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特許7217147気象レーダ信号処理装置及び気象レーダ信号処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】気象レーダ信号処理装置及び気象レーダ信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/95 20060101AFI20230126BHJP
   G01S 7/292 20060101ALI20230126BHJP
   G01W 1/10 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
G01S13/95
G01S7/292 200
G01W1/10 T
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018247237
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020106471
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 重治
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-205268(JP,A)
【文献】特開2007-271269(JP,A)
【文献】特開2011-169829(JP,A)
【文献】特開2006-292476(JP,A)
【文献】特開2006-214766(JP,A)
【文献】特開2011-185752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 -13/95
G01W 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象レーダ信号から地表面クラッタ成分を除去して降雨信号成分を抽出するにあたり、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、気象観測点に応じて可変幅に設定する地表面クラッタ除去部と、
前記地表面クラッタ除去部が抽出した降雨信号成分のドップラー速度に対する受信電力の強度分布を算出することにより、前記地表面クラッタ除去部が地表面クラッタ成分とともに除去した降雨信号成分を回復する降雨信号回復部と、
を備えることを特徴とする気象レーダ信号処理装置。
【請求項2】
前記地表面クラッタ除去部は、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、初期処理として気象観測点によらず固定幅に設定して、
前記気象レーダ信号処理装置は、前記降雨信号回復部が回復した降雨信号成分の受信電力、ドップラー速度平均及びドップラー速度幅のうちの少なくともいずれかが、気象観測の空間内で不連続性を有する不連続観測点を抽出する不連続点抽出部、をさらに備え、
前記地表面クラッタ除去部は、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、事後処理として前記不連続点抽出部が抽出した前記不連続観測点において前記固定幅と異なる前記可変幅に変更する
ことを特徴とする、請求項1に記載の気象レーダ信号処理装置。
【請求項3】
前記不連続点抽出部は、前記降雨信号回復部が回復した降雨信号成分のドップラー速度平均が、周囲の気象観測点と比べて符号を反転させる気象観測点、かつ、前記降雨信号回復部が回復した降雨信号成分の受信電力又は回復前後の電力差が、周囲の気象観測点と比べて所定差以上に小さい気象観測点を、前記不連続観測点として抽出し、
前記地表面クラッタ除去部は、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、事後処理として前記不連続点抽出部が抽出した前記不連続観測点において前記固定幅より狭い前記可変幅に変更する
ことを特徴とする、請求項2に記載の気象レーダ信号処理装置。
【請求項4】
前記不連続点抽出部は、前記降雨信号回復部が回復した降雨信号成分のドップラー速度平均が、周囲の気象観測点と比べて符号を反転させる気象観測点、かつ、前記降雨信号回復部が回復した降雨信号成分の受信電力又は回復前後の電力差が、周囲の気象観測点と比べて所定差以上に大きい気象観測点を、前記不連続観測点として抽出し、
前記地表面クラッタ除去部は、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、事後処理として前記不連続点抽出部が抽出した前記不連続観測点において前記固定幅より広い前記可変幅に変更する
ことを特徴とする、請求項2又は3に記載の気象レーダ信号処理装置。
【請求項5】
前記地表面クラッタ除去部は、地表面クラッタ成分の様々な受信強度及びドップラー速度幅に応じて、時間領域の様々なフィルタリング特性を気象観測に先立ち記憶している
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の気象レーダ信号処理装置。
【請求項6】
気象レーダ信号から地表面クラッタ成分を除去して降雨信号成分を抽出するにあたり、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、気象観測点に応じて可変幅に設定する地表面クラッタ除去ステップと、
前記地表面クラッタ除去ステップで抽出した降雨信号成分のドップラー速度に対する受信電力の強度分布を算出することにより、前記地表面クラッタ除去ステップで地表面クラッタ成分とともに除去した降雨信号成分を回復する降雨信号回復ステップと、
を順にコンピュータに実行させるための気象レーダ信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気象レーダ信号から地表面クラッタ成分を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
気象レーダ信号から地表面クラッタ成分を除去する技術として、周波数領域のフィルタリング処理を実行する技術(MTI:Moving Target Indicator)と、時間領域のフィルタリング処理を実行する技術(GMAP-TD:Gaussian Model Adaptive Processing in Time Domain)と、が知られている。GMAP-TDは、非特許文献1に開示されている。
【0003】
MTI処理では、時系列データ信号をドップラー速度スペクトルにフーリエ変換し、ドップラー速度0近傍の地表面クラッタ成分を除去し、ドップラー速度が有限値の降雨信号成分を抽出する。しかし、無限長データ近似を適用してフーリエ変換を実行すれば、ドップラー速度スペクトルが劣化する。そして、地表面クラッタ成分のメインローブを除去しても、地表面クラッタ成分のサイドローブが残存すれば、降雨信号成分の抽出が困難となる。さらに、窓関数を乗算してMTI処理を実行すれば、地表面クラッタ成分のサイドローブが抑圧されるが、降雨信号成分も抑圧されるため、MTI処理の利得が低下する。
【0004】
非特許文献1のGMAP-TD処理では、時系列データ信号の自己相関行列にフィルタリング行列を乗算し、ドップラー速度0近傍の地表面クラッタ成分を除去し、ドップラー速度が有限値の降雨信号成分を抽出する。ここで、地表面クラッタ成分のドップラー速度スペクトルを、メインローブからサイドローブへと裾を広げるガウシアンに設定し、フィルタリング行列を算出する。よって、MTI処理の問題(ドップラー速度スペクトルの劣化、降雨信号成分の抽出の困難及びMTI処理の利得の低下)が解消する。しかし、ドップラー速度0近傍の地表面クラッタ成分を除去すれば、ドップラー速度0近傍の一部の降雨信号成分が除去される。そこで、ドップラー速度が有限値の一部の降雨信号成分のドップラー速度スペクトルを、ドップラー速度平均を分布中心とするガウシアンでフィッティングし、ドップラー速度0近傍の一部の降雨信号成分を回復する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Cuong M. Nguyen and V. Chandrasekar,“Gaussian Model Adaptive Processing in Time Domain (GMAP-TD) for Weather Radars”,Journal of Atmospheric and Oceanic Technology,American Meteorological Society,November 2013,Volume 30,pp.2571~2584.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1のGMAP-TD処理では、フィルタリング行列を算出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を固定幅に設定する。
【0007】
よって、ドップラー速度幅が本来は小さい大地クラッタ成分を除去するにあたり、固定ドップラー速度幅が広すぎれば、大地クラッタ成分以外が余分に除去される可能性がある。そして、ドップラー速度幅が本来は大きい樹木クラッタ成分を除去するにあたり、固定ドップラー速度幅が狭すぎれば、樹木クラッタ成分が完全に除去されない可能性がある。
【0008】
さらに、ドップラー速度0近傍がドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、降雨信号成分のドップラー速度幅が狭いとともに、固定ドップラー速度幅が広すぎれば、降雨信号成分が余分に除去される可能性があり、降雨信号成分が回復不能となる可能性がある。そして、ドップラー速度0近傍がドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅が広いとともに、固定ドップラー速度幅が狭すぎれば、残存された地表面クラッタ成分がスプリアスな降雨信号成分として抽出される可能性があり、降雨信号成分が回復過剰となる可能性がある。
【0009】
非特許文献1のGMAP-TD処理では、気象観測時において、フィルタリング行列を算出する。ここで、フィルタリング行列の算出は、数14に後述するように、逆行列の算出を包含する。よって、気象観測時において、計算処理負担が増加する。
【0010】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、気象レーダ信号に時間領域のフィルタリング処理を実行するにあたり、地表面クラッタが余分に除去されたり完全に除去されない可能性を低減し、降雨信号成分が回復不能となったり回復過剰となる可能性を低減し、気象観測時において計算処理負担を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、フィルタリング行列を算出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、固定幅のみに設定せず可変幅に設定する。
【0012】
具体的には、本開示は、気象レーダ信号から地表面クラッタ成分を除去して降雨信号成分を抽出するにあたり、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、気象観測点に応じて可変幅に設定する地表面クラッタ除去部と、前記地表面クラッタ除去部が抽出した降雨信号成分のドップラー速度に対する受信電力の強度分布を算出することにより、前記地表面クラッタ除去部が地表面クラッタ成分とともに除去した降雨信号成分を回復する降雨信号回復部と、を備えることを特徴とする気象レーダ信号処理装置である。
【0013】
また、本開示は、気象レーダ信号から地表面クラッタ成分を除去して降雨信号成分を抽出するにあたり、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、気象観測点に応じて可変幅に設定する地表面クラッタ除去ステップと、前記地表面クラッタ除去ステップで抽出した降雨信号成分のドップラー速度に対する受信電力の強度分布を算出することにより、前記地表面クラッタ除去ステップで地表面クラッタ成分とともに除去した降雨信号成分を回復する降雨信号回復ステップと、を順にコンピュータに実行させるための気象レーダ信号処理プログラムである。
【0014】
これらの構成によれば、ドップラー速度幅が本来は小さい大地クラッタ成分を除去するにあたり、可変ドップラー速度幅を適切に狭くすることにより、大地クラッタ成分以外が余分に除去される可能性を低減することができる。そして、ドップラー速度幅が本来は大きい樹木クラッタ成分を除去するにあたり、可変ドップラー速度幅を適切に広くすることにより、樹木クラッタ成分が完全に除去されない可能性を低減することができる。
【0015】
さらに、ドップラー速度0近傍がドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、降雨信号成分のドップラー速度幅が狭いときでも、可変ドップラー速度幅を適切に狭くすることにより、降雨信号成分が余分に除去される可能性を低減することができ、降雨信号成分が回復不能となる可能性を低減することができる。そして、ドップラー速度0近傍がドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅が広いときでも、可変ドップラー速度幅を適切に広くすることにより、残存された地表面クラッタ成分がスプリアスな降雨信号成分として抽出される可能性を低減することができ、降雨信号成分が回復過剰となる可能性を低減することができる。
【0016】
また、本開示は、前記地表面クラッタ除去部は、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、初期処理として気象観測点によらず固定幅に設定して、前記気象レーダ信号処理装置は、前記降雨信号回復部が回復した降雨信号成分の受信電力、ドップラー速度平均及びドップラー速度幅のうちの少なくともいずれかが、気象観測の空間内で不連続性を有する不連続観測点を抽出する不連続点抽出部、をさらに備え、前記地表面クラッタ除去部は、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、事後処理として前記不連続点抽出部が抽出した前記不連続観測点において前記固定幅と異なる前記可変幅に変更することを特徴とする気象レーダ信号処理装置である。
【0017】
この構成によれば、本来は連続性を有する降雨信号成分のパラメータが誤って不連続性を有する気象観測点(不連続観測点)を、降雨信号成分が回復不能又は回復過剰となる気象観測点とみなす。よって、降雨信号成分が回復不能となる気象観測点と降雨信号成分が本来少ない気象観測点とを区別することができる。そして、降雨信号成分が回復過剰となる気象観測点と降雨信号成分が本来多い気象観測点とを区別することができる。
【0018】
さらに、降雨信号成分が回復可能となる大部分の気象観測点(連続観測点)では、可変ドップラー速度幅を固定幅のみに設定する。そして、降雨信号成分が回復不能又は回復過剰となる一部分の気象観測点(不連続観測点)では、可変ドップラー速度幅を可変幅に変更する。よって、可変ドップラー速度幅の設定処理負担を低減することができる。
【0019】
また、本開示は、前記不連続点抽出部は、前記降雨信号回復部が回復した降雨信号成分のドップラー速度平均が、周囲の気象観測点と比べて符号を反転させる気象観測点、かつ、前記降雨信号回復部が回復した降雨信号成分の受信電力又は回復前後の電力差が、周囲の気象観測点と比べて所定差以上に小さい気象観測点を、前記不連続観測点として抽出し、前記地表面クラッタ除去部は、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、事後処理として前記不連続点抽出部が抽出した前記不連続観測点において前記固定幅より狭い前記可変幅に変更することを特徴とする気象レーダ信号処理装置である。
【0020】
この構成によれば、ドップラー速度0近傍がドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、降雨信号成分のドップラー速度幅が狭いときでも、可変ドップラー速度幅を適切に狭くすることにより、降雨信号成分が余分に除去される可能性を低減することができ、降雨信号成分が回復不能となる可能性を低減することができる。
【0021】
また、本開示は、前記不連続点抽出部は、前記降雨信号回復部が回復した降雨信号成分のドップラー速度平均が、周囲の気象観測点と比べて符号を反転させる気象観測点、かつ、前記降雨信号回復部が回復した降雨信号成分の受信電力又は回復前後の電力差が、周囲の気象観測点と比べて所定差以上に大きい気象観測点を、前記不連続観測点として抽出し、前記地表面クラッタ除去部は、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、事後処理として前記不連続点抽出部が抽出した前記不連続観測点において前記固定幅より広い前記可変幅に変更することを特徴とする気象レーダ信号処理装置である。
【0022】
この構成によれば、ドップラー速度0近傍がドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅が広いときでも、可変ドップラー速度幅を適切に広くすることにより、残存された地表面クラッタ成分がスプリアスな降雨信号成分として抽出される可能性を低減することができ、降雨信号成分が回復過剰となる可能性を低減することができる。
【0023】
また、本開示は、前記地表面クラッタ除去部は、地表面クラッタ成分の様々な受信強度及びドップラー速度幅に応じて、時間領域の様々なフィルタリング特性を気象観測に先立ち記憶していることを特徴とする気象レーダ信号処理装置である。
【0024】
この構成によれば、気象観測前において、フィルタリング行列を記憶しておくため、フィルタリング特性の算出が、数14に後述するように、逆行列の算出を包含するときでも、気象観測時において、計算処理負担を低減することができる。
【発明の効果】
【0025】
このように、本開示は、気象レーダ信号に時間領域のフィルタリング処理を実行するにあたり、地表面クラッタが余分に除去されたり完全に除去されない可能性を低減し、降雨信号成分が回復不能となったり回復過剰となる可能性を低減し、気象観測時において計算処理負担を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本開示の気象レーダ信号処理装置の構成を示す図である。
図2】本開示の地表面クラッタ除去処理の手順を示す図である。
図3】本開示の地表面クラッタ除去処理の概要を示す図である。
図4】本開示の地表面クラッタ除去処理の効果を示す図である。
図5】本開示のフィルタリング特性記憶処理の手順を示す図である。
図6】本開示のフィルタリング特性記憶処理の効果を示す図である。
図7】本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の概要を示す図である。
図8】本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の手順を示す図である。
図9】本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の具体例を示す図である。
図10】本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の具体例を示す図である。
図11】本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の具体例を示す図である。
図12】本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の具体例を示す図である。
図13】本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の具体例を示す図である。
図14】本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の効果を示す図である。
図15】本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0028】
(本開示の地表面クラッタ除去処理)
本開示の気象レーダ信号処理装置の構成を図1に示す。気象レーダ信号処理装置Rは、地表面クラッタ除去装置1、降雨信号回復装置2及び不連続点抽出装置3を備える。気象レーダ信号処理装置Rは、図2図5及び図8に示す気象レーダ信号処理プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現することができる。
【0029】
地表面クラッタ除去装置1(図2以降で説明)は、自己相関行列算出部11、地表面クラッタ分布算出部12、フィルタリング特性算出/記憶部13及び地表面クラッタ除去部14を備える。降雨信号回復装置2(図2以降で説明)は、降雨信号分布算出部21、自己相関行列算出部22、フィルタリング処理部23、減算部24、加算部25及び降雨信号収束判定部26を備える。不連続点抽出装置3(図7以降で説明)は、降雨信号分布取得部31、受信電力抽出部32、ドップラー速度平均抽出部33、ドップラー速度幅抽出部34、不連続点抽出部35及びフィルタリング特性変更部36を備える。
【0030】
本開示の地表面クラッタ除去処理の手順及び概要を図2及び図3に示す。
【0031】
地表面クラッタ除去装置1は、気象レーダ信号から地表面クラッタ成分を除去して降雨信号成分を抽出するにあたり、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅を、気象観測点に応じて可変幅に設定する。
【0032】
地表面クラッタ除去装置1は、各気象観測点での地表面クラッタ除去前の時系列レーダ信号を入力する(ステップS1)。図3の上段左欄のように、ステップS1の入力段階でのドップラー速度スペクトルは、ドップラー速度0近傍の地表面クラッタ成分と、ドップラー速度が有限値の降雨信号成分と、ノイズ成分と、を包含する。
【0033】
自己相関行列算出部11は、ステップS1の時系列レーダ信号について、自己相関行列を算出する(ステップS2)。地表面クラッタ分布算出部12は、ステップS1の時系列レーダ信号について、地表面クラッタ分布を算出する(ステップS3)。具体的には、地表面クラッタ分布算出部12は、ステップS1の時系列レーダ信号をドップラー速度スペクトルにフーリエ変換し、地表面クラッタ分布の受信強度及びドップラー速度幅を算出する。
【0034】
フィルタリング特性算出/記憶部13は、ステップS3の地表面クラッタ分布の受信強度及びドップラー速度幅に応じて、フィルタリング行列を算出する(ステップS4)。地表面クラッタ除去部14は、ステップS2の自己相関行列に対して、ステップS4のフィルタリング行列を乗算する(ステップS5)。図3の中段左欄のように、ステップS5の出力段階でのドップラー速度スペクトルは、ドップラー速度が有限値の一部の降雨信号成分と、ノイズ成分と、を包含し、ドップラー速度0近傍の一部の降雨信号成分を除去される。
【0035】
降雨信号回復装置2は、地表面クラッタ除去装置1が抽出した降雨信号成分のドップラー速度に対する受信電力の強度分布を算出することにより、地表面クラッタ除去装置1が地表面クラッタ成分とともに除去した降雨信号成分を回復する。
【0036】
降雨信号分布算出部21は、ステップS5の出力結果に基づいて、降雨信号分布を算出する(ステップS6)。具体的には、降雨信号分布算出部21は、ステップS5の出力結果が地表面クラッタ除去後の時系列レーダ信号の自己相関行列であることに基づいて、降雨信号分布の受信強度、ドップラー速度平均及びドップラー速度幅を算出する。
【0037】
降雨信号分布算出部21は、ステップS6の降雨信号分布に基づいて、時系列レーダ信号を生成する(ステップS7)。具体的には、降雨信号分布算出部21は、ステップS6の降雨信号分布にガウシアンモデルを適用可能であることに基づいて、時系列レーダ信号を生成する。図3の下段左欄のように、ステップS7の出力段階でのドップラー速度スペクトルは、ドップラー速度0近傍の降雨信号成分と、ドップラー速度が有限値の降雨信号成分と、ノイズ成分と、を包含する。自己相関行列算出部22は、ステップS7の時系列レーダ信号について、自己相関行列を算出する(ステップS8)。
【0038】
フィルタリング処理部23は、ステップS8の自己相関行列に対して、ステップS4のフィルタリング行列を乗算する(ステップS9)。図3の下段右欄のように、ステップS9の出力段階でのドップラー速度スペクトルは、ドップラー速度が有限値の一部の降雨信号成分と、ノイズ成分と、を包含し、ドップラー速度0近傍の一部の降雨信号成分を除去される。つまり、ステップS9は、降雨信号成分の回復を準備する段階である。
【0039】
減算部24は、ステップS8の自己相関行列からステップS9の出力結果を減算する(ステップS10)。図3の中段右欄のように、ステップS10の出力段階でのドップラー速度スペクトルは、ドップラー速度0近傍の一部の降雨信号成分と、ノイズ成分と、を包含し、ドップラー速度が有限値の一部の降雨信号成分を除去される。つまり、ステップS10は、降雨信号成分をどの程度に回復させるかを算出する段階である。
【0040】
加算部25は、ステップS10の出力結果をステップS5の出力結果に加算する(ステップS11)。図3の上段右欄のように、ステップS11の出力段階でのドップラー速度スペクトルは、ドップラー速度0近傍の降雨信号成分と、ドップラー速度が有限値の降雨信号成分と、ノイズ成分と、を包含する。つまり、ステップS11は、降雨信号成分の回復を実現する段階である。ただし、ステップS11で、降雨信号成分の回復を十分に実現したとは限らないため、ステップS12~S14の処理が実行される。
【0041】
降雨信号分布算出部21は、ステップS11の出力結果に基づいて、降雨信号分布を算出する(ステップS12)。そして、降雨信号分布算出部21は、ステップS12の降雨信号分布に基づいて、時系列レーダ信号を生成する(ステップS13)。
【0042】
降雨信号収束判定部26は、ステップS12の降雨信号分布が収束していないと判定したときには(ステップS14においてNO)、降雨信号成分の回復を十分に実現していないと判定する。そして、降雨信号回復装置2は、ステップS8~S14の処理を繰り返す。
【0043】
降雨信号収束判定部26は、ステップS12の降雨信号分布が収束していると判定したときには(ステップS14においてYES)、降雨信号成分の回復を十分に実現していると判定する。そして、降雨信号回復装置2は、各気象観測点での地表面クラッタ除去後の時系列レーダ信号(ステップS13の時系列レーダ信号)を出力する(ステップS15)。
【0044】
本開示の地表面クラッタ除去処理の効果を図4に示す。図4の上段のように、地表面クラッタ除去前では、レーダ表示の上側で地表面クラッタ成分が残存しているとともに、地表面クラッタ成分の受信強度が高いままである。図4の中段のように、周波数領域での地表面クラッタ除去後では、レーダ表示の上側で地表面クラッタ成分が残存しているものの、地表面クラッタ成分の受信強度は低くなっている。図4の下段のように、時間領域での地表面クラッタ除去後では、レーダ表示の上側で地表面クラッタ成分が残存していない。
【0045】
本実施形態では、時系列レーダ信号の自己相関行列にフィルタリング行列を乗算することにより、地表面クラッタ成分を除去している。変形例として、時系列レーダ信号にFIRフィルタ処理又はIIRフィルタ処理を実行することにより、地表面クラッタ成分を除去してもよい。本実施形態では、降雨信号分布にガウシアンモデルを適用したうえで、地表面クラッタ除去後の時系列レーダ信号の自己相関行列にフィルタリング行列を乗算することにより、降雨信号成分を回復させている。変形例として、降雨信号分布にガウシアンモデルを適用するのみで、地表面クラッタ除去後の時系列レーダ信号の自己相関行列にフィルタリング行列を乗算することなく、降雨信号成分を回復させてもよい。
【0046】
(本開示のフィルタリング特性記憶処理)
フィルタリング特性算出/記憶部13が、地表面クラッタ分布の受信強度及びドップラー速度幅に応じて、フィルタリング行列を算出する方法について、以下に説明する。
【0047】
地表面クラッタ成分のドップラー速度スペクトルS(v)は、数1となる。ここで、Pは地表面クラッタ強度であり、σは地表面クラッタ速度幅である。
【数1】
降雨信号成分のドップラー速度スペクトルS(v)は、数2となる。ここで、Pは降雨信号強度であり、σは降雨信号速度幅であり、vbarは降雨信号速度平均である。
【数2】
地表面クラッタ成分、降雨信号成分及びノイズ成分を合わせたドップラー速度スペクトルS(v)は、数3となる。ここで、η(v)はノイズ成分である。
【数3】
【0048】
地表面クラッタ成分の時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)(ただし、τは、遅延時間である。)は、波長λに対して数4となる。
【数4】
降雨信号成分の時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)(ただし、τは、遅延時間である。)は、波長λに対して数5となる。
【数5】
ノイズ成分の時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)(ただし、τは、遅延時間である。)は、波長λによらず数6となる。
【数6】
地表面クラッタ成分、降雨信号成分及びノイズ成分を合わせた時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)(ただし、τは、遅延時間である。)は、波長λに対して数7となる。ここで、σ はノイズ強度である。
【数7】
【0049】
地表面クラッタ成分の時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)の自己相関行列Rは、数8となる。ここで、mは時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)の信号点数であり、*は複素共役を表す。
【数8】
降雨信号成分の時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)の自己相関行列Rは、数9となる。ここで、mは時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)の信号点数であり、*は複素共役を表す。
【数9】
ノイズ成分の時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)の自己相関行列Rは、数10となる。ここで、mは時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)の信号点数であり、*は複素共役を表す。
【数10】
地表面クラッタ成分、降雨信号成分及びノイズ成分を合わせた時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)の自己相関行列Rは、これらの成分が互いに独立であるため、数11となる。
【数11】
【0050】
地表面クラッタ成分、降雨信号成分及びノイズ成分を合わせた時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)の自己相関行列Rに、フィルタリング行列Aを乗算すると、数12となる。ここで、R’は乗算結果であり、Hは複素共役転置を表し、Iはm行m列の単位行列を表す。
【数12】
【0051】
時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)が降雨信号成分を包含しないときに、乗算結果R’で地表面クラッタ成分がノイズレベルに低減されるためには、数13の条件が必要である。
【数13】
フィルタリング特性算出/記憶部13は、地表面クラッタ分布の受信強度及びドップラー速度幅に応じて、フィルタリング行列Aを数14のように算出する。
【数14】
【0052】
以上では、フィルタリング特性算出/記憶部13は、地表面クラッタ成分の様々な受信強度及びドップラー速度幅に応じて、時間領域の様々なフィルタリング特性を気象観測において算出している。すると、フィルタリング行列Aの算出が、数14に上述したように、逆行列の算出を包含することから、気象観測時において、計算処理負担が増加する。
【0053】
以下では、フィルタリング特性算出/記憶部13は、地表面クラッタ成分の様々な受信強度及びドップラー速度幅に応じて、時間領域の様々なフィルタリング特性を気象観測に先立ち記憶している。すると、フィルタリング行列Aの算出が、数14に上述したように、逆行列の算出を包含するときでも、気象観測時において、計算処理負担が低減する。
【0054】
本開示のフィルタリング特性記憶処理の手順を図5に示す。ステップS21~S28の処理は、フィルタリング特性算出/記憶部13の処理である。
【0055】
除去すべき様々な地表面クラッタ成分のドップラー速度スペクトルS(v)を、数1のように設定する(ステップS21)。除去すべき様々な地表面クラッタ成分のクラッタ強度P及びクラッタ速度幅σを設定する(ステップS22)。ここで、クラッタ強度P及びクラッタ速度幅σの設定間隔が狭いほど、様々なフィルタリング行列Aから最適なフィルタリング行列Aが選択されやすくなるため、地表面クラッタ除去精度が高くなる。
【0056】
除去すべき様々な地表面クラッタ成分の時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)を、数4のように算出する(ステップS23)。除去すべき様々な地表面クラッタ成分の時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)について、自己相関行列Rを、数8のように算出する(ステップS24)。
【0057】
想定されるノイズ成分の時系列レーダ信号の自己相関関数R(τ)を、数6のように設定する(ステップS25)。想定されるノイズ成分のノイズ強度σ を設定する(ステップS26)。ここで、ノイズ強度σ の設定精度が高いほど、地表面クラッタ除去精度が高くなる。
【0058】
様々な地表面クラッタ成分を除去するフィルタリング行列Aを、数14のように算出する(ステップS27)。様々な地表面クラッタ成分を除去するフィルタリング行列Aを記憶しておく(ステップS28)。ステップS3の地表面クラッタ分布の受信強度及びドップラー速度幅に応じて、最適なフィルタリング行列Aを選択する(ステップS4)。
【0059】
本開示のフィルタリング特性記憶処理の効果を図6に示す。図6の上段左欄では、気象観測時に、観測されたクラッタ強度P及び固定されたクラッタ速度幅σ=0.3m/sに応じて、最適なフィルタリング行列Aを算出する。図6の下段左欄、上段右欄及び下段右欄では、それぞれ、気象観測前に、5dB毎、10dB毎及び20dB毎のクラッタ強度P及び固定されたクラッタ速度幅σ=0.3m/sにおいて、様々なフィルタリング行列Aを記憶しておき、気象観測時に、5dB毎、10dB毎及び20dB毎のクラッタ強度Pのうちの観測されたクラッタ強度Pに最も近いクラッタ強度P及び固定されたクラッタ速度幅σ=0.3m/sに応じて、最適なフィルタリング行列Aを選択する。
【0060】
図6の上段左欄のように、気象観測時に、最適なフィルタリング行列Aを算出する場合には、地表面クラッタ除去精度が最も高くなっている。図6の下段左欄、上段右欄及び下段右欄のように、気象観測前に、様々なフィルタリング行列Aを記憶している場合には、クラッタ強度Pの設定間隔が狭いほど、地表面クラッタ除去精度が高くなっている。
【0061】
(本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理)
以上では、フィルタリング行列Aを算出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σを、全気象観測点について固定幅のみに設定せず可変幅に設定する。
【0062】
よって、ドップラー速度幅σが本来は小さい大地クラッタ成分を除去するにあたり、可変ドップラー速度幅σを適切に狭くすることにより、大地クラッタ成分以外が余分に除去される可能性を低減することができる。そして、ドップラー速度幅σが本来は大きい樹木クラッタ成分を除去するにあたり、可変ドップラー速度幅σを適切に広くすることにより、樹木クラッタ成分が完全に除去されない可能性を低減することができる。
【0063】
以下では、フィルタリング行列Aを算出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σを、(1)初期処理として、全気象観測点について固定幅のみに設定し、(2)事後処理として、地表面クラッタ成分の除去又は降雨信号成分の抽出が初期処理では困難な一部分の気象観測点のみについて可変幅に変更し、地表面クラッタ成分の除去又は降雨信号成分の抽出が初期処理でも可能な大部分の気象観測点について固定幅のまま維持する。よって、可変ドップラー速度幅σの設定処理負担を低減することができる。
【0064】
本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の概要を図7に示す。降雨領域P内では、降雨強度、降雨速度v及び降雨速度幅を含む降雨パラメータは、空間的に連続であると考えられる。降雨領域P内の降雨地点P1は、気象レーダ信号処理装置Rの正面方向からずれた方向にあり、降雨地点P1での降雨信号成分のドップラー速度vは、正の有限値である。降雨領域P内の降雨地点P2は、気象レーダ信号処理装置Rのほぼ正面方向にあり、降雨地点P2での降雨信号成分のドップラー速度vは、ほぼ0である。
【0065】
まず、降雨信号成分のドップラー速度幅σが狭すぎず、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σが広すぎない場合(図7の上から第2段目)を考える。
【0066】
降雨地点P1については、有限値のドップラー速度vがドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、降雨信号成分のドップラー速度幅σが狭すぎないため、地表面クラッタ成分の固定除去範囲が適切に設定されていれば、降雨信号成分が余分に除去されたり過剰に残存される可能性が低く、降雨信号成分が回復可能となる可能性が高い。よって、地表面クラッタ成分の固定除去範囲は、そのまま維持される。
【0067】
降雨地点P2については、0近傍のドップラー速度vがドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、降雨信号成分のドップラー速度幅σが狭すぎないため、地表面クラッタ成分の固定除去範囲が適切に設定されていれば、降雨信号成分が余分に除去されたり過剰に残存される可能性が低く、降雨信号成分が回復可能となる可能性が高い。よって、地表面クラッタ成分の固定除去範囲は、そのまま維持される。
【0068】
そして、降雨地点P1から降雨地点P2にかけて、降雨信号成分の受信強度、ドップラー速度平均及びドップラー速度幅を含む降雨パラメータは、空間的に連続である。
【0069】
次に、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σは広すぎないが、降雨信号成分のドップラー速度幅σは狭すぎる場合(図7の上から第3段目)を考える。
【0070】
降雨地点P1については、有限値のドップラー速度vがドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、降雨信号成分のドップラー速度幅σが狭すぎるものの、地表面クラッタ成分の固定除去範囲が適切に設定されていれば、降雨信号成分が余分に除去されたり過剰に残存される可能性が低く、降雨信号成分が回復可能となる可能性が高い。よって、地表面クラッタ成分の固定除去範囲は、そのまま維持される。
【0071】
降雨地点P2については、0近傍のドップラー速度vがドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、降雨信号成分のドップラー速度幅σが狭すぎるため、地表面クラッタ成分の固定除去範囲が適切に設定されていても、降雨信号成分が余分に除去される可能性が高く、降雨信号成分が回復不能となる可能性が高い。よって、地表面クラッタ成分の除去範囲は、固定幅より狭い可変幅に変更されることが望ましい。
【0072】
そして、降雨地点P1から降雨地点P2にかけて、降雨信号成分の受信強度、ドップラー速度平均及びドップラー速度幅を含む降雨パラメータは、空間的に不連続である。特に、降雨信号成分が回復不能となるため、降雨信号成分の受信強度は、空間的に不連続になりやすい。そして、ステップS7のガウシアンフィッティングが適切でなければ、降雨信号成分のドップラー速度平均及びドップラー速度幅も、空間的に不連続になってしまう。
【0073】
次に、降雨信号成分のドップラー速度幅σは狭すぎないが、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σは広すぎる場合(図7の上から第4段目)を考える。
【0074】
降雨地点P1については、有限値のドップラー速度vがドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σが広すぎるものの、地表面クラッタ成分の固定除去範囲が適切に設定されていれば、降雨信号成分が余分に除去されたり過剰に残存される可能性が低く、降雨信号成分が回復可能となる可能性が高い。よって、地表面クラッタ成分の固定除去範囲は、そのまま維持される。
【0075】
降雨地点P2については、0近傍のドップラー速度vがドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σが広すぎるため、地表面クラッタ成分の固定除去範囲が適切に設定されていても、残存された地表面クラッタ成分がスプリアスな降雨信号成分として抽出される可能性が高く、降雨信号成分が回復過剰となる可能性が高い。よって、地表面クラッタ成分の除去範囲は、固定幅より広い可変幅に変更されることが望ましい。
【0076】
そして、降雨地点P1から降雨地点P2にかけて、降雨信号成分の受信強度、ドップラー速度平均及びドップラー速度幅を含む降雨パラメータは、空間的に不連続である。特に、降雨信号成分が回復過剰となるため、降雨信号成分の受信強度は、空間的に不連続になりやすい。そして、ステップS7のガウシアンフィッティングが適切でなければ、降雨信号成分のドップラー速度平均及びドップラー速度幅も、空間的に不連続になってしまう。
【0077】
逆に言えば、本来は連続性を有する降雨信号成分のパラメータが誤って不連続性を有する気象観測点(不連続観測点)を、降雨信号成分が回復不能又は回復過剰となる気象観測点とみなす。よって、降雨信号成分が回復不能となる気象観測点と降雨信号成分が本来少ない気象観測点とを区別することができる。そして、降雨信号成分が回復過剰となる気象観測点と降雨信号成分が本来多い気象観測点とを区別することができる。
【0078】
本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の手順を図8に示す。
【0079】
フィルタリング特性算出/記憶部13は、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σを、初期処理として気象観測点によらず固定幅に設定する。具体的には、フィルタリング特性算出/記憶部13は、アンテナのビーム幅及びスキャン速度並びに地表面クラッタ成分の特性に基づいて、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σを固定幅に設定する。そのうえで、地表面クラッタ除去装置1及び降雨信号回復装置2は、ステップS1~S15の処理を実行する(ステップS31)。
【0080】
降雨信号分布取得部31は、各気象観測点において、ステップS12の降雨信号分布を取得する(ステップS32)。受信電力抽出部32、ドップラー速度平均抽出部33及びドップラー速度幅抽出部34は、各気象観測点において、ステップS32の降雨信号分布から受信電力、ドップラー速度平均及びドップラー速度幅を抽出する(ステップS33)。
【0081】
不連続点抽出部35は、降雨信号回復装置2が回復した降雨信号成分の受信電力、ドップラー速度平均及びドップラー速度幅のうちの少なくともいずれかが、気象観測の空間内で不連続性を有する不連続観測点を抽出する(ステップS34)。
【0082】
フィルタリング特性変更部36は、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σを、事後処理として不連続点抽出部35が抽出した不連続観測点において固定幅と異なる可変幅に変更する(ステップS34においてYES、ステップS35)。そのうえで、地表面クラッタ除去装置1及び降雨信号回復装置2は、ステップS1~S15の処理を再び実行する(ステップS35)。ここで、ステップS34で不連続観測点がなくなるまで、ステップS34、S35を繰り返し実行してもよい。
【0083】
ここで、ステップS34、S35の具体的な手順について説明する。
【0084】
不連続点抽出部35は、各気象観測点において、周囲の気象観測点と比べて、ドップラー速度平均が符号を反転させるかどうか判別する(ステップS41)。つまり、不連続点抽出部35は、ドップラー速度平均が0近傍である気象観測点を探索する。
【0085】
周囲の気象観測点と比べて、ドップラー速度平均が符号を反転させる気象観測点については(ステップS42においてYES)、降雨信号成分の余分な除去又は過剰な残存の可能性があるため、ステップS43の処理に進む。周囲の気象観測点と比べて、ドップラー速度平均が符号を反転させない気象観測点については(ステップS42においてNO)、降雨信号成分の余分な除去又は過剰な残存の可能性が低いため、処理を終了する。
【0086】
不連続点抽出部35は、各気象観測点において、周囲の気象観測点と比べて、受信電力又は回復前後の電力差が所定差以上に小さいか大きいかを判別する(ステップS43)。つまり、不連続点抽出部35は、降雨信号成分の余分な除去又は過剰な残存がある気象観測点を探索し、当該気象観測点を不連続観測点として抽出する。
【0087】
周囲の気象観測点と比べて、受信電力又は回復前後の電力差が所定差以上に小さい気象観測点については(ステップS44において「小さい」)、フィルタリング特性変更部36は、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σを、事後処理として固定幅より狭い可変幅に変更する(ステップS45)。そのうえで、地表面クラッタ除去装置1及び降雨信号回復装置2は、ステップS1~S15の処理を再び実行する(ステップS45)。ここで、ステップS34、S44で不連続観測点がなくなるまで、ステップS34~S35、S41~S46を繰り返し実行してもよい。
【0088】
周囲の気象観測点と比べて、受信電力又は回復前後の電力差が所定差以上に大きい気象観測点については(ステップS44において「大きい」)、フィルタリング特性変更部36は、時間領域のフィルタリング処理で設定すべき地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σを、事後処理として固定幅より広い可変幅に変更する(ステップS46)。そのうえで、地表面クラッタ除去装置1及び降雨信号回復装置2は、ステップS1~S15の処理を再び実行する(ステップS46)。ここで、ステップS34、S44で不連続観測点がなくなるまで、ステップS34~S35、S41~S46を繰り返し実行してもよい。
【0089】
周囲の気象観測点と比べて、受信電力又は回復前後の電力差が所定差以上に小さくもなく大きくもない気象観測点については(ステップS44において「いずれでもない」)、降雨信号成分の余分な除去又は過剰な残存の可能性が低いため、処理を終了する。
【0090】
本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の具体例を図9から図13までに示す。
【0091】
図9では、降雨信号成分のドップラー速度v=0であり、降雨信号成分のドップラー速度幅σが狭すぎず、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σが広すぎない(ステップS1)。この場合は、降雨信号成分の余分な除去又は過剰な残存の可能性が低い。
【0092】
図9では、0近傍のドップラー速度vがドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、降雨信号成分のドップラー速度幅σが狭すぎないため、地表面クラッタ成分の固定除去範囲σ=0.3m/sが適切に設定されていれば、降雨信号成分が余分に除去されたり過剰に残存される可能性が低く(ステップS5)、降雨信号成分が回復可能となる可能性が高い(ステップS7、S9~S11)。よって、地表面クラッタ成分の固定除去範囲σ=0.3m/sは、そのまま維持される。
【0093】
図10及び図11では、降雨信号成分のドップラー速度v=0であり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σは広すぎないが、降雨信号成分のドップラー速度幅σは狭すぎる(ステップS1)。この場合は、降雨信号成分の余分な除去の可能性が高い。
【0094】
図10では、0近傍のドップラー速度vがドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、降雨信号成分のドップラー速度幅σが狭すぎるため、地表面クラッタ成分の固定除去範囲σ=0.3m/sが適切に設定されていても、降雨信号成分が余分に除去される可能性が高く(ステップS5)、降雨信号成分が回復不能となる可能性が高い(ステップS7、S9~S11)。よって、地表面クラッタ成分の除去範囲は、固定幅σ=0.3m/sより狭い可変幅σ=0.1m/sに変更される。
【0095】
図11では、0近傍のドップラー速度vがドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、降雨信号成分のドップラー速度幅σが狭いときでも、地表面クラッタ成分の可変除去範囲σ=0.1m/sを適切に狭くすることにより、降雨信号成分が余分に除去される可能性を低減することができ(ステップS5)、降雨信号成分が回復不能となる可能性を低減することができる(ステップS7、S9~S11)。よって、地表面クラッタ成分の可変除去範囲σ=0.1m/sは、そのまま維持される。
【0096】
図12及び図13では、降雨信号成分のドップラー速度v=0であり、降雨信号成分のドップラー速度幅σは狭すぎないが、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σは広すぎる(ステップS1)。この場合は、降雨信号成分の過剰な残存の可能性が高い。
【0097】
図12では、0近傍のドップラー速度vがドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σが広すぎるため、地表面クラッタ成分の固定除去範囲が適切に設定されていても、残存された地表面クラッタ成分がスプリアスな降雨信号成分として抽出される可能性が高く(ステップS5)、降雨信号成分が回復過剰となる可能性が高い(ステップS7、S9~S11)。よって、地表面クラッタ成分の除去範囲は、固定幅より広い可変幅に変更される。
【0098】
図13では、0近傍のドップラー速度vがドップラー速度平均である降雨信号成分を抽出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σが広いときでも、地表面クラッタ成分の可変除去範囲を適切に広くすることにより、残存された地表面クラッタ成分がスプリアスな降雨信号成分として抽出される可能性を低減することができ(ステップS5)、降雨信号成分が回復過剰となる可能性を低減することができる(ステップS7、S9~S11)。よって、地表面クラッタ成分の可変除去範囲は、そのまま維持される。
【0099】
本開示の地表面クラッタ除去範囲設定処理の効果を図14及び図15に示す。
【0100】
図14の上段では、降雨信号成分のドップラー速度平均を示す。レーダ表示画素が黒色と白色との間で遷移する線状領域が、降雨信号成分のドップラー速度平均がほぼ0である領域である。図14の中段では、降雨信号成分の回復前後の電力差を示す。レーダ表示画素が白色である領域内のうちの、レーダ表示画素が黒色である線状領域が、降雨信号成分の回復前後の電力差が小さい領域である。図14の下段では、図14の上段の降雨信号成分のドップラー速度平均がほぼ0である領域と、図14の中段の降雨信号成分の回復前後の電力差が小さい領域と、の間の積集合領域が、不連続観測点として抽出される。
【0101】
図15の上段では、フィルタリング行列Aを算出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σを、全気象観測点について固定幅のみに設定する。降雨信号成分の受信強度が、図14の下段の不連続観測点において、周囲の気象観測点と比べて、十分に回復されていないことが分かる。図15の下段では、フィルタリング行列Aを算出するにあたり、地表面クラッタ成分のドップラー速度幅σを、一部気象観測点について固定幅のみに設定せず可変幅に設定する。降雨信号成分の受信強度が、図14の下段の不連続観測点において、周囲の気象観測点と比べて、十分に回復されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本開示の気象レーダ信号処理装置及び気象レーダ信号処理プログラムは、気象レーダ信号に時間領域のフィルタリング処理を実行するにあたり、地表面クラッタが余分に除去されたり完全に除去されない可能性を低減し、降雨信号成分が回復不能となったり回復過剰となる可能性を低減し、気象観測時において計算処理負担を低減することができる。
【符号の説明】
【0103】
R:気象レーダ信号処理装置
1:地表面クラッタ除去装置
2:降雨信号回復装置
3:不連続点抽出装置
11:自己相関行列算出部
12:地表面クラッタ分布算出部
13:フィルタリング特性算出/記憶部
14:地表面クラッタ除去部
21:降雨信号分布算出部
22:自己相関行列算出部
23:フィルタリング処理部
24:減算部
25:加算部
26:降雨信号収束判定部
31:降雨信号分布取得部
32:受信電力抽出部
33:ドップラー速度平均抽出部
34:ドップラー速度幅抽出部
35:不連続点抽出部
36:フィルタリング特性変更部
P:降雨領域
P1、P2:降雨地点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15