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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 7/06 20060101AFI20230127BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20230127BHJP
   F16D 41/10 20060101ALI20230127BHJP
   F16D 41/066 20060101ALI20230127BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
H02K7/06 A
F16H25/22 A
F16D41/10
F16D41/066
H02K7/116
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018177623
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020048389
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】川合 正浩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
(72)【発明者】
【氏名】平野 慎介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-151229(JP,A)
【文献】特開2017-184484(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0109082(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 7/06
F16H 25/22
F16D 41/10
F16D 41/066
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを有する駆動部と、該駆動部の回転運動を直線運動に変換する運動変換機構部と、前記駆動部の回転運動を前記運動変換機構部に伝達するギヤ機構部と、前記駆動部の停止状態で前記運動変換機構部が動作するのを規制するロック機構部とを備え、前記運動変換機構部が、軸方向に直線運動することで操作対象を操作するねじ軸およびその外周に回転可能に嵌合されたナットを有し、前記ギヤ機構部が、前記駆動部の回転運動を受けて回転する駆動ギヤおよびその回転運動を前記ナットに伝達する従動ギヤを有する電動アクチュエータにおいて、
前記ロック機構部は、前記駆動ギヤと同軸配置された静止部材に設けられた円筒面と、前記駆動ギヤの内径面に設けられ、前記円筒面との間に楔状空間を形成するカム面と、前記円筒面と前記駆動ギヤの内径面との間に移動可能に配置されたローラと、前記円筒面と前記駆動ギヤの内径面との間に配置され、前記ローラを前記円筒面と前記カム面とで拘束することにより前記駆動ギヤの回転を規制する規制位置に向けて前記ローラを常時付勢した弾性部材と、前記駆動部の出力部材と一体回転可能に設けられた筒状の入力部材と、を備え、
前記入力部材は、前記駆動部が回転駆動されるのに伴って、前記弾性部材の付勢力に抗して前記ローラを前記規制位置から離脱させるための加圧力を前記ローラに付与可能な加圧部、および前記駆動ギヤの内径面に設けられた円弧溝と前記駆動ギヤの周方向で係合する係合部を有し、
前記円弧溝は、その全体が前記カム面と軸方向で重複するように前記駆動ギヤの内径面に設けられていることを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記ローラは、周方向に離間した(n+1)箇所に設けられ(但し、nは1以上の奇数)、
周方向の所定位置から数えて第n番目のローラおよびこれと周方向で隣り合う第(n+1)番目のローラ、並びにこれら二つのローラ間に圧縮状態で配置された前記弾性部材を一組とする可動体と前記加圧部とが周方向で交互に配置され、
前記駆動部が回転駆動されたとき、前記可動体を構成する二つのローラのうち、前記入力部材の回転方向後方側に位置するローラがこれと周方向で隣接する前記加圧部の加圧力を受けて前記規制位置から離脱すると共に、前記入力部材の回転方向前方側に位置するローラが前記円筒面および前記カム面に対して空転する請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記従動ギヤの歯数を、前記駆動ギヤの歯数よりも多くした請求項1又は2に記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記駆動ギヤは、外周部が前記従動ギヤと噛み合うギヤ部と、該ギヤ部に対して固定され、内径面に前記カム面が設けられたカム部とを有する請求項1~3の何れか一項に記載の電動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車をはじめとする車両においては、その省力化や低燃費化のために電動化が進展し、例えば、自動変速機、ブレーキおよびステアリング等の操作を電動機の力で行うシステムが開発され、市場に投入されている。このような用途に使用されるアクチュエータとして、例えば、下記の特許文献1には、電動モータの回転運動を直線運動に変換して出力する運動変換機構にねじ機構を採用したものが開示されている。このねじ機構を構成するねじ軸は、電動アクチュエータの出力軸(最終出力軸)を構成し、軸方向に直線運動(進退移動)することで操作対象を操作する。
【0003】
ねじ機構のねじ軸は、高精度にかつスムーズに進退移動可能である。そのため、ねじ軸を最終出力軸として用いた電動アクチュエータは、操作対象を精度良く操作することができるという利点を有する反面、例えば、電動モータの停止状態で操作対象(ねじ軸)に外力が入力された場合、何らの対策も講じられていなければ、操作対象を誤操作してしまう可能性がある。そこで、特許文献1の電動アクチュエータには、電動モータの停止状態で運動変換機構が動作する(ねじ軸が進退移動する)のを規制可能なロック機構部が設けられている。
【0004】
上記のロック機構部は、主に、ねじ軸駆動用の電動モータ(駆動用モータ)とは別に設けられた小型の電動モータ(ロック用モータ)と、ロック用モータの出力を受けて軸方向に移動可能なロック部材とを備える。駆動用モータとねじ機構との間(の動力伝達経路上)には、駆動用モータの回転運動をねじ機構のナットに伝達するためのギヤ機構部が設けられており、ロック部材は、ギヤ機構部を構成する駆動ギヤおよび従動ギヤのうち、駆動ギヤに設けられた孔部に対して挿脱可能とされている。以上の構成を有するロック機構部は、例えば以下のように動作する。まず、駆動用モータに電力が供給されている状態では、ロック用モータにも電力が供給され、ロック部材が駆動ギヤの孔部から離脱した状態で保持される。この場合、駆動ギヤは回転可能であり、駆動用モータの回転運動が駆動ギヤおよび従動ギヤを介してナットに伝達されることから、電動アクチュエータは、ねじ軸の進退移動が許容されるロック解除状態に保持される。一方、駆動用モータへの電力供給が遮断されると、ロック用モータへの電力供給も遮断される。これに伴い、ロック部材が駆動ギヤに対して接近移動し、ロック部材が駆動ギヤの孔部に挿入されると、駆動ギヤの周方向で駆動ギヤとロック部材とが係合する。これにより、駆動ギヤが回転不能となるため、電動アクチュエータはねじ軸の進退移動が規制されるロック状態となる。
【0005】
以上を小括すると、特許文献1の電動アクチュエータは、駆動用モータが駆動されると、ロック用モータも併せて駆動されてロック状態からロック解除状態に移行し、駆動用モータが停止するとロック解除状態からロック状態に移行するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-184484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のロック機構部は、駆動用モータとは別のロック用モータが必要であることに加え、ロック用モータを駆動するための電源や制御を必要とすることから、電動アクチュエータ全体としての動作制御の複雑化、ひいては電動アクチュエータの高コスト化を招来するという問題がある。
【0008】
また、上記のロック機構部は、ロック部材が駆動ギヤに設けられた孔部に挿入されなければ、ねじ軸の進退移動を規制するロック状態にすることができない。そのため、例えば、操作対象に外力が作用した時点で上記孔部の配設位置とロック部材の配設位置とが駆動ギヤの回転方向でずれていた場合(ロック部材の移動方向の延長線上に上記孔部が存在しない場合)、ねじ軸の進退移動を即座に規制することができず(ロック機構部が有効に作用せず)、複雑な制御を必要とした。
【0009】
そこで、本発明の主な目的は、駆動部の停止状態でねじ軸に外力が作用した場合にねじ軸が直線運動するのを確実に規制することができ、かつねじ軸の直線運動が許容される状態とねじ軸の直線運動が規制される状態との切り替えを電源や制御を必要とせずに実行することができる電動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、電動モータを有する駆動部と、駆動部の回転運動を直線運動に変換する運動変換機構部と、駆動部の回転運動を運動変換機構部に伝達するギヤ機構部と、駆動部の停止状態で運動変換機構部が動作するのを規制するロック機構部とを備え、運動変換機構部が、軸方向に直線運動することで操作対象を操作するねじ軸およびその外周に回転可能に嵌合されたナットを有し、ギヤ機構部が、駆動部の回転運動を受けて回転する駆動ギヤおよびその回転運動をナットに伝達する従動ギヤを有する電動アクチュエータにおいて、ロック機構部は、駆動ギヤと同軸配置された静止部材に設けられた円筒面と、駆動ギヤの内径面に設けられ、円筒面との間に楔状空間を形成するカム面と、円筒面と駆動ギヤの内径面との間に移動可能に配置されたローラと、円筒面と駆動ギヤの内径面との間に配され、ローラを円筒面とカム面とで拘束することにより駆動ギヤの回転を規制する規制位置に向けてローラを常時付勢した弾性部材と、駆動部の出力部材と一体回転可能に設けられた筒状の入力部材と、を備え、入力部材は、駆動部が回転駆動されるのに伴って、弾性部材の付勢力に抗してローラを規制位置から離脱させるための加圧力をローラに付与可能な加圧部、および駆動ギヤの内径面に設けられた円弧溝と駆動ギヤの周方向で係合する係合部を有し、円弧溝は、その全体がカム面と軸方向で重複するように駆動ギヤの内径面に設けられていることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、駆動部(電動モータ)の停止状態においては、弾性部材の付勢力によってローラを規制位置に位置させることができ、また、回転駆動中の駆動部が停止すると、弾性部材の付勢力によってローラを規制位置に即座に移動させることができる。ローラが規制位置に位置した状態では、駆動ギヤの回転が規制される結果、従動ギヤさらにはナットの回転が規制されるので、ねじ軸の直線運動が規制される。その一方、駆動部が回転駆動されると、駆動部の出力部材と一体回転する入力部材に設けられた加圧部からローラに対して付与される加圧力によってローラが規制位置から離脱するので、駆動ギヤは円筒面を有する静止部材に対して回転可能な状態となる。また、駆動部が回転駆動されると、入力部材に設けられた係合部が駆動ギヤの周方向で駆動ギヤと係合するので、入力部材と駆動ギヤとが一体回転する。このように、駆動ギヤが回転すると、従動ギヤ、さらにはナットが回転するので、ねじ軸が直線運動する。
【0012】
以上のように、本発明に係る電動アクチュエータに設けられるロック機構部は、駆動部が駆動又は停止するのに伴って駆動ギヤ、ひいてはナットが回転又は停止するように構成された機械式のクラッチ(カムクラッチ)としての機能を有しており、これを作動させるための専用電源や制御を必要としない。従って、本発明に係る電動アクチュエータは、駆動部の停止状態でねじ軸に外力が作用した場合でもねじ軸が直線運動するのを確実に規制することができ、かつねじ軸の直線運動が許容される状態とねじ軸の直線運動が規制される状態との切り替えを電源や制御を必要とせずに即座に実行することができる。
【0013】
上記構成を有する電動アクチュエータにおいて、ローラを駆動ギヤの周方向に離間した(n+1)箇所に設け(但し、nは1以上の奇数)、周方向の所定位置から数えて第n番目のローラおよびこれと周方向で隣り合う第(n+1)番目のローラ、並びにこれら二つのローラ間に圧縮状態で配置された弾性部材を一組とする可動体と加圧部とを周方向で交互に配置することができる。この場合、駆動部が回転駆動されたとき、可動体を構成する二つのローラのうち、入力部材の回転方向後方側に位置するローラがこれと周方向で隣接する加圧部の加圧力を受けて規制位置から離脱すると共に、入力部材の回転方向前方側に位置するローラが円筒面およびカム面に対して空転するように構成することができる。
【0014】
上記構成によれば、駆動部が正逆何れの方向に回転駆動される場合でも、上述した本発明の作用効果を有効に享受することができる。なお、上記の構成は、例えば、カム面を、駆動ギヤの回転中心を通って駆動ギヤの径方向に延びる平面と平行な平坦面で構成することによって得られる。
【0015】
上述した本発明の構成は、従動ギヤの歯数を駆動ギヤの歯数よりも多くした電動アクチュエータに好ましく適用することができる。
【0016】
上記構成において、駆動ギヤは、外周部が従動ギヤと噛み合うギヤ部と、ギヤ部に対して固定され、内径面にカム面が設けられたカム部とを有するものとすることができる。すなわち、駆動ギヤは、ギヤ部とカム部とが別体に設けられたものとすることができる。このようにすれば、ギヤ部およびカム部を有する複雑形状の駆動ギヤを容易にかつ精度良く得ることができる。もちろん、駆動ギヤは、ギヤ部およびカム部が一体に設けられたものとしても良い。
【発明の効果】
【0017】
以上のことから、本発明によれば、ねじ軸の直線運動を許容する状態とねじ軸の直線運動を規制する状態との切り替えを電源や制御を必要とせずに実行し得る簡素な構成でありながら、駆動部の停止状態でねじ軸に外力が作用した場合にねじ軸が直線運動するのを確実に規制可能な電動アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る電動アクチュエータの概略縦断面図である。
図2図1のA-A線矢視断面図である。
図3図1のB-B線矢視断面図である。
図4】ロック機構部の分解斜視図である。
図5図2の部分拡大図である。
図6】駆動部の停止状態におけるロック機構部の部分横断面図である。
図7】駆動部の駆動状態におけるロック機構部の部分横断面図である。
図8】他の実施形態に係る電動アクチュエータの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明で使用する「軸方向一方側」とは図1の紙面左側であり、「軸方向他方側」とは図1の紙面右側である。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る電動アクチュエータ1の概略縦断面図であり、図2は、図1のA-A線矢視断面図であり、図3は、図1のB-B線矢視断面図である。電動アクチュエータ1は、回転駆動力を発生させる駆動部2と、駆動部2から出力された回転駆動力(回転運動)を直線運動に変換して出力する運動変換機構部3と、駆動部2の回転運動を運動変換機構部3に伝達するギヤ機構部4と、運動変換機構部3を支持する支持部5と、運動変換機構部3の直線運動を操作対象に出力(伝達)する操作部6と、駆動部2の停止状態で運動変換機構部3が動作するのを規制するロック機構部7とを備える。本実施形態の駆動部2は、モータ部8と減速機構部9とで構成される。
【0021】
モータ部8は、主に、電動モータ10と、電動モータ10を収容したモータケース11とを備える。電動モータ10のモータ端子(図示省略)は、図示外の導電部材や動力線を介して動力電源に接続されている。なお、電動モータ10としては、例えばブラシ付きのDCモータやブラシレスモータが使用される。
【0022】
減速機構部9は、電動モータ10の回転を減速して出力する減速機12と、減速機13を収容した減速機ケース14とを備える。減速機ケース14は、その軸方向一方側に隣接配置されたモータケース11に対して分離可能に連結されている。
【0023】
減速機12には、いわゆる遊星歯車減速機を採用している。すなわち、減速機12は、電動モータ10の出力軸10aと一体回転可能に設けられたサンギヤ15と、減速機ケース14の内周に設けられたリングギヤ16と、サンギヤ15とリングギヤ16の間に配置され、サンギヤ15およびリングギヤ16に噛み合った複数(例えば、3つ)の遊星ギヤ17と、遊星ギヤ17を回転自在に保持した遊星ギヤホルダ18および遊星ギヤキャリア19とを備える。遊星ギヤキャリア19は、遊星ギヤ17に連結された環状部19aと、環状部19aの内径端部から軸方向他方側に延びた円筒部19bとを一体に有し、遊星ギヤ17の公転運動を取り出して出力する。遊星ギヤキャリア19の円筒部19bは、後述する転がり軸受44(の内輪)および入力部材としての入力保持器71と一体回転可能に連結されている。
【0024】
上記構成を有する減速機12により、電動モータ10の出力軸10aの回転運動が減速された上でギヤ機構部4、さらには運動変換機構部3に伝達される。これにより、ギヤ機構部4(を構成する駆動ギヤ41)の回転トルクを増加することができるので、小型の電動モータ10を採用することができる。
【0025】
運動変換機構部3は、ボールねじ30で構成される。ボールねじ30は、電動モータ10の出力軸10aと平行に配置されたねじ軸31と、多数のボール33を介してねじ軸31の外周に回転可能に嵌合された回転部材としてのナット32と、循環部材としてのこま34とを備える。ねじ軸31の外周面に形成された螺旋状溝31aとナット32の内周面に形成された螺旋状溝32aとの間に多数のボール33が装填され、こま34が組み込まれている。このような構成により、ナット32が回転するのに伴ってねじ軸31が軸方向に進退移動する際には、両螺旋状溝31a,32aの間でボール33が循環する。
【0026】
ねじ軸31は、電動アクチュエータ1の出力部材を構成するものであり、その軸方向一方側の端部には、図示外の操作対象を操作するための操作部6が設けられている。図示例において、操作部6は、操作対象とねじ軸31とを連結するための連結部材が挿入される径方向の貫通孔で構成される。
【0027】
電動アクチュエータ1には、筒部35aおよび底部35bを有する有底筒状の軸ケース35が設けられ、この軸ケース35にねじ軸31の一部が収容されている。本実施形態の軸ケース35には、筒部35aの軸方向一方側の端部から径方向外側に延びたフランジ部35cが一体に設けられ、このフランジ部35cは、支持部5を構成する軸受ケース51に対して分離可能に連結されている。
【0028】
電動アクチュエータ1には、ねじ軸31の軸方向位置(進退移動量)を検出するための位置検出装置が設けられる。この位置検出装置は、例えば、モータケース11に取り付けられたストロークセンサとしての磁気センサ(図示省略)と、ねじ軸31に取り付けられたセンサターゲットとしての永久磁石36とで構成される。永久磁石36は、保持部材37を介してねじ軸31に取り付けられている。この場合、ねじ軸31が軸方向に進退移動すると、これに伴って移動する永久磁石36の磁場(例えば磁束密度の向きおよび強さ)の変化が磁気センサで検出されることにより、ねじ軸31の進退移動量が検出される。
【0029】
図3にも示すように、ねじ軸31の軸方向他方側の端部には、ねじ軸31がその中心軸回りに回転するのを規制するための回転規制部20を設けている。回転規制部20は、ねじ軸31に取り付けられて径方向に延び、両端部がねじ軸31の外側に突出した支持ピン21と、支持ピン21の突出部に外嵌され、支持ピン21に回転可能に支持されたガイドローラ22と、軸ケース35の筒部35aの内周面に設けられて軸方向に延び、ガイドローラ22が転動可能に嵌め込まれた一対の案内溝35dとを備える。係る構成を備えた回転規制部20は、ねじ軸31の径方向に延びた取り付け孔(貫通孔)31bに対して支持ピン21を挿入(ここでは圧入)してから、ガイドローラ22を支持ピン21に対して回転可能に嵌合することにより、ねじ軸31、支持ピン21およびガイドローラ22からなるアセンブリを作製した後、ガイドローラ22と軸ケース35に設けた案内溝35dとの位相合わせを行った状態で上記アセンブリを軸ケース35内に組み込むことで完成する。
【0030】
上記のとおり、本実施形態の電動アクチュエータ1には、ねじ軸31の軸方向位置を検出するための位置検出装置を設けており、また、ねじ軸31は、ねじ軸31に取り付けたガイドローラ22が軸ケース35に設けた案内溝35dに沿って転動することで進退移動することから、ねじ軸31の前進限および後退限を制御することができる。従って、ねじ軸31は基本的に所定の停止位置を越えて前進又は後退しない。しかしながら、位置検出装置の故障などにより、ねじ軸31が誤作動して所定の停止位置を越えて後退(軸方向他方側に移動)すると、ねじ軸31の後端部(軸方向他方側の端部)が軸ケース35の底部35bに衝突し、軸ケース35が破損するおそれがある。
【0031】
そこで、本実施形態では、ねじ軸31と軸ケース35の底部35bとの間にゴム、樹脂又は熱可塑性エラストマー等の弾性材料で形成された緩衝部材23を設けている。これにより、仮にねじ軸31が所定の停止位置を越えて後退することにより、ねじ軸31が軸ケース35の底部35bに衝突した場合でも、緩衝部材23によって衝撃荷重が緩和されるので、軸ケース35が破損等する可能性を低減することができる。
【0032】
本実施形態の緩衝部材23は、ねじ軸31の軸方向他方側の端面31cに開口した凹部31dに挿入される円柱状の差込部24と、ねじ軸31と軸ケース35の底部35bとの間に介在するフランジ状の緩衝部25とで構成されている。緩衝部材23の差込部24には径方向の貫通孔26が設けられており、緩衝部材23は、上記貫通孔26に支持ピン21を挿通することでねじ軸31に対して取付固定される。要するに、支持ピン21は、ガイドローラ22の支持軸として機能するだけでなく、緩衝部材23の取付部材としても機能する。このような構成により、ねじ軸31、支持ピン21、ガイドローラ22および緩衝部材23等を備えたアセンブリを容易に組み立てることができる。
【0033】
図1および図2に示すように、ギヤ機構部4は、主に、ロック機構部7を介して伝達される駆動部2の出力を受けて回転駆動される駆動ギヤ41と、駆動ギヤ41(のギヤ部411)と噛み合った従動ギヤ42と、駆動ギヤ41(の一部)および従動ギヤ42を収容したギヤケース43と、減速機12の遊星ギヤキャリア19を回転自在に支持した転がり軸受44とを備える。転がり軸受44は、内輪、外輪および玉を備えた玉軸受(例えば、深溝玉軸受)で構成される。
【0034】
ギヤケース43は、軸方向一方側に隣接配置された減速機ケース16に対して分離可能に連結された基部43aと、ねじ軸31の一部を収容した円筒部43bとを有する。基部43aには、電動モータ10の回転軸10a等が挿通された軸方向の貫通孔43a1が設けられており、この貫通孔43a1の内壁面に転がり軸受44の外輪が装着される。転がり軸受44の内輪の内周面には、遊星ギヤキャリア19の円筒部19bの外周面が圧入されている。
【0035】
ギヤケース43の円筒部43bとねじ軸31との間には筒状のブーツ45が取り付けられる。ブーツ45は、樹脂、ゴムあるいは熱可塑性エラストマー等の弾性材料で形成され、小径筒部45aおよび大径筒部45bと、両筒部45a,45bを接続する蛇腹部45cとを一体に有する。小径筒部45aおよび大径筒部45bは、それぞれ、ブーツバンド46A,46Bによってねじ軸31およびギヤケース43の円筒部43bに対して締め付け固定される。このような構成により、ギヤケース43内への異物侵入が防止される。ブーツ45の外周には、ブーツ45を保護するためのブーツカバー47が配置されている。本実施形態のブーツカバー47は、モータケース11と一体に設けられている。
【0036】
図1および図4に示すように、駆動ギヤ41は、ロック機構部7を収容した中空部を有する段付き円筒状に形成されており、ギヤ部411とカム部412とを一体に有する。ギヤ部411は、外周部に従動ギヤ42と噛み合う歯面を有する。本実施形態のギヤ部411は、図2に示すように、従動ギヤ42よりも小径でかつ歯数が少ない。また、カム部412は、ロック機構部7の一部を構成するものであり、その詳細構造は後段で説明するが、簡単に説明すると、カム部412は、カム面415が設けられた大径内径面414と、ロック機構部7を構成する第3転がり軸受78の外輪が装着された小径内径面413とを有する。
【0037】
図2に示すように、従動ギヤ42は、駆動ギヤ41のギヤ部411よりも大径でかつ歯数が多いギヤで構成され、ボールねじ30のナット32と一体回転可能に設けられている。本実施形態では、ナット32の外周面が従動ギヤ42の内周面に圧入されることにより、従動ギヤ42およびナット32が一体回転する。
【0038】
以上の構成により、(ロック機構部7を介して伝達される)駆動部2の出力を受けて駆動ギヤ41が回転すると、従動ギヤ42およびナット32が一体回転する。これにより、ナット32の回転方向に応じてねじ軸31が軸方向(電動モータ10の回転軸10aと平行な軸方向)に進退移動し、ねじ軸31の操作部6に連結された図示外の操作対象が操作される。本実施形態では、駆動ギヤ41のギヤ部411の歯数よりも従動ギヤ42の歯数の方が多いので、ギヤ機構部4に入力された回転運動は、減速されると共にトルクが増加された上で運動変換機構部3のナット32に伝達される。そのため、電動モータ10の一層の小型化を図ることができる。
【0039】
支持部5は、ボールねじ30のナット32を回転自在に支持する支持軸受50と、支持軸受50を収容した軸受ケース51とを備える。図2にも示すように、軸受ケース51は、軸方向一方側に隣接配置された伝達ギヤケース45に対して分離可能に連結されており、駆動ギヤ41の回転中心と同軸配置された軸部52を有する。
【0040】
支持軸受50としては、外輪50aおよび内輪50bと、これらの間に転動自在に配された複列のボール50cとを備え、ラジアル荷重および両方向のアキシャル荷重を支持することができる複列アンギュラ玉軸受が使用される。軸受ケース51と支持軸受50との間には、径方向内向きの鍔部53aを一体に有する鍔付き円筒状のスリーブ53が配置されており、支持軸受50の外輪50aは、スリーブ53の鍔部53aとスリーブ53の内周面に装着された止め輪54とで挟持されることにより、軸方向の位置決めがなされている。一方、支持軸受50の内輪50bは、従動ギヤ42とナット32の外周面に装着された止め輪55とで挟持されることにより、軸方向の位置決めがなされている。
【0041】
以下、本発明に係る電動アクチュエータ1の特徴的構成であるロック機構部7について、図1および図2に加え、図4図7を参照しながら詳細に説明する。なお、図4は、ロック機構部7の分解斜視図であり、図5は、図2の部分拡大図である。また、図6は、駆動部2の停止状態におけるロック機構部7の部分横断面図であり、図7は、駆動部2の駆動状態におけるロック機構部7の部分横断面図である。
【0042】
図1および図2に示すように、ロック機構部7は、駆動ギヤ41の内周(駆動部2とギヤ機構部4の間の動力伝達経路上)に配置されている。図4に示すように、ロック機構部7は、主に、入力部材としての入力保持器71と、可動体72と、静止部材としての固定軸75と、駆動ギヤ41に設けられたカム部412と、第1転がり軸受76、第2転がり軸受77および第3転がり軸受78とを組み合わせて形成される。第1転がり軸受76~第3転がり軸受78は、何れも、深溝玉軸受で構成される。
【0043】
図1図2および図4に示すように、入力保持器71は、軸方向一方側から軸方向他方側に向けて順に配置された第1筒部71a、第2筒部71bおよび環状部71cと、係合部71dと、加圧部71eとを有する。第1筒部71aは、ギヤケース43の基部43aに設けられた貫通孔43a1の内周に配置され、その外周面には遊星ギヤキャリア19の筒部19bの内周面が圧入される。第2筒部71bは、駆動ギヤ41の内周に配置され、その外周面には、駆動ギヤ41の軸方向一方側の端部を入力保持器71に対して回転自在に支持する第1転がり軸受76の内輪が装着される。
【0044】
静止部材としての固定軸75は、段付きの中空軸に形成され、軸受ケース51に設けられた軸部52の外周に嵌合固定されている。図4に示すように、固定軸75の内周面には軸方向溝75bが形成されており、この軸方向溝75bを軸部52の外周面に形成された軸方向の凸部(図示省略)に嵌合することで固定軸75が軸部52に対して回り止めされる。固定軸75は、第2転がり軸受77の内輪および第3転がり軸受78の内輪がそれぞれ装着される二つの小径円筒面と、両小径円筒面の間に配置され、小径円筒面よりも大径の大径円筒面75aとを有する。大径円筒面75aは、駆動ギヤ41のカム部412の大径内径面414と環状空間を介して対向配置される。
【0045】
図5に示すように、駆動ギヤ41のカム部412の大径内径面414には、固定軸75の大径円筒面75aとの間に楔状空間Gを形成するカム面415が設けられている。このため、固定軸75の大径円筒面75aは、本発明でいう円筒面(C)を構成する。カム面415は、周方向に離間した複数箇所(本実施形態では12箇所)に等配されており、本実施形態のカム面415は、駆動ギヤ41の回転中心を通って駆動ギヤ41の径方向に延びる平面と平行な平坦面で構成される。従って、各カム面415で形成される計12個の楔状空間Gは、その周方向中央部から周方向両端部に向けて径方向寸法が漸次縮小した形態を有する(図6および図7を併せて参照)。カム面415の周方向中央部と円筒面Cとの径方向離間距離は、カム部412の大径内径面414と円筒面Cとの間に配置されるローラ73の直径寸法よりも小さく設定される。なお、図5には、12箇所に設けられたカム面415を区別して説明する場合の便宜から、周方向の所定位置から数えて第1番目のカム面415には符号415Aを併せて表示し、第2番目~第12番目のカム面415には、それぞれ、符号415B~415Lを表示している。
【0046】
図5図7に示すように、カム部412の大径内径面414のうち、周方向で隣り合う2つのカム面415の間の領域には、外径側を凸とする円弧状の逃げ面416を設けている。従って、周方向で隣り合う2つのカム面415は、円弧状の逃げ面416を介して接続されている。逃げ面416と円筒面Cとの径方向離間距離は、ローラ73の直径寸法よりも大きく設定されている。
【0047】
図4および図6図7に示すように、カム部412の大径内径面414(大径内径面414のうち軸方向一方側の端部付近)には、さらに、入力保持器71に設けられた係合部71dが嵌め込まれる円弧溝417が設けられており、この円弧溝417は、周方向に離間した複数箇所(本実施形態では4箇所)に等配されている。図6に示すように、円弧溝417の周方向寸法W1は係合部71dの周方向寸法Wよりも大きく設定される(W1>W)。従って、駆動ギヤ41は、入力保持器71に対して僅かに相対回転可能である。
【0048】
可動体72は、駆動ギヤ41の内径面(カム部412の大径内径面414)と円筒面Cとの間に配置されており、周方向に相互に離間して配置された一対のローラ73,73と、両ローラ73間に圧縮状態で配置された弾性部材としての圧縮コイルばね74とを備える。係る構成を有する可動体72は、入力保持器71に設けられた加圧部71e,71eの間に配置されている。従って、図4および図5に示すように、可動体72は、周方向に離間した4箇所に配設され、ローラ73は、周方向に離間した8箇所に配設されている。なお、図5には、計8個設けられたローラ73を区別して説明する便宜上、周方向の所定位置から数えて第1番目のローラ73に符号73Aを、また、第2番目~第8番目のローラ73のそれぞれに符号73B~73Hを併せて表示している。
【0049】
図6に示すように、ローラ73A,73Bおよび圧縮コイルばね74からなる可動体72のうち、ローラ73Aは、圧縮コイルばね74の弾性復元力を受けてカム面415Aで形成される楔状空間Gの幅方向中央部側に付勢されることにより、カム面415Aと係合し、カム面415Aと円筒面Cとで拘束されている。また、ローラ73Bは、圧縮コイルばね74の弾性復元力を受けてカム面415Cで形成される楔状空間Gの幅方向中央部側に付勢されることにより、カム面415Cと係合し、カム面415Cと円筒面Cとで拘束されている。同様に、ローラ73C~73Hは、それぞれ、対応するカム面415と円筒面Cとで拘束されている(図5参照)。係る構成により、カム面415(415A~415L)を有する駆動ギヤ41は、正逆両方向の回転が規制される。従って、図5および図6は、各ローラ73が、対応するカム面415と円筒面Cとで拘束されることによって駆動ギヤ41の回転を規制する規制位置に位置した状態を示している。このように、ローラ73が規制位置に位置した状態では、駆動ギヤ41の回転が規制されることから、従動ギヤ42およびボールねじ30のナット32の回転、さらにはねじ軸31の直線運動も規制される。従って、駆動部2の停止状態でねじ軸31に外力が入力された場合でも、ねじ軸31さらには操作対象は所定位置に保持される。
【0050】
次に、図7に示すように、駆動部2が正方向に回転駆動されると、駆動部2の出力部材(ここでは遊星ギヤキャリア19)と一体回転可能に設けられた入力保持器71が回転(同図中、半時計回りに回転)する。入力保持器71が回転すると、各可動体72を構成する一対のローラ73のうち、入力保持器71の回転方向後方側に位置するローラ73(ここでは、ローラ73B,73D,73F,73H。図5を参照。)には、圧縮コイルばね74の付勢力(弾性復元力)に抗してローラ73を規制位置から離脱させるための加圧力が入力保持器71の加圧部71eから付与される。これにより、カム面415と円筒面Cによるローラ73(73B,73D,73F,73H)の拘束が解除される。このようにして拘束が解除されたローラ73には、入力保持器71の回転に伴う遠心力Fと、加圧部71eとの接触による遠心力分力F’とが作用することから、ローラ73と円筒面Cとの間には、両者を非接触とする微小隙間Dが形成される。
【0051】
また、(カム面415と円筒面Cとによるローラ73の拘束が解除された状態で)入力保持器71が回転すると、入力保持器71に設けられた係合部71dが、駆動ギヤ41の内径面に設けられた円弧溝417と係合することにより、入力保持器71と駆動ギヤ41とが駆動ギヤ41の周方向で係合する。これにより、駆動ギヤ41は入力保持器71と一体的に回転可能となる。このとき、各可動体72を構成する一対のローラ73のうち、入力保持器71の回転方向前方側に位置するローラ73(ここでは、ローラ73A,73C,73E,73G)には、これを規制位置から離脱させるための周方向の加圧力が付与されないが、カム面415を有する駆動ギヤ41は、楔状空間Gの径方向寸法を拡大させる方向に回転するので、上記ローラ73(73A,73C,73E,73G)は、駆動ギヤ41が回転するのに伴ってカム面415および円筒面Cに対して空転する。
【0052】
以上の構成により、駆動部2が回転駆動されると、入力保持器71、可動体72および駆動ギヤ41が一体的に回転する。駆動ギヤ41が回転すると、従動ギヤ42およびボールねじ30のナット32が一体的に回転し、ねじ軸31が直線運動する。
【0053】
なお、図示は省略するが、駆動部2が逆方向に回転駆動されたときには、各可動体72を構成する一対のローラ73のうち、入力保持器71の回転方向後方側に位置するローラ73(この場合、ローラ73A,73C,73E,73G)には、圧縮コイルばね74の付勢力に抗してローラ73を規制位置から離脱させるための加圧力が入力保持器71の加圧部71eから付与される。これにより、カム面415と円筒面Cによるローラ73(73A,73C,73E,73G)の拘束が解除される。そして、上記同様にしてねじ軸31が直線運動する。
【0054】
以上を小括すると、本実施形態のロック機構部7を採用した場合、駆動部2の停止状態においては、圧縮コイルばね74の付勢力(弾性復元力)によってローラ73を駆動ギヤ41の回転を規制する規制位置に位置させることができ、また、回転駆動中の駆動部2が停止すると、圧縮コイルばね74の付勢力によってローラ73を規制位置に即座に移動させることができる。ローラ73が規制位置に位置した状態では、駆動ギヤ41の回転が規制される結果、従動ギヤ42さらにはナット32の回転も規制されるので、ねじ軸31の直線運動が規制される(ロック状態)。その一方、駆動部2が回転駆動されると、駆動部2の出力部材である遊星ギヤキャリア19と一体回転する入力保持器71に設けられた加圧部71eからローラ73に対して付与される周方向の加圧力によってローラ73が規制位置から離脱するので、駆動ギヤ41の回転規制が解除される。また、駆動部2が回転駆動されると、入力保持器71に設けられた係合部71dが駆動ギヤ41の周方向で駆動ギヤ41と係合するので、入力保持器71と駆動ギヤ41とが一体回転する。このように、駆動ギヤ41が回転すると、従動ギヤ42、さらにはナット32が回転するので、ねじ軸31が直線運動する(ロック解除状態)。
【0055】
以上のように、本発明に係る電動アクチュエータ1に設けられるロック機構部7は、駆動部2の駆動又は停止に連動するかたちで駆動ギヤ41、ひいてはナット32が回転又は停止するように構成されており、これを作動させるための専用電源や制御を必要としない。そのため、本発明に係る電動アクチュエータ1は、駆動部2の停止状態でねじ軸31に外力が作用した場合でもねじ軸31が直線運動するのを確実に規制することができ、かつねじ軸31の直線運動を許容するロック状態とねじ軸31の直線運動を規制するロック解除状態との切り替えを電源や制御を必要とせずに即座に実行することができる。従って、本発明に係る電動アクチュエータ1は、操作対象を所望の動作態様で精度良く操作することができる。
【0056】
なお、以上で説明した構成とは逆に、固定軸75の外径面にカム面を設けると共に駆動ギヤ41の内径面に円筒面を設けることで楔状空間Gを形成することも可能であるが、この場合、入力保持器71の回転時には、入力保持器71と共回りする可動体72を構成するローラ73が固定軸75の外径面に設けたカム面と繰り返し摺動接触する。前述したとおり、本実施形態の電動アクチュエータ1においては、駆動ギヤ41のギヤ部411の歯数よりも従動ギヤ42の歯数を多くし、ギヤ機構部4内にも減速機構を設けている関係上、ロック機構部7は、駆動力伝達経路のうち最終減速前の部分に設けられる。従って、入力保持器71の回転数(最大回転数)が比較的高く、ローラ73が固定軸75の外径面に設けたカム面と繰り返し摺動接触すると、ローラ73が摩耗し易くなる。
【0057】
これに対し、以上で説明したロック機構部7では、固定軸75の外径面に設けた円筒面Cと駆動ギヤ41の内径面に設けたカム面415とで楔状空間Gを形成し、入力保持器71の回転時にはローラ73(厳密には、可動体72を構成する一対のローラ73,73のうち入力保持器71の回転方向後方側に位置するローラ73)を固定軸75とは非接触の状態で入力保持器71および駆動ギヤ41と共回りするようにしたことから、ローラ73の異常摩耗、ひいてはロック機構部7の機能低下を防止する上で有利となる。
【0058】
以上、本発明の一実施形態に係る電動アクチュエータ1について説明したが、電動アクチュエータ1には、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜の変更を施すことができる。
【0059】
例えば、以上で説明した実施形態では、ロック機構部7に8個のローラ73(4個の可動体72)を設けたが、ローラ73の設置個数は、偶数個である限りにおいて任意に設定することができる。従って、ローラ73の設置個数は、2個、4個、6個又は10個等としても良い。
【0060】
また、以上で説明した実施形態では、歯車部411とカム部412とが一体的に設けられた駆動ギヤ41を採用したが、駆動ギヤ41は、図8に示すように、個別に作製した歯車部411とカム部412とを適宜の手段で固定したもの(歯車部411とカム部412とが別体に設けられたもの)としても良い。このようにすれば、複雑形状の駆動ギヤ41を容易にかつ精度良く作製することができる。
【0061】
また、以上で説明した実施形態では、運動変換機構部3をボールねじ30で構成したが、運動変換機構部3は、ボール33およびこま34が省略され、実質的にねじ軸31およびその外周に回転可能に嵌合されたナット32のみで構成された、いわゆるすべりねじで構成することも可能である。また、以上で説明した実施形態では、モータ部8と減速機構部9とを備えた駆動部2を採用したが、駆動部2としては、減速機構部9が省略され、モータ部8のみで構成されたものを採用することも可能である。この場合には、例えば、電動モータ10の回転軸10aに対し、入力部材としての入力保持器71を一体回転可能に連結すれば良い。
【0062】
また、以上で説明した実施形態では、駆動ギヤ41のギヤ部411よりも従動ギヤ42の方が歯数を多くすることにより、ギヤ機構部4内に減速機構を設けたが、ギヤ機構部4内に減速機構を設けるか否かは任意であり、ギヤ機構部4内の減速機構は省略しても構わない。すなわち、駆動ギヤ41のギヤ部411および従動ギヤ42の歯数は同数とすることも可能である。
【0063】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0064】
1 電動アクチュエータ
2 駆動部
3 運動変換機構部
4 ギヤ機構部
7 ロック機構部
10 電動モータ
31 ねじ軸
32 ナット
41 駆動ギヤ
42 従動ギヤ
411 ギヤ部
412 カム部
415 カム面
71 入力保持器(入力部材)
71d 係合部
71e 加圧部
72 可動体
73 ローラ
74 圧縮コイルばね(弾性部材)
75 固定軸(静止部材)
75a 大径円筒面(円筒面)
C 円筒面
G 楔状空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8