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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】斜面の保護構造及び斜面の保護方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20230127BHJP
【FI】
E02D17/20 103A
E02D17/20 103C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019011887
(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公開番号】P2020117983
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-007154(JP,A)
【文献】特開平07-197472(JP,A)
【文献】特開2005-350894(JP,A)
【文献】特開平08-284172(JP,A)
【文献】特開2018-204191(JP,A)
【文献】特表2001-522422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
E02D 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面安定化のための法枠が設置された斜面の保護構造において、
前記法枠の設置範囲内であって該法枠の非存在領域に間隔をあけて打設された複数のアンカーと、
前記斜面上に配置され、前記アンカーが貫通する板状の下敷材と、
前記法枠の上から前記斜面に敷設されたひし形金網からなる網体と、
前記アンカーの頭部に取付けられ、前記網体を前記法枠の頂面の高さ位置よりも低い位置に押し下げて前記網体に張力を付与するプレート材と、
前記下敷材と前記プレート材との間に配置され、前記アンカーの外周を囲む筒状のスペーサーと、を備え、
前記網体を構成する線状材は、硬鋼線材を原料とした線状材であって、表面に、付着量が80g/m以上の亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層を有し、
前記スペーサーは、筒状の本体部と、前記本体部の軸方向中間部の外周面から径方向外側に突出したフランジ部と、を有し、
前記フランジ部は、前記下敷材の上面に当接し、前記本体部の下端部は、前記下敷材を貫通して地中側へ延び、
前記本体部の内部にグラウト材が充填されたことを特徴とする斜面の保護構造。
【請求項2】
前記スペーサーの上端部には、前記網体を構成する前記線状材を嵌め込み可能な溝部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の斜面の保護構造。
【請求項3】
前記プレート材と前記網体との間に、耐摩耗性のための緩衝体を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の斜面の保護構造。
【請求項4】
前記網体を構成する線状材は、直径が2~5mmの大きさであり、800~2000N/mmの引張強度を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の斜面の保護構造。
【請求項5】
斜面安定化のための法枠が設置された斜面の保護方法において、
前記法枠の設置範囲内であって該法枠の非存在領域に間隔をあけて複数のアンカーを打設するアンカー打設工程と、
前記法枠の上からひし形金網からなる網体を前記斜面に敷設する網体敷設工程と、
前記網体の網目よりも大径のプレート材によって該網体を前記法枠の頂面高さ位置よりも低い位置に押し下げた状態で、該プレート材を前記アンカーに固定するプレート材設置工程と、を含み、
前記網体を構成する線状材は、硬鋼線材を原料とした線状材であって、表面に、付着量が80g/m以上の亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層を有し、
前記アンカー打設工程において、前記斜面上に、前記アンカーが貫通する板状の下敷材を配置するとともに、該下敷材と前記プレート材との間に配置されて前記アンカーの外周を囲む筒状のスペーサーを配設し、
前記スペーサーは、筒状の本体部と、前記本体部の軸方向中間部に設けられ、該本体部の外周面から径方向外側に突出したフランジ部と、を有し、
前記フランジ部は、前記下敷材の上面に当接し、前記本体部の下端部は、前記下敷材を貫通して地中側へ延び、
前記スペーサーを配設した後、前記本体部の内部にグラウト材を充填することを特徴とする斜面の保護方法。
【請求項6】
前記プレート材設置工程の後、前記斜面と前記網体との間に緑化基盤材を注入する緑化基盤材注入工程を含むことを特徴とする請求項5に記載の斜面の保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面の保護構造及び斜面の保護方法に関し、特に、斜面安定化のための枠体が設置された斜面の保護構造及び保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地山の斜面崩壊や土砂崩壊を防止するために様々な斜面保護技術が開発され、実用化されている。
【0003】
斜面保護のための工法としては、斜面に格子状の型枠を設置して、この型枠内にコンクリートを打設する現場打ち法枠工法や、型枠の解体作業を不要にするために、斜面に設置した型枠にモルタルやコンクリートを吹き付けて型枠ごと埋め殺しにする法枠工法が多く採用されている。
【0004】
また、図15(A)(B)に示すように、格子状の法枠12とアンカー13とを組み合わせた法枠工法も施工されている。この法枠工法では、格子状の法枠の交差部位に、先端が安定地層Gまで到達したアンカー13が打設されている。
【0005】
しかしながら、図15(A)に示すように、経年により法枠12の風化やひび割れが進んで老朽化すると、設計時の耐力を維持できずに耐力不足に陥ることが懸念される。
【0006】
法枠の耐力不足を解消するために、既設の法枠を撤去して新たに法枠を設けることが考えられるが、作業時間や労力、費用が膨大となってしまう。それ故、法枠を撤去せずに、斜面に対して追加的に保護工を施すことができる方法が求められている。
【0007】
既設の法枠を撤去せずに、法枠の耐力不足を解消可能な保護工としては、例えば、法枠を構成する格子状の枠部材が配置されていない斜面の領域に、特許文献1に記載された受圧板を設ける方法が考えられる。
【0008】
特許文献1に記載の受圧板は、鋳鉄製の板材であって、斜面の表層を形成する不安定層G2から地中の安定地層G1まで伸長するアンカーの頭部に固定され、斜面を上方から押圧する。この受圧板は、格子状に形成された法枠の各枠内にそれぞれ設置することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-158877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の保護工では、新規に打ち込んだアンカー及びその頭部に固定された受圧板で補強する構造であって、既存の法枠自体を補強することはできないため、既設の法枠による斜面保護性能を高めながら、耐久性に優れた斜面保護構造の開発が求められていた。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、法枠が設置された斜面に対し、法枠による斜面保護性能を高めて斜面を有効に保護することができるとともに、耐久性に優れた斜面の保護構造及び斜面の保護方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明法は、
斜面安定化のための法枠が設置された斜面の保護構造において、
前記法枠の設置範囲内であって該法枠の非存在領域に間隔をあけて打設された複数のアンカーと、
前記斜面上に配置され、前記アンカーが貫通する板状の下敷材と、
前記法枠の上から前記斜面に敷設されたひし形金網からなる網体と、
前記アンカーの頭部に取付けられ、前記網体を前記法枠の頂面の高さ位置よりも低い位置に押し下げて前記網体に張力を付与するプレート材と、
前記下敷材と前記プレート材との間に配置され、前記アンカーの外周を囲む筒状のスペーサーと、を備え、
前記網体を構成する線状材は、硬鋼線材を原料とした線状材であって、表面に、付着量が80g/m以上の亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層を有し、
前記スペーサーは、筒状の本体部と、前記本体部の軸方向中間部の外周面から径方向外側に突出したフランジ部と、を有し、
前記フランジ部は、前記下敷材の上面に当接し、前記本体部の下端部は、前記下敷材を貫通して地中側へ延び、
前記本体部の内部にグラウト材が充填されたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、網体が法枠の上から斜面に敷設され、アンカーの頭部に固定されたプレート材によって、法枠の頂面の高さ位置よりも低い位置に押し下げられているので、斜面は、法枠を介して網体に押圧された状態になる。これにより、法枠による斜面保護性能が高められるとともに、法枠が配置されていない斜面の領域を網体で上方から押さえることにより斜面崩壊を防止することができ、斜面を有効に保護することができる。
【0014】
また、網体を構成するひし形金網は、硬鋼線材を原料とした線状材で構成されているため、市販の軟鋼線からなる鉄線と比較して塑性変形し難く、高い引張強度及びバネ性を有する。また、網体の表面に亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層を形成し、その付着量を80g/m以上とすることで、網体を法枠の上から敷設して、網体と法枠とが擦れ合う条件下であっても、網体の防食性能を保持して耐久性に優れた構造とすることができる。
【0016】
また、この構成によれば、スペーサーによって、法枠の頂面の高さ位置と、プレート材によって押し下げられた網体の高さ位置との差を適切なものにすることができる。また、スペーサーの内部にグラウト材を充填することで、斜面から突出したアンカーの頭部に錆が発生することを防止し、防食性を高めることができる。
【0017】
請求項3に記載の斜面の保護構造は、請求項1又は2に記載の斜面の保護構造において、
前記プレート材と前記網体との間に、耐摩耗性のための緩衝体を設けたことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、緩衝体により、網体とプレート材とが擦れ合って網体やプレート材の表面に錆が発生することを防止することができるので、防食性をより高めることができる。
【0019】
請求項4に記載の斜面の保護構造は、請求項1~3のいずれか1項に記載の斜面の保護構造において、
前記網体を構成する線状材は、直径が2~5mmの大きさであり、800~2000N/mmの引張強度を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の斜面の保護構造。
【0020】
この構成によれば、網体が800~2000N/mmの引張強度を有する硬鋼線材から製造された線状材により構成されていることから、網体が塑性変形し難く、高い引張強度及びバネ性を発揮することができる。これにより、斜面表面部だけではなく、斜面表面から1m~3mの深さの表層すべりも阻止することができる。
【0021】
請求項5に記載の斜面の保護方法は、
斜面安定化のための法枠が設置された斜面の保護方法において、
前記法枠の設置範囲内であって該法枠の非存在領域に間隔をあけて複数のアンカーを打設するアンカー打設工程と、
前記法枠の上からひし形金網からなる網体を前記斜面に敷設する網体敷設工程と、
前記網体の網目よりも大径のプレート材によって該網体を前記法枠の頂面高さ位置よりも低い位置に押し下げた状態で、該プレート材を前記アンカーに固定するプレート材設置工程と、を含み、
前記網体を構成する線状材は、硬鋼線材を原料とした線状材であって、表面に、付着量が80g/m以上の亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層を有し、
前記アンカー打設工程において、前記斜面上に、前記アンカーが貫通する板状の下敷材を配置するとともに、該下敷材と前記プレート材との間に配置されて前記アンカーの外周を囲む筒状のスペーサーを配設し、
前記スペーサーは、筒状の本体部と、前記本体部の軸方向中間部に設けられ、該本体部の外周面から径方向外側に突出したフランジ部と、を有し、
前記フランジ部は、前記下敷材の上面に当接し、前記本体部の下端部は、前記下敷材を貫通して地中側へ延び、
前記スペーサーを配設した後、前記本体部の内部にグラウト材を充填することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、網体が法枠の上から斜面に敷設され、アンカーの頭部に固定されたプレート材によって、法枠の頂面の高さ位置よりも低い位置に押し下げられているので、斜面は、法枠を介して網体に押圧された状態になる。これにより、法枠による斜面保護性能が高められるとともに、法枠が配置されていない斜面の領域を網体で上方から押さえることにより斜面崩壊を防止することができ、斜面を有効に保護することができる。また、網体を法枠の上から敷設して、網体と法枠とが擦れ合う条件下であっても、網体の防食性能を保持して耐久性に優れた構造とすることができる。
【0023】
請求項6に記載の斜面の保護方法は、請求項5に記載の斜面の保護方法において、
前記プレート材設置工程の後、前記斜面と前記網体との間に緑化基盤材を注入する緑化基盤材注入工程を含むことを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、斜面と網体との間に注入された緑化基盤材により、法枠の非設置領域を緑化することができ、これにより、斜面表面部が風雨にさらされた際の土砂の流出を抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の斜面の保護構造及び斜面の保護方法によれば、法枠が設置された斜面に対して法枠の上から網体を敷設することで、法枠による斜面保護性能を高めて斜面を有効に保護することができるとともに、網体の防食性能が高く、耐久性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る斜面の保護構造の一実施形態を模式的に示す平面図。
図2図1に示す斜面の保護構造のII-II線に沿う断面図。
図3】(A)は網体の平面図、(B)は網体の側面図。
図4図2のX部の拡大図。
図5】スペーサーの斜視図。
図6】(A)~(C)はスペーサーの変形例を示す断面図。
図7】(A)はプレート材を上面側から見た斜視図、(B)はプレート材を下面側から見た斜視図、(C)はプレート材の側面図。
図8図2のY-Y線断面図。
図9】斜面の保護方法のアンカー打設工程の説明図。
図10】斜面の保護方法の網体敷設工程の説明図。
図11】斜面の保護構造の変形例を示す断面図。
図12】(A)は本発明に係る斜面の保護構造の他の実施形態を示す断面図、(B)は袋体の平面図。
図13】本発明に係る斜面の保護構造の他の実施形態を示す断面図。
図14】本発明に係る斜面の保護構造の他の実施形態を模式的に示す平面図。
図15】(A)は経年劣化した法枠が設置された斜面の斜視図、(B)は図7(A)の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明に係る斜面の保護構造の一実施形態を模式的に示す平面図であり、図2は、図1に示す斜面の保護構造のII-II線に沿う断面図である。なお、図2では、法枠12を固定するアンカー13の状態を説明するために、法枠12の交差部に設置されているアンカー13の側面図を実線で記載している。斜面の保護構造10(以下、単に「保護構造10」とも称する)は、法枠12が設置された斜面に適用され、既設の法枠12の耐久不足を補強することが可能である。
【0028】
保護構造10は、斜面Sに設置された法枠12と、法枠12の上に設置された網体20と、斜面Sに対して網体20を固定するためのアンカー14、下敷材16、プレート材30、スペーサー40及びキャップナット50と、を備える。下敷材16、プレート材30、スペーサー40及びキャップナット50は、アンカー14の頭部に取付けられる。
【0029】
保護構造10が適用される斜面Sとしては、例えば、地山を切削してなる法面が挙げられる。斜面Sは、例えば図2に示すように、風化しやすい1m~3mの不安定層G2(表層)と、その下に存在する安定地盤である安定地層G1(深層)とを有している。この斜面S上に、格子状の法枠12が設けられている。
【0030】
法枠12は、図1に示すように、斜面Sに対して縦方向(斜面Sの上下方向)に伸長する複数の縦方向枠部材12aと、横方向(上下方向とほぼ直交する方向)に伸長する複数の横方向枠部材12bとを有し、これらにより格子状に形成された斜面安定化のための構造物である。なお、図示例では、交差する各枠部材12a,12bが縦方向及び横方向に伸長しているが、斜面下側から見て最小単位の枠形状がひし形となるように、縦方向及び横方向に対して傾斜して延びていてもよい。
【0031】
法枠12は、断面略四角形状(図示例では断面略台形状)であって略平面状の頂面12cを有し、法枠12を貫通する又は頭部が法枠12に埋め込まれた、ロックボルトやグラウンドアンカー等のアンカー13によって安定地層G1に固定されている。本実施形態では、格子状の法枠12の交差部にそれぞれアンカー13が打設されている。隣り合うアンカー13の間の距離は、例えば1m~3.5mとすることができる。なお、法枠12の断面形状は四角形に限られず、例えば、半円形状等、様々な形状を採用することができる。法枠2の断面形状の大きさは、例えば、幅wが150mm~400mm、好ましくは、150mm~300mm、高さhが150mm~500mm、好ましくは、150mm~350mmである。
【0032】
網体20は、法枠12の全面を覆うように法枠12上に敷設され、アンカー14及びプレート材30により斜面Sに固定されている。図3(A)に示すように、本実施形態の網体20は、ひし形の網目22を有するひし形金網である。網体20の網目の大きさは、例えば、一方(図3(A)の網目において短い方)の対角線長さが50~150mm、他方(図3(A)の網目において長い方)の対角線長さが50~200mmとすることができる。
【0033】
本実施形態において、網体20は、金属製の線状材24を編み込んで形成されている。この線状材24は、硬鋼線材から製造されており、直径が2mm~5mmの大きさ、好ましくは直径3mm~4mmの大きさであって、800N/mm~2000N/mmの引張強度を有する。このような線状材としては、例えば、JIS G 3506に規定された硬鋼線材から制作された線状材、例えば、亜鉛めっき鋼線(JIS G 3548)等を用いることができる。硬鋼線材から制作された線状材は、JIS G 3505に規定された軟鋼線材から制作された線状材、すなわち、市販の軟鋼線からなる鉄線(一般に、引張強度290~540N/mmである)からなる汎用金網と比較して塑性変形し難く、高い引張強度及びバネ性を有する。
【0034】
なお、網体20を形成する線状材は、金属製のものに限られず、例えば、カーボン繊維、ガラス繊維又はアラミド繊維等によって形成された線材や、防食性の高い樹脂製線材を用いることができる。また、図3(B)に示す網体20の厚さdは、線状材24の直径の3倍以上であることが好ましく、例えば、10mm~30mmとすることができる。
【0035】
網体20は、さらに、表面に、付着量が80g/m以上の亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層を有している。めっき層が亜鉛めっき層である場合、その付着量は100~500g/mであることが好ましく、200~400g/mであることがより好ましい。また、めっき層が亜鉛アルミニウム合金めっき層である場合、その付着量は100~300g/mであることが好ましく、200~300g/mであることがより好ましい。また、めっき層の厚さは、亜鉛めっき層の場合、14~70μmであることが好ましく、28~42μmであることがより好ましく、亜鉛アルミニウム合金めっき層の場合、10~50μmであることが好ましく、30~48μmであることがより好ましい。また、めっき層を亜鉛アルミニウム合金めっき層とした場合、亜鉛の含有率が85質量%~95質量%、アルミニウムの含有率が5質量%~15質量%であることが好ましい。
【0036】
さらに、網体20を構成する線状材24は、亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層の表面に合成樹脂による被覆を施してもよく、例えば、飽和ポリエステル(PET)やポリ塩化ビニル(PVC)等による被覆層を有していてもよい。これにより、網体20の防食性をより高めることができる。
【0037】
網体20は、アンカー14の頭部に固定されたプレート材30によって、斜面Sに接近する方向に押し付けられる。図4に示すように、アンカー14の頭部には、斜面S側から頭部先端に向かって順に、下敷材16、スペーサー40、プレート材30及びキャップナット50が取り付けられる。
【0038】
アンカー14としては、ロックボルトやグラウンドアンカー工法に用いられるグラウンドアンカーを使用することができる。アンカー14は、法枠12の設置範囲内であって法枠12の非存在領域(すなわち、縦方向枠部材12aと横方向枠部材12bに囲まれた矩形枠内の斜面Sの領域)に位置するように、斜面Sに間隔をあけて複数打設されており、地表から安定地層G1まで伸長している。
【0039】
下敷材16は、板状の部材であって中央部に貫通孔が形成されている。下敷材16は、例えば、表裏面に防食処理を施した鋼板、FRP層で表裏面を被覆した鋼板、あるいは補強材が埋め込まれた樹脂板等を用いることができる。図4に示すように、下敷材16は貫通孔にアンカー14の頭部を挿通した状態で、斜面Sに一方の面が接触するように配置される。
【0040】
スペーサー40は、斜面Sとプレート材30との間に配置されて、網体20の斜面Sからの離間高さを調節する部材であり、本実施形態では、図4及び図5に示すように、斜面S上に配置された下敷材16とプレート材30との間に配設され、アンカー14の外周を囲む筒状(本実施形態では円筒状)に形成されている。本実施の形態では、スペーサー40の一部が地中に埋め込まれている。
【0041】
本実施形態のスペーサー40は、筒状の本体部42と、本体部42の外周面から径方向外側に突出したフランジ部44と、本体部42の一方の端部(以下、上端部42aと称する)に形成された溝部46とを有する。スペーサー40は、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリエチレン(PE)等の樹脂材料や金属材料で形成することができる。スペーサー40の高さ(すなわち、本体部42の筒軸方向の長さ)は、例えば、15mm~50mmとすることができる。本体部42の外径は、下敷材16の貫通孔の直径よりも小さく、且つ後述するプレート材3の貫通孔34よりも大きく形成されており、フランジ部44の外径は、下敷材16の貫通孔の直径よりも大きく形成されている。溝部46の深さ及び幅は、溝部46内に網体20を構成する線状材24を嵌め込むことが可能な大きさに形成されている。
【0042】
スペーサー40は、設置状態において、本体部42内をアンカー14が貫通し、本体部42の溝部46を有していない方の端部(以下、下端部42bと称する)が下敷材16の貫通孔に挿入されて地中に埋め込まれ、フランジ部44とともに本体部42の上端部42a側が斜面Sから突出するように配置される。また、本実施形態では、スペーサー40の内部に、セメントミルクや、モルタル等のグラウト材18が充填されている。
【0043】
なお、スペーサー40は、斜面Sとプレート材30との間に配置されて、網体20の斜面Sからの高さを調節可能なものであればよく、例えば、図6(A)又は図6(B)に示すように、下敷材16を設けない構成であってもよい。かかる場合、スペーサー40の一端部を地中に埋め込んだ態様とすることが好ましい。また、別の形態として、図6(C)に示すように、溝部46やフランジ部44を有していない筒状であって、本体部42の外径が下敷材16の貫通孔よりも大きく、下敷材16とプレート材30との間に挟まれて配置される構成であってもよい。なお、各形態において、スペーサー40の筒軸方向の長さは、斜面Sから突出する部位の長さ及び地中に埋設される部位の長さを考慮して適宜設定することができるさらに、スペーサー40は、少なくとも設置状態で網体20と接触可能な部位(例えば、本体部42の上端部42a側など)に、網体20の表面の摩耗を防止する耐摩耗性のための保護被膜を有していてもよい。この保護被膜は、例えば、ゴム材料や樹脂材料で形成することができる。
【0044】
プレート材30は、図7(A)~(C)に示すように、中央部にアンカー14が挿通される貫通孔34が形成された板材であり、例えば、鋼板や補強材が埋め込まれた樹脂板等によって形成することができる。プレート材30は、平面視で、長径の長さ(長い方向の長さ)が網体20の網目22よりも大径に形成されている。プレート材30は、平面視で、円形、楕円形、多角形等、様々な形状を採用することが可能であり、本実施形態では略六角形状に形成されている。
【0045】
プレート材30の下面32(すなわち、斜面Sと対向する面)側には、下面32から突出する一つ以上の突起部36が形成されていることが好ましい。本実施形態では、下面32に6つの突起部36が形成されている。突起部36の長さは、網体20の厚さd以上となっている。
【0046】
プレート材30と網体20との間には、耐摩耗性のための緩衝体35が配置される。本実施の形態において緩衝体35は、図7でドットを付して示すように、プレート材30の表面に一体的に形成された被膜である。緩衝体35は、例えば、ゴム材料や樹脂材料で形成することができ、プレート材30と一体の場合には、少なくとも網体20に対する接触面に形成されることが好ましい。本実施形態では緩衝体35である被膜が、プレート材30の側面33と、突起部36を含むプレート材30の下面32とに形成されているが、これに限られず、下面32のみや、全面に形成されていてもよい。また、プレート材30と別体のシート状の緩衝体35を、網体20とプレート材30との間に配置してもよく、かかる場合には、緩衝体35が軟性を有することが好ましい。
【0047】
プレート材30は、図2及び図8に示すように、貫通孔34にアンカー14を通した状態で網体20の上から載置され、突起部36が網体20の網目22を貫通するように配置される。プレート材30は、スペーサー40によって斜面S側への移動が抑止された状態で、アンカー14の頂部に締結されたキャップナット50によりアンカー14頭部に固定される。このように、網目22内に突起部36が挿入された状態とすることにより、網体20に外力が加わって、プレート材30と網体20との相対位置がずれようとした際に、突起部36と線状材24との係止構造により、網体20の位置ずれを防止することができる。
【0048】
次に、上述した斜面の保護構造10の施工方法について説明する。
【0049】
まず、図9に示すように、法枠12が設置された斜面Sにおいて、法枠12の非配置領域にアンカー14を打設する(アンカー打設工程)。本実施形態では、格子状の法枠12の各矩形枠内にアンカー14が一つ存在するように、斜面Sに間隔をあけて複数のアンカー14を打設している。
【0050】
アンカー14の打設は以下の手順で行われる。まず、図示していない削孔機械を用いて斜面Sを所定深さまで削孔し、次に、グラウト材注入ホース(図示せず)を削孔19の底まで差し込んで、セメントミルクやモルタル等のグラウト材18を孔底から削孔19内に注入する。グラウト材18が斜面S付近まで充填された後、斜面S上に下敷材16及びスペーサー40を配置する。この際、下敷材16及びスペーサー40は、削孔19と、下敷材16の貫通孔及びスペーサー40の中空内部とが連通するように配置される。その後、削孔19内のグラウト材18と同一材料のグラウト材18をスペーサー40の内部に充填する。グラウト材が注入された後、スペーサー40と下敷材16とを貫通するようにアンカー14を孔内に挿入し、グラウト材18を養生させる。これにより、スペーサー40内のグラウト材18と、それよりも地中側のアンカー14周辺のグラウト材18とが一体化する。
【0051】
なお、アンカー14の打設手順は、削孔の後、削孔19内にアンカー14を差し込んでからグラウト材18を注入してもよい。かかる場合、グラウト材18が斜面S付近まで充填されてから下敷材16及びスペーサー40をアンカー14の頭部側から所定位置に配置し、配置されたスペーサー40内にグラウト材18を注入することができる。
【0052】
アンカー14を打設した後、図10に示すように、法枠12の上から網体20を斜面Sに敷設する(網体敷設工程)。本実施形態の網体20は、斜面S上の法枠12の配置領域の全面を被覆可能な大きさに形成されている。
【0053】
次に、図2及び図4に示すように、網体20の上から、プレート材30をアンカー14の頭部に取付けて、プレート材30により網体20を法枠12の頂面12cの高さよりも低い位置に押し下げる(プレート材設置工程)。プレート材30は、貫通孔34にアンカー14の頭部を挿通させた状態で、アンカー14頭部にキャップナット25を締結することで固定される。プレート材30をアンカー14に固定した状態で、プレート材30の突起部36は、網体20の網目22内に挿通されている。突起部36の少なくとも一部は、図8に示すように、線状材24の屈曲部(すなわち、ひし形の網目22の角部)に位置していることが好ましい。また、網体20を押し下げた状態で、線状材24がスペーサー40と上端部42aと接触する場合には、この線状材24をスペーサー40の溝部46内に挿入する。
【0054】
このように、法枠12上から斜面Sを覆う網体20を、アンカー14、下敷材16、スペーサー40、プレート材30及びキャップナット50を用いて斜面Sに固定することにより、保護構造10が形成される。
【0055】
上述した斜面の保護構造10では、網体20により法枠12が斜面Sに押付けられることにより、法枠12による斜面保護性能を高めることができる。さらに、法枠12が配置されていない各枠内の領域においても、アンカー14が安定地層G1まで打設され、さらに網体20によって上方から押さえられることにより、斜面崩壊を防止することができる。特に、本実施形態において網体20は、800~2000N/mmの引張強度を有する硬鋼線材から製造された線状材24により構成されていることから、網体20が塑性変形し難く、高い引張強度とバネ性を発揮することができる。その結果、斜面表面部の崩壊防止のみならず、斜面表面から1m~3mの深さの表層すべりも阻止することができる。
【0056】
また、保護構造10において、使用される網体20の表面には、付着量が80g/m以上の亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層が形成されていることから、網体20と法枠12とが擦れ合う条件下であっても、網体20の防食性能を保持して耐久性に優れた構造とすることができる。
【0057】
さらに、本実施形態では、プレート材30の表面に緩衝体35を設けることにより、網体20とプレート材30とが擦れ合って網体20の表面が摩耗することを防止することができ、その結果、網体20の防食性能を高めることができる。また、スペーサー40の溝部46内に網体20を構成する線状材24を挿入することにより、網体20がスペーサー40と擦れ合って摩耗することを抑制して、網体20の防食性能をより高めることができる。なお、図示していないが、スペーサー40の表面に保護被膜を設けた場合には、摩耗抑制効果をより高めることができる。
【0058】
また、本実施形態では、斜面Sから突出しているアンカー14の頭部が、キャップナット40で覆われるとともに、スペーサー40内に充填されたグラウト材18で覆われることにより、アンカー14の露出面積を低減して錆の発生を防止することができ、これにより、アンカー14の防食性を高めることができる。
【0059】
図11は保護構造10の変形例である。図11に示す例では、法枠12と網体20との間に、耐摩耗性のためのクッション材28を配置している。クッション材28は、例えば、樹脂材料やゴム材料等で形成した2~3mmの厚さのシート状とすることができ、網体20の敷設前に、法枠12の網体20に対する接触部位に配置される。このようにクッション材28を配置することで、網体20の摩耗を防止し、防食性をより高めることができる。
【0060】
次に、図12を用いて、保護構造10の他の実施形態について説明する。図12(A)に示すように、本実施形態の保護構造10では、さらに、斜面Sと網体20との間に、袋体62の内部に収容された植物を生育可能な緑化基盤材60を配置している。緑化基盤材60としては、例えば、刈草、伐採材、間伐材などを発行したもの(植生基盤材)に植物種子などを混入したものを用いることができる。
【0061】
図12(B)は、緑化基盤材60を注入する袋体62の平面図であり、法枠12に対する設置位置を理解しやすいように、仮想線で法枠12を示している。袋体62は、生分解性を有する糸で編織された布からなる袋部64と、袋部64内に緑化基盤材60を注入するための注入部68とを有する。袋部64は通気性・通水性を有している。袋体62は、法枠12の各矩形枠内のほぼ全域を覆うように、各矩形枠内に少なくとも一つ配置されることが好ましい。本実施形態の袋体62は、袋部64の中央部に、アンカー14が貫通可能な孔66を有している。なお、袋体62は、図示例のものに代えて、孔66を有しない矩形状であってもよく、かかる場合には、1つの格子枠内に、平面視においてアンカー14を囲んで格子枠内を埋めるように、アンカー14の周囲に複数(例えば、2~4つ)配置する構成とすることができる。
【0062】
本実施形態の保護構造10において、緑化基盤材60は以下の手順で設置される。アンカー打設工程の後、法枠12の各枠内に袋体62を配置する。この時、袋体62内には緑化基盤材60が注入されていない。次に、法枠12及び袋体62の上から網体20を敷設し(網体敷設工程)、その後、アンカー14頭部にプレート材30を取り付けて、網体20を斜面S側に押し下げる(プレート材設置工程)。プレート材30を取り付けた後、袋体62の注入部68から、流動性のある緑化基盤材60を袋部62内に注入する(緑化基盤材注入工程)。なお、注入部68は、緑化基盤材60を注入した後に袋部64から取外してもよい。緑化基盤材60は経時とともに水分が蒸発して、液状から固体状へ変化する。
【0063】
このように、斜面Sと網体20との間に緑化基盤材60を設置することで、法枠12の非設置領域を緑化することができ、その結果、風雨にさらされた斜面表面部の土砂の流出を抑制することができる。また、プレート材設置工程の前に、袋体62を斜面Sに配置し、袋体62の上にプレート材30を配置してから緑化基盤材60を注入することで、プレート材30と斜面Sとの間の領域においても、緑化基盤材60を適切に充填することができる。なお、図12に示す例において、袋体62の内部に緑化基盤材60に代えてモルタル等のグラウト材や土を注入する構成としてもよい。
【0064】
図13は、緑化基盤材60を備えた斜面の保護構造10の他の実施形態を示している。本実施形態では、網体20を斜面Sに固定した後(プレート材設置工程の後)、基盤材吹き付け機70を用いて、網体20の上から網目22を通して斜面S上に緑化基盤材60を吹き付けることにより、斜面Sと網体20との間に緑化基盤材60を注入している(緑化基盤材注入工程)。緑化基盤材60は、法枠12が配置されていない斜面Sの領域に吹き付けられる。このように、緑化基盤材60は吹付け注入によって斜面S上に配置されてもよい。
【0065】
次に、図14を用いて、斜面の保護構造10のさらに他の実施形態について説明する。なお、本実施形態では、図1図13に示す先の実施形態と法枠12の構造が異なっており、網体20、アンカー14、下敷材16、スペーサー40、プレート材30、キャップナット30の構造は同一であるため、これら同一の構造については詳細な説明を省略する。
【0066】
本実施形態では、斜面Sに設置された法枠12が、互いに離間して配置された複数の十字型のブロック11で構成されている。ブロック11は、例えば、十字状に組み立てた鉄筋にコンクリートを打設することにより形成される。各ブロック11は、十字の中央部に、安定地層G1まで延びるアンカー13が打設されている。このように、法枠12は、分離した複数のブロック11から構成されていてもよい。また、ブロック11の形状は、図示例のように平面視で十字状であるものに限れず、平面視で菱形形状等、様々な形状を採用することができる。
【0067】
本実施形態の保護構造10では、ブロック11の非配置領域の斜面Sに網体20を固定するためのアンカー14が打設され、その後、複数のブロック11からなる法枠12の上から網体20が敷設される。その後、網体20は、アンカー14の頭部に固定されるプレート材30によってブロック11の頂面よりも低い位置に押し下げられる。なお、本実施形態の保護構造10において、さらに、斜面Sと網体20との間に緑化基盤材60を設けてもよい。
【0068】
なお、本発明は上述した各実施形態や変形例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 斜面の保護構造
11,12 法枠
12a 縦方向枠部材
12b 横方向枠部材
14 アンカー
16 下敷材
18 グラウト材
20 網体
30 プレート材
40 スペーサー
50 キャップナット
60 緑化基盤材
62 袋体
G1 安定地層
G2 不安定地層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15