IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本無線株式会社の特許一覧

特許7217182弾性表面波センサ及び弾性表面波センサの製造方法
<>
  • 特許-弾性表面波センサ及び弾性表面波センサの製造方法 図1
  • 特許-弾性表面波センサ及び弾性表面波センサの製造方法 図2
  • 特許-弾性表面波センサ及び弾性表面波センサの製造方法 図3
  • 特許-弾性表面波センサ及び弾性表面波センサの製造方法 図4
  • 特許-弾性表面波センサ及び弾性表面波センサの製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】弾性表面波センサ及び弾性表面波センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/02 20060101AFI20230126BHJP
【FI】
G01N29/02 501
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019047774
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020148686
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】後藤 幹博
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-096867(JP,A)
【文献】特開平02-122242(JP,A)
【文献】特開2012-229926(JP,A)
【文献】特開2012-175315(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192196(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を送信、受信又は反射する櫛形電極と、
被測定物である液体を導入される検出領域と、
前記櫛形電極と前記検出領域との境界近傍の前記櫛形電極上に形成され、前記被測定物である液体の前記検出領域から前記櫛形電極への侵入を防止する封止ダムと、
を備え、
前記封止ダム下に形成される前記櫛形電極のうちの、金属薄膜で形成される電極指の幅と金属薄膜が形成されない隣接電極指間の幅との和に対する、前記電極指の幅の比率であるメタライズ比は、前記封止ダムが弾性表面波の伝搬方向に有する幅に対して、前記封止ダムによる弾性表面波の伝搬損失が極小化されるような値を有する
ことを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項2】
弾性表面波を送信、受信又は反射する櫛形電極と、
被測定物である液体を導入される検出領域と、
前記櫛形電極と前記検出領域との境界近傍の前記櫛形電極上に形成され、前記被測定物である液体の前記検出領域から前記櫛形電極への侵入を防止する封止ダムと、
を備え、
前記封止ダム下に形成される前記櫛形電極のうちの、金属薄膜で形成される電極指の幅と金属薄膜が形成されない隣接電極指間の幅との和に対する、前記電極指の幅の比率であるメタライズ比は、0.5より小さい値を有する
ことを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項3】
弾性表面波を送信、受信又は反射する櫛形電極と、被測定物である液体を導入される検出領域と、前記櫛形電極と前記検出領域との境界近傍の前記櫛形電極上に形成され、前記被測定物である液体の前記検出領域から前記櫛形電極への侵入を防止する封止ダムと、を備える弾性表面波センサを製造することに先立って、
前記封止ダム下に形成される前記櫛形電極のうちの、金属薄膜で形成される電極指の幅と金属薄膜が形成されない隣接電極指間の幅との和に対する、前記電極指の幅の比率であるメタライズ比を、前記封止ダムが弾性表面波の伝搬方向に有する幅に対して、前記封止ダムによる弾性表面波の伝搬損失が極小化されるように設定する
ことを特徴とする弾性表面波センサの製造方法。
【請求項4】
弾性表面波を送信、受信又は反射する櫛形電極と、被測定物である液体を導入される検出領域と、前記櫛形電極と前記検出領域との境界近傍の前記櫛形電極上に形成され、前記被測定物である液体の前記検出領域から前記櫛形電極への侵入を防止する封止ダムと、を備える弾性表面波センサを製造することに先立って、
前記封止ダム下に形成される前記櫛形電極のうちの、金属薄膜で形成される電極指の幅と金属薄膜が形成されない隣接電極指間の幅との和に対する、前記電極指の幅の比率であるメタライズ比を、0.5より小さい値に設定する
ことを特徴とする弾性表面波センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弾性表面波の伝搬損失を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中の溶質の濃度(例えば、血液中の抗原の濃度等。)を測定するために、弾性表面波センサを利用している(例えば、特許文献1等を参照。)。具体的には、被測定物である液体の導入の前後における、弾性表面波の伝搬振幅又は伝搬位相の変化に基づいて、溶液中の溶質の濃度を測定する。そのために、弾性表面波センサは、櫛形電極及び検出領域を備える。櫛形電極は、圧電基板上に形成され、弾性表面波を送信、受信又は反射する。検出領域は、圧電基板上に形成され、被測定物である液体を導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-141165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、被測定物である液体が検出領域から櫛形電極へと侵入したときは、電気信号はショートするため、櫛形電極は電気信号と弾性表面波との間の変換を行うことができない。よって、機械的なつまり非電気的な反射のみを使用する弾性表面波の反射は行われるが、電気信号と弾性表面波との間の変換を使用する信号の送受信は成り立たない。そのために、弾性表面波センサは、封止ダムを備える。封止ダムは、櫛形電極と検出領域との境界近傍の櫛形電極上(つまり、ダミー電極上。)に形成され、被測定物である液体の検出領域から櫛形電極への侵入を防止する。
【0005】
そして、弾性表面波センサに封止ダムを備えないときは、櫛形電極のうちの電極指の幅と隣接電極指間の幅との和に対する電極指の幅の比率であるメタライズ比を0.5に設定することにより、弾性表面波センサ全体での弾性表面波の伝搬損失を極小化することができる。一方で、弾性表面波センサに封止ダムを備えるときは、弾性表面波の伝搬損失として封止ダムによるものが加わる。このとき、封止ダム下に形成される櫛形電極のうちの電極指の幅と隣接電極指間の幅との和に対する電極指の幅の比率であるメタライズ比を0.5に設定したとしても、封止ダムによる弾性表面波の伝搬損失を極小化することができないことを発明者は見出した。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、弾性表面波センサに封止ダムを備えるときに、封止ダムによる弾性表面波の伝搬損失を極小化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、封止ダム下に形成される櫛形電極のうちの電極指の幅と隣接電極指間の幅との和に対する電極指の幅の比率であるメタライズ比を、封止ダムが弾性表面波の伝搬方向に有する幅に対して、封止ダムによる弾性表面波の伝搬損失が極小化されるように設定する。
【0008】
具体的には、本開示は、弾性表面波を送信、受信又は反射する櫛形電極と、被測定物である液体を導入される検出領域と、前記櫛形電極と前記検出領域との境界近傍の前記櫛形電極上に形成され、前記被測定物である液体の前記検出領域から前記櫛形電極への侵入を防止する封止ダムと、を備え、前記封止ダム下に形成される前記櫛形電極のうちの、金属薄膜で形成される電極指の幅と金属薄膜が形成されない隣接電極指間の幅との和に対する、前記電極指の幅の比率であるメタライズ比は、前記封止ダムが弾性表面波の伝搬方向に有する幅に対して、前記封止ダムによる弾性表面波の伝搬損失が極小化されるような値を有することを特徴とする弾性表面波センサである。
【0009】
また、本開示は、弾性表面波を送信、受信又は反射する櫛形電極と、被測定物である液体を導入される検出領域と、前記櫛形電極と前記検出領域との境界近傍の前記櫛形電極上に形成され、前記被測定物である液体の前記検出領域から前記櫛形電極への侵入を防止する封止ダムと、を備える弾性表面波センサを製造することに先立って、前記封止ダム下に形成される前記櫛形電極のうちの、金属薄膜で形成される電極指の幅と金属薄膜が形成されない隣接電極指間の幅との和に対する、前記電極指の幅の比率であるメタライズ比を、前記封止ダムが弾性表面波の伝搬方向に有する幅に対して、前記封止ダムによる弾性表面波の伝搬損失が極小化されるように設定することを特徴とする弾性表面波センサの製造方法である。
【0010】
これらの構成によれば、封止ダムが弾性表面波の伝搬方向に有する幅に応じて、封止ダム下に形成される櫛形電極のうちの電極指の幅と隣接電極指間の幅との和に対する電極指の幅の比率であるメタライズ比を最適化するため、封止ダムによる弾性表面波の伝搬損失を極小化することができる。
【0011】
また、本開示は、弾性表面波を送信、受信又は反射する櫛形電極と、被測定物である液体を導入される検出領域と、前記櫛形電極と前記検出領域との境界近傍の前記櫛形電極上に形成され、前記被測定物である液体の前記検出領域から前記櫛形電極への侵入を防止する封止ダムと、を備え、前記封止ダム下に形成される前記櫛形電極のうちの、金属薄膜で形成される電極指の幅と金属薄膜が形成されない隣接電極指間の幅との和に対する、前記電極指の幅の比率であるメタライズ比は、0.5より小さい値を有することを特徴とする弾性表面波センサである。
【0012】
また、本開示は、弾性表面波を送信、受信又は反射する櫛形電極と、被測定物である液体を導入される検出領域と、前記櫛形電極と前記検出領域との境界近傍の前記櫛形電極上に形成され、前記被測定物である液体の前記検出領域から前記櫛形電極への侵入を防止する封止ダムと、を備える弾性表面波センサを製造することに先立って、前記封止ダム下に形成される前記櫛形電極のうちの、金属薄膜で形成される電極指の幅と金属薄膜が形成されない隣接電極指間の幅との和に対する、前記電極指の幅の比率であるメタライズ比を、0.5より小さい値に設定することを特徴とする弾性表面波センサの製造方法である。
【0013】
これらの構成によれば、封止ダム下に形成される櫛形電極のうちの電極指の幅と隣接電極指間の幅との和に対する電極指の幅の比率であるメタライズ比を0.5より小さくするため、封止ダムによる弾性表面波の伝搬損失を極小化したうえで、封止ダムが弾性表面波の伝搬方向に有する幅を広げて(図4及び図5の第3段を参照。)、封止ダムの強度を高くすることができる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本開示は、弾性表面波センサに封止ダムを備えるときに、封止ダムによる弾性表面波の伝搬損失を極小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の弾性表面波センサの構成を示す図である。
図2】本開示の弾性表面波センサの製造方法を示す図である。
図3】本開示の弾性表面波センサの伝搬損失の実験結果又は計算結果を示す図である。
図4】本開示の弾性表面波センサの伝搬損失の極小化方法を示す図である。
図5】本開示の弾性表面波センサの伝搬損失の極小化方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0017】
本開示の弾性表面波センサの構成を図1に示す。図1の上段及び下段には、それぞれ、弾性表面波センサSの透視平面図及び側面A-A断面図を示す。弾性表面波センサSは、圧電基板1、櫛形電極2、検出領域3、封止ダム4及びカバーガラス5を備える。
【0018】
圧電基板1は、36Y-90X水晶基板等である。櫛形電極2は、金薄膜等であり、圧電基板1上に形成され、弾性表面波を送信、受信又は反射する。検出領域3は、金薄膜等であり、圧電基板1上に形成され、被測定物である液体を導入される。
【0019】
封止ダム4は、SU-8フォトレジスト等であり、櫛形電極2と検出領域3との境界近傍の櫛形電極2上(つまり、ダミー電極上。)に形成され、被測定物である液体の検出領域3から櫛形電極2への侵入を防止する。カバーガラス5は、櫛形電極2が包囲されるように形成された封止ダム4上に形成され、櫛形電極2を密閉する。ここで、ダミー電極では、電極指はショートを形成しており、電極指間隔は弾性表面波の反射防止上、弾性表面波の波長の1/4以外、例えば弾性表面波の波長の1/8等である。
【0020】
ここで、電気信号がショートしたときは、櫛形電極2は電気信号と弾性表面波との間の変換を使用する信号の送受信を行うことができないため、弾性表面波を送信又は受信する櫛形電極2については、封止ダム4を形成することが必要である。一方で、電気信号がショートしたときも、櫛形電極2は機械的なつまり非電気的な反射のみを使用する弾性表面波の反射を行うことができるため、弾性表面波を反射する櫛形電極2については、封止ダム4をあえて形成しなくてもよいが、封止ダム4を念のため形成してもよい。
【0021】
櫛形電極2の種類に応じて、封止ダム4下に形成される櫛形電極2のうちの、金属薄膜で形成される電極指の幅と金属薄膜が形成されない隣接電極指間の幅との和に対する、電極指の幅の比率であるメタライズ比mは、封止ダム4が弾性表面波の伝搬方向に有する幅xに対して、封止ダム4による弾性表面波の伝搬損失yが極小化されるような値を有することが望ましい。具体的に、封止ダム4下に形成されるダミー電極では、電極指の幅αと、隣接電極指間の幅βと、を用いて、メタライズ比はm=α/(α+β)と表される。一方で、封止ダム4内に形成される弾性表面波を送受信する電極では、電極指の幅α’と、隣接電極指間の幅β’と、を用いて、メタライズ比はm’=α’/(α’+β’)=0.5(弾性表面波を送受信する電極の一般的な設計値であるが一例である。)と表される。
【0022】
このように、封止ダム4が弾性表面波の伝搬方向に有する幅xに応じて、封止ダム4下に形成される櫛形電極2のうちの電極指の幅と隣接電極指間の幅との和に対する電極指の幅の比率であるメタライズ比mを最適化するため、封止ダム4による弾性表面波の伝搬損失yを極小化することができる。
【0023】
封止ダム4下に形成される櫛形電極2のうちの、金属薄膜で形成される電極指の幅と金属薄膜が形成されない隣接電極指間の幅との和に対する、電極指の幅の比率であるメタライズ比mは、0.5より小さい値を有することがなお望ましい。
【0024】
このように、封止ダム4下に形成される櫛形電極2のうちの電極指の幅と隣接電極指間の幅との和に対する電極指の幅の比率であるメタライズ比mを0.5より小さくするため、封止ダム4による弾性表面波の伝搬損失yを極小化したうえで、封止ダム4が弾性表面波の伝搬方向に有する幅xを広げて(図4及び図5の第3段を参照。)、封止ダム4の強度を高くすることができる。
【0025】
本開示の弾性表面波センサの製造方法を図2に示す。なお、以下の説明では、記載の簡潔のため、「封止ダム4下に形成される櫛形電極2のうちの電極指の幅と隣接電極指間の幅との和に対する電極指の幅の比率であるメタライズ比m」を、「メタライズ比m」といい、「封止ダム4が弾性表面波の伝搬方向に有する幅x」を、「封止ダム4の幅x」といい、「封止ダム4による弾性表面波の伝搬損失y」を、「封止ダム4による伝搬損失y」という。
【0026】
ステップS1では、圧電基板1の材質、櫛形電極2及び検出領域3の材質及び膜厚、並びに、封止ダム4の材質を決める。本実施形態では、圧電基板1の材質を36Y-90X水晶基板に決め、櫛形電極2及び検出領域3の材質及び膜厚を膜厚0.005λ又は0.010λ(λは、弾性表面波の波長。)の金薄膜に決め、封止ダム4の材質をSU-8フォトレジストに決める。
【0027】
ステップS2では、弾性表面波の波長λにおいて、封止ダム4の所望の強度を実現する封止ダムの幅xを決める。例えば、封止ダム4の所望の強度が高い/低いほど、そして、封止ダム4の材質そのものの強度が低い/高いほど、封止ダム4の幅xを広く/狭く決める。以下に説明するように、封止ダム4の幅xは、弾性表面波の波長λを単位として定義されるため、封止ダム4の所望の強度を実現するために、弾性表面波の波長λが短い/長いほど、封止ダム4の幅x=nλにおけるnを大きく/小さくする。
【0028】
ステップS3では、様々なメタライズ比m及び様々な封止ダム4の幅xについて、封止ダム4による伝搬損失yを実験又は計算に基づいて求める。本実施形態では、様々なメタライズ比mを、0.2、0.3、・・・、0.5、0.6のように0.1の間隔で設定し、様々な封止ダム4の幅xを、0.0λ、0.5λ、・・・、3.5λ、4.0λのように0.5λの間隔で設定する。そして、これらのメタライズ比m及びこれらの封止ダム4の幅xについて、弾性表面波センサSを作成し、封止ダム4による伝搬損失yを測定する。或いは、これらのメタライズ比m及びこれらの封止ダム4の幅xについて、圧電基板1の材質、櫛形電極2及び検出領域3の材質及び膜厚、並びに、封止ダム4の材質(粘弾性等)を考慮し、封止ダム4による伝搬損失yを計算する。
【0029】
ステップS4では、実験結果又は計算結果を再現する封止ダム4による伝搬損失yを、y=ax+b、a=cm+d、b=em+fm+g(つまり、y=cmx+dx+em+fm+g)とおいて、パラメータa、b、c、d、e、f、gを求める。
【0030】
本開示の弾性表面波センサの伝搬損失の実験結果又は計算結果を図3に示す。本開示の弾性表面波センサの伝搬損失の極小化方法を図4及び図5に示す。
【0031】
図3の上段では、様々なメタライズ比m及び様々な封止ダム4の幅xについて、封止ダム4による伝搬損失yを示す。図3の中段では、メタライズ比mを様々な値に固定したうえで、様々な封止ダム4の幅xについて、封止ダム4による伝搬損失yを示す。図3の下段では、封止ダム4の幅xを様々な値に固定したうえで、様々なメタライズ比mについて、封止ダム4による伝搬損失yを示す。
【0032】
図3の上段及び中段によれば、メタライズ比mを様々な値に固定したうえで、封止ダム4による伝搬損失yは、封止ダム4の幅xの1次関数として、y=ax+bと表すことができる。ここで、メタライズ比mが0.2から0.5を経て0.6へと変化するにつれて、パラメータaは小さい値から中程度の値を経て大きい値へと変化し、パラメータbは大きい値から小さい値(極小値)を経て大きい値へと変化する。
【0033】
図3の上段及び下段によれば、封止ダム4の幅xを様々な値に固定したうえで、封止ダム4による伝搬損失yは、メタライズ比mの2次関数として、y=cmx+dx+em+fm+gと表すことができる。ここで、封止ダム4の幅xが0.0λから4.0λへと変化するにつれて、封止ダム4による伝搬損失yが極小化されるようなメタライズ比mは約0.5程度から約0.3程度へと変化する。
【0034】
ところで、封止ダム4の幅xを様々な値に固定したうえで、封止ダム4による伝搬損失yは、メタライズ比mの2次関数として、y=cmx+dx+em+fm+gと表すことができる理由について、図4及び図5を用いて説明する。
【0035】
図4では、ステップS1において、圧電基板1の材質を36Y-90X水晶基板に決め、櫛形電極2及び検出領域3の材質及び膜厚を膜厚0.005λの金薄膜に決め、封止ダム4の材質をSU-8フォトレジストに決める。図5では、ステップS1において、圧電基板1の材質を36Y-90X水晶基板に決め、櫛形電極2及び検出領域3の材質及び膜厚を膜厚0.010λの金薄膜に決め、封止ダム4の材質をSU-8フォトレジストに決める。
【0036】
図4及び図5の第1段では、様々なメタライズ比mについて、パラメータaを示す。図4及び図5の第1段によれば、パラメータaは、メタライズ比mの1次関数として、a=cm+dと表すことができる。ここで、図4図5では、櫛形電極2の膜厚が薄い/厚いため、パラメータcは5.34/10.7のように異なっている。
【0037】
図4及び図5の第2段では、様々なメタライズ比mについて、パラメータbを示す。図4及び図5の第2段によれば、パラメータbは、メタライズ比mの2次関数として、b=em+fm+gと表すことができる。ここで、図4図5では、櫛形電極2の膜厚が薄い/厚いものの、パラメータeは55.2/55.2のように同じであり(ただし、一般的には、異なることもあり得る。)、パラメータfは-60/-60のように同じである(ただし、一般的には、異なることもあり得る。)。
【0038】
よって、封止ダム4の幅xを様々な値に固定したうえで、封止ダム4による伝搬損失yは、メタライズ比mの2次関数として、y=ax+b=(cm+d)x+(em+fm+g)=cmx+dx+em+fm+gと表すことができる。
【0039】
ステップS5では、弾性表面波の波長λにおいて、封止ダム4の所望の強度を実現する封止ダム4の幅xに対して、封止ダム4による伝搬損失yを極小化するメタライズ比mを、m=-(c/2e)x-f/2eに基づいて求める。ステップS5が可能な理由は、以下の通りである。
【0040】
つまり、封止ダム4による伝搬損失y=cmx+dx+em+fm+gをメタライズ比mで微分したときに、微分値y’=cx+2em+fが得られる。そして、微分値y’=cx+2em+fを0とおいたときに、封止ダム4による伝搬損失yを極小化するメタライズ比m=-(c/2e)x-f/2eが得られる。
【0041】
図4及び図5の第3段では、様々な封止ダム4の幅xについて、最適化されたメタライズ比mを示す。上述したように、最適化されたメタライズ比mは、封止ダム4の幅xの1次関数として、m=-(c/2e)x-f/2eと表すことができる。ここで、図4図5では、パラメータcは5.34/10.7であり、パラメータeは55.2/55.2であり、パラメータfは-60/-60であり、最適化されたメタライズ比mは-0.048x+0.54/-0.097x+0.54である。
【0042】
図4及び図5の第3段によれば、メタライズ比mを0.5より小さくしたときに、封止ダム4による伝搬損失yを極小化したうえで、封止ダム4の幅xを広げて、封止ダム4の強度を高くすることができる。逆に言えば、封止ダム4の強度を高くするために、封止ダム4の幅xを広げるときに、封止ダム4による伝搬損失yを極小化したうえで、メタライズ比mを0.5より小さくすればよいのである。
【0043】
ステップS6では、圧電基板1上に、メタライズ比m及び封止ダム4の幅xに基づいて、櫛形電極2を形成する。つまり、封止ダム4「下」に形成される櫛形電極2については、メタライズ比m(図1の上段のmを参照。)に基づいて形成する。一方で、封止ダム4「内」に形成される櫛形電極2については、メタライズ比m’=0.5(図1の上段のm’を参照。)に基づいて形成する。
【0044】
ステップS6では、さらに、(1)圧電基板1上に、検出領域3を形成し、(2)櫛形電極2上に、封止ダム4の幅xに基づいて、封止ダム4を形成し、(3)封止ダム4上に、カバーガラス5を形成し、(4)弾性表面波センサSの製造工程を終了する。なお、櫛形電極2及び検出領域3の形成は、同時であってもよく、同時でなくてもよい。
【0045】
図4及び図5の第4段では、様々な封止ダム4の幅xについて、封止ダム4による伝搬損失yを示す。「最適化されたm」は、本開示のメタライズ比mを最適化したときの封止ダム4による伝搬損失yを示す。「従来技術のm=0.5」は、従来技術のメタライズ比mを一律に0.5としたときの封止ダム4による伝搬損失yを示す。
【0046】
図4及び図5の第4段によれば、本開示のメタライズ比mを最適化したときには、従来技術のメタライズ比mを一律に0.5としたときより、封止ダム4による伝搬損失yを低減することができる。特に、封止ダム4の強度を高くするために、封止ダム4の幅xを広げるときに、上述の傾向を強めることができる。
【0047】
本実施形態では、封止ダム4による伝搬損失y=ax+bは、封止ダム4の幅xに関する単調増加の1次関数である。封止ダム4による伝搬損失yのうちの封止ダム4の幅xに依存する損失部分ax=(cm+d)xは、封止ダム4の幅xと、メタライズ比mに関する単調増加の1次関数と、の積である。封止ダム4による伝搬損失yのうちの封止ダム4の幅xに依存しない損失部分b=em+fm+gは、メタライズ比mに関する0.5の近傍の値で極小を示す2次関数である。
【0048】
変形例として、封止ダム4による伝搬損失yは、封止ダム4の幅xが増加するにつれて増加すれば、どのような関数でもよい。封止ダム4による伝搬損失yのうちの封止ダム4の幅xに依存する損失部分は、封止ダム4の幅xが固定されたうえで、メタライズ比mが増加するにつれて増加すれば、どのような関数でもよい。封止ダム4による伝搬損失yのうちの封止ダム4の幅xに依存しない損失部分は、メタライズ比mが0.5の近傍の値であるときに極小を示すならば、どのような関数でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本開示の弾性表面波センサ及び弾性表面波センサの製造方法は、溶液中の溶質の濃度(例えば、血液中の抗原の濃度等。)を測定する用途に対して、適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
S:弾性表面波センサ
1:圧電基板
2:櫛形電極
3:検出領域
4:封止ダム
5:カバーガラス
図1
図2
図3
図4
図5