(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7004 20060101AFI20230126BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20230126BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230126BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20230126BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230126BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230126BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230126BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230126BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61P27/04
A61K9/08
A61K47/14
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/20
A61K47/44
(21)【出願番号】P 2021561505
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2020044068
(87)【国際公開番号】W WO2021107033
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019217421
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 夫規子
【審査官】阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/108541(WO,A1)
【文献】特開2017-190348(JP,A)
【文献】特開2007-243422(JP,A)
【文献】特開2006-151969(JP,A)
【文献】特開2013-158322(JP,A)
【文献】特開2014-129329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/33-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPlus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBAS
E(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.0005w/v%以上、0.05w/v%以下のブドウ糖、
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノ長鎖脂肪酸エステル、およびモノ長鎖脂肪酸ポリエチレングリコールからなる群より選択される1以上の非イオン界面活性剤、
並びに、
0.0005w/v%以上、0.01w/v%以下のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を含有する医薬組成物。
【請求項2】
0.0005w/v%以上、0.01w/v%以下のブドウ糖を含有する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
非イオン界面活性剤の濃度が0.001w/v%以上、0.5w/v%以下である請求項1
または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
0.002w/v%以上、0.01w/v%以下のブドウ糖、
0.005w/v%以上、0.05w/v%以下の非イオン界面活性剤、および、
0.001w/v%以上、0.01w/v%以下のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を含有する請求項1~
3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
更にアミノ酸を含有する請求項1~
4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
アミノ酸がタウリンである請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
0.01w/v%以上、1.0w/v%以下のアミノ酸を含有する請求項
5または
6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
pHが5.0以上、8.5以下である請求項1~
7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
0.005w/v%のブドウ糖、
0.01w/v%の
、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノ長鎖脂肪酸エステル、およびモノ長鎖脂肪酸ポリエチレングリコールからなる群より選択される1以上の非イオン界面活性剤、並びに、
0.0025w/v%のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を含有する医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れた医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソフトコンタクトレンズまたはハードコンタクトレンズを装着しているときの不快感、目の乾き、目の疲れ、目のかすみ等の軽減のため、涙液を補助する眼科用の医薬組成物が種々検討されている。
【0003】
涙液は、主涙腺から分泌された涙腺分泌液に、4種以上の副涙腺から分泌された物質が混合されたものであり、無機成分としてNa、K、Ca、Cl等を含み、有機成分としてブドウ糖、アスコルビン酸、クエン酸、尿素、アンモニア、アミノ酸、タンパク質などを含む。
【0004】
個人差もあるが、涙液に含まれるブドウ糖の濃度は大凡0.001~0.01w/v%程度である。眼科用の医薬組成物においてブドウ糖は栄養成分として配合されるため、その濃度は高い方が良く、眼科用の医薬組成物がブドウ糖を含む場合、その一般的な濃度は0.1w/v%や0.2w/v%である(特許文献1~8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-336153号公報
【文献】特開2007-99643号公報
【文献】特開2009-46480号公報
【文献】特開2011-93888号公報
【文献】特開2011-213729号公報
【文献】特開2014-5417号公報
【文献】特開2015-78248号公報
【文献】特開2017-178880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、保存安定性に優れた医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、医薬組成物に低濃度のブドウ糖を配合すると、ブドウ糖の残存率が経時的に低下する傾向があるが、非イオン界面活性剤がブドウ糖の安定化に非常に効果的であることを見出した。しかし、非イオン界面活性剤の配合により医薬組成物に保存時の白濁が認められたが、かかる白濁はアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の配合により抑制されることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明の一態様を示す。
【0008】
[1] 0.0005w/v%以上、0.05w/v%以下のブドウ糖、非イオン界面活性剤、およびアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を含有する医薬組成物。
[2] 0.0005w/v%以上、0.01w/v%以下のブドウ糖を含有する上記[1]に記載の医薬組成物。
[3] 0.002w/v%以上、0.01w/v%以下のブドウ糖を含有する上記[1]または[2]に記載の医薬組成物。
[4] 非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノ長鎖脂肪酸エステル、モノ長鎖脂肪酸ポリエチレングリコール、およびポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーからなる群より選択される1以上の非イオン界面活性剤である上記[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5] 0.001w/v%以上、0.5w/v%以下の非イオン界面活性剤を含有する上記[1]~[4]のいずれかに記載の医薬組成物。
[6] 0.005w/v%以上、0.3w/v%以下の非イオン界面活性剤を含有する上記[1]~[4]のいずれかに記載の医薬組成物。
[7] ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油がポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60である上記[4]に記載の医薬組成物。
[8] 0.0005w/v%以上、0.05w/v%以下のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を含有する上記[1]~[7]のいずれかに記載の医薬組成物。
[9] 0.001w/v%以上、0.01w/v%以下のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を含有する上記[1]~[7]のいずれかに記載の医薬組成物。
[10] 0.002w/v%以上、0.01w/v%以下のブドウ糖、
0.005w/v%以上、0.3w/v%以下の非イオン界面活性剤、および、
0.001w/v%以上、0.01w/v%以下のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を含有する上記[1]~[9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[11] 更に無機塩を含有する上記[1]~[10]のいずれかに記載の医薬組成物。
[12] 無機塩が塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムである上記[11]に記載の医薬組成物。
[13] 0.05w/v%以上、5.0w/v%以下の無機塩を含有する上記[11]または[12]に記載の医薬組成物。
[14] 0.1w/v%以上、2.0w/v%以下の無機塩を含有する上記[11]または[12]に記載の医薬組成物。
[15] 更に緩衝剤を含有する上記[1]~[14]のいずれかに記載の医薬組成物。
[16] 緩衝剤が、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、HEPES緩衝剤、およびMOPS緩衝剤からなる群より選択される1以上の緩衝剤である上記[15]に記載の医薬組成物。
[17] 緩衝剤がホウ酸および/またはホウ砂である上記[15]に記載の医薬組成物。
[18] 0.05w/v%以上、5.0w/v%以下の緩衝剤を含有する上記[15]~[17]のいずれかに記載の医薬組成物。
[19] 0.1w/v%以上、2.0w/v%以下の緩衝剤を含有する上記[15]~[17]のいずれかに記載の医薬組成物。
[20] 更に粘稠剤を含有する上記[1]~[19]のいずれかに記載の医薬組成物。
[21] 粘稠剤がヒドロキシプロピルメチルセルロースである上記[20]に記載の医薬組成物。
[22] 0.01w/v%以上、3.0w/v%以下の粘稠剤を含有する上記[20]または[21]に記載の医薬組成物。
[23] 0.05w/v%以上、2.0w/v%以下の粘稠剤を含有する上記[20]または[21]に記載の医薬組成物。
[24] 更にアミノ酸を含有する上記[1]~[23]のいずれかに記載の医薬組成物。
[25] アミノ酸が、タウリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、アルギニン、リジン、γ-アミノ酪酸、γ-アミノ吉草酸、コンドロイチン硫酸エステル、およびこれらの塩からなる群より選択される1以上のアミノ酸である上記[24]に記載の医薬組成物。
[26] アミノ酸がタウリンである上記[24]に記載の医薬組成物。
[27] 0.01w/v%以上、1.0w/v%以下のアミノ酸を含有する上記[24]~[26]のいずれかに記載の医薬組成物。
[28] 0.05w/v%以上、0.5w/v%以下のアミノ酸を含有する上記[24]~[26]のいずれかに記載の医薬組成物。
[29] 0.002w/v%以上、0.01w/v%以下のブドウ糖、
0.005w/v%以上、0.3w/v%以下の非イオン界面活性剤、
0.001w/v%以上、0.01w/v%以下のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩、
0.1w/v%以上、2.0w/v%以下の無機塩、
0.1w/v%以上、2.0w/v%以下の緩衝剤、
0.05w/v%以上、2.0w/v%以下の粘稠剤、および、
0.05w/v%以上、0.5w/v%以下のアミノ酸を含有する上記[1]~[28]のいずれかに記載の医薬組成物。
[30] 更にpH調整剤を含有する上記[1]~[29]のいずれかに記載の医薬組成物。
[31] pHが5.0以上、8.5以下である上記[1]~[30]のいずれかに記載の医薬組成物。
[32] pHが5.5以上、8.0以下である上記[1]~[30]のいずれかに記載の医薬組成物。
[33] 更にモノテルペンを含有する上記[1]~[32]のいずれかに記載の医薬組成物。
[34] モノテルペンが、メントール、カンフル、およびボルネオールからなる群より選択される1以上のモノテルペンである上記[33]に記載の医薬組成物。
[35] モノテルペンがl-メントールである上記[33]に記載の医薬組成物。
[36] 0.0005w/v%以上、0.1w/v%以下のモノテルペンを含有する上記[33]~[35]のいずれかに記載の医薬組成物。
[37] 0.001w/v%以上、0.05w/v%以下のモノテルペンを含有する上記[33]~[35]のいずれかに記載の医薬組成物。
[38] 更にキレート剤を含有する上記[1]~[37]のいずれかに記載の医薬組成物。
[39] キレート剤がエチレンジアミン四酢酸またはその塩である上記[38]に記載の医薬組成物。
[40] 0.001w/v%以上、0.15w/v%以下のキレート剤を含有する上記[38]または[39]に記載の医薬組成物。
[41] 0.002w/v%以上、0.1w/v%以下のキレート剤を含有する上記[38]または[39]に記載の医薬組成物。
[42] 0.002w/v%以上、0.01w/v%以下のブドウ糖、
0.005w/v%以上、0.3w/v%以下の非イオン界面活性剤、
0.001w/v%以上、0.01w/v%以下のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩、
0.1w/v%以上、2.0w/v%以下の無機塩、
0.1w/v%以上、2.0w/v%以下の緩衝剤、
0.05w/v%以上、2.0w/v%以下の粘稠剤、
0.05w/v%以上、0.5w/v%以下のアミノ酸、
0.001w/v%以上、0.05w/v%以下のモノテルペン、および、
0.002w/v%以上、0.1w/v%以下のキレート剤を含有する上記[1]~[41]のいずれかに記載の医薬組成物。
[43] 0.002w/v%以上、0.01w/v%以下のブドウ糖、
0.005w/v%以上、0.1w/v%以下の非イオン界面活性剤、
0.001w/v%以上、0.005w/v%以下のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩、
0.1w/v%以上、2.0w/v%以下の無機塩、
0.1w/v%以上、2.0w/v%以下の緩衝剤、
0.05w/v%以上、0.5w/v%以下の粘稠剤、
0.05w/v%以上、0.5w/v%以下のアミノ酸、
0.001w/v%以上、0.05w/v%以下のモノテルペン、および、
0.005w/v%以上、0.05w/v%以下のキレート剤を含有し、
pHが6.5以上、8.0以下である上記[1]~[42]のいずれかに記載の医薬組成物。
[44] 0.005w/v%のブドウ糖、
0.01w/v%の非イオン界面活性剤、および、
0.0025w/v%のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を含有する医薬組成物。
[45] 眼科用である上記[1]~[44]のいずれかに記載の医薬組成物。
[46] 水性液剤である上記[1]~[45]のいずれかに記載の医薬組成物。
[47] 点眼剤である上記[1]~[46]のいずれかに記載の医薬組成物。
[48] 医薬組成物の保存安定性を改善するための、0.0005w/v%以上、0.05w/v%以下のブドウ糖、非イオン界面活性剤、およびアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の使用。
[49] 保存安定性に優れた医薬組成物を製造するための、0.0005w/v%以上、0.05w/v%以下のブドウ糖、非イオン界面活性剤、およびアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の使用。
[50] ブドウ糖を含む医薬組成物の保存安定性を改善する方法であって、
医薬組成物が0.0005w/v%以上、0.01w/v%以下のブドウ糖を含み、
医薬組成物に非イオン界面活性剤およびアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を配合する、方法。
上記の使用および方法に、上記[1]~[47]の規定事項を適用することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る医薬組成物は、保存安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述したように、涙液を補助するための眼科用の医薬組成物は種々開発されており、眼科用の医薬組成物のブドウ糖濃度は実際の涙液の濃度よりも高く調整されるのが一般的である。
【0011】
しかし、本発明者は、組成物中のブドウ糖濃度を涙液における濃度と同程度に低く調整する場合には、保存時にブドウ糖濃度を維持することができないことを見出した。そこでブドウ糖を安定化する成分を検討したところ、非イオン界面活性剤が有効であることを見出した。ところがブドウ糖を低濃度で含む組成物に非イオン界面活性剤を配合すると、今度は組成物が保存時に白濁することを見出した。かかる白濁を抑制することができる成分を検討したところ、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩が有効であることを見出した。
【0012】
本発明に係る医薬組成物は、0.0005w/v%以上、0.05w/v%以下のブドウ糖、非イオン界面活性剤、およびアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を含有する。
【0013】
「医薬組成物」とは、医薬用途の組成物を意味する。医薬組成物は、常法に従って調製することができる。本発明に係る医薬組成物は、特に眼科用の医薬組成物として有用である。
【0014】
「ブドウ糖」は、式C6H12O6で表されるアルドヘキソースの一つであり、グルコースともいう。天然にはD-グルコースが存在し、呼吸系を持つ動物では電子伝達系と共役して多量のATPを生成し、涙液中には0.001w/v%以上、0.01w/v%以下程度存在する。ブドウ糖は、医薬組成物において等張化剤や粘稠化剤としても配合される。
【0015】
本発明に係る医薬組成物は、0.0005w/v%以上、0.05w/v%以下のブドウ糖を含有する。当該濃度が0.0005w/v%以上であれば、涙液成分としての作用効果を十分に発揮できる。当該下限値については、好ましくは0.001w/v%以上または0.002w/v%以上であり、より好ましくは0.003w/v%以上であり、より更に好ましくは0.004w/v%以上である。また、ブドウ糖は低濃度であるほど安定性が低い傾向がある。当該濃度が0.05w/v%以下であれば、本発明に係る医薬組成物において白濁が顕著にならず、保存安定性が十分に発揮される。当該濃度の上限値については、好ましくは0.01w/v%以下であり、より好ましくは0.008w/v%以下であり、より更に好ましくは0.006w/v%以下である。
【0016】
「非イオン界面活性剤」は、水に溶解されてもイオンに解離することのない界面活性剤であり、一般にはポリオキシエチレン鎖や水酸基が親水性基として働き、長鎖アルキル基が疎水性基となる。非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノ長鎖脂肪酸エステル、モノ長鎖脂肪酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の非イオン界面活性剤が挙げられる。非イオン界面活性剤は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とは、硬化ヒマシ油をポリオキシエチレン鎖でエーテル化した化合物である。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油におけるポリオキシエチレン鎖のエチレンオキサイドの付加モル数は、例えば、5以上、100以下とすることができる。当該付加モル数の下限値については、溶解性を向上させるという観点から10以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上がより更に好ましく、40以上が特に好ましい。当該付加モル数の上限値については、毒性がより低いという観点から、90以下が好ましく、80以下がより好ましく、70以下がより更に好ましい。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等を用いることができる。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、点眼剤において広く使用されているポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が好ましい。
【0018】
ポリオキシエチレンソルビタンモノ長鎖脂肪酸エステルは、ポリソルベートともいわれ、ソルビトールと長鎖脂肪酸をアルカリ触媒下で加熱反応させることによって生成するソルビタン長鎖脂肪酸エステルに、エチレンオキシドを縮合反応させることによって得られるソルビタン脂肪酸エステルのポリオキシエチレンエーテルである。例えば、通常、1分子あたり合計で18分子以上、22分子以下程度のエチレンオキシドが結合している。長鎖脂肪酸の炭素数は、一般的に10以上、20以下程度であり、長鎖脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられる。ポリオキシエチレンソルビタンモノ長鎖脂肪酸エステルとしては、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80を用いることができる。ポリオキシエチレンソルビタンモノ長鎖脂肪酸エステルとしては、点眼剤において広く使用されているポリソルベート80が好ましい。
【0019】
モノ長鎖脂肪酸ポリエチレングリコールは、長鎖脂肪酸とポリエチレングリコールとのエステルであり、長鎖脂肪酸としては、例えばステアリン酸が挙げられ、ポリエチレングリコールの重合度は10以上、60以下程度である。好ましくは、ステアリン酸ポリオキシル40である。
【0020】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーは、酸化プロピレンと酸化エチレンの共重合物である。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーとしては、例えば、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(ポロクサマー188)、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(ポロクサマー407)、ポロクサマー235等が挙げられる。
【0021】
本発明者は、医薬組成物において、低濃度のブドウ糖の濃度が保存中に低下することを見出した。また、本発明者は、かかるブドウ糖濃度の低下が非イオン界面活性剤を配合することにより抑制できることを見出した。医薬組成物における非イオン界面活性剤の濃度は適宜調整できる。当該濃度としては、例えば0.001w/v%以上、0.5w/v%以下とすることができる。当該濃度が0.001w/v%以上であれば、ブドウ糖の濃度を十分に維持することができる。当該濃度の下限値については、好ましくは0.005w/v%以上であり、より好ましくは0.008w/v%以上であり、より更に好ましくは0.01w/v%以上である。当該濃度が0.5w/v%以下であれば、医薬組成物の白濁が顕著にならず、保存安定性が十分に発揮される。当該濃度の上限値については、好ましくは0.3w/v%以下であり、より好ましくは0.1w/v%以下であり、より更に好ましくは0.05w/v%以下である。
【0022】
ブドウ糖に対する非イオン界面活性剤の割合も適宜調整すればよい。例えば、ブドウ糖1質量部に対して非イオン界面活性剤は0.02質量部以上、1000質量部以下である。当該非イオン界面活性剤の質量部が0.02質量部以上であれば、ブドウ糖の濃度をより効果的に維持することができる。当該質量部の下限値については、好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは1.0質量部以上であり、より更に好ましくは1.7質量部以上である。また、当該非イオン界面活性剤の質量部が1000質量部以下であれば、医薬組成物の白濁が顕著にならず、保存安定性が十分に発揮される。当該質量部の上限値については、より好ましくは500質量部以下または150質量部以下であり、より更に好ましくは33質量部以下であり、特に好ましくは13質量部以下である。
【0023】
「アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩」は、以下の化学構造を有する化合物であり、従来、主に殺菌作用を有する成分として用いられている。
R-NH-(CH2)2-NH-(CH2)2-NH-CH2-CO2H・HCl
[式中、RはC8H17~C16H33のアルキル基を示し、主にC12H25およびC14H29である。]
【0024】
本発明者は、低濃度ブドウ糖と非イオン界面活性剤を配合することにより生じる医薬組成物の白濁を、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を配合することにより低減できることを見出した。医薬組成物におけるアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の濃度は適宜調整すればよい。例えば0.0005w/v%以上、0.05w/v%以下とすることができる。当該濃度が0.0005w/v%以上であれば、医薬組成物の白濁を十分に抑制できる。当該濃度の下限値については、好ましくは0.001w/v%以上であり、より好ましくは0.0015w/v%以上であり、より更に好ましくは0.002w/v%以上である。当該濃度が0.05w/v%以下であれば、医薬組成物を眼に投与した際に生じる刺激を十分に抑えることができる。当該濃度の上限値については、好ましくは0.01w/v%以下であり、より好ましくは0.005w/v%以下であり、より更に好ましくは0.003w/v%以下である。
【0025】
ブドウ糖に対するアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の割合も適宜調整すればよい。例えば、ブドウ糖1質量部に対するアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の質量部は、0.01質量部以上、100質量部以下とすることができる。当該アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の質量部が0.01質量部以上であれば、医薬組成物の白濁を十分に抑制できる。当該質量部の下限値については、好ましくは0.1質量部以上であり、より好ましくは0.2質量部以上であり、より更に好ましくは0.33質量部以上である。当該アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の質量部が100質量部以下であれば、医薬組成物を眼に投与した際に生じる刺激を十分に抑えることができる。当該質量部の上限値については、好ましくは50質量部以下または5.0質量部以下であり、より好ましくは1.7質量部以下であり、より更に好ましくは0.8質量部以下である。
【0026】
非イオン界面活性剤に対するアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の割合も適宜調整すればよい。例えば、非イオン界面活性剤1質量部に対するアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の質量部は、0.001質量部以上、50質量部以下にすることができる。当該アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の質量部が0.001質量部以上であれば、医薬組成物の白濁を十分に抑制できる。当該質量部の下限値については、好ましくは0.003質量部以上であり、より好ましくは0.015質量部以上であり、より更に好ましくは0.04質量部以上である。当該アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の質量部が50質量部以下であれば、医薬組成物を眼に投与した際に生じる刺激を十分に抑えることができる。当該質量部の上限値については、好ましくは2.0質量部以下であり、より好ましくは0.6質量部以下であり、より更に好ましくは0.3質量部以下である。
【0027】
「無機塩」とは、無機酸の水素原子を金属で置換した無機化合物をいい、主に等張化剤として配合される。無機塩としては、医薬組成物の溶媒である水に対して可溶なものが好ましい。「水に可溶」とは、被検物を100号(目開き:150μm)ふるいを通過する細末とした後、1gを水中に入れ、20℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、30分以内に溶解するために要する水の量が10mL未満であることをいう。
【0028】
無機塩としては、例えば、塩化ナトリウムや塩化カリウム等のアルカリ金属塩化物;塩化カルシウムや塩化マグネシウム等の第2族金属塩化物;炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;硫酸マグネシウム等の第2族金属硫酸塩;亜硫酸ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸塩;亜硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸水素塩;チオ硫酸ナトリウム等のアルカリ金属チオ硫酸塩;リン酸水素二ナトリウム等のアルカリ金属リン酸水素塩;リン酸二水素ナトリウムやリン酸二水素カリウム等のアルカリ金属リン酸二水素塩などが挙げられ、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムが好適に用いられる。第2族金属としては、カルシウム等のアルカリ土類金属が好ましい。無機塩は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
医薬組成物における無機塩の濃度は適宜調整すればよい。例えば、無機塩による等張化作用の観点から、0.05w/v%以上、5.0w/v%以下とすることができる。当該濃度の下限値については、好ましくは0.1w/v%以上、より好ましくは0.5w/v%以上であり、より更に好ましくは0.55w/v%以上である。また、当該濃度の上限値については、好ましくは2.0w/v%以下であり、より好ましくは1.0w/v%以下であり、より更に好ましくは0.9w/v%以下である。
【0030】
「緩衝剤」とは、主に外部物質によるpHの変化を和らげるための成分をいい、例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、HEPES緩衝剤、MOPS緩衝剤などが挙げられる。緩衝剤は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。緩衝剤としては、ホウ酸緩衝剤が好ましく、ホウ酸および/またはホウ砂がより好ましい。ホウ酸とホウ砂は、防腐剤としても用いられ、結膜嚢の消毒作用も示す。
【0031】
医薬組成物における緩衝剤の濃度は適宜調整すればよい。例えば、緩衝剤による緩衝作用の観点から、0.05w/v%以上、5.0w/v%以下とすることができる。当該濃度の下限値については、好ましくは0.1w/v%以上であり、より好ましくは0.25w/v%以上であり、より更に好ましくは0.4w/v%以上である。また、当該濃度の上限値については、好ましくは2.0w/v%以下であり、より好ましくは1.0w/v%以下であり、より更に好ましくは0.6w/v%以下である。
【0032】
「粘稠剤」とは、医薬組成物の粘度を高め、医薬組成物の拙速な蒸発の抑制や、液切れ性の向上、滴下量のばらつき抑制、使用感の向上などに貢献する成分である。ブドウ糖も粘稠剤として用いられるが、本発明に係る医薬組成物においてブドウ糖は必須であるため、便宜上、本発明においては粘稠剤の範疇からブドウ糖を除外するものとする。
【0033】
本発明に係る医薬組成物の粘度は、適宜調整すればよい。例えば、1mPa・s以上、100mPa・s以下とすることができる。当該粘度の下限値については、医薬組成物の拙速な蒸発を十分に抑制するため、1.2mPa・s以上が好ましく、1.5mPa・s以上がより好ましく、2.0mPa・s以上がより更に好ましい。また、当該粘度の上限値については、使用感を十分に確保するため、30mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以下がより好ましく、5.0mPa・s以下がより更に好ましい。
【0034】
粘稠剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられ、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましい。粘稠剤は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
医薬組成物における粘稠剤の濃度は適宜調整すればよい。例えば、粘稠剤による上記作用の観点から、0.01w/v%以上、3.0w/v%以下とすることができる。当該濃度の下限値については、医薬組成物の拙速な蒸発を十分に抑制するため、0.05w/v%以上が好ましく、0.08w/v%以上がより好ましく、0.1w/v%以上がより更に好ましい。また、当該濃度の上限値については、使用感を確保するため、2.0w/v%以下が好ましく、0.5w/v%以下がより好ましく、0.2w/v%以下がより更に好ましい。
【0036】
「アミノ酸」とは、1分子内にカルボキシ基やスルホン酸基(-SO3H)などの酸性基とアミノ基とを有する化合物であって、20種のいわゆるタンパク質構成アミノ酸に限定されない。アミノ酸は、主に目への栄養分となり、疲れ目の軽減に寄与する。アミノ酸としては、例えば、タウリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、アルギニン、リジン、γ-アミノ酪酸、γ-アミノ吉草酸、コンドロイチン硫酸エステル、およびこれらの塩などのアミノ酸が挙げられる。アミノ酸塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩が挙げられる。アミノ酸は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。アミノ酸としては、タウリンが好ましい。タウリンは栄養成分である他、代謝促進作用も示すといわれている。
【0037】
医薬組成物におけるアミノ酸の濃度は適宜調整すればよい。例えば、栄養補給の観点から、0.01w/v%以上、1.0w/v%以下とすることができる。当該濃度の下限値については、0.03w/v%以上が好ましく、0.05w/v%以上がより好ましい。また、当該濃度の上限値については、0.5w/v%以下が好ましく、0.2w/v%以下がより好ましい。
【0038】
本発明に係る医薬組成物のpHは、生体、特に目に適用可能な範囲に調整される。当該pHとしては、例えば5.0以上、8.5以下とすることができ、5.5以上、8.0以下が好ましい。医薬組成物のpHは、前述した緩衝剤により調整してもよいし、pH調整剤により調整してもよい。当該pHの下限値については、使用感を十分に確保するために、好ましくは6.0以上であり、より好ましくは6.5以上、より更に好ましくは6.7以上である。また、当該のpHの上限値については、ブドウ糖濃度を十分維持するために、好ましくは7.7以下であり、より好ましくは7.5以下であり、より更に好ましくは7.2以下である。
【0039】
pH調整剤は、生体、特に目に適用可能なものであれば特に制限されないが、例えば、塩酸、ホウ酸などの無機酸;酢酸、グルタミン酸、アスパラギン酸などの有機酸;水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基;トリエタノールアミン、モノエタノールアミン等の有機塩基が挙げられる。pH調整剤の種類や配合量は、医薬組成物の調整すべきpHに応じて決定すればよい。
【0040】
「モノテルペン」は、2つのイソプレン単位からなり、C10H16の分子式を有する化合物であり、本発明では主に清涼作用を示す単環式モノテルペンを用いる。モノテルペンとしては、例えば、メントール、カンフル、ボルネオール等のモノテルペンが挙げられる。メントールとしては、l-メントールとdl-メントールのいずれも用い得るが、l-メントールが好ましい。カンフルとボルネオールは、d体とdl体のいずれも用い得るが、d体が好ましい。モノテルペンは、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
医薬組成物におけるモノテルペンの濃度は適宜調整すればよいが、例えば、適度な清涼感の観点から、0.0005w/v%以上、0.1w/v%以下とすることができる。当該濃度の下限値については、0.001w/v%以上が好ましく、0.0015w/v%以上がより好ましく、0.002w/v%以上がより更に好ましい。当該濃度の上限値については、また、0.05w/v%以下が好ましく、0.015w/v%以下がより好ましく、0.01w/v%以下がより更に好ましい。
【0042】
「キレート剤」は、カルシウムイオン等の金属イオンを封鎖し、その不溶金属塩の生成を抑制すること等により、組成物の保存安定性を改善するものである。キレート剤としては、生体、特に目に適用可能であり、且つかかる作用を有するものであれば特に制限されないが、例えば、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸)、アスコルビン酸、クエン酸、およびその塩が挙げられる。エチレンジアミン四酢酸塩の塩としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムやエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムが挙げられる。キレート剤は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
医薬組成物におけるキレート剤の濃度は適宜調整すればよいが、例えば、キレート剤による安定化効果を十分に発揮するために、0.001w/v%以上、0.15w/v%以下とすることができる。濃度が当該範囲内であれば、キレート剤による安定化効果が十分に得られる。当該濃度の下限値については、0.002w/v%以上が好ましく、0.005w/v%以上がより好ましく、0.007w/v%以上がより更に好ましい。当該濃度の上限値については、0.1w/v%以下が好ましく、0.05w/v%以下がより好ましく、0.03w/v%以下がより更に好ましい。
【0044】
本発明に係る医薬組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において特に限定されないが、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩以外の保存剤または防腐剤を添加してもよい。保存剤または防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン塩酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン酢酸塩、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ソルビン酸またはその塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、デヒドロ酢酸またはその塩、塩化亜鉛、塩化ポリドロニウム、チメロサール、ジブチルヒドロキシトルエン、亜塩素酸ナトリウム、ポリヘキサメチレンビグアニド、ホウ酸、ホウ砂などが挙げられる。これらの保存剤または防腐剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
本発明に係る医薬組成物は、常法により製造することができる。例えば、溶媒としての水に、各成分を溶解すればよい。溶媒としての水は、例えば蒸留水、精製水、滅菌水など、不純物、細菌、ウィルス、真菌などが検出限界未満であるか或いは十分に少ない清明なものを用いる。
【0046】
本発明の医薬組成物を収容する容器は、特に制限されず、従来点眼容器として使用されているものであればよく、ガラス製であってもよく、またプラスチック製であってもよい。本発明の医薬組成物を収容する容器として、プラスチック製を使用する場合、該プラスチック容器の構成材質は特に制限されないが、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミドのいずれか1種、または2種以上の混合体が挙げられる。医薬組成物の保存安定性をより確実に確保する観点から、容器本体、即ち医薬組成物を収容する収容部を形成している部材の材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンまたはポリプロピレンが好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0047】
本発明に係る医薬組成物の「保存安定性」とは、水性製剤を所定期間保存した後にもブドウ糖の濃度が維持されており、且つ白濁が抑制されている度合いのことを指す。本発明に係る医薬組成物の「ブドウ糖の濃度が維持されている」とは、水性製剤を所定期間保存した後において、保存前の水性製剤におけるブドウ糖の濃度に比べて、保存後の水性製剤におけるブドウ糖の濃度が、維持または大きく減少していないことを指す。「ブドウ糖の濃度が維持されている」度合いは、ブドウ糖残存率で表すことができる。例えば、本発明に係る医薬組成物を80℃で2週間維持した後において、初期濃度に対するブドウ糖残存率が75%以上であることをいう。当該ブドウ糖残存率としては、80%以上が好ましい。
【0048】
また、本発明に係る医薬組成物の「白濁が抑制されている」とは、水性製剤を所定期間保存した後に、当該医薬組成物における外観性状において、肉眼にて白濁が認められないことを指す。例えば、本発明に係る医薬組成物を80℃で2週間維持した後において、肉眼にて白濁が認められないことをいう。
【0049】
本発明に係る医薬組成物の「保存安定性の改善」とは、水性製剤を所定期間保存した後にブドウ糖の濃度が維持されており、且つ白濁が抑制されていることを示す。例えば、本発明に係る医薬組成物の必須成分である0.0005w/v%以上、0.05w/v%以下のブドウ糖、非イオン界面活性剤、およびアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩のうち、1以上の成分を含まないか、或いはブドウ糖の濃度が当該範囲外である医薬組成物に比べて、80℃で2週間維持した後において、本発明に係る医薬組成物におけるブドウ糖残存率が同等以上であり、白濁の程度が同等以下であり、且つブドウ糖残存率がより高く、および/または、白濁の程度がより低いことをいう。
【0050】
本発明に係る医薬組成物は、涙液を補助するものであり、ソフトコンタクトレンズまたはハードコンタクトレンズを装着しているときの不快感、目の乾き、目の疲れ、目のかすみ等の軽減に有効であり、特にソフトコンタクトレンズを装着しているときの不快感の軽減に有効である。
【0051】
本発明の医薬組成物は、目的に応じて内服或いは外用のいずれの形態でも使用することができる。内服の形態としては、内科用など、外用の形態としては、眼科用、歯科用、耳鼻科用、皮膚科用など、様々な用途の局所投与液剤として提供することができる。特に好ましくは眼科用である。
【0052】
「眼科用の医薬組成物」とは、眼科用途の医薬組成物を意味する。医薬組成物としては、特に溶媒として水を含有する水性液剤を挙げることができる。「水性液剤」とは、溶媒として水を含む液状の医薬組成物を意味する。水性液剤は、溶媒である水に各成分を溶解または分散させるなど、常法に従って調製できる。
【0053】
眼科用の医薬組成物としては、例えば、点眼剤(コンタクトレンズを装用したまま使用可能な点眼剤を含む、また、点眼液、点眼薬ともいう。)、洗眼剤(コンタクトレンズを装用中にも使用することができる洗眼剤を含む、また、洗眼液、洗眼薬ともいう。)、眼軟膏剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤(洗浄液、保存液、殺菌液、消毒液{マルチパーパスソリューションを含む}等)などが挙げられ、好ましくは、点眼剤、コンタクトレンズ装着液、洗眼剤またはコンタクトレンズケア用剤であり、特に好ましくは、点眼剤である。
【0054】
本発明の医薬組成物には、コンタクトレンズを装用したまま使用可能な点眼剤が含まれる。また、本明細書において、コンタクトレンズには、ハードコンタクトレンズ(酸素透過性ハードコンタクトレンズも含む)、ソフトコンタクトレンズ等のあらゆるタイプのコンタクトレンズが包含される。ソフトコンタクトレンズの種類は特に限定されず、使い捨てソフトコンタクトレンズ、定期交換ソフトコンタクトレンズ、従来型のソフトコンタクトレンズ、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ、カラーコンタクトレンズのいずれにも使用できる。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、シリコーンハイドロゲル素材のコンタクトレンズである。
【0055】
本発明の点眼剤の用法・用量は、患者の症状、年齢などにより変動するが、通常、1日あたり1回以上、6回以下、1回あたり1滴以上、3滴以下を点眼すればよい。
【0056】
本発明の医薬組成物に使用される容器は、常法に従って滅菌処理される。滅菌方法は、一般的に用いられる方法であれば特に限定されず、乾熱滅菌、電子線滅菌、ガンマ線滅菌、エチレンガス滅菌、過酸化水素滅菌などが挙げられる。1つの実施形態において、滅菌処理は電子線滅菌である。
【0057】
本発明は、ブドウ糖を含む医薬組成物の保存安定性を改善する方法であって、医薬組成物が0.0005w/v%以上、0.05w/v%以下のブドウ糖を含み、医薬組成物に非イオン界面活性剤およびアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を配合する方法にも関する。
【0058】
本発明の保存安定性を改善する方法において、ブドウ糖を含む医薬組成物は、特に、ブドウ糖の濃度を0.0005w/v%以上、0.05w/v%にすることにより、より本発明の効果を発揮する。
【0059】
上記のブドウ糖を含む医薬組成物の保存安定性の改善方法において、使用するブドウ糖、非イオン界面活性剤、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩、およびその他の任意成分の種類や濃度などについては、前記医薬組成物に関する種類や濃度を単独でまたは組み合わせて採用してもよい。また、医薬組成物のpHや容器などについても、同様である。
【0060】
本願は、2019年11月29日に出願された日本国特許出願第2019-217421号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年11月29日に出願された日本国特許出願第2019-217421号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0062】
試験例1: 保存安定性試験 - 外観評価
表1に示す組成に従って、精製水に各成分を溶解した。なお、表1中の数値の単位はw/v%である。調製した各水性液剤(5mL)をガラスアンプルに充填した後、80℃で2週間保存した。
保存後、第十七改定日本薬局方通則の性状の試験方法に従い、外観を評価した。具体的には、各水性液剤が充填されたガラスアンプルを黒色背景の前に置き、無色であり且つ澄名であるか、或いは白色の不溶成分が析出しており濁りが生じているか、観察した。評価結果を表1に示す。
【0063】
試験例2: 保存安定性試験 - ブドウ糖残存率測定
第十七改正日本薬局方一般試験法紫外可視吸光度測定法を参照し、グルコース定量キット(「グルコースCIIテストワコー」富士フィルム和光純薬工業社製)を用い、80℃で2週間保存した後のブドウ糖残存率を求めた。具体的には、試験例1で調製した水性液剤のうち、ブドウ糖濃度が0.005w/v%の水性液剤はそのまま、ブドウ糖濃度が0.1w/v%の水性液剤はブドウ糖濃度を0.005w/v%に希釈したもの(2mL)に発色試液(3mL)を混合し、37℃で5分間加温し、水で同様に操作したものを対照として、505nmにおける吸光度を測定した。また、別途、ブドウ糖(50mg)を水に溶解して総量を100mLとし、当該溶液(2mL)に水を加えて総量を20mLとすることによりブドウ糖標準液を調製し、ブドウ糖濃度が事前に明らかなブドウ糖標準液でも同様に吸光度を測定した。得られた測定結果より、下記式に従ってブドウ糖含量(%)とブドウ糖残存率(%)を算出した。結果を表1に示す。
ブドウ糖含量(%)=[標準品秤取量(mg)×試料吸光度/標準液吸光度]×2
ブドウ糖残存率(%)=[保存後ブドウ糖含量/保存前ブドウ糖含量]×100
【0064】
【0065】
※使用製品
ブドウ糖: 販売名「ブドウ糖」サンエイ糖化社製
アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩: 販売名「レボンLAG-40」三洋化成工業社製
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60: 販売名「HCO-60(医薬用)」日光ケミカルズ社製
【0066】
表1に示される結果の通り、0.1w/v%のブドウ糖水溶液では、保存後でも外観とブドウ糖残存率にそれ程の変化は認められなかったが、0.005w/v%という低濃度のブドウ糖水溶液では、ブドウ糖の残存率が明確に低下した。ブドウ糖がいかなる化合物に変化するのかは明らかにされていないが、かかる残存率の低下は品質の明確な低下であるといえる。
しかし、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を配合すると、低濃度ブドウ糖の残存率の低下は抑制された。しかしその代わり、経時的な白濁が生じた。
そこで、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60に加えてアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を配合することにより、低濃度ブドウ糖の残存率の低下が抑制されるのみでなく、白濁も抑えられ、保存安定性が顕著に優れた水性液剤が得られることが明らかにされた。
【0067】
試験例3: 保存安定性試験 - 外観評価とブドウ糖残存率測定
表2に示す組成に従って、精製水に各成分を溶解し、水性液剤を調製した。なお、表2中の数値の単位はw/v%である。
試験例1と試験例2と同様の条件で、実施例2の各水性液剤の保存後における外観を評価し、またブドウ糖残存率を測定した。結果を表2に示す。
【0068】
【0069】
※使用製品
ポリソルベート80: 販売名「ポリソルベート80(SS)」日油社製
ステアリン酸ポリオキシル40: 販売名「MYS-40MV」日本サーファクタント工業社製
【0070】
表2に示される結果の通り、0.005w/v%のブドウ糖水溶液に非イオン界面活性剤であるポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノ長鎖脂肪酸エステル)を配合することにより、ブドウ糖残存率の低下は抑制されたが、保存条件によっては白濁が生じた(比較例4)。非イオン界面活性剤をモノ長鎖脂肪酸ポリエチレングリコールであるステアリン酸ポリオキシル40に変更しても同様であった(比較例5)。
それに対して、非イオン界面活性剤に加えてアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を配合することにより、低濃度ブドウ糖の残存率の低下が抑制されるのみでなく、白濁も抑えられ、保存安定性が顕著に優れた水性液剤が得られることが証明された(実施例2および実施例3)。
【0071】
製剤例
本発明に係る水性液剤の具体的態様として、以下に、製剤例を挙げる。表中の数値の単位は、pH以外、w/v%である。当該製剤例の水性液剤においても、非イオン界面活性剤とアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を配合することにより、低濃度ブドウ糖の残存率の低下が抑制されるのみでなく、白濁も抑えられ、顕著に優れる保存安定性が認められる。
【0072】
【0073】
【0074】
試験例4 - ブドウ糖濃度の検討
表5に示す濃度のブドウ糖水溶液を調製し、試験例1と同様にして、80℃で2週間保存した後のブドウ糖残存率を求めた。結果を表5に示す。
【0075】
【0076】
表5に示される結果の通り、0.1質量%と濃度が比較的高いブドウ糖水溶液におけるブドウ糖の安定性は比較的高いといえるが、ブドウ糖濃度が低いほど安定性が低い傾向が認められ、少なくとも0.0005質量%以上、0.01質量%以下の範囲ではブドウ糖の安定性は十分でないことが分かった。
【0077】
試験例5 - 非イオン界面活性剤濃度の検討
表6に示す濃度のブドウ糖-非イオン界面活性剤水溶液を調製し、試験例1と同様にして、80℃で2週間保存した後のブドウ糖残存率を求め、外観を評価した。非イオン界面活性剤としては、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(40E.O.)(「NIKKOL MYS-40」日光ケミカルズ社製)を用いた。結果を表6に示す。
【0078】
【0079】
表6に示される結果の通り、0.005質量%以上、0.05質量%以下の非イオン界面活性剤の配合により低濃度ブドウ糖の安定性は改善されるが、混合液が白濁することが認められた。
【0080】
試験例6 - アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩濃度の検討
表7に示す組成の混合液を調製し、試験例1と同様にして、80℃で2週間保存した後のブドウ糖残存率を求め、外観を評価した。結果を表7に示す。
【0081】
【0082】
表7に示される結果の通り、非イオン界面活性剤の配合により低濃度ブドウ糖が安定化された混合液の白濁は、過剰のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩を配合しても改善されない一方で、0.001質量%以上、0.005質量%以下のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の配合により解消されることが実証された。