(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】弾性表面波センサ及び弾性表面波センサを用いる抗原濃度検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/02 20060101AFI20230126BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230126BHJP
G01N 29/48 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
G01N29/02 501
G01N33/543 593
G01N29/48
(21)【出願番号】P 2019060354
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小貝 崇
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-009493(JP,A)
【文献】特開2017-009492(JP,A)
【文献】特表2016-510128(JP,A)
【文献】特開2015-156865(JP,A)
【文献】特表2006-527382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01N 33/48 - G01N 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンドイッチアッセイ法の1次抗体が固定化された第1検出領域と、弾性表面波を送信及び受信する又は送信及び反射する第1櫛形電極と、を備える第1チャネルと、
サンドイッチアッセイ法の2次抗体が固定化された第2検出領域と、弾性表面波を送信及び受信する又は送信及び反射する第2櫛形電極と、を備える第2チャネルと、
を備えることを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項2】
前記第2チャネルの出力信号に基づいて、抗原及び前記2次抗体を包含し事前に混和反応されたうえで前記第2検出領域に滴下された検体中に、前記2次抗体と結合していない前記抗原が存在するかどうかを検出する非結合抗原検出部、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の弾性表面波センサ。
【請求項3】
前記非結合抗原検出部が前記検体中に前記2次抗体と結合していない前記抗原が存在することを検出したときには、前記第2チャネルの出力信号に基づいて、又は、前記第2チャネルの出力信号及び前記検体が前記第1検出領域にも滴下された前記第1チャネルの出力信号に基づいて、前記検体中の前記抗原の濃度を検出し、
前記非結合抗原検出部が前記検体中に前記2次抗体と結合していない前記抗原が存在しないことを検出したときには、前記検体が前記第1検出領域にも滴下された前記第1チャネルの出力信号に基づいて、かつ、前記第2チャネルの出力信号がほぼ0であることを考慮して、前記検体中の前記抗原の濃度を検出する抗原濃度検出部、
をさらに備えることを特徴とする、請求項2に記載の弾性表面波センサ。
【請求項4】
前記非結合抗原検出部が前記検体中に前記2次抗体と結合していない前記抗原が存在することを検出したときには、前記第2チャネルの出力信号と、前記第2検出領域で前記抗原を除去され前記第2検出領域から移動された前記検体が前記第1検出領域に滴下された前記第1チャネルの出力信号と、に基づいて、前記検体中の前記抗原の濃度を検出し、
前記非結合抗原検出部が前記検体中に前記2次抗体と結合していない前記抗原が存在しないことを検出したときには、前記第2検出領域で抗体抗原反応を起こさず前記第2検出領域から移動された前記検体が前記第1検出領域に滴下された前記第1チャネルの出力信号に基づいて、前記検体中の前記抗原の濃度を検出する抗原濃度検出部、
をさらに備えることを特徴とする、請求項2に記載の弾性表面波センサ。
【請求項5】
弾性表面波センサを用いる抗原濃度検出方法であって、
前記弾性表面波センサは、
サンドイッチアッセイ法の1次抗体が固定化された第1検出領域と、弾性表面波を送信及び受信する又は送信及び反射する第1櫛形電極と、を備える第1チャネルと、
サンドイッチアッセイ法の2次抗体が固定化された第2検出領域と、弾性表面波を送信及び受信する又は送信及び反射する第2櫛形電極と、を備える第2チャネルと、
を備え、
前記抗原濃度検出方法は、
抗原及び前記2次抗体を包含する検体を事前に混和反応させる検体混和手順と、
事前に混和反応された前記検体を前記第2検出領域に滴下する検体滴下手順と、
前記第2チャネルの出力信号に基づいて、前記検体中に前記2次抗体と結合していない前記抗原が存在するかどうかを検出する非結合抗原検出手順と、
を順に備える、弾性表面波センサを用いる抗原濃度検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、血液等の検体中の抗原の濃度を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
血液等の検体中の抗原の濃度を検出するために、弾性表面波センサを利用している(例えば、特許文献1等を参照。)。つまり、検体の導入の前後における、捕集された検体中の抗原量に基づく重量又は粘弾性の変化を、弾性表面波の伝搬振幅又は伝搬位相の変化として検出する。弾性表面波センサは、櫛形電極及び検出領域を備える。櫛形電極は、圧電基板上に形成され、弾性表面波を送信、受信又は反射する。検出領域は、圧電基板上に形成され、検体を導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の検体中の抗原の濃度の検出方法を
図1に示す。まず、抗原AG及びサンドイッチアッセイ法の2次抗体AB2を包含する検体を、事前に十分に混和反応させる。ここで、2次抗体AB2は、モノクロナル抗体であり、抗原AGの認識の箇所を1箇所のみ有する。
図1の左上欄に示したように、抗原量が2次抗体量より少ないときには、2次抗体AB2と反応した抗原AGは存在するが、2次抗体AB2と未反応の抗原AGは存在しない。
図1の右上欄に示したように、抗原量が2次抗体量より多いときには、2次抗体AB2と反応した抗原AGも存在するし、2次抗体AB2と未反応の抗原AGも存在する。
【0005】
次に、事前に十分に混和反応された検体を、サンドイッチアッセイ法の1次抗体AB1が固定化された検出領域111に滴下する。ここで、1次抗体AB1も、モノクロナル抗体であり、抗原AGの認識の箇所を1箇所のみ有する。ただし、1次抗体AB1と2次抗体AB2とでは、抗原AGの認識の箇所が異なる。
図1の左中欄に示したように、抗原量が2次抗体量より少ないときには、2次抗体AB2と反応した抗原AGは1次抗体AB1と結合し、系全体は平衡状態になる。
図1の右中欄に示したように、抗原量が2次抗体量より多いときには、2次抗体AB2と反応した抗原AGも1次抗体AB1と結合し、2次抗体AB2と未反応の抗原AGも1次抗体AB1と結合し、系全体は平衡状態になる。
【0006】
次に、チャネルの出力信号に基づいて、検体中の抗原AGの濃度を検出する。ここで、チャネルの出力信号は、検体の導入の前後における、弾性表面波の伝搬振幅又は伝搬位相の変化である。そして、抗原濃度検出に先立って、検体中の2次抗体AB2の濃度を固定したうえで、検体中の抗原AGの既知の様々な濃度に対して、チャネルの出力信号を測定し、検体中の抗原AGのその他の様々な濃度に対して、チャネルの出力信号を補間し、
図1の下段に示した出力信号/抗原濃度の検量線を記憶する。
【0007】
図1の下段の左側に示したように、抗原量が2次抗体量より少ないときには、検体中の抗原AGの全濃度が増加するにつれて、チャネルの出力信号は単調に増加する。そして、チャネルの出力信号がS
Nであると測定されるため、出力信号/抗原濃度の検量線に基づいて、検体中の抗原AGの全濃度はC
Nであると正しく検出される。
【0008】
図1の下段の右側に示したように、抗原量が2次抗体量より多いときには、検体中の抗原AGの全濃度が増加するにつれて、チャネルの出力信号は増加から減少へと転じる。これは、2次抗体AB2と未反応の抗原AGが、2次抗体AB2と反応した抗原AGより、質量も大きさも小さいためであり、フック現象と呼ばれる。そして、チャネルの出力信号がS
H(>S
N)であると測定されるものの、出力信号/抗原濃度の検量線に基づいて、検体中の抗原AGの全濃度は、フック状態のC
HT(>C
N、真の値)であるか、非フック状態のC
HF(>C
N、誤りの値)であるか、正しく検出されない。
【0009】
なお、抗原AG及び2次抗体AB2を包含する検体が事前に十分に混和反応されていなければ、抗原量が2次抗体量より多いときはもちろん、抗原量が2次抗体量より少ないときであっても、2次抗体AB2と未反応の抗原AGが存在する。すると、チャネルの出力信号が本来はSN又はSHであるときでも測定上ばらついてしまうため、検体中の抗原AGの全濃度が正しく検出されない。よって、検体の事前の十分な混和反応が求められるが、検体の事前の混和反応の程度は分からない。
【0010】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、血液等の検体中の抗原の濃度を検出するために、弾性表面波センサ及びサンドイッチアッセイ法を利用するにあたり、抗原量が2次抗体量より多いときであっても、検体中の抗原の全濃度を正しく検出し、不十分な事前混和反応時であっても、フック現象又は混和不足の異常を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、1次抗体が固定化されたチャネルに加えて、2次抗体が固定化されたチャネルを設ける。すると、事前に2次抗体と未反応の抗原はチャネル上の2次抗体と結合可能であるが、事前に2次抗体と反応した抗原はチャネル上の2次抗体と結合不能である。よって、事前に2次抗体と未反応の抗原のみを検出することができる。
【0012】
具体的には、本開示は、サンドイッチアッセイ法の1次抗体が固定化された第1検出領域と、弾性表面波を送信及び受信する又は送信及び反射する第1櫛形電極と、を備える第1チャネルと、サンドイッチアッセイ法の2次抗体が固定化された第2検出領域と、弾性表面波を送信及び受信する又は送信及び反射する第2櫛形電極と、を備える第2チャネルと、を備えることを特徴とする弾性表面波センサである。
【0013】
この構成によれば、後述の非結合抗原検出部及び抗原濃度検出部を利用して、抗原量が2次抗体量より多いときであっても、検体中の抗原の全濃度を正しく検出し、不十分な事前混和反応時であっても、フック現象又は混和不足の異常を検出することができる。
【0014】
また、本開示は、前記第2チャネルの出力信号に基づいて、抗原及び前記2次抗体を包含し事前に混和反応されたうえで前記第2検出領域に滴下された検体中に、前記2次抗体と結合していない前記抗原が存在するかどうかを検出する非結合抗原検出部、をさらに備えることを特徴とする弾性表面波センサである。
【0015】
また、本開示は、弾性表面波センサを用いる抗原濃度検出方法であって、前記弾性表面波センサは、サンドイッチアッセイ法の1次抗体が固定化された第1検出領域と、弾性表面波を送信及び受信する又は送信及び反射する第1櫛形電極と、を備える第1チャネルと、サンドイッチアッセイ法の2次抗体が固定化された第2検出領域と、弾性表面波を送信及び受信する又は送信及び反射する第2櫛形電極と、を備える第2チャネルと、を備え、前記抗原濃度検出方法は、抗原及び前記2次抗体を包含する検体を事前に混和反応させる検体混和手順と、事前に混和反応された前記検体を前記第2検出領域に滴下する検体滴下手順と、前記第2チャネルの出力信号に基づいて、前記検体中に前記2次抗体と結合していない前記抗原が存在するかどうかを検出する非結合抗原検出手順と、を順に備える、弾性表面波センサを用いる抗原濃度検出方法である。
【0016】
これらの構成によれば、抗原量が2次抗体量より多いときであっても、不十分な事前混和反応時であっても、フック現象又は混和不足の異常を検出することができる。
【0017】
また、本開示は、前記非結合抗原検出部が前記検体中に前記2次抗体と結合していない前記抗原が存在することを検出したときには、前記第2チャネルの出力信号に基づいて、又は、前記第2チャネルの出力信号及び前記検体が前記第1検出領域にも滴下された前記第1チャネルの出力信号に基づいて、前記検体中の前記抗原の濃度を検出し、前記非結合抗原検出部が前記検体中に前記2次抗体と結合していない前記抗原が存在しないことを検出したときには、前記検体が前記第1検出領域にも滴下された前記第1チャネルの出力信号に基づいて、かつ、前記第2チャネルの出力信号がほぼ0であることを考慮して、前記検体中の前記抗原の濃度を検出する抗原濃度検出部、をさらに備えることを特徴とする弾性表面波センサである。
【0018】
この構成によれば、抗原量が2次抗体量より多いときであっても、検体中の抗原の全濃度を正しく検出することができる。
【0019】
また、本開示は、前記非結合抗原検出部が前記検体中に前記2次抗体と結合していない前記抗原が存在することを検出したときには、前記第2チャネルの出力信号と、前記第2検出領域で前記抗原を除去され前記第2検出領域から移動された前記検体が前記第1検出領域に滴下された前記第1チャネルの出力信号と、に基づいて、前記検体中の前記抗原の濃度を検出し、前記非結合抗原検出部が前記検体中に前記2次抗体と結合していない前記抗原が存在しないことを検出したときには、前記第2検出領域で抗体抗原反応を起こさず前記第2検出領域から移動された前記検体が前記第1検出領域に滴下された前記第1チャネルの出力信号に基づいて、前記検体中の前記抗原の濃度を検出する抗原濃度検出部、をさらに備えることを特徴とする弾性表面波センサである。
【0020】
この構成によれば、抗原量が2次抗体量より多いときであっても、不十分な事前混和反応時であっても、検体中の抗原の全濃度を正しく検出することができる。
【発明の効果】
【0021】
このように、本開示は、血液等の検体中の抗原の濃度を検出するために、弾性表面波センサ及びサンドイッチアッセイ法を利用するにあたり、抗原量が2次抗体量より多いときであっても、検体中の抗原の全濃度を正しく検出し、不十分な事前混和反応時であっても、フック現象又は混和不足の異常を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】従来技術の検体中の抗原の濃度の検出方法を示す図である。
【
図2】本開示の第1、2実施形態の弾性表面波センサの構成を示す図である。
【
図3】本開示の第1実施形態の検体中の抗原の濃度の検出手順を示す図である。
【
図4】本開示の第1実施形態の検体中の抗原の濃度の検出方法を示す図である。
【
図5】本開示の第1実施形態の検体中の抗原の濃度の検出結果を示す図である。
【
図6】本開示の第2実施形態の検体中の抗原の濃度の検出手順を示す図である。
【
図7】本開示の第2実施形態の検体中の抗原の濃度の検出方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0024】
本開示の第1実施形態の弾性表面波センサの構成を
図2に示す。弾性表面波センサSは、弾性表面波センサ本体1及び抗原濃度検出装置2から構成される。弾性表面波センサ本体1は、第1チャネル11、第2チャネル12及び第3チャネル13から構成される。第1チャネル11は、第1検出領域111及び第1櫛形電極112から構成される。第2チャネル12は、第2検出領域121及び第2櫛形電極122から構成される。第3チャネル13は、第3検出領域131及び第3櫛形電極132から構成される。抗原濃度検出装置2は、非結合抗原検出部21及び抗原濃度検出部22から構成される。
【0025】
第1検出領域111は、サンドイッチアッセイ法の1次抗体AB1が固定化される。第1櫛形電極112は、弾性表面波を送信及び受信する又は送信及び反射する。第2検出領域121は、サンドイッチアッセイ法の2次抗体AB2が固定化される。第2櫛形電極122は、弾性表面波を送信及び受信する又は送信及び反射する。第3検出領域131は、リファレンス用に、抗原AGと反応しないブロッキング膜が固定化される。第3櫛形電極132は、リファレンス用に、弾性表面波を送信及び受信する又は送信及び反射する。非結合抗原検出部21は、前段のスイッチの切り替えにより、第1チャネル11、第2チャネル12及び第3チャネル13の出力信号の位相及び振幅をそれぞれ測定する。抗原濃度検出部22は、第1チャネル11及び第2チャネル12の出力信号/抗原濃度の検量線(
図4又は
図7の下段を参照。)をそれぞれ記憶している。
【0026】
本開示の第1実施形態の検体中の抗原の濃度の検出手順/方法を
図3、4に示す。まず、抗原AG及び2次抗体AB2を包含する検体を、事前に十分に混和反応させる(ステップS1)。
図4の左上欄に示したように、抗原量が2次抗体量より少ないときには、2次抗体AB2と反応した抗原AGは存在するが、2次抗体AB2と未反応の抗原AGは存在しない。
図4の右上欄に示したように、抗原量が2次抗体量より多いときには、2次抗体AB2と反応した抗原AGも存在するし、2次抗体AB2と未反応の抗原AGも存在する。
【0027】
次に、事前に十分に混和反応された検体を、第1、2、3検出領域111、121、131に滴下する(ステップS2)。
図4の左中欄に示したように、抗原量が2次抗体量より少ないときには、事前に2次抗体AB2と反応した抗原AGは、第1検出領域111上の1次抗体AB1とは結合可能であるが、第2検出領域121上の2次抗体AB2とは結合不能である。そして、系全体は平衡状態になる。
図4の右中欄に示したように、抗原量が2次抗体量より多いときには、事前に2次抗体AB2と反応した抗原AGは、第1検出領域111上の1次抗体AB1とは結合可能であるが、第2検出領域121上の2次抗体AB2とは結合不能である。一方で、事前に2次抗体AB2と未反応の抗原AGは、第1検出領域111上の1次抗体AB1とも結合可能であるし、第2検出領域121上の2次抗体AB2とも結合可能である。そして、系全体は平衡状態になる。
【0028】
次に、非結合抗原検出部21は、第2、3チャネル12、13の出力信号に基づいて、検体中に2次抗体AB2と結合していない抗原AGが存在するかどうかを検出する(ステップS3)。ここで、第2チャネル12の出力信号は、検体の導入の前後における、弾性表面波の伝搬振幅又は伝搬位相の変化である。そして、第3チャネル13の出力信号をリファレンスとすることで、検体の粘弾性や温度変化等の外乱の影響を除去したうえで、第2検出領域121上の2次抗体AB2及びこれと結合した抗原AGの影響のみを抽出する。なお、第3チャネル13の出力信号は、リファレンスとしてもよいが必須ではない。
【0029】
図4の下段の左側に後に示すように、抗原量が2次抗体量より少ないときには、検体中の抗原AGの全濃度が増加したとしても、第2チャネル12の出力信号はほぼ0である。そして、第2チャネル12の出力信号がS
N2(≒0)であると測定されるため、検体中に2次抗体AB2と結合していない抗原AGは存在しないと検出され、フック現象が生じていないと判定される。
【0030】
図4の下段の右側に後に示すように、抗原量が2次抗体量より多いときには、検体中の抗原AGの全濃度が増加するにつれて、第2チャネル12の出力信号は単調に増加する。そして、第2チャネル12の出力信号がS
H2(≠0)であると測定されるため、検体中に2次抗体AB2と結合していない抗原AGは存在すると検出され、フック現象が生じていると判定される。
【0031】
次に、抗原濃度検出部22は、非結合抗原検出部21が検体中に2次抗体AB2と結合していない抗原AGが存在することを検出したときには(ステップS4においてYES)、第2、3チャネル12、13の出力信号に基づいて、又は、第1~3チャネル11~13の出力信号に基づいて、検体中の抗原AGの濃度を検出する(ステップS5)。一方で、抗原濃度検出部22は、非結合抗原検出部21が検体中に2次抗体AB2と結合していない抗原AGが存在しないことを検出したときには(ステップS4においてNO)、第1、3チャネル11、13の出力信号に基づいて、かつ、第2チャネル12の出力信号がほぼ0であることを考慮して、検体中の抗原AGの濃度を検出する(ステップS6)。
【0032】
ここで、第1チャネル11の出力信号は、検体の導入の前後における、弾性表面波の伝搬振幅又は伝搬位相の変化である。そして、第3チャネル13の出力信号をリファレンスとすることで、検体の粘弾性や温度変化等の外乱の影響を除去したうえで、第1検出領域111上の1次抗体AB1並びにこれと結合した2次抗体AB2及び抗原AGの影響のみを抽出する。なお、第3チャネル13の出力信号は、リファレンスとしてもよいが必須ではない。
【0033】
そして、抗原濃度検出に先立って、検体中の2次抗体AB2の濃度を固定したうえで、検体中の抗原AGの既知の様々な濃度に対して、第1、2チャネル11、12の出力信号を測定し、検体中の抗原AGのその他の様々な濃度に対して、第1、2チャネル11、12の出力信号を補間し、
図4の下段に示した出力信号/抗原濃度の検量線を記憶する。
【0034】
図4の下段の左側に示したように、抗原量が2次抗体量より少ないときには、検体中の抗原AGの全濃度が増加するにつれて、第1チャネル11の出力信号は単調に増加する。一方で、検体中の抗原AGの全濃度が増加したとしても、第2チャネル12の出力信号はほぼ0である。
【0035】
図4の下段の左側の黒丸印については、第1チャネル11の出力信号がS
11(>0)であると測定され、第2チャネル12の出力信号がS
21(≒0)であると測定される。よって、第1チャネル11の出力信号/抗原濃度の検量線に基づいて、検体中の抗原AGの全濃度はC
N1(>0)であると正しく検出される。
【0036】
図4の下段の左側の黒三角印については、第1チャネル11の出力信号がS
12(>S
11)であると測定され、第2チャネル12の出力信号がS
21(≒0)であると測定される。よって、第1チャネル11の出力信号/抗原濃度の検量線に基づいて、検体中の抗原AGの全濃度はC
N2(>C
N1)又はC
H(>C
N2)であると検出されるが、第2チャネル12の出力信号がS
21(≒0)であることに基づいて、検体中の抗原AGの全濃度はC
H(>C
N2)ではなくC
N2(<C
H)であると正しく検出される。
【0037】
図4の下段の右側に示したように、抗原量が2次抗体量より多いときには、検体中の抗原AGの全濃度が増加するにつれて、第2チャネル12の出力信号は単調に増加する。一方で、検体中の抗原AGの全濃度が増加するにつれて、第1チャネル11の出力信号は増加から減少へと転じる。
【0038】
図4の下段の右側の黒四角印については、第1チャネル11の出力信号がS
12(>S
11)であると測定され、第2チャネル12の出力信号がS
22(>0)であると測定される。よって、第2チャネル12の出力信号/抗原濃度の検量線に基づいて、検体中の抗原AGの全濃度はC
H(>C
N2)であると正しく検出される。或いは、第1チャネル11の出力信号/抗原濃度の検量線に基づいて、検体中の抗原AGの全濃度はC
N2(>C
N1)又はC
H(>C
N2)であると検出されるが、第2チャネル12の出力信号がS
22(>0)であることに基づいて、検体中の抗原AGの全濃度はC
N2(<C
H)ではなくC
H(>C
N2)であると正しく検出される。
【0039】
なお、抗原AG及び2次抗体AB2を包含する検体が事前に十分に混和反応されていなければ、抗原量が2次抗体量より多いときはもちろん、抗原量が2次抗体量より少ないときであっても、2次抗体AB2と未反応の抗原AGが存在する。しかし、不十分な事前混和反応時には、第2チャネル12の出力信号がS22(>0)であることに基づいて、混和不足の異常を検出することができる。そして、十分な事前混和時には、第2チャネル12の出力信号がS22(>0)であることに基づいて、フック現象の異常を検出することができる。さらに、十分な事前混和時には、第2チャネル12の出力信号がS21(≒0)であることに基づいて、フック現象及び混和不足の異常がないことを検出することができる。
【0040】
本開示の第1実施形態の検体中の抗原の濃度の検出結果を
図5に示す。抗原量に対する2次抗体量の比率が減少するにつれて、第1チャネル11の出力信号は減少し、第2チャネル12の出力信号は増加し、第3チャネル13の出力信号はほぼ0であることが分かる。ただし、抗原量に対する2次抗体量の比率が1.3から0.4へと減少するにつれて、第2チャネル12の出力信号は減少する。これは、第2検出領域121上の2次抗体量が、2次抗体AB2と未反応の抗原量より不足するためである(出力信号の飽和。)。
【0041】
このように、抗原量が2次抗体量より多いときであっても、フック現象の発生を検出し、検体中の抗原AGの全濃度を正しく検出することができる。そして、不十分な事前混和反応時であっても、フック現象又は混和不足の異常を検出することができる。
【0042】
本開示の第2実施形態の検体中の抗原の濃度の検出手順/方法を
図6、7に示す。第2実施形態の弾性表面波センサSの構成は、第1実施形態の弾性表面波センサSの構成と同様である。
図6のステップS11~S14は、
図3のステップS1~S4と同様である。ただし、
図6のステップS12では、事前に十分に混和反応された検体を、第2、3検出領域121、131に滴下する。
図7の左上欄、右上欄、左中欄の上側及び右中欄の上側は、
図4の左上欄、右上欄、左中欄の下側及び右中欄の下側と同様である。
【0043】
次に、抗原濃度検出部22は、非結合抗原検出部21が検体中に2次抗体AB2と結合していない抗原AGが存在することを検出したときには(ステップS14においてYES)、第2検出領域121で抗原AGを除去された検体を、第2検出領域121から第1検出領域111へと移動させる(ステップS15)。そして、第1~3チャネル11~13の出力信号に基づいて、検体中の抗原AGの濃度を検出する(ステップS16)。なお、第3チャネル13の出力信号は、リファレンスとしてもよいが必須ではない。
【0044】
一方で、抗原濃度検出部22は、非結合抗原検出部21が検体中に2次抗体AB2と結合していない抗原AGが存在しないことを検出したときには(ステップS14においてNO)、第2検出領域121で抗体抗原反応のない検体を、第2検出領域121から第1検出領域111へと移動させる(ステップS17)。そして、第1、3チャネル11、13の出力信号に基づいて、検体中の抗原AGの濃度を検出する(ステップS18)。なお、第3チャネル13の出力信号は、リファレンスとしてもよいが必須ではない。
【0045】
ここで、検体を第2検出領域121から第1検出領域111へと移動させるためには、第2検出領域121上の保湿部材及び第1検出領域111上の吸湿部材を用いてもよく(特許文献1を参照。純水等が保湿部材に滴下されると、検体が吸湿部材に移動される。)、第2検出領域121から第1検出領域111へのマイクロ流路を用いてもよい。
【0046】
そして、第2検出領域121で抗原AGを除去するためには、第2検出領域121上の2次抗体量を多くしてもよく、第2検出領域121上のマイクロ撹拌機を用いてもよく、第2検出領域121上の2次抗体AB2と抗原AGとの結合反応障壁を低くしてもよい。
【0047】
図7の左中欄の下側に示したように、抗原量が2次抗体量より少ないときには、事前に2次抗体AB2と反応した抗原AGは、第1検出領域111上の1次抗体AB1と結合可能である。なお、事前に2次抗体AB2と未反応の抗原AGは、そもそも存在していない。そして、系全体は平衡状態になる。
図7の右中欄の下側に示したように、抗原量が2次抗体量より多いときには、事前に2次抗体AB2と反応した抗原AGは、第1検出領域111上の1次抗体AB1と結合可能である。なお、事前に2次抗体AB2と未反応の抗原AGは、すでに除去されている。そして、系全体は平衡状態になる。
【0048】
ここで、抗原濃度検出に先立って、以下の処理を実行する。まず、検体中の2次抗体AB2の濃度を0に固定したうえで、検体中の抗原AGの既知の様々な濃度に対して、第2チャネル12の出力信号を測定し、検体中の抗原AGのその他の様々な濃度に対して、第2チャネル12の出力信号を補間する。次に、検体中の2次抗体AB2と抗原AGとを1対1で反応させたうえで、検体中の2次抗体AB2と抗原AGとの複合体の既知の様々な濃度に対して、第1チャネル11の出力信号を測定し、検体中の2次抗体AB2と抗原AGとの複合体のその他の様々な濃度に対して、第1チャネル11の出力信号を補間する。結果的に、
図7の左下欄及び右下欄に示した出力信号/抗原濃度の検量線を記憶する。
【0049】
図7の左下欄及び右下欄に示したように、検体中の2次抗体AB2と未反応の抗原AGの濃度が増加するにつれて、第2チャネル12の出力信号は単調に増加する。一方で、検体中の2次抗体AB2と反応した抗原AGの濃度が増加するにつれて、第1チャネル11の出力信号は単調に増加する。ここで、第1チャネル11の出力信号は、第2チャネル12の出力信号より、単調増加の速度が速い。これは、2次抗体AB2と反応した抗原AGが、2次抗体AB2と未反応の抗原AGより、質量も大きさも大きいためである。
【0050】
図7の左下欄に示したように、抗原量が2次抗体量より少ないときには、第1チャネル11の出力信号がS
N1であると測定されるため、出力信号/抗原濃度の検量線に基づいて、検体中の2次抗体AB2と反応した抗原AGの濃度はC
N1であると正しく検出される。一方で、第2チャネル12の出力信号がS
N2(≒0)であると測定されるため、出力信号/抗原濃度の検量線に基づいて、検体中の2次抗体AB2と未反応の抗原AGの濃度は0であると正しく検出される。よって、検体中の抗原AGの全濃度はC
N1となる。
【0051】
図7の右下欄に示したように、抗原量が2次抗体量より多いときには、第1チャネル11の出力信号がS
H1であると測定されるため、出力信号/抗原濃度の検量線に基づいて、検体中の2次抗体AB2と反応した抗原AGの濃度はC
H1であると正しく検出される。一方で、第2チャネル12の出力信号がS
H2(≠0)であると測定されるため、出力信号/抗原濃度の検量線に基づいて、検体中の2次抗体AB2と未反応の抗原AGの濃度はC
H2であると正しく検出される。よって、検体中の抗原AGの全濃度はC
H1+C
H2となる。
【0052】
なお、抗原AG及び2次抗体AB2を包含する検体が事前に十分に混和反応されていなければ、抗原量が2次抗体量より多いときはもちろん、抗原量が2次抗体量より少ないときであっても、2次抗体AB2と未反応の抗原AGが存在するため、フック現象が発生する。しかし、不十分な事前混和反応時であっても、十分な事前混和反応時と同様に、
図7の左下欄及び右下欄に示した出力信号/抗原濃度の検量線を用いることができる。これは、
図7の左下欄及び右下欄に示した出力信号/抗原濃度の検量線は、検体中の抗原AGの全濃度を横軸としておらず、検体中の2次抗体AB2と反応した抗原AGの濃度又は検体中の2次抗体AB2と未反応の抗原AGの濃度を横軸としているためである。
【0053】
このように、抗原量が2次抗体量より多いときであっても、フック現象の発生を検出し、検体中の抗原AGの全濃度を正しく検出することができる。そして、不十分な事前混和反応時であっても、フック現象の発生を検出し、検体中の抗原AGの全濃度を正しく検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本開示の弾性表面波センサ及び抗原濃度検出方法は、サンドイッチアッセイ法を利用して、血液等の検体中の抗原の濃度を検出する用途に、適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
S:弾性表面波センサ
AB1:1次抗体
AB2:2次抗体
AG:抗原
1:弾性表面波センサ本体
2:抗原濃度検出装置
11:第1チャネル
12:第2チャネル
13:第3チャネル
21:非結合抗原検出部
22:抗原濃度検出部
111:検出領域、第1検出領域
112:第1櫛形電極
121:第2検出領域
122:第2櫛形電極
131:第3検出領域
132:第3櫛形電極