(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】グリピカン-3(GPC3)に対する親和性を有するヒトリポカリン2のムテイン
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20230127BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20230127BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230127BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230127BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230127BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230127BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230127BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230127BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230127BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20230127BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N15/10 200Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
A61P35/00
A61K38/16
C07K14/47 ZNA
(21)【出願番号】P 2021127923
(22)【出願日】2021-08-04
(62)【分割の表示】P 2017560132の分割
【原出願日】2016-05-18
【審査請求日】2021-09-02
(32)【優先日】2015-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509029645
【氏名又は名称】ピエリス ファーマシューティカルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ヒンナー マーロン
(72)【発明者】
【氏名】アレアシュドルファー アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ベル アイバ ラシダ シハム
(72)【発明者】
【氏名】アロー ミカエラ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーデンマン アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】マッチナー ガブリエレ
(72)【発明者】
【氏名】ヒュルスマイヤー マルティン
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-502149(JP,A)
【文献】特表2005-503829(JP,A)
【文献】特表2013-512683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C07K
C12Q
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
KDで測って約0.3nM以下
の親和性でグリピカン-3(GPC3)に結合する能力を有するリポカリンムテイン
であって、
ムテインのアミノ酸配列が、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)との比較において、以下の組の変異アミノ酸残基
(a) Leu 36 → Val; Ile 41 → Leu; Gln 49 → Leu; Tyr 52 → Arg; Asn 65 → Asp; Ser 68 → Val; Leu 70 → Ser; Arg 72 → Trp; Lys 73 → Arg; Asp 77 → His; Trp 79 → Lys; Arg 81 → Gly; Cys 87 → Ser; Asn 96 → Asp; Tyr 100 → Gly; Leu 103 → Gln; Tyr 106 → Asn; Lys 125 → Glu; Ser 127 → Arg; Tyr 132 → Trp; および Lys 134 → Ala;
(b) Leu 36 → Val; Ala 40 → Val; Ile 41 → Arg; Gln 49 → Pro; Tyr 52 → Arg; Asn 65 → Asp; Ser 68 → Gly; Leu 70 → Ser; Lys 73 → Gly; Asp 77 → His; Trp 79 → Lys; Arg 81 → Gly; Cys 87 → Ser; Asn 96 → Asp; Tyr 100 → Gly; Leu 103 → Glu; Tyr 106 → Asn; Lys 125 → Glu; Ser 127 → Arg; Tyr 132 → Trp; および Lys 134 → Phe;
(c) Leu 36 → Val; Ala 40 → Gly; Ile 41 → Met; Gln 49 → Leu; Tyr 52 → Arg; Asn 65 → Asp; Leu 70 → Ala; Lys 73 → Asn; Asp 77 → His; Trp 79 → Lys; Arg 81 → Gly; Cys 87 → Ser; Asn 96 → Gln; Tyr 100 → Gly; Leu 103 → Glu; Tyr 106 → Asn; Lys 125 → Glu; Ser 127 → Arg; Tyr 132 → Trp; および Lys 134 → Phe;
(d) Leu 36 → Arg; Ala 40 → Val; Ile 41→ Gly; Gln 49 → Pro; Tyr 52 → Trp; Asn 65 → Asp; Ser 68 → Asn; Leu 70 → Arg; Arg 72 → Ala; Lys 73 → Arg; Asp 77 → Leu; Trp 79 → Ser; Arg 81 → Gly; Cys 87 → Ser; Asn 96 → Gln; Tyr 100 → Glu; Leu 103 → Asn; Ser 105 → Ala; Tyr 106 → Asn; Lys 125 → Glu; Ser 127 → Tyr; Tyr 132 → Ile; Lys 134 → Phe; および Thr 136 → Ile;
(e) Leu 36 → Arg; Ala 40 → Val; Ile 41→ Gly; Gln 49 → Pro; Tyr 52 → Trp; Asn 65 → Asp; Ser 68 → Asn; Leu 70 → Arg; Arg 72 → Ala; Lys 73 → Arg; Asp 77 → Thr; Trp 79 → Ser; Arg 81 → Gly; Cys 87 → Ser; Asn 96 → Gln; Tyr 100 → Glu; Leu 103 → Gly; Ser 105 → Ala; Tyr 106 → Asn; Lys 125 → Glu; Ser 127 → Tyr; Tyr 132 → Ile; Lys 134 → Phe; および Thr 136 → Ile;
(f) Leu 36 → Arg; Ala 40 → Gly; Ile 41→ Ala; Gln 49 → Pro; Tyr 52 → Trp; Asn 65 → Asp; Ser 68 → Asn; Leu 70 → Arg; Arg 72 → Ala; Lys 73 → Arg; Asp 77 → Val; Trp 79 → Ser; Arg 81 → Gly; Cys 87 → Ser; Asn 96 → Pro; Tyr 100 → Glu; Leu 103 → Asn; Ser 105 → Ala; Tyr 106 → Ser; Lys 125 → Glu; Ser 127 → Tyr; Tyr 132 → Ile; Lys 134 → Phe; および Thr 136 → Ile;
(g) Leu 36 → Arg; Ala 40 → Val; Ile 41→ Ala; Gln 49 → Pro; Tyr 52 → Arg; Asn 65 → Asp; Ser 68 → Ala; Leu 70 → Arg; Arg 72 → Ala; Lys 73 → Arg; Asp 77 → Leu; Trp 79 → Ser; Arg 81 → Gly; Cys 87 → Ser; Asn 96 → Arg; Tyr 100 → Glu; Leu 103 → Tyr; Ser 105 → Ala; Tyr 106 → Asn; Lys 125 → Glu; Ser 127 → Tyr; Tyr 132 → Ile; Lys 134 → Phe; および Thr 136 → Ile;
(h) Leu 36 → Arg; Ala 40 → Val; Ile 41→ Ala; Gln 49 → Pro; Tyr 52 → Arg; Asn 65 → Asp; Ser 68 → Asn; Leu 70 → Val; Arg 72 → Ala; Lys 73 → Gly; Asp 77 → Lys; Trp 79 → Ser; Arg 81 → Gly; Cys 87 → Ser; Asn 96 → Arg; Tyr 100 → Pro; Leu 103 → Asn; Ser 105 → Ala; Tyr 106 → Asn; Lys 125 → Glu; Ser 127 → Tyr; Tyr 132 → Ile; Lys 134 → Phe; および Thr 136 → Ile;
(i) Leu 36 → Arg; Ala 40 → Leu; Ile 41→ Gly; Gln 49 → Pro; Tyr 52 → Trp; Asn 65 → Asp; Ser 68 → Asn; Leu 70 → Arg; Arg 72 → Ala; Lys 73 → Arg; Asp 77 → Met; Trp 79 → Ser; Arg 81 → Gly; Cys 87 → Ser; Asn 96 → Gln; Tyr 100 → Glu; Leu 103 → Ser; Ser 105 → Ala; Tyr 106 → Asn; Lys 125 → Glu; Ser 127 → Tyr; Tyr 132 → Ile; および Lys 134 → Phe;
(j) Leu 36 → Arg; Ala 40 → Val; Ile 41→ Gly; Gln 49 → Pro; Tyr 52 → Arg; Asn 65 → Asp; Ser 68 → Gly; Leu 70 → Arg; Arg 72 → Gly; Lys 73 → Glu; Cys 76 → Ile; Asp 77 → Lys; Trp 79 → Ser; Arg 81 → Gly; Cys 87 → Ser; Asn 96 → Gln; Tyr 100 → Gln; Leu 103 → Asp; Ser 105 → Ala; Tyr 106 → Asn; Lys 125 → Glu; Ser 127 → Tyr; Tyr 132 → Ile; Lys 134 → Phe; Thr 136 → Ile; および Cys 175 → Ala; または
(k) Leu 36 → Arg; Ala 40 → Val; Ile 41→ Gly; Gln 49 → Pro; Tyr 52 → Arg; Asn 65 → Asp; Ser 68 → Gly; Leu 70 → Arg; Arg 72 → Asp; Lys 73 → Ser; Cys 76 → Val; Asp 77 → Thr; Trp 79 → Ser; Arg 81 → Gly; Cys 87 → Ser; Asn 96 → Gln; Tyr 100 → Glu; Leu 103 → Asn; Ser 105 → Ala; Tyr 106 → Asn; Lys 125 → Glu; Ser 127 → Tyr; Tyr 132 → Ile; Lys 134 → Phe; Thr 136 → Ile; Cys 175 → Ala
のうちの1つを含み、
ムテインが、SEQ ID NO:5~13および15~16からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、
リポカリンムテイン。
【請求項2】
成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の配列位置28に対応する配列位置に変異を含まない、請求項
1記載のムテイン。
【請求項3】
N-グリコシル化部位を有しない、請求項1
または2記載のムテイン。
【請求項4】
SEQ ID NO:5~
13および15~16からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項1~
3のいずれか一項記載のリポカリンムテイン。
【請求項5】
SEQ ID NO:
15に示すアミノ酸配列を含むリポカリンムテイン。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項記載のムテインをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項7】
SEQ ID NO:5~
13および15~16からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むムテインをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項
6記載の核酸分子。
【請求項8】
SEQ ID NO:
29に示すヌクレオチド配列を含む、請求項6記載の核酸分子。
【請求項9】
請求項
6~
8のいずれか一項記載の核酸分子を含有する宿主細胞。
【請求項10】
請求項1~
5のいずれか一項記載のムテインを生産する方法であって、該ムテインをコードする核酸から出発して、遺伝子工学的方法によってムテインが生産される、方法。
【請求項11】
請求項1~
5のいずれか一項記載のリポカリンムテインまたは請求項
6~
8のいずれか一項記載の核酸分子を含む、グリピカン-3の検出剤、対象中のグリピカン-3結合剤、またはグリピカン-3レベルの変化と関連する疾患もしくは障害の治療剤。
【請求項12】
請求項1~
5のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のリポカリンムテインまたは請求項
6~
8のいずれか一項記載の核酸分子を含む、薬学的組成物。
【請求項13】
(a)請求項1~
5のいずれか一項記載のムテインを、グリピカン-3を含有すると疑われる試験試料と接触させることによって、ムテインとグリピカン-3との複合体を形成させる工程、および
(b)ムテインとグリピカン-3との複合体を適切なシグナルによって検出する工程
を含む、グリピカン-3の結合または検出のためのインビトロ方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
I.背景
グリピカン-3(GPC3)は、グリコシルホスファチジルイノシトールアンカー型ヘパリン硫酸プロテオグリカンのグリピカンファミリーに属するがん胎児性抗原である。グリピカンは、ヘパリン硫酸グリコサミノグリカンと呼ばれる複合多糖鎖への共有結合を特徴とする。グリピカンは、細胞-細胞外マトリックス界面で、細胞シグナリングに関与する(Sasisekharan et al., Nat. Rev. Cancer 2:521-528(2002)(非特許文献1))。現在までに、ヒトグリピカンファミリーには、6つの相異なるメンバーが同定されている。細胞膜結合型GPC3は、1つまたは複数のジスルフィド結合で連結された2つのサブユニットで構成されている。
【0002】
GPC3は、発生中に胎児の肝臓および胎盤において発現し、正常成人組織ではダウンレギュレートされるか、発現停止する。GPC3遺伝子中の突然変異およびGPC3遺伝子の枯渇(depletion)は、ヒトにおけるシンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群またはシンプソン異形症症候群の原因になる。GPC3は、さまざまながん、特に肝細胞癌(「HCC」)、黒色腫、ウィルムス腫瘍、および肝芽腫において発現する(Jakubovic and Jothy, Ex. Mol. Path. 82:184-189(2007)(非特許文献2); Nakatsura and Nishimura, Biodrugs 19(2):71-77(2005)(非特許文献3))。
【0003】
HCCは全世界的ながん関連死因の第3位である。HCCは、毎年、約100万例の死亡原因になる(Nakatsura and Nishimura, Biodrugs 19(2):71-77(2005)(非特許文献3))。肝硬変につながるB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、および慢性的な大量の飲酒は、今も、HCCの最も一般的な原因である。HCCの発生率は米国では劇的に増加したが、その理由の一つはC型肝炎ウイルスの蔓延にある。HCCは主に肝移植または腫瘍切除によって処置される。患者の予後は基礎にある肝機能および腫瘍ステージの診断結果に依存する(Parikh and Hyman, Am J Med. 120(3):194-202(2007)(非特許文献4))。GPC3を発現するHCCその他の腫瘍を処置するための効果的な戦略が必要とされている。したがって、GPC3を、好ましくは腫瘍細胞上に発現したGPC3を標的とする利用可能な手段および方法があれば望ましいだろう。
【0004】
国際特許出願番号PCT/EP2011/070119(特許文献1)には、ヒトリポカリン2(ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)とも呼ばれる)から誘導されたリポカリンムテインであって、GPC3に結合する能力を有するものが開示されている。しかし本開示は、これらのタンパク質に高度な特徴を付随させた、さらなるGPC3結合タンパク質を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際特許出願番号PCT/EP2011/070119
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sasisekharan et al., Nat. Rev. Cancer 2:521-528(2002)
【文献】Jakubovic and Jothy, Ex. Mol. Path. 82:184-189(2007)
【文献】Nakatsura and Nishimura, Biodrugs 19(2):71-77(2005)
【文献】Parikh and Hyman, Am J Med. 120(3):194-202(2007)
【発明の概要】
【0007】
[本発明1001]
成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)との比較において、配列位置36、40、41、49、52、65、68、70、72、73、77、79、81、87、96、100、103、105、106、125、127、132、134、136および/または175に少なくとも20個の変異アミノ酸残基を含む、K
Dが約1nM以下である親和性でグリピカン-3(GPC3)に結合する能力を有するリポカリンムテイン。
[本発明1002]
ムテインのアミノ酸配列が、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)との比較において以下の変異アミノ酸残基
Leu 36→ValまたはArg; Ala 40→Leu、ValまたはGly; Ile 41→Leu、Arg、Met、GlyまたはAla; Gln 49→ProまたはLeu; Tyr 52→ArgまたはTrp; Asn 65→Asp; Ser 68→Val、Gly、AsnまたはAla; Leu 70→Arg、Ser、AlaまたはVal; Arg 72→Asp、Trp、Ala、またはGly; Lys 73→Gly、Arg、Asn、GluまたはSer; Cys 76→ValまたはIle; Asp 77→His、Met、Val、Leu、ThrまたはLys; Trp 79→Lys、SerまたはThr; Arg 81→Gly; Cys 87→Ser; Asn 96→Arg、Asp、GlnまたはPro; Tyr 100→Gly、Glu、ProまたはGln; Leu 103→Glu、Gln、Asn、Gly、SerまたはTyr; Ser 105→Ala; Tyr 106→Asn、SerまたはThr; Lys 125→Glu; Ser 127→ArgまたはTyr; Tyr 132→TrpまたはIle; Lys 134→AlaまたはPhe; Thr 136→Ile; およびCys 175→Ala
のうちの少なくとも1つを含む、本発明1001のムテイン。
[本発明1003]
本質的に実施例4に記載するように表面プラズモン共鳴(SPR)分析によって測定した場合に、SEQ ID NO:3のムテインより強い結合親和性でGPC3に結合する、本発明1001または1002のいずれかのムテイン。
[本発明1004]
本質的に実施例5に記載するように、ヒト、マウスまたはカニクイザルGPC3がトランスフェクトされたSK-HEP-1細胞に基づくアッセイで測定した場合に、SEQ ID NO:4のムテインと比較して改善されたEC50値を呈する、本発明1001または1002のいずれかのムテイン。
[本発明1005]
本質的に実施例6に記載するように蛍光に基づく熱変性アッセイによって測定した場合に、SEQ ID NO:3のムテインより生物物理学的安定性が高い、本発明1001または1002のいずれかのムテイン。
[本発明1006]
成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の配列位置28に対応する配列位置に突然変異を含まない、本発明1001または1002のいずれかのムテイン。
[本発明1007]
成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置65にある天然N-グリコシル化部位Asnが、ムテインの対応する配列位置では除去されている、本発明1001または1002のいずれかのムテイン。
[本発明1008]
ムテインのアミノ酸配列が、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)との比較において、以下の組のアミノ酸置換
のうちの1つを含む、本発明1001~1007のいずれかのムテイン。
[本発明1009]
N-グリコシル化部位を有しない、本発明1001~1008のいずれかのムテイン。
[本発明1010]
SEQ ID NO:5~16からなる群またはそのフラグメントもしくは変異体からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、該フラグメントもしくは変異体は本発明1006~1028のいずれかに規定したアミノ酸残基を含む、リポカリンムテイン。
[本発明1011]
SEQ ID NO:5~16からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも85%の配列同一性を有する、本発明1001~1010のいずれかのリポカリンムテイン。
[本発明1012]
本発明1001~1011のいずれかのムテインをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子。
[本発明1013]
本発明1012の核酸分子を含有する宿主細胞。
[本発明1014]
本発明1001~1011のいずれかのムテインを生産する方法であって、該ムテインをコードする核酸から出発して、遺伝子工学的方法によってムテインが生産される、方法。
[本発明1015]
有効量の本発明1001~1010のいずれかのリポカリンムテインの1つもしくは複数または該ムテインを含む組成物の1つもしくは複数を対象に投与する工程を含む、対象中のGPC3に結合する方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
II.図面の説明
【
図1】MSDベースのアッセイで測定した、ヒトGPC3をトランスフェクトしたSK-HEP-1細胞での、選択された最適化GPC3特異的リポカリンムテイン(SEQ ID NO: 7、9および10)の結合を示す。陰性対照リポカリン(SEQ ID NO: 2)の有意な結合は検出されないが、最適化クローンはGPC3陽性細胞にナノモル未満~低ナノモルのEC50値で結合する。同様の結合がマウスまたはカニクイザルGPC3をトランスフェクトしたSK-HEP-1細胞で観察されるが、リポカリンムテインは対照細胞(SK-HEP-1::ベクター)には結合しない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
III.本開示の詳細な説明
本開示の一態様は、KDで測って約1nM以下の親和性でGPC3に結合する能力を有するリポカリンムテインに関する。より好ましくは、ムテインは、KDで測って約1nM以下または約0.2nM以下の親和性を有しうる。別の一態様において、ムテインは、本質的に実施例5に記載するアッセイなどの細胞結合アッセイにおいて、好ましくは約25nM、10nMもしくは3nMまたはそれよりも低いEC50値で、ヒトGPC3への結合について競合する能力を有する。
【0010】
別の一態様において、本開示は、hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置36、40、41、49、52、65、68、70、72、73、77、79、81、87、96、100、103、105、106、125、127、132、134、136および/または175に対応する1つまたは複数の位置に、置換、好ましくは本明細書に記載する置換を含むリポカリンムテインに関する。
【0011】
特定の態様において、本開示のムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の配列位置36、40、41、49、52、65、68、70、72、73、77、79、81、87、96、100、103、105、106、125、127、132、134、136および/または175に対応する配列位置に、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20個またはそれ以上、例えば21、22、23、24、25または26個の置換を含む。
【0012】
さらなる特定態様において、本開示によるリポカリンムテインは、SEQ ID NO:5~16からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。別の一態様において、ムテインは、成熟hNGALの配列(SEQ ID NO:1)に対して少なくとも70%の同一性を有する。好ましくは、該ムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の配列位置36、40、41、49、52、65、68、70、72、73、77、79、81、87、96、100、103、105、106、125、127、132、134、136および/または175に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20個またはそれ以上、例えば21、22、23、24、25または26個の変異アミノ酸残基を含む。
【0013】
いくつかのさらなる態様では、真核細胞における発現を容易にするために、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置65における天然のN-グリコシル化部位Asnが、本開示によるリポカリンムテインの対応する配列位置において、例えば位置65におけるAsnからAspへの突然変異などによって除去される。さらにまた、N-グリコシル化部位(Asn-X-Ser/Thr)は本開示によるリポカリンムテインには存在しないことが好ましい。
【0014】
他のいくつかの態様において、本開示によるリポカリンムテインは、例えば安定性をさらに改善するために、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の配列位置28に対応する配列位置に突然変異を含まない。
【0015】
別の一態様において、本開示のムテインは、有機分子、酵素標識、放射性標識、有色標識、蛍光標識、発色原標識、発光標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、細胞増殖抑制作用物質、毒素、金属錯体、金属、およびコロイド金からなる群より選択される化合物にコンジュゲートされる。ムテインは、そのN末および/またはそのC末において、タンパク質、タンパク質ドメイン、またはペプチドである融合パートナーに融合することができる。
【0016】
別の一態様において、ムテインは、ムテインの血清中半減期を延ばす化合物にコンジュゲートされる。より好ましくは、ムテインは、ポリアルキレングリコール分子、ヒドロエチルデンプン(hydroethylstarch)、免疫グロブリンのFc部分、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミン結合ペプチド、およびアルブミン結合タンパク質からなる群より選択される化合物にコンジュゲートされる。
【0017】
別の一態様において、本開示のムテインはGPC3のアンタゴニストである。
【0018】
別の一態様において、本開示は、本発明のムテインをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子に関する。
【0019】
さらに別の一態様において、本開示は、該核酸分子を含有する宿主細胞を包含する。
【0020】
本開示は、腫瘍、好ましくは肝腫瘍または黒色腫を処置する方法であって、その必要がある対象に、本明細書に記載のムテインを含有する薬学的組成物を投与する工程を含む方法も包含する。
【0021】
一局面において、本開示は、GPC3に方向づけられた、またはGPC3に特異的な、新規特異的結合タンパク質に関する。本開示のタンパク質は、治療目的および/または診断目的に使用しうる。本開示のタンパク質は、特に、本明細書に記載のhNGALムテインを包含する。結合特異性は絶対的特性ではなく相対的特性であるため、本明細書において、本開示のタンパク質は、ある標的(ここではGPC3)と1つまたは複数のリファレンス標的とを区別することができるのであれば、当該標的に「特異的に結合」する。「特異的結合」は、例えばウェスタンブロット、ELISA試験、RIA試験、ECL試験、IRMA試験、FACS、IHCおよびペプチドスキャンによって決定することができる。
【0022】
同様に、別の一局面において、本開示は、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置36、40、41、49、52、68、70、72、73、77、79、81、96、100、103、106、125、127、132、および/または134に対応する1つまたは複数の位置に、置換、好ましくは本明細書に記載する置換を含む、hNGALムテインに関する。
【0023】
代替的一局面において、本開示は、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置36、40、41、49、52、65、68、70、72、73、77、79、81、87、96、100、103、105、106、125、127、132、134、136および/または175に対応する1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20個またはそれ以上、例えば21、22、23、24、25または26個のアミノ酸位置に、置換、好ましくは本明細書に記載する置換を含むhNGALムテインを含むポリペプチドに関する。
【0024】
同様に本開示は、4つのループにより一端においてペアワイズに接続されることで結合ポケットを規定している8つのβストランドを含む円柱状のβプリーツシート超二次構造領域を有するhNGALから誘導されるリポカリンムテインであって、前記4つのループのうちの少なくとも3つのそれぞれの少なくとも1つのアミノ酸が変異しており、該リポカリンが、非天然標的であるGPC3に検出可能な親和性で結合するのに有効である、リポカリンムテインに関する。リポカリンムテインは、hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置36、40、41、49、52、65、68、70、72、73、77、79、81、87、96、100、103、105、106、125、127、132、134、136および/または175にあるアミノ酸に対応する1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個のアミノ酸位置に、置換、好ましくは本明細書に記載する置換を含むと有利である。
【0025】
本開示は、これらのタンパク質をコードする核酸にも関係する。
【0026】
本開示において使用する場合、「位置」という用語は、本明細書に示すアミノ酸配列内でのアミノ酸の位置、または本明細書に示す核酸配列内でのヌクレオチドの位置を意味する。本明細書において使用する「対応」という用語は、先行するヌクレオチド/アミノ酸の数だけでは決定されないということも含む。したがって、本開示によれば、置換されうる所与のアミノ酸の位置は、(突然変異体または野生型)リポカリン中の他のどこかにあるアミノ酸の欠失または付加ゆえに、変動しうる。同様に、本開示によれば、置換されうる所与のヌクレオチドの位置も、ムテインまたは野生型リポカリン5'-非翻訳領域(UTR)、例えばプロモーターおよび/または他の任意の制御配列もしくは制御遺伝子(エクソンおよびイントロンを含む)中の他のどこかにある欠失または追加ヌクレオチドゆえに、変動しうる。
【0027】
このように、本開示による「対応位置」では、ヌクレオチド/アミノ酸は、類似の隣接ヌクレオチド/アミノ酸とは、表示される数字の点で異なりうるが、そのようなヌクレオチド/アミノ酸も含まれうると好ましくは理解される。交換、欠失または付加されうる当該ヌクレオチド/アミノ酸も、用語「対応位置」に含まれる。
【0028】
具体的には、本開示のhNGALリポカリンムテインとは異なるリポカリンのヌクレオチド残基またはアミノ酸配列のアミノ酸残基が、hNGALリポカリンムテイン、特にSEQ ID NO: 5~16のいずれか1つに記載の、またはNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO: 1)の位置36、40、41、49、52、65、68、70、72、73、77、79、81、87、96、100、103、105、106、125、127、132、134、136および/または175に1つまたは複数のアミノ酸置換を有するhNGALリポカリンムテインのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列中の一定の位置に対応するかどうかを決定するために、当業者は、例えば手作業によるアラインメント、またはBLAST2.0(Basic Local Alignment Search Toolの略)もしくはClustalWなどのコンピュータプログラム、または配列アラインメントを作成するのに適した他の任意の適切なプログラムを使ったアラインメントなど、当技術分野において周知の手段および方法を使用することができる。したがって、SEQ ID NO: 1~8のムテインのいずれか1つ、またはhNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO: 1)の位置36、40、41、49、52、65、68、70、72、73、77、79、81、87、96、100、103、105、106、125、127、132、134、136および/または175に1つまたは複数のアミノ酸置換を有するものが「対象配列」となるのに対して、NGALとは異なるリポカリンのアミノ酸配列は「クエリー配列」になる。
【0029】
こうして、上記を考慮すれば、当業者は、hNGAL以外のスキャフォールドのアミノ酸に、本明細書に記載するhNGALにおいて変異させたどのアミノ酸位置が対応するかを、容易に決定できる立場にある。具体的に述べると、当業者は、本明細書に記載するムテインのアミノ酸配列、特に本開示のhNGALムテインのアミノ酸配列を、異なるムテインのアミノ酸配列と整列することで、該異なるリポカリンのアミノ酸配列のそれぞれのアミノ酸には該ムテインのどのアミノ酸が対応するかを決定することができる。より具体的には、当業者はこうして、該異なるリポカリンのアミノ酸配列のどのアミノ酸が、hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置36、40、41、49、52、65、68、70、72、73、77、79、81、87、96、100、103、105、106、125、127、132、134、136および/または175にあるアミノ酸に対応するかを、決定することができる。
【0030】
GPC3へと方向づけられた、またはGPC3に特異的な、本開示のタンパク質は、明確なタンパク質スキャフォールドに基づく多くの特異的結合タンパク質ムテインを包含する。本明細書にいう「ムテイン」、「変異(mutated)」実体(entity)(タンパク質であるか核酸であるかを問わない)、または「突然変異体(mutant)」とは、天然(野生型)の核酸またはタンパク質「リファレンス」スキャフォールドと比較した、1つまたは複数のヌクレオチドまたはアミノ酸の交換、欠失、または挿入を指す。交換され、欠失し、または挿入されるヌクレオチドまたはアミノ酸のそれぞれの数は、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20個またはそれ以上、例えば21、22、23、24、25および26個である。ただし、本開示のムテインは、依然として、GPC3に結合する能力を有することが好ましい。
【0031】
本明細書にいう「リポカリン」は、複数(好ましくは4つ)のループにより一端においてペアワイズに接続されることで結合ポケットを規定している複数(好ましくは8つ)のbストランドを含む円柱状のbプリーツシート超二次構造領域を有する、重量が約18~20kDAの単量体型タンパク質と定義される。サイズ、形状、および化学的特徴が異なる標的を収容する能力をそれぞれが有するリポカリンファミリーメンバー間に、さまざまな異なる結合様式を生じさせるのは、他の点では剛直なリポカリンスキャフォールドにおけるループの多様性である(例えばFlower DR., The lipocalin protein family: structure and function, Biochem J. 318:1-14(1996); Flower DR., et al., The lipocalin protein family: structural and sequence overview. Biochim. Biophys. Acta 1482:9-24(2000); Skerra, A. Biochim. Biophys. Acta 1482:337-350(2000)を参照されたい)。事実、リポカリンタンパク質ファミリーは、広範なリガンドに結合するように、自然に進化しており、それらが共有する全体的配列保存のレベルは異常に低い(多くの場合、配列同一性は20%未満である)にもかかわらず、高度に保存された全体的フォールディングパターンを保っている。さまざまなリポカリンにおける位置間の対応は当業者には周知である。例えば米国特許第7,250,297号を参照されたい。
【0032】
好ましい一態様において、本開示のタンパク質は、リポカリン2(Lcn2;ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、hNGAL、またはシデロカリンとしても公知である)のムテインである。「ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン」、「hNGAL」、「成熟hNGAL」、「リポカリン2」、「ヒトリポカリン2」、「成熟ヒトロプカリン(lopcalin)2」および「Lcn2」という用語は相互可換的に使用され、SWISS-PROT/UniProtデータバンクアクセッション番号P80188(アイソフォーム1)の成熟hNGALを指す。SWISS-PROT/UniProtデータバンクアクセッション番号P80188に示されるアミノ酸配列は「リファレンス配列」として好ましい。
【0033】
最も好ましくは、SEQ ID NO:1に示すアミノ酸配列が「リファレンス配列」として好ましい。SEQ ID NO:1は成熟hNGALを示している。「リファレンス配列」および「野生型配列」という用語は、本明細書では相互可換的に使用される。このタンパク質の成熟型は、アミノ酸1~20のシグナルペプチド
が切り離されて、アミノ酸21~198の完全配列を有する。このタンパク質は、成熟タンパク質の位置76および175にあるアミノ酸残基間に形成されるジスルフィド結合をさらに有する。
【0034】
本開示のムテインは、変異アミノ酸配列位置以外では、「親」タンパク質スキャフォールド(リポカリンなど)の野生型(天然)アミノ酸配列を含みうる。あるいは、hNGALムテインは、突然変異誘発に付された配列位置以外にも、ムテインの結合活性およびフォールディングに干渉しないアミノ酸突然変異を含有しうる。そのような突然変異は、確立された標準的方法(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(2001))を使って、DNAレベルで実現することができる。考えられるアミノ酸配列の改変は、挿入または欠失ならびにアミノ酸置換である。
【0035】
そのような置換は保存的でありうる。すなわち、アミノ酸残基は、化学的に類似するアミノ酸残基で置き換えられる。保存的置換の例は、以下のグループのメンバー間での置き換えである: 1)アラニン、セリン、およびスレオニン; 2)アスパラギン酸およびグルタミン酸; 3)アスパラギンおよびグルタミン; 4)アルギニンおよびリジン; 5)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、およびバリン;ならびに6)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン。他方、アミノ酸配列中に非保存的改変を導入することも可能である。加えて、単一のアミノ酸残基を置き換える代わりに、親タンパク質スキャフォールドの一次構造のうちの1つまたは複数の連続アミノ酸を挿入または欠失させ、その結果、安定なフォールディングされた/機能的ムテインを得ることも可能であり、当業者はそれを容易に検証することができる。
【0036】
本開示によって考慮されているがそのタンパク質配列または核酸配列が本明細書において明示的には開示されていないタンパク質ムテインを調製するのに役立つ方法は、当業者には理解されるであろう。概要として、アミノ酸配列のそのような修飾には、例えば、一定の制限酵素のための切断部位を組み入れることによって変異リポカリン遺伝子またはそのパーツのサブクローニングを簡単にするための、単一アミノ酸位置の指定突然変異誘発が含まれる。加えて、所与の標的に対するリポカリンムテインの親和性をさらに改善するために、これらの突然変異を組み入れることもできる。さらにまた、必要であれば、フォールディング安定性、血清中安定性、タンパク質耐性または水溶性を改善するため、または凝集傾向を低減するためなど、ムテインの一定の特徴を調節するために、突然変異を導入することができる。例えばジスルフィド架橋形成を防止するために、天然のシステイン残基を別のアミノ酸に変異させうる。
【0037】
したがって本開示は、リファレンスタンパク質に対してしきい配列同一性またはしきい配列相同性を有する、本明細書において開示するタンパク質の機能的変異体も包含する。「同一性」または「配列同一性」とは、配列間の類似性または関係性を測る配列の一特性を意味する。本開示において使用する「配列同一性」または「同一性」という用語は、本開示のポリペプチドの配列を問題の配列と(相同)アラインメントした後の、それら2つの配列のうちの長い方の残基数を基準とした、ペアごとの同一残基のパーセンテージを意味する。パーセント同一性は、同一残基の数を残基の総数で割り、その結果に100を掛けることによって決定される。「相同性」という用語は、本明細書では、その通常の意味で使用され、2つのタンパク質の直鎖アミノ酸配列において等価な位置にある同一アミノ酸ならびに保存的置換と見なされるアミノ酸(例えばアスパラギン酸残基によるグルタミン酸残基の交換)を包含する。
【0038】
配列相同性または配列同一性のパーセンテージは、例えばプログラムBLASTP、バージョンblastp 2.2.5(2002年11月16日)を使って決定することができる。Altschul, S. F. et al., Nucl. Acids Res. 25, 3389-3402(1997)参照。この態様において、相同性のパーセンテージは、プロペプチド配列を含む全ポリペプチド配列のアラインメントに基づき(行列: BLOSUM 62;ギャップコスト: 11.1;カットオフ値は10-3に設定)、好ましくは野生型タンパク質スキャフォールドを、ペアワイズ比較におけるリファレンスとして使用する。これは、アラインメントのためにプログラムが選択したアミノ酸の総数で割った、BLASTPプログラム出力に結果として示される「ポジティブ(positive)」(相同アミノ酸)の数のパーセンテージとして計算される。
【0039】
例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、ビオチン、ペプチドまたはタンパク質などの他の化合物へのコンジュゲーションのために、または非天然のジスルフィド連結を形成させるために、新しい反応性基を導入する目的で、他のアミノ酸配列位置を計画的にシステインに変異させることも可能である。ヒトリポカリン2のムテインに関して、ヒトリポカリン2ムテインを含むリポカリンのアミノ酸配列中にシステイン残基を導入するためのそのような突然変異の例示的選択肢には、hNGALの野生型配列の配列位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146または158に対応する配列位置のうちの少なくとも1つにおけるシステイン(Cys)残基の導入が含まれる。本開示のヒトリポカリン2ムテインが、SWISS-PROT/UniProtデータバンクアクセッション番号P80188の配列と比較して、システインが別のアミノ酸残基で置き換えられている配列を有するいくつかの態様では、対応するシステインを配列中に再導入しうる。具体例として、そのような場合には、SWISS-PROTアクセッション番号P80188の配列中に元々存在するシステインに復帰させることによって、アミノ酸位置87のシステイン残基を導入しうる。アミノ酸位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146および/または158のいずれかの側部に生成したチオール部分は、それぞれのヒトリポカリン2ムテインの血清中半減期を増加させる目的で、ムテインをPEG化またはHES化するために使用しうる。
【0040】
いくつかの好ましい態様において、本開示のムテインは、約1nM以下、例えば0.5nM以下、0.3nM以下、および/または0.2nM以下のKDで、ヒトまたはマウスGPC3に結合する。本開示のムテインは、成熟し折りたたまれている生物活性型のGPC3の1つまたは複数の連続エピトープ、不連続エピトープまたはコンフォメーションエピトープに、特異的に結合しうる。
【0041】
選択された標的(この場合はGPC3)に対する本開示のタンパク質(例えばリポカリンのムテイン)の結合親和性は、当業者に公知の数多くの方法によって測定することができる(そしてそれによってムテイン-リガンド複合体のKD値が決定される)。そのような方法には、蛍光滴定、競合ELISA、等温滴定熱量測定(ITC)などの熱量測定法、および表面プラズモン共鳴(BIAcore)などがあるが、それらに限定されるわけではない。そのような方法は当技術分野において確立されており、その例を以下にも詳述する。
【0042】
本開示のムテインのアミノ酸配列は、成熟ヒトリポカリン2に対して高い配列同一性を有しうる。これに関連して、本開示のタンパク質は、例えばSEQ ID NO:5~16からなる群より選択されるアミノ酸配列のムテインなど、SEQ ID NO:1の配列からなる群より選択されるタンパク質に対して、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも82%、少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%の同一性、例えば少なくとも95%の同一性を有しうる。
【0043】
本開示は、SEQ ID NO:5~16の配列からなる群より選択されるタンパク質の構造ホモログであって、それとの関連において約60%超、好ましくは65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、92%超、最も好ましくは95%超のアミノ酸配列相同性または配列同一性を有するものも包含する。
【0044】
「グリピカン-3」、「グリピカンプロテオグリカン3」、「GPC3」、「OTTHUMP00000062492」、「GTR2-2」、「SGB」、「DGSX」、「SDYS」、「SGBS」、「OCI-5」、および「SGBSI」という用語は、相互可換的に使用され、ヒトグリピカン-3の変異体、アイソフォームおよび種ホモログが包含される。例示的なヒトグリピカン-3の完全アミノ酸配列は、Genbank/NCBIアクセッション番号NM_004484を有する。
【0045】
上記に合致して、本開示のムテインは、好ましくは、GPC3のアンタゴニストとして作用する。いくつかの態様において、本開示のムテインは、GPC3分子が持つ、そのコグネイトリガンドに結合する能力またはそのコグネイトリガンドと他の形で相互作用する能力を阻害することにより、GPC3のアンタゴニストとして作用しうる。
【0046】
さらに別の一局面において、本開示は、GPC3に特異的に結合するヒトリポカリン2のムテインを包含する。この意味で、GPC3は、野生型ヒトリポカリン2の非天然リガンドであるとみなすことができ、ここで「非天然リガンド」とは、生理的条件下でヒトリポカリン2に結合しない化合物を指す。ヒトリポカリン2などの野生型リポカリンを一定の配列位置における突然変異で工学的に操作することにより、本発明者らは、非天然リガンドに対する高い親和性および高い特異性が可能であることを証明した。一局面では、成熟ヒトリポカリン2の直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の配列位置36、40、41、49、52、65、68、70、72、73、77、79、81、87、96、100、103、105、106、125、127、132、134、136および/または175のいずれかをコードする少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および/または20個のヌクレオチドトリプレットにおいて、これらの位置でヌクレオチドトリプレットの部分集合を置換させることによって、ランダム突然変異誘発を実行することができる。
【0047】
さらに、リポカリンは、成熟ヒトリポカリン2の直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の配列位置36、40、41、49、52、65、68、70、72、73、77、79、81、87、96、100、103、105、106、125、127、132、134、136および/または175に対応する配列位置のうちの任意の1つまたは複数に、例えば少なくとも任意の2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個に、変異アミノ酸残基を有するムテインを作製するために使用することができる。
【0048】
配列位置36における置換は、例えば置換Leu36→ValまたはArgでありうる。配列位置40における置換は、例えば置換Ala40→Leu、ValまたはGlyでありうる。配列位置41における置換は、例えば置換Ile41→Leu、Arg、Met、GlyまたはAlaでありうる。配列位置49における置換は、例えば置換Gln49→ProまたはLeuでありうる。配列位置52における置換は、例えば置換Tyr52→ArgまたはTrpでありうる。配列位置68における置換は、例えば置換Asn65→Aspでありうる。配列位置68における置換は、例えば置換Ser68→Val、Gly、AsnまたはAlaでありうる。配列位置70における置換は、例えば置換Leu70→Arg、Ser、AlaまたはValでありうる。配列位置72における置換は、例えば置換Arg72→Asp、Trp、Ala、またはGlyでありうる。配列位置73における置換は、例えば置換Lys73→Gly、Arg、Asn、GluまたはSerでありうる。配列位置76における置換は、例えば置換Cys76→ValまたはIleでありうる。配列位置77における置換は、例えば置換Asp77→His、Met、Val、Leu、ThrまたはLysでありうる。配列位置79における置換は、例えば置換Trp79→Lys、SerまたはThrでありうる。配列位置81における置換は、例えば置換Arg81→Glyでありうる。配列位置81における置換は、例えば置換Cys87→Serでありうる。配列位置96における置換は、例えば置換Asn96→Arg、Asp、GlnまたはProでありうる。配列位置100における置換は、例えば置換Tyr100→Gly、Glu、ProまたはGlnでありうる。配列位置103における置換は、例えば置換Leu103→Glu、Gln、Asn、Gly、SerまたはTyrでありうる。配列位置106における置換は、例えば置換Ser105→Alaでありうる。配列位置106における置換は、例えば置換Tyr106→Asn、SerまたはThrでありうる。配列位置125における置換は、例えば置換Lys125→Gluでありうる。配列位置127における置換は、例えば置換Ser127→ArgまたはTyrでありうる。配列位置132における置換は、例えば置換Tyr132→TrpまたはIleでありうる。配列位置134における置換は、例えば置換Lys134→AlaまたはPheでありうる。配列位置134における置換は、例えば置換Thr136→Ileでありうる。配列位置175における置換は、例えば置換Cys175→Alaでありうる。リファレンス配列中の対応アミノ酸を置換するアミノ酸はいずれも、対応する保存的アミノ酸と交換できることは、注目に値する。特に、保存的置換は、以下の群のメンバー間での置き換えである:1)アラニン、セリン、およびスレオニン; 2)アスパラギン酸およびグルタミン酸; 3)アスパラギンおよびグルタミン; 4)アルギニンおよびリジン; 5)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、およびバリン;ならびに6)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン。
【0049】
一態様において、GPC3に結合する本開示のムテインは、以下のアミノ酸の置き換えを含む。
【0050】
ナンバリングは、好ましくは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)との関連においてなされる。したがって、本開示の教示内容を考慮すれば、当業者は、成熟hNGALの好ましいリファレンス配列(SEQ ID NO:1)中のどのアミノ酸が上記(a)~(l)に記載したものに対応するかを容易に決定して、リファレンス配列中の該アミノ酸を突然変異させることができる。
【0051】
いくつかの特定態様において、本開示によるムテインは、ヒトGPC3またはマウスGPC3に、SEQ ID NO:3のムテインおよび/またはSEQ ID NO:4のムテインより強い結合親和性で結合する。例えばそのようなムテインは、本質的に実施例4に記載するように表面プラズモン共鳴(SPR)分析によって測定した場合に、SEQ ID NO:3または4のムテインより低いKD値を有しうる。
【0052】
いくつかのさらなる態様において、本開示によるムテインは、SEQ ID NO:3のムテインおよび/またはSEQ ID NO:4のムテインと比較して改善されたEC50値を呈する。例えば、そのようなムテインは、本質的に実施例5に記載するようにヒト、マウスまたはカニクイザルのGPC3がトランスフェクトされたSK-HEP-1細胞に基づくアッセイで測定した場合に、SEQ ID NO:3または4のムテインより低いnMを有しうる。
【0053】
いくつかのさらなる態様において、本開示のムテインは、例えば、本質的に実施例6に記載するように蛍光に基づく熱変性アッセイによって測定される融解温度が、SEQ ID NO:3または4のムテインと比較して上昇しているのであれば、SEQ ID NO:3のムテインおよび/またはSEQ ID NO:4のムテインより生物物理学的に安定である。
【0054】
それぞれのムテインとそのリガンドとの間の複合体形成が、それぞれの結合パートナーの濃度、競合物質の存在、使用する緩衝系のpHおよびイオン強度、ならびに解離定数KDの決定に使用される実験方法(例えば蛍光滴定、競合ELISAまたは表面プラズモン共鳴であるが、これらはほんの一例にすぎない)、さらには実験データの評価に使用される数学的アルゴリズムなどといった多種多様な因子の影響を受けることにも注意されたい。
【0055】
それゆえに、所与のリガンドに対する特定リポカリンムテインの親和性を決定するために使用される方法および実験装置に依存して、KD値(それぞれのムテインとその標的/リガンドとの間に形成される複合体の解離定数)が一定の実験範囲内で変動しうることも、当業者にとっては明らかである。これは、例えばそのKD値が表面プラズモン共鳴(Biacore)で決定されたか、競合ELISAで決定されたか、または「直接ELISA」で決定されたかなどに依存して、測定されるKD値にはわずかな偏差、または許容誤差範囲が存在しうることを意味する。
【0056】
一態様において、本明細書に開示するムテインは、好ましくはタンパク質、またはタンパク質ドメインもしくはペプチドである融合パートナーに、N末またはC末で連結することができる。融合パートナーの例は、ペンタヒスチジンタグ、ヘキサヒスチジンタグまたはストレプトアビジンタグ(例えばStreptag(登録商標))などのアフィニティータグである。したがって本願は、明示的および包括的に記載した、そのようなタグを備えたムテインも、すべて包含する。
【0057】
本願のリポカリンムテインフラグメントに関連して本開示において使用する「フラグメント」という用語は、完全長成熟Lcn2から誘導されるタンパク質またはペプチドであって、N末および/またはC末が短縮されているもの、すなわち少なくとも1つのN末および/またはC末アミノ酸を欠くものに関する。そのようなフラグメントは、成熟Lcn2の一次配列のうちの好ましくは少なくとも10個、より好ましくは20個、最も好ましくは30個またはそれ以上の連続アミノ酸を含み、通常は、成熟Lcn2のイムノアッセイにおいて検出可能である。本明細書において使用する「検出する」または「検出すること」という単語は、定量的レベルおよび定性的レベルの両方で、ならびにそれらの組合せで、理解される。したがってこれは、関心対象の分子の定量的、半定量的および定性的測定を包含する。したがって、例えば試料中のGPC3などの分子の存在または非存在ならびにその濃度またはレベルが決定されうる。
【0058】
検出される免疫原性が低減するように当分野の当業者に公知の方法を使用することによって免疫原性が改変されている上記のムテインも、本開示の範囲に包含される。
【0059】
細胞傷害性T細胞は、クラスI主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と会合している抗原提示細胞の細胞表面上のペプチド抗原を認識する。ペプチドのMHC分子結合能はアレル特異的であり、その免疫原性と相関する。所与のタンパク質の免疫原性を低減するには、タンパク質中のどのペプチドが所与のMHC分子に結合する潜在的能力を有するかを予測できることに、大きな価値がある。コンピュテーショナル・スレッディング(computational threading)アプローチを使って潜在的T細胞エピトープを同定するアプローチでは、MHCクラスI分子への所与のペプチド配列の結合が予測されると、以前に記載されている(Altuvia et al., J. Mol. Biol. 249:244-250(1995))。そのようなアプローチは、本開示のムテイン中の潜在的T細胞エピトープを同定するためにも、意図する用途に応じて、具体的ムテインを、予測されるその免疫原性に基づいて選択するためにも、利用しうる。さらにまた、T細胞エピトープを含有すると予想されたペプチド領域を、それらT細胞エピトープを低減または排除し、よって免疫原性を最小限に抑えるために、追加の突然変異誘発に付すことも可能になりうる。遺伝子操作された抗体からの両親媒性エピトープの除去については記載があり(Mateo et al., Hybridoma 19(6):463-471(2000))、それは本開示のムテインに適合させうる。こうして得られたムテインは、後述するような治療的応用および診断的応用におけるその使用にとって望ましい最小限の免疫原性を有しうる。
【0060】
いくつかの応用では、本開示のムテインをコンジュゲートされた形態で使用することも有用である。コンジュゲーションは、当技術分野において公知である従来のカップリング方法をどれでも使って実行することができる。
【0061】
非天然標的に関して本明細書において使用する用語「有機分子」または「小有機分子」は、少なくとも2つの炭素原子を含むが、回転可能な炭素結合の数が好ましくは7または12を越えず、100~2000ダルトン、好ましくは100~1000ダルトンの範囲の分子量を有し、1つまたは2つの金属原子を含んでもよい有機分子を表す。
【0062】
一般に、本明細書に記載するリポカリンムテインは、化学的、物理的、光学的、または酵素的反応において検出可能な化合物またはシグナルを直接的または間接的に生成する任意の適当な化学物質または酵素で、標識することが可能である。物理的反応の、そして同時に光学的反応/マーカーの、一例は、照射時の蛍光の放射である。アルカリホスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼまたはβ-ガラクトシダーゼは、発色性反応生成物の形成を触媒する酵素標識(そして同時に光学的標識)の例である。一般に、抗体によく使用される標識は(もっぱら免疫グロブリンのFc部分中の糖部分と共に使用するものを除けば)すべて、本開示のムテインへのコンジュゲーションにも使用することができる。本開示のムテインは、任意の適切な治療活性作用物質と、例えばそのような作用物質を所与の細胞、組織または器官に標的送達するために、または細胞の選択的ターゲティング、例えば周囲の正常細胞に影響を及ぼさない腫瘍細胞の選択的ターゲティングのために、コンジュゲートすることもできる。そのような治療活性作用物質の例としては、放射性核種、毒素、小有機分子および治療ペプチド(例えば細胞表面受容体のアゴニスト/アンタゴニストとして作用するペプチド、または所与の細胞標的上のタンパク質結合部位に関して競合するペプチド)が挙げられる。適切な毒素の例には、百日咳毒素、ジフテリア毒素、リシン、サポリン、シュードモナス外毒素、カリケアマイシンまたはその誘導体、タキソイド、メイタンシノイド、チューブリシン(tubulysin)またはドラスタチン類似体などがあるが、それらに限定されるわけではない。ドラスタチン類似体は、アウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンPYEおよびアウリスタチンPHEでありうる。細胞増殖抑制作用物質の例には、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、タキソテール(ドセタキセル)、パクリタキセル、アントラサイクリン(ドキソルビシン)、メトトレキサート、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ダカルバジン、シクロホスファミド、エトポシド、アドリアマイシン、カンプトテシン(Camptotecine)、コンブレタスタチン(Combretatastin)A-4関連化合物、スルホンアミド類、オキサジアゾリジン類、ベンゾ[b]チオフェン類、合成スピロケタールピラン類、モノテトラヒドロフラン化合物、キュラシンおよびキュラシン誘導体、メトキシエストラジオール誘導体およびロイコボリンなどがあるが、それらに限定されるわけではない。本開示のリポカリンムテインを、アンチセンス核酸分子、低分子干渉RNA、マイクロRNAまたはリボザイムなどの治療的に活性な核酸とコンジュゲートしてもよい。そのようなコンジュゲートは、当技術分野において周知の方法によって生産することができる。
【0063】
一態様において、体内の所望の領域または区域に本発明のムテインを送達するために、特別な身体領域を標的とするターゲティング部分に本開示のムテインをカップリングしてもよい。そのような修飾が望まれうる例の一つは、血液脳関門の横断である。血液脳関門を横断させるために、この関門を横切る能動輸送を容易にする部分に本開示のムテインをカップリングしうる(Gaillard PJ, et al., International Congress Series. 127:185-198(2005); Gaillard PJ, et al., Expert Opin Drug Deliv. 2(2):299-309(2005))。そのような化合物は、例えば2B-Trans(商標)(to-BBB technologies BV、オランダ・ライデン)という商標で入手できる。本開示のムテインをカップリングしうる他の例示的ターゲティング分子として、抗体、抗体フラグメントまたは所望の標的分子に対する親和性を持つリポカリンムテインが挙げられる。ターゲティング部分の標的分子は、例えば細胞表面抗原でありうる。細胞表面抗原は、例えばがん細胞などの細胞タイプまたは組織タイプに特異的でありうる。そのような細胞表面タンパク質の具体例は、HER-2、またはNEU-2などのプロテオグリカンである。
【0064】
上記のように、本開示のムテインは、いくつかの態様において、ムテインの血清中半減期を延ばす化合物にコンジュゲートされうる(これについては、そのようなコンジュゲーション戦略がCTLA-4に対する結合親和性を持つヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンのムテインに関して記述されているPCT公開番号WO 2006/56464も参照されたい)。血清中半減期を延ばす化合物は、ポリアルキレングリコール分子、例えばポリエチレン(「PEG」)またはその活性化誘導体; ヒドロキシエチルデンプン、脂肪酸分子、例えばパルミチン酸(Vajo & Duckworth, Pharmacol. Rev. 52, 1-9(2000))、免疫グロブリンのFc部分、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミンまたはそのフラグメント、アルブミン結合ペプチド、アルブミン結合タンパク質、トランスフェリン、またはタグPro-Ala-Serでありうるが、これらはほんの数例にすぎない。アルブミン結合タンパク質は、細菌のアルブミン結合タンパク質、抗体、ドメイン抗体を含む抗体フラグメント(例えば米国特許第6,696,245号参照)、またはアルブミンに対する結合活性を持つリポカリンムテインでありうる。したがって、本開示のリポカリンムテインの半減期を延ばすための適切なコンジュゲーション化合物には、アルブミン(Osborn et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 303:540-548(2002))、またはアルブミン結合タンパク質、例えば細菌のアルブミン結合ドメイン、例えば連鎖球菌プロテインGのもの(Konig, T. and Skerra, A., J. Immunol. Methods 218:73-83(1998))が包含される。コンジュゲーションパートナーとして使用することができるアルブミン結合ペプチドの他の例は、例えば、米国特許出願公開第2003/0069395号またはDennisら(Dennis et al., J. Biol. Chem. 277:35035-35043(2002))に記載されている、Cys-Xaa1-Xaa2-Xaa3-Xaa4-Cysコンセンサス配列を有するものであり、ここで、Xaa1はAsp、Asn、Ser、Thr、またはTrpであり、Xaa2はAsn、Gln、His、Ile、Leu、またはLysであり、Xaa3はAla、Asp、Phe、Trp、またはTyrであり、Xaa4はAsp、Gly、Leu、Phe、Ser、またはThrである。
【0065】
別の態様では、アルブミンそのもの、またはアルブミンの生物学的活性フラグメントを、ムテインの血清中半減期を延ばす本開示のリポカリンムテインの化合物として使用することができる。「アルブミン」という用語は、すべての哺乳動物アルブミン、例えばヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンまたはラットアルブミンを包含する。アルブミンまたはそのフラグメントは、米国特許第5,728,553号または欧州特許出願番号EP 0 330 451およびEP 0 361 991に記載されているように組換え生産することができる。タンパク質安定剤として使用するための組換えヒトアルブミン(Recombumin(登録商標))は、例えばNovozymes Delta Ltd.(英国ノッティンガム)から入手することができる。
【0066】
アルブミン結合タンパク質が抗体フラグメントである場合、それはドメイン抗体でありうる。ドメイン抗体(dAb)は、最適な安全性および効力製品プロファイルを作出するために、生物物理学的特性およびインビボ半減期の正確なコントロールが可能になるように、工学的に操作されている。ドメイン抗体は例えばDomantis Ltd.(英国ケンブリッジおよび米国マサチューセッツ州)から市販されている。
【0067】
本開示のムテインの血清中半減期を延ばすための部分としてトランスフェリンを使用する場合は、ムテインを非グリコシル化トランスフェリンのN末、C末またはその両方に遺伝子融合することができる。非グリコシル化トランスフェリンは14~17日の半減期を有し、トランスフェリン融合タンパク質も同様に延長された半減期を有するであろう。トランスフェリン担体は、高いバイオアベイラビリティ、体内分布および循環安定性も提供する。この技術は、BioRexis(BioRexis Pharmaceutical Corporation、米国ペンシルバニア州)から市販されている。タンパク質安定剤として使用するための組換えヒトトランスフェリン(DeltaFerrin(商標))も、Novozymes Delta Ltd.(英国ノッティンガム)から市販されている。
【0068】
本開示のムテインの血清中半減期を延ばす目的で免疫グロブリンのFc部分を使用する場合は、Syntonix Pharmaceuticals, Inc(米国マサチューセッツ州)から市販されているSynFusion(商標)技術を使用しうる。このFc融合物技術の使用は、より長時間作用する生物製剤の作出を可能にし、例えば、薬物動態、溶解度、および生産効率を改善するために抗体のFc領域に連結された2コピーのムテインを含みうる。
【0069】
本開示のムテインの半減期を延ばすためのさらにもう一つの代替策は、本開示のムテインのN末またはC末を、長い構造不定のフレキシブルなグリシンリッチ配列(例えば約20~80個の連続するグリシン残基を持つポリグリシン)に融合することである。例えばPCT公開番号WO2007/038619に開示されているこのアプローチは、「rPEG」(組換えPEG)とも呼ばれている。
【0070】
ムテインの半減期を延ばす化合物としてポリアルキレングリコールを使用する場合、ポリアルキレングリコールは置換体または無置換体であることができる。活性化ポリアルキレン誘導体であることもできる。適切な化合物の例は、インターフェロンとの関係においてWO 99/64016、米国特許第6,177,074号または米国特許第6,403,564号に記載されているポリエチレングリコール(PEG)分子、または他のタンパク質、例えばPEG修飾アスパラギナーゼ、PEG-アデノシンデアミナーゼ(PEG-ADA)またはPEG-スーパーオキシドジスムターゼに関して記載されているポリエチレングリコール(PEG)分子である(例えばFuertges et al., The Clinical Efficacy of Poly(Ethylene Glycol)-Modified Proteins, J. Control. Release 11:139-148(1990)参照)。そのようなポリマーの分子量、好ましくはポリエチレングリコールの分子量は、例えば約10,000、約20,000、約30,000または約40,000ダルトンの分子量を持つポリエチレングリコールなど、約300~約70,000ダルトンの範囲に及びうる。さらに、例えば米国特許第6,500,930号または同第6,620,413号に記載されているように、糖質オリゴマーおよび糖質ポリマー、例えばデンプンまたはヒドロキシエチルデンプン(HES)を、血清中半減期を延ばす目的で、本開示のムテインにコンジュゲートすることができる。
【0071】
別の一態様では、上記化合物の1つを本開示のムテインにコンジュゲートするために適切なアミノ酸側鎖を与える目的で、人工アミノ酸を突然変異誘発によって導入することができる。一般に、そのような人工アミノ酸は、より高い反応性を持ち、よって所望の部分へのコンジュゲーションを容易にするように設計される。人工tRNAによって導入されうるそのような人工アミノ酸の一例は、パラアセチルフェニルアラニンである。
【0072】
本明細書に開示するムテインのいくつかの応用では、それらを融合タンパク質の形態で使用することが有利でありうる。いくつかの態様において、本発明のムテインは、そのN末および/またはそのC末において、タンパク質、タンパク質ドメインまたはペプチド、例えばシグナル配列および/またはアフィニティータグに融合される。
【0073】
薬学的応用のために、本開示のムテインは、ムテインのインビボ血清中半減期を延ばす融合パートナーに融合されうる(ここでも、CTLA-4に対する結合親和性を有するヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンのムテインに関して適切な融合パートナーが記載されているPCT公開番号WO2006/56464を参照されたい)。上述のコンジュゲート化合物と同様に、融合パートナーは、免疫グロブリンのFc部分、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミン、アルブミン結合ペプチドまたはアルブミン結合タンパク質でありうるが、これらはほんの一例にすぎない。ここでも、アルブミン結合タンパク質は、細菌のアルブミン結合タンパク質、またはアルブミンに対する結合活性を持つリポカリンムテインでありうる。したがって本開示のリポカリンムテインの半減期を延ばすための適切な融合パートナーとしては、アルブミン(Osborn, B.L. et al., 前掲, J. Pharmacol. Exp. Ther. 303:540-548(2002))、またはアルブミン結合タンパク質、例えば細菌のアルブミン結合ドメイン、例えば連鎖球菌プロテインG(Konig, T. and Skerra, A. J. Immunol. Methods 218:73-83(1998))が挙げられる。Cys-Xaa1-Xaa2-Xaa3-Xaa4-Cysコンセンサス配列を有するDennis et al, 前掲(2002)または米国特許出願公開第2003/0069395号に記載のアルブミン結合ペプチド(ここで、Xaa1はAsp、Asn、Ser、Thr、またはTrpであり、Xaa2はAsn、Gln、His、Ile、Leu、またはLysであり、Xaa3はAla、Asp、Phe、Trp、またはTyrであり、Xaa4はAsp、Gly、Leu、Phe、Ser、またはThrである)も、融合パートナーとして使用することができる。アルブミンそのもの、またはアルブミンの生物学的活性フラグメントを、本開示のリポカリンムテインの融合パートナーとして使用することも可能である。「アルブミン」という用語は、すべての哺乳動物アルブミン、例えばヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンまたはラットアルブミンを包含する。アルブミンまたはそのフラグメントの組換え生産は当技術分野において周知であり、例えば米国特許第5,728,553号、欧州特許出願番号EP 0 330 451、またはEP 0 361 991に記載されている。
【0074】
融合パートナーは、酵素活性または他の分子に対する結合親和性などといった新しい特徴を、本発明のリポカリンムテインに付与しうる。適切な融合タンパク質の例は、アルカリホスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、グルタチオン(gluthation)-S-トランスフェラーゼ、プロテインGのアルブミン結合ドメイン、プロテインA、抗体フラグメント、オリゴマー化ドメイン、同じまたは異なる結合特異性のリポカリンムテイン(「デュオカリン(duocalin)」の形成をもたらすもの; Schlehuber, S., and Skerra, A., Duocalins, engineered ligand-binding proteins with dual specificity derived from the lipocalin fold(Biol. Chem. 382: 1335-1342(2001))参照)、または毒素である。
【0075】
特に、結果として生じる融合タンパク質の両方の「構成要素」が所与の治療標的に一緒に作用するように、本開示のリポカリンムテインを、別個の酵素活性部位と融合することが可能でありうる。リポカリンムテインの結合ドメインが疾患原因標的に付着することで、酵素ドメインは標的の生物学的機能を無効にすることが可能になる。
【0076】
Strep-tag(登録商標)またはStrep-tag(登録商標)II(Schmidt, T.G.M. et al., J. Mol. Biol. 255:753-766(1996))、mycタグ、FLAGタグ、His6タグまたはHAタグなどのアフィニティータグ、またはグルタチオン-S-トランスフェラーゼなどのタンパク質も、組換えタンパク質の容易な検出および/または精製を可能にし、好ましい融合パートナーのさらなる例である。最後に、発色性または蛍光性を持つタンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質(「GFP」)または黄色蛍光タンパク質(「YFP」)も、本開示のリポカリンムテインにとって適切な融合パートナーである。
【0077】
本明細書において使用する「融合タンパク質」という用語は、シグナル配列を含有する本開示のリポカリンムテインも包含する。ポリペプチドのN末にあるシグナル配列は、そのポリペプチドを特異的細胞コンパートメント、例えば大腸菌(E. coli)のペリプラズムまたは真核細胞の小胞体(endoplasmatic reticulum)などに向かわせる。当技術分野では多数のシグナル配列が公知である。ポリペプチドを大腸菌のペリプラズムに分泌させるための好ましいシグナル配列はOmpAシグナル配列である。
【0078】
本開示は、本明細書に記載するムテインをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子(DNAおよびRNA)にも関係する。遺伝コードの縮重は、同じアミノ酸を指定する別のコドンによる一定のコドンの置換を可能にするので、本開示は、本開示のムテインをコードする特別な核酸分子に限定されず、機能的ムテインをコードするヌクレオチド配列を含むすべての核酸分子を包含する。
【0079】
本願において開示する核酸分子は、この核酸分子の発現を可能にするための1つ(または複数の)制御配列に「機能的に連結され」うる。
【0080】
DNAなどの核酸分子は、それが、転写制御および/または翻訳制御に関する情報を含有する配列要素を含み、そのような配列がポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に「機能的に連結され」ているのであれば、「核酸分子を発現する能力を有する」または「ヌクレオチド配列の発現を可能にする」能力を有するという。機能的連結とは、制御配列要素と発現すべき配列とが遺伝子発現を可能にするような形で接続されている連結である。遺伝子発現に必要な制御領域の正確な性質は種間で変動しうるが、一般にこれらの領域はプロモーターを含み、原核生物の場合、それは、プロモーターそのもの、すなわち転写の開始を指示するDNA要素と、RNAに転写されたときに翻訳開始のシグナルを出すことになるDNA要素との両方を含有する。そのようなプロモーター領域は通常、転写および翻訳の開始に関与する5'非コード配列、例えば原核生物における-35/-10ボックスおよびシャイン・ダルガノ配列、または真核生物におけるTATAボックス、CAAT配列、および5'キャッピング要素を含む。これらの領域は、エンハンサー要素またはリプレッサー要素、ならびにネイティブポリペプチドを宿主細胞の特定コンパートメントに導くための、翻訳されるシグナル配列およびリーダー配列も含むことができる。
【0081】
加えて、3'非コード配列は、転写終結、ポリアデニル化などに関与する制御要素を含有しうる。ただし、これらの終結配列が特定の宿主細胞において十分に機能しない場合には、それらをその細胞において機能的なシグナルで置換しうる。
【0082】
それゆえに、本開示の核酸分子は、制御配列、好ましくはプロモーター配列を含むことができる。別の好ましい態様において、本開示の核酸分子はプロモーター配列および転写終結配列を含む。適切な原核生物プロモーターには、例えばtetプロモーター、lacUV5プロモーターまたはT7プロモーターなどがある。真核細胞における発現に有用なプロモーターの例は、SV40プロモーターまたはCMVプロモーターである。
【0083】
本開示の核酸分子は、ベクター、または他の任意の種類のクローニング媒体、例えばプラスミド、ファージミド、ファージ、バキュロウイルス、コスミド、もしくは人工染色体、例えばYACもしくはBACなどの一部であることもできる。
【0084】
本開示のリポカリンムテインをコードするDNA分子、そして特に、そのようなリポカリンムテインのコード配列を含有するクローニングベクターは、当該遺伝子を発現させる能力を有する宿主細胞中に形質転換することができる。形質転換は標準的技法(Sambrook, J. et al.(2001), 前掲)を使って行うことができる。
【0085】
したがって本開示は、本明細書に開示する核酸分子を含有する宿主細胞にも向けられる。
【0086】
本開示は、本開示のムテインの生産方法であって、ムテイン、ムテインのフラグメント、またはムテインと別のポリペプチドとの融合タンパク質が、ムテインをコードする核酸から出発して、遺伝子工学的方法を使って生産される方法にも関係する。本方法は、インビボで実行することができ、ムテインを、例えば細菌宿主生物または真核宿主生物中で生産し、次に、この宿主生物またはその培養物から濃縮し、精製し、または単離することができる。タンパク質をインビトロで、例えばインビトロ翻訳系を使って生産することも可能である。「濃縮された」という用語は、ムテインまたはその機能的フラグメントが、関心対象の試料または溶液中に存在する全タンパク質のうちの、元となった試料または溶液での分率よりも有意に高い分率を構成することを意味する。濃縮は、例えば細胞抽出物からの一定画分の単離を包含しうる。これは、遠心分離などの標準的技法によって行われうる。他の濃縮手段の例は、濾過または透析(これらは、例えば、一定分子量未満の望ましくない分子の除去を狙って行いうる)、または有機溶媒もしくは硫酸アンモニウムを使った沈殿である。精製は、例えばクロマトグラフィー技法、例えばゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、親和性精製、疎水性相互作用クロマトグラフィーまたは疎水性電荷誘導(hydrophobic charge induction)クロマトグラフィーを含みうる。精製のもう一つの例は分取用キャピラリー電気泳動などの電気泳動技法である。単離は類似する方法の組合せを含みうる。本明細書にいう「実質的に純粋」または「実質的に精製された」とは、存在する優勢種である(すなわち、モルベースで、当該組成物中の他のどの個別分子種よりも豊富である)化合物または分子種を意味する。いくつかの態様において、実質的に精製された組成物とは、当該分子種が、存在する全分子の、または場合によっては全高分子種の、少なくとも約50パーセント(モルベースで)を占める組成物である。一定の態様において、実質的に純粋な組成物は、組成物中に存在する全分子のうちの、または場合によっては全高分子種のうちの、約80%超、約85%超、約90%超、約95%超、または約99%超を有する。
【0087】
ムテインをインビボで生産する場合は、本開示のムテインをコードする核酸を、組換えDNA技術(上で既に概説したもの)を使って、適切な細菌宿主生物または真核宿主生物中に導入する。この目的には、まず、確立された標準的方法を使って、本開示のムテインをコードする核酸分子を含むクローニングベクターで、宿主細胞を形質転換する(Sambrook, J. et al., Molecular cloning: a laboratory manual(1989))。次に、異種DNAの発現が可能な、よって対応ポリペプチドの合成が可能な条件下で、宿主細胞を培養する。次に、ポリペプチドを細胞から、または培養培地から、回収する。
【0088】
一局面において、本開示は、GPC3に結合するムテインを作製するための方法であって、リポカリンをコードする核酸分子を、1つまたは複数のムテイン核酸分子をもたらす突然変異誘発に付す工程を含む方法に関する。
【0089】
本方法は、さらに、
(a)において得られた前記1つまたは複数のムテイン核酸分子を適切な発現系で発現させる工程、
前記複数のムテインを、少なくとも1つのGPC3のフラグメントまたは成熟型と接触させる工程、および
所与の標的に対して検出可能な結合親和性を有する前記1つまたは複数のムテインを選択および/または単離によって濃縮する工程
を含むことができる。
【0090】
本明細書において使用する用語「突然変異誘発」は、hNGALなどのリポカリンの所与の配列位置に本来存在するアミノ酸を、それぞれの天然ポリペプチド配列中のその特定位置には存在しない少なくとも1つのアミノ酸で置換することができるように、実験条件が選ばれることを意味する。「突然変異誘発」という用語は、1つまたは複数のアミノ酸の欠失または挿入による配列セグメントの長さの(付加的)修飾も包含する。したがって、例えば、選ばれた配列位置にある1つのアミノ酸が、一続きになった3つのランダム突然変異で置き換えられて、野生型タンパク質のそれぞれのセグメントの長さと比較して2つのアミノ酸残基が挿入されたことになるのは、本開示の範囲内である。そのような挿入または欠失は、本開示において突然変異誘発の対象となりうるペプチドセグメントのいずれにおいても、互いに独立して導入されうる。本開示の例示的一態様では、数個の突然変異の挿入が、選ばれたリポカリンスキャフォールドのループAB中に導入されうる(国際特許出願番号WO 2005/019256参照。この特許出願は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。「ランダム突然変異誘発」という用語は、前もって決定された単一アミノ酸(突然変異)が一定の配列位置に存在するのではなくて、突然変異誘発中に、少なくとも2種類のアミノ酸が所定の配列位置に一定の確率で組み込まれうることを意味する。
【0091】
非限定的な一アプローチでは、ヒトリポカリン2のコード配列を、本開示において選択されたペプチドセグメントの突然変異誘発のための出発点として使用することができる。具陳したアミノ酸位置の突然変異誘発のために、当業者は、指定部位突然変異誘発のためのさまざまな確立された標準的方法を、自由に使用できる(Sambrook, J. et al.(2001), 前掲)。よく使用される技法は、所望の配列位置に縮重した塩基組成を持つ合成オリゴヌクレオチドの混合物を使った、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)による突然変異の導入である。他の類似の技法も当業者には周知である。
【0092】
上記の核酸分子を、ライゲーションによって、リポカリンポリペプチドをコードする核酸のうちの欠けている5'配列および3'配列ならびに/またはベクターと接続し、公知の宿主生物にクローニングすることができる。ライゲーションおよびクローニングには数多くの確立された手法を利用することができる(Sambrook, J. et al.(2001), 前掲)。例えば、クローニングベクターの配列中にも存在する制限エンドヌクレアーゼの認識配列を、合成オリゴヌクレオチドの配列中に工学的に作製することができる。こうして、それぞれのPCR産物の増幅および酵素的切断後に、結果として生じたフラグメントを対応する認識配列を使って容易にクローニングすることができる。
【0093】
突然変異誘発のために選択したタンパク質をコードする遺伝子内の、さらに長い配列を、公知の方法によるランダム突然変異誘発、例えばエラー率が増加する条件下でのポリメラーゼ連鎖反応を使ったランダム突然変異誘発の使用によるランダム突然変異誘発、化学的突然変異誘発によるランダム突然変異誘発、または細菌突然変異誘発株によるランダム突然変異に付すこともできる。そのような方法は、リポカリンムテインの標的親和性または標的特異性をさらに最適化するためにも使用することができる。実験的突然変異誘発のセグメント外で起こる可能性がある突然変異は許容されることが多く、例えばそれらがリポカリンムテインのフォールディング効率またはフォールディング安定性の改善に寄与するのであれば、有利であると判明する場合さえある。
【0094】
さらなる一態様において、本方法は、リポカリンの直鎖ポリペプチド配列の、特に成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の、配列位置36、40、41、49、52、65、68、70、72、73、77、79、81、87、96、100、103、105、106、125、127、132、134、136および/または175に対応する配列位置のうちの少なくとも任意の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20個またはそれ以上をコードするヌクレオチドトリプレットにおいて、核酸分子を突然変異誘発に付す工程を含む。そのような核酸は、組換えDNA技術を使って突然変異に付し、適切な細菌宿主生物または真核宿主生物に導入しうる。抗体様の特性を持つリポカリンムテイン、すなわち所与の標的に対する親和性を有するムテインを作製するために、当技術分野において公知である任意の適切な技法を使って、リポカリンの核酸ライブラリーを得ることができる。そのようなコンビナトリアル方法の例は、PCT出願番号WO99/16873、WO00/75308、WO03/029471、WO03/029462、WO03/029463、WO2005/019254、WO2005/019255、WO2005/019256、またはWO2006/56464などに詳述されている。これらの特許出願のそれぞれの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。突然変異誘発に付した核酸配列を適当な宿主において発現させた後、所与の標的に結合する前記複数の各リポカリンムテインに関する遺伝情報を保持するクローンを、得られたライブラリーから選択することができる。これらのクローンの選択には、ファージディスプレイ(Adey, NB et al., Identification of calmodulin-binding peptide consensus sequences from a phage-displayed random peptide library, Gene 169:133-4(1996)(1996); Lowman, H.B., Bacteriophage display and discovery of peptide leads for drug development, Annu Rev Biophys Biomol Struct. 26:401-24(1997); Rodi DJ et al., Phage-display technology-finding a needle in a vast molecular haystack, Curr Opin Biotechnol. 10(1):87-93(1999))、コロニースクリーニング(Pini, A. et al., Comb. Chem. High Throughput Screen. 5:503-510(2002)に概説されている)、リボソームディスプレイ(Amstutz, P. et al., Curr. Opin. Biotechnol. 12:400-405(2001)に概説されている)、またはWilson, D.S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:3750-3755(2001)に報告されているmRNAディスプレイ、またはPCT公開番号W099/16873、WO00/75308、WO03/029471、WO03/029462、WO03/029463、WO2005/019254、WO2005/019255、WO2005/019256、もしくはWO2006/56464に具体的に記載されている方法など、周知の技法を使用することができる。
【0095】
本開示によれば、上記の方法の別の一態様は、
例えば所与の標的/リガンドとして、少なくとも1つのGPC3フラグメントを用意する工程、
該リガンドと該標的/リガンドに対する結合親和性を有するムテインとの間で複合体の形成が可能になるように、前記複数のムテインを該標的/リガンドと接触させる工程、および
結合親和性を有しないか実質的な結合親和性を有しないムテインを除去する工程、
を含む。
【0096】
本開示の方法の一態様において、結合親和性による選択は、競合条件下で実行される。本明細書にいう競合条件とは、ムテインの選択が、ムテインとGPC3のフラグメントとを、標的GPC3に対するムテインの結合と競合する追加リガンドの存在下で接触させる少なくとも1つの工程を含むことを意味する。あるいは、追加リガンドは、標的に対するムテインの結合部位とは異なるエピトープとの複合体を形成することにより、アロステリック効果によって、ムテインの結合と競合する。したがって、本開示のムテインの作製では、GPC3の任意のフラグメント、前駆体または成熟型を使用することができる。
【0097】
本開示の方法のさらなる一態様では、所与のリガンドの結合に関して少なくとも1つのムテインを選択するために、突然変異誘発によってもたらされた前記複数の本開示のムテインをコードする核酸を、3'端において、M13ファミリーの線維状バクテリオファージのコートタンパク質pIIIをコードする遺伝子またはこのコートタンパク質のフラグメントをコードする遺伝子と機能的に融合させる。
【0098】
融合タンパク質は、融合タンパク質またはそのパーツの固定化、検出および/または精製を可能にするアフィニティータグなどの追加構成要素を含みうる。さらにまた、停止コドンを、リポカリンまたはそのムテインをコードする配列領域とファージキャプシド遺伝子またはそのフラグメントとの間に配置することもでき、この場合、その停止コドン、好ましくはアンバー停止コドンは、適切なサプレッサー株における翻訳中に、少なくとも一部はアミノ酸に翻訳される。
【0099】
本開示のムテインをコードする本発明の核酸分子は、2つのBstXI制限部位を使ってベクター中に挿入することができる。ライゲーション後に、結果として得られた核酸混合物で適切な宿主株、例えば大腸菌XL1-Blueを形質転換することで、多数の独立クローンを得る。所望であれば、ハイパーファージミドライブラリーを調製するために、それぞれのベクターを作製することができる。
【0100】
所与の標的に対する親和性を持つムテインが選択されたら、引き続いてさらに高い親和性の変異体、またはより高い熱安定性、改善された血清中安定性、熱力学的安定性、改善された溶解度、改善された単量体挙動、熱変性、化学変性、タンパク質分解、もしくは洗浄剤に対する改善された耐性などといった、改善された特性を持つ変異体を選択することができるように、そのようなムテインを、さらに別の突然変異誘発に付すことも可能である。このさらなる突然変異誘発は、より高い親和性を目指す場合にはインビトロ「親和性成熟」と見なすことができ、合理的設計またはランダム突然変異に基づく部位特異的突然変異によって達成することができる。より高い親和性または改善された特性を得るためのもう一つの考えうるアプローチは、リポカリンムテインの配列位置のうちの選択された範囲で点突然変異をもたらすエラープローンPCRの使用である。エラープローンPCRは、Zaccolo et al., J. Mol. Biol. 255:589-603(1996)に記載されているものなど、任意の公知のプロトコールに従って実行することができる。そのような目的に適したランダム突然変異誘発の他の方法には、Murakami et al., Nat. Biotechnol. 20:76-81(2002)に記載のランダム挿入/欠失(RID)突然変異誘発またはBittker et al., Nat. Biotechnol. 20:1024-1029(2002)に記載の非相同ランダム組換え(NRR)がある。所望であれば、ジゴキシゲニンに対して高い親和性を有するビリン結合タンパク質のムテインが得られたPCT公開番号WO00/75308またはSchlehuber et al., J. Mol. Biol. 297:1105-1120(2000)に記載の手法に従って、親和性成熟を実行することもできる。親和性を改善するためのさらにもう一つのアプローチは、ポジショナル飽和突然変異誘発を実行することである。このアプローチでは、アミノ酸の交換/突然変異が、4つのループセグメントのいずれかにおける単一の位置だけに導入される「小さな」核酸ライブラリーを作出することができる。次に、パニングをさらに行うことなく、これらのライブラリーをそのまま選択工程(親和性スクリーニング)に付す。このアプローチは、所望の標的の結合の改善に寄与する残基の同定を可能にし、結合にとって重要な「ホットスポット」の同定を可能にする。
【0101】
一態様において、ムテインを修飾するための上記の方法は、ヒトリポカリン2の野生型配列の配列位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146または158に対応する配列位置のいずれかのうちの少なくとも1つにCys残基を導入する工程、およびhNGALの野生型配列の配列位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146または158に対応する配列位置のいずれかのうちの少なくとも1つに導入されたCys残基のチオール基を介して、該ムテインの血清中半減期を修飾することができる部分をカップリングする工程を、さらに含む。該ムテインの血清中半減期を修飾することができる部分は、ポリアルキレングリコール分子およびヒドロキシエチルデンプンからなる群より選択されうる。
【0102】
本開示のタンパク質が本開示のヒトリポカリン2ムテインである場合は、Cys76とCys175との間の天然ジスルフィド結合を除去しうる。したがって、そのようなムテイン(または分子内ジスルフィド結合を含まない他の任意のヒトリポカリン2ムテイン)は、還元的な酸化還元環境を有する細胞コンパートメントにおいて、例えばグラム陰性菌の細胞質において、生産することができる。
【0103】
本開示のリポカリンムテインが分子内ジスルフィド結合を含む場合、適当なシグナル配列を使って、酸化性の酸化還元環境を有する細胞コンパートメントに新生ポリペプチドを向かわせることが好ましいであろう。そのような酸化性環境は、大腸菌などのグラム陰性菌のペリプラズムによって、またはグラム陽性菌の細胞外環境において、または真核細胞の小胞体の内腔において提供されうるものであり、通常は構造的ジスルフィド結合の形成に有利である。
【0104】
しかし、宿主細胞の、好ましくは大腸菌の、サイトゾルにおいて本開示のムテインを生産することも可能である。その場合は、ポリペプチドを可溶性の折りたたまれた状態で直接的に得るか、封入体の形態で回収した後、インビトロで復元させることができる。さらなる選択肢は、酸化性の細胞内環境を有し、それゆえに、サイトゾルにおけるジスルフィド結合の形成を可能としうる、特別な宿主株の使用である(Venturi et al.(2002)J. Mol. Biol. 315, 1-8)。
【0105】
しかし、本開示のムテインは、必ずしも、遺伝子工学だけを使って作製または生産されるとは限らない。むしろ、リポカリンムテインは、メリフィールド固相ポリペプチド合成などの化学合成によって得るか、インビトロでの転写および翻訳によって得ることもできる。例えば、分子モデリングを使って有望な突然変異を同定した後、求めている(設計した)ポリペプチドをインビトロで合成し、所与の標的に対する結合活性を調べることが可能である。タンパク質の固相および/または液相合成法は当技術分野において周知である(例えば、Lloyd-Williams et al. Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins, CRC Press, Boca Raton, Fields, GB, (1997); Colowick Solid-Phase Peptide Synthesis. Academic Press, San Diego(1997); Bruckdorfer et al., Curr. Pharm. Biotechnol. 5:29-43 (2004)に概論)。
【0106】
別の一態様では、当業者に公知の確立された方法を使用するインビトロ転写/翻訳によって、本開示のムテインを生産しうる。
【0107】
本開示は、少なくとも1つの、本願特許請求の範囲において言及する本発明のムテインまたはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートと、任意で薬学的に許容される賦形剤とを含む、薬学的組成物にも関係する。
【0108】
本開示によるリポカリンムテインは、タンパク質薬物にとって治療的に有効な任意の腸管外経路または非腸管外(例えば経腸)経路によって投与することができる。腸管外適用法には、例えば、注射液剤、注入液剤、またはチンキ剤などの形態での皮内、皮下、筋肉内または静脈内注射および注入技法、ならびに例えばエアロゾル混合物、スプレーまたは散剤の形態でのエアロゾル導入(installation)およびエアロゾル吸入が含まれる。非腸管外送達様式は、例えば、丸剤、錠剤、カプセル剤、溶液剤または懸濁剤などの形態での経口送達、または坐剤などの形態での直腸送達である。本開示のムテインは、従来の薬学的に許容される非毒性の賦形剤または担体、添加剤および媒体を所望に応じて含有する製剤として、全身性または局所的に投与することができる。
【0109】
本開示の一態様では、医薬品が、哺乳動物を含む脊椎動物、特にヒトに、腸管外投与される。対応する投与方法には、例えば、注射液剤、注入液剤、またはチンキ剤などの形態での皮内、皮下、筋肉内または静脈内注射および注入技法、ならびにエアロゾル混合物、スプレーまたは散剤などの形態でのエアロゾル導入およびエアロゾル吸入があるが、それらに限定されるわけではない。比較的短い血清中半減期を持つ化合物の場合には、静脈内および皮下の注入および/または注射の組合せが最も好都合かもしれない。薬学的組成物は、水性溶液、水中油型乳剤または油中水型乳剤でありうる。
【0110】
これに関連して、本明細書に記載のムテインの経皮送達には、Meidan and Michniak, Am. J. Ther. 11(4):312-316(2004)に記載されているような経皮送達技術、例えばイオントフォレシス、ソノフォレーシスまたはマイクロニードル強化送達(microneedle-enhanced delivery)も使用できることに留意されたい。非腸管外送達様式は、例えば、丸剤、錠剤、カプセル剤、溶液剤または懸濁剤などの形態での経口投与、または坐剤などの形態での直腸投与である。本開示のムテインは、さまざまな従来の薬学的に許容される非毒性賦形剤または担体、添加剤、および媒体を含有する製剤に入れて、全身性または局所的に投与することができる。
【0111】
適用されるムテインの投薬量は、所望の予防的効果または治療的応答を達成するために、幅広く変動しうる。例えば、選ばれたリガンドに対する化合物の親和性およびムテインとリガンドとの間の複合体のインビボでの半減期に依存するであろう。さらに、最適な投薬量は、ムテインまたはその融合タンパク質もしくはそのコンジュゲートの体内分布、投与様式、処置される疾患/障害の重症度、ならびに患者の医学的状態に依存するであろう。例えば、外用適用のために軟膏として使用する場合、高濃度の本開示のタンパク質を使用することができる。ただし、所望であれば、タンパク質を徐放製剤、例えばリポソーム分散系またはPolyActive(商標)もしくはOctoDEX(商標)のようなヒドロゲル系ポリマーマイクロスフェアなどとして与えてもよい(Bos et al., Business Briefing: Pharmatech 1-6(2003)参照)。
【0112】
したがって、本開示のムテインは、薬学的に許容される成分ならびに確立された調製方法を使って組成物に製剤化することができる(例えばGennaro and Gennaro, Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Ed., Lippincott Williams & Wilkins, ペンシルバニア州フィラデルフィア(2000)を参照されたい)。薬学的組成物の調製には薬学的に不活性な無機または有機賦形剤を使用することができる。丸剤、散剤、ゼラチンカプセル剤、または坐剤などを調製するには、例えばラクトース、タルク、ステアリン酸およびその塩、脂肪、ロウ、固形または液状ポリオール、天然油および硬化油を使用することができる。溶液剤、懸濁剤、乳剤、エアロゾル混合物、または使用前に溶液剤もしくはエアロゾル混合物に復元するための散剤に適した賦形剤としては、水、アルコール、グリセロール、ポリオール、およびそれらの適切な混合物、ならびに植物油が挙げられる。
【0113】
薬学的組成物は、例えば充填剤、結合剤、湿潤剤、流動促進剤、安定剤、保存剤、乳化剤などの添加剤、さらには溶剤もしくは可溶化剤、またはデポー効果を得るための作用物質も含有しうる。後者は、融合タンパク質がリポソームまたはマイクロカプセルなどの遅放性もしくは徐放性または標的送達システムに組み込まれうることをいう。
【0114】
製剤は、細菌保持フィルタによる濾過を含む数多くの手段によって、または使用直前に滅菌水または他の滅菌媒体に溶解または分散させることが可能な滅菌固形組成物の形態で滅菌剤を組み込むことによって、滅菌することができる。
【0115】
本開示のムテインまたはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートは、数多くの応用において使用することができる。一般に、そのようなムテインは、抗体が使用されるあらゆる応用(Fc部分のグリコシル化に特に依拠するものを除く)において、使用することができる。
【0116】
本明細書に記載のムテインは、ヒト患者を含む生物に、そのまま投与するか、薬学的に活性な成分または適切な担体もしくは賦形剤を含みうる、またはそれらと混合されていてもよい、薬学的組成物として投与することができる。それぞれのリポカリンムテイン組成物を製剤化し投与するための技法は、当技術分野において十分に確立されている低分子量化合物のそれと類似しているか、同一である。例示的経路には、経口送達、経皮送達、および腸管外送達などがあるが、それらに限定されるわけではない。リポカリンムテインまたはそれぞれの組成物は、カプセル剤またはチューブを充填するために使用してもよいし、ペレットとして圧縮された形態で提供してもよい。リポカリンムテインまたはそれぞれの組成物は、例えばそれぞれのリポカリンムテインの懸濁剤として、注射可能または噴霧可能な形態で使用することもできる。
【0117】
本開示のリポカリンムテインを含む組成物は、例えば皮膚または創傷に適用しうる。さらなる適切な投与経路として、例えばデポー、経口、直腸、経粘膜、または腸投与;筋肉内、皮下、静脈内、髄内注射、ならびに髄腔内、直接室内(direct intraventricular)、腹腔内、鼻腔内、または眼内注射を含む腸管外送達を挙げることができる。いくつかの態様では、リポカリンムテインまたはそれぞれの組成物を、全身性にではなく局所的に、例えば注射によって投与してもよい。
【0118】
本開示のリポカリンムテインを含む薬学的組成物は、自体公知の方法で、例えば従来の混合、溶解、造粒、糖衣形成(dragee-making)、研和(levigating)、乳化、カプセル化、捕捉(entrapping)または凍結乾燥プロセスなどによって製造しうる。こうして、本開示に従って使用するための薬学的組成物は、ヒドロゲルおよび/またはペプチド/ペプトイドを薬学的に使用することができる調製物に加工することを容易にする賦形剤および補助剤を含む1つまたは複数の生理学的に許容される担体を使って、従来の方法で製剤化しうる。適正な製剤は選ばれた投与経路に依存する。
【0119】
注射の場合は、リポカリンムテインまたはそれぞれの組成物を、水性溶液に、例えばハンクス液、リンゲル液、または生理食塩緩衝液などの生理的に適合する緩衝液中に、製剤化することができる。経粘膜投与の場合は、透過させるべき障壁にとって適当な浸透剤が製剤中に使用される。そのような浸透剤は当技術分野では広く公知である。
【0120】
経口投与の場合は、リポカリンムテインまたはそれぞれの組成物を当技術分野において周知の薬学的に許容される担体と混和することによって、それらを容易に製剤化することができる。そのような担体は、リポカリンムテインまたはそれぞれの組成物、ならびに薬学的に活性な化合物が存在する場合はそれを、処置される患者が経口摂取するための錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤などとして製剤化することを可能にする。経口使用のための薬学的調製物は、固形賦形剤を加え、その結果生じた混合物を任意で摩砕し、所望により適切な補助剤を添加してから、その顆粒混合物を錠剤または糖衣剤の芯が得られるように加工することによって、得ることができる。適切な賦形剤は、特に、充填剤、例えばラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールなどの糖類;セルロース調製物、例えばトウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)である。所望により、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤を加えてもよい。
【0121】
糖衣剤の芯には適切なコーティングが施される。この目的には、濃厚な糖溶液を使用することができ、その溶液は、任意で、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポールゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、ならびに適切な有機溶媒または溶媒混合物を含有しうる。識別のために、または活性化合物用量のさまざまな組合せを特徴づけるために、染料または顔料を、錠剤または糖衣剤のコーティングに添加しうる。
【0122】
経口的に使用することができる薬学的調製物には、ゼラチン製の押込み式(push-fit)カプセル剤、ならびにゼラチンおよび可塑剤(例えばグリセロールまたはソルビトール)で作られた密封軟カプセル剤が含まれる。押込み式カプセル剤は、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/またはタルクもしくはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、そして任意で安定剤と混合された活性成分を含有することができる。軟カプセル剤では、ペプチド/ペプトイドが、適切な液体、例えば脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどに懸濁されうる。加えて、安定剤を添加しうる。経口投与用の製剤はいずれも、そのような投与に適した薬量を含むべきである。口腔粘膜投与の場合、本組成物は通常の方法で製剤化された錠剤または口中錠の形態をとりうる。
【0123】
本開示のリポカリンムテインは、注射による、例えば筋肉内注射またはボーラス注射による、または持続注入による、腸管外投与用に製剤化しうる。注射用の製剤は、単位剤形で、例えばアンプルに入れて、または多用量型容器に入れて、保存剤を添加して提供することができる。それぞれの組成物は、油性または水性媒体中の懸濁液、溶液または乳液などの形態をとることができ、懸濁化剤、安定剤および/または分散剤などの製剤用薬剤(formulatory agent)を含有しうる。
【0124】
本開示のリポカリンムテインは、予め選択された部位に化合物をターゲティングするためにも使用しうる。そのような態様の一つにおいて、本開示のリポカリンムテインは、
a)リポカリンムテインを化合物とコンジュゲートする工程、および
b)リポカリンムテイン/化合物複合体を予め選択された部位に送達する工程
を含む、ある生物または組織中の予め選択された部位への薬学的活性化合物のターゲティングに使用される。
【0125】
そのような目的のためには、複合体形成が可能になるように、ムテインを関心対象の化合物と接触させる。次に、ムテインと関心対象の化合物とを含む複合体を、予め選択された部位に送達する。これは、例えば、ムテインを、選択された標的に対する結合親和性を持つ抗体、抗体フラグメントまたはリポカリンムテインもしくはリポカリンムテインフラグメントなどのターゲティング部分にカップリングすることによって達成しうる。
【0126】
この使用は、生物中の前もって選択された部位、例えば薬物による処置が考えられる感染した身体部位、組織または器官に、薬物を(選択的に)送達するのに特に適しているが、それらに限定されるわけではない。ムテインと関心対象の化合物との複合体の形成だけでなく、ムテインを所与の化合物と反応させて、ムテインと化合物とのコンジュゲートを得ることもできる。上記の複合体と同様に、そのようなコンジュゲートは、前もって選択された標的部位に化合物を送達するのに適しうる。そのようなムテインと化合物とのコンジュゲートは、ムテインと化合物とを互いに共有結合で連結するリンカーも含みうる。任意で、そのようなリンカーは、血流中では安定であるが、細胞環境では切断されうる。
【0127】
したがって、本明細書において開示するムテインおよびそれらの誘導体は、抗体またはそのフラグメントと類似する多くの分野で使用することができる。所与のムテインの標的またはその標的のコンジュゲートもしくは融合タンパク質を、固定化し、または分離することを可能にする支持体への結合のためのそれらの使用に加えて、ムテインは、酵素、抗体、放射性物質、または生化学的活性もしくは明確な結合特徴を有する他の任意の基による標識のためにも使用することができる。そうすることにより、各々の標的またはそのコンジュゲートもしくは融合タンパク質を検出し、またはそれらと接触させることができる。例えば本開示のムテインは、確立された分析方法(例えばELISAまたはウェスタンブロット)によって、または顕微鏡法もしくはイムノセンソリックス(immunosensorics)によって、化学構造を検出するためにも役立ちうる。ここでは、検出シグナルを、適切なムテインコンジュゲートまたは融合タンパク質の使用によって直接的に生成させるか、抗体を介して結合したムテインの免疫化学的検出によって間接的に生成させることができる。
【0128】
本発明のムテインには医学においても数多くの可能な応用が存在する。診断薬および薬物送達におけるそれらの使用に加えて、例えば組織特異的または腫瘍特異的な細胞表面分子に結合する本開示の変異型ポリペプチドを作製することができる。そのようなムテインは、例えば、コンジュゲートされた形態で、または「腫瘍イメージング」用の融合タンパク質として、またはそのままで、がん治療に使用しうる。
【0129】
さらなる一局面において、本開示は、薬学的組成物を製造するための本開示によるムテインの使用を包含する。こうして得られる薬学的組成物は、貧血の処置に適しうる。薬学的組成物は単独治療として使用することも、併用治療として使用することもできる。したがって、本開示は、GPC3レベルの変化、例えば増加または低減と関連する疾患または障害、例えば貧血を処置するための、上に定義したムテインにも関係する。
【0130】
さらにもう一つの局面において、本開示は、診断における、本開示によるムテインの使用に関する。本開示によるムテインの使用は、典型的には、GPC3レベルの変化に関連する疾患または障害を診断するための使用、ならびにそれぞれの診断方法のための使用である。
【0131】
したがって、本開示は、GPC3レベルの変化、例えば増加または低減と関連する疾患または障害を診断するための、上に定義したムテインにも関係する。いくつかの態様において、疾患はがん、例えば限定するわけではないが、肝がんまたは黒色腫である。診断されるがんは特には限定されず、具体例としては、肝がん、膵がん、胆管癌、肺がん、大腸がん、結腸直腸悪性疾患、神経線維肉腫、神経芽細胞腫、乳房がん(mammary cancer)、乳がん(breast cancer)、卵巣がん、前立腺がん、白血病およびリンパ腫、ウィルムス腫瘍、好ましくは肝がんまたは(原発性/早期)肝細胞癌を挙げることができる(Sinnett D., GPC3(glypican 3), Atlas Genet Cytogenet Oncol Haematol. 2002;6(3):206-208(2002)参照)。
【0132】
また本開示は、腫瘍またはがんを処置する方法であって、その必要がある対象に、本開示のムテインを含有する本明細書に記載の薬学的組成物を投与する工程を含む方法に関する。同様に本開示は、腫瘍またはがんの処置(方法)において使用するための、本開示のムテインに関する。同様に本開示は、腫瘍処置用またはがん処置用の薬学的組成物を調製するための本開示のムテインの使用に関する。処置されるがんまたは腫瘍は特には限定されないが、具体例としては、肝がん、膵がん、胆管癌、肺がん、大腸がん、結腸直腸悪性疾患、神経線維肉腫、神経芽細胞腫、乳房がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、白血病およびリンパ腫、ウィルムス腫瘍、好ましくは肝がんまたは(原発性/早期)肝細胞癌を挙げることができる(Sinnett D., GPC3(glypican 3), Atlas Genet Cytogenet Oncol Haematol. 2002;6(3):206-208(2002)参照)。
【0133】
さらにもう一つの局面において、本開示は、本開示によるムテインを含む診断キットまたは分析キットを特徴とする。
【0134】
そのような処置を必要とする対象は、哺乳動物、例えばヒト、イヌ、マウス、ラット、ブタ、サル、例えばカニクイザルでありうるが、これらは具体例の一部にすぎない。
【0135】
さらにもう一つの局面において、本開示は、対象におけるインビボイメージングの方法であって、本開示のムテインまたは本開示のムテインを含む薬学的組成物を対象に投与する工程を含む方法を特徴とする。対象は上に定義したものでありうる。
【0136】
本開示のムテインは、有機分子、酵素標識、放射性標識、有色標識、蛍光標識、発色原標識、発光標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、細胞増殖抑制作用物質、毒素、金属錯体、金属、およびコロイド金からなる群より選択される化合物にコンジュゲートしうる。
【0137】
本開示のムテインは、そのN末および/またはそのC末で、タンパク質、またはタンパク質ドメインもしくはペプチドである融合パートナーに融合しうる。
【0138】
本開示のムテインは、ムテインの血清中半減期を延ばす化合物にコンジュゲートしうる。いくつかの態様において、血清中半減期を延ばしうる化合物は、ポリアルキレングリコール分子、ヒドロエチルデンプン、免疫グロブリンのFc部分、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミン結合ペプチド、およびアルブミン結合タンパク質からなる群より選択される。いくつかのさらなる態様において、ポリアルキレングリコールはポリエチレン(PEG)またはその活性化誘導体である。
【0139】
他のいくつかの態様において、ムテインの融合パートナーは、ムテインの血清中半減期を延ばすタンパク質ドメインである。
【0140】
いくつかのさらなる態様において、タンパク質ドメインは免疫グロブリンのFc部分、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミン結合ペプチド、またはアルブミン結合タンパク質である。
【0141】
本開示のムテインは、治療または診断(方法)において使用するため、例えば腫瘍、好ましくは肝腫瘍の処置(方法)または診断(方法)において使用するため、または腫瘍成長の阻害(方法)において使用するため、または肝腫瘍の処置または診断(方法)において使用するためのものでありうる。
【0142】
本開示はさらに、本開示のムテインをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を提供する。いくつかの態様において、核酸分子は、当該核酸分子の発現を可能にする制御配列に機能的に連結される。いくつかのさらなる態様において、核酸分子は、ベクター中またはファージミドベクター中に含まれる。
【0143】
本開示は、本開示の核酸分子を含有する宿主細胞も開示する。
【0144】
さらにまた、本開示は、本開示のムテインを生産する方法であって、ムテインをコードする核酸から出発して、遺伝子工学的方法を使ってムテイン、ムテインのフラグメントまたはムテインともう一つのポリペプチドとの融合タンパク質が生産される方法を、当業者に提供する。いくつかのさらなる態様において、ムテインは細菌宿主生物または真核宿主生物中で生産され、この宿主生物またはその培養物から単離される。
【0145】
本開示では、本開示のムテインと薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物が考えられる。
【0146】
本開示は、
(a)ムテインを、GPC3を含有すると疑われる試験試料と接触させることによって、ムテインとGPC3との間に複合体を形成させる工程、および
(b)ムテインとGPC3との間の複合体を適切なシグナルによって検出する工程
を含むGPC3の結合/検出のための、本開示のムテインの使用を例示する。
【0147】
本開示は、腫瘍を処置する方法であって、その必要がある対象に本開示のムテインまたはその薬学的組成物を投与する工程を含む方法を、当業者に示す。いくつかのさらなる態様において、腫瘍は、肝がん、(原発性/早期)肝細胞癌、膵がん、胆管癌、肺がん、大腸がん、結腸直腸悪性疾患、神経線維肉腫、神経芽細胞腫、乳房がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、白血病およびリンパ腫、またはウィルムス腫瘍である。
【0148】
本開示は、生物学的試料中のGPC3の存在を検出する方法であって、ムテインとGPC3との複合体の形成が可能な条件下で、試料を本開示のムテインと接触させる工程を含む方法を与える。いくつかの態様において、本方法は、ムテインとGPC3との複合体を検出する工程をさらに含む。いくつかのさらなる態様において、生物学的試料はヒトから単離される。いくつかのさらなる態様において、試料は体液を含む。
【0149】
本開示は、対象中のGPC3を結合する方法であって、有効量の1つまたは複数の本開示のムテインまたはそのようなムテインを含む1つまたは複数の組成物を、該対象に投与する工程を含む方法を知らしめる。
【0150】
本明細書において使用される単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上そうでないことが明らかである場合を除き、複数の指示対象を包含することに留意しなければならない。したがって、例えば「試薬(a reagent)」への言及は、1つまたは複数の当該異なる試薬を包含し、「本方法(the method)」への言及は、本明細書に記載の方法を変更することができる、または本明細書に記載の方法に代えて使用することができる、当業者に公知の等価な工程および方法への言及を包含する。
【0151】
別段の指示がある場合を除き、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、その一連の要素の中のあらゆる要素を指すと解釈されるものとする。当業者は、本明細書に記載する本開示の具体的態様の等価物を数多く認識しているか、せいぜい日常的な実験を使って確認することができるであろう。そのような等価物は本開示によって包含されるものとする。
【0152】
この明細書およびこれに続く特許請求の範囲の全体を通して、文脈上別段の必要がある場合を除き、「を含む(comprise)」という単語、およびその変化形、例えば「を含む(comprises)」および「を含む(comprising)」は、言明した整数もしくは工程または整数もしくは工程の群の包含を含意するが、他の整数もしくは工程または整数もしくは工程の群の除外を含意するわけではないと理解される。本明細書において使用する用語「を含む(comprising)」は、用語「を含有する(containing)」で置き換えることができ、場合により本明細書では、用語「を有する(having)」で置き換えることができる。
【0153】
本明細書では、「からなる(consisting of)」により、構成要素に明示されていない要素、工程、または成分はいずれも排除される。本明細書では、「から本質的になる(consisting essentially of)」によって、請求項の基本的かつ新規な特徴に実質的な影響を及ぼさない材料または工程が排除されることはない。本明細書では、どの場合も、「を含む(comprising)」、「から本質的になる(consisting essentially of)」および「からなる(consisting of)」という用語はいずれも、他の2つの用語のいずれかで置き換えうる。
【0154】
本明細書の本文ではいくつかの文書に言及する。本明細書において言及される文書のそれぞれは(特許、特許出願、科学刊行物、製造者の仕様書、説明書などをすべて含めて)、前述のものも後述するものも、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。参照によって組み入れられる資料が本明細書と矛盾するか一致しない場合には、本明細書がそのような資料のいずれにも優先される。本発明が先行発明を理由としてそれらの開示に先行する資格がないことの自白であると解釈すべき記載は、本明細書にはない。
【0155】
別段の指示がある場合を除き、組換え遺伝子技術の確立された方法を、例えば前掲のSambrook et al.(2001)に記載されているように使用した。
【0156】
本開示のさらなる目的、利点および特徴は、限定を意図しない以下の実施例および添付したその図面を検討すれば、当業者には明白になるであろう。したがって、本開示は、例示的態様および随意の特徴によって具体的に開示されるが、当業者は本明細書において具体的に表現された開示の変更態様および変形態様に頼ることができ、そしてそのような変更態様および変形態様は、本開示の範囲内にあると見なされることを、理解すべきである。
【実施例】
【0157】
IV.実施例
実施例1:成熟ライブラリーの作製およびGPC3に特異的に結合する最適化ムテインの選択
GPC3特異的ムテインを最適化するために、ムテインSEQ ID NO:3および4に基づき、選択された位置のバイアス付きランダム化(biased randomization)またはエラープローンポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく方法のどちらかを使って、ライブラリーを作製した。バイアス付きの設計は、選択された位置のそれぞれについて、コードされるアミノ酸が、50~70%の確率で、それぞれの母クローン中に見いだされるアミノ酸に対応すると同時に、50~30%の確率で異なるアミノ酸となりうるように行った。標的となる位置の数をN、バイアスをBとして、1クローンあたりの交換の最確数はN×(1-B)である。真核細胞における発現を容易にするために、突然変異N65DによってhNGAL由来の天然N-グリコシル化部位N65を除去し、他の潜在的Nグリコシル化部位(Asn-X-Ser/Thr)については、これらのライブラリー位置にバイアスを設定することにより、出現する可能性を低減した。選択されたライブラリーにおけるSS架橋の除去は、バリンを位置C76における主要アミノ酸とする50%バイアスを設定すること、およびC175Aの突然変異によって実現した。
【0158】
改善された熱安定性および結合親和性を持つ最適化ムテインを選択するためにファージディスプレイを使用した。ファージミド選択は、初回ムテイン選択と比較して強いストリンジェンシーで行い、とりわけ、高温でのプレインキュベーション工程と標的濃度の制限を伴った。
【0159】
実施例2:ハイスループットELISAスクリーニングを使った、GPC3への結合が改善され熱安定性が改善されたムテインの同定
個々のクローンを使って2×YT/Amp培地に接種し、定常期まで終夜(14~18時間)培養した。次に、定常期培養物から50μlの2×YT/Ampに接種し、37℃で3時間インキュベートした後、OD595が0.6~0.8に達するまで22℃に移行した。1.2μg/mlアンヒドロテトラサイクリンを補足した2×YT/Ampを10μL添加することによって、ムテインの生産を誘発した。培養物を翌日まで22℃でインキュベートした。PBS/T中の5%(w/v)BSA 40μLを添加し、25℃で1時間インキュベートした時点で、培養物はスクリーニングアッセイに使用する準備が整った。20μlの培養物をスクリーニングELISAプレートにそのまま適用すると共に、残りの体積は65℃で1時間インキュベートした。
【0160】
GPC3への単離されたムテインの結合は、ニュートラビジンとストレプトアビジンの1:1混合物(PBS中、5μg/ml)をマイクロタイタープレートに4℃で終夜コーティングすることによって試験した。PBST中の2%BSAによるプレートのブロッキング後に、ビオチン化GPC3を、PBS/T中、1μg/mlの濃度で、その被覆マイクロタイタープレート上に捕捉した。次に、BSAでブロッキングした培養物20μlを(事前の熱インキュベーションありまたはなしで)マイクロタイタープレートに加え、25℃で1時間インキュベートした。結合したムテインを、セイヨウワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートされた抗Streptag抗体で検出した(1時間のインキュベーション; 2-1509-001; IBA)。定量のために、20μlのQuantaBlu蛍光原性ペルオキシダーゼ基質を加え、蛍光を、励起波長330nmおよび放射波長420nmで決定した。
【0161】
加えて、抗Streptag抗体をコーティングしたマイクロタイタープレート上にStreptagを介してムテインを捕捉し、異なる濃度のビオチン化標的を加え、Extravidin-HRP(E2886; Sigma)によって検出する、逆スクリーニングフォーマットも適用した。
【0162】
次に、スクリーニング結果に基づいてクローンを配列決定し、さらなる特徴づけのためにムテインを選択した。最適化リポカリンムテインの選択後に、さらに安定性を最適化するために、His28→Gln突然変異を導入した。
【0163】
実施例3:ムテインの発現
発現後にStreptactinアフィニティークロマトグラフィーおよび分取用サイズ排除クロマトグラフィーを使ってムテインを精製するために、SAリンカーとStrep-tag(登録商標)II(WSHPQFEK(SEQ ID NO:18))とを含むC末配列SAWSHPQFEK(SEQ ID NO:17)を持つユニークムテインを、2YT-Amp培地中、大腸菌で発現させた。
【0164】
実施例4:表面プラズモン共鳴によるヒトおよびマウスGPC3に対する結合親和性の測定
表面プラズモン共鳴(SPR)を使って、本明細書において開示する最適化リポカリンムテインの結合速度および親和性を測定した。
【0165】
ヒトGPC3およびマウスGPC3への最適化Lcn2ムテインの結合のSPR分析は、Biacore T200計器(GE Healthcare)において、HBS-EP+(1×; BR-1006-69; GE Healthcare)をランニング緩衝液として使用して、25℃で行った。ビオチンCAPtureキット(GE Healthcare)を使ってチップ表面にビオチン化GPC3を固定化した。標準的なNHSケミストリーを使ってヒトGPC3(2119-GP; R&D systems)およびマウスGPC3(6938-GP; R&D systems)をビオチン化した。無希釈のビオチンCAPture試薬(Biotin CAPture Reagent)(ss-DNAオリゴとコンジュゲートされたストレプトアビジン)を、相補的ss-DNAオリゴが前もって固定化されているセンサーチップCAP上に捕捉した。その後、1μg/mlのビオチン化ヒトまたはマウスGPC3を、5μg/mLの流速で、300秒適用した。
【0166】
Lcn2ムテインを、濃度10nM、40nMおよび160nM、流速30μL/分で適用した。希釈液を注入し、会合時間を180秒、解離時間を600秒とすることで、kaおよびkdの情報を得た。チップ表面の再生は6Mグアニジニウム-HCl+0.25M NaOHを10μL/分の流速で注入(120秒)することによって達成した。再生溶液の注入後に、H2Oによる追加洗浄工程と、120秒の安定化期間を設けた。
【0167】
データは、結合応答から、対照チャネル(ビオチンCAPture試薬だけを負荷したもの)で測定される対応シグナルを差し引き、緩衝液注入を差し引くことによって、二重参照した。データ処理および速度論的当てはめにBiacore T200評価ソフトウェアV2.0を使用して、結合反応に関する会合速度定数kaおよび解離速度定数kdを決定した。データは1:1結合モデルに全般的にフィットした。
【0168】
ka、kdについて決定された値、および結果として得られる平衡解離定数(KD)を、SEQ ID NO:3および4、ならびにSEQ ID NO:5~16の最適化ムテインに関して、表1に要約する。最適化GPC3特異的リポカリンムテインはヒトGPC3にもマウスGPC3にもピコモル濃度域~低ナノモル濃度域の親和性で結合し、最適化後は親和性が最大30倍改善されている。
【0169】
(表1)表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定された、ヒトGPC3およびマウスGPC3に対する、最適化ムテインの親和性、会合速度定数kaおよび解離速度定数kd
【0170】
実施例5:ヒトGPC3、カニクイザルGPC3およびマウスGPC3がトランスフェクトされたSK-HEP-1細胞に対する、最適化リポカリンムテインの結合
フローサイトメトリーによる評価で検出可能なレベルの内在性GPC3を発現しないDSMZ細胞バンクからのSK-HEP-1細胞に、ヒトGPC3、カニクイザルGPC3またはマウスGPC3をコードする発現ベクターを安定にトランスフェクトした。空ベクター対照細胞も得て、並行して分析した。
【0171】
ヒトGPC3、カニクイザルGPC3およびマウスGPC3に対する、SEQ ID NO:5~16の最適化リポカリンムテインの結合を、SEQ ID NO:3および4との比較で、ECLフォーマットを使ってSK-HEP-1細胞で調べた(
図1)。この実験では、ヒトGPC3、カニクイザルGPC3またはマウスGPC3を過剰発現するSK-HEP-1細胞で被覆されたMSDプレート上で、リポカリンムテインの希釈系列をインキュベートした。
【0172】
インキュベーション工程はすべて室温で行い、各インキュベーション工程後に、Biotek EL405 select CW洗浄機を使って、プレートを80μLのPBS緩衝液で2回ずつ洗浄した。
【0173】
第1工程では、384ウェルプレートをポリ-D-リジンで5分間プレコーティングし、PBSで2回洗浄した。1ウェルあたり10,000個のSK-HEP-1細胞を播種し、37℃で終夜接着させた。洗浄後に、細胞被覆ウェルを60μlのPBS/カゼイン(PBS中の0.1%カゼイン)でブロッキングした。
【0174】
SEQ ID NO:3、4、5、7、8、9、10、12、13、14、15および16(出発濃度として1000nMを使用)を1:3の比でPBS/カゼイン中にピコモル濃度域まで連続希釈した。20μlの希釈系列を室温で1時間、SK-HEP-1被覆プレートに移しておいた。
【0175】
結合したGPC3特異的リポカリンムテインの検出および定量を可能にするために、残存する上清を捨て、PBS/カゼイン中に調製したウサギ抗スキャフォールド抗体(2μg/ml)とSulfotag標識抗ウサギ抗体(5μg/ml)との混合物20μlをウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。洗浄後に、35μlの界面活性剤非含有緩衝液を各ウェルに加え、MSDリーダーを使ってすべてのウェルのECL強度を読み取った。
【0176】
曲線の当てはめはGraphPad Prism 4ソフトウェアを使って行った。
【0177】
最適化GPC3特異的Lcn2ムテインの大半は、ヒト、マウスまたはカニクイザルのGPC3がトランスフェクトされたSK-HEP-1細胞に、SEQ ID NO:3および4と比較して改善されたEC50値で結合する。例示的結合曲線を
図1に示し、SK-HEP-1::ヒトGPC3、SK-HEP-1::マウスGPC3、およびSK-HEP-1::カニクイザルGPC3への結合に関するEC50値を、表2に要約する。
【0178】
(表2)MSDベースの細胞結合アッセイにおいて得られる、それぞれヒト、マウスまたはカニクイザルのGPC3がトランスフェクトされている固定化SK-HEP-1細胞への、SEQ ID NO:3および4と比較した、最適化リポカリンムテインの結合に関するEC50値。最適化ムテインの大部分がSEQ ID NO:3および4と比較して低いEC50値を呈する。これは、細胞上に発現したGPC3への結合が改善されていることを示す。すべてのムテインがマウスGPC3およびカニクイザルGPC3との交差反応性を示す。
【0179】
実施例6:蛍光に基づく熱変性アッセイによる熱安定性の測定
蛍光に基づく熱変性アッセイ(一般に示差走査蛍光測定の熱シフトアッセイと呼ばれる)を使用して、GPC3特異的Lcn2ムテインの熱安定性を、Mx3005P qPCRシステム(Agilent Technologies)を使って測定した。
【0180】
リポカリンムテイン溶液をリン酸緩衝食塩水(PBS; pH7.4; 10010; Life Technologies)に濃度10μMまで希釈し、PBS中に蛍光色素SYPRO Orange(DMSO中の5000倍濃縮物; S-6650; Life technologies)の15倍原液を調製した。qPCRプレート(FrameStar 96、スカートなし; カタログ番号4ti-0711; 4titude)中で、20μlのタンパク質希釈液を5μlのSYPRO Orange原液と混合し、プレートをキャップ(フラット光学透明キャップ(Flat Optically Clear Caps); カタログ番号4Ti-0751; 4titude)で封止した。Mx3005P qPCRシステムを使って、励起波長492nmおよび放射波長610nmで蛍光シグナルを記録しながら、プレートを25℃から100℃まで徐々に加熱した(45秒/段階)。
【0181】
SYPRO Orangeは疎水性表面に非特異的に結合し、水はSypro Orangeの蛍光を強く消光するので、蛍光の増加はタンパク質アンフォールディングを示す(Kranz J. and Schalk-Hihi, C., Protein thermal shifts to identify low molecular weight fragments, Methods Enzymol. 493:277-298(2011)参照)。
【0182】
生データ(温度に対する蛍光シグナル)にSavitzky-golay平滑化(5×savitzky golayフィルタ)を適用し、一次導関数を算出した。融解温度Tmを決定するために、一次導関数の最大(蛍光対温度曲線の変曲点に対応)を読み取り、対応する温度(=Tm)と一致させた。評価全体をMicrosoft Excelで行った。
【0183】
上述の熱シフトアッセイで決定されたリポカリンムテインの融解温度(Tm)を表3にまとめる。
【0184】
(表3)SYPRO Orange色素を用いる熱シフトアッセイによって決定された、GPC3に特異的な最適化リポカリンムテインの融解温度(Tm)。最適化リポカリンムテインでは、非最適化ムテインと比較して、融点温度の増加が最大14℃である。
【0185】
実施例7:選択された最適化GPC3特異的リポカリンムテインの、緩衝液および血漿における貯蔵安定性の評価
非最適化製剤(PBS pH7.4)ならびにヒト血漿およびマウス血漿における選択された例示的ムテイン(SEQ ID NO:7、9および10)の貯蔵安定性を評価するために、以下の安定性試験を行った。
【0186】
緩衝液における貯蔵安定性を調べるために、ムテインをPBS(リン酸緩衝食塩水pH7.4; 10010; Life Technologies)に濃度1mg/mlまで希釈し、そのアリコートの1つを42℃で1週間インキュベートすると共に、リファレンスアリコートを-20℃で凍結した。活性ムテインを定量的ELISA下で測定した。単量体型タンパク質を分析用サイズ排除クロマトグラフィーで測定した。
【0187】
血漿試料における安定性を評価するために、PBS中の50%ヒト血漿またはマウス血漿に濃度0.5mg/mlのムテイン希釈液を調製し、37℃で1週間インキュベートした(調製物のリファレンスアリコートは直ちに-20℃で凍結した)。活性ムテイン濃度をqELISAによって評価した。
【0188】
タンパク質活性をアッセイするために、以下のELISAを応用した。384ウェルポリスチレン製プレート(Greiner FLUOTRAC(商標)600; ブラック平底; 高結合性)を、PBS中の濃度5μg/mlのGPC3(2119-GP; R&D Systems)20μLにより、4℃で終夜コーティングした。洗浄後に、ウェルを100μlのブロッキング緩衝液(0.1%v/vTween-20を含有するPBS中の2%w/vBSA)でブロッキングした。プレートを洗浄し、20μlの適当に希釈したタンパク質標準、非ストレス負荷リファレンス試料(調製後-20℃で保存したもの)、またはストレス負荷試料をELISAプレートに移し、インキュベートした。プレートに結合したタンパク質を検出するために、ELISAプレートを洗浄し、残存上清を捨て、20μlのHRP標識抗hNGAL抗体を、ブロッキング緩衝液中、前もって決定された最適濃度で加え、インキュベートした。洗浄後に、20μlの蛍光原性HRP基質(QuantaBlu; Pierce)を各ウェルに加え、反応を5分間進行させた。蛍光マイクロプレートリーダー(Tecan)を使って、プレート上のすべてのウェルの蛍光強度を読み取った。
【0189】
別段の言明がある場合を除き、インキュベーション工程はすべて室温で1時間行い、各インキュベーション工程後は、Biotek ELx405 select CW洗浄機を使って、100μlのPBS-T緩衝液(PBS; 0.05% Tween 20)で5回洗浄した。
【0190】
上述のELISAのために、典型的には0.01~1000ng/mLの範囲にわたる11のムテイン希釈液を含む検量線を調製し、各試料について、検量線の直線範囲内にある3つの異なる独立した希釈液を調製した。希釈液には、任意で1%ヒト血漿またはマウス血漿が補足されたブロッキング緩衝液を使用した。
【0191】
検量線の当てはめは、4パラメータロジスティック(4PL)非線形回帰モデルを使って行い、その検量線を使って、被験試料活性タンパク質濃度を算出した。決定されたタンパク質濃度を、-20℃で保存した同じマトリックス中、同じ濃度の非ストレス負荷リファレンス試料と比較参照した。
【0192】
分析用サイズ排除クロマトグラフィーは、連続した2本のSuperdex 75 5/150 GLカラム(GE Healthcare)を持つAgilent HPLCシステムで、PBS(10010; Life Technologies)を溶離液として、0.3mL/分の流速で行った。
【0193】
PBS pH7.4ならびにヒト血漿およびマウス血漿における貯蔵安定性試験の結果を表4に要約する。
【0194】
(表4)qELISAにおける活性の回収率および分析用SECにおける単量体含量によって評価した、非最適化製剤(PBS; 1週間; 42℃)、ヒト血漿およびマウス血漿(1週間; 37℃)における貯蔵安定性。qELISAにおける安定=100±15%(非ストレス負荷リファレンス試料と比較したムテイン活性の回収率); aSECにおける安定=100±5%(非ストレス負荷リファレンス試料と比較した単量体ピーク面積の回収率)。リファレンスを含むすべての試料で100面積パーセントの単量体含量が検出された。
【0195】
本明細書に例示的に記載した態様は、本明細書において具体的に開示しない任意の1つまたは複数の要素、1つまたは複数の限定が存在しなくても、適切に実施しうる。したがって例えば「含む(comprising)」、「包含する(including)」、「含有する(containing)」などの用語は、拡大的、非限定的に解釈されるべきである。加えて、本明細書において使用する用語および表現は、説明のために使用されているのであって、限定のために使用されているのではなく、そのような用語および表現の使用には、示され記載された特徴またはその部分のいずれの等価物も排除しようという意図はなく、さまざまな変更態様が本願発明の範囲内で可能であると認識される。したがって、本態様を好ましい態様および随意の特徴によって具体的に開示したが、当業者はその変更態様および変形態様を採ることができ、そのような変更態様および変形態様は本発明の範囲内にあるとみなされると理解すべきである。本明細書において記載した特許、特許出願、教科書および査読付き刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。さらにまた、参照により本明細書に組み入れられた参考文献における用語の定義または用法が、本明細書に掲載した当該用語の定義と一致しないか相反する場合は、本明細書に掲載した当該用語の定義が適用され、参考文献における当該用語の定義は適用されない。一般的開示に含まれる狭い種概念および下位類概念群のそれぞれも、本発明の一部を形成する。これには、削除される事項が本明細書に具体的に陳述されているかどうかに関わらず、類概念から任意の内容を除去するただし書きまたは消極的限定の付いた本発明の一般的記述が包含される。加えて、特徴がマーカッシュ群で記載される場合、それによって本開示がそのマーカッシュ群の任意の個々の要素または任意の要素の部分群についても記載されることは、当業者にはわかるであろう。さらなる態様は、以下の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0196】
等価物:当業者は、本明細書に記載した本発明の具体的態様に対する多くの等価物を認識するか、せいぜい日常的な実験を使って確かめることができるであろう。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲によって包含されるものとする。この明細書において言及した刊行物、特許および特許出願はすべて、あたかも個々の刊行物、特許または特許出願が参照により本明細書に組み込まれることを具体的かつ個別に示したかのように、それと同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【配列表】