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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】抗ウイルス・殺菌消毒剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/20 20060101AFI20230127BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20230127BHJP
   A01N 25/26 20060101ALI20230127BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230127BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
A01N59/20 Z
A01N25/04 102
A01N25/26
A01P1/00
A01P3/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018200899
(22)【出願日】2018-10-25
(65)【公開番号】P2019077681
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2017206541
(32)【優先日】2017-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】福世 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】長尾 朋和
(72)【発明者】
【氏名】中山 鶴雄
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-117187(JP,A)
【文献】特開2014-118358(JP,A)
【文献】特表2014-519504(JP,A)
【文献】特開2017-178942(JP,A)
【文献】特開2010-239897(JP,A)
【文献】特開2013-209338(JP,A)
【文献】国際公開第2011/040035(WO,A1)
【文献】特開2011-153163(JP,A)
【文献】特開2014-128773(JP,A)
【文献】特表2016-505284(JP,A)
【文献】特開2002-80303(JP,A)
【文献】国際公開第2010/073738(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆層で覆われる一価の銅化合物粒子と、
前記一価の銅化合物粒子が分散する、水および/または低級アルコールと水を含有するアルコール水溶液からなる分散媒と、を含み、
前記被覆層は、pH7の水溶液中で正のゼータ電位を有する無機酸化物と、水溶性高分子、界面活性剤、乳化剤、脂質、金属石鹸、又はポリエステルである有機化合物を含んでいることを特徴とする抗ウイルス・殺菌消毒剤。
【請求項2】
被覆層で覆われる一価の銅化合物粒子と、
前記一価の銅化合物粒子が分散する、水および/または低級アルコールからなる分散媒と、を含み、
前記被覆層は、pH7の水溶液中で正のゼータ電位を有する無機酸化物と、水溶性高分子、界面活性剤、乳化剤、脂質、金属石鹸、又はポリエステルである有機化合物を含み、
前記被覆層は、前記一価の銅化合物粒子の表面上に配置される第1の層と、前記第1の層の表面上に配置される第2の層と、を有し、
前記第1の層は、前記無機酸化物と前記有機化合物のいずれか一方を含み、
前記第2の層は、前記無機酸化物と前記有機化合物のいずれか他方を含むことを特徴とする抗ウイルス・殺菌消毒剤。
【請求項3】
前記第1の層は、前記無機酸化物を含み、
前記第2の層は、前記有機化合物を含むことを特徴とする請求項2に記載の抗ウイルス・殺菌消毒剤。
【請求項4】
一価の銅化合物粒子の表面に、pH7の水溶液中で正のゼータ電位を有する無機酸化物を付着する工程と、
前記無機酸化物が付着した前記一価の銅化合物粒子と、水溶性高分子、界面活性剤、乳化剤、脂質、金属石鹸、又はポリエステルである有機化合物と、水および/または低級アルコールからなる分散媒とを混合して、前記無機酸化物が付着した前記一価の銅化合物粒子の表面に前記有機化合物を付着する工程と、を含むことを特徴とする、抗ウイルス・殺菌消毒剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性及び殺菌性を有する消毒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内においては、1996年のO157による食中毒事件をきっかけに、消毒剤やハンドソープなどの開発がさかんとなり、手軽に使用できるという理由で、アルコール系の消毒剤(殺菌剤)が多く普及している。また、近年では、菌による感染症だけではなく、新型インフルエンザウイルスやノロウイルスなどのウイルスによる感染症も増加しているが、従来のアルコール系消毒剤は、ノロウイルスなどの非エンベロープウイルスに対して不活化効果がないため、ウイルスや細菌などを不活化できる消毒剤が求められている。
【0003】
このような要望に対し、無機微粒子を用いたウイルス不活化剤(特許文献1)などが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-239897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の抗ウイルス剤は、ウイルスを不活化できるものの、長期間保管されていたり長期間使用されていたりすると、無機微粒子が酸化され、ウイルスを不活化しにくくなるという課題があった。また、特許文献1では、抗ウイルス剤のウイルスに対する効果が示されているだけであり、細菌に対する効果については着目されていない。
【0006】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、優れた抗ウイルス性及び殺菌性を有するとともに、それらの性能を持続できる抗ウイルス・殺菌消毒剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち第1の発明は、被覆層で覆われる一価の銅化合物粒子と、前記一価の銅化合物粒子が分散する、水および/または低級アルコールからなる分散媒と、を含み、前記被覆層は、無機酸化物と有機化合物を含むことを特徴とする抗ウイルス・殺菌消毒剤である。
【0008】
また第2の発明は、第1の発明において、前記被覆層が、前記一価の銅化合物粒子の表面上に配置される第1の層と、前記第1の層の表面上に配置される第2の層と、を有し、前記第1の層が、前記無機酸化物と前記有機化合物のいずれか一方を含み、前記第2の層が、前記無機酸化物と前記有機化合物のいずれか他方を含むことを特徴とする抗ウイルス・殺菌消毒剤である。
【0009】
さらに第3の発明は、第2の発明において、前記第1の層が、前記無機酸化物を含み、前記第2の層が、前記有機化合物を含むことを特徴とする抗ウイルス・殺菌消毒剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた抗ウイルス性及び殺菌性を有するとともに、それらの性能を持続できる抗ウイルス・殺菌消毒剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】被覆層で被覆された一価の銅化合物粒子を示す概略図である。
図1B】被覆層で被覆された一価の銅化合物粒子を示す概略図である。
図1C】被覆層で被覆された一価の銅化合物粒子を示す概略図である。
図1D】被覆層で被覆された一価の銅化合物粒子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお本明細において「抗ウイルス」とは「ウイルスの感染力の低下及び/又はウイルスの不活化」を意味するものである。また、「殺菌」とは「細菌の死滅及び/又は不活化」を意味するものである。
【0013】
本実施形態の抗ウイルス・殺菌消毒剤(以下、単に「消毒剤」ともいう)は、抗ウイルス性及び殺菌性を有する消毒剤であり、被覆層で覆われた一価の銅化合物粒子と、一価の銅化合物粒子が分散する分散媒を含む。
【0014】
本実施形態の消毒剤に用いられる一価の銅化合物粒子は、一価の銅化合物から構成される。一価の銅化合物粒子は、エンベロープの有無に関わらず、ウイルスの感染力を低下及び/又はウイルスを不活化することが可能であり、タンパク質や脂質の存在下でもこれらの作用効果を示すことが可能である。一価の銅化合物粒子のウイルス不活化機構は現在のところ必ずしも明確ではないが、一価の銅化合物粒子が水分と接触すると、その一部がイオン化し一価の銅イオンを放出し、この一価の銅イオンがウイルスと接触またはウイルス表面に吸着して電子を放出するものと思われる。その結果、この放出された電子が活性種を形成し、形成した活性種の酸化作用によりダメージを与え、ウイルスの感染力を低下させたり、ウイルスを不活化させたりするものと思われる。
【0015】
一価の銅化合物粒子を構成する具体的な一価の銅化合物としては、塩化物、酢酸物(酢酸化合物)、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、チオシアン化物またはそれらの混合物であることが好ましい。このうち、一価の銅化合物が、CuCl、CuCHCOO、CuI、CuBr、CuO、CuS、およびCuSCNからなる群から少なくとも1種類選択されることが、抗ウイルス性及び殺菌性を向上させる観点から一層好適である。
【0016】
一価の銅化合物粒子の含有量は、特に限定されないが、例えば、本実施形態の消毒剤100質量%に対し、0.001質量%以上、10質量%以下とすることが好ましい。一価の銅化合物粒子の含有量が10質量%以上であることにより分散安定性が不十分となりやすく、一価の銅化合物粒子の含有量が0.001質量%以下であることにより殺菌性・抗ウイルス性効果が向上しにくい。
【0017】
本実施形態の消毒剤に含有される一価の銅化合物粒子の大きさは特に限定されないが、平均粒子径が1nm以上、200μm以下であることが好ましい。後述するように、エアゾール剤などに使用する際は、ノズルからの良好な放出性を確保するため10nm以上、100μm以下であることが特に好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径とは、レーザー回折法などで測定された体積基準の粒度分布において、累積体積が50%になる体積平均粒子径(D50)のことをいう。
【0018】
さらに本実施形態の消毒剤に用いられる一価の銅化合物粒子は、グラム陽性、陰性にかかわらず細菌を死滅及び/又は不活化可能である。また、タンパク質や脂質の存在下にあっても殺菌することができる。殺菌性のメカニズムについては、一価の銅化合物粒子が水分と接触することで放出する一価の銅イオンが、タンパク質や核酸などへ結合したり、一価の銅イオンを放出する際に発生する活性酸素による酸化作用により、細胞膜やタンパク質の酸化障害が起きることが原因と考えられる。
【0019】
また、本実施形態に係る一価の銅化合物粒子は、無機酸化物と有機化合物を含む被覆層で覆われている。被覆層には、後述する分散媒が含有されるため、銅イオンは、被覆層を拡散する。そして、被覆層に拡散した銅イオンは、被覆層外部の分散媒中に放出される。このため、本実施形態の消毒剤は、一価の銅化合物が被覆層に覆われていても抗菌性や抗ウイルス性を発揮することができる。なお、被覆層は、一価の銅化合物粒子の表面全体覆っていてもよく、一価の銅化合物粒子の表面の少なくとも一部分のみを覆っていてもよい。
【0020】
一価の銅化合物粒子が、無機酸化物とともに有機化合物が含まれる被覆層に覆われていることにより、消毒剤を長期間保管していたり、長期間使用していたりしていたとしても、一価の銅化合物が酸化されにくく、一価の銅化合物粒子の抗ウイルス性及び殺菌性を持続することができる。被覆層に有機化合物が含有されていない場合、消毒剤を長期間保管していたり、長期間使用していたりすることにより、一価の銅化合物が酸化されて二価の銅化合物となり、抗ウイルス性や殺菌性が低下する。なお、一価の銅化合物粒子が被覆層で覆われていることは、一価銅化合物が二価銅に酸化されにくくなることから、被覆層を有する一価銅化合物の酸化還元電位を測定することにより、評価することが可能である。
【0021】
被覆層で覆われる一価の銅化合物粒子は、酸化電位が450mVvs.Ag/AgCl以上であることが好ましい。酸化電位が450mVvs.Ag/AgCl以上であると、酸化電位が450mVvs.Ag/AgCl未満である場合と比較して、抗ウイルス性及び殺菌性をより持続することができる。酸化電位が450mVvs.Ag/AgCl未満であると、保管中や使用中に一価の銅化合物粒子の酸化を抑制しにくくなり、抗ウイルス性や殺菌性を持続しにくくなる。被覆層で覆われる一価の銅化合物粒子の酸化電位は、例えば、被覆層を構成する有機化合物や無機酸化物の種類や含有量を変更することにより調整することができる。被覆層で覆われる一価の銅化合物粒子の酸化電位の測定方法としては、例えば、参照電極として銀-塩化銀電極を、作用電極としてカーボンやダイヤモンド電極を、対極として白金電極を用い、これらの作用電極に測定したいサンプルを固定し、全ての電極を硝酸ナトリウムのような電解質溶液中に挿入し、ポテンショスタットを用いて電位を掃引するサイクリックボルタンメトリーにより測定することができる。なお、作用電極へのサンプルの固定方法としては、例えば、本実施形態の消毒剤を、作用電極に滴下し、乾燥することなどにより分散媒を除去する方法を挙げることができる。なお、本願における酸化電位とは、一価の銅化合物粒子そのものの酸化電位ではなく、被覆層により被覆された一価の銅化合物粒子の酸化電位を指す。
【0022】
また、被覆層を構成する無機酸化物は、一価の銅化合物粒子から放出される一価の銅イオンと、細菌やウイルスとの接触性を高めることができ、一価の銅化合物粒子の抗ウイルス性及び殺菌性をさらに向上することができる。無機酸化物(例えば、ジルコニア、酸化アルミニウム、酸化チタンなど)は、一般的に、pH7の水溶液中で正のゼータ電位を有しており、また、細菌やウイルスは一般に負のゼータ電位を持つことから、本実施形態に係る消毒剤中では、細菌やウイルスが無機酸化物に引き付けられる。無機酸化物が含まれる被覆層は、一価の銅化合物を覆っているため、無機酸化物に引き付けられる細菌やウイルスは、一価の銅化合物粒子に接近し、一価の銅化合物粒子から放出される一価の銅イオンとの接触しやすくなる。よって、抗ウイルス性及び殺菌性がさらに向上する。なお、被覆層を構成する無機酸化物は、一価の銅化合物粒子の酸化による抗ウイルス性や殺菌性の低下を防ぐこともできる。
【0023】
具体的な無機酸化物の一例を挙げると、非金属酸化物としては、酸化珪素が挙げられる。また、金属酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化バリウム、過酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、過酸化チタン、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化鉄、水酸化鉄、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化インジウム、ギブサイト、ベーマイト、ダイスポア、酸化アンチモン、酸化コバルト、酸化ニオブ、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化プラセオジムなどが挙げられる。また、金属複合酸化物としては、酸化チタンバリウム、酸化コバルトアルミニウム、酸化ジルコニウム鉛、酸化ニオブ鉛、TiO-WO、AlO-SiO、WO-ZrO、WO-SnOCeO-ZrO、In-Sn、Sb-Sn、Sb-Zn、In-Sn-Zn、B-SiO、P-SiO、TiO-SiO、ZrO-SiO、Al-TiO、Al-ZrO、Al-CaO、Al-B、Al-P、Al-CeO、Al-Fe、TiO-ZrO、TiO-ZrO-SiO、TiO-ZrO-Al、TiO-Al-SiO、TiO-CeO-SiOなどが挙げられる。
【0024】
被覆層に含有される無機酸化物は、無定形であっても粒子の形態で含有されてあってもよい。無定形の無機酸化物は分散媒の水分を含むことでゲル状になるため、一価銅イオンが被覆層に拡散して溶媒中に溶出することができる。また、無機酸化物が粒子の形態で含有されている場合は、一価の銅化合物から放出される一価の銅イオンが粒子の間に存在する分散媒を通ることで被覆層に拡散しやすくなるため、抗ウイルス性及び殺菌性がさらに向上しやすくなる。さらに、被覆層には、無定形無機酸化物と粒状の無機酸化物とが複合されて含有されていてもよい。無機酸化物が粒子の形態の場合は一価銅化合物粒子を被覆できる大きさであればよく、好ましくは一価銅化合物粒子径の1/5以下であればよい。なお本願で言う無定形とは粒子のような特定の形状を有していないもののことを言う。無機酸化物の含有量は、例えば、本実施形態の抗ウイルス・殺菌消毒剤100質量%に対し、0.001質量%以上、10質量%以下とすることが好ましい。無機酸化物の含有量が10質量%以上であることにより分散安定性が不十分となりやすく、無機酸化物の含有量が0.001質量%以下であることにより殺菌性・抗ウイルス性に係る効果が向上しにくい。
【0025】
被覆層における無機酸化物と有機化合物の配置は、特に限定されない。例えば、図1Aに示すように、無機酸化物20aと有機化合物20bが被覆層20に偏在することなく含有された形態であってもよい。また、図1B図1Cに示すように、一価の銅化合物粒子10の表面上に配置される第1の層21と、第1の層21の表面上に配置される第2の層22とにより被覆層20を構成し、無機酸化物20aと有機化合物20bのいずれか一方が第1の層21に含有され、無機酸化物20aと有機化合物20bのいずれか他方が第2の層22に含有された形態であってもよい。図1A図1Cに示す被覆層20において、無機酸化物20aの間や、有機化合物20bの間や、無機酸化物20aと有機化合物20bとの間には、分散媒が存在している。一価の銅化合物粒子10から放出される一価の銅イオンは、この分散媒を介して被覆層20に拡散するため、被覆層20の外部に溶出することができる。
【0026】
好ましい被覆層20は、図1Cに示すように、第1の層21に無機酸化物20aが含有され、第2の層22に有機化合物20bが含有された形態である。一価の銅化合物粒子10の表面上に配置される第1の層21が無機酸化物20aを含み、第1の層21の表面上に配置される第2の層22が有機化合物20bを含むことで、ウイルスや細菌を一価の銅化合物粒子10のより近くまでひきつけることができ、抗菌性及び抗ウイルス性がより向上しやすい。
【0027】
図1A図1Cでは、粒子の形態の無機酸化物20aを記載しているが、無機酸化物20aは、上述したように無定形であってもよい。図1Dは、無定形の無機酸化物20aを含有する第1の層21と、有機化合物20bを含有する第2の層22を有する一価の銅化合物粒子10を示す図である。第1の層21では、無定形の無機酸化物20aが分散媒の水分を含んでゲル状になり一価の銅化合物粒子10を覆っている。第1の層21の形状は、一定に定まるものではなく、外力が加わることで変形する。また、第1の層21の表面には、有機化合物20bを含有する第2の層22が形成されている。一価の銅化合物粒子10から放出される一価の銅イオンは、ゲル中(無定形の無機酸化物20a中)の水分を介して第1の層21に拡散するとともに、有機化合物20b間に存在する溶媒を介して第2の層22に拡散するため、被覆層20の外部に溶出することができる。なお、図1A図1Dでは、被覆層20の表面を破線で表し、図1B図1Dでは、第1の層21と第2の層22の境界についても破線で表している。
【0028】
一価の銅化合物粒子10の表面上に無機酸化物20aを含む第1の層21を形成する方法としては、一価の銅化合物をジェットミル、ハンマーミル、ボールミル、振動ミル、ビーズミルなどにより粉砕して粒子の形態にする際に無機酸化物20a(無機酸化物粒子)を添加する方法が挙げられる。一価の銅化合物の粉砕工程で無機酸化物20aが添加されることにより、添加された無機酸化物20aの一部が一価の銅化合物粒子10に付着して第1の層21を形成する。また、粉砕工程で付着しなかった無機酸化物を、一価の銅化合物粒子10とともに分散媒に混合した場合には、粉砕工程で付着しなかった無機酸化物20aが、静電気的引力により、一価の銅化合物粒子10に付着して第1の層21を形成する。なお、一価の銅化合物を粉砕する過程で添加される無機粒子20aは、一価の銅化合物を粉砕する工程や、消毒剤を製造する際の混合工程において、一価の銅化合物粒子10と接触して一価の銅化合物粒子10を砕き、より粒径の小さい一価の銅化合物粒子10を生じさせることができる。その結果、一価の銅化合物粒子10の表面積が大きくなり、一価の銅イオンが放出されやすくなったりして、細菌やウイルスに対するより高い不活化効果を得ることができる。
【0029】
また別の例として、これらの無機酸化物20aを溶解した水溶液に一価の銅化合物粒子10を分散することで化学的に吸着させて第1の層21を形成したり、或いは、無機酸化物20aを分散した溶媒(例えば、メタノール)に一価の銅化合物粒子10を分散することで無機酸化物20aを一価の銅化合物粒10子表面に沈着させたりして第1の層21を形成する方法が挙げられる。
【0030】
さらに別の例として、メカノケミカル法が挙げられる。この方法は、コアとなる母粒子(一価の銅化合物粒子10)と母粒子を被覆する子粒子(無機酸化物粒子)を転動式ボールミル、高速回転粉砕機、高速気流衝撃法粉砕機、媒体攪拌型ミル、機械的融合装置により強い圧力を加えることで、母粒子に子粒子の一部分を埋没させて子粒子を固定する方法である。この方法を用いる場合、母粒子となる一価の銅化合物は事前に上述の方法で所望の粒径に粉砕しておくことが好ましい。このような粒子を作成可能な装置としては、回転翼式では株式会社カワタのスーパーミキサー、震蕩式では浅田鉄工株式会社のペイントシェーカー、株式会社奈良機械製作所製のハイブリダイゼーションシステム(登録商標)やホソカワミクロン株式会社のメカノフュージョン(登録商標)、媒体流動乾燥機などが例示されるが、特にこれらの装置には限定されない。また、自動乳鉢、高速回転粉砕機、高速気流衝撃法粉砕機、転動式ボールミルなどのように、粉砕も子粒子の被覆もできる装置を用いる場合は、事前に母粒子となる一価の銅化合物を粉砕する必要はない。
【0031】
上記のように一価の銅化合物粒子10の表面上に無機酸化物20aを被覆して第1の層21を形成させたのち、有機化合物20bで被覆して第2の層22を形成する。
【0032】
有機化合物20bを含む第2の層22を、第1の層21で被覆した一価の銅化合物粒子の表面上に形成する手段は、特に限定されないが、例えば、第1の層21を被覆させた一価の銅化合物粒子10の表面電荷や、吸着・化学反応を利用して付着させる手段を挙げることができる。具体的な方法としては、例えば、第1の層21を被覆させた一価の銅化合物粒子10と第2の層22となる有機化合物20bを、後述する分散媒に混合する方法を挙げられる。
【0033】
なお、上述した方法を選択して用いれば、一価の銅化合物粒子10の表面上に有機化合物20bを含む第1の層21を形成し、第1の層21の表面上に無機酸化物20aを含む第2の層22を形成することができる。また、一価の銅化合物粒子10を含む分散媒に無機酸化物20aと有機化合物20bを混合し、静電気的引力や、表面電荷や、吸着・化学反応を利用することで、無機酸化物20aと有機化合物20bがバラつきなく分散した被覆層20を一価の銅化合物粒子10の表面上に形成することができる。
【0034】
また有機化合物20bが入ることで、消毒したい対象物に本実施形態の抗ウイルス・殺菌消毒剤を噴霧(塗布)した際、アルコールや水などの溶媒が乾燥によりなくなった後も、有機化合物20bが膜を形成するため、一価の銅化合物粒子10を対象物表面に留めておくことができ、抗ウイルス殺菌効果が持続するという効果を持つ。また、本実施形態の抗ウイルス・殺菌消毒剤が噴霧(塗布)された対象物が、ドアノブや手すりなど、人の手で擦れるような場所であっても、一価の銅化合物粒子10が、有機化合物20bにより形成される膜とともに、対象物上に維持されやすくなるため、抗ウイルス殺菌効果が持続しやすい。有機化合物20bにより形成される膜の強度を考慮すると、有機化合物20bの含有量は、本実施形態の抗ウイルス・殺菌消毒剤100質量%に対し、0.1~5.0質量%が好ましい。0.1質量%未満であると膜強度が低くなるため一価の銅化合物粒子10を対象物表面に留めにくくなり、5.0質量%を超えると、噴霧後、対象物表面がべたつきやすくなる。
【0035】
被覆層20を構成する有機化合物20bとしては、一価の銅化合物粒子10を構成する一価の銅化合物の種類により適宜、選択することができるが、特に、一価の銅化合物粒子10の酸化を抑制しやすい好ましい有機化合物20bとしては、一例として、ベンゾトリアゾール(BTA)、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、トリトリアゾール(TTA)、2・5-ジメルカプトチアジアゾール(DMTDA)、ベンゾイミダゾール(BIA)、ベンゾイミダゾールチオール(BIT)、ベンゾオキサゾールチオール(BOT)、メチルベンゾチアゾール、メチルベンゾトリアゾール、インドール、インダゾール、メルカプトチアゾリン、ジチオカルバミン酸およびその誘導体、チオウラシル、チオバルビツール酸(TBA)、イミダゾリン、ピロ-ル、ピリミジン、トリアジン、アデニン、チアゾ-ル、チオウラシル、ロダニン、チアゾリジンチオン、ピラゾールなどのインヒビターや、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性高分子、界面活性剤、乳化剤、脂質、油脂などを用いたエマルション、ポリエステルなどが挙げられる。これらの有機化合物20bのうち、生体に対する安全性が高く、手指衛生用としても使用しやすい、という理由から、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などの水溶性高分子が特に好適である。
【0036】
また、溶媒が水の場合では、アクリルエマルション、酢ビエマルション、スチレンエマルションなどを適宜、選択してバインダー用エマルションとして用いることで、抗ウイルス・抗菌性の持続性をさらに高めた耐久性に優れた被覆層20が得られる。
【0037】
また他の例として、金属石鹸が挙げられる。金属石鹸の具体例としては、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、オクチル酸、ラウリン酸等の脂肪酸と、リチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛等の金属との塩を挙げることができる。
【0038】
なお、被覆層20は、上述した無機酸化物20aと有機化合物20bのみにより構成されていてもよいが、これらとは異なる他の成分が含有されていてもよい。
【0039】
本実施形態の消毒剤は、様々な態様で用いることができるが、その態様については限定されない。本実施形態の消毒剤は、例えば液剤としたり、噴射剤(例えば、ジメチルエーテル(DME))と混合してエアゾール剤としたりすることができる。また、本実施形態の消毒剤の使用方法は、特に限定されるものではないが、例えば、被処理物に消毒剤を塗布したり吹付けたりして使用することができる。
【0040】
本実施形態の消毒剤は、水および/または低級アルコールからなる分散媒を含む。低級アルコールは、炭素数が5以下のアルコールであり、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコールとすることができる。また、これらの分散媒は2種以上混合するようにしてもよい。なお、本実施形態の消毒剤に含まれる分散媒の含有量は、用途や被処理物の種類等に応じて変更可能であるが、細菌に対する即効性を出すためには、消毒剤100質量%に対して、70質量%以上の低級アルコールが含有されていることが好ましい。
【0041】
なお、本実施形態の消毒剤は、被覆層で被覆された一価の銅化合物粒子と分散媒のみにより構成されていてもよいが、これらとは異なる他の成分が含有されていてもよい。
【0042】
本実施形態の消毒剤によれば、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等にかかわることなく、様々なウイルスの感染力を低下したり、様々なウイルスを不活化したりすることができる。このウイルスとしては、例えば、ライノウイルス・ポリオウイルス・口蹄疫ウイルス・ロタウイルス・ノロウイルス・エンテロウイルス・ヘパトウイルス・アストロウイルス・サポウイルス・E型肝炎ウイルス・A型、B型、C型インフルエンザウイルス・パラインフルエンザウイルス・ムンプスウイルス(おたふくかぜ)・麻疹ウイルス・ヒトメタニューモウイルス・RSウイルス・ニパウイルス・ヘンドラウイルス・黄熱ウイルス・デングウイルス・日本脳炎ウイルス・ウエストナイルウイルス・B型、C型肝炎ウイルス・東部および西部馬脳炎ウイルス・オニョンニョンウイルス・風疹ウイルス・ラッサウイルス・フニンウイルス・マチュポウイルウス・グアナリトウイルス・サビアウイルス・クリミアコンゴ出血熱ウイルス・スナバエ熱・ハンタウイルス・シンノンブレウイルス・狂犬病ウイルス・エボラウイルス・マーブルグウイルス・コウモリリッサウイルス・ヒトT細胞白血病ウイルス・ヒト免疫不全ウイルス・ヒトコロナウイルス・SARSコロナウイルス・ヒトポルボウイルス・ポリオーマウイルス・ヒトパピローマウイルス・アデノウイルス・ヘルペスウイルス・水痘・帯状発疹ウイルス・EBウイルス・サイトメガロウイルス・天然痘ウイルス・サル痘ウイルス・牛痘ウイルス・モラシポックスウイルス・パラポックスウイルス・ジカウイルスなどを挙げることができる。
【0043】
また、本実施形態の消毒剤によれば、死滅及び/又は不活化できる細菌についても特に限定されず、グラム陽性・陰性、好気性・嫌気性などの性質にかかわらず様々な細菌等を殺菌することができる。具体的な細菌としては、例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、百日咳菌、腸炎菌、肺炎桿菌、緑膿菌、ビブリオ、サルモネラ菌、コレラ菌、赤痢菌、炭疽菌、結核菌、ボツリヌス菌、破傷風菌、レンサ球菌などを挙げることができる。
【0044】
ここで、一価の銅化合物粒子としてヨウ化銅(I)粒子を挙げ、これを含む本実施形態の抗ウイルス・殺菌消毒剤の製造について、具体的に説明する。ヨウ化銅(I)は、ジェットミル、ハンマーミル、ボールミル、振動ミルなどにより粉砕して粒子の形態にする。次に、粉砕により得たヨウ化銅(I)粒子の表面上に上述の方法で無機酸化物を被覆させる。なお、ヨウ化銅(I)を粉砕する過程でヨウ化銅(I)粒子の表面に無機酸化物を被覆してもよい。その後、無機酸化物を被覆させたヨウ化銅(I)と、分散媒とを混合してプレ混合する。その後、ビーズミルやボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、ホモジナイザーなどの装置を用いて解砕(分散)する。これにより、少なくともヨウ化銅(I)粒子と無機酸化物と分散媒を含むスラリーを作製する。このスラリーを、有機化合物を添加した分散媒で希釈することで本実施形態の殺菌・抗ウイルス性を有する消毒剤とすることができる。この製造方法で得られる消毒剤は、ヨウ化銅(I)粒子の表面上に配置される第1の層が無機酸化物から構成され、第1の層の表面上に配置される第2の層が有機化合物から構成される。
【0045】
以上のような方法にて調製された本実施形態の消毒剤は、抗ウイルス性及び殺菌性を示す一価の銅化合物粒子を含み、その一価の銅化合物粒子が無機酸化物と有化合物から構成される被覆層により覆われている。被覆層を構成する無機酸化物は、ウイルスや細菌を引き付けるため、一価の銅化合物粒子から放出される一価の銅イオンが、ウイルスや細菌と接触しやすくなる。従って、本実施形態の消毒剤は、優れた抗ウイルス性及び殺菌性を発揮することができる。また、有機化合物は、無機酸化物とともに被覆層に含有されることで、一価の銅化合物粒子の酸化を抑制するため、消毒剤を長期間保管したり使用したりしても一価の銅化合物粒子が酸化されにくく、二価の銅化合物粒子になりにくい。このため、優れた殺菌性及び抗ウイルス性を持続することができる。
【実施例
【0046】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
市販のヨウ化銅(I)粉末を、エタノールに加え、さらに、第1の層の無機酸化物として酸化ジルコニウムを加え、ホモジナイザーで5分間プレ分散後、ビーズミルにて解砕・分散し、平均粒子径146nmのスラリーを得た。続いてこのスラリーを、第2の層の有機化合物として超分岐ポリエステル(BYK製;DISPER BYK-2152)を添加した水及びエタノールで希釈し、全溶液中のヨウ化銅(I)濃度が0.12質量%、酸化ジルコニウム濃度が2.3質量%、超分岐ポリエステル濃度が1質量%、エタノール濃度が70質量%となるよう調製した実施例1の消毒剤を得た。得られた消毒剤におけるヨウ化銅(I)粒子は、ヨウ化銅(I)粒子の表面上に配置される第1の層と第1の層の表面上に配置される第2の層とから構成される被覆層を有し、第1の層が酸化ジルコニウムから構成され、第2の層が超分岐ポリエステルから構成されていた。また、被覆層で覆われたヨウ化銅粒子の酸化電位を、上述した酸化電位の測定方法に基づいて測定したところ、485.62 mVvs.Ag/AgClであった。
【0048】
(実施例2)
市販のヨウ化銅(I)粉末を、エタノールに加え、さらに、第1の層の無機酸化物として酸化ジルコニウムを加え、ホモジナイザーで5分間プレ分散後、ビーズミルにて解砕・分散し、平均粒子径94.6nmのスラリーを得た。続いてこのスラリーを、第2の層の有機化合物としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を添加した水及びエタノールで希釈し、全溶液中のヨウ化銅(I)濃度が0.12質量%、酸化ジルコニウム濃度が2.3質量%、HPC濃度が1質量%、エタノール濃度が70質量%となるよう調製した実施例2の消毒剤を得た。得られた消毒剤における、ヨウ化銅(I)粒子を覆う被覆層は、酸化ジルコニウムから構成される第1の層と、HPCから構成される第2の層とにより構成されていた。被覆層で覆われたヨウ化銅粒子の酸化電位を、上述した酸化電位の測定方法に基づいて測定したところ、482.65 mVvs.Ag/AgClであった。
【0049】
(実施例3)
実施例1の溶媒を水のみにし、全溶液中のヨウ化銅(I)濃度が0.12質量%、酸化ジルコニウム濃度が2.3質量%、超分岐ポリエステル濃度が1質量%となるように調製した以外は全て実施例1と同じ方法で、実施例3の消毒剤を得た。得られた消毒剤における、ヨウ化銅(I)粒子を覆う被覆層は、酸化ジルコニウムから構成される第1の層と、超分岐ポリエステルから構成される第2の層とにより構成されていた。
【0050】
(実施例4)
実施例1の全溶液中のヨウ化銅(I)濃度が0.12質量%、酸化ジルコニウム濃度が2.3質量%、超分岐ポリエステル濃度が1質量%、エタノール濃度が10質量%となるよう調製した以外は全て実施例1と同じ方法で、実施例4の消毒剤を得た。得られた消毒剤における、ヨウ化銅(I)粒子を覆う被覆層は、酸化ジルコニウムから構成される第1の層と、超分岐ポリエステルから構成される第2の層とにより構成されていた。
【0051】
(比較例1)
実施例2のHPCを添加せず、全溶液中の被覆ヨウ化銅(I)濃度が0.12質量%、酸化ジルコニウム濃度が2.3質量%、エタノール濃度が70質量%となるように調整した以外は全て実施例2と同じ方法で、比較例1の消毒剤を得た。得られた消毒剤における、ヨウ化銅(I)粒子を覆う被覆層は、酸化ジルコニウムのみにより構成されていた。被覆層で覆われたヨウ化銅(I)粒子の酸化電位を、上述した酸化電位の測定方法に基づいて測定したところ、363.82 mVvs.Ag/AgClであった。
【0052】
(比較例2)
実施例1の酸化ジルコニウムを添加せず、全溶液中のヨウ化銅(I)濃度が0.12質量%、超分岐ポリエステル濃度が1質量%、エタノール濃度が70質量%となるよう調製した以外は実施例1と同じ方法で、比較例2の消毒剤を得た。得られた消毒剤における、ヨウ化銅(I)粒子を覆う被覆層は、超分岐ポリエステルのみにより構成されていた。被覆層で覆われたヨウ化銅(I)粒子の酸化電位を、上述した酸化電位の測定方法に基づいて測定したところ、373.66 mVvs.Ag/AgClであった。
【0053】
(抗ウイルス性評価)
ネコカリシウイルスの懸濁液60μLに、製造直後の実施例1~4、比較例1、2に係る各サンプル1940μLを加え、攪拌した後、室温下で1分間作用させた。その後、反応液を100μL分取し、900μLのSCDLP培地に加え、Vortexミキサーを用いて攪拌することにより反応を中和した。その後、各反応サンプルが10-2~10-5になるまでMEM希釈液にて希釈を行った(10倍段階希釈)。シャーレに培養したCRFK細胞にサンプル液100μLを接種した。90分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU:plaque-forming units)を算出した。ここで、各実施例、各比較例について、ウイルスの感染価を算出した。その結果を表1に示す。
【0054】
(殺菌性評価)
大腸菌の懸濁液60μLに、製造直後の実施例1~4、比較例1、2に係る各サンプル1940μLを加え、攪拌した後、室温下で1分間、または30分間作用させた。その後、反応液を120μL分取し、1080μLのSCDLP培地に加え、Vortexミキサーを用いて攪拌することにより反応を中和した。その後、各反応サンプルが10-2~10-5になるまでSCDLP倍地にて希釈を行った(10倍段階希釈)。シャーレにサンプル液1mLを分注し、1.5%寒天培地を加えて混合した。倒置したシャーレを37℃のインキュベータ内に静置して24~48時間菌を培養後、コロニー数をカウントして、菌の生菌数(CFU);(CFU:colony-forming units)を算出した。ここで、各実施例、各比較例について、菌の生菌数を算出した。その結果を表1に示す。
【0055】
[表1]
【0056】
表1に示すように、有機化合物(超分岐ポリエステル)を含まない比較例1の消毒剤は、ヨウ化銅粒子の酸化電位が363.82mVvs.Ag/AgClであったのに対し、有機化合物(超分岐ポリエステル)と無機酸化物(酸化ジルコニウム)を含む実施例1の消毒剤は、被覆層で覆われたヨウ化銅粒子の酸化電位が485.62mVvs.Ag/AgClであった。この結果から、実施例1の消毒剤に含まれるヨウ化銅粒子の被覆層には、有機化合物(超分岐ポリエステル)が含まれていることが理解できた。また、無機酸化物(酸化ジルコニウム)を含まない比較例2の消毒剤は、被覆層で覆われたヨウ化銅粒子の酸化電位が373.66mVvs.Ag/AgClであったのに対し、有機化合物(ポリエステル系分散剤)と無機酸化物(酸化ジルコニウム)を含む実施例1の消毒剤は、被覆層で覆われたヨウ化銅粒子の酸化電位が485.62mVvs.Ag/AgClであった。この結果から、実施例1の消毒剤に含まれるヨウ化銅粒子の被覆層には、無機酸化物(酸化ジルコニウム)が含まれていることが理解できた。
【0057】
表1の結果より、全ての実施例では、感作時間1分という短時間で、感染価が検出限界値(99.9994%)以下になることが確認できた。この結果に対し、殺菌性の点では、全ての実施例において、感作時間30分で生菌数が検出限界値(99.995%)以下となることができた。特に、エタノール濃度が70%である実施例1、2では、感作時間1分という短時間で、生菌数が検出限界値(99.995%)以下となり、エタノール濃度が10%である実施例4でも生菌数が99.842%以下となり、高い殺菌性が確認できたが、エタノールが未添加である実施例3では、殺菌性が確認できるものの、その効果は、実施例1、2、4よりも低いものであった。これらの結果から、製造直後の実施例の消毒剤は、優れた抗ウイルス性及び殺菌性を有していることが確認できた。また、エタノール添加により、細菌に対する即効性が向上したことが確認できた。
【0058】
(保管安定性評価)
実施例1及び比較例1、2に係る各サンプルを温度50℃、湿度90%の条件下で製造後1ヶ月間放置する促進試験を行い、試験前後の色の変化を色差計にて測定した。結果を表2に示す。
【0059】
[表2]
【0060】
表2の結果より、有機化合物(超分岐ポリエステル)と無機酸化物(酸化ジルコニウム)を含む被覆層で覆われた一価の銅化合物粒子を含有する実施例1よりも、有機化合物(超分岐ポリエステル)が被覆層に含まれていない、あるいは、無機酸化物(酸化ジルコニウム)が被覆層に含まれていない一価の銅化合物粒子を含有する比較例1、2の方が、色の変化の度合いが大きいことが確認された。この結果から、一価の銅化合物粒子の表面に有機化合物(超分岐ポリエステル)と無機酸化物(酸化ジルコニウム)を含む被覆層が形成されていることで、一価の銅化合物が酸化されて二価の銅化合物に変化することが抑制されたと理解できた。
【0061】
(促進試験後の抗ウイルス性及び殺菌性評価)
実施例1及び比較例1、2に係る各サンプルを温度50℃、湿度90%の条件下で製造後1ヶ月間放置する促進試験を行い、促進試験後の各サンプルについて、上述した抗ウイルス性評価及び殺菌性評価を行った。試験結果を表3に示す。
【0062】
[表3]
【0063】
表3の結果から、実施例1は、促進試験後もウイルス感染価が検出限界値以下という高い抗ウイルス性が確認でき、促進試験前の結果(表1参照)と比較して、感染価が変化していなかった。一方、比較例1、2については、促進試験前の結果(表1参照)と比較して、ウイルス感染価が3.5(Log10PFU)超も増加していた。一方、生菌数に関しては、実施例1、比較例1、2共に初期性能を維持していた。これらの結果から、実施例1の消毒剤は、促進試験を行ったとしても、抗ウイルス性及び殺菌性を持続することができ、比較例1、2の消毒剤は、促進試験を行った場合には、抗ウイルス性を持続できないことが理解できた。
【0064】
(実施例5~8)
実施例2のヒドロキシプロピルセルロース(HPC)の含有量を変更したこと以外は実施例2と同様の条件で、実施例5~8の消毒剤を得た。具体的には、消毒剤100質量%に対してHPCの含有量を0.1質量%、3質量%、5質量%、7質量%としたサンプルを順に、実施例5、6、7、8とした。
【0065】
(塗布、自然乾燥後の殺菌性評価)
実施例2、5~8、比較例1の各サンプルを、それぞれ100μL分取し、7cm角サイズのSUS板全面に塗り広げ、自然乾燥させた。このSUS板に対し、手の平を100回擦りつけた後、大腸菌の懸濁液225μLを滴下し、6cm角のサイズのPETフィルムを積層した。60分間作用させた後、SCDLP培地を10mL滴下し、ピペッティングすることにより反応を中和した。その後、上述した方法で菌の生菌数を算出した。試験結果を表4に示す。
【0066】
(塗布、自然乾燥後のべたつき評価)
実施例2、5~8、比較例1の各サンプルを、それぞれ100μL分取し、7cm角サイズのSUS板全面に塗り広げ、自然乾燥させた後、5名の被験者に手で表面のべたつきを確認し、べたついているものを3、ややべたついているものを2、全くべたついていないものを1にて評価し平均値を算出した。試験結果を表4に示す。
【0067】
[表4]
【0068】
表4の結果より、有機化合物(HPC)と無機酸化物(酸化ジルコニウム)を含む被覆層で覆われた一価の銅化合物粒子を含む全ての実施例において、手の平で摩擦後も殺菌効果があることが確認できた。この結果に対し、有機化合物(HPC)が含まれない比較例1については殺菌効果が確認できなかったことから、有機化合物(HPC)で被覆することで、摩擦後も、対象物表面に一価の銅化合物粒子が留まり殺菌効果を示したと考えられる。
【0069】
以上、表1から表4の結果から、本実施形態の消毒剤は、優れた抗ウイルス性及び殺菌性を有し、抗ウイルス性及び殺菌性を持続できることが確認できた。
図1A
図1B
図1C
図1D