(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】積層板の製造方法、プリント配線板の製造方法及び積層板製造装置
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20230127BHJP
B29C 70/50 20060101ALI20230127BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230127BHJP
B32B 37/06 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
H05K3/46 B
H05K3/46 Y
B29C70/50
B32B15/08 J
B32B37/06
(21)【出願番号】P 2018180703
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 一輝
(72)【発明者】
【氏名】岸野 光寿
(72)【発明者】
【氏名】石川 陽介
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0000675(US,A1)
【文献】特開2008-239826(JP,A)
【文献】特公昭63-54544(JP,B2)
【文献】特公平4-24373(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
H05K 1/00-3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のコア材を移動させながら前記コア材に樹脂シート及び金属箔を重ねて積層物を作製し、前記積層物を移動させながら
ダブルベルトプレス方式で加熱することを含み、
前記コア材を、張力をかけながら移動させ、
ダブルベルトプレス方式で加熱される直前の前記コア材にかかる張力を調整
する、
積層板の製造方法。
【請求項2】
前記コア材は、絶縁層と、前記絶縁層に重なる導体配線とを備える、
請求項1に記載の積層板の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂シートはプリプレグである、
請求項1又は2に記載の積層板の製造方法。
【請求項4】
前記コア材にロールを接触させることで、前記コア材にかかる張力を調整する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の積層板の製造方法。
【請求項5】
前記ロールは、回転駆動する、
請求項4に記載の積層板の製造方法。
【請求項6】
前記ロールは、前記ロールにおける前記コア材と接する部位が、前記コア材の移動する向きと同じ向きに移動するように、回転駆動する、
請求項5に記載の積層板の製造方法。
【請求項7】
前記ロールの周速度を、前記積層物がダブルベルトプレス方式で加熱される際のドラムの周速度に対して±5%以下とする、
請求項6に記載の積層板の製造方法。
【請求項8】
前記コア材を、前記ロールである第一ロールと、第二ロールとで挟みながら、前記第一ロールと前記第二ロールとの間を通過させることで、前記コア材にかかる張力を調整する、
請求項4から
7のいずれか一項に記載の積層板の製造方法。
【請求項9】
前記第二ロールは、回転駆動する、
請求項
8に記載の積層板の製造方法。
【請求項10】
前記第二ロールは、前記第二ロールにおける前記コア材と接する部位が、前記コア材の移動する向きと同じ向きに移動するように、回転駆動する、
請求項
9に記載の積層板の製造方法。
【請求項11】
前記金属箔を予熱してから、前記コア材に前記樹脂シート及び前記金属箔をこの順に重ねて前記積層物を作製する、
請求項1から
10のいずれか一項に記載の積層板の製造方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の積層板の製造方法で積層板を作製し、
前記積層板の最外層に導体配線を設けることを含む、
プリント配線板の製造方法。
【請求項13】
シート状のコア材を、前記コア材に張力をかけながら移動させる搬送機構と、
前記コア材と樹脂シートと金属箔とが供給され、前記コア材と前記樹脂シートと前記金属箔とをこの順に重ねた積層物を移動させながら
ダブルベルトプレス方式で加熱する加熱装置と、
前記加熱装置に供給される
直前の前記コア材にかかる張力を調整する張力調整機とを備える、
積層板製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層板の製造方法、プリント配線板の製造方法及び積層板製造装置に関し、詳しくは、シート状のコア材、プレプレグ及び金属箔から積層板を製造する製造方法、この積層板の製造方法を含むプリント配線板の製造方法、及びこの積層板の製造方法を実現できる積層板製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、長尺な介在シートと、長尺な第一金属箔又は長尺な第一コア材と、長尺なプリプレグと、長尺な第二金属箔又は長尺な第二コア材とを連続的に搬送しながら、介在シートの両側にそれぞれ第一金属箔又は第一コア材と、プリプレグと、第二金属箔又は第二コア材とをこの順に重ねた状態で熱圧成形することによって、介在シートの両側に金属張積層板を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の開示のように、コア材を移動させながら、プリプレグと金属箔とを重ねて加熱する場合は、コア材を位置ずれ無く円滑に移動させるなどのため、張力をかけながらコア材を移動させる。
【0005】
コア材内の張力を均一に維持しながらコア材を移動させることは難しく、特にコア材の移動距離が長くなると張力を均一にすることは非常に難しくなる。コア材における張力に不均衡が生じていると、コア材が変形してしまうことがある。コア材が変形すると、積層板中のコア材も変形してしまうため、積層板の不良を招いてしまう。特にコア材が導体配線を備える場合に、コア材が変形すると、コア材中の導体配線が歪んでしまい、そのため積層板内の、コア材に由来する導体配線が歪んでしまう。
【0006】
本発明の課題は、シート状のコア材を移動させながらコア材に樹脂シート及び金属箔を重ねて積層物を作製し、この積層物を移動させながら加熱するにあたり、コア材に変形が生じにくい積層板の製造方法、この積層板の製造方法を含むプリント配線板の製造方法、及びこの積層板の製造方法を実現できる積層板製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる積層板の製造方法は、シート状のコア材を移動させながら前記コア材に樹脂シート及び金属箔を重ねて積層物を作製し、前記積層物を移動させながら加熱することを含む。前記コア材を、張力をかけながら移動させ、前記コア材にかかる張力を調整してから、前記積層物を作製する。
【0008】
本発明の一態様にかかるプリント配線板の製造方法は、前記積層板の製造方法で積層板を作製し、前記積層板の最外層に導体配線を設けることを含む。
【0009】
本発明の一態様にかかる積層板製造装置は、シート状のコア材を、前記コア材に張力をかけながら移動させる搬送機構と、前記コア材と樹脂シートと金属箔とが供給され、前記コア材と前記樹脂シートと前記金属箔とをこの順に重ねた積層物を移動させながら加熱する加熱装置と、前記加熱装置に供給される前の前記コア材にかかる張力を調整する張力調整機とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、シート状のコア材を移動させながらコア材に樹脂シート及び金属箔を重ねて積層物を作製し、この積層物を移動させながら加熱するにあたり、コア材に、コア材にかけられる張力に起因する変形が生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態における積層板製造装置を示す概略図である。
【
図2】
図2Aは本発明の一実施形態におけるコア材の一例を示す断面図であり、
図2Bは本発明の一実施形態における積層板の一例を示す断面図であり、
図2Cは本発明の一実施形態におけるプリント配線板の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、コア材に生じる変形の様子を示す概略図である。
【
図4】
図4Aは同上の積層板製造装置における張力調整機を示す斜視図である。
図4Bは、同上の積層板製造装置における張力調整機の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態に係る積層板1の製造方法は、シート状のコア材3を移動させながらコア材3に樹脂シート4及び金属箔5を重ねて積層物2を作製し、積層物2を移動させながら加熱することを含む。この製造方法においては、コア材3を、張力をかけながら移動させ、コア材3にかかる張力を調整してから、積層物2を作製する(
図1参照)。すなわち、コア材3にかかる張力が調整された状態で積層物2を作製する。
【0014】
このため、コア材3にかけられる張力に起因する、積層物2中のコア材3の変形が生じにくくなり、積層板1中のコア材3にも変形が生じにくくなる。
【0015】
本実施形態について、更に詳しく説明する。
【0016】
コア材3、樹脂シート4、及び金属箔5について説明する。
【0017】
コア材3は、長尺なシート状の部材であればよい。コア材3は、例えば絶縁層31と、絶縁層31に重なる導体配線32とを備える。コア材3は複数の導体配線を備えてもよい。
図2Aに示すコア材3の一例では、コア材3は、絶縁層31と、絶縁層31の一方の面に重なる導体配線32と、絶縁層の他方の面に重なる導体配線33とを備えている。なお、コア材3は、絶縁層31と、絶縁層31の一方の面に重なる導体配線と、他方の面に重なる金属箔とを備えてもよい。コア材3は、絶縁層と、絶縁層の一方の面に重なる導体配線とのみを備えてもよい。コア材3は、複数の絶縁層を備えてもよい。例えばコア材3は二つの絶縁層と、二つの絶縁層の間にある導体配線とを備えてもよい。コア材3は、複数の絶縁層と複数の導体配線とを備えてもよい。例えばコア材3は複数の絶縁層と複数の導体配線とを備え、複数の絶縁層と複数の導体配線とが交互に並んで積層していてもよい。
【0018】
コア材3は適宜の方法で作製される。例えば長尺な樹脂シートに長尺な金属箔を重ねて加熱することで、長尺な金属張積層板を作製し、更に金属張積層板にアディティブ法、サブトラクティブ法などの方法で導体配線32、33を設けることで、コア材3が得られる。
【0019】
樹脂シート4は、例えば熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とのうち少なくとも一方を含むシートである。
【0020】
樹脂シート4は、例えばプリプレグである。樹脂シート4がプリプレグである場合、樹脂シート4は、例えば長尺なシート状の基材と、基材に含浸している熱硬化性樹脂組成物の乾燥物又は半硬化物とを備える。基材は、例えば有機織布、有機不織布、無機織布又は無機不織布であり、より具体的には例えばガラスクロス又はガラスペーパーである。熱硬化性樹脂組成物は熱硬化性樹脂を含む。熱硬化性樹脂は例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、メラミン樹脂及びイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含む。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含む場合、エポキシ樹脂は、例えば多官能エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂及びビフェニル型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含む。熱硬化性樹脂組成物は、フィラー、硬化剤及び硬化促進剤からなる群から選択される少なくとも一種の成分を更に含有してもよい。フィラーは、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、タルク及びアルミナからなる群から選択される少なくとも一種を含有する。硬化剤は、例えば、フェノール系硬化剤及びジシアンジアミド硬化剤のうち少なくとも一方を含有する。硬化促進剤は、例えば、イミダゾール類、フェノール化合物、アミン類、及び有機ホスフィン類からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0021】
樹脂シート4がプリプレグである場合、樹脂シート4は適宜の方法で作製される。例えば基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させてから、熱硬化性樹脂組成物を加熱することで乾燥させ又は半硬化させることで、樹脂シート4が得られる。
【0022】
樹脂シート4は、熱可塑性樹脂のシートでもよい。この場合の熱可塑性樹脂は、例えばポリイミド、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートからなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含有する。
【0023】
金属箔5は、いかなる金属の箔でもよい。金属箔5は、例えば銅箔又はニッケル箔である。金属箔5の厚みは、例えば5μm以上70μm以下である。
【0024】
積層物2において、コア材3、樹脂シート4及び金属箔5は、この順に重ねられている。積層物2は、コア材3、樹脂シート4及び金属箔5以外の部材を含んでもよい。本実施形態では、積層物2において、コア材3の一つの面上に樹脂シート4である第一樹脂シート41及び金属箔5である第一金属箔51がこの順に重なっている。さらに、コア材3の反対側の面上には、第一樹脂シート41とは異なる第二樹脂シート42及び第一金属箔51とは異なる第二金属箔52が、この順に重なっている。すなわち、本実施形態では、積層物2は、第一金属箔51、第一樹脂シート41、コア材3、第二樹脂シート42及び第二金属箔52を備え、これらがこの順番に積層している。
【0025】
なお、積層物2は、例えば第一金属箔51、第一樹脂シート41及びコア材3のみを含んでもよいし、上記以外の部材を更に含んでもよい。
【0026】
積層板1は、積層物2の構成に応じた構造を有する。すなわち、積層板1は、コア材3と、コア材3上に重なる樹脂シート4から作製された絶縁層9と、絶縁層9に重なる金属箔5とを備える。本実施形態のように積層物2が第一金属箔51、第一樹脂シート41、コア材3、第二樹脂シート42及び第二金属箔52を備える場合、積層板1は、
図2Bに示すように、第一金属箔51、第一樹脂シート41から作製された第一絶縁層91、コア材3、第二樹脂シート42から作製された第二絶縁層92、及び第二金属箔52を備え、これらがこの順番に積層している。コア材3が絶縁層31と導体配線32、33を備える場合、積層板1はコア材3の導体配線32、33に由来する内層の導体配線(以下、内層配線321、331という)を備えることができる。
【0027】
本実施形態では、長尺な二つの保護シート12、13が用いられる。保護シート12、13は、例えば金属からなる表面を有するシートである。保護シート12、13は、例えば金属箔である。保護シート12、13は、金属製の二つの表層と、二つの表層の間にある内層とを備えてもよい。内層は、例えば表層とは異なる種類の金属製である。内層は、非金属製であってもよく、例えば内層はポリイミドフィルムでもよい。
【0028】
図1に積層板製造装置(以下、製造装置という)の一例を示す。製造装置は、搬送機構と、加熱装置7と、張力調整機8とを備える。搬送機構は、シート状のコア材3を、このコア材3に張力をかけながら移動させる。加熱装置7は、コア材3と樹脂シート4と金属箔5とが供給され、コア材3と樹脂シート4と金属箔5とをこの順に重ねた積層物2を移動させながら加熱する。張力調整機8は、加熱装置7へ供給される前のコア材3にかかる張力を調整する。
【0029】
製造装置の、より具体的な構成について説明する。
【0030】
製造装置は、コア材3を繰り出す繰出機111、第一樹脂シート41を繰り出す繰出機112、第二樹脂シート42を繰り出す繰出機113、第一金属箔51を繰り出す繰出機114、第二金属箔52を繰り出す繰出機115、及び二つの保護シート12、13をそれぞれ繰り出す二つの繰出機116、117を備える。製造装置は、加熱装置7も備える。製造装置は、積層板1を巻き取る巻取機118も備える。コア材3の繰出機111と巻取機118が、搬送機構を構成する。
【0031】
繰出機111は、コア材3をコイル状に巻かれた状態で保持し、かつコア材3を繰り出して加熱装置7へ向けて送る。繰出機112は、第一樹脂シート41をコイル状に巻かれた状態で保持し、かつ第一樹脂シート41を繰り出して加熱装置7へ送る。繰出機113は、第二樹脂シート42をコイル状に巻かれた状態で保持し、かつ第二樹脂シート42を繰り出して加熱装置7へ送る。繰出機114は、第一金属箔51をコイル状に巻かれた状態で保持し、かつ第一金属箔51を繰り出して加熱装置7へ送る。繰出機115は、第二金属箔52をコイル状に巻かれた状態で保持し、かつ第二金属箔52を繰り出して加熱装置7へ送る。二つの繰出機116、117は、それぞれ保護シート12、13をコイル状に巻かれた状態で保持し、かつ保護シート12、13を繰り出して加熱装置7へ送る。
【0032】
製造装置は、コア材3、第一樹脂シート41、第二樹脂シート42、第一金属箔51、第二金属箔52及び保護シートをそれぞれガイドするガイドロール119を備える。ガイドロール119は、第一金属箔51、第一樹脂シート41、コア材3、第二樹脂シート42及び第二金属箔52が、前記の順に重なって積層物2を構成した状態で加熱装置7へ送られるように、ガイドする。また、ガイドロール119は、二つの保護シート12、13を、それぞれ積層物2の第一金属箔51及び第二金属箔52と重なった状態で加熱装置7へ送られるようにガイドする。
【0033】
加熱装置7は、積層物2を移動させながら加熱できるのであれば、いかなる構造を有してもよく、いかなる方式で加熱する装置でもよい。
【0034】
加熱装置7は、積層物2を移動させながら熱プレスする熱プレス装置であることが好ましい。熱プレス装置は、例えば積層物をダブルベルトプレス方式で加熱する装置(ダブルベルトプレス装置)又は熱ロールプレス方式で加熱する装置(熱ロールプレス装置)である。熱ロールプレス装置は、加熱された二つのロールの間に積層物2を通過させることで積層物2を熱プレスする装置である。ダブルベルトプレス装置は、加熱された二つのエンドレスベルト71の間に積層物2を通過させることで、エンドレスベルト71で積層物2を熱プレスする装置である。
図1に示す加熱装置7は、ダブルベルトプレス装置である。
【0035】
加熱装置7がダブルベルトプレス装置であること、すなわち積層物2をダブルベルトプレス方式で加熱することが、好ましい。この場合、積層物2への押圧力の付与及び加熱を、熱ロールプレスに比べて段階的に行うことが可能である。そのため、コア材3、樹脂シート4及び金属箔5のように異なる線膨張係数の材料で構成される積層物2を加圧及び加熱によって積層板1に変化させる工程において、硬化処理前に各材料を熱膨張させるステップと、熱硬化等とのステップとに分けることや、さらに詳細に加圧及び加熱の工程を分けることが可能となるため、当該加熱によって生じる各材料間のズレを低減できる。
【0036】
ダブルベルトプレス装置である加熱装置7は、向かい合う二つのエンドレスベルト71、71と、各エンドレスベルト71、71に設けられた熱圧装置72とを備える。エンドレスベルト71、71は、例えばステンレスから作製される。エンドレスベルト71、71の各々は、二つのドラム73、73の間に掛け渡されており、ドラム73、73が回転することにより周回移動する。二つのエンドレスベルト71、71の間を、積層物2が通過することができる。積層物2がこのエンドレスベルト71、71の間を通過する間、二つのエンドレスベルト71、71は、積層物2の一つの面とその反対側の面にそれぞれ面接触しながら、積層物2をプレスできる。エンドレスベルト71で囲まれた内側には熱圧装置72が設けられており、この熱圧装置72が、エンドレスベルト71を介して積層物2をプレスしながら加熱できる。熱圧装置72は、例えば加熱された液体媒体の液圧によってエンドレスベルト71を介して積層物2を熱プレスするように構成された液圧プレートである。なお、二つのドラム73、73の間に複数の加圧ローラを設置し、このドラム73と加圧ローラとで、熱圧装置72を構成してもよい。この場合、加圧ローラとドラム73とを誘電加熱等により加熱することでエンドレスベルト71を加熱することで積層物2を加熱し、かつ加圧ローラによってエンドレスベルト71を介して積層物2をプレスできる。
【0037】
第一金属箔51は、繰出機114と加熱装置7との間を移動して加熱装置7へ供給されるにあたり、一方のエンドレスベルト71に沿って移動してから二つのエンドレスベルト71、71の間に供給されるように、ガイドロール119にガイドされる。このとき、保護シート12は、エンドレスベルト71と第一金属箔51との間に供給されるように、ガイドロール119によってガイドされる。このため、第一金属箔51は、積層物2が構成される前にエンドレスベルト71によって予熱される。第二金属箔52も、繰出機115と加熱装置7との間を移動して加熱装置7へ供給されるにあたり、もう一方のエンドレスベルト71に沿って移動してから二つのエンドレスベルト71、71の間に供給されるように、ガイドロール119にガイドされる。このとき、保護シート13は、エンドレスベルト71と第二金属箔52との間に供給されるように、ガイドロール119によってガイドされる。このため、第二金属箔52も、積層物2が構成される前にエンドレスベルト71によって予熱される。
【0038】
巻取機118は、加熱装置7に対して、繰出機111~117とは反対側の位置にある。巻取機118は、加熱装置7から送られてくる積層物2を、コイル状に巻き取る。加熱装置7と巻取機118との間には、積層物2の移動をガイドするガイドロール119がある。製造装置は、加熱装置7から送られてくる保護シート12、13をそれぞれ巻き取る巻取機120、121も備える。
【0039】
繰出機111と加熱装置7との間のコア材3の径路に、張力調整機8がある。張力調整機8は、加熱装置7に供給される前のコア材3にかかる張力を調整する。すなわち、張力調整機8は、張力調整機8と加熱装置7との間におけるコア材3の張力を調整する。コア材3にかかる張力とは、コア材3の移動する向きに沿った方向の張力である。コア材3にかかる張力を調整するとは、コア材3にかかる張力の値を部分的に又は全体的に変化させることである。すなわち、張力調整機8によって調整される前のコア材3にかかる張力の値に対して、張力調整機8によって調整された後のコア材3にかかる張力の値は、部分的に又は全体的に変化している。張力調整機8は、張力によって生じるコア材3の変形の程度が小さくなるように張力を調整することが好ましい。コア材3にかかる、コア材3の移動する向きの張力とコア材3の移動する向きとは反対向きの張力とは、全体としてはほぼ釣り合っている。しかし、コア材3内には、部分的には、コア材3の移動する向きの張力(以下順向張力という)がより強い箇所と、反対向きの張力(以下、逆向張力という)がより強い箇所とが生じる。この張力の不均衡によって、コア材3が変形しうる。
【0040】
図3は、張力の不均衡によりコア材3が変形する様子の一例を示す。図中の符号35はコア材3に形成されたスルーホールであり、符号36はコア材3が変形していない場合のスルーホール35の位置である。符号37はコア材3における導体配線の位置等を確認するための基準孔である。矢印は、製造装置におけるコア材3の移動する向きを示す。このコア材3においては、中央部が順向張力がより強い箇所であり、二つの外側部が中央部に比べて逆向張力がより強い箇所である。外側部とは、コア材3における、コア材3の移動する向きと、コア材3の厚み方向との両方と直交する方向の側部のことである。このコア材3は、張力の不均衡によって、中央部が二つの外側部に対して、コア材3の移動する向きにシフトするように、変形している。コア材3が変形したまま積層板1が製造されると、コア材3に重なる樹脂シート4が硬化するため、積層板1内でコア材3の変形が維持されてしまう。
【0041】
張力調整機8は、このような張力の不均衡を低減するように張力を調整することが好ましい。具体的には、張力調整機8は、順向張力がより強い箇所における順向張力の値を小さくする動作と、逆向張力がより強い箇所における逆向張力の値を小さくする動作と、順向張力がより強い箇所における逆向張力の値を大きくする動作と、逆向張力がより強い箇所における順向張力の値を大きくする動作とのうち、少なくとも一つの動作を行うことが好ましい。
【0042】
そのため、例えば張力調整機8は、コア材3にかかる張力の値が全体的に小さくなるように、張力を調整する。この場合、順向張力がより強い箇所における順向張力の値と、逆向張力がより強い箇所における逆向張力の値とが、両方とも小さくなる。
【0043】
張力調整機8は、例えばコア材3に接触するロール6を備える。すなわち、張力調整機8は、例えばコア材3にロール6を接触させることで、コア材3にかかる張力を調整する。この場合、ロール6からコア材3へコア材3の移動を阻害する負荷をかけることでロール6からエンドレスベルト71までを移動するコア材3にかかる張力を増大させることができ、またロール6でコア材3の移動を促進して、ロール6からエンドレスベルト71までを移動するコア材3にかかる張力を低減することもできる。このため、ロール6でコア材3にかかる張力を調整できる。ロール6が回転駆動することも好ましい。ロール6が回転駆動すると、ロール6の回転によって、コア材3の移動を効果的に阻害し、又は促進することができる。
【0044】
本実施形態では、張力調整機8は、
図1及び
図4Aに示すように、ロール6である第一ロール61と、第一ロール61とは異なる第二ロール62とを備える。張力調整機8は、コア材3を、第一ロール61と第二ロール62とで挟みながら、第一ロール61と第二ロール62との間を通過させることで、コア材3にかかる張力を調整する。この場合、コア材3を第一ロール61と第二ロール62とで挟むことで、張力調整機8に供給される前にコア材3にかけられていた張力をキャンセルできる。第一ロール61は、第一ロール61におけるコア材3と接する部位が、コア材3の移動する向きと同じ向きに移動するように、回転駆動する。第二ロール62も回転駆動することが好ましい。第二ロール62は、第二ロール62におけるコア材3と接する部位が、コア材3の移動する向きと同じ向きに移動するように、回転駆動することが好ましい。第一ロール61及び第二ロール62の回転速度(周速度)は、ドラム73の周速度と同じであることが好ましい。本実施形態においては、ドラム73の周速度に対して、第一ロール61及び第二ロール62の周速度が±5%以下、好ましくは±3%以下、より好ましくは±1%以下、さらに好ましくは±0.5%以下である。このため、張力調整機8は、第一ロール61及び第二ロール62でコア材3の移動を促進してコア材3にかかる張力を低減できる。
【0045】
ロール6は、コア材3に部分的に接してもよい。すなわち、本実施形態ではロール6はコア材3の全体に接するが、ロール6はコア材3に部分的に接してもよい。例えばロール6が、コア材3における逆向張力がより強い箇所に接してもよい。この場合、ロール6が回転駆動して逆向張力がより強い箇所の移動が促進されることで、この箇所の逆向張力を小さくでき、これにより張力を調整できる。また、ロール6が、コア材3における順向張力がより強い箇所に接して抵抗を与える等することで、コア材3の順向張力が強い箇所の移動が抑制されることで、この箇所の順向張力を小さくでき、これにより張力を調整することもできる。
【0046】
図4Bは、張力調整機8の変形例を示す。この張力調整機8における第一ロール61及び第二ロール62は、コア材3における二つの外側部が逆向張力がより強い箇所である場合に使用できる。第一ロール61及び第二ロール62の各々は、二つの分体ロール63、63に分割されており、二つの分体ロール63、63の間には間隔があいている。この場合、第一ロール61の二つの分体ロール63、63がそれぞれコア材3における二つの外側部に接し、かつ第二ロール62の二つの分体ロール63、63もそれぞれコア材3における二つの外側部に接した状態で、第一ロール61及び第二ロール62が回転駆動する。そうすると、外側部の移動が促進されることで、外側部の逆向張力を小さくできる。
【0047】
張力調整機8の構成は上記に限られない。例えばロール6がコア材3に部分的に接する場合、ロール6が、コア材3における順向張力がより強い箇所に接して、この箇所の逆向張力の値を大きくしてもよい。第一ロール61及び第二ロール62がコア材3に部分的に接する場合、第一ロール61及び第二ロール62が、コア材3における順向張力がより強い箇所に接し、この箇所の逆向張力の値を大きくしてもよい。そのためには、例えば第一ロール61及び第二ロール62は、コア材3と接する部位が、コア材3の移動する向きとは逆向きに移動するように、回転駆動することで、第一ロール61及び第二ロール62と接する箇所の移動を阻害してもよい。また、第一ロール61及び第二ロール62は、回転駆動することなく、抵抗トルクによって第一ロール61及び第二ロール62と接する箇所の移動を阻害してもよい。
【0048】
本実施形態における製造装置を用いる積層板1の製造方法について説明する。まず、繰出機111~117が、それぞれコア材3、第一樹脂シート41、第二樹脂シート42、第一金属箔51、第二金属箔52、及び保護シート12、13を繰り出す。
【0049】
上記のとおり繰出機111及び巻取機118は搬送機構を構成し、コア材3が繰出機111から繰り出され、かつ積層板1が巻取機118によって巻き取られることで、コア材3は繰出機111から加熱装置7へ移動する。移動中のコア材3には、繰出機111と巻取機118とによって張力がかけられている。これにより、コア材3には移動中に位置ズレが生じにくい。コア材3は、加熱装置7に到達する前に張力調整機8を通過する。これにより、上記で説明したように、コア材3の張力が調整される。
【0050】
コア材3の張力が調整された後、コア材3は加熱装置7へ供給され、第一金属箔51、第一樹脂シート41、第二樹脂シート42、及び第二金属箔52も加熱装置7へ供給される。第一金属箔51、第一樹脂シート41、コア材3、第二樹脂シート42、及び第二金属箔52は、この順に重なって積層物2を構成した状態で加熱装置7へ供給される。これにより、コア材3にかかる張力を調整してから、積層物2を作製し、この積層物2を加熱装置7で加熱できる。なお、上記で説明したとおり、第一金属箔51は、積層物2が構成される前にエンドレスベルト71によって予熱され、第二金属箔52も、積層物2が構成される前にエンドレスベルト71によって予熱される。すなわち、本実施形態では、金属箔5を予熱してから、コア材3に樹脂シート4及び金属箔5をこの順に重ねて積層物2を作製する。そのため、金属箔5を予熱することによって、コア材3及び樹脂シート4に比べて線膨張係数の大きい金属箔5を予め膨張させることができ、積層物2として加熱装置7に送り込まれた後の、各材料間の膨張の差を小さくすることができるため、当該加熱装置7による加熱によって生じる各材料間のズレを低減できる。なお、金属箔5を予熱する方法は、エンドレスベルト71を利用する方法には限らず、加熱装置7における加熱方式などに応じ、適宜の方法で予熱すればよい。
【0051】
積層物2の第一金属箔51及び第二金属箔52には、それぞれ保護シート12、13が重ねられる。このため、積層物2は保護シート12、13で保護された状態で加熱装置7へ供給される。
【0052】
加熱装置7は、積層物2を移動させながら加熱する。この場合の加熱温度及び加熱時間は、樹脂シート4中の組成などの条件に応じて適宜設定される。積層物2が加熱されると、第一樹脂シート41から第一絶縁層91が作製され、第二樹脂シート42から第二絶縁層92が作製される。すなわち、第一樹脂シート41及び第二樹脂シート42が熱硬化性樹脂を含む場合、例えば第一樹脂シート41及び第二樹脂シート42がプリプレグである場合は、第一樹脂シート41の硬化物である第一絶縁層91と、第二樹脂シート42の硬化物である第二絶縁層92が作製される。第一樹脂シート41及び第二樹脂シート42が熱可塑性樹脂を含む場合、例えば第一樹脂シート41及び第二樹脂シート42がポリイミドフィルムである場合は、第一樹脂シート41及び第二樹脂シート42が軟化してから硬化(固化)することで、第一絶縁層91及び第二絶縁層92が作製される。これにより、第一金属箔51、第一絶縁層91、コア材3、第二絶縁層92、及び第二金属箔52を備え、これらがこの順番に積層している積層板1が、製造される。コア材3が絶縁層31と導体配線32、33を備える場合、積層板1はコア材3の導体配線32、33からなる内層の導体配線(以下、内層配線321、331という)を備えることができる。
【0053】
このように製造された長尺な積層板1は、巻取機118によってコイル状に巻き取られる。二つの保護シート12、13は、それぞれ積層板1から引き剥がされて、巻取機120、121で巻き取られる。
【0054】
積層板1からプリント配線板10を製造する方法について説明する。
【0055】
プリント配線板10は、例えばコア材3と、コア材3に重なる絶縁層9と、絶縁層9に重なる導体配線である外層配線511とを備える。
図2Cに示すプリント配線板10は、外層配線511、絶縁層9である第一絶縁層91、コア材3、第二絶縁層92及び外層配線521を備え、これらがこの順番に積層している。
【0056】
上記の製造方法で作製した積層板1の最外層に導体配線である外層配線511を設けることで、プリント配線板10を製造することができる。
【0057】
より詳しくは、例えばまず上記の製造方法で作製した長尺な積層板1を切断することで、より小さい積層板1(以下、個片板という)を作製する。この個片板の最外層に、アディティブ法、サブトラクティブ法などの方法で外層配線511、521を設けることで、プリント配線板10を製造できる。また、上記の製造方法で作製した長尺な積層板1を切断せずに、長尺な積層板1の最外層に、アディティブ法、サブトラクティブ法などの方法で外層配線511、521を設けてから、積層板1を切断することで、プリント配線板10を製造してもよい。
【0058】
プリント配線板10に更に絶縁層及び導体配線を追加して、更に多層のプリント配線板10を製造してもよい。
【0059】
本実施形態では、上記のとおり積層物2を作製する前にコア材3にかかる張力を調整しているため、積層物2中においてはコア材3に変形が生じにくい。このため、積層物2を加熱することで得られる積層板1中においてもコア材3に変形が生じにくい。また、積層板1がコア材3に由来する内層配線321、331を備える場合には、内層配線321、331に歪みが生じにくい。そのため、例えば積層板1からプリント配線板10を製造する場合、プリント配線板10において、外層配線511、521とコア材3との間の位置ずれが生じにくく、内層配線321、331が存在する場合には外層配線511、521と内層配線321、331との間の位置ずれが生じにくい。また、そのため、例えばビアなどで内層配線321、331と外層配線511、521とを電気的に接続する場合に接続不良が生じにくい。
【符号の説明】
【0060】
1 積層板
2 積層物
3 コア材
4 樹脂シート
5 金属箔
6 ロール
61 第一ロール
62 第二ロール
7 加熱装置
8 張力調整機
10 プリント配線板
31 絶縁層
32 導体配線
33 導体配線
91 第一絶縁層
92 第二絶縁層
511 導体配線(外層配線)