分散性樹脂の
合計が、インクの全質量に対して2~18質量%であり、第1水分散性樹脂に対する第2
水分散性樹脂の質量比(第2水分散性樹脂/第1水分散性樹脂)が0.1~5.0である
、捺染インクジェット用水性顔料インクである。
以下、「捺染インクジェット用水性顔料インク」を、単に「インク」という場合もある
。
【0011】
インクは、水分散性ウレタン樹脂、水分散性(メタ)アクリル樹脂、及び水分散性スチ
レン(メタ)アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1つ樹脂である第1水分
散性樹脂と、水分散性ポリエステル樹脂である第2水分散性樹脂とを含むことが好ましい
。
【0012】
水分散性ウレタン樹脂、水分散性(メタ)アクリル樹脂、及び水分散性スチレン(メタ
)アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1つ樹脂である第1水分散性樹脂と
、水分散性ポリエステル樹脂である第2水分散性樹脂とを、インクにおいて併用するとき
、捺染物の摩擦堅牢度を向上させ得る。理論に拘束されるものではないが、この理由は次
のように推察される。繊維が他の繊維と擦れた場合、繊維は伸縮や曲げの力を受ける。ウ
レタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、及びスチレン(メタ)アクリル樹脂は、一般に、柔
軟性を有し、繊維上のインク皮膜に、伸縮や曲げの力にも耐え得る柔軟性を付与すること
ができると考えられる。しかし、そのような樹脂は柔軟性があるために、表面の摩擦抵抗
が大きくなる傾向があり、これが擦れの原因ともなり得る。そこで、平滑性が高く、かつ
、比較的摩擦抵抗が小さい皮膜を形成しやすいポリエステル樹脂をさらに用いることによ
り、摩擦抵抗が軽減され、かつ、柔軟性を持つインク皮膜を形成でき、十分な摩擦耐性が
得られるようになると考えられる。
【0013】
水分散性樹脂は、水に溶解することなく粒子状に分散して、水中油(O/W)型のエマ
ルションを形成できるものである。水分散性樹脂は、インクの製造に際しては、例えば、
水中油型エマルションとして配合することができる。
【0014】
第1水分散性樹脂としては、粒子表面がマイナスに帯電し、負電荷を帯びたアニオン性
の水分散性樹脂を用いることが好ましい。
第2水分散性樹脂としては、粒子表面がマイナスに帯電し、負電荷を帯びたアニオン性
の水分散性樹脂を用いることが好ましい。
アニオン性の水分散性樹脂としては、自己乳化型樹脂のように、樹脂が有するアニオン
性の官能基が粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面にアニオン性の分散剤を
付着させる等の表面処理がされたものでもよい。アニオン性の官能基は、代表的にはカル
ボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等であり、アニオン性の分散剤は、陰イオン界面活性
剤等である。樹脂粒子の表面電荷は、ゼータ電位を測定することで評価できる。
【0015】
以下、第1水分散性樹脂、及び、第2水分散性樹脂についてさらに詳述する。
【0016】
インクは、第1水分散性樹脂として、水分散性ウレタン樹脂、水分散性(メタ)アクリ
ル樹脂及び水分散性スチレン(メタ)アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも
1つの樹脂を含むことが好ましい。
【0017】
第1水分散性樹脂としては、摩擦堅牢度を向上させる観点から、ガラス転移点(Tg)
が10℃以下の水分散性樹脂が好ましい。例えば、第1水分散性樹脂は、ガラス転移点が
10℃以下の水分散性樹脂を含むことが好ましい。例えば、インクに、第1水分散性樹脂
として2種以上の樹脂が含まれるとき、それら2種以上の樹脂すべてにおいてガラス転移
点が10℃以下であってもよく、一部の樹脂(例えば1種のみ)においてガラス転移点が
10℃以下であってもよい。
ガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)に従って測定された数値である
。
理論に拘束されるものではないが、上述の通り、第1水分散性樹脂によりインク皮膜に
柔軟性を付与することが摩擦堅牢度の向上に寄与すると考えられるが、第1水分散性樹脂
としてガラス転移点が10℃以下のものを用いるとき、インク皮膜の柔軟性を向上させや
すく、捺染物の摩擦堅牢度を向上させやすい。
第1水分散性樹脂のガラス転移点は、10℃以下が好ましく、5℃以下がより好ましく
、0℃以下がさらに好ましい。第1水分散性樹脂のガラス転移点は、例えば、-50℃以
上であってよく、-40℃以上であってよい。
【0018】
水分散性ウレタン樹脂は、ウレタン骨格を有する。水分散性ウレタン樹脂としては、ウ
レタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエス
テル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボ
ネート型ウレタン樹脂、などを使用できる。なかでも、ポリカーボネート型ウレタン樹脂
およびポリエステル型ウレタン樹脂を好ましく使用できる。これらの水分散性ウレタン樹
脂は、複数種を組み合わせて使用することができる。
水分散性ウレタン樹脂としては、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等のアニオン
性の官能基を有する、アニオン性のウレタン樹脂が好ましい。
【0019】
水分散性ウレタン樹脂としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレック
ス300(ガラス転移点-42℃)、スーパーフレックス420(ガラス転移点-10℃
)、スーパーフレックス460(ガラス転移点-21℃)、スーパーフレックス460S
(ガラス転移点-28℃)、スーパーフレックス470(ガラス転移点-31℃)、スー
パーフレックス500M(ガラス転移点-39℃)、スーパーフレックス740(ガラス
転移点-34℃)、スーパーフレックス150HS(ガラス転移点32℃)、ダイセル・
オルネクス株式会社のDAOTAN TW 6490/35WA(ガラス転移点32度)、
三井化学株式会社製のタケラックW-6061(ガラス転移点25℃)、宇部興産株式会
社製のUW-1701F(ガラス転移点5℃)等が挙げられる。これらは、ウレタン骨格
を有するアニオン性樹脂である。
これらのなかでも、ガラス転移点が10℃以下のものが好ましい。
水分散性ウレタン樹脂は、1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いてもよ
い。
【0020】
水分散性(メタ)アクリル樹脂は、メタクリル系モノマーに由来するメタクリル単位及
び/またはアクリル系モノマーに由来するアクリル単位を少なくとも含む。水分散性(メ
タ)アクリル樹脂は、その他の単位をさらに含んでもよいが、その他の単位として、後述
するスチレン系モノマーに由来するスチレン単位は含まない。メタクリル系モノマー及び
アクリル系モノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸
エステル、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。「(メタ)アクリル」は、「アクリル」
及び「メタクリル」の双方を示し、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び
「メタクリレート」の双方を示す。
水分散性スチレン(メタ)アクリル系樹脂は、スチレン系モノマーに由来するスチレン単
位とメタクリル系モノマーに由来するメタクリル単位及び/またはアクリル系モノマーに
由来するアクリル単位とを少なくとも含む。スチレン系モノマーの例としては、スチレン
、アルキル置換スチレン(例え、α-メチルスチレン等)、ハロゲン置換スチレン(例え
ば2-クロロスチレン等)等が挙げられる。
【0021】
水分散性(メタ)アクリル樹脂及び水分散性スチレン(メタ)アクリル樹脂としては、
いずれも特に限定されず、市販のものを用いることができる。
水分散性(メタ)アクリル樹脂又は水分散性スチレン(メタ)アクリル樹脂の市販品と
しては、例えば、日本合成化学株式会社製のモビニール6751D(ガラス転移点-32
℃)、モビニール6960(ガラス転移点-32℃)、モビニール6963(ガラス転移
点-28℃)、モビニール702(ガラス転移点-19℃)、モビニール8020(ガラ
ス転移点-22℃)、モビニール966A(ガラス転移点-29℃)、モビニール671
8(ガラス転移点3℃)、モビニール6750(ガラス転移点0℃)、モビニール772
0(ガラス転移点4℃)、BASF社製のジョンクリルPDX-7341(ガラス転移点
15℃)、ジョンクリルPDX-7370(ガラス転移点12℃)、DSM社製のNeo
cryl A-1094(ガラス転移点21℃)、Neocryl BT-62(ガラス
転移点22℃)が挙げられる。これらのなかでも、ガラス転移点が10℃以下のものが好
ましい。
水分散性スチレン(メタ)アクリル樹脂は、及び、水分散性(メタ)アクリル樹脂は、
いずれも、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
第1水分散性樹脂のインク中の量は、インク全量に対して、0.4質量%以上が好まし
く、1質量%以上がより好ましく、例えば、2質量%以上であってよい。また、第1水分
散性樹脂のインク中の量は、インク全量に対して、16質量%以下が好ましく、14質量
%以下がより好ましく、12質量%以下がさらに好ましく、例えば、10質量%以下であ
ってもよい。
なお、水分散性樹脂の量は、固形分換算の量(即ち樹脂のみの量)であり、以下も同様
である。
【0023】
インクは、第2水分散性樹脂として、水分散性ポリエステル樹脂を含むことがこのまし
い。
【0024】
水分散性ポリエステル樹脂の数平均分子量は、とくに制限されないが、例えば、7,0
00以上であってよい。
水分散性ポリエステル樹脂としては、インク皮膜表面の摩擦抵抗をより効果的に軽減す
るために、数平均分子量10,000以上の水分散性ポリエステル樹脂が好ましい。その
理由としては、数平均分子量が10,000以上であると乾燥後のインク皮膜中に分散し
て存在するポリエステル樹脂粒子の大きさが、摩擦抵抗をより効果的に軽減できるほど大
きくなるからであると考えられる。数平均分子量12,000以上の水分散性ポリエステ
ル樹脂がより好ましい。水分散性ポリエステル樹脂の数平均分子量は、例えば、500,
000以下、または、100,000以下であってよい。例えば、第2水分散性樹脂は、
数平均分子量10,000以上の水分散性ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。例え
ば、インクに、第2水分散性樹脂として2種以上の樹脂が含まれるとき、それら2種以上
の樹脂すべてにおいて数平均分子量10,000以上であってもよく、一部の樹脂(例え
ば1種のみ)において数平均分子量10,000以上であってもよい。
水分散性ポリエステル樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ
ー(GPC)分析法により、ポリスチレン換算で得られた値である。より具体的には、数
平均分子量は、島津製作所製の送液ユニットLC-10ADvp型及び紫外-可視分光光
度計SPD-6AV型を使用し、検出波長254nm、溶媒としてテトラヒドロフランを
用いて測定し、ポリスチレン換算により求めることができる。
【0025】
水分散性ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)は、特に限定されないが、例えば、
-50℃~120℃が好ましい。第2水分散性ポリエステル樹脂は、例えば、ガラス転移
点が-50℃~120℃の水分散性ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。例えば、イ
ンクに、第2水分散性樹脂として2種以上の水分散性ポリエステル樹脂が含まれるとき、
それら2種以上の樹脂すべてにおいてガラス転移点が-50℃~120℃であってもよく
、一部の樹脂(例えば1種のみ)においてガラス転移点が-50℃~120℃であっても
よい。
水分散性ポリエステル樹脂のガラス転移点は、-50℃以上が好ましく、0℃以上がよ
り好ましく、例えば、5℃以上、又は、10℃超でもよい。水分散性ポリエステル樹脂の
ガラス転移点は、120℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましい。
【0026】
水分散性ポリエステル樹脂としては、例えば、ユニチカ株式会社製のエリーテルKT-
0507(数平均分子量17,000)、エリーテルKT-8701(数平均分子量13
,000)、エリーテルKT-8803(数平均分子量15,000)、エリーテルKT
-9204(数平均分子量17,000)、エリーテルKT-9511(数平均分子量1
7,000)、エリーテルKA-1449S(数平均分子量7,000)、エリーテルK
A-5071S(数平均分子量8,500)、東洋紡株式会社製バイロナールMD-11
00(数平均分子量20,000)、バイロナールMD-1200(数平均分子量15,
000)、バイロナールMD-1245(数平均分子量20,000)、バイロナールM
D-1335(数平均分子量8,000)、バイロナールMD-1480(数平均分子量
15,000)、バイロナールMD-1500(数平均分子量8,000)、バイロナー
ルMD-1930(数平均分子量20,000、バイロナールMD-1985(数平均分
子量25,000)、バイロナールMD-2000(数平均分子量18,000)などが
挙げられるが、この中でも平均分子量が10,000以上のものが好ましい。
【0027】
水分散性ポリエステル樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用
いてもよい。
第2水分散性樹脂のインク中の量は、インク全量に対して、0.2質量%以上が好まし
く、0.5質量%以上がより好ましく、例えば、1質量%以上であってよい。また、第2
水分散性樹脂のインク中の量は、インク全量に対して、15質量%以下が好ましく、13
質量%以下がより好ましく、10質量%以下であってよい。
【0028】
第1水分散性樹脂及び第2水分散性樹脂のインク中の量の合計は、インク皮膜の摩擦耐
性を向上させる観点から、インク全量に対して、2質量%以上が好ましく、3質量%以上
がより好ましく、例えば5質量%以上であってよい。
また、第1水分散性樹脂及び第2水分散性樹脂のインク中の量の合計は、インクジェッ
ト用プリンタヘッドからの吐出性能の観点から、インク全量に対して18質量%以下が好
ましく、16質量%以下がより好ましい。
【0029】
第1水分散性樹脂に対する第2水分散性樹脂のインク中の量の質量比(第2水分散性樹
脂/第1水分散性樹脂)は、第1水分散性樹脂と第2水分散性樹脂とのバランスを保ち、
摩擦耐性の向上したインク皮膜を得る観点から、5.0以下が好ましく、4.5以下がよ
り好ましく、4.2以下がさらに好ましい。
第1水分散性樹脂に対する第2水分散性樹脂のインク中の量の質量比(第2水分散性樹
脂/第1水分散性樹脂)は、第1水分散性樹脂と第2水分散性樹脂とのバランスを保ち、
摩擦耐性の向上したインク皮膜を得る観点から、0.1以上が好ましく、0.2以上がよ
り好ましい。
【0030】
インクは、顔料を含むことが好ましい。顔料は、当該技術分野で一般に用いられている
ものを任意に使用することができる。
【0031】
非白色の顔料としては、たとえば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、
ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォ
ッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシ
アニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、
亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化
物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラ
ック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類を用いることが
できる。これらの顔料の平均粒径は、発色性の観点から50nm以上であることが好まし
く、吐出安定性の観点から500nm以下であることが好ましい。これらの顔料の平均粒
径は、例えば、50~500nmであることが好ましく、50~200nmであることが
より一層好ましい。
【0032】
白色顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウ
ムなどの無機顔料が挙げられる。無機顔料以外に、中空樹脂微粒子や、高分子微粒子を使
用することもできる。中でも、隠蔽力の観点から、酸化チタンを使用することが好ましい
。酸化チタンの平均粒径は、隠蔽性の観点から50nm以上であることが好ましく、吐出
安定性の観点から500nm以下であることが好ましい。酸化チタンを使用する場合は、
光触媒作用を抑制するために、アルミナやシリカで表面処理されたものを使用することが
好ましい。表面処理量は、顔料中に5~20質量%程度であることが好ましい。
【0033】
これらの顔料は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用し
てもよい。
顔料の配合量は、使用する顔料の種類によっても異なるが、発色等の観点から、インク
中に、インク全量に対して0.1~30質量%程度含まれていることが好ましく、0.1
~15質量%であることがより好ましい。
【0034】
インク中に顔料を安定に分散させるために、高分子分散剤や界面活性剤型分散剤に代表
される顔料分散剤を使用することが好ましい。
高分子分散剤としては、たとえば市販品として、EVONIK社製のTEGOディスパ
ースシリーズ(TEGOディスパース740W、TEGOディスパース750W、TEG
Oディスパース755W、TEGOディスパース757W、TEGOディスパース760
W)、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ(ソルスパース20000
、ソルスパース27000、ソルスパース41000、ソルスパース41090、ソルス
パース43000、ソルスパース44000、ソルスパース46000)、ジョンソンポ
リマー社製のジョンクリルシリーズ(ジョンクリル57、ジョンクリル60、ジョンクリ
ル62、ジョンクリル63、ジョンクリル71、ジョンクリル501)、BYK製のDI
SPERBYK-102、DISPERBYK-185、DISPERBYK-190、
DISPERBYK-193、DISPERBYK-199、第一工業製薬株式会社製の
ポリビニルピロリドンK-30、ポリビニルピロリドンK-90等が挙げられる。
界面活性剤型分散剤としては、たとえば、花王株式会社製デモールシリーズ(デモール
EP、デモールN、デモールRN、デモールNL、デモールRNL、デモールT-45)
などのアニオン性界面活性剤、花王株式会社製エマルゲンシリーズ(エマルゲンA-60
、エマルゲンA-90、エマルゲンA-500、エマルゲンB-40、エマルゲンL-4
0、エマルゲン420)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0035】
これらの顔料分散剤は、複数種を組み合わせて使用することもできる。
顔料分散剤を使用する場合のインク中の配合量は、その種類によって異なり特に限定は
されないが、一般に、有効成分(固形分量)の質量比で顔料1に対し、0.005~0.
5の範囲で使用されることが好ましい。
【0036】
顔料表面を親水性官能基で修飾した自己分散顔料を使用してもよい。自己分散顔料の市
販品としては、たとえば、富士色素株式会社製FUJI SP BLACK 8154、
キャボット社製CAB-O-JETシリーズ(CAB-O-JET200、CAB-O-JET300、CAB-O-JET250C、CAB-O-JET260M、CAB-O-JET270)、オリヱント化学株式会社製BONJET BLACK CW-1S、CW-2、CW-3などが挙げられる。
顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を使用してもよい。
【0037】
インクは、水性溶媒として主に水を含むことが好ましい。水としては、特に制限されな
いが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。特に、インクの保存安定性の観
点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が低いことが好ましい。水としては、例
えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。
水は、粘度調整の観点から、インク中に、インク全量に対して20質量%~80質量%
含まれていることが好ましく、30質量%~70質量%含まれていることがより好ましい
。
【0038】
インクは、水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。
水溶性有機溶剤としては、粘度調整と保湿効果の観点から、室温で液体であって水に溶
解可能な水溶性有機溶剤が好ましい。たとえば、メタノール、エタノール、1-プロパノ
ール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、1,3-
プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタ
ンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコ
ール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラ
エチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレン
グリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン;アセチン類(モ
ノアセチン、ジアセチン、トリアセチン);ジエチレングリコールモノメチルエーテル、
ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジ
エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチル
エーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプ
ロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコー
ルモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレン
グリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラ
エチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、
テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコール類の誘導体;トリエタノール
アミン、1-メチル-2-ピロリドン、β-チオジグリコール、スルホランを用いること
ができる。平均分子量200、300、400、600等の平均分子量が190~630
の範囲にあるポリエチレングリコール、平均分子量400等の平均分子量が200~60
0の範囲にあるジオール型ポリプロピレングリコール、平均分子量300、700等の平
均分子量が250~800の範囲にあるトリオール型ポリプロピレングリコール、等の低
分子量ポリアルキレングリコールを用いることもできる。
【0039】
これらの水溶性有機溶剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することがで
きる。
水溶性溶剤は、粘度調整と保湿効果の観点から、インク中に、インク全量に対して、1
~80質量%含まれていることが好ましく、1~60質量%であることがより好ましく、
例えば、1~50質量%、5~40質量%であってよい。
【0040】
インクは、塩基性物質を含んでよい。
インクは、第1水分散性樹脂、及び/又は第2水分散性樹脂がアニオン性の場合、塩基
性物質を含むことが好ましい。インクに塩基性物質を加えることで、インクの保存安定性
を高め、製造後長期間保存したインクを印刷に用いた場合でも、優れた摩擦堅牢度および
優れた発色を得やすい。
この理由は次のように推察される。インクを長期間保存すると二酸化炭素を吸収したり
、顔料から酸が排出されたりすることで、インク中の水素イオン濃度が高くなる。水分散
性樹脂のアニオン性官能基の部位に水素イオンが吸着すると、静電反発が低下し凝析して
しまう。塩基性物質を添加することで、水素イオンが捕捉され、凝析を抑制できるため、
摩擦堅牢度及び発色を維持できる。
【0041】
塩基性物質としては、例えば、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物又は
アミン類が挙げられる。アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物としては、水
酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシ
ウム等が挙げられる。アミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、
トリエタノールアミン等のエタノールアミン類、アンモニア水(水酸化アンモニウム)、
四級アンモニウム塩などが挙げられる。このうち、水酸化ナトリウム、エタノールアミン
類が好ましく用いられる。
【0042】
これらの塩基性物質は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる
。
塩基性物質の添加量は、貯蔵安定性を高め、より良好な経時摩擦堅牢及び発色性を得る
観点から、インク全量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がよ
り好ましい。例えば、水酸化物類の場合はインク全量に対して、0.01質量%以上が好
ましく、アミン類の場合はインク全量に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.2質
量%以上がより好ましい。また、塩基性物質の添加量は、貯蔵安定性を高め、より良好な
経時摩擦堅牢及び発色性を得る観点から、インク全量に対して、5.0質量%以下が好ま
しく、2.0質量%以下がより好ましい。
【0043】
インクは、その他の成分を適宜含んでもよい。その他の成分としては、分散助剤、表面
張力調整剤(界面活性剤)、酸化防止剤、防腐剤、架橋剤等が挙げられる。
【0044】
ここでいう分散助剤とは、すでに分散されている顔料分散体に追加で添加する分散剤の
ことで、分散助剤としては、一般的な分散剤を使用することができる。市販品としては、
上述の顔料分散剤の例として挙げたものを用いることができる。
【0045】
表面張力調整剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性
剤、非イオン性界面活性剤、または高分子系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤を使
用できる。
【0046】
この界面活性剤を配合することにより、インクジェット方式でインクを安定に吐出させ
ることがより容易となり、かつ、インクの浸透を適切に制御しやすくすることができるた
めに好ましい。その添加量は(顔料分散剤として界面活性剤が使用される場合はその合計
量として)、界面活性剤の種類によっても異なるが、インクの表面張力、及び、布帛等の
基材への浸透速度の観点から、インク中に0.1~10質量%の範囲であることが好まし
い。
【0047】
具体的には、アニオン性界面活性剤としては、花王株式会社製エマールシリーズ(エマ
ール0、エマール10、エマール2F、エマール40、エマール20C)、ネオペレック
スシリーズ(ネオペレックスGS、ネオペレックスG-15、ネオペレックスG-25、
ネオペレックスG-65)、ペレックスシリーズ(ペレックスOT-P、ペレックスTR
、ペレックスCS、ペレックスTA、ペレックスSS-L、ペレックスSS-H)、デモ
ールシリーズ(デモールN、デモールNL、デモールRN、デモールMS)が挙げられる
。
カチオン性界面活性剤としては、たとえば、花王株式会社製アセタミンシリーズ(アセ
タミン24、アセタミン86)、コータミンシリーズ(コータミン24P、コータミン8
6P、コータミン60W、コータミン86W)、サニゾールシリーズ(サニゾールC、サ
ニゾールB-50)が挙げられる。
【0048】
非イオン性界面活性剤としては、エアプロダクツ社製サーフィノールシリーズ(サーフ
ィノール104E、サーフィノール104H、サーフィノール420、サーフィノール4
40、サーフィノール465、サーフィノール485)及び日信化学工業株式会社製のオ
ルフィンE1004、オルフィンE1010、オルフィンE1020などのアセチレング
リコール系界面活性剤や、花王株式会社製エマルゲンシリーズ(エマルゲン102KG、
エマルゲン103、エマルゲン104P、エマルゲン105、エマルゲン106、エマル
ゲン108、エマルゲン120、エマルゲン147、エマルゲン150、エマルゲン22
0、エマルゲン350、エマルゲン404、エマルゲン420、エマルゲン705、エマ
ルゲン707、エマルゲン709、エマルゲン1108、エマルゲン4085、エマルゲ
ン2025G)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤が挙げられる。
【0049】
両性界面活性剤としては、花王株式会社製アンヒトールシリーズ(アンヒトール20B
S、アンヒトール24B、アンヒトール86B、アンヒトール20YB、アンヒトール2
0N)などが挙げられる。
【0050】
インクのpHは、インクの保存安定性及び保存後のインクの良好な摩擦堅牢度及び良好
な発色性の観点から、7.0以上が好ましく、7.5以上がより好ましい。インクのpH
は、インクの保存安定性及び保存後のインクの良好な摩擦堅牢度及び良好な発色性の観点
から、10.0未満が好ましく、9.0未満がより好ましい。
【0051】
インクの粘度は適宜調節することができるが、たとえば吐出性の観点から、23℃にお
ける粘度が1~30mPa・sであることが好ましい。
【0052】
インクの製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。
例えば、スリーワンモーター等の公知の攪拌機に全成分を一括又は分割して投入して分散
させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる
。
【0053】
本実施形態の捺染インクジェット用水性顔料インクは、布帛への印刷に好ましく用いる
ことができる。
布帛は、特に限定されないが、例えば、綿、絹、羊毛、麻、ナイロン、ポリエステル、
レーヨン、アセテート、キュプラ等の任意の天然・合成繊維を含む布帛を用いることがで
きる。布帛としては、織物、編物、または不織布等が挙げられる。
【0054】
近年、消費量が伸びているポリエステル繊維は、綿等の天然繊維に比べ極性基が少なく
、顔料インクが繊維に定着しにくい傾向があり、このため、ポリエステル繊維を含む布帛
は、摩擦堅牢度を確保しにくい傾向がある。
しかし、本実施形態のインクは、ポリエステル繊維を含む布帛用としても好ましく用い
ることができ、ポリエステル繊維を含む布帛を用いた場合でも、摩擦堅牢度の優れた捺染
物を製造することができる。ポリエステル繊維を含む布帛としては、例えば、ポリエステ
ル繊維を30質量%以上、50質量%以上、又は75質量%以上含む布帛であってよく、
ポリエステル繊維100質量%の布帛であってよい。
【0055】
インク滲みを低減または防止し、発色性を向上させるために、顔料を含むインクによる
印刷の前に、多価金属塩又はカチオン性ポリマーなどの顔料を凝集させる作用を有するカ
チオン性物質を含む前処理剤を布帛にあらかじめ付与しておくことが好ましい。
しかし、布帛に対して、カチオン性物質を含む前処理剤を用いて前処理を行った場合、
得られた捺染物の摩擦堅牢度が低下する場合がある。理論に拘束されるわけではないが、
これは、前処理剤の使用によって顔料が繊維表面に凝集して固定され、繊維同士が擦れた
ときに、これら繊維表面に固定した顔料凝集体がインク剥れの起点となりやすいためと考
えられる。本実施形態のインクは、カチオン性物質を含む前処理剤を塗布した布帛に対し
ても、好ましく用いることができ、カチオン性物質を含む前処理剤との併用により、発色
性及び摩擦堅牢度の優れた捺染物を製造することができる。
【0056】
<捺染物の製造方法>
実施形態の捺染物の製造方法は、上記の捺染インクジェット用水性顔料インクを用いて
、布帛にインクジェット印刷する工程(以下、「インクジェット印刷工程」という場合も
ある。)を含む、捺染物の製造方法である。
布帛については、捺染インクジェット用水性顔料インクに用いることができる布帛とし
て説明したものを用いることができる。
この捺染物の製造方法によれば、摩擦堅牢度の優れた捺染物を製造することができる。
【0057】
一実施形態において、布帛として、ポリエステル繊維を含む布帛を好ましく用いること
ができ、ポリエステル繊維を含む布帛を用いた場合でも、摩擦堅牢度の高い捺染物を製造
することができる。ポリエステル繊維を含む布帛としては、例えば、ポリエステル繊維を
30質量%以上、50質量%以上、又は75質量%以上含む布帛であってよく、ポリエス
テル繊維100質量%の布帛であってよい。
【0058】
インクジェット印刷工程において使用するインクジェットプリンタは、ピエゾ方式、静
電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよく、例えば、デジタル信号
に基づいてインクジェットヘッドからインクの液滴を吐出させ、吐出されたインク液滴を
基材上に付着させる。
【0059】
インクの布帛への塗布量は特に限定されないが、風合いの観点から、布帛の単位面積あ
たり、500g/m2以下であることが好ましく、100g/m2以下であることがより
好ましく、50g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0060】
捺染物の製造方法では、インクジェット印刷工程の前に、カチオン性物質を含む前処理
剤を布帛に塗布する前処理工程を行ってもよい。
インクジェット印刷工程の前に、布帛に、あらかじめカチオン性物質を含む前処理剤を塗布することで、捺染物の発色性を向上させ得る。
また、上述したように、布帛に対して、カチオン性物質を含む前処理剤を用いて前処理
を行った場合、得られた捺染物の摩擦堅牢度が低下する場合があるが、上記の捺染インク
ジェット用水性顔料インクを用いる本実施形態の捺染物の製造方法では、カチオン性物質
を含む前処理剤を布帛にあらかじめ塗布した場合でも、捺染物の摩擦堅牢度を確保しやす
い。
【0061】
一実施形態において、布帛として、ポリエステル繊維を含む布帛を用い、インクジェッ
ト印刷工程の前に、カチオン性物質を含む前処理剤を塗布する前処理工程を行うことも好
ましい。
ポリエステル繊維は強度が高いことから、少ない繊維量で生地や衣服を形成できるため
、ポリエステル繊維を用いた布帛は、一般に、軽量性に優れ、吸水率が低く速乾性にも優
れる。しかし、このため、インクジェット捺染において、滲みが発生しやすく、発色性が
低下しやすい場合がある。そこで、ポリエステル繊維を含む布帛を用いた場合、発色性の
観点から、カチオン性物質を含む前処理剤を布帛にあらかじめ付与しておくことが好まし
い。
【0062】
前処理剤は、カチオン性物質を含むことが好ましい。カチオン性物質の例としては、例
えば、多価金属塩、及び、カチオン性ポリマーが挙げられる。
【0063】
多価金属塩は、2価以上の多価金属イオンとアニオンから構成される。2価以上の多価
金属イオンとしては、たとえば、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Ni2+、Zn2+、
Ba2+が挙げられる。アニオンとしては、Cl-、NO3
-、CH3COO-、I-、
Br-、ClO3
-が例示できる。塩として具体的には、塩化カルシウム、硝酸カルシウ
ム、硝酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0064】
これらの金属塩は、単独で使用しても、複数種を混合して用いてもよい。
多価金属塩の前処理剤中の濃度は、前処理剤全量に対して0.5質量%以上が好ましく
、1質量%以上がより好ましく、例えば、5質量%以上であってよい。多価金属塩の前処
理剤中の濃度は、前処理剤全量に対して30質量%以下が好ましく、25質量%以下がよ
り好ましく、例えば、20質量%以下、又は15質量%以下であってもよい。
【0065】
カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアミン、ポリアリルスルホンおよび
その塩、ポリアリルアミンおよびその塩、アクリルアミドの共重合体等が挙げられる。カ
チオン性ポリマーの市販品の例として、例えば、第一工業製薬株式会社製のシャロールD
C-902P(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド)などが挙げられる。
【0066】
カチオン性ポリマーの例としては、カチオン性の水分散性樹脂も挙げられる。カチオン
性水分散性樹脂は、樹脂粒子の表面がプラスに帯電した、正電荷を帯びた樹脂粒子であり
、水に溶解することなく粒子状に分散して、水中油(O/W)型のエマルションを形成で
きるものである。自己乳化型樹脂のように、樹脂が有するカチオン性の官能基が粒子表面
に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面にカチオン性の分散剤を付着させる等の表面処
理されたものでもよい。カチオン性の官能基は、代表的には第1級、第2級又は第3級ア
ミノ基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、トリアゾール基、ベンゾ
トリアゾール基、ピラゾール基、又はベンゾピラゾール基等であり、カチオン性の分散剤
は、1級、2級、3級又は4級アミノ基含有アクリルポリマー、ポリエチレンイミン、カ
チオン性ポリビニルアルコール樹脂、カチオン性水溶性多分岐ポリエステルアミド樹脂等
である。カチオン性水分散性樹脂としては、例えば、エチレン-塩化ビニル共重合樹脂、
(メタ)アクリル樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビ
ニル-(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル-エチレン共重合体樹脂、及びそれら
の樹脂エマルション等において、これらの樹脂にカチオン性の官能基を導入するか、又は
、カチオン性分散剤等で表面処理して、プラスの表面電荷を与えたものを用いることがで
きる。
樹脂粒子の表面電荷量は、粒子電荷計で評価することができる。試料を中和するのに必
要なアニオン量またはカチオン量を測定することで、表面電荷量を算出することができる
。粒子電荷計としては、日本ルフト株式会社製コロイド粒子電荷量計Model CAS
等を用いることができる。
【0067】
カチオン性ポリマーの前処理剤中の含有量は、前処理剤全量に対して、0.5質量%以
上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。カチオン性ポリマーの前処理剤中の含有量
は、前処理剤全量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい
。
【0068】
前処理剤は、水性溶媒として主に水を含むことが好ましい。水としては、特に制限され
ないが、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。
水は、前処理剤中に、前処理剤全量に対して60質量%以上含まれることが好ましく、
65質量%以上含まれることがより好ましい。前処理剤中の水の含有量は、例えば、95
質量%以下であってよく、90質量%以下であってよい。
【0069】
前処理剤は、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、インクに使
用できるものと同様のものを1種または2種以上選択して用いることができる。
前処理剤中の界面活性剤の量は、前処理剤全量に対して、0.1質量%以上が好ましく
、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。前処理剤中の
界面活性剤の量は、前処理剤全量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下
が好ましく、10質量%以下が好ましい。
【0070】
前処理剤には、堅牢度を向上させ、布等の被印刷物表面の毛羽立ちを抑制する目的で、
カチオン性物質以外の水分散性樹脂を配合してもよい。このような水分散性樹脂としては
、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂などが挙げられ
、インクに使用できるものと同様のものを1種または2種以上選択して用いることが出来
る。
このような水分散性樹脂の前処理剤中の量は、前処理剤全量に対して、0.5質量%以
上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。また、水分散性樹脂の前処理剤中の量は、
前処理剤全量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下が好ましく15質量
%以下であってもよい。
【0071】
前処理剤は、必要に応じて、例えば、水溶性有機溶剤、消泡剤、pH調整剤、酸化防止
剤、防腐剤等の他の成分を含有してもよい。
【0072】
前処理剤は、布帛の、少なくともインクジェット印刷工程でインクを印刷する領域(以
下、「印刷領域」という場合もある。)に塗布することが好ましく、印刷領域を含む布帛
の全面に付与してもよい。
前処理工程における前処理剤の塗布は、例えば、刷毛、ローラー、バーコーター、エア
ブラシ等を使用して布帛の表面を均一にコーティングすることによって行ってもよく、または、例えば、インクジェット印刷およびグラビア印刷などの印刷手段によって画像を印刷することで行ってもよい。前処理剤の布帛への塗布量は、例えば、30~200g/m2、または、80~150g/m2であってよい。また、前処理剤の布帛への塗布量は、布帛質量に対して、例えば、10~120質量%、または、20~100質量%であってよい。
【0073】
捺染物の製造方法は、布帛を加熱する熱処理工程を含んでもよい。
例えば、インクジェット印刷工程の後に、布帛を加熱する熱処理工程を行うことが好ま
しい。これにより、インクを乾燥させるとともに、水分散性樹脂を製膜させて、強固なイ
ンク膜を形成しやすい。
また、前処理工程の後に、布帛を加熱する熱処理工程を行ってもよい。
熱処理工程における加熱条件は、特に限定されない。熱処理工程では、例えば、加熱温
度を100~180℃程度としてもよい。
【0074】
捺染物の製造方法は、その他の処理工程等の他の工程を含んでもよい。
【0075】
<インクセット>
実施形態のインクセットは、上述の捺染インクジェット用水性顔料インクと、カチオン
性物質を含む前処理剤と、を含む。捺染インクジェット用水性顔料インクについては、上
述の通りであり、カチオン性物質を含む前処理剤については、上述の捺染物の製造方法に
おいて用いることができるカチオン性物質を含む前処理剤として説明したものを用いるこ
とができる。インクセットは、例えば、その他のインク、その他の処理剤を含んでもよい
。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに
限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」である。表中の各成分
の配合量も「質量%」で示す。
【0077】
<試験片>
ポリエステル100%のオックスフォード生地を210mm×74mmに裁断したもの
を試験片とした。
【0078】
<前処理剤の調製>
表1に記載の材料を、表1に記載の配合比で混合し、前処理剤を作製した。
【0079】
【0080】
表1に記載の材料は以下の通りである。
「シャロールDC-902」:第一工業製薬株式会社製、ポリジアリルジメチルアンモニ
ウムクロライド(カチオン性ポリマー)
「スーパーフレックス420」:第一工業製薬株式会社製、水分散性ウレタン樹脂
「塩化カルシウム」:富田製薬株式会社製
「サーフィノール465」:エアプロダクツ社製、アセチレングリコール系界面活性剤(
非イオン性界面活性剤)
【0081】
<インクの調製>
表2及び3に記載の材料を、表2及び3に記載の配合比で混合し、混合後0.8μmの
セルロースアセテートメンブレンフィルターでろ過して粗粒を除去し、実施例及び比較例
のインクを得た。
下記の表2及び表3において、第2水分散性樹脂の「分子量」は、GPC法により、ポ
リスチレン換算で得られた数平均分子量である。
【0082】
【0083】
【0084】
表2及び3に記載の材料は以下の通りである。
「FUJI SP BLACK 8154」:富士色素株式会社製水系カーボンブラック
分散体
「CAB-O-JET 250C」:キャボット社製水系フタロシアニン分散体
「スーパーフレックス460」:第一工業製薬株式会社製水系ウレタン樹脂エマルション
「スーパーフレックス500M」:第一工業製薬株式会社製水系ウレタン樹脂エマルショ
ン
「モビニール6750」:日本合成化学工業株式会社製水系アクリル樹脂エマルション
「モビニール966A」:日本合成化学工業株式会社製水系スチレンアクリル樹脂エマル
ション
「Neocryl BT-62」:DSM社製水系スチレンアクリル樹脂エマルション
「エリーテルKT-9511」:ユニチカ株式会社製水系ポリエステル樹脂エマルション
「エリーテルKT-8803」:ユニチカ株式会社製水系ポリエステル樹脂エマルション
「バイロナールMD-1200」:東洋紡株式会社製水系ポリエステル樹脂エマルション
「エリーテルKA-1449S」:ユニチカ株式会社製水系ポリエステル樹脂エマルショ
ン
「オルフィンE1010」:日信化学工業株式会社製アセチレングリコール系界面活性剤
(非イオン性界面活性剤)
「グリセリン」:和光純薬工業株式会社製
「トリエタノールアミン」:和光純薬工業株式会社製
【0085】
<実施例1~13及び比較例1~11>
(捺染物の作製)
作製したインク及び前処理剤を用いて、実施例1~13及び比較例1~11の捺染物(
捺染印刷物)を作製した。
具体的には、実施例1~12、比較例1~9及び比較例11については、下記工程1及
び工程2をこの順で行い、捺染物(捺染印刷物)を作製した。実施例13及び比較例10
については、下記工程1を行わずに、下記工程2を行って捺染物を作製した。
【0086】
工程1
表4及び5に記載の前処理剤を、試験片(布帛)質量の70%の塗布量で、エアブラシ
を用いて試験片に塗布した。前処理剤塗布後、試験片を、Hotronix Fusio
nヒートプレス(Stahls Hotronix社製)を用いて180℃で60秒間加
熱した。
【0087】
工程2
表4及び5に記載のインクを株式会社マスターマインド製インクジェットプリンターM
MP813BT-3に導入し、試験片(工程1を行うものについては工程1が行われた試
験片)に印刷した。印刷画像は単色ベタ画像とし、インク付与量は約20g/m2とした
。印字後、Hotronix Fusionヒートプレスを用いて150℃で60秒間加
熱した。
【0088】
作製した捺染物の発色、乾燥摩擦堅牢度、及び湿潤摩擦堅牢度を、以下の方法で評価し
た。結果を表4及び5に示す。
【0089】
(発色)
印刷物のOD値を分光測色計X-Rite eXact(エックスライト社製)を用い
て測定した。
◎・・・OD値1.2以上
○・・・OD値1.1以上1.2未満
△・・・OD値1.0 以上1.1未満
×・・・OD値1.0未満
【0090】
(乾燥摩擦堅牢度)
学振試験機RT-200(株式会社大栄科学精器製作所製)を使用し、重り無しの状態
で100往復擦過した。擦過に用いる布帛として、綿100%カナキン3号を使用した。
グレースケールで汚染を評価し、OD値の減少率から変退色を評価した。OD値の測定
には分光測色計X-Rite eXact(エックスライト社製)を用いて測定した。
「汚染」の評価基準は以下の通り。
◎・・・4級以上
○・・・3~3-4級
△・・・2~2-3級
×・・・1-2級以下
「変退色」の評価基準は以下の通り。
◎・・・摩擦によるOD値の減少率が3%未満
○・・・摩擦によるOD値の減少率が3%以上5%未満
△・・・摩擦によるOD値の減少率が5%以上10%未満
×・・・摩擦によるOD値の減少率が10%以上
【0091】
(湿潤摩擦堅牢度)
学振試験機RT-200(株式会社大栄科学精器製作所製)を使用し、重り無しの状態
で100往復擦過した。擦過に用いる布帛として、綿100%カナキン3号をこの布帛と
同重量のイオン交換水で湿らせたものを使用した。
グレースケールで「汚染」を評価し、OD値の減少率から「変退色」を評価した。OD
値の測定には分光測色計X-Rite eXact(エックスライト社製)を用いて測定
した。
「汚染」の評価基準は以下の通り。
◎・・・4級以上
○・・・3~3-4級
△・・・2~2-3級
×・・・1-2級以下
「変退色」の評価基準は以下の通り。
◎・・・摩擦によるOD値の減少率が3%未満
○・・・摩擦によるOD値の減少率が3%以上5%未満
△・・・摩擦によるOD値の減少率が5%以上10%未満
×・・・摩擦によるOD値の減少率が10%以上
【0092】
【0093】
【0094】
<実施例14>
作製したインク23をガラス瓶に密封した状態で70℃の環境に1か月放置した。放置
後、0.8μmのセルロースアセテートメンブレンフィルターで粗粒を除去し、これを放
置後インク23とした。
作製直後の、70℃の環境に1か月放置する前のインク23(初期インク23)、及び
、放置後インク23のそれぞれについて、上記の試験片及び前処理剤Aを用い、上記の工
程1及び工程2を行って、捺染物を作製した。
このようにして得られた、初期インク23を用いた捺染物、及び放置後インク23を用
いた捺染物のそれぞれについて、発色、乾燥摩擦堅牢度の汚染、及び湿潤摩擦堅牢度の汚
染を、上述の評価方法及び評価基準によって評価した。
結果を表6に示す。
【0095】
【0096】
表4に示されるように、実施例1~13では、摩擦堅牢度に優れた捺染物を作製できた
。
これに対して、表5に示されるように、第2水分散性樹脂を含まないインク12~17
がそれぞれ用いられた比較例1~6、第1水分散性樹脂を含まないインク18が用いられ
た比較例7、インク中の第1水分散性樹脂に対する第2水分散性樹脂のインク中の量の割
合が0.05であるインク19が用いられた比較例8、インク中の第1水分散性樹脂に対
する第2水分散性樹脂の量の割合が6であるインク20が用いられた比較例9、及び、イ
ンク中の第1水分散性樹脂と第2水分散性樹脂2の合計量(総量)が1.5質量%である
インク21が用いられた比較例10では、十分な摩擦堅牢度を得ることができなかった。
また、インク中の第1水分散性樹脂1と第2水分散性樹脂2の合計量(総量)が19質量
%であるインク22が用いられた比較例11では、吐出性能を確保できなかった。
また、表6に示されるように、塩基性物質を含むインク23を用いた実施例14では、
放置後のインクを用いた場合でも、発色及び摩擦堅牢度の優れた捺染物を得ることができ
た。