(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】送信源位置標定装置及び送信源位置標定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 5/04 20060101AFI20230126BHJP
G01S 3/48 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
G01S5/04
G01S3/48
(21)【出願番号】P 2018116407
(22)【出願日】2018-06-19
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】越後貫 智也
(72)【発明者】
【氏名】松本 祐也
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-114664(JP,A)
【文献】特開平05-126951(JP,A)
【文献】特開2005-274300(JP,A)
【文献】特開2002-168935(JP,A)
【文献】特開2018-025458(JP,A)
【文献】特開2004-239678(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0195834(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00- 3/74,
G01S 5/00- 5/14,
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面において受信機に対して相対運動する送信源からの受信波の到来方向の実測値と、前記送信源からの受信波の到来方向の予測値と、が一致するように、かつ、
地表面に対する前記受信機の位置及び姿勢に基づいて、前記送信源を固定点として取り扱う固定点モデルを
状態空間モデルとして採用して、前記送信源の位置を標定する位置標定部と、
先行実行される位置標定処理において、前記送信源の標定位置の収束指標が第1収束指標値に減少したときに、後続実行される位置標定処理を開始させる位置標定開始部と、
前記後続実行される位置標定処理において、前記送信源の標定位置の収束指標が前記第1収束指標値と比べて小さい第2収束指標値に減少したときに、
前記先行実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置に代えて、
前記後続実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置を採用する標定位置切替部と、
を備えることを特徴とする送信源位置標定装置。
【請求項2】
前記標定位置切替部は、
前記先行実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置と、
前記後続実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置と、が飛びを生じさせない程度にほぼ一致したときに、
前記先行実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置に代えて、
前記後続実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置を採用する
ことを特徴とする、請求項1に記載の送信源位置標定装置。
【請求項3】
前記送信源の標定位置の収束指標として、前記送信源からの受信波を観測する位置と前記送信源の標定位置との間の距離の時間変化率と、前記送信源の標定位置を中心とし前記送信源の真位置が存在する確率が高い円内の半径の大きさ及び当該半径の大きさの時間変化率と、の少なくともいずれかが採用される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の送信源位置標定装置。
【請求項4】
前記位置標定部は、前記送信源からの受信波を受信する複数の前記受信機の
アンテナの間隔が長いほど、かつ、前記送信源からの受信波の到来方向が測定精度の高い到来方向であるほど、前記送信源の標定位置の前回値から今回値への修正量を大きくする
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の送信源位置標定装置。
【請求項5】
前記位置標定部は、前記送信源からの受信波を受信する複数の前記受信機の
アンテナの間隔が長いほど、かつ、前記送信源からの受信波の到来方向が測定精度の高い到来方向であるほど、到来方向の測定精度の到来方向への依存性を考慮しないときより、到来方向の実測値と予測値との間の差分に乗算されるカルマンゲインを大きくする
ことを特徴とする、請求項4に記載の送信源位置標定装置。
【請求項6】
地表面において受信機に対して相対運動する送信源からの受信波の到来方向の実測値と、前記送信源からの受信波の到来方向の予測値と、が一致するように、かつ、
地表面に対する前記受信機の位置及び姿勢に基づいて、前記送信源を固定点として取り扱う固定点モデルを
状態空間モデルとして採用して、前記送信源の位置を標定する位置標定ステップと、
先行実行される位置標定処理において、前記送信源の標定位置の収束指標が第1収束指標値に減少したときに、後続実行される位置標定処理を開始させる位置標定開始ステップと、
前記後続実行される位置標定処理において、前記送信源の標定位置の収束指標が前記第1収束指標値と比べて小さい第2収束指標値に減少したときに、
前記先行実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置に代えて、
前記後続実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置を採用する標定位置切替ステップと、
をコンピュータに実行させるための送信源位置標定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ソノブイ等の送信源の位置を標定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ソノブイ等の送信源の位置を標定する技術が、特許文献1、2に開示されている。ソノブイからの受信波の到来方向の実測値と、ソノブイからの受信波の到来方向の予測値と、が一致するように、ソノブイの位置を段階的に収束させ最終的に標定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5730473号明細書
【文献】特許第5730506号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ソノブイの標定位置の収束指標として、ソノブイの標定位置を中心としソノブイの真位置が存在する確率が高い円内の半径の大きさ(以下では、「標定指標」という。)等が採用される。そして、標定指標は、標定初期段階から位置収束段階へと、徐々に小さくなるのであって、再び大きくなるわけではない(位置標定処理が異常に動作する場合を除く。)。すると、ソノブイの移動時及び投下後の位置標定処理において、
図1に示す課題があった。従来技術のソノブイの移動時及び投下後の位置標定処理を
図1に示す。
【0005】
図1の左欄において、ソノブイが潮流により移動することがある。しかし、潮流のデータを得られないため、ソノブイを固定点として取り扱っている。ここで、標定指標が大きい標定初期段階では、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を大きくすることができ、ソノブイの標定位置を移動するソノブイの真位置に追従させることができる。その後、標定指標が小さい位置収束段階では、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を大きくすることができず、ソノブイの標定位置を移動するソノブイの真位置に追従させることができない。そして、位置標定処理が正常に動作するかぎり、標定指標を再び大きくすることはできない。よって、ソノブイが潮流により長時間移動したときには、ソノブイの標定位置と移動するソノブイの真位置との間の標定誤差を生じさせる。
【0006】
図1の右欄において、航空機はソノブイの投下後に直線移動する。ここで、標定指標が大きい標定初期段階では、ソノブイからの受信波の到来方向の実測値と予測値とを一致させることにより、航空機からソノブイへの標定方向を航空機からソノブイへの真方向に修正することができる。その後、標定指標が小さい位置収束段階では、ソノブイからの受信波の到来方向の実測値と予測値とをすでに一致させており、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を大きくすることができない。そして、航空機が直線運動した後に方向転換するときでも、位置標定処理が正常に動作するかぎり、標定指標を再び大きくすることはできない。よって、航空機が直線運動した後に方向転換するときでも、ソノブイの標定位置とソノブイの真位置との間の標定誤差を生じさせる。
【0007】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、ソノブイ等の送信源の位置を標定するにあたり、送信源が長時間移動するときでも、到来方向が長時間変化しないときでも、送信源の標定位置と真位置との間の標定誤差を減らすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、先行実行される位置標定処理において、送信源の標定位置が完全に収束しない程度に収束したときに、後続実行される位置標定処理を開始させることにより、標定指標を再び大きくすることと同様の効果を発揮させることとした。ここで、先行処理の完全収束時に後続処理を開始させないのは、先行処理の悪化した結果を維持させないとともに標定指標の再増加を遅延させないためである。そして、先行処理のほぼ開始時に後続処理を開始させないのは、先行処理を無駄にしないとともに多数の処理を並行させないためである。
【0009】
具体的には、本開示は、送信源からの受信波の到来方向の実測値と、前記送信源からの受信波の到来方向の予測値と、が一致するように、前記送信源の位置を標定する位置標定部と、先行実行される位置標定処理において、前記送信源の標定位置が所定程度に収束する前に、後続実行される位置標定処理を開始させる位置標定開始部と、を備えることを特徴とする送信源位置標定装置である。
【0010】
また、本開示は、送信源からの受信波の到来方向の実測値と、前記送信源からの受信波の到来方向の予測値と、が一致するように、前記送信源の位置を標定する位置標定ステップと、先行実行される位置標定処理において、前記送信源の標定位置が所定程度に収束する前に、後続実行される位置標定処理を開始させる位置標定開始ステップと、をコンピュータに実行させるための送信源位置標定プログラムである。
【0011】
これらの構成によれば、送信源が長時間移動するときでも、到来方向が長時間変化しないときでも、送信源の標定位置と真位置との間の標定誤差を減らすことができる。
【0012】
また、本開示は、後続実行される位置標定処理において、前記送信源の標定位置が所定程度に収束した後に、先行実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置に代えて、後続実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置を採用する標定位置切替部、をさらに備えることを特徴とする送信源位置標定装置である。
【0013】
先行処理の完全収束前に、先行処理を終了させるとともに、後続処理を開始させるときには、高精度の先行処理から、低精度の後続処理へと、位置標定処理を続行することになる。しかし、上記の構成によれば、後続処理の完全収束後に、先行処理を終了させるとともに、先行処理から後続処理へと切り替えることにより、高精度の先行処理から、高精度の後続処理へと、位置標定処理を続行することができる。
【0014】
また、本開示は、前記標定位置切替部は、先行実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置と、後続実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置と、が所定程度に一致したときに、先行実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置に代えて、後続実行される位置標定処理における前記送信源の標定位置を採用することを特徴とする送信源位置標定装置である。
【0015】
先行処理から後続処理への切替時に、先行処理の標定位置と後続処理の標定位置とが一致していないときには、先行処理から後続処理への切替時にのみ、標定位置の飛びを生じさせることになる。しかし、上記の構成によれば、先行処理から後続処理への切替時に、先行処理の標定位置と後続処理の標定位置との一致を確認することにより、先行処理から後続処理への切替時でも、標定位置の飛びを生じさせないことができる。
【0016】
また、本開示は、前記送信源の標定位置の収束指標として、前記送信源からの受信波を観測する位置と前記送信源の標定位置との間の距離の時間変化率と、前記送信源の標定位置を中心とし前記送信源の真位置が存在する確率が高い円内の半径の大きさ及び時間変化率と、の少なくともいずれかが採用されることを特徴とする送信源位置標定装置である。
【0017】
この構成によれば、送受間距離の時間変化率が負の値であれば、送信源からの受信波を観測する位置が送信源に近づいており、位置標定精度が向上するため、送信源の標定位置が収束しつつあることを確認することができる。そして、標定指標がある程度小さい値になれば、標定指標が収束程度を直接的に表現しているため、送信源の標定位置が収束しつつあることを確認することができる。さらに、標定指標の時間変化率が負の値であれば、位置標定処理が正常に動作しているため、送信源の標定位置が収束しつつあることを確認することができる。
【0018】
また、本開示は、前記位置標定部は、前記送信源からの受信波の到来方向が測定精度の高い到来方向であるほど、前記送信源の標定位置の前回値から今回値への修正量を大きくすることを特徴とする送信源位置標定装置である。
【0019】
この構成によれば、到来方向の測定精度が高いときには、通常の標定位置の修正量では、標定収束後に標定位置を修正不能になるが、通常より大きい標定位置の修正量により、標定収束後も標定位置を修正可能になる。そして、到来方向の測定精度が低いときには、通常の標定位置の修正量では、修正量が大きく標定位置精度を低下させるが、通常より小さい標定位置の修正量により、修正量が小さく標定位置精度を向上させる。
【0020】
また、本開示は、前記位置標定部は、前記送信源からの受信波の到来方向が測定精度の高い到来方向であるほど、到来方向の測定精度の到来方向への依存性を考慮しないときより、到来方向の実測値と予測値との間の差分に乗算されるゲインを大きくすることを特徴とする送信源位置標定装置である。
【0021】
この構成によれば、到来方向の測定精度が高いときには、通常のゲインでは、標定収束後に標定位置を修正不能になるが、通常より大きいゲインにより、標定収束後も標定位置を修正可能になる。そして、到来方向の測定精度が低いときには、通常のゲインでは、修正量が大きく標定位置精度を低下させるが、通常より小さいゲインにより、修正量が小さく標定位置精度を向上させる。ここで、ゲインとして、カルマンゲイン等が挙げられる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本開示は、ソノブイ等の送信源の位置を標定するにあたり、送信源が長時間移動するときでも、到来方向が長時間変化しないときでも、送信源の標定位置と真位置との間の標定誤差を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】従来技術のソノブイの移動時及び投下後の位置標定処理を示す図である。
【
図2】本開示の位置標定処理の分割方法を示す図である。
【
図3】本開示のソノブイ位置標定システムの構成を示すブロック図である。
【
図4】本開示の位置標定開始部の処理を示すフローチャートである。
【
図5】本開示の標定位置切替部の処理を示すフローチャートである。
【
図6】本開示のソノブイ位置標定装置の標定指標及び標定誤差を示す概念図である。
【
図7】本開示のソノブイ位置標定装置のシミュレーションの条件を示す図である。
【
図8】本開示のソノブイ位置標定装置のシミュレーションの結果を示す図である。
【
図9】本開示のソノブイ位置標定装置のシミュレーションの結果を示す図である。
【
図10】本開示の到来方向の測定精度に応じた標定位置の修正量設定を示す図である。
【
図11】本開示の位置標定部の構成を示すブロック図である。
【
図12】本開示の位置標定部の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0025】
(ソノブイ位置標定装置の位置標定処理の分割方法の概要)
本開示の位置標定処理の分割方法を
図2に示す。先行実行される位置標定処理において、ソノブイの標定位置が完全に収束しない程度に収束したときに、後続実行される位置標定処理を開始させることにより、標定指標を再び大きくすることと同様の効果を発揮させることとした。ここで、先行処理の完全収束時に後続処理を開始させないのは、先行処理の悪化した結果を維持させないとともに標定指標の再増加を遅延させないためである。そして、先行処理のほぼ開始時に後続処理を開始させないのは、先行処理を無駄にしないとともに多数の処理を並行させないためである。
【0026】
図1の左欄において、ソノブイが潮流により移動することがある。しかし、潮流のデータを得られないため、ソノブイを固定点として取り扱っている。ここで、先行処理の標定指標が大きい標定初期段階では、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を大きくすることができ、ソノブイの標定位置を移動するソノブイの真位置に追従させることができる。その後、先行処理の標定指標が小さい位置収束段階では、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を大きくすることができず、ソノブイの標定位置を移動するソノブイの真位置に追従させることができない。一方で、後続処理の標定指標が大きい標定初期段階では、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を再び大きくすることができ、ソノブイの標定位置を移動するソノブイの真位置に再び追従させることができる。よって、ソノブイが潮流により長時間移動したときでも、ソノブイの標定位置と移動するソノブイの真位置との間の標定誤差を生じさせないことができる。
【0027】
図1の右欄において、航空機はソノブイの投下後に直線移動する。ここで、先行処理の標定指標が大きい標定初期段階では、ソノブイからの受信波の到来方向の実測値と予測値とを一致させることにより、航空機からソノブイへの標定方向を航空機からソノブイへの真方向に修正することができる。その後、先行処理の標定指標が小さい位置収束段階では、ソノブイからの受信波の到来方向の実測値と予測値とをすでに一致させており、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を大きくすることができない。そして、航空機が直線運動した後に方向転換しないときには、後続処理の標定指標が大きい標定初期段階でも、ソノブイからの受信波の到来方向の実測値と予測値とをすでに一致させており、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を大きくすることができない。しかし、航空機が直線運動した後に方向転換するときには、後続処理の標定指標が大きい標定初期段階では、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を大きくすることができ、ソノブイの標定位置をソノブイの真位置に追従させることができる。よって、航空機が直線運動した後に方向転換するときに限定されるものの、ソノブイの標定位置とソノブイの真位置との間の標定誤差を生じさせないことができる。
【0028】
このように、ソノブイが長時間移動するときでも、到来方向が長時間変化しないときでも、ソノブイの標定位置と真位置との間の標定誤差を減らすことができる。
【0029】
図2の左欄において、第1の位置標定処理の分割方法を示す。先行処理の完全収束前に、先行処理を終了させるとともに、後続処理を開始させる。よって、高精度の先行処理から、低精度の後続処理へと、位置標定処理を続行することになる。
【0030】
図2の右欄において、第2の位置標定処理の分割方法を示す。先行処理の完全収束前に、後続処理を開始させるが、先行処理を終了させない。そして、後続処理の完全収束後に、先行処理を終了させるとともに、先行処理から後続処理へと切り替える。つまり、後続処理の位置標定結果は、先行処理の完全収束前では、十分なデータが入力されていないため、低精度であり採用されないが、先行処理の完全収束後では、十分なデータが入力されているため、高精度である可能性があり採用される。よって、高精度の先行処理から、高精度の後続処理へと、位置標定処理を続行することができる。
【0031】
以下では、第2の位置標定処理の分割方法について説明する。とはいえ、第1の位置標定処理の分割方法も本開示に含まれる。第1の位置標定処理の分割方法でも、第2の位置標定処理の分割方法と同様、従来技術と比べて優れた効果を発揮するからである。
【0032】
(ソノブイ位置標定装置の位置標定処理の分割方法の詳細)
本開示のソノブイ位置標定システムの構成を
図3に示す。ソノブイ位置標定システムSは、到来方向測定装置1及びソノブイ位置標定装置2から構成される。ソノブイ位置標定装置2は、位置標定部21-1、21-2、21-3、・・・、位置標定開始部22及び標定位置切替部23から構成される。位置標定部21のブロック数は、3個に限られず、複数個であればよい。ソノブイ位置標定装置2は、ソノブイ位置標定プログラムをコンピュータにインストールすることにより、実現することができる。
【0033】
到来方向測定装置1は、各空中線間の受信位相差及び各ソノブイの送信周波数に基づいて、ソノブイからの受信波の到来方向を測定する。各位置標定部21は、ソノブイからの受信波の到来方向の実測値、航空機の位置及び姿勢並びにソノブイの標定位置の前回値に基づいて、ソノブイの標定位置の今回値を算出する。つまり、各位置標定部21は、ソノブイからの受信波の到来方向の実測値と、ソノブイからの受信波の到来方向の予測値と、が一致するように、ソノブイの標定位置の今回値を算出する。
【0034】
ここで、各位置標定部21として、カルマンフィルタ等が挙げられる。そして、各位置標定部21の状態空間モデルとして、ソノブイを固定点として取り扱う固定点モデルが採用されている。
【0035】
位置標定開始部22は、先行実行される位置標定処理において、ソノブイの標定位置が所定程度に収束する前に、後続実行される位置標定処理を開始させる。
【0036】
本開示の位置標定開始部の処理を
図4に示す。位置標定開始部22は、位置標定部21-1に、第1の位置標定処理を開始させる(ステップS1)。そして、位置標定開始部22は、第1の標定位置が完全に収束しない程度に収束したかどうかを判定する(ステップS2)。ここで、位置標定開始部22は、ステップS2でNOと判定したときには、ステップS2でYESと判定するまでは、開始処理をしばらく停止する。
【0037】
一方で、位置標定開始部22は、ステップS2でYESと判定したときには、位置標定部21-2に、第2の位置標定処理を開始させる(ステップS3)。そして、位置標定開始部22は、第2の標定位置が完全に収束しない程度に収束したかどうかを判定する(ステップS4)。ここで、位置標定開始部22は、ステップS4でNOと判定したときには、ステップS4でYESと判定するまでは、開始処理をしばらく停止する。
【0038】
一方で、位置標定開始部22は、ステップS4でYESと判定したときには、位置標定部21-3に、第3の位置標定処理を開始させる(ステップS5)。そして、位置標定開始部22は、第3の標定位置が完全に収束しない程度に収束したかどうかを判定する(ステップS6)。ここで、位置標定開始部22は、ステップS6でNOと判定したときには、ステップS6でYESと判定するまでは、開始処理をしばらく停止する。
【0039】
第4以降の位置標定処理についても、第1~3の位置標定処理と同様である。ここで、ソノブイの標定位置の収束指標として、ソノブイの標定位置と航空機の位置との間の距離の時間変化率と、標定指標の大きさ及び時間変化率と、の少なくともいずれかが採用される。本実施形態では、いずれの収束指標も採用される。ソノブイの標定位置の収束前かどうかを決定するこれらの収束指標の所定閾値は、実フライトでの位置標定の評価結果に基づいて設定される。なお、ソノブイからの受信波の到来方向の実測値は、誤りを含みやすいため、ソノブイの標定位置の収束指標として、ソノブイからの受信波の到来方向及びその時間変化率は、本実施形態では採用されないが、もちろん採用してもよい。
【0040】
送受間距離の時間変化率が負の値であれば、ソノブイからの受信波を観測する位置がソノブイに近づいており、位置標定精度が向上するため、ソノブイの標定位置が収束する前であることを確認することができる。そして、標定指標がある程度小さい値になれば、標定指標が収束程度を直接的に表現しているため、ソノブイの標定位置が収束する前であることを確認することができる。さらに、標定指標の時間変化率が負の値であれば、位置標定処理が正常に動作しているため、ソノブイの標定位置が収束する前であることを確認することができる。
【0041】
標定位置切替部23は、後続実行される位置標定処理において、ソノブイの標定位置が所定程度に収束した後に、先行実行される位置標定処理におけるソノブイの標定位置に代えて、後続実行される位置標定処理におけるソノブイの標定位置を採用する。
【0042】
これに加えて、標定位置切替部23は、先行実行される位置標定処理におけるソノブイの標定位置と、後続実行される位置標定処理におけるソノブイの標定位置と、が所定程度に一致したときに、先行実行される位置標定処理におけるソノブイの標定位置に代えて、後続実行される位置標定処理におけるソノブイの標定位置を採用する。
【0043】
ここで、先行処理から後続処理への切替時に、先行処理の標定位置と後続処理の標定位置とが一致していないときには、先行処理から後続処理への切替時にのみ、標定位置の飛びを生じさせることになる。しかし、標定位置切替部23により、先行処理から後続処理への切替時に、先行処理の標定位置と後続処理の標定位置との一致を確認することにより、先行処理から後続処理への切替時でも、標定位置の飛びを生じさせないことができる。
【0044】
本開示の標定位置切替部の処理を
図5に示す。標定位置切替部23は、第1の標定位置を採用する(ステップS11)。そして、標定位置切替部23は、第2の標定位置が完全に収束する程度に収束したかどうかを判定する(ステップS12)。ここで、標定位置切替部23は、ステップS12でNOと判定したときには、ステップS12でYESと判定するまでは、切替処理をしばらく停止する。一方で、標定位置切替部23は、ステップS12でYESと判定したときには、第2の標定位置が第1の標定位置とほぼ一致するかどうかを判定する(ステップS13)。ここで、標定位置切替部23は、ステップS13でYESと判定したときには、第1の標定位置に代えて、第2の標定位置を採用する(ステップS14)。一方で、標定位置切替部23は、ステップS13でNOと判定したときには、第2の標定位置を破棄し、第1の標定位置を採用続行する(ステップS15)。
【0045】
ステップS14が実行されたときを説明する。標定位置切替部23は、第3の標定位置が完全に収束する程度に収束したかどうかを判定する(ステップS16)。ここで、標定位置切替部23は、ステップS16でNOと判定したときには、ステップS16でYESと判定するまでは、切替処理をしばらく停止する。一方で、標定位置切替部23は、ステップS16でYESと判定したときには、第3の標定位置が第2の標定位置とほぼ一致するかどうかを判定する(ステップS17)。ここで、標定位置切替部23は、ステップS17でYESと判定したときには、第2の標定位置に代えて、第3の標定位置を採用する(ステップS18)。一方で、標定位置切替部23は、ステップS17でNOと判定したときには、第3の標定位置を破棄し、第2の標定位置を採用続行する(ステップS19)。
【0046】
ステップS15が実行されたときを説明する。標定位置切替部23は、第3の標定位置が完全に収束する程度に収束したかどうかを判定する(ステップS20)。ここで、標定位置切替部23は、ステップS20でNOと判定したときには、ステップS20でYESと判定するまでは、切替処理をしばらく停止する。一方で、標定位置切替部23は、ステップS20でYESと判定したときには、第3の標定位置が第1の標定位置とほぼ一致するかどうかを判定する(ステップS21)。ここで、標定位置切替部23は、ステップS21でYESと判定したときには、第1の標定位置に代えて、第3の標定位置を採用する(ステップS22)。一方で、標定位置切替部23は、ステップS21でNOと判定したときには、第3の標定位置を破棄し、第1の標定位置を採用続行する(ステップS23)。
【0047】
第4以降の位置標定処理についても、第1~3の位置標定処理と同様である。ここで、ソノブイの標定位置の収束指標として、ソノブイの標定位置と航空機の位置との間の距離の時間変化率と、標定指標の大きさ及び時間変化率と、の少なくともいずれかが採用される。本実施形態では、標定指標の時間変化率が採用される。ソノブイの標定位置の収束後かどうかを決定する標定指標の時間変化率の所定閾値は、実フライトでの位置標定の評価結果に基づいて設定される。なお、ソノブイからの受信波の到来方向の実測値は、誤りを含みやすいため、ソノブイの標定位置の収束指標として、ソノブイからの受信波の到来方向及びその時間変化率は、本実施形態では採用されないが、もちろん採用してもよい。
【0048】
標定指標の時間変化率が負の値であれば、位置標定処理が正常に動作しているため、ソノブイの標定位置が収束した後であることを確認することができる。また、先行処理の標定位置と後続処理の標定位置との一致程度を決定する各標定位置間の差分の所定閾値も、実フライトでの位置標定の評価結果に基づいて設定される。
【0049】
本開示のソノブイ位置標定装置の標定指標及び標定誤差を
図6に概念的に示す。位置標定開始部22は、第1の標定指標がR
STに減少したときに(ステップS2でYES)、位置標定部21-2に、第2の位置標定処理を開始させる(ステップS3)。そして、位置標定開始部22は、第2の標定指標がR
STに減少したときに(ステップS4でYES)、位置標定部21-3に、第3の位置標定処理を開始させる(ステップS5)。
【0050】
標定位置切替部23は、第2の標定指標がRSW(<RST)に減少するとともに(ステップS12においてYES)、第2の標定位置が第1の標定位置とほぼ一致するときに(ステップS13においてYES)、第1の標定位置に代えて、第2の標定位置を採用する(ステップS14)。ここで、第2の標定位置が第1の標定位置とほぼ一致することは、第2の標定誤差が第1の標定誤差とほぼ等しくESWに減少していることに表れている。
【0051】
標定位置切替部23は、第3の標定指標がRSW(<RST)に減少するとともに(ステップS16においてYES)、第3の標定位置が第2の標定位置とほぼ一致するときに(ステップS17においてYES)、第2の標定位置に代えて、第3の標定位置を採用する(ステップS18)。ここで、第3の標定位置が第2の標定位置とほぼ一致することは、第3の標定誤差が第2の標定誤差とほぼ等しくESWに減少していることに表れている。
【0052】
(ソノブイ位置標定装置のシミュレーションの条件及び結果)
本開示のソノブイ位置標定装置のシミュレーションの条件を
図7に示す。ソノブイは、ソノブイ開始位置からソノブイ最終位置へと、5ktの潮流速度及び北方向の潮流方向で移動していると仮定している。航空機は、ソノブイ開始位置を中心とする5NMの半径の円周上を、220ktの速度で移動していると仮定している。
【0053】
本開示のソノブイ位置標定装置のシミュレーションの結果を
図8及び
図9に示す。
図8の左欄において、従来技術の位置標定方法では、先行処理から後続処理への切替がなく、標定位置の飛びを生じさせないものの、ソノブイ最終位置と標定最終位置との間の標定誤差を減らすことができていない。
図8の右欄において、本開示の位置標定方法では、先行処理から後続処理への切替時に、標定位置の飛びを少々生じさせるものの、ソノブイ最終位置と標定最終位置との間の標定誤差を減らすことができている。
【0054】
図9において、従来技術の位置標定方法では、第1の位置標定処理を続行して実行しており、位置標定処理を切り替えていない。そして、標定初期段階(標定開始から時間約200後)では、ソノブイ真位置と標定位置との間の標定誤差(規格化)を約2に減らすことができている。しかし、標定最終段階(標定開始から時間約1000後)では、ソノブイ真位置と標定位置との間の標定誤差(規格化)を約5に増やしてしまっている。
【0055】
図9において、本開示の位置標定方法では、第1の位置標定処理から第5の位置標定処理までを切り替えて実行している。そして、標定初期段階(標定開始から時間約200後)では、ソノブイ真位置と標定位置との間の標定誤差(規格化)を約2に減らすことができている。さらに、標定最終段階(標定開始から時間約1000後)でも、ソノブイ真位置と標定位置との間の標定誤差(規格化)を約2に減らすことができている。
【0056】
(到来方向の測定精度に応じた標定位置の修正量設定)
本開示の到来方向の測定精度に応じた標定位置の修正量設定を
図10に示す。航空機Pは、機首・機尾方向の長い間隔を有する複数の空中線ALと、主翼方向の短い間隔を有する複数の空中線ASと、を胴体の下部に配置している。
【0057】
図10の左欄において、ソノブイ電波が主翼方向から到来するときには、機首・機尾方向の長い間隔を有する複数の空中線ALを用いることにより、ソノブイからの受信波の到来方向の測定精度が高くなる。すると、従来技術のように、通常のカルマンゲインでは、つまり、通常の標定位置の修正量では、標定収束後に標定位置を修正不能になる。しかし、本開示のように、通常より大きいカルマンゲインにより、つまり、通常より大きい標定位置の修正量により、標定収束後も標定位置を修正可能になる。
【0058】
図10の右欄において、ソノブイ電波が機首・機尾方向から到来するときには、主翼方向の短い間隔を有する複数の空中線ASを用いることにより、ソノブイからの受信波の到来方向の測定精度が低くなる。すると、従来技術のように、通常のカルマンゲインでは、つまり、通常の標定位置の修正量では、修正量が大きく標定位置精度を低下させる。しかし、本開示のように、通常より小さいカルマンゲインにより、つまり、通常より小さい標定位置の修正量により、修正量が小さく標定位置精度を向上させる。
【0059】
本開示の位置標定部の構成及び処理を
図11及び
図12に示す。位置標定部21は、修正量算出部211、重み付け算出部212及び標定位置算出部213から構成される。
【0060】
修正量算出部211は、ソノブイからの受信波の到来方向の実測値、航空機Pの位置及び姿勢並びにソノブイの標定位置の前回値に基づいて、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を算出する。ここで、修正量算出部211は、従来技術のように、ソノブイからの受信波の到来方向の測定精度の到来方向依存性を考慮せず、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を算出する(ステップS31)。
【0061】
ソノブイからの受信波の到来方向が測定精度の高い到来方向であるときを説明する(ステップS32においてYES)。重み付け算出部212は、到来方向の測定精度の到来方向への依存性を考慮しないときより、到来方向の実測値と予測値との間の差分に乗算されるカルマンゲインを大きくする(ステップS33)。つまり、重み付け算出部212は、到来方向の測定精度の到来方向への依存性を考慮しないときより、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を大きくする(ステップS34)。そして、標定位置算出部213は、重み付け算出部212によるソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量に基づいて、ソノブイの標定位置の今回値を算出する(ステップS35)。
【0062】
ソノブイからの受信波の到来方向が測定精度の低い到来方向であるときを説明する(ステップS32においてNO)。重み付け算出部212は、到来方向の測定精度の到来方向への依存性を考慮しないときより、到来方向の実測値と予測値との間の差分に乗算されるカルマンゲインを小さくする(ステップS36)。つまり、重み付け算出部212は、到来方向の測定精度の到来方向への依存性を考慮しないときより、ソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量を小さくする(ステップS37)。そして、標定位置算出部213は、重み付け算出部212によるソノブイの標定位置の前回値から今回値への修正量に基づいて、ソノブイの標定位置の今回値を算出する(ステップS35)。
【0063】
本実施形態では、ソノブイが潮流移動するとともに、航空機Pが移動するときにおいて、ソノブイの位置を標定している。変形例として、ソノブイに限定されない送信源が空中線AL、ASに限定されない受信機に対して相対運動するとき(送信源が運動するとき、及び/又は、受信機が運動するとき)であっても、送信源の位置を標定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示の送信源位置標定装置及び送信源位置標定プログラムは、ソノブイ等の送信源が受信機に対して相対運動するとき(ソノブイ等の送信源が運動するとき、及び/又は、受信機が運動するとき)であっても、ソノブイ等の送信源の位置を標定することができる。
【符号の説明】
【0065】
S:ソノブイ位置標定システム
P:航空機
AL、AS:空中線
1:到来方向測定装置
2:ソノブイ位置標定装置
21、21-1、21-2、21-3:位置標定部
22:位置標定開始部
23:標定位置切替部
211:修正量算出部
212:重み付け算出部
213:標定位置算出部