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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】ボルト検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20230127BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
G01B11/24 A
G01C15/00 103A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018225646
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020085857
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】富木 洋一
(72)【発明者】
【氏名】永喜多 徹
(72)【発明者】
【氏名】増田 宏
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-169904(JP,A)
【文献】特開2002-318636(JP,A)
【文献】特開2016-121450(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143263(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の構造物に用いられているボルトを検出するボルト検出方法であって、
前記構造物を地上型レーザスキャナでスキャンして点群データを取得し、
前記点群データから前記構造物の平面を検出し、
前記構造物の平面から、第1閾値より面積が大きい第1平面および、第2閾値より面積が小さい第2平面を検出し、
前記第2平面のうち、近接する前記第1平面と平行な第2平面をボルトの上面であると判定し、
ボルトであると判定した第2平面を構成する点群を、ボルトの領域であると識別し、
前記ボルトの領域に対して規格サイズのボルトの頭の形状をフィッティングし、
前記フィッティングは、前記ボルトの領域の点群において、規格サイズのボルトの頭の輪郭に前記点群を構成する点が最も多く近接するときの輪郭のサイズ、位置、回転角を決定し、その輪郭のサイズと位置が、前記識別されたボルトのサイズと位置であると判断することを特徴とするボルト検出方法。
【請求項2】
前記第1平面と第2平面の間に存在する点群も、前記ボルトの領域に含めることを特徴とする請求項1に記載のボルト検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の構造物に用いられているボルトを検出するボルト検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国で使用されている送電用鉄塔(以下、単に鉄塔と称する)は、建設から数十年が経過しているものも少なくない。いかに堅牢な構造の鉄塔であっても、建設後は常に気象現象にさらされ、またそれに伴う地盤の変化の影響も受けるため、経年変化が生じる。そのため、既設の鉄塔に対して、健全性を確認する必要性が高まってきている。
【0003】
鉄塔の改修を行うに当たっては、鉄塔のボルトの位置について確認を行う必要がある。従来では、部材スケッチと呼ばれる方法によって鉄塔におけるボルトの位置を確認していた。これによれば、施工後の補修の際に追加されたボルト、すなわち施工時の図面に図示されていないボルトの有無を好適に把握することができる。しかしながら、部材スケッチは熟練の作業員がボルトの位置を手作業で測定するため、作業員の負担が大きく、作業にも膨大な時間を要する。
【0004】
そこで近年、レーザスキャナ(LiDAR : Light Detection And Ranging)を用いてボルトの位置を検出することが検討されている。レーザスキャナは、出射光と反射光の時間差や位相差を利用し、対象物の3次元座標をmm単位で測定する装置である。特に、近年では、位相差方式の地上型レーザスキャナの性能が飛躍的に進歩している。地上型レーザスキャナは、三脚等に支えられた本体からレーザ光を照射すると同時に本体が回転し、周囲に存在する地形や構造物の3次元座標を点群として取得する。
【0005】
発明者らは、上記の地上型レーザスキャナを用いた鉄塔の傾き検出方法を既に開発している(特許文献1)。特許文献1の鉄塔の傾き検出方法では、既設の鉄塔を地上型レーザスキャナでスキャンして点群データを取得し、点群データから鉄塔が備える複数の主柱材それぞれについて、主柱材を表す線分である特徴線を抽出する。そして、複数の特徴線から鉄塔の中心線を算出し、中心線から鉄塔の傾きを算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特願2017-141547号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の鉄塔の傾き検出方法によれば、作業員の技術や経験に頼ることなく、鉄塔の傾きを直接かつ定量的に計測することが可能となる。このため、発明者らは、特許文献1の鉄塔傾き検出方法を活用することで鉄塔に用いられているボルトを検出できるのではないかと考えた。
【0008】
しかしながら、地上型レーザスキャナは、スキャナから見通せる範囲の物体の3次元位置情報を膨大な点群データとして取得する。このため、レーザが遮蔽される物体の影の部分についてはデータが得られない。したがって、地上から取得した点群データではボルトの部分が不完全な形状の点群となり、ボルトの識別およびその位置の推定が困難であった。特に、1つの地上型レーザスキャナを用いる場合、影となる部分の境界付近の点群データは、レーザと反射面の角度が浅い場合が多く、その部分をボルトの識別およびその位置の推定に使用すると誤差が大きくなる。
【0009】
影となる部分を減らすためには、複数の地上型レーザスキャナを用いて複数の地点において点群データを取得することが考えられる。しかしながら、複数の地上型レーザスキャナによって取得した複数の点群データを合成すると、合成時の誤差により、正確なボルト位置の識別が困難になる。
【0010】
鉄塔におけるボルトの形状を認識する他の方法としては、ハンディタイプの3Dレーザスキャナを用いることが考えられる。しかしながら、この場合、スキャナをボルトに近接させる必要がある。このため、鉄塔のように巨大な構造物に用いられているボルトを検出する際には適切ではない。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、鉄塔のような巨大な既設の構造物に用いられているボルトを、地上型レーザスキャナの点群データから正確に検出することが可能なボルト検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかるボルト検出方法の代表的な構成は、既設の構造物に用いられているボルトを検出するボルト検出方法であって、構造物を地上型レーザスキャナでスキャンして点群データを取得し、点群データから構造物の平面を検出し、構造物の平面から、第1閾値より面積が大きい第1平面および、第2閾値より面積が小さい第2平面を検出し、第2平面のうち、近接する第1平面と平行な第2平面をボルトの上面であると判定し、ボルトであると判定した第2平面を構成する点群を、ボルトの領域であると識別することを特徴とする。
【0013】
上記構成では、まず地上型レーザスキャナによって取得した点群データから構造物、例えば鉄塔の平面を検出し、その平面から第1平面および第2平面を検出する。これにより、第1平面を、例えば鉄塔に用いられている大型の主脚材等の部材であると識別し、第2平面を主脚材等の部材の固定に用いられているボルトである可能性を有する物体と識別することができる。
【0014】
そして、ボルトは、主脚材等の部材に取り付けられる際に、上面がその部材の平面と平行になる。したがって、第2平面のうち、近接する第1平面と平行な第2平面をボルトの上面であると判定することができる。これにより、鉄塔のような巨大な既設の構造物に用いられているボルトを、地上型レーザスキャナの点群データから正確に検出することが可能となる。
【0015】
上記ボルトの領域に対して規格サイズのボルトの頭の形状をフィッティングすることにより、識別されたボルトのサイズと位置を判断するとよい。かかる構成によれば、構造物の改修の際に用いるボルトのサイズを把握することができ、改修作業をより効率的に行うことが可能となる。
【0016】
上記フィッティングは、ボルトの領域の点群において、規格サイズのボルトの頭の輪郭に点群を構成する点が最も多く近接するときの輪郭のサイズ、位置、回転角を決定し、その輪郭のサイズと位置が、前記識別されたボルトのサイズと位置であると判断するとよい。これにより、ボルトのサイズをより正確に把握することが可能となる。
【0017】
上記第1平面と第2平面の間に存在する点群も、ボルトの領域に含めるとよい。第1平面と第2平面との間に存在する点群は、ボルトの側面であると推測される。したがって、その点群をボルトの領域に含めることで、上述したフィッティングの際に規格サイズのボルトの頭の輪郭に近接する点の数を飛躍的に増やすことができる。これにより、フィッティング時の精度を高めることが可能となる。
【0018】
上記フィッティングは、ボルトの領域の点群の最大幅を取得し、最大幅を径とする円を設定し、この円にボルトの頭が入る規格サイズを前記識別されたボルトのサイズとし、点群を構成する点が最も多く含まれるときの円の位置を識別されたボルトの位置であると判断するとよい。これにより、ボルトのサイズおよび位置を好適に把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、鉄塔のような巨大な既設の構造物に用いられているボルトを、地上型レーザスキャナの点群データから正確に検出することが可能なボルト検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態にかかるボルト検出方法に用いる検出装置を説明する図である。
図2】本実施形態にかかるボルト検出方法の処理を説明するフローチャートである。
図3】地上型レーザスキャナによる計測の概要を示した図である。
図4】データ編集処理の詳細を示すサブルーチンである。
図5】データ編集処理の概要を例示した図である。
図6】鉄塔におけるボルト周辺の点群を例示する図である。
図7】ボルト検出処理の詳細を示すサブルーチンである。
図8】ボルト検出処理時の画像を例示する図である。
図9】フィッティング処理を説明する図である。
図10図9(a)のフィッティング処理の詳細図である。
図11図9(a)のフィッティング処理の詳細図である。
図12】第1実施例および第2実施例のフィッティング処理と従来のスケッチング処理との誤差を説明する図である。
図13】本実施形態のボルト検出方法の他の例を説明するフローチャートである。
図14】アングル材の交線について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0022】
図1は、本実施形態にかかるボルト検出方法に用いる検出装置160を説明する図である。なお、本実施形態では、図1に示す検出装置160を用いてボルト検出方法を実行する場合を例示して説明するが、これに限定するものではなく、他の装置を用いて本実施形態のボルト検出方法を実行してもよい。
【0023】
図1に示すように、検出装置160は、プログラムや各データを格納するメモリ162、中心的な処理を行うCPU164、レーザスキャナ142とのデータの受け渡しを行う入出力部166を備えている。またCPU164は、プログラムの実行等の制御を行う制御部168、各種の演算を行う演算部170などとして機能する。
【0024】
図2は、本実施形態にかかるボルト検出方法の処理を説明するフローチャートである。図3は、地上型レーザスキャナ142による計測の概要を示した図である。図3(a)は、レーザスキャナ142の使用例を示す図であり、図3(b)は、レーザスキャナ142が取得した点群データの例を示す図である。
【0025】
なお、本実施形態では、既設の構造物として鉄塔140を例示するが、これに限定するものではない。鉄塔140以外の既設の構造物においても本実施形態のボルト検出方法を適用することが可能である。
【0026】
本実施形態のボルト検出方法では、図3(a)に示す鉄塔140に用いられているボルト180を検出する。ボルト検出方法では、図2に示すように、まず既設の鉄塔140(図3(a)参照)を地上型レーザスキャナ(レーザスキャナ142)でスキャンすることにより、既設の鉄塔140から3次元座標である点群データを取得する(ステップS100)。
【0027】
レーザスキャナ142の具体例としては、位相差方式レーザスキャナFARO Focus 3D X330(以後、X330と略す)を例示することができる。X330は、レーザ光を照射する本体部144と、本体部144を支える三脚146から構成されている。本体部144は、レーザ光を垂直方向に回転しつつ、水平方向に回転して、周囲に存在する地形や構造物の3次元座標を点群データとして取得する。特にX330は、測定範囲が0.6~330m、最大計測速度が97600点/秒と、従来の地上型レーザスキャナと比較して高い性能を有するため、当該検出方法に好適に利用することができる。
【0028】
本実施形態のボルト検出方法では、鉄塔140の複数の脚部148の中心からスキャンして点群データを取得する。これにより、3次元座標を効率よく取得することが可能になる。なお、鉄塔140の外側からスキャンすることも考えられるが、鉄塔140の外側から点群データを取得するためには2カ所以上からスキャンしなくてはならない。すると複数の点群データ合成する際に誤差が生じてしまう。したがって今回は1カ所からスキャンすることが肝要であり、鉄塔140の内側の、特に中心でスキャンすることが好ましい。
【0029】
ここで、レーザスキャナ142が取得するいわゆる生データには、図3(b)に示すように、鉄塔140以外にも、周囲の地形や構造物を示す点群が含まれている。これら鉄塔140以外の点群は、処理負担を大きくさせるとともに、ボルト検出の精度低下にもつながりかねない。そこで本実施形態では、図2に示すように、取得した点群データのデータ編集処理を行う(ステップS102)。
【0030】
図4は、データ編集処理(図2のステップ102)の詳細を示すサブルーチンである。図5は、データ編集処理の概要を例示した図である。データ編集処理は、レーザスキャナ142が取得した生データから、鉄塔140を示す点群のみを抽出するために行う。
【0031】
データ編集処理では、演算部170は、レーザスキャナ142が取得した点群データを、水平方向の所定の格子状に分割する(ステップS110)。次に、演算部170は、格子状に分割された各領域から、鉄塔140の設置領域を抽出する(ステップS112)。
【0032】
本実施形態ではレーザスキャナ142を鉄塔140の中心に置いているので、レーザスキャナ142の中心から一定距離内の点群のみを取得することにより、遠方の建物、例えばマンションなどを除去する。そこで最初の格子は、図5(a)に示すように、レーザスキャナ142の中心から一定距離の円を含む範囲に設定される。
【0033】
また鉄塔140は上部にいくにしたがってすぼまっているので、送電線150より下部の部分のみの点群を取得して物体の領域抽出とする。そして設置領域の抽出は、各領域において座標データの高さの差分(最も高い点と低い点の高さの差分)が所定値以上となる計測点が含まれているか否か判定し、所定値以上の高さの計測点の存在する領域を抽出することで行う。
【0034】
上記の通り、高さの差分が所定値以上となる計測点とは、すなわち、ある程度の高さを有する構造物から得られた計測点のことである。例えば、ある領域のうち、鉛直方向の最小の座標を地表面とみなす。そして、地表面との高さの差分が5m以上となる計測点を含む領域を抽出することで、高さ5m以上の構造物が存在する領域が取得できる。すると図5(b)に示すように、鉄骨が存在する位置の格子が抽出できる。ここではまだ、送電線150より下部の部分のみの点群を対象にしているため、中央部に抜けが生じている。
【0035】
設置領域を抽出する際には(ステップS112)、まず図5(c)に示すように、中抜けしている格子を埋めて、鉄塔140の設置領域とする。次に、外側の輪郭の凹部分を埋める処理をする。この処理には、例えば既存の画像処理で用いられるモフォロジ演算が応用可能である。モフォロジ演算は、膨張と収縮を複数回行うことで、画像の凹凸を滑らかにしたり、孤立点を除去したりする処理である。これにより図5(d)に示すように、凹部分がなく、おおむね矩形の領域を取得することができる。
【0036】
鉄塔の設置領域を抽出したら、その設置領域の上方にある点群データを再取得し(送電線150より上の領域まで含む)、地表面近傍の計測点を除去する(ステップS114)。図5(e)は、鉄塔140を示す点群データのみを例示した図である。これによって、データ編集処理が完了する。
【0037】
図6は、鉄塔140におけるボルト180周辺の点群を例示する図である。再度、図2を参照する。上述したデータ編集処理が完了したら、演算部170は、点群データから鉄塔140の平面を検出する(ステップS104)。これにより、図6(a)に示すように、脚部148およびそれに取り付けられているボルト180を含んだ鉄塔140の平面が検出される。
【0038】
図7は、ボルト検出処理の詳細を示すサブルーチンである。図8は、ボルト検出処理時の画像を例示する図である。なお、図8(a)は図6(a)と同様の画像であるが、理解を容易にするために再掲している。
【0039】
演算部170は、図2に示す平面検出処理を行ったら(ステップS104)、続いて、ボルト検出処理を行う(ステップS106)。ボルト検出処理では、図7に示すように、演算部170は、第1平面を検出し、(ステップS202)、続いて第2平面を検出する(ステップS204)。
【0040】
第1平面を検出する際には、演算部170は、鉄塔140(構造物)の平面の面積が第1閾値よりも大きいかを判断する。例えば、図6(a)および図8(a)に示すように、面積が第1閾値T1よりも大きい場合には、その領域は第1領域であると判断する。これにより、鉄塔140のうち、大きい部材である脚部148を識別することができる。
【0041】
第2平面を検出する際には、演算部170は、鉄塔140構造物の平面の面積が第2閾値よりも小さいかを判断する。例えば、図6(a)および図8(a)に示すように、面積が第2閾値T2よりも小さい場合には、その領域は第2領域であると判断する。これにより、ボルト180である可能性を有する物体を識別することができる。
【0042】
図8(a)に示す画像に対して上述した第1平面を検出する処理(ステップS202)、および第2平面を検出する処理(ステップS204)を行うことにより、図8(b)に示すように第1平面P1および第2平面P2が検出される。
【0043】
ここで、ボルト180は、脚部148等の部材に取り付けられる際に、上面がその部材の平面と平行になる。したがって、脚部148と識別された第1平面P1と平行であれば、その第2平面P2はボルト180の上面であると判別することができる。そこで、演算部170は、第1平面P1および第2平面を検出したら、検出した第2平面P2のうち、近接する第1平面P1と平行な第2平面P2をボルト180の上面であると判定する(ステップS206)。
【0044】
ボルト180の上面を判定したら、演算部170は、ボルト180であると判定した第2平面を構成する点群を、ボルト180の領域であると識別する(ステップS208)。これにより、図8(b)に示す画像から、図8(c)に示すようにボルト180の上面180bが検出される。このように、本実施形態のボルト検出方法によれば、鉄塔140のような巨大な既設の構造物に用いられているボルトを、レーザスキャナ142の点群データから正確に検出することが可能となる。
【0045】
ここで、本実施形態のように鉄塔140の複数の脚部148の中心からスキャンして点群データを取得する場合、ボルト180の点群は、図6(b)に示すように、レーザスキャナ142と面している側は密になるが、反対側は疎になってしまう。このため、ボルト180の輪郭は、反対側が一部欠けた状態となり、ボルト180のサイズまで把握することが難しい。そこで本実施形態のボルト検出方法では、ボルト180の領域を識別したら、演算部は、フィッティング処理を行う(ステップS210)。
【0046】
図9は、フィッティング処理を説明する図である。図10および図11は、図9(a)のフィッティング処理の詳細図である。フィッティング処理の第1実施例としては、図9(a)に示すように、ボルト180の領域と識別された点群(以下、ボルトの領域と称する)のレーザスキャナ142側(142に面している側)の輪郭に対して、規格サイズのボルトの頭の形状Sをフィッティングする。
【0047】
第1実施例のフィッティングは、まず、図10(a)に示すボルト180の領域と認識された点群における近傍点を連結し、図10(b)に示すメッシュモデルに変換する。そして、図10(b)に示す画像から、図10(c)に示すようにレーザスキャナ142と面している側の境界Bを検出する。そして、図10(d)に示すように、境界Bに最もよく当てはまる六角形の径r、中心位置(Cx,Cy)および回転角θを算出する。
【0048】
具体的には、六角形Sの中心位置(Cx,Cy)、回転角θを微少量変化させながら、その六角形Sの辺からの距離が閾値ε以下となる境界点の個数が最大になる(Cx,Cy)およびθを算出する。
【0049】
ボルト180のサイズは、例えば図11(a)に示す27mm、図11(b)に示す30mm、図11(c)に示す32mmのように規格によって定められている。このため、複数のボルトのサイズの六角形を当てはめ、最もよく当てはまるサイズを当該ボルト180のサイズとすることができる。図11に示す例では、図11(b)の30mmがボルト180のサイズとなる。
【0050】
ボルト180のサイズを決定する際には、まず境界として検出された点を{pi}とし、径がsである六角形と点piとの最短距離をds(pi)とする。そして、下記の式1を最小とするsをボルト180の径として決定するとよい。
【数1】
【0051】
フィッティング処理を行うことにより、かかる処理において決定された六角形Sのサイズと位置が、すなわち図8(d)に示す識別されたボルト180のサイズと位置であると判断することができる(ステップS212)。これにより、ボルト検出処理が完了する。本実施形態のようにフィッティング処理も含めることにより、構造物の改修の際に用いるボルト180のサイズを把握することができ、改修作業をより効率的に行うことが可能となる。
【0052】
フィッティング処理の第2実施例としては、ボルト180の領域の点群の最大幅を参照する。詳細には、図9(b)に示すように、演算部170は、まずボルト180の領域の点群の最大幅Wを取得し、最大幅を径とする円Cを設定する。次に、演算部170は、この円にボルトの頭が入る規格サイズを、ボルト180のサイズと判断する。さらに、点群を構成する点が最も多く含まれるときの円Cの位置をボルトの位置であると判断する。かかる構成によっても、ボルト180のサイズおよび位置を好適に把握することが可能となる。
【0053】
なお、上記のフィッティング処理を行う際には、第1平面と第2平面の間に存在する点群もボルトの領域に含めるとよい。第1平面と第2平面との間に存在する点群は、ボルト180の側面であると推測されるため、その点群をボルト180の領域に含めることで、上述したフィッティングの際に規格サイズのボルトの頭の輪郭に近接する点の数を飛躍的に増やすことができる。したがって、フィッティング時の精度を高めることが可能となる。
【0054】
図12は、第1実施例および第2実施例のフィッティング処理と従来のスケッチング処理との誤差を説明する図であり脚材の谷線からの距離(mm)を示している。図12に示すように、ボルトの大きさをノギスで実測した場合と、フィッティング処理によってボルトのサイズを判断した場合とでは、第1実施例のフィッティング処理の方が誤差が小さい。このことから、第1実施例のフィッティング処理を採用することが好ましいことが理解できる。
【0055】
図13は、本実施形態のボルト検出方法の他の例を説明するフローチャートである。なお、以下、先に説明したボルト検出方法と重複する処理については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。図14は、アングル材の交線について説明する図である。
【0056】
図13に示すボルト検出方法では、先に説明したステップS208とステップS210との間に、第1平面の交線(脚材の谷線)を用いてボルト180の領域を識別する処理を行う(ステップS214)。詳細には、鉄塔がアングル鉄塔である場合、鉄塔140の脚部148には、L型のアングル材が用いられている。そこで、ステップ214では、まず脚部148に用いられているアングル材の内角の谷線を抽出する。
【0057】
演算部170は、ステップS202において検出された第1平面のうち、隣接している平面同士を抽出する。この処理によって、各アングル材の内側の2面を含んだ、複数の交差する平面同士が取得できる。続いて演算部170は、交差する第1平面の境界を、図14に示す第1平面の交線Lとして判別する。そして、第1平面の交線L(脚材の谷線)を判別したら、演算部170は、第1平面の交線L(脚材の谷線)から所定距離の点群をボルト180の領域と判別する。
【0058】
ボルト180は、主にアングル材同士を連結するために用いられる部材である。したがって、ボルト180は、脚部148に用いられるアングル材として検出された第1平面の交線Lから所定距離の範囲内に配置されるため、第1平面の交線Lから所定距離の範囲内にある点群はボルト180であると判別することができる。これにより、演算部170における処理を簡略化することができ、且つボルト180をより正確に判別することが可能となる。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、既設の構造物に用いられているボルトを検出するボルト検出方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
140…鉄塔、142…レーザスキャナ、144…本体部、146…三脚、148…脚部、150…送電線、160…検出装置、162…メモリ、166…入出力部、168…制御部、170…演算部、180…ボルト
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