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  • 特許-遮熱人工芝 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】遮熱人工芝
(51)【国際特許分類】
   E01C 13/08 20060101AFI20230126BHJP
【FI】
E01C13/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020206687
(22)【出願日】2020-12-14
(65)【公開番号】P2022093947
(43)【公開日】2022-06-24
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】591004456
【氏名又は名称】東レ・アムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】岩田 泰之
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-124984(JP,A)
【文献】特表2010-539362(JP,A)
【文献】特開2008-068072(JP,A)
【文献】特開2008-069632(JP,A)
【文献】特開2009-068271(JP,A)
【文献】特開2017-209921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 1/00-17/00
A63C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、この基材の一方の面に植設されたパイルを有し、上記パイルは近赤外線(波長:700~2500nm)の波長領域の光を反射することが可能な酸化物を含有し、上記基材のいずれか一方の面に樹脂層を被覆し、上記樹脂層は近赤外線(波長:700~2500nm)の波長領域の光を反射することが可能な酸化物とセラミックからなる中空物質を含有する遮熱人工芝において、上記セラミックは、粒子径の範囲が5~40μmであって平均粒子径が20μmであるセラミックの粒子と、粒子径の範囲が5~60μmであって平均粒子径が25μmであるセラミックの粒子と、粒子径の範囲が5~90μmであって平均粒子径が40μmであるセラミックの粒子と、粒子径の範囲が20~110μmであって平均粒子径が50μmであるセラミックの粒子とを混合したものからなることを特徴とする遮熱人工芝。
【請求項2】
酸化物がFeとCrを含むことを特徴とする請求項1に記載の遮熱人工芝。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性を有し、太陽光などの熱エネルギーを効率よく反射することによって熱エネルギーの侵入を防ぐことができる、スポーツ施設等の天然芝の代替として用いられる人工芝に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スポーツ人口の増大、活発化につれ、野球場、サッカー、ホッケーおよびラグビー場、テニスコート、ゲートボール場等の球戯場や多目的広場等の屋外スポーツ施設においては従来既設の天然芝あるいはクレーコートの代替として、人工芝が多用されている。その理由としては、人工芝は天候条件に影響されにくく、常に一定のグラウンド条件が保持され、維持管理が容易であり、利便性や管理費を節減できる等がある。
【0003】
人工芝はそうした利点を持つ一方で、かつてはパイルすなわち葉糸が短く衝撃吸収性が低いものが主であり、さらに人工芝の下がコンクリートなどの舗装面のことが多かったためもあり、天然芝に比すると、競技者に対する安全性に問題があるとされてきた。しかし近年、パイルが長いロングパイルのものや、さらにロングパイル人工芝にパイル糸間隔を開けて植設した粗植型で、そのパイル糸間に砂等の無機質粒状物あるいはゴムチップ等の弾性粒状物を充填して成る、衝撃吸収性にすぐれたものの開発、改良が進んでおり、各種競技の国際機関が公式に公認または認定するほどに広範に用いられている。
【0004】
しかしながら人工芝舗装にも、全天候運動場共通の問題点のひとつとして、夏季屋外における炎天下での表面温度が高くなる点があり、時には70℃をこえる場合も多い。特に、近年広く用いられている粒状物入りロングパイル人工芝は、長いパイルや粒状物の間隙に空気層が多いため、パイルの短い人工芝に比して熱が逃げづらく、温度上昇がさらに生じやすくなっている問題がある。結果として、競技者にとっては過酷であり、熱中症発症のおそれもあり、また環境温度への悪影響や、ひいてはヒートアイランド現象の原因ともなることが問題となっており、その対策が求められてきた。
【0005】
現在考えられる対策としては、人工芝に対して散水する方法、さらには、例えば特許文献1に開示されているように、人工芝の素材に保水性を付与したものを充填するといったものがあるが、効果は一時的なものに限られている。
【0006】
また、人工芝に遮熱性を付与する手段として、芝の表層表面に、特許文献2には近赤外線反射材を塗布する方法、特許文献3には遮熱塗料を塗布する方法が開示されている。しかし芝の表面に塗料などを塗布する方法は、運動場等における摩擦の多い条件下では塗料が剥がれる可能性が高く、持久性において問題がある。さらに、特許文献4には基布の少なくとも片面に赤外線反射材を含む樹脂層を積層した遮熱性布帛が開示されているが、摩擦の多い条件下では上記樹脂層が剥がれる可能性が高く、同じように持久性において問題がある。
【0007】
また、特許文献5に開示されているように、人工芝パイルの素材自体に白色顔料などの日射反射率の高い素材を添加する方法や、それらと緑色の人工芝とを混合して編みこむことによって高温化の抑制をはかる方法があるが、自然芝に近くなるような色調に調整することは困難で、また緑色人工芝との混合によっては、充分な遮熱効果が得られるとは言いがたい。そして、特許文献6には輻射熱に対して高い反射率の素材を基布の地表側に接着や縫合等により取り付けた遮熱人工芝が開示されているが、持久性において問題があるとともに、充分な遮熱効果が得られるとは言いがたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-144345号公報
【文献】特開2006-124984号公報
【文献】特開2007-177143号公報
【文献】特開2015-200039号公報
【文献】特開2007-154623号公報
【文献】特開2018-127873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、充分な遮熱効果を有する人工芝を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願第一発明は、基材と、この基材の一方の面に植設されたパイルを有し、上記パイルは近赤外線(波長:700~2500nm)の波長領域の光を反射することが可能な酸化物を含有し、上記基材のいずれか一方の面に樹脂層を被覆し、上記樹脂層は近赤外線(波長:700~2500nm)の波長領域の光を反射することが可能な酸化物とセラミックからなる中空物質を含有することを特徴とする遮熱人工芝である。
【0011】
本願第二発明は、本願第一発明における酸化物がFeとCrを含むことを特徴とする遮熱人工芝である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遮熱人工芝によれば、パイルと樹脂層が含有する酸化物が近赤外線の波長領域の光を反射するので、遮熱性を備えており、さらに,樹脂層はセラミックからなる中空物質を含有しているので、熱エネルギーの伝導が抑制され、しかもセラミックからなる中空物質は熱を屈折させて反射し散逸させるので、極めて優れた断熱及び遮熱効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の遮熱人工芝の一実施形態の側面図である。
図2図2は、本発明の遮熱人工芝の製造プロセスを模式的に示す図である。
図3図3は、本発明の遮熱人工芝の製造プロセスを模式的に示す図である。
図4図4は、本発明の遮熱人工芝の製造プロセスを模式的に示す図である。
図5図5は、本発明の遮熱人工芝の一実施形態と、従来の人工芝の表面温度の推移を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変更や修正が可能である。
【0015】
図1は、本発明の遮熱人工芝の一実施形態の側面図である。図1において、1は基材、2はパイル、3は樹脂層である。パイル2は、近赤外線の波長領域の光を反射することが可能な酸化物であるFe及びCrを含有している。図1において、パイル2の中の小さな黒い点状のものは上記酸化物を示す。樹脂層3は、近赤外線の波長領域の光を反射することが可能な酸化物であるFe及びCrと、セラミックからなる中空物質とを含有している。図1において、樹脂層3の中の小さな黒い点状のものは上記酸化物を示し、球状、長円状などの様々な黒い中抜き形状のものはセラミックからなる中空物質を示す。
【0016】
基材1を構成する繊維としては、例えば、木綿、麻等の天然セルロース繊維、ビスコースレーヨン、ハイウェットモジュラスレーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等の再生セルロース繊維、羊毛、アンゴラ、カシミア、シルク等の動物系繊維、トリアセテート、ジアセテート等の半合成繊維、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、塩化ビニル等の合成繊維が使用できる。これらの繊維は、単独でもしくは混合して用いることができる。混合使用の際の繊維の組み合わせとしては、ポリエステルと木綿、ポリアミドと木綿等があげられる。
【0017】
基材1の形態は、特に限定されず、例えば、織物、編物、不織布などが採用できるが、一般には、織物、編物が好ましい。この場合、織物組織及び編物組織についても特に限定されず、織物組織としては、例えば、平織、綾織、朱子織などの三原組織及びその変化組織、経二重織、緯二重織等の片二重組織及び経緯二重織などが採用できる。一方、編物組織としては、よこ編組織の場合、平編(天竺、鹿の子編、裏毛編、添え糸編(ベア天竺など)、ジャガード編など)、ゴム編(スムース編、インターロック編、ミラノリブ、シングルピケ、ダブルピケ、リップル、片畔編、片袋編、ポンチローマなど)、パール編などが例示できる。たて編組織の場合は、シングルデンビー編、シングルアトラス編、シングルコード編、ダブルデンビー編、ダブルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、クインズコード編、サテン編、裏毛編、ジャガード編などが例示できる。編物の層数としては、単層でもよいし2層以上の多層でもよい。本実施形態では、基材1の片面に樹脂層3が積層されているが、基材1の両面に樹脂層3が積層されてもよい。
【0018】
パイル2の材質及び形態は、芝葉の外観を実現することができる限り、限定されないが、例えば、パイル2は、樹脂材料からなる扁平なフィラメント糸(ヤーン)を用いて形成することができる。樹脂材料としては、典型的には、ポリエチレンやポリプロピレン、ナイロン、ビニロン等の熱可塑性樹脂を選択することができる。また、本実施形態のパイル2は、タフティングマシンを用いて、パイル2となるプラスチック糸(ヤーン)を基材1に縫い込むことにより、基材1に対して固定されている。基材1の表面からパイル2の先端までの長さ(平均値)は、特に限定されないが、6mm以上であって50mm未満と比較的短くすることもできるし(一般にショートパイルと呼ばれる)、50mm以上であって70mm以下と比較的長くすることもできる(一般にロングパイルと呼ばれる)。
【0019】
樹脂層3を構成する樹脂としては、例えば、SBR系樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂等の公知の樹脂が使用できる。本実施形態においては、樹脂層3の樹脂として、SBR系樹脂を用い、上記酸化物とセラミックからなる中空物質を樹脂層3中に一様に分散させるために、シリコーン・アクリル樹脂にスチレン・ブタジエンゴムを添加したものを用いた。
【0020】
セラミックからなる中空物質としては、例えば、ホウ化ケイ素系のセラミックバルーンは、その表層及び内部で太陽光等を反射することができ、中空で断熱性にも優れているため、好適に用いられる。セラミックからなる中空物質を樹脂層3中に稠密積層配列するためには、樹脂層3の構成段階で十分な撹拌をすることが必要であるが、その撹拌時には、十分な耐荷重と強度を有するセラミックの中空物質を樹脂層3中に適切に配置するとともにセラミックの中空物質の破壊を抑えることができる撹拌機を用いることが好ましい。セラミックからなる中空物質の粒子径は複数であることが好ましい。例えば、5~40μm(平均粒子径20μm)、5~60μm(平均粒子径25μm)、5~90μm(平均粒子径40μm)及び20~110μm(平均粒子径50μm)の粒子を混合したものを用いることができる。すなわち、相対的に小さい粒子径のものから相対的に大きい粒子径のものまで、異なる粒子径のものを幅広く有するのが好ましい。
【0021】
そのような場合、大きい粒子径を有する中空物質の隙間に小さい粒子径の中空物質が入り込み、中空物質間の隙間をより小さくする。つまり中空物質をより稠密に配列させることができる。そのため反射性、断熱性をより高めることができる。
【0022】
また、樹脂層3の形成で断熱性を高めるためには、セラミックの中空物質のセラミック素材、その粒子径及び樹脂マトリックスの熱伝導率などが大きく影響しており、それらの要素を適切に組み合わせることによって断熱性に優れた樹脂層3を得ることができ、樹脂層3中のセラミックの中空物質の総重量が決定される。また、樹脂層全体に対する中空物質の含有量は、樹脂層3に対して中空物質の占める容積比が1~10%になるような値とすることが好ましい。この範囲以外の含有量では適切な稠密積層配列をとることができないため不適当である。すなわち含有量が多量であると、中空物質の劣化を招き、逆に少量であると中空物質同士が離れてしまい、遮熱性能の低下を招く。
【0023】
中空物質の形状としては、球状、長円状、針状、板状、柱状などを挙げることができ、特に限定されるものではないが、その中でも反射機能が優れる球状のものが好適に用いられる。中空物質の作製法としては、公知のゾル・ゲル法の他、結果的に中空物質を得ることができる方法であれば用いることができる。
【0024】
次に、図1に示す遮熱人工芝の製造方法について説明する。まず、パイル糸を通した針を基材に対して上下させ、ナイフでパイルの頭部を切断する。そして、ポリエチレン中にFeとCrを高濃度で分散させて、マスターバッチ法によりパイル糸にFeとCrを練り込み、図2に示すように、基材1にパイル2を植設する。次に、基材1に対してパイル2を上にして、基材1の下面にFeとCrとセラミックの中空物質を含有するSBR系樹脂を塗布し、図3に示すように、基材1の上面にパイル2を植設し、基材1の下面に樹脂層3を有する遮熱人工芝を得る。さらに、必要に応じて、図4に示すように、樹脂層3の下面に合成ゴム4(二次基材)を貼り付けることができる。
【0025】
図5は、基材1がポリプロピレンの平織物であり、パイル2の材料がポリエチレンであり、パイル2がFeとCrを含有し、樹脂層3がSBR系樹脂中にFe及びCrの酸化物と、セラミックの中空物質とを含有する本発明の遮熱人工芝と、基材1がポリプロピレンの平織物であり、パイル2の材料がポリエチレンであり、樹脂層3がSBR系樹脂である従来の人工芝の表面温度の推移を比較して示す図である。すなわち、従来の人工芝は、樹脂層3にFe及びCrの酸化物と、セラミックの中空物質とを含有しておらず、また、パイル2においてもFeとCrを含有していない。図5において線Aは本発明の遮熱人工芝の表面温度の推移を示し、線Bは従来の人工芝の表面温度の推移を示す。すなわち、図5は、本発明品と従来品の人工芝に対して、高さ450mmの位置から500Wのハロゲンランプを照射して、5分後、10分後、20分後、30分後の表面温度(℃)の推移を示す。図5に示すように、本発明の遮熱人工芝(線A)は従来の人工芝(線B)に対して、表面温度の上昇量が少ないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、遮熱人工芝として好適である。
【符号の説明】
【0027】
1 基材
2 パイル
3 樹脂層
4 合成ゴム
図1
図2
図3
図4
図5