(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】ブラケット付き防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 13/10 20060101AFI20230126BHJP
F16B 21/07 20060101ALN20230126BHJP
B60K 5/12 20060101ALN20230126BHJP
【FI】
F16F13/10 L
F16B21/07 Z
B60K5/12 Z
(21)【出願番号】P 2019058918
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 弘基
(72)【発明者】
【氏名】大木 健司
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082991(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/10
F16B 21/07
B60K 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結された防振装置本体において該第二の取付部材の幅方向両側に設けられた嵌着部が、ブラケットの幅方向両側の対向内面に設けられた嵌着溝へ嵌め入れられることで、該防振装置本体が該ブラケットに横方向から組み付けられたブラケット付き防振装置において、
前記ブラケットにおける前記第二の取付部材の組付方向の奥側に位置する奥壁部に係止孔が設けられている一方、
該第二の取付部材の該ブラケットへの組付方向の先端部分において該係止孔へ挿入係止されることでかかる組付方向と反対に向かう戻りを阻止する係止部が設けられている
と共に、
該係止部の挿入方向の先端側には該係止部の該係止孔への挿通を案内して前記奥壁部から組付方向先端側へ突出して傾斜する傾斜面が設けられているブラケット付き防振装置。
【請求項2】
前記ブラケットの前記奥壁部には、外面に開口する凹所が設けられており、該凹所の底部に前記係止孔が形成されている請求項1に記載のブラケット付き防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振装置本体がブラケットに対して横方向から組み付けられたブラケット付き防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンマウントなどに用いられる防振装置が知られている。防振装置は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結された防振装置本体を備えている。また、防振装置には、防振装置本体の第二の取付部材にブラケットが取り付けられたものがあり、第二の取付部材がブラケットを介して車両ボデーなどに取り付けられる。ブラケット付き防振装置としては、例えば、特表2010-528233号公報(特許文献1)に開示されたものがある。
【0003】
ところで、ブラケット付き防振装置は、第二の取付部材の幅方向両側に設けられた嵌着部が、ブラケットの幅方向両側の対向内面に設けられた嵌着溝へ嵌め入れられることによって、防振装置本体がブラケットに横方向から組み付けられるものがある。このような防振装置本体とブラケットの組付構造では、防振装置本体のブラケットからの抜けを防止する機構が設けられる場合もある。特許文献1では、第二の取付部材の嵌着部が嵌着溝内に設けられるスナップフィッティング突起を乗り越えることで、第二の取付部材のブラケットからの抜けが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者が検討したところ、特許文献1のスナップフィット構造は、スナップフィット突起が嵌着溝内にあることから、第二の取付部材がスナップフィット突起を確実に乗り越えて係合しているかどうかを確認することが難しい。
【0006】
また、スナップフィット突起は、嵌着溝の壁部を抉ることで形成されていることから、嵌着溝の強度の低下が問題になる場合もある。更に、スナップフィット突起の突出方向は、嵌着溝の延びる方向に対して略直交する方向であることから、ブラケットの製造に際して、金型構造が複雑になるおそれもある。
【0007】
本発明の解決課題は、簡単に製造可能な構造によって、防振装置本体のブラケットからの抜けを高い信頼性で防止することができる、新規な構造のブラケット付き防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結された防振装置本体において該第二の取付部材の幅方向両側に設けられた嵌着部が、ブラケットの幅方向両側の対向内面に設けられた嵌着溝へ嵌め入れられることで、該防振装置本体が該ブラケットに横方向から組み付けられたブラケット付き防振装置において、前記ブラケットにおける前記第二の取付部材の組付方向の奥側に位置する奥壁部に係止孔が設けられている一方、該第二の取付部材の該ブラケットへの組付方向の先端部分において該係止孔へ挿入係止されることでかかる組付方向と反対に向かう戻りを阻止する係止部が設けられていると共に、該係止部の挿入方向の先端側には該係止部の該係止孔への挿通を案内して前記奥壁部から組付方向先端側へ突出して傾斜する傾斜面が設けられているものである。
【0010】
本態様に従う構造とされたブラケット付き防振装置によれば、ブラケットの係止孔が嵌着溝から外れた奥壁部に設けられていることから、係止孔の形成が嵌着溝の強度に影響するのを回避できる。それ故、第二の取付部材の嵌着部が嵌め入れられることで応力が作用し易い嵌着溝において強度が十分に確保されると共に、係止部が係止孔へ挿入係止されることで、第二の取付部材のブラケットからの抜けが防止される。
【0011】
第二の取付部材のブラケットへの組付方向の奥側に位置する奥壁部に係止孔が設けられていることから、係止孔が嵌着溝の延びる方向に形成される。それ故、ブラケットを製造する際に、ブラケットの内面を成形する金型が組付方向及びその反対方向で抜き差し容易とされており、組付方向で分割された簡単な金型構造で係止孔を形成することができる。
【0012】
係止孔が奥壁部を貫通して設けられることによって、係止孔に対する係止部の挿入係止の状況を目視によって簡単に確認することができる。それ故、係止部が係止孔に正しく挿入係止されたかどうかが確実に把握されて、係止不良などの製造上の不具合が防止されることで、防振装置本体のブラケットからの抜けが高い信頼性で回避される。
【0013】
第二の取付部材の係止部が、ブラケットへの組付方向の先端部分に設けられている。これにより、第二の取付部材がブラケットに組み付けられる際に、係止部がブラケットで囲まれた領域へ最初に差し入れられて保護されることから、係止部が組付け時に損傷し難くなる。
【0014】
第二の態様は、第一の態様に記載されたブラケット付き防振装置において、前記ブラケットの前記奥壁部には、外面に開口する凹所が設けられており、該凹所の底部に前記係止孔が形成されているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされたブラケット付き防振装置によれば、係止孔を貫通して突出する係止部の先端部分が、奥壁部の外面から大きく突出するのを防ぐことができる。特に、凹所の深さが、係止部の先端部分の係止孔からの突出高さよりも大きくされていれば、係止部の先端部分を凹所内に収容して外部へ突出しないようにもできる。これにより、例えば、突出した係止部の先端部分が他の部材に引っ掛かるなどして、係止部と係止孔の係止が意図せずに解除されるのを防ぐことができる。また、係止部の先端部分の突出高さを小さくすることで、ブラケット付き防振装置の小型化も図られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡単に製造可能な構造によって、防振装置本体のブラケットからの抜けを高い信頼性で防止可能なブラケット付き防振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図
【
図2】
図1に示すエンジンマウントを別角度で示す斜視図
【
図4】
図3に示すエンジンマウントの断面図であって、
図5のIV-IV断面図
【
図6】
図1に示すエンジンマウントを構成するマウント本体の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1~5には、本発明に係るブラケット付き防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、防振装置本体としてのマウント本体12を備えている。以下の説明において、原則として、上下方向とはマウント中心軸方向である
図3中の上下方向を、前後方向とは
図3中の紙面直交方向を、左右方向とは
図3中の左右方向を、それぞれ言う。
【0020】
より詳細には、マウント本体12は、
図6に示すように、第一の取付部材14と第二の取付部材16が本体ゴム弾性体18によって連結された構造を有している。
【0021】
第一の取付部材14は、金属や合成樹脂などで形成された高剛性の部材であって、
図4,5に示すように、中実の円形ブロック状とされている。第一の取付部材14は、下方に向けて小径となっている。第一の取付部材14は、上面に開口して上下方向に延びるねじ穴20を有している。
【0022】
第二の取付部材16は、固着部材22を備えている。固着部材22は、第一の取付部材14と同様に高剛性の部材であって、略矩形枠状とされている。固着部材22は、外周部分が内周部分よりも下方へ突出して上下寸法を大きくされている。
図4の左右方向に相当する第二の取付部材16の幅方向の両側における上下寸法の大きい固着部材22の外周部分によって、後述するアウタブラケット66の嵌着溝86に嵌め入れられる一対の嵌着部24,24が構成されている。
【0023】
第一の取付部材14と第二の取付部材16の固着部材22は、略同一中心軸上で上下に離れて配置されて、それら第一の取付部材14と固着部材22の間に本体ゴム弾性体18が設けられている。本体ゴム弾性体18は、略円錐台形状とされて、小径側となる上部に第一の取付部材14が固着されていると共に、大径側となる下部の外周面に第二の取付部材16の固着部材22が固着されている。本体ゴム弾性体18は、成形時に第一の取付部材14と第二の取付部材16の固着部材22に加硫接着されている。
【0024】
本体ゴム弾性体18は、下方に向けて開口する凹状部26を備えている。この凹状部26は、周壁の上部が上方に向けて小径となるテーパ形状とされている。本体ゴム弾性体18は、凹状部26が形成されることによって、下方に向けて外周へ傾斜するテーパ状の断面形状を有している。
【0025】
固着部材22における嵌着部24の下面及び外周面の下部には、
図4,6に示すように、本体ゴム弾性体18と一体形成された圧入ゴム28が固着されている。圧入ゴム28は、固着部材22の前後方向の中央部分に固着されており、凹状部26の外周側で本体ゴム弾性体18と連続している。
【0026】
第二の取付部材16を構成する固着部材22には、仕切部材30が取り付けられている。仕切部材30は、全体として略円板形状とされており、仕切部材本体32と蓋部材34の間に可動部材36を配した構造を有している。
【0027】
仕切部材本体32は、外周部分を周方向に一周に満たない長さで延びる周溝38が、上面に開口して形成されている。周溝38の一方の端部には、周溝38の下壁部を貫通する下連通孔40が形成されている。仕切部材本体32の内周部分には、環状の収容凹所42が上面に開口して形成されている。収容凹所42の下壁部には、複数の下透孔44が貫通形成されている。
【0028】
蓋部材34は、薄肉の円板形状とされており、仕切部材本体32の上面に重ね合わされて固定されている。蓋部材34には、周溝38の他方の端部を覆う部分に図示しない上連通孔が形成されている。蓋部材34には、収容凹所42を覆う部分に図示しない複数の上透孔が形成されている。
【0029】
仕切部材本体32の収容凹所42には、可動部材36が収容されている。可動部材36は、略円環板形状のゴム弾性体であって、内周端部と外周端部がそれぞれ上側へ突出して厚肉とされている。そして、可動部材36が収容凹所42に差し入れられた状態で、蓋部材34が仕切部材本体32に固定されることにより、可動部材36が仕切部材本体32と蓋部材34の間で収容凹所42に収容されている。可動部材36は、厚肉とされた内周端部と外周端部が、仕切部材本体32と蓋部材34の上下方向間で挟持されており、それら内周端部と外周端部の間において厚さ方向の弾性変形を許容されている。
【0030】
仕切部材30の下方には、薄肉のエラストマで形成された可撓性膜46が設けられている。可撓性膜46は、外周端部が厚肉とされて、仕切部材本体32の下面に重ね合わされている。そして、可撓性膜46の外周端部に対して、枠状の支持部材48が下方から重ね合わされており、後述するマウント本体12のアウタブラケット66への装着状態において、可撓性膜46の外周端部が仕切部材本体32と支持部材48の間で挟持されている。
【0031】
支持部材48は、本実施形態において第二の取付部材16を構成する部材であって、固着部材22と同様に高剛性の部材とされている。支持部材48は、後述するマウント本体12のアウタブラケット66への装着状態において、内周部分が可撓性膜46を挟持すると共に、外周部分が仕切部材本体32の下面に当接する。これにより、支持部材48が仕切部材本体32を介して固着部材22に対して位置決めされて、それら固着部材22と支持部材48によって本実施形態の第二の取付部材16が構成されている。
【0032】
支持部材48の前方には、係止部50が設けられている。係止部50は、
図5,6に示すように、支持部材48の前面から延び出す板状の挿通部52と、挿通部52から上方へ突出する係止突起54とが、一体形成された構造を有している。係止突起54の後方の側面は、前後方向に対して略直交して広がっている。係止部50の前端面は、前方に向けて下傾する傾斜面56とされている。これにより、係止部50の突出先端部分は、突出先端側である前側に向けて上下方向で次第に薄肉とされている。
【0033】
本体ゴム弾性体18の一体加硫成形品を構成する第二の取付部材16に対して、仕切部材30と可撓性膜46が取り付けられることにより、本体ゴム弾性体18と仕切部材30の間には、壁部の一部が本体ゴム弾性体18で構成された受圧室58が形成される。更に、仕切部材30と可撓性膜46の間には、壁部の一部が可撓性膜46で構成された平衡室60が形成される。受圧室58と平衡室60には、非圧縮性流体が封入される。非圧縮性流体は特に限定されるものではないが、例えば水やエチレングリコールなどが採用される。非圧縮性流体は、混合液であっても良い。
【0034】
受圧室58と平衡室60は、周溝38を含んで構成されるオリフィス通路62によって、相互に連通されている。オリフィス通路62は、仕切部材30の外周部分を周方向に延びて、両端部が受圧室58と平衡室60の各一方に接続されている。そして、第一の取付部材14と第二の取付部材16の間に上下方向の振動が入力されて、受圧室58と平衡室60の間に内圧差が生じると、受圧室58と平衡室60の間でオリフィス通路62を通じた流体流動が生じて、流体の流動作用に基づく高減衰作用などの防振効果が発揮されるようになっている。オリフィス通路62は、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が、通路断面積と通路長さの比によって防振対象振動の周波数に調節されており、例えば、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波に設定される。
【0035】
収容凹所42に配された可動部材36の上下両面には、受圧室58の液圧と平衡室60の液圧との各一方が及ぼされている。そして、第一の取付部材14と第二の取付部材16の間に上下方向の振動が入力されて、受圧室58と平衡室60の間に内圧差が生じると、可動部材36が厚さ方向に弾性変形して、受圧室58の液圧を平衡室60に伝達して逃すようになっている。
【0036】
低周波大振幅振動が入力される場合には、オリフィス通路62を通じた流体流動が共振状態で積極的に生じて、高減衰による防振効果が発揮される。低周波大振幅振動が入力される場合には、可動部材36の変形が追従しきれず、可動部材36の変形による液圧を逃す作用が発揮されないことから、オリフィス通路62を通じた流体の流動が効率的に生じる。中乃至高周波の小振幅振動が入力される場合には、オリフィス通路62が反共振によって実質的な目詰まり状態になる。中乃至高周波の小振幅振動が入力される場合には、可動部材36が共振状態で積極的に弾性変形して液圧を逃すことで、低動ばね化による防振効果が発揮される。
【0037】
マウント本体12には、インナブラケット64とブラケットとしてのアウタブラケット66が取り付けられている。
【0038】
インナブラケット64は、板状の部材であって、第一の取付部材14の上面に重ね合わされて前方(
図5中の右方)へ延び出す連結部68と、連結部68の前方に一体形成された取付部70とを、備えている。連結部68は、第一の取付部材14の上面に重ね合わされる部分に、上下方向に貫通するボルト孔72を備えている。取付部70は、連結部68に対して左右両側へ突出しており、上下方向に貫通するボルト孔74を備えている。そして、インナブラケット64は、連結部68のボルト孔72に挿通された連結ボルト76が、第一の取付部材14のねじ穴20に螺着されることで、第一の取付部材14に固定されて、マウント本体12に取り付けられている。
【0039】
アウタブラケット66は、一対の脚部78,78を備えている。一対の脚部78,78は、それぞれ上下方向に延びており、左右方向で相互に対向して設けられている。一対の脚部78,78の上端部は、一体形成された天壁部80によって相互に連結されている。一対の脚部78,78の下端部には、左右方向の外側へ向けて突出する取付片82がそれぞれ設けられており、各取付片82には上下方向に貫通するボルト孔84が形成されている(
図1,2参照)。
【0040】
一対の脚部78,78は、アウタブラケット66の幅方向となる
図4の左右方向で対向する対向内面85,85を有しており、左右方向の対向内面85,85に開口する嵌着溝86,86を備えている。アウタブラケット66の幅方向両側に設けられた嵌着溝86,86は、前後方向で直線的に延びており、一方の端部が一対の脚部78,78の後端まで達して後面に開口していると共に、他方の端部が一対の脚部78,78の前端までは達していない。
【0041】
一対の脚部78,78における嵌着溝86,86よりも下側には、一対の脚部78,78の対向方向の内側に突出する挟持部88が設けられている。挟持部88は、左右両側部分が前後方向の両端において左右方向につながっており、全体として筒状とされている。
【0042】
一対の脚部78,78の前端部分には、奥壁部90が設けられている。奥壁部90は、前後方向に対する交差方向に広がる板状とされており、左右両端部が一対の脚部78,78につながっている。奥壁部90の上端部は、天壁部80に対して下側へ離れており、奥壁部90と天壁部80の間には、前後方向に貫通する挿通孔92が形成されている。奥壁部90には、凹所94が形成されている。凹所94は、
図1,3に示すように、奥壁部90の左右方向の中央部分に形成されている。凹所94は、マウント本体12が配されるスペースに対して外面となる奥壁部90の前面に開口している。凹所94の前後深さ寸法は、マウント本体12における係止部50の係止突起54の後面から先端側の前後寸法よりも大きくされている。
【0043】
図5に示すように、奥壁部90における凹所94の底部には、係止孔96が形成されている。係止孔96は、奥壁部90を凹所94の形成部分において前後方向に貫通している。係止孔96は、マウント本体12の係止部50の前後方向の投影形状と略対応する孔断面形状を有している。
【0044】
マウント本体12は、アウタブラケット66に取り付けられている。即ち、マウント本体12は、アウタブラケット66の一対の脚部78,78と天壁部80と挟持部88とによって囲まれたスペースに対して、後方から組付方向である前方へ向けて差し入れられて配される。その際に、マウント本体12の第二の取付部材16は、
図4に示すように、固着部材22の左右両側の嵌着部24,24が、一対の脚部78,78の嵌着溝86,86に嵌め入れられる。また、マウント本体12の第二の取付部材16は、支持部材48の下面がアウタブラケット66の挟持部88の上面に重ね合わされる。これらにより、第二の取付部材16がアウタブラケット66に固定されて、マウント本体12がアウタブラケット66に上下方向と略直交する横方向から組み付けられる。
【0045】
第二の取付部材16の嵌着部24,24には、それぞれ圧入ゴム28が固着されており、嵌着部24,24の左右外面と下面が圧入ゴム28,28を介して嵌着溝86,86に嵌め合わされる。これにより、嵌着部24,24及び嵌着溝86,86の寸法誤差による嵌め合わせの不良が回避されると共に、嵌め合わせに必要な力のバラつきが低減される。
【0046】
嵌着溝86,86に嵌め合わされた固着部材22と、挟持部88の上面に重ね合わされた支持部材48には、上下方向で相互に接近する方向の力が作用する。これにより、固着部材22と仕切部材30の間で本体ゴム弾性体18の下端部が上下方向に圧縮されると共に、仕切部材30と支持部材48の間で可撓性膜46の外周端部が上下方向に圧縮される。これにより、受圧室58及び平衡室60の壁部における流体密性が高められて、液漏れなどの不具合が回避される。
【0047】
図5に示すように、マウント本体12がアウタブラケット66に組み付けられることによって、マウント本体12の支持部材48に設けられた係止部50は、アウタブラケット66の奥壁部90に形成された係止孔96に挿通される。即ち、マウント本体12におけるアウタブラケット66への組付方向の先端部分に設けられた係止部50は、傾斜面56が係止孔96の開口周縁部に押し当てられることにより、係止部50が弾性的に撓みながら係止孔96に挿通される。係止部50の係止突起54が係止孔96よりも前方まで移動すると、係止孔96の周壁内面と係止突起54との押し当てが解除されて、係止部50が初期形状に復元し、係止部50が挿通部52において係止孔96に挿通された状態とされる。
【0048】
係止部50は、マウント本体12においてアウタブラケット66への組付方向の先端部分に設けられている。それ故、マウント本体12のアウタブラケット66への組付けに際して、アウタブラケット66の一対の脚部78,78と天壁部80と挟持部88とによって囲まれた領域へ係止部50が最初に差し入れられる。その結果、マウント本体12のアウタブラケット66への組付作業において、係止部50がアウタブラケット66によって保護されて、係止部50の損傷が回避され易い。
【0049】
嵌着部24,24が嵌着溝86,86によって案内される方向と、係止部50が係止孔96に挿入される方向が、互いに同じ方向とされている。それ故、嵌着部24,24を嵌着溝86,86に嵌め入れることで、係止部50が係止孔96に対して簡単に挿入係止される。
【0050】
係止孔96に挿通されて初期形状に復元した係止部50は、係止突起54の上端部が係止孔96の開口よりも上側まで突出した状態とされる。これにより、マウント本体12がアウタブラケット66に対して組付方向と反対の抜け方向となる後方へ移動しようとすると、係止部50の係止突起54が係止孔96の開口周縁部に係止されて、マウント本体12のアウタブラケット66に対する後方への戻りが阻止される。このように、マウント本体12の係止部50が、アウタブラケット66の係止孔96に挿入係止されることで、マウント本体12のアウタブラケット66からの抜けを防止する抜止機構が構成されている。
【0051】
マウント本体12とアウタブラケット66の分離を防止する抜止機構は、マウント本体12の嵌着部24,24がアウタブラケット66の嵌着溝86,86へ嵌め合わされたマウント本体12とアウタブラケット66の組付構造とは独立して設けられている。それ故、嵌着部24,24と嵌着溝86,86の嵌め合わせによるマウント本体12とアウタブラケット66の組付強度を十分に確保しながら、マウント本体12のアウタブラケット66からの抜けを阻止することができる。
【0052】
マウント本体12のアウタブラケット66への組付方向を含む前後方向において、係止孔96が奥壁部90を直線的に貫通して設けられている。それ故、アウタブラケット66を鋳造(ダイカスト)によって成形する際に、前後に分割された成形用の金型によって奥壁部90を形成することで、係止孔96を簡単に形成することができる。しかも、嵌着溝86,86も前後方向に延びていることから、前後に分割された成形用の金型によって一対の脚部78,78の対向内面85,85を成形することで、嵌着溝86,86と係止孔96の両方を簡単に形成することができる。
【0053】
係止孔96に挿通された係止部50は、先端部分が奥壁部90よりも前方に突出して露出することから、係止部50が係止孔96に対して正しい状態で係止されていることを、目視によって容易に確認することができる。
【0054】
なお、インナブラケット64とアウタブラケット66がマウント本体12に装着されたエンジンマウント10は、例えば、インナブラケット64が、取付部70のボルト孔74,74に挿通される図示しないボルトによって、図示しないパワーユニットに取り付けられる。インナブラケット64は、アウタブラケット66の挿通孔92を通じて、アウタブラケット66の奥壁部90よりも前方へ突出している。また、エンジンマウント10は、例えば、アウタブラケット66が、取付片82,82のボルト孔84,84に挿通される図示しないボルトによって、図示しない車両ボデーに取り付けられる。これらにより、パワーユニットが車両ボデーに対してエンジンマウント10を介して防振連結されている。
【0055】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態の第二の取付部材16は、固着部材22と支持部材48に分かれていたが、全体が1つの部材とされた第二の取付部材も採用され得る。
【0056】
係止部は、第二の取付部材に設けられていれば良く、例えば、前記実施形態において、係止部50は、第二の取付部材16を構成する固着部材22に設けられていても良い。係止部は、係止孔に挿入係止可能であれば、具体的な形状が限定されるものではない。例えば、係止突起が上下両側に突出して設けられており、それら係止突起の形成部分の上下中間部分に上下方向と直交して広がるスリットが形成されて、スリットの上下幅が狭くなることで係止部が撓んで係止孔に挿入されるようにした構造なども採用され得る。
【0057】
係止部及び係止孔の複数組を設けることもできる。これによれば、防振装置本体がブラケットから抜ける方向へ変位しようとする際に、各係止部と係止孔の挿入係止部分に作用する荷重が分散されて、耐久性の向上が図られる。また、係止部が係止孔に挿入係止されることによる抜止機構に加えて、別の抜止機構を採用することもできる。具体的には、例えば、特開2017-214968号公報に開示されているように、アウタブラケットの嵌着溝内にロック突部を設けて、ロック突部が第二の取付部材の嵌着部と係止されることで抜止機構を構成するようにしても良い。
【0058】
係止部50の先端部分が収容される凹所94は、必須ではない。また、凹所94を設ける場合に、凹所94の深さ寸法は、係止部50の先端部分の長さ寸法より小さくても良い。この場合にも、係止部50の凹所94から突出する部分の長さが小さくなることで、周囲の他部材が係止部50に干渉し難くなる。
【0059】
防振装置本体のブラケットへの組付けによって受圧室及び平衡室のシールが完了する構造には限定されず、ブラケットに取り付ける前の防振装置本体の単体状態でシールが完了していても良い。また、防振装置本体は、液封構造のものに限定されず、受圧室や平衡室などの液封構造を持たないソリッドタイプの防振装置本体を採用することもできる。
【符号の説明】
【0060】
10 エンジンマウント(ブラケット付き防振装置)
12 マウント本体(防振装置本体)
14 第一の取付部材
16 第二の取付部材
18 本体ゴム弾性体
20 ねじ穴
22 固着部材
24 嵌着部
26 凹状部
28 圧入ゴム
30 仕切部材
32 仕切部材本体
34 蓋部材
36 可動部材
38 周溝
40 下連通孔
42 収容凹所
44 下透孔
46 可撓性膜
48 支持部材
50 係止部
52 挿通部
54 係止突起
56 傾斜面
58 受圧室
60 平衡室
62 オリフィス通路
64 インナブラケット
66 アウタブラケット(ブラケット)
68 連結部
70 取付部
72 ボルト孔
74 ボルト孔
76 連結ボルト
78 脚部
80 天壁部
82 取付片
84 ボルト孔
85 対向内面
86 嵌着溝
88 挟持部
90 奥壁部
92 挿通孔
94 凹所
96 係止孔