(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】下面電子線滅菌装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/08 20060101AFI20230126BHJP
【FI】
A61L2/08 108
(21)【出願番号】P 2019008166
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横林 孝康
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-030783(JP,A)
【文献】国際公開第2013/062006(WO,A1)
【文献】特開2002-104334(JP,A)
【文献】特表2009-526971(JP,A)
【文献】特開2003-225288(JP,A)
【文献】特開2003-285011(JP,A)
【文献】特開2005-319172(JP,A)
【文献】特開2003-014900(JP,A)
【文献】特開2018-166811(JP,A)
【文献】特開平2-152633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌対象物の下面を電子線の照射により滅菌する下面電子線滅菌装置であって、
滅菌対象物を連続して搬送する連続搬送手段と、
前記連続搬送手段に搬送されている滅菌対象物に上面で接する固定式の固定板と、
固定板の下方に配置されて上方に向けて電子線を出射する電子線出射機とを備え、
前記固定板が、前記電子線を通過させて搬送されている滅菌対象物の下面全面に照射させる電子線通過領域を有
し、
前記固定板の上面において搬送されている滅菌対象物に接する範囲のうち、前記電子線通過領域が当該電子線通過領域以外よりも小さいことを特徴とする下面電子線滅菌装置。
【請求項2】
電子線通過領域が、搬送されている滅菌対象物が落下しない大きさの開口であることを特徴とする請求項1に記載の下面電子線滅菌装置。
【請求項3】
開口が、その長手方向を滅菌対象物が搬送されている方向に対して傾斜させたスリットであることを特徴とする請求項2に記載の下面電子線滅菌装置。
【請求項4】
連続搬送手段が、隣り合う滅菌対象物を互いに接触させないように連続して搬送するものであり、
開口が、搬送されている滅菌対象物の側面にも電子線を照射させる大きさであることを特徴とする請求項2または3に記載の下面電子線滅菌装置。
【請求項5】
電子線出射機が、先端部から電子線を出射する電子線出射ノズルを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の下面電子線滅菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滅菌対象物の下面を電子線の照射により滅菌する下面電子線滅菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子線滅菌装置は、飲食品用または医療用の容器など、高い滅菌の精度が要求される滅菌対象物の滅菌に用いられている。このような滅菌対象物を台に載置した状態で滅菌する場合、当該滅菌対象物の下面では、電子線が照射されにくくなるので、滅菌が不十分になりがちである。
【0003】
滅菌対象物の下面も十分に滅菌するには、滅菌対象物を台ではなくメッシュなどに載置し、当該滅菌対象物に下方から電子線を照射する方法がある。この方法を応用した装置として、メッシュコンベアで滅菌対象物を連続して搬送しながら、下方から照射されている電子線の領域に当該滅菌対象物が連続して通り過ぎるようにした装置が考えられる。しかしながら、このような装置では、メッシュコンベアのメッシュとこれに載置された滅菌対象物とが接触または極めて近接しているので、下方からの電子線で前記メッシュに遮られる部分(以下では便宜上、影と称する)が、滅菌対象物の下面に生じる。また、滅菌対象物がメッシュに載置されて搬送されていることから、滅菌対象物とメッシュとの相対位置が一定なので、滅菌対象物の下面に生じる影の位置も一定である。このため、前記影の位置に電子線が照射されにくくなるので、前記装置でも滅菌がまだ不十分である。
【0004】
滅菌対象物とメッシュとの相対位置が一定であることを解消するために、メッシュコンベアで搬送されながら電子線が照射されている滅菌対象物を、当該メッシュコンベアのメッシュに対して相対移動させる装置が提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3840473号公報
【文献】特開2003-14900号公報
【発明の概要】
【0006】
前記特許文献1および2に記載された装置の概略は、概略平面図である
図5Aおよび
図5Bに示すように、メッシュコンベアC31に載置されて搬送されている滅菌対象物10を、下方から電子線C34が照射されている領域で、固定式の傾斜ガイドC33により当該メッシュコンベアC31のメッシュに対してスライドさせるように構成されている。この構成により、下面に電子線C34が照射されている滅菌対象物10とメッシュコンベアC31のメッシュとが相対移動するので、滅菌対象物10の下面に生じる影が移動することになる。このため、滅菌対象物10の下面全面に電子線C34が照射されることになるので、十分な滅菌をすることが可能である。
【0007】
しかしながら、前記特許文献1および2に記載された装置は、前述した固定式の傾斜ガイドC33など、前記相対移動のための別途の機器が必要になる。また、相対移動の前後の位置で滅菌対象物10に電子線C34が照射されるようにするために、電子線C34を照射する領域が必然的に大きくなる。さらに、メッシュコンベアC31は下方から高価な電子線出射機により電子線C34が照射されるが、当該メッシュコンベアC31は、回動(移動)式であるから、電子線出射機に万一接触して当該電子線出射機を破損させることがないように、前記電子線出射機と十分に離しておく必要がある。したがって、前記特許文献1および2に記載された装置は、必然的に大型となる。
【0008】
そこで、本発明は、十分な滅菌および小型化が可能な下面電子線滅菌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、第1の発明に係る下面電子線滅菌装置は、滅菌対象物の下面を電子線の照射により滅菌する下面電子線滅菌装置であって、
滅菌対象物を連続して搬送する連続搬送手段と、
前記連続搬送手段に搬送されている滅菌対象物に上面で接する固定式の固定板と、
固定板の下方に配置されて上方に向けて電子線を出射する電子線出射機とを備え、
前記固定板が、前記電子線を通過させて搬送されている滅菌対象物の下面全面に照射させる電子線通過領域を有し、
前記固定板の上面において搬送されている滅菌対象物に接する範囲のうち、前記電子線通過領域が当該電子線通過領域以外よりも小さいものである。
【0010】
また、第2の発明に係る下面電子線滅菌装置は、第1の発明に係る下面電子線滅菌装置における電子線通過領域が、搬送されている滅菌対象物が落下しない大きさの開口である。
【0011】
さらに、第3の発明に係る下面電子線滅菌装置は、第2の発明に係る下面電子線滅菌装置における開口が、その長手方向を滅菌対象物が搬送されている方向に対して傾斜させたスリットである。
【0012】
加えて、第4の発明に係る下面電子線滅菌装置は、第2または第3の発明に係る下面電子線滅菌装置における連続搬送手段が、隣り合う滅菌対象物を互いに接触させないように連続して搬送するものであり、
開口が、搬送されている滅菌対象物の側面にも電子線を照射させる大きさである。
【0013】
また、第5の発明に係る下面電子線滅菌装置は、第1乃至第4のいずれかの発明に係る下面電子線滅菌装置における電子線出射機が、先端部から電子線を出射する電子線出射ノズルを有するものである。
【発明の効果】
【0014】
前記下面電子線滅菌装置よると、滅菌対象物の下面全面に電子線が照射されるので、十分な滅菌をすることができる。また、滅菌対象物と固定板とを相対移動させる別途の機器が不要であり、電子線を照射する領域が小さくて済み、電子線出射機と固定板とを十分に離しておくことも不要であるから、小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る下面電子線滅菌装置を示す斜視図である。
【
図2】同下面電子線滅菌装置の固定板および滅菌対象物を当該滅菌対象物が搬送される方向に沿った断面で示す断面図である。
【
図3】本発明の実施例に係る下面電子線滅菌装置を具備する電子線滅菌設備を示す概略平面図である。
【
図4】同下面電子線滅菌装置の固定板のみ断面で示す概略側面図である。
【
図5A】従来の例でのメッシュコンベアで搬送されている滅菌対象物の下面を滅菌する装置を示す概略平面図であり、滅菌対象物が固定式の傾斜ガイドでスライドされる前を示す。
【
図5B】従来の例でのメッシュコンベアで搬送されている滅菌対象物の下面を滅菌する装置を示す概略平面図であり、滅菌対象物が固定式の傾斜ガイドでスライドされた後を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る下面電子線滅菌装置について、図面に基づき説明する。
【0017】
前記下面電子線滅菌装置は、概略的に、滅菌対象物の下面を電子線の照射により滅菌する装置である。
図1に示すように、この下面電子線滅菌装置3は、滅菌対象物10を連続して搬送する連続搬送手段31と、この連続搬送手段31に搬送されている滅菌対象物10に上面で接する固定式の固定板33と、この固定板33の下方に配置されて上方に向けて電子線3Eを出射する電子線出射機35とを備える。前記固定板33は、前記電子線3Eを通過させる電子線通過領域34を有する。当該電子線通過領域34を前記電子線3Eが下方から上方に通過することで、当該電子線通過領域34を有する固定板33の上面で搬送されている滅菌対象物10の下面13全面に、当該電子線3Eが照射される。なお、以下では、滅菌対象物10が搬送される元および先を、それぞれ上流側および下流側と称する。
【0018】
前記滅菌対象物10は、滅菌が必要な物であれば特に限定されないが、例えば、目薬容器またはバイアルなど、高い滅菌の精度が要求される物などである。前記滅菌対象物10の下面13は、前記固定板33の上面に接する面に限られず、当該前記固定板33の上面に向いている面も含む。
【0019】
前記連続搬送手段31は、滅菌対象物10を連続して搬送するものであれば、当該滅菌対象物10の下面13全面に電子線3Eが照射されるのを妨げないものである限り、特に限定されない。例えば、前記連続搬送手段31は、滅菌対象物10を押して搬送する連続搬送機、すなわち、スターホイールまたは移動式のグリッパなどである。また、前記連続搬送手段31は、このような連続搬送機以外にも、滅菌対象物10がその自重により上流側から下流側へ滑るようにされた構成でもよい。この場合、連続搬送手段31は、固定板33を上流側で高く下流側で低くなるように傾斜させた状態で保持する保持具となる。ここで、滅菌対象物10を連続して搬送するとは、1つの搬送手段で複数の滅菌対象物10を搬送することである。滅菌対象物10を連続して搬送するに該当するためには、隣り合う滅菌対象物10の間隔が必ずしも一定である必要は無く、また、複数の滅菌対象物10のそれぞれ搬送される速度が異なってもよい。例えば、滅菌対象物10が間欠的に(一時停止しながら)搬送され、または、搬送される速度が途中で変更されても、1つの搬送手段で複数の滅菌対象物10が搬送されるのであれば、滅菌対象物10が連続して搬送されると言える。なお、電子線出射機35から出射される電子線3Eの軸心またはその近傍で、搬送されている滅菌対象物10の一時停止または減速をすれば、当該滅菌対象物10に電子線3Eが十分に照射される。
【0020】
前記電子線出射機35は、滅菌対象物10の滅菌が可能な程度以上に電子線3Eを出射するものであれば、特に限定されない。電子線出射機35から出射される電子線3Eの方向は、直上方に限られず、当該電子線3Eが固定板33の電子線通過領域34を通過して滅菌対象物10の下面13を滅菌するのであれば、鉛直方向に対して傾斜した上方でもよい。電子線出射機35と固定板33との距離は、小型化のためにも小さい方が好ましい。また、前記電子線出射機35は、先端部から電子線3Eを出射する電子線出射ノズルを有するノズル式であることが好ましい。ノズル式の電子線出射機は、他の電子線出射機35よりも小型なので、採用されることで下面電子線滅菌装置3全体として小型化に繋がるからである。
【0021】
前記固定板33は、前記電子線通過領域34を有して前記連続搬送手段31に搬送されている滅菌対象物10に上面で接する固定式の板であれば、特に限定されない。また、前記固定板33は、下方から電子線3Eが照射されるので、電子線3Eの照射に長期間耐え得る材料(例えば金属)が採用されることが好ましい。さらに、前記固定板33は、その上面が水平に配置されることに限られず、水平に対して傾斜して配置されてもよい。
【0022】
前記固定板33の電子線通過領域34は、電子線3Eを通過させて搬送されている滅菌対象物10の下面13全面に照射させる領域であれば、特に限定されない。前記電子線通過領域34は、例えば、電子線3Eを透過させる材料からなる透過窓、または、搬送されている滅菌対象物10が落下しない大きさの開口である。前記電子線通過領域34は、電子線3Eを十分に通過させるためにも、前記透過窓よりも前記開口であることが好ましく、多数の開口であることがより好ましい。前記電子線通過領域34として多数の開口を採用した場合、
図1に示すように、各開口は、その長手方向を滅菌対象物10が搬送されている方向32に対して傾斜させたスリット34であることが好ましい。仮に、スリット34の長手方向が前記搬送されている方向32に対して平行であれば、電子線3Eの照射により滅菌対象物10の下面13に生じる固定板33からの影が移動せず、当該下面に電子線3Eが十分に照射されない部分を生じさせるおそれがある。また、仮に、スリット34の長手方向が前記搬送されている方向32に対して垂直であれば、搬送されている滅菌対象物10がスリット34に引っ掛かるおそれがある。しかしながら、スリット34の長手方向が前記搬送されている方向32に対して傾斜していれば、前述したおそれがないので、固定板33の上面で、滅菌対象物10の下面13に電子線3Eが十分に照射されるとともに、当該滅菌対象物10が滑らかに搬送される。
【0023】
さらに好ましくは、前記連続搬送手段31が隣り合う滅菌対象物10を互いに接触させないように連続して搬送するものであり、各開口が搬送されている滅菌対象物10の側面にも電子線3Eを照射させる大きさである。この構成により、
図2に示すように、開口(例えばスリット34)を通過した電子線3Eの電子e
-は、滅菌対象物10の下面13(符号e1参照)に達するだけでなく、滅菌対象物10の側面(符号e2参照)、および、固定板33の開口していない上面(符号e3参照)にも達する。すなわち、この構成により、滅菌対象物10の側面の一部および固定板33の上面の一部にも電子線3Eが照射される。好ましくは、固定板33の上面に電子線3Eが十分に照射されるために、滅菌対象物10が搬送される方向に沿って断面において、各開口の幅が、隣り合う滅菌対象物10の間隔よりも大きくされる。
【0024】
以下、前記下面電子線滅菌装置3の作用について説明する。
【0025】
図1に示すように、連続搬送手段31の一例である連続搬送機31により、滅菌対象物10が固定板33の上面に接しながら連続して搬送される。これら連続して搬送されている滅菌対象物10は、いずれも固定板33の電子線通過領域34上を通り過ぎる。一方で、固定板33の下方から電子線出射機35が電子線3Eを上方に向けて出射しているので、当該電子線3Eが電子線通過領域34を通過して搬送されている滅菌対象物10の下面13に照射される。下面に電子線3Eが照射されている滅菌対象物10は電子線通過領域34に対して相対的に移動しているので、前記電子線3Eの照射により当該下面に生じる固定板33からの影が移動することになる。このため、滅菌対象物10の下面13全面に電子線3Eが照射される。
【0026】
前記下面電子線滅菌装置3では、滅菌対象物10の搬送以外に当該滅菌対象物10と固定板33とを相対移動させないので、
図5Aおよび
図5Bで示したような当該相対移動のための別途の機器C33が不要である。このため、当該相対移動の前後の位置で滅菌対象物10に電子線3Eが照射されるようにすることも不要になるので、電子線3Eを照射する領域が小さくて済む。また、固定板33は、固定式であり移動式ではないので、万一のために電子線出射機35から十分に離しておくことも不要である。
【0027】
このように、前記下面電子線滅菌装置3によると、滅菌対象物10の下面13全面に電子線3Eが照射されるので、十分な滅菌をすることができる。また、前記下面電子線滅菌装置3によると、滅菌対象物10と固定板33とを相対移動させる別途の機器が不要であり、電子線3Eを照射する領域が小さくて済み、電子線出射機35と固定板33とを十分に離しておくことも不要であるから、小型化することができる。
【0028】
また、電子線通過領域34が、搬送されている滅菌対象物10が落下しない大きさの多数の開口であることにより、電子線3Eを十分に通過させる。このため、滅菌対象物10の下面13全面に十分な電子線3Eが照射されるので、さらに十分な滅菌をすることができる。
【0029】
さらに、各開口が、その長手方向を滅菌対象物10が搬送されている方向32に対して傾斜させたスリット34であることにより、滅菌対象物10の下面13に電子線3Eが十分に照射されるとともに、滅菌対象物10が滑らかに搬送される。このため、安定して滅菌対象物10の下面13全面に電子線3Eが照射されるので、さらに十分な滅菌をすることができる。
【0030】
加えて、連続搬送手段31が隣り合う滅菌対象物10を互いに接触させないように連続して搬送するものであり、各開口が搬送されている滅菌対象物10の側面にも電子線3Eを照射させる大きさであることにより、滅菌対象物10の側面の一部および固定板33の上面の一部にも電子線3Eが照射されるので、さらに十分な滅菌をすることができる。
【0031】
また、電子線出射機35が、先端部から電子線3Eを出射する電子線出射ノズルを有するノズル式であることにより、さらに小型化することができる。
【実施例】
【0032】
以下、前記実施の形態をより具体的に示した実施例に係る下面電子線滅菌装置3について、図面に基づき説明する。本実施例では、前記実施の形態とは異なる構成に着目して説明するとともに、前記実施の形態と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。なお、本実施例に係る下面電子線滅菌装置3は、電子線滅菌設備を構成する装置の1つである。このため、まずは電子線滅菌設備について説明する。
【0033】
図3に示すように、この電子線滅菌設備1は、上流側から順に、前記下面電子線滅菌装置3まで連続して滅菌対象物10を搬送する上流側搬送装置2と、前記下面電子線滅菌装置3と、この下面電子線滅菌装置3での滅菌が不十分な滅菌対象物10を排出する下面滅菌後リジェクト装置4とを具備する。また、前記電子線滅菌設備1は、上流側から順に、前記下面滅菌後リジェクト装置4で排出されなかった(滅菌が十分な)滅菌対象物10を搬送する下流側搬送装置5と、下流側搬送装置5に搬送されている滅菌対象物10の上面および側面を電子線6Eの照射により滅菌する上側面電子線滅菌装置6と、この上側面電子線滅菌装置6での滅菌が不十分な滅菌対象物10を排出する上側面滅菌後リジェクト装置7とを具備する。
【0034】
前記上流側搬送装置2は、上流側から連続して搬送されてきた滅菌対象物10を載置して円経路に搬送するターンテーブル21と、このターンテーブル21で円経路に搬送されている滅菌対象物10を当該ターンテーブル21の上で適切に案内する固定式のターンテーブル上ガイド22とを備える。滅菌対象物10は、ターンテーブル21の上では隣り合うものと互いに接触することになるが、下面電子線滅菌装置3では隣り合うものと互いに接触しない。このため、滅菌対象物10は、ターンテーブル21から下面電子線滅菌装置3に受け渡されるにあたって、隣り合うものと間隔を有する必要がある。この間隔を生じさせる機器として、前記上流側搬送装置2は、ターンテーブル上ストッパ23を備えてもよい。なお、ターンテーブル上ストッパ23が前記間隔を生じさせる機能を備えなくても、後述するスターホイール板132の形状により、前記間隔が生ずるようにしてもよい。いずれであっても、本実施例に係る下面電子線滅菌装置3では、滅菌対象物10が隣り合うものと間隔を有するように連続して搬送される。
【0035】
以下、本実施例に係る下面電子線滅菌装置3について詳細に説明する。
【0036】
この下面電子線滅菌装置3は、連続搬送手段としてのスターホイール131と、このスターホイール131に搬送されている滅菌対象物10に上面で接する固定式の固定板33とを備える。
図4に示すように、前記下面電子線滅菌装置3は、この固定板33の下方に配置されて上方に向けて電子線3Eを出射するノズル式の電子線出射機135とを備える。前記固定板33には、下方からの電子線3Eを通過させる多数のスリット34が形成されている。これらスリット34を前記電子線3Eが下方から上方に通過することで、当該スリット34を有する固定板33の上面に接して搬送されている滅菌対象物10の下面13全面に、当該電子線3Eが照射される。
【0037】
図3に示すように、前記スターホイール131は、円板の外周囲に当該円板よりも小さい円弧の切欠きが連続して等間隔で多数形成されたスターホイール板132と、このスターホイール板132を回転させる回転機構133とを有する。スターホイール板132の回転により、前記円弧の切欠きに保持された滅菌対象物10が固定板33の上面で連続して搬送されるだけでなく、下面滅菌後リジェクト装置4の構成部材であるリジェクト板41の上面でも連続して搬送される。スターホイール131に搬送されている隣り合う滅菌対象物10は、前記スターホイール板132の外周囲における円弧状の切欠きにより一定の間隔で切出されるので、互いに接触しない。なお、前記ターンテーブル上ガイド22のうちターンテーブル21の上で内側に位置する方は、前記スターホイール131で搬送されている滅菌対象物10を円経路に案内するアウターガイドとして、前記固定板33およびリジェクト板41を介して下流側搬送装置5まで渡されている。このようなアウターガイドを設けない場合、スターホイール板132の外周囲における円弧状の切欠きには、円経路に案内する滅菌対象物10を吸着させるための真空吸着パットが付けられる。
【0038】
前記固定板33に形成された多数のスリット34は、それらの長手方向を、前記滅菌対象物10が搬送される方向である前記スターホイール板132の回転円周方向に対して傾斜させている。また、各スリット34は、前記スターホイール131で搬送される滅菌対象物10の軌跡を完全に横断する長さを有する。さらに、
図4に示すように、各スリット34の短手方向における幅は、搬送されている滅菌対象物10の側面の一部および隣り合うスリット34の間の上面の一部にも電子線3Eを照射させる程度である。
【0039】
前記ノズル式の電子線出射機135は、電子線3Eを発生させる電子線発生器136と、この電子線発生器136を内部に配置した真空チャンバ137と、この真空チャンバ137に気密に接続されて先端部から電子線3Eを出射する電子線出射ノズル138とを有する。
【0040】
以下、前記下面電子線滅菌装置3の作用について説明する。
【0041】
図3に示すように、上流側搬送装置2で下面電子線滅菌装置3まで連続して搬送されてきた滅菌対象物10は、下面電子線滅菌装置3のスターホイール131により、固定板33の上面および下面滅菌後リジェクト装置4のリジェクト板41の上面を介して、下流側搬送装置5まで連続して搬送される。
【0042】
固定板33の上面では、当該固定板33の上面に滅菌対象物10が接しながら連続して搬送される。一方で、固定板33の下方からノズル式の電子線出射機135が電子線3Eを上方に向けて出射しているので、当該電子線3Eが多数のスリット34を通過して搬送されている滅菌対象物10の下面13に照射される。下面に電子線3Eが照射されている滅菌対象物10は多数のスリット34に対して相対的に移動しているので、前記電子線3Eの照射により当該下面に生じる固定板33からの影が移動することになる。さらに、各スリット34の長手方向が滅菌対象物10の搬送されている方向32に対して傾斜しているので、滅菌対象物10の下面13全面に十分に電子線3Eが照射される。
【0043】
また、
図4に示すように、ノズル式の電子線出射機135からの電子線3Eは、滅菌対象物10の下面13を照射するだけでなく、滅菌対象物10の側面の一部および隣り合うスリット34の間の上面の一部も照射する。
【0044】
前記下面電子線滅菌装置3では、滅菌対象物10の搬送以外に当該滅菌対象物10と固定板33とを相対移動させないので、
図5Aおよび
図5Bで示したような当該相対移動のための別途の機器C33が不要である。このため、当該相対移動の前後の位置で滅菌対象物10に電子線3Eが照射されるようにすることも不要になるので、電子線3Eを照射する領域が小さくて済む。また、固定板33は、固定式であり移動式ではないので、万一のためにノズル式の電子線出射機135から十分に離しておくことも不要である。
【0045】
このように、本実施例に係る下面電子線滅菌装置3によると、滅菌対象物10の下面13全面に電子線3Eが十分に照射されるので、さらに十分な滅菌をすることができる。また、前記下面電子線滅菌装置3によると、滅菌対象物10と固定板33とを相対移動させる別途の機器が不要であり、電子線3Eを照射する領域が小さくて済み、ノズル式の電子線出射機135と固定板33と十分に離しておくことも不要であるから、さらに小型化することができる。
【0046】
ところで、前記実施の形態では、多数の開口として多数のスリット34を図示したが、滅菌対象物10の下面に電子線が必要なだけ照射されるのであれば、1つの開口(スリット34)でもよい。また、開口は、スリット34以外に、丸孔、角孔または十文字孔など、どのような形状であってもよい。多数の開口が多数の丸孔である場合、これら多数の丸孔を有する固定板33には、パンチングメタルを採用してもよい。
【0047】
また、実施例では、
図3に示す上側面電子線滅菌装置6について詳しく説明しなかったが、この上側面電子線滅菌装置6は、滅菌対象物10の上側面に電子線を照射する電子線出射機65を有し、当該電子線出射機65がスターホイール板132の外周囲(滅菌対象物10に接し得る部分)まで電子線6Eを照射するものであることが好ましい。
【0048】
さらに、前記実施の形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、前述した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。前記実施の形態および実施例で説明した構成のうち「課題を解決するための手段」での第1の発明として記載した構成以外については、任意の構成であり、適宜削除および変更することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
3 下面電子線滅菌装置
3E 電子線
10 滅菌対象物
13 滅菌対象物の下面
31 連続搬送手段
32 搬送されている方向
33 固定板
34 電子線通過領域(スリット)
35 電子線出射機
131 スターホイール
132 スターホイール板
133 回転機構
135 ノズル式の電子線出射機
136 電子線発生器
137 真空チャンバ
138 電子線出射ノズル