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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】撥水コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 157/00 20060101AFI20230127BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230127BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20230127BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20230127BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20230127BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20230127BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20230127BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
C09D157/00
C09D7/63
C09K3/18 101
C08K5/01
C08L91/06
C08L33/00
C08L25/04
C08F220/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022044423
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2022-03-18
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩二
(72)【発明者】
【氏名】西村 太陽
(72)【発明者】
【氏名】榎枝 築
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-155383(JP,A)
【文献】特開2010-111820(JP,A)
【文献】特開2001-254069(JP,A)
【文献】特開昭55-27349(JP,A)
【文献】特表2009-545428(JP,A)
【文献】特開2004-106459(JP,A)
【文献】特開2001-1460(JP,A)
【文献】特開2003-238802(JP,A)
【文献】特開平11-247094(JP,A)
【文献】特開2003-119443(JP,A)
【文献】特開2013-6932(JP,A)
【文献】国際公開第2019/069822(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
C09K 3/18
C08C 19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和単量体の共重合体粒子と、炭素数8~60の炭化水素化合物を含むワックス粒子と、分散媒と、を含み、
前記ワックス粒子は、ワックス(ただし、モンタンワックス、アマイドワックス、及び変性モンタンワックスを除く。)100質量部に対して前記炭化水素化合物を1~20質量部で含有し、
前記炭化水素化合物は、直鎖、分岐鎖、環状の飽和若しくは不飽和脂肪酸、飽和若しくは不飽和脂肪族アルコール、飽和若しくは不飽和脂肪族アミン、飽和若しくは不飽和長鎖アミノ酸、又は、飽和若しくは不飽和脂肪酸アミドの少なくともいずれである、
ことを特徴とする撥水コーティング組成物。
【請求項2】
前記共重合体粒子の平均粒子径は、25~1000nmであり、
前記ワックス粒子の平均粒子径は、380~5000nmである、
ことを特徴とする請求項1に記載の撥水コーティング組成物。
【請求項3】
前記共重合体粒子100質量部に対して、前記ワックス粒子5~200質量部を含有する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の撥水コーティング組成物。
【請求項4】
前記共重合体粒子の粒子径分布(D90/D10)は、1.01~5.00である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の撥水コーティング組成物。
【請求項5】
前記共重合体粒子のガラス転移温度は、0~100℃である、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の撥水コーティング組成物。
【請求項6】
前記ワックス粒子の融点は、40~150℃である、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の撥水コーティング組成物。
【請求項7】
前記エチレン性不飽和単量体は、アクリル系単量体、スチレン系単量体、及びアミド系単量体の少なくともいずれかを含み、
前記共重合体粒子は、前記スチレン系単量体を30質量部以上含有しない、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の撥水コーティング組成物。
【請求項8】
前記ワックス粒子は、天然ワックスを含む、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の撥水コーティング組成物。
【請求項9】
壁紙に用いる、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の撥水コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水剤は、塗料分野、紙加工分野、及び繊維処理分野等の広範な用途で使用されている。特許文献1及び特許文献2は、基材に撥水性を付与する手段として、撥水撥油性を有するフルオロアルキル基を含有するモノマーを共重合して得られるフッ素含有エマルションを、基材へ塗布する方法を提案している。しかし、フルオロアルキル基含有共重合体は、フルオロアルキル基を含有するモノマーが疎水性であるため、安定なエマルションを合成しにくいことがある。また、フルオロアルキル基含有共重合体がエマルション中で沈降するため、機械的安定性及び長期保存安定性が低下することがある。
【0003】
また、特許文献3は、フッ素系ポリマーエマルションを主剤として含有する表面処理剤で基材表面を処理して、基材表面をフッ素化合物で被覆することで、撥水及び防汚する方法を提案している。しかし、基材表面を完全に被覆するために、多量の表面処理剤を基材に付着させる必要である。そのため、少量の表面処理剤を基材へ付着させた場合、基材表面の湿摩耗強度が十分に得られないことがある。
【0004】
さらに、近年では有機フッ素化合物(PFAS又はPFCs)が、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」等により規制対象となっている。炭素数が8のペルフルロオクタンスルホン酸(PFOS)及びその塩、並びにペルフルオロオクタンスルホニルフオリド(PFOSF)は、使用・製造・輸出入の制限を受ける。今後、炭素数7以下の短鎖アルキルについても制限される見込みとなっている。
【0005】
そこで、特許文献4及び特許文献5は、フッ素含有化合物を含有しない形態として、合成樹脂エマルションにロジンエステル系樹脂及びテルペン系樹脂等の天然由来の樹脂を混合した表面処理剤を基材に塗布する方法を提案している。しかし、ロジンエステル系樹脂は着色しやすいため、ロジンエステル系樹脂を塗布した基材の美観が損なわれる。また、ロジンエステル系樹脂の粒子は沈降するため、表面処理剤の機械的安定性及び長期保存安定性が低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-269184号公報
【文献】特開平11-172190号公報
【文献】特開2000-110069号公報
【文献】特開平5-295200号公報
【文献】特開2010-168442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4及び特許文献5に記載の先行技術では、塗膜の成膜性が悪化するため、十分な撥水性が得られないといった課題がある。
【0008】
本発明は、撥水性を向上させる撥水コーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を達成するために、本発明の撥水コーティング組成物は、エチレン性不飽和単量体の共重合体粒子と、炭素数8~60の炭化水素化合物を含むワックス粒子と、分散媒と、を含み、前記ワックス粒子は、ワックス(ただし、モンタンワックス、アマイドワックス、及び変性モンタンワックスを除く。)100質量部に対して前記炭化水素化合物を1~20質量部で含有し、
前記炭化水素化合物は、直鎖、分岐鎖、環状の飽和若しくは不飽和脂肪酸、飽和若しくは不飽和脂肪族アルコール、飽和若しくは不飽和脂肪族アミン、飽和若しくは不飽和長鎖アミノ酸、又は、飽和若しくは不飽和脂肪酸アミドの少なくともいずれである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、撥水性を向上させる撥水コーティング組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。
【0012】
<撥水コーティング組成物>
本発明の撥水コーティング組成物は、エチレン性不飽和単量体の共重合体粒子と、官能基を有する炭素数8~60の炭化水素化合物を含むワックス粒子と、分散媒と、を含む。
【0013】
(ワックス粒子(B))
官能基を有する炭素数8~60の炭化水素化合物を含むワックス粒子は、ワックスと、官能基を有する炭素数8~60の炭化水素化合物とからなる。以下、官能基を有する炭素数8~60の炭化水素化合物を含むワックス粒子をワックス粒子(B)と呼ぶ。ワックス粒子(B)に用いるワックスは、高い撥水性を得る観点から天然ワックスである。ワックス粒子(B)に用いるワックスは、合成ワックスを更に含む。
【0014】
天然ワックスは、例えば、蜜蝋、カルナバワックス、キャンデリアワックス、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等を含む。
【0015】
合成ワックスは、例えば、アマイドワックス、変性モンタンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス等を含む。
【0016】
ワックスは、着色性及び融点の高さの観点から、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、及びポリエチレンワックスが用いられ得る。なお、ワックスは、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0017】
(融点)
ワックス粒子(B)の融点は、40~150℃、好ましくは50~120℃、より好ましくは60~100℃である。融点が40℃未満である場合、室温でワックスが液状となることから、塗装品の表面がべた付いた感触となる。塗装品とは、撥水コーティング組成物が塗布された基材のことをいう。一方で、ワックス粒子(B)の融点が150℃より高い場合、撥水コーティング組成物の乾燥工程でワックスが溶融しづらくなる。
【0018】
(炭化水素化合物)
一実施形態に係るワックス粒子(B)に含まれる炭素数8~60の炭化水素化合物は、直鎖、分岐鎖、環状の飽和又は不飽和脂肪酸、飽和又は不飽和脂肪族アルコール、飽和又は不飽和脂肪族アミン、飽和又は不飽和長鎖アミノ酸、飽和又は不飽和脂肪酸アミドを含む。
【0019】
炭化水素化合物の炭素数は、8~60であり、好ましくは16~50、より好ましくは20~40である。
【0020】
脂肪酸は、炭化水素骨格の末端にカルボキシ基を有し、例えば、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、エレオステアリン酸、アラキジン酸、ミード酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等の脂肪酸及びその脂肪酸塩、アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸等のロジン酸を含む。
【0021】
脂肪族アルコールは、炭化水素骨格の末端にヒドロキシ基を有し、例えば、カプリルアルコール、2-エチルヘキサノール、ペラルゴンアルコール、カプリンアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セタノール、パルミトレイルアルコール、1-ヘプタデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、エライジルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、エライドリノレイルアルコール、リノレニルアルコール、エライドリノレニルアルコール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール、ヘンエイコサノール、ベヘニルアルコール、エルシルアルコール、リグノセリルアルコール、セリルアルコール、1-ヘプタコサノール、モンタニルアルコール、1-ノナコサノール、ミリシルアルコール、1-ドトリアコンタノール、及びゲジルアルコールを含む。
【0022】
脂肪族アミンは、アミノ基を有し、例えば、ラウリルアミン、ステアリルアミンなどのアルキルアミン類や、ジステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン等のジメチルアルキルアミン類を含む。
【0023】
アミノ酸は、アミノ基とカルボキシ基を有する有機化合物である。
【0024】
脂肪酸アミドは、分子内に長鎖のアルキル基と極性の大きいアミド基を有し、例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、及びメチロールベヘン酸アミドを含む。
【0025】
なお、カルボキシ基、アミノ基、アミド基、及びヒドロキシ基は、プロトン(H)を放出することができる官能基である。
【0026】
一実施形態に係るワックス粒子(B)は、ワックス100質量部に対して炭化水素化合物を1~20質量部、好ましくは2~15質量部、より好ましくは3~10質量部で含有する。
【0027】
なお、撥水コーティング組成物は、ワックスに対して多量の炭化水素化合物を含むワックス粒子(B)を含有する場合、撥水コーティング組成物の粘度が高くなり、ハンドリング性が悪化する。一方で、撥水コーティング組成物は、ワックスに対して少量の炭化水素化合物を含むワックス粒子(B)を含有する場合、ワックス粒子(B)の保存安定効果(自己乳化を促進する効果)が得られないことがある。
【0028】
ここで、自己乳化とは、非混和性液体(溶融したワックスと水)を接触させると自発的にエマルションが生じる現象のことをいう。分子鎖に官能基を有することで乳化分散剤を使用しなくても機械的な乳化のみで安定なワックスエマルションが得られるものを「自己乳化型」と称する。乳化分散剤は、非混和性液体同士を共に混合することで乳化させ得る、例えば、乳化剤、PVA、及びポリカルボン酸系分散剤等の物質である。なお、上記の非混和性液体を乳化させるために乳化剤等を使用すると、乳化剤が水を吸収するため撥水コーティング組成物の層の撥水性が低下する。
【0029】
一実施形態において、撥水コーティング組成物の粘度は、良好な成膜性を得る観点から、10~600mPa・s/25℃、好ましくは30~400mPa・s/25℃、より好ましくは70~200mPa・s/25℃である。なお、粘度は、粘度計(東機産業社製、装置名:デジタル粘度計TVB-10M)を用いて測定される。
【0030】
このように、ワックス粒子(B)は、ワックスに対して上記で規定した質量部の炭化水素化合物を含有することにより、自己乳化性を高めることができる。また、撥水コーティング組成物は、自己乳化性の高いワックス粒子(B)と、共重合体粒子と、を含有することにより、優れた撥水効果を有する。
【0031】
一実施形態に係る撥水コーティング組成物における共重合体粒子の平均粒子径は、25~1000nm、好ましくは50~800nm、より好ましくは100~600nmである。なお、平均粒子径は平均粒子径(D50)を表し、動的光散乱法(DLS法)で測定される。
【0032】
ここで、動的光散乱法(DLS法)による平均粒子径は、動的光散乱によって測定される体積基準の粒度分布における累積50%となる平均粒子径(D50)を意味する。溶液や懸濁液中でブラウン運動している粒子にレーザー光を照射すると、粒子からの散乱光には拡散係数に応じた揺らぎが生じる。大きな粒子は動きが遅いので散乱光強度の揺らぎは緩やかである。一方、小さな粒子は動きが速いので散乱光強度の揺らぎは急激に変化する。動的光散乱法では、この拡散係数を反映した散乱光の揺らぎを検出し、ストークス・アインシュタイン式等を利用して平均粒子径(D50)を測定する。
【0033】
一実施形態に係る撥水コーティング組成物におけるワックス粒子(B)の平均粒子径は、380~5000nm、好ましくは400~3000nm、より好ましくは500~1000nmである。なお、平均粒子径は平均粒子径(D50)を表し、動的光散乱法(DLS法)で測定される。
【0034】
一実施形態において、撥水コーティング組成物は、共重合体粒子(A)100質量部に対してワックス粒子(B)5~200質量部を含有する。なお、質量部は、後述の実施例に記載の有効成分量に相当する。
【0035】
(共重合体粒子(A))
共重合体粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体、好ましくは(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を有する。共重合体粒子は、1種類のエチレン性不飽和単量体からなる単独重合体、又は、2種類以上のエチレン性不飽和単量体からなる共重合体の粒子である、なお、本明細書中において、「(メタ)アクリル」の文言には、「アクリル」及び「メタクリル」の両方の文言が含まれることを意味する。
【0036】
(エチレン性不飽和単量体)
共重合体粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体を構成単位として含む。エチレン性不飽和単量体は、アクリル系単量体、アミド系単量体、スチレン系単量体、及びその他のエチレン性不飽和単量体を含む。
【0037】
アクリル系単量体は、エチレン系不飽和カルボン酸単量体(単量体(a1))、エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(単量体(a2))、エチレン系不飽和カルボン酸シクロアルキルエステル単量体(単量体(a3))、エチレン系不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体(単量体(a4))、ヒドロキシル基含有エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(単量体(a5))、エチレン系不飽和カルボン酸アミノアルキルエステル単量体(単量体(a6))、及び不飽和脂肪酸グリシジルエステル単量体(単量体(a9))を含む。
【0038】
アミド系単量体は、エチレン系不飽和カルボン酸アミノアルキルアミド単量体(単量体(a7))及びアミド基含有エチレン系不飽和カルボン酸単量体(単量体(a8))を含む。
【0039】
スチレン系単量体は、スチレン系単量体(単量体(a12))を含む。
【0040】
その他のエチレン性不飽和単量体は、シアン化ビニル系単量体(単量体(a10))及び飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステル単量体(単量体(11))を含む。
【0041】
一実施形態において、共重合体粒子(A)は、単量体(a1)を1~4質量部、好ましくは1~2質量部を含む。
【0042】
一実施形態において、共重合体粒子(A)は、単量体(a2)を96~99質量部、好ましくは97~99質量部を含む。
【0043】
一実施形態において、共重合体粒子(A)は、上記質量部の範囲の単量体(a1)及び単量体(a2)を単量体成分として含む共重合体である。なお、共重合体粒子(A)は、単量体(a12)を含む場合、耐候性の観点から単量体(a12)を30質量部以下で含んでよい。
【0044】
単量体(a1)は、カルボキシ基を有する重合性単量体であり、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、及びイタコン酸等を含む。単量体(a1)は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0045】
単量体(a2)は、炭素数が1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸iso-ブチル、(メタ)アクリル酸ter-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等を含む。単量体(a2)は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0046】
単量体(a3)は、炭素数が1~18の環状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、例えば、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ter-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロオクチル、(メタ)アクリル酸シクロデシル、及び(メタ)アクリル酸シクロドデシル等を含む。単量体(a3)は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0047】
単量体(a4)は、カルボキシ基を有する重合性単量体であり、例えば、マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、及びイタコン酸ブチル等を含む。単量体(a4)は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0048】
単量体(a5)は、ヒドロキシ基を有する重合性単量体であり、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンとの反応物等を含む。単量体(a5)は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0049】
単量体(a6)は、アミノ基を有する重合性単量体であり、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、及び(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等を含む。単量体(a6)は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0050】
単量体(a7)は、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なアミド系単量体であり、例えば、アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、及びメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等を含む。単量体(a7)は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0051】
単量体(a8)は、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なアミド系単量体であり、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、メトキシブチルアクリルアミド、及びジアセトンアクリルアミド等を含む。単量体(a8)は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0052】
単量体(a9)は、エポキシ基を有する重合性単量体であり、例えば、アクリル酸グリシジル及びメタクリル酸グリシジル等を含む。単量体(a9)は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0053】
単量体(a10)は、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体であり、例えば、(メタ)アクリロニトリル及びα-クロルアクリロニトリル等を含む。単量体(a10)は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0054】
単量体(a11)は、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体であり、例えば、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル等を含む。単量体(a11)は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0055】
単量体(a12)は、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なスチレン系単量体であり、例えば、スチレン(ST)、α-メチルスチレン、及びビニルトルエン等を含む。単量体(a12)は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0056】
さらに、共重合体粒子(A)が含む単量体として、(共)重合体を架橋させ得る単量体が用いられてもよい。(共)重合体を架橋させ得る単量体は、例えば、重合性二重結合を2つ以上有する単量体であり、それらの1種又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。重合性二重合結合を2つ以上有する単量体は、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の重合性二重結合を2つ以上有する(メタ)アクリル系単量体、ジビニルベンゼン、及びジアリルフタレート等を含む。
【0057】
(粒子径分布(D90/D10)
共重合体粒子(A)のD90/D10は、1.01~5.00、好ましくは1.01~4.00、より好ましくは1.01~3.00の範囲である。共重合体粒子(A)のD90/D10が上記の範囲内である場合、ワックス粒子(B)が共重合体粒子層上で規則的に配列されるため撥水性が向上する。
【0058】
粒子径分布とは、測定対象となるサンプル粒子群の中に、どのような大きさ(粒子径)の粒子が、どのような割合(全体を100%とする相対粒子量)で含まれているかを示す指標である。粒子量の基準(次元)として体積基準が用いられる。粒子径分布データは、粒子径(横軸)に対する頻度%又は累積%(縦軸)として表される。累積%の分布曲線が10%の横軸と交差するときの粒子径を10%粒子径(D10)という。また、累積%の分布曲線が50%の横軸と交差するときの粒子径を90%粒子径(D90)という。
【0059】
ここで、粒子径分布における10%粒子径(D10)と90%粒子径(D90)を用いて、D90とD10との比率を求めることで粒子径分布の指標とすることができる。D90/D10の数値が1に近いほど粒子径分布がシャープであることを表す。一方で、D90/D10の数値が大きいほど粒子径分布がブロードであることを表す。
【0060】
(ガラス転移温度(Tg))
共重合体粒子(A)のTgは、0~100℃、好ましくは10~90℃、より好ましくは20~80℃である。ガラス転移温度(Tg)とは、物質がゴム状態からガラス状態になる境界温度のことをいう。なお、共重合体粒子(A)のTgが0℃よりも低い場合、共重合体粒子の層の表面にタック(粘着性)が生じるため、被塗装品の防汚性が低下する。一方で、共重合体粒子(A)のTgが100℃よりも高い場合、共重合体粒子の層の造膜性が低下するため、撥水性及び耐久性が低下する。
【0061】
共重合体粒子(A)のTgは、単独の単量体からなる単独重合体(ホモポリマー)である場合、DSC測定による値である。また、共重合体粒子(A)のTgは、2種類以上の単量体からなる共重合体(コポリマー)である場合、上記の単独重合体の場合のTgを用いて、以下の式1(FOX式)から求められる理論値となる。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・Wn/Tgn (式1)
【0062】
式1で、Tgは、n種類の単量体(単量体1~n)からなる各共重合体を含むガラス転移温度(単位:K)を表す。W1、W2、・・・Wnは、n種類の単量体の総質量に対する各単量体(1、2、・・・n)の質量分率を表す。Tg1、Tg2、・・・Tgnは、各単量体(1、2、・・・n)からなる単独重合体のガラス転移温度(単位:K)を表す。
【0063】
後述の実施例で使用した単量体のTgを以下に示す。各単量体のTgを用いて、共重合体粒子(A)の共重合体のTgを求めた。
メチルメタクリレート(MMA):105℃
ブチルアクリレート(BA):-52℃
2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA):-70℃
アクリル酸(AAC):105℃
スチレン(ST):100℃
【0064】
(コア・シェル構造)
共重合体粒子(A)は、コア部とシェル部とを有する形態であっても良い。共重合体粒子(A)がコア・シェル構造を有する場合、共重合体粒子層の成膜性、耐溶剤性、耐水性、及び機械的安定性がより向上する。撥水コーティング組成物は、コア・シェル構造の共重合体粒子(A)を含む共重合体エマルションと、ワックス粒子(B)を含むワックスエマルションとを含有することにより、撥水性を向上させることができる。
【0065】
共重合体粒子(A)がコア部とシェル部とを有する場合、コア部とシェル部とが完全に相溶して、コア部とシェル部とを区別できない均質構造のものであってもよい。また、共重合体粒子(A)は、コア部とシェル部とが完全に相溶せずに不均質な状態であるコア・シェル複合構造及びミクロドメイン構造を有してもよい。特に、共重合体粒子(A)の特性の発現性、安定性及び製造の容易性の観点から、共重合体粒子(A)はコア・シェル複合構造であってもよい。
【0066】
なお、コア・シェル複合構造において、コア部の表面がシェル部によって被覆された形態であってもよい。この場合、コア部の表面は、シェル部によって完全に被覆されていると良いが、完全に被覆されていなくてもよく、例えば、網目状に被覆されている形態及び所々においてコア部が露出している形態であってもよい。
【0067】
(共重合体粒子(A)の重合方法)
共重合体粒子(A)は、溶液重合、塊状重合、乳化重合及び懸濁重合等により合成される。共重合体粒子(A)の粒子径の調整の容易性及び生産性の観点から、水性媒体中で乳化重合を行う方法が用いられるとよい。乳化重合の方法は、水性媒体、単量体成分、及び重合開始剤等を一括で混合して乳化重合する方法を含む。また、乳化重合の方法は、水性媒体及び単量体成分等を含有するプレエマルションを用いて乳化重合する方法を含む。
【0068】
(分散媒)
分散媒は水性媒体であり、例えば、水、脱イオン水、又は、水及び水溶性有機溶媒(アルコール、ケトン、エーテル、ジメチルスルホキシド、及びジメチルホルムアミド等)からなる混合物の少なくともいずれかを含む。
【0069】
一実施形態において、共重合体粒子(A)100質量部に対して、分散媒を40~900質量部、好ましくは70~400質量部、より好ましくは100~230質量部で含有することができる。
【0070】
(その他の添加剤)
撥水コーティング組成物は、撥水性等に対する要求性能に応じて、以下の種々の添加剤を更に含有してもよい。添加剤は、例えば、乳化剤、凝集助剤、凍結防止剤、硬化剤、緩衝剤、中和剤、増粘剤、保湿剤、湿潤剤、可塑剤、消泡剤、UV吸収剤、蛍光増白剤、光又は熱安定剤、殺生物剤、キレート剤、分散剤、着色剤、撥水剤、有機又は無機顔料、増量剤、及び酸化防止剤等のコーティング補助剤を含む。
【0071】
乳化剤は、共重合体エマルションを水性媒体中で合成する際に界面活性剤として使用される。乳化剤は、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等を含む。共重合体エマルションの合成を促進する観点から、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及びアニオン性界面活性剤が用いられるとよい。乳化剤は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0072】
アニオン性界面活性剤は、例えば、ステアリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム等の反応性アニオン性界面活性剤等を含む。
【0073】
ノニオン性界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテル等の反応性ノニオン性界面活性剤等を含む。
【0074】
一実施形態において、撥水コーティング組成物は、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して乳化剤を0.1~20質量部、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~5質量部で含有してもよい。
【0075】
中和剤は、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、及びジエチレントリアミン等の有機アミン類等を含む。中和剤は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0076】
共重合体エマルションを製造する際、単量体成分を重合させて共重合体エマルションを得た後、中和剤により共重合体エマルションを中和するとよい。共重合体エマルションがカルボキシ基を有する場合、そのカルボキシ基を塩基性の中和剤で中和するとよい。これにより、共重合体エマルションが安定化する。
【0077】
ここで、共重合体エマルションのpHは、特に限定されないが、7.0~10.0、好ましくは7.5~9.5、より好ましくは8.0~9.0である。共重合体エマルションのpHは、JIS K6833-1:2008の規定に準拠して測定される値であり、25℃での値である。
【0078】
<塗装方法>
本発明の撥水コーティング組成物は以下の基材に塗布され得る。これにより、外部からの水滴等により基材が汚れることを防止することができる。
【0079】
(基材)
基材は、本発明に係る撥水コーティング組成物が塗布される基材である。基材は有機材料であり、例えば、壁紙等を含む。
【0080】
壁紙は、紙製の内装仕上げ材のことであり、例えば、紙系壁紙、繊維系壁紙、塩化ビニル樹脂系壁紙、プラスチック系壁紙、及び無機質系壁紙を含む。
【0081】
紙系壁紙は、普通紙、難燃紙、又は紙布からなる壁紙である。
【0082】
繊維系壁紙は、有機質の繊維を主素材とする壁紙である。繊維系壁紙は、植物性繊維又はレーヨン等のセルロース系再生繊維(化学繊維との混紡・交織等を含む)、化学繊維(アクリル、ポリエステル等)、又は動物性繊維織物からなる壁紙を含む。
【0083】
塩化ビニル樹脂系壁紙は、塩化ビニル樹脂又は表面化粧層に20g/m以上の塩化ビニル樹脂を使用したものからなる壁紙を含む。
【0084】
プラスチック系壁紙は、塩化ビニル樹脂を除くプラスチックを主素材とするか又は表面化粧層に20g/m以上のプラスチックを使用したものからなる壁紙を含む。
【0085】
無機質系壁紙は、無機質紙、無機質骨材、又はガラス繊維等の無機質からなる壁紙を含む。
【0086】
(撥水コーティング組成物の層)
撥水コーティング組成物の層は、本発明に係る撥水コーティング組成物を硬化乾燥させた塗膜のことである。撥水コーティング組成物の態様は、硬化乾燥前に液体状であり、硬化乾燥後に固体状である。基材の少なくとも一方の表面に塗布する撥水コーティング組成物の塗工量は、乾燥後の撥水コーティング組成物の層の厚さに応じた量であってよい。撥水コーティング組成物の層の厚さは、0.1~300μm、好ましくは0.5~200μm、より好ましくは1~100μmである。
【0087】
基材の少なくとも一方の表面に撥水コーティング組成物を塗布する方法は、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を含む。上記の方法のいずれかにより撥水コーティング組成物を基材に塗布して、塗膜を形成した後、100~250℃、好ましくは110~240℃、より好ましくは120~230℃で硬化乾燥する。乾燥時間は、ワックス粒子を十分に溶融させる観点から、20~100秒、好ましくは30~80秒、より好ましくは40~60秒である。
【0088】
撥水コーティング組成物の層の撥水性(水接触角)は、全自動接触角計(協和界面科学(株)製、装置名:DMo-701)を用いて、水滴を滴下して1秒後の水接触角を測定した。一実施形態において、撥水コーティング組成物の層の表面において水接触角が100°以上である。
【0089】
以上の通り、本発明の撥水コーティング組成物の層の表面における水接触角は100°以上である。本発明の撥水コーティング組成物によれば、撥水コーティング組成物の層の表面において優れた撥水効果を有する。
【0090】
<共重合体エマルションの製造>
以下、撥水コーティング組成物に用いる共重合体エマルションの製造例について説明する。
【0091】
(製造例1)
撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、脱イオン水110質量部、アニオン乳化剤としてポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸ナトリウム(商品名:Newcol707SF、日本乳化剤(株)製、不揮発分30質量%)0.17質量部(有効成分:0.05質量部)を加えて、混合物を撹拌しながら四ツ口セパラブルフラスコの内部温度を80℃まで昇温させた。
【0092】
上記の混合物に加えるプレエマルションを以下の方法で調整した。表1に記載のモノマーの配合比率に基づいて、ノルマルブチルアクリレート(BA)35質量部、メチルメタクリレート(MMA)64質量部、及びアクリル酸(AAc)1質量部の単量体成分(総量100質量部)、架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート(商品名:ライトエステルTMP、共栄社化学(株)製、不揮発分:100質量%)1質量部、アニオン乳化剤としてポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸ナトリウム(商品名:Newcol707SF、日本乳化剤(株)製、不揮発分30質量%)6.7質量部(有効成分:2.0質量部)、及び脱イオン水64質量部を、ホモディスパーで乳化させ、プレエマルションを調製した。
【0093】
次に、セパラブルフラスコの内部温度を80℃に維持しながら、四ツ口セパラブルフラスコ内の混合物(脱イオン水等)に、調製済みのプレエマルションを滴下ロートから3時間かけて均一に滴下し、これと同時に、1質量%過硫酸アンモニウム水溶液50質量部(有効成分:0.5質量部)を、3時間かけて均一に滴下した。滴下終了後、80℃で3時間熟成し、冷却後、25質量%アンモニア水0.7質量部(有効成分:0.18質量部)を添加して中和した。pHを調整後、120メッシュのろ布を用いてろ過し、樹脂エマルションを得た。なお、共重合体エマルションのTg(理論値)は30℃、蒸発残分は30.0wt%(重量%)であった。
【0094】
(重合温度及び重合時間)
共重合体粒子(A)を合成する際の重合温度、重合時間、重合開始剤、及び乳化剤等の重合条件は、公知の乳化重合の方法と同様であってよい。
【0095】
例えば、重合温度及び重合時間は、単量体又は重合開始剤等の種類及び使用量等に応じて、適宜決定されてよい。例えば、重合温度は、好ましくは20~100℃、より好ましくは40~90℃である。重合時間は1~15時間である。さらに、上述のプレエマルションを重合開始剤に添加(滴下)する方法は、例えば、一括添加法、連続添加法、及び多段添加法等の方法であってよい。また、これらの添加方法を組み合わせた添加方法で共重合体粒子(A)を合成してもよい。
【0096】
(重合開始剤)
重合開始剤は、例えば、過硫酸塩、有機過酸化物、過酸化水素等の過酸化物、及びアゾ化合物等を含む。重合開始剤は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。また、過酸化物と併用したレドックス重合開始剤及び重合促進剤として1種又は2種以上の還元剤を用いることもできる。
【0097】
過硫酸塩は、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウム等を含む。有機過酸化物は、例えば、過酸化ベンゾイル、ジラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等を含む。アゾ化合物は、例えば、2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩及び4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)等を含む。還元剤は、例えば、アスコルビン酸及びその塩、酒石酸及びその塩、亜硫酸及びその塩、重亜硫酸及びその塩、チオ硫酸及びその塩、並びに鉄(II)塩等を含む。
【0098】
(重合調整剤)
重合調整剤は、共重合体粒子(A)の分子量を調整するために用いられ、公知の連鎖移動剤である。連鎖移動剤は、例えば、ヘキシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、及びn-,又はt-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類等を含む。
【0099】
(製造例2~13)
表1は、製造例1~13のそれぞれで得られる共重合体エマルションのモノマーの配合比率を示す。製造例2~13では、表1に記載のモノマーの配合比率に基づいて、製造例1と同様の工程を行って樹脂エマルションを得た。Haze(ヘイズ(%))は、JIS7361-1に準拠したヘイズメーター(日本電色工業社製、商品名:NDH5000)により測定された。なお、ST~AACの略語及び各単量体のTgを表1の下部に示す。
【0100】
【表1】
※略語の説明とTg(℃)
メチルメタクリレート(MMA):105℃
ブチルアクリレート(BA):-52℃
2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA):-70℃
アクリル酸(AAC):105℃
スチレン(ST):100℃
【0101】
<ワックスエマルションの詳細>
以下、撥水コーティング組成物に用いるワックスエマルションの詳細について説明する。なお、表2に記載の各種ワックスは既にエマルションの状態であるため、製造方法の説明を省略する。表2の2種類のワックス(品名:サイビノール PC-10、PHOENIX EW-1001)は、炭素数8~60の官能基を有する炭化水素化合物を含む自己乳化型のワックスである。一方で、他の2種類のワックス(品名:サイビノール PN-3500、AQUACER 539)は、ノニオン性界面活性剤を含有した非自己乳化型のワックスであり、本発明で規定される平均粒子径380~5000nmの範囲外の粒径を有するワックス粒子(B)である。なお、2種類のワックス(品名:サイビノール PN-3500、AQUACER 539)は、実施例との比較を行うために、比較例1(サイビノール PN-3500)、比較例2(サイビノール PN-3500)、及び比較例3(AQUACER 539)に用いられた。
【0102】
【表2】
【0103】
<撥水コーティング組成物の製造>
(実施例1)
表3に記載の原料配合量に基づいて、製造例1にて作製した共重合体エマルション333.3質量部(有効成分:100質量部)、ワックス粒子(B)を含有したワックスエマルション(サイデン化学社製、商品名:サイビノール PC-10)140質量部(有効成分:70質量部)を混合して混合物を得た。混合物から固形分30wt%になるよう調整して、撥水コーティング組成物を得た。
【0104】
(実施例2~10
表3は、実施例1~10のそれぞれで得られた撥水コーティング組成物の原料配合量を示す。実施例2~10は、表3の原料配合量に基づいて、実施例1と同様の工程を行うことにより、撥水コーティング組成物を得た。なお、表中の数値は投入量(質量部)を表し、カッコ内は有効成分量を表す。
【0105】
(比較例1~
表4は、比較例1~のそれぞれで得られた撥水コーティング組成物の原料配合量を示す。比較例1~は、表4の原料配合量に基づいて、実施例1と同様の工程を行うことにより、撥水コーティング組成物を得た。ここで、比較例1~3のワックス粒子(B)は、炭化水素化合物ではなく乳化剤を含む。なお、表中の数値は投入量(質量部)を表し、カッコ内は有効成分量を表す。
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
<撥水コーティング組成物の性能評価>
以下の試験例1~試験例6を行い、撥水コーティング組成物の性能評価を行った。
【0109】
(試験例1 水接触角の測定)
バーコーター#4(約2μm/dry)で撥水コーティング組成物を塩化ビニル系発泡壁紙の原紙上に塗布した。パーフェクトオーブンを用いて、撥水コーティング組成物を塗布した塩化ビニル系発泡壁紙の原紙を140℃の雰囲気下で60秒乾燥させた。230℃の雰囲気下で上記の原紙を30秒発泡させることで試料を得た。
【0110】
全自動接触角計(協和界面科学(株)製、装置名:DMo-701)を用いて、試料に水を滴下して1秒後の水接触角を測定した。
【0111】
(試験例2 撥水性の確認)
試験例1と同じ方法で作製した試料を水平に対し45°の角度で保持した。試料のコーティング表面(撥水コーティング組成物の層)に霧吹きで水を吹きかけた時の状態を観察し、下記の4段階の評価基準に基づいて撥水性に係る評価を目視で行った。
◎:撥水し玉のように水が転がり落ちる。
○:撥水し玉になるが、水が流れ落ちる時に線が残る。
△:やや撥水するが、玉にはならず流れ落ち、線が残る。
×:撥水せず濡れ広がる。
【0112】
(試験例3 光沢度測定)
光沢計(コニカミノルタ(株)社製、装置名:GM-268plus)を用いて、試験例1と同じ方法で作製した試料の光沢度を測定した(JIS Z8741に準拠)。試料の表面に対し25°、60°、及び85°の角度で測定した光沢度は、Gs(25°)、Gs(60°)、及びGs(85°)で表される。なお、JIS規格では、以下のような艶消し性に関する評価基準が設けられている。
艶有:60度鏡面光沢度で90~100%程度
半艶消し:60度鏡面光沢度で30~70%程度
艶消し:60度鏡面光沢度で30%程度以下
【0113】
(試験例4 防汚性の確認)
試験例1と同じ方法で作製した4つの試料のコーティング層(撥水コーティング組成物の層)のそれぞれに対して、しょうゆ、コーヒー、水性ペン(黒)、及びクレヨン(赤)をそれぞれ適量付着させた。4つの試料を24時間放置した。その後、しょうゆ又はコーヒーが付着した試料を流水で洗い流した。水性ペン又はクレヨンが付着した試料に対して歯ブラシを用いて中性洗剤でよく擦った後、流水で洗い流した。4つの試料に対する汚れの残り具合を下記の4段階の評価基準に基づいて目視で評価した。
◎:ほぼ汚れ残りがない。
○:やや汚れ残りがあるが目立たない。
△:明らかな汚れ残りがある。
×:かなり目立つ汚れ残りがある。
【0114】
(試験例5 耐擦性の確認)
試験例1と同じ方法で作製した試料を横250mm×縦20mmのサイズに加工して試料を得た。学振型摩擦堅牢度試験機(大栄科学精器製作所(株)製)を用いて、試料に対して200g荷重×50往復の摩擦を与えた。試験終了後、試料の艶の変化、傷つき、剥がれについて下記の4段階の評価基準に基づいて評価した。
◎:試験前後の艶の変化率が5%未満、かつ、目立った傷つき、剥がれがない。
○:試験前後の艶の変化率が5%以上10%未満、かつ、目立った傷つき、剥がれがない。
△:試験前後の艶の変化率が10%以上、または、傷つき、剥がれがある。
×:試験前後の艶の変化率が10%以上、かつ、傷つき、剥がれがある。
【0115】
(試験例6 耐候性試験)
超促進耐候試験機(岩崎電気(株)製、装置名:アイスーパーUVテスター)を用いて、試験例5と同じ方法で作製した試料の耐候性を確認した。試験条件は、4時間照射(紫外線照射度90mW、ブラックパネル温度63℃,70%RH)、4時間暗黒(ブラックパネル温度63℃,70%RH)、4時間結露(ブラックパネル温度30℃,90%RH)の12時間を1サイクルとし、計10サイクルの試験を行った。試験終了後、試験片の塗膜の割れ、剥がれ、変色、艶の変化を目視によって観察し、以下の4段階の評価基準に基づいて評価した。
◎:試験前と比べて、大きな変化が見られない。
○:試験前と比べて、やや艶引けがある。
△:試験前と比べて、やや変色、割れ、剥がれ、艶引けがある。
×:試験前と比べて、著しい変色、割れ、剥がれ、艶引けがある。
【0116】
実施例1~10の評価結果を表5に示す。比較例1~の評価結果を表6に示す。
【0117】
【表5】
【0118】
【表6】
【0119】
表5及び表6の結果から以下のことが判明した。実施例1の水接触角は、比較例1、比較例2、及び比較例3(乳化剤を含む場合)の水接触角よりも高角度であるため、実施例1の撥水コーティング組成物の層において撥水性が向上した。また、実施例1の撥水コーティング組成物の層は、上記比較例の層よりも、防汚性及び耐擦性に優れていた。
【0120】
実施例1の水接触角が、比較例1、比較例2、及び比較例3の水接触角よりも高角度となった理由を以下に示す。実施例1の撥水コーティング組成物は、乳化剤の代替として炭素数8~60の官能基を有する炭化水素化合物を含むワックス粒子(B)を含有している。そのため、撥水コーティング組成物の層において優れた撥水効果が発現するものと考えられる。また、実施例1では、規定の平均粒子径(D50)の共重合体粒子(A)及びワックス粒子(B)の各エマルションを撥水コーティング組成物に含有させることにより、良好な造膜性を有する撥水コーティング組成物の層を形成できるものと推定される。
【0121】
以上の通り、本発明の撥水コーティング組成物は、撥水コーティング組成物の層において撥水性を向上させる顕著な効果を有する。
【0122】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、撥水性を向上させる撥水コーティング組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】エチレン性不飽和単量体の共重合体粒子と、官能基を有する炭素数8~60の炭化水素化合物を含むワックス粒子と、分散媒と、を含む。
【選択図】なし