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特許7217699歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びその製造方法並びに歯科切削加工用ジルコニア被切削体用透明性向上液及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びその製造方法並びに歯科切削加工用ジルコニア被切削体用透明性向上液及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/85 20060101AFI20230127BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20230127BHJP
   C04B 35/486 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
C04B41/85 A
A61C13/083
C04B35/486
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2019501354
(86)(22)【出願日】2018-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2018006090
(87)【国際公開番号】W WO2018155459
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2021-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2017029797
(32)【優先日】2017-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017071954
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017242860
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】伴 清治
(72)【発明者】
【氏名】高橋 周平
(72)【発明者】
【氏名】北村 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】饗場 理恵子
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0115365(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105130431(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102008026980(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015103439(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0236860(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0206554(US,A1)
【文献】特開2012-211063(JP,A)
【文献】特開平11-267139(JP,A)
【文献】特開昭53-139394(JP,A)
【文献】化学大辞典4 シ ENCYCLOPAEDIA CHIMICA ,第1版,南條 正男 共立出版株式会社,P.773、774,785,788
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84,41/80-41/91
A61C 13/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削加工により補綴装置を作製する歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、セラミックス粒子の半焼成体を含む半焼成歯科切削加工用ジルコニア被切削体であり、
前記セラミックス粒子は、酸化ジルコニウム、及び、酸化物換算で2~7mol%の量の酸化物からなる安定化材を含み、
前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、カルシウム、マグネシウム及び希土類元素から選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物ではない水溶性化合物塩を含んでおり、
前記セラミックス粒子の半焼成体の表面に、前記水溶性化合物塩が担持されており、
前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体における前記水溶性化合物塩の量は酸化物換算で0.1~3.5mol%であり、
前記水溶性化合物塩がイットリウムの有機酸塩を含むことを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
前記セラミックス粒子の半焼成体の相対密度が50~70%であることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
前記セラミックス粒子の半焼成体の比表面積が0.5~10m/gであることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の表面から前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の重心に向かって、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の前記表面から前記重心までの寸法の45~55%の位置における前記水溶性化合物塩の含有量は、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の前記表面から前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の前記重心に向かって、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の前記表面から前記重心までの前記寸法の10~20%の位置における前記水溶性化合物塩の含有量の、50~150%であることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
着色材として、Pr、Er、Fe、Co、Ni、Mn又はCuを含有することを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項6】
請求項5に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、前記酸化物からなる安定化剤及び/又は前記着色材の含有量が異なる複数の層からなることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
ディスク形状もしくはブロック形状であることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を熱処理した歯科切削加工用ジルコニア被切削体熱処理物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体又は請求項8に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体熱処理物から作製された歯科用補綴装置。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体又は請求項8に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体熱処理物を完全焼結した完全焼結体。
【請求項11】
歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
酸化ジルコニウム、及び、2~7mol%の酸化物からなる安定化材を含むセラミックス粒子を半焼成する工程、及び、
半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体に、カルシウム、マグネシウム及び希土類元素から選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物ではない水溶性化合物塩溶液を含浸させる工程、
を含み、
前記水溶性化合物塩がイットリウムの有機酸塩を含むことを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記セラミックス粒子の半焼成体の相対密度が50~70%であることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記セラミックス粒子の半焼成体の比表面積が0.5~10m/gであることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法。
【請求項14】
請求項11~13のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、前記水溶性化合物塩溶液を含浸させた後に、乾燥させることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法。
【請求項15】
請求項11~14のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記水溶性化合物塩溶液は、水溶性セリウム化合物を含むことを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法。
【請求項16】
請求項11~14のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記水溶性化合物塩溶液は、水溶性セリウム化合物、植物油及び有機溶媒を含むことを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法。
【請求項17】
請求項11~16のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法により製造される歯科切削加工用ジルコニア被切削体から歯科用補綴装置を製造する歯科用補綴装置の製造方法であって、
前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体を歯科用補綴装置の形状に乾式切削し、本焼成することを特徴とする歯科用補綴装置の製造方法。
【請求項18】
歯科切削加工用ジルコニア被切削体の熱処理物の製造方法であって、請求項11~17のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法により製造される歯科切削加工用ジルコニア被切削体を熱処理することを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体熱処理物の製造方法。
【請求項19】
請求項1~7のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製するための、請求項8に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体熱処理物を作製するための、請求項9に記載の歯科用補綴装置を作製するための、又は、請求項10に記載の完全焼結体を作製するための前記水溶性化合物塩溶液を含む透明性向上液であって、
(a) 酸化物ではない水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)溶液:10~80wt%、及び、
(b) 水:20~90wt%
を含むことを特徴とする透明性向上液。
【請求項20】
請求項1~7のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製するための、請求項8に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体熱処理物を作製するための、請求項9に記載の歯科用補綴装置を作製するための、又は、請求項10に記載の完全焼結体を作製するための前記水溶性化合物塩溶液を含む透明性向上液であって、
(a) 酸化物ではない水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)溶液:10~80 wt%、
(b) 水:8~86wt%、及び、
(c) 水溶性セリウム化合物:2~80wt%
を含むことを特徴とする透明性向上液。
【請求項21】
請求項1~7のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製するための、請求項8に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体熱処理物を作製するための、請求項9に記載の歯科用補綴装置を作製するための、又は、請求項10に記載の完全焼結体を作製するための前記水溶性化合物塩溶液を含む透明性向上液であって、
(a) 酸化物ではない水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)溶液:10~80 wt%、
(b) 水及び/又は植物油:8~86wt%、
(c) 水溶性セリウム化合物:2~80wt%、及び、
(d) 水溶性有機溶媒:0.1~20wt%
を含むことを特徴とする透明性向上液。
【請求項22】
請求項21に記載の透明性向上液であって、
(d)水溶性有機溶媒がアルコール類、ポリオール類、グリコールエーテル類のいずれかであることを特徴とする透明性向上液。
【請求項23】
請求項20又は21に記載の透明性向上液であって、
(a)酸化物ではない水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)溶液及び(c)水溶性セリウム化合物の合計が30~70wt%であることを特徴とする透明性向上液。
【請求項24】
請求項19~23のいずれかに記載の透明性向上液の使用方法であって、
歯科切削加工用ジルコニア被切削体に、透明性向上液を塗布又は浸漬させて、酸化物ではない水溶性化合物塩を前記セラミックス粒子の半焼成体の表面に担持させることを特徴とする透明性向上液の使用方法。
【請求項25】
請求項24に記載の透明性向上液の使用方法であって、
歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、鉄を含有することを特徴とする透明性向上液の使用方法。
【請求項26】
請求項24に記載の透明性向上液の使用方法であって、
歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、イットリウム及び/又はエルビウムを含有することを特徴とする透明性向上液の使用方法。
【請求項27】
請求項26に記載の透明性向上液の使用方法であって、
歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、イットリウム及び/又はエルビウムのモル濃度が4mol%以下であることを特徴とする透明性向上液の使用方法。
【請求項28】
請求項24に記載の透明性向上液の使用方法であって、
歯科切削加工用ジルコニア被切削体から切削された歯科用補綴装置の表層のみに透明性向上液を塗布することを特徴とする透明性向上液の使用方法。
【請求項29】
請求項28に記載の透明性向上液の使用方法であって、
歯科用補綴装置がインレー、ラミネート、クラウン又はブリッジであることを特徴する特徴とする透明性向上液の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年2月21日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願2017-29797号、2017年3月31日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願2017-71954号、及び、2017年12月19日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願2017-242860号、に基づく優先権を主張する。当該出願の内容は全体としてあらゆる目的のために本出願に組み込まれる。
本発明は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びその製造方法並びに歯科切削加工用ジルコニア被切削体用透明性向上液及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯冠欠損部の歯科治療においては、一般に鋳造クラウン・ブリッジや義歯による補綴修復が行われている。具体的には、陶材焼付用の鋳造用合金で作製した金属フレーム表面に陶材を焼付けて、歯冠形態を再現させた陶材焼付クラウン・ブリッジの臨床応用が挙げられる。
【0003】
一方、金属アレルギーの発症や貴金属の相場に左右される価格高騰等の観点及び天然歯の色調を模倣することができる審美性の観点から、アルミナ、アルミノシリケートガラス、二ケイ酸リチウムガラス等を用いたディッピング法やセラミックスインゴットを用いたプレス法などの技法により作製された補綴装置、いわゆるオールセラミックスが注目されてきている。
【0004】
近年、歯科用CAD/CAMシステムを用いた切削加工により補綴装置を作製する技術が急速に普及してきている。これにより、ジルコニア、アルミナ、アルミノシリケートガラス、二ケイ酸リチウムガラスで製造されたブロックやディスクなどのブランク材のような被切削体を切削加工して、容易に補綴装置を作製することが可能となってきている。
【0005】
特に、ジルコニアは、高い強度を有していることから様々な症例で臨床応用されている。完全焼結したジルコニア(以下、本願明細書において「ジルコニア完全焼結体」ともいう)は、硬度が高いため、歯科用CAD/CAMシステムを用いて切削加工することができない。そのため、歯科切削加工用ジルコニア切削体には、完全焼結まで行わず低い焼成温度で仮焼し、切削加工可能な硬度に調整した、いわゆる予備焼結体が用いられている。
【0006】
一般的な歯科切削加工用ジルコニア切削体は、ジルコニア原料粉末をプレス成形等により成形した後、約800~1200℃で仮焼して製造されている。
【0007】
歯科切削加工用ジルコニア被切削体の特性、つまりはジルコニア完全焼結体の特性は、使用するジルコニア原料粉末の特性に影響を受ける。
【0008】
例えば、特許文献1には、3 mol%のイットリウムを含有したジルコニア原料粉末を用いて歯科切削加工用ジルコニアブランク(被切削体)を作製し、当該ジルコニアブランクから作製したジルコニア完全焼結体が開示されている。当該焼結体は、高い強度を有していることから、4ユニット以上のブリッジフレーム等で臨床応用されている。しかしながら、当該焼結体は、透光性が低いため、天然歯に類似した色調再現が困難であった。
【0009】
特許文献2には、アルミナ含有量を低減させた3 mol%のイットリウムを含有したジルコニア原料粉末を用いて歯科切削加工用ジルコニアブランクを作製し、当該ジルコニアブランクから作製したジルコニア完全焼結体が開示されている。当該焼結体は、高い強度を維持しつつ、透光性を向上させているため、4ユニット以上のロングスパンブリッジや臼歯部フルクラウン等で臨床応用されている。しかしながら、当該焼結体においても、透光性が不十分であるため、前歯部など高い審美性が求められる症例への適用は困難であった。
【0010】
特許文献3には、4~6.5 mol%のイットリウムを含有したジルコニア原料粉末を用いて歯科切削加工用ジルコニアブランクを作製し、当該ジルコニアブランクから作製したジルコニア完全焼結体が開示されている。当該焼結体は、高い透光性を有しているため、前歯部など高い審美性が求められる症例にも用いられてきている。しかしながら、当該焼結体は、透光性は高いものの、強度が低いため、4ユニット以上のロングスパンブリッジへの適用が困難であることや切端部が破折するなどの問題を抱えていた。
【0011】
このように、4~6.5 mol%のイットリウムを含有したジルコニア原料粉末を用いて作製したジルコニア完全焼結体は、透光性は高くなるものの、強度が低下する。一方、3 mol%のイットリウムを含有したジルコニア原料粉末を用いて作製したジルコニア完全焼結体は、強度が高くなるものの、透光性が低くなる。そのため、ジルコニア完全焼結体の特性は、ジルコニア原料粉末のイットリウム含有量に依存し、透光性と強度がトレードオフの関係になっている。
【0012】
これらの問題を改善するため、天然歯の切端部を再現するために必要な透光性と、4ユニット以上のロングスパンブリッジにも適用可能な高い強度を両立させることを目的に、異なるイットリウム含有量のジルコニア原料粉末を積層させた歯科切削加工用ジルコニアブランクが臨床応用されてきている。
【0013】
特許文献4には、切端部側に5 mol%のイットリウムを含有したジルコニア原料粉末を積層させ、歯頸部側に3 mol%のイットリウムを含有したジルコニア原料粉末を積層させた歯科切削加工用ジルコニアブランクの製造方法が開示されている。当該ジルコニアブランクから作製されるジルコニア完全焼結体は、切端部に適した透光性と、歯頸部に高い強度を有している。しかしながら、当該焼結体は、層間で熱膨張の差異があるため、ロングスパンブリッジ等で変形が生じ、ロングスパンブリッジの適合が悪くなる問題があった。
【0014】
特許文献5には、切端部側に6~10 wt%のイットリウムを含有したジルコニア原料粉末を、歯頸部側に4.5~6 wt%のイットリウムを含有したジルコニア原料粉末を積層させた歯科切削加工用ジルコニアブランクを作製し、当該ジルコニアブランクから作製したジルコニア完全焼結体が開示されている。当該焼結体は、切端部に適した透光性と、ロングスパンブリッジで強度が必要となる歯頸部に高い強度を有している。しかしながら、当該焼結体においても、層間で熱膨張の差異があるため、ロングスパンブリッジ等で変形が生じ、ロングスパンブリッジの適合が悪くなることや、イットリウム含有量の高い切端部が破折しやすい等の問題があった。
【0015】
上記のように、従来の歯科切削加工用ジルコニア被切削体では、高い強度を維持しつつ、優れた透光性及び優れた色調の彩度を有し、かつ、変形を生じないジルコニア完全焼結体を提供することができていない。
【0016】
また、切削加工により作製された補綴装置は、全体が同じ透明性が要求されない。詳細には、天然歯と同様にエナメル質の先端部は特に透明性が求められる一方で、サービカル部は補綴装置を被せる支台歯が変色歯やメタルである場合もあり、補綴装置の色調に悪影響を与えないために逆に透明性を必要としない。つまり、サービカル部は透明性が高すぎると歯冠色が所望の色調にならないことがあるため、エナメル部のみが透明性が高く、一方サービカル部に移行するほど透明性が低下するという審美的な補綴装置の作製が求められていた。
【0017】
これらの課題を解決すべく、天然歯に類似した色調再現をジルコニア完全焼結体に付与するために、歯科切削加工用ジルコニア被切削体又はジルコニア完全焼結体に、種々の液体を適用することが行われている。
【0018】
例えば、特許文献6には、予備焼結させた歯科切削用ジルコニアから切削加工により補綴装置を作製し、それに金属イオン又は金属錯体溶液を適用して焼結するという補綴装置の調色方法が開示されている。この方法は、予備焼結させた歯科切削用ジルコニアから切削加工により作製した補綴装置に歯牙の色調を再現するものであるが、透明性及び彩度を向上させることはできなかった。
【0019】
特許文献7には、予備焼結させた歯科切削用ジルコニアのBET比表面積の範囲を規定することで、そのジルコニアへの着色液の浸透を容易にする技術が開示されている。しかし、この方法でも切削加工して作製された補綴装置の表面の透明性及び彩度を向上させることはできなかった。
【0020】
特許文献8には、予備焼結させた歯科切削用ジルコニアに着色する溶液の技術が開示されている。この技術は溶媒として水を使用しないため、酸による焼成炉の汚染などを低減することができ、優れた発色性能を有するとしている。しかし、この方法は補綴装置の着色性能は有しているものの、その表層の透明性及び彩度を向上させることはできなかった。
【0021】
特許文献5~8には、CAD/CAMシステムで切削加工されたジルコニア補綴装置の透明性を向上させる技術及び着色させる技術が開示されているものの、これら先行技術でも、強度の高いジルコニア補綴装置の強度を低下させることなく、透明性を向上させることはできなかった。そのため、高い強度を維持しつつ、優れた透光性及び優れた色調の彩度を有し、かつ、変形を生じないジルコニア完全焼結体が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】特開昭60―235762号公報
【文献】特許第5608976号公報
【文献】国際公開第2015/199018号
【文献】米国特許出願公開第2016/354186号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/245970号明細書
【文献】特表2002-536280号公報
【文献】特表2015-536904号公報
【文献】特表2013-529599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、高い強度を維持しつつ、種々の安定化材を含有したジルコニア原料粉末から製造される歯科切削加工用ジルコニア被切削体よりも優れた透光性及び優れた色調の彩度を有し、かつ、変形を生じないジルコニア完全焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、種々の安定化材を含有したジルコニア原料粉末から製造される従来の歯科切削加工用ジルコニア被切削体よりも優れた透光性及び優れた色調の彩度を有するジルコニア完全焼結体を提供することができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体について鋭意検討した。その結果、カルシウム、マグネシウム、またはイットリウム及びランタン等の希土類元素を含む酸化物ではない水溶性化合物塩の特定量を、特定量の酸化物からなる安定化剤とともに歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含ませることにより、当該歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製されるジルコニア完全焼結体は、高い強度を維持しつつ、種々の安定化材を含有したジルコニア原料粉末から製造される従来の歯科切削加工用ジルコニア被切削体よりも優れた透光性及び優れた色調の彩度を有し、かつ、変形を生じないジルコニア完全焼結体を提供できることを見出した。本発明は上記知見に基づくものである。
【0025】
本発明は、以下の通りである。
本発明は、切削加工により補綴装置を作製する歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、前記セラミックス粒子の半焼成体を含む半焼成歯科切削加工用ジルコニア被切削体であり、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、酸化ジルコニウムと、酸化物からなる安定化材と、カルシウム、マグネシウム及び希土類元素から選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物ではない水溶性化合物塩とを含んでおり、前記セラミックス粒子の半焼成体における前記安定化材の量は2~7mol%であり、かつ、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体における前記水溶性化合物塩の量は0.1~3.5 mol%である歯科切削加工用ジルコニア被切削体を提供する。本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体においては、酸化ジルコニウムと、酸化物からなる安定化材と、水溶性化合物塩とからなることが好ましい。
【0026】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体においては、前記水溶性化合物塩がイットリウムを含むことが好ましい。
【0027】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体においては、前記セラミックス粒子の半焼成体が、前記酸化ジルコニウム、及び、前記酸化物からなる安定化材を含み、前記セラミックス粒子の半焼成体の表面に、前記水溶性化合物塩が担持されていることが好ましい。
【0028】
この場合の本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の表面から前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の重心に向かって、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の前記表面から前記重心までの寸法の45~55%の位置における前記水溶性化合物塩の含有量は、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の前記表面から前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の前記重心に向かって、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の前記表面から前記重心までの前記寸法の10~20%の位置における前記水溶性化合物塩の含有量の、50~150%であることが好ましい。
【0029】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体においては、前記セラミックス粒子の半焼成体が、前記酸化ジルコニウム、前記酸化物からなる安定化材、及び、前記水溶性化合物塩を含むことが好ましい。
【0030】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体においては、着色材として、Pr、Er、Fe、Co、Ni、Mn又はCuを含有することが好ましい。
【0031】
この場合の本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体においては、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、前記酸化物からなる安定化剤及び/又は前記着色材の含有量が異なる複数の層からなることが好ましい。
【0032】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体においては、ディスク形状もしくはブロック形状であることが好ましい。
【0033】
本発明はまた、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製された歯科用補綴装置を提供する。
【0034】
本発明はまた、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、下記の(1)及び/又は(2)の工程を含むことを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法を提供する。
(1) 酸化ジルコニウム、酸化物からなる安定化材を2~7 mol%、並びに、カルシウム、マグネシウム及び希土類元素から選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物ではない水溶性化合物塩を0.1~3.5 mol%含むセラミックス粒子を半焼成させる工程。
(2) 酸化ジルコニウム、及び、2~7mol%の酸化物からなる安定化材を含むセラミックス粒子を半焼成し、半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体に、カルシウム、マグネシウム及び希土類元素から選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物ではない水溶性化合物塩溶液を含浸させる工程。
【0035】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法において前記(2)の工程を含む場合は、前記半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、前記水溶性化合物塩溶液を含浸させた後に、乾燥させることが好ましい。
【0036】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法において前記(2)の工程を含む場合は、前記水溶性化合物塩溶液は、水溶性セリウム化合物を含むことが好ましい。
【0037】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法において前記(2)の工程を含む場合は、前記水溶性化合物塩溶液は、水溶性セリウム化合物、植物油及び有機溶媒を含むことが好ましい。
【0038】
本発明はまた、前記(2)の工程を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法により製造される歯科切削加工用ジルコニア被切削体から歯科用補綴装置を製造する歯科用補綴装置の製造方法であって、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体を歯科用補綴装置の形状に乾式切削し、本焼成する歯科用補綴装置の製造方法を提供する。
【0039】
本発明はまた、前記(1)の工程を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法により製造される歯科切削加工用ジルコニア被切削体から歯科用補綴装置を製造する歯科用補綴装置の製造方法であって、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体を歯科用補綴装置の形状に切削し、本焼成する歯科用補綴装置の製造方法を提供する。
【0040】
本発明はまた、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製するための、又は、本発明の歯科用補綴装置を作製するための前記水溶性化合物塩溶液を含む透明性向上液であって、(a)酸化物ではない水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)溶液:10~80 wt%、及び、(b)水:20~90 wt%を含む透明性向上液を提供する。
【0041】
本発明はまた、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製するためのまたは本発明の歯科用補綴装置を作製するための前記水溶性化合物塩溶液を含む透明性向上液であって、(a)酸化物ではない水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)溶液:10~80 wt%、(b)水:8~86 wt%、及び、(c)水溶性セリウム化合物:2~80 wt%を含む透明性向上液を提供する。
【0042】
本発明はまた、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製するためのまたは本発明の歯科用補綴装置を作製するための前記水溶性化合物塩溶液を含む透明性向上液であって、(a)酸化物ではない水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)溶液:10~80 wt%、(b)水及び/又は植物油:8~86 wt%、(c)水溶性セリウム化合物:2~80 wt%、及び、(d)水溶性有機溶媒:0.1~20 wt%を含む透明性向上液を提供する。
【0043】
この場合の本発明の透明性向上液においては、(d)水溶性有機溶媒がアルコール類、ポリオール類、グリコールエーテル類のいずれかであることが好ましい。
【0044】
この場合の本発明の透明性向上液においては、(a)酸化物ではない水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)溶液及び(c)水溶性セリウム化合物の合計が30~70wt%であることが好ましい。
【0045】
本発明はまた、本発明の透明性向上液の使用方法であって、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に、透明性向上液を塗布又は浸漬させて、酸化物ではない水溶性化合物塩を前記セラミックス粒子の半焼成体の表面に担持させる透明性向上液の使用方法を提供する。
【0046】
本発明の透明性向上液の使用方法においては、歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、鉄を含有することが好ましい。
【0047】
本発明の透明性向上液の使用方法においては、歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、イットリウム及び/またはエルビウムを含有することが好ましい。
【0048】
この場合の本発明の透明性向上液の使用方法においては、歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、イットリウム及び/またはエルビウムのモル濃度が4mol%以下であることが好ましい。
【0049】
本発明の透明性向上液の使用方法においては、歯科切削加工用ジルコニア被切削体から切削された歯科用補綴装置の表層のみに透明性向上液を塗布することが好ましい。
【0050】
この場合の本発明の透明性向上液の使用方法においては、歯科用補綴装置がインレー、ラミネート、クラウンまたはブリッジであることが好ましい。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、高い強度を維持しつつ、種々の安定化材を含有したジルコニア原料粉末から製造される歯科切削加工用ジルコニア被切削体よりも優れた透光性及び優れた色調の彩度を有し、かつ、変形を生じないジルコニア完全焼結体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施形態について詳細に例示説明する。
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、切削加工により補綴装置を作製する歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、この歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、セラミックス粒子の半焼成体(仮焼体・予備焼結体)を含む半焼成歯科切削加工用ジルコニア被切削体であり、歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、酸化ジルコニウムと、酸化物からなる安定化材(以下、本明細書において単に「安定化材」ともいう)と、カルシウム、マグネシウム及び希土類元素から選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物ではない水溶性化合物塩(以下、本明細書において単に「水溶性化合物塩」ともいう)とを含んでおり、セラミックス粒子の半焼成体における安定化材の量は2~7mol%であり、かつ、歯科切削加工用ジルコニア被切削体における前記水溶性化合物塩の量は0.1~3.5 mol%であることを特徴とするものである。本発明において補綴装置とは、歯科切削加工用ジルコニア被切削体から切削加工により作成されるものであり、半焼成体及び完全焼結体のいずれをも含むものである。この場合、歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、89.5~97.9mol%の酸化ジルコニウムを含む。
【0053】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、公知のジルコニア原材料粉末を用いて製造することができる。具体的には、例えば、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、安定化材を含有したジルコニア原料粉末から製造することができる。さらに、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含まれる安定化材は、イットリウム及び/又はエルビウムを含有していることが好ましい。
【0054】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含まれるセラミックス粒子の半焼成体における安定化材の量は2~7mol%である。言い換えると、本発明においては、セラミックス粒子の半焼成体の2~7mol%は、酸化物からなる安定化材により構成されている。セラミックス粒子の半焼成体における酸化物からなる安定化材の量が、2 mol%より低い場合、ジルコニア完全焼結体に十分な透光性を付与させることができない。一方、セラミックス粒子の半焼成体における酸化物からなる安定化材の量がが、7mol%を越える場合、ジルコニア完全焼結体の透光性は向上するものの十分な強度を付与させることが困難となる。本発明において安定化材の含有量とは、(安定化材の量)/(セラミックス粒子の半焼成体に含まれる全無機酸化物)の比率をmol%で表した値をいう。
【0055】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体における水溶性化合物塩の量は0.1~3.5 mol%である。言い換えると、本発明においては、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の0.1~3.5mol%は、水溶性化合物塩により構成されている。好ましくは、水溶性化合物塩の量は0.5~3.0 mol%である。本発明において水溶性化合物塩の含有量とは、(水溶性化合物塩の量)/(歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含まれる全無機酸化物)の比率をmol%で表した値をいう。
【0056】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体における水溶性化合物塩の含有量が、0.1 mol%未満である場合、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に十分な透光性を付与させることができない。一方、3.5 mol%を超える場合、ジルコニア完全焼結体の透光性は向上するものの十分な強度を付与させることが困難となる。本発明においては、水溶性化合物塩がイットリアを含むことが好ましい。水溶性化合物塩がイットリアを含むことにより、透光性をより向上させることができる。
【0057】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、着色されたジルコニア原料粉末を用いて製造することが好ましい。具体的には、鉄を含有した黄色のジルコニア原料粉末や、安定化材としてエルビウムを含有した赤色のジルコニア原料粉末等が挙げられる。また、これらの着色ジルコニア原料粉末に加えて、色調調整のためにプラセオジム、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、銅などの元素を含有した着色ジルコニア原料粉末を併用しても何等問題はない。これらの着色材を含有することにより、天然歯の色調により近似させることが可能である。また、焼結性向上と低温劣化の抑制を目的として、0.01~0.15 mol%の焼結助剤であるアルミナ(酸化アルミニウム)を含有するジルコニア原料粉末を用いて製造することが好ましい。アルミナを過剰に含有するジルコニア原料粉末を用いた場合、ジルコニア完全焼結体の透光性が低下することとなる。
【0058】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば公知の製造方法で製造することができる。具体的には、ジルコニア原材料粉末をプレス成形によって成形して製造することができる。さらに、組成の異なる、特に安定化剤及び/又は着色材の含有量が異なるジルコニア原料粉末を多段階的にプレス成形し、多層成形してもよい。さらに、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、プレス成形後に、CIP(冷間静水等方圧プレス)処理を行ったものが好ましい。また、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、切削加工に適した硬度に調整するために、例えば800~1200℃で半焼成(仮焼・予備焼結)されたものとすることができる。
【0059】
次に本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の第1の実施形態について説明する。第1の実施形態の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、セラミックス粒子の半焼成体が、酸化ジルコニウム、及び、酸化物からなる安定化材を含み、セラミックス粒子の半焼成体の表面に、水溶性化合物塩が担持されている。第1の実施形態の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、実質的にセラミックス粒子の半焼成体から構成されている。
【0060】
このような歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、例えば、ジルコニア原材料粉末として酸化ジルコニウム、及び、2~7mol%の酸化物からなる安定化材を含むセラミックス粒子を半焼成させ、半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体に、カルシウム、マグネシウム及び希土類元素から選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物ではない水溶性化合物塩溶液を含浸させることにより製造することができる。この場合、セラミックス粒子は、酸化ジルコニウムを、93~98 mol%含む。より詳しくは、半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体を水溶性化合物塩と水とを含む水溶性化合物塩溶液に浸漬し、好ましくは乾燥させることで、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含まれる半焼成したセラミックス粒子の表面に、水溶性化合物塩を担持させる。本明細書においては、「セラミックス粒子の表面」とは、セラミックス粒子の外表面だけでなく、セラミックス粒子の外表面と連通するセラミックス粒子の内表面を含むものである。このような製造方法によれば、従来のように、あらかじめ一定量の安定化材を含有したジルコニア原料粉末から製造される歯科切削加工用ジルコニア被切削体とは異なり、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、任意の量の水溶性化合物塩をセラミックス粒子の半焼成後に、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に添加できる。そのため、このように製造された歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製されるジルコニア完全焼結体は、高い強度を維持しつつ、従来の歯科切削加工用ジルコニア被切削体よりも、優れた透光性及び優れた色調の彩度を有し、かつ、変形を生じない特性を付与することができる。
【0061】
この第1の実施形態の歯科切削加工用ジルコニア被切削体では、水溶性化合物塩溶液が内部まで浸透し、かつ水溶性化合物塩を担持できることが重要である。これらを達成するためには、半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体の相対密度や比表面積が重要となる。
【0062】
第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体の相対密度は、50~70%であることが好ましい。相対密度が50%未満の場合、水溶性化合物塩の担持量が十分に得られないためその被切削体を焼結したときに好ましい透明性が得られないため好ましくない。一方、相対密度が70%を越える場合、水溶性化合物塩溶液が十分に浸透せず、その被切削体を焼結したときに好ましい透明性が得られないため好ましくない。本明細書において、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の相対密度とは、完全焼結体の密度を100%としたときにおける半焼結体である歯科切削加工用ジルコニア被切削体の見かけ上の密度をいうものである。
【0063】
第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体の比表面積は、0.5~10m/gであることが好ましい。比表面積が0.5m/g未満の場合、水溶性化合物塩を十分に担持できず、被切削体の焼結(完全焼結)後の透明性が得られないため好ましくない。一方、比表面積が10m/gを越える場合、水溶性化合物塩の担持量が過剰となり、歯科切削加工用ジルコニア被切削体が焼結後に十分な透明性が得られないため好ましくない。
【0064】
第1の実施形態に用いられる水溶性化合物塩溶液は、カルシウム、マグネシウム、またはイットリウム及びランタン等の希土類元素から選択される少なくとも一つの元素の酸化物ではない水溶性化合物を溶解させて使用する。その中でも、ハロゲン化合物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩のいずれかからなる水溶性のイットリウム、カルシウム、マグネシウム、ランタンの化合物を用いることが好ましい。それらを具体的に例示すると、塩化イットリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ランタン、硝酸イットリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ランタン、酢酸イットリウム、カルボン酸イットリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、硫酸イットリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。これらの中でも、焼成炉の汚染等を抑制する観点から、有機酸塩の水溶性化合物が特に好ましい。具体的には、酢酸イットリウム、カルボン酸イットリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどが挙げられる。これらのカルシウム、マグネシウム、またはイットリウム及びランタン等の希土類元素から選択される少なくとも一つの元素の水溶性化合物は単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることができる。
【0065】
第1の実施形態に用いられる水溶性化合物塩溶液は、水溶性化合物塩の含有量が1~50wt%であることが好ましく、より好ましくは5~30wt%である。
【0066】
第1の実施形態に用いられる水溶性化合物塩溶液において、水溶性化合物の含有量が、1wt%未満である場合、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に十分な水溶性化合物塩を担持することできないため好ましくない。一方、50wt%を超える場合、水溶性化合物塩の溶解性が悪くなるため好ましくない。
【0067】
第1の実施形態に用いられる水溶性化合物塩溶液の調製方法は、特に限定されるものではなく、水溶性化合物を水に溶解させれば、いずれの調製方法であっても何等問題はない。
【0068】
本発明において水溶性化合物塩溶液は、水溶性セリウム化合物を含んでもよい。または水溶性化合物塩溶液は、水溶性セリウム化合物、植物油及び水溶性有機溶媒を含んでいても良い。
【0069】
第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体を水溶性化合物塩溶液に浸漬する方法としては、水溶性化合物塩溶液が歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含まれる半焼成したセラミックス粒子間隙に侵入できるのであれば、特に限定はないが、簡便で好ましい方法は、水溶性化合物塩溶液の中に、半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体の全体及び/又は一部を浸漬させることである。半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体の全体及び/又は一部を浸漬させることによって、毛細管現象により、水溶性化合物塩溶液が徐々に、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の内部にある、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の外部と連通する空間に浸入することができる。
【0070】
第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体を水溶性化合物塩溶液に浸漬する具体的な方法としては、半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体の全体積に対して、水溶性化合物塩溶液を1~100%浸漬させることが好ましく、10~100%浸漬させることがより好ましい。半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体に対して、水溶性化合物塩溶液の浸漬する体積を制御することで、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の任意の部位にのみ水溶性化合物塩を担持させることができる。
【0071】
第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体を水溶性化合物塩溶液に浸漬する具体的な雰囲気は、特に制限はなく、常圧雰囲気下、減圧雰囲気下、加圧雰囲気下のいずれにおいても問題はない。製造時間短縮の観点から、周囲の環境を減圧雰囲気下または、加圧雰囲気下に置くことは、水溶性化合物塩溶液の浸透を促すことになるので、好ましい手段である。また、減圧操作の後に常圧に戻す操作(減圧/常圧の操作)又は加圧操作の後に常圧に戻す操作(加圧/常圧の操作)を複数回繰り返すことは、水溶性化合物塩溶液を、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の内部にある、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の外部と連通する空間に浸入させる工程の時間短縮のためには有効である。
【0072】
水溶性化合物塩溶液を半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体に浸漬させる時間は、半焼成したセラミックス粒子を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体の相対密度及び成形体サイズ、水溶性化合物塩溶液の浸透程度及び浸漬方法等によって一概には決定されず、適宜、調整することができる。例えば、浸漬させる場合は、通常1~120時間であり、減圧下での浸漬の場合は、通常0.5~12時間であり、加圧下で接触させる場合は、通常0.2~6時間である。
【0073】
水溶性化合物塩溶液が、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の内部にある、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の外部と連通する空間に浸入した後、水溶性化合物塩溶液から歯科切削加工用ジルコニア被切削体を取り出し、水溶性化合物塩溶液の乾燥工程を行なうことが好ましい。乾燥工程については、特に限定はないが、簡便で好ましい方法は、常圧雰囲気下で乾燥することである。乾燥させる温度は、特に限定はないが、100~500℃が好ましく、100~300℃がより好ましい。乾燥させる時間に関しても、特に限定はないが、通常1~12時間である。
【0074】
このようにして製造された第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、必要に応じて所望の大きさに切断、切削、表面研磨が施されて製品として出荷される。第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体では、水溶性化合物塩溶液の浸漬後に乾燥工程を行っている。そのため、第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、乾式切削により歯科用補綴装置の形状に切削し、その後本焼成(完全焼結)して完全焼結体とすることが可能である。
【0075】
第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体を切削後に完全焼結して歯科用補綴装置を製造する方法としては、特に限定はないが、簡便で好ましい方法は、常圧で焼成することである。焼成温度は、特に限定はないが、1400~1650℃が好ましく、より好ましくは、1450~1600℃が特に好ましい。最大焼成温度での係留時間は、特に限定はないが、2~12時間が好ましく、より好ましくは、2~4時間が特に好ましい。昇温速度は、特に限定はないが、1~400℃/minが好ましく、より好ましくは、3~100℃/minが特に好ましい。
【0076】
第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、高い強度を維持しつつ、従来のジルコニア原料粉末から製造される歯科切削加工用ジルコニア被切削体と比較して、優れた透光性及び優れた色調の彩度を有し、かつ、変形を生じないジルコニア完全焼結体を提供することができる。これらの理由は定かではないが、ジルコニアに固溶できる水溶性化合物塩を歯科切削加工用ジルコニア被切削体の最表面に担持することで、焼結後過程において担持した水溶性化合物塩が粒界近辺に偏析し、粒界近傍の結晶相の相転移(正方晶から立方晶)を助長するため、透光性を向上させたと考えられる。さらに、ジルコニアに固溶できる水溶性化合物塩を歯科切削加工用ジルコニア被切削体の最表面に担持させることは、焼結体のマイクロクラックを低減させる効果をも付与し、ジルコニア完全焼結体の強度を向上にさせると考えられる。
【0077】
第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体では、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の表面から歯科切削加工用ジルコニア被切削体の重心に向かって、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の表面から重心までの寸法の45~55%の位置における水溶性化合物塩の含有量は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の表面から歯科切削加工用ジルコニア被切削体の重心に向かって、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の表面から重心までの寸法の10~20%の位置における水溶性化合物塩の含有量の、50~150%であることが好ましく、70~130%であることがより好ましく、90~110%であることが最も好ましい。即ち、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の表面から歯科切削加工用ジルコニア被切削体の重心までの線分における、当該表面から線分の寸法の45~55%の位置における水溶性化合物塩の量の含有量は、当該表面から線分の寸法の10~20%の位置における水溶性化合物塩の量の含有量の、50~150%であることが好ましい。このような関係を満たすことにより、水溶性化合物塩を歯科切削加工用ジルコニア被切削体の最表面の全体に亘って均一に担持させることが可能となり、透光性の向上及び強度の向上の効果を、ジルコニア完全焼結体の全体に亘って均一に得ることができる。この場合における表面の位置は、任意に選択することができ、いずれかの表面の位置において、上記の関係を満たせばよいものである。しかしながら上記の関係は、表面の位置が、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の表面から重心までの寸法が最小となる位置である場合に満たされることが好ましい。このような表面の位置は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体がブロック形状である場合には、ブロックのいずれかの表面の中心であり、歯科切削加工用ジルコニア被切削体がディスク形状である場合には、円形を有する面の中心である。なお、上記の関係における表面の位置は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の表面から重心までの寸法が最大となる位置としてもよい。
【0078】
第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体では、着色材として、Pr、Er、Fe、Co、Ni又はCuを含有することが好ましい。これらの着色材を含有することにより、天然歯の色調により近似させることが可能である。
【0079】
この場合には、第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、安定化剤及び/又は着色材の含有量が異なる複数の層からなることが好ましい。このような構成とすることにより、天然歯の色調にさらに近似させることが可能である。
【0080】
第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体を用いて切削加工する補綴装置の種類は特に制限はなく、インレー、ラミネート、クラウン、ブリッジ等のいずれの補綴装置でも何等問題はない。そのため、補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニア被切削体の形状も特に制限はなく、インレー、ラミネート、クラウン等に対応したブロック形状やブリッジに対応したディスク形状など、いずれの形状の歯科切削加工用ジルコニア被切削体でも用いることができる。
【0081】
次に本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、セラミックス粒子の半焼成体が、酸化ジルコニウム、酸化物からなる安定化材、及び、水溶性化合物塩を含む。第2の実施形態の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、実質的にセラミックス粒子の半焼成体から構成されている。
【0082】
このような歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、例えば、ジルコニア原材料粉末として酸化ジルコニウム、2~7mol%の酸化物からなる安定化材、及び、0.1~3.5 mol%のカルシウム、マグネシウム及び希土類元素から選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物ではない水溶性化合物塩を含むセラミックス粒子を半焼成することにより製造することができる。このように製造された歯科切削加工用ジルコニア被切削体では、安定化材及び水溶性化合物塩は、半焼成したセラミックス粒子によりその全体が覆われた状態で、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含まれることとなる。そのため、第2の実施形態の歯科切削加工用ジルコニア被切削体では、水溶性化合物塩は、半焼成したセラミックス粒子の表面に担持されない。このように製造された歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製されるジルコニア完全焼結体もまた、十分な安定化剤と水溶性化合物塩とを含むことにより、高い強度を維持しつつ、従来の歯科切削加工用ジルコニア被切削体よりも、優れた透光性及び優れた色調の彩度を有し、かつ、変形を生じない特性を付与することができる。
【0083】
第2の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体における相対密度や比表面積は、第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体における相対密度や比表面積と同程度のものを使用することができる。この場合、必要に応じて、第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体と同様に、水溶性化合物塩溶液への含浸を行うことが可能となる。
【0084】
第2の実施形態に用いられる水溶性化合物塩は、カルシウム、マグネシウム、またはイットリウム及びランタン等の希土類元素から選択される少なくとも一つの元素の酸化物ではない水溶性化合物とすることができる。その中でも、ハロゲン化合物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩のいずれかからなる水溶性のイットリウム、カルシウム、マグネシウム、ランタンの化合物を用いることが好ましい。それらを具体的に例示すると、塩化イットリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ランタン、硝酸イットリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ランタン、酢酸イットリウム、カルボン酸イットリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、硫酸イットリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。これらの中でも、焼成炉の汚染等を抑制する観点から、有機酸塩の水溶性化合物が特に好ましい。具体的には、酢酸イットリウム、カルボン酸イットリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどが挙げられる。これらのカルシウム、マグネシウム、またはイットリウム及びランタン等の希土類元素から選択される少なくとも一つの元素の水溶性化合物は単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることができる。
【0085】
このようにして製造された第2の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体もまた、必要に応じて所望の大きさに切断、切削、表面研磨が施されて製品として出荷される。第2の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、歯科用補綴装置の形状に切削し、その後本焼成(完全焼結)して完全焼結体とすることが可能である。
【0086】
第2の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体と同様の方法により完全焼結して歯科用補綴装置を製造することができる。
【0087】
第2の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体もまた、高い強度を維持しつつ、従来のジルコニア原料粉末から製造される歯科切削加工用ジルコニア被切削体と比較して、優れた透光性及び優れた色調の彩度を有し、かつ、変形を生じないジルコニア完全焼結体を提供することができる。
【0088】
第2の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体もまた、着色材として、Pr、Er、Fe、Co、Ni又はCuを含有することが好ましい。この場合には、第2の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、安定化剤及び/又は着色材の含有量が異なる複数の層からなることが好ましい。
【0089】
第2の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体を用いて切削加工する補綴装置の種類もまた特に制限はなく、インレー、ラミネート、クラウン、ブリッジ等のいずれの補綴装置でも何等問題はない。そのため、補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニア被切削体の形状も特に制限はなく、インレー、ラミネート、クラウン等に対応したブロック形状やブリッジに対応したディスク形状など、いずれの形状の歯科切削加工用ジルコニア被切削体でも用いることができる。
【0090】
次に本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製するための水溶性化合物塩溶液を含む透明性向上液について説明する。この透明性向上液は、歯科用補綴装置を作製するために使用することも可能である。本発明の透明性向上液の第1の実施形態では、透明性向上液は、(a)酸化物ではない水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)溶液:10~80 wt%、及び、(b)水:20~90 wt%を含むものである。第1の実施形態の透明性向上液は、(a)水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)溶液:10~80 wt%、及び、(b)水:20~90 wt%からなることが好ましい。
【0091】
第1の実施形態の透明性向上液に含まれる(a)成分:酸化物ではない水溶性化合物塩はカルシウム、マグネシウム、またはイットリウム及びランタン等の希土類元素から選択される少なくとも一つの元素の水溶性化合物(ただしセリウム化合物を除く)である。水溶性化合物は水に溶解するものであれば、溶解度の程度に関係なく用いることができる。その中でもハロゲン化合物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩のいずれかからなる水溶性のイットリウム、カルシウム、マグネシウム、ランタン等の希土類元素などの化合物を用いることが好ましい。それらを具体的に例示すると、塩化イットリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ランタン、硝酸イットリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ランタン、酢酸イットリウム、カルボン酸イットリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、硫酸イットリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。これらの中でも塩化イットリウム、硝酸イットリウムが特に好ましい。また、焼成炉の汚染等を抑制する観点から、有機酸塩の水溶性化合物が特に好ましい。具体的には、酢酸イットリウム、カルボン酸イットリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどが挙げられる。これらのカルシウム、マグネシウム、またはイットリウム及びランタン等の希土類元素から選択される少なくとも一つの元素の水溶性化合物は単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることができる。(a)成分:酸化物ではない水溶性化合物の含有量は10 wt%~80 wt%の範囲であることが必須であり、より好ましくは20 wt%~60wt%の範囲で含まれていることである。透明性向上液に含まれている水溶性化合物塩の含有量が10 wt%未満である場合、例えば透明性向上液を補綴装置に塗布しても透明性の向上が認められない。一方、80wt%を超えると水への溶解性が著しく悪くなるため、均一な透明性向上液を調製することができない。
【0092】
第1の実施形態の透明性向上液に含まれる(b)水は、(a)酸化物ではない水溶性化合物塩を溶解もしくは分散させるために必要なものである。第1の実施形態の透明性向上液に含まれている水は特に限定されないが、イオン交換水、日本薬局方精製水および日本薬局方蒸留水等を用いることできる。第1の実施形態の透明性向上液に含まれている水の含有量は20~90 wt%の範囲であり、好ましくは30~70 wt%の範囲である。含有量が少ない場合は(a)水溶性化合物塩の溶解性が悪くなり、配合量が多い場合は透明性向上の効果が少なくなる。
【0093】
透明性向上液は、(c)水溶性セリウム化合物:2~80 wt%を含むものであってもよい。この場合(b)水は、8~86 wt%の範囲で含まれる。即ち本発明の透明性向上液の第2の実施形態では、透明性向上液は、(a)酸化物ではない水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)溶液:10~80 wt%、(b)水:8~86 wt%、及び、(c)水溶性セリウム化合物:2~80 wt%を含むものである。
【0094】
第2の実施形態の透明性向上液に含まれる(c)成分:水溶性セリウム化合物は、水に溶解するものであれば、溶解度の程度に関係なくいずれのセリウム化合物でも用いることができる。その中でもハロゲン化合物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩のいずれかからなる水溶性セリウム化合物を用いることが好ましい。それらを具体的に例示すると、塩化セリウム、硝酸セリウム、酢酸セリウム、硫酸セリウム、カルボン酸セリウムなどが挙げられ、これらの中でも塩化セリウム、硝酸セリウムを用いることが特に好ましい。これらの水溶性セリウム化合物は単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることができる。また第2の実施形態の透明性向上液に含まれる水溶性セリウム化合物の含有量は、2~80 wt%の範囲であることが必須であり、より好ましくは2~40 wt%の範囲で含まれていることである。透明性向上液に含まれている水溶性セリウム化合物の含有量が2wt%未満である場合、例えば透明性向上液を補綴装置に塗布しても透明性の向上が認められない。一方、80 wt%を超えると水への溶解性が著しく悪くなるため、均一な透明性向上液を調製することができない。
【0095】
第2の実施形態の透明性向上液に含まれる(a)酸化物ではない水溶性化合物塩は、第1の実施形態と同じものを第1の実施形態と同じ量で用いることができる。第2の実施形態の(b)水は、(a)酸化物ではない水溶性化合物塩及び(c)水溶性セリウム化合物を溶解もしくは分散させるために必要なものであり、第1の実施形態と同じものを用いることができる。第2の実施形態の透明性向上液に含まれている水の含有量は8~86 wt%の範囲であり、好ましくは30~70 wt%の範囲である。含有量が少ない場合は(a)酸化物ではない水溶性化合物塩及び(c)水溶性セリウム化合物の溶解性が悪くなり、配合量が多い場合は透明性向上の効果が少なくなる。
【0096】
第2の実施形態の透明性向上液においては、(a)酸化物ではない水溶性化合物塩及び(c)水溶性セリウム化合物の透明性向上液への含有量の合計が30~70wt%の範囲であることが好ましい。30wt%未満の範囲では透明性の向上が不十分な場合が生じやすく、70wt%を超える場合は粘度が高くなり、例えば透明性向上液を補綴装置に塗布する場合の補綴装置への浸透性が悪くなる場合がある。
【0097】
透明性向上液は、(d)水溶性有機溶媒:0.1~20 wt%を含むものであってもよい。この場合の成分(b)は、水及び/又は植物油である。即ち本発明の透明性向上液の第3の実施形態では、透明性向上液は、(a)酸化物ではない水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)溶液:10~80 wt%、(b)水及び/又は植物油:8~86 wt%、(c)水溶性セリウム化合物:2~80 wt%、及び、(d)水溶性有機溶媒:0.1~20 wt%を含むものである。
【0098】
第3の実施形態の透明性向上液に含まれる(d)成分:水溶性有機溶媒は、水や後述する植物油と相溶するものを適宜選択して用いることができる。この水溶性有機溶媒は、増粘剤として粘度を調整し、かつ、ジルコニアの焼結時に有機物としての残渣が残らないものが好ましい。この水溶性有機溶媒を具体的に例示するとアルコール類、ポリオール類、グリコールエーテル類、詳細にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、アセトン、1,4-ジオキサン、ポリプロピレングリコールが挙げられ、その中でもポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが好ましい。また、第3の実施形態の透明性向上液に含まれている水溶性有機溶媒の含有量は0.1~20 wt%の範囲である。0.1 wt%未満では適切な粘度が得られず、例えば透明性向上液を補綴装置に塗布する場合の塗布性が悪化する。20 wt%を超えると、ジルコニアの焼結時に有機物としての残渣が残る場合が生じうる。
【0099】
第3の実施形態の透明性向上液に含まれる(a)酸化物ではない水溶性化合物塩は、第1の実施形態と同じものを第1の実施形態と同じ量で用いることができる。また、第3の実施形態の透明性向上液に含まれる(c)水溶性セリウム化合物は、第2の実施形態と同じものを第2の実施形態と同じ量で用いることができる。さらに第3の実施形態の成分(b)で用いる水は、第2の実施形態と同じものを第1の実施形態と同じ量で用いることができる。第3の実施形態では、成分(b)は水及び/又は植物油から構成される。第3の実施形態の透明性向上液で使用される植物油は特に限定されず、いずれの植物油でも用いることができる。具体的に例示するとガムネン、ピネン、D-リモネン、ターピネオール等が挙げられ、その中でもピネン、D-リモネンが好ましい。第3の実施形態の透明性向上液に含まれている植物油の含有量は8~86 wt%の範囲であり、好ましくは30~70 wt%の範囲である。含有量が少ない場合は(a)酸化物ではない水溶性化合物塩及び(c)成分:水溶性セリウム化合物の溶解性が悪くなり、配合量が多い場合は透明性向上の効果が少なくなる。
【0100】
第3の実施形態の透明性向上液においても、(a)水溶性化合物塩及び(c)水溶性セリウム化合物の透明性向上液への含有量の合計が30~70wt%の範囲であることが好ましい。30wt%未満の範囲では透明性の向上が不十分な場合が生じやすく、70wt%を超える場合は粘度が高くなり、例えば透明性向上液を補綴装置に塗布する場合の補綴装置への浸透性が悪くなる場合がある。
【0101】
本発明の透明性向上液は、有機染料をベースとする有機マーカーを含有してもよい。このようにすると、透明性向上液を歯科切削加工用ジルコニア被切削体から切削加工により作製した補綴装置に適用した場合において、その適用した領域を視覚化することができ、また適用した透明性向上液の量やその浸透度合いも視覚化することができる。有機染料は無機物を含まないことが求められる。有機染料として具体的に例示するとクチナキ黄色素、アナトー色素、赤キャベツ色素等が挙げられ、その中でも赤キャベツ、クチナキ黄色素が好ましい。
【0102】
次に本発明の透明性向上液の使用方法について説明する。本発明の透明性向上液は、例えば、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に、塗布又は浸漬して水溶性化合物塩を歯科切削加工用ジルコニア被切削体の表面に担持させるために使用される。具体的には上記した第1の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体を製造する際に、歯科切削加工用ジルコニア被切削体が浸漬される水溶性化合物塩溶液として使用することができる。また、上記した第1及び第2の実施形態に係る歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造後に、製造された歯科切削加工用ジルコニア被切削体またはこれらの歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製された歯科用補綴装置に塗布する塗布液として使用することができる。
【0103】
本発明の透明性向上液の使用方法においては、透明性向上液が塗布又は浸漬される歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、鉄を含有することが好ましい。
【0104】
歯科切削加工用ジルコニア被切削体及び歯科切削加工用ジルコニア被切削体から切削加工された補綴装置に本発明の透明性向上液を塗布することにより、高い強度を維持した上で優れた透光性及び優れた色調の彩度を有し、かつ、変形を生じない補綴装置を提供するためには、以下の歯科切削加工用ジルコニア被切削体から切削加工された補綴装置に本発明の透明性向上液を適用することが好ましい態様である。
【0105】
本発明の透明性向上液は、多孔質である予備焼結された歯科切削加工用ジルコニア被切削体を切削加工することにより、補綴装置(半焼結体)を作製する際に、歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びこの補綴装置に塗布されて、その後に完全焼結して色調の彩度や透明性の向上を完全焼結体にもたらせるものである。即ち本発明の透明性向上液は、予備焼結体である歯科切削加工用ジルコニア被切削体及び補綴装置に塗布によりその表面から内部に浸透して、その後の完全焼結により完全焼結体となった補綴装置の色調の彩度や透明性を向上させる。そのためには、補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニア被切削体の相対密度や比表面積、そして組成等がそれらに影響を与えるのである。
【0106】
そのため本発明の透明性向上液を、補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニア被切削体に塗布する場合、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の相対密度は45~60%であることが好ましい。本明細書において、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の相対密度とは、完全焼結体の密度を100%としたときにおける半焼結体である歯科切削加工用ジルコニア被切削体の見かけ上の密度をいうものである。相対密度が45%未満では、塗布された透明性向上液が内部まで浸透しすぎてしまい、補綴装置の強度低下になる。一方、相対密度が60%を越える場合は、塗布した透明性向上液が浸透しにくいという問題がある。また予備焼結体が多孔質であるという観点から歯科切削加工用ジルコニア被切削体の比表面積は10~200cm2/gの範囲であることが好ましい。比表面積が10cm2/g未満であると塗布した透明性向上液の浸透が十分でなく、一方比表面積が200cm2/gを越えると塗布した透明性向上液が内部まで浸透しすぎてしまい、補綴装置の強度低下する場合がある。
【0107】
また、本発明の透明性向上液を適用する補綴装置を作製するための歯科切削加工用ジルコニア被切削体に安定化材として、イットリウム及び/またはエルビウムを含んでいることが好ましい態様であり、これは本発明の透明性向上液を適用する補綴装置の色調の彩度や透明性に影響を与えるためである。歯科切削加工用ジルコニア被切削体中における安定化材のモル濃度が4mol%以下であることが好ましい。歯科切削加工用ジルコニア被切削体中における安定化材のモル濃度が4mol%を越える場合は完全焼結後において補綴装置の透明性は向上するものの強度は低下が生じる場合がある。
【0108】
本発明の透明性向上液を適用する補綴装置の種類は特に制限はなく、インレー、ラミネート、クラウン、ブリッジ等のいずれの補綴装置でも何等問題はない。そのため補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニア被切削体の形状も特に制限はなく、インレー、ラミネート、クラウン等に対応したブロック形状やブリッジに対応したディスク形状など、いずれの形状の歯科切削加工用ジルコニア被切削体でも用いることができる。また、本発明の透明性向上液を適用することにより、より審美的な補綴装置を得るためには多層構造のブロック形状やディスク形状の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を用いることがより好ましい態様である。
【0109】
本発明の透明性向上液を塗布液として用いる場合には、透明性向上液は、全ての成分を混合して製造することが好ましく、流動性がある状態の液体状であることが好ましい。なお、透明性向上液はいずれの状態であっても何等制限は無く、例えば均一にすべての成分が相溶している状態、複数層に分離している状態、ある特定の成分が分離して沈降している状態等が挙げられるが、使用前に振る等の操作により全体が均一な状態になるのであれば特に問題はない。その中でも本発明の透明性向上液を補綴装置に塗布後に本発明の透明性向上液が浸透するという観点からは、上記したとおり、すべての成分が相溶しており、流動性がある低粘性の液体状であることが好ましい。
【0110】
さらに本発明の透明性向上液を用いた補綴装置への塗布方法であるが、均一に補綴装置の表面に適用できる手法であれば何等問題はなく、筆による塗布、スプレー等を用いた噴霧、ピペット等を用いた滴下等いずれの塗布方法でも何等制限はない。その中でも均一に補綴装置の表面のみに適用できるこことから、筆等を用いて塗布することが好ましい。
【0111】
本発明の透明性向上液を塗布液として用いる場合には、歯科切削加工用ジルコニア被切削体から切削された歯科用補綴装置の表層のみに透明性向上液を塗布することが好ましい。このようにすることで、歯冠形態を想定して表層のみの透明性を向上させることができ、例えば、歯冠形態のエナメル部のみ塗布することにより、サービカル部は不透明な状態を維持することもできる。
【0112】
次に本発明の透明性向上液を用いた歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法について説明する。本発明の透明性向上液を、歯科切削加工用ジルコニア被切削体が浸漬される水溶性化合物塩溶液として使用する場合には、例えば、ジルコニア原材料粉末として酸化ジルコニウムと2~7mol%の酸化物からなる安定化材とを含むセラミックス粒子を準備し、このセラミックス粒子に着色材を含有させて、着色材の含有量が異なるジルコニア原料粉末を多段階的にプレス成形して多層構造を有するプレス成形体を作製する。このプレス成形体を、CIP処理し、その後800~1200℃で仮焼(予備焼結)して得られた半焼成体に、この半焼成体の全体積に対して、本発明の透明性向上液を10~100%浸漬させる。浸漬は、例えば常圧雰囲気下で1~120時間、減圧雰囲気下0.5~12時間、加圧雰囲気下で0.2~6時間とすることができる。
【0113】
本発明の透明性向上液を、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の塗布液として使用する場合には、透明性向上液を歯科切削加工用ジルコニア被切削体が浸漬される水溶性化合物塩溶液として使用する場合と同様に、半焼成体である歯科切削加工用ジルコニア被切削体を製造する。この半焼成体である歯科切削加工用ジルコニア被切削体に、筆等を用いて本発明の透明性向上液を塗布する。
【実施例
【0114】
以下、実施例により本発明をより詳細に、且つ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0115】
[各歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体の作製]
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-1)の作製
3.0mol%の酸化イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(Zpex:東ソー社製、理論密度:6.092g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-1)を作製した。
【0116】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-2)の作製
3.0mol%の酸化イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(Zpex:東ソー社製、理論密度:6.092g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(800℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-2)を作製した。
【0117】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-3)の作製
3.0mol%の酸化イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(Zpex:東ソー社製、理論密度:6.092g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1200℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-3)を作製した。
【0118】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-4)の作製
5.5mol%の酸化イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(Zpex SMILE:東ソー社製、理論密度:6.050g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-4)を作製した。
【0119】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-5)の作製
6.5mol%の酸化イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.035g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形を行い、成形体を得た。さらに、成形体(面圧:30MPa)にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-5)を作製した。
【0120】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-6)の作製
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-6)は、5.5mol%のイットリウムを含有した着色ジルコニア原料粉末(理論密度:6.050g/cm)を積層して製造された「松風ディスクZR ルーセントFA」を用いた。
【0121】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-7)の作製
2.0mol%の酸化イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.114g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-7)を作製した。
【0122】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-8)の作製
7.0mol%の酸化イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.026g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-8)を作製した。
【0123】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-9)の作製
3.0mol%の酸化イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(Zpex:東ソー社製、理論密度:6.092g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(700℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-9)を作製した。
【0124】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-10)の作製
3.0mol%の酸化イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(Zpex:東ソー社製、理論密度:6.092g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1300℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-10)を作製した。
【0125】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-11)の作製
3.0mol%の酸化イットリウム及び3.3mol%酢酸イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.050g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-11)を作製した。
【0126】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-12)の作製
3.0mol%の酸化イットリウム及び1.0mol%酢酸イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.050g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-12)を作製した。
【0127】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-13)の作製
8.0mol%の酸化イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.050g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1300℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-13)を作製した。
【0128】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-14)の作製
1.0mol%の酸化イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:5.980g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1300℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-14)を作製した。
【0129】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-15)の作製
6.3mol%の酸化イットリウム及び0.1mol%酢酸イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.050g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-15)を作製した。
【0130】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-16)の作製
6.3mol%の酸化イットリウム及び0.5mol%酢酸イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.050g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-16)を作製した。
【0131】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-17)の作製
6.3mol%の酸化イットリウム及び3.0mol%酢酸イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.050g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-17)を作製した。
【0132】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-18)の作製
6.3mol%の酸化イットリウム及び3.0mol%酢酸カルシウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.050g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-18)を作製した。
【0133】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-19)の作製
6.3mol%の酸化イットリウム及び3.5mol%酢酸イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.050g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-19)を作製した。
【0134】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-20)の作製
6.3mol%の酸化イットリウム及び4.0mol%酢酸イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.050g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-20)を作製した。
【0135】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-21)の作製
3.0mol%の酸化イットリウム及び2.6mol%酢酸イットリウムを含有したジルコニア原料粉末(理論密度:6.050g/cm)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:30MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体にCIP処理(200MPa、1分間)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-21)を作製した。
【0136】
[相対密度の評価]
相対密度評価用試験体は、各歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、マイクロノギスを用いて直径、高さ、重量を測定し、それぞれのかさ密度を測定した。なお、各試験体の理論密度は、それぞれのジルコニア原料粉末から得られた完全焼結体の密度を用いた。相対密度は、以下の式により算出した。
相対密度(%)=各試験体のかさ密度(g/cm)/理論密度(g/cm)×100
【0137】
[比表面積の評価]
比表面積評価用試験体は、各歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を用いて、円柱状(φ4mm×5mm)に切削加工して作製した。各試験体は、自動比表面積/細孔分布測定装置(カンタクローム社製)を用いて、BET比表面積を測定した。
【0138】
表1~3に歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体の組成および諸特性を示す。
【0139】
【表1】
【0140】
【表2】
【0141】
【表3】
相対密度 55.4%、比表面積 6.1m2/g
【0142】
[水溶性化合物塩溶液の調製]
表4~5に水溶性化合物塩溶液の組成表を示す。水溶性化合物塩溶液は、各種水溶性化合物塩をイオン交換水に加え、12時間攪拌混合させて作製した。
【0143】
【表4】
【0144】
【表5】
【0145】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-1)~(A-14)について以下の含浸方法により水溶性化合物塩溶液の含浸を行い、歯科切削加工用ジルコニア被切削とした。なお、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(A-15)~(A-21)は、そのまま歯科切削加工用ジルコニア被切削とした。
【0146】
[含浸方法]
含浸方法(C-1)
常圧雰囲気下にて各歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を各水溶性化合物塩溶液に1時間浸漬させた。その後、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を水溶性化合物塩溶液から取り出し、常圧環境下で乾燥(110℃、12時間)させた。
【0147】
含浸方法(C-2)
常圧雰囲気下にて各歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を各水溶性化合物塩溶液に120時間浸漬させた。その後、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を水溶性化合物塩溶液から取り出し、常圧環境下で乾燥(110℃、12時間)させた。
【0148】
含浸方法(C-3)
常圧雰囲気下にて各歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を各水溶性化合物塩溶液に8時間浸漬させた。その後、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を水溶性化合物塩溶液から取り出し、常圧環境下で乾燥(110℃、12時間)させた。
【0149】
含浸方法(C-4)
減圧雰囲気下(―720mmHg)にて各歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を各水溶性化合物塩溶液に8時間浸漬させた。その後、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を水溶性化合物塩溶液から取り出し、常圧環境下で乾燥(110℃、12時間)させた。
【0150】
含浸方法(C-5)
加圧雰囲気下(0.5MPa)にて各歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を各水溶性化合物塩溶液に8時間浸漬させた。その後、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を水溶性化合物塩溶液から取り出し、常圧環境下で乾燥(110℃、12時間)させた。
【0151】
含浸方法(C-6)
常圧雰囲気下にて各歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を各水溶性化合物塩溶液に8時間浸漬させた。その後、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を水溶性化合物塩溶液から取り出し、高温環境下で乾燥(500℃、12時間)させた。
【0152】
含浸方法(C-7)
常圧雰囲気下にて各歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を各水溶性化合物塩溶液に8時間浸漬させた。その後、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を水溶性化合物塩溶液から取り出し、高温環境下で乾燥(600℃、12時間)させた。
【0153】
表6に歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体を各安定化材含有液に浸漬・乾燥工程させる製造方法を示す。
【0154】
【表6】
【0155】
[水溶性化合物塩量の評価]
水溶性化合物塩量の評価用試験体は、それぞれの含浸方法で作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、蛍光X線装置(リガク社製)を用いて定量分析した。なお、水溶性化合物塩量は、酸化物換算により算出した。水溶性化合物塩の担持量は、以下の式より算出した。
セラミックス粒子半焼成体のモル分率は、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、蛍光X線装置(リガク社製)を用いて定量分析した。なお、安定化材量は、酸化物換算により算出し、酸化ジルコニウム及び安定化材のモル分率を計算した。さらにそれぞれの製造方法により作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体を丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、蛍光X線装置(リガク社製)を用いて定量分析した。このとき歯科切削用ジルココニア被切削体の中の酸化ジルコニウムのモル分率から、セラミックス粒子半焼成体の酸化ジルコニウム及び安定化材の比率を求め、安定化材のモル量を導き出し、この量と後に蛍光X線で得られた安定化材及び水溶性化合物の合計量から安定化材のモル量を減算し、水溶性化合物のみのモル量を同定した。
以下に具体的な計算例を示す。
セラミックス粒子半焼成体(モル分率は、酸化ジルコニウム:96.00mol%、酸化イットリウム:3.00mol%、その他:1.00mol%)に対して酢酸イットリウムを含侵させ、得られた歯科切削加工用ジルコニア被切削体の分析結果として、酸化ジルコニウム:94.00mol%、酸化イットリウム:5.00mol%、その他:1.00mol%となった場合、

水溶性酢酸イットリウムの担持量=5.00-3.00×(94.00÷96.00)=2.06mol%

と計算される。なお、上記計算例おける歯科切削加工用ジルコニア被切削体の分析結果の酸化イットリウムの量には、酸化イットリウム換算した酢酸イットリウムが含まれる。
【0156】
[透光性の評価(コントラスト比の評価)]
透光性評価用試験体は、各歯科切削加工用ジルコニア被切削を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、焼成炉にて完全焼成(1600℃、2時間)した。その後、平面研削盤にて各試験体の厚さ(1.0mm)を調整した。なお、透光性の評価は、コントラスト比の測定により行った。コントラスト比は、分光測色計(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。各試験体の下に白板を置いて測色した時のY値をYw とし、試験体の下に黒板を置いて測色した時のY値をYb とした。コントラスト比は、以下の式をより算出した。

コントラスト比=Yb/Yw

コントラスト比は、0に近づくほど、その材料は透明であり、コントラスト比が1に近づくほどその材料は不透明である。
【0157】
[曲げ強度の評価]
曲げ試験体は、各歯科切削加工用ジルコニア被切削を用いて、板状(幅:4.8mm×長さ:20mm×厚さ:1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、焼成炉にて完全焼結(1600℃、2時間)した。その後、平面研削盤にて各試験体のサイズ(幅:4.0mm×長さ:16mm×厚さ:1.2mm)を調整した。曲げ試験は、ISO6872に準拠して行った(スパン距離:12mm、クロスヘッドスピード:1.0mm/min)。
【0158】
[水溶性化合物塩の均一性評価]
水溶性化合物塩の均一性評価用試験体は、各歯科切削加工用ジルコニア被切削を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体から、丸板状の面の中心から直径1mmの部分を円柱状(高さ1.6mm)に切り出し、切り出した円柱の丸板状の面から0.12mm±0.01mm部分と、0.40mm±0.01mm部分とをそれぞれ切り出し、切り出した部分に含有される水溶性化合物塩の量を蛍光X線装置(リガク社製)を用いて定量分析し、以下の式により水溶性化合物塩の均一性を評価した。

均一性(%)=(0.40mm±0.01mm部分の含有量)/(0.12mm±0.01mm部分)の含有量
【0159】
製造した歯科切削加工用ジルコニア被切削体の特性試験結果を表7~12に示す。
【0160】
【表7】
【0161】
【表8】
【0162】
【表9】
【0163】
【表10】
【0164】
【表11】
【0165】
【表12】
【0166】
【表13】
【0167】
【表14】
【0168】
歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(セラミックス粒子の半焼成体)における安定化材の量が2~7 mol%であり、かつ、歯科切削加工用ジルコニア被切削体における水溶性化合物塩の量が0.1~3.5 mol%である実施例1~33ではいずれも、コントラスト比が0.76以下であり、かつ、曲げ強度が500以上であり、曲げ強度および透光性を高いレベルで両立できることが認められた。
【0169】
一方、歯科切削加工用ジルコニア被切削予備体(セラミックス粒子の半焼成体)における安定化材の量が2~7 mol%ではない、又は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体における水溶性化合物塩の量が0.1~3.5 mol%でない比較例1~4ではいずれも、コントラスト比が0.78以上であるか、曲げ強度が500未満であり、曲げ強度および透光性を高いレベルで両立できていない。
【0170】
次に本発明の透明性向上液の実施例について説明する。
【0171】
[透明性向上液の調製]
表15~20に実施例・比較例・基準例に係る透明性向上液の組成表を示す。実施例・比較例・基準例に係る透明性向上液は、(a)酸化物ではない水溶性化合物塩(ただしセリウム化合物を除く)、(b)水及び/又は植物油、(c)水溶性セリウム化合物、及び、(d)水溶性有機溶媒を加え、12時間混合させて製造した。表中の組成は、別に特定されている場合を除きwt%で示されたものである。
【0172】
[試験体用歯科切削加工用ジルコニア被切削体]
歯科切削加工用ジルコニア被切削体として3mol%の安定化材入りのジルコニアディスク及び5mol%の安定化材入りのジルコニアディスクを用意した。ジルコニアディスクは、下記試験に必要な大きさに加工し、試験に用いた。表18には、本発明の透明性向上液を用いていないジルコニアディスクの各試験結果を基準例1及び2として記載した。
【0173】
[透過率試験体の作製]
透過率の測定にあたっては、歯科切削加工用ジルコニア被切削体として東ソー製ジルコニア粉末を成形し、1100℃で仮焼成品(安定化材(イットリウム)の量 3 mol%、5mol%のもの)を作成し、この歯科切削加工用ジルコニア被切削体から、直径14mm、厚み1.6mmの試験体を切削加工して作製した。この試験体を用いて各実施例に記載の透明性向上液1gを10分間塗布し、80℃で1時間十分に乾燥を行った。その後、説明書記載の方法に従い最終係留温度1450℃で2時間の係留を行い焼結した。その後試験体を厚み1.0mmに調整し、可視光透過率を測定した。
【0174】
[曲げ試験体の作製]
曲げ試験体の測定にあたっては、透過率試験において作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体から、幅4.8mm、厚み1.6mm、長さ20mmの試験体を切削加工して作製した。この試験体を用いて各実施例に記載の透明性向上液1gを10分間塗布し、80℃で1時間十分に乾燥を行った。その後、説明書記載の方法に従い最終係留温度1450℃で2時間の係留を行い焼結した。その試験体を厚み1.2mmに調整し、3点曲げ試験を行った。なお、試験方法はISO6872に準拠した。
【0175】
[色調の測色]
色調の測定にあたっては、透過率試験において作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体から、幅10mm、厚み1.6mm、長さ10mmの試験体を切削加工して作製した。この試験体を用いて各種実施例に記載の透明性向上液に10分間塗布し、80℃で1時間十分に乾燥を行った。その後、説明書記載の方法に従い最終係留温度1450℃で2時間の係留を行い焼結した。その試験体を厚み1.0mmに調整し、コニカミノルタ製測色器を用いてホワイトバックにてL*値、a*値、b*値を測色した。
【0176】
【表15】
【0177】
【表16】
【0178】
【表17】
【0179】
【表18】
【0180】
【表19】
【0181】
【表20】
【0182】
実施例34~41、45~56では、いずれも30%以上の可視光透過率及び900Mpa以上の曲げ強さを示した。そのため、基準例1(透明性向上液未使用)と比べて大きく強度を低下することなく、可視光透過率を向上させることができている。実施例42~44でも同様に、30%以上の可視光透過率及び900Mpa以上の曲げ強さを示した。そのため、基準例2(透明性向上液未使用)と比べて大きく強度を低下することなく、可視光透過率を向上させることができている。比較例5は、(a)構成成分がないため基準例1と比較して可視光透過率がほとんど向上していない。比較例6、8、及び9は透明性は臨床的に十分であるが、曲げ強さの低下が著しい。比較例7及び10は、強度低下はないものの透明性が十分に出ていない。
【0183】
本明細書において、発明の構成要素が単数もしくは複数のいずれか一方として説明された場合、又は、単数もしくは複数のいずれとも限定されずに説明された場合であっても、文脈上別に解すべき場合を除き、当該構成要素は単数又は複数のいずれであってもよい。
【0184】
本発明を詳細な実施の形態を参照して説明したが、当業者であれば、本明細書において開示された事項に基づいて種々の変更又は修正が可能であることが理解されるべきである。従って、本発明の実施形態の範囲には、いかなる変更又は修正が含まれることが意図されている。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明によれば、高い強度を維持しつつ、種々の安定化材を含有したジルコニア原料粉末から製造される歯科切削加工用ジルコニア被切削体よりも優れた透光性及び優れた色調の彩度を有し、かつ、変形を生じないジルコニア完全焼結体を提供することができる。