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特許7217627SiC単結晶の製造装置及びSiC単結晶製造用の構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】SiC単結晶の製造装置及びSiC単結晶製造用の構造体
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20230127BHJP
   C30B 23/00 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018234850
(22)【出願日】2018-12-14
(65)【公開番号】P2020093965
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】藤川 陽平
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-143497(JP,A)
【文献】特開2008-095196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向にSiCの単結晶が成長できる成長空間を内部に有する成長容器と、
前記成長容器を覆い、複数のユニットを含む断熱材と、を有し、
前記複数のユニットは、第1ユニットと、前記第1ユニットと少なくとも熱伝導率の異なる第2ユニットと、を有し、
前記第1ユニットは、
黒鉛と金属炭化物とのうち少なくとも一方からなる容器と、
前記容器内に交換可能に封入された充填材と、を有し、
前記充填材は、SiC又は金属炭化物の粉体又は板材である、SiC単結晶の製造装置。
【請求項2】
前記SiC又は金属炭化物の粉体又は板材は、形状異方性を有する、請求項に記載のSiC単結晶の製造装置。
【請求項3】
前記第1ユニットは、熱伝導率に異方性を有する、請求項1又は2に記載のSiC単結晶の製造装置。
【請求項4】
前記第1ユニットは、前記第2ユニットより熱伝導率が低く、
前記第1ユニットは、前記第1方向において、前記成長容器の単結晶が設置される上壁と対向する下壁の外側を覆い、
前記第2ユニットは、前記第1方向と交差する径方向において、前記成長容器の側壁の外側を覆う、請求項1からのいずれか一項に記載のSiC単結晶の製造装置。
【請求項5】
前記第1ユニットは、前記第2ユニットより熱伝導率が高く、
前記第1ユニットは、前記第1方向において、前記成長容器の単結晶が設置される上壁の外側を覆い、
前記第2ユニットは、前記第1方向において、前記上壁と対向する前記成長容器の下壁の外側を覆う、請求項1からのいずれか一項に記載のSiC単結晶の製造装置。
【請求項6】
前記第1ユニットは、前記第2ユニットより熱伝導率が低く、
前記第1ユニットは、前記成長容器の単結晶が設置される上壁において、前記第1方向からの平面視で前記単結晶と重なる第1部分の外側を覆い、
前記第2ユニットは、前記成長容器の単結晶が設置される上壁の前記第1部分以外の第2部分の外側を覆う、請求項1からのいずれか一項に記載のSiC単結晶の製造装置。
【請求項7】
前記第1ユニットは、前記第2ユニットより熱伝導率が高く、
前記第1ユニットは、前記成長容器の単結晶が設置される上壁において、前記第1方向からの平面視で前記単結晶と重なる第1部分の外側を覆い、
前記第2ユニットは、前記成長容器の単結晶が設置される上壁の前記第1部分以外の第2部分の外側を覆う、請求項1からのいずれか一項に記載のSiC単結晶の製造装置。
【請求項8】
SiCの単結晶が結晶成長する成長容器を覆う断熱材に用いられ、複数のユニットが組み合わさることで前記断熱材となるSiC単結晶の製造用構造体であって、
黒鉛又は金属炭化物からなる容器と、
前記容器内に交換可能に封入された充填材と、を有し、
前記充填材は、SiC又は金属炭化物の粉体又は板材である、SiC単結晶製造用の構造体。
【請求項9】
SiCの単結晶が結晶成長する成長容器と、前記成長容器を輻射熱により加熱するヒータとの間に設けられるSiC単結晶の製造用構造体であって、
黒鉛又は金属炭化物からなる容器と、
前記容器内に交換可能に封入された充填材と、を有し、
第1方向の熱伝導性と、前記第1方向と交差する第2方向の熱伝導性と、が異なる、SiC単結晶製造用の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶の製造装置及びSiC単結晶製造用の構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い。炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiC単結晶基板上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によってSiC半導体デバイスの活性領域となるSiCエピタキシャル膜を成長させることによって製造される。
【0004】
SiC単結晶基板は、SiC単結晶を切り出して作製される。このSiC単結晶は、昇華法等の結晶成長方法によって得られる。昇華法は、黒鉛製の坩堝内に配置した台座にSiC単結晶からなる種結晶を配置し、坩堝を加熱することで坩堝内の原料粉末から昇華した昇華ガスを種結晶に供給し、種結晶をより大きなSiC単結晶へ成長させる方法である。
【0005】
近年、市場の要求に伴い、SiCエピタキシャル膜を成長させるSiC単結晶基板の大口径化が求められている。そのためSiC単結晶自体の大口径化、長尺化の要望も高まっている。SiC単結晶の大口径化、長尺化の要望と共に、高品質化の要望も高まっている。SiC単結晶の結晶成長において、その品質に影響を及ぼす要素は種々存在する。
【0006】
SiC単結晶を結晶成長する際の成長空間内の温度は、SiC単結晶の品質に影響を及ぼす一因である。SiC単結晶は、2000℃近い高温で結晶成長する。成長空間の温度が低下しないように、成長容器の周囲に断熱材が設けられている。断熱材は、炭素繊維を用いた成形断熱材等が用いられる(例えば、特許文献1)。
【0007】
また特許文献2には、SiCウィスカー等の耐熱無機繊維集積物からなるコア材を、アルミナ繊維クロス等のスキン材で覆った断熱材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-086113号公報
【文献】特許第3490628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の成形断熱材は、製造時の加熱むら等により断熱特性に分布が生じ、その断熱特性を十分コントロールできず、成長容器内の温度分布の再現性が低下する。また特許文献2に記載の断熱材は、宇宙往還機やロケット等の機体に用いられるものである。アルミナ繊維クロスは、1500℃程度の耐熱性を有するが、SiC単結晶の成長温度に耐えることができない。したがって、断熱特性を制御でき、且つ、SiC単結晶の成長温度に対して耐熱性を有する断熱材が求められている。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、SiCが結晶成長する成長空間の温度分布を設計できるSiC単結晶の製造装置及び断熱ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、容器に充填される充填材の充填率等を変えることで断熱材の熱伝導率を自由に設計でき、これらをユニットとして組み上げることで、SiCが結晶成長する成長空間の温度分布を設計できることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0012】
(1)第1の態様にかかるSiC単結晶の製造装置は、第1方向にSiCの単結晶が成長する成長空間を内部に有する成長容器と、前記成長容器を覆い、複数のユニットを含む断熱材と、を有し、前記複数のユニットは、第1ユニットと、前記第1ユニットと少なくとも熱伝導率の異なる第2ユニットと、を有し、前記第1ユニットは、黒鉛と金属炭化物とのうち少なくとも一方からなる容器と、前記容器内に交換可能に封入された充填材と、を有する。
【0013】
(2)上記態様に係るSiC単結晶の製造装置において、前記充填材は、SiC又は金属炭化物の粉体又は板材であってもよい。
【0014】
(3)上記態様に係るSiC単結晶の製造装置において、前記SiC又は金属炭化物の粉体又は板材は、形状異方性を有してもよい。
【0015】
(4)上記態様に係るSiC単結晶の製造装置において、前記第1ユニットは、熱伝導率に異方性を有してもよい。
【0016】
(5)上記態様に係るSiC単結晶の製造装置において、前記第1ユニットは、前記第2ユニットより熱伝導率が低く、前記第1ユニットは、前記第1方向において、前記成長容器の単結晶が設置される上壁と対向する下壁の外側を覆い、前記第2ユニットは、前記第1方向と交差する径方向において、前記成長容器の側壁の外側を覆ってもよい。
【0017】
(6)上記態様に係るSiC単結晶の製造装置において、前記第1ユニットは、前記第2ユニットより熱伝導率が高く、前記第1ユニットは、前記第1方向において、前記成長容器の単結晶が設置される上壁の外側を覆い、前記第2ユニットは、前記第1方向において、前記上壁と対向する前記成長容器の下壁の外側を覆ってもよい。
【0018】
(7)上記態様に係るSiC単結晶の製造装置において、前記第1ユニットは、前記第2ユニットより熱伝導率が低く、前記第1ユニットは、前記成長容器の単結晶が設置される上壁において、前記第1方向からの平面視で前記単結晶と重なる第1部分の外側を覆い、前記第2ユニットは、前記成長容器の単結晶が設置される上壁の前記第1部分以外の第2部分の外側を覆ってもよい。
【0019】
(8)上記態様に係るSiC単結晶の製造装置において、前記第1ユニットは、前記第2ユニットより熱伝導率が高く、前記第1ユニットは、前記成長容器の単結晶が設置される上壁において、前記第1方向からの平面視で前記単結晶と重なる第1部分の外側を覆い、前記第2ユニットは、前記成長容器の単結晶が設置される上壁の前記第1部分以外の第2部分の外側を覆ってもよい。
【0020】
(9)第2の態様に係るSiC単結晶の製造用構造体は、SiCの単結晶が結晶成長する成長容器を覆う断熱材に用いられ、複数のユニットが組み合わさることで前記断熱材となるSiC単結晶の製造用構造体であって、黒鉛又は金属炭化物からなる容器と、前記容器内に交換可能に封入された充填材と、を有する。
【0021】
(10)第3の態様に係るSiC単結晶の製造用構造体は、SiCの単結晶が結晶成長する成長容器と、前記成長容器を輻射熱により加熱するヒータとの間に設けられるSiC単結晶の製造用構造体であって、黒鉛又は金属炭化物からなる容器と、前記容器内に交換可能に封入された充填材と、を有し、第1方向の熱伝導性と、前記第1方向と交差する第2方向の熱伝導性と、が異なる。
【発明の効果】
【0022】
上記態様にかかるSiC単結晶の製造装置及びSiC単結晶の製造用構造体によれば、SiCが結晶成長する成長空間の温度分布を設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置の一例の断面図である。
図2】第1実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置を構成する断熱材の第1ユニットの断面図である。
図3】第1実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置の変形例の断面図である。
図4】第2実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置の一例の断面図である。
図5】第3実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置の一例の断面図である。
図6】第4実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置の一例の断面図である。
図7】第5実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0025】
「第1実施形態」
図1は、第1実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置の一例の断面図である。図1に示すSiC単結晶の製造装置101は、成長容器10と断熱材20と支持体30とを有する。成長容器10は、内部に成長空間Kを有する。成長空間K内には、原料Gと種結晶Sとが対向して配置される。図1では、理解を容易にするために、原料Gと種結晶Sとを同時に図示する。
【0026】
まず方向について定義する。製造装置101内において原料Gから種結晶Sへ向かう方向を第1方向という。第1方向は、例えば、図1における上下方向である。以下、便宜上、成長空間Kにおいて種結晶Sが設置される側を「上」、原料Gが充填される側を「下」という。また第1方向と交差する(略直交する)方向を径方向という。径方向は、例えば、図1における左右方向である。
【0027】
成長容器10は、例えば、SiC単結晶の成長に用いられる坩堝又は炉である。昇華法の場合、成長容器10は坩堝であり、ガス法等の場合、成長容器10は炉である。成長容器10は、成長容器10の径方向に設けられたコイル等からの誘導加熱により加熱される。
【0028】
成長容器10は、上壁11と側壁12と下壁13と結晶設置部14を有する。上壁11、側壁12及び下壁13は、成長空間Kを囲む。成長空間Kの下壁13側には、原料Gが充填される。上壁11は、成長容器10の第1方向において結晶設置部14が設けられた側の部分である。下壁13は、上壁11と対向する部分である。側壁12は、上壁11と下壁13とを繋ぎ、径方向と交差する部分である。結晶設置部14は、上壁11の成長空間K側に位置する。結晶設置部14には、種結晶Sが設置される。
【0029】
断熱材20は、成長容器10を覆う。断熱材20は、複数のユニットを有する。図1に示す断熱材20は、第1ユニット21、第2ユニット22及び第3ユニット23を有する。
【0030】
第1ユニット21は、成長容器10の下壁13の外側を覆う。第2ユニット22は、成長容器10の側壁12の外側を覆う。第3ユニット23は、成長容器10の上壁11の外側を覆う。
【0031】
図2は、第1実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置101を構成する断熱材20の第1ユニット21の断面図である。第1ユニット21は、容器21Aと充填材21Bとを有する。
【0032】
容器21Aは、黒鉛又は金属炭化物を含む。容器21Aは、全てが黒鉛又は金属炭化物からなってもよく、一部が黒鉛、その他の部分が金属炭化物でもよい。
【0033】
充填材21Bは、交換可能である。図2に示す充填材21Bは、長軸と短軸を有し、形状異方性を有する。図2に示す充填材21Bは、例えば、ウィスカーである。充填材21Bが形状異方性を有すると、第1方向と、第2方向とで熱伝導率に差が生じる。すなわち充填材21Bは、熱伝導率に異方性を有する。第1方向は、充填材21Bの長軸が主として配向する方向である。第2方向は、充填材21Bの短軸が主として配向する方向である。主として配向するとは、例えば任意に選択された10個の充填材21Bの長軸又は短軸のベクトル方向を足し合わせた方向である。
【0034】
充填材21Bは、図2のように形状異方性を有する粉体に限られない。充填材21Bは、形状異方性を有さない粒子でも、板材であってもよい。充填材21Bは、例えば、黒鉛、SiC、金属炭化物(例えば、TaC)からなる。充填材21Bは、好ましくは、SiC及び金属炭化物である。金属炭化物は、成長空間Kから漏れだしたSi系のガスと反応しにくい。
【0035】
第2ユニット22及び第3ユニット23は、例えば、第1ユニット21と同様の構成からなる。第2ユニット22及び第3ユニット23は、炭素繊維を用いた成形断熱材でもよい。
【0036】
第1ユニット21は、第2ユニット22と熱伝導率が異なる。図1に示す製造装置101においては、第1ユニット21は、第2ユニット22より熱伝導率が低い。第3ユニット23の熱伝導率は、特に限定されない。第3ユニット23の熱伝導率は、例えば、第2ユニット22と略同一である。第1ユニット21、第2ユニット22及び第3ユニット23の熱伝導率は、2000℃以上の高温で熱伝導率が10W/mk以下であることが好ましい。
【0037】
第1ユニット21の実効的な熱伝導率は、充填材21Bの充填率、充填材21B自体の熱伝導率、充填材21Bの大きさ等により制御される。第2ユニット22及び第3ユニット23の実効的な熱伝導率も同様である。
【0038】
実効的な熱伝導率は、以下の式(1)で表される。
eff=(1-ε)k+ε(kgas+8/3εσ4T)…(1)
式(1)において、keffは実効的な熱伝導率であり、εは容器21A内の空隙率であり、kgasは容器21A内のガスの熱伝導率であり、εは輻射率であり、σはステファン-ボルツマン定数であり、Tは温度であり、dは粒径である。
【0039】
式(1)に従い、原料粉末の平均粒径、原料の空隙率を変化させると、実効的な熱伝導率は変化する。例えば、原料粉末の平均粒径を大きくすると、熱伝導率は大きくなる。またSiCの昇華温度域(2000℃以上2500℃以下)においては、空隙率が大きいほど原料の熱伝導率は小さくなる。
【0040】
支持体30は、成長容器10を下方から支持する。支持体30は、回転可能でもよい。支持体30が回転することで、原料Gの加熱が均一になる。支持体30は、例えば、黒鉛材からなる。支持体30の熱伝導率は、炭素繊維を用いた成形断熱材より高い。
【0041】
上記製造装置101によれば、SiCが結晶成長する成長空間Kの温度分布を制御できる。支持体30は、断熱材20より熱伝導率が高い。成長容器10の熱は、支持体30を介して下方に逃げやすい。第1ユニット21の熱伝導率を低くすることで、支持体30を介した熱の逃げを抑制できる。その結果、成長空間Kの下方に位置する原料Gが効率的に加熱される。原料Gが効率的に加熱されると、原料ガスが効率的に昇華し、単結晶がより大きく成長する。
【0042】
また第1ユニット21の熱伝導率は、充填材21Bの充填率等によって自由に設計できる。第1ユニット21、第2ユニット22及び第3ユニット23の熱伝導率を設計することで、成長空間K内の温度分布を設計できる。
【0043】
また第1ユニット21における充填材21Bは交換可能である。例えば、充填材21Bが黒鉛からなる場合、充填材21Bは成長容器10から漏れだしたSi系のガスと反応する。充填材21Bを交換可能にすることで、断熱材20全体の交換頻度が下がり、SiC単結晶の製造コストを抑制できる。
【0044】
また第1ユニット21の容器21Aが黒鉛からなる場合、容器21Aを安価に作製できる。一方で、第1ユニット21の容器21Aが金属炭化物からなる場合は、金属炭化物は絶縁体であり、コイルからの誘導が乗らず、加熱されないため、コイルの近傍に配置することができる。
【0045】
(変形例)
図3は、第1実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置の変形例の断面図である。変形例に係る製造装置101Aは、支持体30が成長容器10を直接支持していない点で、上記例に係る製造装置101と異なる。その他の構成は同一であり、同一の符号を付す。
【0046】
支持体30は、第1ユニット21を介して成長容器10を支持する。第1ユニット21は、支持体30と共に、回転可能である。第1ユニット21は、支持体30より熱伝導率が低い。第1ユニット21を介して成長容器10を支持することで、支持体30を介した熱の逃げをより抑制できる。
【0047】
「第2実施形態」
図4は、第2実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置の一例の断面図である。図2に示すSiC単結晶の製造装置102は、断熱材20を構成する各ユニットの配置が、図1に示すSiC単結晶の製造装置101と異なる。その他の構成は同一であり、同一の構成には同一の符号を付す。
【0048】
製造装置102において、第1ユニット21は、成長容器10の上壁11の外側を覆う。第2ユニット22は、成長容器10の下壁13の外側を覆う。第3ユニット23は、成長容器10の側壁12の外側を覆う。
【0049】
第1ユニット21は、第2ユニット22と熱伝導率が異なる。図4に示す製造装置102において、第1ユニット21は、第2ユニット22より熱伝導率が高い。第3ユニット23の熱伝導率は、特に限定されない。第3ユニット23の熱伝導率は、例えば、第2ユニット22と略同一又は第2ユニット22の熱伝導率より低い。
【0050】
第1ユニット21の熱伝導率が第2ユニット22より熱伝導率より高いと、熱伝導率の高い第1ユニット21側が第2ユニット22側より成長空間K内で低温になる。すなわち、成長容器10の上壁11は下壁13より温度が低くなる。SiCの単結晶は、原料Gから昇華した原料ガスが、種結晶Sの表面で再結晶化することで成長する。昇華効率を高めるためには原料Gの温度を高くすることが好ましく、再結晶化の効率を高めるためには種結晶Sの近傍の温度は比較的低くすることが好ましい。したがって、上壁11の温度が下壁13の温度より低いと、単結晶の成長効率が高まる。また温度分布に従い、原料Gから種結晶Sへ向かうガスの流れが形成される。ガスの流れは、単結晶の成長効率を高め、より大きい単結晶が得られる。
【0051】
上述のように、第2実施形態にかかる製造装置102によれば、SiCが結晶成長する成長空間Kの温度分布を制御できる。
【0052】
「第3実施形態」
図5は、第3実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置の一例の断面図である。図3に示すSiC単結晶の製造装置103は、断熱材20を構成する各ユニットの配置が、図1に示すSiC単結晶の製造装置101と異なる。その他の構成は同一であり、同一の構成には同一の符号を付す。
【0053】
製造装置103において、第1ユニット21は、成長容器10の上壁11の第1部分の外側を覆う。第1部分は、第1方向からの平面視で上壁11と単結晶(種結晶S)とが重なる部分である。第2ユニット22は、成長容器10の上壁11の第2部分の外側を覆う。第2部分は、上壁11において第1部分以外の部分である。第3ユニット23は、成長容器10の側壁12及び下壁13の外側を覆う。
【0054】
第1ユニット21は、第2ユニット22と熱伝導率が異なる。図5に示す製造装置103においては、第1ユニット21は、第2ユニット22より熱伝導率が高い。第3ユニット23の熱伝導率は、特に限定されない。第3ユニット23の熱伝導率は、例えば、第2ユニット22と略同一又は第2ユニット22の熱伝導率より高い。
【0055】
第1ユニット21の熱伝導率が第2ユニット22より熱伝導率より高いと、結晶設置部14近傍の等温面Tは、原料Gに向かって凸になる。単結晶は、等温面に沿って成長するため、成長面が凸面の単結晶が得られる。
【0056】
上述のように、第3実施形態にかかる製造装置103によれば、SiCが結晶成長する成長空間Kの温度分布を制御できる。
【0057】
「第4実施形態」
図6は、第4実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置の一例の断面図である。図6に示すSiC単結晶の製造装置103は、第1ユニット21と第2ユニット22の熱伝導率の関係が反対である点が、第3実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置103と異なる。その他の構成は同一であり、同一の構成には同一の符号を付す。
【0058】
製造装置104において、第1ユニット21は、成長容器10の上壁11の第1部分の外側を覆う。第2ユニット22は、成長容器10の上壁11の第2部分の外側を覆う。第3ユニット23は、成長容器10の側壁12及び下壁13の外側を覆う。
【0059】
第1ユニット21は、第2ユニット22と熱伝導率が異なる。図6に示す製造装置103においては、第1ユニット21は、第2ユニット22より熱伝導率が低い。第3ユニット23の熱伝導率は、特に限定されない。第3ユニット23の熱伝導率は、例えば、第2ユニット22と略同一又は第2ユニット22の熱伝導率より高い。
【0060】
第1ユニット21の熱伝導率が第2ユニット22より熱伝導率より低いと、結晶設置部14近傍の等温面Tは、原料Gと反対側に向って凹む。単結晶は、等温面に沿って成長するため、成長面が凹面の単結晶が得られる。
【0061】
上述のように、第4実施形態にかかる製造装置104によれば、SiCが結晶成長する成長空間Kの温度分布を制御できる。
【0062】
「第5実施形態」
図7は、第5実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置の一例の断面図である。図7に示すSiC単結晶の製造装置105は、断熱材20と成長容器10との間にヒータ40及び配向材50を有する点が、第1実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置101と異なる。その他の構成は同一であり、同一の構成には同一の符号を付す。
【0063】
ヒータ40は、成長容器10の外側、断熱材20の内側に位置する。ヒータ40は、断熱材20の外周に位置するコイル(図示略)が生じる熱輻射を受けて、誘導加熱により加熱される。発熱したヒータ40は、自身が熱輻射の発生源となり、成長容器10を輻射熱により加熱する。ヒータ40は、例えば、黒鉛部材である。
【0064】
配向材50は、容器と、容器内に充填される充填材とからなる。配向材50は、上記の第1ユニット21と同様の構成である。配向材50は、第1方向と、第2方向とで熱伝導率に差を有する。すなわち配向材50は、熱伝導率に異方性を有する。配向材50の熱伝導率の異方性は、例えば、充填する充填材のアスペクト比、充填材の材料、等によって形成される。配向材50の第1方向の熱伝導率は、径方向の熱伝導率より高い。
【0065】
ヒータ40から輻射によって配向材50に伝わる熱は、径方向より第1方向に伝わりやすい。そのため、熱は、配向材50において第1方向に広がる。配向材50によって第1方向に広がった熱は、成長容器10を加熱する。配向材50は、第1方向における温度勾配を抑制し、原料Gの均熱加熱を可能にする。
【0066】
また配向材50の容器が黒鉛からなる場合、配向材50も熱輻射の発生源となる。そのため、配向材50は、第2のヒータとして機能する。
【0067】
上述のように、第4実施形態にかかる製造装置104によれば、SiCが結晶成長する成長空間Kの温度分布を制御できる。
【0068】
以上、いくつかの実施形態について説明したが、実施形態は上記例に限定されない。例えば、第1実施形態から第5実施形態の特徴をそれぞれ組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0069】
10 成長容器
11 上壁
12 側壁
13 下壁
14 結晶設置部
20 断熱材
21 第1ユニット
21A 容器
21B 充填材
22 第2ユニット
23 第3ユニット
30 支持体
40 ヒータ
50 配向材
101、101A 製造装置
G 原料
K 成長空間
S 種結晶
T 等温面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7