IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱化学エンジニアリング株式会社の特許一覧

特許7217178キャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法
<>
  • 特許-キャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法 図1
  • 特許-キャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法 図2
  • 特許-キャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法 図3
  • 特許-キャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】キャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/88 20190101AFI20230126BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20230126BHJP
   B29C 41/26 20060101ALI20230126BHJP
   B29C 41/46 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
B29C48/88
B29C48/08
B29C41/26
B29C41/46
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019044002
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020146854
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000176763
【氏名又は名称】三菱ケミカルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0232654(US,A1)
【文献】特開2010-262831(JP,A)
【文献】特開2010-017943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96,41/26,41/46,
H05B 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂フィルム・シート形に用いられるキャスティングドラム装置であって、
固定軸と、
前記固定軸の表面に配置された冷却手段、または、冷却手段および加熱手段と、
前記冷却手段、または、冷却手段および加熱手段を覆うように、前記固定軸に対して回転可能に設けられた中空円筒形の回転環とを備え、
前記冷却手段、または、冷却手段および加熱手段により、前記回転環を冷却、または、冷却および加熱し、
前記冷却手段が冷却ロールであり、前記加熱手段が誘導コイルであることを特徴とする、キャスティングドラム装置。
【請求項2】
前記冷却手段、または、冷却手段および加熱手段が、前記合成樹脂フィルム・シートの材料樹脂、前記合成樹脂フィルム・シートに求められる物性・特性等に応じて、前記固定軸の表面に配置されることを特徴とする、請求項1に記載のキャスティングドラム装置。
【請求項3】
前記冷却手段である前記冷却ロールが、前記回転環の中心軸と直交する断面において、前記回転環の内側表面と接触するように配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載のキャスティングドラム装置。
【請求項4】
前記加熱手段である前記誘導コイルが、前記回転環の中心軸と直交する断面において、該誘導コイルの前記回転環側の表面が、前記回転環の内側表面と略平行となるように非接触で配置されることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
【請求項5】
前記冷却手段、または、冷却手段および加熱手段が、前記回転環の中心軸と略平行となるように、前記固定軸の表面に配置されることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
【請求項6】
前記冷却手段、または、冷却手段および加熱手段が、前記回転環の中心軸と略平行となるように、かつ、帯状に連続して前記固定軸の表面に配置されることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
【請求項7】
前記冷却ロールの冷却が、冷媒を用いるか、または、ベルチェ素子を用いて行われることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
【請求項8】
前記冷却手段である前記冷却ロールの冷却が、ベルチェ素子を用いて行われ、該ベルチェ素子に直流電流を流すことにより生じるベルチェ効果を利用したものであることを特徴とする、請求項7に記載のキャスティングドラム装置。
【請求項9】
前記加熱手段である前記誘導コイルに、交流電流を流して強度の変化する磁力線を発生させることにより、前記回転環を誘導加熱することを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
【請求項10】
前記回転環が、ステンレス製の中空円筒であることを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
【請求項11】
前記回転環が、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の内層、ステンレス製の外層から形成された積層中空円筒、または炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の中空円筒であることを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
【請求項12】
前記請求項1~11のいずれかに記載のキャスティングドラム装置を用いることにより、合成樹脂を溶媒に溶解させた溶液または溶融させた合成樹脂から、合成樹脂フィルム・シートを成形することを特徴とする、合成樹脂フィルム・シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂フィルム・シートを成形する際に用いられるキャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂フィルム・シートは、溶融押出成型法、溶液流延法等により製造される。
【0003】
溶融押出成型法は、最も一般的な合成樹脂フィルム・シートの製造方法であり、押出機内で加熱して溶融させた熱可塑性樹脂を押出金型の吐出口から押し出し、ドラム上で冷却することにより、合成樹脂フィルム・シートが製造される。
【0004】
溶液流延法は、溶融させると分解しやすい樹脂または融点が高い樹脂を用いて合成樹脂フィルム・シートを製造する場合によく用いられる製造方法であり、合成樹脂を溶媒に溶解させた溶液を、表面を平滑にしたドラムまたは平滑ベルト上に供給した後、溶液を加熱・乾燥させることにより、合成樹脂フィルム・シートが製造される。溶液流延法で製造された合成樹脂フィルム・シートは、高分子の配向が生じていないため強度や光学特性に方向性がない、厚み精度が高い、平滑性、透明性および光沢性に優れる等の優れた物性・特性を有することから、光学用途に多く用いられる。
【0005】
特許文献1には、図4に示すように、外筒21、内筒22、外筒21と内筒22間の空隙23を仕切るらせん溝隔壁24、一方の軸25、他方の軸26、および液状熱媒分岐管27が一体に形成されたキャスティングドラム20が開示されている。このキャスティングドラム20は一方の軸25および他方の軸26で支持されて回転すると共に、冷却水が、一方の軸25の内部→液状熱媒分岐管27→外筒21と内筒22間の空隙23→液状熱媒分岐管27→他方の軸26の内部という経路を通じて供給され、キャスティングドラム20の表面が冷却される。
【0006】
特許文献2には、ポリカーボネート樹脂溶液を金属ベルト上で固形化する際の加熱方法として、赤外線加熱、加熱ガス接触、電磁誘導加熱、ガスヒーター加熱等任意の加熱方法を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第99/02328号
【文献】特開2005-200589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の合成樹脂フィルム・シートを溶融押出成型法、溶液流延法等により製造する際に用いられるキャスティングドラムとしては、一般に、上記特許文献1に開示されているように、軸部、スポーク、胴部等の構成部材が一体に形成されたものが用いられている。このキャスティングドラムは、軸部で支持されて回転すると共に、加熱媒体・冷却媒体が供給されて胴部表面が加熱・冷却される。
【0009】
しかしながら、近年、合成樹脂フィルム・シートの量産化、幅広化、薄膜化等の要望・需要に応じるために、キャスティングドラムは大型化されているが(例えば、直径が4m、幅が6m)、キャスティングドラムの大型化により、
a)キャスティングドラムの重量が増加し、キャスティングドラムの回転駆動に要するエネルギーが増加する、
b)キャスティングドラムの重量が増加し、キャスティングドラムの自重による撓みが大きくなること、および、キャスティングドラムの容積が増加し、胴部に供給される加熱媒体・冷却媒体の内圧によりキャスティングドラムが太鼓状に膨張することに伴い、キャスティングドラムと、合成樹脂材料をキャスティングドラム上に供給する装置との距離が均一に保てなくなり、合成樹脂フィルム・シートの膜厚を均一に保つのが難しくなる、
c)キャスティングドラムの熱容量が増加し、キャスティングドラムの表面温度を応答性良く設定・制御するのが難しくなる
等の問題が生じる。
【0010】
また、キャスティングドラムに代えて、特許文献2に開示されるような金属ベルトを採用することも可能ではあるが、この場合には設備コストが高くなる等の問題が生じる。
【0011】
さらに、近年、高度な物性・特性を有する合成樹脂フィルム・シートが求められるようになったことに伴い、キャスティングドラムの全周の表面温度を均一に加熱・冷却するのではなく、キャスティングドラム表面が、合成樹脂を溶媒に溶解させた溶液または溶融させた合成樹脂(以下、「液状合成樹脂」ともいう。)と接触する位置に応じて、キャスティングドラム表面の加熱温度を設定・制御する必要性が生じてきた。
【0012】
本発明者等は、上記の問題を解決することを鋭意検討し、本発明を成したものである。
すなわち、本発明の課題は、キャスティングドラムを大型化した場合でも、キャスティングドラムを経済的・効率的に回転駆動することができ、均一な厚みの合成樹脂フィルム・シートを製造でき、キャスティングドラムの表面温度を応答性良く設定・制御できる、キャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のキャスティングドラム装置は、
1)固定軸と、固定軸の表面に配置された冷却手段および/または加熱手段と、該冷却手段および/または加熱手段を覆うように固定軸に対して回転可能に設けられた中空円筒形の回転環とを備えるように構成され、冷却手段および/または加熱手段で回転環を冷却および/または加熱すること、および
2)加熱手段として誘導コイルを用い、冷却手段として冷却ロールを用いることにより、前記の課題を解決するものである。
【0014】
また、本発明のキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法は、上記のようなキャスティングドラム装置を用いて、合成樹脂フィルム・シートを製造することにより、前記の課題を解決するものである。
【0015】
本発明の要旨を以下に示す。
(1)合成樹脂フィルム・シート形に用いられるキャスティングドラム装置であって、
固定軸と、
前記固定軸の表面に配置された冷却手段、または、冷却手段および加熱手段と、
前記冷却手段、または、冷却手段および加熱手段を覆うように、前記固定軸に対して回転可能に設けられた中空円筒形の回転環とを備え、
前記冷却手段、または、冷却手段および加熱手段により、前記回転環を冷却、または、冷却および加熱し、
前記冷却手段が冷却ロールであり、前記加熱手段が誘導コイルであることを特徴とする、キャスティングドラム装置。
(2)前記冷却手段、または、冷却手段および加熱手段が、前記合成樹脂フィルム・シートの材料樹脂、前記合成樹脂フィルム・シートに求められる物性・特性等に応じて、前記固定軸の表面に配置されることを特徴とする、(1)に記載のキャスティングドラム装置。
(3)前記冷却手段である前記冷却ロールが、前記回転環の中心軸と直交する断面において、前記回転環の内側表面と接触するように配置されることを特徴とする、(1)または(2)に記載のキャスティングドラム装置。
(4)前記加熱手段である前記誘導コイルが、前記回転環の中心軸と直交する断面において、該誘導コイルの前記回転環側の表面が、前記回転環の内側表面と略平行となるように非接触で配置されることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
(5)前記冷却手段、または、冷却手段および加熱手段が、前記回転環の中心軸と略平行となるように、前記固定軸の表面に配置されることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
(6)前記冷却手段、または、冷却手段および加熱手段が、前記回転環の中心軸と略平行となるように、かつ、帯状に連続して前記固定軸の表面に配置されることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
(7)前記冷却ロールの冷却が、冷媒を用いるか、または、ベルチェ素子を用いて行われることを特徴とする、(1)~(6)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
(8)前記冷却手段である前記冷却ロールの冷却が、ベルチェ素子を用いて行われ、該ベルチェ素子に直流電流を流すことにより生じるベルチェ効果を利用したものであることを特徴とする、(7)に記載のキャスティングドラム装置。
(9)前記加熱手段である前記誘導コイルに、交流電流を流して強度の変化する磁力線を発生させることにより、前記回転環を誘導加熱することを特徴とする、(1)~(8)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
(10)前記回転環が、ステンレス製の中空円筒であることを特徴とする、(1)~(9)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
(11)前記回転環が、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の内層、ステンレス製の外層から形成された積層中空円筒、または炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の中空円筒であることを特徴とする、(1)~(10)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
(12)前記(1)~(11)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置を用いることにより、合成樹脂を溶媒に溶解させた溶液または溶融させた合成樹脂から、合成樹脂フィルム・シートを成形することを特徴とする、合成樹脂フィルム・シートの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のキャスティングドラム装置は、表面に冷却手段および/または加熱手段が配置された固定軸と、該固定軸に対して回転可能に設けられた中空円筒形の回転環とを備えるように構成したことにより、従来のように重量の大きいキャスティングドラム全体を回転させるのではなく、重量の小さい回転環を部分的に回転させることから、キャスティングドラムを大型化した場合でも経済的・効率的に回転駆動することができる。
【0017】
さらに、従来のように重量の大きいキャスティングドラムを支持・回転させるのではなく、重量の小さい回転環を支持・回転させること、および従来のように胴部に直接加熱媒体・冷却媒体を供給しないことから、キャスティングドラムを大型化した場合でも均一な厚みの合成樹脂フィルム・シートを製造することができる。
【0018】
さらに、熱容量の小さい回転環を冷却および/または加熱することから、回転環の表面温度を応答性良く設定・制御することができる。
【0019】
さらに、a)冷却手段および/または加熱手段が配置される固定軸の形状および/またはb)固定軸の表面における冷却手段および/または加熱手段の配置を調整することにより、回転環の回転方向(合成樹脂フィルム・シートの長手方向)および回転環の中心軸と平行方向(合成樹脂フィルム・シートの幅方向)における回転環の表面温度を、自由自在に設定・制御することが可能となり、合成樹脂フィルム・シートの材料樹脂、合成樹脂フィルム・シートに求められる物性・特性等に応じて、回転環の表面温度を自由自在に設定・制御することができる。
【0020】
さらに、冷却手段として冷却ロールを用い、これを回転環の中心軸と直交する断面において、回転環の内側表面と接触するように配置すること、および/または、加熱手段として誘導コイルを用い、これを回転環の中心軸と直交する断面において、誘導コイルの回転環側の表面が、回転環の内側表面と略平行となるように非接触で配置することにより、回転環の表面温度の設定・制御をきめ細かく行うことができる。
【0021】
また、本発明のキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法は、上記のようなキャスティングドラム装置を用いて、合成樹脂フィルム・シートを製造することにより、キャスティングドラムを大型化した場合でも経済的・効率的に回転駆動することができ、膜厚の均一な合成樹脂フィルム・シートを容易に製造することができ、また、求められる物性・特性等を有する合成樹脂フィルム・シートを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のキャスティングドラム装置の実施形態を示す、回転環の中心軸を含む断面の模式図である。
図2図1のA-A断面を含むキャスティングドラム装置を示す模式図である。
図3図2の部分拡大図である。
図4】従来例である、特許文献1のFig.10である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のキャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法について、図面も用いながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
まず、本発明のキャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法の一般的な事項について説明する。
【0025】
<キャスティングドラムを用いた合成樹脂フィルム・シートの製造一般>
合成樹脂フィルム・シートは、溶融押出成型法、溶液流延法等により製造される。
【0026】
溶融押出成型法は、最も一般的な合成樹脂フィルム・シートの製造方法であり、押出機内で加熱し溶融させた熱可塑性樹脂を押出金型の吐出口から押し出し、ドラム上で冷却することにより、合成樹脂フィルム・シートが製造される。
【0027】
溶液流延法は、溶融させると分解しやすい樹脂または融点が高い樹脂を用いて合成樹脂フィルム・シートを製造する場合によく用いられる製造方法であり、合成樹脂を溶媒に溶解させた溶液を、表面を平滑にしたドラムまたは平滑ベルト上に供給した後、加熱・乾燥させることにより、合成樹脂フィルム・シートが製造される。溶液流延法で製造された合成樹脂フィルム・シートは、高分子の配向が生じていないため強度や光学特性に方向性がない、厚み精度が高い、平滑性、透明性および光沢性に優れる等の優れた物性・特性を有するため、光学用途に多く用いられる。
【0028】
キャスティングドラムとしては、図4に示すような、外筒21、内筒22、外筒21と内筒22間の空隙23を仕切るらせん溝隔壁24、一方の軸25、他方の軸26、および液状熱媒分岐管27が一体に形成されたキャスティングドラム20が用いられ、このキャスティングドラム20は一方の軸25および他方の軸26で支持されて回転すると共に、冷却水が、一方の軸25の内部→液状熱媒分岐管27→外筒21と内筒22間の空隙23→液状熱媒分岐管27→他方の軸26の内部という経路を通じて供給され、キャスティングドラム20の表面が冷却される。
【0029】
溶融押出成型法では、液状合成樹脂を冷却するために、キャスティングドラム内に水等の冷媒が供給される(特許文献1)。また、溶液流延法では、液状合成樹脂から溶媒を除くために、キャスティングドラム内にスチーム、温水等の加熱媒体が供給されたり、電気ヒータ、誘導加熱コイル等の熱源が用いられる(特許文献2)。
【0030】
<本発明の主要な特徴>
本発明のキャスティングドラム装置1の実施形態を図1~3に示す。図1は回転環4の中心軸9を含む断面の模式図であり、図2図1のA-A断面を含むキャスティングドラム装置を示す模式図であり、図3図2の部分拡大図である。
【0031】
本発明のキャスティングドラム装置1の主要な特徴は、
1)冷却手段および/または加熱手段3が表面に配置された固定軸2と、該固定軸2に対して回転可能に設けられた中空円筒形の回転環4とを備えるように構成されていること、
2)固定軸2の表面に配置された冷却手段および/または加熱手段3により、回転環4を冷却および/または加熱するように構成されていること、および
3)冷却手段として冷却ロール3-1を用い、加熱手段として誘導コイル3-2を用いるように構成されていることにある。
【0032】
上記1)の構成により、本発明のキャスティングドラム装置1は、従来のように重量の大きいキャスティングドラム全体を回転させるのではなく、重量の小さい回転環4を部分的に回転させることから、キャスティングドラムを大型化した場合でも経済的・効率的に回転駆動することができる。さらに、本発明のキャスティングドラム装置1では、従来のように重量の大きいキャスティングドラムを支持・回転させるのではなく、重量の小さい回転環4を支持・回転させることから、キャスティングドラムを大型化した場合でもキャスティングドラムの撓みを小さくし均一な厚みの合成樹脂フィルム・シート5を製造することができる。
【0033】
上記2)の構成により、本発明のキャスティングドラム装置1は、従来のように熱容量の大きいキャスティングドラムを冷却および/または加熱するのではなく、熱容量の小さい回転環4を冷却および/または加熱することから、回転環4の表面温度を応答性良く設定・制御することができる。さらに、合成樹脂フィルム・シート5の材料樹脂、合成樹脂フィルム・シート5に求められる物性・特性等に応じて、a)冷却手段および/または加熱手段3が配置される固定軸2の形状および/またはb)固定軸2の表面における冷却手段および/または加熱手段3の配置を調整することにより、回転環4の表面温度を自由自在に設定・制御することができる。すなわち、回転環4に対する冷却手段および/または加熱手段3の配置を三次元的に調整できるため、回転環4の回転方向(合成樹脂フィルム・シート5の長手方向)および回転環4の中心軸9と平行方向(合成樹脂フィルム・シート5の幅方向)における回転環4の表面温度を、自由自在に設定・制御することができる。
【0034】
上記3)の構成により、本発明のキャスティングドラム装置1は、従来のように胴部に直接加熱媒体・冷却媒体を供給しないことから、大型化した場合でもキャスティングドラムの膨張を小さくし均一な厚みの合成樹脂フィルム・シート5を製造することができる。具体的には、a)回転環4の中心軸と直交する断面において、冷却ロール3-1を、回転環4の内側表面4Aと点接触するように配置すること、および/または、b)回転環4の中心軸と直交する断面において、誘導コイル3-2を、誘導コイル3-2の回転環側の表面3-2Aが、回転環4の内側表面4Aと略平行となるように非接触で配置することにより、回転環4の表面温度の設定・制御をきめ細かく、かつ、経済的・効率的に行うことができる。
【0035】
<冷却手段および/または加熱手段の固定軸の表面への配置>
本件発明の基本的な技術思想は、中空円筒形の回転環4の表面温度を、回転環4の中空部に配置した冷却手段および/または加熱手段3によって設定・制御することにあり、固定軸2は、これらの冷却手段および/または加熱手段3を、回転環4の中空部において、三次元的に調整して配置するために用いられる。冷却手段および/または加熱手段3は、合成樹脂フィルム・シート5の材料樹脂、前記合成樹脂フィルム・シート5に求められる物性・特性等に応じて、回転環4の表面温度を設定・制御できるように、固定軸2の表面に配置される。
【0036】
<冷却手段、加熱手段>
本発明のキャスティングドラム装置1では、冷却手段として冷却ロール3-1を用い、加熱手段として誘導コイル3-2を用いる。a)回転環4の中心軸9と直交する断面において、冷却ロール3-1を、回転環4の内側表面4Aと接触するように配置すること、および/または、b)回転環4の中心軸9と直交する断面において、誘導コイル3-2を、誘導コイル3-2の回転環4側の表面3-2Aが、回転環4の内側表面4Aと略平行となるように非接触で配置することにより、回転環4の表面温度の設定・制御をきめ細かく、かつ、経済的・効率的に行うことができる。
【0037】
冷却ロール3-1の回転環4の内側表面4Aへの接触は、回転環4の内側表面4Aの弾性率が高い場合には線接触に近いものとなり、回転環4の内側表面4Aの弾性率が低い場合には面接触に近いものとなる。
【0038】
冷却ロール3-1の冷却は、冷媒またはベルチェ素子を用いて行うのが好ましく、応答性の観点からは、ベルチェ素子を用いて行うのがより好ましい。ベルチェ素子は、直流電流を流すことにより生じるベルチェ効果を利用して、回転環4に接触させて冷却を行うものであり、一般に製造・販売されているものを用いることができる。
【0039】
誘導コイル3-2は、交流電流を流すことにより生じる磁力線の強度変化を利用して、非接触で回転環4に渦電流を生じさせて加熱を行うものであり、一般に製造・販売されているものを用いることができる。誘導コイル3-2は、応答性が良好であり、回転環4の表面温度をきめ細かく設定・制御できる。
【0040】
冷却ロール3-1の冷却をベルチェ素子により行う場合には、冷却手段(ベルチェ素子)および/または加熱手段(誘導コイル)3を応答性の良い電気系統により設定・制御できることから、回転環4の表面温度をきめ細かく設定・制御することができる。
【0041】
<固定軸の形状>
冷却手段および/または加熱手段3が表面に配置される固定軸2は、通常、内部に配線等を配置する必要があることから中空体とされる。
【0042】
固定軸2への冷却手段および/または加熱手段3の配置としては、冷却手段および/または加熱手段3を直接、固定軸2に固定してもよいし、支持部材3-3を介して、固定軸2に固定してもよい。
【0043】
固定軸2の形状(表面形状、断面形状等)としては、回転環4の表面温度を適切に設定・制御できる位置に、冷却手段および/または加熱手段3を配置可能な適宜の形状を採用することができる。
【0044】
<冷却手段および/または加熱手段の配置>
回転環4の表面温度をきめ細かく設定・制御するためには、複数の冷却手段および/または加熱手段3を配置することが好ましい。
【0045】
また、合成樹脂フィルム・シート5は、通常、幅方向の物性・特性が均一・均質であるものが求められることが多いが、このような場合には、冷却手段および/または加熱手段3を回転環4の中心軸9と略平行となるように、固定軸2の表面に配置することが好ましい。
【0046】
さらに、合成樹脂フィルム・シート5の幅方向の物性・特性をより均一・均質にするためには、冷却手段および/または加熱手段3を回転環4の中心軸9と略平行となるように、かつ、帯状に連続して固定軸2の表面に配置することが好ましい。
【0047】
<回転環の表面温度の設定・制御>
回転環4の表面温度を設定・制御するために、次のような方法を用いることができる。
1)固定軸2の表面における、冷却ロール3-1および/または誘導コイル3-2の配置を調整する方法、
2)固定軸2の形状(表面形状、断面形状等)および/または支持部材3-3の形状の設定により、回転環4と冷却ロール3-1との距離・接触状態および/または回転環4と誘導コイル3-2との距離を調整する方法、
3)冷却ロール3-1に供給される冷媒の温度・流量および/または誘導コイル3-2に供給される電気の電力・周波数等を調整する方法、
4)上記1)~3)の方法を併用する方法
上記の方法により、回転環4の表面温度を、回転環4の回転方向(合成樹脂フィルム・シート5の長手方向)および回転環4の中心軸9と平行方向(合成樹脂フィルム・シート5の幅方向)に自由自在に設定・制御することができる。
【0048】
設定・制御のしやすさ、経済性等の観点からは、
a)回転環4の中心軸9と直交する断面形状が、均一な円形または多角形である固定軸2を用い、
b)複数の帯状に連続した冷却手段および/または加熱手段3を、回転環4の中心軸9と略平行となるように、固定軸2の表面に配置して、
上記3)の方法により、回転環4の表面温度の設定・制御を行うことが好ましい。
【0049】
<固定軸および回転環の構造>
固定軸2および回転環4の材質としては、特に限定されないが、価格、物性・特性等の観点から、通常、炭素鋼を用いる。回転環4の材質として、炭素繊維強化プラスチック(以下、「CFRP」ともいう。)を用いると、
a)回転環4の重量を軽減できることから、大型化した場合でも、回転環4を一層経済的・効率的に回転駆動することができる、
b)回転環4の弾性率を高くして撓みを小さくでき、また、回転環4の熱膨張率を小さくして熱変形を小さくできることから、膜厚の均一な合成樹脂フィルム・シート5を一層容易に製造することができる、
c)回転環4の熱伝導率を高くして熱容量を小さくできることから、回転環4の表面温度を一層応答性良く設定・制御することができる
等のメリットがあるので好ましい。
【0050】
特に、冷却ロール3-1の冷却にベルチェ素子を用いる場合には、冷媒を用いる場合に比べて冷却能力が低いことから、回転環4を熱容量の小さいCFRP製とするのが好ましい。
【0051】
CFRPの炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維を好適に用いることができる。
【0052】
回転環4の材質としてCFRPを用いる場合には、回転環4の表面の傷つきを防止するために、回転環4の表面に金属層を設けることが望ましい。具体的には、CFRP製の内層、炭素鋼製の外層から形成された積層中空円筒とすること、CFRP製の内層の表面に金属メッキを施すことが挙げられる。
【0053】
金属メッキの種類としては、例えばクロムメッキ、ニッケルメッキ、亜鉛メッキなどが好適に用いられ、単独でまたは2種以上の多層の組み合わせで使用することができるが、特に表面平滑化の容易さやその耐久性の点から最表面がクロムメッキされ、表面粗さが3S以下、特に0.5S以下であることが好ましい。
【0054】
回転環4を固定軸2に対して回転可能に取り付ける方法としては、公知の一般的な方法を採用することができるが、図1に示すようにボールベアリング6等の各種ベアリング類を介して取り付けることができる。
【0055】
回転環4を回転駆動する方法としては、公知の一般的な方法を採用することができる。例えば、回転環4の端部に各種ギア類を設け、電動モーターにより回転駆動することができる。特に、本発明のキャスティングドラム装置1では、固定軸2に回転環4を回転可能に取り付けることにより回転部分を軽量化できることから、回転環4を斑なく回転できるノンバッククラッシュギア等を用いることができる。さらに、回転部分の軽量化によりスリップを低減できることから、ベルトにより回転環4を駆動することも可能である。
【0056】
<外部冷却・加熱装置>
本発明のキャスティングドラム装置1は、回転環4の周囲に、回転環4の表面に向けてエアー、ミスト等の冷媒またはホットエアー等の熱媒を吹き付ける外部冷却・加熱装置8を備えることが好ましい。
【0057】
外部冷却・加熱装置8により、冷却ロール3-1により回転環4側から冷却または誘導コイル3-1により回転環4側から加熱された液状合成樹脂7および/または合成樹脂フィルム・シート5を、回転環4の周囲からも冷却・加熱することにより、液状合成樹脂7および/または合成樹脂フィルム・シート5の温度をより適切に設定・制御することができる。特に、回転環4から剥離する際の合成樹脂フィルム・シート5の温度を適切に設定・制御することができ、合成樹脂フィルム・シート5の剥離性を向上することができる。
【0058】
<合成樹脂フィルム・シートの製造方法>
本発明のキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法は、上記のようなキャスティングドラム装置を用いて、合成樹脂フィルム・シートを製造することにより、キャスティングドラムを大型化した場合でも経済的・効率的に回転駆動することができ、膜厚の均一な合成樹脂フィルム・シートを容易に製造することができ、また、求められる物性・特性等を有する合成樹脂フィルム・シートを容易に製造することができる。
【0059】
<まとめ>
以上に説明したように、本発明のキャスティングドラム装置は、表面に冷却手段および/または加熱手段が表面に配置された固定軸と、該固定軸に対して回転可能に設けられた中空円筒形の回転環とを備えるように構成したことにより、キャスティングドラムを大型化した場合でも、重量の小さい回転環を部分的に回転させることから、経済的・効率的に回転駆動することができる。
【0060】
さらに、本発明のキャスティングドラム装置は、重量の小さい回転環を支持・回転させること、および従来のように胴部に直接加熱媒体・冷却媒体を供給しないことから、キャスティングドラムを大型化した場合でも均一な厚みの合成樹脂フィルム・シートを製造することができる。
【0061】
さらに、本発明のキャスティングドラム装置は、熱容量の小さい回転環を冷却および/または加熱することから、回転環の表面温度を応答性良く設定・制御することができる。
【0062】
さらに、本発明のキャスティングドラム装置は、a)冷却手段および/または加熱手段が配置される固定軸の形状および/またはb)固定軸の表面における冷却手段および/または加熱手段の配置を調整することにより、回転環の回転方向(合成樹脂フィルム・シートの長手方向)および回転環の中心軸と平行方向(合成樹脂フィルム・シートの幅方向)における回転環の表面温度を、自由自在に設定・制御することが可能となり、合成樹脂フィルム・シートの材料樹脂、合成樹脂フィルム・シートに求められる物性・特性等に応じて、回転環の表面温度を自由自在に設定・制御することができる。
【0063】
さらに、本発明のキャスティングドラム装置は、冷却手段として冷却ロールを用い、これを回転環の中心軸と直交する断面において、回転環の内側表面と接触するように配置すること、および/または、加熱手段として誘導コイルを用い、これを回転環の中心軸と直交する断面において、誘導コイルの回転環側の表面が、回転環の内側表面と略平行となるように非接触で配置することにより、回転環の表面温度の設定・制御をきめ細かく行うことができる。
【0064】
また、本発明のキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法は、上記のようなキャスティングドラム装置を用いて、合成樹脂フィルム・シートを製造することにより、キャスティングドラムを大型化した場合でも、経済的・効率的に回転駆動することができ、膜厚の均一な合成樹脂フィルム・シートを容易に製造することができ、また、求められる物性・特性等を有する合成樹脂フィルム・シートを容易に製造することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 キャスティングドラム装置
2 固定軸
3 冷却手段および/または加熱手段
3-1 冷却ロール
3-2 誘導コイル
3-2A 誘導コイルの回転環側の表面
3-3 冷却手段および/または加熱手段の支持部材
4 回転環
4A 回転環の内側表面
5 合成樹脂フィルム・シート
6 ボールベアリング
7 合成樹脂を溶媒に溶解させた溶液または溶融させた合成樹脂(液状合成樹脂)
8 外部冷却・加熱装置
9 回転環の中心軸
20 キャスティングドラム
21 外筒
22 内筒
23 外筒と内筒間の空隙
24 らせん溝隔壁
25 一方の軸
26 他方の軸
27 液状熱媒分岐管
図1
図2
図3
図4