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特許7217460新規化合物及び該化合物を含む脂肪滴検出用試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】新規化合物及び該化合物を含む脂肪滴検出用試薬
(51)【国際特許分類】
   C07D 215/38 20060101AFI20230127BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20230127BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230127BHJP
   A61K 31/47 20060101ALN20230127BHJP
   A61P 3/06 20060101ALN20230127BHJP
   A61P 3/04 20060101ALN20230127BHJP
【FI】
C07D215/38 CSP
A61K49/00
C12Q1/02
A61K31/47
A61P3/06
A61P3/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019090840
(22)【出願日】2019-05-13
(65)【公開番号】P2020186192
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第48回 複素環化学討論会実行委員会、「第48回複素環化学討論会講演要旨集」第68ページ、平成30年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】511065266
【氏名又は名称】学校法人昭和薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 悟
(72)【発明者】
【氏名】渕 靖史
(72)【発明者】
【氏名】大山 耕平
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 雅臣
(72)【発明者】
【氏名】濱田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】水谷 顕洋
(72)【発明者】
【氏名】河野 未菜希
【審査官】▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104529893(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0263861(US,A1)
【文献】国際公開第2014/142320(WO,A1)
【文献】特開2018-145422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式中、
は、水素原子を表し、
は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を表し、mが2以上の整数を表すとき、各々のRは互いに同一であっても又は互いに相異なってもよく、
は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を表し、nが2以上の整数を表すとき、各々のRは互いに同一であっても又は互いに相異なってもよく、
m及びnは、夫々独立して、0乃至5の整数を表す。)
で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(2):
【化2】
(式中、Rは、水素原子、炭素原子数1乃至4のアルキル基又は炭素原子数1乃至4のアルコキシ基を表す。)
で表される化合物である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
前記Rが、水素原子、t-ブチル基又はメトキシ基を表す、請求項2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
下記式(3):
【化3】
(式中、
は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を表し、mが2以上の整数を表すとき、各々のRは互いに同一であっても又は互いに相異なってもよく、
は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を表し、nが2以上の整数を表すとき、各々のRは互いに同一であっても又は互いに相異なってもよく、
m及びnは、夫々独立して、0乃至5の整数を表す。)
で表される化合物の製造方法であって、
m-フェニレンジアミンと、ヘキサフルオロアセチルアセトンとを反応させて2,4-ジトリフルオロメチル-7-アミノキノリンを製造する工程A、
該7-アミノキノリンを、下記式(10):
【化4】
(式中、
Xは、ハロゲン原子を表し、
及びmは、上記と同じ意味を表す。)
で表される化合物と反応させて、下記式(4):
【化5】
(式中、R及びmは、上記と同じ意味を表す。)
で表される化合物を製造する工程B1、及び
該式(4)で表される化合物を、下記式(11):
【化6】
(式中、X、R及びnは、上記と同じ意味を表す。)
で表される化合物と反応させて、上記式(3)で表される化合物を製造する工程C1、
を含む方法。
【請求項5】
前記式(10)で表される化合物が下記式(12)
【化7】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表す。)で表される化合物であり、且つ、前記式(11)で表される化合物が下記式(13)
【化8】
(式中、
Xは、ハロゲン原子を表し、
は、水素原子、炭素原子数1乃至4のアルキル基又は炭素原子数1乃至4のアルコキシ基を表す。)で表される化合物である、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を含む、脂肪滴の検出用蛍光プローブ。
【請求項7】
(a)請求項6に記載の蛍光プローブを、脂肪滴を含む細胞又は脂肪滴と接触させる工程、及び
(b)該細胞又は脂肪滴に対し励起光を照射して蛍光を生じさせる工程
を含む脂肪滴の検出方法。
【請求項8】
さらに、(c)蛍光プローブの蛍光を測定する工程を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記(a)工程の前に、(d)請求項6に記載の蛍光プローブを、生きている生物個体
内(ヒトを除く)に投与する工程を含む、請求項7又は請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物及び該化合物を含む脂肪滴検出用試薬に関する。特に、低極性環境中でのみ特異的に蛍光発光し、且つ、細胞の蛍光イメージングにおける特異的集積性を示す、新規化合物及び該化合物を含む脂肪滴検出用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
現在まで様々な骨格をもつ有機蛍光分子が開発されており、細胞内小器官(オルガネラ)の蛍光イメージングプローブとして利用されている。また近年、高脂血症や肥満のような生活習慣病患者数の増加が社会問題となっている中で、生体内脂質分子への関心が高まっている。脂肪酸は細胞膜を構成する必須の成分であるが、細胞内ではコレステロールやトリグリセリドのような中性脂質分子が蓄積した「脂肪滴」と呼ばれるオルガネラの役割も注目されている。例えば受精卵の発育に脂肪滴が関連していることが最近報告された他(非特許文献1参照)、HCV(C型肝炎ウィルス)のウィルス粒子形成にも関与していることなども知られている(非特許文献2参照)。
以上の背景から脂肪滴を検出する蛍光プローブは生物学的研究において有用であり、「ナイルレッド」と呼ばれる赤色蛍光分子(下記式(i)参照)が古くから利用されている(非特許文献3参照)。また最近ナイルレッドに変わるLipiDye(登録商標)と呼ばれるベンゾホスホール骨格をもつ新規蛍光分子(非特許文献4参照)が市販されている(下記式(ii)参照)。
【化1】
【0003】
また、これまでに新規二環性プッシュ―プル型蛍光分子として、“TFMAQ”と呼ばれる2,4-ジトリフルオロ-7-アミノキノリン誘導体が合成され、独特な蛍光発光特性を示すことが報告されている(非特許文献5参照)。
また、蛍光分子は一般的に溶媒極性の影響を受けてスペクトルが変化する「ソルバトクロミズム」を示すことが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】T. Tatsumi, K. Takayama, S. Ishii, A. Yamamoto, T. Hara, N. Minami, N. Miyasaka, T. Kubota, A. Matsuura, E. Itakura, and S. Tsukamoto, Development, 2018, 145, dev161893.
【文献】Y. Miyanari K. Atsuzawa, N. Usuda, K. Watashi, T. Hishiki, M. Zayasu, R. Bartenschlager, T. Wakita, M. Hijikata, and K. Shimotohno, Nat. Cell Biol., 2007, 9, 1089-1097.
【文献】P. Greenspan, E. P. Mayer, S. D. Fowler, P. Greenspan, E. P. Mayer, and S. D. Fowler, J. Cell. Biol., 1985, 100, 965-973.
【文献】E. Yamaguchi, C. Wang, A. Fukazawa, M. Taki, Y. Sato, T. Sasaki, M. Ueda, N. Sasaki, T. Higashiyama, and S. Yamaguchi, Angew. Chemie -Int. Ed., 2015. 54, 4539-4543.
【文献】Y. Abe, S. Karasawa, and N. Koga, Chem. Eur. J., 2012, 18, 15038-15048.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の強発光性の蛍光プローブを用いた細胞イメージングにおいては、脂肪滴以外の非特異的な蛍光染色画像が得られるという問題があった。またLipiDye(登録商標)は合成ステップが6工程以上あるため、製造コストも高価であるという問題があった。
そこで、本発明の目的は、これら蛍光分子に代わる、特異性の高い新規脂肪滴蛍光染色プローブを提供することにある。
また、本発明の目的は、特異性の高い新規脂肪滴蛍光染色プローブに用いる新規キノリン誘導体及びより少ない工程を含む新規キノリン誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、特定のキノリン環骨格を有する化合物の8位に芳香環を導入した新規キノリン誘導体又はその塩が、細胞内の脂肪滴の蛍光プローブとして使用できるとことを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の[1]乃至[10]の発明に関する。
[1]下記式(1):
【化2】
(式中、
は、水素原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基、又は置換基を有してもよいフェニル基を表し、
は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を表し、mが2以上の整数を表すとき、各々のRは互いに同一であっても又は互いに相異なってもよく、
は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を表し、nが2以上の整数を表すとき、各々のRは互いに同一であっても又は互いに相異なってもよく、
m及びnは、夫々独立して、0乃至5の整数を表す。)
で表される化合物又はその塩。
[2]前記式(1)で表される化合物が、下記式(2):
【化3】
(式中、Rは、水素原子、炭素原子数1乃至4のアルキル基又は炭素原子数1乃至4のアルコキシ基を表す。)
で表される化合物である、[1]に記載の化合物又はその塩。
[3]前記Rが、水素原子、t-ブチル基又はメトキシ基を表す、[2]に記載の化合物又はその塩。
[4]下記式(3):
【化4】
(式中、
は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を表し、mが2以上の整数を表すとき、各々のRは互いに同一であっても又は互いに相異なってもよく、
は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を表し、nが2以上の整数を表すとき、各々のRは互いに同一であっても又は互いに相異なってもよく、
m及びnは、夫々独立して、0乃至5の整数を表す。)
で表される化合物の製造方法であって、
m-フェニレンジアミンと、ヘキサフルオロアセチルアセトンとを反応させて2,4-ジトリフルオロメチル-7-アミノキノリンを製造する工程A、
該7-アミノキノリンを、下記式(10):
【化5】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、R及びmは、上記と同じ意味を表す。)で表される化合物と反応させて、下記式(4):
【化6】
(式中、R及びmは、上記と同じ意味を表す。)で表される化合物を製造する工程B1、及び該式(4)で表される化合物を、下記式(11):
【化7】
(式中、X、R及びnは、上記と同じ意味を表す。)で表される化合物と反応させて、上記式(3)で表される化合物を製造する工程C1、を含む方法。
[5]前記式(10)で表される化合物が下記式(12)
【化8】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表す。)で表される化合物であり、且つ、前記式(11)で表される化合物が下記式(13)
【化9】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、Rは、水素原子、炭素原子数1乃至4のアルキル基又は炭素原子数1乃至4のアルコキシ基を表す。)で表される化合物である、[4]に記載の方法。
[6]下記式(5):
【化10】
(式中、Rは、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基、又は置換基を有してもよいフェニル基を表し、Rは、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を表し、mが2以上の整数を表すとき、各々のRは互いに同一であっても又は互いに相異なってもよく、Rは、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至10のアルキ
ル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を表し、nが2以上の整数を表すとき、各々のRは互いに同一であっても又は互いに相異なってもよく、m及びnは、夫々独立して、0乃至5の整数である。)で表される化合物の製造方法であって、
m-フェニレンジアミンと、ヘキサフルオロアセチルアセトンとを反応させて7-アミノキノリンを製造する工程A、
該7-アミノキノリンを、下記式(10)
【化11】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、R及びmは、上記と同じ意味を表す。)で表される化合物を反応させて式(4):
【化12】
(式中、R及びmは、上記と同じ意味を表す。)で表される化合物を製造する工程B1、
該式(4)で表される化合物を、下記式(14):
-X (14)
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、Rは、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は置換基を有してもよいフェニル基を表す。)で表される化合物と反応させて、下記式(6)
【化13】
(式中、R、R及びmは上記と同じ意味を表す。)で表される化合物を製造する工程B2、及び該式(6)で表される化合物を、下記式(11)
【化14】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、R及びnは上記と同じ意味を表す。)で表される化合物と反応させて、上記式(5)で表される化合物を製造する工程C2、を含む方法。[7][1]乃至[3]のいずれか1つに記載の化合物又はその塩を含む、脂肪滴の検出用蛍光プローブ。
[8](a)[7]に記載の蛍光プローブを、脂肪滴を含む細胞又は脂肪滴と接触させる工程、及び(b)該細胞又は脂肪滴に対し励起光を照射して蛍光を生じさせる工程を含む
脂肪滴の検出方法
[9]さらに、(c)蛍光プローブの蛍光を測定する工程を含む、[8]に記載の方法。[10]前記(a)工程の前に、(d)[7]に記載の蛍光プローブを、生きている生物個体内(ヒトを除く)に投与する工程を含む、[8]又は[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定キノリン誘導体のキノリン環の8位に芳香環を導入することで、蛍光団共役系の延長及び分子内電荷移動状態を変化させた新規キノリン誘導体を提供できる。
また、本発明よれば、低コストに抑えられた上記キノリン誘導体の3又は4ステップの製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、高極性のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中ではほとんど蛍光発光を示さないが(蛍光量子収率1%以下)、低極性溶媒中では480-560nm付近に30-50%程度の蛍光量子収率で緑色蛍光発光することが可能な、低極性環境中でのみ特異的に蛍光発光する性質(S/N比20倍以上)を有する新規キノリン誘導体を提供できる。
そして、本発明によれば、該新規キノリン誘導体を利用して、中性脂質が集積した脂肪滴部位に対して、特異的集積性を示す蛍光発光が観察される細胞の蛍光イメージングに使用する汎用性の高い蛍光プローブを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例4で測定したTFMAQ-8Phの紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを示す図である。
図2図2は、実施例5で測定したTFMAQ-8Ph-t-Buの紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを示す図である。
図3図3は、実施例6測定したTFMAQ-8Ph-t-Buの紫外可視吸収スペクトルと蛍光スペクトルを示す図である。
図4図4(a)は、実施例8のTFMAQ-8Phを加えた3T3-L1細胞の明視野観察画像であり、図4(b)は実施例8のTFMAQ-8Phを加えた3T3-L1細胞の蛍光観察画像である。
図5図5(a)は、実施例8のTFMAQ-8Ph-t-Buを加えた3T3-L1細胞の明視野観察画像であり、図5(b)は実施例8のTFMAQ-8Ph-t-Buを加えた3T3-L1細胞の蛍光観察画像である。
図6図6(a)は、実施例8のTFMAQ-8Ph-OMeを加えた3T3-L1細胞の明視野観察画像であり、図6(b)は実施例8のTFMAQ-8Ph-OMeを加えた3T3-L1細胞の蛍光観察画像である。
図7図7は、実施例9の吸光度測定の吸光度から求めたTFMAQ-8Ph、TFMAQ-8Ph-t-Bu、TFMAQ-8Ph-OMeの各濃度における細胞生存率を示すグラフである。
図8図8は、実施例10の光照射時間に対するUV吸収スペクトルの吸光度の減少を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の化合物は、下記式(1):
【化15】
(式中、
は、水素原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基、又は置換基を有してもよいフェニル基を表し、
は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を表し、mが2以上の整数を表すとき、各々のRは互いに同一であっても又は互いに相異なってもよく、
は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基、炭素原子数1乃至10のハロアルキル基、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、又は炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を表し、nが2以上の整数を表すとき、各々のRは互いに同一であっても又は互いに相異なってもよく、
m及びnは、夫々独立して、0乃至5の整数を表す。)
で表される新規化合物又はその塩である。
【0011】
炭素原子数1乃至10のアルキル基としては、炭素原子数1乃至10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、1-メチル-シクロプロピル基、2-メチル-シクロプロピル基、n-ペンチル基、1-メチル-n-ブチル基、2-メチル-n-ブチル基、3-メチル-n-ブチル基、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル基、2,2-ジメチル-n-プロピル基、1-エチル-n-プロピル基、シクロペンチル基、1-メチル-シクロブチル基、2-メチル-シクロブチル基、3-メチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロプロピル基、2,3-ジメチル-シクロプロピル基、1-エチル-シクロプロピル基、2-エチル-シクロプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチル-n-ペンチル基、2-メチル-n-ペンチル基、3-メチル-n-ペンチル基、4-メチル-n-ペンチル基、1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2-ジメチル-n-ブチル基、1,3-ジメチル-n-ブチル基、2,2-ジメチル-n-ブチル基、2,3-ジメチル-n-ブチル基、3,3-ジメチル-n-ブチル基、1-エチル-n-ブチル基、2-エチル-n-ブチル基、1,1,2-トリメチル-n-プロピル基、1,2,2-トリメチル-n-プロピル基、1-エチル-1-メチル-n-プロピル基、1-エチル-2-メチル-n-プロピル基、シクロヘキシル基、1-メチル-シクロペンチル基、2-メチル-シクロペンチル基、3-メチル-シクロペンチル基、1-エチル-シクロブチル基、2-エチル-シクロブチル基、3-エチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロブチル基、1,3-ジメチル-シクロブチル基、2,2-ジメチル-シクロブチル基、2,3-ジメチル-シクロブチル基、2,4-ジメチル-シクロブチル基、3,3-ジメチル-シクロブチル基、1-n-プロピル-シクロプロピル基、2-n-プロピル-シクロプロピル基、1-i-プロピル-シクロプロピル基、2-i-プロピル-シクロプロピル基、1,2,2-トリメチル-シクロプロピル基、1,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、2,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、1-エチル-2-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-1-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-2-メチル-シクロプロピル基及び2-エチル-3-メチル-シク
ロプロピル基等が挙げられる。
【0012】
炭素原子数1乃至10のハロアルキル基としては上述の炭素原子数1乃至10のアルキル基において、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子からなる群から選択される少なくとも一種のハロゲン原子で置換されたアルキル基を挙げることができる。
【0013】
炭素原子数1乃至10のアルコキシ基としては、炭素原子数1乃至10のアルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペントキシ基、1-メチル-n-ブトキシ基、2-メチル-n-ブトキシ基、3-メチル-n-ブトキシ基、1,1-ジメチル-n-プロポキシ基、1,2-ジメチル-n-プロポキシ基、2,2-ジメチル-n-プロポキシ基、1-エチル-n-プロポキシ基、n-ヘキシルオキシ基、1-メチル-n-ペンチルオキシ基、2-メチル-n-ペンチルオキシ基、3-メチル-n-ペンチルオキシ基、4-メチル-n-ペンチルオキシ基、1,1-ジメチル-n-ブトキシ基、1,2-ジメチル-n-ブトキシ基、1,3-ジメチル-n-ブトキシ基、2,2-ジメチル-n-ブトキシ基、2,3-ジメチル-n-ブトキシ基、3,3-ジメチル-n-ブトキシ基、1-エチル-n-ブトキシ基、2-エチル-n-ブトキシ基、1,1,2-トリメチル-n-プロポキシ基、1,2,2,-トリメチル-n-プロポキシ基、1-エチル-1-メチル-n-プロポキシ基、及び1-エチル-2-メチル-n-プロポキシ基等が挙げられる。
【0014】
炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基としては、上述のアルキル基において、上述のアルコキシ基で置換された炭素原子数1乃至10のアルキルアルコキシ基を挙げることができる。
【0015】
置換基を有するフェニル基の置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~10のアルキル基又はアルコキシル基が挙げられ、好ましくは、炭素原子数1~5のアルキル基若しくはアルコキシル基が挙げられる。
【0016】
上記ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0017】
本発明の化合物の好ましい例は、下記式(2)で表される位化合物である。
【化16】
式(2)中、Rは水素原子又は上記Rと同じ意味を表し、好ましくは水素原子、t-ブチル基又はメトキシ基を表す。
【0018】
<式(1)で表される化合物又はその塩の製造>
また、本発明は、式(1)で表される化合物又はその塩の製造方法に関し、下記の製造方法により式(1)で表される化合物を得ることができる。
(工程A)
【化17】
式(1)で表される化合物の製造は、最初にそれ自体公知の方法で、m-フェニレンジアミンとヘキサフルオロアセチルアセトンとを環化反応させて、2,4-ジトリフルオロメチル-7-アミノキノリンを得る。この工程Aは、例えばコンベス キノリン反応に準じて反応を行うことができ、例えば、不活性溶媒中、触媒の存在下において、0℃乃至溶媒の還流温度の温度範囲で5分乃至48時間の反応を行う。
触媒としては、コンベス キノリン反応に使用可能な酸触媒、例えば、メタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびキシレンスルホン酸等の芳香族スルホン酸を包含するスルホン酸;硫酸、発煙硫酸、リン酸等の鉱酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸;三フッ化ホウ素-テトラヒドロフラン(THF)錯体、塩化アルミニウム、塩化亜鉛等のルイス酸;モンモリロナイトK-10、硫酸化ジルコニア等の固体酸等が挙げられ、好ましくはモンモリロナイトK10が挙げられる。
不活性溶媒としては、反応に関与しないものであればよく、ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素系、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン系、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系又はこれらの混合溶媒を挙げることができる、特に芳香族炭化水素系、例えばトルエンが好ましい。
例えば、不活性溶媒としてトルエン中、モンモリロナイトK10触媒の存在下、好ましくは80乃至100の温度で20分乃至3時間反応を行う。
【0019】
(工程B1)
【化18】
得られた2,4-ジトリフルオロメチル-7-アミノキノリンのアミノ基を、不活性溶媒中、触媒及び塩基の存在下、上記式(10)(式中、X、R及びmは上記と同じ意味を表す。)で表される芳香族ハロゲン化合物と反応させて、式(4)で表される化合物を得る。
式(10)で表される化合物としては、ブロモベンゼンが好ましい。
【0020】
(工程B2)
【化19】
工程B1で得られた式(4)で表される化合物を、触媒及び塩基の存在下、上記式(1
4)(式中、X及びRは上記と同じ意味を表す。)で表される化合物と反応させて、式(6)で表される化合物を得る。
式(14)で表される化合物としては、ヨウ化メチル、臭化メチル、塩化メチル、臭化エチル等のハロアルキル類又はブロモベンゼンが好ましい。
【0021】
この工程B1及びB2は、例えば、バックワルド・ハートウィッグアミノ化反応、ゴールドバーグ アミノ化反応及びジョルダン・ウルマン・ゴルトベルク反応等の公知の方法に準じて行うことができ、例えば、触媒、塩基及びリガンドの存在下において、不活性溶媒中で、室温乃至溶媒の還流温度の温度範囲にて行われる。
【0022】
触媒としては、例えばパラジウム触媒又は銅触媒を使用できる。
パラジウム触媒としては、例えば、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、酢酸パラジウム(II)またはジクロロビス(ジフェニルホスフィンフェロセニル)パラジウム(II)などの触媒が挙げられ、工程B1にはジクロロビス(ジフェニルホスフィンフェロセニル)パラジウム(II)が好ましく、工程B2には酢酸パラジウム(II)が好ましい。
【0023】
また、リガンドとしては、例えば、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリtert-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(2-メチルフェノキシ)ホスフィン、トリフェノキシホスフィン、トリメトキシホスフィン、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9’-ジメチルキサンテン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(BINAP)および1,1’-ビス(ジフェニルホスファニル)フェロセンが挙げられ、工程B1には1,1’-ビス(ジフェニルホスファニル)フェロセンが好ましく、工程B2にはトリtert-ブチルホスフィンが好ましい。
【0024】
銅触媒としては、ヨウ化銅(I)、臭化銅(I)、塩化銅(I)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)等を挙げることができる。また、リガンドとしては、例えばトランス-N,N‘-ジメチルシクロヘキサン-1,2-ジアミン等が挙げられる。
【0025】
塩基としては、例えば、酢酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸カリウムもしくは炭酸ナトリウム、水酸化バリウム、リン酸カリウム、カリウムtert-ブトキシド、フッ化カルシウム、フッ化カリウムまたはリン酸三カリウムが挙げられ、工程B1及びB2にはカリウムtert-ブトキシドが好ましい。
【0026】
不活性溶媒としては、上記に挙げた不活性溶媒を挙げることができ、特に芳香族炭化水素系、例えばトルエンが好ましい。
反応温度は室温乃至の溶媒の還流温度、好ましくは80℃乃至溶媒の還流温度である。反応時間は反応温度によって異なるが、5分~48時間、好ましくは4~12時間である。
【0027】
また、2,4-ジトリフルオロメチル-7-アミノキノリンに、1当量以上、例えば2乃至5当量の式(10)で表される化合物を反応させることで、式(4)で表される化合物と式(6)で表される化合物との混合物を得ることができる。この混合物は、各々単離して又は混合物の状態で、次の工程C1及びC2の原料として使用できる。また混合物は、例えば、シリカゲルクロマトグラフ等の公知の方法により単離することができる。
【0028】
(工程C1及びC2)
【化20】
式(4)又は(6)(式中、R、R、R及びmは、上記と同じ意味を表す。)で表される化合物を、式(11)(式中、X、R及びnは上記と同じ意味を表す。)で表される化合物と反応させて、式(3)又は式(5)(式中、R、R、R、R、m及びnは上記と同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。
式(11)で表される化合物として、ブロモベンゼン、4-tert-ブチル-1-ブロモベンゼン、4-メトキシ-1-ブロモベンゼンが好ましい。
反応は、クロスカップリング反応等の公知の方法に準じて行うことができ、例えば、不活性溶媒中、触媒、塩基及びリガンドの存在下において室温乃至溶媒の還流温度の温度範囲にて行われる。
【0029】
不活性溶媒、触媒、リガンド、塩基及び反応条件は上記に例示したものを使用できる
例えば、不活性溶媒としてトルエン、触媒として酢酸1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンパラジウム(II)ジクロリド、塩基としてカリウムtert-ブトキシドを用いることができる。
また、例えば、不活性溶媒としてトルエン、触媒として酢酸パラジウム(II)、リガンドとして1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、塩基としてカリウムtert-ブトキシドを用いることができる。
【0030】
また、反応温度及び反応時間は、使用する式(11)で表されル化合物により適宜調整でき、例えば、80℃~乃至不活性溶媒の還流温度(例えばトルエンの場合は約110℃)で30分乃至24時間、好ましくは2時間乃至18時間、例えば3時間乃至12時間である。
【0031】
また、各工程において必要に応じて精製を行うことができる。精製方法としてはクロマトグラフィー、再結晶、蒸留、昇華、再沈殿、吸着、分液処理等が挙げられる。精製剤の具体例としてはシリカゲル、NHシリカゲル、アルミナ、活性炭等が挙げられる。
【0032】
<脂肪滴の検出用蛍光プローブ>
本発明は、上記の本発明の式(1)で表される化合物又はその塩を含有する、細胞内の脂肪滴の検出用蛍光プローブである。
該蛍光プローブは、式(1)で表される化合物又はその塩を1種又は2種以上を含有しても良く、また脂肪滴の検出に用いられる公知の化合物を含んでいても良い。
脂肪滴の検出に用いられる公知の化合物としては、例えばナイルレッド、BODIPY493/503、LD450、リピッドグリーン及びSF44が挙げられる。
【0033】
本発明の式(1)で表される化合物を含む蛍光プローブは、溶媒の極性の影響を受けてスペクトルが変化するソルバトクロミズムを示し、溶媒の極性が増大するとともに蛍光発光が低下する。そして、低極性溶媒中では、例えばS/N比が10倍以上、好ましくは2
0倍以上で、強く蛍光発光するので、蛍光プローブは、ソルバトクロミックの蛍光プローブとして有用である。
【0034】
本発明の蛍光プローブは、周囲の環境によって吸収極大波長及び蛍光極大波長が変化する化合物であるから、蛍光させようとするものに併せた波長の光を照射することにより所望の蛍光を得ることができる。例えば、本発明の蛍光プローブにあわせた波長の光を照射した場合には、極性溶媒雰囲気下では本発明の蛍光プローブはほとんど励起されず蛍光しない一方、脂肪滴中のように非極性溶媒雰囲気下では本発明の蛍光プローブは蛍光する。
また、本発明の蛍光プローブは、細胞膜及び脂肪滴内部に存在しやすく、特に非極性の親油性(疎水性)部分である脂肪滴内部に存在しやすい。このことから、本発明の蛍光プローブにあわせた波長の光を照射した場合には、脂肪滴内部の本発明の蛍光プローブがより強く蛍光発色するのに対し、細胞内の脂肪滴以外に存在する蛍光プローブは蛍光発色しないので、本発明の蛍光プローブは細胞内の脂肪滴の検出に非常に有用である。
つまり、本発明の蛍光プローブを使用した場合には、細胞中の脂肪滴を必要に応じて蛍光発光させることが可能である。このため、本発明の蛍光プローブは、細胞中に脂肪滴ができた場合の挙動や、脂肪滴を含む細胞又は脂肪滴がどのように変化するのか解析が可能である。
【0035】
<脂肪滴の検出方法>
また本発明は、(a)本発明の蛍光プローブを、脂肪滴を含む細胞又は脂肪滴と接触させる工程、及び(b)該細胞に対し励起光を照射して蛍光を生じさせる工程を含む脂肪滴の検出方法である。
さらに、本発明の脂肪滴の検出方法は、(c)蛍光プローブの蛍光を測定する工程を含むことができる。
【0036】
本発明の式(1)で表される化合物又はその塩の添加量は、使用する細胞や脂肪滴の割合などによっても変化し得るが、例えば、0.01~100μM、好ましくは0.1~10μMの終濃度で脂肪滴を含む細胞に添加することができる。
本発明の化合物を溶媒に溶解させてから脂肪滴を含む細胞に添加する場合、該溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)及び生理食塩水等の極性溶媒を用いることができ、好ましくはジメチルスルホキシドである。
【0037】
本発明の式(1)で表される化合物を添加する細胞としては、脂肪滴を含む細胞であれば特に制限はなく、例えば3T3-L1細胞、単離脂肪細胞が挙げられる。また、脂肪滴を含まない細胞又は脂肪滴の含有量が少ない細胞中に人為的に脂肪滴を形成させた細胞を用いてもよい。脂肪滴を含まない細胞又は脂肪滴の含有量が少ない細胞としては、HeLa細胞、UEET-12細胞、NIH3T3細胞などが挙げられる。また、脂肪滴を形成させる方法としては、例えば、オレイン酸を細胞に添加する方法、インスリン、IBMX,DEXのカクテルを細胞に添加することにより脂肪滴を誘導する方法が挙げられる。
【0038】
本発明の脂肪滴の検出方法は、脂肪滴を含む細胞又は脂肪滴に蛍光プローブを接触させて、脂肪滴を蛍光プローブで標識し、該標識された脂肪滴に蛍光プローブにあわせた励起光を照射して蛍光させ、生じた蛍光を観察する。
【0039】
脂肪滴の標識は、蛍光プローブを脂肪滴に取り込ませること、あるいは、細胞内に取り込ませた蛍光プローブを脂肪滴に取り込ませることで行うことができる。
蛍光プローブで標識された脂肪滴に、式(1)で表される化合物を励起する励起光を照射し、蛍光顕微鏡やフローサイトメーター等のインビトロ蛍光イメージング装置を用いたインビトロ蛍光イメージングによって蛍光プローブからの蛍光を観察することができる。例えば、波長範囲が例えば300~800nm、例えば300~500、例えば350~
450nm、例えば380~480nmの励起光を照射して式(1)で表される化合物を励起し、例えば400~800nm、例えば450~600nm波長範囲の蛍光を観察する。
【0040】
本発明において、生体は、蛍光観察を行うことができる動物であれば特に限定は無い。好ましくは哺乳動物である。特に好ましくは、マウス、ラット等のげっ歯類の哺乳動物である。なお、マウス等の生体内への蛍光プローブで標識された標的細胞の移植は、後述するとおりに行うことができる。
【0041】
本発明の蛍光プローブを用いることで、インビトロ及びインビボのいずれにおいても、蛍光プローブで標識された標的細胞を観察することができる。
【0042】
また、本発明の脂肪滴の検出方法は、(d)本発明の蛍光プローブを、生きている生物個体内に投与する工程を含むことができる。
これにより、生きている生物個体内に存在する脂肪滴を含む細胞をも検出することができる。つまり、本発明の蛍光プローブは、生体内の脂肪滴を含む細胞又は該細胞から構成される脂肪組織を検出するための試薬として非常に有用である。生体内の脂肪組織としては、皮下脂肪、内臓脂肪、異所性脂肪(例えば、筋肉、肝臓、心臓、膵臓、腎臓などの臓器に蓄積する脂肪)などが挙げられる。
【0043】
例えば、倒立共焦点顕微鏡等を用いた生体分子イメージング手法等により本発明の蛍光プローブの蛍光シグナルを観測することにより、生きた状態で生体内の脂肪組織を検出することができる。
本発明の化合物の投与形態としては、例えば、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与が挙げられる。
また、本発明の化合物の投与量は、投与対象となる動物、投与形態によっても異なるが、例えば、0.01~1.0μM/kg体重、好ましくは0.05~0.5μM/kg体重の範囲で該化合物を投与することができる。
本発明の化合物を溶媒に溶解させてから生体内に投与する場合、該溶媒としては、例えば、DMSOなどを用いることが出来る。
投与対象となる生物個体としては、特に限定されず、例えば、哺乳動物(マウス、ヒト、ブタ、イヌ、ウサギなど)を含む脊椎動物や無脊椎動物が挙げられる。また、投与対象にはヒトが含まれていても含まれていなくてもよい。
【0044】
本発明の蛍光プローブは、多数(6個、24個、96個、384個等)のウェル(穴)を有するプレート、洗浄液、固定液、使用説明書等を含有した脂肪滴検出用アッセイキットとして提供することもできる。
【実施例
【0045】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の合成及び調製に用いた試薬は下記のメーカーから購入した。
(1)1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンパラジウム(II)ジクロリド:アークファーム(Ark Pharm)社
(2)カリウムtert-ブトキシド:ナカライテクス株式会社
(3)ブロモベンゼン:ナカライテクス株式会社
(4)酢酸パラジウム(II):東京化成工業株式会社
(5)1-ブロモ-4-tert-ブチルベンゼン:東京化成工業株式会社
(6)4-ブロモ兄ソール:ナカライテクス株式会社
(7)トルエン:富士フィルム和光純薬社
(8)ジメチルスルホキシド(DMSO):富士フィルム和光純薬社
【0046】
実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置は下記の通りである。
(1)赤外分光光度計(IR)
装置:日本分光社製 420FT-IR
(2)核磁気共鳴装置(NMR)
装置:ブルカーバイオスピン社製AVANCE 300
(3)高分解能質量分析装置(HRMS(ESI))
装置:日本電子データム社製 JMP-T100LP
(4)紫外可視吸収スペクトル
装置:日本分光社製 V760
(5)分光蛍光光度計・光量子収率測定
装置:JASCO FP8500
(6)共焦点レーザー顕微鏡
装置:株式会社ニコン社製 AI HD25
(7)プレートリーダー
装置:Thermo Fisher
【0047】
下記スキームに従って、2,4-ビス(トリフルオロメチル)キノリン-7-アミン(TFMAQ)、N-フェニル-2,4-ビス(トリフルオロメチル)キノリン-7-アミン(TFMAQ-Ph)、N,8-ジフェニル-2,4-ビス(トリフルオロメチル)キノリン-7-アミン(TFMAQ-8Ph)、8-(4-(ターシャリブチル)フェニル-N-フェニル-2,4-ビス(トリフルオロメチル)キノリン-7-アミン(TFMAQ-8Ph-t-Bu)、8-(4-メトキシフェニル)-N-フェニルー2,4-ビス(トリフルオロメチル)キノリン-7-アミン(TFMAQ-8Ph-OMe)を合成した。
【化21】
【0048】
実施例1:TFMAQ-8Phの合成
【化22】
文献(唐澤ら、Chem.Eur.J.2012.18.15038-15048)の方法に従ってTFMAQ及びTFMAQ-Phを合成した。
m-フェニレンジアミン1.0g(9.26mmol)及びモンモリロナイトK10 1.5gを溶解したトルエン30mL溶液に、ヘキサフルオロアセトン2.35g(11.35mmol)を添加し、90℃で1時間反応させた。反応溶液を濾過し、濾液を減圧下で約10mLに濃縮した。冷却後、得られた沈殿物を濾過により集めて、2,4-ビス(トリフルオロメチル)キノリン-7-アミン(TFMAQ)を黄色の固体2.5g(8.93mmol、収率96%)で得た。
また、酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒で再結晶することで黄色単結晶を得た。
【0049】
次いで、窒素置換したシュレンク管に、得られたTFMAQ1.0g(3.6mmol)、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)0.3g(0.54mmol)、ジクロロ[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロロメタン付加物0.15g(0.18mmol)、カリウムtert
-ブトキシド0.44g(4.0mmol)及び凍結脱気したトルエン5mLを加えて溶解させた。この溶液に、ブロモベンゼン0.75mL(7.1mmol)を添加し、窒素雰囲気下、100℃で6時間反応させた。この反応溶液に水を加え、酢酸エチル50mLで3回抽出した。合わせた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で蒸発させた。残留物を展開溶媒(ヘキサン:酢酸エチル=100:1)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、N-フェニル-2,4-ビス(トリフルオロメチル)キノリン-7-アミン(TFMAQ-Ph)を、淡黄色固体0.91g(2.56mmol、収率72%)で得た。
また、エタノール/ヘキサン(10:3)混合溶媒(4℃)で再結晶することで黄色板状結晶を得、またエタノール/ヘキサン(1:10)混合溶媒(20℃)で再結晶することで黄色ブロック状結晶を得た。
【0050】
得られたTFMAQ-Ph26mg(0.073mmol)、ジクロロ[1,1’-ビス(フィフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)(18.3mol%)、カリウムt-ブトキシド34.9mg(0.31mmol)をシュレンク管に入れた。脱気したシュレンク管にトルエンを加え、窒素雰囲気下でブロモベンゼン0.030mL(0.28mmol)を加えて、110℃で加熱した。3時間後加熱を止め、反応溶液をセライト濾過し、濾液に水を加えジエチルエーテルで3回抽出した。合わせた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、展開溶媒(ヘキサン:酢酸エチル=30:1)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーによって精製した。TFMAQ-8Phの淡黄色固体27.7mg(0.064 mmol)を87.7%で得た。
また、ヘキサン、酢酸エチル混合溶媒で再結晶することで淡黄色針状結晶を得た。
IR (KBr) 3380.6, 2924.5, 1597.7, 1499.4, 1269.9, 1210.1, 1139.7, 896.7, 749.2, 704.9 cm-1.
1H-NMR (CDCl3, 600 MHz):δ8.06 (dd, J= 1.9, 9.4 Hz, 1H), 7.83 (d, J= 9.5 Hz, 1H), 7.74 (s, 1H), 7.55 (t, J= 7.5 Hz, 2H), 7.48 - 7.44 (m, 3H), 7.35 (t, J= 7.9 Hz, 2H), 7.15 (d, J= 7.7 Hz, 2H), 7.12 (t, J= 7.4 Hz, 1H), 6.13 (s, 1H) ppm.
13C-NMR (CDCl3, 150 MHz):148.2, 147.3(q, J=35.3 Hz),144.2, 140.9, 136.1(q, J=31.9 Hz), 134.3, 131.3, 130.1, 129.8, 129.0, 128.2, 126.3, 126.1, 124.7, 124.2, 123.9, 122.4, 122.1, 121.7, 121.1, 120.2, 118.4, 110.6 ppm.
ESI-HRMS: Calcd. for [C23H14F6N2] 433.1139 [M+H]+, Found 433.1111.
【0051】
実施例2:TFMAQ-8Ph-t-Buの合成
【化23】
実施例1で合成したTFMAQ-Ph200mg(0.56mmol)、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(DPPF)46.6mg(15mol%)、酢酸パラジウム6.29mg(5mol%)、及びカリウムtert-ブトキシド94.3mg(0.84mmol)をシュレンク管に入れ、凍結脱気(freeze & thaw)を5回行ったトルエンを加え、シュレンク管を窒素雰囲気下にした。そこに、1-ブロモ-4-tert-ブチルベンゼン0.3mL(1.68mmol)を加えて、窒素雰囲気下のまま110℃で加熱した。8時間後加熱を止め、酢酸エチルで抽出を行い、乾燥させ、展開溶媒(ヘキサン)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーより精製した。TF
MAQ-8Ph-t-Buの淡黄色固体82.3mg(0.17mmol、収率30.1%)で得た。
また、DMSOに溶解させ凍結乾燥させることにより黄緑色針状結晶を得た。
IR (KBr) 3389.3, 2966.0, 1592.9, 1501.3, 1436.7, 1274.7, 1133.0, 1021.1, 876.5, 679.8 cm-1.
1H-NMR (CDCl3, 600 MHz) :δ8.04 (dd, J= 1.6, 9.4 Hz, 1H), 7.81 (d, J= 9.4 Hz, 1H), 7.73 (s, 1H), 7.55 (dd, J= 1.6, 6.7 Hz, 2H), 7.39 (d, J= 8.3 Hz, 2H), 7.35 (t, J= 7.9 Hz, 2H), 7.17 (d, J= 7.7 Hz, 2H), 7.12 (t, J= 7.4 Hz, 1H), 6.22 (s, 1H), 1.41 (s, 9H)ppm.
13C-NMR (CDCl3, 150 MHz):δ150.9, 148.2, 147.2 (q, J= 35.3 Hz), 144.4, 141.1, 136.0 (q, J= 32.0 Hz), 131.0, 130.9, 129.8, 125.9, 124.7, 124.1, 123.7, 121.8, 121.1, 120.3, 118.5, 110.6, 34.9, 31.5 ppm.
ESI-HRMS: Calcd. for [C27H22F6N2] 489.1765 [M+H]+, Found 489.1801.
【0052】
実施例3:TFMAQ-8Ph-OMeの合成
【化24】
TFMAQ-Ph300mg(0.84mmol)、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(DPPF)40mg(15mol%)、酢酸パラジウム9.45mg(5mol%)、カリウムtert-ブトキシド141.8mg(1.5eq)をシュレンク管に入れ、凍結脱気を5回行ったトルエンを加え、窒素雰囲気下にした。そこに、4-ブロモアニソール0.26ml(3.0eq)を加えて、窒素雰囲気下のまま110℃で加熱した。12時間後加熱を止め、ジエチルエーテルで抽出を行い、乾燥させ、展開溶媒(ヘキサン:酢酸エチル=40:1)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーより精製した。TFMAQ-8Ph-OMeの淡黄色固体131.8mgを33.8%で得た。
また、ヘキサン/メタノールで溶解後、0℃に冷却することで黄色結晶を得た。
IR (KBr) 3398.0, 2924.5, 1592.9, 1435.7, 1278.6, 1251.6, 1180.2, 1128.2, 874.6, 691.4 cm-1.
δ1H NMR (600 MHz, CDCl3) :δ 8.03 (dd, J= 1.9, 9.5 Hz, 1H), 7.82 (d, J= 9.4 Hz,
1H), 7.72 (s, 1H), 7.37 (d, J= 8.8 Hz, 2H), 7.34 (t, J= 8.0 Hz, 2H), 7.15 (d, J= 8.6 Hz, 2H), 7.11 (t, J= 8.4 Hz, 1H), 7.08 (d, J= 8.7 Hz, 2H), 6.17 (s, 1H), 3.90 (s, 3H) ppm.
13C-NMR (CDCl3, 150 MHz):δ159.4, 148.3, 147.2 (q, J= 35.6 Hz), 144.3, 141.1, 136.1 (q, J= 32.1 Hz), 132.5, 129.8, 127.9, 126.1, 124.6, 124.0, 123.7, 122.4, 122.1, 121.5, 121.1, 120.3, 118.5, 114.5, 110.6, 55.4.
ESI-HRMS: Calcd. for [C24H16F6N2O] 485.1065 [M+Na]+, Found 485.1096
【0053】
実施例4:スペクトル測定
実施例1で合成したTFMAQ-8Phを、n-ヘキサン、クロロホルム、酢酸エチル又はジメチルスルホキシドに溶解して得られた溶液50μmol/Lの紫外可視吸収スペクトルと蛍光スペクトルを測定した結果を図1に示す。
図1中、左軸はモル吸光係数を表し、右軸は正規化蛍光強度を表す。
【0054】
実施例5:スペクトル測定
実施例2で合成したTFMAQ-8Ph-t-Buを、n-ヘキサン、クロロホルム、酢酸エチル又はジメチルスルホキシドに溶解して得られた溶液50μmol/Lの紫外可視吸収スペクトルと蛍光スペクトルを測定した結果を図2に示す。
図2中、左軸はモル吸光係数を表し、右軸は正規化蛍光強度を表す。
【0055】
実施例6:スペクトル測定
実施例3で合成したTFMAQ-8Ph-t-OMeを、n-ヘキサン、クロロホルム、酢酸エチル又はジメチルスルホキシドに溶解して得られた溶液50μmol/Lの紫外可視吸収スペクトルと蛍光スペクトルを測定した結果を図3に示す。
図3中、左軸はモル吸光係数を表し、右軸は正規化蛍光強度を表す。
【0056】
実施例7:
実施例4乃至実施例6の紫外可視吸収スペクトルと蛍光スペクトルの測定結果から得られた、TFMAQ-8Ph, TFMAQ-8Ph-t-Bu, TFMAQ-8Ph-OMeの各溶媒における吸収極大(λab max)、蛍光極大(λfl max)及び蛍光光量子収率(φfl)を下記表1に示す。なお、表1中のn.d.は検出できなかったことを表す。
【表1】
【0057】
表1より、本発明の化合物は、溶媒の極性が増加するに従って、吸収極大及び蛍光極大が長波長側にシフト(レッドシフト)し、蛍光光量子収率が低下し、DMSO溶媒中では蛍光光量子収率(φfl)が1未満と低く蛍光発色が観察されないことが明らかである。
したがって、本発明の化合物は、脂肪滴検出用の蛍光プローブとして非常に有用なことが理解できる。
【0058】
実施例8:TFMAQ-8Phの脂肪細胞への取り込み
脂肪組織に分化する3T3-L1細胞を用いて、実施例1で合成したTFMAQ-8Phの取り込みについて検討を行った。3T3-L1細胞にイソブチルメチルキサンチン、インスリン、デキサメタゾンを添加することで細胞内にトリグリセリドやコレステロールなどから成る脂肪滴を含む脂肪細胞を形成した。脂肪細胞に分化した3T3-L1細胞の培養液中にTFMAQ-8Phの1μM DMSO溶液を添加し、5%CO雰囲気下、37℃で30分間インキュベートを行い、共焦点レーザー顕微鏡を用いて明視野観察(倍率:40倍)及び蛍光観察(倍率:40倍)を行った。
実施例2で合成したTFMAQ-8Ph-t-Bu及び実施例3で合成したTFMAQ-8Ph-OMeについても同様の操作を行った。
TFMAQ-8Ph、TFMAQ-8Ph-t-Bu又はTFMAQ-8Ph-OMeを添加した3T3-L1細胞の明視野観察画像及び蛍光観察画像を図4乃至図6に示す。
図4乃至図6より、本発明の蛍光プローブは、細胞内の脂肪滴を特異的に検出できることが示された。
【0059】
実施例9:MTSアッセイ法による細胞増殖阻害試験
96ウェルプレートに1ウェルあたりHeLa細胞1.0×10cellを播種し、COインキュベーター中37℃で24時間インキュベートした。化合物を各濃度(1,10,50,100μM)加え、2時間インキュベートした後に各ウェルをDMEM培地で洗浄した。ウェルにDMEM培地とCellTiter 96(登録商標)を加えてCOインキュベーター中37℃で4時間インキュベートした後に、490nmの吸光度を測定することで細胞生存率を算出した(n=3)。化合物濃度と細胞生存率の結果を図7に示す。
図7より、本発明の化合物を添加した細胞の生存率は高く、本発明の化合物は細胞毒性を有さないことが期待できる。
【0060】
実施例10:光安定性試験
1cm角の石英セルに実施例1乃至3で製造したTFMAQ-8Ph、TFMAQ-8Ph-t-Bu及びTFMAQ-8Ph-OMe、並びにLipiDye(登録商標)、ナイルレッドの20μMメタノール溶液を2mL加えて、溶液に高圧水銀ランプ(1000W、ウシオ電機株式会社製)を60分間照射した。光照射開始後、任意の時間毎に溶液のUV吸収スペクトルを測定し、吸光度の減少率を算出することで光安定性を評価した。各化合物の光照射時間に対する正規化吸光度を図8に示す。
図8より、本発明の化合物は従来のナイルレッドよりも優れた光安定性を有し、またLipiDye(登録商標)と同程度の光安定性を有することが示された。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8