(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】皮膚水分量測定方法、保湿効果評価方法、皮膚水分量測定装置、保湿効果評価装置、および測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20230127BHJP
A61B 5/0531 20210101ALI20230127BHJP
【FI】
A61B5/00 M ZDM
A61B5/0531
(21)【出願番号】P 2020516263
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2019016424
(87)【国際公開番号】W WO2019208349
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2018085507
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【氏名又は名称】岡部 洋
(72)【発明者】
【氏名】川副 智行
(72)【発明者】
【氏名】木本 晃
(72)【発明者】
【氏名】古川 大智
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-49406(JP,A)
【文献】米国特許第4509527(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0045816(US,A1)
【文献】特開2003-331271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
A61B 5/0531
A61B 5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトレット樹脂および導電体を有する複数の電極部がアレイ状に配列された検出部を、皮膚に対して接触させることなく接近または離反させながら前記複数の電極部の電圧変化を検出する工程と、
前記電圧変化に基づき前記皮膚の水分量を判別する工程と
を有する皮膚水分量測定方法。
【請求項2】
前記判別する工程は、前記複数の電極部のそれぞれの前記電圧変化に基づき前記水分量の分布を判別する請求項1に記載の皮膚水分量測定方法。
【請求項3】
前記検出する工程は、前記皮膚から第1の距離における前記検出部の第1の電圧、前記第1の距離よりも短い第2の距離における前記検出部の第2の電圧、前記第1の距離よりも長い第3の距離における前記検出部の第3の電圧をそれぞれ検出し、前記第1の電圧と前記第2の電圧の差電圧、前記第1の電圧と前記第3の電圧の差電圧のそれぞれに基づき前記電圧変化を得る請求項1または2に記載の皮膚水分量測定方法。
【請求項4】
皮膚に対して化粧料を塗布する工程と、
エレクトレット樹脂および導電体を有する複数の電極部がアレイ状に配列された検出部を、前記皮膚に対して接触させることなく接近または離反させながら前記複数の電極部の電圧変化を検出する工程と、
前記化粧料が塗布された前記皮膚における前記電圧変化と前記化粧料が塗布されていない前記皮膚における前記電圧変化とを比較することにより、前記化粧料の保湿効果を評価する工程と
を有する保湿効果評価方法。
【請求項5】
前記評価する工程は、前記複数の電極部のそれぞれの前記電圧変化に基づき前記皮膚における保湿効果の分布を判別する請求項4に記載の保湿効果評価方法。
【請求項6】
前記検出する工程は、前記皮膚から第1の距離における前記検出部の第1の電圧、前記第1の距離よりも短い第2の距離における前記検出部の第2の電圧、前記第1の距離よりも長い第3の距離における前記検出部の第3の電圧をそれぞれ検出し、前記第1の電圧と前記第2の電圧の差電圧、前記第1の電圧と前記第3の電圧の差電圧のそれぞれに基づき前記電圧変化を得る請求項4または5に記載の保湿効果評価方法。
【請求項7】
前記塗布する工程は、
前記化粧料を保持可能な媒体を前記化粧料に浸漬する工程と、
前記浸漬された媒体を前記皮膚に接触させて一定時間後に取り除くことにより、前記化粧料を前記皮膚に塗布する工程と
を有する請求項4乃至6のいずれか一項に記載の保湿効果評価方法。
【請求項8】
エレクトレット樹脂および導電体を有する複数の電極部がアレイ状に配列された検出部と、
前記検出部を皮膚に対して接触させることなく接近または離反させながら前記複数の電極部の電圧変化を検出し、前記電圧変化に基づき前記皮膚の水分量を判別する判別部と
を備える皮膚水分量測定装置。
【請求項9】
エレクトレット樹脂および導電体を有する複数の電極部がアレイ状に配列された検出部と、
前記検出部を皮膚に対して接触させることなく接近または離反させながら前記複数の電極部の電圧変化を検出可能であり、化粧料が塗布された前記皮膚における前記電圧変化と前記化粧料が塗布されていない前記皮膚における前記電圧変化とを比較することにより、前記化粧料の保湿効果を評価する判別部と
を備える保湿効果評価装置。
【請求項10】
エレクトレット樹脂および導電体を有する複数の電極部がアレイ状に配列された検出部と、
前記検出部を皮膚に対して接触させることなく接近および離反を複数回繰り返す手段と、
前記接近および離反が開始されてから所定時間経過後の前記複数の電極部の各々の電圧を検出する手段と、
前記電圧に基づいて、前記複数の電極の各々に対する前記所定時間における電圧変化を取得する手段と
を備える測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚水分量測定方法、保湿効果評価方法、皮膚水分量測定装置、保湿効果評価装置、および測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、対向して設けられた2つの電極を備えるコンデンサ型の湿潤度識別装置が開示されている。この湿潤度識別装置は、対向配置された電極の一方を測定試料に接触させ、その後に離反させた際における2つの電極間の電圧変化に基づき、湿潤度の判別を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された湿潤度識別装置では、剥離帯電を発生させるために、湿潤度識別装置を測定試料に接触させなければならない。しかしながら、測定試料に対する接触圧等によって、帯電量は一定とはならず、正確な測定が困難となり得る。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、測定対象の皮膚(肌)の水分量および化粧料の保湿効果を正確に評価が可能な皮膚水分量測定方法、保湿効果評価方法、皮膚水分量測定装置、保湿効果評価装置、および測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、エレクトレット樹脂および導電体を有する複数の電極部がアレイ状に配列された検出部を、皮膚に対して接触させることなく接近または離反させながら前記複数の電極部の電圧変化を検出する工程と、前記電圧変化に基づき前記皮膚の水分量を判別する工程とを有する皮膚水分量測定方法である。
【0007】
本発明の第2の態様は、皮膚に対して化粧料を塗布する工程と、エレクトレット樹脂および導電体を有する複数の電極部がアレイ状に配列された検出部を、前記皮膚に対して接触させることなく接近または離反させながら前記複数の電極部の電圧変化を検出する工程と、前記化粧料が塗布された前記皮膚における前記電圧変化と前記化粧料が塗布されていない前記皮膚における前記電圧変化とを比較することにより、前記化粧料の保湿効果を評価する工程とを有する保湿効果評価方法である。
【0008】
本発明の第3の態様は、エレクトレット樹脂および導電体を有する複数の電極部がアレイ状に配列された検出部と、前記検出部を皮膚に対して接触させることなく接近または離反させながら前記複数の電極部の電圧変化を検出し、前記電圧変化に基づき前記皮膚の前記水分量を判別する判別部とを備える皮膚水分量測定装置である。
【0009】
本発明の第4の態様は、エレクトレット樹脂および導電体を有する複数の電極部がアレイ状に配列された検出部と、前記検出部を皮膚に対して接触させることなく接近または離反させながら前記複数の電極部の電圧変化を検出可能であり、化粧料が塗布された前記皮膚における前記電圧変化と前記化粧料が塗布されていない前記皮膚における前記電圧変化とを比較することにより、前記化粧料の保湿効果を評価する判別部とを備える保湿効果評価装置である。
【0010】
本発明の第5の態様は、エレクトレット樹脂および導電体を有する複数の電極部がアレイ状に配列された検出部と、前記検出部を皮膚に対して接触させることなく接近および離反を複数回繰り返す手段と、前記接近および離反が開始されてから所定時間経過後の前記複数の電極部の各々の電圧を検出する手段と、前記電圧に基づいて、前記複数の電極の各々に対する前記所定時間における電圧変化を取得する手段とを備える測定装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、皮膚の水分量、および化粧料の保湿効果を正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る測定装置の構成の模式図である。
【
図2A】本発明の一実施形態に係る検出部を測定対象物に対して垂直に接近または離反させる構成を説明するための図である。
【
図2B】エレクトレット樹脂を有さない検出部の電圧変化を示す図である。
【
図2C】本発明の一実施形態に係る検出部の電圧変化皮膚水分量測定結果を示す図である。
【
図3A】本発明の一実施形態に係る検出部を測定対象物に対して平行に接近または離反させる構成を説明するための図である。
【
図3B】エレクトレット樹脂を有さない検出部の電圧変化を示す図である。
【
図3C】本発明の一実施形態に係る検出部の電圧変化を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る皮膚水分量測定装置のブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る検出部におけるアレイ状に配列された電極の構成を示す図である。
【
図6】発明の一本実施形態に係る皮膚水分量を推定する処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態に係る検出部の接近および離反の位置を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る皮膚水分量測定方法を説明するための図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る皮膚水分量の分布の表示を示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る保湿効果評価方法を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の一実施形態に係る検出部による電圧変化を取得する処理手順を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の一実施形態に係る保湿効果を比較するための図である。
【
図13A】本発明の一実施形態に係る蒸留水を塗布した場合の電圧変化を示す図である。
【
図13B】本発明の一実施形態に係るグリセロール溶液を塗布した場合の電圧変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0014】
(第1の実施形態)
本実施形態は、エレクトレット樹脂および導電体からなる電極を備える検出部を皮膚に接触させることなく接近または離反させ、検出部における電圧変化に基づいて皮膚の水分量を判別する。ここで、皮膚の水分量は、皮膚に含まれる水の量、および皮膚の表面に存在する水の量の総和であり得る。
【0015】
図1は、本実施形態に係る検出部の構成を示す模式図である。
図1において、検出部10は、グランド電極11と、該グランド電極11上に設けられた基板としての絶縁体12と、絶縁体12上に設けられた検出電極13と、検出電極13上に設けられたエレクトレット樹脂14とを備える。なお、検出電極13とエレクトレット樹脂14との間に絶縁体を設けても良い。
【0016】
エレクトレット樹脂14は、フッ素樹脂に高電圧のコロナ放電をかけて帯電させたものである。なお、本実施形態では、非接触にて測定対象の皮膚を帯電させる手段としてエレクトレット樹脂を用いる。このような本作用が実現できれば、エレクトレット樹脂の材料、その製造方法等は問わない。
【0017】
グランド電極11は基準電位が印加され、例えば測定装置の金属フレームなどに電気的に接続され得る。検出電極13は、減衰回路、バッファアンプ、A/D変換器(
図1では不図示)を介して処理装置15に接続されている。処理装置15は、CPU、メモリなどから構成され、検出電極13の電圧を所定の時刻毎に測定することで、経時的な電圧変化を取得し、電圧変化に基づいて皮膚16の水分量を判別する。
【0018】
本実施形態では、例えば、皮膚16から第1の距離よりも短い第2の距離まで検出部10を接近させ、接近中の検出電極13の電圧変化に基づき皮膚の水分量を判別する。あるいは、皮膚16から第2の距離離れた位置より検出部10を離反させ、該離反中の検出電極13の電圧変化を検出し、該電圧変化に基づいて皮膚の水分量を判別しても良い。このような判別方法の一例を後述する。
【0019】
図2A~
図2C、
図3A~
図3Cはそれぞれ、検出部10を測定対象物20に対して接近または離反させた場合における電圧変化を説明するための図である。
【0020】
図2Aは、検出部10を測定対象物20に対して垂直に接近または離反させる構成を示している。検出部10を測定対象物20に対して鉛直方向に接近または離反させることにより、検出部10と測定対象物20との距離は変化し、検出部10における電圧も変化する。
図2B、
図2Cは検出部の電圧変化を示す図であって、検出部10を測定対象物20に対して10mmの範囲で接近または離反をした場合の電圧変化を示している。また、
図2Bは、エレクトレット樹脂14を有さない検出部10における電圧変化を示し、
図2Cはエレクトレット樹脂14を有する検出部10における電圧変化を示している。ここでは、エレクトレット樹脂14は-1100Vの電圧により帯電し、測定対象物20には300V、200V、100V、0Vのそれぞれの電圧が印加されているものとする。
【0021】
また、
図3Aは、検出部10を測定対象物20に対して平行に接近または離反させる構成を示している。
図3B、
図3Cは検出部の電圧変化を示す図であって、検出部10を測定対象物20に対して20mmの範囲で接近または離反をした場合の電圧変化を示している。また、
図3Bは、エレクトレット樹脂14を有さない検出部10における電圧変化を示し、
図3Cはエレクトレット樹脂14を有する検出部10における電圧変化を示している。ここでは、エレクトレット樹脂14は-1100Vの電圧により帯電し、測定対象物20には1000V、800V、600V、400V、200V、0Vのそれぞれの電圧が印加されているものとする。
【0022】
図2Bにおいて、グラフ22は、測定対象物20への印加電圧が300Vの時の電圧変化を示しており、グラフ23は、測定対象物20への印加電圧が0Vの時の電圧変化を示している。また、グラフ22とグラフ23との間にある3つのグラフは、上から順に印加電圧が200V、100V、50Vの時の電圧変化を示している。
図2Cにおいて、グラフ24は、測定対象物20への印加電圧が300Vの時の電圧変化を示し、グラフ25は、測定対象物20への印加電圧が0Vの時の電圧変化を示している。グラフ24とグラフ25との間にある3つのグラフは、上から順に印加電圧が200V、100V、50Vの時の電圧変化を示している。
【0023】
図3Bにおいて、グラフ30は、測定対象物20への印加電圧が1000Vの時の電圧変化を示し、グラフ31は、測定対象物20への印加電圧が0Vの時の電圧変化を示している。グラフ30とグラフ31との間にある4つのグラフは、上から順に印加電圧が800V、600V、400V、200Vの時の電圧変化を示している。
図3Cにおいて、グラフ32は、測定対象物20への印加電圧が1000Vの時の電圧変化を示し、グラフ33は、測定対象物20への印加電圧が0Vの時の電圧変化を示している。グラフ32とグラフ33との間にある4つのグラフは、上から順に印加電圧が800V、600V、400V、200Vの時の電圧変化を示すグラフである。
【0024】
図2B、
図2Cのグラフ22、24は、時間の経過と共に出現する2つのピーク電圧を有し、左側のピーク電圧は検出部10の検査対象物に対する接近時の電圧を示し、右側のピーク電圧は検出部10の測定対象物20に対する離反時の電圧を示している。同様に、
図3B、
図3Cにおいて、グラフ30、32におけるピーク電圧のうち、左から1番目と3番目のピーク電圧は接近時の電圧を示し、左から2番目と4番目のピーク電圧は、離反時の電圧を示している。
【0025】
図2B、
図2C、
図3B、
図3Cから分かるように、測定対象物20が帯電している場合、検出部10を接近または離反させることにより、検出された電圧は変動する。しかしながら、測定対象物20が帯電していない場合、エレクトレット樹脂14を有しない検出部10を接近または離反させたとしても、検出された電圧は変化しない(グラフ23、31)。
【0026】
一方、エレクトレット樹脂14を有する検出部10を用いた場合、帯電していない測定対象物20においても、検出部10の接近または離反に伴い電圧変化を生じさせることができる(グラフ25、33)。すなわち、本実施形態によれば、エレクトレット樹脂14を用いることにより、測定対象物20を非接触で帯電させることができる。このため、測定対象物20と検出部10との距離を変化させることで、検出部10における電圧変化を検出し、電圧変化に基づき測定対象物20に含まれる水分量を推定することが可能となる。また、本実施形態においては、測定対象物20を帯電させるために電極を測定対象物20に接触させる必要がないため、検出部10と測定対象物20との接触圧に起因する帯電量のばらつきを回避することができ、水分量を正確に判断することが可能となる。さらに、
図2A、
図3Aに示されたように、検出部10と測定対象物20との間の距離を変化させることができれば、検出部10を測定対象物20に対してどのような方向に移動させても良い。
【0027】
図4は、本実施形態に係る皮膚水分量測定装置を示す模式図である。
図4において、皮膚水分量測定装置40は、複数の検出電極がアレイ状に配列された検出部10aと、処理装置15と、固定部41と、支持部42と、駆動装置43と、減衰回路44と、バッファアンプ45と、A/D変換器46とを備えている。検出部10aは固定部41に固定されている。駆動装置43は、固定部41を矢印方向Pに沿って移動させるように構成されている。すなわち、駆動装置43の駆動により、検出部10aは矢印方向Pに沿って移動できる。駆動装置43は、支持部42に接続されており、測定時には、支持部42が有する接触部42aを測定対象の皮膚16に接触させる。好ましくは、接触部42aを皮膚16に接触させ、バンドなどにより検出部10aを人体に固定する。また、検出部10aの初期位置における該検出部10aの下面と接触部42aの下面との間の距離をd1とすると、測定時において検出部10aを初期位置に位置させれば、検出部10aと皮膚16との間を一定の距離d1とすることができる。本実施形態では、測定時には、第1の距離として距離d1から第2の距離として距離d2まで検出部10aを移動(接近状態)させ、移動方向を反転させて再度移動させる(離反状態)。本実施形態では、駆動装置43にはロータリーエンコーダまたはリニアエンコーダなどの位置検出部を用いて、検出部10aの初期位置、距離d2や他の距離(例えば、後述する距離d3)への位置決めを行ってもよい。駆動装置43は、ロータリーエンコーダにより得られた検出部10aの位置(検出部10aの位置情報)を随時処理装置15に対して送信する。なお、本位置決めは、検出部10aに測距センサを設けタイムオブフライト法によって行っても良いし、他の方法で行っても良い。
【0028】
なお、減衰回路44、バッファアンプ45、A/D変換器46、処理装置15といった検出部10aの後段側にある構成要素の少なくとも1つを駆動装置43と一体化しても良い。また、処理装置15、入力操作部155、表示部156をスマートフォンといったモバイル端末としても良い。この場合は、例えば、A/D変換器46から出力された信号を上記モバイル端末に対して無線送信するような構成を設ければ良い。
【0029】
また、本実施形態では、検出部10aを皮膚16に対して直線的(矢印方向P)に沿って移動させているが、本移動をさせず、エレクトレット樹脂14の面内に対して鉛直方向を軸に回転させても良い。
【0030】
検出部10aは、グランド電極11と、グランド電極11上に設けられた絶縁体12と、該絶縁体12上に設けられた検出電極部13aと、該検出電極部13a上に設けられたエレクトレット樹脂14とを備える。本実施形態においては、検出電極部13aは、9個の検出電極131~139が2次元アレイ状に設けられている。
【0031】
図5は、本実施形態に係る検出電極部13aの詳細を示す図である。検出電極部13aは、検出電極131~139と、マルチプレクサ50とを備えている。なお、マルチプレクサ50を設けず、検出電極131~139の各々の後段にA/D変換器を設けても良い。
図5において、検出電極131~139が3×3のマトリクス状に2次元配列されている。検出電極131~139はそれぞれ、マルチプレクサ50に接続されており、検出電極131~139での検出結果は、マルチプレクサ50により順次処理装置15に送信される。なお、本実施形態では、アレイ状に配列される検出電極の数は9個に限らず、2つ以上であればよい。また、アレイ配置の仕方も特に限定は無く、検出電極を一方向(直線、あるいは曲線)に沿って配列する一次元配列であっても良いし、m×n(m、n共に自然数)のマトリクス状の2次元配置であっても良いし、円状、三角形状、十字状等所定のシンボルの形状に倣って配置しても良い。
【0032】
図4において、検出電極部13aは、減衰回路44に接続されており、減衰回路44は、バッファアンプ45に接続されている。減衰回路44はカップリングコンデンサを備え、検出電圧をグランド電圧を基準に変化させる。バッファアンプ45は、A/D変換器46に接続されており、A/D変換器46は、処理装置15に接続されている。よって、検出電極131~139の各々で検出された電圧は、減衰回路44、バッファアンプ45、A/D変換器46を介して処理装置15に入力される。処理装置15は、種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行するCPU151と、CPU151によって実行される様々な制御プログラム(
図6に示すコンピュータプログラム等)などを格納するROM152と、CPU151の処理動作中のデータや入力データなどを一時的に格納するRAM153と、フラッシュメモリやSRAM等の不揮発性メモリ154などを備える。また、処理装置15には、所定の指令あるいはデータなどを入力するキーボードあるいは各種スイッチなどを含む入力操作部155、種々の表示を行う表示部156、および駆動装置43がそれぞれ所定の駆動回路(不図示)を介して接続されている。
【0033】
図6は、本実施形態に係る皮膚水分量を推定する処理手順を示すフローチャートである。処理手順は、処理装置15が有するCPU151によって実行される処理である。従って、処理の制御は、CPU151が、ROM152に格納された
図6に示す処理を行うプログラムを読み出し、該プログラムを実行することによって行われる。
【0034】
本実施形態に係る皮膚水分量の測定に先立って、駆動装置43は、エレクトレット樹脂14が測定対象の皮膚16と対向するように検出部10aを該皮膚16と離間して配置する。このとき、駆動装置43は、皮膚16から距離d1離間した初期位置に、検出部10aを移動させる。
図7は、本実施形態に係る、検出部10aの接近時の位置および離反時の位置を示す図である。本実施形態では、検出部10aが皮膚16から第1の距離である距離d1だけ離間した位置から測定が開始される。測定中は、駆動装置43は、検出部10aを、皮膚16から第2の距離である距離d2離間した位置まで接近させ、その後皮膚16から第3の距離である距離d3離間した位置まで離反させる。なお、最離反時における距離は、距離d3に限らず、距離d1であっても良いし、距離d2よりも大きく、距離d1よりも小さい距離であっても良い。
【0035】
本実施形態では、駆動装置43は、検出部10aの皮膚に対する接近および離反をN回(Nは、自然数)繰り返すものとする。なお、接近および離反の回数によらず、測定開始から所定の時間経過後に、駆動装置43は接近および離反を終了させても良い。
【0036】
駆動装置43は、検出部10aを皮膚16から距離d1だけ離間させ、CPU151は皮膚水分量の測定を開始する。ステップS61にて、CPU151は、駆動装置43を制御して検出部10aの皮膚16への接近を開始させる。本実施形態では、駆動装置43は、所定の速度にて検出部10aを移動させる。ステップS62では、CPU151は、皮膚16に対して接近中の検出部10aの電圧、すなわち、検出電極131~139の各々の電圧を取得する。CPU151は、検出部10aより順次送信されてくる電圧値(検出電圧)を、検出電極毎に入力されてきた順番でRAM153に格納する。よって、RAM153に格納されている各検出電極に対する電圧は、入力順(経過時間に沿って)に保持される。ステップS63では、CPU151は、駆動装置43から入力された検出部10aの位置情報に基づいて、検出部10aと皮膚16との間の距離がd2になったか否か、すなわち、検出部10aが皮膚16に対して最も接近したか否かを判断する。距離d2になったと判断した場合は、CPU151は処理をステップS64に進める。一方、距離d2になっていないと判断した場合は、CPU151は、ステップS62、S63の処理を繰り返し、検出部10aが距離d2に到達するまで検出電極131~139の各々の電圧を取得する。
【0037】
ステップS64では、CPU151は、駆動装置43を制御して皮膚16との間の距離がd2である検出部10aの皮膚16からの離反を開始させる。離反時においても、駆動装置43は、所定の速度にて検出部10aを移動させる。ステップS65では、CPU151は、皮膚16に対して離反中の検出部10aの電圧、すなわち、検出電極131~139の各々の電圧を取得する。ステップS62と同様にCPU151は、検出部10aより順次送信される電圧のデータをRAM153に格納する。例えば、RAM153において、電圧のデータは検出電極に対応したアドレスに、タイムスタンプとともに格納される。ステップS66では、CPU151は、駆動装置43から入力された検出部10aの位置情報に基づいて、検出部10aと皮膚16との間の距離がd3になったか否か、すなわち、検出部10aが皮膚16に対して最も離反したか否かを判断する。CPU151は、検出部10aと皮膚16との距離が距離d3になったと判断した場合、処理をステップS66に進める。一方、CPU151は、検出部10aと皮膚16との距離が距離d3になっていないと判断した場合は、ステップS65以後の処理を実行する。すなわち、CPU151は、検出部10aが距離d3に到達するまで検出電極131~139の各々の電圧を取得するまで、ステップS65、S66の処理を繰り返す。
【0038】
ステップS67では、CPU151は、検出部10aの皮膚16に対する接近および離反による測定回数をRAM153に記録する。すなわち、CPU151は、初回の接近および離反による測定が終了すると、測定回数として1を記録し、2回目以降の測定回数に対して1を増加させる。ステップS68では、CPU151は、RAM153に記録された測定回数を参照し、現在の測定回数が予め設定された回数Nになったか否かを判断する。CPU151は、測定回数が回数Nになったと判断した場合、ステップS69の処理を実行する。一方、CPU151が、測定回数が回数Nになっていないと判断した場合、CPU151は、測定回数がNになるまでステップS61~S68を繰り返す。
【0039】
ステップS69では、CPU151は、RAM153に格納された検出電極131~139の各々に対する各電圧に基づいて、検出電極131~139毎の経時的な電圧変化(電圧波形)を取得する。上述したように、ステップS62、S65にて取得された、検出電極131~139の各々の電圧のデータは、検出電極131~139に対応したメモリアドレスにおいて、検出時刻を表すタイムスタンプとともに格納されている。したがって、CPU151は、メモリアドレスにおけるデータをタイムスタンプとともに読み出すことにより、電圧の経時的な変化を取得することができる。検出電極131~139から処理装置15への電圧の入力間隔が一定時間tである場合、
図2C、
図3Cに示すような検出電極の経時的な電圧変化を得ることができる。本ステップでは、CPU151は、このようにして、各検出電極131~139について、経時的な電圧変化を取得する。
【0040】
本実施形態では、検出電極131~139による検出電圧に基づいて、
図2C、
図3Cに示すような経時的な電圧変化を取得することができる。なお、電圧変化の取得方法は上述の例に限定されない。例えば、
図2Cにおいて、左側のピーク値に対応する電圧と基準となる電圧(
図2Cでは0V)との差電圧、および右側のピーク値に対応する電圧と基準となる電圧との差電圧をそれぞれに取得しても良い。皮膚16から距離d1、すなわち基準となる位置における検出電極131の第1の電圧とし、同様に距離d2に対応する第2の電圧、距離d3に対応する第3の電圧を検出し、第1の電圧と第2の電圧との差電圧、および第1の電圧と第3の電圧との差電圧を電圧変化として取得しても良い。
【0041】
ステップS70では、CPU151は、ステップS69にて取得された検出電極131~139毎に取得された電圧変化に基づいて、皮膚16の水分量を判別する。このような判別は、例えば特許文献1に開示された湿潤度の判別と同様に行っても良い。ここでは、検出部10aの皮膚16への接近時の電圧変化を用いて皮膚16の水分量を測定する例について説明する。
図8は、検出部10aの皮膚16への接近時における検出電極の経時的な電圧変化を示す模式図であって、例えば
図2Cの左から1つ目のピーク電圧を表し得る。本ステップでは、
図8における検出電圧の最大電圧値Vmax、および最大電圧値Vmaxの1/10の電圧から最大電圧値Vmaxに至るまでの電圧立ち上がり時間Tupを用いて、皮膚16の水分量を判別する。
【0042】
本実施形態では、水分量の判別のために、サンプルとしての皮膚における単位面積あたりの各水分量(例えば、1cc、2cc、3cc・・・)を信頼できる別の方法で本測定と同一条件の下で予め測定しておく。これと同時に、皮膚水分量測定装置40を用いて検出電極131~139の経時的な電圧変化も測定しておく。これにより、各水分量に対する最大電圧値Vmaxおよび電圧立ち上がり時間Tupが求められる。なお、測定では、各皮膚の個人差は無いものとする。本実施形態では、このようにして予め求めた、各水分量に紐づいた最大電圧値Vmaxおよび電圧立ち上がり時間Tup(基準電圧立ち上がり時間)を水分量基準データとして不揮発性メモリ154に格納されている。
【0043】
より具体的には、本ステップにおいてCPU151は、ステップS69にて取得された検出電極131~139の電圧変化から検出電極131~139の各々に対する最大電圧値Vmaxおよび電圧立ち上がり時間Tupを取得する。さらに、CPU151は、取得した最大電圧値Vmaxおよび電圧立ち上がり時間Tupと不揮発性メモリ154に格納されている水分量基準データとに基づいて、各検出電極131~139が対向している皮膚16の各々の領域の水分量を判別する。CPU151は、上述の処理を、検出電極132~139の各々について行う。
【0044】
ステップS71では、CPU151は、ステップS70にて取得された検出電極131~139の各々に対する水分量の判別結果、すなわち皮膚16における各検出電極131~139と対向する領域の各々に対する水分量により、皮膚16の測定領域における水分量の二次元分布を取得する。CPU151は、取得された二次元分布を表示部156に表示させる。なお、このような二次元分布としては、検出電極131:x1cc、検出電極132:x2cc、検出電極133:x3cc・・・検出電極139:x9ccというように、各検出電極に対する水分量を表状にまとめても良いし、
図9に示すように、検出電極131~139の各々の配列状況に対応させたマトリクス表記であっても良い。
図9において、領域91~99はそれぞれ、皮膚16における検出電極131~139の各々が対向した領域に対応する。この例では、各領域91~99において、それぞれ判別された対応する検出電極による水分量を表示しても良く、水分量と色とを対応付けて表示しても良い。例えば、少ない水分量を薄い青とし、水分量が多くなるに従って濃い青とし、領域91~99の各々に対応する色を表示(ヒートマップ表示)しても良い。ステップS71が終了すると、本測定を終了する。
【0045】
なお、本実施形態では、ステップS70における水分量の判別において、最大電圧値Vmaxおよび電圧立ち上がり時間Tupを用いているが、水分量の判別に用いる要素としてはこれに限らない。本実施形態においては、検出部10aを用いて皮膚の水分量を測定する場合、検出部10aと皮膚との間の距離の変化に応じた検出部10aの検出電圧の経時的な変化に基づいて水分量を判別するものであり、この経時的な電圧変化を示すグラフにおいて、生じるピークの形状は皮膚の水分量に相関している。よって、経時的な電圧変化におけるピークの形状がどの水分量に対応するものかを判別することが重要であり、ピークを特定するためのパラメータとして本実施形態では最大電圧値Vmaxおよび電圧立ち上がり時間Tupを用いている。本実施形態においては、パラメータとしては最大電圧値Vmaxおよび電圧立ち上がり時間Tupに限らず、ピーク電圧の波形を特定できるものであればいずれであっても良く、例えば最大電圧値Vmaxおよびピーク電圧の半値幅などのパラメータであっても良い。あるいは、検出部10aの接近、離反時の電圧差Vp-p(peak to peak)を用いて水分量を判別しても良い。
【0046】
このように本実施形態によれば、皮膚16の水分量を測定する際に、エレクトレット樹脂14を配置した検出部10aを用いているので、非接触で皮膚を帯電させることができ、非接触で皮膚の水分量を推定することができる。よって、従来で生じていた検出部の皮膚への接触による測定値の変動を無くすことができ、皮膚の水分量の推定の精度を上げることができる。
【0047】
また、本実施形態では、上述のように非接触にて皮膚の水分量を測定できるので、測定前後において測定対象の皮膚16の状況を変えずに測定することができ、皮膚の水分量測定における精度をより高めることができる。従来のように、検出部を皮膚に対して接触させて測定する場合、該接触およびその接触時の検出部による皮膚への押圧によって測定前の水分量の分布と測定中(押圧中)の水分量の分布が変わる可能性がある。他の要因でも、接触に起因した水分量の変化が生じてしまうと、測定された水分量の値は真の値からずれてしまうことになる。これに対して、本実施形態では、非接触による水分量の測定が可能であるので、接触に起因した水分量の分布変化を防ぐことができる。
【0048】
さらに、本実施形態では、アレイ配置された検出電極131~139を用いているので、皮膚16における水分量の分布を得ることができる。特に本実施形態では、皮膚16の測定領域において水分のある無しの判別に限らず、各領域における具体的な水分量まで判別することができる。すなわち、皮膚16の測定領域における水分量の定量的な規模を取得することができる。
【0049】
(第2の実施形態)
本実施形態は、皮膚に対して非接触にて静電気の変化を検知して皮膚における化粧料の保湿効果を評価するものである。すなわち、本実施形態においても第1の実施形態と同様に、エレクトレット樹脂を備える検出部を接近または離反させる。そして、化粧料が塗布された皮膚における電圧変化と化粧料が塗布されていない皮膚における検出部の電圧変化とを比較し、化粧料の保湿効果を評価する。
【0050】
図10は、本実施形態に係る、皮膚における化粧料の保湿効果の評価方法を示すフローチャートである。なお、本実施形態では、後述するステップS102、S104における電圧変化の取得は、第1の実施形態にて説明した皮膚水分量測定装置40と同様の構成である測定装置100を用いて行う。すなわち、測定装置100は、検出部10aと、処理装置15と、固定部41と、支持部42と、駆動装置43と、減衰回路44と、バッファアンプ45と、A/D変換器46、入力操作部155、表示部156とを備えている。本実施形態では、処理装置15は、時刻を測定する経時手段としてのタイマをさらに備えている。また、処理装置15のROM152には、
図11に示すコンピュータプログラム等が格納されている。
【0051】
ステップS101では、エレクトレット樹脂14が測定対象の皮膚16と対向し、かつ初期位置となるように検出部10aを該皮膚16と離間して配置し、この状態で接触部42aを皮膚16に対して好ましくはバンドで固定する。あるいは、接触部42aを皮膚16に対して粘着剤等により取り付けても良い。このようにして、測定対象である皮膚16に対して検出部10aを設置する。
【0052】
ステップS102は、化粧料が塗布されていない皮膚16における検出部10aの経時的な電圧変化を取得する処理である。
図11は、本実施形態に係る、皮膚に対して検出部10aを接近、離反した際の該検出部10aの経時的な電圧変化を取得する処理手順を示すフローチャートである。該処理手順は、処理装置15が有するCPU151によって実行される処理である。従って、処理の制御は、CPU151が、ROM152に格納された
図11に示す処理を行うプログラムを読み出し、プログラムを実行することによって行われる。なお、本ステップにおける測定は、皮膚16への検出部10aの接近および離反を1サイクルとし、1サイクルを2秒間隔で、計10分間(ステップS102の測定時間)行う。
【0053】
ステップS102の開始と共に、処理装置15のタイマによる経時が開始され、CPU151は、ステップS61~S66と同様にしてステップS111~S116を行う。このようにして、CPU151は、検出電極131~139の各々について、検出部10aの皮膚16への接近および離反の1サイクル分の検出電圧を取得する。ステップS117では、CPU151は、処理装置15が備えるタイマを参照し、ステップS102の開始からの経過時間を取得する。ステップS118では、CPU151は、ステップS117にて取得された経過時間がステップS102の測定時間である10分を経過しているか否かを判断する。なお、本実施形態では、上述のように、10分間の測定に対して、1サイクル2秒の接近および離反を繰り返すので、10分経過後には、300サイクル分の電圧波形(
図2Cに示すような電圧変化)が得られることになり、それらは、取得された順番が分かるようにしてRAM153に格納される。
【0054】
10分経過したと判断した場合は、CPU151は処理をステップS119に進める。一方、10分経過していないと判断した場合は、CPU151は、ステップS111に進み、経過時間が10分を経過するまでステップS111~S118を繰り返す。
【0055】
ステップS119では、CPU151は、検出電極131について、RAM153に格納された300サイクル分の電圧波形を取得し、各サイクルにおいて、接近時におけるピーク電圧(例えば、
図2Cの左側のピーク電圧)と離反時におけるピーク電圧(例えば、
図2Cの右側のピーク電圧)との電圧差Vp-p(peak to peak)を算出する。さらに、CPU151は、電圧差Vp-pを測定時刻の早い順に座標上にプロットする。すなわち、横軸を時間、縦軸を電圧差Vp-pとしたグラフが作成される。次いで、CPU151は、グラフに基づいて、化粧料が塗布されていない皮膚16における経時的な電圧変化を取得する。CPU151は、検出電極132~139の各々についても同様にして化粧料が塗布されていない皮膚16における経時的な電圧変化を電圧差Vp-pとして求める。CPU151は、このようにして求めた各検出電極131~139についての電圧変化をRAM153に格納する。
【0056】
図10に戻ると、ステップS103では、検出部10aと対向している皮膚16に対して測定対象の化粧料を塗布する。より具体的には、フィルタペーパを化粧料に浸漬し、化粧料が染み込んだフィルタペーパを検出部10aと皮膚16との間の空間から挿入して検出部10aと対向する皮膚16の領域に接触させ、一定時間経過後にフィルタペーパを取り除く。なお、本実施形態では、化粧料を肌に塗布するための手段としてフィルタペーパを用いているが、これに限らず、例えば、布や筆、または人の指といった化粧料を保持可能であり、保持された化粧料を対象物に塗布可能なものであればいずれの手段を用いても良い。また、化粧料の皮膚16への供給についても、塗布に限らず、化粧料の滴下または噴霧を用いても良い。
【0057】
ステップS104は、ステップS102と同様の処理であって、ステップS102での測定と同一の条件にて化粧料が塗布された皮膚16における電圧変化を取得する処理である。すなわち、
図11に示すプログラムをCPU151が実行することにより、本ステップの各々の処理が行われる。このように具体的な処理はステップS102と同じであるので、その説明を省略するが、本ステップでは、CPU151は、検出電極131~139の各々について、化粧料が塗布された皮膚16における経時的な電圧差Vp-pを取得し、各電圧変化に取得順を表すラベルを付与し、RAM153に格納する。
【0058】
ステップS105では、ステップS102およびステップS104にて取得された、化粧料が塗布されていない皮膚16に対する電圧変化と、化粧料が塗布された皮膚16に対する電圧変化とを比較することにより、皮膚16における塗布された化粧料の保湿効果を評価する。本実施形態では、CPU151は、RAM153に格納された検出電極131について、化粧料が塗布されていない皮膚16に対する電圧変化と、化粧料が塗布された皮膚16に対する電圧変化とを読み出し、それらを重畳させたグラフを取得する。次いで、CPU151は、取得された重畳グラフを表示部156に表示する。CPU151は、この処理を検出電極132~139の各々についても行い、検出電極132~139の各々に対する重畳グラフを取得し、それらを適宜表示部156に表示する。
【0059】
図12は、本実施形態に係る、化粧料が塗布されていない皮膚16に対する電圧変化と、化粧料が塗布された皮膚16に対する電圧変化とを重畳させた重畳グラフの模式図である。なお、
図12において、横軸を時間(秒)とし、縦軸を電圧差Vp-pとしている。各電圧差Vp-pは、2秒間隔の1サイクルにおける2つのピーク間の電圧差であるので、1サイクルに相当する2秒毎に算出される。よって、300サイクルを順番の小さい順に配列してプロットすることは、2秒毎のプロットと同義となる。よって、
図12ではグラフ121、122共に連続的な線で描いているが、実際は、不連続な線となる。
【0060】
図12において、グラフ121は、化粧料が塗布されていない皮膚16に対する電圧変化を示すグラフであり、グラフ122は、化粧料が塗布された皮膚16に対する電圧変化を示すグラフである。本実施形態では、電圧Vp-pは、検出部10aの皮膚16への接近または離反による電圧の変化に相関している。よって、化粧料が塗布されていない場合は、接近または離反による静電気の変化はほぼ起こらないと考えられるので、グラフ121では電圧Vp-pはほぼ一定となる。一方、化粧料が塗布されている場合(グラフ122)は、皮膚に塗布された化粧料により接近または離反による電圧は変化すると考えられる。よって、測定開始直後は化粧料が塗布されていない場合(グラフ121)に対して電圧Vp-pが大きく変化する。その後は塗布された皮膚16からは化粧料塗布により皮膚16に染み込んだ水分が時間の経過と共に揮発する。このため、電圧Vp-pは時間の経過と共に化粧料が塗布されていない状態に近づくよう変化する。すなわち、電圧Vp-pは時間が経過するとグラフ121に近づいていく。
【0061】
図12の例では、370秒にて、グラフ122がグラフ121とほぼ一致するので、例えば、化粧料の保湿効果は370秒まで継続すると評価することができる。本実施形態では、検出電極131~139の各々に対する重畳グラフが表示部156に表示される。このため、検出電極131~139の各々について、観測者は表示部156の表示に基づき保湿効果を判断することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、重畳グラフを表示部156に表示して評価を行っているが、重畳グラフを印刷しても良い。あるいは、重畳グラフ等の電圧変化の結果を、ネットワーク、フラッシュメモリなどの可搬型媒体を介して、他の情報処理装置に移し、情報処理装置にて評価を行っても良い。
【0063】
ステップS105における評価が終了すると、本評価方法は終了する。
【0064】
なお、ステップS105の評価を処理装置15にて行っても良い。この場合は、測定装置100は保湿効果評価装置として機能する。すなわち、CPU151は、ステップS104が終了した後に、RAM153に格納された検出電極131~139の電圧変化を読み出し、化粧料が塗布されていない皮膚16に対する電圧変化と、化粧料が塗布された皮膚16に対する電圧変化とを比較する。これにより、CPU151は皮膚16の化粧料の保湿効果を評価することができる。
【0065】
保湿効果の評価の具体的な方法の一例を説明する。CPU151は、RAM153に格納された電圧変化に基づいて、検出電極131~139の各々について、上述と同様にして
図12に示すような重畳グラフを取得する。CPU151は、化粧料が塗布された皮膚16における電圧変化であるグラフ122と、化粧料が塗布されていない皮膚16における電圧変化であるグラフ121とを比較して、両グラフがほぼ一致する時間を取得する。ここで、
図12において、一致時間は370秒である。CPU151は、一致時間まで保湿効果は続いていると判断(評価)することができる。グラフ121とグラフ122との一致する部分は、例えば
図12に示される重畳グラフにおいて、グラフ121の電圧Vp-pとグラフ122の電圧Vp-pとの差が所定値以下となる時間の値として抽出され得る。すなわち、CPU151は、重畳グラフにおいて、時間の小さい方から順に各時間において、グラフ121の電圧Vp-pとグラフ122の電圧Vp-pとの電圧差を算出し、電圧差が所定値以下となる時間を抽出し、電圧差が最初に所定値以下となる時間を一致時間とする。
【0066】
CPU151は、上述のようにして検出電極131~139の各々について、一致時間を取得することにより、皮膚16における保湿効果の分布を判別する。
【0067】
なお、本実施形態では、保湿効果の評価に用いる電圧変化として、検出部10aの皮膚16に対する接近または離反の1サイクルの電圧波形における電圧Vp-pについての経時的な変化を用いているが、1サイクル中の電圧波形の最大値または最小値のいずれかのついての経時的な電圧変化を用いても良い。この場合、CPU151は、300サイクルの電圧波形の各々について、最大電圧または最小電圧を抽出し、抽出した最大電圧または最小電圧を縦軸に、各サイクル(時間)を横軸にグラフを作成する。さらに、CPU151は、化粧料が塗布されていない皮膚16に対する電圧変化、および化粧料が塗布された皮膚16に対する電圧変化を取得し、両者を比較することにより化粧料の保湿効果を評価することができる。
【0068】
このように本実施形態によれば、化粧料の保湿効果を評価する際に、エレクトレット樹脂14を配置した検出部10aを用いているので、非接触で皮膚を帯電させ、化粧料(水分量)に応じた電圧変化を検出することができる。また、よって、検出部の皮膚への接触による測定値のばらつきを無くすことができ、保湿効果の評価精度を高めることができる。
【0069】
また、本実施形態では、非接触にて化粧料の保湿効果を測定できるので、測定前後において測定対象の皮膚の状況を変えずに測定することができ、保湿効果の評価における精度をより高めることができる。すなわち、第1の実施形態にて説明したように、接触に起因した水分量の分布変化を防ぐことができる。
【0070】
さらに、本実施形態では、アレイ配置された検出電極131~139を用いているので、皮膚16における化粧料の保湿効果の分布を得ることができる。
【0071】
(実施例)
上述した測定装置100を用いて、被験者Aに対して蒸留水を塗布した場合(実験1)、および被験者Aに対してグリセロール溶液(濃度10%)を塗布した場合(実験2)の各々について、保湿効果の評価を行った。
【0072】
実験1、実験2共に、湿度43%の環境下で行った。また、実験1、実験2について、
図10におけるステップS102、S104の各々において、検出部10aの皮膚に対する接近および離反の測定を2秒間隔で10分間行った。さらに、実験1、実験2について、ステップS103において、30mm×30mmのフィルタペーパを用いて蒸留水およびグリセロール溶液の塗布を行い、該塗布時においては、蒸留水やグリセロール溶液に浸漬したフィルタペーパを被験者Aの皮膚に対して貼り付け、10分後に取り除いた。このような実験条件にて、
図10に示す方法にて、重畳グラフを取得した。
【0073】
図13Aは、本実施例に係る蒸留水を塗布した場合の保湿効果の評価に関する経時的な電圧変化を示す図である。
図13Bは、グリセロール溶液を塗布した場合の保湿効果の評価に関する経時的な電圧変化を示す図である。
図13Aにおいて、グラフ1300は、被験者Aの皮膚に蒸留水を塗布していない場合の電圧変化を示すグラフであり、グラフ1301は、被験者Aの皮膚に蒸留水を塗布した場合における1回目の測定についての電圧変化を示すグラフであり、グラフ1302は、被験者Aの皮膚に蒸留水を塗布した場合における2回目の測定についての電圧変化を示すグラフである。また、
図13Bにおいて、グラフ1303は、被験者Aの皮膚にグリセロール溶液を塗布していない場合の電圧変化を示すグラフであり、グラフ1304は、被験者Aの皮膚にグリセロール溶液を塗布した場合における1回目の測定についての電圧変化を示すグラフであり、グラフ1305は、被験者Aの皮膚にグリセロール溶液を塗布した場合における2回目の測定についての電圧変化を示すグラフである。
【0074】
図13A、
図13Bから分かるように、皮膚に蒸留水やグリセロール溶液を塗布していない場合、時間が経過しても電圧Vp-pはほぼ一定となる(グラフ1300、1303)。一方、皮膚に蒸留水を塗布した場合(グラフ1301、1302)、および皮膚にグリセロールを塗布した場合(グラフ1304、1305)において、測定開始と共に電圧Vp-pは大きく下がり、その後、時間の経過と共に増加していき、やがてグラフ1300、1303に漸近していく。皮膚に蒸留水またはグリセロール溶液を塗布した場合、時間の経過と共に蒸留水やグリセロール溶液が揮発等により減少し、肌は蒸留水またはグリセロール溶液が塗布されていない状態に近づく。蒸留水またはグリセロールに代えて、化粧料を肌に塗布した場合においても、同様の方法により化粧料の保湿効果を評価することが可能となる。
【0075】
なお、本実施形態では、検出部10aを用いて、化粧料が塗布されていない皮膚における電圧変化と、化粧料が塗布された皮膚における電圧変化とを取得し、これら電圧変化を比較することにより、保湿効果を評価することができる。よって、評価の基準や指標は、本実施形態にて説明したものに限らず、他の基準や指標を用いても良い。
【符号の説明】
【0076】
10、10a 検出部
11 グランド電極
12 絶縁体
13、131~139 検出電極
14 エレクトレット樹脂
15 処理装置
40 皮膚水分量測定装置
100 測定装置