(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】マスクブランクスおよびマスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/58 20120101AFI20230127BHJP
G03F 1/80 20120101ALI20230127BHJP
G03F 1/46 20120101ALI20230127BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230127BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
G03F1/58
G03F1/80
G03F1/46
C23C14/06 P
C23C14/06 H
C23C14/08 J
(21)【出願番号】P 2018219185
(22)【出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-09-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】諸沢 成浩
(72)【発明者】
【氏名】江成 雄一
(72)【発明者】
【氏名】浅見 智史
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-133736(JP,A)
【文献】特開2018-054794(JP,A)
【文献】特開2014-026281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20-7/24、9/00-9/02
H01L 21/027、21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
前記透明基板の上に形成された反射防止層と、
前記反射防止層の上に形成されクロムを主成分とする遮光層と、
前記遮光層に接して形成されクロムを主成分とする反射防止層と、
前記遮光層よりもエッチングレートが低減されて前記反射防止層と厚さ方向に接しない位置で前記遮光層を厚さ方向に分割するエッチングレート低減層と、
を有し、
露光光の波長λが365nm~436nmの範囲で使用され、
OD値が5よりも高く、反射率が5%よりも低く設定され、
前記エッチングレート低減層が、前記遮光層の厚さ方向に一層または
二層設けられて前記遮光層よりも高い酸素濃度とされるとともに前記遮光層よりも高い炭素濃度とされ、
前記反射防止層と接している前記遮光層において、前記エッチングレート低減層までの膜厚が、前記波長λが405nmの場合に、前記波長λに対してλ*20/405nm以上に設定され、
前記エッチングレート低減層によって厚さ方向に分割された前記遮光層の分割数に応じて、前記遮光層の側面から奥に向けた前記透明基板の表面と平行な方向に対するエッチング量を削減する、
ことを特徴とするマスクブランクス。
【請求項2】
前記遮光層の酸素濃度が、膜厚方向の前記透明基板側に接する前記エッチングレート低減層よりも、さらに、前記透明基板側に位置する前記遮光層の酸素濃度に比べて高くなるように設定されるとともに、
前記遮光層の炭素濃度が、膜厚方向の前記透明基板側に接する前記エッチングレート低減層よりも、さらに、前記透明基板側に位置する前記遮光層の炭素濃度に比べて高くなるように設定され、
前記遮光層の側面から奥に向けた前記透明基板の表面と平行な方向に対するエッチング量を、前記エッチングレート低減層によって分割されて前記透明基板との距離である厚さ方向の位置が異なる前記遮光層でそれぞれ均等化する、
ことを特徴とする請求項1記載のマスクブランクス。
【請求項3】
前記エッチングレート低減層の組成が、酸素濃度が20%以上、炭素濃度は30%以上である、
ことを特徴とする請求項1または2記載のマスクブランクス。
【請求項4】
前記遮光層が、酸素と窒素と炭素を含有するクロムニウム膜を用いて形成され、
厚さ方向に分割された前記遮光層の合計膜厚は100nm以上である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項5】
前記反射防止層の膜厚が、前記波長λが405nmの場合に、前記波長λに対してλ*25/405~λ*30/405、または、λ*95/405~λ*100/405の範囲に設定されることを特徴とする請求項
1から4のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項6】
前記透明基板との距離が異なる複数層の前記エッチングレート低減層では、
前記透明基板との距離に応じた前記エッチングレート低減層の膜厚が、前記反射防止層から前記透明基板に向けて増加される、
ことを特徴とする請求項1から
5のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項7】
前記反射防止層の酸素濃度は50%以上である、
ことを特徴とする請求項1から
6のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれかに記載されたマスクブランクスを用いて製造されたことを特徴とするマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクブランクスおよびマスクに関し、特に大面積のマスクブランクスおよびマスクに用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のFPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)用の基板は複数のマスクを用いることで製造されている。
【0003】
FPDの製造等に用いられる大板用のフォトマスクは、特許文献1,2に記載されるように、ガラス基板上にクロム等の金属を含む遮光層などを成膜したマスクブランクスにパターニングプロセスを施すことで、所望のパターンが形成されたバイナリマスクとして形成される。
FPDの製造等に用いられる大板用のフォトマスクにおいては、ウェットエッチング加工によってパターン形成がおこなわれる。
【0004】
近年、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイのいずれにおいてもパネルの高精細化が大きく進行しており、それに伴いフォトマスクの微細化も進展している。フォトマスクの微細化には微細パターンを形成する必要がある。微細パターンを作成するには、パターンの際のコントラストを上げるため、より高い光学濃度のマスクを用いる必要がある。
【0005】
また、露光の際にマスクを通した透過光に対して反射光が大きいと露光転写されるパターンの精度が低下するという問題が発生してしまう。
なお、表面に反射防止層と遮光層とが形成された構造のマスクにおいて、表面の反射率は、反射防止層と遮光層との屈折率差、および、これらの膜厚によって規定される。
【0006】
上記の問題に対する対策として、近年、光学濃度が従来のOD5で、反射率が5%以下の光学仕様を満たすマスクが高精細のフラットパネルディスプレイ用のマスクとして求められている。つまり、高精細のフラットパネルディスプレイ用のマスクとしては、光学濃度が大きく、反射率の低いマスクが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-212738号公報
【文献】国際公開第2007/099910号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、マスクとして上記のような光学仕様を満たすマスクブランクスを用いてマスクを作成すると、パターンの断面形状が悪化することで様々な問題が発生することがわかった。
【0009】
具体的には、微細パターンの形状悪化の問題である。
【0010】
フラットディスプレイ用のマスクとしては、耐薬特性に優れて、ウェットエッチング加工の容易なクロムニウムが通常使われる。
クロムニウムを用いて反射防止層を形成するためには、反射率を低減するために、クロムニウムからなる反射防止層中の酸素濃度を高めて、遮光層よりも屈折率を低下させる必要がある。通常クロムニウムをウェットエッチングする際には、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むウェットエッチング液を用いられる。
【0011】
しかしながら、クロムニウム膜中の酸素濃度を高くすると、エッチングレートが低下する。この結果、遮光層と反射防止層とのあいだで、エッチングレートが大きく異なってしまう。また光学濃度を高くするためには遮光層の膜厚も厚くなる。
【0012】
このため、上記のような光学仕様を満たすマスクでは、膜厚方向で中央部のみ大きくエッチングされた断面形状になってしまうことが判明した。
つまり、従来の技術では、上記のような光学仕様を満たして、断面形状の良好なマスクを製造することができないという問題があった。
【0013】
さらに、マスクにおける反射光については、マスクパターン側とマスク基板側の両側ともに反射光を低減することが望ましく、そのためマスクの表裏面となる両側に反射防止層を設けることがある。この場合、上記したように、より一層、パターン形状が悪化してしまうという問題があった。
【0014】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.より高い光学濃度のマスクを実現すること。
2.より反射率の低いマスクを実現すること。
3.微細パターンの形状悪化を防止すること。
4.上記の目的を同時に実現すること。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のマスクブランクスは、
透明基板と、
前記透明基板の上に形成された反射防止層と、
前記反射防止層の上に形成されクロムを主成分とする遮光層と、
前記遮光層に接して形成されクロムを主成分とする反射防止層と、
前記遮光層よりもエッチングレートが低減されて前記反射防止層と厚さ方向に接しない位置で前記遮光層を厚さ方向に分割するエッチングレート低減層と、
を有し、
露光光の波長λが365nm~436nmの範囲で使用され、
OD値が5よりも高く、反射率が5%よりも低く設定され、
前記エッチングレート低減層が、前記遮光層の厚さ方向に一層または二層設けられて前記遮光層よりも高い酸素濃度とされるとともに前記遮光層よりも高い炭素濃度とされ、
前記反射防止層と接している前記遮光層において、前記エッチングレート低減層までの膜厚が、前記波長λが405nmの場合に、前記波長λに対してλ*20/405nm以上に設定され、
前記エッチングレート低減層によって厚さ方向に分割された前記遮光層の分割数に応じて、前記遮光層の側面から奥に向けた前記透明基板の表面と平行な方向に対するエッチング量を削減する、
ことにより上記課題を解決した。
本発明のマスクブランクスは、
前記遮光層の酸素濃度が、膜厚方向の前記透明基板側に接する前記エッチングレート低減層よりも、さらに、前記透明基板側に位置する前記遮光層の酸素濃度に比べて高くなるように設定されるとともに、
前記遮光層の炭素濃度が、膜厚方向の前記透明基板側に接する前記エッチングレート低減層よりも、さらに、前記透明基板側に位置する前記遮光層の炭素濃度に比べて高くなるように設定され、
前記遮光層の側面から奥に向けた前記透明基板の表面と平行な方向に対するエッチング量を、前記エッチングレート低減層によって分割されて前記透明基板との距離である厚さ方向の位置が異なる前記遮光層でそれぞれ均等化する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記エッチングレート低減層の組成が、酸素濃度が20%以上、炭素濃度は30%以上である、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記遮光層が、酸素と窒素と炭素を含有するクロムニウム膜を用いて形成され、
厚さ方向に分割された前記遮光層の合計膜厚は100nm以上である、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記反射防止層の膜厚が、前記波長λが405nmの場合に、前記波長λに対してλ*25/405~λ*30/405、または、λ*95/405~λ*100/405の範囲に設定される
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記透明基板との距離が異なる複数層の前記エッチングレート低減層では、
前記透明基板との距離に応じた前記エッチングレート低減層の膜厚が、前記反射防止層から前記透明基板に向けて増加される、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記反射防止層の酸素濃度は50%以上である、
ことができる。
本発明のマスクは、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスを用いて製造されたことができる。
【0016】
本発明のマスクブランクスは、透明基板と、
該透明基板に形成されクロムを主成分とする遮光層と、
前記遮光層に接して形成されクロムを主成分とする反射防止層と、
を有し、
前記遮光層が、前記反射防止層と厚さ方向に接しない位置に、エッチングレートを前記遮光層よりも低減したエッチングレート低減層を有する。
言い換えると、厚さ方向で遮光層の途中位置に設けられたエッチングレート低減層によって、遮光層そのものが厚さ方向に分断されている。
【0017】
これにより、マスクとしての所望の光学仕様を満たすことが可能なマスクブランクスを実現することができる。この光学仕様は、反射防止層と遮光層との界面付近の構造、および、反射防止層と遮光層との膜厚、組成を設定することで、初期に設定された所望の状態を維持することが重要である。
また、マスクとしての所望の光学仕様とは、マスク使用時となる露光工程において必要な所定波長λを有する露光光に対して、光学濃度ODの値と反射率の値とを所望の状態に維持することを意味する。
【0018】
また、この光学仕様を満たした状態で、従来はできなかった、パターン形成における形状悪化を防止することが可能となる。
このパターン形成における形状悪化とは、エッチング後に、遮光層の側面に凹部が形成されてしまい、パターンの線幅等が所定の瀬運法を維持しないようなことを意味する。
【0019】
ここで、パターン形成における形状悪化は、反射防止層と遮光層とでパターン形成におけるウェットエッチングのエッチングレートが異なることに起因する。
しかし、上記の光学仕様を満たすために、反射防止層と遮光層とのエッチングレートの差を解消することは、従来の技術で、できなかったものである。
【0020】
つまり、本発明においては、エッチング後のパターン形状が悪化してしまうことを防止して、露光光に対して、光学濃度ODの値と反射率の値とを所望の状態に維持することができる。
【0021】
また、FPD分野では、マスク使用時となる露光工程において、露光光の波長λとしてi線(波長365nm)、h線(波長403nm)、g線(波長436nm)からなる複合波長を用いた露光にてパターン形成が行われている。
【0022】
さらに、本発明においては、露光光の波長としてi線、h線、g線からなる複合波長を用いた場合に対して、光学濃度ODの値と反射率の値とを所望の状態に維持するとともに、マスクにおけるエッチング後のパターン形状悪化を防止することができる。あるいは、これらのi線、h線、g線のいずれか単波長からなる露光光を用いた場合に対しても、光学濃度ODの値と反射率の値とを所望の状態に維持して、マスクにおけるエッチング後のパターン形状悪化を防止することができる。
【0023】
本発明のマスクブランクスは、前記エッチングレート低減層が、前記遮光層の厚さ方向に一層または複数層設けられる。
これにより、光学濃度ODの値と反射率の値とを所望の状態に維持して、マスクにおけるエッチング後のパターン形状悪化を防止することができる。特に、エッチングレート低減層のエッチングレートが、遮光層のエッチングレートより小さく設定されることで、パターン形成時のウェットエッチングにおいて、遮光層が側面から大きくエッチングされてしまうことを防止できる。
【0024】
これは、遮光層が、反射防止層に続けてエッチングされる際に、一つの遮光層の深さ(厚さ)方向寸法が小さくなることで、エッチングレートの小さな部分が縮小されて、遮光層の側面方奥行き方向(透明基板の表面と並行な方向)に向かうエッチング量が抑制されることによる。
【0025】
さらに、光学的には、遮光層に対応したエッチングレート低減層は、遮光層に対してエッチングされずに残るため、透明基板の面垂直方向視した際に、遮光層に対応するエッチングレート低減層が、反射防止層と略同一の輪郭形状としてパターン形成をおこなうことができる。
【0026】
言い換えると、複数設けられたエッチングレート低減層によって厚さ方向に分断された遮光層が、それぞれエッチングレート低減層と遮光層との界面付近で、パターン形成時のウェットエッチングによって、遮光層が側面から大きくエッチングされてしまうことを防止できる。
【0027】
なお、エッチングレート低減層のエッチングレートが、反射防止層のエッチングレートと同程度かそれより小さく設定されることができる。
【0028】
なお、エッチングレート低減層は、一層または二層または三層として遮光層内に設けることが可能である。このエッチングレート低減層の層数、つまり、遮光層の分断数は、パターン形成における露光光の波長から設定することができる。
【0029】
本発明のマスクブランクスは、前記エッチングレート低減層が、前記遮光層の厚さ方向の中央部に設けられる。
これにより、反射防止層と遮光層との界面付近の構造、および、反射防止層と遮光層との膜厚、組成によって設定される光学仕様が、初期に設定された所望の状態を維持することできる。
ここで、厚さ方向の中央部とは、反射防止層側と接する遮光層の膜厚が、反射率を所定値とするために必要な範囲を維持するとともに、エッチングレート低減層が、遮光層を除いて反射防止層を含む他の層と接していないことを意味する。
【0030】
さらに、これにより、遮光層において、反射防止層に対する反対側に設けられた他の層との間で設定される光学仕様に影響を及ぼすことなく、エッチング後のパターン形状悪化を防止することができる。特に、遮光層の両側に反射防止層を設けた構成の場合、両方の反射防止層との間で設定される反射率を上記の仕様として、形状悪化を防止することができる。
【0031】
本発明のマスクブランクスは、前記エッチングレート低減層が、前記遮光層よりも高い酸素濃度とされる。
これにより、エッチングレート低減層が、遮光層よりも低いエッチングレートを有することが可能である。
【0032】
また、本発明のマスクブランクスにおいて、前記エッチングレート低減層が、前記遮光層よりも高い炭素濃度とされる。
これにより、高い酸素濃度とされたエッチングレート低減層が、さらに低いエッチングレートを有することが可能である。
さらに、高い炭素濃度により、エッチングレートを更に低下させることができる。
【0033】
本発明のマスクブランクスは、前記遮光層の酸素濃度が、膜厚方向の前記透明基板側に接する前記エッチングレート低減層よりも、さらに、前記透明基板側に位置する前記遮光層の酸素濃度に比べて高くなるように設定される。
これにより、エッチングされる順番が早い遮光層のほうが、エッチングされる順番が遅い遮光層に比べて、低いエッチングレートを有することができる。つまり、エッチングされる時間の長い反射防止層に近い位置の遮光層のほうが、エッチングされる時間の短い遮光層に比べて、低いエッチングレートを有することができる。
【0034】
したがって、透明基板に近い側の遮光層に比べて、透明基板に対して遠い側の遮光層に、おいて、遮光層の側面から奥に向けて、つまり、透明基板の表面と平行な方向に対するエッチング量を削減することができる。
これにより、透明基板に対して異なる厚さ方向の位置、つまり、透明基板との距離が異なる遮光層で、遮光層の側面から奥に向けて、つまり、透明基板の表面と平行な方向に対するエッチング量を、それぞれ均等化することが可能となる。これにより、エッチング後のパターン形状悪化をより一層防止することができる。
【0035】
また、本発明のマスクブランクスは、前記遮光層の炭素濃度が、膜厚方向の前記透明基板側に接する前記エッチングレート低減層よりも、さらに、前記透明基板側に位置する前記遮光層の炭素濃度に比べて高くなるように設定される。
これにより、透明基板に対して異なる厚さ方向の位置、つまり、透明基板との距離が異なる遮光層で、それぞれ酸素濃度を所定の状態に設定された遮光層におけるエッチングレートを、さらに低下する等、厚さ方向位置に対応して、エッチングレートに対する設定をそれぞれおこなうことが可能とある。
さらに、厚さ方向位置に対応して、炭素濃度を段階的に設定することにより、遮光層における深さ方向でのエッチングレートを制御することができる。
これにより、透明基板に対して異なる厚さ方向の位置、つまり、透明基板との距離が異なる遮光層で、遮光層の側面から奥に向けて、つまり、透明基板の表面と平行な方向に対するエッチング量を、それぞれ均等化することが可能となる。これにより、エッチング後のパターン形状悪化をより一層防止することができる。
【0036】
本発明のマスクブランクスは、露光光の波長λが365nm~436nmの範囲で使用され、
OD値が5よりも高く、反射率が5%よりも低く設定される。
このような光学仕様を満たすことにより、高精細のFPD製造等に用いて好適なマスクを製造可能なマスクブランクスを提供することができる。
【0037】
本発明のマスクブランクスは、前記反射防止層と接している前記遮光層において、前記エッチングレート低減層までの膜厚が、前記波長λに対してλ*20/405以上に設定される。
このような光学仕様を満たすことにより、高精細のFPD製造等に用いて好適なマスクを製造可能なマスクブランクスを提供することができる。
【0038】
本発明のマスクブランクスは、前記反射防止層の膜厚が、前記波長λに対してλ*25/405~λ*30/405、または、λ*95/405~λ*100/405の範囲に設定される。
このような光学仕様を満たすことにより、高精細のFPD製造等に用いて好適なマスクを製造可能なマスクブランクスを提供することができる。
【0039】
本発明のマスクは、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスを用いて製造される。
このような光学仕様を満たすことにより、高精細のFPD製造等に用いて好適なマスクを提供することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、必要な光学仕様を満たしつつ、パターン形成時における形状悪化を来さないマスクブランクスを提供することができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明に係るマスクの第1実施形態を示す断面図である。
【
図3】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を製造する成膜装置を示す模式図である。
【
図4】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を製造する成膜装置を示す模式図である。
【
図5】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態における遮光層(低酸素濃度Cr膜)厚と、反射率との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態における反射防止層(高酸素濃度Cr膜)厚と、反射率との関係を示すグラフである。
【
図7】本発明に係るマスクブランクスの第2実施形態を示す断面図である。
【
図8】本発明に係るマスクブランクスの第3実施形態を示す断面図である。
【
図9】本発明に係るマスクブランクスの第4実施形態を示す断面図である。
【
図10】本発明に係るマスクブランクスの第5実施形態を示す断面図である。
【
図11】本発明に係るマスクブランクスの第6実施形態を示す断面図である。
【
図12】遮光層が一層として形成されたマスクの例を示す断面図である。
【
図13】遮光層が一層として形成されたマスクの例を示す断面図である。
【
図14】本発明に係るマスクの実験例を示す画像である。
【
図15】本発明に係るマスクの実験例を示す画像である。
【
図16】本発明に係るマスクの実験例を示す画像である。
【
図17】本発明に係るマスクブランクス、マスクの実験例として厚さ方向における組成を示すグラフである。
【
図18】本発明に係るマスクブランクス、マスクの実験例として厚さ方向における組成を示すグラフである。
【
図19】本発明に係るマスクブランクス、マスクの実験例として厚さ方向における組成を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明に係るマスクブランクスおよびマスクの第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す斜視図であり、図において、符号MBは、マスクブランクスである。
【0043】
本実施形態に係るマスクブランクスMBは、例えば、露光光の波長が365nm~436nmの範囲で使用されるマスクに供されるものである。本実施形態に係るマスクブランクスMBは、
図1に示すように、透明基板(ガラス基板)Sと、この透明基板Sの上に形成された遮光層11Bと、遮光層11Bの上に形成されたエッチングレート低減層12と、エッチングレート低減層12の上に形成された遮光層11Aと、遮光層11Aの上に形成された反射防止層13と、で構成される。
つまり、本実施形態に係るマスクブランクスMBは、遮光層11A,11Bが、エッチングレート低減層12によって、厚さ方向に分断されている。
【0044】
透明基板Sとしては、透明性および光学的等方性に優れた材料が用いられ、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。透明基板Sの大きさは特に制限されず、当該マスクを用いて露光する基板(例えばLCD(液晶ディスプレイ)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどのFPD用基板、半導体基板)に応じて適宜選定される。本実施形態では、径寸法100mm程度の基板や、一辺50~100mm程度から、一辺300mm以上の矩形基板に適用可能であり、更に、縦450mm、横550mm、厚み8mmの石英基板や、最大辺寸法1000mm以上で、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0045】
また、透明基板Sの表面を研磨することで、透明基板Sのフラットネスを低減するようにしてもよい。透明基板Sのフラットネスは、例えば、20μm以下とすることができる。これにより、マスクの焦点深度が深くなり、微細かつ高精度なパターン形成に大きく貢献することが可能となる。さらにフラットネスは10μm以下と、小さい方が良好である。
【0046】
遮光層11Aおよび遮光層11Bは、Cr(クロム)を主成分とするものであり、具体的には、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つで構成することができ、また、これらの中から選択される2種以上を積層して構成することもできる。
遮光層11Aおよび遮光層11Bは、Cr(クロム)を含有するものであり、O(酸素)および/またはC(炭素)を含むことができる。さらに、遮光層11Aおよび遮光層11Bは、N(窒素)を含むことができる。
【0047】
遮光層11Aおよび遮光層11Bは、ほぼ同じ組成とされるが、後述する光学特性を満たしていれば、多少異なる組成とすることもできる。
【0048】
具体的には、遮光層11Aおよび遮光層11Bにおいては、酸素濃度を膜厚方向で変化させて、ガラス基板S側から反射防止層13側に向けて、酸素濃度を増加させる。つまり、遮光層11Bの酸素濃度よりも遮光層11Aの酸素濃度が高く設定される。
【0049】
さらに、遮光層11Aおよび遮光層11Bにおいては、炭素濃度を膜厚方向で変化させて、ガラス基板S側から反射防止層13側に向けて、炭素濃度を増加させる。つまり、遮光層11Bの炭素濃度よりも遮光層11Aの炭素濃度が高く設定される。
【0050】
遮光層11A,11Bは、酸素と窒素と炭素を含有するクロムニウム膜を用いて形成される。この際に光学濃度を高めるために遮光層11Aおよび遮光層11Bの合計膜厚は100nm以上の膜厚であることが望ましい。
【0051】
反射防止層13は、厚さ方向における遮光層11A,11Bと同様にCr(クロム)を含む。さらに、反射防止層13は、O(酸素)を含有するクロム酸化膜とされる。また、反射防止層13は、C(炭素)および/またはN(窒素)を含有することができる。反射防止層13の膜厚は、露光工程においてマスクとして用いられる際の露光波長(波長領域は365~436nm)、および、露光波長に規定される必要な光学濃度、反射率等により設定される。
【0052】
反射防止層13としては、反射防止層13の屈折率と遮光層11Aの屈折率との差を大きくすることで反射率を低減することが可能となる。
このため、反射防止層13として用いられる酸素と窒素と炭素を含有するクロムニウム膜において、波長365~436nmにおける屈折率が2.5以下、消衰係数が1.0以下であることが望ましい。
【0053】
あるいは、反射防止層13は、厚み25nm程度より大きく設定されることができる。また、反射防止層13の膜厚は15~40nmであることが望ましい。
【0054】
同時に、反射防止層13の反射率を5%程度より小さく設定するために、酸素含有率も所定範囲とされることが必要である。具体的には、酸素含有率が30atm%程度、あるいはそれ以上の酸素含有率となるように設定される。さらに、反射防止層13として用いられるクロムニウム膜に含まれる酸素濃度は50%以上であることが望ましい。
【0055】
エッチングレート低減層12は、厚さ方向における遮光層11A,11Bと同様にCr(クロム)を含む。さらに、反射防止層13は、遮光層11A,11Bよりも低いエッチングレートとなるように、O(酸素)を含有するクロム酸化膜とされる。また、反射防止層13は、C(炭素)および/またはN(窒素)を含有することができる。エッチングレート低減層12は、反射防止層13と同程度のエッチングレートとなるか、あるいは、反射防止層13よりもやや低い程度のエッチングレートとなるように、酸素濃度、炭素濃度が設定されている。
【0056】
エッチングレート低減層12は、反射防止層13と同様の膜とすることができる。つまり、エッチングレート低減層12は、酸素と窒素と炭素を含有するクロムニウム膜とすることができる。
【0057】
エッチングレート低減層12は、厚さ方向において、透明基板Sと遮光層11Aとの界面、および、遮光層11Bと反射防止層13との界面の中央位置に配置される。
【0058】
本実施形態のマスクブランクスMBは、例えばFPD用ガラス基板に対するパターニング用マスクであるマスク(フォトマスク)Mを製造する際に適用することができる。
【0059】
本実施形態のマスクブランクスMBは、反射率が5%より小さく設定されており、光学濃度ODの値が5よりも高くなるように設定されている。これにより、マスク(フォトマスク)Mを製造する際に、複合反射を防止するとともに、同時に、必要な光学仕様(光学特性)を満たし、高精細なマスクを製造することが可能となる。
なお、本実施形態のマスクブランクスMBは、上記の光学仕様(光学特性)を満たしており、後述するエッチング特性を維持していれば、これ以外の特性は限定されない。
【0060】
図2は、本実施形態におけるマスクブランクスから製造されるマスクを示す断面図である。
本実施形態のマスク(フォトマスク)Mは、
図2に示すように、マスクブランクスMBにおいて、ガラス基板(透明基板)Sの露出した透過領域と、遮光層11Aからパターン形成された遮光パターン11Aa、エッチングレート低減層12からパターン形成されたエッチングレート低減パターン12a、遮光層11Bからパターン形成された遮光パターン11Ba、反射防止層13からパターン形成された反射防止パターン13a、がガラス基板(透明基板)Sに積層されている遮光領域と、を有する。
【0061】
このマスク(フォトマスク)Mにおいて、遮光領域は、露光工程の処理において、遮光パターン11Aa,11Baによって、照射光(露光光)を透過しないことが可能な領域とされる。
【0062】
本実施形態のマスク(フォトマスク)Mによれば、露光処理において、波長領域の光、特にg線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)を含む複合波長を露光光として用いることができる。これにより、露光と現像をおこなって有機樹脂の形状を制御して、適切な形状のスペーサーや開口部を形成することが可能になる。また、パターン精度が大幅に向上し、微細かつ高精度なパターン形成が可能となる。
【0063】
このマスク(フォトマスク)Mによれば、上記波長領域の露光光を用いることでパターン精度の向上を図ることができ、微細かつ高精度なパターン形成が可能となる。これにより、高精細・高画質のフラットパネルディスプレイ等を製造することができる。
【0064】
以下、本実施形態のマスクブランクスMBの製造方法について説明する。
【0065】
本実施形態におけるマスクブランクスMBは、
図3または
図4に示す製造装置により製造される。
【0066】
図3に示す製造装置S10は、インターバック式のスパッタリング装置とされ、ロード・アンロード室S11と、ロード・アンロード室S11に密閉手段S13を介して接続された成膜室(真空処理室)S12とを有するものとされる。
【0067】
ロード・アンロード室S11には、外部から搬入されたガラス基板Sを成膜室S12へと搬送するか成膜室S12を外部へと搬送する搬送手段S11aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S11bが設けられる。
【0068】
成膜室S12には、基板保持手段S12aと、成膜材料を供給する手段として、ターゲットS12bを有するカソード電極(バッキングプレート)S12cと、バッキングプレートS12cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S12dと、この室内にガスを導入するガス導入手段S12eと、成膜室S12の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気手段S12fと、が設けられている。
【0069】
基板保持手段S12aは、搬送手段S11aによって搬送されてきたガラス基板Sを受け取り、成膜中にターゲットS12bと対向するようにガラス基板Sを保持するとともに、ガラス基板Sをロード・アンロード室S11からの搬入およびロード・アンロード室S11へ搬出可能とされている。
ターゲットS12bは、ガラス基板Sに成膜するために必要な組成を有する材料からなる。
【0070】
図3に示す製造装置S10においては、ロード・アンロード室S11から搬入したガラス基板Sに対して、成膜室(真空処理室)S12においてスパッタリング成膜をおこなった後、ロード・アンロード室S11から成膜の終了したガラス基板Sを外部に搬出する。
【0071】
成膜工程においては、ガス導入手段S12eから成膜室S12にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S12cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS12b上に所定の磁場を形成してもよい。成膜室S12内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S12cのターゲットS12bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板Sに付着することにより、ガラス基板Sの表面に所定の膜が形成される。
【0072】
この際、遮光層11Bの成膜と、エッチングレート低減層12の成膜と、遮光層11Aの成膜と、反射防止層13の成膜とで、必要な組成を有するターゲットS12bに交換することができる。
【0073】
このとき、遮光層11bの成膜と、エッチングレート低減層12の成膜と、遮光層11Aの成膜と、反射防止層13の成膜とで、ガス導入手段S12eから異なる量の、酸素含有ガス、炭素含有ガスなどの必要な成膜ガスを供給するとともに、その分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0074】
あるいは、本実施形態のマスクブランクスMB製造においては、遮光層11Bの成膜と、エッチングレート低減層12の成膜と、遮光層11Aの成膜と、反射防止層13の成膜とにおいて、ターゲットS12bを交換しないこともできる。
【0075】
さらに、これら遮光層11Bの成膜と、エッチングレート低減層12の成膜と、遮光層11Aの成膜と、反射防止層13の成膜とに加え、他の膜を積層することもできる。この場合には、対応するターゲット、ガス等のスパッタ条件としてスパッタリングにより成膜するか、他の成膜方法によって該当膜を積層して、本実施形態のマスクブランクスMBを製造する。
【0076】
また、
図4に示す製造装置S20は、インライン式のスパッタリング装置とされ、ロード室S21と、ロード室S21に密閉手段S23を介して接続された成膜室(真空処理室)S22と、成膜室S22に密閉手段S24を介して接続されたアンロード室S25と、を有するものとされる。
【0077】
ロード室S21には、外部から搬入されたガラス基板Sを成膜室S22へと搬送する搬送手段S21aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S21bが設けられる。
【0078】
成膜室S22には、基板保持手段S22aと、成膜材料を供給する手段として、ターゲットS22bを有するカソード電極(バッキングプレート)S22cと、バッキングプレートS22cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S22dと、この室内にガスを導入するガス導入手段S22eと、成膜室S22の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気手段S22fと、が設けられている。
【0079】
基板保持手段S22aは、搬送手段S21aによって搬送されてきたガラス基板Sを受け取り、成膜中にターゲットS22bと対向するようにガラス基板Sを保持するとともに、ガラス基板Sをロード室S21からの搬入およびアンロード室S25へ搬出可能とされている。
ターゲットS22bは、ガラス基板Sに成膜するために必要な組成を有する材料からなる。
【0080】
アンロード室S25には、成膜室S22から搬入されたガラス基板Sを外部へと搬送する搬送手段S25aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S25bが設けられる。
【0081】
図4に示す製造装置S20においては、ロード室S21から搬入したガラス基板Sに対して、成膜室(真空処理室)S22においてスパッタリング成膜をおこなった後、アンロード室S25から成膜の終了したガラス基板Sを外部に搬出する。
【0082】
成膜工程においては、ガス導入手段S22eから成膜室S22にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S22cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS22b上に所定の磁場を形成してもよい。成膜室S22内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S22cのターゲットS22bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板Sに付着することにより、ガラス基板Sの表面に所定の膜が形成される。
【0083】
この際、遮光層11Bの成膜と、エッチングレート低減層12の成膜と、遮光層11Aの成膜と、反射防止層13の成膜とで、必要な組成を有するターゲットS22bに交換することができる。
【0084】
このとき、遮光層11Bの成膜と、エッチングレート低減層12の成膜と、遮光層11Aの成膜と、反射防止層13の成膜とで、ガス導入手段S12eから異なる量の、酸素含有ガス、炭素含有ガスなどの必要な成膜ガスを供給するとともに、その分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0085】
あるいは、本実施形態のマスクブランクスMB製造においては、遮光層11Bの成膜と、エッチングレート低減層12の成膜と、遮光層11Aの成膜と、反射防止層13の成膜とにおいて、ターゲットS22bを交換しないこともできる。
【0086】
さらに、これら遮光層11Bの成膜と、エッチングレート低減層12の成膜と、遮光層11Aの成膜と、反射防止層13の成膜とに加え、他の膜を積層する場合には、対応するターゲット、ガス等のスパッタ条件としてスパッタリングにより成膜するか、他の成膜方法によって該当膜を積層して、本実施形態のマスクブランクスMBを製造する。
【0087】
上記の製造装置S10または製造装置S20においては、まず、ガラス基板S上に、DCスパッタリング法などを用いて、Crを主成分とする遮光層11B、Crを主成分とするエッチングレート低減層12、Crを主成分とする遮光層11A、Crを主成分とする反射防止層13を順に成膜する。
このとき、成膜条件として、クロムをターゲットとしたDCスパッタリングにより、スパッタリングガスとして、アルゴン、窒素(N2)などを含む状態で、スパッタリングをおこなうことができる。
【0088】
遮光層11Bの成膜においては、Crを主成分とするターゲットS12bまたはターゲットS22bを用い、酸素、炭素を含有するガス雰囲気(成膜雰囲気)とするとともに、上述した光学仕様(光学特性)となるように、雰囲気ガス中の酸素濃度、炭素濃度を設定する。具体的には、上述したマスクブランクスMBとしての光学濃度OD値および反射率を実現するように、酸素含有ガスおよび炭素含有ガスのガス流量を設定する。
【0089】
エッチングレート低減層12の成膜においては、Crを主成分とするターゲットS12bまたはターゲットS22bを用い、酸素、炭素を含有するガス雰囲気(成膜雰囲気)とするとともに、上述した光学仕様(光学特性)となるように、雰囲気ガス中の酸素濃度、炭素濃度を設定する。具体的には、後述するエッチングレートを実現するように、酸素含有ガスおよび炭素含有ガスのガス流量を設定する。
ここで、炭素含有ガスとしては、CO2(二酸化炭素)、CH4(メタン)、C2H6(エタン)、CO(一酸化炭素)等を挙げることができる。酸素含有ガスとしては、CO2(二酸化炭素)、O2(酸素)、N2O(一酸化二窒素)、NO(一酸化窒素)等を挙げることができる。
【0090】
このとき、遮光層11Bとエッチングレート低減層12との成膜の間で、成膜を一時中断する、または、断続的に成膜するとともに、酸素濃度および炭素濃度を切り替えて、低酸素濃度領域となる遮光層11Bと高酸素領域となるエッチングレート低減層12との界面を形成することができる。
【0091】
あるいは、遮光層11Bとエッチングレート低減層12との成膜を連続的におこなうとともに、酸素濃度、炭素濃度を徐々に増加するように変化させて、低酸素領域である遮光層11Bから高酸素領域であるエッチングレート低減層12へと傾斜濃度を有するように形成することができる。
【0092】
なお、遮光層11B、および、エッチングレート低減層12の成膜においては、それぞれの層で要求される光学特性に応じて、必要な組成のターゲットS12bまたはターゲットS22bを用い、雰囲気ガスの種類・成膜条件を選択することが好ましい。
【0093】
また、遮光層11Aの成膜においては、Crを主成分とするターゲットS12bまたはターゲットS22bを用いい、酸素、炭素を含有するガス雰囲気(成膜雰囲気)とするとともに、上述した光学仕様(光学特性)となるように、雰囲気ガス中の酸素濃度、炭素濃度を設定する。具体的には、上述したマスクブランクスMBとしての光学濃度OD値および反射率を実現するように、酸素含有ガスおよび炭素含有ガスのガス流量を設定する。
【0094】
このとき、エッチングレート低減層12と遮光層11Aとの成膜の間で、成膜を一時中断することができる。または、エッチングレート低減層12と遮光層11Aとの成膜の間で、断続的に成膜するとともに、酸素濃度および炭素濃度を切り替えることができる。これにより、高酸素領域となるエッチングレート低減層12と低酸素濃度領域となる遮光層11Aとの界面を形成することができる。
【0095】
あるいは、エッチングレート低減層12と遮光層11Aとの成膜を連続的におこなうとともに、酸素濃度、炭素濃度を徐々に低減するように変化させて、高酸素領域であるエッチングレート低減層12から低酸素領域である遮光層11Aへと傾斜濃度を有するように形成することができる。
【0096】
なお、エッチングレート低減層12、および、遮光層11Aの成膜においては、それぞれの層で要求される光学特性に応じて、必要な組成のターゲットS12bまたはターゲットS22bを用い、雰囲気ガスの種類・成膜条件を選択することが好ましい。
【0097】
また、反射防止層13の成膜においては、Crを主成分とするターゲットS12bまたはターゲットS22bを用いい、酸素、炭素を含有するガス雰囲気(成膜雰囲気)とするとともに、上述した光学仕様(光学特性)となるように、雰囲気ガス中の酸素濃度、炭素濃度を設定する。具体的には、上述したマスクブランクスMBとしての光学濃度OD値および反射率を実現するように、酸素含有ガスおよび炭素含有ガスのガス流量を設定する。
【0098】
このとき、遮光層11Aと反射防止層13との成膜の間で、成膜を一時中断する、または、断続的に成膜するとともに、酸素濃度および炭素濃度を切り替えて、低酸素濃度領域となる遮光層11Aと高酸素領域となる反射防止層13との界面を形成することができる。
【0099】
以下、このように製造された本実施形態のマスクブランクスMBからマスクMを製造する方法について説明する。
【0100】
マスクブランクスMBは、
図1に示すように、遮光層11Bとエッチングレート低減層12と遮光層11Aと反射防止層13とがその全面に成膜されている。
【0101】
次に、マスクブランクスMBの最上層である反射防止層13の上にフォトレジスト層を形成する。
フォトレジスト層は、ポジ型でもよいしネガ型でもよいが、たとえば、ポジ型とすることができる。フォトレジスト層としては、液状レジストが用いられる。
【0102】
続いて、フォトレジスト層を露光するとともに現像することで、反射防止層13の上にレジストパターンが形成される。レジストパターンは、反射防止層13、遮光層11A、エッチングレート低減層12、遮光層11Bのエッチングマスクとして機能し、反射防止層13、遮光層11A、エッチングレート低減層12、遮光層11Bを除去する透過領域のエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。
一例として、レジストパターンは、透過領域においては、形成する遮光パターン11Ba、エッチングレート低減パターン12a、遮光パターン11Aa、反射防止パターン13aの開口幅寸法に対応した開口幅を有する形状に設定される。
【0103】
次いで、このレジストパターン越しに所定のエッチング液(エッチャント)を用いて反射防止層13、遮光層11A、エッチングレート低減層12、遮光層11Bをウェットエッチングする工程を開始する。
【0104】
エッチング液としては、いずれもCrを含有する反射防止層13、遮光層11A、エッチングレート低減層12、遮光層11Bに対応して、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができる。例えば、エッチング液として、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
【0105】
ここで、ウェットエッチングは、透過領域となるレジストパターンの開口部分において、マスクブランクスの表面側(上側、あるいは、外側)から進行する。
【0106】
つまり、まず、反射防止層13がウェットエッチングされる。次いで、遮光層11A、エッチングレート低減層12、遮光層11Bという積層された順番と逆順でウェットエッチングされる。
したがって、その層自身よりも低い(ガラス基板Sに近い)位置にある層に対するエッチングが進行する間、当該層には、エッチング液が当接してエッチングが進行することになる。
【0107】
ここで、反射防止層13とエッチングレート低減層12とは、酸素濃度、炭素濃度が高くエッチングレートが低い状態であるのに対し、遮光層11Bと遮光層11Aは、酸素濃度、炭素濃度が低くエッチングレートが高い状態である。
【0108】
特に、遮光層11Aは、エッチングレート低減層12および遮光層11Bに対して、ガラス基板Sから遠い位置にある。つまり、エッチングレート低減層12および遮光層11Bは、遮光層11Aに比べて下側(ガラス基板Sに近い)位置にある。
したがって、遮光層11Aの厚さ方向のエッチングが終了し、所定の幅寸法にまでエッチングが進行した後も、エッチングレート低減層12および遮光層11Bに対するエッチングが進行する。このため、エッチングレート低減層12および遮光層11Bに対するエッチングが進行する間中、遮光層11Aには、エッチング液が当接してエッチングが進行する。
【0109】
この状態でも、幅方向のエッチング量、つまり、
図2に矢印ssで示す奥行き方向のエッチング量が、所定値以上にならないように、本実施形態では、遮光層11Aとエッチングレート低減層12との組成比、および、膜厚が設定されている。
【0110】
具体的には、エッチングレート低減層12が、遮光層11A,11Bよりも酸素濃度、炭素濃度が高くエッチングレートが低い状態とされて、遮光層11Aとエッチングレート低減層12との界面付近において、遮光層11Aが奥行き方向ssのエッチング量を抑制することができる。
【0111】
図12は、遮光層が一層として形成されたマスクの例を示す断面図である。
ここで、
図12に示すように、遮光層11が一層として形成された場合を考える。エッチングレート低減層12は設けられていない。遮光層11の膜厚は、遮光層11A,11Bの合計された膜厚に等しく設定される。なお、マスクとしての光学仕様(光学特性)は、
図1に示すマスクブランクスMB、あるいは、
図2に示すマスクMと同等となるように、膜厚、組成が設定されている。
【0112】
この場合、
図12に示すように、一層である遮光層11では、ウェットエッチングされた際に、透過領域の側面部分が、奥行き方向ssに過剰にエッチングされてしまい、遮光層11の側面部分に凹部Xが形成されて形成されてしまう。この状態が、パターン形状の悪化の発生した状態である。
【0113】
これに対して、本実施形態のマスクブランクスMBあるいは、マスクMにおいては、エッチングレート低減層12が、遮光層11A,11Bよりも酸素濃度、炭素濃度が高くエッチングレートが低い状態、つまり、反射防止層13とほぼ同じエッチングレートを有する状態とされている。これにより、遮光層11A,11Bの合計厚さにおける中央位置で、奥行き方向ssにおけるエッチングレート低減層12のエッチング量は、反射防止層13のエッチング量とほぼ同じとなる。
【0114】
また、遮光層11A,11Bとして厚さ方向に分断されており、遮光層11Aおよび遮光層11Bの間に、エッチングレート低減層12が設けられていることで、遮光層11Aにおける奥行き方向ssのエッチング量を抑制することができる。
同様に、エッチングレート低減層12と遮光層11Bとの界面付近において、遮光層11Bが奥行き方向ssのエッチング量を抑制することができる。
【0115】
同時に、
図12に示した一層の遮光層11とされた場合に比べて、遮光層11A,11Bが厚さ方向に分断され、これらの遮光層11A,11Bの間に、エッチングレート低減層12が設けられていることで、遮光層11Aおよび遮光層11Bの厚さ方向寸法が小さくなる。これにより、遮光層11Aおよび遮光層11Bにおける奥行き方向ssのエッチング量をそれぞれ抑制することができる。
【0116】
特に、遮光層11Aが、厚さ方向寸法を小さく設定されるとともに、遮光層11Bよりも酸素濃度、炭素濃度が多少高く設定されて、遮光層11Bよりエッチングレートが多少低い状態として設定されている。これにより、エッチング液に曝される時間が遮光層11Bより長い遮光層11Aにおいて、奥行き方向ssのエッチング量を抑制することができる。つまり、遮光層11Aにおける奥行き方向ssにおける凹部Xの寸法と、遮光層11Bにおける奥行き方向ssにおける凹部Xの寸法と、がほぼ同じ値に設定することができる。これにより、遮光層11Aおよび遮光層11Bの厚さ方向の位置による形状の差を低減することができる。
【0117】
これらにより、
図12に示すように、遮光層11A,11Bが合計された膜厚で連続している場合に比べて、奥行き方向ssに形成される凹部Xの影響を削減して、透過領域におけるパターンの側面となる部分を垂直に近い形状に形成することがきる。
【0118】
次いで、エッチング液を洗浄してウェットエッチングを終了した後、レジストパターンを除去する。レジストパターンの除去には、公知のレジスト剥離液を用いることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
以上により、本実施形態のマスクMを製造することができる。
【0119】
本実施形態にかかるマスクブランクスMBから製造されたマスクMは、上述したように、所望の光学仕様(光学特性)を満たした状態で、遮光層11A,11Bにおける凹部Xが大きく形成されることがない。
【0120】
特に、高酸素濃度のエッチングレート低減層12を遮光層11Aと遮光層11Bとの間に設けることによって、エッチングレート低減層12と遮光層11Aとの界面近傍での方向SSに向かう突出形状を抑制することが可能になる。同様に、高酸素濃度のエッチングレート低減層12によって、エッチングレート低減層12と遮光層11Bとの界面近傍での方向SSに向かう突出形状を抑制することが可能になる。
【0121】
また、遮光層11Aと遮光層11Bとがエッチングレート低減層12によって分割されているため、遮光層11Aおよび遮光層11Bの膜厚寸法を小さくすることができ、奥行き方向ssに向かう突出形状を抑制することが可能になる。
この結果、遮光層11A,11Bの過剰なエッチングを抑制することができる。したがって、各パターン13a,11Aa,12a,11Baの形状が所望の状態からずれてしまうことを防止できる。
【0122】
さらに、遮光層11A,11Bの炭素濃度を膜厚方向で変化させて、ガラス基板S側から反射防止層13側に向けて、カーボン濃度を増加させることで、パターンの断面形状をさらに改善することが可能となる。
これにより、高精細のFPD製造に用いて好適なマスクMを提供することが可能となる。
【0123】
特に、本実施形態にかかるマスクブランクスMBでは、マスクMの光学仕様(光学特性)として、低反射率、高光学濃度を維持・実現することが可能となる。
しかも、これらの光学仕様(光学特性)および、パターン形状の維持のために、ガス流量を設定するだけで、上記のマスクブランクスMB、マスクMを実現することができる。
【0124】
また、本実施形態にかかるマスクMでは、露光光の波長としてi線、h線、g線からなる複合波長を用いた場合に対して、光学濃度ODの値5.0以上と、反射率5%以下の値と、の状態を維持することができる。
さらに、本実施形態にかかるマスクMでは、露光光として波長436nmを用いた場合に対して、光学濃度ODの値5.0以上と、の反射率5%以下の値と、の状態を維持することができる。
【0125】
ここで、本実施形態にかかるマスクMでは、適応される露光光の波長の範囲に対して、その一部で、上記の光学仕様(光学特性)を維持する。好ましくは、この適応される露光光の波長の範囲において、中程であるh線に対応する露光光に対して、上記の光学仕様(光学特性)を維持する。
あるいは、光学濃度と反射率の値を必要に応じて調整することができる。
【0126】
本実施形態にかかるマスクブランクスMBの反射防止層13、遮光層11A、エッチングレート低減層12、遮光層11Bにおいては、マスクMを使用した露光工程時に、波長405nmの透過光に対する光学仕様(光学特性)が上述した範囲となるように設定されることができる。
【0127】
図5は、本実施形態におけるマスクブランクスにおける遮光層(低酸素濃度Cr膜)厚と、反射率との関係を示すグラフである。
図6は、本実施形態におけるマスクブランクス
における反射防止層(高酸素濃度Cr膜)厚と、反射率との関係を示すグラフである。
ここで、本実施形態のマスクブランクスMBにおける反射率は、
図5に示すように、遮光層11Aの厚さによって変動する。したがって、5%程度以下となる低反射率を実現するためには、遮光層11Aの厚さを20nm以上に設定することが必要である。ここで、
図5における反射率の測定波長は405nmである。
【0128】
ここで、遮光層11A,遮光層11Bの厚さに対して、エッチングレート低減層12の膜厚は、露光の際に用いられる光の波長により適宜変更することが望ましい。その結果、露光に用いられる光の干渉効果の影響を低減することができる。
【0129】
また、本実施形態のマスクブランクスMBにおける反射率は、
図6に示すように、反射防止層13の厚さによって変動する。したがって、5%程度以下となる低反射率を実現するためには、反射防止層13の厚さを規定することが必要である。
図6における遮光層11Aの膜厚は50nmであり、反射率の測定波長は405nmである。したがって、5%程度以下となる低反射率を実現するためには、反射防止層13の厚さが27nm付近となるように設定することが必要である。
【0130】
また、本実施形態のマスクブランクスMBにおけるエッチングレート低減層12の組成は、エッチングレートを反射防止層13に近くするために、酸素濃度が20%以上、炭素濃度は30%以上であることが望ましい。
【0131】
以下、本発明に係るマスクブランクス、マスクの第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図7は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、本実施形態において、上述した第1実施形態と異なるのは、エッチングレート低減層の層数に関する点であり、これ以外の上述した第1実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0132】
本実施形態に係るマスクブランクスMBは、
図7に示すように、透明基板(ガラス基板)Sと、この透明基板Sの上に形成された遮光層11Cと、遮光層11Cの上に形成されたエッチングレート低減層12Bと、エッチングレート低減層12Bの上に形成された遮光層11Bと、遮光層11Bの上に形成されたエッチングレート低減層12Aと、エッチングレート低減層12Aの上に形成された遮光層11Aと、遮光層11Aの上に形成された反射防止層13と、で構成される。
つまり、本実施形態に係るマスクブランクスMBは、遮光層11A,11B,11Cが、エッチングレート低減層12A,12Bによって、厚さ方向に3つに分断されている。
【0133】
遮光層11A、遮光層11B、遮光層11Cは、ほぼ同じ組成とされるが、後述する光学特性を満たしていれば、多少異なる組成とすることもできる。
【0134】
具体的には、遮光層11A、遮光層11B、遮光層11Cにおいては、酸素濃度を膜厚方向で変化させて、ガラス基板S側から反射防止層13側に向けて、酸素濃度を増加させる。つまり、遮光層11Cの酸素濃度よりも遮光層11Bの酸素濃度が高く設定され、遮光層11Bの酸素濃度よりも遮光層11Aの酸素濃度が高く設定される。
【0135】
さらに、遮光層11A、遮光層11B、遮光層11Cにおいては、炭素濃度を膜厚方向で変化させて、ガラス基板S側から反射防止層13側に向けて、炭素濃度を増加させる。つまり、遮光層11Cの炭素濃度よりも遮光層11Bの炭素濃度が高く設定され、遮光層11Bの炭素濃度よりも遮光層11Aの炭素濃度が高く設定される。
【0136】
遮光層11A、遮光層11B、遮光層11Cは、酸素と窒素と炭素を含有するクロムニウム膜を用いて形成される。この際に光学濃度を高めるために遮光層11A、遮光層11B、遮光層11Cの合計膜厚は100nm以上の膜厚であることが望ましい。
【0137】
エッチングレート低減層12Aおよびエッチングレート低減層12Bは、いずれも反射防止層13と同様の膜とすることができる。つまり、エッチングレート低減層12A,12Bは、酸素と窒素と炭素を含有するクロムニウム膜とすることができる。
【0138】
エッチングレート低減層12Aおよびエッチングレート低減層12Bは、厚さ方向において、透明基板Sと遮光層11Aとの界面、および、遮光層11Cと反射防止層13との界面に対して三分の一となる位置にそれぞれ配置される。
【0139】
エッチングレート低減層12Aおよびエッチングレート低減層12Bは、等しい厚さとされることもできる。
あるいは、エッチングレート低減層12Aおよびエッチングレート低減層12Bは、膜厚の寸法を膜厚方向で変化させて、反射防止層13側からガラス基板S側に向けて、膜厚を増加させることもできる。
【0140】
本実施形態のマスクブランクスMBは、第1実施形態と同様に、反射率が5%より小さく設定されており、光学濃度ODの値が5よりも高くなるように設定されている。これにより、マスク(フォトマスク)Mを製造する際に、複合反射を防止するとともに、同時に、必要な光学仕様(光学特性)を満たし、高精細なマスクを製造することが可能となる。
なお、本実施形態のマスクブランクスMBは、第1実施形態と同様に、上記の光学仕様(光学特性)を満たしており、後述するエッチング特性を維持していれば、これ以外の特性は限定されない。
【0141】
なお、上記の反射率を満たすために、遮光層11Aおよび反射防止層13は、第1実施形態と同様の膜厚、組成とすることが必要である。
【0142】
本実施形態においても、マスクブランクスMBから製造されたマスクMは、所望の光学仕様(光学特性)を満たした状態で、遮光層11A~11Cにおける凹部Xが大きく形成されることがない。特に、高酸素濃度のエッチングレート低減層12A,12Bを遮光層11A~11Cの間に設けることによって、反射防止層13と遮光層11Aとの界面近傍での方向SSに向かう突出形状を抑制することが可能になる。この結果、遮光層11A,11Bの過剰なエッチングを抑制することができる。したがって、各パターン13a,11Aa,12a,11Baの形状が所望の状態からずれてしまうことを防止できる。
【0143】
本実施形態にかかるマスクブランクスMBから製造されたマスクMは、上述したように、所望の光学仕様(光学特性)を満たした状態で、遮光層11A~11Cにおける凹部Xが大きく形成されることがない。
【0144】
特に、高酸素濃度のエッチングレート低減層12A,12Bを遮光層11A~11Cの間に設けることによって、エッチングレート低減層12Aと遮光層11Aとの界面近傍での方向SSに向かう突出形状を抑制することが可能になる。同様に、高酸素濃度のエッチングレート低減層12Aによって、エッチングレート低減層12Aと遮光層11Bとの界面近傍での方向SSに向かう突出形状を抑制することが可能になる。
【0145】
同様に、高酸素濃度のエッチングレート低減層12Bによって、エッチングレート低減層12Bと遮光層11Bとの界面近傍での方向SSに向かう突出形状を抑制することが可能になる。同様に、高酸素濃度のエッチングレート低減層12Bによって、エッチングレート低減層12Bと遮光層11Cとの界面近傍での方向SSに向かう突出形状を抑制することが可能になる。
【0146】
また、遮光層11A~11Cがエッチングレート低減層12A,12Bによって分割されているため、遮光層11A~11Cにおいてそれぞれの膜厚寸法をさらに小さくすることができ、奥行き方向ssに向かう突出形状を抑制することが可能になる。
この結果、遮光層11A~11Cの過剰なエッチングをさらに抑制することができる。したがって、パターン形状の悪化をより一層防止することができる。
【0147】
さらに、遮光層11A~11Cの炭素濃度を膜厚方向で変化させて、ガラス基板S側から反射防止層側に向けて、カーボン濃度を増加させることで、パターンの断面形状をさらに改善することが可能となる。
これにより、高精細のFPD製造に用いて、さらに好適なマスクMを提供することが可能となる。
【0148】
本実施形態においては、上述した実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0149】
以下、本発明に係るマスクブランクス、マスクの第3実施形態を、図面に基づいて説明する。
図8は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、本実施形態において、上述した第1実施形態と異なるのは、積層順に関する点であり、これ以外の上述した第1実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0150】
本実施形態に係るマスクブランクスMBは、
図8に示すように、透明基板(ガラス基板)Sと、この透明基板Sの上に形成された反射防止層13と、反射防止層13の上に形成された遮光層11Bと、遮光層11Bの上に形成されたエッチングレート低減層12と、エッチングレート低減層12の上に形成された遮光層11Aと、で構成される。
つまり、本実施形態に係るマスクブランクスMBは、遮光層11A,11Bが、エッチングレート低減層12によって、厚さ方向に分断されている。
【0151】
本実施形態にかかるマスクブランクスMBから製造されたマスクMは、上述したように、所望の光学仕様(光学特性)を満たした状態で、遮光層11A,11Bにおける凹部Xが大きく形成されることがない。
なお、本実施形態における反射率は、ガラス基板Sを透過した光に対して所定値に設定することができる。
【0152】
この状態で、高酸素濃度のエッチングレート低減層12を遮光層11Aと遮光層11Bとの間に設けることによって、反射防止層13と遮光層11Aとの界面近傍での方向SSに向かう突出形状を抑制することが可能になる。この結果、遮光層11A,11Bの過剰なエッチングを抑制することができる。したがって、パターン形状の悪化を防止することができる。
【0153】
本実施形態においては、上述した実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0154】
以下、本発明に係るマスクブランクス、マスクの第4実施形態を、図面に基づいて説明する。
図9は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、本実施形態において、上述した第2実施形態と異なるのは、積層順に関する点であり、これ以外の上述した第2実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0155】
本実施形態に係るマスクブランクスMBは、
図9に示すように、透明基板(ガラス基板)Sと、この透明基板Sの上に形成された反射防止層13と、反射防止層13との上に形成された遮光層11Cと、遮光層11Cの上に形成されたエッチングレート低減層12Bと、エッチングレート低減層12Bの上に形成された遮光層11Bと、遮光層11Bの上に形成されたエッチングレート低減層12Aと、エッチングレート低減層12Aの上に形成された遮光層11Aと、で構成される。
つまり、本実施形態に係るマスクブランクスMBは、遮光層11A,11B,11Cが、エッチングレート低減層12A,12Bによって、厚さ方向に3つに分断されている。
【0156】
本実施形態にかかるマスクブランクスMBから製造されたマスクMは、上述したように、所望の光学仕様(光学特性)を満たした状態で、遮光層11A~11Cにおける凹部Xが大きく形成されることがない。
なお、本実施形態における反射率は、ガラス基板Sを透過した光に対して所定値に設定することができる。
【0157】
本実施形態においては、上述した実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0158】
以下、本発明に係るマスクブランクス、マスクの第5実施形態を、図面に基づいて説明する。
図10は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、本実施形態において、上述した第2実施形態と異なるのは、反射防止層の層数に関する点であり、これ以外の上述した第1実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0159】
本実施形態に係るマスクブランクスMBは、
図10に示すように、透明基板(ガラス基板)Sと、この透明基板Sの上に形成された反射防止層13Bと、反射防止層13Bの上に形成された遮光層11Bと、遮光層11Bの上に形成されたエッチングレート低減層12と、エッチングレート低減層12の上に形成された遮光層11Aと、遮光層11Aの上に形成された反射防止層13Aと、で構成される。
つまり、本実施形態に係るマスクブランクスMBは、両面に反射防止層13A,13Bが形成されて、その間の遮光層11A,11Bが、エッチングレート低減層12によって、厚さ方向に分断されている。
【0160】
反射防止層13は、厚さ方向における遮光層11A,11Bと同様にCr(クロム)を含む。さらに、反射防止層13は、O(酸素)を含有するクロム酸化膜とされる。また、反射防止層13は、C(炭素)および/またはN(窒素)を含有することができる。反射防止層13の膜厚は、露光工程においてマスクとして用いられる際の露光波長(波長領域は365~436nm)、および、露光波長に規定される必要な光学濃度、反射率等により設定される。
【0161】
反射防止層13Bとしては、反射防止層13Aと同等の層構成とされている。
また、反射防止層13Bとしては、反射防止層13Bの屈折率と遮光層11Bの屈折率との差を大きくすることで反射率を低減することが可能となる。
このため、反射防止層13Bとして用いられる酸素と窒素と炭素を含有するクロムニウム膜において、波長365~436nmにおける屈折率が2.5以下、消衰係数が1.0以下であることが望ましい。
【0162】
あるいは、反射防止層13Bは、厚み25nm程度より大きく設定されることができる。また、反射防止層13Bの膜厚は15~40nmであることが望ましい。
【0163】
同時に、反射防止層13Bの反射率を5%程度より小さく設定するために、酸素含有率も所定範囲とされることが必要である。具体的には、酸素含有率が30atm%程度、あるいはそれ以上の酸素含有率となるように設定される。さらに、反射防止層13Bとして用いられるクロムニウム膜に含まれる酸素濃度は50%以上であることが望ましい。
【0164】
低酸素濃度領域となる遮光層11Bと高酸素領域となる反射防止層13Bとにおいては、これらの界面を形成するように成膜される。
【0165】
ここで、本実施形態のマスクブランクスMBにおける反射率は、
図5に示した第1実施形態と同様に、遮光層11Bの厚さによって変動する。したがって、5%程度以下となる低反射率を実現するためには、遮光層11Bの厚さを20nm以上に設定することが必要である。ここで、ガラス基板S側からの反射率の測定波長は、
図5と同様に405nmである。
【0166】
また、本実施形態のマスクブランクスMBにおける反射率は、
図6に示した第1実施形態と同様に、反射防止層13Bの厚さによって変動する。したがって、5%程度以下となる低反射率を実現するためには、反射防止層13Bの厚さを規定することが必要である。
図6に示した第1実施形態と同様に、遮光層11Bの膜厚は50nmであり、反射率の測定波長は405nmである。したがって、5%程度以下となる低反射率を実現するためには、反射防止層13Bの厚さが27nm付近となるように設定することが必要である。
【0167】
本実施形態にかかるマスクブランクスMBから製造されたマスクMは、所望の光学仕様(光学特性)を満たした状態で、遮光層11A,11Bにおける凹部Xが大きく形成されることがない。
【0168】
図13は、反射防止層が両面に設けられ、遮光層が一層として形成されたマスクの例を示す断面図である。
ここで、
図12に示した例と同様に、
図13に示すように、遮光層11が一層として形成された場合を考える。
【0169】
この場合、
図13に示すように、一層である遮光層11では、ウェットエッチングされた際に、透過領域の側面部分が、奥行き方向ssに過剰にエッチングされてしまい、遮光層11の側面部分に凹部Xが形成されて形成されてしまう。この状態が、パターン形状の悪化の発生した状態である。
【0170】
これに対して、本実施形態のマスクブランクスMBあるいは、マスクMにおいては、エッチングレート低減層12が、遮光層11A,11Bよりも酸素濃度、炭素濃度が高くエッチングレートが低い状態、つまり、反射防止層13A,13Bとほぼ同じエッチングレートを有する状態とされている。これにより、遮光層11A,11Bの合計厚さにおける中央位置で、奥行き方向ssにおけるエッチングレート低減層12のエッチング量は、反射防止層13のエッチング量とほぼ同じとなる。
【0171】
また、遮光層11A,11Bとして厚さ方向に分断されており、遮光層11Aおよび遮光層11Bの間に、エッチングレート低減層12が設けられていることで、遮光層11Aにおける奥行き方向ssのエッチング量を抑制することができる。
同様に、エッチングレート低減層12と遮光層11Bとの界面付近において、遮光層11Bが奥行き方向ssのエッチング量を抑制することができる。
【0172】
同時に、
図13に示した一層の遮光層11とされた場合に比べて、遮光層11A,11Bが厚さ方向に分断され、これらの遮光層11A,11Bの間に、エッチングレート低減層12が設けられていることで、遮光層11Aおよび遮光層11Bの厚さ方向寸法が小さくなる。これにより、遮光層11Aおよび遮光層11Bにおける奥行き方向ssのエッチング量をそれぞれ抑制することができる。
【0173】
特に、遮光層11Aが、厚さ方向寸法を小さく設定されるとともに、遮光層11Bよりも酸素濃度、炭素濃度が多少高く設定されて、遮光層11Bよりエッチングレートが多少低い状態として設定されている。これにより、エッチング液に曝される時間が遮光層11Bより長い遮光層11Aにおいて、奥行き方向ssのエッチング量を抑制することができる。つまり、遮光層11Aにおける奥行き方向ssにおける凹部Xの寸法と、遮光層11Bにおける奥行き方向ssにおける凹部Xの寸法と、がほぼ同じ値に設定することができる。これにより、遮光層11Aおよび遮光層11Bの厚さ方向の位置による形状の差を低減することができる。
【0174】
これらにより、
図13に示すように、遮光層11A,11Bが合計された膜厚で連続している場合に比べて、奥行き方向ssに形成される凹部Xの影響を削減して、透過領域におけるパターンの側面となる部分を垂直に近い形状に形成することがきる。
【0175】
なお、本実施形態における反射率は、反射防止層13A側から照射された光と、ガラス基板Sを透過した光とに対して、いずれも所定値に設定することができる。つまり、本実施形態にかかるマスクブランクスMBから製造されたマスクMは、両面反射率を5%程度以下に設定することができる。
【0176】
本実施形態においては、上述した実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0177】
以下、本発明に係るマスクブランクス、マスクの第6実施形態を、図面に基づいて説明する。
図11は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、本実施形態において、上述した第5実施形態と異なるのは、反射防止層の層数に関する点であり、これ以外の上述した第5実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0178】
本実施形態に係るマスクブランクスMBは、
図11に示すように、透明基板(ガラス基板)Sと、この透明基板Sの上に形成された反射防止層13Bと、反射防止層13Bと、反射防止層13Bの上に形成された遮光層11Cと、遮光層11Cの上に形成されたエッチングレート低減層12Bと、エッチングレート低減層12Bの上に形成された遮光層11Bと、遮光層11Bの上に形成されたエッチングレート低減層12Aと、エッチングレート低減層12Aの上に形成された遮光層11Aと、遮光層11Aの上に形成された反射防止層13Aと、で構成される。
つまり、本実施形態に係るマスクブランクスMBは、両面に反射防止層13A,13Bが形成されて、その間の遮光層11A,11B,11Cが、エッチングレート低減層12A,12Bによって、厚さ方向に3つに分断されている。
【0179】
本実施形態においても、マスクブランクスMBから製造されたマスクMは、所望の光学仕様(光学特性)を満たした状態で、遮光層11A~11Cにおける凹部Xが大きく形成されることがない。
また、本実施形態にかかるマスクブランクスMBから製造されたマスクMは、両面反射率を5%程度以下に設定することができる。
【0180】
本実施形態においては、上述した実施形態と同等の効果を奏することができる。
【実施例】
【0181】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0182】
<実験例1>
まず、実験例1として、
図13に示したマスクに対応して、両面に反射防止層を設け、遮光層が複数層に分断されていないマスクブランクスを製造した。
【0183】
まず、マスクを形成するためのガラス基板上に、ガラス裏面からの反射率を低減するために反射防止層を形成する。この際に形成する反射防止層はクロムニウム、酸素、窒素、炭素等を含有する膜であることが望ましい。反射防止層としてはクロムニウム、酸素、窒素、炭素の組成と膜厚を制御することで所望の反射率を有する反射防止層を形成することが可能である。
【0184】
FPDの露光工程に用いられる光の波長領域は365~436nmであるので、この領域の波長における反射率を低減することが求められる。反射防止層としては、反射防止層の屈折率と遮光層の屈折率との差を大きくすることで反射率を低減することが可能となる。
【0185】
そのため、反射防止層として用いられる酸素と窒素と炭素を含有するクロムニウム膜の波長365~436nmにおける屈折率は2.5以下であり、消衰係数は1.0以下であることが望ましい。また、反射防止層の膜厚は15~40nmであることが望ましい。反射防止層として用いられるクロムニウム膜に含まれる酸素濃度は50%以上であることが望ましい。
【0186】
その後、遮光層を酸素と窒素と炭素を含有するクロムニウム膜を用いて形成する。この際に光学濃度を高めるために遮光層の膜厚は100nm以上の膜厚であることが望ましい。
その後、先に記載した酸素と窒素と炭素を含有するクロムニウム膜を用いた反射防止層と同様の膜を遮光層の上に形成する。
このとき、OD値を5程度に設定した。
【0187】
このようにして形成したマスクブランクスを用いて、マスクを形成する。
【0188】
<実験例2>
次に、実験例2として、
図10に示すように、両面に反射防止層を設け、遮光層が二層に分断されたマスクブランクスを製造した。
このように、遮光層を3層化して酸素濃度と炭素濃度の高い領域(エッチングレート低減層)を1層形成したマスクブランクスを用いて、マスクを形成する。
【0189】
<実験例3>
さらに、実験例3として、
図11に示すように、両面に反射防止層を設け、遮光層が3層に分断されたマスクブランクスを製造した。
このように、遮光層を5層化して酸素濃度と炭素濃度の高い領域(エッチングレート低減層)を2層形成したマスクブランクスを用いて、マスクを形成する。
【0190】
上記の実験例1~3について、マスクブランクスにおけるOD値、および、反射率を測定した。その結果を表1に示す。
【0191】
【0192】
表において、膜面反射率は、最上位置に積層された反射防止層13A側での反射率測定、ガラス面反射率は、ガラス基板Sを透過した際の反射率の測定結果を示している。
この結果から、実験例1~3のマスクでは、いずれも、反射率と光学濃度については、所望の特性を満たすことが可能なことがわかる。
【0193】
上記の実験例1~3について、マスクにおける断面を撮影した。その結果を
図14~
図16に示す。
図14~
図16において、いずれも、SEM映像である。
【0194】
実験例1のマスクでは、マスクの断面形状が、
図14に示すように、遮光層の部分が大きくエッチングされた形状になってしまう。
これは、ウェットエッチングの際のエッチングレートが反射防止層と遮光層で大きく異なるために生じる。
【0195】
実験例2のマスクでは、
図15に示すように、遮光層中に酸素濃度と炭素濃度の高い領域(エッチングレート低減層)を1層形成することでマスクの断面形状が改善できていることがわかる。
これは酸素濃度と炭素濃度を高めることで、この領域(エッチングレート低減層)のエッチングレートを低減することが可能であり、従来問題となっていた膜厚中央部の過剰なエッチングを抑制することができるためである。
【0196】
実験例3のマスクでは、
図16に示すように、遮光層中に酸素濃度と炭素濃度の高い領域(エッチングレート低減層)を2層形成することでマスクの断面形状が、さらに改善できていることがわかる。
これは酸素濃度と炭素濃度を高めることで、この領域(エッチングレート低減層)のエッチングレートを低減することが可能であり、従来問題となっていた膜厚中央部の過剰なエッチングを、よりいっそう抑制することができるためである。
【0197】
また、これらの実験例1~3について、組成分析をおこなった。その結果を
図17~
図19に示す。
ここでは、組成分析はオージェ電子分光法を用いて行った。
図17~
図19において、いずれも、縦軸は、各組成の濃度(atm%)、横軸は、表面からの距離(深さ)を意味するスパッタリング時間である。なお、
図17~
図19において、左がスパッタリングを開始した表面側、右がガラス基板側を示している。
【0198】
実験例1のマスクブランクスでは、
図17に示すように、厚さ方向の表面側に酸素濃度の高い反射防止層が形成され、厚さ方向の中央位置にCr濃度が高い遮光層が形成され、厚さ方向で右側にまた酸素濃度の高い反射防止層が形成されていることがわかる。
【0199】
実験例2のマスクブランクスでは、
図18に示すように、厚さ方向の表面側に酸素濃度の高い反射防止層が形成され、厚さ方向の中央位置にCr濃度が高い遮光層が形成され、厚さ方向で右側にまた酸素濃度の高い反射防止層が形成されていることがわかる。
また、実験例2のマスクブランクスでは、
図18に示すように、膜厚中央部に酸素濃度と炭素濃度の高い領域(エッチングレート低減層)が形成されているおり、遮光層を3層に分割したことが確認できる。
さらに、実験例2のマスクブランクスでは、
図18に示すように、遮光層において、ガラス基板側から表面側に向けて、酸素濃度、および炭素濃度がいずれもエッチングレート低減層を挟んで段階的に増加するように形成されていることがわかる。
【0200】
実験例3のマスクブランクスでは、
図19に示すように、厚さ方向の表面側に酸素濃度の高い反射防止層が形成され、厚さ方向の中央位置にCr濃度が高い遮光層が形成され、厚さ方向で右側にまた酸素濃度の高い反射防止層が形成されていることがわかる。
また、実験例3のマスクブランクスでは、
図19に示すように、2層目と4層目に酸素濃度と炭素濃度の高い領域(エッチングレート低減層)が形成されているおり、遮光層を5層に分割したことが確認できる。
さらに、実験例3のマスクブランクスでは、
図19に示すように、遮光層において、ガラス基板側から表面側に向けて、酸素濃度、および炭素濃度がいずれもエッチングレート低減層を挟んで段階的に増加するように形成されていることがわかる。
【0201】
これらの結果から、遮光層中に酸素濃度の高い領域(エッチングレート低減層)を形成することで、パターン形状悪化の問題を解決できることを見出した。
【0202】
本発明においては、
図16,
図19に示すように、遮光層を5層に分割した構成を例示したが、遮光層の分割数は7以下とすることが好ましい。ここで、エッチングレート低減層を3層形成することは可能であるが、遮光層の分割数は5以下、つまり、エッチングレート低減層を2層形成する構成とすることがより好ましい。これは、光路長から要請される遮光層の膜厚に対して、分割数が多くなりすぎると、各層を良好に形成することが難しくなるからである。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明の活用例として、高精細フラットパネルディスプレイ用のマスクブランクスおよびマスクを挙げることができる。
【符号の説明】
【0204】
M…マスク(フォトマスク)
MB…マスクブランクス
11A,11B,11C…遮光層
11Aa,11Ba…遮光パターン
12,12A,12B…エッチングレート低減層
13,13A,13B…反射防止層
S…ガラス基板(透明基板)
X…凹部