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特許7217320有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及び有機エレクトロルミネッセンス素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及び有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/15 20230101AFI20230126BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20230126BHJP
   H10K 50/12 20230101ALI20230126BHJP
   H10K 50/17 20230101ALI20230126BHJP
   H10K 50/18 20230101ALI20230126BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20230126BHJP
   H10K 101/20 20230101ALN20230126BHJP
【FI】
H10K50/15
C09K11/06 690
H10K50/12
H10K50/17
H10K50/18
H10K85/60
H10K101:20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021137690
(22)【出願日】2021-08-26
(62)【分割の表示】P 2018546390の分割
【原出願日】2017-10-18
(65)【公開番号】P2021192441
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2016205109
(32)【優先日】2016-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】北原 秀良
(72)【発明者】
【氏名】泉田 淳一
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-528088(JP,A)
【文献】国際公開第2015/154843(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/157886(WO,A1)
【文献】特表2016-520999(JP,A)
【文献】国際公開第2017/148565(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/148564(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/15
C09K 11/06
H10K 50/12
H10K 50/17
H10K 50/18
H10K 85/60
H10K 101/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層に遅延蛍光材料をドーパント材料として用いる有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送層、正孔注入層または電子阻止層を構成する有機エレクトロルミネッセンス素子用材料であって、
正孔輸送性を有しており、下記一般式(1)で表されるインデノカルバゾール化合物を含
有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【化1】
式中、
は、フェニル基、ビフェニリル基またはジベンゾフラニル基を表し、 ~R12は、同一でも異なってもよく、水素原子;重水素原子;フッ素原子;塩素原子;シアノ基;ニトロ基;炭素数1~8のアルキル基;炭素数5~10のシクロアルキル基;炭素数2~6のアルケニル基;炭素数1~6のアルキルオキシ基;炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基;芳香族炭化水素基;芳香族複素環基;アリールオキシ基;または芳香族炭化水素基もしくは芳香族複素環基によって置換されたジ置換アミノ基;を表し、R~R12は、単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して結合して環を形成してもよく、Rは、トリアジニル基を含まない。
Xは、無置換のカルバゾリル基または無置換のジベンゾフラニル基を表し、Xが、含窒素芳香族複素環基である場合には、N原子で結合する。
【請求項2】
前記インデノカルバゾール化合物が、下記一般式(1-1)で表される、
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【化2】
式中、
~R12およびXは前記一般式(1)に記載した通りの意味である。
【請求項3】
~R12で表される炭素数1~8のアルキル基が、炭素数1~6のアルキル基である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【請求項4】
一対の電極の間に発光層と他の層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記他の層は、正孔注入層、正孔輸送層または電子阻止層であり、
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料が、前記他の層の構成材料として用いられ、
前記発光層に遅延蛍光材料がドーパント材料として用いられることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の表示装置に好適な有機エレクトロルミネッセンス素子(以後、有機EL素子と呼ぶことがある)に適した化合物と有機EL素子に関し、詳しくは特定のインデノカルバゾール化合物と該化合物を用いた有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は自己発光性素子であり、液晶素子にくらべて明るく視認性に優れ、鮮明な表示が可能であるため、活発な研究がなされてきた。
【0003】
近年、素子の発光効率を上げる試みとして、燐光発光体を用いて燐光を発生させる、すなわち三重項励起状態からの発光を利用する素子が開発されている。励起状態の理論によれば、燐光発光を用いた場合には、従来の蛍光発光の約4倍の発光効率が可能になるという、顕著な発光効率の向上が期待される。1993年にプリンストン大学のM.A.Baldoらは、イリジウム錯体を用いた燐光発光素子によって8%の外部量子効率を実現させた。
【0004】
有機EL素子においては、正負の両電極より発光物質にキャリアを注入し、励起状態の発光物質を生成し、発光させる。通常、このキャリア注入型の有機EL素子の場合、生成した励起子のうち、励起一重項状態に励起されるのは25%であり、残り75%は励起三重項状態に励起されると言われている。従って、励起三重項状態からの発光である燐光を利用する方が、エネルギーの利用効率が高いことが考えられる。しかしながら、燐光は、励起三重項状態の寿命が長いため、励起状態の飽和や励起三重項状態の励起子との相互作用によるエネルギーの失活が起こる。そのため、一般に燐光発光体の燐光量子収率は高くない場合が多い。
【0005】
このような問題を解決すべく、遅延蛍光を示す遅延蛍光材料を利用することが考えられる。ある種の蛍光物質は、系間交差等により励起三重項状態へとエネルギーが遷移した後、三重項-三重項消滅あるいは熱エネルギーの吸収により、励起一重項状態への逆系間交差を経て蛍光を放射する。有機EL素子においては、後者、即ち熱活性化遅延蛍光材料が特に有用であると考えられる。
【0006】
実際に、近年、熱活性化遅延蛍光(TADF)による発光を利用する素子も開発されている。2011年に九州大学の安達らは、熱活性化遅延蛍光材料を用いた素子によって5.3%の外部量子効率を実現させた。
【0007】
有機EL素子に熱活性化遅延蛍光材料を利用した場合、励起一重項状態の励起子は通常の蛍光(即時蛍光)を放射する。一方、励起三重項状態の励起子は、デバイスが発する熱を吸収して励起一重項へ逆系間交差を経て遅延蛍光を放射する。この遅延蛍光は、励起一重項からの発光であるため即時蛍光と同波長でありながら、励起三重項状態から励起一重項状態への逆系間交差を経て生じるため、発光寿命は即時蛍光や燐光よりも長くなる。それ故、即時蛍光や燐光よりも遅延した蛍光として観察される。このような熱活性化型の励起子移動機構を用いること、すなわち、キャリア注入後に熱エネルギーの吸収を経ることにより、通常は25%しか生成しなかった励起一重項状態の励起子の比率を25%以上に引き上げることが可能となる。例えば、100℃未満の低い温度でも強い蛍光及び遅延蛍光を放射する化合物を用いれば、デバイスの熱により励起三重項状態から励起一重項状態への逆系間交差が充分に起こり、遅延蛍光を放射する。これにより、有機EL素子の発光効率が飛躍的に向上する(特許文献1および特許文献2)。
【0008】
有機EL素子においては、両電極から注入された電荷が発光層で再結合して発光が得られる。そのため、有機EL素子では正孔、電子の両電荷を如何に効率良く発光層に受け渡すかが重要である。発光層への正孔注入性を高めるとともに、発光層の陽極側において、陰極から注入された電子をブロックする電子阻止性を高めることで正孔と電子が再結合する確率を向上させ、更には発光層内で生成した励起子を閉じ込めることによって、高発光効率を得ることができる。そのため、正孔輸送性を有し、正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層または発光層の形成に用いられる正孔輸送材料の果たす役割は重要である。正孔輸送材料には、正孔の移動度が大きいこと、正孔注入性が高いこと、電子阻止性が高いこと、高い三重項エネルギーを有すること、電子に対する耐久性が高いことなどが求められている。
【0009】
また、素子の寿命に関しては材料の耐熱性やアモルファス性も重要である。耐熱性が低い材料では、素子駆動時に生じる熱により、低い温度でも熱分解が起こり、材料が劣化する。また、アモルファス性が低い材料では、短い時間でも薄膜の結晶化が起こり、素子が劣化してしまう。そのため、使用する材料には耐熱性が高く、アモルファス性が良好な性質が求められる。
【0010】
これまで有機EL素子用の正孔輸送材料としては、N,N'-ジフェニル-N,N'-ジ(α-ナフチル)ベンジジン(NPD)や種々の芳香族アミン誘導体が知られていた(特許文献1および特許文献2)。NPDは良好な正孔輸送性を示すが、耐熱性の指標となるガラス転移点(Tg)が96℃と低く、高温条件下では結晶化による素子特性の低下が起こる。また、特許文献1や特許文献2に記載の芳香族アミン誘導体の中には、正孔の移動度が10-3cm/Vs以上と優れた移動度を有する化合物があるが、電子阻止性が不十分である。そのため、かかる芳香族アミン誘導体を用いて形成された有機EL素子では、電子の一部が発光層を通り抜けてしまい、発光効率の向上が期待できない。従って、更なる高効率化のため、より電子阻止性が高く、薄膜がより安定で耐熱性の高い材料が求められていた。
【0011】
耐熱性や正孔注入性、正孔輸送性、電子阻止性などの特性を改良した化合物として、下記式で表される芳香族三級アミン化合物Aが提案されている(特許文献3)。
【化1】
【0012】
しかしながら、この化合物Aを正孔注入層、正孔輸送層または電子阻止層に用いた素子では、耐熱性や発光効率などの改良はされているものの、未だ十分とはいえない。また、駆動電圧や電流効率も改善の余地があり、アモルファス性にも問題があった。更に、特許文献3には、この化合物を用いた有機EL素子において、遅延蛍光材料を発光材料として用いた場合に関する記載も示唆もない。
【0013】
また、電子輸送性および正孔輸送性を有する化合物として、下記式(Y)で表されるインデノカルバゾール誘導体が提案されている(特許文献4)。
【化2】
【0014】
しかしながら、特許文献4によれば、この化合物を電子阻止層に用いた有機EL素子では、パワー効率にわずかな改善がみられるにすぎなかった。また、この化合物を用い且つ熱活性化遅延蛍光材料を発光層のドーパント材料として用いた有機EL素子に関する記載もない。
【0015】
このように、有機EL素子の素子特性を改善させるために、正孔輸送性、正孔注入性、電子阻止性、薄膜状態の安定性等に優れ、かつ遅延蛍光を放射する有機EL素子において正孔輸送材料として使用できる化合物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2004-241374号公報
【文献】特開2006-024830号公報
【文献】WO2012/117973
【文献】WO2010/136109
【非特許文献】
【0017】
【文献】Appl.Phys.Let.,98,083302(2011)
【文献】Appl.Phys.Let.,101,093306(2012)
【文献】Chem.Commun.,48,11392(2012)
【文献】NATURE 492,235(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、正孔輸送性を有し且つ有機EL素子の形成に好適に用いられる材料として、特に発光層に遅延蛍光材料をドーパント材料として用いた場合の正孔輸送層、正孔注入層または電子阻止層に好適な材料として、(1)正孔輸送性に優れ、(2)電子阻止性に優れ、(3)薄膜状態が安定であり、耐熱性に優れたインデノカルバゾール化合物を提供することにある。
【0019】
本発明の他の目的は、高発光効率、高輝度の有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは上記の目的を達成するために、特定構造を有するインデノカルバゾール誘導体が、正孔輸送性を有し、薄膜安定性および耐久性に優れ、最低三重項状態(T)のエネルギー準位が高いことに着目した。そこで、種々のインデノカルバゾール化合物を設計して合成し、物性評価を鋭意行った。その結果、特定の位置を芳香族炭化水素基、芳香族複素環基または芳香族炭化水素基もしくは芳香族複素環基によって置換されたジ置換アミノ基で置換したインデノカルバゾール化合物が正孔輸送性、電子阻止性、薄膜状態の安定性および耐熱性に優れるという知見を見出した。
【0021】
さらに、前記インデノカルバゾール化合物を用いて種々の有機EL素子を作製し、素子の特性評価を鋭意行った。その結果、本発明を完成するに至った。
【0022】
即ち、本発明によれば、正孔輸送性を有しており、有機エレクトロルミネッセンス素子の構成材料として使用され、下記一般式(1)で表されることを特徴とするインデノカルバゾール化合物が提供される。
【化3】
式中、
~R12は、同一でも異なってもよく、水素原子;重水素原子;
フッ素原子;塩素原子;シアノ基;ニトロ基;炭素数1~8のアルキル
基;炭素数5~10のシクロアルキル基;炭素数2~6のアルケニル基
;炭素数1~6のアルキルオキシ基;炭素数5~10のシクロアルキル
オキシ基;芳香族炭化水素基;芳香族複素環基;アリールオキシ基;ま
たは芳香族炭化水素基もしくは芳香族複素環基によって置換されたジ置
換アミノ基;を表し、R~R12は、単結合、置換もしくは無置換の
メチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して結合して環を形成しても
よく、
Xは、芳香族炭化水素基;芳香族複素環基;または芳香族炭化水素基
もしくは芳香族複素環基によって置換されたジ置換アミノ基;を表す。
【0023】
本発明のインデノカルバゾール化合物の好適な態様は以下の通りである。
1)下記一般式(1-1)で表されること。
【化4】
式中、
~R12およびXは前記一般式(1)に記載した通りの意味であ
る。
2)R~R12で表される炭素数1~8のアルキル基が、炭素数1~6のアルキル基であること。
3)Xが、芳香族複素環基またはジ置換アミノ基であること。
4)Xが、含窒素芳香族複素環基であること。
【0024】
本明細書では、特記しない限り、R~R12およびXで表される炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数1~6のアルキルオキシ基、炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基およびアリールオキシ基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。また、R~R12およびXで表されるジ置換アミノ基が置換基として有する芳香族炭化水素基または芳香族複素環基は、更に置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。
【0025】
アルキル基、アルケニル基、アルキルオキシ基等の脂肪族炭化水素基は、特記しない限り、直鎖状でも分岐状でもよい。芳香族炭化水素基および芳香族複素環基は、特記しない限り、単環構造であっても多環構造であってもよく、さらには、縮合多環構造であってもよい。
【0026】
また、本発明によれば、一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記インデノカルバゾール化合物が、少なくとも一層の有機層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
【0027】
本発明の有機エレクトロルミネッセンスにおいては、
5)前記有機層が正孔輸送層、電子阻止層、正孔注入層または発光層であること、
6)遅延蛍光を放射すること、
が好ましい。
【0028】
さらに、本発明によれば、一対の電極の間に発光層を選択的に有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記インデノカルバゾール化合物が、前記発光層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。かかる態様の有機エレクトロルミネッセンスは、遅延蛍光を放射することが好ましい。
【0029】
また、本発明によれば、一対の電極の間に発光層と他の層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記他の層は、正孔注入層、正孔輸送層または電子阻止層であり、前記インデノカルバゾール化合物が、前記発光層または前記他の層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。かかる態様の有機エレクトロルミネッセンスは、遅延蛍光を放射することが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明のインデノカルバゾール化合物は、最低三重項状態(T)のエネルギー準位が高く、HOMO-LUMO間のバンドギャップが広い。そのため、正孔輸送性を有しており、下記特性を1つ以上有する。
(1)従来の材料より正孔の移動度が大きく正孔輸送性が高い。
(2)正孔注入性が高い。
(3)電子阻止性が高い。
(4)電子に対する安定性が高い。
また、薄膜状態が安定であり、耐熱性にも優れる。このような特性を有するため、本発明のインデノカルバゾール化合物は、有機EL素子用の材料として好適である。また、有機フォトルミネッセンス素子用の材料として利用することもできる。
【0031】
また、かかるインデノカルバゾール化合物を使用した本発明の有機EL素子は、下記特性を有する。
(5)発光効率が高い。
(6)輝度が高い。
(7)発光開始電圧が低い。
(8)実用駆動電圧が低い。
(9)製造コストが安い。
【0032】
本発明のインデノカルバゾール化合物は、有機EL素子の正孔注入層または正孔輸送層の構成材料として好適に使用される。本発明のインデノカルバゾール化合物を用いて作製された正孔注入層または正孔輸送層を有する有機EL素子においては、発光層内で生成した励起子を閉じ込めることができ、さらに正孔と電子が再結合する確率を向上させ、高発光効率を得ることができる。また、駆動電圧が低く、耐久性にも優れる。
【0033】
また、本発明のインデノカルバゾール化合物は、有機EL素子の電子阻止層の構成材料としても好適に使用される。係るインデノカルバゾール化合物は、電子阻止性に優れ、正孔輸送性に優れ、かつ薄膜状態の安定性が高いからである。本発明のインデノカルバゾール化合物を用いて作成された電子阻止層を有する有機EL素子は、発光効率が高く、駆動電圧が低く、電流耐性に優れ、最大発光輝度が高い。
【0034】
さらに、本発明のインデノカルバゾール化合物は、有機EL素子の発光層の構成材料としても好適に使用される。係るインデノカルバゾール化合物は、正孔輸送性に優れ、かつバンドギャップが広い。そのため、本発明のインデノカルバゾール化合物を発光層のホスト材料として用い、ドーパントと呼ばれている蛍光発光体、燐光発光体または遅延蛍光材料を担持させて、発光層を形成することにより、駆動電圧が低く、発光効率が改善された有機EL素子を実現できる。
【0035】
以上の通り、本発明のインデノカルバゾール誘導体を用いると、各種特性が向上した有機EL素子を得ることができる。さらには、本発明の有機EL素子の発光層に遅延蛍光材料をドーパント材料として使用することにより、イリジウムや白金などのレアメタルを含む発光材料の使用を回避できる。即ち、希少で高価なレアメタルを用いないため、本発明の有機EL素子においては、前記インデノカルバゾール化合物と遅延蛍光材料との併用により、上記効果に加え、資源面およびコスト面でも有利な有機EL素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施例1の化合物1のH-NMRチャート図である。
図2】実施例2の化合物2のH-NMRチャート図である。
図3】実施例3の化合物3のH-NMRチャート図である。
図4】実施例4の化合物24のH-NMRチャート図である。
図5】素子実施例1~4および素子比較例1の有機EL素子構成を示した図である。
図6】本発明のインデノカルバゾール化合物である化合物1~8の構造式を示す図である。
図7】本発明のインデノカルバゾール化合物である化合物9~16の構造式を示す図である。
図8】本発明のインデノカルバゾール化合物である化合物17~24の構造式を示す図である。
図9】本発明のインデノカルバゾール化合物である化合物25~36の構造式を示す図である。
図10】本発明のインデノカルバゾール化合物である化合物37~45の構造式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
<インデノカルバゾール化合物>
本発明のインデノカルバゾール化合物は、下記一般式(1)で表される。
【化5】
【0038】
上記一般式(1)で表されるインデノカルバゾール化合物は、下記一般式(1-1)で表される態様を含む。かかる態様は、一般式(1)におけるX、R~RおよびR12の結合位置を特定したものである。
【化6】
【0039】
(R~R12
~R12は、同一でも異なってもよく、水素原子;重水素原子;フッ素原子;塩素原子;シアノ基;ニトロ基;炭素数1~8のアルキル基;炭素数5~10のシクロアルキル基;炭素数2~6のアルケニル基;炭素数1~6のアルキルオキシ基;炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基;芳香族炭化水素基;芳香族複素環基;アリールオキシ基;または芳香族炭化水素基もしくは芳香族複素環基から選ばれる基によって置換されたジ置換アミノ基;を表す。
【0040】
~R12は、独立して存在して環を形成していなくてもよいが、単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成してもよい。尚、R~R12がジ置換アミノ基である場合、環形成には、ジ置換アミノ基中の芳香族炭化水素基または芳香族複素環基が寄与する。
【0041】
~R12で表される炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基としては、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基など;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基など;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基など;を挙げることができる。炭素数1~8のアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0042】
~R12で表される炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基は、無置換でもよいが置換基を有していてもよい。置換基としては、重水素原子、シアノ基、ニトロ基の他に、例えば以下の基を挙げることができる。
ハロゲン原子、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子;
炭素数1~6のアルキルオキシ基、例えばメチルオキシ基、エチルオキ
シ基、プロピルオキシ基;
アリールオキシ基、例えばフェニルオキシ基、トリルオキシ基;
アリールアルキルオキシ基、例えばベンジルオキシ基、フェネチルオキ
シ基;
芳香族炭化水素基、例えばフェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリ
ル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニ
ル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、
トリフェニレニル基;
芳香族複素環基、例えばピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基
、チエニル基、フリル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベ
ンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベ
ンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイ
ミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基
、カルボリニル基;
尚、これらの置換基は、無置換でもよいが、さらに前記例示した置換基が置換していても良い。また、これらの置換基は、独立して存在し、環を形成していなくてもよいが、単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0043】
~R12で表される炭素数1~6のアルキルオキシ基または炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基としては、具体的に、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、1-アダマンチルオキシ基、2-アダマンチルオキシ基などを挙げることができる。
【0044】
~R12で表される炭素数1~6のアルキルオキシ基または炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基は、無置換でもよいが、置換基を有していてもよい。置換基としては、R~R12で表される炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基が有してもよい置換基に関して示したものと同様のものを挙げることができる。とりうる態様も、同様である。
【0045】
~R12で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基としては、具体的に、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾアゼピニル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、フェナジニル基、フェノキサジニル基、フェノセレナジニル基、フェノチアジニル基、フェノテルラジニル基、フェノホスフィナジニル基、アクリジニル基、カルボリニル基などを挙げることができる。
【0046】
~R12で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基は、無置換でもよいが、置換基を有していてもよい。置換基としては、重水素原子、シアノ基、ニトロ基の他に、例えば以下の基を挙げることができる。
ハロゲン原子、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子;
炭素数1~6のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル
基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基
、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基;
炭素数1~6のアルキルオキシ基、例えばメチルオキシ基、エチルオキ
シ基、プロピルオキシ基;
炭素数2~6のアルケニル基、例えばビニル基、アリル基;
アリールオキシ基、例えばフェニルオキシ基、トリルオキシ基;
アリールアルキルオキシ基、例えばベンジルオキシ基、フェネチルオキ
シ基;
芳香族炭化水素基、例えばフェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリ
ル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニ
ル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、
トリフェニレニル基;
芳香族複素環基、例えばピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基
、フリル基、チエニル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベ
ンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、イ
ンデノカルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キ
ノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニ
ル基、ジベンゾチエニル基、カルボリニル基、フェノキサジニル基、フェ
ノチアジニル基、アクリジニル基、フェナジニル基;
アリールビニル基、例えばスチリル基、ナフチルビニル基;
アシル基、例えばアセチル基、ベンゾイル基;
ジ置換アミノ基、例えば
ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基などアルキル基で置換された
ジアルキルアミノ基、
ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基など芳香族炭化水素基の
みで置換されたジ置換アミノ基、
ジベンジルアミノ基、ジフェネチルアミノ基などアラルキル基で置
換されたジアラルキルアミノ基、
ジピリジルアミノ基、ジチエニルアミノ基など芳香族複素環基のみ
で置換されたジ置換アミノ基、
ジアリルアミノ基などアルケニル基で置換されたジアルケニルアミ
ノ基、
その他アルキル基、芳香族炭化水素基、アラルキル基、芳香族複素
環基およびアルケニル基から成る群より選択される置換基で置換され
たジ置換アミノ基;
尚、これらの置換基は、無置換でもよいが、さらに前記例示した置換基が置換していてもよい。また、これらの置換基は、独立して存在し、環を形成していなくてもよいが、単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。上記置換基がジ置換アミノ基である場合、環形成には、ジ置換アミノ基を構成するアルキル基、芳香族炭化水素基、アラルキル基、芳香族複素環基またはアルケニル基が寄与する。
【0047】
~R12で表されるアリールオキシ基としては、具体的に、フェニルオキシ基、ビフェニリルオキシ基、ターフェニリルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントラセニルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、フルオレニルオキシ基、インデニルオキシ基、トリフェニレニルオキシ基、ピレニルオキシ基、ペリレニルオキシ基などを挙げることができる。
【0048】
~R12で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基は、無置換でもよいが、置換基を有していてもよい。置換基としては、前記R~R12で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基が有してもよい置換基に関して示したものと同様のものを挙げることができる。とりうる態様も、同様である。
【0049】
~R12で表されるジ置換アミノ基が置換基として有する芳香族炭化水素基または芳香族複素環基としては、前記R~R12で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基に関して示したものと同様のものを挙げることができる。
【0050】
~R12で表されるジ置換アミノ基が置換基として有する芳香族炭化水素基または芳香族複素環基は、無置換でもよいが、更に置換基を有していてもよい。置換基としては、前記R~R12で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基が有してもよい置換基に関して示したものと同様のものを挙げることができる。とりうる態様も、同様である。
【0051】
(X)
Xは、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基または芳香族炭化水素基もしくは芳香族複素環基によって置換されたジ置換アミノ基を表す。
【0052】
Xで表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基としては、前記R~R12に関して示したものと同様のものを挙げることができる。
【0053】
Xで表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基は、無置換でもよいが置換基を有していてもよい。置換基としては、前記R~R12で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基が有してもよい置換基に関して示したものと同様のものを挙げることができる。とりうる態様も、同様である。
【0054】
Xで表されるジ置換アミノ基が置換基として有する芳香族炭化水素基または芳香族複素環基としては、前記R~R12で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基に関して示したものと同様のものを挙げることができる。
【0055】
~R12で表されるジ置換アミノ基が置換基として有する芳香族炭化水素基または芳香族複素環基は、無置換でもよいが更に置換基を有していてもよい。置換基としては、前記R~R12で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基が有してもよい置換基に関して示したものと同様のものを挙げることができる。とりうる態様も、同様である。
【0056】
(好適な態様)
以下、インデノカルバゾール化合物の好適な態様を説明する。
インデノカルバゾール化合物としては、前記一般式(1-1)で表されるインデノカルバゾール化合物が好ましい。
【0057】
としては、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基が好ましく、縮合多環構造を有しない芳香族炭化水素基または縮合多環構造を有し、かつヘテロ原子として窒素原子を有しない芳香族複素環基がより好ましい。また、前記したヘテロ原子として窒素原子を有しない芳香族複素環基は含酸素芳香族複素環基であること好ましい。具体的には、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフラニル基またはジベンゾチエニル基が好ましく、フェニル基、ビフェニリル基またはジベンゾフラニル基がより好ましい。Rで表される基は、無置換であることが好ましい。
【0058】
~R、R12としては、水素原子または重水素原子が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0059】
10、R11としては、炭素数1~8のアルキル基または芳香族炭化水素基が好ましく、メチル基、オクチル基またはフェニル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0060】
Xとしては、芳香族複素環基またはジ置換アミノ基が好ましく、芳香族複素環基がより好ましく、含窒素芳香族複素環基が特に好ましく、3環以上の縮合多環構造を有する含窒素芳香族複素環基が最も好ましい。具体的には、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、アクリジニル基、フェナジニル基、カルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、フェナントロリニル基またはカルボリニル基が好ましく、ジベンゾフラニル基、カルバゾリル基またはインデノカルバゾリル基がより好ましい。
また、これらの芳香族複素環基は、製造の容易さ、電力効率、輝度などの点から、芳香族複素環上のN原子がインデノカルバゾール骨格に結合していることが好ましい。素子寿命の観点からは、3環以上の縮合多環構造を有する含窒素芳香族複素環基、例えばカルバゾリル基またはインデノカルバゾリル基が好ましく、輝度、発光効率および電力効率の観点からは3環以上の縮合多環構造を有し、かつヘテロ原子として窒素原子を有しない芳香族複素環基、例えばジベンゾチエニル基またはジベンゾフラニル基が好ましく、ジベンゾフラニル基がより好ましい。
ここで、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基は無置換であることが好ましい。
また、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、アクリジニル基、フェナジニル基、カルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、フェナントロリニル基またはカルボリニル基は無置換であるか、置換基を有しており、置換基としては、炭素数1~4のアルキル基;芳香族炭化水素基;芳香族複素環基;芳香族炭化水素基で置換されたジ置換アミノ基が好ましく、メチル基、フェニル基、カルバゾリル基、ジフェニルアミノ基、ビフェニリル基、フルオレニル基、インデノカルバゾリル基、ジベンゾチエニル基またはジベンゾフラニル基がより好ましく、メチル基、フェニル基、カルバゾリル基、ビフェニリル基、フルオレニル基、インデノカルバゾリル基、ジベンゾチエニル基またはジベンゾフラニル基が特に好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0061】
本発明のインデノカルバゾール化合物の好適な具体例を図6図10に示すが、インデノカルバゾール化合物は、これらの化合物に限定されるものではない。Dは重水素原子を表す。
【0062】
具体例中、化合物1、4~6および9~23は、一分子中インデノカルバゾール構造を2以上有するが、紙面上、最も右側に描かれるインデノカルバゾール構造が、本発明のインデノカルバゾール化合物の主骨格に該当する。
【0063】
また、具体例中化合物1~45は全て上記一般式(1-1)に該当する。
【0064】
<製造方法>
本発明のインデノカルバゾール化合物は、公知の方法によって製造することができる。例えば塩基存在下、臭素などのハロゲンで置換されたインデノカルバゾールと含窒素複素環などのアミン類とのブッフバルド・ハートウィッグ反応などの縮合反応を行うことによって、合成することができる。
詳述すると、まず、パラジウム触媒および塩基存在下、インデノカルバゾール誘導体とハロゲン化アリールやハロゲン化ヘテロアリールなどのハロゲン化物とのブッフバルド・ハートウィッグ反応により、上記一般式(1)におけるRに相当する基が導入されたインデノカルバゾール誘導体を合成する。次に、得られたインデノカルバゾール誘導体をNBSなどを用いてハロゲン化する。続いて、ハロゲン化されたインデノカルバゾール誘導体と2級アミンとのブッフバルド・ハートウィッグ反応またはジベンゾフランボロン酸やジベンゾチオフェンボロン酸などのボロン酸化合物との鈴木-宮浦クロスカップリング反応により上記一般式(1)におけるXに相当する基を導入する。
【0065】
インデノカルバゾール化合物の精製は、カラムクロマトグラフによる精製、シリカゲル、活性炭、活性白土等による吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法などによって行うことができる。昇華精製法などによる精製を行ってもよい。化合物の同定は、NMR分析によって行うことができる。物性値として、ガラス転移点(Tg)、仕事関数等の測定を行うことができる。
【0066】
ガラス転移点(Tg)は薄膜状態の安定性の指標となる。ガラス転移点(Tg)は、粉体を用いて高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100S)によって測定することができる。
【0067】
仕事関数は正孔輸送性の指標となる。仕事関数は、ITO基板の上に100nmの薄膜を作製して、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社製、PYS-202型)によって求めることができる。
【0068】
本発明のインデノカルバゾール化合物は、正孔輸送性を有しており、NPD,TPD等の従来公知の正孔輸送材料が示す仕事関数5.5eV以上の仕事関数を示す。
【0069】
<有機EL素子>
上記した本発明のインデノカルバゾール化合物は、有機EL素子の構成材料として用いられるものである。具体的には、一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層が設けられた構造を有する有機EL素子において、本発明のインデノカルバゾール化合物は、少なくとも一層の有機層の構成材料に使用される。
【0070】
かかる条件を満たしている限り、本発明の有機EL素子の層構造は種々の態様を採ることができる。例えば、一対の電極の間に発光層のみが選択的に設けられた態様を採ることができる。あるいは、一対の電極の間に発光層と他の層(正孔注入層、正孔輸送層または電子阻止層)とが設けられた態様を採ることができる。発光層と他の層とが設けられた態様の具体例として、基板上に順次に、陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層および陰極を設けた構造が挙げられる。陽極と正孔輸送層の間には正孔注入層を設けてもよい。発光層と正孔輸送層の間には電子阻止層を設けてもよい。発光層と電子輸送層の間には正孔阻止層を設けてもよい。発光層の陽極側もしくは陰極側には励起子ブロッキング層を設けてもよい。さらに、有機層を何層か省略あるいは兼ねることが可能である。例えば、正孔注入層と正孔輸送層を兼ねた構成とすること、電子輸送層と電子注入層を兼ねた構成とすることなどが可能である。また、同一の機能を有する有機層を2層以上積層した構成とすることが可能である。例えば、正孔輸送層を2層積層した構成、発光層を2層積層した構成、電子輸送層を2層積層した構成などが可能である。図5には、後述する実施例で採用された層構成が示されている。即ち、ガラス基板1上に透明陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子阻止層5、発光層6、正孔阻止層7、電子輸送層8、電子注入層9および陰極10がこの順に形成された層構成が示されている。
【0071】
<陽極>
陽極2は、それ自体公知の電極材料で構成されてよく、例えばITOや金のような仕事関数の大きな電極材料が用いられる。
【0072】
<正孔注入層>
正孔注入層3には、本発明のインデノカルバゾール化合物を好適に用いることができる。その他、公知の材料を本発明のインデノカルバゾール化合物に代え、または本発明のインデノカルバゾール化合物と混合してもしくは同時に使用してもよい。
【0073】
公知の材料としては、例えば、銅フタロシアニンに代表されるポルフィリン化合物;ナフタレンジアミン誘導体;スターバースト型のトリフェニルアミン誘導体;トリフェニルアミン構造同士を単結合またはヘテロ原子を含まない2価基で連結した構造を有するトリフェニルアミン3量体または4量体;ヘキサシアノアザトリフェニレンのようなアクセプター性の複素環化合物;塗布型の高分子材料;などを用いることができる。
【0074】
また、正孔注入層に通常使用される材料とともに、さらにトリスブロモフェニルアミンヘキサクロルアンチモン、ラジアレン誘導体(WO2014/009310)などをPドーピングしたものや、TPDなどのベンジジン誘導体の構造をその部分構造に有する高分子化合物などを用いることができる。
【0075】
これらの材料を用いて蒸着法、スピンコート法、インクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことにより、正孔注入層3を得ることができる。以下に述べる各層も同様に、蒸着法、スピンコート法、インクジェット法などの公知の方法により薄膜形成を行うことで得ることができる。
【0076】
<正孔輸送層>
正孔輸送層4には、本発明のインデノカルバゾール化合物を好適に用いることができる。その他、以下に例示される公知の材料を本発明のインデノカルバゾール化合物に代え、または本発明のインデノカルバゾール化合物と混合してもしくは同時に使用してもよい。
m-カルバゾリルフェニル基を含有する化合物;
ベンジジン誘導体、例えば
N,N'-ジフェニル-N,N'-ジ(m-トリル)-ベンジジン(
TPD)、
N,N'-ジフェニル-N,N'-ジ(α-ナフチル)-ベンジジン
(NPD)、
N,N,N',N'-テトラビフェニリルベンジジン;
1,1-ビス[(ジ-4-トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(
TAPC);
種々のトリフェニルアミン3量体および4量体;
カルバゾール誘導体;
【0077】
正孔輸送層4は、上記の材料を単独で用いて成膜しても良いが、他の材料とともに混合して成膜してもよい。また、単独で成膜した層同士を積層した構造、混合して成膜した層同士を積層した構造または単独で成膜した層と混合して成膜した層を積層した構造を有していてもよい。正孔輸送層以外の他の有機層も同様の構造とすることができる。
【0078】
また、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)/ポリ(スチレンスルフォネート)(PSS)などの塗布型の高分子材料を用い、正孔注入層兼正孔輸送層を形成することができる。
【0079】
また、正孔輸送層に通常使用される材料とともに、さらにトリスブロモフェニルアミンヘキサクロルアンチモン、ラジアレン誘導体(WO2014/009310)などをPドーピングしたものや、TPDなどのベンジジン誘導体の構造をその部分構造に有する高分子化合物などを用いることができる。
【0080】
<電子阻止層>
電子阻止層5には、本発明のインデノカルバゾール化合物を好適に用いることができる。その他、例えば以下に例示される公知の電子阻止作用を有する化合物を用いることができる。
カルバゾール誘導体、例えば
4,4',4''-トリ(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン(
TCTA)、
9,9-ビス[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]フルオレ
ン、
1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン(mCP)、
2,2-ビス(4-カルバゾール-9-イルフェニル)アダマンタン
(Ad-Cz);
トリフェニルシリル基を有するトリアリールアミン化合物、例えば
9-[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]-9-[4-(ト
リフェニルシリル)フェニル]-9H-フルオレン;
電子阻止性の高いモノアミン化合物;
種々のトリフェニルアミン2量体;
【0081】
<発光層>
発光層6には、本発明のインデノカルバゾール化合物を好適に用いることができる。また、公知の発光材料を用いてもよい。公知の発光材料としては、PIC-TRZ(非特許文献1参照)、CC2TA(非特許文献2参照)、PXZ-TRZ(非特許文献3参照)、4CzIPNなどのカルバゾリルジシアノベンゼン(CDCB)誘導体(非特許文献4参照)をはじめとする遅延蛍光材料;トリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq)をはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体などの各種金属錯体;ベンゾニトリル誘導体;アントラセン誘導体;ビススチリルベンゼン誘導体;ピレン誘導体;オキサゾール誘導体;ポリパラフェニレンビニレン誘導体;などを用いることができる。
有機EL素子が、遅延蛍光材料を用いて形成した発光層を有している場合、かかる有機EL素子は、電流を流したときに遅延蛍光を放射する。
【0082】
発光層6は、ホスト材料とドーパント材料とで構成することが好ましい。
ホスト材料として、本発明のインデノカルバゾール化合物と前記した遅延蛍光材料以外の発光材料に加え、ベンゾニトリル誘導体、mCP、mCBP、チアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体などを用いることができる。
ドーパント材料としては、ベンゾニトリル誘導体、PIC-TRZ、CC2TA、PXZ-TRZ、4CzIPNなどのCDCB誘導体をはじめとした遅延蛍光材料;キナクリドン、クマリン、ルブレン、アントラセン、ペリレンおよびそれらの誘導体;ベンゾピラン誘導体;ローダミン誘導体;アミノスチリル誘導体;などを用いることができる。
【0083】
また、発光材料として燐光発光体を使用することも可能である。燐光発光体としては、イリジウムや白金などの金属錯体の燐光発光体を使用することができる。具体的には、Ir(ppy)などの緑色の燐光発光体;FIrpic、FIr6などの青色の燐光発光体;BtpIr(acac)、Ir(piq)などの赤色の燐光発光体;などが用いられる。
【0084】
このときのホスト材料としては、本発明のインデノカルバゾール化合物やインドール環を有する複素環化合物を用いることができる。
また、例えば以下の正孔注入性・正孔輸送性のホスト材料を用いることができる。
カルバゾール誘導体、例えば
4,4'-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(CBP)、TCTA
、mCP;
さらに、例えば以下の電子輸送性のホスト材料を用いることができる。
p-ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(UGH2)、
2,2',2''-(1,3,5-フェニレン)-トリス(1-フェニ
ル-1H-ベンズイミダゾール)(TPBI);
このようなホスト材料を用いると、高性能の有機EL素子を作製することができる。
【0085】
燐光発光体のホスト材料へのドープは濃度消光を避けるため、発光層全体に対して1~30重量パーセントの範囲で、共蒸着によって行うことが好ましい。
【0086】
発光層は、好適には、本発明のインデノカルバゾール化合物または遅延蛍光材料を用いて形成することが好ましく、遅延蛍光材料を用いて形成することがより好ましい。
【0087】
また、発光層を本発明のインデノカルバゾール化合物を用いて作製した場合、かかる発光層に、仕事関数の異なる化合物をホスト材料として用いて作製した別の発光層を隣接させて積層した構造とすることができる。
【0088】
<正孔阻止層>
正孔阻止層7には、公知の正孔阻止作用を有する化合物を用いることができる。公知の正孔阻止作用を有する化合物としては、バソクプロイン(BCP)などのフェナントロリン誘導体;アルミニウム(III)ビス(2-メチル-8-キノリナート)-4-フェニルフェノレート(BAlq)などのキノリノール誘導体の金属錯体;2,8‐ビス(ジフェニルホスホリル)ジベンゾ[b,d]チオフェン(PPT)などのジベンゾチオフェン誘導体;ベンゾニトリル誘導体;各種の希土類錯体;オキサゾール誘導体;トリアゾール誘導体;トリアジン誘導体;などを挙げることができる。これらの材料は電子輸送層の材料を兼ねてもよい。
【0089】
<電子輸送層>
電子輸送層8には、公知の電子輸送性材料を使用することができる。公知の電子輸送性材料としては、Alq、BAlqをはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体などの各種金属錯体;トリアゾール誘導体;ベンゾニトリル誘導体;トリアジン誘導体;オキサジアゾール誘導体;ピリジン誘導体;ピリミジン誘導体;チアジアゾール誘導体;ベンゾトリアゾール誘導体;カルボジイミド誘導体;キノキサリン誘導体;ピリドインドール誘導体;フェナントロリン誘導体;シロール誘導体;アントラセン環構造を有する化合物;TPBIなどのベンズイミダゾール誘導体;などを用いることができる。
【0090】
また、電子輸送層に通常使用される材料に対し、さらにセシウムなどの金属、トリアリールホスフィンオキシド誘導体(WO2014/195482)などをNドーピングしたものを用いることができる。
【0091】
<電子注入層>
電子輸送層8の上には、電子注入層9を設けることができる。電子注入層9としては、フッ化リチウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属塩;フッ化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩;酸化アルミニウムなどの金属酸化物;などを用いることができるが、電子輸送層と陰極の好ましい選択においては、これを省略することができる。
【0092】
また、電子注入層に通常使用される材料に対し、さらにセシウムなどの金属、トリアリールホスフィンオキシド誘導体(WO2014/195482)などをNドーピングしたものを用いることができる。
【0093】
<陰極>
陰極10としては、アルミニウムのような仕事関数の低い電極材料や、マグネシウム銀合金、マグネシウムインジウム合金、アルミニウムマグネシウム合金のような、より仕事関数の低い合金が電極材料として用いられる。
【実施例
【0094】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
<実施例1:化合物1>
7-(12,12-ジメチル-インデノ[2,1-b]カルバゾール-10-イル)-10-フェニル-12,12-ジメチル-インデノ[2,1-
b]カルバゾールの合成;
窒素置換した反応容器に、
キシレン 100mL、
7-ブロモ-10-フェニル-12,12-ジメチル-インデノ
[2,1-b]カルバゾール 5.0g、
7,7-ジメチル-インデノ[2,1-b]カルバゾール
3.6g、
t-ブトキシナトリウム 1.6g、
t-ブチルホスフィン 0.2gおよび
酢酸パラジウム 0.1g
を加えて加熱し、120℃で5時間攪拌して反応液を得た。反応液を室温まで放冷した後、水を加え、トルエンを用いた抽出操作を行った。採取した有機層を濃縮し、粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、溶離液:トルエン/ヘキサン)により精製した。その結果、化合物1の白色固体(収率83%)を得た。
【0096】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。このH-NMRチャートを図1に示した。H-NMR(CDCl)で以下の36個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.49(1H)
8.44(1H)
8.41(1H)
8.24(1H)
7.88(1H)
7.81(1H)
7.78-7.67(4H)
7.64-7.52(3H)
7.49-7.23(11H)
1.54(6H)
1.49(6H)
【化7】
【0097】
<実施例2:化合物2>
7-(カルバゾール-9-イル)-10-フェニル-12,12-ジメチル-インデノ[2,1-b]カルバゾールの合成;
窒素置換した反応容器に、
キシレン 100mL、
7-ブロモ-10-フェニル-12,12-ジメチル-インデノ
[2,1-b]カルバゾール 6.0g、
カルバゾール 2.5g、
t-ブトキシナトリウム 2.0g、
t-ブチルホスフィン 0.2gおよび
酢酸パラジウム 0.1g
を加えて加熱し、120℃で5時間攪拌して反応液を得た。反応液を室温まで放冷した後、水を加え、トルエンを用いた抽出操作を行った。採取した有機層を濃縮し、粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、溶離液:トルエン/ヘキサン)により精製した。その結果、化合物2の白色固体(収率60%)を得た。
【0098】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。このH-NMRのチャートを図2に示した。H-NMR(CDCl)で以下の28個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.41(1H)
8.34(1H)
8.19(2H)
7.80(1H)
7.75-7.68(4H)
7.62-7.50(3H)
7.48-7.39(6H)
7.39-7.25(4H)
1.53(6H)
【化8】
【0099】
<実施例3:化合物3>
7-(カルバゾール-9-イル)-10-(ビフェニル-4-イル)-
12,12-ジメチル-インデノ[2,1-b]カルバゾールの合成;
窒素置換した反応容器に、
トルエン 50mL、
7-ブロモ-10-(ビフェニル-4-イル)-12,12-ジメチ
ル-インデノ[2,1-b]カルバゾール 3.0g、
カルバゾール 1.1g、
t-ブトキシナトリウム 0.7g、
t-ブチルホスフィン 0.1gおよび
酢酸パラジウム 0.1g
を加えて加熱し、110℃で5時間攪拌して反応液を得た。反応液を室温まで放冷した後、水を加え、トルエンを用いた抽出操作を行った。採取した有機層を濃縮し、粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、溶離液:トルエン/ヘキサン)により精製した。その結果、化合物3の白色固体(収率56%)を得た。
【0100】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。このH-NMRのチャートを図3に示した。H-NMR(CDCl)で以下の32個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.42(1H)
8.35(1H)
8.20(2H)
7.96-7.88(2H)
7.84-7.73(5H)
7.63(1H)
7.59-7.48(4H)
7.48-7.26(10H)
1.55(6H)
【化9】
【0101】
<実施例4:化合物24>
7,10-ビス(2-ジベンゾフラニル)-10H,12H-12,12-ジメチル-インデノ[2,1-b]カルバゾールの合成;
窒素置換した反応容器に、
キシレン 70mL、
2-ブロモ-ジベンゾフラン 1.8g、
7-(2-ジベンゾフラニル)-10H,12H-12,12-ジメ
チル-インデノ[2,1-b]カルバゾール 3.0g、
t-ブトキシナトリウム 1.0g、
t-ブチルホスフィン 0.1gおよび
酢酸パラジウム 0.3g
を加えて加熱し、130℃で11時間攪拌して反応液を得た。反応液を室温まで放冷した後、水を加え、トルエンを用いた抽出操作を行った。採取した有機層を濃縮して粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、溶離液:トルエン/ヘキサン)により精製した。その結果、化合物24の白色固体(収率30%)を得た。
【0102】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。このH-NMRチャートを図4に示した。H-NMR(CDCl)で以下の29個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.56(1H)
8.51(1H)
8.30(1H)
8.29(1H)
8.20(1H)
8.06(1H)
8.00-7.84(3H)
7.73-7.67(4H)
7.61(1H)
7.56(1H)
7.49(1H)
7.44-7.39(6H)
7.29(1H)
1.52(6H)
【化10】
【0103】
高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100S)によって、各実施例で得られた化合物のガラス転移点を求めた。
ガラス転移点(℃)
実施例1の化合物1 189.3
実施例2の化合物2 143.2
実施例3の化合物3 160.1
実施例4の化合物24 147.7
本発明のインデノカルバゾール化合物は100℃以上のガラス転移点を有しており、薄膜状態が安定であることが分かった。
【0104】
各実施例で得られた化合物を用いて、ITO基板の上に膜厚100nmの蒸着膜を作製して、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社製、PYS-202型)で仕事関数を測定した。
仕事関数(eV)
実施例1の化合物1 5.79
実施例2の化合物2 5.94
実施例3の化合物3 5.86
実施例4の化合物24 5.81
本発明のインデノカルバゾール化合物はNPD、TPDなどの一般的な正孔輸送材料がもつ仕事関数5.5eVと比較して、好適なエネルギー準位を示しており、良好な正孔輸送性を有していることが分かった。
【0105】
<素子実施例1>
図5に示すように、ガラス基板1上に透明陽極2としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子阻止層5、発光層6、正孔阻止層7、電子輸送層8、電子注入層9、陰極(アルミニウム電極)10をこの順に蒸着して遅延蛍光を放射する有機EL素子を作製した。
【0106】
具体的には、膜厚150nmのITOを成膜したガラス基板1を有機溶媒で洗浄した後に、UVオゾン処理により表面を洗浄した。その後、このITO電極付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け、0.001Pa以下まで減圧した。
続いて、透明陽極2を覆うように下記構造式の化合物HIM-1を蒸着し、膜厚10nmの正孔注入層3を形成した。
【化11】
正孔注入層3の上に、下記構造式で表されるHTM-1を蒸着し、膜厚25nmの正孔輸送層4を形成した。
【化12】
正孔輸送層4の上に、実施例1の化合物1を蒸着し、膜厚5nmの電子阻止層5を形成した。
【化13】
電子阻止層5の上に、ドーパント材料として下記構造式で表されるEMD-1(4CzIPN)とホスト材料として下記構造式で表されるEMH-1(mCBP)とを、蒸着速度比がEMD-1:EMH-1=15:85となる蒸着速度で二元蒸着し、膜厚30nmの発光層6を形成した。
なお、EMD-1は熱活性化遅延蛍光材料である。
【化14】
発光層6の上に、下記構造式で表されるETM-1を蒸着し、膜厚10nmの正孔阻止層7を形成した。
【化15】
正孔阻止層7の上に、下記構造式で表されるETM-2を蒸着し、膜厚40nmの電子輸送層8を形成した。
【化16】
電子輸送層8の上に、フッ化リチウムを蒸着し、膜厚1nmの電子注入層9を形成した。
最後に、電子注入層9の上にアルミニウムを蒸着し、膜厚100nmの陰極10を形成した。
【0107】
<素子実施例2>
素子実施例1において、実施例1の化合物1に代えて実施例2の化合物2を用いて電子阻止層5を形成した以外は、同様の条件で遅延蛍光を放射する有機EL素子を作製した。
【化17】
【0108】
<素子実施例3>
素子実施例1において、実施例1の化合物1に代えて実施例3の化合物3を用いて電子阻止層5を形成した以外は、同様の条件で遅延蛍光を放射する有機EL素子を作製した。
【化18】
【0109】
<素子実施例4>
素子実施例1において、実施例1の化合物1に代えて実施例4の化合物24を用いて電子阻止層5を形成した以外は、同様の条件で遅延蛍光を放射する有機EL素子を作製した。
【化19】
【0110】
<素子比較例1>
素子実施例1において、実施例1の化合物1に代えて下記構造式のHTM-Aを用いて電子阻止層5を形成した以外は、同様の条件で遅延蛍光を放射する有機EL素子を作製した。
【化20】
【0111】
素子実施例1~4および素子比較例1で作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行った。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1に示した。
【0112】
素子実施例1~4および素子比較例1で作製した有機EL素子を用いて、素子寿命を測定した。具体的には、発光開始時の発光輝度(初期輝度)を1000cd/mとして定電流駆動を行った時、発光輝度が950cd/m(初期輝度を100%とした時の95%に相当:95%減衰)に減衰するまでの時間を測定した。結果を表1に示した。
【0113】
【表1】
【0114】
電流密度10mA/cmの電流を流したときの輝度については、素子比較例1で4653cd/mであったのに対し、素子実施例1~4では4662~5375cd/mといずれも高輝度であった。
【0115】
発光効率については、素子比較例1で46.6cd/Aであったのに対し、素子実施例1~4では46.7~53.8cd/Aといずれも高効率であった。
【0116】
電力効率については、素子比較例1で27.0lm/Wであったのに対し、素子実施例2~4では27.0~29.6lm/Wと同等以上の効率であった。
【0117】
素子寿命(95%減衰)については、素子比較例1で151時間であったのに対し、素子実施例1では240時間と、大きく長寿命化していた。
【0118】
尚、電流密度10mA/cmの電流を流したときの電圧は、素子実施例1~4と素子比較例1と同等であることが確認された。
【0119】
以上の結果から、本発明のインデノカルバゾール化合物を電子阻止層に使用し且つ発光層のドーパント材料として熱活性化遅延蛍光材料を用いた有機EL素子は、既知の前記HTM-Aを用いた有機EL素子と比較して、高発光効率、高輝度となり、インデノカルバゾール化合物の構造によっては高電力効率または長寿命となることが分かった。
【0120】
また、式(1)におけるX以外は同じ構造を有するインデノカルバゾール化合物を用いて電子阻止層5を形成した素子実施例1と素子実施例2とを比べた。その結果、Xがインデノカルバゾリル基であることにより、分子内に2つのインデノカルバゾール構造を有する化合物1を用いた素子実施例1の方が、Xがカルバゾリル基である化合物2を用いた素子実施例2よりもはるかに長寿命であった。
【0121】
同様に、式(1)におけるR以外は同じ構造を有するインデノカルバゾール化合物を用いて電子阻止層5を形成した素子実施例2と素子実施例3とを比べた。その結果、Rが芳香族環を1つ有する芳香族炭化水素基であるフェニル基の化合物2を用いた素子実施例2の方が、Rが2以上の芳香族環を有する芳香族炭化水素基であるビフェニリル基の化合物3を用いた素子実施例3よりも輝度および発光効率が高く、長寿命であった。
【0122】
さらに、式(1)におけるXとRが含酸素芳香族複素環基であるか否かにおいて異なるインデノカルバゾール化合物を用いて電子阻止層5を形成した素子実施例1~3と素子実施例4とを比べた。その結果、XとRが含酸素芳香族複素環基ではない化合物1~3を用いた素子実施例1~3の方が、XとRが含酸素芳香族複素環基である化合物24を用いた素子実施例4よりも長寿命であった。一方、輝度、発光効率および電力効率については、素子実施例4の方が素子実施例1~3よりも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0123】
上述の通り、本発明のインデノカルバゾール化合物は、正孔輸送性を有し、電子阻止性に優れており、薄膜状態が安定であるため、有機EL素子用の化合物として優れている。該化合物を用いて作製した本発明の有機EL素子は、高発光効率、高輝度である。そのため、例えば、家庭電化製品や照明の用途への展開が可能である。
【符号の説明】
【0124】
1 ガラス基板
2 透明陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 電子阻止層
6 発光層
7 正孔阻止層
8 電子輸送層
9 電子注入層
10 陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10