(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】予兆診断システム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230127BHJP
【FI】
G05B23/02 G
G05B23/02 R
(21)【出願番号】P 2018099743
(22)【出願日】2018-05-24
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 香里
(72)【発明者】
【氏名】古賀 陸樹
(72)【発明者】
【氏名】岡部 淳
(72)【発明者】
【氏名】須賀 貴昭
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-140109(JP,A)
【文献】特開2015-114967(JP,A)
【文献】特開2018-072969(JP,A)
【文献】特開2011-175437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造設備又は製造装置に配置されたセンサから出力される検知信号に基づき多次元時系列データを取得し、上記多次元時系列データを用いて異常測度算出部の算出結果に基づき除外区間と設定された学習データを除外する学習データ選別部と、
上記選別された学習データに基づき正常モデルを作成する正常モデル作成部と、
上記製造設備又は前記製造装置に供給される複数種類の原料と
該複数種類の原料の夫々の品質の第1の組合せの原料が前記製造設備又は前記製造装置に供給された場合
に製造された製造ロットの品質データを含む学習データにより作成された第1の正常モデルと、上記第1の組合せと
同種の複数の原料で前記第1の組合せとは異なる品質の第2の組合せの原料が前記製造設備又は前記製造装置に供給された場合
に製造された製造ロットの品質データを含む学習データにより作成された第2の正常モデルとを記憶する正常モデル記憶部と、
上記製造設備又は上記製造装置に上記第1又は第2の組合せの原料が供給された場合に、上記正常モデル記憶部の中から、上記第1又は第2の組合せの原料に対応する第1又は第2の正常モデルを選択する選択部と、
上記選択部で選択された上記第1又は第2の正常モデルに基づき算出された閾値と、上記第1又は第2の組合せの原料が前記製造設備又は前記製造装置に供給された場合に前記センサから得られる多次元時系列データを用いて評価データ作成部で作成された評価データとを比較して予兆診断を行う比較部と、
上記比較部の出力を用いて診断データを生成する診断データ生成部と、
上記診断データを出力する入出力部と、
を備えたことを特徴とする予兆診断システム。
【請求項2】
上記第1の品質に係る品質データは、上記製造ロットにおいて得られる製品の品質とし
て最高の品質に係る品質データである、請求項
1に記載の予兆診断システム。
【請求項3】
上記複数種類の原料は3種類であり、上記複数種類の
原料の夫々の品質は3種類であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の予兆診断システム。
【請求項4】
上記入出力部は、上記製造設備又は製造装置毎に上記診断データが示す異常の予兆の度合いを色分けして示すことを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の予兆診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造設備や製造装置の異常の予兆を診断する予兆診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
製造設備や製造装置などに配置された多数のセンサが出力する検知信号に基づいて得られた多次元時系列データに基づいて異常の予兆を検知する予兆診断システムが、例えば特許文献1により知られている。このような予兆診断システムは、製造管理システムやデータ管理システムとともに、製造設備等の運転を高度に支援する。製造設備等の保全業務は、設備の故障等を事前に察知することを目的とした予防保全と、事故の発生後の対処に係る事後保全とに大別される。予兆診断システムは、製造設備の状態を総合的且つ全体的に監視することで、製造設備の異常の予兆を捉え、これをオペレータに報知する。これにより、事後保全の割合を減らし、これにより製造設備等の運転を高度に支援することができる。
【0003】
製造設備や製造装置において、その製造設備や製造装置自体に故障、破損、劣化などの異常が発生し、これにより製造設備の運転が中止を余儀なくされて製品の製造の進捗に影響を与えたり、製品の品質に影響を与えたりする場合がある。また、製造設備等自体には異常がなくても、運転環境等に異常が発生し、この異常が製品の品質に影響を与える場合がある。このため、特許文献1のシステムでは、過去の正常データから作成された正常モデルとの比較によって算出される異常測度に基づいて異常の有無を検知する。学習データから異常測度が高い区間を除外して正常モデルが計算される。正常モデルに基づく異常検知では、感度が学習データの質に影響されるため、網羅的かつ正確に正常データを収集する必要がある。網羅性については学習期間を長くすることで対応可能であるが、正確性については、異常データを適切に除外する必要がある。異常データが混入していると、正常モデルに従った適正な閾値の設定ができず感度が低下する。このため、学習データから異常データを除外する必要がある。
【0004】
特許文献1の予兆診断システムで生成される正常モデルは、上記のように学習データから異常測度が高い区間を除外して正常モデルを計算するので、適切に正常モデルを計算することができる。しかし、特許文献1の正常モデルは、単に正常運転の結果であるか否かに従って作成されており、必ずしも様々に変化する製造設備等の運転条件を正確に反映したものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、様々に変化する運転条件に応じた予兆診断を行うことを可能にした予兆診断システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の第一の態様に係る予兆診断システムは、製造設備又は製造装置に配置されたセンサから出力される検知信号に基づき多次元時系列データを取得し、前記多次元時系列データに基づき正常モデルを作成する正常モデル作成部と、前記製造設備又は前記製造装置に供給される複数種類の原料の品質の組合せと、当該原料の品質の組合せが前記製造設備又は前記製造装置に供給された場合における前記正常モデルとの関係を記憶する正常モデル記憶部と、前記製造設備又は前記製造装置に新たな原料の組合せが供給された場合に、前記正常モデル記憶部の中から、前記新たな原料の組合せに対応する正常モデルを選択する選択部と、前記選択部で選択された前記正常モデルと、前記新たな原料の組合せが前記製造設備又は前記製造装置に供給された場合に前記センサから得られる多次元時系列データとを比較して予兆診断を行う比較部とを備える。
【0008】
本発明の第二の態様に係る予兆診断システムは、製造設備又は製造装置に配置されたセンサから出力される検知信号に基づき多次元時系列データを取得し、前記多次元時系列データに基づき正常モデルを作成する正常モデル作成部と、前記製造設備又は前記製造装置における製造ロットと、その製造ロットにおいて得られた製品の品質に関する品質スコアとの関係を示す品質データを取得する品質データ取得部と、前記品質データ取得部で取得された品質データの中から、前記製品の品質として第1の品質に係る品質データに対応する前記正常モデルを高品質正常モデルとして記憶させる高品質正常モデル記憶部と、前記高品質正常モデルと、前記センサから得られる多次元時系列データとを比較して予兆診断を行う比較部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る予兆診断システムによれば、様々に変化する運転設備等の運転条件に応じた予兆診断を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態の高度運転支援システム1を説明するブロック図である。
【
図2】製造設備600とセンサ群500の一例を説明する図である。
【
図3】予兆診断システム100のより詳細な構成を説明するブロック図である。
【
図4】LSC法による正常モデルの作成方法を説明する概略図である。
【
図5】比較部115の動作を説明するグラフである。
【
図6】予兆診断システム100における診断データの表示方法の一例を示す図である。
【
図7】予兆診断システム100における診断データの表示方法の一例を示す図である。
【
図8】第1の実施の形態の予兆診断システムの技術的意義について説明する図である。
【
図9】第1の実施の形態の動作を示す概略図である。
【
図10】第1の実施の形態の変形例を示す概略図である。
【
図11】第2の実施の形態に係る予兆診断システム100の構成を説明するブロック図である。
【
図12】第2の実施の形態の動作を示す概略図である。
【
図13】第3の実施の形態に係る予兆診断システム100の構成を説明するブロック図である。
【
図14】第3の実施の形態の動作を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0012】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0013】
[第1の実施の形態]
図1のブロック図を参照して、第1の実施の形態の高度運転支援システム1を説明する。この高度運転支援システム1は、多数のセンサからなるセンサ群500の検知信号に基づき、製造設備600の運転を監視し、故障の予兆を判断して故障等を事前に回避しつつ製造設備600の安全且つ円滑な運転を支援するシステムである。高度運転支援システム1は、一例として、予兆診断システム100、検査データ管理システム200、製造管理システム300、及び制御部400を含む。
【0014】
予兆診断システム100は、制御部400から、センサ群500から出力された検知信号に基づく各種データを受信し、製造設備600自体の状況、製造環境などに関する診断を行い、製造設備600における異常の予兆を診断するシステムである。その詳細な機能及び構造に関しては後述する。
【0015】
検査データ管理システム200は、例えば原料ロット毎、又は製造ロット毎に測定・検査された原料又は最終製品の品質に関するデータを管理する。具体的に検査データ管理システム200は、原料又は最終製品の品質を分析する分析装置(図示せず)からの分析結果を取り込んで管理する機能を有する。また、検査データ管理システム200は、製造管理システム300から原料ロット、製造ロットに関するデータの供給を受け、このデータに従って原料ロット毎又は製造ロット毎に品質に関するデータを管理する。
【0016】
製造管理システム300は、製造設備600における製造に用いられる原料の管理、原料ロット及び製造ロットの管理、在庫の管理、最終製品の管理、製造設備600の制御に関する情報の管理等を司るシステムである。
【0017】
制御部400は、センサ群500からの検知信号に基づき製造設備600を制御する機能を有する。また、制御部400は、製造管理システム300で管理される各種情報に従い、製造設備600を制御する。また、制御部400は、予兆診断システム100との間でデータを送受信可能に構成されており、例えばセンサ群500の検知信号を予兆診断システム100に送信する一方で、予兆診断システム100における診断結果を受信して、その診断結果に従って製造設備600を制御する。
【0018】
図2に、製造設備600とセンサ群500の一例を説明する。製造設備600は、一例として、貯蔵タンク601、投入タンク602、反応タンク603、製品貯蔵タンク604を備えており、原料A~Cを材料として最終製品Dを製造するための製造設備である。タンク601~604は、それぞれ配管で接続されており、配管を通じて原料、中間生成物、及び最終生成物が搬送される。投入タンク602からは、原料A及びBが投入され、貯蔵タンク601には原料Cが貯蔵され、原料A~Cは所定の割合で反応タンク603に投入される。反応タンク603での原料A~Cの撹拌、加熱、加圧等により原料A~Cは反応し最終製品Dが生成される。
【0019】
センサ群500は、一例としては、原料等の流量を計測する流量センサ、反応タンク603等の温度を計測する温度センサ、反応タンク603等の圧力を計測する圧力センサ、製品貯蔵タンク604等の生成物の貯蔵量を計測するレベルセンサ等を含む。センサの種類はこれに限定されるものではないし、その配置も一例であることは言うまでもない。例えば、温度センサは反応タンク603だけでなく、製造設備600内の複数個所に設置することができる。また、温度センサの測定対象も、原料、中間生成物、最終生成物だけでなく、オイル、冷却水、環境温度などが含まれ得る。このような製造設備600において、センサ群500中の複数のセンサの各々は、それぞれ検知信号を出力し、制御部400は、個々の検知信号の値が所定の範囲(上限、下限)に含まれる正常値であるか、又はこの範囲を超える異常値であるか否かを検知する。
【0020】
制御部400は、予兆診断システム100にセンサ群500から出力された検知信号に基づく各種データを送信し、予兆診断システム100は、上記のようにセンサ群500中の複数のセンサの各々の検知信号の異常性を判定することに加え、センサ群500の複数のセンサの検知信号群の挙動が正常であるか否かも判定する。この場合予兆診断システム100は、複数のセンサの各々の検出信号が所定の範囲内にあるか否かではなく、複数のセンサの検知信号群の異常性(通常の場合との違いの度合)を全体として判断することで、製造設備600の異常の予兆を的確に判断することができる。複数のセンサの検知信号の全体としての異常性の判断は、後述するように、予め生成された正常モデルに基づいて生成される閾値と、検知信号の異常測度との比較に基づいて行われ得る。
【0021】
次に、
図3のブロック図を参照して、予兆診断システム100の詳細な構成を説明する。予兆診断システム100は、センサ群500から出力される検知信号群に基づき多次元時系列データを取得し、多次元時系列データに基づき、学習モデルとしての正常モデルを作成する。後述するように、この予兆診断システム100は、学習データから異常測度が高い除外区間を除外して異常測度を再計算することを逐次繰り返し、それぞれの再計算の結果に基づいて除外区間と閾値を設定するようにして、適切に学習データから異常な区間を除外して低い異常判定閾値を設定することができるようにする。これにより、高感度な異常検知を実現可能となる。
【0022】
また、この予兆診断システム100は、この正常モデルと、センサ群500から得られる多次元時系列データとを比較して予兆診断を行う。更に、後述するように、本実施の形態の予兆診断システム100は、上記の正常モデルを、製品の製造に用いられる原料の品質の組合せに応じて複数用意し、適宜対応する正常モデルを選択可能に構成されている。
【0023】
上記の動作を実行するため、予兆診断システム100は、一例として、センサ信号蓄積部101、特徴ベクトル抽出部104、学習データ選別部105、正常モデル作成部106、異常測度算出部107、除外区間設定部108、閾値算出部109、評価データ作成部111、正常モデル記憶部112、評価データ記憶部113、選択部114、比較部115、及び診断データ生成部116を備える。
【0024】
センサ信号蓄積部101は、センサ群500から出力された検知信号群を時刻毎に生データとして記憶(蓄積)する記憶部である。特徴ベクトル抽出部104は、センサ信号蓄積部101に蓄積された検知信号群のうち、指定された期間の検知信号群を用いて、その検知信号群を正準化した後、検知信号群から特徴ベクトルを抽出する。抽出された特徴ベクトルは多次元時系列データであり、正常モデルの生成の元となる学習データである。学習データとしての特徴ベクトルは、除外区間設定部108で設定された異常測度に係る除外区間に従い、学習データ選別部105において選別される。このようにして、異常測度に係る除外区間が除外・選別された後の特徴ベクトルに基づき、正常モデル作成部106において正常モデルが作成される。正常モデルの作成方法としては、例えば局所部分空間法(Local Sub-space Classifier:LSC法)が用いられ得る。LSC法は、
図4に概念的に示すように、正常モデルの生成のために取得済みの学習データと、別途センサ群500の検知信号群に基づいて得られた評価データA、B、・・・との差異を示す異常指数を特定し、この異常指数に基づき、検知信号群(評価データ)の異常の度合を判定する手法である。異常と判定された評価データが存在する区間は、除外区間設定部108において除外区間に設定され、学習データからは除外される。LSC法以外にも、例えばマハラノビスタグチ法、ベクトル量子化法等を異常測度の算出に用いることができる。
【0025】
なお、正常モデル作成部106は、後述するように、最終製品Dの製造に使用される複数種類の原料の品質の組合せ毎に正常モデルを生成する。正常モデル記憶部112は、この複数種類の原料の品質の組合せ毎に記憶された複数種類の正常モデルを記憶する。
【0026】
異常測度算出部107は、正常モデル作成部106で作成され正常モデル記憶部112に記憶された正常モデルのいずれかと、特徴ベクトル抽出部104で抽出された特徴ベクトルとに基づき異常測度を算出する。算出された異常測度に基づき、閾値算出部109において異常検出のための閾値が算出される。異常測度の算出結果は、前述の除外区間設定部108にも出力され、除外区間の設定の際のファクタとされる。
【0027】
評価データ作成部111は、最終製品Dが製造設備600において製造される場合に、製造中の製造設備600をセンサ群500により計測することにより得られた検出信号群の特徴ベクトルを特徴ベクトル抽出部104を介して取得し、これに基づいて評価データを作成する。評価データ記憶部113は、作成された評価データを記憶する。
【0028】
選択部114は、検査データ管理システム200から、最終製品Dの製造に使用される複数種類の原料の品質の組合せに関するデータを受信する。そして、選択部114は、そのデータに基づいて、正常モデル記憶部112の中から、当該品質の組合せのデータに対応する1つの正常モデルを選択する。
【0029】
比較部115は、
図5に示すように、選択部114で選択された正常モデルに基づいて閾値算出部109で算出された閾値と、評価データ記憶部113に記憶された評価データとを比較して評価データの異常測度を算出する。診断データ生成部116は、生成された異常測度のデータに基づき、評価データの異常の程度を示す診断データを生成し出力する。評価データと閾値との差異が異常測度として算出され、この異常測度の程度に基づき、評価データの異常の程度が判定される(例えば高/中/検知なし)。
【0030】
図6及び
図7は、予兆診断システム100における診断結果の表示方法の一例を示す。
図6は、製造設備600に含まれる設備A、B、C、D(A~Dは、例えば各種タンクや配管等を示す)と、その設備における異常の予兆の度合を色分けされたブロックにより示している。
図6において、縦方向に並ぶブロックが、ある時点における複数の設備A~Dの状態を示しており、横軸は時間を示している。異常の予兆の報知を、設備毎に行うことで、異常の予兆に対する対処が可能になる。
図7は、異常の予兆を示す指標を縦軸とし、横軸を時間で示したグラフである。
図7は、後の時刻において製造設備に故障が発生したことを示しているが、それよりも前(例えば数日前)において、異常の予兆があることが検知されたことを示している。本件システムのオペレータは、このような異常の予兆の報知があった場合に、システムの大規模な故障が生じる前に、予兆の報知の内容に応じて各種点検や修理等、部品交換等を行うことができ、大規模な故障の発生を未然に防止することが可能になる。
【0031】
図8を参照して、この第1の実施の形態の予兆診断システムの技術的意義について説明する。
図8に示すように、ある最終製品Dを製造するために、3種類の原料A、B及びCを使用する場合を考える。同じ原料A、B、Cを使用する場合であっても、同じ品質の最終製品Dが得られるとは限らず、原料A、B、Cの品質には、その生産地や生産時期等によりバラつきが生じることがある。この場合、原料A、B、及びCの品質の組合せにより、最終製品Dの品質が変化する。本件発明者は、このような複数種類の原料の品質の組合せ毎に、異なる正常モデルを適用することにより、正常モデルによる予兆診断を一層正確に行うことができることを見出した。原料の品質の組合せ毎に複数種類の正常モデルを生成しておき、製造段階において、正常モデル記憶部112に記憶されている複数の正常モデルの中から、使用中の原料の品質の組合せに適合する正常モデルを選択的に使用する。これによれば、原料A、B、Cの品質のバラつきが生じる場合においても、そのばらついた品質に最も適合した正常モデルを選択的に使用することができ、より正確に正常モデルに基づく予兆の判断を行うことが可能になる。
【0032】
本実施の形態では、このような複数種類の原料の品質の組合せi毎に正常モデルMiを生成し、複数の正常モデルMiを正常モデル記憶部112に記憶させておく。ここでは、原料がA、B、Cの3種類であり、品質は高、中、低の3通りに分類し、原料A、B、Cの品質の組合せiの全て(ここでは、3×3×3=27通り)について正常モデルMiを生成し、正常モデル記憶部112に記憶させる。原料の種類の数(3種類)や、品質の分類数(3つ)は、あくまでも例示であって、これに限られるものではないことは言うまでもない。
【0033】
図9は、第1の実施の形態の動作を示す概略図である。
正常モデル記憶部112は、
図9に示すように、異なる原料A、B、Cの品質を示す原料品質スコア(高、中、低)の組合せと、その組合せにより最終製品Dを製造した場合における正常モデルMiとを関連付けて記憶している。なお、正常モデルMiと併せて、最終製品Dの品質を示す品質スコアSiを関連付けて記憶していてもよい。このような複数通りの正常モデルMiは、原料A、B、Cを製造設備600に供給し、その際のセンサ群500の検出信号群に基づいて生成し、以後、原料A、B、Cの品質の組合せを異ならせて製造設備600に供給することを繰り返すことで得ることができる。
【0034】
このような正常モデル記憶部112での正常モデルの取得がされた後において、製造設備600において、新たに原料Ap、Bp、Cpが投入されて最終製品Dの製造が開始される。検査データ管理システム200は、この原料Ap、Bp、Cpの品質の組合せに関するデータを選択部114に入力させる。選択部114は、入力された品質の組合せに対応する正常モデルMiを正常モデル記憶部112から読み出す。読み出された正常モデル
Miは、比較部115において、投入された原料Ap、Bp、Cpにより最終製品Dを生成中の製造設備600をセンサ群500により計測して得られた評価データと比較することができる。このように、この第1の実施の形態では、複数種類の原料の品質の組合せに応じて複数種類の正常モデルMiを記憶しており、製造に使用している原料の品質の組合せに適合した正常モデルを選択して使用することができる。原料の品質の組合せ毎に用意された正常モデルが使用されることで、異常の予兆の検知の精度が向上し、製造設備600のより的確な運転を担保することができ、また、最終製品Dの品質を安定させることが可能になる。
【0035】
図10は、第1の実施の形態の変形例を示している。この変形例では、原料A、B、Cの品質(H、M、L)を示す原料品質スコアが、最終製品の製造ロット番号と、原料A、B、Cが供給される原料ロットの番号と関連付けて検査データ管理システム200から提供される。正常モデルMiの作成時においては、製造設備600には製造ロット番号及び原料ロット番号に従って原料A、B、及びCが投入され、最終製品Dの製造が行われる。その際、センサ群500からの検知信号に基づき正常モデルMiが生成される。この正常モデルMiは、製造ロット番号、原料ロット番号、及び原料品質データとともに正常モデル記憶部112に記憶される。
【0036】
その後、製品の製造時には、製造設備600に対し、製造ロット毎に、指定された原料ロット番号に係る原料A、B、Cが供給されて最終製品Dの製造が行われる。このとき、正常モデル記憶部112からは、当該製造ロット番号に対応する正常モデルMiが選択部114により読み出される。以降は、第1の実施の形態と同様にして異常の予兆が判定される。
【0037】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る高度運転支援システム1を
図11を参照して説明する。この第2の実施の形態の全体構成は、
図1と同様であるが、予兆診断システム100の構成及び動作が第1の実施の形態とは異なっている。
図11は、第2の実施の形態の高度運転支援システム1中の、予兆診断システム100の構成の一例を示すブロック図である。
図11において、
図3と同一の構成要素については、
図3中の参照符号と同一の符号で示し、以下では重複する説明は省略する。
【0038】
この第2の実施の形態の予兆診断システム100は、いわゆるゴールデンバッチ(最良品質が得られるバッチ)の正常モデルが、高品質正常モデルとして自動的に高品質正常モデル記憶部112Bに記憶される。この予兆診断システム100は、この高品質正常モデルに従って異常の予兆を判断するよう構成されている。同じ品質の原料A、B、Cの使用を継続して最終製品Dを複数の製造ロットに亘って製造する場合であっても、製造設備の変化や製造環境の変化により、最終製品の品質は変化し得る。このため、この第2の実施の形態では、複数の製造ロットのうち最高の品質(又は、一定の基準以上の品質(第1の品質))が得られた製造ロットを特定し、このときに得られた正常モデルを高品質正常モデルとして取り込む。それ以後は、高品質正常モデルを用いて異常の予兆が判断される。この点、第1の実施の形態が、複数の原料の品質の組合せに応じて複数の正常モデルを記憶し、使用される原料の品質に適合する正常モデルを選択する方式とされているのと異なっている。
【0039】
第2の実施の形態の動作を、
図12の概略図を参照して説明する。
まず、高品質正常モデルは、次のようにして生成される。原料A、B及びCを製造設備600に供給して最終製品Dを製造する製造ロット1、2、3・・・を実行し(原料A、B、Cの品質は複数の製造ロット間で略同一であるとする)、検査データ管理システム200は、それぞれの製造ロットについて、最終製品Dの品質を検査し、品質スコアQiとして算出する。そして、
図12の左側に示すように、製造ロット番号と、その製造ロットにおいて得られた最終製品Dの品質に関する品質スコアQ(Q1、Q2、Q3・・・)との関係を示す品質データを取得する。すなわち、この第2の実施の形態の検査データ管理システム200は、記製造設備又は製造装置における製造ロットと、その製造ロットにおいて得られた製品の品質に関する品質スコアとの関係を示す品質データを取得する品質データ取得部として機能する。
【0040】
また、製造ロット1、2、3・・・の各々における最終製品Dの製造中において、センサ群500から得られた検知信号群を分析して正常モデルMiを正常モデル作成部106において作成する。作成された正常モデルMiは、製造ロット番号と対応させて正常モデル記憶部112Aに記憶される。
【0041】
製造ロット番号iで算出された最終製品Dの品質スコアQiが、過去に取得済みの品質スコアQj(j<i)よりも高い値である場合(best)、その品質スコアQiに係る正常モデルMiを高品質正常モデルとして更新し、高品質正常モデル記憶部112Bに記憶させる。この高品質正常モデルが、いわゆるゴールデンバッチに相当する。
【0042】
図12の例では、製造ロット番号1において品質スコアQ1が得られ、まずこの品質スコアQ1に係る正常モデルM1が高品質正常モデルとして高品質正常モデル記憶部112Bに記憶される。その後、製造ロット番号2において品質スコアQ2が得られ、このQ2の値がQ1よりも高い値であれば、この品質スコアQ2に係る正常モデルM2が新たに高品質正常モデル記憶部112Bに上書き(更新)される。
【0043】
こうして、製造ロット番号の若い順から順に製造ロットを実行し、全ての製造ロットにおいて同様に品質スコアQiを計算し、それが最高値であれば高品質正常モデル記憶部112Aの記憶データを更新する。
【0044】
このようにして、複数の製造ロット1、2、3・・・の中で最も高い品質スコアQiに係る正常モデルMiが高品質正常モデル記憶部112Bに記憶される。この高品質正常モデル記憶部112Bに記憶された正常モデルMi(高品質正常モデル)が、それぞれ評価データと第1の実施の形態と同様にして比較され、診断データが生成される。
【0045】
以上説明したように、この第の実施の形態によれば、いわゆるゴールデンバッチに相当する高品質正常モデルMiが自動的に生成され、この高品質正常モデルMiが予兆診断において使用される。これにより、異常の予兆の検知の精度が向上し、製造設備600のより的確な運転を担保することができ、また、最終製品Dの品質を安定させることが可能になる。
【0046】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態に係る高度運転支援システム1を
図13及び
図14を参照して説明する。この第3の実施の形態の全体構成は、
図1と同様であるが、予兆診断システム100の構成及び動作が第1の実施の形態とは異なっている。
図13は、第3の実施の形態の高度運転支援システム1中の、予兆診断システム100の構成の一例を示すブロック図である。
図13において、
図3と同一の構成要素については、
図3中の参照符号と同一の符号で示し、以下では重複する説明は省略する。
【0047】
この第3の実施の形態の予兆診断システム100は、第1の実施の形態の予兆診断システム100と、第2の実施の形態の予兆診断システム100を組み合わせた構造を有している。すなわち、この第3の実施の形態では、複数種類の原料の品質の組合せi毎に正常モデルMiを生成し、複数の正常モデルMiを正常モデル記憶部112に記憶させる。更に、複数種類の原料の品質の組合せi毎の正常モデルMiのそれぞれについて、複数の製造ロットのうち最高の品質(又は、一定の基準以上の品質(第1の品質))が得られた製造ロットを特定し(
図14参照)、このときに得られた正常モデルを高品質正常モデルとして高品質正常モデル記憶部112Cに取り込む。この第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果と、第2の実施の形態の効果とを得ることができ、より一層正確な予兆診断を実行することが可能になる。
【0048】
[その他]
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…高度運転支援システム、100…予兆診断システム、101…センサ信号蓄積部、104…特徴ベクトル抽出部、105…学習データ選別部、106…正常モデル作成部、107…異常測度算出部、108…除外区間設定部、109…閾値算出部、111…評価データ作成部、112…正常モデル記憶部、112B、112C…高品質正常モデル記憶部、113…評価データ記憶部、114…選択部、115…比較部、116…診断データ生成部、200…検査データ管理システム、300…製造管理システム、400…制御部、500…センサ群、601…貯蔵タンク、602…投入タンク、603…反応タンク、604…製品貯蔵タンク。