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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】ゴム成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/26 20060101AFI20230126BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C08J3/26 CEQ
C08J5/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018177564
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020045476
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】塩山 晋太朗
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 治
(72)【発明者】
【氏名】河原 成元
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/061868(WO,A1)
【文献】特開2013-177717(JP,A)
【文献】特開2000-017509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28、99/00、
C08K3/00-13/08、C08L1/00-101/14、
C09D1/00-10/00、101/00-201/10、C09J1/00-5/10、9/00-201/10、
A41D19/00-19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムラテックスと架橋剤とを有する架橋剤含有ラテックスを製造する架橋剤含有ラテックス製造工程と、
120℃以上200℃以下の温度に加熱された基材表面に該架橋剤含有ラテックスを吹き付けて該基材の熱で乾燥させることによりゴム組成物を得る乾燥工程と、
該ゴム組成物を架橋する架橋工程と、
を有することを特徴とするゴム成形体の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程において、前記架橋剤含有ラテックスの吹き付けは内径が0.5mm以上5mm以下のノズルを用いて行われ、吹き付けられた該架橋剤含有ラテックスは前記基材表面にドット状に付着する請求項1に記載のゴム成形体の製造方法。
【請求項3】
前記架橋工程の前に、前記ゴム組成物の混練り工程を有さない請求項1または請求項2に記載のゴム成形体の製造方法。
【請求項4】
前記架橋剤含有ラテックスは、界面活性剤を有する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のゴム成形体の製造方法。
【請求項5】
前記架橋剤含有ラテックス製造工程は、
前記架橋剤が水に分散した架橋剤分散液を製造する工程と、
前記ゴムラテックスに該架橋剤分散液を添加する工程と、
を有する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のゴム成形体の製造方法。
【請求項6】
前記架橋剤分散液は、界面活性剤を有する請求項5に記載のゴム成形体の製造方法。
【請求項7】
前記ゴムラテックスは、天然ゴムラテックスである請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のゴム成形体の製造方法。
【請求項8】
前記架橋剤含有ラテックス製造工程の前に、前記天然ゴムラテックスの凝固、凝固物の水分絞り出しおよび水洗を行う工程を有さない請求項7に記載のゴム成形体の製造方法。
【請求項9】
前記架橋工程は、120℃以上の温度下で行う請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のゴム成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋剤を配合したゴムラテックスを用いるゴム成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製品の多くは、固体の原料ゴムに架橋剤、充填材などを配合したゴム組成物を、バンバリーミキサー、ニーダーなどで混練りしてから架橋して製造されている。ゴム製品のうち、手袋などの薄物製品は、原料ゴムのラテックスに架橋剤などを配合した液体に製品型を浸漬し、それを引き上げてオーブン中で乾燥、架橋させて製造されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-27012号公報
【文献】特開2012-172016号公報
【文献】特開2007-217677号公報
【文献】特開2017-066420号公報
【文献】特表2004-514009号公報
【文献】特開2012-121945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
混練りは、最終製品の物性を左右する難しい作業である。練り方が悪いと、原料ゴムに混ぜ合わされた配合材料の分散不良を招くおそれがある。配合材料を安定させるために、混練り後に何日間か養生させることが必要な場合もある。また、混練りする際には、ゴム組成物に高温、高せん断力が加わる。これが、製品物性に影響を与えると考えられる。例えば、天然ゴムの特徴の一つは高い分子量であるが、混練りにより高分子鎖が切断されてしまうと、その良さが充分に発揮されないおそれがある。
【0005】
一方、上記特許文献1に記載されているように、架橋剤を配合したゴムラテックスに製品型を浸漬して引き上げるディップ成形法によると、混練りを行わずに架橋して製品を得ることができる。しかし、ディップ成形法は、手袋など薄物製品の製造にしか適用することはできない。例えば、架橋剤を配合したゴムラテックスをオーブン中で乾燥してシート状に成形しようとすると、乾燥中に架橋剤が沈降してしまい、シート全体を均一に架橋させることはできない。
【0006】
また、特許文献2、3に記載されているように、カーボンブラックなどの充填材を配合する場合、充填材が溶媒に分散したスラリー溶液とゴムラテックスとを混合して、ウエットマスターバッチを製造することが知られている。特許文献4には、酸化亜鉛とゴムラテックスとを混合して、ウエットマスターバッチを製造することが記載されている。ウエットマスターバッチは、酸や塩などの凝固剤を加えることにより凝固され、さらにオーブン、ドライヤーなどで乾燥された後、通常の混練り工程に供される。つまり、ウエットマスターバッチを製造しても、混練りを行うことには変わりがない。仮に、ウエットマスターバッチに架橋剤を配合した場合、凝固後に洗浄し水分を絞る際に架橋剤が流出してしまうおそれがあり、環境面で問題になる。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、予め架橋剤を配合したゴムラテックスを用いて、混練りを行わずにゴム成形体を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のゴム成形体の製造方法は、ゴムラテックスと架橋剤とを有する架橋剤含有ラテックスを製造する架橋剤含有ラテックス製造工程と、加熱された基材表面に該架橋剤含有ラテックスを吹き付けて乾燥させることによりゴム組成物を得る乾燥工程と、該ゴム組成物を架橋する架橋工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム成形体の製造方法によると、ゴムラテックスに架橋剤を配合した架橋剤含有ラテックスを製造しておき、それを吹き付けて乾燥する。乾燥する手段として、オーブンではなく吹き付け法を採用するため、架橋剤の沈降が抑制され、ゴムラテックス中に架橋剤が均一に分散した状態を保持したまま乾燥することができる。すなわち、乾燥後のゴムマトリクス全体に架橋剤が均一に分散したゴム組成物を得ることができる。また、従来より行われていた酸などによる凝固は必要ないため、洗浄、絞りなどの工程も必要なく、架橋剤が流出するおそれはない。また、架橋剤含有ラテックスを吹き付けると、塗布(ベタ塗り)した場合と比較して、比表面積が大きくなり、乾燥しやすくなる。これにより、乾燥時間を短くすることができ、架橋剤の均一な分散状態を保持しやすい。加えて、熱によるゴムラテックスの劣化も抑制することができる。また、吹き付け法によると、例えばパルス衝撃波による乾燥機を使用した場合と比較して、架橋剤含有ラテックスが周囲に拡散しにくい。すなわち、基材以外の部分に付着しにくいため、原料ロスが少なく歩留まりが向上する。
【0010】
ちなみに、上記特許文献5に記載されているようにゴムラテックスを滴下して乾燥する場合、一滴ずつ滴下したのでは生産性が悪く現実的ではない。一方、多量に滴下するとゴムラテックスが基材表面に垂れ広がるため、塗布した場合と同様に、乾燥に要する時間が長くなり、ゴムラテックスが熱劣化するおそれがある。
【0011】
このように、本発明のゴム成形体の製造方法によると、架橋剤が均一に分散したゴム組成物を簡単に得ることができる。したがって、従来から行われている混練り工程が不要になり、製造工程の簡略化、コスト削減を図ることができる。例えば、得られたゴム組成物をそのまま溶融して射出成形することができる。そして、ゴムラテックスの状態から架橋剤などの配合、乾燥、架橋して成形するまでの工程を連続して行うと、生産効率が向上する。また、ゴム組成物に高温、高せん断力を加える混練りを行わないため、高分子鎖が切断されにくくゴム粒子の構造を保持することができる。したがって、ゴムが有する特性を活かして、薄物に限られず様々な形状の高品質なゴム製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】乾燥工程の一実施形態を示す概略図である。
図2】実施例1のゴム組成物のTEM画像である。
図3】同ゴム組成物の硫黄マッピング画像である。
図4】同ゴム組成物の亜鉛マッピング画像である。
図5】実施例1のゴム成形体のTEM画像である。
図6】同ゴム成形体の硫黄マッピング画像である。
図7】同ゴム成形体の亜鉛マッピング画像である。
図8】市販の手袋のTEM画像である。
図9】同手袋の硫黄マッピング画像である。
図10】同手袋の亜鉛マッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のゴム成形体の製造方法は、架橋剤含有ラテックス製造工程と、乾燥工程と、架橋工程と、を有する。以下、各工程を順に説明する。
【0014】
<架橋剤含有ラテックス製造工程>
本工程は、ゴムラテックスと架橋剤とを有する架橋剤含有ラテックスを製造する工程である。
【0015】
ゴムラテックスのゴム成分としては、天然ゴムでも合成ゴムでもよい。天然ゴムラテックスとしては、タッピングにより採液されたフィールドラテックス、あるいはそれにアンモニアを加えて処理されたラテックス(ハイアンモニアラテックス)が挙げられる。合成ゴムラテックスとしては、例えばクロロプレン、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴムなどのラテックスが挙げられる。ゴムラテックスのゴム成分濃度(乾燥ゴムの質量%、以下同じ)は、特に限定されない。ゴム成分濃度が低すぎると、得られるゴム組成物が少なくなり経済的ではない。反対に、ゴム成分濃度が高すぎると、ラテックス中のゴム成分が不安定になり、ゴム粒子同士の凝集が起きやすくなる。例えば天然ゴムの場合、ゴム成分濃度を、10質量%以上60質量%以下とすることが望ましい。
【0016】
従来より固形の天然ゴムは、天然ゴムラテックスを酸により凝固し、凝固物の水分を絞りながらシート状に成形した後、水洗するという工程を経て製造される。天然ゴムには、ゴム成分の他に、タンパク質、脂質などの非ゴム成分が含まれるが、タンパク質などの水溶性の成分は、ロールで伸ばしてシート化する際や水洗の際に、水分と共に流出してしまう。このため、天然ゴムが本来有する機能を充分に発揮できていないという問題があった。この点、本発明の製造方法によると、天然ゴムラテックスをそのまま使用して固形化することができる。換言すると、架橋剤含有ラテックス製造工程の前に、天然ゴムラテックスの凝固、凝固物の水分絞り出しおよび水洗を行う工程を必要としない。このため、水溶性の非ゴム成分の流出を抑制することができる。その結果、天然ゴムに元々含まれるタンパク質の架橋促進効果や補強効果などを発揮させて、強度などの物性に優れたゴム成形体を製造することができる。
【0017】
架橋剤は、ゴム成分、架橋方法などに応じて、硫黄、硫黄化合物、有機過酸化物、アルキルフェノール樹脂オリゴマー、ジアミン化合物などから適宜選択すればよい。例えば、架橋剤として硫黄を用いた場合、架橋を充分に進行させるためには、硫黄の含有量はゴム成分の100質量部に対して0.3質量部以上、より好適には0.7質量部以上であるとよい。反対に、硫黄の含有量が多いと、架橋点が多くなり架橋密度が大きくなるが、架橋点は熱により切断されやすい。このため、硫黄の含有量が多いと、ゴム成形体の耐熱性が低下するおそれがある。したがって、硫黄の含有量は、5質量部以下、より好適には3質量部以下であるとよい。
【0018】
架橋を促進させたり、ゴム成形体の物性を調整するために、架橋剤含有ラテックスは、架橋剤の他、加硫促進剤、促進助剤などを有してもよい。加硫促進剤としては、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオカルバミン酸塩系、グアニジン系などが挙げられる。促進助剤としては、酸化亜鉛、ステアリン酸などが挙げられる。これとは別に、ゴム成形体に所望の物性を付与するために、架橋剤含有ラテックスは、カーボンブラックなどの充填材、老化防止剤、可塑剤、着色剤などを適宜有してもよい。
【0019】
架橋剤などの分散性を向上させるために、架橋剤含有ラテックスは、界面活性剤を有することが望ましい。界面活性剤は、特に限定されず、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤から選択すればよい。架橋剤などの分散性向上効果を充分に発揮させるためには、界面活性剤の含有量は、ラテックス中のゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上、より好適には0.3質量部以上であるとよい。反対に、界面活性剤の含有量が多いと加硫後の強度低下を招くという理由から、界面活性剤の含有量は、同ゴム成分の100質量部に対して2質量部以下、より好適には1質量部以下であるとよい。
【0020】
架橋剤含有ラテックスの製造方法は特に限定されない。例えば、架橋剤が水に分散した架橋剤分散液を製造する工程と、ゴムラテックスに該架橋剤分散液を添加する工程と、により製造するとよい。架橋剤を直接ゴムラテックスに添加するのではなく、予め水に分散させた架橋剤分散液をゴムラテックスに添加することにより、ゴムラテックス中に架橋剤を高分散させることができる。架橋剤分散液は、水と架橋剤とをボールミル、ホモジナイザー、超音波分散機などにより混合して製造すればよい。界面活性剤を配合する場合には、この段階で添加するとよい。加硫促進剤などを配合する場合も同様である。すなわち、水、架橋剤に加えて、必要に応じて配合される界面活性剤、加硫促進剤などを混合して、架橋剤分散液を製造しておくことが望ましい。製造した架橋剤分散液をゴムラテックスに添加した後は、攪拌機などで適宜撹拌すればよい。
【0021】
<乾燥工程>
本工程は、加熱された基材表面に、前工程で得られた架橋剤含有ラテックスを吹き付けて乾燥させることによりゴム組成物を得る工程である。
【0022】
架橋剤含有ラテックスを吹き付ける方法は特に限定されないが、例えばスプレーなどで噴霧すると、ノズル径が小さ過ぎるためノズルが詰まったり、ゴムラテックスと架橋剤などとが分離しやすくなる。このため、基材表面に架橋剤含有ラテックスがドット状に付着するように、換言すると所定の大きさの液滴で付着するように、架橋剤含有ラテックスを吹き付けることが望ましい。こうすることにより、ノズルが詰まりにくくなると共に、ゴムラテックスに架橋剤などが均一に分散した状態を保持したまま乾燥させることができる。また、架橋剤含有ラテックスの飛散が抑制され、歩留まりも向上する。例えば、吹き付けに用いるノズルの内径は、架橋剤含有ラテックスの詰まりを抑制するという観点から、0.5mm以上、1mm以上であるとよい。また、架橋剤含有ラテックスをドット状に付着させて乾燥効率を高めるという観点から、5mm以下、3mm以下であるとよい。
【0023】
架橋剤含有ラテックスを吹き付ける基材の形状などは、特に限定されない。例えば、基材としてドラムなどの回転部材を使用するとよい。この場合、回転部材の加熱された無端環状面(例えばドラムの外周面)に、架橋剤含有ラテックスを吹き付けて、無端環状面を回転させながら乾燥させ、得られたゴム組成物を順に剥離すればよい。こうすることにより、架橋剤含有ラテックスの吹き付け→乾燥→ゴム組成物の剥離、という一連の工程の自動化が可能になり、生産性が格段に向上する。
【0024】
基材表面の温度は、吹き付けられた架橋剤含有ラテックスが実用的な時間で乾燥できればよい。架橋剤含有ラテックスの熱劣化を考慮すると、乾燥時間は、0.1分以上5分以下であることが望ましい。一方、基材表面の温度が高すぎても、付着した架橋剤含有ラテックスが過剰に加熱され、熱劣化するおそれがある。これらを考慮すると、基材表面の温度は、120℃以上200℃以下の範囲が望ましい。
【0025】
以下に、本工程の一実施形態として、回転ドラムを備える乾燥装置を用いた乾燥方法を説明する。なお、本工程は、以下の乾燥方法に限定されないことは言うまでもない。図1に、本実施形態の乾燥工程の概略図を示す。図1は、乾燥装置を側面から見た断面図に相当する。
【0026】
図1に示すように、乾燥装置1は、ドラム10と、回転軸11と、加熱装置20と、スプレーノズル30と、スクレーパー40と、排出ホッパー50と、を備えている。ドラム10は、鋼製であって、紙面手前から奥方向(左右方向)に長い中空円柱状を呈している。ドラム10の左右両壁中央には、回転軸11が固定されている。このため、図1に白抜き矢印で示すように、ドラム10は、回転軸11を中心に、時計回り方向に回転可能である。
【0027】
加熱装置20は、ドラム10の前側上方の外周面に近接して配置されている。加熱装置20は、ドラム10とほぼ同じ長さで左右方向に延在している。加熱装置20は、交流電源に接続されているコイル(図略)を備えている。コイルに通電すると、ドラム10の前側上方の外周面に高密度の渦電流が発生する。当該渦電流に伴うジュール熱により、ドラム10の前側上方の外周面は発熱する。このようにして、加熱装置20は、ドラム10の外周面を加熱している。
【0028】
スプレーノズル30は、加熱装置20の上方に、ドラム10の外周面に近接して配置されている。スプレーノズル30は、ドラム10の長さ方向(ドラム10の回転方向と交差する左右方向)に往復移動可能である。スプレーノズル30には、配管(図略)を介して、架橋剤含有ラテックスが供給される。スプレーノズル30からは、架橋剤含有ラテックスの液滴G1が吹き付けられ、液滴G1は、ドラム10の外周面にドット状に付着する。スプレーノズル30をドラム10の長さ方向に往復移動させながら、液滴G1を吹き付けることにより、ドラム10の外周面に塗膜が形成される。
【0029】
スクレーパー40は、ドラム10の前側中央付近の外周面に近接して配置されている。スクレーパー40は、鋼製であって、ドラム10の長さ方向に延在する薄板状を呈している。スクレーパー40の下端は、ドラム10の外周面に弾接している。
【0030】
排出ホッパー50は、鋼製であって、下方に向かって尖る有底角筒状を呈している。排出ホッパー50は、ドラム10の前側下方に配置されている。
【0031】
ドラム10の回転方向は、液滴G1がドラム10に付着する起端Aを基準に定義する。すなわち、図1における、起端Aから時計回り方向を「回転方向」と定義する。まず、ドラム10を、回転軸11を中心に時計回り(前→上→後→下→再び前)に回転させる。回転速度は、1rpm(1分間に1回転)とする。次に、加熱装置20のコイルに通電し、ドラム10の前側上方の外周面を加熱する。この状態でドラム10を回転させることにより、ドラム10の外周面全体が加熱される。そして、ドラム10の外周面が130℃に達したら、スプレーノズル30を左右方向に繰り返し往復移動させながら、スプレーノズル30から架橋剤含有ラテックスの液滴G1を、ドラム10の外周面に吹き付ける。液滴G1は、ドラム10の外周面にドット状に付着する。液滴G1が重なり合って付着することにより、ドラム10の外周面に塗膜が形成される。液滴G1は、ドラム10の回転と共に乾燥しながら互いに結着して、シートG2(ゴム組成物)になる。
【0032】
ドラム10が約3/4回転したところで、シートG2をドラム10の外周面から、スクレーパー40により剥離する。剥離されたシートG2は、自重により落下して、排出ホッパー50の中に収容される。その後、ドラム10の外周面は、再び加熱装置20により所定温度に加熱される。このようにして、架橋剤含有ラテックスの液滴G1の吹き付け→乾燥→シートG2の剥離、という一連の工程を繰り返す。得られるシートG2の厚さは、0.1~1mm程度である。また、加熱時間が1分弱と短いため、シートG2は熱劣化しにくい。シートG2においては、ゴム成分と架橋剤などとの均一な分散状態が保持されている。
【0033】
本工程で得られるゴム組成物においては、ゴム成分と架橋剤などとの均一な分散状態が保持されている。このため、次の架橋工程の前にゴム組成物を混練りする必要はない。すなわち、本発明のゴム成形体の製造方法によると、ゴム組成物の混練り工程を省略することができる。
【0034】
<架橋工程>
本工程は、前工程で得られたゴム組成物を架橋する工程である。ゴム組成物は、所望の形状に成形した後に架橋してもよく、圧縮成形、射出成形などにより成形と同時に架橋してもよい。例えば射出成形する場合、乾燥後のゴム組成物を一旦溶融してから成形型に高速充填すればよい。
【0035】
架橋方法は、ゴムの種類や実現したい物性などを考慮して適宜選択すればよい。例えば、ゴム組成物を所定の温度下で所定の時間保持して架橋させればよい。あるいは、ゴム組成物に電子線を照射して架橋させてもよい。例えば天然ゴムの場合、比較的高温下で架橋させることにより、硫黄などの架橋剤成分が天然ゴム粒子の内部に入り込み、粒子表面だけでなく粒子内部においても架橋構造が形成されると考えられる。これにより、得られるゴム成形体の物性がより向上する。したがって、加熱により架橋する場合、120℃以上の温度下で行うことが望ましい。反対に、加熱によるゴム組成物の劣化を抑制するという観点から、架橋温度の上限値は180℃にするとよい。加熱時間は、ゴム組成物の熱劣化などを考慮して1~30分程度にするとよい。
【実施例
【0036】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0037】
(1)実施例1
<ゴム組成物の製造>
まず、純水中に、架橋剤の硫黄(鶴見化学工業(株)製「サルファックスT-10」)、促進助剤の酸化亜鉛2種(堺化学工業(株)製)、加硫促進剤(三新化学工業(株)製「サンセラー(登録商標)CZ-G」)、および界面活性剤(花王(株)製「デモール(登録商標)NL」)を添加し、ボールミルにて混合して、架橋剤分散液を製造した。使用した材料のゴム成分100質量部に対する質量部は、後出の表1にまとめて示す。次に、天然ゴムラテックスを、ゴム成分濃度が30質量%になるように希釈した。天然ゴムラテックスとしては、パラゴムノキからタッピングにて採液したフィールドラテックスに、アンモニアを0.5質量%添加したものを使用した。そして希釈した天然ゴムラテックスに架橋剤分散液を加え、攪拌機を用いて撹拌して、架橋剤含有ラテックスを製造した(架橋剤含有ラテックス製造工程)。
【0038】
続いて、架橋剤含有ラテックスを、回転するドラムの外周面にスプレーノズルで吹き付けて乾燥させた(前出図1参照)。ドラムの外周面を約130℃に加熱し、ドラムの回転速度は1rpmとした。スプレーノズルの内径は2mmであり、吹き付け流量を100ml/分とした。吹き付けられた架橋剤含有ラテックスの液滴は、ドラムの外周面にドット状に付着し、互いに結着してシート状に固形化された。ドラムが約3/4回転したところで(乾燥時間45秒)、シート状のゴム組成物をドラムの外周面から剥離した(乾燥工程)。
【0039】
<ゴム組成物のTEM観察>
製造したゴム組成物を、TEM(透過型電子顕微鏡:(株)日立ハイテクノロジーズ製「HitachiH-800」により観察した。観察に用いた超薄切片は、ウルトラミクロトーム(Sorvall社製「MT-6000」)を用いて、-90℃下にて作製した。TEM観察の加速電圧は200kVとした。また、ゴム組成物中の硫黄、亜鉛の分散状態を確認するため、EDX分析(エネルギー分散型X線分析)を行い、元素マッピングを行った。図2に、ゴム組成物のTEM画像を示す。図3に、同ゴム組成物の硫黄マッピング画像を示す。図4に、同ゴム組成物の亜鉛マッピング画像を示す。図2図4の画像の倍率は、いずれも50,000倍である。
【0040】
図2図4に示すように、架橋剤の硫黄、促進助剤に含まれる亜鉛は、天然ゴム粒子の周囲に均一に分散していることが確認できた。
【0041】
<ゴム成形体の製造>
製造したゴム組成物を、150℃×20分の条件で架橋して、ゴム成形体を製造した。このようにして得られたゴム成形体を、実施例1のゴム成形体と称す。実施例1のゴム成形体の製造方法は、本発明のゴム成形体の製造方法の概念に含まれる。
【0042】
実施例1のゴム成形体についても、先のゴム組成物と同様にTEM観察すると共に、EDX分析による元素マッピングを行った。図5に、実施例1のゴム成形体のTEM画像を示す。図6に、同ゴム成形体の硫黄マッピング画像を示す。図7に、同ゴム成形体の亜鉛マッピング画像を示す。図5図7の画像の倍率は、いずれも50,000倍である。
【0043】
図5図7に示すように、架橋剤の硫黄、促進助剤に含まれる亜鉛は、天然ゴム粒子の内部に入り込み、粒子内外で均一な架橋構造の形成に寄与していることが確認できた。実施例1のゴム成形体の物性については後述する。
【0044】
(2)比較例1
混練り工程を有する従来の方法によりゴム成形体を製造した。まず、上記実施例1と同じゴム成分濃度が30質量%の天然ゴムラテックスに、界面活性剤(同上)を添加して、界面活性剤含有ゴムラテックスを製造した。次に、界面活性剤含有ラテックスを、上記実施例1と同様に、回転するドラムの外周面にスプレーノズルで吹き付けて乾燥させて、シート状の第一ゴム組成物を得た。続いて、第一ゴム組成物に、硫黄(同上)、酸化亜鉛2種(同上)、加硫促進剤(同上)を加え、ロールを用いて混練して、第二ゴム組成物を製造した。使用した材料のゴム成分100質量部に対する質量部は、後出の表1にまとめて示す。そして、ゴム組成物を、150℃×20分の条件で架橋して、ゴム成形体を製造した。このようにして得られたゴム成形体を、比較例1のゴム成形体と称す。
【0045】
(3)物性の評価
実施例1および比較例1の各々について、架橋前のゴム組成物のスコーチ時間を測定した。また、実施例1および比較例1のゴム成形体の100%伸び引張応力(100%モジュラス)、引張強さ、切断時伸び、引裂強さ、圧縮永久歪み、硬さを測定した。測定方法は以下のとおりである。
【0046】
<スコーチ時間>
JIS K 6300-1:2013に準じて、ゴム組成物のスコーチ時間を測定した。測定には、(株)上島製作所製のムーニー粘度計を用いた。
【0047】
<100%モジュラス、引張強さ、切断時伸び>
ゴム成形体から、JIS K 6251:2017に規定されるダンベル状5号形の試験片を作製し、同JISに規定される引張試験を行って、100%モジュラス、引張強さ、切断時伸びを算出した。
【0048】
<引裂強さ>
ゴム成形体から、JIS K 6252-1:2015に規定される切り込みなしのアングル試験片を作製し、同JISに規定される引張試験を行って、引裂強さを算出した。
【0049】
<圧縮永久歪み>
ゴム成形体から、JIS K 6262:2013に規定される大形試験片を作製し、同JISに規定される圧縮装置を用いて、温度85℃下で試験片に72時間歪みを与えて、圧縮永久歪みを算出した。
【0050】
<硬さ>
JIS K 6253-3:2012に準じて、ゴム成形体のタイプAデュロメータ硬さを測定した。測定には、高分子計器(株)製「アスカーゴム硬度計A型」を用いた。
【0051】
表1に、各ゴム成形体の原料の配合割合および物性の測定結果を示す。
【表1】
【0052】
表1に示すように、天然ゴムラテックスに架橋剤を配合し混練りを行わずに製造された実施例1のゴム成形体においては、混練りにより架橋剤を配合して製造された比較例1のゴム成形体と比較して、100%モジュラス、引張強さ、切断時伸び、引裂強さ、硬さの全てが大きくなり、圧縮永久歪みは小さくなった。この理由としては、混練りを行わないことにより、天然ゴムの高分子鎖の切断が抑制され、天然ゴム粒子の構造が保持されていることが考えられる。また、ゴム組成物のスコーチ時間は、混練りを行わなかった実施例1の方が短くなった。この理由としては、混練りを行わないと、架橋剤が天然ゴム粒子間に集まるためと考えられる。これにより、効率的に架橋反応が進行すると考えられる。
【0053】
(4)乾燥方法による架橋剤の分散性の違い
実施例1で使用した架橋剤含有ラテックスをトレーに入れ、50℃のオーブン内で1日乾燥させた。乾燥後のシート状のゴム組成物(厚さ約2mm)を目視で確認したところ、架橋剤などの配合材料が下方に沈降して偏在していることが確認された。このようなゴム組成物を混練りせずに使用して架橋させても、架橋が均一に進行せず、所望の物性を有するゴム成形体を得ることはできない。
【0054】
(5)市販の手袋との比較
市販の手袋を、実施例1のゴム成形体と同様にTEM観察すると共に、EDX分析による元素マッピングを行った。市販の手袋は、100~120℃の比較的低温下で30分程度保持して架橋されたものと推測される。図8に、市販の手袋のTEM画像を示す。図9に、同手袋の硫黄マッピング画像を示す。図10に、同手袋の亜鉛マッピング画像を示す。図8図10の画像の倍率は、いずれも200,000倍である。
【0055】
図8図10に示すように、比較的低温下で架橋した場合、硫黄や亜鉛が天然ゴム粒子内部に完全に入り込んでいないことが確認できた。この場合、架橋構造の不均一化を招くものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のゴム成形体の製造方法によると、混練りを行わずに効率良く高品質なゴム製品を製造することができる。したがって、工業的に大量生産されるゴム製品、なかでも天然ゴムを用いたゴム製品の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0057】
1:乾燥装置、10:ドラム、11:回転軸、20:加熱装置、30:スプレーノズル、40:スクレーパー、50:排出ホッパー、G1:液滴、G2:シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10