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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】装置及び装置を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   H02H 5/04 20060101AFI20230127BHJP
   B81B 7/02 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
H02H5/04 140
B81B7/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021565323
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015258
(87)【国際公開番号】W WO2020246126
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】19305731.2
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503163527
【氏名又は名称】ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】Capronilaan 46, 1119 NS Schiphol Rijk, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】ブランデレロ、ジュリオ・セザール
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンチュク、ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】モロヴ、ステファン
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-215039(JP,A)
【文献】特開2017-175808(JP,A)
【文献】特表2005-500655(JP,A)
【文献】米国特許第05463233(US,A)
【文献】特開2017-041585(JP,A)
【文献】特開平05-282978(JP,A)
【文献】特表2006-518920(JP,A)
【文献】特開平10-333756(JP,A)
【文献】特開2017-188983(JP,A)
【文献】特開平11-086703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 5/04
B81B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲートパッドと、ソースパッドと、受動アクチュエータとを備え、
前記受動アクチュエータは、前記受動アクチュエータの温度が閾値を超えた場合にのみ、前記ゲートパッドと前記ソースパッドとの可逆的な機械的且つ電気的接続を形成するように構成され、
所定レベルを上回るアクチュエータ電圧が印加されると、前記受動アクチュエータの温度を前記閾値よりも高い温度で維持する加熱手段を更に備える、装置。
【請求項2】
前記受動アクチュエータは、前記受動アクチュエータの温度が前記閾値を超えたときに少なくとも前記ソースパッドから前記ゲートパッドまで伸長する熱伸長性導電性材料を含む、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記受動アクチュエータは、前記ソースパッドに恒久的に接続されるとともに熱的に結合されている、
請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記ゲートパッド及び前記ソースパッドを支持する基板を更に備え、前記受動アクチュエータは、前記基板から延在している、
請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記受動アクチュエータは前記ソースパッドから延在している、
請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記受動アクチュエータは、微小電気機械システム技術を用いて製造されている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記ゲートパッドと前記ソースパッドとの接続状態を検出し、前記接続状態に基づいて信号を発生させる外部回路を更に備える、
請求項1~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記受動アクチュエータは、2つのアームを備え、各アームは第1の端部及び第2の端部を有し、前記各アームの前記第1の端部は互いに接続され、前記各アームの前記第2の端部は、それぞれ、前記ソースパッドの互いに異なる箇所に接続されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記加熱手段は、ジュール効果を通して前記受動アクチュエータを加熱する抵抗を有する、
請求項1~8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
記加熱手段は、ジュール効果を通して前記受動アクチュエータを加熱する抵抗を有し、前記受動アクチュエータの前記2つのアームのうちの少なくとも1つのアームは、ジュール効果を通して前記受動アクチュエータを加熱する前記抵抗は所定の幅を有する、
請求項8に記載の装置。
【請求項11】
記加熱手段は、ジュール効果を通して前記受動アクチュエータを加熱する抵抗を有し、前記受動アクチュエータの前記2つのアームのうちの少なくとも1つのアームは、4μm~40μmの幅を有する、
請求項8に記載の装置。
【請求項12】
前記受動アクチュエータは複数備えられ、各前記受動アクチュエータは、各前記受動アクチュエータの温度が前記受動アクチュエータごとに異なるそれぞれの閾値を超えた場合にのみ、前記ゲートパッドと前記ソースパッドとの可逆的な機械的且つ電気的接続を形成するように構成されている、
請求項1~11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
ゲートパッドと、ソースパッドと、受動アクチュエータとを備え、前記受動アクチュエータは、前記受動アクチュエータの温度が閾値を超えた場合にのみ、前記ゲートパッドと前記ソースパッドとの可逆的な機械的且つ電気的接続を形成するように構成されている装置を製造する方法であって、前記装置は所定レベルを上回るアクチュエータ電圧が印加されると、前記受動アクチュエータの温度を前記閾値よりも高い温度で維持する加熱手段を更に備え、
トランジスタ領域を備える装置を準備することと、
前記トランジスタ領域の表面の一部に犠牲酸化物を埋め込むことと、
埋め込まれた犠牲酸化物を含む前記トランジスタ領域の表面をメタライズして、前記ゲートパッドと、前記ソースパッドと、前記受動アクチュエータとを形成し、前記受動アクチュエータは前記犠牲酸化物の少なくとも一部の上に延在することと、
前記犠牲酸化物を除去することと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子スイッチの分野に関する。
【0002】
より正確には、本発明は、過熱状態から電子スイッチを保護する装置に関する。
【0003】
本発明は、さらに、こうした装置を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
本明細書における本発明の背景の論述は、本発明の背景事情を説明するために含まれている。これは、参照した資料のいずれもが、請求項のうちのいずれかの優先日において、公開されていたか、既知であったか、又は一般的な知識の一部であったということを容認するものとして、解釈されるべきではない。
【0005】
電子スイッチは、或る最大ジャンクション温度の下で動作するように作製されている(例えば、特許文献1)。この温度を超えて動作すると、熱暴走が発生し、デバイスに不可逆的な致命的故障に至る可能性がある。いくつかの過熱状態では、電子スイッチの温度は、約10μsの時間内において600℃を超える温度に上昇するものもある。
【0006】
過熱状態は、冷却システムの不良、電子スイッチから遠い箇所の短絡、誤った制御命令による脚部構成の短絡、又は装置の仕様外の動作など、種々の状況で発生する可能性がある。
【0007】
過熱状態に対する反応は、通常、過熱状態の原因を検出することに基づく。過熱状態の原因を検出する方法としては、ヒューズ、不飽和回路、ゲート電流若しくはゲート/エミッタ間電圧の監視、又はジャンクション温度センサが知られている。
【0008】
この手法では、それぞれの環境に対して多数のセンサ及びアクチュエータを必要とし、様々な誤動作を発生させる可能性がある。さらに、この手法では、電子スイッチを効率的に保護するために必要な迅速な動作と適合しない固有の遅延が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許5463233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術では、過熱状態から電子スイッチを確実に保護する一方で、過熱状態の原因が修復されたときに電子スイッチを再び動作させることができる検出手段はなかった。
【0011】
本発明の目的は、上述した欠点を克服する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このため、本発明は、ゲートパッドと、ソースパッドと、受動アクチュエータとを備え、受動アクチュエータは、受動アクチュエータの温度が閾値を超えた場合にのみ、ゲートパッドとソースパッドとの可逆的な機械的且つ電気的接続を形成するように構成されている、装置を提案する。
【0013】
有利なことに、本発明による装置は、過熱状態の原因にかかわらず、受動アクチュエータによって過熱状態から電子スイッチを保護することができる。実際、受動アクチュエータの温度が閾値を超えたときはいつでも、ゲートパッドとソースパッドとの間に機械的且つ電気的接続が形成される。
【0014】
有利なことに、本発明による装置は、過熱状態の原因が修復されると再び電子スイッチを動作可能にすることができる。実際、機械的且つ電気的接続は可逆的であり、受動アクチュエータの温度が閾値を超えた場合にのみ形成される。したがって、アクチュエータの温度が上記閾値未満であるとき、ゲートパッドとソースパッドとの間に機械的且つ電気的接続はない。
【0015】
単独で又は組み合わせて考慮することができる更なる実施の形態によれば、本発明による装置は、任意の採り得る組合せに従って、以下の特徴のうちの1つ又はいくつかを更に備えることができる。
- 受動アクチュエータは、受動アクチュエータの温度が閾値を超えたときに、少なくともソースパッドからゲートパッドまで伸長する熱伸長性の導電性材料を備えること、及び/又は、
- 受動アクチュエータは、ソースパッドに恒久的に接続されるとともに熱的に結合されていること、及び/又は、
- ゲートパッド及びソースパッドを支持する基板であって、受動アクチュエータが基板から延在しているもの、及び/又は、
- 受動アクチュエータはソースパッドから延在していること、及び/又は、
- 受動アクチュエータは、微小電気機械システム技術を用いて製造されていること、及び/又は、
- ゲートパッドとソースパッドとの接続状態を検出し、その接続状態に基づいて信号を発生させる外部回路、及び/又は、
- 受動アクチュエータは、2つのアームを備え、各アームは第1の端部及び第2の端部を有し、各アームの第1の端部は互いに接続され、各アームの第2の端部は、それぞれ、ソースパッドの互いに異なる箇所に接続されている、及び/又は、
- 所定レベルを上回るアクチュエータ電圧が印加されると、受動アクチュエータの温度を閾値よりも高い温度で維持する加熱手段、及び/又は、
- 加熱手段は、ジュール効果を通して受動アクチュエータを加熱する抵抗を有していること、及び/又は、
- 受動アクチュエータの少なくとも1つのアームは、ジュール効果を通してアクチュエータを加熱する抵抗は所定の幅を有していること、及び/又は、
- 受動アクチュエータの少なくとも1つのアームの幅は4μm~40μmであること、及び/又は、
- 受動アクチュエータが複数あること、及び/又は、
- 各受動アクチュエータは、受動アクチュエータの温度が受動アクチュエータごとに異なるそれぞれの閾値を超えた場合にのみ、ゲートパッドとソースパッドとの可逆的な機械的且つ電気的接続を形成するように構成されていること。
【0016】
本発明は、更に、ゲートパッドと、ソースパッドと、受動アクチュエータとを備え、受動アクチュエータは、受動アクチュエータの温度が閾値を超えた場合にのみ、ゲートパッドとソースパッドとの可逆的な機械的且つ電気的接続を形成するように構成されている、装置を製造する方法であって、
- トランジスタ領域を備える装置を準備することと、
- トランジスタ領域の表面の一部に犠牲酸化物を埋め込むことと、
- 埋め込まれた犠牲酸化物を含むトランジスタ領域の表面をメタライズして、ゲートパッドと、ソースパッドと、受動アクチュエータとを形成し、受動アクチュエータは犠牲酸化物の少なくとも一部の上に延在することと、
- 犠牲酸化物を除去することと、
を含む、方法に関する。
【0017】
本明細書において提供される説明とその利点とがより完全に理解されるように、ここで、添付図面及び詳細な説明に関連して、以下の簡単な説明を参照する。ここで、同様の参照番号は同様の部分を表す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】本発明の一実施形態による装置の概略図である。
図1B】通常動作温度での本発明の一実施形態による装置の上面図である。
図1C】通常動作温度での本発明の一実施形態による装置の側面図である。
図2A】通常動作温度での本発明の一実施形態による装置の上面図である。
図2B】過熱状態での図2Aの装置の上面図である。
図2C】通常動作温度状態と過熱状態とにおける本発明の一実施形態による装置の一部をそれぞれ示す、2つの上面図を模式的に重ね合せた図である。
図3A】本発明の一実施形態による方法のステップを示す図である。
図3B】本発明の一実施形態による方法のステップを示す図である。
図3C】本発明の一実施形態による方法のステップを示す図である。
図4】本発明の一実施形態による装置における過熱状態の前と過熱状態中とにおいて、ゲート/ソース間電圧、ゲート電流及び温度の時間変化を示す図である。
図5】本発明の一実施形態による方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図における要素は、明確に且つ簡潔にするために、又は情報を提供する目的で、全体的な又は概略的な形態で示す場合がある。図における要素は、必ずしも一定の縮尺で描かれてはいない。例えば、図における要素のうちのいくつかの寸法は、本発明の実施形態の理解を促進するのに役立つように、他の要素に対して誇張されている場合がある。
【0020】
以下、様々な実施形態の作成及び使用について詳細に論述するが、本明細書に記載するように、多種多様な状況で具現化することができる多くの発明の概念が提供されることが理解されるべきである。本明細書で論述する実施形態は、単に代表的なものであり、本発明の範囲を限定するものではない。当業者であれば、プロセスに関して定義される技術的特徴の全てを、個々に又は組み合わせて装置に置き換えることができ、逆に、装置に関する技術的特徴の全てを、個々に又は組み合わせてプロセスに置き換えることができることも明らかとなろう。
【0021】
図1A図1B及び図1Cに表すように、本発明は、ゲートパッド10と、ソースパッド20と、受動アクチュエータ30とを備える装置に関する。
【0022】
本発明の意味では、ゲートパッド10及びソースパッド20は、電子スイッチのゲートとソース又はエミッタとにそれぞれ対応するか、又は機械的に且つ電気的に接続された物理的要素である。ゲートパッド10及び/又はソースパッド20は、基板40の上に形成することができる。
【0023】
本発明の実施形態は、少なくとも3つの端子、すなわち、それぞれソース、ゲート及びドレイン、又はエミッタ、ゲート及びコレクタを有する、電界効果トランジスタ等、様々な種類の電子スイッチに適用することができる。電子スイッチは、開状態と閉状態との間で動作可能に切換えられる。閉状態とは、ゲート端子とソース又はエミッタ端子との間の電圧がゼロになることに対応する。
【0024】
実施形態では、装置は、上記に定義したような電子スイッチを備えるトランジスタ領域100を備えることができる。有利には、受動アクチュエータ30は、過熱状態から電子スイッチを自己保護する手段である。
【0025】
本発明の意味で、受動アクチュエータ30は、装置を制御するように適合された物理的コンポーネント又は機構を指す。
【0026】
「受動アクチュエータ30」という用語は、入力電気信号又は電源の必要なしに、且つアクチュエータを起動するためにいかなる種類の外部センサ又はアクショナーに接続する必要もなく、装置を動作させ且つ制御するように適合されたアクチュエータを指す。受動アクチュエータ30は、それ自体の温度によって作動する。
【0027】
受動アクチュエータ30は、受動アクチュエータ30の温度が閾値を超えた場合にのみ、ゲートパッド10とソースパッド20との可逆的な機械的且つ電気的接続を形成するように構成されている。
【0028】
言い換えれば、受動アクチュエータ30の温度が閾値以下である限り、ゲートパッド10及びソースパッド20は、互いに機械的に又は電気的に接続されない。
【0029】
受動アクチュエータ30の温度が、閾値以下である第1の値から閾値を上回る第2の値まで上昇した場合、受動アクチュエータ30は、ゲートパッド10とソースパッド20との間の機械的又は物理的接続と電気的接続とを同時に確立する。この機械的且つ電気的接続は、受動アクチュエータ30の温度が閾値よりも高い状態である限り、存続する。
【0030】
その後、受動アクチュエータ30の温度が閾値未満に低下した場合、受動アクチュエータ30によってそれまでに形成された機械的且つ電気的接続は切断される。
【0031】
したがって、受動アクチュエータ30は、オン/オフセンサとして機能する。このとき、オン状態は閾値温度を超えた状態であり、オフ状態は、閾値温度以下の状態である。
【0032】
有利には、機械的且つ電気的接続が閾値温度を上回って受動的に形成される結果、電子スイッチは、過熱から確実に保護される。実際に、電子スイッチは、不飽和化される。
【0033】
さらに、受動アクチュエータ30の温度が閾値を上回って上昇するとすぐに、電子スイッチの保護はいかなる外部回路なしに実現される。反対に、既知のシステム及び方法では、最初に過熱状態の原因を検出し、その後に保護を作動させることに関する時間要件を必要とする。
【0034】
さらに、受動アクチュエータ30は温度にのみ応答するため、誤作動のリスクが非常に低くなる。
【0035】
有利なことに、機械的且つ電気的接続が可逆的であるため、温度のいかなる検出を必要とすることなく、電子スイッチは、過熱状態の後に自動的に回復することができる。
【0036】
実施形態では、閾値は、電子スイッチの動作温度よりも著しく高く、且つ、クリープ温度、変形温度、熱暴走活性化温度又は溶融温度等、電子スイッチの故障を表す温度よりも低いように、あらかじめ決定される。閾値は、例えば、250℃~500℃の範囲であってよい。中間的な値としては、300℃、350℃、400℃又は450℃が挙げられる。
【0037】
受動アクチュエータ30は、熱膨張の増幅により動きを発生させるデバイスであるタイプの電熱アクチュエータとすることができる。こうしたアクチュエータは、アクチュエータを流れる電流から自己加熱することができ、それにより、自己の動きを可能にする。
【0038】
受動アクチュエータ30は、アルミニウム、チタン、金、銅、銀又は別の金属等、加熱により伸長する、熱伸長性材料36を含むことができる。
【0039】
熱伸長性材料36は、導電性であり、受動アクチュエータの温度が閾値を超えた場合にのみ、ソースパッド20からゲートパッド10まで少なくとも伸長するように構成することができる。
【0040】
受動アクチュエータ30は、ソースパッド20に恒久的に接続することができる。受動アクチュエータ30は、ゲートパッド10の方向においてソースパッド20から延在することができる。言い換えれば、受動アクチュエータ30及びソースパッド20は、モノリシックとすることができる。言い換えれば、ソースパッド20自体が、受動アクチュエータ30を構成することができる。その位置を考慮すると、受動アクチュエータ30の温度が閾値を上回るとき、受動アクチュエータ30の熱伸長性材料36は、ゲートパッド10と物理的に又は機械的に接触するようにゲートパッド10に向かって十分に伸長する。また、熱伸長性材料36が導電性でもあるとすれば、ゲートパッド10とソースパッド20との間に、電気的接続が同時に形成される。
【0041】
実施形態では、閾値未満の定格動作温度において、受動アクチュエータ30の熱膨張を制限して、ゲートパッド10に面している受動アクチュエータ30の端部における電界集中によるいかなる絶縁破壊も生じないように、受動アクチュエータ30とゲートパッド10との間の距離をあらかじめ決定された値に少なくとも維持する。
【0042】
実施形態では、装置は、ゲートパッド10に面している受動アクチュエータ30の端部における電界集中を制限する手段を更に備える。こうした手段は、受動アクチュエータ30の表面におけるSYLGARD(商標)527Hシリコーン誘電体ゲル等の誘電体ゲルの塗布を含むことができる。
【0043】
実施形態では、受動アクチュエータ30は、ソースパッド20及び/又はゲートパッド10と同じ基板40上に形成することができる。実施形態では、受動アクチュエータ30は、基板40から延在することができる。有利なことに、同じ製造チェーンを用いて、電子スイッチ及び受動アクチュエータ30を製造することができる。
【0044】
受動アクチュエータ30は、ソースパッド20に熱的に結合することができる。実施形態では、熱的結合は、何らかの既知の熱伸長性導電性材料の熱特性により、アクチュエータ30とソースパッド20との直接接触によって達成することができる。したがって、受動アクチュエータ30の温度はいつでも、実質的に、均一であるとともに、ソースパッド20の温度、そのため電子スイッチと実質的に等しい。有利なことに、受動アクチュエータ30は、電子スイッチの温度に直接反応する。
【0045】
受動アクチュエータ30は、動きをもたらすことができる微細なデバイスである、MEMSサーマルアクチュエータ、すなわち、微小電気機械(Micro-Electro-Mechanical)システム技術またはMEMSを用いて製造されたサーマルアクチュエータのタイプとすることができる。このような平面構造のアクチュエータは、平面内の動きをもたらすことができ、他の微小電気機械システムコンポーネントと容易に統合することができる。
【0046】
有利なことに、MEMS技術を用いることにより、受動アクチュエータ30の製造は、電子スイッチを製造する方法に含まれるステップとすることができる。特に、受動アクチュエータ30は、電子スイッチのゲート及びソースと同じ金属から形成することができ、したがって、単純な製造ステップが可能になる。
【0047】
図2Cに示すように、受動アクチュエータ30は、ばねアクチュエータMEMSのタイプとすることができる。ばねアクチュエータMEMSは、少なくとも第1のアーム70及び第2のアーム80を備え、各アーム70、80は、熱伸長性材料36から作製されている。第1のアーム70は、2つの端部72、74を有する。第2のアーム80は、2つの端部82、84を有する。第1のアームの第1の端部72及び第2のアームの第1の端部82は、直接又は間接的に互いに接続されている。第1のアームの第2の端部74及び第2のアームの第2の端部84は、ともにソースパッド20に接続されている。ソースパッド20に接続された第1のアーム70の第2の端部74と第2のアーム80の第2の端部84との間の距離は、dと示され、全ての温度に対して固定されている。有利なことに、2点固定から作成された三角形状により、熱伸長は1つの方向のみに発生する。
【0048】
図2Cによって示すように、受動アクチュエータ30は、第1のアーム70の第1の端部72と第2のアーム80の第1の端部82との間の接合部を形成する第3のアーム90を備えることができる。それにより、電界を低減し、その結果接点バウンスを低減することができる。
【0049】
実施形態では、装置は、ゲートパッド10に接続された外部回路50(図示せず)を更に備えることができる。外部回路50は、受動アクチュエータ30の温度又は温度範囲が導出可能であるパラメータを少なくとも検知するように適合されている。外部回路50は、ソースパッド20に更に接続することができる。外部回路50は、例えば、ゲートパッド10を流れる電流、又は、ゲートパッド10とソースパッド20等の回路の別の基準点との間の電圧、又はワット数を、検知又は監視することができる。
【0050】
外部回路50は、ゲートパッド10とソースパッド20との接続状態を検出するとともに、その接続状態に基づいて信号を発生させるように構成することができる。例えば、受動アクチュエータ30が、ゲートパッド10とソースパッド20との電気的接続を形成したとき、ゲートパッド10とソースパッド20との接続状態はオンである。
【0051】
実施形態では、電子スイッチ不飽和状態を、外部回路50により、ゲートを通る過電流として検出することができる(ユーザに対するフォールトフィードバック状態を可能にする)。このようにして、外部電流から発生するいかなる熱源の可能性を排除し、電子スイッチは、過熱状態の原因が修復されると、その後の動作を継続するために安全モードになる。
【0052】
図4に、過熱状態の検出を可能にする外部回路50の可能な実施態様を示す。図4は、
- ゲートパッド10とソースパッド20との間に印加される、通常動作状態で用いられる標準的な制御に対応する矩形波電圧に対応するゲート/ソース間電圧GSVの時間tに対する変化と、
- ゲート/ソース間電圧GSVを印加することによって生じる、ゲートパッド10を流れる電流に対応するゲート電流GCの時間tに対する変化と、
- 電子スイッチに熱的に結合された受動アクチュエータ30の温度値TEMPの時間tに対する変化と、
を同時に示している。
【0053】
瞬間t1において、受動アクチュエータ30の温度値は閾値を超え、受動アクチュエータ30は、ゲートパッド10とソースパッド20との間に機械的且つ電気的接続を形成する。
【0054】
ゲートを流れる電流は、或る特定の値GCPで固定される。値GCPは、ゲート/ソース間電圧と、ゲートパッド10の抵抗値と、受動アクチュエータ30の抵抗値との組合せに関連する。言い換えれば、外部回路50は、ゲートパッド10を流れるゲート電流の形状におけるプラトーを検知し、そのプラトーを、信号をアクティベートするトリガーとみなすことができる。
【0055】
外部回路50によって生成される信号は、メインコントローラへの電気信号、すなわち、過熱状態の結果として電子スイッチが安全モードに置かれたという音声及び/又は視覚的警告を表示するための信号を含むことができる。
【0056】
代替的に又はさらに、外部回路50によって生成される信号は、電子スイッチに印加されたゲート/ソース間電圧を遮断するために外部スイッチをアクティベートするコマンド信号を含むことができる。
【0057】
この意味で、受動アクチュエータ30が過熱故障により電子スイッチを自動的にオフにすることに対応して、ユーザに故障状態であることを通知することができる。
【0058】
実施形態では、装置は、加熱手段60(図示せず)を更に備えることができる。加熱手段60は、所定レベルを上回るアクチュエータ電圧が印加されると、受動アクチュエータ30を、閾値温度よりも高く維持するように適合されている。有利なことに、受動アクチュエータ30は、電子スイッチを安全モード又はオフ状態で維持するように制御することができる。この安全モードは、例えば、外部回路50が電子スイッチをオフにすることにより検知信号に応答するまで、維持することができる。
【0059】
加熱手段60は、値がジュール加熱による加熱の所定出力を発生させるように適合される抵抗を有することができる。
【0060】
実施形態では、受動アクチュエータ30は、加熱手段60を備えることができる。実際には、受動アクチュエータ30は、抵抗を有することができる。抵抗の値は、ゲート/ソース間電圧値に基づき、アクチュエータと環境との間の熱抵抗に更に基づき、受動アクチュエータ30が製造される材料の導電性に更に基づき、受動アクチュエータ30の形状を表す幾何学的パラメータに更に基づき、あらかじめ決定することができる。
【0061】
受動アクチュエータ30が、図2Cに示すように複数のアーム70、80を備える実施形態では、受動アクチュエータ30の少なくとも1つのアーム70は、ジュール加熱を通して受動アクチュエータ30を加熱する抵抗に関連する所定の幅を有することができる。
【0062】
例えば、アルミニウム、チタン、金、銅又は銀で作製された受動アクチュエータ30に対する好適な幅対長さ比は、0.5%~5%の範囲である。中間的な値としては、1%、2%、3%及び4%を採ることができる。
【0063】
実施形態では、受動アクチュエータ30の少なくとも1つのアーム70、80は、4μm~40μmの幅を有する。中間的な値としては、5μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm及び35μmを採ることができる。有利なことに、アーム70、80の特定の構成によって、ジュール効果を通して受動アクチュエータ30を加熱することにより、用途の必要に応じて機械的且つ電気的接続を維持することができる。
【0064】
有利なことに、過熱状態の場合に電子スイッチを確実に安全モードに維持するために、受動アクチュエータ30以外の追加の手段は不要であり、その結果、単純な設計となり、製造コストは最小限に維持される。
【0065】
実施形態によれば、図2A及び図2Bに示すように、装置は、複数の受動アクチュエータ30、32、34を更に備えることができる。各受動アクチュエータ30、32、34は、上記受動アクチュエータ30、32、34の温度が閾値を超えた場合にのみ、ゲートパッド10とソースパッド20との可逆的な機械的且つ電気的接続を形成するように構成されている。
【0066】
各受動アクチュエータ30、32、34は、ゲートパッド10を包囲するように、ソースパッド20の複数の箇所に恒久的に接続するとともに熱的に結合することができる。
【0067】
第1の受動アクチュエータ30は、第1の閾値を超える任意の温度においてのみソースパッド20とゲートパッド10とを接続するように構成することができる。
【0068】
第2の受動アクチュエータ32は、第1の閾値よりも高い第2の閾値を超える任意の温度においてのみ、ソースパッド20とゲートパッド10とを接続するように構成することができる。
【0069】
この実施形態では、電子スイッチの温度が、第1の閾値を超えるが第2の閾値を超えない場合、ゲート電流の時間変化は、第1の値でプラトーに達する。しかしながら、電子スイッチの温度が第2の閾値を超えると、ゲート電流の時間変化は、第2の値でプラトーに達する。
【0070】
有利なことに、電子スイッチ温度は、ゲート電流のプラトーの振幅に基づいて、外部回路50等により、別個の方法で推定することができる。
【0071】
実施形態によれば、各受動アクチュエータ30、32、34は、異なる抵抗を有する。
【0072】
図5に示すように、本発明はまた、上記装置を製造する方法に関する。
【0073】
本方法は、以下を含む。
- ステップ「PROV DEV」において、トランジスタ領域100を備える装置が準備され、
- ステップ「IMPL SACR」において、図3Aに示すように、トランジスタ領域100の表面の一部の上に犠牲酸化物110が埋め込まれ、
- ステップ「SURF METALL」において、埋め込まれた犠牲酸化物110を含むトランジスタ領域100の表面がメタライズされて、ゲートパッド10、ソースパッド20及び受動アクチュエータ30が形成され、受動アクチュエータ30は、図3Bに示すように、犠牲酸化物110の少なくとも一部の上に延在し、
- ステップ「REM SACR」において、図3Cに示すように、犠牲酸化物が例えば化学的侵食により除去される。
【0074】
本方法は、フォトリソグラフィ等、2層(two-level)MEMS技術によって実施することができる。
【実施例
【0075】
本明細書における実施例は、図2Cに示すより全体的な実施形態に対応する。受動アクチュエータ30は、ばねアクチュエータMEMSのタイプであり、第1のアーム70と、第2のアーム80と、第3のアーム90とを備える。各アーム70、80、90は、導電性でもある熱伸長性材料36であるアルミニウムから作製されている。
【0076】
第1のアーム70は、2つの端部72、74を有する。
【0077】
第2のアーム80は、2つの端部82、84を有する。
【0078】
第1のアームの第1の端部72及び第2のアームの第1の端部82は、第3のアーム90によって互いに接続されている。
【0079】
第1のアームの第2の端部74及び第2のアームの第2の端部84は、ともにソースパッド20に接続されている。
【0080】
周囲温度T1では、第1のアーム70及び第2のアーム80の長さはLで示され、第3のアーム90の長さはpで示され、受動アクチュエータ30の高さはhiで示されている。受動アクチュエータ30の温度が所与の温度T2まで上昇すると、δLで示す、第1のアーム70及び第2のアーム80の対応する伸長と、δpで示す、第3のアーム90の伸長とが発生する。熱伸長δLは、温度変化ΔT=T2-T1と、初期長さLと、材料による線形膨張係数αとの線形関係を用いて、計算することができる。熱膨張δLはまた、第3のアーム90の初期長さpからも計算することができる。次いで、所与の温度における受動アクチュエータ30の最終高さhfは、以下の式(1)によって定義することができる。
【数1】
【0081】
この例では、ゲートパッド10とソースパッド20との間の距離は、150μmである。ゲートパッド10の長さは1500μmである。受動アクチュエータ30は、24e-6/Kの熱膨張係数αを有するアルミニウムで作製されている。距離dは1450μmである。距離pは20μmである。初期高さhiは、T1=25℃で127μmであり、T2=300℃ではhfは150μmであり、その結果、ゲートパッド10及びソースパッド20は互いに接続される。
【0082】
150℃の定格動作温度下では、受動アクチュエータ30とゲートパッド10との間の距離は11μmと十分に大きく、17V/μmの誘電強度を考慮すると、受動アクチュエータ30のアーム70の第1の端部72及びアーム80の第1の端部82における電界集中によるいかなる絶縁破壊も回避することができる点にも留意するべきである。
【0083】
アーム70、80の幅は、受動アクチュエータ30の温度が閾値を超えるとともに、受動アクチュエータ30がゲートパッド10とソースパッド20とを接続するとき、自己加熱による受動アクチュエータ30の温度上昇ΔTの関数で計算される。
【0084】
温度上昇は、wで示す、アーム70、80の幅によって制御することができる。この幅は、次式(2)により、或る特定のゲートドライバ電圧Vと、アーム70、80の或る特定の厚さεと、アーム70、80の材料抵抗率ρと、アーム70、80の長さlと、アーム70、80の熱抵抗Rthとによって求めることができる。
【数2】
【0085】
40℃の温度上昇は、バウンス効果を低減させて受動アクチュエータ30の電気的接続を維持するのに十分である。以下の値:500mK/W~50mK/Wの熱抵抗と、15Vのゲート電圧と、1.59×10-8Ω.mの抵抗率と、10μmの厚さと、725μmの長さとを考慮すると、アーム70、80の幅は、次式(3)により、4μm~40μmに含まれる。
【数3】
【0086】
本発明について、全体的な発明の概念を限定することなく実施形態を用いて上述した。さらに、本発明の実施形態は、いかなる制限もなしに組み合わせることができる。
【0087】
上記例示の実施形態を参照すると、当業者には、多くの更なる変更形態及び変形形態が想起される。なお、上記例示の実施形態は、専ら例としてのみ与えられ、本発明の範囲を限定することを意図するものはなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ画定される。
【0088】
特許請求の範囲において、「備える/含む」という用語は、他の要素もステップも除外するものではなく、個数が指定されていないものは、単数及び複数のものを含む。異なる特徴が互いに異なる従属請求項に列挙されていることのみをもって、これらの特徴の組合せを有利に用いることができないことを示すものではない。特許請求の範囲内のいかなる参照符号も、本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4
図5