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特許7217648有機溶剤と水とを含む混合液の脱水装置及び脱水方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】有機溶剤と水とを含む混合液の脱水装置及び脱水方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/36 20060101AFI20230127BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
B01D61/36
B01D61/58
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019046690
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020146635
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴垣 裕志
(72)【発明者】
【氏名】増子 尚武
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-304453(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207431(WO,A1)
【文献】特開平06-262041(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0283489(US,A1)
【文献】特開2011-245472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
B01D 53/22
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤と水とを含む混合液から水分の一部を除去し、前記有機溶剤の濃縮液を生成する第1の浸透気化膜モジュールと、
前記第1の浸透気化膜モジュールの下流に位置し、前記有機溶剤の濃縮液からさらに水分を除去する第2の浸透気化膜モジュールと、
前記第2の浸透気化膜モジュールの透過室と連通し、前記透過室に透過した透過蒸気を冷却し凝縮して透過液を生成する冷却器と、
前記冷却器の下流で前記冷却器と連通し、内部が負圧に維持可能で、前記透過液を貯蔵可能な透過液タンクと、
前記透過液タンクの下流に位置し、前記透過液を加熱するヒータと、
前記ヒータで加熱された前記透過液を前記第1の浸透気化膜モジュールの入口側に戻す戻りラインと
前記第1の浸透気化膜モジュールの透過室に接続され、冷却水との熱交換によって前記第1の浸透気化膜モジュールの透過室に透過した透過蒸気を冷却し、前記透過液タンクから排出される透過液より高温の冷却排水を排出する熱交換器と、
前記冷却排水の排出ラインと、を有し、
前記ヒータは前記排出ラインを流れる前記冷却排水との熱交換によって前記透過液を加熱する、脱水装置。
【請求項2】
前記第2の浸透気化膜モジュールの下流に前記第1及び第2の浸透気化膜モジュールとともに直列に配置され、前記有機溶剤の濃縮液からさらに水分を除去する少なくとも一つの他の浸透気化膜モジュールと、
前記他の浸透気化膜モジュールの透過室とそれぞれ連通し、前記他の浸透気化膜モジュールの透過室に透過した透過蒸気を冷却し凝縮して透過液を生成する少なくとも一つの他の冷却器と、
前記他の冷却器の下流で前記他の冷却器とそれぞれ連通し、内部が負圧に維持可能で、前記透過液を貯蔵可能な少なくとも一つの他の透過液タンクと、
前記他の透過液タンクの下流にそれぞれ位置し、前記透過液を加熱する少なくとも一つの他のヒータと、を有し、
前記冷却排水の排出ラインは前記他のヒータの各々と接続される分岐ラインを有し、前記他のヒータは前記分岐ラインを流れる前記冷却排水との熱交換によって前記透過液を加熱する、請求項1に記載の水装置。
【請求項3】
前記透過液タンクと前記第2の浸透気化膜モジュールの透過室との連通を遮断する手段と、
前記透過液タンクに接続された不活性ガスの供給手段と、を有し、
前記不活性ガスの供給手段は、前記透過液タンクと前記透過室との連通が遮断されたときに、前記透過液タンクの内部に貯留されている透過液を前記戻りラインに排出可能な圧力を前記透過液タンクに印加可能である、請求項1または2に記載の脱水装置。
【請求項4】
前記有機溶剤はNMPである、請求項1からのいずれか1項に記載の脱水装置。
【請求項5】
第1の浸透気化膜モジュールによって、有機溶剤と水とを含む混合液から水分の一部を除去し、前記有機溶剤の濃縮液を生成することと、
前記第1の浸透気化膜モジュールの透過室に接続された熱交換器によって、冷却水との熱交換により、前記第1の浸透気化膜モジュールの透過室に透過した透過蒸気を冷却し、透過液タンクから排出される透過液より高温の冷却排水を排出することと、
前記第1の浸透気化膜モジュールの下流に位置する第2の浸透気化膜モジュールによって、前記有機溶剤の濃縮液からさらに水分を除去することと、
前記第2の浸透気化膜モジュールの透過室と連通する冷却器によって、前記透過室に透過した透過蒸気を冷却し凝縮して透過液を生成することと、
前記冷却器の下流で前記冷却器と連通し、内部が負圧に維持された前記透過液タンクに、前記透過液を移送することと、
ヒータによって、前記透過液タンクから排出される前記透過液を加熱することと、
加熱された前記透過液を前記第1の浸透気化膜モジュールの入口側に戻すことと、
を有し、
前記ヒータは前記冷却排水との熱交換によって前記透過液を加熱する、浸透気化膜モジュールを用いた有機溶剤と水とを含む混合液の脱水方法。
【請求項6】
前記第2の浸透気化膜モジュールの下流に前記第1及び第2の浸透気化膜モジュールとともに直列に配置された少なくとも一つの他の浸透気化膜モジュールによって、前記有機溶剤の濃縮液からさらに水分を除去することと、
前記他の浸透気化膜モジュールの透過室とそれぞれ連通した少なくとも一つの他の冷却器によって、前記他の浸透気化膜モジュールの透過室に透過した透過蒸気を冷却し凝縮して透過液を生成することと、
前記他の冷却器の下流で前記他の冷却器とそれぞれ連通し、内部が負圧に維持された少なくとも一つの他の透過液タンクに、前記透過液を貯蔵することと、を有し、
前記他の透過液タンクの下流にそれぞれ位置し、前記透過液を加熱する少なくとも一つの他のヒータと、を有し、
前記冷却排水の排出ラインは前記他のヒータの各々と接続される分岐ラインを有し、前記他のヒータは前記分岐ラインを流れる前記冷却排水との熱交換によって前記透過液を加熱する、請求項5に記載の脱水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤と水とを含む混合液の脱水装置及び脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPという)と水との混合液(以下、NMP水溶液という)から、浸透気化法(PV法)を用いてNMPを分離する方法が知られている。PV法はNMP水溶液を減圧して蒸留する方法(減圧蒸留法)と比べ、省エネルギー性能に優れている。PV法では水と親和性のある分離膜(浸透気化膜)を備えた浸透気化膜モジュールが用いられる。浸透気化膜の入口側にNMP水溶液を供給し透過側を減圧することで、NMP水溶液を入口側から透過側へ移動させる駆動力が得られる。この際、NMPと水の透過速度差により、主に水が透過側に移動し、NMPと水の分離が行われる。
【0003】
特許文献1には、浸透気化膜モジュールが直列に複数段設けられたNMP水溶液の精製システムが開示されている。上流の浸透気化膜モジュールで脱水され濃縮されたNMP水溶液が後段の浸透気化膜モジュールに供給され、水分がさらに除去される。各浸透気化膜モジュールの透過室に透過する透過蒸気は、透過室に接続された熱交換器で凝縮され、透過水となる。下流の浸透気化膜モジュールは上流の浸透気化膜モジュールと比べて水分の除去効率が低く、透過室に漏れ出すNMPの量が相対的に多い。そこで、NMPのロスを抑制するため、下流の浸透気化膜モジュールから生成される透過水は再度上流の浸透気化膜モジュールに供給される。また、下流の浸透気化膜モジュールに接続される熱交換器は、上流より低温の冷却液(冷媒)を用いて透過蒸気を冷却している。これによって、透過室の負圧が高められ、下流の浸透気化膜モジュールの水分除去効率が高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/207431号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたNMP水溶液の精製システムにおいては、透過水は一旦透過水タンクに貯蔵され、透過水タンクに貯蔵された透過水が上流の浸透気化膜モジュールに戻される。透過水タンクは減圧されているため、透過水を戻す際には、透過水タンクの減圧を解除することが望ましい。このため、透過水を戻す操作は間歇的に行われる。一方、透過水は低温の冷媒で冷却されるため、透過水を浸透気化膜モジュールに戻す際に、透過水タンクから浸透気化膜モジュールに供給されるNMP水溶液の温度が一時的に低下する。これによって浸透気化膜モジュールの脱水性能が低下する可能性がある。以上の点についてはNMP以外の有機溶剤と水とを含む混合液についても同様である。
【0006】
本発明は、浸透気化膜モジュールで生成された透過水が上流の浸透気化膜モジュールに戻される、有機溶剤と水とを含む混合液の脱水装置において、透過水が低温であっても脱水性能の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の脱水装置は、有機溶剤と水とを含む混合液から水分の一部を除去し、有機溶剤の濃縮液を生成する第1の浸透気化膜モジュールと、第1の浸透気化膜モジュールの下流に位置し、有機溶剤の濃縮液からさらに水分を除去する第2の浸透気化膜モジュールと、第2の浸透気化膜モジュールの透過室と連通し、透過室に透過した透過蒸気を冷却し凝縮して透過液を生成する冷却器と、冷却器の下流で冷却器と連通し、内部が負圧に維持可能で、透過液を貯蔵可能な透過液タンクと、透過液タンクの下流に位置し、透過液を加熱するヒータと、ヒータで加熱された透過液を第1の浸透気化膜モジュールの入口側に戻す戻りラインと、第1の浸透気化膜モジュールの透過室に接続され、冷却水との熱交換によって第1の浸透気化膜モジュールの透過室に透過した透過蒸気を冷却し、透過液タンクから排出される透過液より高温の冷却排水を排出する熱交換器と、冷却排水の排出ラインと、を有し、ヒータは排出ラインを流れる冷却排水との熱交換によって透過液を加熱する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒータで加熱された透過液が第1の浸透気化膜モジュールの入口側に戻されるため、浸透気化膜モジュールの透過水が低温であっても脱水性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るNMP水溶液の精製システムの概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る脱水装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に適用可能な有機溶剤としては、メタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール類の他、大気圧(0.1013Mpa)での沸点が水の沸点(100℃)よりも高く、好ましくは大気圧下での沸点が浸透気化膜装置の一般的な運転温度である120℃であるかそれ以上である有機溶剤が挙げられる。このような有機溶剤の例を表1に示す。
【0011】
【表1】
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係るNMP水溶液の精製システム1の概略構成図を示している。図中、CWは冷却水を、BR1,BR2はブラインを、STは高温蒸気を意味する。
【0013】
NMPは水に対して高い溶解度を有する有機溶剤の一つである。NMPは、例えば、リチウムイオン二次電池の製造工程において、電極活物質などの粒子を分散させたスラリーを電極集電体上に塗布し乾燥させて電極を形成する際に、スラリーの分散媒として広く用いられている。スラリーを乾燥させる際にNMPが回収され、回収されたNMPは精製した後に再利用することができる。NMPは、例えば水スクラバーを用いて、NMPと水とが混合した混合液(NMP水溶液)として回収される。回収されたNMP水溶液におけるNMP濃度は、70~99重量%程度である。
【0014】
NMP水溶液の精製システム1は、NMP水溶液から微粒子、溶存酸素、イオン成分等を除去する第1のサブシステム100と、微粒子、溶存酸素、イオン成分等が除去されたNMP水溶液から浸透気化膜装置によって水分のほとんどを除去してNMP濃縮液を生成する第2のサブシステム200と、NMP濃縮液を蒸留してNMP精製液を生成する第3のサブシステム300と、を有している。以下、個々のサブシステムの構成を説明する。
【0015】
(第1のサブシステム100)
第1のサブシステム100は、上述のようにして回収された処理対象のNMP水溶液を受け入れる受入部101を有している。NMP水溶液は、水スクラバーなどのNMP回収手段(図示せず)と接続された第1のNMP水溶液供給ラインL101によって、受入部101に供給される。受入部101は複数の容器(第1~第3の容器101a,101b,101c)を有し、これらの容器101a,101b,101cは精製システム1に供給されるNMP水溶液の原液の受け入れ、分析、移送などの目的に応じて切替え可能とされている。分析の結果問題がなければ、NMP水溶液は後段に移送されて精製処理を受け、精製処理に適さない場合は廃液槽(図示せず)に移送される。受入部101は第2のNMP水溶液供給ラインL102を介して、NMP水溶液に含まれる微粒子を除去する第1の精密ろ過膜装置102と接続されている。第2のNMP水溶液供給ラインL102上にはNMP水溶液を圧送するポンプ107が設けられている。第1の精密ろ過膜装置102は膜脱気装置103(後述)の上流に設けられているが、膜脱気装置103の下流、すなわち膜脱気装置103とイオン交換装置104(後述)との間に設けられてもよく、あるいは、膜脱気装置103の上流と、膜脱気装置103とイオン交換装置104との間の両方に設けられてもよい。
【0016】
第1の精密ろ過膜装置102は第3のNMP水溶液供給ラインL103を介して、NMP水溶液の溶存酸素を除去する膜脱気装置103と接続されている。後述するように、NMP水溶液は浸透気化膜装置201に導入される前に120℃程度まで加熱される。120℃程度まで加熱されたNMP水溶液では、NMP水溶液中に含まれる溶存酸素が過酸化水素になり、この過酸化水素がNMPを酸化させ、劣化させる可能性がある。予めNMP水溶液中の溶存酸素を除去することによって、NMPの酸化を抑制することができる。溶存酸素の濃度を監視するため、膜脱気装置103の入口ラインL103と出口ラインL104には溶存酸素計(図示せず)が設けられている。また、膜脱気装置103の入口ラインL103には水分濃度計と比抵抗計(ともに図示せず)が設けられている。受入部101の下流のポンプ107と第1の精密ろ過膜装置102との間にはヒータ108が設けられている。ヒータ108には高温蒸気が供給され、高温蒸気によってNMP水溶液を加熱する。蒸気配管には高温蒸気の流量を調整する流量調整弁V103が設けられている。
【0017】
膜脱気装置103の脱気膜は、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリウレタン、エポキシ樹脂などから形成することができる。NMPは一部の有機材料を溶解させる性質があるため、脱気膜はポリオレフィン、PTFEまたはPFAで形成することが好ましい。脱気膜は非多孔性であることが好ましい。中空糸状の脱気膜の内部を流れるNMP水溶液の溶存酸素が、真空ポンプ109によって負圧にされた脱気膜の外部に移動することによって、脱気、すなわち溶存酸素の除去が行われる。なお、脱気膜の外側(ガス透過側)に窒素ガス等の不活性ガスをスウィープして酸素分圧を下げてもよく、真空法とスウィープ法を併用してもよい。
【0018】
膜脱気装置103は第4のNMP水溶液供給ラインL104を介して、NMP水溶液のイオン成分を除去するイオン交換装置104と接続されている。イオン交換装置104にはアニオン交換樹脂もしくはカチオン交換樹脂が単床で、または、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂が混床もしくは複層床で充填されている。なお、イオン交換樹脂の種類は、ゲル型、MR型のいずれでもよい。イオン交換装置104は第5のNMP水溶液供給ラインL105を介して第2の精密ろ過膜装置105と接続されている。第2の精密ろ過膜装置105はイオン交換装置104から流出する可能性のある樹脂を捕捉し、樹脂の下流への流出を防止する。第2の精密ろ過膜装置105は第6のNMP水溶液供給ラインL106を介して、1次処理液槽106と接続されている。1次処理液槽106は、第1の精密ろ過膜装置102、膜脱気装置103、イオン交換装置104及び第2の精密ろ過膜装置105で処理されたNMP水溶液を受け入れ、受け入れたNMP水溶液を浸透気化膜装置201に供給する。以下、1次処理液槽106に貯留され、浸透気化膜装置201に供給されるNMP水溶液を1次処理液という場合がある。
【0019】
イオン交換装置104の入口ラインL104と出口ラインL105には比抵抗計(図示せず)が設けられている。イオン交換装置104で処理されたNMP水溶液の比抵抗が所定の値より小さい場合、すなわちイオン成分が十分に除去されないときは、イオン交換装置104を通るループに沿ってNMP水溶液を循環させることができる。具体的には、第5のNMP水溶液供給ラインL105から分岐して受入部101に接続された戻りラインL107が設けられている。通常は第5のNMP水溶液供給ラインL105の弁V101が開けられ、戻りラインL107の弁V102が閉じられているが、NMP水溶液の比抵抗が所定の値より小さい場合は第5のNMP水溶液供給ラインL105の弁V101を閉じ、戻りラインL107の弁V102を開く。これによって、受入部101、第1の精密ろ過膜装置102、膜脱気装置103、イオン交換装置104を通る循環ループが形成される。NMP水溶液がこの循環ループに沿って流れることで、NMP水溶液に含まれるイオン成分が十分に除去される。
【0020】
なお、前述の膜脱気装置103で処理されたNMP水溶液の溶存酸素が所定の値より大きい場合、すなわち溶存酸素が十分に除去されないときも、前述のイオン交換装置104を通るループに沿ってNMP水溶液を循環させることができる。これにより、NMP水溶液に含まれる溶存酸素も十分に除去される。
【0021】
(第2のサブシステム200)
微粒子と溶存酸素とイオン成分が除去され1次処理液槽106に貯蔵された1次処理液は次に第2のサブシステム200に供給され、ほとんどの水分が除去されたNMP濃縮液が生成される。1次処理液槽106は第7のNMP水溶液供給ラインL201を介して、浸透気化膜装置201に接続されている。第7のNMP水溶液供給ラインL201にはポンプ224と弁V201が設けられている。第7のNMP水溶液供給ラインL201には外部蒸気を用いた第1のヒータ205と、第1のヒータ205の上流(一次側)に位置する廃熱回収熱交換器206と、が設置されており、これらの第1のヒータ205及び廃熱回収熱交換器206によってNMP水溶液は120℃程度まで加熱される。浸透気化膜装置201に供給されるNMP水溶液を120℃程度まで加熱することで、浸透気化膜装置201の脱水性能を高めることができる。廃熱回収熱交換器206は、第7のNMP水溶液供給ラインL201を流れるNMP水溶液と、NMP濃縮液排出ラインL204を流れるNMP濃縮液との間で熱交換を行う。第1のヒータ205は外部の蒸気源(図示せず)から供給される高温蒸気によってNMP水溶液を加熱する。第1のヒータ205の蒸気供給ラインには蒸気供給量を調整するための弁V202が設けられている。第1のヒータ205の下流には温度警報表示器223が設けられている。温度警報表示器223で検出された温度に基づき弁V202の開度が調整され、NMP水溶液の温度が120℃程度に制御される。第7のNMP水溶液供給ラインL201の廃熱回収熱交換器206の上流には流量警報表示器225が設けられている。流量警報表示器225で検出された流量に基づき弁V201の開度が調整され、NMP水溶液の流量が所定の範囲内に制御される。
【0022】
浸透気化膜装置201は直列に接続された複数の浸透気化膜モジュール202~204を有している。本実施形態では3台の浸透気化膜モジュール、すなわち上流から下流に向けて第1の浸透気化膜モジュール202、第2の浸透気化膜モジュール203、第3の浸透気化膜モジュール204が直列に接続されているが、台数は3台に限定されない。第1の浸透気化膜モジュール202は第1の接続ラインL202を介して第2の浸透気化膜モジュール203に接続されている。第2の浸透気化膜モジュール203は第2の接続ラインL203を介して第3の浸透気化膜モジュール204に接続されている。第1~第3の浸透気化膜装置202,203,204は分離膜(浸透気化膜)202c、203c、204cによって、上流側の濃縮室202a,203a,204aと下流側の透過室202b,203b,204bとに区画されている。分離膜202c,203c,204cは水に対する親和性を有しているため、水をNMPよりも大きな透過速度で分離膜202c,203c,204cを透過させる。透過室202b,203b,204b側を負圧とすることで、透過速度の大きい水が透過速度の小さい少量のNMPともに蒸気(気相)の形態で透過室202b,203b,204bに移動し、ほとんどのNMPは濃縮室202a,203a,204aに残存する。この原理を用いてNMP水溶液から水分の一部が除去され、NMP水溶液の濃縮液が生成される。第3の浸透気化膜モジュール204の出口では、NMP濃度が99.99%程度まで高められたNMP濃縮液(水分は0.01%未満)が得られる。
【0023】
NMP水溶液は第1~第3の浸透気化膜モジュール202,203,204を順次流通し、徐々にNMP水溶液中の水分が除去される。水分の除去効率を維持するため、第1の接続ラインL202と第2の接続ラインL203にはそれぞれ、第2のヒータ207と第3のヒータ208が設けられている。第2及び第3のヒータ207,208は第1のヒータ205と同様、熱交換器であり、外部の蒸気源から供給される高温蒸気によってNMP水溶液を120℃程度まで加熱する。第2及び第3のヒータ207,208の蒸気供給ラインにはそれぞれ、蒸気供給量を調整するための弁V203,V204が設けられている。第3の浸透気化膜モジュール204から排出されたNMP濃縮水はNMP濃縮液排出ラインL204を通って第3のサブシステム300の中継槽301に供給される。上述のように、NMP濃縮液排出ラインL204を流れるNMP濃縮液は、廃熱回収式熱交換器206によって、第7のNMP水溶液供給ラインL201を流れるNMP水溶液との間で熱交換を行い、NMP水溶液を予熱する。
【0024】
NMP濃縮液排出ラインL204から分岐して1次処理液槽106に接続されるNMP濃縮液の戻りラインL215が設けられている。通常はNMP濃縮液排出ラインL204の弁V205が開かれ、戻りラインL215の弁V206が閉じられ、NMP濃縮液は中継槽301に供給される。一方、中継槽301にNMP濃縮液を供給できない場合などは弁V205が閉じられ、弁V206が開かれて、NMP濃縮液が1次処理液槽106に戻される。なお、NMP濃縮液を1次処理液槽106に返送する場合は、戻りラインL215に設けられた冷却器226によって、NMP濃縮液の温度がNMP水溶液(1次処理液)の温度と同程度になるように冷却水により冷却する。
【0025】
第1~第3の浸透気化膜モジュール202,203,204の透過室202b,203b,204bはそれぞれ第1~第3の透過液排出ラインL206,L209,L212によって第1~第3の透過液タンク214,215,216に接続されている。第1~第3の透過液タンク214,215,216の上部には、透過室201b,202b,203bに負圧を印加し、透過室201b,202b,203bの内部を負圧に維持可能な第1~第3の真空ポンプ217,218,219が設けられている。気相の水と少量のNMPは冷却水またはブラインによって凝縮され、透過液となって第1~第3の透過液タンク214,215,216の底部に収集される。第1~第3の透過液タンク214,215,216は透過液を一時的に貯蔵することができる。具体的には、冷却水CW及びブラインBR1,BR2はそれぞれ、第1~第3の透過液タンク214,215,216の周囲を覆う冷却ジャケット(図示せず)を流れて気相の水及びNMPを保冷し、さらに冷却ラインL207,L210、L213を通って、第1~第3の透過液排出ラインL206,L209,L212に設けられた第1~第3の熱交換器211,212,213に供給され、気相の水及びNMPを凝縮する。ブラインBR1,BR2の温度は0~-20℃程度が好ましい。
【0026】
第1~第3の熱交換器211,212,213はそれぞれ、第1~第3の透過液排出ラインL206,L209,L212を介して第1~第3の浸透気化膜モジュール202,203,204の透過室202b,203b,204bと連通している。第1~第3の熱交換器211,212,213は、透過室202b,203b,204bに透過した透過蒸気を冷却し、凝縮して、透過液を生成する冷却器である。透過室202b,203b,204bは第1~第3の熱交換器211,212,213の下流で第1~第3の透過液タンク214,215,216と連通している。
【0027】
第1~第3の透過液タンク214,215,216の底部にはそれぞれ第1~第3の透過水排出ラインL208,L211,L214が接続されている。第1~第3の透過液タンク214,215,216の上部にはそれぞれ、後述する不活性ガス供給母管L401から分岐した不活性ガス供給ラインL406A,406B,406Cが接続されている。凝縮された水と少量のNMPは第1~第3の透過液タンク214,215,216に一時的に貯蔵され、不活性ガス供給ラインL406A,406B,406Cから供給される不活性ガスで第1~第3の透過液タンク214,215,216の内部を加圧することによって、第1~第3の透過液タンク214,215,216から排出される。第1の透過液タンク214から排出された透過水は廃液槽に排出され、第2~第3の透過液タンク215,216から排出された透過水は後述するように再利用される。
【0028】
第1の透過液タンク214に収集された気相の水と少量のNMPを冷却した冷却水CWは第1の冷却水排出ラインL220に排出される。第1の冷却水排出ラインL220を流れる冷却水の一部は、第1の冷却水排出ラインL220から分岐した冷却水排出ラインL221を通って、第2の透過水排出ラインL211に設けられた熱交換器220に供給され、第2の透過水排出ラインL211を流れるNMPを含む透過水を加熱する。冷却水の残りは、第3の透過水排出ラインL214に設けられた熱交換器221に供給され、第3の透過水排出ラインL214を流れるNMPを含む透過水を加熱する。第2及び第3の透過水排出ラインL211,L214の熱交換器220,221の下流には水分濃度、流量などを計測する計測器222,223が設けられている。
【0029】
最上流の浸透気化膜モジュール、すなわち第1の浸透気化膜モジュール202はCHA型、T型、Y型またはMOR型のゼオライトからなる浸透気化膜202cを有している。最上流の浸透気化膜モジュール以外の浸透気化膜モジュール、すなわち第2及び第3の浸透気化膜モジュール203,204はA型ゼオライトからなる浸透気化膜203c,204cを有している。A型ゼオライトは、比較的安価で脱水性能が高いものの、水分濃度が高いNMP水溶液を処理する場合に、リークや性能低下が生じやすい。これに対し、A型以外のゼオライトは上述の環境でより長期間性能を保持することができる。このため、10~20重量%の水を含有するNMP水溶液を処理する第1の浸透気化膜モジュール202の浸透気化膜202cはCHA型、T型、Y型またはMOR型のゼオライトを用い、水分含有量の少ないNMP水溶液を処理する第2及び第3の浸透気化膜モジュール203,204の浸透気化膜203c,204cはA型ゼオライトを用いている。なお、第1の浸透気化膜モジュール202を構成する複数の浸透気化膜のすべてがCHA型、T型、Y型またはMOR型のゼオライトからなっている必要はなく、一部の膜がA型ゼオライトからなっていてもよい。
【0030】
第3の透過液排出ラインL212には冷却器209とメカニカルブースターポンプ210が設けられている。冷却器209は第3の浸透気化膜モジュール204から排出された透過液を予冷する。メカニカルブースターポンプ210および冷却器209は第3の浸透気化膜モジュール204の透過室204bに大きな負圧を印加するために設けられている。第3の浸透気化膜モジュール204に供給されるNMP水溶液の水分含有量は非常に少ないため、第3の真空ポンプ219に加えてメカニカルブースターポンプ210で十分な負圧を印加することで、水をNMP水溶液から効率的に分離することができる。冷却器209及びメカニカルブースターポンプ210は省略することができる。また、冷却器209とメカニカルブースターポンプ210との間に、冷却器209で凝縮された透過水を貯留するためのポッド(図示せず)を設けることもできる。
【0031】
第2及び第3の浸透気化膜モジュール203,204の透過液は浸透気化膜装置201の上流側に回収される。具体的には第2及び第3の透過液排出ラインL211,L214は透過液回収ラインL205に接続され、透過液回収ラインL205は1次処理液槽106に接続されている。第2及び第3の透過液排出ラインL211,L214から排出される透過液は第1の透過液排出ラインL208から排出される透過液と比べNMPの含有量が高いため、これを回収することで、NMPの回収率を高めることができる。透過液が回収される浸透気化膜モジュールは第2及び第3の浸透気化膜モジュール203,204に限定されず、少なくとも最下流の浸透気化膜モジュール(第3の浸透気化膜モジュール204)の透過液が浸透気化膜装置201の上流側に回収されればよい。透過液は受入部101に回収してもよく、透過液回収ラインL205に分岐ライン(図示せず)を設けることによって、1次処理液槽106と受入部101とに選択的に回収してもよい。
【0032】
(第3のサブシステム300)
第2のサブシステム200で生成されたNMP濃縮液は、ほとんどの水分が除去されている。しかし、NMP濃縮液は色度成分や浸透気化膜モジュールから溶出した浸透気化膜202c,203c,204cの微粒子およびイオン成分をわずかに含むため、さらに浸透気化膜装置201の下流に位置する第3のサブシステム300で蒸留されてNMP精製液が生成される。第3のサブシステム300はNMP濃縮液を蒸留し凝縮することによってNMPの精製液を生成することから、NMP濃縮液の蒸留精製装置として機能する。なお、以下に述べる第3のサブシステム300は単蒸留方式を用いているが、NMP濃縮液を蒸留することが可能な限り蒸留方法は限定されない。例えば、精密蒸留方式を用いることもできる。ただし、エネルギー消費が少ないこと、装置サイズが小さいこと、操作が簡単であることなどの理由から単蒸留方式が好ましい。また、単蒸留方式の中でも、本実施形態で用いている減圧単蒸留方式は熱劣化を防止できる観点から特に望ましい。
【0033】
前述のように、NMP濃縮液は一旦中継槽301に貯留される。第3のサブシステム300は第2のサブシステム200から独立したサブシステムであり、例えば、第2のサブシステム200の運転中に第3のサブシステム300の運転を一時的に停止するといった運用がなされることがある。このため、中継槽301を設けることで、第2のサブシステム200と第3のサブシステム300を、互いの独立性を維持しながらより弾力的に運用することが可能となる。中継槽301は第1のNMP濃縮液供給ラインL301を介して再生器302に接続されている。第1のNMP濃縮液供給ラインL301にはポンプ306と弁V301が設けられている。再生器302は熱交換器であり、後述する蒸発缶303で蒸発したNMP濃縮液(以下、NMP精製ガスという)との間で熱交換を行う。これによって、蒸発缶303の熱負荷を低減することができる。再生器302は第2のNMP濃縮液供給ラインL302を介して蒸発缶303に接続されている。蒸発缶303は外部の蒸気源(図示せず)から供給される高温蒸気によってNMP濃縮液を加熱し蒸発させる。蒸発缶303の蒸気供給ラインには蒸気供給量を調整するための弁V302が設けられている。蒸発缶303の底部には高温の液相のNMP濃縮液が滞留し、その上部に微粒子が除去された気相のNMP精製ガスが形成される。液相のNMP濃縮液に含まれる色度成分も蒸発しにくいため、蒸発缶303の底部に蓄積される。なお、本実施形態における蒸発缶303としては、液膜流下式の蒸発缶を例に挙げて以下に説明するが、液膜流下式以外の蒸発缶、例えばフラッシュ式、カランドリア式などの蒸発缶を用いてもよい。蒸発缶303の底部と頂部には循環ラインL303が接続されており、蒸発缶303を含む循環経路が循環ラインL303によって形成されている。循環経路上では、液相のNMP濃縮液を取り出して蒸発缶303に戻し、液膜流下にて再度加熱するサイクルが繰り返される。蒸気取り出し缶304(後述)の底部には、循環ラインL303と合流するNMP濃縮液取り出しラインL306が設けられている。蒸気取り出し缶304の底部に滞留するNMP濃縮液も、NMP濃縮液取り出しラインL306と循環ラインL303を通って蒸発缶303に戻され、再度加熱される。循環ラインL303には循環ポンプ307と弁V303が設けられている。循環ラインL303からは、弁V304が設けられたNMP濃縮液の不純物排出ラインL309が分岐している。
【0034】
蒸発缶303のNMP精製ガスは蒸発缶303の気相部から取り出され、第1のNMP精製ガス取り出しラインL304によって蒸気取り出し缶304に取り出される。蒸気取り出し缶304は第2のNMP精製ガス取り出しラインL305を介して再生器302と接続されている。NMP精製ガスの熱は再生器302で液相のNMP濃縮液と熱交換される。再生器302を出たNMP精製ガスはさらに第3のNMP精製ガス取り出しラインL307によってコンデンサ305に導入され、冷却水CWによって凝縮されてNMP精製液となる。コンデンサ305の内部では底部にNMP精製液が貯留され、その上はNMP精製ガスからなる気相部となっている。コンデンサ305の気相部は、負圧ラインL310によって真空ポンプ309と連通しており、コンデンサ305の気相部は真空ポンプ309によって負圧にされる。蒸発缶303を含む第3のサブシステム300の気相部も真空ポンプ309によって負圧にされ、蒸発缶303において減圧蒸発が行われる。これによって、NMP濃縮液の蒸発が促進される。負圧ラインL310のコンデンサ305と真空ポンプ309との間にはガスクーラ310が設けられ、コンデンサ305から真空ポンプ309に排出される、NMP精製ガスを含む気体が冷却される。コンデンサ305の冷却水はコンデンサ305と接続された冷却水排水ラインL311に排出される。冷却水排水ラインL311には熱交換器311が設けられており、不純物排出ラインL309を流れるNMP濃縮液が、排出される前に熱交換器311で冷却される。
【0035】
コンデンサ305の出口にはNMP精製液取り出し配管L308が接続されている。NMP精製液は、NMP精製液取り出し配管L308に設けられたポンプ308によって、払出し部311に送られる。払出し部311は受入部101と同様、複数の容器(第1~第3の容器311a,311b,311c)を有し、これらの容器311a,311b,311cは精製システム1から払い出されるNMP精製液の受け入れ、分析、移送などの目的に応じて切替え可能とされている。分析の結果問題がなければ、NMP精製液は排出ラインL312を通ってリチウムイオン二次電池の製造システムに移送され、当該製造システムで再利用される。問題がある場合は、NMP精製液は廃液槽(図示せず)に移送される。
【0036】
(不活性ガス供給手段)
本実施形態のNMP水溶液の精製システム1はさらに、容器の気相部を不活性ガスで充填する不活性ガス供給手段を備えている。上述のように、浸透気化膜装置201の上流及び下流にはNMP水溶液、NMP濃縮液またはNMP精製液が貯留される様々な容器が設けられている。これらの容器のいくつかは、内部にNMP水溶液、NMP濃縮液またはNMP精製液と、気相部との界面が形成される。この条件を満たす容器として以下が挙げられる。
【0037】
(1)NMP水溶液の受入部101の第1~第3の容器101a,101b,101c
(2)1次処理液槽106
(3)中継槽301
(4)再生器302
(5)蒸発缶303
(6)蒸気取り出し缶304
(7)コンデンサ305
(8)NMP精製液の払出し部311の第1~第3の容器311a,311b,311c
従来の容器(不活性ガス供給手段に関する以下の記載では、容器は容器101a,101b,101c,106,301~305,311a,311b,311cを意味する)の気相部は空気で形成されていた。しかし、発明者はこれらの容器に空気が充填されている場合、NMPが気相部の空気と結合して、NMPの過酸化物(NMP-O-O-H;5-ハイドロパーオキソ-1-メチル-2-ピロリドン)が生成されることを見出した。NMPの過酸化物は蓄積されると爆発の可能性がある。そこで、本実施形態ではこれらの容器に不活性ガス供給手段を設けている。不活性ガスとしては窒素ガスが好ましく、アルゴンガスを用いることもできる。不活性ガス供給手段は以下に述べる不活性ガス供給母管L401と、母管L401から分岐し各容器に不活性ガスを供給する不活性ガス供給ラインと、各不活性ガス供給ライン上に設置されたガスシールユニット、とから構成される。
【0038】
具体的には不活性ガスの供給源(図示せず)に不活性ガス供給母管L401が接続され、不活性ガス供給母管L401と受入部101、1次処理液槽106、中継槽301、払出し部311がそれぞれ不活性ガス供給ラインL402,L403,L404,L407で接続されている。不活性ガス供給ラインL402,L403,L404,L407は容器の頂部に接続されている。不活性ガス供給ラインL402,L403,L404,L407にはそれぞれガスシールユニットU402,U403,U404,U405が設けられている。さらに、コンデンサ305(より正確にはガスクーラ310)と真空ポンプ309との間の負圧ラインL310にスウィープ用の不活性ガス供給ラインL405が接続されている。不活性ガスは不活性ガス供給ラインL405からコンデンサ305に供給され、さらにラインL307,L302,L304,L305を通って再生器302、蒸発缶303及び蒸気取り出し缶304にも不活性ガスが供給される。図示は省略するが、再生器302、蒸発缶303、蒸気取り出し缶304にも、同様の真空ポンプとスウィープ用の不活性ガス供給ラインを設けることができる。
【0039】
不活性ガスはNMP水溶液の精製システム1が最初に稼動する際に容器に充填される。このとき、容器の内部は空気で満たされているため、ガスシールユニットU402,U403,U404,U405を通して不活性ガスを容器に送り込み、容器の内部の空気を強制的に不活性ガスに置換する。ガスシールユニットU402,U403,U404,U405は、下流側の容器の圧力が低下すると自動的に開き、不活性ガスを容器に充填するようにされている。従って、容器内のNMP水溶液、NMP濃縮液及びNMP精製液の量が低下すると容器の圧力が下がり、ガスシールユニットU402,U403,U404,U405を介して不活性ガスが容器に補充される。他のガスシールユニットについても同様である。
【0040】
容器に不活性ガスを充填することで、NMP過酸化物の爆発の可能性を低減できるだけでなく、容器内のNMP水溶液、NMP濃縮液及びNMP精製液に溶け込む水分量および溶存酸素量を抑えることができる。この結果、浸透気化膜モジュールの負荷を軽減することができる。また、容器内に酸素がほとんど存在しないため、NMP水溶液、NMP濃縮液及びNMP精製液の酸化を防止する効果も得られる。
【0041】
(脱水装置600)
次に、NMP水溶液の精製システムの脱水装置について説明する。図2は脱水装置600の概略構成図である。脱水装置600は第2のサブシステム200のうち、第1~第3の浸透気化膜モジュール202~204とその付帯設備を含む。第2及び第3の透過液タンク215,216の下流には透過液を加熱するヒータ220,221が設けられている。ヒータ220,221の構成は透過液を加熱することができる限り限定されず、例えば電気ヒータなどでもよい。本実施形態では、熱源として第1の熱交換器211の冷却排水を用いるために、ヒータ220,221は熱交換器220,221とされている。このため、熱交換器220,221は第1の熱交換器211の冷却排水を排出する第1の冷却水排出ラインL220に接続されている。前述のように、第1の熱交換器211は第1の浸透気化膜モジュール202の第1の透過室202bに接続され、第1の透過室202bに透過した透過蒸気を冷却水CWとの熱交換によって冷却する。ヒータ220,221は第1の冷却水排出ラインL220及び冷却水排出ラインL221を流れる冷却排水との熱交換によって、第2及び第3の浸透気化膜モジュール203,204で生成された透過液を加熱する。熱交換器220,221で加熱された透過液は、透過液を第1の浸透気化膜モジュール202の入口側に戻す戻りラインである透過液回収ラインL205によって回収される。
【0042】
第1~第3の透過液タンク214,215,216における透過液の温度は、第1の透過液タンク214、第2の透過液タンク215、第3の透過液タンク216の順で低くなっている。これは、後段の浸透気化膜モジュールではNMP水溶液中の水分量が減り、NMP濃度が高くなるためである。水分量が少ないNMP水溶液を脱水するためには浸透気化膜モジュールの入口側と透過側の圧力差を増加させる必要がある。透過側の圧力は水の飽和蒸気圧に等しいため、入口側と透過側の圧力差を増加させるためには透過側の温度を下げ、水の飽和蒸気圧を下げる必要がある。従って、第1の熱交換器211では常温の水を冷却水として使用できるが、第2の熱交換器212ではより低温の冷媒であるブラインBR1を用い、第3の熱交換器213ではブラインBR1よりさらに低温の冷媒であるブラインBR2を用いている。この結果、一例では、透過水の温度は第1の透過液タンク214で約40℃、第2の透過液タンク215で約2℃、第3の透過液タンク216で約-10℃となる。また、一例では、第1の冷却水排出ラインL220及び冷却水排出ラインL221を流れる冷却排水の温度は約37℃である。従って、第1の冷却水排出ラインL220及び冷却水排出ラインL221を流れる冷却排水は、第2及び第3の透過液タンク215,216の透過水を加熱する十分な熱エネルギーを有している。透過水は好ましくは20℃を超える温度まで加熱される。なお、第1の冷却水排出ラインL220を流れる冷却排水は常温付近まで冷却されて廃棄されるため、冷却排水を冷却するためのクーリングタワーなどの付帯設備も不要となり、または小型化が可能となる。
【0043】
ここで、第2及び第3の透過液タンク215,216の透過水を加熱する理由について説明する。第2及び第3の透過液タンク215,216の透過水を第2及び第3の透過水排出ラインL211,L214から第1の浸透気化膜モジュール202の上流側(本実施形態では1次処理液槽106)に戻す際は、後述するように、不活性ガスの圧力で透過水を押し出している。この結果、第2及び第3の透過液タンク215,216の負圧、及び第2及び第3の透過室203b,204bの負圧が解除され、第2及び第3の浸透気化膜モジュール203,204の性能が低下する。従って、この操作は連続的に行うことができない。このため、透過水を第2及び第3の透過液タンク215,216に溜めておき、一時的に負圧を解除して透過水を1次処理液槽106に戻す操作が必要となる。不活性ガスの代わりにポンプを用いれば、透過水を連続的に排水できる可能性はあるが、ポンプの吸込ヘッドを確保するために第2及び第3の透過液タンク215,216とポンプとの間に大きな高低差を設ける必要があり現実的ではない。このような理由により、第2及び第3の透過液タンク215,216に貯留された透過水は間歇的に1次処理液槽106に戻される。
【0044】
このため、第2及び第3の透過液タンク215,216の透過水を加熱しない場合、低温の透過水が一時的に1次処理液槽106に戻され、1次処理液槽106に貯蔵されるNMP水溶液の温度が低下することになる。NMP水溶液は第1のヒータ205と廃熱回収熱交換器206で加熱されるが、NMP水溶液を120℃程度まで加熱するように第1のヒータ205と廃熱回収熱交換器206を制御することは困難である。従って、第1の浸透気化膜モジュール202に供給されるNMP水溶液の温度は一時的に120℃を下回り、第1の浸透気化膜モジュール202の脱水膜の温度や透過側の温度が変動し、脱水性能が安定しなくなる。本実施形態では、第2及び第3の透過液タンク215,216の透過水を加熱するため、第1の浸透気化膜モジュール202に供給されるNMP水溶液の温度変化が抑えられ、より安定した脱水性能を得ることができる。
【0045】
第2及び第3の透過液タンク215,216の透過水を加熱することで、計測器222,223の性能維持も容易となる。計測器222の種類は限定されないが、本実施形態では、計測器222は第2の透過水排出ラインL211に設けられた流量計222A及び水分濃度計222Bであり、計測器223は第3の透過水排出ラインL214に設けられた流量計223A及び水分濃度計223Bである。これらの計測器222,223は、0℃を下回る液体に対して動作保証されていないことが多く、低温の液体に対して使用することは信頼性の面で不利である。本実施形態では常温に近い温度まで透過水が加熱されるため、計測器222,223の性能維持も容易である。
【0046】
次に、第1~第3の透過液タンク214,215,216からの透過液の排出方法について説明する。前述のように、第1~第3の透過液タンク214,215,216の上部には不活性ガスの供給手段、すなわち不活性ガス供給母管L401から分岐した不活性ガス供給ラインL406A,406B,406Cが接続されている。また、第1~第3の透過液排出ラインL206,L209,L212にはそれぞれ第1~第3の遮断弁V207,V208,V209が設けられている。第1~第3の遮断弁V207,V208,V209はそれぞれ第1~第3の透過液タンク214,215,216と第1~第3の浸透気化膜モジュール202,203,204の透過室202b,203b,204bとの連通を遮断する手段の一例である。例えば第2の透過液タンク215から透過液を排出するときは、まず第2の遮断弁V208を閉じ、第2の透過液タンク215と透過室203bとの連通を遮断する。同時に第2の真空ポンプ218を停止する。次に、不活性ガス供給ライン406Bから不活性ガスを供給する。不活性ガス供給ライン406Bは、第2の透過液タンク215の内部に貯留されている透過液を透過液回収ラインL205に排出可能な圧力を第2の透過液タンク215に印加可能である。これによって、第2の透過液タンク215からの透過液が1次処理液槽106に戻される。不活性ガスの一部が1次処理液槽106に流入する可能性はあるが、1次処理液槽106の気相部は前述のとおり不活性ガスで置換されているため、問題はない。
【0047】
なお、図2に破線で示すように、第2の透過液タンク215と熱交換器220との間,及び第3の透過液タンク216と熱交換器221との間に透過液排出用のポンプPを設けることも可能である。この場合、不活性ガスは第1~第3の透過液タンク214,215,216の内部の真空を解除するだけでよく、排出のための加圧能力は不要である。従って、不活性ガスの圧力を十分に確保できない場合には、ポンプPの設置は有効である。ただし、-10℃程度の低温の透過液を移送するため、透過液の凍結によるポンプPの破損の可能性があること、ポンプP自体の設置コストがかかることから、不活性ガスで透過液を移送するほうが好ましい。
【0048】
本実施形態では3基の浸透気化膜モジュール202~204を用いているが、浸透気化膜モジュールの台数は限定されない。従って、より一般的には、第2の浸透気化膜モジュール203の下流に第1及び第2の浸透気化膜モジュール202,203とともに直列に配置され、有機溶剤の濃縮液からさらに水分を除去する少なくとも一つの他の浸透気化膜モジュールを配置することができる。他の浸透気化膜モジュールの透過室とそれぞれ連通する少なくとも一つの他の冷却器が設けられ、当該他の冷却器は当該他の浸透気化膜モジュールの透過室に透過した透過蒸気を冷却し凝縮して透過液を生成する。さらに、当該他の冷却器の下流に当該他の冷却器とそれぞれ連通する少なくとも一つの他の透過液タンクが設けられる。当該他の透過液タンクは内部が負圧に維持可能で、透過液を貯蔵することができる。当該他の透過液タンクの下流にそれぞれ、透過液を加熱する少なくとも一つの他のヒータが設けられる。冷却排水の排出ラインは当該他のヒータの各々と接続される分岐ラインを有し、当該他のヒータは分岐ラインを流れる冷却排水との熱交換によって透過液を加熱する。
【符号の説明】
【0049】
1 NMP水溶液の精製システム
100 第1のサブシステム
101 受入部
101a,101b,101c 受入部の第1~第3の容器
102 第1の精密ろ過膜装置
103 膜脱気装置
104 イオン交換装置
105 第2の精密ろ過膜装置
106 1次処理液槽
107 ポンプ
108 ヒータ
L101~L106 第1~第6のNMP水溶液供給ライン
L107 戻りライン
V101,V102 弁
200 第2のサブシステム
201 浸透気化膜装置
202~204 第1~第3の浸透気化膜モジュール
202a,203a,204a 濃縮室
202b,203b,204b 透過室
202c,203c,204c 分離膜(浸透気化膜)
205 第1のヒータ
206 再生式熱交換器
207 第2のヒータ
208 第3のヒータ
209 冷却器
210 メカニカルブースターポンプ
211,212,213 第1~第3の熱交換器
214,215,216 第1~第3の透過液タンク
217,218,219 第1~第3の真空ポンプ
220,221 第4,第5の熱交換器
223 温度警報表示器
224 ポンプ
225 流量警報表示器
226 冷却器
L201 第7のNMP水溶液供給ライン
L202,L203 第1,第2の接続ライン
L204 NMP濃縮液排出ライン
L205 透過液回収ライン
L206,L209,L212 第1~第3の透過液排出ライン
L207,L210,L213 冷却ライン
L208,L211,L214 第1~第3の透過水排出ライン
L215 NMP濃縮液の戻りライン
L220 第1の冷却水排出ライン
V201~V206 弁
300 第3のサブシステム
301 中継槽
302 再生器
303 蒸発缶
304 蒸気取り出し缶
305 コンデンサ
306 ポンプ
307 循環ポンプ
308 ポンプ
309 真空ポンプ
310 ガスクーラ
311 払出し部
311a,311b,311c 払出し部の第1~第3の容器
L301 第1のNMP濃縮液供給ライン
L302 第2のNMP濃縮液供給ライン
L303 循環ライン
L304 第1のNMP精製ガス取り出しライン
L305 第2のNMP精製ガス取り出しライン
L306 NMP濃縮液取り出しライン
L307 第3のNMP精製ガス取り出しライン
L308 NMP精製液取り出し配管
L309 NMP濃縮液の不純物排出ライン
L310 負圧ライン
L311 冷却水排水ライン
V301~V304 弁
L401 不活性ガス供給母管
L402~L407 不活性ガス供給ライン
U402,U403,U404,U405 ガスシールユニット
600 脱水装置
V207,V208,V209第1~第3の遮断弁
図1
図2