(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】ハイドロゲル粒子およびその製造方法、ハイドロゲル粒子を内包する細胞または細胞構造体、ハイドロゲル粒子を用いた細胞活性の評価方法、並びにハイドロゲル粒子の徐放性製剤としての使用
(51)【国際特許分類】
C08J 3/075 20060101AFI20230127BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20230127BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230127BHJP
A61K 31/70 20060101ALI20230127BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230127BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230127BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20230127BHJP
A61K 49/06 20060101ALI20230127BHJP
A61K 49/18 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
C08J3/075 CEP
C08J3/12 Z
A61K9/14
A61K31/70
A61K47/02
A61K47/42
A61K49/00
A61K49/06
A61K49/18
(21)【出願番号】P 2019550517
(86)(22)【出願日】2018-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2018041035
(87)【国際公開番号】W WO2019088292
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2017213707
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599029420
【氏名又は名称】田畑 泰彦
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠
(72)【発明者】
【氏名】乾 智惠
(72)【発明者】
【氏名】平山 奈津実
(72)【発明者】
【氏名】前澤 明弘
(72)【発明者】
【氏名】田畑 泰彦
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/110746(WO,A1)
【文献】特開2008-150596(JP,A)
【文献】国際公開第2008/016163(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/111232(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28、99/00
C08L 1/01-101/14
B01J 13/00
A61B 5/055
A61K 9/00-9/72、31/33-33/44
47/00-47/69、49/00-50/00
A61L 17/00-33/18
A61P 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類、タンパク質またはポリアミノ酸を材料とするハイドロゲルである第1のハイドロゲルで構成されるドメインと、
前記ドメインを内包する、前記第1のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる
ハイドロゲルであり、糖類、タンパク質またはポリアミノ酸を材料とするハイドロゲルである第2のハイドロゲルで構成されるマトリクスと、
少なくとも前記第1のハイドロゲルに担持されている磁性体粒子と
を含
み、
かつ、以下の要件のうち少なくとも1つを満たす、
(i)前記磁性体粒子が、前記複数のドメインのみに含まれる、
(ii)前記マトリクスおよび前記複数のドメインのいずれか一方のみに薬剤が含まれる、および
(iii)2種以上の薬剤が別のハイドロゲルに担持されている
ハイドロゲル粒子。
【請求項2】
前記磁性体粒子は、前記第1のハイドロゲルおよび前記第2のハイドロゲルに担持されている、請求項1に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項3】
平均粒径が30nm以上2000nm以下である、請求項1または2に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項4】
前記第1のハイドロゲルおよび前記第2のハイドロゲルの少なくとも一方がゼラチンである、請求項1~3のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項5】
前記第2のハイドロゲルがゼラチンである、請求項4に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項6】
前記第1のハイドロゲルの細胞内分解性が、前記第2のハイドロゲルよりも低い、請求項1~5のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項7】
前記磁性体粒子の平均粒径が2nm以上25nm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項8】
前記磁性体粒子が、Fe
3O
4である、請求項1~7のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項9】
前記第1のハイドロゲルおよび前記第2のハイドロゲルの少なくとも一方に担持された少なくとも1種の薬剤をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項10】
前記薬剤が核酸である、請求項9に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項11】
前記核酸がsiRNAである、請求項10に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項12】
少なくとも1種の追加ドメインをさらに含み、前記追加ドメインは、前記第1のハイドロゲルおよび第2のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる他のハイドロゲルで構成され、前記他のハイドロゲルは、磁性体粒子および薬剤からなる群より選ばれる少なくとも1種が担持されている、請求項1~11のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項13】
前記磁性体粒子、または前記磁性体粒子と薬剤を細胞内で徐放する、請求項1~12のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項14】
前記ハイドロゲル粒子が少なくとも2種の薬剤を含み、前記少なくとも2種の薬剤は、それぞれ独立に、細胞内で徐放される、請求項13に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項15】
糖類、タンパク質またはポリアミノ酸を材料とするハイドロゲルである第1のハイドロゲルと磁性体粒子とを混合して、前記第1のハイドロゲルと前記磁性体粒子とを含む第1のスラリーを得、
前記第1のスラリーを加温する、または前記第1のスラリーに相分離誘起剤を添加し、
前記磁性体粒子を含む第1のハイドロゲルを粒状化して、磁性体粒子含有微粒子を得、
前記第1のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる
ハイドロゲルであり、糖類、タンパク質またはポリアミノ酸を材料とするハイドロゲルである第2のハイドロゲルと、前記磁性体粒子含有微粒子とを混合して、前記第2のハイドロゲルと前記磁性体粒子含有微粒子とを含む第2のスラリーを得、
前記第2のスラリーを加温する、または前記第2のスラリーに相分離誘起剤を添加し、前記磁性体粒子含有微粒子を含む第2のハイドロゲルを粒状化
して、
以下の要件のうち少なくとも1つを満たす、ハイドロゲル粒子を得る
(i)前記磁性体粒子が、前記複数のドメインのみに含まれる、
(ii)前記マトリクスおよび前記複数のドメインのいずれか一方のみに薬剤が含まれる、および
(iii)2種以上の薬剤が別のハイドロゲルに担持されている
ハイドロゲル粒子の製造方法。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子を細胞膜の内側に有する、ハイドロゲル粒子内包細胞。
【請求項17】
請求項16のハイドロゲル粒子内包細胞を含む、ハイドロゲル粒子内包細胞構造体。
【請求項18】
複数の細胞がシート状に凝集した細胞シート、複数の細胞が球状に凝集したスフェロイド、細胞集団を膜で包んだ細胞ビーズ、およびビーズ表面に細胞を接着した細胞ビーズからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項17に記載のハイドロゲル粒子内包細胞構造体。
【請求項19】
前記ハイドロゲル粒子内包細胞構造体が、請求項16のハイドロゲル粒子内包細胞と、高分子溶液との混合物から形成されたものである、請求項17または18に記載のハイドロゲル粒子内包細胞構造体。
【請求項20】
糖類、タンパク質またはポリアミノ酸を材料とするハイドロゲルである第1のハイドロゲルで構成されるドメインと、前記ドメインを内包する、前記第1のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる
ハイドロゲルであり、糖類、タンパク質またはポリアミノ酸を材料とするハイドロゲルである第2のハイドロゲルで構成されるマトリクスと、少なくとも前記第1のハイドロゲルに担持されている磁性体粒子とを含
み、かつ、以下の要件のうち少なくとも1つを満たすハイドロゲル粒子を生細胞に導入し、
(i)前記磁性体粒子が、前記複数のドメインのみに含まれる、
(ii)前記マトリクスおよび前記複数のドメインのいずれか一方のみに薬剤が含まれる、および
(iii)2種以上の薬剤が別のハイドロゲルに担持されている
前記磁性体粒子に由来する信号を用いて、前記生細胞のMRI画像を得、
得られたMRI画像に基づき、前記生細胞の細胞活性を評価する方法。
【請求項21】
前記ハイドロゲル粒子が、前記第1のハイドロゲルおよび前記第2のハイドロゲルの少なくとも一方に担持された少なくとも1種の薬剤をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
糖類、タンパク質またはポリアミノ酸を材料とするハイドロゲルである第1のハイドロゲルで構成されるドメインと、
前記ドメインを内包する、前記第1のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる
ハイドロゲルであり、糖類、タンパク質またはポリアミノ酸を材料とするハイドロゲルである第2のハイドロゲルで構成されるマトリクスと、
少なくとも前記第1のハイドロゲルに担持されている磁性体粒子と
前記第1のハイドロゲルおよび前記第2のハイドロゲルの少なくとも一方に担持された少なくとも1種の薬剤と
を含
み、
かつ、以下の要件のうち少なくとも1つを満たすハイドロゲル粒子の、徐放性製剤としての使用。
(i)前記磁性体粒子が、前記複数のドメインのみに含まれる、
(ii)前記マトリクスおよび前記複数のドメインのいずれか一方のみに薬剤が含まれる、および
(iii)2種以上の薬剤が別のハイドロゲルに担持されている
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル粒子およびその製造方法、ハイドロゲル粒子を内包する細胞または細胞構造体、ハイドロゲル粒子を用いた細胞活性の評価方法、並びにハイドロゲル粒子の徐放性製剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生細胞の内部に試薬等を直接導入する技術に対する要求が高まっている。たとえば、生細胞に造影剤を導入すれば、非破壊で細胞の活性を検査することができる。また、造影剤を導入した細胞を患者に移植すれば、移植した細胞が定着したか否かを、移植部位を再切開せずに、低侵襲で外部から観察することができる。
【0003】
生細胞に造影剤などを導入するための技術として、磁性体ナノ粒子等のMRI造影剤を内包したリポソームが挙げられる。例えば、特許文献1には、磁性微粒子を内包したリポソームに、抗HMW-MAA抗体を結合したものが開示されている。また、特許文献2には、ブロック共重合体と化合物とを含むミセルを封入したリポソームが開示されている。このリポソームはDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)としての使用を目的としたものである。
【0004】
さらに、MRI造影剤の細胞集積性などを高める目的で、磁性体ナノ粒子を糖鎖で被覆したMRI造影剤が特許文献3に開示されている。また、非特許文献1には、ゼラチンで被覆した酸化鉄ナノ粒子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-273740号公報
【文献】特開2008-214324号公報
【文献】特開2010-208979号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Tomitaka, A. et al. "Preparation of biodegradable iron oxide nanoparticles with gelatin for magnetic resonance imaging" Inflammation and Regeneration, 2014; Vol.34, No.1, pp.45-55
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に記載のようなリポソームは、生体適合性が十分ではなく、細胞によって分解されやすいため、内包物質がの放出を制御することが難しい。一方、特許文献3に記載のような糖粒子は、生体適合性は良好である。しかし、糖鎖の溶解性は制御が難しいため、内包物の放出を制御することは難しい。
【0008】
また、非特許文献1に記載のようなゼラチンを用いた粒子も、細胞自らの活動による細胞内への取り込みが可能である。しかしながら、本発明者らの知見によれば、内部ドメインなどを有していない、1種類のゼラチンからなる粒子についても、より長期間にわたる内包物の維持を達成することが望まれている。
【0009】
よって、リポソーム、糖粒子、および1種類のゼラチンからなる粒子を用いて生細胞に造影剤などの物質を導入しても、内包された物質の全量が短期間に放出されるため、細胞内の物質濃度が急激に上昇することが予想される。そして、細胞内において急激に増えた物質は、細胞のエキソサイトーシスによって細胞外へ吐き出されるため、粒子に多量の物質を内包させても、細胞内の物質濃度を長期に渡り維持することは困難であった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、細胞自らの活動により取り込まれ、且つ内包する磁性体粒子の細胞内での放出を制御して、細胞内に磁性体粒子を長期間維持することが可能なハイドロゲル粒子、そのようなハイドロゲル粒子を内包する細胞または細胞構造体、およびそのようなハイドロゲル粒子を用いた細胞活性の評価方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題は、以下の手段によって解決される。
[1] 第1のハイドロゲルで構成されるドメインと、
前記ドメインを内包する、前記第1のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる第2のハイドロゲルで構成されるマトリクスと、
少なくとも前記第1のハイドロゲルに担持されている磁性体粒子と
を含む、ハイドロゲル粒子。
[2] 前記磁性体粒子は、前記第1のハイドロゲルおよび前記第2のハイドロゲルに担持されている、[1]に記載のハイドロゲル粒子。
[3] 平均粒径が30nm以上2000nm以下である、[1]または[2]に記載のハイドロゲル粒子。
[4] 前記第1のハイドロゲルおよび前記第2のハイドロゲルの少なくとも一方がゼラチンである、[1]~[3]のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
[5] 前記第2のハイドロゲルがゼラチンである、[4]に記載のハイドロゲル粒子。
[6] 前記第1のハイドロゲルの細胞内分解性が、前記第2のハイドロゲルよりも低い、[1]~[5]のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
[7] 前記磁性体粒子の平均粒径が2nm以上25nm以下である、[1]~[6]のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
[8] 前記磁性体粒子が、Fe3O4である、[1]~[7]のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
[9] 前記第1のハイドロゲルおよび前記第2のハイドロゲルの少なくとも一方に担持された少なくとも1種の薬剤をさらに含む、[1]~[8]のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
[10] 前記薬剤が核酸である、[9]に記載のハイドロゲル粒子。
[11] 前記核酸がsiRNAである、[10]に記載のハイドロゲル粒子。
[12] 少なくとも1種の追加ドメインをさらに含み、前記追加ドメインは、前記第1のハイドロゲルおよび第2のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる他のハイドロゲルで構成され、前記他のハイドロゲルは、磁性体粒子および薬剤からなる群より選ばれる少なくとも1種が担持されている、[1]~[11]のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
[13] 前記磁性体粒子、または前記磁性体粒子と薬剤を細胞内で徐放する、[1]~[12]のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子。
[14] 前記ハイドロゲル粒子が少なくとも2種の薬剤を含み、前記少なくとも2種の薬剤は、それぞれ独立に、細胞内で徐放される、[13]に記載のハイドロゲル粒子。
[15] 第1のハイドロゲルと磁性体粒子とを混合して、前記第1のハイドロゲルと前記磁性体粒子とを含む第1のスラリーを得、
前記第1のスラリーを加温する、または前記第1のスラリーに相分離誘起剤を添加し、前記磁性体粒子を含む第1のハイドロゲルを粒状化して、磁性体粒子含有微粒子を得、
前記第1のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる第2のハイドロゲルと、前記磁性体粒子含有微粒子とを混合して、前記第2のハイドロゲルと前記磁性体粒子含有微粒子とを含む第2のスラリーを得、
前記第2のスラリーを加温する、または前記第2のスラリーに相分離誘起剤を添加し、前記磁性体粒子含有微粒子を含む第2のハイドロゲルを粒状化する、
ハイドロゲル粒子の製造方法。
[16] [1]~[14]のいずれか一項に記載のハイドロゲル粒子を細胞膜の内側に有する、ハイドロゲル粒子内包細胞。
[17] [16]のハイドロゲル粒子内包細胞を含む、ハイドロゲル粒子内包細胞構造体。
[18] 複数の細胞がシート状に凝集した細胞シート、複数の細胞が球状に凝集したスフェロイド、細胞集団を膜で包んだ細胞ビーズ、およびビーズ表面に細胞を接着した細胞ビーズからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[17]に記載のハイドロゲル粒子内包細胞構造体。
[19] 前記ハイドロゲル粒子内包細胞構造体が、[16]のハイドロゲル粒子内包細胞と、高分子溶液との混合物から形成されたものである、[17]または[18]に記載のハイドロゲル粒子内包細胞構造体。
[20] 第1のハイドロゲルで構成されるドメインと、前記ドメインを内包する、前記第1のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる第2のハイドロゲルで構成されるマトリクスと、少なくとも前記第1のハイドロゲルに担持されている磁性体粒子とを含むハイドロゲル粒子を生細胞に導入し、
前記磁性体粒子に由来する信号を用いて、前記生細胞のMRI画像を得、
得られたMRI画像に基づき、前記生細胞の細胞活性を評価する方法。
[21] 前記ハイドロゲル粒子が、前記第1のハイドロゲルおよび前記第2のハイドロゲルの少なくとも一方に担持された少なくとも1種の薬剤をさらに含む、[20]に記載の方法。
[22] 第1のハイドロゲルで構成されるドメインと、
前記ドメインを内包する、前記第1のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる第2のハイドロゲルで構成されるマトリクスと、
少なくとも前記第1のハイドロゲルに担持されている磁性体粒子と
前記第1のハイドロゲルおよび前記第2のハイドロゲルの少なくとも一方に担持された少なくとも1種の薬剤と
を含む、ハイドロゲル粒子の、徐放性製剤としての使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細胞自らの活動により取り込まれ、且つ内包する磁性体粒子の細胞内での放出を制御して、細胞内に磁性体粒子を長期間維持することが可能なハイドロゲル粒子およびその製造方法、そのようなハイドロゲル粒子を内包する細胞または細胞構造体、ならびにそのようなハイドロゲル粒子を用いた細胞活性の評価方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前記の課題を解決すべく、本発明者らは、磁性体粒子を内包するハイドロゲル粒子の細胞内における放出挙動について鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは、架橋度または組成の異なる少なくとも2種のハイドロゲルを含むハイドロゲル粒子であって、第1のハイドロゲルで構成されるドメインと、前記ドメインを内包する、第2のハイドロゲルで構成されるマトリクスとを含み、磁性体粒子が少なくとも第1のハイドロゲルに担持されているハイドロゲル粒子は、細胞自らの活動による取り込みがなされやすく、且つ磁性体粒子の放出を制御して、細胞内に磁性体粒子を長期間維持することが可能であることを見いだした。その理由は次のように考えられる。
【0014】
ハイドロゲルは生体適合性の材料であるため、ハイドロゲルを主成分とする粒子は、細胞によって異物と認識されにくく、エンドサイトーシス等により細胞内に取り込まれやすい。その一方で、ハイドロゲルは細胞内で分解されやすく、長期間にわたる内包物の維持を達成することが望まれていた。分解されにくい組成のハイドロゲルや架橋度の高いハイドロゲルを使用したり、粒子の粒径を大きくしたりすることで、細胞内におけるハイドロゲル粒子の分解に要する時間を長くすることはできるものの、ハイドロゲル粒子の内包する物質を数日から数週間といった長期間にわたり維持することは困難であった。
【0015】
そこで、本発明者らは、架橋度または組成の異なる第1と第2のハイドロゲルを使用して、磁性体粒子を内包する粒子を作製した。具体的には、磁性体粒子を担持した第1のハイドロゲルを含む微粒子を作製し、当該微粒子を第2のハイドロゲルで覆うことによって、第1のハイドロゲルで構成されるドメインと、当該ドメインを内包する、第2のハイドロゲルで構成されるマトリクスとを含むハイドロゲル粒子を作製した。作製した粒子は、1種のハイドロゲルからなる粒子と同様に、細胞自らの活動により細胞に取り込ませることができた。細胞内に取り込まれたハイドロゲル粒子は、初めに第2のハイドロゲルで構成されるマトリクスが分解され、その分解に伴い、ドメインを構成していた、第1のハイドロゲルを含む微粒子が徐々に細胞質に放出されると考えられる。そして放出された第1のハイドロゲルを含む微粒子が細胞内で分解されて、第1のハイドロゲルに担持されていた磁性体粒子が細胞内に放出されると考えられる。このようにハイドロゲル粒子から磁性体粒子が放出されるまでの分解工程が多段階で行われるようにすることによって、磁性体粒子の細胞への導入から完全代謝までの期間を延長することが可能になる。また、一度に多量の磁性体粒子が細胞内に放出されるのを防止することによって、エキソサイトーシスによる磁性体粒子の細胞外への排出は抑制されると考えられる。
【0016】
よって、上述したハイドロゲル粒子の使用によって、多量の磁性体粒子を細胞内に長期間維持することが可能となるため、ハイドロゲル粒子を有する細胞の検出を、高い検出性をもって長期間にわたり継続することが可能となる。
【0017】
以下、本発明の代表的な実施形態を詳細に説明する。
【0018】
1.ハイドロゲル粒子
本実施形態は、第1のハイドロゲルで構成されるドメインと、当該ドメインを内包する、第1のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる第2のハイドロゲルで構成されるマトリクスと、少なくとも第1のハイドロゲルに担持されている磁性体粒子とを含む、ハイドロゲル粒子に係る。初めに、ハイドロゲルを構成する原料について説明する。
【0019】
1-2.ハイドロゲル
上記ハイドロゲルとは、水を溶媒としてゲルを形成可能な材料であり、典型的には、網目構造を形成する親水性の高分子と、上記網目構造に取り込まれた水とを含むものである。本発明のハイドロゲル粒子に含まれるハイドロゲルとしては、細胞内で加水分解されるか、または細胞内で分泌される酵素やライソゾームにより分解される材料であればよい。
【0020】
ハイドロゲルの例には、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸、アガロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、およびペクチンなどの多糖類、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、およびアルブミンなどのタンパク質、ポリ-γ-グルタミン酸、ポリ-L-リジン、およびポリアルギニンなどのポリアミノ酸、ならびに、アクリルアミド、シリコーン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、およびポリビニルピロリドンなどの合成高分子が含まれる。
【0021】
これらのうち、生細胞自らによって細胞内に取り込まれやすくして、取り込みの際の生細胞の損傷などを抑制可能とする観点からは、多糖類、タンパク質およびポリアミノ酸が好ましい。さらに、細胞による取り込み、入手または作製の容易さからは、多糖類およびタンパク質がより好ましく、ゼラチンがさらに好ましい。
【0022】
ハイドロゲル粒子が含有する水の量は特に限定されないが、膨潤処理後において、ハイドロゲル粒子の全質量に対して1質量%以上99質量%以下であることが好ましく、10質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
なお、本明細書において、膨潤処理後のハイドロゲル粒子とは、乾燥時のハイドロゲル粒子を40℃の水中に大気圧下で60分間浸漬して得られるハイドロゲル粒子を意味する。また、本明細書において、乾燥時のハイドロゲル粒子とは、80℃の大気中に24時間静置した後のハイドロゲル粒子を意味する。
【0024】
ゼラチンとは、アミノ酸測定装置で分析した際、アミノ酸1000残基の内、グリシンが300以上含まれており、アラニン、プロリン両方を含むタンパク質である。ゼラチンは、粒子を形成することができればよく、牛骨、牛皮、豚皮、豚腱、魚鱗および魚肉などに由来するコラーゲンを変性して得られる、公知のいかなるゼラチンを用いてもよい。ゼラチンは、以前から食用や医療用に使用されており、体内に摂取しても人体に害を与えることが少ない。また、ゼラチンは生体内で分散消失するため、生体内から除去する必要がないという利点を有する。なお、上記ゼラチンは、粒子化した際に細胞内への取り込みが可能な限りにおいて、ゼラチン以外の成分を含有してもよい。なお、上記ゼラチン以外の成分の量は、体内に摂取したときに人体に与える害が無視できる範囲であることが好ましい。また、上記ゼラチン以外の成分は、生体内に蓄積せず排出されやすい物質からなることが好ましい。
【0025】
ゼラチンの重量平均分子量は、ハイドロゲル粒子を形成しやすくする観点から、1000以上100000以下であることが好ましい。上記重量平均分子量は、たとえばパギイ法第10版(2006年)に準じて測定された値とすることができる。
【0026】
ゼラチンは、架橋していてもよい。架橋は、架橋剤による架橋でもよいし、架橋剤を用いずになされる自己架橋でもよい。
【0027】
上記架橋剤は、たとえば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基およびイミダゾール基などと化学結合を作る官能基を複数有する化合物であればよい。このような架橋剤の例には、グルタルアルデヒド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)および1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド-メト-p-トルエンスルホナート(CMC)を含む水溶性カルボジイミド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルおよびグリセロールポリグリシジルエーテルを含む2以上のエポキシ基を有する化合物、ならびにプロピレンオキサイドが含まれる。これらのうち、反応性をより高める観点からは、グルタルアルデヒドおよびEDCが好ましく、グルタルアルデヒドがより好ましい。
【0028】
上記自己架橋の例には、熱の付与または電子線もしくは紫外線の照射による架橋が含まれる。
【0029】
ハイドロゲル粒子は、架橋度または組成の異なる少なくとも2種のハイドロゲル(第1と第2のハイドロゲル)を含む。第1と第2のハイドロゲルは、上述したハイドロゲルの中から選択すればよく、架橋度の異なるハイドロゲルの組合わせ、組成の異なるハイドロゲルの組み合わせのいずれでもよい。
【0030】
尚、ハイドロゲルの組成の違いとは、例えばTEM-EDS測定によって検出される官能基等、即ち、S原子、N原子、O原子、C原子、H原子の比率、の違いである。ハイドロゲル粒子の断面サンプルを作製し、TEM-EDS測定を行うことで、S原子、N原子、O原子、C原子等の比率の違いを検出することができる。本発明において、ハイドロゲルの組成が異なるとは、ハイドロゲルを構成するS原子、N原子、O原子、C原子、H原子のうちの少なくとも1種の含量が、2%以上異なることと定義する。
【0031】
ハイドロゲルの架橋度の違いとは、例えばTEM-EELS測定によって検出される密度の違いである。この密度の違いは、TEM-EELSの損失スペクトルの違いとして確認することができる。本発明において架橋度が異なるとは、TEM-EELSの損失スペクトルにおけるいずれかのエネルギーバンドのシグナル強度が2%以上異なることと定義する。
【0032】
架橋度または組成の異なるハイドロゲルの組み合わせは、細胞内での分解性の異なるハイドロゲルの組み合わせであることが好ましい。細胞内での分解性が異なる2種類以上のハイドロゲルを組み合わせることによって、内包物の放出制御が容易になる。尚、ハイドロゲルの細胞内での分解性は、標識物質などを担持させたヒドロゲル粒子を作製し、細胞に導入した後、標識物質を指標として粒子分解速度を計測することで評価することができる。
【0033】
ハイドロゲルの具体的な組み合わせについては、ハイドロゲル粒子の用途、内包させる物質(磁性体粒子や薬剤)の種類や量に基づき、目的とする放出挙動を達成するように選択することができる。特にハイドロゲル粒子の内包する物質の放出を徐放性とする観点からは、ドメインを構成する第1のハイドロゲルとして、より分解されにくいハイドロゲルを使用し、マトリクスを構成する第2のハイドロゲルとして、より分解されやすいハイドロゲルを使用することが好ましい。このような構造からなるハイドロゲル粒子が生細胞に取り込まれると、初めに第2のハイドロゲルで構成された、分解されやすいマトリクスが、例えば、細胞質に存在する酵素(ハイドロゲルがゼラチンであればコラーゲナーゼ等)によって、その外側から分解される。その結果、第1のハイドロゲルで構成された、より分解されにくいドメインであった微粒子が、マトリクス内の外側に近い部分に存在するものから順に細胞質に放出され、続いてドメインであった微粒子が分解される。
【0034】
尚、本発明のハイドロゲル粒子は、後述するように、2種以上のドメインを含んでいてもよく、このようなドメインを構成する他のハイドロゲルは、第1および第2のハイドロゲルと架橋度または組成の異なるハイドロゲルであり、細胞内での分解性が異なるものが好ましい。
【0035】
生体適合性の観点からは、第1および第2のハイドロゲルの少なくとも一方がゼラチンであることが好ましい。さらに細胞自らの活動によるハイドロゲル粒子の取り込みを容易にするためには、粒子の外層となるマトリクスを構成する第2のハイドロゲルがゼラチンであることがより好ましく、第1および第2のハイドロゲルの両方がゼラチンであることがさらに好ましい。
【0036】
1-2.磁性体粒子
本発明に使用する磁性体粒子とは、MRIなどの磁場(磁化量)を検出する手法によってその存在を検出可能な化合物であればよく、ガドリニウム(Gd)や、磁性を有する金属酸化物粒子などが挙げられる。
【0037】
磁性体粒子を構成する金属酸化物としては、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化マンガンなどが挙げられる。これら金属酸化物の中でも酸化鉄が好ましく、マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(γ-Fe2O3)、およびこれらFeの一部を他の原子Xで置換した複合体が好ましい。前記他の原子Xとしては、LI、Mg、Al、SI、Ca、Sc、TI、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。本発明においては、細胞毒性が低く、且つ磁気特性が高いことから、マグネタイト(Fe3O4)が特に好ましい。
【0038】
磁性体粒子は、平均粒子径が2nm以上25nm以下の粒子であることが好ましい。磁性体粒子の組成にもよるが、上記平均粒子径が2nm以上であると、細胞によって直ちに溶解、分解、または排出されることはないため、磁場(磁化量)に基づく検出を長期に渡り継続することが可能となる。また、上記平均粒子径が25nm以下であると、生細胞による代謝が容易であり、磁性体粒子が細胞に望ましくない副作用を及ぼすほど長期間細胞内に残留する可能性が少ない。
【0039】
磁性体粒子は1種類でもよいし、平均粒径や組成の異なる2種以上を使用してもよい。2種以上の磁性体粒子を使用する場合には、混合して用いてもよいし、それぞれ別の部位に担持させることもできる。
【0040】
検出精度の向上、および検出期間を延長する観点から、磁性体粒子は、ハイドロゲル粒子の全体積に対して0.05体積%以上50体積%以下の量で含まれることが好ましく、1体積%以上20体積%以下の量で含まれることがより好ましい。2種以上の異なる磁性体粒子を使用する場合には、それらの合計量が上記範囲内であることが好ましい。
【0041】
1-3.薬剤
ハイドロゲル粒子は、薬剤をさらに含んでいてもよい。薬剤とは、薬学的活性を有する化合物、薬学的活性を有すると考えられる化合物、栄養補助食品などであり、作製するハイドロゲル粒子の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、薬学的活性を有する化合物の具体例には、抗がん剤、抗生物質、抗ウィルス性薬剤、抗細菌性薬剤、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)免疫抑制剤、臓器の機能改善薬、抗酸化剤等が含まれる。栄養補助食品の具体例には、ビタミンA(レチノイド)、ビタミンD3およびビタミンD3類似体等のビタミン類等が含まれる。
【0042】
上記薬剤にはタンパク質や核酸も含まれる。本発明のハイドロゲル粒子は、内包する磁性体粒子および薬剤の細胞内での放出を制御して、細胞内におけるそれらの存在量を長期間維持することが可能であることから、薬学的活性を有する核酸(以下、核酸医薬ともいう)の標的部位への送達および当該部位における徐放、ならびにその効果のモニタリングに有効である。核酸医薬の例としては、プラスミド、アプタマー、アンチセンス核酸、リボザイム、tRNA、snRNA、siRNA、shRNA、ncRNAおよび凝縮型DNA等が挙げられるが、siRNAが特に好ましい。
【0043】
siRNA(small interfering RNA)とは、通常、21~23塩基対からなる低分子二本鎖RNAであり、RNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象によって、標的とする遺伝子を「ノックダウン」する(即ち、遺伝子の発現を特異的に抑制する)分子である。その効果は一過性であるが、siRNA発現ベクター(例えば、プラスミド)を用いて、細胞内でsiRNAを安定に発現させることもできる。本発明のハイドロゲル粒子を用いてsiRNAを細胞に導入することによって、siRNAの細胞内徐放を達成し、さらにはsiRNA導入細胞が、移植先の組織内で維持されているか否かを、磁性体粒子を用いて長期に渡りモニタリングすることが可能となると考えられる。
【0044】
薬剤は1種類でもよいし、異なる2種以上を使用してもよい。2種以上の薬剤を使用する場合には、混合して用いてもよいし、それぞれを別の部位(マトリクスおよびドメイン)に担持させることもできる。
【0045】
ハイドロゲル粒子の薬剤含有量に特に限定はないが、ハイドロゲル粒子の全体積に対して0.0001体積%以上30体積%以下の量で含まれることが好ましく、0.05体積%以上5体積%以下の量で含まれることがより好ましい。2種以上の薬剤を使用する場合には、それらの合計量が上記範囲内であることが好ましい。
【0046】
また、マトリクスとドメインとの両方に薬剤を担持させる場合には、マトリクスの薬剤含有量とドメインの薬剤含有量の合計が上記範囲内である限り特に限定はない。通常、マトリクスの薬剤含有量は、ハイドロゲル粒子の全体積に対して0.00005体積%以上20体積%以下であり、ドメインの薬剤含有量は0.00005体積%以上20体積%以下であることが好ましい。
【0047】
1-4.ハイドロゲル粒子の構造
生細胞自らによって細胞内に取り込まれやすくして、取り込みの際の生細胞の損傷などを抑制する観点からは、ハイドロゲル粒子の平均粒径は、30nm以上2000nm以下であることが好ましく、40nm以上500nm以下であることがより好ましく、50nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。
【0048】
平均粒子径が2000nm以下であるハイドロゲル粒子は、生細胞自らの活動による細胞内への取り込みがなされやすい。これは、上記粒子径が5.0μm以下である生分解性粒子は生細胞によって異物と認識されにくく、エンドサイトーシス等の機構により細胞内に取り込まれやすいからと考えられる。一方で、平均粒子径が30nm以上であるハイドロゲル粒子は、磁性体粒子(および薬剤)の放出期間を長期化することが容易である。特に、ハイドロゲル粒子の平均粒子径を30nm以上2000nm以下とすることで、ハイドロゲル粒子のハンドリング性をよくし、磁性体粒子などの収容量を大きくし、かつ、生細胞自らの活動による細胞内への取り込みをなされやすくすることができる。
【0049】
乾燥時のハイドロゲル粒子のアスペクト比は、1.0以上1.4以下であることが好ましい。上記アスペクト比が1.4以下であると、ハイドロゲル粒子は膨潤処理の前後を通じてより球形に近い形状を保ちやすく、ハイドロゲル粒子および細胞を含む溶液において、ハイドロゲル粒子と細胞とがより均一な形状および大きさの接触面で接しやすくなるため、ハイドロゲル粒子間での取り込まれやすさの差が生じにくいと考えられる。そのため、上記アスペクト比を有するハイドロゲル粒子は、細胞へ取り込まれるハイドロゲル粒子の量、およびハイドロゲル粒子を取り込む細胞の量、をより制御しやすいと考えられる。上記ハイドロゲル粒子のアスペクト比は、ハイドロゲル粒子の長径をハイドロゲル粒子の短径で除算して求めた値とすることができる。
【0050】
なお、本明細書において、ハイドロゲル粒子の平均粒子径、長径および短径は、80℃の大気中に24時間静置した後の、乾燥時のハイドロゲル粒子の粒子径、長径および短径を意味する。
【0051】
ハイドロゲル粒子の短径および長径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した画像を解析して得られる値とすることができる。上記ハイドロゲル粒子の粒子径は、ハイドロゲル粒子の長径と短径とを加算平均した値とすることができる。ハイドロゲル粒子が集合体であるとき、ハイドロゲル粒子の長径、短径、粒子径およびアスペクト比は、上記集合体から任意に選択した複数のハイドロゲル粒子(たとえば、20個のハイドロゲル粒子)の長径、短径、粒子径およびアスペクト比を加算平均した値とすることができる。
【0052】
ハイドロゲル粒子は、少なくとも1つのドメインを内包する。ドメインの数に特に限定はないが、ドメインに含まれる磁性体粒子などの徐放を達成するためには、ハイドロゲル粒子当たりのドメインの数は、3以上10000以下が好ましく、5以上5000以下がより好ましい。
ハイドロゲル粒子の有するドメインの平均粒径は、磁性体粒子(および薬剤)の収容量を大きくする観点から、10nm以上1000nm以下が好ましく、15nm以上50nm以下がより好ましく、20nm以上50nm以下がさらに好ましい。ドメインの平均粒径が10nm以上であれば、磁性体粒子(および薬剤)の収容量および分解に要する時間が、徐放性を達成するのに適当である。一方、1000nm以下であれば、ハイドロゲル粒子が適当な数のドメインを内包することができる。
【0053】
尚、ドメインのサイズおよび数は、以下の方法で確認することができる。ハイドロゲル粒子の切片をTEM-EDSまたはTEM-EELSで観察し、元素マッピングまたは損失スペクトルを得る。得られたマップまたはスペクトルにおいて、ピーク位置が異なる地点のマッピングを行うことで、ドメインのサイズを確認することができる。また、ドメインの数は、ハイドロゲル粒子切片の単位面積当たりのドメインに相当する面積をTEM-EDSまたはTEM-EELS観察により求め、ハイドロゲル粒子の粒径相当の体積にドメインが均一充填されたと仮定して、算出することができる。
【0054】
本発明のハイドロゲル粒子においては、磁性体粒子が少なくとも第1のハイドロゲルに担持されている。「担持されている」とは、当該ハイドロゲルによって物質が固定化されているか、または当該ハイドロゲルによって物質が取り囲まれていることを意味する。
【0055】
磁性体粒子が第1のハイドロゲル、即ち、ドメインに含まれることによって、ハイドロゲル粒子の分解開始直後に、その全量が放出されることはない。よって、磁性体粒子の放出を、第1および第2のハイドロゲルの種類、ハイドロゲル粒子やドメインの平均粒径などを調節することで、磁性体粒子の放出を制御することが可能となる。例えば、第1のハイドロゲルにのみ磁性体粒子が担持されたハイドロゲル粒子においては、第2のハイドロゲルを含むマトリクスがシェル的な役割を担い、磁性体粒子が細胞内に長期間に渡り維持される(即ち、磁性体粒子の完全代謝までの期間が長くなる)。
【0056】
また、第1および第2のハイドロゲルの両方に磁性体粒子を担持させることもできる。このようなハイドロゲル粒子においては、第2のハイドロゲルから早期に放出される磁性体粒子と、第1のハイドロゲルから後期に放出される磁性体粒子とが存在することから、磁性体粒子の放出は徐放性となる。この場合、ハイドロゲル粒子に多量の磁性体粒子を担持しても、細胞内の磁性体粒子濃度が一度にに上昇しないため、エキソサイトーシスによる磁性体粒子の細胞外への排出は抑制されると考えられる。
【0057】
磁性体粒子の徐放は、短い時間間隔で少しずつ磁性体粒子を放出する、連続的な徐放でも、時間をおいて、一定量の磁性体粒子を放出する、段階的な徐放でもよい。マトリクスからの磁性体粒子放出後に、ドメインから磁性体粒子が放出するような粒子の設計は容易であることから、時間をおいた段階的な徐放が好ましい。
【0058】
本発明のハイドロゲル粒子を細胞に取り込ませた場合、磁性体粒子が細胞内に少なくと1日間維持されることが好ましく、3日以上、30日以下維持されることがより好ましい。磁性体粒子が細胞内で維持される期間は、第1および第2のハイドロゲルの組成や架橋度、ハイドロゲル粒子の粒径、ドメインのサイズや数、使用する磁性体の種類や量などによって制御可能である。
【0059】
さらにハイドロゲル粒子が薬剤を含む場合、当該薬剤は、第1および第2のハイドロゲルの少なくとも一方に担持されている。
【0060】
ハイドロゲル粒子が1種類の薬剤を含む場合、その全量が第2のハイドロゲル(マトリクス)に担持されていてもよいし、その全量が第1のハイドロゲル(ドメイン)に担持されていてもよい。また、マトリクスとドメインに分けて担持されていてもよい。
【0061】
マトリクスを構成する第2のハイドロゲルにのみ薬剤が担持され、ドメインを構成する第1のハイドロゲルに磁性体粒子が担持されたハイドロゲル粒子は、磁性体粒子を構成する組成(例えば鉄、酸化鉄または鉄イオン)と薬物とが相互作用する場合に、このような相互作用の薬効への影響を抑制することができる。また、ドメインを構成する第1のハイドロゲルに薬剤と磁性体粒子とが担持されたハイドロゲル粒子においては、第2のハイドロゲルで構成されたマトリクスがシェル的な役割を担うため、薬剤が細胞内に放出されるまでの時間を長くすることができる。このような構成は、薬剤を標的部位に確実に送達したい場合など、薬剤のハイドロゲル粒子からの放出を遅延させたいときに有効である。さらに薬剤を第1のハイドロゲルと第2のハイドロゲルの両方に担持させた場合には、第2のハイドロゲルに担持させた薬剤は早期に放出され、第1のハイドロゲルに担持させた薬剤は後期に放出されることから、薬剤の放出は徐放性となる。この場合、細胞内の薬剤濃度を一度に上昇させることなく、長期間にわたり、一定濃度前後に維持することが可能となる。
【0062】
ハイドロゲル粒子が2種以上の薬剤を含む場合には、当該2種以上の薬剤は同じハイドロゲルに担持されてもよいし、別のハイドロゲルに担持されてもよい。2種以上の薬剤を同時に作用させたい場合には、同じハイドロゲルに担持させることが望ましい。一方、2種以上の薬剤を個別に作用させたい場合には、別のハイドロゲルに担持させることが望ましい。例えば、1つ目の薬剤を第2のハイドロゲルに担持し、2つ目の薬剤を第1のハイドロゲルに担持させたハイドロゲル粒子は、細胞内で1つ目の薬剤を放出し、一定期間後に、2つ目の薬剤を放出する。本願実施例のように、1つめの薬剤として肝庇護剤を使用し、2つ目の薬剤としてsiRNAを使用したハイドロゲル粒子を肝硬変細胞に導入すると、肝庇護剤によって肝硬変を少なくとも部分的に寛解させた後に、siRNAを作用させることができる。
【0063】
また、ハイドロゲル粒子は、少なくとも1種の追加ドメインをさらに含んでもよい。このような追加ドメインは、第1のハイドロゲルおよび第2のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる他のハイドロゲルで構成され、他のハイドロゲルは、磁性体粒子および薬剤からなる群より選ばれる少なくとも1種が担持されたものである。このような追加のドメインを設けることによって、より複雑な放出挙動を示すハイドロゲル粒子を設計することができる。例えば、細胞内分解性が異なる2種のドメインを使用することで、マトリクス、第1ドメイン、第2ドメイン(即ち、追加ドメイン)の3段階の薬剤放出が可能となる。
【0064】
尚、追加ドメインに使用するハイドロゲル、磁性体粒子、薬剤などの好ましい態様については、上述したハイドロゲル、磁性体粒子、薬剤等の記載と同様である。また、使用するハイドロゲルの数に限定はなく、第3、第4や第5のハイドロゲルを用いて第2ドメイン、第3ドメインや第4ドメインを設けることができる。また、マトリクスを複数種のハイドロゲルを用いて構成し、マトリクスの分解速度を制御することもできる。
【0065】
ハイドロゲル粒子からの薬剤の徐放は、短い時間間隔で少しずつ薬剤を放出する連続的な徐放でも、時間をおいて一定量の薬剤を放出する、段階的な徐放のいずれでもよい。例えば、マトリクスからの薬剤放出後に、ドメインから薬剤が放出するように粒子を設計することで、時間をおいた段階的な徐放が可能となる。また、ハイドロゲル粒子が架橋度の異なる複数のドメインを含み、それぞれに同じ薬剤が含まれている場合、時間の経過とともに放出される薬剤濃度が上昇するように設計することもできる。
【0066】
また、ハイドロゲル粒子が少なくとも2種の薬剤を含む場合には、当該少なくとも2種の薬剤は、それぞれ独立に細胞内で徐放される。即ち、少なくとも2種の薬剤は、同じ放出パターンでも、異なる放出パターンでもよい。
【0067】
薬剤の細胞内への放出が徐放性である場合、細胞へのハイドロゲル粒子の導入後1時間の時点で、ハイドロゲル粒子に元から含まれていた総薬剤量の0.001質量%以上30質量%以下が細胞内に放出され、導入後10時間の時点で、ハイドロゲル粒子に元から含まれていた総薬剤量の35質量%以上50質量%以下が細胞内に放出され、導入後48時間の時点で、ハイドロゲル粒子に元から含まれていた総薬剤量の55質量%以上80質量%以下が細胞内に放出されることが好ましい。
【0068】
ハイドロゲル粒子からの薬剤の放出パターンは、以下の方法で確認することができる。細胞質を想定したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)100mLに薬剤を内包したハイドロゲル粒子0.5gを投入し、37℃で振とうさせる。一定期間が経過するごとにPBSを採取し、そこに溶け出した薬剤の量を定量することで、ハイドロゲル粒子からの薬剤の放出パターンを評価することができる。
【0069】
上記のような薬剤の放出パターンを示す、磁性体粒子および薬剤を内包したハイドロゲル粒子は、徐放性製剤として使用することができる。内包する薬剤の種類に応じて、ハイドロゲル粒子は、種々の疾患の予防や治療に用いることが可能である。さらには磁性体粒子の存在によって、後述する細胞活性の評価方法により、ハイドロゲル粒子を導入した細胞のモニタリングも可能である。
【0070】
また、磁性体粒子および薬剤を内包したハイドロゲル粒子は、ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)として使用することもできる。例えば、ハイドロゲル粒子の粒子径を大きくしたり、生分解性が比較的低い組成のマトリクスやドメインを用いたりすることで、ハイドロゲル粒子からの薬剤の放出を遅らせて、所望の器官に到達するまでハイドロゲル粒子から薬剤が放出されないように制御することも可能である。
【0071】
尚、ハイドロゲル粒子は磁性体粒子、または磁性体粒子と薬剤を含むが、当該磁性体粒子や薬剤の種類や量、さらにはそれらが存在する粒子内の部位は、以下の方法で確認することができる。
【0072】
磁性体の種類は、ハイドロゲル粒子を乾燥し、XRD測定を行い、結晶成分の回折パターンデータベースより確認することができる。また、磁性体の量は、ハイドロゲル粒子を粉砕した後に水中に懸濁させ、電磁石等の強力な磁石を用いて磁性体成分を磁気分離し、重量評価することで確認することができる。また、ハイドロゲル粒子に内包される薬剤の種類は、ハイドロゲル粒子から薬剤を水で抽出し、NMR、IR、LC-mass、MALDI-TOF MASS、ラマンスペクトル、元素分析等の各種機器分析手法を用いて確認することができる。また、薬剤の質量は、水で抽出した薬剤をGPC、ゲルろ過カラムなどの各種クロマトグラフィー的手法で分離し、分離した成分の質量を計測することで確認することができる。
【0073】
また、ハイドロゲル粒子の内包する薬剤が核酸である場合には、ハイドロゲル粒子から核酸を抽出し、密度勾配遠心法やアガロースゲル電気泳動法等の核酸分離手法で、核酸と他の物質や、塩基配列の異なる核酸を分離することができる。当該核酸の塩基配列や塩基数(鎖長)は、PCRシーケンシングによって求めることができる。
【0074】
2.ハイドロゲル粒子の製造方法
本実施形態は、上記ハイドロゲル粒子の製造方法に係る。
【0075】
ハイドロゲル粒子の製造方法としては、初めに、ドメインとなる、磁性体粒子を担持した第1のハイドロゲルを含む微粒子を作製し、次に、作製した微粒子を内包する、第2のハイドロゲルを含む粒子を作製する。
【0076】
第1のハイドロゲルを含む微粒子、即ち、ドメインとなる微粒子は、第1のハイドロゲルと磁性体粒子(および薬剤)とを含むスラリーを調製し、調製したスラリーを加温する、または調製したスラリーに相分離誘起剤を添加することにより、磁性体粒子(および薬剤)を含むハイドロゲルを粒状化して、磁性体粒子(および薬剤)を担持した微粒子を得ることができる。この方法では、磁性体粒子(および薬剤)が均一に分散したハイドロゲル粒子を得ることができる。
【0077】
尚、ハイドロゲル粒子が少なくとも1種の追加ドメインを含む場合には、第1のハイドロゲルおよび第2のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる他のハイドロゲルを用いて、上記と同様の方法で、他のハイドロゲルを含む微粒子を製造することができる。
【0078】
次に、第2のハイドロゲルを用いて、ドメインとなる微粒子を含むハイドロゲル粒子を作製する。たとえば、第2のハイドロゲルと第1のハイドロゲルを含む微粒子(および他のハイドロゲルを含む微粒子)、さらに必要に応じて磁性体粒子および/または薬剤とを含むスラリーを調製し、調製したスラリーを加温する、または調製したスラリーに相分離誘起剤を添加することにより、上記微粒子(ドメイン)を含むハイドロゲルを粒状化することができる。こうして得られた粒子は、第1のハイドロゲルと磁性体粒子を含むドメイン(および追加ドメイン)を内包する、第2のハイドロゲルで構成されるマトリクス有するハイドロゲル粒子である。
【0079】
スラリーに相分離誘起剤を添加してハイドロゲルを粒状化する工程においては、相分離誘起剤の添加によるハイドロゲルのコアセルべーションによって、ハイドロゲル粒子が形成される。スラリーに添加する相分離誘起剤は、ハイドロゲルを粒状化することが可能な成分である限り特に限定はなく、有機溶媒、特にエタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールなどのアルコール類、アセトンなどが挙げられる。
【0080】
また、ハイドロゲル粒子に担持される、磁性体粒子や薬剤等の副成分の量は、ハイドロゲルを粒状化する前のスラリーにおける副成分の濃度に依存する。
【0081】
生細胞に対する毒性をより低減する観点からは、ハイドロゲル粒子は、有機溶媒や、有機溶媒に由来する分子量の小さい成分の含有量が少ないことが好ましい。たとえば、ハイドロゲル粒子を溶離液(0.05M Na2HPO4+0.05M KH2PO4 pH6.8)に溶解し、カラムとして旭化成社製Asahipak GS620(カラム長500nm、カラム直径7.6mm×2本)を用いて、カラム温度50℃、流速1.0cc/minの条件で、紫外線吸収分光光度計(検出波長230nm)を用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を行ったときに得られる、分子量分布パターンにおいて、分子量が1000以下の成分が占める割合が5%以下であることが好ましい。
【0082】
3.ハイドロゲル粒子内包細胞および細胞構造体
本実施形態は、ハイドロゲル粒子を細胞膜の内側に有する、ハイドロゲル粒子内包細胞、および当該細胞を含む、ハイドロゲル粒子内包細胞構造体に係る。
【0083】
3-1.細胞および細胞構造体
本実施形態に係る細胞(以下、単に「ハイドロゲル粒子内包細胞」ともいう。)は、本発明のハイドロゲル粒子を細胞膜の内側に有する細胞である。
【0084】
ハイドロゲル粒子を細胞膜の内側に有するとは、細胞をTEMで撮像した画像において、ハイドロゲル粒子が細胞膜の内側に確認されることを意味する。細胞へのハイドロゲル粒子の取り込みは、例えば、磁性体粒子の染色後の顕微鏡観察や、MRIによるイメージングにより、磁性体粒子を含むハイドロゲル粒子が細胞内に取りこまれているか否かを確認することができる。また、予めハイドロゲル粒子を蛍光標識しておき、共焦点顕微鏡を用いて蛍光標識されたハイドロゲル粒子が細胞内に取り込まれているか否かを確認することもできる。ハイドロゲル粒子の蛍光標識は、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)で標識した溶液(例えば、コスモ・バイオ社製FITC-コラーゲンの10mM酢酸溶液)、0.4M塩化ナトリウム、0.04%(W/V)アジ化ナトリウム、10mM塩化カルシウム含有50mMトリス-塩酸緩衝液(pH7.5) を等量混合した後、60℃で30分間加熱処理することにより調製したFITC-ハイドロゲルを基質として用いることで行うことができる。
【0085】
細胞に含まれるハイドロゲル粒子は、磁性体粒子、特にはMRI用の造影剤となる磁性体粒子を担持しているため、後述する、細胞自らの活動によって取り込ませる方法によって製造した後、細胞内の磁性体粒子の有無を観察することで、非破壊で細胞の活性を検査することができる。
【0086】
ハイドロゲル粒子を細胞膜の内側に含み得る細胞としては、骨髄、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、腸管、小腸、心臓弁、皮膚、血管、角膜、眼球、硬膜、骨、気管および耳小骨を含む各種臓器から摘出された生体試料または検体に由来する細胞、市販の株化細胞、ならびに皮膚幹細胞、表皮角化幹細胞、網膜幹細胞、網膜上皮幹細胞、軟骨幹細胞、毛包幹細胞、筋幹細胞、骨前駆細胞、脂肪前駆細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、外胚葉系幹細胞、中胚葉系幹細胞、内胚葉系幹細胞、間葉系幹細胞、ES細胞およびiPS細胞を含む幹細胞ならびにこれらの幹細胞から分化した細胞を含む公知の細胞を用いることができる。
【0087】
ハイドロゲル粒子内包細胞は、複数の細胞が集合した細胞構造体を形成することができる。このような細胞構造体の形態は特に限定されないが、例えば、二次元的な培養物である細胞シートや、三次元的な培養物であるスフェロイド(細胞塊)、細胞集団を膜で包んだ細胞ビーズ、およびビーズ表面に細胞を接着した細胞ビーズなどが挙げられる。細胞構造体に含まれる細胞以外の成分、例えば、膜やビーズは、生体適合性材料からなるものが好ましい。生体適合性材料としては、ラミニン、プロテオグリカン、フィブリン、マトリゲル、キトサンゲル、ポリエチレングリコール、ゼラチン、アルギン酸等の高分子成分が挙げられる。
【0088】
三次元構造を有する細胞構造体は、ハイドロゲル粒子内包細胞と、高分子溶液との混合物から形成することができる。具体的には、高分子成分(ラミニン、プロテオグリカン、フィブリン、マトリゲル、キトサンゲル、ポリエチレングリコール、ゼラチン、アルギン酸等)の1種または2種以上を使用して高分子溶液を調製し、その中にハイドロゲル粒子内包細胞を包埋させて培養すると、細胞はシート状または塊状の培養細胞となり、さらにこのような培養細胞が一体化して、より大きな細胞集団を形成する。このようにして形成された培養細胞の集団は、組織様の細胞構造体として使用することができる。
【0089】
細胞構造体を形成するハイドロゲル粒子内包細胞の細胞種に特に限定はないが、例えば、骨格筋細胞、平滑筋細胞、神経細胞、肝細胞、心筋細胞、ケラチノサイト、又はES細胞やiPS細胞などの幹細胞などを使用することができる。また、細胞構造体は、少なくとも1種のハイドロゲル粒子内包細胞を含有していればよく、2種以上のハイドロゲル粒子内包細胞や、ハイドロゲル粒子内包細胞と他の細胞とを含有してもよい。例えば、組織構築用のハイドロゲル粒子内包細胞と、血管構築用の細胞とを用いて、血管を有する臓器様の三次元細胞構造体を得ることができる。
【0090】
これらの細胞のうち、細胞再生医療で患者に移植される細胞や細胞構造体、特には幹細胞または幹細胞から分化した細胞は、磁性体粒子を担持するハイドロゲル粒子を有することで、患者への移植後、移植部位の磁性体粒子を観察することで、再手術をすることなく、ハイドロゲル粒子内包細胞が移植部位に定着したか否かを観測することができる。そのため、磁性体粒子を担持するハイドロゲル粒子を含ませた、これらの細胞は、再生医療の治療を受ける患者の身体的、精神的、金銭的および時間的な負担を低減し、患者の生活の質(QOL)を高めることができると考えられる。
【0091】
3-2.細胞の製造方法
ハイドロゲル粒子内包細胞は、ハイドロゲル粒子を上記細胞に導入して、製造することができる。ハイドロゲル粒子を細胞に導入する方法の例には、液体中にハイドロゲル粒子と細胞とを添加して、エンドサイトーシスによる取り込みなどの細胞自らの活動によって取り込ませる方法、および外部からの操作によって導入する方法が含まれる。細胞自らの活動によって取り込ませる方法の例には、ハイドロゲル粒子と細胞とを液中で撹拌する方法や、ハイドロゲル粒子が含まれる細胞培養液中で細胞を培養する方法が含まれる。なお、上記ハイドロゲル粒子は、細胞自らによる取り込み効率が高いため、細胞への取り込みを促進するために他の成分との複合体を形成させる操作は特に必要ない。細胞の活性の低下を最小限に抑える観点からは、上記のうち、ハイドロゲル粒子と細胞とを液中で混合し培養する方法が好ましい。上記外部からの操作によって導入する方法の例には、エレクトロポレーション法およびマイクロインジェクション法が含まれる。これらのうち、ハイドロゲル粒子を導入させる際に細胞の活性を低下させにくくする観点からは、細胞自らの活動によって導入する方法が好ましく、上記複合体を形成せずに細胞に取り込ませる方法がより好ましい。
【0092】
ハイドロゲル粒子及び細胞が添加される液体としては、細胞培養液を用いることができる。細胞培養液としては、たとえばHanks培養液およびHEPES培養液を用いることができる。上記細胞培養液は、公知の緩衝液または生理食塩水であってもよく、例えば、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid(HEPES)およびその他の公知のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いることができる。
【0093】
細胞の活性を高めて細胞自らの活動によってハイドロゲル粒子を細胞内に取り込ませやすくする観点からは、上記撹拌時の上記細胞培養液の温度は、15℃以上50℃以下であることが好ましく、35℃以上45℃以下であることがより好ましい。
【0094】
細胞自らの活動によってハイドロゲル粒子を細胞膜の内側へ導入するとき、たとえば、ハイドロゲル粒子と上記細胞とを含む細胞培養液を振とうして、導入を促進するようにしてもよい。
【0095】
4.細胞の細胞活性を評価する方法
本実施形態は、ハイドロゲル粒子を生細胞に導入し、前記ハイドロゲル粒子に含まれる磁性体粒子に由来する信号を用いてMRI画像を得、得られたMRI画像に基づき、前記細胞の細胞活性を評価する方法に係る。
【0096】
本発明のハイドロゲル粒子は生体適合性であるため、細胞に取り込まれた後、やがて完全代謝される。この完全代謝に要する期間は細胞の状態に依存する。例えば、肝臓の細胞であれば、正常細胞よりも肝硬変の異常肝細胞の方がハイドロゲル粒子の完全代謝に時間がかかる。よって、細胞にハイドロゲル粒子を導入し、磁性体粒子に由来する信号を用いてMRI画像を得、得られたMRI画像に基づき細胞の代謝活性をモニタリングすることで、細胞の細胞活性を評価することができる。
【0097】
尚、癌化した細胞の場合、代謝活性が正常時よりも高まることが知られている。よって、代謝の低下のみならず、代謝の異常な上昇も、細胞の状態に関する指標となる。
【0098】
さらにハイドロゲル粒子が薬剤を内包する場合には、細胞の細胞活性を評価することによって、内包している薬剤の細胞活性に対する効果を評価することができる。例えば、薬剤を内包するハイドロゲルを異常細胞に導入し、その細胞活性が向上すれば、当該薬剤に治療効果があると考えられる。また、薬剤を内包するハイドロゲルを正常細胞に導入し、その細胞活性が低下すれば、当該薬剤に望ましくない副作用があると考えられる。
【0099】
なお、細胞活性を指標として評価する薬剤は、ハイドロゲル粒子に内包させずに、ハイドロゲル粒子を導入した細胞に別途添加することもできる。
【0100】
また、薬剤を含むハイドロゲル粒子を細胞に導入し、当該細胞を生体に移植した場合には、細胞活性の評価によって、移植した細胞が定着したか否かを判断することができる。具体的には、ハイドロゲル粒子から放出される薬剤によって細胞の状態が改善すれば、その活性は向上すると考えられるため、移植した細胞の活性が向上することをもって、ハイドロゲル粒子を内包する細胞が移植先に定着したと考えることができる。
【0101】
磁性体粒子からの信号を用いて、MRI画像を得るための装置に特に限定はなく、一般的なMRI装置を使用することができる。
【実施例】
【0102】
以下において、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0103】
実施例1~21: 磁性体粒子内包ハイドロゲル粒子の作製
1-1.原料
磁性体粒子内包ハイドロゲル粒子の作製には、以下の原料を使用した。
(ハイドロゲル)
豚表皮ゼラチン:豚皮水溶性ゼラチン(酸)(ニッピ社製)
魚皮ゼラチン:魚皮酸処理ゼラチン(ニッピ社製)
シリコーン:ポリジメチルシロキサン(和光純薬製)
PVA(ポリビニルアルコール):PVA-617(クラレ製)
【0104】
(磁性体粒子)
Fe3O4ナノ粒子(1nm):品番790508(シグマアルドリッチ製)を遠心分離機で分級し、中心粒径1nmのスラリーを調整した。
Fe3O4ナノ粒子(5nm):品番790508(シグマアルドリッチ製)
Fe3O4ナノ粒子(10nm):品番747254(シグマアルドリッチ製)
Fe3O4ナノ粒子(20nm):品番900088(シグマアルドリッチ製)
Fe3O4ナノ粒子(30nm):品番900062(シグマアルドリッチ製)
NiOナノ粒子(10nm):コアフロント社製
Mn3O4ナノ粒子(10nm):イオックス社製
【0105】
(薬剤)
siRNA:ND-L02-s0201(日東電工/Quark Pharmaceuticals製)
肝庇護薬:グリチルリチン
【0106】
(架橋剤)
グルタルアルデヒド:Wako純薬製
グリシン:Wako純薬製
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS):Wako純薬製
【0107】
1-2.ゲルドメインの作製
下記表1に示した組成となるように、ハイドロゲル、磁性体粒子、および溶媒を混合し、超音波分散機で30分間分散した。薬剤を含むゲルドメインを作製する場合には、続いて、表1に記載した薬剤を20nmol投入し、10分間撹拌した。得られた混合物に1MのNaOHを2mL加え、続いて表1に記載の架橋剤を加えて、5分間撹拌した。尚、表中に「グルタルアルデヒド/グリシンキャップ」と記載している場合、0.5gのグルタルアルデヒドを加えて5分間撹拌した後に、さらに0.1Mのグリシンを50mL加えて1時間撹拌することで、アルデヒド基をキャップした。
【0108】
次に、表1に記載の再沈殿溶媒を内径100μmのシリンジを用いて、合計250mL滴下することで、磁性体粒子単独、または磁性体粒子と薬剤を内包した、ゲルドメインとなる微粒子を得た。
【0109】
【0110】
1-3.ゲルドメインとゲルマトリクスとを有する粒子の作製
下記表2に示した組成となるように、ハイドロゲルと溶媒、所望により磁性体粒子を混合し、超音波分散機で30分間分散した。次に、先に作製したゲルドメインとなる微粒子を4g、または4gの当該微粒子と20nmolの表2に記載の薬剤とを投入し、10分間撹拌した。得られた混合物に1MのNaOHを2mL加え、続いて表2に記載の架橋剤を加えて、5分間撹拌した。次に、表2に記載の再沈殿溶媒を内径100μmのシリンジを用いて、合計250mL滴下することで、ゲルドメインを内包したハイドロゲル粒子を得た。
上記方法によって、表1に示した組成のゲルドメインを、表2に示したゲルマトリクス内に内包するハイドロゲル粒子を得た。
【0111】
【0112】
1-4.平均粒子径
上記で作製したハイドロゲル粒子の平均粒径を次の方法で測定した。
ハイドロゲル粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した。撮像された画像をMountech社製画像解析式粒度分布ソフトウェアMac-Viewを用いて解析することにより、任意に選択した20個の粒子の短径および長径を測定し、それらの平均値を求めて、平均粒子径とした。
測定した平均粒子径は、各ハイドロゲル粒子の組成と共に、表3および表4に記載した。
【0113】
1-5.評価基準
ハイドロゲル粒子1~21を以下の方法(1)~(4)に従って評価し、その結果を表3および表4に示した。
(1)細胞活性の長期イメージング
細胞培養皿に正常なマウスの肝細胞を播種し、リン酸バッファ中で培養した。続いて、上記で作製したハイドロゲル粒子1~21(100mg/mL、即ち、500μL)をそれぞれ細胞培養皿へ滴下し、24時間静置した。こうすることで、細胞のエンドサイトーシスによる粒子の細胞内導入を行った。続いて、細胞内に導入されなかったハイドロゲル粒子をリン酸バッファで洗い流し、得られた細胞を、粒子を内包した細胞とした。
粒子の導入から1時間後と7日後に、MRI装置(M10、プライムテック社製)でT2値を計測し、以下の基準に基づき、細胞内の磁性体量の変化を評価した。
○: T2値(1時間後)/T2値(7日後)が0.4以上
△: T2値(1時間後)/T2値(7日後)が0.05以上0.4未満
×: T2値(1時間後)/T2値(7日後)が0.05未満
【0114】
(2)薬剤の長期徐放性
(2a)薬剤がsiRNAの場合
粒子内に薬剤として導入したsiRNA(ND-L02-s0201)に相補的な10塩基対のオリゴマーを用意し、それをローダミン系色素で標識して蛍光タグとした。続いて、磁性体粒子のみ、または磁性体粒子と薬剤を内包したハイドロゲル粒子1~21を正常な肝細胞に導入した。ハイドロゲル粒子を導入した細胞に、リン酸バッファで5μMに希釈した蛍光タグ2mLを滴下し、2時間インキュベートすることで、siRNAの蛍光標識を行った。続いて、リン酸バッファで細胞を洗浄し、未結合の蛍光タグを除去した。今後、リン酸バッファによる細胞の洗浄を1日1回行う操作を14日間行った。
この際に、蛍光プレートリーダー(Spark(商標) 10M、テカンジャパン社製)で、細胞に蛍光タグを導入してから1時間後と7日後の蛍光タグ由来の蛍光強度を測定し、下記の基準で薬剤の長期間徐放性評価を行った。
○: 蛍光強度(7日後)/蛍光強度(1時間後)が0.3以上
△: 蛍光強度(7日後)/蛍光強度(1時間後)が0.1以上0.3未満
×: 蛍光強度(7日後)/蛍光強度(1時間後)が0.1未満
【0115】
(2b)薬剤が肝庇護薬の場合
炭素の同位体であるC14を含む原料を用いて合成したグリチルリチンを用意し、これを用いて、上記薬剤を内包したハイドロゲル粒子を調製した。磁性体粒子のみ、または磁性体粒子と薬剤を内包したハイドロゲル粒子1~21を正常な肝細胞に導入した。続いて、リン酸バッファによる細胞の洗浄を1日1回行う操作を14日間行った。
この際に、同位体比質量分析計(253 Plus 10 kV、サーモフィッシャーサイエンス社製)で、細胞にハイドロゲル粒子を導入してから1時間後と7日後の炭素同位体C14由来のシグナル強度を測定し、下記の基準で薬剤の長期間徐放性評価を行った。
○: シグナル強度(7日後)/シグナル強度(1時間後)が0.3以上
△: シグナル強度(7日後)/シグナル強度(1時間後)が0.1以上0.3未満
×: シグナル強度(7日後)/シグナル強度(1時間後)が0.1未満
【0116】
(2c)複数の異なる薬剤が含まれる場合
ハイドロゲル粒子に複数の異なる薬剤(siRNAおよび肝庇護薬)が含まれる場合、さらに薬剤の多段階放出評価を次のように実施した。
上記(2a)の蛍光強度計測および(2b)の同位体比計測を1時間おきに行い、各薬剤について、放出量のピーク時間を求め、下記の基準で薬剤の多段階放出評価を行った。
○: 各薬剤の放出ピーク時間の差が3時間以上
△: 各薬剤の放出ピーク時間の差が1時間以上3時間未満
×: 各薬剤の放出ピーク時間の差が1時間未満
【0117】
(3)粒子導入細胞の割合
上記(1)と同様に、ハイドロゲル粒子1~21を細胞に導入し、細胞膜の内側に取り込まれたハイドロゲルが確認できるか否かを観察し、以下の基準によって粒子導入細胞の割合を評価した。
【0118】
(細胞及びFeの染色)
培養した細胞に1%パラホルムアルデヒド1mlを加えて細胞固定化処理を行った。次いで、下記組成のFe染色液1mlを加えてFeを染色した。さらに、下記の濃度に調整した核染色液1mlを加えて細胞を染色した。
【0119】
(細胞及びNiOまたはMn3O4の染色)
培養した細胞に1%パラホルムアルデヒド1mlを加えて細胞固定化処理を行った。次いで、下記組成のNi/Mn染色液1mlを加えてNiまたはMnを染色した。さらに、下記の濃度に調整した核染色液1mlを加えて細胞を染色した。
【0120】
(Fe染色液の組成)
下記の2液を同体積混合してFe染色液を調製した。
・20体積% HCL(濃塩酸を5倍希釈したもの)
・10質量% K4(Fe(CN6))水溶液(100mg/ml)
【0121】
(Ni/Mn染色液の組成)
PhenanGreen SK,Diacetate(フナコシ製)の100mg/ml溶液を調製し、NiおよびMnの染色液とした。
【0122】
(核染色液の組成)
硫酸アンモニウム5質量部と、Nuclear fast red 0.1質量部とを、蒸留水100質量部に混合して核染色液を調製した。
【0123】
(Feを取り込んだ細胞数のカウント)
染色された細胞を光学顕微鏡で観察して、任意に選択された細胞20個の中に青く染色されたFeが含まれているかどうかを評価した。
【0124】
○: 上記20個の細胞のうち、50%以上(10個以上)の細胞で、細胞膜の内側にゼラチンが取り込まれていることが確認できた
△: 上記20個の細胞のうち、10%以上50%未満(2個以上10個未満)の細胞で、細胞膜の内側にゼラチンが取り込まれていることが確認できた
×: 上記20個の細胞のうち、10%未満(2個未満)の細胞で、細胞膜の内側にゼラチンが取り込まれていることが確認できた
【0125】
(NiまたはMnを取り込んだ細胞数のカウント)
染色された細胞を光学顕微鏡で観察して、任意に選択された細胞20個の中に緑に染色されたNiまたはMnが含まれているかどうかを評価した。
【0126】
○: 上記20個の細胞のうち、50%以上(10個以上)の細胞で、細胞膜の内側にゼラチンが取り込まれていることが確認できた
△: 上記20個の細胞のうち、10%以上50%未満(2個以上10個未満)の細胞で、細胞膜の内側にゼラチンが取り込まれていることが確認できた
×: 上記20個の細胞のうち、10%未満(2個未満)の細胞で、細胞膜の内側にゼラチンが取り込まれていることが確認できた
【0127】
(4)細胞内での粒子の完全代謝
ハイドロゲル粒子1~21を正常なマウス肝細胞に導入した。リン酸バッファによる細胞の洗浄を1日1回行う操作を14日間行った。続いて、各粒子を導入した細胞について、原子吸光法で磁性体由来の残留金属元素(Fe量、Ni量またはMn量)を計測した。対照として、粒子を導入していない細胞中の金属元素量(Fe量、Ni量またはMn量)測定し、この値を、粒子導入細胞の残留金属元素から差し引き、磁性体由来の留金属元素量を得た。この値を元に、以下の基準で細胞内での粒子の完全代謝を評価した。
○: 磁性体由来残留金属元素量が1ng/細胞未満
△: 磁性体由来残留金属元素量が1ng/細胞以上10ng/細胞未満
×: 磁性体由来残留金属元素量が10ng/細胞以上
【0128】
比較例1: 磁性体および薬剤を内包したリポソームの作製
10mLのリポソーム分散液(Plain DPPC/CHOL Liposomes、フナコシ社製)に、1mLの10w%磁性体(Fe3O4)分散液および50nmolのsiRNAを加え、室温下で2時間撹拌することで、磁性体および薬剤を内包したリポソームを得た。得られたリポソームの平均粒子径を上記1-4と同様にして測定し、さらに上記1-5と同様に評価した。
【0129】
比較例2: 磁性体および薬剤を内包した糖粒子の作製
10mLの10w%のスクロース水溶液に、1mLの10w%磁性体(Fe3O4)分散液および50nmolのsiRNAを加え、室温下で2時間撹拌し、混合物を得た。続いて、得られた混合物を凍結粉砕機(日本分析工業社製JFC-2000)で微粒子化することで、磁性体および薬剤を内包した糖粒子を得た。得られた糖粒子の平均粒子径を上記1-4と同様にして測定し、さらに上記1-5と同様に評価した。
【0130】
上記比較例1と2で作製した粒子の特徴を、これら粒子の評価結果と共には表5に示した。
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
上記結果から明らかなように、第1のハイドロゲルで構成されるドメインと、ドメインを内包する、前記第1のハイドロゲルとは架橋度または組成の異なる第2のハイドロゲルで構成されるマトリクスと、少なくとも前記第1のハイドロゲルに担持されている磁性体粒子とを含む、ハイドロゲル粒子は、いずれも粒子導入細胞の割合が高く、細胞活性の長期イメージングが可能であり、さらには細胞内で完全代謝可能であった。このような優れた特性は、第1のハイドロゲルと第2のハイドロゲルの組み合わせが架橋度違いの場合(実施例1と3)でも、組成の異なる場合(実施例2と4)でも認められた。
【0135】
また、ハイドロゲル粒子に薬剤が含まれる場合には、本発明のハイドロゲル粒子は薬剤を徐放することができた。また、複数種の薬剤(siRNAおよび肝庇護薬)を含む実施例9~21においては、1時間以上の時間差をもって薬剤を徐放することができた。
【0136】
実施例11から、ハイドロゲルとしてシリコーンやPVAが使用可能であることがわかる。しかし、実施例9と11との比較から、ハイドロゲルとしてはゼラチンの方が細胞との親和性が高いため、粒子導入細胞の割合が高かった。さらに、ハイドロゲルとしてゼラチンを用いた実施例9の方が、薬剤放出の時間差が3時間以上と長かった。
【0137】
また、磁性体粒子の異なる実施例9、12と13の比較から、磁性体粒子がFe3O4であると、細胞による完全代謝が可能であることがわかる。
【0138】
ハイドロゲル粒子の平均粒径が異なる実施例14~17のハイドロゲル粒子の比較から、平均粒径が30nm未満である実施例14では、内包する薬剤や磁性体粒子が維持される期間が短くなった。一方、ハイドロゲル粒子の平均粒径が2000nm超である実施例17では、粒子導入細胞の割合が低下した。
【0139】
ゲルドメイン1に内包する磁性体粒子の平均粒径が異なる実施例18~21のハイドロゲル粒子の比較から、磁性体粒子の平均粒径が2nm未満である実施例18では、細胞活性の長期イメージングの評価が低下した。一方、磁性体粒子の粒径が25nm超である実施例21では、細胞内での代謝率が低下した。
【0140】
一方、ハイドロゲル粒子ではないリポソームや糖粒子は、細胞内で完全に代謝することは可能であるものの、細胞における磁性体粒子や薬剤の量を長期間維持することはできなかった。
【0141】
実施例22: 基準細胞のMRI測定
培養皿に播種した、肝硬変を起こしていない正常なマウス肝細胞に、評価方法(1)と同様の方法で、磁性体粒子を含むが、薬剤を含まないハイドロゲル粒子3を導入した。粒子の導入から1時間後と7日後に、MRI装置(M10、プライムテック社製)でT2値を計測したところ、T2値(1時間後)/T2値(7日後)=0.5であった。
【0142】
一方、ハイドロゲル粒子3を、四塩化炭素を用いて作製した肝硬変モデルマウスの培養肝細胞に導入した場合、T2値(1時間後)/T2値(7日後)=0.97であった。
これらの結果から、正常肝細胞ではゼラチン粒子内の磁性体が細胞の代謝機能により分解され、経時的に磁性体の磁化量が低下するが、一方、肝硬変を起こした細胞では、細胞の代謝機能の低下により、磁性体の分解がごくわずかとなっていることがわかる。
【0143】
実施例23: 異常細胞へのハイドロゲル粒子の導入
四塩化炭素の投与によって作製した肝硬変モデルマウスについて、肝硬変となった部位の細胞を採取し、細胞培養皿に播種後、リン酸バッファ中で培養した。続いて、上記で作製した、磁性体粒子と薬剤(siRNAと肝庇護薬)を含むハイドロゲル粒子9(100mg/mL、即ち500μL)を細胞培養皿へ滴下し、24時間静置した。こうすることで、細胞のエンドサイトーシスによるハイドロゲル粒子の細胞内導入を行った。続いて、細胞内に導入されなかったハイドロゲル粒子をリン酸バッファで洗い流し、得られた細胞を、ハイドロゲル粒子9を内包した異常肝細胞とした。
【0144】
ハイドロゲル粒子9を内包した異常肝細胞についても、上記1-5と同様に評価し、評価結果を表6に示した。表6の結果から明らかなように、ハイドロゲル粒子は、異常肝細胞内に導入することが可能であり、細胞活性の長期イメージング、および薬剤の長期徐放が達成された。
【0145】
また、細胞内での完全代謝は、正常肝細胞(実施例22)と比べて若干劣っていた。しかし、下記のとおり、T2値の経時評価から薬剤の効果によって異常肝細胞の代謝機能が改善する過程が観察された。
T2値(1時間後)/T2値(3時間後)=0.9
T2値(1時間後)/T2値(1日後)=0.8
T2値(1時間後)/T2値(3日後)=0.7
T2値(1時間後)/T2値(7日後)=0.6
【0146】
実施例24: 細胞シートへのハイドロゲル粒子の導入、および細胞シートの生体内移植
東京女子医大・岡野教授らによる文献(Nature Medicine 13, 880-885 (1 July 2007))と同様の方法により、細胞構造体として、マウスの肝細胞シートを培養皿中に作製した。続いて、磁性体粒子および薬剤を内包したハイドロゲル粒子9(100mg/mL、即ち500μL)を細胞培養皿へ滴下し、24時間静置した。こうすることで、細胞のエンドサイトーシスによるハイドロゲル粒子の細胞内導入を行った。続いて、細胞内に導入されなかったハイドロゲル粒子をリン酸バッファで洗い流し、得られた細胞シートを、ハイドロゲル粒子を内包した細胞シートとした。
ハイドロゲル粒子9を内包した細胞シートについても、上記1-5と同様に評価し、評価結果を表6に示した。表6の結果から明らかなように、ハイドロゲル粒子は、異常肝細胞内に導入することが可能であり、細胞活性の長期イメージング、および薬剤の長期徐放が達成された。また、細胞内での完全代謝も良好であった。
【0147】
【0148】
さらにハイドロゲル粒子9を内包した細胞シートを、四塩化炭素の投与によって作製した肝硬変モデルマウスの肝臓に、外科的に移植した。その結果、肝細胞障害・壊死の指標であるASTやALT値が明らかに減少し、肝機能の回復が確認された。
【0149】
実施例25および26: 複数のドメインを含むハイドロゲル粒子
【0150】
ゲルドメインの作製
下記表7に示した組成となるように、ハイドロゲル、磁性体粒子、薬剤および溶媒を混合し、超音波分散機で30分間分散した。得られた混合物に1MのNaOHを2mL加えた。
【0151】
粒子25aは、0.5gのグルタルアルデヒドを加えて5分間撹拌した後に、さらに0.1Mのグリシンを50mL加えて1時間撹拌することで、アルデヒド基をキャップした。
粒子25bは、0.1gのグルタルアルデヒドを加えて5分間撹拌した後に、さらに0.1Mのグリシンを50mL加えて1時間撹拌することで、アルデヒド基をキャップした。
粒子26aについては、表中の架橋剤を加えて、5分間撹拌した。
粒子26bは架橋させなかった。
【0152】
次に、表7に記載の再沈殿溶媒を内径100μmのシリンジを用いて、合計250mL滴下することで、磁性体粒子と薬剤を内包した、ゲルドメインとなる微粒子を得た。
【0153】
ゲルドメインとゲルマトリクスとを有する粒子の作製
下記表8に示した組成となるように、ハイドロゲルとして魚皮ゼラチン 4g、溶媒として水200mL、および磁性体粒子として粒径10nmのFe3O4 0.8gを混合し、超音波分散機で30分間分散した。次に、先に作製したゲルドメインとなる2種類の微粒子(25aと25b、または26aと26b)をそれぞれ4gずつと、20nmolの肝庇護薬とを投入し、10分間撹拌した。得られた混合物に1MのNaOHを2mL加え、続いて上記と同様に、グルタルアルデヒドによる架橋およびグリシンによる処理を行った。表8に記載の再沈殿溶媒(アセトン/水=8/2)を内径100μmのシリンジを用いて、合計250mL滴下することで、2種のゲルドメインを内包したハイドロゲル粒子25および26を得た。
【0154】
上記で作製したハイドロゲル粒子25と26の平均粒径を、上記1-4に記載の方法で測定し、下記表8に記載した。
【0155】
ハイドロゲル粒子25と26について、細胞活性の長期イメージングおよび薬剤の長期徐放性について、上記(1)および(2)と同様に評価した。さらに細胞へのハイドロゲル粒子導入率を、下記の方法で評価した。
【0156】
細胞へのハイドロゲル粒子導入率の評価
MRI装置(M10、プライムテック社製)でハイドロゲル粒子のリン酸バッファ懸濁液100μL(100mg/mL)のT2値を計測し、「ハイドロゲル粒子の1粒子辺りのT2値」を求めた。
また、上記(1)と同様に、正常なマウスの肝細胞に対して、ハイドロゲル粒子の導入処理を施した。処理から1時間後の細胞について、上記同様にT2値を測定し、「細胞に導入されたハイドロゲル粒子に由来するT2値」を得た。
【0157】
「ハイドロゲル粒子の1粒子辺りのT2値」と、「細胞に導入されたハイドロゲル粒子に由来するT2値」との比から、1細胞当たりのハイドロゲル粒子導入量を求め、下記の基準で細胞へのハイドロゲル粒子導入率の評価を行った。
○: 1細胞当たりのハイドロゲル粒子導入量が20粒子以上
△: 1細胞当たりのハイドロゲル粒子導入量が5粒子以上、20粒子未満
×: 1細胞当たりのハイドロゲル粒子導入量が5粒子未満
【0158】
評価結果を下記表8に記載した。
【0159】
【0160】
【0161】
上記表8の結果から明らかなように、ゼラチンで構成されるドメインを2種以上含み、マトリクスも他のゼラチンで構成されるハイドロゲル粒子25は、細胞活性の長期イメージングおよび薬剤の長期徐放が可能であり、さらに細胞内への粒子導入率も良好であった。ドメインがシリコーンやPVAで構成され、マトリクスがゼラチンから構成されるハイドロゲル粒子26の場合も、同様の結果が得られた。ハイドロゲル粒子26は、ドメインがシリコーンやPVAで構成されているが、細胞との親和性が高いゼラチンで細胞の最外層となるマトリクスが構成されていることから、良好な粒子導入が可能であったと考えられる。
【0162】
ハイドロゲル粒子25と26に関する上記結果は、複数種のドメインを有するハイドロゲル粒子も、1種のドメインを有するハイドロゲル粒子と同様に、細胞に取り込ませ、細胞活性のイメージングおよび薬剤等の放出を長期間持続可能であることがわかる。
【0163】
本出願は、2017年11月6日出願の特願2017-213707に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、全て本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明のハイドロゲル粒子は、例えば、再生医療に用いられる移植用の細胞に細胞自らの活動により取り込ませた後、MRIで撮像して磁性体粒子が細胞の内部にあるか否かを観察することで、非破壊で細胞の活性を検査することができる。そのため、本発明のハイドロゲル粒子は、再生医療に用いられる細胞の廃棄率を低減して、上記細胞の利用効率を高めることができると考えられる。また、このような細胞を移植すれば、移植部位をMRIで撮像することで、再手術をすることなく、細胞が移植部位に定着したか否かを観測することができる。そのため、本発明のハイドロゲル粒子は、患者への身体的、精神的、金銭的および時間的な負担を低減し、患者の生活の質(QOL)を高めることができると考えられる。