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特許7217274熱延鋼板、高強度冷延鋼板およびそれらの製造方法
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  • 特許-熱延鋼板、高強度冷延鋼板およびそれらの製造方法 図1
  • 特許-熱延鋼板、高強度冷延鋼板およびそれらの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】熱延鋼板、高強度冷延鋼板およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20230126BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230126BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230126BHJP
   B21B 1/26 20060101ALI20230126BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C21D9/46 T
C22C38/00 301S
C22C38/00 301W
C22C38/00 301T
C22C38/58
C21D9/46 G
C21D9/46 H
B21B1/26 E
B21B3/00 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020527642
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2019025644
(87)【国際公開番号】W WO2020004561
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2018124343
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000150280
【氏名又は名称】株式会社中山製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桂 啓志
(72)【発明者】
【氏名】岩元 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】竹松 伸一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 冬樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 隆志
(72)【発明者】
【氏名】安樂 和彦
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-183057(JP,A)
【文献】特開2011-168861(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047819(WO,A1)
【文献】特開2015-151576(JP,A)
【文献】国際公開第2011/111333(WO,A1)
【文献】特開2006-207018(JP,A)
【文献】特開2017-128750(JP,A)
【文献】特開2005-262255(JP,A)
【文献】特開2005-230896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46
C22C 38/00
C22C 38/58
B21B 1/26
B21B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%での含有量として、C:0.1~0.3%、Si:1.0~2.0%、Mn:1.0~2.5%、Cr:0.5%以下、Ni:1.0%以下、P:0.01%以下、S:0.006%以下、N:0.015%以下、Cu:0.5%以下、残部がFeおよび不可避的不純物の組成となる圧延素材を、
合計で30%以上の圧下率で前記圧延素材を粗圧延する第1ステップと、
前記第1ステップの後、800℃以上の温度環境下において互いに径の異なる複数の異径ロールを用いて合計で40%以上の圧下率で前記圧延素材を仕上げ圧延する第2ステップと、
前記第2ステップの後、700℃以上の温度環境下において前記圧延素材の巻き取りを行うことで引張強度が900MPa以下の熱延鋼板を製造する第3ステップと、
を含むことを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記第1ステップにおいては、1100℃以上の温度環境下において前記圧延素材に対して粗圧延を行う請求項1に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記第2ステップにおいては、仕上げ前段における圧延機1台当りの平均圧下率が40%以上となり、且つ、仕上げ後段における圧延機による圧下の累積歪が0.5以上となるように仕上げ圧延を行う請求項1または2に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱延鋼板の製造法により得られた熱延鋼板を、
前記熱延鋼板を構成する組織のうち50%の割合を超える主相をベイナイト組織とし、さらに前記ベイナイト組織以外にフェライト組織、マルテンサイト組織及び残留オーステナイト組織を含み、
10μm平方の単位面積当たりに粒径0.1μm~10μm未満の残留オーステナイト粒が1個以上分散され、
引張り強度TSが700MPa以上1400MPa以下であり、且つ、
破断伸びをEL%としたとき、
TS≧1400-(30×EL)
を満足するように、合計で60%以上の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する第4ステップを含むことを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記第4ステップの後、Ac1点以上の均熱温度で前記冷延鋼板を焼鈍した後に冷却保持する第5ステップを更に有する請求項に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱延鋼板の厚みが1.2~3.0mmであり、前記冷延鋼板の厚みが0.01~0.6mmである請求項4又は5に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項7】
質量%での含有量として、C:0.1~0.3%、Si:1.0~2.0%、Mn:1.0~2.5%、Cr:0.5%以下、Ni:1.0%以下、P:0.01%以下、S:0.006%以下、N:0.015%以下、Cu:0.5%以下、残部がFeおよび不可避的不純物の組成を有し、
前記組成の鋼板を構成する組織のうち50%の割合を超える主相をベイナイト組織とし、さらに前記ベイナイト組織以外にフェライト組織、マルテンサイト組織及び残留オーステナイト組織を含み、
10μm平方の単位面積当たりに粒径0.1μmを超え10μm未満の残留オーステナイト粒が1個以上分散され、
引張り強度TSが700MPa以上1400MPa以下であり、且つ、
破断伸びをEL%としたとき、
TS≧1400-(30×EL)
を満足することを特徴とする高強度冷延鋼板。
【請求項8】
前記高強度冷延鋼板における加工硬化の特性を示すn値が0.20以上である請求項に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項9】
前記残留オーステナイト組織が占める体積割合が8%以上である請求項7又は8に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項10】
前記高強度冷延鋼板における厚みが0.01~0.6mmである請求項のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項11】
前記高強度冷延鋼板における限界張出高さが6.5mm以上である請求項10のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項12】
前記高強度冷延鋼板における限界絞り比が2.0以上である請求項11のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項13】
前記高強度冷延鋼板におけるΔrが±0.7の範囲である請求項12のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項14】
前記高強度冷延鋼板における耳率が10%以下である請求項13のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性に優れた高強度の冷延鋼板及び熱延鋼板に関し、より詳細には深絞り加工など厳しい加工に耐え得る延性を備えた高強度冷延鋼板及び優れた成形性を引出すための熱延鋼板並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば現代の移動手段として不可欠な自動車は、強度の高い鋼板をプレス成形して製造された部品が用いられている。かような高強度鋼板を製造するにあたっては、いわゆるホットプレス法といった製造方法が用いられることがある。
ホットプレス法は、鋼板を高温環境下において軟質化させて熱間でプレス加工をするのでスプリングバックの発生量は極めて少なく、形状凍結性が良いという利点を有する。また、ホットプレスの際の焼入れ効果で、非常に高い強度をもった部品を高精度で提供できるという利点もある。
【0003】
しかしながら、上記したホットプレス法においては、プレス加工前に鋼板を高温となるように加熱することが必須であり、また、ホットプレス後にスケールを落とす作業が必要となる。従って、ホットプレス法は、上述したメリットはあるものの、一般的に作業効率が非常に悪くコスト高となってしまうといった難点も存在する。さらには、プレス成形用の金型が加熱した鋼板と接するため金型の寿命が比較的短いことも欠点として存在し、これも製造コストを増加させる一因となっている。
【0004】
一方、上記した自動車用部品に加え、例えば携帯電話やノートパソコン等に用いられるディスプレイ用のフレーム部品などは、いわゆる冷間プレスを用いて冷延鋼板として成形されることも多い。かような冷間加工は、一般に720℃以下の温度環境下で加工を行う方法であり、鋼板の持つ金属組織が緻密になるといった特徴も有している。
【0005】
ここで、近年における情報機器や自動車部品には軽量化や小型化の厳しい要求もあり、これらの部品を低コストで軽量化して小型化するためには冷延鋼板を薄くする必要がある。そして薄板化した鋼板においては同じ強度ではプレス部品としての強度を確保できないため、薄板かつ高強度を有する高強度鋼板を提供する必要がある。他方、強度だけを追求してしまうと延性が低下してしまい、プレス成形時などに割れが生じてしまう点にも配慮する必要がある。
【0006】
このような要請に応えるべく、例えば特許文献1~4に例示されるごとき高強度高延性材(以下、「TRIP鋼」とも称する)が提案されている。
例えば特許文献1では、引張強度が1000MPa以下の熱間圧延鋼板を合計で60%以上の圧延率で冷間圧延を行って冷延鋼板とし、さらに均熱温度を750℃以上として焼鈍処理を行った上で3℃/s~100℃/sで冷却することで、引張強度が1280MPa以上で破断伸びが3%以上の高強度冷延鋼板を得られるということが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5717631号公報
【文献】特開2013-76162号公報
【文献】特開2012-41573号公報
【文献】特開2012-214868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記した特許文献1~4を含む従来の技術では市場のニーズを満たしているとは言えず、以下に述べる課題が存在する。
まず特許文献1で開示される高強度冷延鋼板は、たしかに強度と延性とを両立した優れた性質を備えているが、更なる軽量化や小型化のためにはより高い延性を兼ね備えた高強度冷延鋼板が希求されることが予想される。
【0009】
また、TRIP鋼を開示する特許文献2~4に関しては、成形性に優れるとの言及はあるものの、例えば深絞り成形性といった実際の評価が殆ど実施されておらず、実施例の内容としても一部の文献で限界絞り比が記載されている程度に留まっており成形性の評価としては明らかに不十分である。加えてこれらの文献においては、TRIP鋼でキーエレメントとなる残留オーステナイトの評価に関しても、残留オーステナイト量が記載されている程度に留まっており、かようなTRIP鋼では局所的な割れ等を引き起こす可能性がある為、改善の余地が多分にある。
【0010】
本発明は、かような課題を一例として解決することを鑑みてなされたものであり、冷間加工時の負荷が少なく、しかも成形性及び残留オーステナイトの評価に関して一定の条件を満たす成形性と延性に優れた高強度冷延鋼板及びその素材となる熱延鋼板並びにこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかる高強度冷延鋼板の素材となる熱延鋼板の製造方法は、(1)質量%での含有量として、C:0.1~0.3%、Si:1.0~2.0%、Mn:1.0~2.5%、Cr:0.5%以下、Ni:1.0%以下、P:0.01%以下、S:0.006%以下、N:0.015%以下、Cu:0.5%以下、残部がFeおよび不可避的不純物の組成となる圧延素材を、合計で30%以上の圧下率で前記圧延素材を粗圧延する第1ステップと、前記第1ステップの後、冷延・焼鈍後の残留オーステナイトの凝集や粗粒化を抑制するため800℃以上の温度環境下において互いに径の異なる複数の異径ロールを用いて合計で40%以上の圧下率で前記圧延素材を仕上げ圧延する第2ステップと、前記第2ステップの後、700℃以上の温度環境下において前記圧延素材の巻き取りを行うことで引張強度が900MPa以下で熱延鋼板を製造する第3ステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
なお上記(1)に記載の熱延鋼板の製造方法においては、(2)前記第1ステップにおいては、1100℃以上の温度環境下において前記圧延素材に対して粗圧延を行うことが好ましい。
【0013】
また、上記(1)又は(2)に記載の熱延鋼板の製造方法においては、(3)前記第2ステップにおいては、仕上げ前段における圧延機1台当りの平均圧下率が40%以上となり、且つ、仕上げ後段における圧延機による圧下の累積歪が0.5以上となるように仕上げ圧延を行うことが好ましい。
【0014】
そして上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかる高強度冷延鋼板の製造方法は、上記した(1)~(3)のいずれかに記載の熱延鋼板の製造法により得られた熱延鋼板を、前記熱延鋼板を構成する組織のうち50%の割合を超える主相をベイナイト組織とし、さらに前記ベイナイト組織以外にフェライト組織、マルテンサイト組織及び残留オーステナイト組織を含み、10μm平方の単位面積当たりに粒径0.1μm~10μm未満の残留オーステナイト粒が1個以上分散され、引張り強度TSが700MPa以上1400MPa以下であり、且つ、破断伸びをEL%としたとき、TS≧1400-(30×EL)を満足するように、合計で60%以上の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する第4ステップを含むことを特徴とする。
【0016】
また、上記した()に記載の高強度冷延鋼板の製造方法においては、()前記第4ステップの後、Ac1点以上の均熱温度で前記冷延鋼板を焼鈍した後に冷却保持する第5ステップを更に有することが好ましい。
【0017】
また、上記した(4)又は(5)に記載の高強度冷延鋼板の製造方法においては、()前記熱延鋼板の厚みが1.2~3.0mmであり、前記冷延鋼板の厚みが0.01~0.6mmであることが好ましい。
【0019】
さらに上記した課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかる高強度冷延鋼板は、()質量%での含有量として、C:0.1~0.3%、Si:1.0~2.0%、Mn:1.0~2.5%、Cr:0.5%以下、Ni:1.0%以下、P:0.01%以下、S:0.006%以下、N:0.015%以下、Cu:0.5%以下、残部がFeおよび不可避的不純物の組成を有し、前記組成の鋼板を構成する組織のうち50%の割合を超える主相をベイナイト組織とし、さらに前記ベイナイト組織以外にフェライト組織、マルテンサイト組織及び残留オーステナイト組織を含み、10μm平方の単位面積当たりに粒径0.1μmを超え10μm未満の残留オーステナイト粒が1個以上分散され、引張り強度TSが700MPa以上1400MPa以下であり、且つ、破断伸びをEL%としたとき、TS≧1400-(30×EL)を満足することを特徴とする。
なお上記した()に記載の高強度冷延鋼板を得るためには、質量%での含有量として上記と同様の組成を有し、厚さが1.2~3.0mmであり、引張強度が900MPa以下である熱延鋼板を素材とすることが好ましい。
【0020】
また、上記した()に記載の高強度冷延鋼板においては、()前記高強度冷延鋼板における加工硬化の特性を示すn値が0.20以上であることが好ましい。
【0021】
また、上記した()又は()に記載の高強度冷延鋼板においては、()前記残留オーステナイト組織が占める体積割合が8%以上であることが好ましい。
【0022】
また、上記した()~()のいずれかに記載の高強度冷延鋼板においては、(10)前記高強度冷延鋼板における厚みが0.01~0.6mmであることが好ましい。
【0023】
また、上記した()~(10)のいずれかに記載の高強度冷延鋼板においては、(11)前記高強度冷延鋼板における限界張出高さが6.5mm以上であることが好ましい。
【0024】
また、上記した()~(11)のいずれかに記載の高強度冷延鋼板においては、(12)前記高強度冷延鋼板における限界絞り比が2.0以上であることが好ましい。
【0025】
また、上記した()~(12)のいずれかに記載の高強度冷延鋼板においては、(13)前記高強度冷延鋼板におけるΔrが±0.7の範囲であることが好ましい。
【0026】
また、上記した()~(13)のいずれかに記載の高強度冷延鋼板においては、(14)前記高強度冷延鋼板における耳率が10%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、冷間加工時の負荷が少なく、しかも高い成形性と高い強度を高次元で両立できる優れた高強度冷延鋼板を実現できる。あるいは本発明によれば、かような優れた高強度冷延鋼板を実現するための素材となる熱延鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態における仕上げ圧延機1を模式的に示す図である。
図2】本実施形態における冷延鋼板のEBSD法による断面組織写真である。
図3】本発明の範囲外で製造した冷延鋼板のEBSD法による断面組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
高強度でいて延性にも優れた鋼板について鋭意研究を行った結果、発明者らは、適正な成分組成、熱延条件、冷延条件、および焼鈍条件などの採用で、理想的な延性も具備した好ましい高強度鋼板が得られることを見出した。すなわち、適正な成分範囲を有するスラブを、熱間圧延における粗圧延で高圧下圧延を施し、さらに仕上げ圧延での後段高ひずみ圧延を高温で終了し、そして所定時間(例えば数秒)の空冷をした後に冷却を開始し、その後に適正な温度環境下で冷却した鋼板を巻き取ることで、冷間加工しやすく組織の均一性に優れた熱延鋼板を得ることが出来るといった知見を得た。さらにこの熱延鋼板に対して適切な冷間圧延を施し、そして適切な条件で最終焼鈍を行うことで、成形性に優れた高強度冷延鋼板を製造することができることが判明した。
以下、上記知見を具現化した本実施形態における鋼板などの詳細を説明する。
【0030】
<圧延素材>
本実施形態の高強度冷延鋼板及びその素材となる熱延鋼板の製造方法に用いられる圧延素材としては、特定の組成を有するスラブ片を使用することができる。前記組成としては、質量%での含有量として、C:0.1~0.3%、Si:1.0~2.0%、Mn:1.0~2.5%、Cr:0.5%以下、Ni:1.0%以下、P:0.01%以下、S:0.006%以下、N:0.015%以下、Cu:0.5%以下、残部がFeおよび不可避的不純物、とすることができる。
【0031】
C(炭素)は、本実施形態における特徴である残留オーステナイト組織を安定化させるために重要な元素である。C量としては、上述したように0.1~0.3%の含有量が必要である。C量が0.1%未満である場合、必要とされる残留オーステナイト組織の安定度を得ることができない。一方で、C量が0.3%を超える場合、例えば鋼板を溶接した場合に溶接部が硬化しすぎて溶接部から破断しやすくなる、等の問題があるため、好ましくない。
【0032】
Si(シリコン)も、残留オーステナイト組織を安定化させるために重要な元素である。Si量としては、上述したように1.0~2.0%の含有量が必要である。また、Siは固溶強化による鋼板の強度の向上にも寄与する元素である。Si量が増加するほど鋼板の残留オーステナイト組織の安定性及びその体積割合が増加するが、本実施形態においてSi量を上記のように規定した理由は以下のとおりである。すなわち、Si量が1.0%未満の場合、本実施形態に必要とされる鋼板の複合組織と材料特性を得ることができない。一方で、Si量が2.0%を超えた場合には、本実施形態に必要とされる鋼板の強度と延性の好ましいバランスが得られない。また、コスト低減の観点から、本実施形態においてはSi量の上限を2.0%とした。
【0033】
Mn(マンガン)は鋼板強度を高くするために必要とされる元素である。Mn量としては、上述のように1.0~2.5%であることが必要である。Mn量が1.0未満の場合、フェライト量が増加し、高い鋼板強度を得ることができない。一方で、Mn量が2.5%を超えた場合、マルテンサイトが生成しやすくなり、本実施形態において必要とされる複合組織を得ることができない。そのため、本実施形態においては上述のMn量を規定することとした。
【0034】
Cr(クロム)量は上述のように0.5%以下であることが必要である。Cr量が0.5%を超える場合にはAc1変態点が上昇し、Ac1変態点以上での焼鈍を行う際にコスト上昇につながるという問題があるためである。そのため、本実施形態においては上述のCr量を規定することとした。
【0035】
Ni(ニッケル)量は上述のように1.0%以下であることが必要である。Niの添加により鋼板の強度を向上させることができる。Ni量が1.0%を超える場合にはマルテンサイトが生成しやすくなり、本実施形態において必要とされる複合組織を得ることができない。また、コストの観点から、本実施形態においてはNiを上述のように規定した。
【0036】
P(リン)は、鋼板の溶接性向上のためにできるだけ少なくすることが必要である。従って、本実施形態においてはP量を0.01%以下とする。
【0037】
S(硫黄)も、鋼板の溶接性向上のためにできるだけ少なくすることが必要である。従って、本実施形態においてはS量を0.006%以下とする。
【0038】
N(窒素)は、炭素と同様にオーステナイト組織の安定化に必要な元素である。一方で本実施形態においてN量を0.015%以下とした理由としては、0.015%を超えた場合には鋼板の溶接性を低下させるためである。
【0039】
Cu(銅)は、固溶強化もしくは析出強化によって強度を向上させるために必要な元素であることから一定量を添加することができる。一方で本実施形態においてCu量を0.5%以下とした理由としては、熱間圧延時の脆化を引き起こす恐れがあるためである。
【0040】
本実施形態の圧延素材の組成としては、残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物とは、意図的に添加しなくても含まれてしまう成分を指す。かような不可避的不純物の具体例としては、Zn:0.03%以下、Sn:0.3%以下、等が挙げられる。
【0041】
<高強度冷延鋼板及びその素材となる熱延鋼板の製造方法>
本実施形態における高強度冷延鋼板の製造方法は、下記に述べる熱間圧延の工程と、さらに冷間圧延の工程と、を有する。また特に本実施形態の高強度冷延鋼板及びその素材となる熱延鋼板の製造方法は、前記熱間圧延の工程において、上記組成からなる圧延素材を合計で30%以上の圧下率で前記圧延素材を粗圧延する第1ステップと、前記第1ステップの後、冷延・焼鈍後の残留オーステナイトの凝集や粗粒化を抑制するため800℃以上の温度環境下において互いに径の異なる複数の異径ロールを用いて合計で40%以上の圧下率で前記圧延素材を仕上げ圧延する第2ステップと、前記第2ステップの後、700℃以上の温度環境下において前記圧延素材の巻き取りを行うことで引張強度が900MPa以下の熱延鋼板を製造する第3ステップと、を含むことを特徴とする。
以下、この高強度冷延鋼板及びその素材となる熱延鋼板の製造方法について詳細に説明する。
【0042】
<製鋼>
まず、公知の方法により上記した成分範囲に調整したスラブ(圧延素材)を準備する。スラブの準備には、転炉や電気炉等の公知の設備を使用することができる。
【0043】
<熱間圧延>
本実施形態における熱間圧延の工程は、後述するように、粗圧延の工程、仕上げ圧延の工程、及び巻き取りの工程を含む。
【0044】
得られた圧延素材を、まず1100℃以上に加熱した後、合計で30%以上の圧下率で粗圧延する(第1ステップ)。圧延素材の加熱温度が1100℃未満の場合、Nの積極的分解固溶が不足すること、及び、熱延負荷が高くなることから好ましくない。
【0045】
前記第1ステップの後、800℃以上の温度環境下において互いに径の異なる複数の異径ロールを用いて、合計で40%以上の圧下率で、前記圧延素材を仕上げ圧延する(第2ステップ)。具体的には、例えば6台圧延機や7台圧延機を用いて仕上げ圧延を行うことが好ましい。
【0046】
この際、仕上げ前段圧延機1~3圧延機(6台圧延機の場合)、或いは仕上げ前段圧延機1~4圧延機(7台圧延機の場合)を用い、仕上げ前段圧延機一台当たりの平均圧下率40%以上で圧延を行うことができる。またその際、仕上げ後段3圧延機の圧下の累積歪は0.5以上であることが好ましい。上記累積歪が0.5未満である場合、残留オーステナイトの凝集ならびに粒が大きくなり、且つ前記残留オーステナイト粒の形が圧延された扁平となり、異方性の大きな原因となるため好ましくないからである。
【0047】
なお、上記「累積歪み」とは、後段3スタンドの各段(各パス)での歪みを金属組織に対する影響の強さを考慮して加重積算したもので、最終段(最終パス)とその前段(前パス)・前々段(前々パス)での歪みをそれぞれεn、εn-1、εn-2とするとき、
εC=εn+εn-1/2+εn-2/4
で表されるεCをいうものとする。
また、歪みεとは、各スタンド(各段、または粗圧延時の各パス)の入側での鋼板の厚さh0と出側での厚さh1の差を両者の平均厚さで除した
ε=(h0-h1)/{(h0+h1)/2}
で表すことができる。
【0048】
仕上げ圧延の際には、前記圧延素材の最トップ部の圧延機への噛み込みより5m以内は、鋼板の圧延ロールへの噛み込み不良を抑制する必要がある。そのため、前記圧延素材の最トップ部を、必要に応じ、前段圧延機1~5圧延機(仕上げ圧延機6段の場合)あるいは前段圧延機1~6圧延機(仕上げ圧延機7段の場合)に、その圧延機の予定圧下量(所定の圧延のための本来の圧下量)の10%以下の圧下量を付加して圧下することが好ましい。
【0049】
さらには、圧延中の圧延素材と圧延ロールとのスリップ発生防止の為、仕上げ最終圧延機より1~3圧延機の作業ロールとしては、特殊ハイグリップロールを使用することが好ましい。なお前記特殊ハイグリップロールに関しては、特許5214905号公報に開示されているロール等を適宜使用することができる。
【0050】
次に、上記した異径ロールについて説明する。本実施形態に用いられる異径ロールは、例えば特開2007-331017号公報に開示されるような公知の異径ロールを使用することが可能である。すなわち異径ロールとは、上下一対のワークロールについて直径が等しくなく、各一対のワークロールの平均ロール径が直径で600mm未満のものをいう。このような異径ロールはワークロール径が小さいために、低い圧延荷重で高圧下の圧延を行うことができる。
【0051】
図1に、本実施形態において好適な仕上げ圧延機の例について模式的に図示する。
仕上げ圧延機1は、6段(6スタンド)の仕上げ圧延機である。図のとおりミルF1~F6で構成され、まず前段の3スタンドには、いわゆるCVCミルF1・F2・F3を設けている。ミルF1は、図1のようにワークロール1a・1bとバックアップロール1c・1dとからなる4重の圧延機とし、ワークロール1a・1bには、軸長方向へ相対移動(シフト)させることによって鋼板の形状制御を可能にする適切なクラウン(CVCすなわち直径の連続的変化)をロール表面に付与している。以上の構成は、他の2段のCVCミルF2・F3でも同様とすることができる。こうしたミルF1・F2・F3を使用することにより、後段のミルF4・F5・F6を経て得られる鋼板の形状精度を高くすることができる。
【0052】
続く後段の3スタンドとしては、いわゆる異径ロールミルF4・F5・F6を配置している。ミル1から数えて第4番目のスタンドである異径ロールミルF4は、図1のようにワークロール4a・4bとバックアップロール4c・4dとからなる4重の圧延機とし、ワークロール4a・4bとして図のように互いに直径の異なるものを使用している。そしてワークロール4a・4bのうち下部にある大径のロール4bのみをモータ等(図示せず)にて回転駆動し、上部の小径のロール4aについては、回転自在にして駆動力をかけないこととする。また、こうした構成は、後方に設けた他の2段の異径ロールミルF5・F6も同じとすることができる。後方のミルに関しても、前方のミルと同じくCVCミルとしてもよい。全6スタンドのスタンド間隔は、各々等しくしても良いし、異なっていてもよい。
【0053】
これら後方3スタンドの異径ロールミルF4・F5・F6は、ロール径が細いことと、一方のワークロール(4b等)のみを駆動するため鋼板に剪断力が作用することから、比較的低い圧延荷重でも圧下率の高い圧延を実施できる。具体的には、例えば圧下率50%に近い圧延を実現できる。その結果として、圧延荷重が小さいために、ロール偏平やエッジドロップ等の問題が発生しない、というメリットがある。
【0054】
後段に配置した3スタンドの異径ロールミルF4・F5・F6の各出側には、カーテンウォール型の水冷手段11・12・13を配置してもよい。また、仕上げ圧延機1の下流側に配置したランアウトテーブル20においても、鋼板を効果的に冷却できるよう水冷手段20aおよび20bを配置してもよい。
なお、仕上げ圧延機の出口側の鋼板の温度は、800℃以上となるようにすることが好ましい。
【0055】
上記のように仕上げ圧延をした鋼板を、数秒程度(例えば2秒~6秒)の間空冷をしたのち、水冷冷却し、巻き取りを行う。本実施形態においては、この際の巻き取り温度を700℃以上に設定していることが主な特徴となっている。この巻き取り温度が700℃未満である場合、鋼板の高強度化を引き起こすため、熱間圧延に次いで行う冷間圧延に不都合が生じることから好ましくない。以上の観点から、本実施形態においては熱間圧延後の巻き取り温度を700℃以上とすることが重要である。一方で本実施形態における巻き取り温度の上限としては、900℃以下となることが好ましい。このような巻き取り温度の上限を規定する理由としては、温度を上げすぎるとスケール生成が促進されてしまい、その後の酸洗での脱スケールに時間を要してしまうためである。
【0056】
以上に述べた熱間圧延の工程により、一例として厚さ1.2mm~3.0mmの熱延鋼板を得ることができる。この熱延鋼板の厚さが1.2mm未満でもよいが、厚さが1.2mm未満の場合には熱間圧延時の圧延ロールにかかる負荷が増えすぎることがある点に留意する必要がある。なお、熱延鋼板の厚みは3.0mmを超えてもよいが、3.0mmを超える場合にはその後に続く冷間圧延の工程においてやはり圧延ロールにかかる負荷が増えすぎてしまう点に留意する必要がある。
【0057】
また、上記のようにして得られた熱延鋼板の引張強度は、900MPa以下であることが好ましい。引張強度が900MPaを超えると、熱間圧延に引き続いて行われる冷間圧延の工程の際に、圧延ロールにかかる負荷が増大するため好ましくない。
【0058】
<酸洗>
得られた熱延鋼板は、熱間圧延工程において生成した表面のスケールを除去するため、公知の方法により酸洗される。
【0059】
<冷間圧延>
次いで、上記のようにして得られた熱延鋼板に対して冷間圧延が施される。本実施形態における冷延鋼板の工程では、1回又は複数回に分けて合計60%以上の圧延率(圧下率)で冷間圧延が施されることが好ましい。また、本実施形態において、冷間圧延の方法や冷間圧延の回数は、特に制限されるものではなく、目的とする板厚に応じて適宜選択することができる。
【0060】
最終的に得られる冷延鋼板の厚みとしては、特に厳密に制限されるものではないが、例えば0.01mm~0.6mmの範囲であることが好ましい。なお、最終的な冷延鋼板の厚みが0.01mm未満の場合には、得られた冷延鋼板の剛性が小さくなる点に留意する必要はある。そのため、自動車のガソリンエンジンのガスケット等の製品に用いたときに、形状が変形しやすくなるという点も留意する。一方で、上記厚みが0.6mmを超える場合には、製品にしたときに設計値よりも重量が大きい、あるいは、要求される小型化が実現できない場合がある点には留意が必要である。
【0061】
<焼鈍>
上記した冷延鋼板の工程に次いで、焼鈍を行うことによって、加工硬化した鋼板を軟質化させ、あるいは、冷延鋼板時における鋼板の歪みを除去することができる。本実施形態における焼鈍の工程は、連続焼鈍でもバッチ焼鈍であってもよい。また、上記した冷間圧延の工程において、複数回の冷間圧延を行う場合には、その都度焼鈍を行うことができる。
【0062】
焼鈍の際の温度としては、500℃以上であることが好ましい。500℃未満の場合、鋼板中で再結晶がおこらず、軟質化しない場合には次工程の圧延負荷が増大するため好ましくないからである。
【0063】
なお、本実施形態においては、最後の焼鈍において、均熱ステップ及び冷却ステップを有することが好ましい。この均熱ステップ及び冷却ステップにより、(1)鋼板の組織のうち50%の割合を超える主相をベイナイトとし、さらにベイナイト以外の相として、例えばフェライト相、マルテンサイト相、残留オーステナイト相などを有するとともに、(2)鋼板の任意の領域中に10μm未満の残留オーステナイト粒を有する状態とすることが可能となる。
【0064】
さらに、上記した均熱ステップ及び冷却ステップにより、前記鋼板組織中には、前記残留オーステナイト粒が均一に分散している状態とすることができる。そして本実施形態においては、残留オーステナイト粒を上記のような分散状態に制御することにより、高い強度と良好な成形性を有する高強度冷延鋼板を得ることができるものである。
【0065】
なお、本実施形態において「残留オーステナイト粒が鋼板組織中に均一に分散している」とは、鋼板の任意の領域中に、10μm未満の残留オーステナイト粒が一定の個数以上含まれていることを言うものと定義する。より具体的には、鋼板の任意の10μm×10μmの領域を単位面積とした場合、任意の単位面積当たり、残留オーステナイト粒が1個以上含まれている場合を均一に分散しているものとしている。
このとき、さらに残留オーステナイト組織の鋼板に占める割合が一定以上であることがさらに好ましい。より具体的には、上記均一に分散した状態において、残留オーステナイト組織の鋼板に占める体積割合が8%以上であることがさらに好ましいと言える。
【0066】
このように本実施形態では、高い強度と優れた延性を高次元で両立させるためには、例えば0.1μmを超えた数μmオーダー(0.1μmを超えて10μm未満の大きさであり、より好ましくは特に影響が大きい1μm超~10μm未満の大きさ)の残留オーステナイト粒が鋼板組織中に上記した状態で分散していることが重要である点に帰結した。
なお、上記した「残留オーステナイト粒の大きさ」は、本実施形態においては粒径を意味するものとする。具体的には、任意の単位面積当たり残留オーステナイト粒が1個含まれていた場合にはその粒の最も長い部分を粒径とする。また、任意の単位面積当たり残留オーステナイト粒が複数個含まれていた場合には、それら各々について上記1個の場合に準じて粒径を測定し、それらの平均値を採用するものとする。
【0067】
まず上記した均熱ステップについて詳細に説明する。本実施形態における均熱ステップにおいては、鋼板の均熱温度をAc1変態点以上1000℃以下として、30秒以上均熱保持をすることが好ましい。上記均熱温度がAc1変態点未満である場合、鋼板はフェライトを母相とする組織形態になるため、本実施形態において要求される鋼板の強度を得ることができない。一方で上記均熱温度が1000℃を超えた場合には特にメリットはなく、コスト的にデメリットとなるため、本実施形態では均熱温度を1000℃と規定した。
【0068】
次いで上記した冷却ステップについて説明する。本実施形態における冷却ステップは、上述の均熱ステップに次ぐステップであり、上記鋼板を冷却速度10℃/s~100℃/sで保持温度350~500℃まで冷却した後、60秒以上~720秒以下保持するステップであることが好ましい。前記冷却速度が10℃/s未満である場合、鋼板はフェライトを主相とする組織形態になるため、本実施形態において要求される鋼板の強度を得ることができない。一方で上記した冷却速度が100℃/sを超えた場合、ガス冷却でなく水冷などの冷却設備等が必要になりコスト増となるため好ましくない。また、前記保持時間が60秒を下回ったり、720秒を超えたりすると、TRIP効果に必要な残留オーステナイト量(γR量)が低下してしまうためである。
【0069】
また、前記保持温度が350℃未満である場合、マルテンサイト組織の割合が増加し、本実施形態において要求される鋼板の伸びを得ることができない。一方で前記保持温度が500℃を超えた場合、鋼板のフェライト相が増加するため、本実施形態で要求される鋼板の強度を得ることができない。
【0070】
<調質圧延等>
上記のようにして得られた冷延鋼板は、必要に応じて、表面粗度調節のための調質圧延や、防錆のためのZn、Ni、Sn等の電気めっき及び化成処理を行うことができる。
【0071】
<ラミネート>
上記のようにして得られた調質圧延板、電気めっき及び化成処理を施して得られた冷延鋼板は、必要に応じて、この鋼板の少なくとも片面側に熱可塑性樹脂フィルム又は熱硬化性樹脂フィルムを被覆することができる。
【0072】
かようなフィルムに用いる熱可塑性樹脂としては(1)ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、エチレンー酢酸ビニル共重合体、エチレンーアクリルエステル共重合体、アイオノマー等のオレフィン系樹脂フィルム、(2)ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステル、(3)ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、(4)ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等をあげることができる。
また熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂等をあげることができる。
【0073】
これらの熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂には、強度等の特性改善を目的に、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維等の有機繊維、アルミ繊維、アルミナ繊維、SUS繊維、銅繊維等の金属繊維のような繊維強化剤を混入させてもよい。強化繊維の形態としては、不織布、チョップド繊維、不織布と織物または編物の組合せ等が挙げられる。また、上記繊維強化剤の他にも、染料、難燃剤、抗菌剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤等の公知の添加剤を混入させても良い。
これらの熱可塑性樹脂フィルム又は熱硬化性樹脂フィルムは、耐熱性、耐食性、耐衝撃性、鋼板との接着性の点において、それぞれ、異なる特徴を有するが、用途に応じて使い分けることができる。
【0074】
また、これらの熱可塑性樹脂フィルム又は熱硬化性樹脂フィルムで鋼板を被覆する場合には、必要に応じて接着剤を用いることができ、例えば、エポキシ系接着剤、フェノール系接着剤、アミド系接着剤、ウレタン系接着剤、酸変性オレフィン樹脂系接着剤、コポリアミド系接着剤、コポリエステル系接着剤、これらのブレンド物などを介在させることもできる。
【0075】
<プレス成形>
上記のようにして得られた冷延鋼板は、プレス成形用の素材として適用できる。
【0076】
<冷延鋼板>
次に、本実施形態における冷延鋼板について詳細に説明する。本実施形態の冷延鋼板は、上記に述べた製造方法により得られるものである。
本実施形態における冷延鋼板の組成としては、質量%での含有量として、C:0.1~0.3%、Si:1.0~2.0%、Mn:1.0~2.5%、Cr:0.5%以下、Ni:1.0%以下、P:0.01%以下、S:0.006%以下、N:0.015%以下、Cu:0.5%以下、残部がFeおよび不可避的不純物の組成を有するものである。各元素の含有量については、上記圧延素材での説明と同一であるため、ここでは説明を省略する。
【0077】
本実施形態における冷延鋼板は、その組織中において、主相をベイナイト組織とし、さらに前記ベイナイト以外の相として、例えばフェライト相、マルテンサイト相、残留オーステナイト相を有することを特徴としている。さらに本実施形態における冷延鋼板は、鋼板の任意の領域中に10μm未満の残留オーステナイト粒が存在することを特徴とする。
【0078】
さらに本実施形態における冷延鋼板は、前記残留オーステナイト粒が均一に分散していることを特徴とする。すなわち、本実施形態の冷延鋼板においては、任意の領域中に、粒径10μm未満の残留オーステナイト粒が一定の個数以上含まれていることを特徴とする。具体的には、本実施形態の冷延鋼板の任意の10μm×10μmの領域を単位面積とした場合、任意の単位面積当たり、粒径10μm未満の大きさの残留オーステナイト粒が1個以上含まれることを特徴とする。
【0079】
本実施形態において、より好ましくは、上記単位面積に粒径0.1μm~10μm未満(さらに好ましくは特に影響の大きい1μm超~10μm未満)の大きさの残留オーステナイト粒が1個以上含まれることが好ましい。より好ましくは8個以上である。このように、上記した範囲の粒径を有する残留オーステナイト粒が冷延鋼板に分布していることにより、より高強度及び高延性の冷延鋼板を得ることができる。その結果として、本実施形態の冷延鋼板の厚みをより薄くした場合や、小型部品に成形した際にも、成形性及び強度を両立させることができることを見出したものである。
【0080】
なお本実施形態においては、上記した粒径は、EBSD法(測定装置:一例として、(株)TSLソリューションズ OIM analysisを用い、測定範囲50×50μm、測定STEP:0.1μm CI値:0.05以上 CleanUP処理:GrainDilationにて測定)を用いて測定することができる。図2は、本発明の本発明の範囲において製造した冷延鋼板(実施例10)のEBSD法による断面組織写真である。本例においては残留オーステナイトが白色で示されており、10μm×10μmの単位面積当たり、粒径10μm未満の大きさの残留オーステナイト粒が1個以上含まれていることが示されている(図2右側参照)。図3は本発明の範囲外で製造した冷延鋼板(比較例11)のEBSD法による断面組織写真である。同図から、10μm×10μmの単位面積当たり、粒径10μm未満の大きさの残留オーステナイト粒が1個以上存在していないことが確認される。
【0081】
さらに、本実施形態の冷延鋼板においては、前記残留オーステナイト粒の鋼板組織に占める割合が一定以上であることが好ましい。すなわち、残留オーステナイト粒が多く存在する場合に、TRIP現象が発現し、良好な強度及び成形性を得ることができる。本実施形態においては、残留オーステナイト組織の鋼板に占める体積割合が8%以上であることが好ましい。このような組成とすることにより、目的とする鋼板強度と延性を高次元で両立させた冷延鋼板を得ることが可能となる。
【0082】
本実施形態の冷延鋼板はさらに、引張り強度TSが700MPa以上1400MPa以下であることを特徴とする。さらには、破断伸びをEL%としたとき、以下の式を満足することを特徴とする。
TS≧1400-(30×EL)
なお、上記した引張り強度及び破断伸びは、JIS Z 2241に準拠して測定することが可能である。
【0083】
また、本実施形態の冷延鋼板はさらに、加工硬化の特性を示す値である加工硬化指数n値が0.20以上であることが好ましい。なお、この加工硬化指数n値は、大きいほど曲げ加工性が良好になるとされる数値であり、0≦n≦1の値をとる(須藤一著:材料試験法、内田老鶴圃社、(1976)、p.34)。本実施形態の冷延鋼板においては、優れた強度及び延性、成形性等を実現するため、特に圧延方向に平行な方向における加工硬化指数(n値)が0.20以上であることが好ましい。
【0084】
本実施形態の冷延鋼板はさらに、上記のような構成を有するため、加工した際には優れた成形性を有する。具体的には、本実施形態の冷延鋼板は、限界張出高さが6.5mm以上であることが好ましい。すなわち、JIS Z 2247に基づいて張出試験を行って測定した際に、張出時に割れが生じた際の高さを限界張出高さとし、限界張出高さが6.5mm以上であることが好ましい。
【0085】
本実施形態の冷延鋼板はさらに、限界絞り比が2.0以上であることが好ましい。すなわち、深絞り成形試験において得られる、破断せずに絞り抜けた最大ブランク直径Dと、ポンチ径dの比(D/d)を限界絞り比(LDR)とする。本実施形態においては、LDR≧2.0の場合を深絞り性が良好と判断する。
【0086】
本実施形態の冷延鋼板はさらに、下記で表されるΔrの値が±0.7の範囲であることが好ましい。Δrの値が大きいと成形時に不要な耳が発生してしまうため、出来るだけ小さい値をとることが好ましい。
Δr=(r-r90)/2-r45
ここで、rは冷延焼鈍板からL方向(圧延方向)から5号試験片を切り出し、JIS
Z2254の規定に準拠して求められる値である。また、r45、r90、についても同様に、冷延焼鈍板からD方向(圧延方向と45°をなす方向)及びC方向(圧延方向と90°をなす方向)からそれぞれの5号試験片を切り出し、JIS Z2254の規定に準拠して求められる値である。
【0087】
本実施形態の冷延鋼板はさらに、深絞り成形後の耳率が10%以下であることが好ましい。すなわち、深絞り成形試験において円筒絞り試験を行い、成形後の耳の高さを測定し、次式で表される耳率を測定する。
耳率=Δh(hMax-hMin)/hAve×100
Max:最大耳高さ、hMin:最少耳高さ、hAve:平均耳高さ
耳率は値が低いほど平坦な耳であり、成形性が良好と判断できる。本実施形態においては耳率が10%以下であることが好ましい。
【0088】
<実施例>
以下に実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0089】
<実施例1>
表1に示す成分を有する溶鋼を、連続鋳造法によりスラブ(圧延素材)とした。スラブの厚さは230mmとした。続いてこのスラブを1250℃に加熱した後、80%の圧下率で粗圧延した。その後、図1に示す6台圧延機を用いて1050℃において仕上げ圧延を行った。仕上げ前段圧延機1~3圧延機を用い、仕上げ前段圧延機一台当たりの平均圧下率を43%とした。仕上げ後段3圧延機の圧下の累積歪は0.5とした。仕上げ圧延機の出口側の鋼板の温度は900℃とした。
【0090】
上記のように仕上げ圧延をした鋼板を3秒間空冷した後、水冷冷却し、750℃で巻き取りを行った。このようにして厚さ1.8mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板の引張強度は700MPaであった。
【0091】
上記のようにして得られた熱延鋼板を酸洗した後、2回に分けて合計83%の圧延率で冷間圧延を行った。冷間圧延後の焼鈍において、800℃で60秒間の均熱ステップの後、冷却速度60℃/sで保持温度400℃まで冷却した後、180秒間保持する冷却ステップを経て、最終的に厚さ0.3mmの冷延鋼板を得た。
【0092】
[残留オーステナイト粒の体積割合の測定]
得られた冷延鋼板における残留オーステナイト粒の体積割合の測定は、X線回折法により行った。測定機器は、XRD:Rigaku社製SmartLabを使用した。
得られた冷延鋼板を、表面から1/4厚みの位置まで湿式研磨した後、化学研磨により仕上げ研磨したものを測定試料とした。X線源はCu管球を用い、測定は40~140°(2θ/θ)、入側スリットは2mm、入側、受光スリット1/5deg.とした。
【0093】
さらに、フェライト相の(200)、(211)面とオーステナイト相の(200)、(220)、(311)面の5方位の積分強度を測定後、Rigaku RINT2000/PCソフトウェア 残留オーステナイト定量プログラム取扱い説明書に記載の手順に従って、平滑化処理、バックグラウンド除去、強度計算、定量計算をそれぞれ実施し、残留オーステナイトの体積割合を求めた。
得られた結果を表3に示す。なお本発明においては、残留オーステナイト粒の体積割合が8%以上の場合に、良好な相構成であると判断できる。
【0094】
[残留オーステナイト粒の分布状態及び粒径の測定]
残留オーステナイト粒の分布状態は、走査電子顕微鏡(SEM)によるEBSD(electron back scattering diffraction)法により測定した。測定機器は、(株)TSLソリューションズ OIM analysisを使用した。上記X線回折法における測定試料と同一の試料を用いて走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製FE-SEM(SU8020))の測定を行った。
なお実施例1においては、一例として、任意の10μm×10μmの単位面積当たりにおける粒径10μm未満の残留オーステナイト粒が8個以上含まれる場合○、含まれない場合を×とした。また、上記単位面積当たりにおいて観察された全ての残留オーステナイト粒の粒径の平均値を算出した。結果を表3に示す。
【0095】
[機械的特性(引張試験)]
得られた冷延鋼板より、引張方向が鋼板の圧延方向と平行方向となるようにサンプルを採取し、JIS13B号試験片を準備した。得られた試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、引張強度(TS)、破断伸び(EL)を測定した。得られた引張強度(TS)及び破断伸び(EL)の値より、「引張強度(TS)≧1400-30×破断伸び(EL)」の式を満たす場合を○、満たさない場合を×とした。結果を表3に示す。
【0096】
[機械的特性(n値)]
上記引張試験により得られた結果を用い、JIS Z 2253に基づいてn値を算出した。得られたn値の結果を表3に示す。なお本発明においては、n値が0.20以上の場合を成形性良好と判断できる。
【0097】
[成形性評価(限界張出高さ)]
得られた冷延鋼板を用いて、JIS Z 2247に基づいて張出試験を行い、限界張出高さの値を得た。張出試験は、パンチ径が10mmのものを用いて行った。張出時に割れが生じた際の高さを限界張出高さとした。得られた数値を表3に示す。
なお、張出試験によれば、鋼板の全伸び特性と局部延性の両方による複合効果を評価できる。また、本発明においては限界張出高さが6.5mm以上の場合、成形性が良好と判断できる。
【0098】
[成形性評価(限界絞り比)]
得られた冷延鋼板を用いて深絞り成形試験を行い、限界絞り比(LDR)の値を得た。深絞り成形試験は円筒絞り試験で行った。試験条件としては、パンチ径:30mm、Rp:3.0mm、ダイス径:30.7mm、Rd:2.5mm、しわ押さえ力:10kN、成形速度:2.5mm/s、とした。潤滑は潤滑油及びポリエチレンシートを用いて、高潤滑条件で実施した。破断せずに絞り抜けた最大ブランク直径Dと、ポンチ径dの比(D/d)を限界絞り比(LDR)とした。得られた結果を表3に示す。なお、本発明ではLDR≧2.0以上の場合を深絞り性が良好と判断できる。
【0099】
[成形性評価(Δr)]
Δrの値は以下のように得た。得られた冷延鋼板を用いて、L方向(圧延方向)、D方向(圧延方向と45°をなす方向)およびC方向(圧延方向と90°をなす方向)からそれぞれの5号試験片を切り出した。JIS Z 2254の規定に準拠して、それぞれのr値(r=r、r=r45、r=r90)を求め、下記式によりΔr値を算出した。
Δr=(r-r90)/2-r45
得られた結果を表3に示す。なお、本発明においてはΔrが±0.7の範囲内である場合が成形性良好と判断できる。
【0100】
[成形性評価(耳率)]
耳率は、以下のように算出した。得られた冷延鋼板を用いて、上記と同様に深絞り成形試験を行った。深絞り成形後の耳の高さを測定し、耳率を下記の式を用いて算出した。
耳率=Δh(hMax-hMin)/hAve×100
Max:最大耳高さ、hMin:最少耳高さ、hAve:平均耳高さ
得られた結果を表3に示す。なお、本発明では耳率が10%以下の場合、成形性が良好と判断できる。
【0101】
<実施例2~実施例21、比較例1~比較例13>
実施例1と同様にして、実施例2~実施例21、及び、比較例1~比較例13を行った。使用する冷延鋼板は、表1に示す成分のものを使用し、表3又は表4に示す条件で圧延を行った以外は、実施例1と同様の条件とした。得られた結果を表3と表4にそれぞれ示す。また、熱間圧延後の熱延鋼板の機械的特性を表2に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
表1に示すスラブ片の鋼種について、鋼種1~3は本発明の成分範囲に入るスラブ片であるが、鋼種4~6は本発明の成分範囲外のスラブ片である。これら鋼種1~6のスラブ片を用いて実施例及び比較例の各値を得た。
【0107】
表2に示す熱間圧延後の熱延鋼板の機械的特性に関して、鋼種2と鋼種4について特性を示した。鋼種2は、巻取り温度(CT)が700℃以上であるため、引張強度(TS)が900MPa以下の特性を得ることができている。
【0108】
一方で、鋼種4は巻取り温度(CT)が480℃と低い為、引張強度(TS)が1034MPaと高くなった。その結果、その後の冷間圧延の際に目標とする0.6mm以下まで薄くすることができず、圧延回数と圧延荷重を増大させると割れが生じたため、冷間圧延を中止した。なお、鋼種5~7については、巻き取り温度が低いため硬質化して冷間圧延時に割れが生じる可能性があるため、巻き取り温度を変化させた試験は不実施とした。本発明では、冷延時の負荷を低減する為に、熱間圧延後の引張強度が900MPa以下である場合を良好と判断した。
【0109】
また表2において、「FT(Finishing Temperature)」は仕上げ圧延機出側のコイル温度を示し、「YP(Yield Point)」は降伏点を示し、「EL(Elongation)は破断伸びを示している。
【0110】
表4に示す結果に関して、比較例1,3,4,7は、均熱ステップの際の保持温度が300℃と低い為、主相がマルテンサイトとなった。その結果、一定以上の残留オーステナイト粒が確保できず、結果的に伸びが不足したため好ましくない結果となった。
【0111】
比較例2及び比較例9は、均熱ステップに次ぐ冷却ステップにおいて、一定時間の保持を行わなかったため、一定以上の残留オーステナイト粒が確保できず、特性を満足しなかった。
【0112】
比較例5及び比較例8は、冷却ステップにおける保持温度が高すぎる為、一定以上の残留オーステナイト粒が確保できず特性を満足しなかった。
【0113】
比較例6は、均熱ステップにおける均熱温度がAc3変態点以上であったため、Ac3変態点以下の場合とは相構成が異なり、結果的に残留オーステナイト粒の量を満足することができなかった。
【0114】
比較例10及び比較例11は、スラブ片にCrを一定量以上添加したため、Ac1変態点が上昇した。その結果、800℃の均熱温度では、ベイナイト相及びオーステナイト相が得られず、フェライト相が主相となった。結果的に強度・延性バランスを満足する冷延鋼板を得ることができなかった。
【0115】
比較例12は、スラブ片においてオーステナイト安定元素であるSiが不足している為、一定の残留オーステナイト粒が確保できなかった。結果的に、強度・延性バランスを満足する冷延鋼板を得ることができなかった。
【0116】
比較例13はC量及びSi量が少ないため、一定の残留オーステナイト粒が得られず、フェライトが主相となった。その結果、強度を満足する冷延鋼板を得ることができなかった。
【0117】
以上から明らかなとおり、本発明の実施例では表に示す相構成、機械的特性値、成形性の基準を満たすことで、成形性に優れた高強度冷延鋼板が得られている。一方で、比較例では適正な条件で製造していないため、相構成、機械的特性、成形性の基準のいずれかを満たしておらず、成形性に優れた高強度冷延鋼板として満足しないものであると判断された。
【0118】
なお上記した実施形態と各実施例は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上説明したように、本発明の熱延鋼板及び冷延鋼板並びにこれらの製造方法によれば、成形性に優れた高強度冷延鋼板やその素材となる熱延鋼板を得ることができる。このうち本発明の高強度冷延鋼板は、薄板としてプレス成形等で小型部品等に成形した場合でも割れが生じることなく成形性に優れる。さらに本発明の高強度冷延鋼板は、成形品の小型化及び軽量化の要請を実現することができ、産業上の利用可能性が極めて高い。
本発明の高強度冷延鋼板は、自動車のガソリンエンジンのガスケット、ノートパソコンやスマートフォンの筐体、電子機器のフレーム部品等に用いることができる。
【符号の説明】
【0120】
1 仕上げ圧延機
F4・F5・F6 異径ロールミル
4a・4b ワークロール
4c・4d バックアップロール
11・12・13 水冷手段
20a・20b 水冷手段
図1
図2
図3