(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】スクライブ装置、及び、制御方法
(51)【国際特許分類】
B28D 5/00 20060101AFI20230127BHJP
C03B 33/027 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
B28D5/00 Z
C03B33/027
(21)【出願番号】P 2019086676
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井村 淳史
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-294656(JP,A)
【文献】特開2009-083295(JP,A)
【文献】特開平09-204213(JP,A)
【文献】特開2017-213710(JP,A)
【文献】特開2017-065245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
C03B 33/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象である基板にスクライブラインを形成するカッター部材と、
前記基板を第1方向に移動させる第1移動機構と、
前記カッター部材を前記第1方向とは垂直な第2方向に移動させる第2移動機構と、
前記カッター部材を前記第1方向及び前記第2方向とは垂直な第3方向に移動させる第3移動機構と、
前記カッター部材を前記第3方向に延びる軸回りに回動させる回動機構と、
前記カッター部材による予定加工軌跡を算出し、前記予定加工軌跡に基づいて前記第1移動機構を制御する第1制御装置と、
前記予定加工軌跡に基づいて、前記第2移動機構、前記第3移動機構、及び前記回動機構を制御する第2制御装置と、
を備える、スクライブ装置。
【請求項2】
前記第1制御装置は、前記予定加工軌跡を、前記第1方向に対応する第1仮想軸と、第2方向に対応する第2仮想軸と、を少なくとも有する仮想座標における前記カッター部材の位置及び回動角として算出する、請求項1に記載のスクライブ装置。
【請求項3】
前記第1制御装置は、前記第1仮想軸の座標値に前記仮想座標の原点と前記基板の原点との前記第1方向におけるずれ量を加算して、前記第1方向における前記カッター部材の実際の位置を算出し、
前記第2制御装置は、前記第2仮想軸の座標値に前記仮想座標の原点と前記基板の原点との前記第2方向におけるずれ量を加算して、前記第2方向における前記カッター部材の実際の位置を算出し、前記仮想座標における前記カッター部材の回動角を実際の回動角とする、請求項2に記載のスクライブ装置。
【請求項4】
加工対象である基板にスクライブラインを形成するカッター部材と、前記基板を第1方向に移動させる第1移動機構と、前記カッター部材を前記第1方向とは垂直な第2方向に移動させる第2移動機構と、前記カッター部材を前記第1方向及び前記第2方向とは垂直な第3方向に移動させる第3移動機構と、前記カッター部材を前記第3方向に延びる軸回りに回動させる回動機構と、第1制御装置と、第2制御装置と、を備えるスクライブ装置の制御方法であって、
前記第1制御装置が前記カッター部材による予定加工軌跡を算出するステップと、
前記第1制御装置が前記予定加工軌跡に基づいて前記第1移動機構を制御するステップと、
前記第2制御装置が 前記予定加工軌跡に基づいて、前記第2移動機構、前記第3移動機構、及び前記回動機構を制御するステップと、
を備える、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板などの基板を加工するスクライブ装置、及び、当該スクライブ装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板を切り出すためのスクライブ装置が知られている。例えば、ダイヤモンドポイントなどの固定刃を基板に対して移動させて、当該基板にスクライブラインを形成する装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固定刃を基板に対して移動させる従来の装置では、スクライブライン形成時の固定刃の向きについては何らの制御もされていなかった。しかしながら、近年、より高度な加工を行うために、固定刃の移動だけでなく向きも制御することが検討されている。
固定刃の移動と向きの両方を制御する場合、スクライブ装置(特に、固定刃)の制御のために必要な計算量が多くなり、高速なスクライブ装置の制御ができなくなる可能性がある。その結果、基板に対して適切にスクライブラインを形成できない可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、固定刃の移動及び向きを制御するスクライブ装置において、スクライブ装置の制御を高速化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係るスクライブ装置は、カッター部材と、第1移動機構と、第2移動機構と、第3移動機構と、回動機構と、第1制御装置と、第2制御装置と、を備える。カッター部材は、加工対象である基板にスクライブラインを形成する。第1移動機構は、基板を第1方向に移動させる。第2移動機構は、カッター部材を第2方向に移動させる。第2方向は、第1方向とは垂直な方向である。第3移動機構は、カッター部材を第3方向に移動させる。第3方向は、第1方向及び第2方向に垂直な方向である。回動機構は、カッター部材を第3方向に延びる軸回りに回動させる。
第1制御装置は、カッター部材による予定加工軌跡を算出し、加工軌跡に基づいて第1移動機構を制御する。第2制御装置は、予定加工軌跡に基づいて、第2移動機構、第3移動機構、及び回動機構を制御する。
【0007】
上記のスクライブ装置では、予定加工軌跡の算出及び第1移動機構の制御を第1制御装置が実行し、予定加工軌跡に基づく第2移動機構、第3移動機構、及び回動機構の制御を第2制御装置が実行している。このように、複数の制御装置にスクライブ装置の制御を分散させることにより、各制御装置の計算負荷を軽減できるので、スクライブ装置を高速に制御できる。
【0008】
第1制御装置は、予定加工軌跡を、仮想座標におけるカッター部材の位置及び回動角として算出してもよい。仮想座標は、第1方向に対応する第1仮想軸と、第2方向に対応する第2仮想軸と、を少なくとも有する座標系である。
これにより、カッター部材の実際の位置及び回動角を、より高速に算出できる。
【0009】
第1制御装置は、第1仮想軸の座標値に、仮想座標の原点と基板の原点との第1方向におけるずれ量を加算して、第1方向におけるカッター部材の実際の位置を算出してもよい。また、第2制御装置は、第2仮想軸の座標値に、仮想座標の原点と基板の原点との第2方向におけるずれ量を加算して、第2方向におけるカッター部材の実際の位置を算出してもよい。さらに、第2制御装置は、仮想座標におけるカッター部材の回動角を、実際の回動角としてもよい。
これにより、第1制御装置及び第2制御装置は、自身が制御する機構の制御量をより高速に算出できる。
【0010】
本発明の他の見地に係る制御方法は、スクライブ装置の制御方法である。スクライブ装置は、スクライブ装置は、カッター部材と、第1移動機構と、第2移動機構と、第3移動機構と、回動機構と、第1制御装置と、第2制御装置と、を備える。カッター部材は、加工対象である基板にスクライブラインを形成する。第1移動機構は、基板を第1方向に移動させる。第2移動機構は、カッター部材を第2方向に移動させる。第3移動機構は、カッター部材を第3方向に移動させる。回動機構は、カッター部材を第3方向に延びる軸回りに回動させる。この制御装置の制御方法は、以下のステップを備える。
◎第1制御装置がカッター部材による予定加工軌跡を算出するステップ。
◎第1制御装置が予定加工軌跡に基づいて第1移動機構を制御するステップ。
◎第2制御装置が予定加工軌跡に基づいて、第2移動機構、第3移動機構、及び回動機構を制御するステップ。
【0011】
上記のスクライブ装置の制御方法では、予定加工軌跡の算出及び第1移動機構の制御を第1制御装置が実行し、予定加工軌跡に基づく第2移動機構、第3移動機構、及び回動機構の制御を第2制御装置が実行している。このように、複数の制御装置にスクライブ装置の制御を分散させることにより、各制御装置の計算負荷を軽減できるので、スクライブ装置を高速に制御できる。
【発明の効果】
【0012】
複数の制御装置にスクライブ装置の制御を分散させて各制御装置の計算負荷を軽減することにより、スクライブ装置を高速に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係るスクライブ装置を示す斜視図。
【
図4】クライブ装置の全体動作を示すフローチャート。
【
図5】スクライブ装置におけるスクライブ形成動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.第1実施形態
(1)スクライブ装置
以下、
図1を用いて、第1実施形態に係るスクライブ装置100を説明する。
図1は、第1実施形態に係るスクライブ装置を示す斜視図である。スクライブ装置100は、ガラス基板などの基板に対して、ダイヤモンドポイントなどの固定刃によりスクライブラインを形成する装置である。スクライブ装置100は、テーブル1と、ヘッド部3と、を主に備える。
テーブル1は、スクライブラインを形成する加工対象の基板を載置する部材である。テーブル1は、第1移動機構11によりY方向(
図1)(第1方向の一例)に移動可能となっている。第1移動機構11は、例えば、Y方向に延びるリニアモータである。なお、第1移動機構11は、土台2上に設けられる。
【0015】
ヘッド部3は、架橋部材4(
図1)にX方向(
図1)(第2方向の一例)に摺動可能に設けられている。ヘッド部3は、架橋部材4に設けられた第2移動機構5によりX方向に移動可能となっている。第2移動機構5は、例えば、X方向に延びるリニアモータである。
【0016】
(2)ヘッド部
以下、
図2を用いて、上記のヘッド部3をより具体的に説明する。
図2は、ヘッド部の詳細構成を示す図である。ヘッド部3は、本体31と、第3移動機構33と、回動機構35と、カッター部材37と、を有する。
本体31は、ヘッド部3の本体を形成する筐体である。第3移動機構33は、本体31の幅方向(X方向)に並んで配置され、Z方向に延びるリニアモータである。第3移動機構33には固定部材34が固定されている。つまり、固定部材34は第3移動機構33によりZ方向(第3方向の一例)に移動可能となっている。
【0017】
回動機構35は、カップリング部36の上部に固定され、その駆動軸がアンギュラーベアリング(カップリング部36の上部に固定)に挿入されたモータである。カップリング部36は、上記回動機構35の駆動軸と、カップリング部36の下部に固定されたアンギュラーベアリングに挿入された保持部材37a(後述)の従動軸と、をカップリングにより連結する。
上記の構成により、カップリング部36は、回動機構35と保持部材37aの従動軸とを強固に連結できる。すなわち、本実施形態のカップリング部36は、上記の駆動軸と従動軸とを「あそび」のない状態で連結している。これにより、回動機構35の駆動軸の回転を、損失や遅れなく保持部材37aに伝達できる。
【0018】
カッター部材37は、保持部材37aと、固定刃37bと、を有する。保持部材37aは、固定刃37bを保持する部材である。上記のように、保持部材37aは、カップリング部36を介して、回動機構35の駆動軸に連結されている。回動機構35の駆動軸の回動に従って保持部材37aが回動することで、固定刃37bはZ軸回りに回動できる。
固定刃37bは、加工対象の基板(テーブル1上の基板)に、スクライブラインを形成するための刃である。固定刃37bは、例えば、先端にダイヤモンドポイントを有する部材である。
【0019】
上記の構成を有するヘッド部3においては、第3移動機構33が固定部材34をZ方向に移動させることにより、カッター部材37(固定刃37b)をZ方向(高さ方向)に移動させることができる。また、保持部材37aがカップリング部36を介して回動機構35の駆動軸に連結されることで、回動機構35は、保持部材37aに保持された固定刃37bをZ軸回りに回動できる。
【0020】
(3)制御構成
次に、
図3を用いて、第1実施形態に係るスクライブ装置100の制御構成を説明する。
図3は、スクライブ装置の制御構成を示す図である。スクライブ装置100の制御構成は、第1制御装置6と、第2制御装置7と、スイッチングハブ8と、を有する。
第1制御装置6は、CPU、記憶装置(RAM、ROMなど)、各種の入出力インターフェース、などを有するコンピュータシステムである。第1制御装置6は、例えば、PLCと、モータコントローラと、を含むシステムである。第1制御装置6は、第1移動機構11に接続されている。すなわち、第1制御装置6は、第1移動機構11を制御することで、テーブル1(基板)のY方向の移動を制御できる。
【0021】
第2制御装置7は、CPU、記憶装置(RAM、ROMなど)、各種の入出力インターフェース、などを有するコンピュータシステムである。第2制御装置7は、例えば、PLCと、モータコントローラと、を含むシステムである。第2制御装置7は、第2移動機構5と、第3移動機構33と、回動機構35と、に接続されている。すなわち、第2制御装置7は、第2移動機構5、第3移動機構33、及び回動機構35を制御することで、カッター部材37(固定刃37b)のX方向及びZ方向の移動と、カッター部材37の回動(固定刃37bの回動角)と、を制御できる。
【0022】
スイッチングハブ8は、第1制御装置6及び第2制御装置7を接続し、第1制御装置6と第2制御装置7との間の通信(データ送受信)を仲介する。
図3に示すように、スイッチングハブ8には、上位コンピュータ9が接続されている。上位コンピュータ9は、CPU、記憶装置(RAM、ROM、SSD、ハードディスクなど)、各種インターフェース、などを有するコンピュータシステムであり、スクライブ装置100についての各種設定、加工対象の基板に形成予定のスクライブライン形状の設定、などを実行する。上位コンピュータ9は、例えば、ユーザにより操作されるパーソナル子ピュータである。
【0023】
上記の制御構成において、第1制御装置6は、第1移動機構11の制御のみでなく、スクライブ装置100における各種制御を実行する。具体的には、第1制御装置6は、形成予定のスクライブラインの形状を表すデータ(例えば、CADデータ)から、スクライブライン形成中のカッター部材37の基板に対する制御周期毎の位置及び回動角を算出する。以後、上記カッター部材37の制御周期毎の位置及び回動角を、「予定加工軌跡」と呼ぶ。その他、第1制御装置6は、センサなどからのデータの入出力を担当する。
その一方、第2制御装置7は、第2移動機構5、第3移動機構33、及び回動機構35の制御に関する簡単な演算のみを実行する。なぜなら、第2移動機構5、第3移動機構33、及び回動機構35は高速な制御が必要であり、第2制御装置7は、これらの制御に計算負荷を使用する必要があるからである。
【0024】
このように、複数の制御装置(第1制御装置6及び第2制御装置7)にスクライブ装置100の制御を分散させることにより、各制御装置の計算負荷を軽減できるので、スクライブ装置100を高速に制御できる。
【0025】
(4)スクライブ装置の動作
(4-1)全体動作
以下、
図4を用いて、本実施形態に係るスクライブ装置100の動作を説明する。
図4は、スクライブ装置の全体動作を示すフローチャートである。以下に説明するスクライブ装置100の動作は、第1制御装置6及び第2制御装置7の記憶装置に記憶されたプログラムにより実現される。
基板にスクライブラインを形成するために、まず、ステップS1において、テーブル1に加工対象の基板を固定する。テーブル1における基板の固定は、例えば、吸引固定により実現できる。
【0026】
基板をテーブル1に固定後、ステップS2において、第1制御装置6及び第2制御装置7は、第1移動機構11、第2移動機構5、第3移動機構33、回動機構35を制御して、カッター部材37をカッター部材37の原点位置に移動させる。
さらに、ステップS3において、第1制御装置6及び第2制御装置7は、カッター部材37を、基板の原点位置に移動させる。加工対象の基板が基板毎にサイズが異なるなどの理由により、テーブル1における基板の固定位置(つまり、テーブル1における基板の原点位置)は一定ではない。従って、本実施形態では、第1制御装置6及び第2制御装置7は、センサ(図示せず)による基板の検出有無により基板の原点位置を決定する。また、第1制御装置6及び第2制御装置7は、ステップS2におけるカッター部材37の原点位置と、ステップS3において決定した基板の原点位置のずれ量を、記憶しておく。
【0027】
次に、ステップS4において、基板へのスクライブラインの形成が実行される。ステップS4において、第1制御装置6は、基板へスクライブラインを形成する際のカッター部材37の移動量及び回動角(すなわち、予定加工軌跡)の算出と、第1移動機構11によるテーブル1のY方向の移動を制御する。
一方、第2制御装置7は、第2移動機構5によるヘッド部3のX方向の移動、第3移動機構33によるカッター部材37のZ方向(高さ方向)の移動、及び、回動機構35によるカッター部材37の回動を制御する。ステップS4における第1制御装置6及び第2制御装置7の動作は、後ほど詳しく説明する。
【0028】
基板へのスクライブラインの形成後、ステップS4において、スクライブ装置100は、スクライブライン形成後の終了処理を実行する。具体的には、カッター部材37をその原点位置に復帰させる動作と、基板のテーブル1への固定の解除動作と、が終了処理として実行される。
【0029】
(4-2)スクライブライン形成時の制御装置の動作
以下、
図5を用いて、上記のステップS4にて実行されるスクライブライン形成時の第1制御装置6及び第2制御装置7の制御を執行する。
図5は、スクライブ装置におけるスクライブ形成動作を示すフローチャートである。
例えば上位コンピュータ9などから基板へ形成するスクライブラインを表すデータを受信すると、第1制御装置6は、ステップS11において、受信データから予定加工軌跡を算出する。具体的には、第1制御装置6は、受信データから、仮想座標上におけるカッター部材37(固定刃37b)の位置(X’,Y’)と回動角θ’とを算出する。仮想座標は、実空間のY方向に対応する第1仮想軸(Y’軸と呼ぶ)と、実空間のX方向に対応する第2仮想軸(X’軸と呼ぶ)と、により定義される平面座標である。なお、仮想座標では、実空間のZ方向(高さ方向)に対応する第3仮想軸(Z’軸)が定義されてもよい。
【0030】
本実施形態では、第1制御装置6は、スクライブライン形成時の制御周期毎の位置(X’,Y’)と回動角θ’とを予定加工軌跡として出力する。つまり、第1制御装置6は、制御周期(例えば、1ms)毎にカッター部材37を直線的に移動させる予定加工軌跡を算出する。この結果、第1制御装置6は、曲線状のスクライブラインを多角形により表現する予定加工軌跡を算出していることになる。
【0031】
従って、第1制御装置6は、制御周期毎(制御指令がなされる周期毎)のカッター部材37の移動量及び回動量がなるべく小さくなるよう、カッター部材37の仮想座標の位置(X’,Y’)及び回動角θ’を算出する。例えば、カッター部材37の制御周期毎の移動量がμmオーダーとなるよう、位置(X’,Y’)及び回動角θ’を算出する。
これにより、第1制御装置6は、任意形状のスクライブラインをより忠実に再現できる予定加工軌跡を算出できる。特に、制御周期毎の移動量を小さくして曲線をより多くの頂点を有する多角形で表現することで、曲線形状のスクライブラインをより忠実に再現できる。
【0032】
また、制御周期毎の移動量及び回動量を小さくすることにより、第1制御装置6及び第2制御装置7が、第1移動機構11、第2移動機構5、第3移動機構33、回動機構35のフィードバック制御をしやすくできるとの効果もある。特に、第1移動機構11は、重量のあるテーブル1を1制御周期の間に過剰に移動させると、フィードバック制御をされていてもテーブル1の位置を精度よく制御できない。従って、1制御周期あたりのテーブル1などの移動量を小さくすることで、フィードバック制御の効果を大きくして、精度よくテーブル1などの位置を制御できる。
【0033】
なお、第1制御装置6は、第1移動機構11に対して以下に説明する追従動作を実行しつつ、上記ステップS11における予定加工軌跡の算出を継続し、所定のタイミングで算出された予定加工軌跡(予定加工軌跡のX’座標値と、回動角θ’)を第2制御装置7に出力する。
【0034】
第1制御装置6において予定加工軌跡の算出を開始し、予定加工軌跡の少なくとも一部を算出した後、第1制御装置6は、ステップS12において、第2制御装置7に対して、仮想座標上のカッター部材37の位置及び回動角に追従するよう、第2移動機構5、第3移動機構33、及び回動機構35を制御するよう指令する。以下、第1移動機構11、第2移動機構5、第3移動機構33、及び回動機構35が仮想座標上のカッター部材37の位置及び回動角に追従する動作をすることを、「追従動作」と呼ぶ。
ステップS12における追従動作開始指示の出力時に、第1制御装置6は、第2制御装置7に他の設定条件等を送信する。
【0035】
ステップS12で第1制御装置6が追従動作開始指示を第2制御装置7に出力後、ステップS13において、カッター部材37の位置及び回動角の制御が開始される。具体的には、第1制御装置6及び第2制御装置7において以下の制御が実行される。
まず、仮想座標上のカッター部材37の位置(X’,Y’)及び回動角θ’が、実空間のカッター部材37の位置(X,Y)及び回動角θに変換される。
【0036】
第1制御装置6は、ステップS131において、現在の制御周期における予定加工軌跡のY’座標値に、Y方向における仮想座標の原点O’と基板の原点Oとのずれ量(ΔYとする)を加算して、実空間のY方向におけるカッター部材37の位置をY’+ΔYと算出できる。
第1制御装置6は、ステップS132において、テーブル1に載置された基板に対するカッター部材37のY方向の位置がY’+ΔYとなる制御量を、第1移動機構11に出力する。
【0037】
一方、第2制御装置7は、ステップS133において、現在の制御周期における予定加工軌跡のX’座標値に、X方向における仮想座標の原点O’と基板の原点Oとのずれ量(ΔXとする)を加算して、実空間のX方向におけるカッター部材37の位置をX’+ΔXと算出できる。また、第2制御装置7は、現在の制御周期における予定加工軌跡の回動角θ’を、そのまま実空間における回動角θとする(すなわち、θ=θ’)。さらに、実空間のZ方向におけるカッター部材37の位置は、上記のステップS2及びS3にて決定されたZ方向の原点から下方向に若干進んだ位置とする。この位置は、例えば、固定刃37bをどの程度の力で基板表面に接触させるかにより適宜決定できる。
【0038】
第2制御装置7は、ステップS134において、テーブル1に載置された基板に対するカッター部材37のX方向の位置がX’+ΔXとなる制御量を、第2移動機構5に出力する。また、カッター部材37の回動角θが回動角θ’となる制御量を、回動機構35に出力する。Z方向のカッター部材37の移動が伴う場合には、第3移動機構33に対して、対応する制御量を出力する。
【0039】
現在の制御周期における第2移動機構5、第3移動機構33、及び回動機構35の制御を完了後、第2制御装置7は、ステップS135において、第1制御装置6に対して上記機構の制御を完了した旨を通知する。
上記のステップS13(ステップS131~S135)は、予定加工軌跡として算出された全ての位置(X’,Y’)及び回動角θ’に対して繰り返し実行される。
【0040】
このように、本実施形態に係るスクライブ装置100では、予定加工軌跡の算出及び第1移動機構11の制御を第1制御装置6が実行し、予定加工軌跡に基づく第2移動機構5、第3移動機構33、及び回動機構35の制御を第2制御装置が実行している。このように、複数の制御装置にスクライブ装置100の制御を分散させることにより、各制御装置の計算負荷を軽減できるので、スクライブ装置100を高速に制御できる。
特に高速かつ高精度の制御が必要となる回動機構35、第2移動機構5、第3移動機構33と、を第2制御装置7に制御させることにより、制御遅れ等の不適切な制御を発生させることなく、カッター部材37の位置(X,Y)及び回動角θを制御できる。その結果、任意形状のスクライブラインを基板に適切に形成できる。
【0041】
また、本実施形態において、第1制御装置6は、第1仮想軸(Y’軸)の座標値に、仮想座標の原点O’と基板の原点OとのY方向におけるずれ量を加算して、Y方向におけるカッター部材の実際の位置を算出している。また、第2制御装置7は、第2仮想軸(X’軸)の座標値に、仮想座標の原点O’と基板の原点OとのX方向におけるずれ量を加算して、X方向におけるカッター部材37の実際の位置を算出している。
このように、カッター部材37の位置及び回動角を仮想座標上の位置及び回動角として算出することで、第1制御装置6及び第2制御装置7は、自身が制御する機構の制御量を加算などの単純な演算により算出できる。その結果、第1制御装置6及び第2制御装置7は、カッター部材37の位置及び回動角をより高速に制御できる。
【0042】
(5)実施形態の共通事項
上記第1実施形態は、下記の構成及び機能を共通に有している。
スクライブ装置(例えば、スクライブ装置100)は、カッター部材(例えば、カッター部材37)と、第1移動機構(例えば、第1移動機構11)と、第2移動機構(例えば、第2移動機構5)と、第3移動機構(例えば、第3移動機構33)と、回動機構(例えば、回動機構35)と、第1制御装置(例えば、第1制御装置6)と、第2制御装置(例えば、第2制御装置7)と、を備える。
カッター部材は、加工対象である基板にスクライブラインを形成する。第1移動機構は、基板を第1方向(例えば、Y方向)に移動させる。第2移動機構は、カッター部材を第2方向(例えば、X方向)に移動させる。第3移動機構は、カッター部材を第3方向(例えば、Z方向)に移動させる。回動機構は、カッター部材を第3方向に延びる軸(例えば、Z軸)回りに回動させる。
第1制御装置は、カッター部材による予定加工軌跡を算出し、予定加工軌跡に基づいて第1移動機構を制御する。第2制御装置は、予定加工軌跡に基づいて、第2移動機構、第3移動機構、及び回動機構を制御する。
【0043】
スクライブ装置では、予定加工軌跡の算出及び第1移動機構の制御を第1制御装置が実行し、予定加工軌跡に基づく第2移動機構、第3移動機構、及び回動機構の制御を第2制御装置が実行している。このように、複数の制御装置にスクライブ装置の制御を分散させることにより、各制御装置の計算負荷を軽減できるので、スクライブ装置を高速に制御できる。
【0044】
2.他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
上記の
図4及び
図5のフローチャートで示した制御動作は、発明の要旨を逸脱しない限り、各ステップの処理内容、各ステップの実行順を適宜変更できる。
【0045】
(A)スクライブ装置100は、複数のヘッド部3(カッター部材37)を備えてもよい。この場合、第2制御装置7は、ヘッド部3毎に設けられる。また、第1制御装置6で算出された予定加工軌跡は全ての第2制御装置7に出力され、各第2制御装置7は、予定加工軌跡に、自身が制御するカッター部材37の原点と基板の原点Oとのずれ量を加算して、自身が制御するカッター部材37の実空間での位置及び回動角を算出する。これにより、同一形状の複数の小片を1つの基板から切り出すことができる。
【0046】
(B)
図6に示すように、ヘッド部3をX方向に摺動可能とする架橋部材4は、テーブル1上に設けられた第4移動機構21により、Y方向に移動可能となっていてもよい(ガントリ駆動方式のスクライブ装置100’)。第4移動機構21は、例えば、Y方向に延びるリニアモータである。
図6は、スクライブ装置の他の実施形態を示す図である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、基板にスクライブラインを形成するスクライブ装置に広く適用できる。
【符号の説明】
【0048】
100、100’ スクライブ装置
1 テーブル
11 第1移動機構
2 土台
3 ヘッド部
31 本体
33 第3移動機構
34 固定部材
35 回動機構
36 カップリング部
37 カッター部材
37a 保持部材
37b 固定刃
4 架橋部材
5 第2移動機構
6 第1制御装置
7 第2制御装置
8 スイッチングハブ
9 上位コンピュータ
O、O’ 原点
θ、θ’ 回動角
21 第4移動機構