(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】コンクリート養生用シート
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20230127BHJP
B28B 11/24 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
E04G21/02 104
B28B11/24
(21)【出願番号】P 2018133887
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000199979
【氏名又は名称】川上産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森島 敏之
(72)【発明者】
【氏名】荻野 毅
(72)【発明者】
【氏名】土肥 弘一
(72)【発明者】
【氏名】片野 啓三郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 宏
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-148116(JP,A)
【文献】特開2017-036657(JP,A)
【文献】特開2010-019067(JP,A)
【文献】特開2015-021345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
B28B 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設されたコンクリートを養生するために、コンクリート打設面に敷設して使用されるコンクリート養生用シートであって、
前記コンクリート打設面に対向して敷設される吸湿発熱層を備えるとともに、
前記吸湿発熱層に重ねて吸放湿性多孔質層、保温層が順に積層され、
前記吸湿発熱層が、吸湿発熱性繊維を含む繊維集合体からなり、
前記吸放湿性多孔質層が、吸水性繊維を含む繊維集合体からなり、
前記コンクリート打設面に対向する前記吸湿発熱層の表面に毛羽を生じさせることなく、前記吸放湿性多孔質層が、前記吸放湿性多孔質層側からニードルパンチ加工が施されて、前記吸湿発熱層に互いの繊維を絡ませて積層されていることを特徴とするコンクリート養生用シート。
【請求項2】
前記保温層が、気泡シートからなる請求項1に記載のコンクリート養生用シート。
【請求項3】
前記吸放湿性多孔質層が、アクリル酸系繊維を含む繊維集合体からなる請求項1又は2に記載のコンクリート養生用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打設されたコンクリートを養生するために、コンクリート打設面に敷設して使用されるコンクリート養生用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
建築工事や土木工事などの施工現場において、コンクリートを打設してコンクリート構造物を構築するに際し、打設したコンクリートが十分な水和反応がなされないうちに急速に乾燥してしまうと、その強度や耐久性が低下するなどの不具合が生じてしまう。
また、コンクリート打設面の保温が十分でないと、コンクリート内部との温度差に起因してクラックなどが入り易くなってしまう。
このため、コンクリートを打設した後には、通常、コンクリート打設面に散水するとともに、養生用シートで覆って、コンクリートの急速な乾燥や表面温度の低下を防止している。
【0003】
このような養生用シートとして、特許文献1は、吸水性繊維と吸湿発熱繊維とを含む湿潤発熱シートを備える養生用シート(コンクリート養生マット)を開示しており、養生初期に散水した際に吸湿発熱繊維が水を吸収することで、養生マットの熱伝達率が低減し保温効果を高めることができるとしている(引用文献1の[0021]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、吸湿発熱繊維は、繊維が濡れて吸湿する際に発熱し、たえず濡れた状態にあると発熱しなくなってしまう。このため、特許文献1が開示する技術では、吸湿発熱繊維が発熱することによる継続した保温効果は期待できない。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、コンクリート打設面に対向して敷設される吸湿発熱層を備えるコンクリート養生用シートにおいて、当該吸湿発熱層の継続的な発熱を促して、より効果的にコンクリート打設面を保温、保湿することができるコンクリート養生用シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るコンクリート養生用シートは、打設されたコンクリートを養生するために、コンクリート打設面に敷設して使用されるコンクリート養生用シートであって、前記コンクリート打設面に対向して敷設される吸湿発熱層を備えるとともに、前記吸湿発熱層に重ねて吸放湿性多孔質層、保温層が順に積層され、前記吸湿発熱層が、吸湿発熱性繊維を含む繊維集合体からなり、前記吸放湿性多孔質層が、吸水性繊維を含む繊維集合体からなり、前記コンクリート打設面に対向する前記吸湿発熱層の表面に毛羽を生じさせることなく、前記吸放湿性多孔質層が、前記吸放湿性多孔質層側からニードルパンチ加工が施されて、前記吸湿発熱層に互いの繊維を絡ませて積層されている構成としてある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンクリート打設面に対向して敷設される吸湿発熱層の継続的な発熱を促して、コンクリート打設面の平滑性を損ねたり、コンクリート打設面から剥離し難くなったりすることなく、より効果的にコンクリート打設面を保温、保湿することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るコンクリート養生用シートの概略を示す説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るコンクリート養生用シートの変形例の概略を示す説明図である。
【
図3】実施例において、養生初期の外気温、試験体の表面温度及び中心温度を測定した結果を示すグラフである。
【
図4】実施例における表面吸水試験の結果を示すグラフである。
【
図5】実施例における表面通気性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1に示すように、養生用シート1は、打設されたコンクリートを養生するために、コンクリート打設面10に敷設して使用されるものであり、コンクリート打設面10に対向して敷設される吸湿発熱層2を備えるとともに、吸湿発熱層2に重ねて吸放湿性多孔質層3、保温層4が順に積層されている。換言すれば、養生用シート1は、コンクリート打設面10に対向して敷設される側から、吸湿発熱層2、吸放湿性多孔質層3、保温層4を、この順に積層してなる積層体として形成される。
【0012】
なお、
図1は、本発明の実施形態に係るコンクリート養生用シートについて、その断面の概略を示す説明図であり、
図1には、養生用シート1が敷設される打設面10を含むコンクリートの断面を併せて示している。
【0013】
本実施形態において、吸湿発熱層2は、コンクリート打設面10に散水された水分を吸収して発熱する層であり、例えば、吸湿発熱繊維を含む織布、又は不織布などの繊維集合体を用いて形成することができる。
【0014】
吸湿発熱性繊維としては、水に濡れて吸湿した際に発熱する繊維が用いられる。このような繊維としては、アクリルニトリル系繊維に、ヒドラジン系化合物を用いて架橋処理を施すとともに、加水分解処理を施してなる繊維が好適に用いられ、例えば、美津濃株式会社製「ブレスサーモ(登録商標)」、東洋紡株式会社製「モイスケア(登録商標)」などの市販品、又はその改良品などを用いて吸湿発熱層2を形成することができる。
【0015】
吸放湿性多孔質層3は、吸湿発熱層2に吸収された過度な水分を吸水、保水し、吸湿発熱層2との間で、その受け渡し(吸放湿)が可能となるように、織布、若しくは不織布などの繊維集合体、又は合成樹脂フォームなどの連続気泡構造体を、例えば、ニードルパンチ、熱融着などによって、吸湿発熱層2に重ねて積層することによって形成することができる。
【0016】
吸放湿性多孔質層3を繊維集合体の形態で形成する場合、吸水性に優れたアクリル酸系繊維(例えば、東洋紡株式会社製「ランシール(登録商標)」など)が好ましく用いられ、吸湿発熱層2には、ニードルパンチによって互いの繊維を絡ませて積層するのが好ましい。ニードルパンチによって積層する場合には、吸湿発熱層2側からニードルパンチ加工を施すと、吸湿発熱層2の表面(コンクリート打設面10に対向する面)に毛羽が生じてしまい、コンクリート打設面10に喰い込むなどしてコンクリート打設面10の平滑性を損ねたり、コンクリート打設面10から剥離し難くなってしまったりする虞がある。このため、吸放湿性多孔質層3側からニードルパンチ加工を施すのが好ましい。
【0017】
また、吸放湿性多孔質層3を連続気泡構造体の形態で形成する場合、JIS 7138:2006に準拠して測定した連続気泡率が50%以上であるのが好ましく、基材樹脂中に吸水性繊維、吸水性樹脂パウダーなどを含有させて吸水性を高めることもできる。
【0018】
吸湿発熱層2に、このような吸放湿性多孔質層3を重ねて積層することによって、吸湿発熱層2に吸収された水分が吸放湿性多孔質層3に吸い取られると、吸湿発熱層2は、吸放湿性多孔質層3に吸い取られた分の水分を新たに吸収して、再び発熱するようになり、吸湿発熱層2の継続的な発熱を促すことが可能になる。
【0019】
保温層4は、不透水性の断熱素材を用いて形成することができるが、かかる断熱素材としては、養生中のコンクリートに含まれる水分の散逸を抑止するとともに、保温性を発揮するものであれば、特に限定されない。例えば、中空状に膨出する多数の突起40が形成されたキャップフィルム4aと、突起40内に空気を封入するバックフィルム4bとが積層された二層構造の気泡シート(
図1参照)、又はキャップフィルム4aの頂面側にライナーフィルム4cがさらに積層された三層構造の気泡シート(
図2参照)を用いて保温層4を形成することができる。
なお、
図2は、
図1と同様にして、本実施形態に係るコンクリート養生用シートの変形例を示す説明図である。
【0020】
このような気泡シートとしては、例えば、川上産業株式会社製「プチプチ(登録商標)」などを用いることができる。この種の気泡シートは、一般に、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂を単独で、又は二種以上を混合したものを材料樹脂に用いて形成され、例えば、粘着剤又は接着剤などを用いて吸放湿性多孔質層3に積層することができる。
【0021】
また、このような気泡シートを用いて保温層4を形成する場合には、二層構造の気泡シートを用いて、キャップフィルム4a側を吸放湿性多孔質層3に対向させて積層するのが好ましい。
このようにすることで、吸放湿性多孔質層3と突起20の周囲との間に空隙Sが形成され、吸放湿性多孔質層3が吸水、保水した水分が、当該空隙S内に蒸発、又は浸み出していくようすることができる。その結果、吸放湿性多孔質層3が、その分より多くの水分を吸湿発熱層2から吸い取ることができるようになり、吸湿発熱層2が新たに水分を吸収する機会が増して、継続的な発熱をよりいっそう促すことが可能になる。
さらに、吸放湿性多孔質層3から蒸発、又は浸み出した水分を、空隙S内に留めつつ、より広い範囲に空隙Sを伝わりながら行き渡らせることもできる。
【0022】
このような本実施形態によれば、養生用シート1をコンクリート打設面10に敷設して、打設されたコンクリートを養生するに際し、コンクリート打設面10に対向して敷設される吸湿発熱層2の継続的な発熱を促して、より効果的にコンクリート打設面10を保温、保湿することができる。
【0023】
施工現場において、養生用シート1をコンクリート打設面10に敷設するに際し、養生用シート1は、ロール状に巻き取った状態で搬入して、これを巻き出しながら、必要に応じて適当な長さに裁断して、コンクリート打設面10に敷設するようにしてもよく、予め適当なサイズに裁断しておいてもよい。
また、別の施工現場で使用した養生用シート1を再利用することもできる。
養生用シート1をコンクリート打設面10に敷設する際には、コンクリート打設面10の広さに応じて複数の養生用シート1を並べて敷設するようにしてもよい。
【実施例】
【0024】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0025】
[実施例1]
吸湿発熱層2として、吸湿発熱性繊維(美津濃株式会社製「ブレスサーモ(登録商標)」)からなる不織布(目付量100g/m2)を用いるとともに、吸放湿性多孔質層3として、吸水性繊維(東洋紡株式会社製「ランシール(登録商標)」)からなる不織布(目付量150g/m2)を用いて、吸放湿性多孔質層3側からニードルパンチ加工を施した。そして、全体の厚みが5mmとなるように調整しつつ、層間の繊維を絡み合わせることによって、吸湿発熱層2に重ねて吸放湿性多孔質層3を積層した。
次いで、保温層4として、気泡シート(川上産業株式会社製「プチプチ(登録商標)」:厚さ3.5mm、目付量220g/m2)を用いて、吸放湿性多孔質層3側に粘着剤を介して積層して養生用シート1を得た。
このようにして得られた養生用シート1について、以下の評価試験を行った。
【0026】
[評価試験]
試験体としてのコンクリートブロックの寸法が、縦500mm×横500mm×高さ300mmとなるように、直方体状に組まれた型枠内にコンクリートを打ち込んで、試験体の表面(打設面中央部)と、試験体の中心(打設面中央部の直下で高さ150mmの位置)とに熱電対を設置した。
次いで、吸湿発熱層2を打設面に対向させて養生用シート1を敷設し、空調により低温環境下にコントロールされた試験室内で、養生初期の外気温(試験室内の温度)、試験体の表面温度及び中心温度を測定した。その結果を
図3(a)に示す。
【0027】
また、コンクリートを打設してから7日経過時に空調を停止し、さらに養生を継続して、材齢91日の試験体について、SWAT(登録商標)による表面吸水試験、トレント法による表面通気性試験を行った。その結果を、それぞれ
図4、
図5に示す。
【0028】
[比較例1]
公知のコンクリート養生マット(ウレタン/ポリプロピレン積層シート)を用いた以外は、実施例1と同様にして、養生初期の外気温、試験体の表面温度及び中心温度を測定した。その結果を
図3(b)に示す。
また、実施例1と同様にして、材齢91日の試験体について、表面吸水試験、表面通気性試験を行った。その結果を、それぞれ
図4、
図5に併せて示す。
【0029】
[比較例2]
湛水養生により試験体を養生した以外は、実施例1と同様にして、養生初期の外気温、試験体の表面温度及び中心温度を測定した。その結果を
図3(c)に示す。
また、実施例1と同様にして、材齢91日の試験体について、表面吸水試験、表面通気性試験を行った。その結果を、それぞれ
図4、
図5に併せて示す。
【0030】
以上の結果から、低温環境下では養生の初期にコンクリートを保温することが、コンクリートの品質向上に大きく影響するところ、実施例1によれば、低温環境下における養生初期の試験体の表面温度と中心温度とを、高い温度に保持できるとともに、試験体の表面温度と中心温度との温度差も小さく、良好な保温効果が発揮されることが確認できた。
また、実施例1によれば、表面吸水試験において、600秒時点での吸水速度(P600)が平均0.12ml/m2/sという良好な結果が得られ、最も緻密性に優れていることが確認できた。
また、表面通気性試験においても、透気係数(KT)が平均0.27×10-16m2という良好な結果が得られた。
なお、湛水養生を行った比較例2にあっては、コンクリートへの水分の供給が最も多く、保温による効果よりも水分の供給による効果が顕著に現れ、これが表面吸水試験、表面通気性試験の結果に影響していると考えられる。
【0031】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0032】
例えば、コンクリート打設面10に直射日光が当たらないように、養生用シート1には着色を施したり、アルミニウム箔層などを保温層4に重ねて積層したりすることができる。養生用シート1に着色を施す場合には、黒色などの熱を吸収し易い色に着色することで保温性を高めることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、打設されたコンクリートを養生するための技術として利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 養生用シート
2 吸湿発熱層
3 吸放湿性多孔質層
4 保温層(気泡シート)
10 コンクリート打設面