(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】湿度センサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/04 20060101AFI20230127BHJP
G01N 27/12 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
G01N27/04 B
G01N27/12 G
G01N27/12 K
(21)【出願番号】P 2018072018
(22)【出願日】2018-04-04
【審査請求日】2021-04-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度よりの、国立研究法人科学技術振興機構の研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム COI拠点「フロンテア有機システムイノベーション拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】土屋 和彦
(72)【発明者】
【氏名】野村 綾子
(72)【発明者】
【氏名】時任 静士
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-076086(JP,A)
【文献】特表2017-531163(JP,A)
【文献】特表2019-532272(JP,A)
【文献】特開2006-214858(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106383149(CN,A)
【文献】Morais Rogerio M.,Low Cost Humidity Sensor Based on PANI/PEDOT:PSS Printed on Paper,IEEE Sensors Journal,2018年04月01日,Vol.18 No.7,pp.2647-2651
【文献】Chang-Hung Lee,A Printable Humidity Sensing Material Based on Conductive Polymer and Nanoparticles Composites,Japanese Journal of Applied Physics,2013年,Vol.52,pp.05DA08-1~05DA08-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に第一電極層と第二電極層との間に直流電圧が印加され、
前記第一電極層と前記第二電極層の間の電流を計測して半導体高分子層の抵抗値を算出する湿度センサ
であって、
プラスチックを含む可撓性の基材と、
前記基材上にパターン形成された第一電極層と、
前記基材上に前記第一電極層から離間してパターン形成された第二電極層と、
平面視で前記第一電極層と前記第二電極層とに重畳する半導体高分子層と、
前記半導体高分子層の少なくとも一部が覆われる絶縁性ポリアニリン高分子層と、
からなる湿度センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の湿度センサにおいて、
前記半導体高分子層はポリ-4-スチレンスルホン酸をドープしたポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)膜からなり、
前記絶縁性ポリアニリン高分子層は塩基性型ポリアニリンからなる湿度センサ。
【請求項3】
基材上に第一電極層と第二電極層との間に直流電圧が印加され、
前記第一電極層と前記第二電極層の間の電流を計測して半導体高分子層の抵抗値を算出する湿度センサの製造方法
であって、
プラスチックを含む可撓性の基材上に、パターン形成された第一電極層を形成する工程と、
前記第一電極層から離間してパターン形成された第二電極層を形成する工程と、
平面視で前記第一電極層と前記第二電極層とに重畳する半導体高分子層を形成する工程と、
前記半導体高分子層の少なくとも一部が覆われる絶縁性ポリアニリン高分子層を形成する工程と、
を含む湿度センサの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の湿度センサの製造方法において、
前記半導体高分子層を形成する工程は、ポリ-4-スチレンスルホン酸をドープしたポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)を塗布する工程を含み、
前記絶縁性ポリアニリン高分子層を形成する工程は、塩基性型ポリアニリンを塗布する工程を含む湿度センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿度センサ、特に生体や物体に貼付して、湿度を半導体層や高分子層の抵抗値の湿度依存性を利用して電極で検出する場合において、湿度の経時的な変化を容易に精度よくモニタリングすることができ、柔軟な基材に形成可能なため生体や物体への貼付に好適な湿度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓や脳などの組織から発生する電気信号を検出する生体信号センシング装置は、生体電極を衣類に実装して身に着けて持ち運ぶことができ、常時生体信号を監視し続けることができるようになっている。生体信号センシング装置は、生体信号受信部が乾いたときに、生体信号受信部に電解質溶液もしくは非電解質液体を自動的に補充する湿気補充機構がある。湿気補充機構の湿度センサは生体信号受信部の内部または表面付近に設けられ、湿度センサの検出部が生体信号受信部と触れている。そして生体信号受信部としてPEDOT:PSSに代表される導電性高分子からなる多孔質体を用いるものが特許文献1に開示されている。
【0003】
また、一対の櫛形電極上にイオン性高分子化合物を含む湿度センサ膜を形成し、空気中の水蒸気を湿度センサ材が吸うと電気抵抗が変化する原理を利用した湿度センサが特許文献2に開示されている。
【0004】
また、酸性基またはその塩を導入したアニリン系の導電性高分子を用いる湿度センサが特許文献3に開示されている。これによると、電気分解が発生しないため測定回路が複雑にならないので、より安価で利便性の高い直流駆動でも安定に動作する湿度センサが実現できる。
【0005】
そして、有機トランジスタにも用いられる半導体高分子材料のPEDOT:PSSの湿度による抵抗値の変化については、非特許文献1に開示がなされている。
【0006】
そして、紙の上に印刷する半導体高分子材料PEDOT:PSSを電極として用い、その上に塩基性型のポリアニリンを印刷した後に塩酸の雰囲気に曝すことで絶縁性を導電性に変えて抵抗の湿度依存を利用する、安価な湿度センサが非特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-226367号公報
【文献】特開2007-163449号公報
【文献】特開2011-232285号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】M.Kus, S.Okur, Sensors and Actuators B 143 (2009) 177-181.
【文献】R.M.Morais, et al., IEEE Sensors Journal (2018) 2647-2651.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1において開示される生体電極は、多孔質体からなる生体信号受信部に電解質溶液もしくは非電界質液体を含侵させている。生体信号受信部にPEDOT:PSSを用いることで、電解質溶液または非電界質液体を効率よく保持することが可能になっている。そして、生体信号受信部が皮膚の乾燥によって電極インピーダンスが高くならないように、生体と接触する面と反対側の生体信号受信部の面を覆う水分蒸発抑制用覆いや、電解質溶液もしくは非電界質液体を補充できるように湿気補充機構が構成されている。ここで、湿気補充機構には生体信号受信部の内部または表面付近に湿度センサが設けられている。しかしながら、湿度センサの構成について具体的な記載がない。
【0010】
電解質溶液もしくは非電界質液体を含侵させてなるPEDOT:PSSを湿度センサ膜として、特許文献2に記載される抵抗値の湿度依存性を利用して電極で検出する湿度センサを構成する場合、液体の蒸発や乾燥を防ぐ手段が必要となり装置が複雑になり大型化するので、生体や物体に貼付して湿度の経時的な変化をモニタリングする用途に適さない課題がある。
【0011】
特許文献3には、導電性高分子酸性基またはその塩を導入したアニリン系の導電性高分子を用いる湿度センサが開示され、直流駆動でも安定に動作できる。しかしながら、湿度に対して文献の
図1および
図2で示されるように、湿度変化に対する抵抗値の相関が曲線の対数型となる。そのため、抵抗値から湿度を求める演算回路が必要になり、一般にはログアンプなどを用いるので回路が複雑になり高価になりやすく、また精度も悪くなりやすい課題がある。
【0012】
一方で、半導体高分子材料PEDOT:PSSの単体での湿度変化に対する直流抵抗値の相関は、非特許文献1のFig.6で示されるように、湿度上昇時と湿度下降時とで同じ湿度でも抵抗値に差が生じ、そのため正確な湿度変化をモニタリングすることができていない。
【0013】
また、非特許文献2に開示される湿度センサは、ポリアニリンの湿度変化に対する抵抗値を利用するもので、PEDOT:PSSの抵抗値を湿度センサ膜として用いていない。さらに、低周波数の記載はあるものの直流駆動で不安定な動作になりやすい。
【0014】
本発明の目的は上記の課題を解決し、有機半導体を用いて形成するセンシング回路や無線通信回路等との一体化に適している半導体高分子層を感湿体として、可撓性の基材上に塗布により薄くて柔軟に形成ができ生体や物体への貼付に優れ、直流電圧の測定で湿度上昇時と湿度下降時とで抵抗値の差を抑制し、湿度変化に対する抵抗値の相関が直線型になるので、湿度の経時的な変化を容易に精度よくモニタリングするのに好適な湿度センサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、湿度センサであって、プラスチックを含む可撓性の基材と、基材上にパターン形成された第一電極層と、基材上に第一電極層から離間してパターン形成された第二電極層と、平面視で第一電極層と第二電極層とに重畳する半導体高分子層と、半導体高分子層の少なくとも一部が覆われる絶縁性ポリアニリン高分子層と、から構成され、第一電極層と第二電極層との間に直流電圧を印加して、第一電極層と第二電極層の間の電流を計測して抵抗値を算出することを特徴とする。
【0016】
本湿度センサにあっては、半導体高分子層の少なくとも一部が覆われる絶縁性ポニアニリン高分子層を設けることにより、湿度上昇時と湿度下降時とで生じる抵抗値の差を抑制するため、正確な湿度変化をモニタリングすることができる。
【0017】
半導体高分子層のみを感湿膜に用いた場合、高湿度な領域において膜中水分の堆積により急峻な抵抗値の上昇が認められるが、半導体高分子層と絶縁性ポリアニリン膜からなる積層構造とした場合には、半導体高分子層への水分の浸透が調整され、高湿度領域での急峻な抵抗上昇が抑制され、直線的な抵抗値変化を示すものと推察される。
【0018】
本発明は、湿度センサであって、半導体高分子層はポリ-4-スチレンスルホン酸をドープしたポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)膜からなり、絶縁性ポリアニリン高分子層は塩基性型ポリアニリンからなることを特徴とする。
【0019】
特に、親水性のPEDOT:PSS膜と絶縁性の塩基性型ポリアニリン膜からなる積層構造とした場合には、これらの積層界面近傍において、PEDOT:PSSが塩基性型ポリアニリンにより中和されて疎水化し、絶縁性の塩基性型ポリアニリンの親水性層、積層界面の疎水性層、および伝導体となるPEDOT:PSSの3層構造が形成される。その結果、PEDOT:PSSへの水分の浸透が調整され、高湿度領域での急峻な抵抗上昇が抑制され、直線的な抵抗値変化をするものと考える。
【0020】
さらに、本温度センサにあっては、半導体高分子層はPEDOT:PSS膜からなり、絶縁膜ポリアニリン高分子層は塩基性型ポリアニリンからなることにより、塗布による工程で薄く柔軟な膜を形成できるので好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の湿度センサは、感湿体として半導体高分子層を用いるので、有機半導体を用いて形成するセンシング回路や無線通信回路等との一体化に適している。可撓性の基材上に塗布により薄くて柔軟な湿度センサが形成できるので、生体や物体への貼付に優れ、直流電圧の測定で湿度上昇時と湿度下降時とで抵抗値の差を抑制し、湿度変化に対する抵抗値の相関が直線型になるので、湿度の経時的な変化を容易に精度よくモニタリングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明にかかる湿度センサの構成を説明するための断面図。
【
図2】本発明にかかる湿度センサの湿度変化に対する抵抗値の時間変化を示す図。
【
図3】本発明にかかる湿度センサの湿度変化と抵抗値の相関を示す図。
【
図4】比較例として半導体高分子層のみの湿度センサの構成を説明するための断面図。
【
図5】比較例として半導体高分子層のみの湿度センサの湿度変化に対する抵抗値の時間変化を示す図。
【
図6】比較例として半導体高分子層のみの湿度センサの湿度変化と抵抗値の相関を示す図。
【
図7】比較例として半導体高分子層のみの湿度センサの湿度変化と抵抗値の相関を片対数で示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明にかかる湿度センサは、プラスチックを含む可撓性の基材と、基材上にパターン形成された第一電極層と、基材上に第一電極層から離間してパターン形成された第二電極層と、平面視で第一電極層と第二電極層とに重畳する半導体高分子層と、半導体高分子層の少なくとも一部が覆われる絶縁性ポリアニリン高分子層と、から構成され、第一電極層と第二電極層との間に直流電圧を印加して、第一電極層と第二電極層の間の電流を計測して抵抗値を算出する。
【0024】
図1に、本発明にかかる湿度センサの基本的な構成を例示する。基材1の表面に第一電極層2と第二電極層3とが形成され、第一電極層2と第二電極層3とに重畳する半導体高分子層4、最後に半導体高分子層4を覆う絶縁性ポリアニリン高分子層5を形成することで、湿度センサを構成している。
【0025】
第一電極層2と第二電極層3とは、図示しない電源を介して直流電圧が印加され、検知した電流値から抵抗値を算出し湿度に対応させる。
【0026】
基材1の材料としては、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリイミド、ポリパラキシリレン(パリレン(登録商標))等の樹脂、紙等を用いることができる。
【0027】
第一電極層2および第二電極層3の材料としては、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、炭素、酸化インジウム錫(ITO)等を用いることができる。金からなることにより、金含有物を真空蒸着する工程で薄く柔軟な膜を形成でき、かつ酸化還元にも安定なので好ましい。あるいは、銀からなることにより、銀ナノ粒子分散インクを印刷し低温の工程で膜を形成できるので基材の選択が広がり、かつ量産性にも優れるので好ましい。
【0028】
半導体高分子層4の材料としては、例えば、ポリ-4-スチレンスルホン酸をドープしたポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)、ポリアニリン、ポリピロール等を用いることができる。PEDOT:PSSは有機半導体を用いて形成する回路との一体化に適し、また塗布または印刷による成膜が容易にできるので好ましい。
【0029】
絶縁性ポリアニリン高分子層5の材料としては、PEDOT:PSSとの界面における中和による疎水化の効果が期待できる塩基性型ポリアニリンが好ましい。
【0030】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
【実施例】
【0031】
図1は本発明にかかる湿度センサの構成を説明するための断面図である。基材1のポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(厚さ120μm)上に、真空蒸着装置を用い、スルーホールマスクを介して金(厚さ50nm)を蒸着することで第一電極層2と第二電極層3とのパターンを作製した。電極のパターンの形状はこれに限定されないが、第一電極層2と第二電極層3との電極幅はそれぞれ1~3mm、第一電極層2と第二電極層3との離間する間隔2mmとした。
【0032】
その第一電極層2と第二電極層3とに重畳させてディスペンサ装置(武蔵エンジニアリング社製)を用い、ポリ-4-スチレンスルホン酸をドープしたポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)を塗布し、120℃で60分焼成することで厚さ5μmの半導体高分子層4を形成した。最後に半導体高分子層4を覆うようにディスペンサ装置(武蔵エンジニアリング社製)を用い、塩基性型ポリアニリンを塗布し、100~120℃で60分焼成することで厚さ1~5μmの絶縁性ポリアニリン高分子層5を形成した。
【0033】
本湿度センサにあっては、半導体高分子層4がPEDOT:PSS、絶縁性ポリアニリン高分子層5が塩基性型ポリアニリンであることにより、塗布または印刷による積層化成膜が容易にできるので好ましい。
【0034】
第一電極層2と第二電極層3とが、金の蒸着で形成されていることにより、熱、湿気、酸素及び酸、アルカリ等による化学的腐食に対し非常に安定で、熱伝導と電気伝導に優れた電極を形成することができるので好ましい。
【0035】
図4は比較例としての湿度センサの構成を説明するための断面図である。
図1に示す湿度センサの実施例との違いは、絶縁性ポリアニリン高分子層5が設けられていないのみである。
【0036】
次に、本発明の湿度センサを用いた検出方法を詳細に説明する。第一電極層2と第二電極層3との間の電圧の制御および第一電極層2と第二電極層3の間の電流の計測は、2400 Source Meter装置(KEITHLEY社製)を用いて行った。印加する電圧にあっては直流電圧とした。直流電圧とすることにより、回路構成がより単純化できるのでより安価で利便性が高く、素子の小型化、しいてはウェアラブル化ができるので好ましい。
【0037】
図2は実施例の湿度センサの湿度変化に対する抵抗値の時間変化を示す図、
図3は本発明にかかる湿度センサの湿度変化と抵抗値の相関を示す図、
図5は比較例として半導体高分子層のみの湿度センサの湿度変化に対する抵抗値の時間変化を示す図、
図6は比較例として半導体高分子層のみの湿度センサの湿度変化と抵抗値の相関を示す図、
図7は比較例として半導体高分子層のみの湿度センサの湿度変化と抵抗値の相関を片対数で示す図である。いずれも環境温度は35℃での測定データを示す。
【0038】
まず、
図2と
図5について詳細に説明する。実施例および比較例からなる湿度センサをTemperature & Hiumidity Chamber装置(ESPEC社製)に設置し、20%rhから80%rhまで10%rhの間隔で湿度上昇し、次いで80%rhから20%rhまで10%rhの間隔で湿度下降した。第一電極層2と第二電極層3との間には0.1Vの直流電圧が印加され、第一電極層2と第二電極層3の間の電流を計測して抵抗値を算出した。
【0039】
実施例と比較例における抵抗値の桁が異なるため、20%rhでの湿度上昇時と湿度下降時の抵抗値の差を下記の式を用いて比率で表わし比較した。
H=(|Rr-Rf| / Rr)×100
H:比率、Rr:上昇時20%rhの抵抗値、Rf:下降時20%rhの抵抗値
【0040】
その結果、
図5に示す比較例の湿度センサでは、湿度上昇時と湿度下降時における抵抗値の差の比率は20.9であるのに対して、
図2に示す実施例の湿度センサでは、湿度上昇時と湿度下降時において2.3の差まで縮小した。このことは、実施例の湿度センサは、絶縁性ポリアニリン高分子層5が設けられたことにより、半導体高分子層4が湿度上昇時と湿度下降時とで抵抗値に差が生じるのを抑制でき、換言すれば湿度による抵抗の変化が不安定になるのを防止できることが分かる。したがって、湿度上昇時と湿度下降時とで抵抗値の差を抑制できるので、湿度の経時的な変化を精度よくモニタリングすることができる。
【0041】
次に、
図3と
図6について詳細に説明する。実施例および比較例からなる湿度センサの湿度上昇時と湿度下降時における湿度変化と抵抗値の相関を示している。
図6に示す比較例の湿度センサは、湿度に対する抵抗値の変化が湿度上昇時と湿度下降時において異なる曲率の曲線を示す。湿度変化に対する抵抗値の相関が曲線の対数型となっているので、抵抗値の片対数化により
図7に示すように線形化することはできるが、その際の相関係数は0.924と0.999となり、湿度上昇時と湿度下降時における相関が良くない。このため、抵抗値から湿度を求める演算回路が必要になり、一般にはログアンプなどを用いるので回路が複雑になり高価になり精度も悪くなりやすい。一方、
図3に示す実施例の湿度センサの抵抗値は直線の線形型を示し、湿度上昇時と湿度下降時において相関係数0.999を示す等、湿度と抵抗値との間で良好な相関が認められた。したがって、湿度変化に対する抵抗値の相関が直線型になるので、抵抗値から湿度を簡単な回路で容易に精度よく求めることができる。
【0042】
以上説明したように、実施例の湿度センサは、絶縁性ポリアニリン高分子層5が設けられたことにより、半導体高分子層4が湿度上昇時と湿度下降時とで抵抗値に差が生じるのを抑制でき、かつ湿度変化に対する抵抗値の相関が直線型になるので、湿度の経時的な変化を精度よくモニタリングできるとともに、抵抗値から湿度を簡単な回路で容易に精度よく求めることができる。
【0043】
ここで、第一電極層2と第二電極層3とが、銀ナノ粒子分散インクの印刷で形成されていること、基材1にポリエチレンナフタレート(PEN)よりも耐熱性が低いポリエチレンテレフタレート(PET)を使用していること以外は上記の実施例と同様に湿度センサを作製した。この湿度センサにおいても、湿度上昇時と湿度下降時とで抵抗値に差が生じるのを実施例の場合と同様に抑制でき、湿度変化と抵抗値の相関も実施例の場合と同様に良好な直線型になることが確認できた。
【0044】
第一電極層2と第二電極層3とを銀ナノ粒子分散インクの印刷で形成することにより、工程での処理温度を低くできるので基材1の耐熱性の制約が緩和され、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等が使用でき、安価に提供することができる。
【0045】
以上、説明した湿度センサは、可撓性の基材1上に形成することができるので生体や物体への貼付に優れ、直流電圧の測定で湿度上昇時と湿度下降時とで抵抗値の差を抑制し、湿度変化に対する抵抗値の相関が直線型になるので、湿度の経時的な変化を容易に精度よくモニタリングすることができる。また、湿度センサの基材1上に有機半導体を用いるセンシング回路や無線通信回路等との一体化にも有効な手段となる等、それらの効果は大なるものである。
【符号の説明】
【0046】
1 基材
2 第一電極層
3 第二電極層
4 半導体高分子層
5 絶縁性ポリアニリン高分子層