(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】建物の制振機構
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230126BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
E04H9/02 341C
E04H9/02 341E
F16F15/02 C
(21)【出願番号】P 2018238761
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 仁崇
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-122376(JP,A)
【文献】特開2006-322249(JP,A)
【文献】特開2002-061416(JP,A)
【文献】特開平06-010535(JP,A)
【文献】特開2015-151785(JP,A)
【文献】特開2013-007236(JP,A)
【文献】実開昭50-111919(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
F16F 15/00 -15/36
E04B 1/00 - 1/36
E04B 2/88 - 2/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーテンウォール形式の外壁を有する建物の制振機構であって、
前記外壁をマスとし、柱と梁により形成される建物の構造躯体と該外壁との間に粘弾性体が介在し、該マスと該粘弾性体によりチューンドマスダンパーが形成されて
おり、
前記粘弾性体は平面形状が馬蹄形を有し、
前記構造躯体と前記外壁の間において、前記外壁と前記構造躯体とを繋ぐ水平方向に延出する繋ぎ材に対して、前記粘弾性体が上方から嵌め込んで設置されていることを特徴とする、建物の制振機構。
【請求項2】
カーテンウォール形式の外壁を有する建物の制振機構であって、
前記外壁をマスとし、柱と梁により形成される建物の構造躯体と該外壁との間に粘弾性体が介在し、該マスと該粘弾性体によりチューンドマスダンパーが形成されて
おり、
建物の各階ごとに、各階の全質量に対する各階の前記外壁の質量の比率である質量比μが設定され、
前記質量比μに適した最適減衰hを与える、単位厚み当たりの面積の前記粘弾性体が配設されていることを特徴とする、建物の制振機構。
【請求項3】
カーテンウォール形式の外壁を有する建物の制振機構であって、
前記外壁をマスとし、柱と梁により形成される建物の構造躯体と該外壁との間に粘弾性体が介在し、該マスと該粘弾性体によりチューンドマスダンパーが形成されて
おり、
建物の上階には、建物の下階に比べて単位厚み当たりの面積が広い前記粘弾性体が配設されていることを特徴とする、建物の制振機構。
【請求項4】
前記粘弾性体が相対的に硬質の二枚の板材で挟み込まれていることを特徴とする、請求項
1乃至3のいずれか一項に記載の建物の制振機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の制振機構に関する。
【背景技術】
【0002】
建物には、常時においては、地球自体の微動、鉄道を含む車両の走行による交通振動や工場設備等の稼働時の振動、風荷重による振動などのいわゆる環境振動に起因する常時微動が生じ、地震時においては、地震動の規模に応じて常時微動よりも振幅の大きな振動が一般に生じる。建物の建設においては、地震時の建物振動の検討もさることながら、上記する常時の微動レベルにおける建物障害の有無や住環境への影響を検討することも重要であり、常時微動を可及的に低減することが要請されている。
【0003】
従来、このような常時微動や地震時振動に対する住環境改善の方策として、制振装置であるTMD(Tuned Mass Damper:チューンドマスダンパー)やAMD(Active Mass Damper:アクティブマスダンパー)を建物に設置することが行われている。チューンドマスダンパーは、揺れに同調する錘を用いて建物の揺れを抑制する装置であり、アクティブマスダンパーは、建物に据え付けた錘を能動的に動かすことにより建物の揺れを抑制する装置である。いずれの装置であっても、一般に建物の上階(例えば最上階)に錘をスライド自在に載置する形態が採用されている。
【0004】
ところで、比較的小規模な一般の住宅や集合住宅などに上記するチューンドマスダンパーを適用する場合、建物の全体重量に占める錘の割合が高くなり、マスダンパーの重量を加味した建物の構造設計が必要になる可能性があり、構造躯体の部材の仕様アップが余儀なくされ得るといった課題がある。また、建物の上階に大きな重量の錘が存在しているということに対し、居住者には少なからず心理的な抵抗感があることは否めない。さらに、一般の住宅において、チューンドマスダンパーの最適調整のタイミングや設置後のメンテナンスによっては、制振装置による効果が十分に発揮されないこともあり得る。
【0005】
ここで、マスと復元力要素としての板バネとを含み、建物の振動と同じ周期で建物の振動を打ち消す方向に振動するように設計されている単位チューンドマスダンパーが、複数単位建物に設置され、これら単位チューンドマスダンパーのマスの合計重量により建物を制振するようになされている、チューンドマスダンパーを用いた制振装置が提案されている。各単位チューンドマスダンパーは、上下方向に薄型で積み上げ用の脚部を一体的に備えたものからなり、これら単位チューンドマスダンパーは、脚部をスペーサーとして上下方向に複数段積み上げられて設置される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のチューンドマスダンパーを用いた制振装置によれば、建物への設置も容易であり、建物に充分な制振効果を及ぼすことができる。しかしながら、特許文献1には具体的な記載はないものの、ここに記載のチューンドマスダンパーにおいても、建物の充分な制振効果を発揮するべく、建物の上階にチューンドマスダンパーが設置されることが想定され、従って、上記する様々な課題を解消することは難しい。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、チューンドマスダンパーを構成するマスの重量を加味した建物の構造設計を不要にでき、居住者に心理的な抵抗感を与えない、チューンドマスダンパーを有する建物の制振機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による建物の制振機構の一態様は、
カーテンウォール形式の外壁パネルを有する建物の制振機構であって、
前記外壁パネルをマスとし、柱と梁により形成される建物の構造躯体と該外壁との間に粘弾性体が介在し、該マスと該粘弾性体によりチューンドマスダンパーが形成されていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、建物の構造躯体に対して相対的な振動が可能なカーテンウォール形式の外壁をマスとし、構造躯体と外壁の間に粘弾性体を介在させてチューンドマスダンパーを形成することにより、従来の制振装置のようにチューンドマスダンパーに固有の錘を不要にでき、この錘の重量を加味した建物の構造設計を不要にできる。また、外壁がチューンドマスダンパーのマスを構成することから、建物の上階に錘をスライド自在に載置することを不要にでき、従って建物の上階に大きな重量の錘が存在していることよる居住者の心理的な抵抗感を解消することができる。例えば、建物が常時微動を受けた際にカーテンウォール形式の外壁は構造躯体に対して振動し、この外壁の振動を粘弾性体の減衰力によって減衰することにより建物の振動を抑制することができる。本態様の制振機構によれば、従来のチューンドマスダンパーにおけるマスを不要にでき、従って外壁と構造躯体の間に介在される粘弾性体のみが制振機構の形成に要するコスト要因となることから、可及的安価に建物の制振機構を形成することができる。ここで、「外壁」とは、外壁パネル(外装材)のみを指称することの他、外壁パネルと、横桟及び縦桟からなるフレーム部材と、フレーム部材のフレーム内に配設される充填断熱材等を有する複数の構成部材のユニットを指称する。
【0011】
また、本発明による建物の制振機構の他の態様は、前記粘弾性体が相対的に硬質の二枚の板材で挟み込まれていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、粘弾性体が相対的に硬質の二枚の板材で挟み込まれていることにより、二枚の板材にて粘弾性体のせん断変形を生じ易くすることができ、粘弾性体の減衰性能を発揮し易くできる。ここで、粘弾性体は高減衰ゴム等により形成でき、粘弾性体よりも相対的に硬質の板材は鋼製プレート等により形成できる。粘弾性体が介在される構造躯体と外壁の間の隙間は、例えば数mm程度の幅の狭い隙間となり得るため、粘弾性体とこれを挟む二枚の板材からなる粘弾性体ユニットは、例えば粘弾性体を圧縮した状態でこの狭い隙間に取り付けられる。この取り付けにおいて、鉄板からなる板材にて粘弾性体が包囲されていることにより、鉄板そのものの破損が生じ難いことに加えて、粘弾性体の破損が抑制される。
【0013】
また、本発明による建物の制振機構の他の態様において、前記粘弾性体は平面形状が馬蹄形を有し、
前記構造躯体と前記外壁の間において、前記外壁と前記構造躯体とを繋ぐ水平方向に延出する繋ぎ材に対して、前記粘弾性体が上方から嵌め込んで設置されていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、粘弾性体が馬蹄形の平面形状を有していることにより、外壁と構造躯体とを繋ぐ水平方向に延出する繋ぎ材に対して、粘弾性体を上方から容易に嵌め込んで設置することができる。構造躯体を構成する例えば上下の梁(2階の梁と3階の梁、基礎と2階の梁等)のそれぞれ二箇所(合計四箇所)に対して、外壁を構成するフレーム部材が繋ぎ材を介して接合されることにより、外壁パネル(を含む外壁)がカーテンウォール形式にて構造躯体に取り付けられる。外壁パネルと構造躯体を繋ぐ繋ぎ材としては、六角ボルト等の頭付きボルト及びナットや、両切りボルト及びナットなどが挙げられる。
【0015】
また、本発明による建物の制振機構の他の態様は、建物の各階ごとに、各階の全質量に対する各階の前記外壁の質量の比率である質量比μが設定され、
前記質量比μに適した最適減衰hを与える、単位厚み当たりの面積の前記粘弾性体が配設されていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、複数階を有する建物において、各階ごとに質量比μとそれに適した最適減衰hを与える粘弾性体の単位厚み当たりの面積を設定することにより、各階ごとに減衰性能を制御することができる。尚、粘弾性体がそのせん断変形性能を充分に発揮するために、粘弾性体はその厚みが比較的薄いことが好ましい。質量比μに適した最適減衰hを与える粘弾性体の単位厚み当たりの面積が設定されたら、外壁のうち、開口のない部位にある複数の繋ぎ材に対して、設定された面積相当の粘弾性体が配設される。例えば、玄関ドアや引違い窓、掃き出し窓といった開口の例えば上下の外壁に粘弾性体を設置しても、充分な制振効果が期待でき難いことから、開口のない外壁の非開口部に所定面積の粘弾性体を配設するのがよい。
【0017】
また、本発明による建物の制振機構の他の態様は、建物の上階には、建物の下階に比べて単位厚み当たりの面積が広い前記粘弾性体が配設されていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、複数階の建物において上階により多くの粘弾性体を配設することにより、建物全体の減衰性能を高めることができる。例えば、建物全体の重量に対する外壁の質量比μを求め、この質量比μに適した最適減衰hを与える、粘弾性体の単位厚み当たりの面積を求める。求められた粘弾性体の面積を、例えば上階ほど分担面積が大きくなるようにして各階の粘弾性体の面積を設定することにより、減衰性能に優れた制振機構を建物に付与できる。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から理解できるように、本発明の建物の制振機構によれば、チューンドマスダンパーを構成するマスの重量を加味した建物の構造設計を不要にでき、居住者に心理的な抵抗感を与えない制振機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係る建物の制振機構の一例を説明する縦断面である。
【
図3】粘弾性体ユニットの一例を示す斜視図である。
【
図4】各階ごとに、質量比μに基づいて設定された単位厚み当たりの面積の粘弾性体が外壁に配設されている建物の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態に係る建物の制振機構について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0022】
[実施形態に係る建物の制振機構]
図1乃至
図4を参照して、実施形態に係る建物の制振機構の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る建物の制振機構の一例を説明する縦断面であり、
図2は、
図1のII-II矢視図である。また、
図3は、粘弾性体ユニットの一例を示す斜視図である。
【0023】
建物の制振機構100は、外壁10をマスとし、建物の構造躯体30と外壁10との間に粘弾性体71を含む粘弾性体ユニット70が介在し、マス10と粘弾性体ユニット70により構成されるチューンドマスダンパーからなる。尚、図示例の制振機構100を備える建物は、2階建てもしくは3階建ての軽量鉄骨住宅として説明する。
【0024】
図1及び
図2は、例えば2階建ての住宅における、1階と2階の階間や、3階建ての住宅における、1階と2階の階間や2階と3階の階間にて形成される制振機構を示している。尚、建物の土台(横架材)と外壁の間や、建物の軒天にある軒梁等と外壁との間においても、図示例と同様の制振機構が形成される。
【0025】
外壁10は、外壁材1と、外張り断熱材2と、縦桟及び横桟により形成されるフレーム部材3と、フレーム部材3の内側に配設されている充填断熱材4とを有する。外壁材1は、プレキャストコンクリートパネル、押出成形セメント板、軽量気泡コンクリート板、窯業系もしくは金属系のサイディングボード等により形成される。フレーム部材3は、溝形鋼等の形鋼材を矩形枠状に組み付けることにより形成される。充填断熱材4は、グラスウールやロックウール等により形成される。また、外壁材1と外張り断熱材2の間には、下地材(図示せず)を介して通気層5が形成されている。
【0026】
構造躯体は、柱50と梁20,40等により構成される。柱50は、角形鋼管により形成され、下階と上階の柱50の間には、階間梁20が介在している。階間梁20はH形鋼等の形鋼材から形成され、その上下のフランジには、相対的に梁成の低いH形鋼からなる取り付け部材30が六角ボルト61と締付けナット62により接合されている。
【0027】
階間梁20の上下のフランジの室内側端部には、H形鋼からなる上階の床梁40の端部に接合されているエンドプレート41が、溶接により接合されている。階間梁20において、エンドプレート41が取り付けられる領域には、H形鋼の上下のフランジとウエブに跨る補強リブ21が溶接にて接合されている。
【0028】
取り付け部材30において、外壁10に対向する端面には外壁側に若干張り出した鋼製の取り付けプレート31が溶接により接合されている。また、H形鋼からなる取り付け部材30においては、その上下のフランジとウエブに跨るように、補強リブ32が溶接にて接合されている。
【0029】
階間梁20の上下のフランジに固定されている取り付け部材30のフランジに対して、上下の柱50の端部が溶接により接合されており、このようにして、柱50、取り付け部材30、階間梁20、及び床梁40が相互に接合されることにより構造躯体が形成される。
【0030】
建物の構造躯体に対して、外壁10はカーテンウォール形式に取り付けられている。具体的には、取り付けプレート31に開設されている挿通孔31aと、この挿通孔31aに連通するフレーム部材3に開設されている挿通孔3aに六角ボルト61が挿通され、フレーム部材3の内側にある締付けナット62が取り付けられることにより、取り付け部材30と外壁10が取り付けられる。六角ボルト61と締付けナット62により、構造躯体と外壁10を繋ぐ繋ぎ材60が形成される。尚、繋ぎ材60は、両切りボルトと、両切りボルトの左右に締付けられるナット等により形成されてもよい。
【0031】
平面視矩形の外壁10は、外壁10の4つの隅角部近傍において、それぞれ繋ぎ材60を介して構造躯体に対して相対的に振動自在に接続されることにより、カーテンウォール形式の外壁10を備えた建物が形成される。
図1は、例えば、1階の外壁10の上部と2階の外壁10の下部のそれぞれの繋ぎ部を示している。また、
図1において、上下階の外壁10の間に形成される横目地1aには、湿式もしくは乾式のシール材6が配設されている。
【0032】
図2に示すように、取り付け部材30の屋外側の面には、建物の幅方向に並ぶ左右の外壁10が縦目地1bを介して配設され、それぞれの外壁10の上方端部が繋ぎ材60を介して構造躯体を構成する取り付け部材30に取付けられている。
【0033】
左右の外壁10における縦目地1b側の端部には、それぞれスペーサーボルト65が螺合しており、各スペーサーボルト65の頭部が当接することにより、所定幅の縦目地1bが形成されている。そして、縦目地1bには、ガスケット等からなるシール材7が配設されている。実施例のシール材7は、左右に複数組の突起を有し、外壁パネル1との間に一次止水部を形成し、外張り断熱材2との間に二次止水部を形成している。
【0034】
図1及び
図2において、構造躯体を構成する取り付け部材30と繋ぎ材60との間の隙間Gには、粘弾性体ユニット70が嵌め込まれている。より詳細には、取り付け部材30の取り付けプレート31と、六角ボルト61の六角ナットの間の隙間Gにおいて、粘弾性体ユニット70が嵌め込まれ、六角ボルト61に係合している。
【0035】
図3に示すように、粘弾性体ユニット70は平面視矩形の下方にスリット73を有することにより、平面形状が馬蹄形を呈しており、粘弾性体71と、粘弾性体71を挟む相対的に硬質の二枚の板材72とにより形成されている。粘弾性体71は高減衰ゴム等により形成され、板材72は鋼製プレート等により形成されている。例えば、粘弾性体71を貫通して二枚の板材72を繋ぐ複数の連結金物(図示せず)により、もしくは接着剤等により、粘弾性体71と板材72の一体化が図られる。尚、
図3は、外壁10や構造躯体に対して固定されている状態の繋ぎ材60を示しており、粘弾性体ユニット70の構成のみならず、この繋ぎ材60に対して粘弾性体ユニット70を取り付ける方法も示している。
【0036】
粘弾性体ユニット70の全体の厚みはt1であり、粘弾性体71の厚みはt2であり、粘弾性体ユニット70(粘弾性体71)の面積はAである。この面積Aは、一枚当たりの粘弾性体71に要求される面積に応じて適宜調整される。
図1及び
図2に示す隙間Gの幅は、例えば1mm乃至2mm程度であり、この隙間Gに対して、粘弾性体71を厚み方向に圧縮させた状態で粘弾性体ユニット70を
図3に示すように下方のX方向に落とし込む等の方法により、隙間Gに対して粘弾性体ユニット70が嵌め込まれる。
【0037】
粘弾性体ユニット70の平面形状が馬蹄形を呈していることから、粘弾性体ユニット70を下方に落とし込み、隙間Gにある六角ボルト61に対して上方から係合させることができる。例えば、隙間Gの幅が2mmの場合に、板材72の一枚の厚みを0.5mm程度とし、粘弾性体71の厚みを1.5mm程度とし、粘弾性体71を30%程度圧縮させながら隙間Gに粘弾性体ユニット70を嵌め込むことができる。
【0038】
粘弾性体ユニット70では、相対的に硬質の二枚の板材72により粘弾性体71が挟まれていることから、粘弾性体ユニット70がせん断力を受けた際に、粘弾性体71がせん断力によって破損することなく、せん断変形し易くなる。
【0039】
ここで、
図1及び
図2においては、構造躯体を構成する取り付け部材30の取り付けプレート31の端面と外壁10の室内側面との間に隙間がない形態を示しているが、仮にこの箇所にも隙間が存在する場合は、例えばドライベアリング等の摩擦材を隙間に嵌め込んで六角ボルト61に係合させてもよい。
【0040】
構造躯体に対してカーテンウォール形式に取り付けられている外壁10は、環境振動に起因する常時微動等を受けた際に構造躯体に対して相対的に振動し、この外壁10の振動を粘弾性体の減衰力によって減衰することにより建物の振動を抑制することができる。このように、制振機構100は、建物の構造躯体に対して相対的な振動が可能なカーテンウォール形式の外壁10をマスとし、構造躯体と外壁10の間に粘弾性体71(粘弾性体ユニット70)を介在させて構成される、チューンドマスダンパーである。
【0041】
図示するチューンドマスダンパー100によれば、建物の有する外壁10をチューンドマスダンパーの錘とすることから、従来の制振装置のようにチューンドマスダンパーに固有の錘を不要にでき、この錘の重量を加味した建物の構造設計を不要にできる。また、外壁10がチューンドマスダンパーのマスを構成することから、建物の上階に錘をスライド自在に載置することを不要にでき、従って建物の上階に大きな重量の錘が存在していることよる居住者の心理的な抵抗感を解消することができる。さらに、従来のチューンドマスダンパーにおけるマスを不要にでき、外壁10と構造躯体の間に介在される粘弾性体71のみが制振機構100の形成に要するコスト要因となり、可及的安価に建物の制振機構100を形成することができる。
【0042】
次に、
図4を参照して、各階の外壁の室内側において、所定枚数の粘弾性体が取り付けられている建物の一例について説明する。ここで、
図4は、各階ごとに、質量比μに基づいて設定された単位厚み当たりの面積の粘弾性体が外壁に配設されている建物の一例を示す模式図である。
【0043】
1階、2階、及び3階の全質量と外壁質量はそれぞれ、M1乃至M3,W1乃至W3であり、建物の全質量と外壁質量はM及びWである。また、建物の各階ごとに、各階の全質量Miに対する各階の外壁質量Wiの比率(Wi/Mi)は質量比μである。ここで、各階には、玄関ドアや掃き出し窓、引き違い窓等の開口が存在しており、外壁において開口の例えば上下の外壁に粘弾性体を設置しても、充分な制振効果が期待でき難い。そこで、各階ともに、外壁10を開口部と非開口部に区分し、外壁質量W1は非開口部にある外壁の質量のみとする。そして、設定された面積の粘弾性体70は、外壁10の非開口部に取り付ける構成とする。
【0044】
図4に示す建物において、M1乃至M3,W1乃至W3が求められ、各階のμ1乃至μ3が算定される。そして、各質量比μ1乃至μ3が例えば0.3%乃至1%程度において最適減衰hを与える、粘弾性体(粘弾性体ユニット70)の単位厚み当たりの面積が算定され、この面積に見合う粘弾性体ユニット70が、構造躯体と各外壁10を繋ぐそれぞれ四箇所の繋ぎ材に対して嵌め込まれることにより、各階ごとの常時微動を制御自在なチューンドマスダンパー100が形成される。
【0045】
また、建物の上階にいくに従い、粘弾性体71(粘弾性体ユニット70)の単位厚み当たりの面積を広く設定してもよい。例えば、建物全体の重量に対する外壁10の質量比μを求め、この質量比μに適した最適減衰hを与える、粘弾性体の単位厚み当たりの面積を求める。求められた粘弾性体の面積を、例えば上階ほど分担面積が大きくなるようにして各階の粘弾性体71の面積を設定することにより、減衰性能に優れた制振機構100を建物に付与することができる。例えば、3階建ての建物において、3階から1階にかけて順に、3:2:1の割合、4:2:1の割合、5:3:1の割合等で粘弾性体71の分担面積を設定することができる。
【0046】
(粘弾性体の単位厚み当たりの面積の設定方法の一例)
次に、粘弾性体の単位厚み当たりの面積の設定方法の一例について説明する。ここで、一例として、例えば5階建ての建物を例に、具体的な数値を用いて設定方法を説明する。5階建ての建物の全質量Mを200tとし、その有効質量Meqが150tに設定されたとする。
【0047】
各階の単位面積当たりの質量を0.4t/延べ面積とした場合、200/0.4=500m2の延べ面積となり、1階当たり100m2の建物となる。
【0048】
有効質量150tに対して、TMDの質量Mtを求める。質量比μ=1%とした場合、Mt=150×0.01=1.5tとなり、この1.5t相当の外壁枚数を求める。
【0049】
外壁10の重量を、例えば1P(1Pは、例えば910mm)当たり0.1tとした場合、1.5÷0.1=15P分の外壁に相当する。
【0050】
本例では、1階当たり100m2であることから、11P×11Pの矩形平面となり、1階当たりの外壁長さは11P×4面=44P相当となる。5階の建物では、全部で44P×5=220Pの外壁長さとなる。
【0051】
図4に示すように、各階ともに、開口部にのみ粘弾性体を配設することとし、各階の外壁の開口部に相当する箇所のうち、最大で44P相当の箇所に粘弾性体ユニットを配設することができる。1P当たり4箇所の粘弾性体ユニットの設置箇所があるものとし、1階当たり最大で44×4=176箇所に
図3に示す粘弾性体ユニットを配設することができる。しかしながら、各階の外壁はいずれも開口を有していることから、粘弾性体ユニットを配設できる有効な外壁長さは44Pよりも少なくなり、ここに配設される粘弾性体ユニットの数は176箇所よりも少なくなる。尚、建物の4面が東西南北に面し、東西方向をX方向、南北方向をY方向とした場合、X方向とY方向にはそれらの方向に平行なそれぞれ2面がTMDとして機能し得る。上記する15P分の外壁を、各階の例えばX方向もしくはY方向の振動を負担する外壁で分担し、各階の外壁に対して相応の面積の粘弾性体を配設する。
図3に示す粘弾性体71の厚みt2を単位厚み(例えば1mm)とした際に、単位厚み当たりの面積Aを1cm
2乃至100cm
2程度の範囲に設定することができる。
【0052】
制振機構による制振効果をより一層有効にするべく、平面的なバランスを考慮してTMD化する外壁を決定するのが好ましい。例えば、建物の南面は他の面に比べて開口量が多くなり、TMD化できる外壁の面積が足りなくなる可能性もある。このような場合には、足りない分の外壁の面積を例えば下階に割り振ることにより、粘弾性体ユニットを平面的(東西南北に面する外壁)にバランスよく配置するとともに、立面的にもバランスよく配置する。ここで、偏心を抑制するべく、平面内における粘弾性体ユニットの配置数量の差分を3割程度以内とするのが好ましい。また、TMD化しない開口部の上下等に位置する外壁には、構造躯体と外壁の間の隙間にドライベアリング等の摩擦材を配設し、常時微動では外壁が振動せず、地震時の外壁の振動を許容することにより、地震時における外壁の破損を抑制するのが好ましい。
【0053】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0054】
1:外壁材(外壁パネル)、2:外張り断熱材、3:フレーム部材、4:充填断熱材、5:通気層、10:外壁(マス)、20:階間梁(梁、構造躯体)、30:取り付け部材(構造躯体)、31:取り付けプレート、32:補強リブ、40:床梁(構造躯体)、41:エンドプレート、50:柱(構造躯体)、60:繋ぎ材、61:六角ボルト、62:締付けナット、70:粘弾性体ユニット、71:粘弾性体、72:金属プレート(板材)、73:スリット、100:チューンドマスダンパー(制振機構)、G:隙間