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▶ エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】経口薄フィルム
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/135 20060101AFI20230127BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230127BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230127BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230127BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20230127BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
A61K31/135
A61K47/32
A61K47/34
A61K9/70
A61P25/04
A61P25/24
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021182279
(22)【出願日】2021-11-09
(65)【公開番号】P2022076476
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】10 2020 129 394.1
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】10 2021 120 937.4
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー-ジステーメ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】マーリオ・フィッカー
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・リン
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン・ハムズ
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/014431(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/207067(WO,A1)
【文献】特表2020-530433(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0268646(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105343887(CN,A)
【文献】特表2009-518334(JP,A)
【文献】Techinical Information Kollicoat(R) Protect,2019年,pp.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのマトリックス層を含む経口薄フィルムであって、少なくとも1つのマトリックス層は、
マトリックス層の総重量に対して60wt.%の量でマトリックス層に提供される(S)-ケタミンHClである、少なくとも1種の医薬活性剤、
マトリックス層の総重量に対して10wt.%の量で200,000~210,000g/molの平均分子量を有する、少なくとも1種のポリビニルアルコール、および
ポリエチレングリコールの主鎖を有し、その上にグラフトされたポリビニルアルコール単位が存在し、マトリックス層の総重量に対して20.1wt.%の量で40,000~50,000g/molの範囲内の平均分子量を有する、少なくとも1種のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマ
含む、前記経口薄フィルム。
【請求項2】
少なくとも1種のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーは、ポリエチレングリコールの主鎖を有し、その上にグラフトされたポリビニルアルコール単位が存在し、ここで、ポリエチレングリコール対ポリビニルアルコールのモル比は1:3である、請求項1に記載の経口薄フィルム。
【請求項3】
着色料、香料、甘味料、可塑剤、矯味剤、乳化剤、風味相乗剤(enhancer)、pH調節剤、湿潤剤、防腐剤、および/または酸化防止剤を含む群から選択される少なくとも1種の補助物質をさらに含む、請求項1または2に記載の経口薄フィルム。
【請求項4】
面積密度は約50~300g/m2である、請求項1~のいずれか1項に記載の経口薄フィルム。
【請求項5】
少なくとも1種の医薬活性剤は25~150mg、好ましくは約50~150mgの総量の(S)-ケタミンHClである、請求項1~4のいずれか1項に記載の経口薄フィルム。
【請求項6】
少なくとも1種の医薬活性剤の少なくとも40%または少なくとも50%は、適用後最
初の1分以内に放出され、および/または少なくとも1種の医薬活性剤の少なくとも75%、少なくとも80%、または少なくとも85%は、適用後最初の2分以内に放出される、請求項1~のいずれか1項に記載の経口薄フィルム。
【請求項7】
突刺し強度は、少なくとも0.15N/mm2、好ましくは少なくとも0.18N/mm2、特に好ましくは少なくとも0.20N/mm2であり、面積密度は、150~250g/m2、好ましくは180~220g/m2である、請求項1~のいずれか1項に記載の経口薄フィルム。
【請求項8】
マトリックス層は、60wt.%の(S)-ケタミンHCl、205,000g/molの平均分子量を有する10wt.%のポリビニルアルコール、および20.1wt.%のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーを含み、ここで、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーは、ポリエチレングリコールの主鎖を有し、その上にグラフトされたポリビニルアルコール単位が存在し、ここで、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーは、45,000g/molの平均分子量を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の経口薄フィルム。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の経口薄フィルムを製造するための方法であって、以下の工程:
a)マトリックス層の総重量に対して60wt.%の量でマトリックス層に存在する量で提供される(S)-ケタミンHClを含む、少なくとも1種の医薬活性剤、
マトリックス層の総重量に対して10wt.%の量でマトリックス層に提供される、200,000~210,000g/molの平均分子量を有する、少なくとも1種のポリビニルアルコール、および
ポリエチレングリコールの主鎖を有し、その上にグラフトされたポリビニルアルコール単位が存在し、マトリックス層の総重量に対して20.1wt.%の量でマトリックス層に存在する量で提供される、40,000~50,000g/molの範囲内の平均分子量を有する、少なくとも1種のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー
を含む、溶液、分散体、または溶融物を製造する工程;
a1)場合により、ガスもしくはガス混合物の導入によって、化学的なガス生成によって、または溶解ガスの膨張によって、工程a)からの溶液、分散体、または溶融物を発泡させる工程、
b)工程a)からの溶液、分散体、もしくは溶融物、または場合により工程a1)からの発泡した溶液、分散体、もしくは溶融物を展延する工程を含む、
前記方法。
【請求項10】
好ましくは疼痛および/またはうつ病の治療において使用するための、請求項1~のいずれか1項に記載の経口薄フィルムを含む薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の医薬活性剤を含有する経口薄フィルム、それを製造するための方法、そのような経口薄フィルムの薬剤としての使用、特に疼痛および/またはうつ病の治療における薬剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
経口薄フィルムは、口腔内または口腔粘膜に対して直接置かれ、そこで溶解または溶けて、そのようにして活性剤を送達する、少なくとも1種の医薬活性剤を含有する薄フィルムである。これらのフィルムは、特に、薄い活性剤含有ポリマー系フィルムであり、粘膜、特に口腔粘膜に適用されると、その中に活性剤を直接送達することができる。口腔粘膜への血液供給は極めて良いために、活性剤の血流内への迅速な移送が確実に行われる。この投薬システムには、活性剤が粘膜によって大部分吸収されるという利点があり、それによって錠剤形態である従来の財形の活性剤の場合に生じる初回通過効果が回避される。活性剤は、フィルムに溶解させても、乳化させても、または分散させてもよい。
【0003】
後でさらに詳細に説明するように、本発明による経口薄フィルムは、医薬活性剤として好ましくはケタミンを含有し、好ましくは疼痛の治療または予防に使用される。
【0004】
医薬品の観点からケタミンを鎮痛薬として位置付けし直すことによって、新たな疼痛治療の選択肢の可能性が示される。ケタミンは、中等度から重度の疼痛の治療に有効であることが証明されており、オピオイド鎮痛の有用な代替手段となっている。ケタミンは、多くの疼痛状態で生じる、より具体的にはオピオイドの長期の摂取によっても生じる、痛覚過敏(疼痛を感じる感度の増大)を低減させることも見出されている。オピオイドと組み合わせると、ケタミンには、この鎮痛を実現するために必要なオピオイドの投薬量を低減させる効果もある。
【0005】
ケタミンのNMDA受容体拮抗作用は、疼痛の治療に「非オピオイド」治療の選択肢を与え、これによって現在の療法では満たされていない要件が満たされる(例えば、オピオイドに伴う重度の副作用の低減)。(S)-ケタミンには、そのラセミ体と比較して、約2倍の鎮痛作用だけでなく、抗うつ作用もある。オピオイドとは対照的に、(S)-ケタミンの致死量は極めて高い(平均すると4.2g/70kgの致死量、例えば、フェンタニルの致死量は2mg/70kg、オキシコドンは40mg/70kg)。
【0006】
ある医薬活性剤を投与するとき、経口薄フィルムが活性剤を多く担持していることが望ましい。経口薄フィルムに活性剤が多く担持されることは、これによって脆性のフィルムとなるか、または含有されているポリマーのフィルムの形成を直接妨げる可能性があることから、公知の問題である。それでもこれを実現するためには、大きい経口薄フィルムまたは層厚が極めて大きい経口薄フィルムが一般に必要とされる。大きいまたは厚い経口薄フィルムには、それによって適用に問題が生じる、患者が異物感を覚えることがある、溶解時間が長くなることがあるという不利な点がある。
【0007】
しかし、用途によっては、長い崩壊時間は望ましくない。
【0008】
加えて、活性剤が多く担持される公知の経口薄フィルムには、最大面積密度、よって含有される医薬活性剤の量が、経口薄フィルムの製造中の乾燥によって決定されるという不利な点がある。経口薄フィルムの面積密度が大きくなればなるほど、より多くの医薬活性剤をその中に含有することができるが、結果的に、経口薄フィルムの乾燥時間がもはや経済的でないほど延び、加えて活性剤が経口薄フィルム中で不均一に分散することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述の先行技術の不利な点を克服することにある。特に、本発明の目的は、多量の少なくとも1種の医薬活性剤を投与するための経口薄フィルムであって、経口薄フィルムは、許容可能な崩壊時間を有し、医薬活性剤は、経口薄フィルム中に比較的均一に分散している、経口薄フィルムを提供することにある。さらに、経口薄フィルムは、好ましくは心地よく柔らかな質感を有し、したがって好ましくは患者に異物感を引き起こすことがない。また、本発明による経口薄フィルムによって、医薬活性剤の可能な最大のバイオアベイラビリティを、例えば、10%超、または20%超、または30%超、または40%超、または50%超、または60%超、または70%超、または80%超、または90%超にすることが可能になる。
【0010】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、医薬活性剤の20~30%のバイオアベイラビリティを有する。
【0011】
加えて、本発明による経口薄フィルムは、含有される医薬活性剤の約40~60%を適用後最初の1分以内に放出することができるように、または含有される医薬活性剤の約75~90%を適用後最初の2分以内に放出することができるように設計される。
【0012】
加えて、経口薄フィルムを投与すると、最小限の副作用、特に最小限のサイケデリック作用(心理学的および精神測定学的副作用)が生じる。
【0013】
加えて、可能な限り容易かつ経済的に経口薄フィルムを製造することが可能になる。
【0014】
特に、少なくとも1種の医薬活性剤は、ケタミンを含む。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上の目的は、少なくとも1つのマトリックス層を有する請求項1に記載の経口薄フィルムであって、少なくとも1つのマトリックス層は、少なくとも1種の医薬活性剤、特にケタミン、少なくとも1種のポリビニルアルコール、および少なくとも1種のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーを含む、経口薄フィルムによって対処される。
【0016】
ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーは、多量の活性剤を吸収することができることが見出された。
【0017】
これは既にポリビニルアルコールでも観察されており、その場合、この効果はより顕著なことすらある。しかし、ポリビニルアルコールだけをベースとするフィルムは硬く、よって患者に不快な質感を有する。
【0018】
ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーだけをベースとするフィルムは、対照的に、ポリマー自体がより柔らかいフィルムを形成するために、より柔らかい質感を有する。しかし、これらのフィルムはあまり安定していない。
【0019】
ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーとポリビニルアルコールとを混合することによって、活性剤を多く担持していても、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーフィルムの柔らかい質感とポリビニルアルコールフィルムのものに迫る安定性とを併せ持つフィルムを実現することが可能となった。
【0020】
ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーは、好ましくは基本構造を形成し、そしてフィルムの特性を決定的に確定し、ポリビニルアルコールは、追加的な安定化剤として作用する。
【0021】
活性剤を多く担持することを、層厚およびフィルムのサイズが許容可能な範囲内であると共に、このようにして実現することができる。溶解時間も許容可能な範囲内にあり、許容可能な範囲は、好ましくは1分未満の値を含む。加えて、そのような経口薄フィルムは、患者にとって快適であり、容易かつ経済的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
好ましい実施形態は、従属請求項に記載する。
【0023】
本文書において、「含む」という語句は「~からなる」を意味することもできる。
【0024】
本発明による経口薄フィルムは、少なくとも1つのマトリックス層を有し、ここで、少なくとも1つのマトリックス層は、少なくとも1種の医薬活性剤、特にケタミン、少なくとも1種のポリビニルアルコール、および少なくとも1種のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーを含む。
【0025】
少なくとも1種の医薬活性剤は、いずれの制限も原則として受けないが、好ましくは、経口および/または経粘膜適用に適したすべての医薬活性剤から選択される。
【0026】
本発明によれば、個々の医薬活性剤のすべての医薬として許容される塩および溶媒和物も、医薬活性剤に包含される。
【0027】
活性剤は、好ましくは、鎮痛薬、ホルモン薬、睡眠薬、鎮静薬、抗てんかん薬、興奮薬、精神神経薬、神経筋遮断薬、鎮痙薬、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、強心薬、抗不整脈薬、利尿薬、降圧薬、昇圧薬、抗うつ薬、鎮咳薬、去痰薬、甲状腺ホルモン薬、性ホルモン薬、抗糖尿病薬、抗腫瘍性活性剤、抗生物質、化学療法薬、および麻薬の活性剤クラスを含む群から選択されるが、この群は決定的なものではない。
【0028】
ポリビニルアルコール(PVAまたはPVALと略記され、PVOHと略記されることもある)は、以下の一般構造を有するポリマーであり、
【化1】
これは、少量(約2%)の以下のタイプの構造単位を含有することがある。
【化2】
【0029】
これらはビニルポリマーの群に属する。
【0030】
黄白色の粉末または顆粒の形態で提供される商業的に通例のポリビニルアルコールは、一般に、98~99または87~89mol%の加水分解度を有し、つまり、残留内容物のアセチル基も含有する。ポリビニルアルコールは、出発ポリマーの重合度または平均分子量、加水分解度、けん化価、または溶液粘度の仕様によって製造業者によって特徴付けられる。
【0031】
グラフトコポリマーは、主鎖と分枝鎖に異なるモノマー単位を含有する分枝ポリマーである。
【0032】
「グラフトポリマー」という用語は一般用語である。
【0033】
本明細書で提供するポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーは、好ましくは、ポリエチレングリコールを含む主鎖を有し、その上にポリビニルアルコール単位がグラフトされている。
【0034】
本発明による経口薄フィルムは、少なくとも1種の医薬活性剤が、ケタミン、好ましくは(S)-ケタミン、または医薬として許容されるその塩を含むことも特徴とする。
【0035】
別の実施形態における本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、少なくとも1種の医薬活性剤が、ケタミン、好ましくはR-ケタミン、または医薬として許容されるその塩を含むことを特徴とする。
【0036】
ケタミンは、好ましくは、HCl塩の形態または遊離塩基の形態で提供される。
【0037】
本発明の場合、ケタミンは、(S)-(±)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オン、(R)-(±)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オン、およびラセミ体(RS)-(±)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オンを意味すると理解される。
【0038】
投与後に、ケタミンは代謝されてノルケタミン、ヒドロキシノルケタミン、およびさらなる物質になる。
【0039】
本発明による経口薄フィルムのマトリックス層は、(S)-ケタミンとR-ケタミンの両方だけでなく、これら2つのラセミ混合物としても含有することができる。しかし、遊離塩基、または医薬として許容されるその塩、特に(S)-ケタミンHClの形態の(S)-ケタミンが、単一の立体異性体のケタミンとして存在することが特に好ましい。何故なら、(S)-ケタミンの鎮痛および麻酔効力は、(R)体の効力より約3倍高いからである。
【0040】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンが、マトリックス層の総重量に対して45~70wt.%、好ましくは50~65wt.%、または55~65wt.%、または55~60wt.%、または60~65wt.%の量でマトリックス層に提供されることを特徴とする。
【0041】
特に、本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンが、マトリックス層の総重量に対して60wt.%の量でマトリックス層に存在することを特徴とする。
【0042】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンが、微結晶の形態で存在することを特徴とする。
【0043】
これらの微結晶の好ましい平均結晶サイズは、好ましくは、1~1000μmの範囲内、または5~500μmの範囲内、または10~200μmの範囲内にある。平均結晶サイズは、特に好ましくは、15~25μmの範囲内、特に20~22μmの範囲内にある。結晶サイズは、例えば、光学顕微鏡を利用して、またはマイクロコンピューターX線断層撮影(マイクロCT)を利用して決定することができる。
【0044】
別段の記載がない限り、言及したすべてのポリマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを利用して決定された重量平均分子量(Mw)に関する。
【0045】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種のポリビニルアルコールが、約25,000~約250,000g/molの平均分子量を有するポリビニルアルコールを含むことを特徴とする。
【0046】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種のポリビニルアルコールが、約25,000~約35,000g/molの平均分子量を有するポリビニルアルコール、および/または約200,000~210,000g/molの平均分子量を有するポリビニルアルコールを含むことを特徴とする。
【0047】
本発明によれば、約31,000(4-88)~約205,000(40-88)g/molの平均分子量を有するポリビニルアルコールが特に適している。
【0048】
本発明によれば、約31,000(4-88)~約205,000(40-88)g/molでの平均分子量を有するポリビニルアルコールが特に適している。
【0049】
本発明によれば、「落球法」(欧州薬局方2.2.49)によって決定したときに、40g/lの水溶液中で3.4~4.6mPas(4-88)から34~46mPas(40-88)mPasの粘度を有するポリビニルアルコール、またはこれらのPVAタイプの2種またはそれ以上の異なるものの混合物も特に適している。
【0050】
本発明によれば、「落球法」(欧州薬局方2.2.49)によって決定したときに、40g/lの水溶液中で3.4~4.6mPas(4-88)または34~46mPas(40-88)mPasの粘度を有するポリビニルアルコール、またはこれらのPVAタイプの2種またはそれ以上の異なるものの混合物も特に適している。
【0051】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーがポリエチレングリコールの主鎖を有し、その上にグラフトされたポリビニルアルコール単位が存在することを特徴とする。
【0052】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーがポリエチレングリコールの主鎖を有し、その上にグラフトされたポリビニルアルコール単位が存在し、ここで、ポリエチレングリコール対ポリビニルアルコールのモル比が1:3であることを特徴とする。
【0053】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーがポリエチレングリコールの主鎖を有し、その上にグラフトされたポリビニルアルコール単位が存在し、ここで、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーが、40,000~50,000g/molの範囲内、好ましくは約45,000g/molの平均分子量を有することを特徴とする。
【0054】
適切で好ましいポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーは、Kollicoat IR(BASF)という商品名で知られている。
【0055】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種のポリビニルアルコールが、マトリックス層の総重量に対して5~40wt.%、好ましくは5~20wt.%、5~19wt.%、5~18wt.%、5~17wt.%、5~16wt.%、5~15wt.%、5~14wt.%、5~13wt.%、5~12wt.%、5~11wt.%、または5~10wt.%の量でマトリックス層に提供されることを特徴とする。
【0056】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーが、マトリックス層の総重量に対して15~45wt.%、好ましくは17~40wt.%、または20~30wt.%の量でマトリックス層に提供されることを特徴とする。
【0057】
別の実施形態では、本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーが、マトリックス層の総重量に対して10~30wt.%、好ましくは15~25wt.%、17.5~22.5wt.%、または19~21wt.%、特に約19.5~20.5wt.%、特に好ましくは約20wt.%または20.1wt.%の量でマトリックス層に提供されることを特徴とする。
【0058】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、マトリックス層が、着色料、香料、甘味料、軟化剤、矯味剤、乳化剤、風味相乗剤(enhancer)、pH調節剤、湿潤剤、防腐剤、および/または酸化防止剤を含む群から選択される少なくとも1種の補助物質も含むことを特徴とする。
【0059】
これらの補助物質の各々は、好ましくは、各場合においてマトリックス層の総重量に対して0.1~15wt.%、好ましくは0.1~10wt.%、または0.1~5wt.%の量で含有される。
【0060】
サッカリンNaおよび/またはスクラロースなどの甘味料は、好ましくはマトリックス層の総重量に対して2~5wt.%、特に約3wt.%の総量でマトリックス層に含有される。
【0061】
甘味料とは別に、香料は、好ましくはマトリックス層の総重量に対して2~5wt.%、特に約3wt.%の総量でマトリックス層に含有される。
【0062】
着色料は、好ましくはマトリックス層の総重量に対して0.1~1wt.%、特に約0.4wt.%の総量でマトリックス層に含有される。
【0063】
本発明による経口薄フィルムは、その構造に関していかなる制限も受けない。
【0064】
よって、本発明による経口薄フィルムは、単層の経口薄フィルムの形態で提供することができ、よって上で定義した通りのマトリックス層だけで構成することができる。
【0065】
よって、別の実施形態では、本発明による経口薄フィルムは、多層の経口薄フィルムの形態で提供することができ、よって上で定義した通りのマトリックス層に加えてさらなる層を含有することができる。
【0066】
この複数の層は、互いの上に直接積層することもできるし、または間に配置された接着層に連結することもできる。
【0067】
接着層は、DIN EN 923:2016-03に定義される通りの、接着剤として作用することができる層を意味すると理解される。したがって、非接着層は、上で定義される通りの接着剤として作用することはできない。
【0068】
特に、DE102014127452A1に記載される通りの水溶性接着層は接着層として適しており、これに関する該文書の内容は、本開示に全体が明示的に組み込まれる。
【0069】
例えば、pH値を設定するための緩衝層、または早すぎる侵食に対して経口薄フィルムを保護する緩徐に溶解する層もしくは不溶性層をさらなる層として提供することができる。
【0070】
あるいは、他の医薬活性剤または香料もしくは矯味剤を含有するさらなるマトリックス層を提供することができる。
【0071】
一実施形態では、本発明による経口薄フィルムは、マトリックス層が滑らかなフィルムの形態であることを特徴とする。これは、マトリックス層が、例えば、発泡体の形態で提供されないことを意味する。
【0072】
滑らかなフィルムは、好ましくは、滑らかなフィルムがマトリックス層の総体積に対して0~5%の気泡または空隙の体積分率を有することを特徴とする。空隙には、ここでは、好ましくは空気またはガス、好ましくは不活性ガス、特に好ましくは窒素、二酸化炭素、ヘリウム、またはこれらのガスの少なくとも2種の混合物が充填されている。気泡または空隙の直径は、概して、0.01~350μmの範囲内にある。気泡または空隙の直径は、特に好ましくは10および200μmの範囲内にある。
【0073】
別の実施形態では、本発明による経口薄フィルムは、マトリックス層が、空隙を有する固化フィルムの形態であることを特徴とする。
【0074】
特に、剤形の内部への水または唾液もしくは他の体液の浸潤は、空隙およびそれに伴って大きくなったフィルムの表面によって促進され、したがって剤形の溶解および活性剤の放出が加速される。
【0075】
迅速に吸収される活性剤の場合、経粘膜の吸収を、マトリックス層の速い溶解によってさらに向上させることができる。
【0076】
その一方で、前記空隙の壁厚は低いことが好ましい。何故なら、これらは、例えば、固化した気泡に相当するので、これらの空隙は素早く溶解または崩壊するからである。
【0077】
この実施形態のさらなる利点は、発泡体としての製剤であるために、面積密度が比較的高いにもかかわらず、同等の非発泡組成物よりも速く乾燥させることができるということにある。
【0078】
本発明による多層経口薄フィルムは、好ましくは、空隙が互いから隔離されており、好ましくは気泡の形態で提供されており、ここで、空隙が、空気またはガス、好ましくは不活性ガス、特に好ましくは窒素、二酸化炭素、ヘリウム、またはこれらのガスの少なくとも2種の混合物で充填されていることを特徴とする。
【0079】
別の実施形態によれば、空隙は、好ましくは、マトリックスを貫通する凝集チャネル系を形成することによって互いに連結されることが提供される。
【0080】
前記空隙は、好ましくは、マトリックス層の総体積に対して5~98%、好ましくは50~80%の体積分率を有する。このようにして、マトリックス層の溶解を加速するという有利な効果が好都合に影響を及ぼす。
【0081】
さらに、乾燥の前または後の発泡体の安定性を向上させるために、発泡体形成のためのマトリックス層または乾燥の前もしくは後の得られた発泡体に、界面活性物質または界面活性剤を添加することができる。
【0082】
本発明による剤形の特性に影響を及ぼすさらなるパラメータは、空隙または気泡の直径である。気泡または空隙は、好ましくは発泡機を活用して製造され、それを用いることによって、気泡の直径を広い範囲内で、ほぼ自由裁量で設定することができる。よって、気泡または空隙の直径は0.01~350μmの範囲内にあり得る。直径は、特に好ましくは10および200μmの範囲内にある。
【0083】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは0.5cm~10cm、特に好ましくは2cm~8cmまたは4cm~5cmの面積を有する。
【0084】
マトリックス層または提供される可能性があるさらなる層の面積密度は、各場合において、好ましくは少なくとも10g/m、より好ましくは少なくとも20g/m、もしくは少なくとも30g/m、もしくは最も好ましくは50g/m、または400g/m以下、より好ましくは350g/m以下、300g/m以下、もしくは最も好ましくは250g/m未満である。面積密度は、好ましくは10~400g/m、より好ましくは20~350g/m、または30~300g/m、最も好ましくは50~250g/mである。
【0085】
提供される層の各々、特にマトリックス層は、好ましくは各場合において、好ましくは10μm~500μm、特に好ましくは20μm~300μmの層厚を有する。
【0086】
様々な層、特にマトリックス層が固化した発泡体の形態で存在するならば、発泡体として提供される層の各々は、各場合において、好ましくは10μm~3000μm、特に好ましくは90μm~2000μmの層厚を有することが好ましい。
【0087】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種の医薬活性剤が、25mg~150mg、好ましくは25mg~125mg、特に約50mg~150mgの総量でマトリックス層に存在することを特徴とする。
【0088】
本発明による経口薄フィルムは特に、少なくとも1種の医薬活性剤が、50mg~100mg、好ましくは約50mgまたは約100mgの総量でマトリックス層に存在することを特徴とする。
【0089】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種の医薬活性剤が、ケタミン、好ましくは遊離塩基またはケタミンHClの形態のケタミンを、25mg~150mg、好ましくは25mg~125mg、特に約50mg~150mgの総量で含むことを特徴とする。
【0090】
本発明による経口薄フィルムは特に、少なくとも1種の医薬活性剤であるケタミン、好ましくは遊離塩基またはケタミンHClの形態のケタミンが、50mg~100mg、好ましくは約50mgまたは約100mgの総量でマトリックス層に存在することを特徴とする。
【0091】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種の医薬活性剤が、ケタミン、好ましくは遊離塩基またはケタミンHClの形態のケタミンとして存在し、25mg~150mg、好ましくは25mg~125mg、特に約50mg~150mgの総量でマトリックス層に存在することを特徴とする。
【0092】
本発明による経口薄フィルムは特に、ケタミン、好ましくは遊離塩基またはケタミンHClの形態のケタミンとしての少なくとも1種の医薬活性剤が50mg~100mg、好ましくは約50mgまたは約100mgの総量でマトリックス層に存在することを特徴とする。
【0093】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、ケタミン、好ましくは遊離塩基またはケタミンHClの形態のケタミンとしての少なくとも1種の医薬活性剤が、2mgまたは5mgまたは7mgまたは10mgまたは15mgまたは20mgまたは25mgまたは30mgまたは35mgまたは40mgまたは45mgまたは50mgまたは55mgまたは60mgまたは65mgまたは70mgまたは80mgまたは90mgまたは95mgまたは100mgまたは105mgまたは110mgまたは115mgまたは120mgまたは125mgまたは130mgまたは135mgまたは140mgまたは145mgまたは150mgの総量でマトリックス層に存在することを特徴とする。
【0094】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、突刺し強度が少なくとも0.15N/mm、好ましくは少なくとも0.18N/mm、特に好ましくは0.20N/mmまたはそれ以上であることを特徴とする。ここでは、面積密度は、好ましくは150~250g/m、特に好ましくは180~220g/mである。
【0095】
突刺し強度は、好ましくは以下の通りに決定される:
使用した検査デバイス:Sauter FH-20フォースゲージ。
検査エリア:直径5mmの円形検査エリア。
【0096】
実施:
フォースゲージを固定し、デバイスの検査エリア(直径5mmの円形検査エリア)に、10cmの積層体試験片を中央に置く。積層体試験片を端部に固定し、検査試験片の方向に力を加え、積層体試験片に穴があくまでその力を増加する。その結果得られた、穴があくまで試験片に加えられた力の最大値を測定する。測定は、積層体のバッチ毎にn=3の積層体試験片で行う。
【0097】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、少なくとも1種の医薬活性剤、特にケタミン、好ましくは遊離塩基またはケタミンHClの形態のケタミンのバイオアベイラビリティが、少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも15%、または少なくとも20%、または少なくとも25%、または少なくとも30%、または少なくとも35%、または少なくとも40%、または少なくとも45%、または少なくとも50%、または少なくとも55%、または少なくとも60%、または少なくとも65%、または少なくとも70%、または少なくとも75%、または少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも97%、または少なくとも99%であることを特徴とする。
【0098】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、以下の放出速度によって特徴付けられ、ここで、放出速度は、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの、本発明による経口薄フィルムの適用から一定時間後の放出に関する。
【0099】
1分後に、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの少なくとも40%または少なくとも50%が放出されるならば、好ましい。
【0100】
2分後に、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの少なくとも75%または少なくとも80%または少なくとも85%が放出されるならば、好ましい。
【0101】
15秒後に、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの約5~10%が放出されるならば、好ましい。
【0102】
30秒後に、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの約20~25%が放出されるならば、好ましい。
【0103】
45秒後に、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの約30~40%が放出されるならば、好ましい。
【0104】
1分後に、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの約50~60%が放出されるならば、好ましい。
【0105】
1分15秒後に、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの約60~70%が放出されるならば、好ましい。
【0106】
1分30秒後に、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの約70~80%が放出されるならば、好ましい。
【0107】
1分45秒後に、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの約80~85%が放出されるならば、好ましい。
【0108】
2分後に、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの約82~88%が放出されるならば、好ましい。
【0109】
2分15秒後に、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの約84~90%が放出されるならば、好ましい。
【0110】
2分30秒後に、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンの約86~92%が放出されるならば、好ましい。
【0111】
以降に、活性剤またはその代謝産物の最大血漿濃度(Cmax)に関する好ましい実施形態を、医薬活性剤として(S)-ケタミンが使用される本発明による経口薄フィルムについて説明する。
【0112】
ここでは、100mgの(S)-ケタミンを1回の用量で投与することも、または2回の用量を利用して各々50mgの(S)-ケタミンを投与することもできる。
【0113】
本発明の経口薄フィルムは、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの投与後の(S)-ケタミンの最大血漿濃度が50~200ng/mLにあることを特徴とする。
【0114】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの投与後のケタミン代謝産物(S)-ノルケタミンの最大血漿濃度が200~400ng/mLにあることを特徴とする。
【0115】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの投与後のケタミン代謝産物(S)-ヒドロキシノルケタミンの最大血漿濃度が50~150ng/mLにあることを特徴とする。
【0116】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、100mgの用量の(S)-ケタミンの投与後の(S)-ケタミンの最大血漿濃度が100~200ng/mLにあることを特徴とする。
【0117】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、100mgの用量の(S)-ケタミンの投与後のケタミン代謝産物(S)-ノルケタミンの最大血漿濃度が300~500ng/mLにあることを特徴とする。
【0118】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、100mgの用量の(S)-ケタミンの投与後のケタミン代謝産物(S)-ヒドロキシノルケタミンの最大血漿濃度が100~250ng/mLにあることを特徴とする。
【0119】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの投与後の(S)-ケタミンの最大血漿濃度が70~120ng/mLにあることを特徴とする。
【0120】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの投与後のケタミン代謝産物(S)-ノルケタミンの最大血漿濃度が200~300ng/mLにあることを特徴とする。
【0121】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの投与後のケタミン代謝産物(S)-ヒドロキシノルケタミンの最大血漿濃度が70~120ng/mLにあることを特徴とする。
【0122】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、100mgの用量の(S)-ケタミンの投与後の(S)-ケタミンの最大血漿濃度が120~160ng/mLにあることを特徴とする。
【0123】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、100mgの用量の(S)-ケタミンの投与後のケタミン代謝産物(S)-ノルケタミンの最大血漿濃度が300~350ng/mLにあることを特徴とする。
【0124】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、100mgの用量の(S)-ケタミンの投与後のケタミン代謝産物(S)-ヒドロキシノルケタミンの最大血漿濃度が150~220ng/mLにあることを特徴とする。
【0125】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの舌下投与後の(S)-ケタミンの最大血漿濃度が70~120ng/mLにあることを特徴とする。
【0126】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの舌下投与後のケタミン代謝産物(S)-ノルケタミンの最大血漿濃度が200~300ng/mLにあることを特徴とする。
【0127】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの投与後のケタミン代謝産物(S)-ヒドロキシノルケタミンの最大血漿濃度が70~120ng/mLにあることを特徴とする。
【0128】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、100mgの用量の(S)-ケタミンの舌下投与後の(S)-ケタミンの最大血漿濃度が120~160ng/mLにあることを特徴とする。
【0129】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、100mgの用量の(S)-ケタミンの舌下投与後のケタミン代謝産物(S)-ノルケタミンの最大血漿濃度が300~350ng/mLにあることを特徴とする。
【0130】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、100mgの用量の(S)-ケタミンの舌下投与後のケタミン代謝産物(S)-ヒドロキシノルケタミンの最大血漿濃度が150~220ng/mLにあることを特徴とする。
【0131】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの口腔内投与後の(S)-ケタミンの最大血漿濃度が80~160ng/mLにあることを特徴とする。
【0132】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの口腔内投与後のケタミン代謝産物(S)-ノルケタミンの最大血漿濃度が200~280ng/mLにあることを特徴とする。
【0133】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの口腔内投与後のケタミン代謝産物(S)-ヒドロキシノルケタミンの最大血漿濃度が60~100ng/mLにあることを特徴とする。
【0134】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、100mgの用量の(S)-ケタミンの口腔内投与後の(S)-ケタミンの最大血漿濃度が120~200ng/mLにあることを特徴とする。
【0135】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、100mgの用量の(S)-ケタミンの口腔内投与後のケタミン代謝産物(S)-ノルケタミンの最大血漿濃度が400~500ng/mLにあることを特徴とする。
【0136】
本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、50mgの用量の(S)-ケタミンの口腔内投与後のケタミン代謝産物(S)-ヒドロキシノルケタミンの最大血漿濃度が120~200ng/mLにあることを特徴とする。
【0137】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、マトリックス層が、60wt.%の(S)-ケタミンHCl、10wt.%の前に定義した通りのポリビニルアルコール40-88、および20wt.%または20.1wt.%の前に定義した通りのポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーを含むことを特徴とする。
【0138】
本発明による経口薄フィルムはまた、好ましくは、マトリックス層が、60wt.%の(S)-ケタミンHCl、10wt.%の前に定義した通りのポリビニルアルコール40-88、および20.1wt.%の好ましくは前に定義した通りのポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、1.0wt.%のサッカリンNa、2.0wt.%のスクラロース、3.5wt.%のグリセリン、3.0wt.%の医薬として許容される香料、ならびに0.4wt.%の医薬として許容される着色料を含むことを特徴とする。ここでは、好ましくは純水が溶媒として使用される。
【0139】
極めて特に好ましい実施形態では、経口薄フィルムは、表3の製剤15に従う製剤を有する。
【0140】
本発明による経口薄フィルムは、従来の方法によって製造することができる。
【0141】
経口薄フィルムに関する上の定義は、本発明による方法にも同様に適用される。
【0142】
本発明による経口薄フィルムを製造するための方法は、好ましくは以下の工程を含む:
a)少なくとも1種の医薬活性剤、少なくとも1種のポリビニルアルコール、および少なくとも1種のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーを含む、溶液、分散体、または溶融物を製造する工程;
a1)場合により、ガスもしくはガス混合物の導入によって、化学的なガス生成によって、または溶解ガスの膨張によって、工程a)からの溶液、分散体、または溶融物を発泡させる工程、
b)工程a)からの溶液、分散体、もしくは溶融物、または場合により工程a1からの発泡した溶液、分散体、もしくは溶融物。
【0143】
マトリックス層が、空隙を有する固化した発泡体の形態で提供される予定の場合のみ、工程a1)が必要であることは、当業者には明らかである。
【0144】
気泡または空洞は、好ましくは発泡機を活用して製造され、それを用いることによって、気泡の直径を広い範囲内で、ほぼ自由裁量で設定することができる。
【0145】
本発明はまた、上記の方法によって得ることができる経口薄フィルムに関する。
【0146】
加えて、本発明は、薬剤としての、上記の通りのまたは上記の方法によって得ることができる経口薄フィルムに関する。
【0147】
加えて、本発明は、舌下および/または口腔内投与のための薬剤としての、上記の通りのまたは上記の方法によって得ることができる経口薄フィルムに関する。
【0148】
加えて、本発明は、疼痛および/またはうつ病の治療に使用するための薬剤としての、上記の通りのまたは上記の方法によって得ることができる経口薄フィルムに関する。
【0149】
加えて、本発明は、上記の通りのまたは上記の方法によって得ることができる経口薄フィルムであって、その舌下および/または口腔内投与によって疼痛および/またはうつ病の治療に使用するための薬剤としての経口薄フィルムに関する。
【0150】
本発明は、加えて、疼痛および/もしくはうつ病の治療、特に自殺のリスクを低減するための治療に使用するための、ならびに/あるいは全身麻酔薬、好ましくは全身麻酔を開始および実行するための全身麻酔薬として、または局所麻酔の場合の補助として、および/または鎮痛薬として使用するための、上記の通りのまたは上記の方法によって得ることができる経口薄フィルムであって、ケタミン、好ましくは(S)-ケタミン、または医薬として許容されるその塩が、マトリックス層中の医薬活性剤として使用される、経口薄フィルムに関する。
【0151】
本発明は特に、疼痛、好ましくは以降に定義される通りの疼痛の治療に使用するための、上記の通りのまたは上記の方法によって得ることができる経口薄フィルムであって、ケタミン、好ましくは(S)-ケタミン、または医薬として許容されるその塩が、マトリックス層中の医薬活性剤として使用される、経口薄フィルムに関する。
【0152】
「疼痛」という用語は一般に、往々にして強烈なまたは有害な刺激によって引き起こされる痛みの感覚を意味すると理解される。慢性または進行中の疼痛は長く続くと理解され、急に消失する疼痛は急性と言われる。
【0153】
侵害受容性疼痛は、有害な強度に近づくまたは超える刺激に応答する感覚神経線維(侵害受容器)の刺激によって引き起こされる疼痛であり、有害な刺激の様式に従って分類することができる。最も一般的なカテゴリーは、温熱、機械的、および化学的刺激である。幾つかの侵害受容器は複数のモダリティに応答し、したがってポリモーダルと呼ばれる。
【0154】
侵害受容性疼痛は、「内臓」、「深部体性」、および「表在体性」痛に細分することができる。
【0155】
神経障害性疼痛は一般に、身体感覚に関与する神経系(体性感覚系)の一部に影響を及ぼす傷害または病気によって引き起こされる。神経障害性疼痛は、末梢性、中枢性、または混合性(末梢性および中枢性)神経因性疼痛に細分することができる。末梢性神経障害性疼痛は、「灼けるような」、「ヒリヒリするような」、「電気のような」、または「突き刺すような」と表現されることが多い。
【0156】
本発明はまた、患者における疼痛および/またはうつ病を治療するための方法であって、上記の通りの経口薄フィルムを患者の粘膜に適用することを含む方法に関する。
【0157】
患者における疼痛および/またはうつ病を治療するための方法は、好ましくは、粘膜が口腔粘膜を含むことを特徴とする。
【0158】
患者における疼痛および/またはうつ病を治療するための方法は、好ましくは、本発明による経口薄フィルムが舌下または口腔内に適用されることを特徴とする。
【0159】
患者における疼痛および/またはうつ病を治療するための方法は、好ましくは、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミン、特に遊離塩基またはケタミンHClの形態のケタミンの投薬が、約50mg~150mg、好ましくは約50mgまたは約100mgであることを特徴とする。
【0160】
患者における疼痛および/またはうつ病を治療するための方法は、好ましくは、経口薄フィルムが好ましくは2分未満、特に30秒~90秒、好ましくは30秒~60秒間適用され、好ましくはこの時間中に溶解することを特徴とする。
【0161】
以降に、非限定的な実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例
【0162】
実施例1:
表1に示す出発物質を以下の実施例に使用した。
【0163】
【表1】
【0164】
本発明による方法によってこれらの出発物質から複数の経口薄フィルムを製造し、検討した。これらの組成を表2に示す。
【0165】
【表2】
【0166】
表2に明記した組成を有する本発明による経口薄フィルムはすべて、本発明によって対処される問題を解決する。
【0167】
組成2をベースにして、表3に従う組成を有するさらなる経口薄フィルムを製造し、検査した。
【0168】
【表3】
【0169】
表3に明記した組成を有する経口薄フィルムはすべて、本発明によって対処される問題を解決する。
【0170】
製剤15を詳細に検討した。
【0171】
製剤15は、25℃/60r.h.%~40℃/r.h.75%で9か月安定である。
【0172】
製剤15の残留含水量は、カールフィッシャー滴定を利用して決定した。
【0173】
6つのサンプルの残留含水量を決定した。決定された残留含水量は、4.40wt.%、3.82wt.%、4.02wt.%、4.51wt.%、4.91wt.%、および4.57wt.%であった。
【0174】
この残留含水量は許容可能である。
【0175】
900mlの脱塩水(37℃±2℃に温度制御されたもの)を有する1Lのガラス製ビーカー内での製剤15の崩壊時間を決定した。
【0176】
6つのサンプルの崩壊時間を決定した。決定された崩壊時間は、52秒、55秒、58秒、56秒、54秒、および55秒であった。
【0177】
よって、製剤15は良好な崩壊時間を有する。
【0178】
製剤15からの活性剤のin vitro放出も決定した。
【0179】
in vitro放出では、(S)-ケタミンが(S)-ケタミンHCl含有経口薄フィルムから放出され、決定される。活性剤は、リン酸緩衝液(pH6.8 USP)中に放出され、次いでin situでの光ファイバーUVシステムによって決定される。定量化は、外標準に対して行った。
【0180】
放出は、USP<711>に従うDissolution Apparatus 2(シンカー上部のパドル)を用いて行う。
【0181】
【表4】
【0182】
放出試験の結果を図1に示す。それらは以下の通りであった:
15秒後 約11%
30秒後 約24%
45秒後 約38%
1分後 約54%
1分15秒後 約68%
1分30秒後 約78%
1分45秒後 約83%
2分後 約85%
2分15秒後 約86%
2分30秒後 約87%
【0183】
実施例2
表3からの製剤をさらなる試験でより詳細に検討した。
【0184】
1.突刺し強度の測定
測定の実施(積層体の突刺し強度の検査):
使用した検査デバイス:Sauter FH-20フォースゲージ。
検査エリア:直径5mmの円形検査エリア。
商業的に入手可能な製品:「LISTERINE POCKETPAKS(登録商標)COOL MINT ORAL CARE FRESH BREATH STRIPS」を比較製品として使用した。これは、プルラン、メンソール、アセスルファムカリウム、グルコン酸銅、ポリソルベート80、トチャカガム(カラギナン)、オレイン酸グリセリル、チモール、ユーカリプトール、サリチル酸メチル、イナゴマメガム(ローカストビーンガム)、プロピレングリコール、キサンタンガム、芳香(香料)、FD&C青色1号(着色料)、およびFD&C緑色3号(着色料)を含有する。
【0185】
実施:
フォースゲージを固定し、デバイスの検査エリア(直径5mmの円形検査エリア)に、10cmの積層体試験片(Listerineの場合、32mm×22mmのListerine OTFを使用した)を中央に置いた。積層体試験片を端部に固定し、試験片の方向に力を加えた;積層体試験片に穴があくまでその力を増加した。その結果得られた、穴があくまで試験片に加えられた力の最大値を測定した。測定は、積層体のバッチ毎にn=3の積層体試験片で行った(Listerineの場合、OTFでのn=3の測定)。
【0186】
その結果を以下の表5に要約する:
【0187】
【表5】
【0188】
示した実施例はすべて、活性剤を多く担持しているにもかかわらず、良好な(参照としての製品Listerineに匹敵する)突刺し強度を有する。
【0189】
実施例3:
本明細書で述べたように、本発明による経口薄フィルムは、好ましくは、少なくとも1種の医薬活性剤、好ましくはケタミンが微結晶の形態で存在することを特徴とする。これらの微結晶の適切な平均結晶サイズは、好ましくは、1~1000μmの範囲内、または5~500μmの範囲内、または10~200μmの範囲内にある。結晶サイズは、光学顕微鏡を利用して、またはマイクロコンピューターX線断層撮影(マイクロCT)を利用して決定することができる。
【0190】
マイクロコンピューターX線断層撮影(マイクロCT)の試験方法および測定条件:
機器 SkyScan 2211
X線エネルギー 60kV
分解能 0.75μm/ボクセル
Feldkampに従う再構成
【0191】
その結果を以下の表6に要約する:
【0192】
【表6】
【0193】
実施例4:
表3に従う製剤15をベースにするOTFでの臨床試験の結果。
【0194】
目的:
主な目的:(S)-ケタミン50mgを有する(S)-ケタミンの経口薄フィルムの薬物動態プロファイルの決定;副次的な目的:(1)抗侵害受容器および精神測定学的副作用のエンドポイントでの(S)-ケタミン50mgまたは100mgを有する(S)-ケタミンの経口薄フィルムの薬力学的プロファイルの決定;(2)(S)-ケタミン経口薄フィルムの安全性および適合性の決定。
【0195】
試験デザイン:
試験は、探索的、オープン、クロスオーバー、および無作為化デザインを有するものであった。すべての被験者を2回処置した。被験者に、(S)-ケタミン50mgのOTFを1回、2つの(S)-ケタミン50mgのOTFを1回(よって総用量100mg)を無作為な順序で与えた。15人の被験者にはOTFを舌下に与え;5人のさらなる被験者にはOTFを口腔内に与えた。
【0196】
試験の実施:
1回のテストランの間、被験者に、個別の(S)-ケタミン50mgのOTFを舌下(n=15)または口腔内(n=5)のいずれかに与えた。さらなるテストランの間、被験者に、同時に2つの(S)-ケタミン50mgのOTFを舌下(n=15)または口腔内(n=5)に与えた。OTFの投与から6時間後に、低用量の(S)-ケタミン(20mg)を被験者に静脈内投与した。試験日の間に少なくとも2日間のウォッシュアウトフェーズを設けた。
【0197】
血液採取:
血液採取のために、左または右の橈骨または上腕動脈に動脈アクセスを配置した。血液サンプル(4ml)を、OTF投与(t=0分)後に以下の間隔:0、5、10、20、40、60、90、120、180、240、300、360分で、および静脈内投与の開始後に以下の間隔:2、4、10、15、20、30、40、60、75、90、および120分で採取した。
【0198】
疼痛検査:
10~20分の間隔で(10~60分の間隔で(0~10~20~30~40~60~80~100~120~150~180~240~300~360分)3つの疼痛検査を行った。
a)圧痛、
b)電気痛および
c)熱により誘導される疼痛。
【0199】
a)被験者は、Wagner Instruments製のFDN 200 Algometerを使用して、増加する圧刺激に応答する自分の圧痛閾値を評価した。
【0200】
b)被験者は、経皮的電気痛モデルを使用して、疼痛の値が7~8となるような皮膚への固定刺激の間に痛覚閾値を評価した。
【0201】
c)Medoc Pathway Systemを使用して、7~8の疼痛の値を生じる固定熱刺激を皮膚に適用した。
【0202】
疼痛の評価はすべて、0(無痛)から10(想像し得る最大の疼痛)にわたる11段階のリッカートスケール(口頭式評価スケール、VRS)を使用して行った。
【0203】
定性的結果:
フィルム製剤の味は、被験者によって許容可能であると表現された。安全性に関する結果は報告されなかった。舌下投与および口腔内投与はいずれも問題はないとみなされた。
【0204】
血漿濃度:
血漿濃度は、検出法としてQTOF-MSを組み合わせた液体クロマトグラフィーを利用して測定した。検出下限は、(S)-ケタミン、(S)-ノルケタミン、および(S)-ヒドロキシノルケタミンのそれぞれについて、6ng/mL、6ng/mL、および4ng/mLであった。検出上限は、(S)-ケタミン、(S)-ノルケタミン、および(S)-ヒドロキシノルケタミンのそれぞれについて、1000、500、および200ng/mLであった。
【0205】
質問表:
疼痛検査の直前に、心理学的および精神測定学的副作用に関する医薬治療の効果を評価するために、間に30分の間隔を空けて2つの質問表に記入した(0~360分までに0~30~60~90分~、など)。
【0206】
1.Bowdle質問表:Bowdle質問表(Bowdleら「psychedelic effects of ketamine in healthy volunteers:relationship to steady-state plasma concentrations」Anesthesiology 1998年1月;88(1):82-8)に基づいて、サイケデリック作用の3つの要因、すなわち:薬物中毒、内的知覚、および外的知覚を推定することが可能である。
【0207】
2.BondおよびLader質問表:BondおよびLaderスケールは、16個の100mmの視覚的アナログスケールから算出される。エンドポイントは、「起きている-眠そうである」、「器用である-不器用である」、「頭の回転が遅い-頭の回転が速い」、および「無能である-熟練している」など、反意語の対に設定される。
【0208】
結果:
その結果から、強力で長続きする疼痛の低減が迅速に始まることが示される(図2参照)。OTF製剤では鎮痛に関して用量依存性は観察されなかった。これはおそらく、代謝産物であるノルケタミンの濃度が高く、これによって抗鎮痛作用がもたらされるためである(Olofsenら「Estimation of contribution of norketamine to ketamine-induced acute pain relief and neurocognitive impairment in healthy volunteers」Anesthesiology 2012年;117;Addendum 5を参照されたい)。
【0209】
OTF製剤では、ケタミンならびに代謝産物ノルケタミンおよびヒドロキシノルケタミンの濃度の非線形の用量依存的な増加が観察された。
【0210】
代謝産物(S)-ノルケタミンの血漿レベル(図3、4、および5参照)および(S)-ヒドロキシノルケタミンの血漿レベル(図6、7、および8)は、(S)-ケタミン20mgの静脈内投与と比較してOTFの投与後の方が高い(下の表7も参照)。
【0211】
ケタミンの血漿レベルは、静脈内投与の方がOTFの投与後より高い(図9、10、11、および下の表7参照)。
【0212】
検討したフィルム製剤は、疼痛の治療に適している。
【0213】
【表7】
【0214】
フィルムの投与後に実現予定の血漿値は、好ましくは以下の範囲内である:cmax((S)-ケタミン)=50~200ng/mL;cmax((S)-ノルケタミン)=200~400ng/mL;cmax((S)-ヒドロキシノルケタミン)=50~150ng/mL。
【0215】
2つのフィルムを投与するならば、実現予定の血漿値は、好ましくは以下の範囲内である:cmax((S)-ケタミン)=100~200ng/mL;cmax((S)-ノルケタミン)=300~500ng/mL;cmax(ヒドロキシノルケタミン)=100~250ng/mL。
【0216】
経口バイオアベイラビリティ
(S)-ケタミンのOTFの経口バイオアベイラビリティは26.3%±1.0%である。
【0217】
(S)-ケタミン50mgおよび100mgのOTFの経口バイオアベイラビリティは約20%異なるが(F1 50mg=29%、F1 100mg=23%)、これは有意水準(p≫0.01)に達していない。
【0218】
Tmax、AUCデータは、PKモデルを使用して算出した。
【0219】
薬物動態モデルを決定するための測定した(S)-ケタミンおよびその代謝産物の血漿濃度のデータ解析は、NONMEMバージョン7.5.0(ICON Development Solutions、Hanover、MD、USA)を使用して行った。
【0220】
FOCI-I(相関を考慮した条件付一次近似(first-order conditional estimation with interaction))を使用して薬物動態モデルのパラメータを算出した。作成した薬物動態モデルに基づいて、(S)-ケタミンおよびその代謝産物のTMaxデータおよびAUCデータを算出した。それらを表8に示す。
【0221】
【表8】
【0222】
試験のさらなる結果は以下の通りである:
1.本発明によるOTF製剤は、所在に関係なく、すべての3つの疼痛のモダリティにおいて鎮痛作用を有する。
2.使用した疼痛検査のいずれも、明白な用量効果関係を示さなかった。
3.電気および温熱痛検査では、鎮痛作用は長続きして2~6時間にわたり、特にOTFの舌下投与後に長続きした。
4.舌下および口腔内投与の間および後に得られたデータには明らかな相違がない。
5.投与されたOTFでのサイケデリック作用は極めて穏やかであるとみなすことができる。
6.18人の被験者が少なくとも1つの有害事象を報告した。合計して、33の有害事象があった。これらのうちいずれも重篤な有害事象はなかった(事象の患者数については下の表9を参照されたい)。有害事象は、主に(S)-ケタミン20mgの静脈内投与に観察された。
【0223】
【表9】
【0224】
Bowdle質問表に従って観察されたサイケデリック作用(心理学的および精神測定学的副作用)に関するデータを図12~15に要約し、BondおよびLader質問表に従って観察されたものを図16~31に要約する。
【0225】
実施例5:
活性剤であるR-ケタミンと(S)-ケタミンを比較した。
【0226】
この目的のために、表10に従う組成を有する経口薄フィルムを製造した。
【0227】
【表10】
【0228】
活性剤の流出は、in vitroモデルで以下のように決定した。
【0229】
活性剤の流出は、フランツ拡散セル(体積10mL)を37℃で利用して典型的なin vitroでの浸透の範囲内で行った。使用した受容媒体は、所定の交換時間に新たなものに完全に交換し、HPLCを利用してこれらの受容溶液中に浸透した活性剤量の含有量を決定した。
【0230】
リン酸緩衝液(pH7.4)を受容媒体として使用した。
【0231】
豚の食道から皮膚切断された400μmの層厚を有する皮膚を皮膚モデルとして使用した。
【0232】
浸透試験の結果を図32に示す。
【図面の簡単な説明】
【0233】
図1】放出試験の結果を示す図である。
図2】強力で長続きする疼痛の低減が迅速に始まることを示す図である。
図3】代謝産物(S)-ノルケタミンの血漿レベルを示す図である。
図4】代謝産物(S)-ノルケタミンの血漿レベルを示す図である。
図5】代謝産物(S)-ノルケタミンの血漿レベルを示す図である。
図6】代謝産物(S)-ヒドロキシノルケタミンの血漿レベルを示す図である。
図7】代謝産物(S)-ヒドロキシノルケタミンの血漿レベルを示す図である。
図8】代謝産物(S)-ヒドロキシノルケタミンの血漿レベルを示す図である。
図9】ケタミンの血漿レベルを示す図である。
図10】ケタミンの血漿レベルを示す図である。
図11】ケタミンの血漿レベルを示す図である。
図12】Bowdle質問表に従って観察されたサイケデリック作用(心理学的および精神異常的副作用)に関するデータを要約した図である。
図13】Bowdle質問表に従って観察されたサイケデリック作用(心理学的および精神異常的副作用)に関するデータを要約した図である。
図14】Bowdle質問表に従って観察されたサイケデリック作用(心理学的および精神異常的副作用)に関するデータを要約した図である。
図15】Bowdle質問表に従って観察されたサイケデリック作用(心理学的および精神異常的副作用)に関するデータを要約した図である。
図16】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図17】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図18】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図19】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図20】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図21】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図22】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図23】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図24】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図25】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図26】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図27】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図28】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図29】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図30】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図31】BondおよびLader質問表に従って観察されたデータを要約した図である。
図32】浸透試験の結果を示す図である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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