(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】カバー層に中断部を備えた流体吐出デバイス
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230126BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
B41J2/14 501
B41J2/14 607
B41J2/14 613
B41J2/16 509
B41J2/16 513
(21)【出願番号】P 2021541259
(86)(22)【出願日】2019-04-29
(86)【国際出願番号】 US2019029620
(87)【国際公開番号】W WO2020222736
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】511076424
【氏名又は名称】ヒューレット-パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー.
【氏名又は名称原語表記】Hewlett‐Packard Development Company, L.P.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】カンビー,マイケル,ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】フラー,アンソニー,エム
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チエン-ヒュア
【審査官】井出 元晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-297827(JP,A)
【文献】特開2002-079675(JP,A)
【文献】特開2015-223832(JP,A)
【文献】特開2008-006812(JP,A)
【文献】特開2012-030400(JP,A)
【文献】特開2007-055071(JP,A)
【文献】特表2016-515055(JP,A)
【文献】特表2016-508461(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0025780(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0028722(US,A1)
【文献】特開2006-026950(JP,A)
【文献】特開2018-202806(JP,A)
【文献】特開2014-069353(JP,A)
【文献】特表2017-525599(JP,A)
【文献】特開2002-331667(JP,A)
【文献】特開2016-078289(JP,A)
【文献】特開2009-255448(JP,A)
【文献】特開平09-001812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体吐出デバイスであって:
第1の材料で形成され、ボンドパッドおよび複数の流体吐出器を含む流体吐出ダイ;
前記流体吐出ダイに隣接し、前記第1の材料と異なる第2の材料で形成されたカバー層、ここで前記カバー層はボンドパッド
上に配置された第1の領域および前記複数の流体吐出器
上に配置された第2の領域を
規定し、前記第1および第2の領域は前記カバー層にある中断部によって分離されており;および
前記第2の材料または前記第1および第2の材料の双方と異なる第3の材料を含み、ここで前記第3の材料は前記カバー層
によって規定された前記第1および第2の領域を分離している前記中断部を充填している、流体吐出デバイス。
【請求項2】
前記カバー層は前記第2の材料で構築された複数の副層を含み、前記複数の副層は、トップハット副層、チャンバ副層、およびプライム副層を含み、前記第1および第2の領域の間の前記中断部は前記トップハット副層および前記チャンバ副層を貫通して形成されるか、または前記トップハット副層、前記チャンバ副層、および前記プライム副層を貫通して形成される、請求項1の流体吐出デバイス。
【請求項3】
前記カバー層
によって規定された前記第1の領域は、前記ボンドパッドを取り囲み流体の接触を防止する
前記カバー層の壁を含む、請求項1または2の流体吐出デバイス。
【請求項4】
前記第2の材料はSU-8を含む、請求項1から3のいずれか1の流体吐出デバイス。
【請求項5】
前記第3の材料はエポキシ成形化合物(「EMC」)を含む、請求項1から4のいずれか1の流体吐出デバイス。
【請求項6】
前記第1の材料はケイ素を含む、請求項1から3のいずれか1の流体吐出デバイス。
【請求項7】
前記流体吐出ダイおよび前記カバー層は、前記第1の材料および前記第2の材料とは異なる第4の材料から形成された成形体に埋設されている、請求項1から6のいずれか1の流体吐出デバイス。
【請求項8】
前記流体吐出デバイスは
前記壁によって形成された凹部においてボンドパッド上に堆積された封止剤をさらに含み、前記封止剤は前記第4の材料と同じ第5の材料で形成されている、
請求項3または請求項3に従属する請求項4から6のいずれかに従属する請求項7の流体吐出デバイス。
【請求項9】
前記第4の材料および前記第5の材料はエポキシ成形化合物(「EMC」)を含む、請求項8の流体吐出デバイス。
【請求項10】
プリントバーであって:
前記プリントバーに設けられたプリントヘッドを含み、前記プリントヘッドは:
ボンドパッドおよび複数の流体吐出器を含むダイスライバー;
前記ダイスライバーに隣接するフォトレジスト層、ここで前記フォトレジスト層は前記ボンドパッド
に隣接して
上側に配置されたボンドパッド保護
領域、および前記複数の流体吐出器
に隣接して
上側に配置され、前記フォトレジスト層にある中断部によって前記ボンドパッド保護
領域から分離されたオリフィス
領域を
規定し;および
前記フォトレジスト層
によって規定された前記ボンドパッド保護
領域と前記オリフィス
領域を分離している前記中断部を充填するエポキシ成形化合物(「EMC」)を含む、プリントバー。
【請求項11】
前記フォトレジスト層はネガティブフォトレジストから構成されている、請求項10のプリントバー。
【請求項12】
前記フォトレジスト層は複数の副層を含み、前記複数の副層は、トップハット副層、チャンバ副層、およびプライム副層を含み、前記ボンドパッド保護
領域および前記オリフィス
領域の間の前記中断部は前記トップハット副層および前記チャンバ副層を貫通して形成されるか、または前記トップハット副層、前記チャンバ副層、および前記プライム副層を貫通して形成される、請求項10または11のプリントバー。
【請求項13】
前記フォトレジスト層
によって規定された前記ボンドパッド保護
領域は前記ボンドパッドを取り囲み流体の接触を防止する
前記フォトレジスト層の壁を含み、前記プリントヘッドは前記壁によって形成された凹部においてボンドパッド上に堆積された封止剤をさらに含み、前記封止剤は前記中断部を充填する前記エポキシ成形化合物(「EMC」)と同じ材料で形成されている、請求項10から12のいずれか1のプリントバー。
【請求項14】
流体吐出デバイスの作成方法であって:
カバー層を流体吐出ダイの表面に適用して、前記カバー層
によって規定されたボンドパッド保護領域
を前記流体吐出ダイのボンドパッド
の上側に配置し、そして前記カバー層
によって規定されたオリフィス領域
を前記流体吐出ダイの複数の流体吐出器
の上側に配置し;
前記カバー層
によって規定された前記ボンドパッド保護領域と前記オリフィス領域の間において、前記カバー層に中断部を形成し;そして
前記カバー層
によって規定された前記ボンドパッド保護領域と前記オリフィス領域の間の前記中断部を成形化合物で充填することを含む、方法。
【請求項15】
前記カバー層はSU-8を含み、そして前記適用することは:
SU-8の連続層を前記流体吐出ダイの表面に適用し;
前記SU-8の連続層にマスクを適用することを含み、ここで前記マスクは、前記SU-8の連続層の少なくとも第1の部分に対する光の通過を許容し、そして前記SU-8の連続層の少なくとも第2の部分に対する光の到達を阻止する形状である、請求項14の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
インクプリントヘッドのような流体吐出デバイスは、その製品寿命の種々の段階において、相当の機械的応力を受ける場合がある。緩和策が講じられなければ、こうした機械的応力は流体吐出デバイスの製品寿命を短縮しうる。例えば、製造の間に、流体吐出デバイスは比較的高い温度にさらされる場合がある。流体吐出デバイスの種々の部品は、異なる材料で構成されていてよく、それらの材料は種々の熱膨張係数(「CTE」)を有する。したがって、それぞれの部品は熱に対して異なる物理的反応を示してよい。それらの種々の物理的反応は各種の異常および/または欠陥を生じてよく、それらは場合によっては、ボンドパッドのような繊細な部品をエポキシおよび/または印刷流体のような流体に露出してしまう。また、流体吐出ダイのボンドパッドを他のロジック部品に接続するワイヤを封止するプロセスは、流体吐出デバイスの各部に対して相当の応力を惹起しうる。加えて使用時には、流体の吐出が流体吐出デバイスの種々の部品に対して競合する力を加える場合があり、それはさらなる欠陥および/または流体吐出デバイスの寿命の長さの短縮につながる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0002】
本開示の特徴は例を通じて説明されるが、以下の図面(単数または複数)に限定されるものではなく、またそこでは同様の参照番号は同様の要素を示している。
【0003】
図1は、印刷媒体上にイメージを形成するために流体吐出デバイスを使用する、例示的な印刷機の図である。
【0004】
図2は、流体吐出デバイスを使用してイメージを形成するために使用されてよい、流体吐出システムの例のブロック図である。
【0005】
図3は、例示的な印刷構成、例えばプリントバーにおける、インクジェットプリントヘッドの形態の流体吐出デバイスの集団の図である。
【0006】
図4は、熱および/または機械的応力が流体吐出デバイス内部において、薄膜インタフェースのような種々のインタフェースに沿って欠陥をどのように導入しうるかを例証している。
【0007】
図5Aおよび
図5Bは、本開示の選択された態様を備えて構成された流体吐出デバイスをどのように組み立ててよいかの例を示している。
【0008】
図6A、
図6B、
図6C、および
図6Dは、本開示の選択された態様を備えて構成された流体吐出デバイスをどのように組み立ててよいかの別の例を示している。
【0009】
図7は、本開示の選択された態様を備えて構成された流体吐出デバイスの組み立ての例示的な方法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
簡単化と例示を行う目的で、本開示は主として、例を参照することによって記載される。以下の説明においては、本開示の完全な理解をもたらすために、幾つもの具体的な詳細事項が記載される。しかしながら、本開示はそれらの具体的な詳細事項に限定することなしに実施されてよいことが容易に明らかとなろう。他の場合には、本開示を不必要に不明瞭にしないように、幾つかの方法および構造については詳細には説明されていない。
【0011】
加えて、添付図面に示された要素は追加的な部品を含んでよく、そして図面に説明された部品の幾つかは、本願に開示された要素の範囲から逸脱することなしに、除去および/または変更してよいことが理解されねばならない。さらに、図面に示された要素は縮尺通りに描かれていない場合があり、したがってそれらの要素は図面に示されているのとは異なる大きさおよび/または構成を有していてよいことが理解されねばならない。
【0012】
本願においては、技術、流体吐出デバイスやプリントバーのような装置、および印刷システムのようなシステムが記載され、それらは流体吐出ダイを覆うカバー層の各領域の間に中断部(単数または複数)を含んでいる。カバー層の種々の領域または部分の間のそうした中断部は、先に概観した機械的応力の少なくとも幾らかを緩和してよく、それによって流体吐出デバイスの増大した製品寿命を招来してよい。幾つかの例では、カバー層はSU-8のようなフォトレジスト材料を用いて形成されてよい。また流体吐出ダイも、プリントヘッドダイとして使用されるシリコンベースのダイスライバーのような、種々の形態を取ってよい。
【0013】
カバー層の「ボンドパッド保護」領域または部分は、下側にある流体吐出ダイのボンドパッド(単数または複数)を覆い、それによってインクのような流体から保護するように設計されてよい。流体吐出デバイスのこの区域は本願では、「封止区域」として参照されるが、その理由はこの区域は、流体吐出ダイと外部のロジック部品との間の電気的な接続を保護するために、ボンドパッド(単数または複数)を外部のロジック部品に接続するワイヤが種々の材料によって封止される区域だからである。幾つかの例では、流体吐出デバイスはその長さの両端部に、2つの封止区域を含んでいてよい。
【0014】
カバー層の「オリフィス」領域または部分は、流体吐出ダイの複数の流体吐出器を覆うように設計されてよい。例えば、カバー層のオリフィス領域は、例えば吐出された流体の液滴が所期の目標に到達しうるように、複数の流体吐出器を流体吐出デバイスの外側と流体的に結合する複数のノズルを備えて形成されていてよい。流体吐出デバイスのこの区域全体は本願では、「流体吐出区域」として参照される。幾つかの例では、流体吐出区域は、流体吐出デバイスの2つの側部にある封止区域の間に配置されていてよい。
【0015】
仮にカバー層が中断部を何ら有しない連続した層の形態を取るとすると、流体吐出デバイスの幾つかの部品に対して与えられる機械的応力の多くは、その製品寿命の間に他の部品に対して影響を及ぼす場合があり、それによって種々の欠陥および/または異常を生ずる。例えば、亀裂または間隙が種々の部品の間に形成される場合があり、それらは流体吐出デバイスの全体的な機械的安定性に対して影響しうる。さらにまた、インクのような流体は、例えば毛管ウィッキングによって、こうした亀裂または間隙に流入する場合がある。この流体はボンドパッドのような部品と接触状態になる場合があり、電気的な故障を生じ、また種々の部品の腐食を生じさせ、および/または加速させる場合がある。
【0016】
したがって、カバー層には中断部(単数または複数)が、例えばボンドパッド保護領域とオリフィス領域の間において形成されてよい。こうした中断部は次いで、ポリマーおよび/またはエポキシ成形化合物(「EMC」)のような材料で充填されてよい。こうしたEMC充填中断部を有することにより、流体吐出デバイスの幾つかの部品に対して加えられる応力が、他の部品に対して及ぼす影響は緩和され、または排除される。非限定的な例として、製造の間に、流体吐出デバイスの流体吐出区域は、流体吐出デバイスの封止区域において引き起こされる応力から少なくとも幾らかは分離されてよい。加えて、デバイスの表面、例えばEMC封止剤の下側に沿った材料の継ぎ目は除去され、それによって封止剤の下側の継ぎ目に沿ってインクがウィッキングされる可能性は排除される。
【0017】
これらのカバー層中断部は、種々の形態をとってよい。幾つかの例では、カバー層は、プライム層、チャンバ層、および「トップハット」層のような、複数の副層(サブレイヤー)を含んでいてよい。幾つかのそうした例においては、中断部は、これらの層の全部または一部において形成されてよい。例えば、流体吐出ダイに最も近いプライム層はそのまま残され、これに対して中断部をチャンバ層とトップハット層に形成してよい。また、幾つかの例ではカバー層のボンドパッド保護領域は、ボンドパッド(単数または複数)を囲む壁または「垣根」を含んでいてよく、特にボンドパッド(単数または複数)を外部のロジック部品に接続するワイヤが封止された後に、流体がボンドパッドに接触するのをさらに防止する。
【0018】
図1は、印刷媒体上にイメージを形成するためにインクジェットプリントヘッドを使用する、印刷機100の例の図である。印刷機100は、大きなロール102から印刷媒体の連続シートを供給することができる。この印刷媒体は、印刷システム104のような幾つもの印刷システムを通じて供給されることができる。印刷システム104においては、幾つものプリントヘッドを収容しているプリントバーが、インク液滴を印刷媒体上に吐出する。追加の色を印刷するために、第2の印刷システム106が使用されてよい。例えば、第1のシステム104はブラックを印刷してよく、これに対して第2のシステム106はシアン、マゼンタ、およびイエロー(CMY)を印刷してよい。
【0019】
例えば所望とされる色や、印刷機100の速度に応じて、任意の数のシステムが使用されてよいことから、印刷システム104および106は、2つ、または上述した色の組み合わせに限定されるものではない。より一般的には、本願に説明される技術は、
図1に示されているような印刷機に限定されるものではない。本願に記載の技術は、デスクトッププリンター、通路の突き当りのプリンター、単一のダイを備えたプリントヘッド、サーマルインクジェットプリンター、ピエゾインクジェットプリンター、その他のような、種々多様な状況において実施可能である。さらにまた、本願に記載の技術は、固定式のプリントヘッドおよび/またはプリントバーと移動される媒体を備えたシステム、および/または走査式のプリントヘッドおよび/またはプリントバーを備えたシステムに対して適用されてよい。加えて、本願に記載の技術は、2次元(「2」)プリンターおよび3次元(「3D」)プリンターの両方に対して適用可能である。
【0020】
第2のシステム106の後、印刷された印刷媒体は、さらに後に処理を行うために、巻取りロール108に巻き取られてよい。幾つかの例では、特にシートカッターおよび紙綴じ機のような他のユニットによって、巻取りロール108を置き換えてよい。
【0021】
図2は、インクジェットプリントヘッドを使用してイメージを形成するために使用されてよい、インクジェット印刷システム200の例のブロック図である。このインクジェット印刷システム200は、幾つものプリントヘッド204を含むプリントバー202と、インク供給アセンブリ206とを含んでいる。インク供給アセンブリ206は、インクリザーバ208を含んでいる。このインクリザーバ208から、インク210がプリントバー202へと提供され、プリントヘッド204に供給される。インク供給アセンブリ206とプリントバー202は、一方向インク配送システムまたは循環式インク配送システムを使用してよい。一方向インク配送システムにおいては、プリントバー202に供給された実質的に全部のインクが印刷の間に消費される。循環式インク配送システムにおいては、プリントバー202に供給されたインク210の一部が印刷の間に消費され、インクの他の部分はインク供給アセンブリに戻される。例においては、インク供給アセンブリ206はプリントバー202とは別個であり、インク210はプリントバー202へと、供給管(図示せず)のような管状の接続を通じて供給される。他の例においては、例えば単一ユーザー用プリンターにおいては、プリントバー202はインク供給アセンブリ206およびインクリザーバ208を、プリントヘッド204と共に含んでいてよい。いずれの例においても、インク供給アセンブリ206のインクリザーバ208は、取り外して取り替え、または再充填してよい。
【0022】
プリントヘッド204からはインク210が、紙、マイラー(Mylar:ポリエステルフィルムの商品名)、厚紙、およびその他のような印刷媒体214に向けて、インク液滴212としてノズルから吐出される。プリントヘッド204のノズルはカラムまたはアレイとして配置されており、プリントバー202と印刷媒体214が互いに対して相対的に移動するにつれて、適切に順序付けられたインク210の吐出が、文字、記号、グラフィックス、または印刷される他のイメージを印刷媒体214上に形成可能となっている。インク210は、印刷媒体上に視認可能なイメージを形成するために使用される着色された液体に限定されず、例えばインク210は、太陽電池のような回路パターンを印刷するために使用される、電気活性物質であってよい。
【0023】
装着構造またはアセンブリ216は、プリントバー202を印刷媒体214に対して位置決めするために使用されてよい。例においては、装着アセンブリ216は固定位置にあって、幾つものプリントヘッド204を印刷媒体214の上方に保持していてよい。別の例においては、例えばプリントバー202が1つから4つのプリントヘッド204を含んでいる場合、装着アセンブリ216は、プリントバー202を印刷媒体214を横切って前後に移動させるモーターを含んでいてよい。媒体搬送アセンブリ218は印刷媒体214をプリントバーに対して移動させ、例えば印刷媒体214をプリントバー202に対して垂直方向に移動させる。
図1の例においては、媒体搬送アセンブリ218はロール102および108を含んでいてよく、また印刷媒体を印刷システム104および106を通して引き通すために使用される任意の数のモーター駆動されたピンチロールを含んでいてよい。プリントバー202が移動されたなら、媒体搬送アセンブリ218は印刷媒体214を新たな位置へと送ってよい。プリントバー202が移動されない例においては、印刷媒体214の動きは連続的であってよい。
【0024】
コントローラ220は、コンピュータのようなホストシステム222からデータを受信する。データは、ネットワーク接続224を介して送信されてよく、これは特に電気的接続、光ファイバ接続、または無線接続であってよい。ネットワーク接続224を介して送信されるデータは、印刷される文書またはファイルを含んでいてよく、または文書の色平面またはラスタライズされた文書のような、より基本的な項目を含んでいてよい。コントローラ220はデータを、ローカルなメモリに一時的に記憶して分析してよい。この分析は、プリントヘッド204からのインク液滴の吐出、並びに印刷媒体214の動きおよびプリントバー202の任意の動きのためのタイミング制御の決定を含んでいてよい。コントローラ220は、印刷システムの個別の部品を制御ライン226を介して作動させてよい。したがってコントローラ220は、印刷媒体214上に文字、記号、グラフィックス、または他のイメージを形成する、吐出されるインク液滴212のパターンを決定する。
【0025】
インクジェット印刷システム200は、
図2に示された部材に限定されない。例えばコントローラ220は、システムの個々の部品に対して別々のコンピュータ制御を行うネットワークに結合された、クラスターコンピューティングシステムであってよい。例えば、個別のコントローラが、装着アセンブリ216、プリントバー202、インク供給アセンブリ206、および媒体搬送アセンブリ218のそれぞれに関連されていてよい。この例においては、制御ライン226は、個別のコントローラを単一のネットワークに結合するネットワーク接続であってよい。他の例においては、例えばプリントバー202による移動が必要でない場合、装着アセンブリ216はプリントバー202と別個の部材でなくてよい。
【0026】
図3は、例示的な印刷構成、例えばプリントバー202における、インクジェットプリントヘッド204の集団の図である。同様の参照番号の付された部材は、
図2に関して説明したのと同様である。
図3に示されたプリントバー202は、プリントヘッドを動かさない構成において使用されてよい。したがって、対象範囲の完全な網羅をもたらすために、プリントヘッド204は重なり合う構成でもってプリントバー202に取り付けられていてよい。各々のプリントヘッド204は、インク液滴の吐出に使用されるノズルおよび回路を有するノズル領域302を複数有している。幾つかの場合には、本願で記載したように、ノズル領域204はシリコンベースの流体吐出ダイの形態を取ってよい。
【0027】
図4は流体吐出デバイス404を示しており、これは既出の図面におけるプリントヘッド204に対応していてよい。流体吐出デバイス404は
図4において、その長手方向軸に沿って見られている。流体吐出デバイス404は流体吐出ダイ440およびカバー層450を含んでいる。流体吐出ダイ440は、比較的細長いプリントヘッドダイであって、場合によってプリントヘッドダイ「スライバー」と呼ばれるような、種々の形態を取ってよい。流体吐出ダイ440はシリコンのような、種々の材料で構成されてよい。
図4においては見られないが、種々の例において、流体吐出ダイ440は、インクのような液体を印刷のために吐出することを容易にする吐出装置、流体吐出ダイ440を例えば電子コントローラ220および/またはホスト222へと電気的に接続するためのボンドパッド、およびその他のような種々の部品を含んでいてよい。
【0028】
カバー層450は流体吐出ダイ440に隣接して、例えば流体吐出ダイ440の上部表面上に配置されている。カバー層450は、流体吐出ダイ440とは異なる材料(単数または複数)で構成されていてよい。その結果として前述したように、カバー層450は流体吐出ダイ440とは異なる熱膨張係数(「CTE」)を有する場合がある。幾つかの例では、カバー層450はSU-8のようなフォトレジスト材料で構成されていてよい。
【0029】
流体吐出ダイ440とカバー層450は、成形体430の中/上に埋設され、またはその他により配置されていてよい。成形体430は、流体吐出ダイ440および/またはカバー層450とは異なる材料(単数または複数)で構成されていてよい。幾つかの例では、成形体430はEMCで構成される。幾つかの例では、成形体430を構成するのに使用されるEMCは、例えばシリカで作成された、球形の充填剤を含んでいてよい。
【0030】
図4の下側には、成形体430、流体吐出ダイ440、およびカバー層450の間の境界面で捉えた、流体吐出デバイス404の拡大部分が示されている。流体吐出デバイス404の製品寿命の間に経験し、および/または与えられる種々の機械的および/または熱的応力の結果として、種々の部品の間の種々の境界面において、種々の間隙434-438が形成されている。例えば、第1の間隙434がカバー層450と成形体430の間に形成されている。第2の間隙436がカバー層450と流体吐出ダイ440の間に形成されている。第3の間隙438が成形体430と流体吐出ダイ440の間に形成されている。
【0031】
インクのような流体は、例えば毛管ウィッキングによって、これらの間隙のいずれかに染み込む傾向がありうる。このことは結果として、流体吐出デバイスの製品寿命の相当の短縮、腐食を招来する場合があり、および/または場合によっては例えばインクまたは他の水分が流体吐出ダイ440のボンドパッド(単数または複数)と接触したときに、流体吐出デバイス404の故障を生ずる場合がある。したがって、上述した機械的および/または熱的応力の少なくとも幾らかを緩和して、流体吐出デバイス404の製品寿命を伸ばすために、先に記載したように、中断部(単数または複数)をカバー層450のような種々の部品に組み込んでよい。
【0032】
図5Aから
図5Bは、間隙(単数または複数)または中断部(単数または複数)を流体吐出デバイス504の種々の部品に導入するために、本願に記載された技術をどのように使用してよいかの1つの例を示している。
図5Aにおいては、例えばEMCで成形する前の、単一の流体吐出デバイス504が示されている。
図5Aにおいては、流体吐出ダイ540とカバー層550を見ることができる。
【0033】
カバー層550の「ボンドパッド保護」領域または部分551は、流体吐出ダイ440の上側のボンドパッド(単数または複数)542を覆い、それによってインクのような流体からの保護を行うように設計されてよい。本願では、流体吐出デバイス504のこの全体区域570を「封止区域」と称するが、その理由はこの区域において、ボンドパッド(単数または複数)542を外部のロジック部品、例えば電子コントローラ220および/またはホスト222に接続するワイヤが、流体吐出ダイと外部のロジック部品との間の電気接続を保護するために、種々の材料で封止されるからである。
【0034】
図5Aにおいては、ボンドパッド保護領域551は、カバー層550と同じ材料で形成された壁559、または「垣根」を含んでいる。壁559はボンドパッド(単数または複数)542を取り囲み、流体が接触することを防止する。例えば、EMCのような成形化合物が導入された場合には、壁559は成形化合物がボンドパッド(単数または複数)542と接触することを妨げてよい。
【0035】
カバー層550の「オリフィス」領域または部分553は、流体吐出ダイ540の複数の流体吐出器(
図5Aでは見えない)を覆うように設計されていてよい。例えば、オリフィス領域553には、複数の流体吐出器を流体吐出デバイス504の外側と流体的に結合する、複数のノズル(
図5Aには1つのノズル557が示されている)が形成されていてよい。流体吐出デバイス504のこの全体区域572は本願では、「流体吐出区域」として参照される。幾つかの例では、流体吐出区域572は流体吐出デバイス504の2つの側部にある封止区域570の間に配置されていてよい。
【0036】
図5Aにおいては、カバー層550にある単一の中断部555Aを見ることができる。中断部555Aはそれぞれのボンドパッド保護領域551とオリフィス領域553の間に形成されており、それによって流体吐出区域572を流体吐出デバイス504のそれぞれの封止区域570から分離している。
【0037】
図5Bは、成形材料(例えばEMC)が硬化した後に、成形体530上に形成される複数の流体吐出デバイス504を示している。詳しくは、
図5Bは、EMCのような成形材料を使用して、特に3つの流体吐出デバイス504の各々の中断部555Aおよび555Bをどのように充填したかを示している。
図5Bの例においては、3つの流体吐出デバイス504がプリントバー502の一部として示されている。しかしながら、これは限定を意図したものではなく、
図5Bと同じ仕方において、または例えば
図3に類似する異なる仕方において、任意の数の流体吐出デバイス504を配置してよい。
【0038】
各々の中断部555A、555BがEMCで充填されたならば、EMCは事実上、封止区域(単数または複数)570と流体吐出区域572との間の、応力の多い相互作用を切り離してよい。EMCは一般にカバー層550よりも小さなCTEを有してよく、シリコンにより良く合致してよい。その結果として、流体吐出デバイス504の製品寿命は増大されてよいが、その理由は
図4における434-438のような間隙および亀裂の成長および形成が、軽減されまたは完全に回避されうるからである。
【0039】
図6Aから
図6Dは、本開示の選択された態様を備えて構成された流体吐出デバイスをどのように組み立ててよいかの1つの例を断面で概略的に示している。
図6Aにおいては、組み立ての第1の段階として、流体吐出デバイス604の一方の側が示されている。カバー層650が流体吐出ダイ640へと、例えば接着剤または他の技術を使用して取り付けられている。また、流体チャンバ670およびノズル672がカバー層650に形成されている。単一の流体チャンバ670/ノズル672が示されているが、種々の例において、同様の複数のノズルおよび流体チャンバが存在することになる。流体吐出ダイ640はまた流体吐出器664を含み、これは付勢されると流体チャンバ670からノズル672を通して流体を吐出してよい。流体吐出器664は、熱的素子(例えば抵抗器)および/またはピエゾ電気素子のような、種々の形態を取ってよい。
【0040】
流体吐出ダイ640はまた、流体吐出ダイ640を電子コントローラ220のような遠隔のロジックデバイスへと電気的に接続するために使用可能な、ボンドパッド642を含んでいる。
図6Aから
図6Cにおいて、ボンドパッド642は上部から露出されているが、それでも
図5Aおよび
図5Bにおける壁559に対応してよい壁または「垣根」659によって、流体から部分的に保護されている。
図6Aから
図6Dにおいては2つのボンドパッド642と1つの流体吐出器664が示されているが、これは限定を意図したものではない。流体吐出ダイ640は、任意の数のボンドパッド642および流体吐出器664を含んでいてよい。
【0041】
図6Aに示されているように、カバー層650はボンドパッド保護領域651およびオリフィス領域653を含んでいる。これらの領域はそれぞれ、ボンドパッド642およびノズル672/流体チャンバ670を覆っている。カバー層650はまた、複数の副層652-656を含んでいる。この例においては、これら複数の副層は「トップハット」副層652、「チャンバ」副層654、および「プライム」副層656を含んでいてよい。他の構成もまた可能である。
【0042】
図6Bにおいては、中断部655がカバー層650に形成されている。
図6Bから
図6Dの例においては、中断部655はトップハット副層652およびチャンバ副層654を貫通して形成されているが、プライム副層656は貫通していない。しかしながら、これは限定を意味するものではない。他の例においては、中断部655は3つの層すべて、トップハット層652その他を貫通して形成されていてよい。
【0043】
中断部655は種々の仕方で形成されてよい。幾つかの例では、中断部655はエッチングのような技術を用いて形成される。カバー層650がフォトレジスト材料で形成される他の例においては、中断部655は、ポジティブフォトレジストプロセスまたはネガティブフォトレジストプロセスを使用して形成されてよい。幾つかの例では、中断部655はSU-8の連続層が流体吐出ダイ640の表面に対して適用された後に、例えばSU-8の連続層に対してマスク(図示せず)を適用することによって形成されてよい。このマスクは、光がSU-8の連続層の少なくとも第1の部分を通過することを許容し、そして光がSU-8の連続層の少なくとも第2の部分に到達することを阻止するように形成されていてよい。次いで、光はマスク/ダイ640に対して差し向けられて、カバー層650、例えばネガティブ作用を行うSU8材料の各部が架橋するようにしてよい。劣化部分を洗い流すために溶剤が使用されてよく、劣化していない部分はそのまま残される。
【0044】
図6Cにおいては、EMCのような成形材料が中断部655を通って流されて成形体630が形成されている。前述したように、成形体630をボンドパッド保護領域651とオリフィス領域653の間に配置すると、例えば流体吐出デバイス604の製品寿命の間に種々の部品に対して与えられる種々の応力が分離されてよく、かくしてそれらの応力が他の部品に対して与えられて
図4で明らかな欠陥(単数または複数)のいずれかを生じさせることはない。EMCが硬化する前で依然として液状であるとき、壁659がボンドパッド642をEMCに対する暴露から保護する。
【0045】
図6Dにおいては、ワイヤ674がボンドパッド642に結合されている。前述したように、ワイヤ674は
図2の電子コントローラ220のような、遠隔のロジックへと導かれていてよい。電気的な接続を保護するために、封止剤676が壁659によって形成された凹部においてワイヤ674上に堆積されている。
図6Dにおいては異なった充填パターンで示されているが、幾つかの例では、封止剤676は例えばEMCのような、成形体630と同じ材料を使用して形成されてよい。
【0046】
図7は、本開示の選択された態様を備えて構成された流体吐出デバイスの組み立ての例示的な方法700のフローチャートを示している。他の実施形態は、
図7に示された実施形態以外に、追加の動作を含んでいてよく、
図7の動作(単数または複数)を異なる順序で、および/または並列的に行ってよく、および/または
図7の種々の動作を省略してよい。
【0047】
ブロック702において、カバー層が流体吐出ダイの表面に対して適用されてよく、かくしてカバー層のボンドパッド保護領域が流体吐出ダイのボンドパッドを覆い、またカバー層のオリフィス領域が流体吐出ダイの複数の流体吐出器を覆うようにされる。これらの動作の例示的な結果物が
図6Aに示されている。
【0048】
ブロック704において、中断部がカバー層のボンドパッド保護領域およびオリフィス領域の間において、カバー層に形成されてよい。これらの動作の例示的な結果物が
図6Bに示されている。前述したように、この中断部はエッチング、フォトレジスト操作、およびその他のような、種々の技術を使用して形成されてよい。ブロック706において、カバー層のボンドパッド保護領域とオリフィス領域の間の中断部は、プラスチックまたはEMCのような他の成形化合物で充填されてよい。これらの動作の例示的な結果物が
図6Cに示されている。
【0049】
幾つかの例では、カバー層はSU-8のようなフォトレジスト材料で構成されてよい。そうした例の幾つかにおいては、ブロック702および/または704の動作は、例えばSU-8の連続層を流体吐出ダイの表面に対して適用し、そしてマスクをSU-8の連続層に対して適用することを含んでいてよい。種々の例において、マスクは、光がSU-8の連続層の少なくとも第1の部分を通過することを許容するように形成されていてよい。カバー層がネガティブフォトレジストで構成されている例においては、このことはSU-8の連続層の第1の部分が強化されること(またはポジティブフォトレジストの例の場合には劣化されること)を生じさせてよい。このマスクは例えば、光がSU-8の連続層の少なくとも第2の部分に到達するのを阻止してよく、かくして第2の部分が劣化される(またはポジティブフォトレジストの例の場合には強化される)ようにする。
【0050】
本開示の全体を通じて具体的に説明を行ったが、本開示の代表的な例は広範囲にわたる用途に有用性を有しており、以上の記載は限定的であることを意図したものでも、限定的に理解されるべきものでもなく、本開示の形態の例示的な説明として提示されたものである。
【0051】
本願において記載され説明されたところのものは、幾つかの変形例を伴う本開示の例である。本願において使用された用語、説明、および図面は、例示目的で記載されており、限定として意図されたものではない。本開示の範囲内では多くのバリエーションが可能であり、本開示は以下の特許請求の範囲およびそれらの均等物によって規定されることが意図されており、そこにおいて全ての用語は特に明記しない限り、それらの合理的な最も広い意味を示している。