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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】注射器及び注射ユニット
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/20 20060101AFI20230130BHJP
   A61M 5/142 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
A61M5/20
A61M5/142
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022178495
(22)【出願日】2022-11-07
【審査請求日】2022-11-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519449596
【氏名又は名称】アットドウス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515177608
【氏名又は名称】ヨダカ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100190274
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 滋之
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀剛
(72)【発明者】
【氏名】中道 聡
(72)【発明者】
【氏名】富永 一郎
(72)【発明者】
【氏名】平藤 衛
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/194041(WO,A1)
【文献】特表2021-508379(JP,A)
【文献】特表2014-523296(JP,A)
【文献】国際公開第2008/062869(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/199454(WO,A1)
【文献】特開2022-137427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/20
A61M 5/142
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、第2電極、及び前記第1電極と前記第2電極とで挟まれた多孔質体を含む駆動部と、
一端部に注射針が連結され、他端部が前記駆動部の前記第1電極側の端部に接続され、第1流路を有する前流路部と、
一端部が前記駆動部の前記第2電極側の端部に接続され、第2流路を有する後流路部と、
1又は複数のコンデンサを含み、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する電源部と、
前記駆動部、前記前流路部、及び前記後流路部を収容する筒状のケースと、
前記第1電極及び前記第2電極と前記コンデンサとの接続状態を切り替える切替機構部を備えた切替装置と、を有し、
前記駆動部は、
前記第1流路と前記第2流路とを連通する駆動流路が形成され、前記コンデンサに蓄えられた電荷により動作するものであ
前記切替機構部は、
前記第1電極が前記コンデンサのプラス端子側につながり、前記第2電極が前記コンデンサのマイナス端子側につながった吸引状態と、
前記第1電極が前記コンデンサのマイナス端子側につながり、前記第2電極が前記コンデンサのプラス端子側につながった吐出状態と、を有するものである、注射器。
【請求項2】
第1電極、第2電極、及び前記第1電極と前記第2電極とで挟まれた多孔質体を含む駆動部と、
一端部に注射針が連結され、他端部が前記駆動部の前記第1電極側の端部に接続され、第1流路を有する前流路部と、
一端部が前記駆動部の前記第2電極側の端部に接続され、第2流路を有する後流路部と、
第1コンデンサ、及び前記第1コンデンサよりも充電後の最大両端電圧及び最大静電容量が小さい第2コンデンサを含み、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する電源部と、
前記駆動部、前記前流路部、前記後流路部、及び前記電源部を収容する筒状のケースと、
前記第1電極及び前記第2電極と前記第1コンデンサ及び前記第2コンデンサとの接続状態を切り替える切替機構部を備えた切替装置と、を有し、
前記駆動部は、
前記第1流路と前記第2流路とを連通する駆動流路が形成さ、前記第1コンデンサ又は前記第2コンデンサに蓄えられた電荷により動作するものであ
前記切替機構部は、
前記第1電極が前記第1コンデンサのプラス端子側につながり、前記第2電極が前記第1コンデンサのマイナス端子側につながった吸引状態と、
前記第1電極が前記第2コンデンサのマイナス端子側につながり、前記第2電極が前記第2コンデンサのプラス端子側につながった吐出状態と、を有するものである、注射器。
【請求項3】
前記切替装置は、
前記切替機構部の状態の切替操作を受け付ける操作部を有する、請求項1又は2に記載の注射器。
【請求項4】
請求項に記載の注射器と、
前記注射器に含まれる前記コンデンサの充電用の充電器と、を有する注射ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体や気体を吐出あるいは吸引するために用いられる注射器及び注射ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
医療等の現場においては、注射器が頻繁に使用されている。一般に注射器は、薬液を体内に注入したり、体液や血液などを体内から吸引するために用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のような従来の注射器は、主に外筒とプランジャから構成されている。外筒は、後端部が大きく開口しており、該開口にプランジャが挿入される。外筒の先端部には、テーパ状に形成されたルアーチップ構造や、ロック機能を備えたルアーロック構造が採用され、主に注射針が接続される。プランジャは、外筒の内側に挿入され、プランジャの先端には、シールの役割を担うゴム製又はテフロン(登録商標)製のガスケットが付されている。
【0004】
注射器を用いる際、ユーザは、片手で外筒を押さえながら、もう片方の手でプランジャを引くことにより、外筒の先端部から液体や気体を外筒内部に吸引する。また、ユーザは、片手で外筒を押さえながら、もう片方の手でプランジャを押すことにより、外筒に溜め込んだ液体や気体を先端部から押し出す。
【0005】
注射器は、先端部に針が接続され、皮下注射や採血などの場面で特に多く使用される。より具体的に、注射器は、下記(1)~(8)などの用途で使用される。
(1)皮下注射(薬剤注射、ワクチン接種、麻酔注射、インスリン注射)
(2)静脈内注射(薬剤注射)
(3)筋肉内注射(薬剤注射、ワクチン接種)
(4)口腔内注射(歯科麻酔注射)
(5)採血
(6)生検用体液採取(がん検診、各種病気の検診)
(7)眼内前房水採取
(8)瀉血(=しゃけつ:うみ、老廃物採取)
【0006】
このように、注射器は、様々な場面で用いられ、医療を行う上でなくてはならない道具となっている。注射器は、17世紀頃から知られており、現行の形状は19世紀にはほぼ確立していたと言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-158179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
体液採取や採血のような吸引時において、従来の注射器を用いる場合、ユーザは、プランジャを大きく引っ張り、その状態を維持することで、外筒内部の陰圧を保持する。その際、ユーザは、プランジャに引かれる外筒を押さえながら刺した針を定位置で維持する行為を片手で行う必要がある。そのため、従来の注射器は、刺した針を定位置で安定的に維持することが難しく、針が抜けたり、さらに刺し込んだりする危険性がある。また、ユーザは、プランジャを強く引く行為と引いたプランジャを固定する行為とを、針の定位置維持に用いる手とは反対側の手、つまり片手で行う必要があるため、プランジャの位置固定も容易ではない。さらに、従来の注射器は、薬剤注射やワクチン接種など、液体又は気体の吐出時においても同様、プランジャの押し込み操作による影響も相俟って、刺した針の定位置での維持が困難であり、皮膚細胞組織の損傷や、患者等の被注射者の痛みにも繋がり得る。
【0009】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、操作が容易で且つ安全性の高い注射器及び注射ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る注射器は、第1電極、第2電極、及び第1電極と第2電極とで挟まれた多孔質体を含む駆動部と、一端部に注射針が連結され、他端部が駆動部の第1電極側の端部に接続され、第1流路を有する前流路部と、一端部が駆動部の第2電極側の端部に接続され、第2流路を有する後流路部と、1又は複数のコンデンサを含み、第1電極と第2電極との間に電圧を印加する電源部と、駆動部、前流路部、及び後流路部を収容する筒状のケースと、を有し、駆動部は、第1流路と第2流路とを連通する駆動流路が形成されており、コンデンサに蓄えられた電荷により動作するものである。
【0011】
本発明の一態様に係る注射ユニットは、上記の注射器と、注射器に含まれるコンデンサの充電用の充電器と、を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、電気浸透流ポンプとして機能する駆動部にコンデンサが電圧を印加するよう構成されており、プランジャを有さず、プランジャによる操作が不要なため、注射器の操作性を改善し、安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態1に係る注射器及び注射ユニットを例示した構成図である。
図2図1の注射器におけるケース内部の構成を例示した斜視図である。
図3図1の注射器を斜め後方から見た斜視図である。
図4】本発明の実施の形態2に係る注射器及び注射ユニットを例示した構成図である。
図5図4の注射器において上カバーを外した状態を例示した斜視図である。
図6図4の注射器の切替機構部の停止状態を例示した説明図である。
図7図4の注射器の切替機構部の吸引状態を例示した説明図である。
図8図4の注射器の切替機構部の吐出状態を例示した説明図である。
図9】本発明の実施の形態2の変形例Aに係る注射器に含まれる切替機構部の吸引状態を例示した説明図である。
図10】本発明の実施の形態2の変形例Aに係る注射器に含まれる切替機構部の吐出状態を例示した説明図である。
図11】本発明の実施の形態3に係る注射器及び注射ユニットを例示した構成図である。
図12図11の注射器において上カバーを外した状態を例示した斜視図である。
図13図11の注射器において下カバーを外した状態を例示した斜視図である。
図14図11の注射器の切替機構部の停止状態を例示した説明図である。
図15図11の注射器の切替機構部の吸引状態を例示した説明図である。
図16図11の注射器の切替機構部の吐出状態を例示した説明図である。
図17】本発明の実施の形態3の変形例Bに係る注射器に含まれる切替機構部を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1図3に基づき、実施の形態1における注射器10及び注射ユニット100の構成例について説明する。各図では、注射器10の向きにつき、便宜上、x軸方向を前後方向、y軸方向を左右方向、z軸方向を上下方向と定義し、特にx軸正方向を前方向とし、z軸正方向を上方向とする。以下では、各方向を各部材の向きや位置関係を示すために用いることがある。各図では、説明の便宜上、外部からは視認できない構成の一部又は全部を破線により記載し、煩雑さを避けるために符号等の一部を適宜省略する。
【0015】
注射ユニット100は、注射器10と充電器55とにより構成されている。注射器10は、駆動部20と、前流路部30と、後流路部40と、電源部50と、ケース80と、を有している。
【0016】
駆動部20は、樹脂により形成された基部22と、第1電極23aと、第2電極23bと、多孔質体24と、を含む。多孔質体24は、第1電極23aと第2電極23bとで挟まれている。第1電極23a及び第2電極23bは、例えば、導電性物質とゴムとを含んで形成されたゴム電極により構成され、一定程度の導電性を有している。多孔質体24は、第1電極23aを介して前流路部30と繋がっており、駆動液が浸透している。多孔質体24は、例えば多孔質セラミックにより形成される。
【0017】
ここで、液体を浸潤させた多孔質体の両端に電圧を印加すると、多孔質体内の液体が一方の電極側から他方の電極側に移動する現象(電気浸透流)が起こる。駆動部20は、多孔質体24に駆動液が浸潤しており、多孔質体24を挟んで対向する位置に第1電極23aと第2電極23bとが配置されている。よって、駆動部20は、一対の電極である第1電極23aと第2電極23bとの間に電圧が印加されると、電気浸透流ポンプとして機能する。駆動液は、例えば水やアルコール類など、電気浸透流ポンプに使用可能な液体であればよい。
【0018】
前流路部30は、一端部に、注射針90を連結するための連結部35が取り付けられている。注射針90は、針管91と針もと92とを有している。すなわち、前流路部30は、一端部に、連結部35を介して注射針90の針もと92が連結されている。前流路部30は、他端部が駆動部20の第1電極23a側の端部に接続されている。前流路部30は、一端部から他端部に亘って連通する第1流路31を有する。
【0019】
後流路部40は、一端部が駆動部20の第2電極23b側の端部に接続されており、他端部には通気穴45が形成されている。後流路部40は、一端部から他端部に亘って連通する第2流路41を有する。そして、駆動部20は、第1電極23aから第2電極23bに亘って形成され、第1流路31と第2流路41とを連通する駆動流路21を有する。
【0020】
電源部50は、コンデンサ51を含み、駆動部20の第1電極23aと第2電極23bとの間に電圧を印加するものである。すなわち、駆動部20は、コンデンサ51に蓄えられた電荷により動作するよう構成されている。電源部50は、コンデンサ51を収容する電源ケース52を有している。各図では、コンデンサ51として一般的な電解コンデンサを例示している。よって、電源ケース52は、一端が閉塞し、他端が開口した円筒状を成しており、コンデンサ51を固定するための凸部52aを有している。凸部52aは、コンデンサ51を電源ケース52に収容したとき、コンデンサ51の凹部51cに係合する。
【0021】
電源ケース52は、外側面における開口端側の箇所に、位置決め用のマーカ52sを有している。コンデンサ51は、プラス端子51aとマイナス端子51bとを有している。各図におけるコンデンサ51は、プラス端子51aの位置がマーカ52sの位置と合うよう電源ケース52に収容される。
【0022】
コンデンサ51の仕様は特に限定されない。ただし、駆動部20の動作速度、つまり駆動部20による液体等の吸引又は吐出の速度は、コンデンサ51の両端電圧(端子間電圧)に依存する。また、駆動部20による液体のトータルの処理量は、コンデンサ51の静電容量に依存する。そのため、コンデンサ51は、注射器10の用途に合わせ、第1電極23a及び第2電極23b等の抵抗も考慮の上、適切な仕様のものを選定するとよい。例えば、薬液の吸引及び吐出を想定する場合は、両端電圧が1V~1000Vで、静電容量が1μF~1000μFのコンデンサ51を採用するとよい。また、皮下注射の場合は、両端電圧が10V~500Vで、静電容量が10μF~500μFのコンデンサ51を採用するとよい。
【0023】
ケース80は、駆動部20、前流路部30、及び後流路部40を収容するものであり、筒状に形成されている。筒状には、円筒状のものの他、角筒状のものなども含む。各図に示すケース80は、上ケース81と下ケース82とにより構成されている。ケース80は、駆動部20、前流路部30、及び後流路部40が定置された下ケース82に、上ケース81を対向させて嵌め込むことで、一体的な構成となる。これにより、ユーザは、注射器10をペンのように握り、取り扱うことができる。
【0024】
上ケース81は、前後方向における中央の箇所に、電源ケース52を嵌め込むための開口を備えた受け部88を有している。受け部88は、電源ケース52の開口側の端部を支持するよう、上部が筒状に形成されている。受け部88の筒状の部分は、電源ケース52を嵌め込んだときにマーカ52sが隠れない程度の高さにするとよい。受け部88は、外側面における前方の箇所に前マーカ88aを有し、後方の箇所に後マーカ88bを有している。
【0025】
下ケース82は、後端部に、後流路部40を逃がすための切欠き80uを有していてもよい。このようにすれば、後流路部40を安定的に支持することができる。下ケース82は、駆動部20を配置するスペースと前流路部30を配置するスペースとの間に仕切りがあってもよく、該仕切りは、前流路部30を嵌め込んで支持するための切欠きを有していてもよい。下ケース82は、駆動部20を配置するスペースと後流路部40を配置するスペースとの間に仕切りがあってもよく、該仕切りは、後流路部40を嵌め込んで支持するための切欠きを有していてもよい。
【0026】
充電器55は、コンデンサ51に電圧を加え、電荷を蓄えるためのものである。充電器55は、例えば充電用の2つの端子を有しており、これらにコンデンサ51の各端子(51a、51b)を接触させることで、コンデンサ51を充電することができる。コンデンサ51としては、アルミ電解コンデンサ、タンタルコンデンサ、電気二重層コンデンサ、セラミックコンデンサ、フィルムコンデンサ、マイカコンデンサなど、種々のコンデンサを採用することができる。電源ケース52及び受け部88のサイズ及び形状は、コンデンサ51のサイズ及び形状に合わせて調整するとよい。
【0027】
次に、注射器10の使用方法の一例について説明する。コンデンサ51には、充電器55を用いて適時電荷が蓄えられるものとし、以下、コンデンサ51への蓄電処理については省略する。
【0028】
<吸引操作>
液体又は気体を吸引する場合、第1流路31に駆動液が貯留され、第2流路41に空気が入っている状態の注射器10を準備する。第1流路31は、駆動液で満たされている必要はなく、注射針90側(先端側)に空気が入っていてもよい。第2流路41には、空気だけでなく、駆動部20側に駆動液が貯留されていてもよい。ユーザは、注射器10のケース80を握り、例えば採血や体液採取等の場合は、人体等に注射針90の針先を刺し、薬液等を吸引する場合は、バイアルやアンプルなどに注射針90の針先を挿入する。
【0029】
次にユーザは、コンデンサ51が収容された電源ケース52を、マーカ52sの位置を前マーカ88aの位置に合わせて受け部88に嵌め込む。すると、第1電極23aがコンデンサ51のプラス端子51a側につながり、第2電極23bがコンデンサ51のマイナス端子51b側につながる。よって、多孔質体24内の駆動液が第1電極23a側から第2電極23b側へ移動する。つまり、駆動部20は、第1流路31内の駆動液を吸引するポンプとして機能し、注射針90を通じて第1流路31内に吸引対象の液体又は気体が流入する。吸引する液体等の量は、コンデンサ51への蓄電量、計時、又は目視等により調整するとよい。
【0030】
<吐出操作>
液体又は気体を吐出する場合、第1流路31に吐出用の液体又は気体が貯留され、第2流路41に駆動液が貯留されている状態の注射器10を準備する。ユーザは、注射器10のケース80を握り、例えば薬液やワクチンなどを注射する場合、人体等に注射針90の針先を刺す。ユーザは、吸引操作で第1流路31に吸い込んだ液体を容器に移す場合、該容器内又は該容器の上部に注射針90の針先を配置する。
【0031】
次にユーザは、コンデンサ51が収容された電源ケース52を、マーカ52sの位置を後マーカ88bの位置に合わせて受け部88に嵌め込む。すると、第1電極23aがコンデンサ51のマイナス端子51b側につながり、第2電極23bがコンデンサ51のプラス端子51a側につながる。よって、多孔質体24内の駆動液が第2電極23b側から第1電極23a側へ移動する。つまり、駆動部20は、第2流路41内の駆動液を吸引し、第1流路31内の液体を押し出すポンプとして機能し、注射針90の針先から液体又は気体を吐出する。吐出する液体等の量は、コンデンサ51への蓄電量、計時、又は目視等により調整するとよい。
【0032】
電源ケース52は、プラス端子51aの位置を示すプラスマーカと、マイナス端子51bの位置を示すマイナスマーカと、を有していてもよい。この場合、受け部88は、前マーカ88a及び後マーカ88bのうちの一方を有していればよい。もっとも、電源ケース52はマーカを有しなくてもよく、受け部88はマーカを有しなくてもよい。ただし、この場合、ユーザは目視等でコンデンサ51の両端子の極性を確認し、受け部88に電源部50を嵌め込む必要がある。
【0033】
以上のように、注射器10は、前流路部30と後流路部40とで挟まれた駆動部20と、コンデンサ51を含む電源部50と、を有している。すなわち、注射器10は、電気浸透流ポンプとして機能する駆動部20にコンデンサ51が電圧を印加するよう構成されている。したがって、従来の注射器に備わっていたプランジャが不要となり、プランジャによる操作も不要となるため、注射器の操作性を改善し、安全性を高めることができる。
【0034】
例えば、従来の注射器で口腔麻酔などを行う場合、ユーザは、片手で口唇や舌を抑えながら、別の片手で局所に針を刺し、刺した針を定位置で維持しながら、人差し指、中指、薬指などで外筒を押さえ、親指で少しずつプランジャを押していかなければならない。つまり、従来の注射器は、個人の手技の習熟度や経験に依拠する場面が多々あり、経験の浅い医師等が使用した場合、被注射者に負担をかけることも想定される。こうした事情があるにもかかわらず、注射器は、100年以上同じような形状が採られており、現行の形状では、多様化する医療の現場に対応しきれなくなっている。この点、注射器10は、注射針90を刺し終われば、コンデンサ51に蓄えられた電荷により、電動で液体が吸引され又は吐出されるため、刺した注射針90の定位置での維持が容易となる。したがって、ユーザの経験や習熟度の影響を低減することができ、安全性及び信頼性を高めることができる。
【0035】
実施の形態2.
図4図8に基づき、実施の形態2における注射器110及び注射ユニット200の構成例について説明する。上述した実施の形態1と同等の構成部材については同一の符号を用いて説明は省略又は簡略化する。各図での注射器110の向きは、実施の形態1と同様、垂直に交わる3軸(x軸、y軸、z軸)に対応づけている。各図では、説明の便宜上、外部からは視認できない構成の一部又は全部を破線により記載し、煩雑さを避けるために符号等の一部を適宜省略する。
【0036】
まず図4及び図5を参照し、注射ユニット200の全体的な構成について説明する。注射ユニット200は、注射器110と充電器155とにより構成されている。注射器110は、駆動部20と、前流路部30と、後流路部40と、電源部150と、切替装置60と、ケース180と、を有している。電源部150は、コンデンサ51を含み、駆動部20の第1電極23aと第2電極23bとの間に電圧を印加するものである。また、電源部150は、プラス端子51aの接続用の接点5aと、マイナス端子51bの接続用の接点5bと、を有している。
【0037】
ケース180は、駆動部20、前流路部30、後流路部40、及び電源部150を収容するものであり、筒状に形成されている。各図に示すケース180は、上ケース181と下ケース182とにより構成されている。ケース180は、駆動部20、前流路部30、後流路部40、及び電源部150が定置された下ケース182に、上ケース181を対向させて嵌め込むことで、一体的な構成となる。これにより、ユーザは、注射器110をペンのように握り、取り扱うことができる。
【0038】
上ケース181は、切替装置60を取り付けるための開口が形成されている。図4及び図5の上ケース181は、前流路部30の上部に切替装置60が取り付けられる。本実施の形態2の注射器110は、充電用の一対のコードを備えた充電器155を用いてコンデンサ51に充電するよう構成されている。そのため、上ケース181は、プラス端子51aとの接続用の挿入穴8aと、マイナス端子51bとの接続用の挿入穴8bと、を有している。
【0039】
下ケース182は、駆動部20を配置するスペースと前流路部30を配置するスペースとの間に仕切り83が設けられており、仕切り83は、前流路部30を嵌め込んで支持するための切欠き83aを有している。下ケース182は、駆動部20を配置するスペースと後流路部40を配置するスペースとの間に仕切り84が設けられており、仕切り84の上端部には、接点5a及び接点5bが取り付けられる端子台84aが設けられている。また、仕切り84は、後流路部40を嵌め込んで支持するための切欠き(図示せず)を有している。
【0040】
切替装置60は、第1電極23a及び第2電極23bとコンデンサ51との接続状態を切り替えるものであり、該接続状態の切替操作を受け付ける操作部61を有している。切替装置60は、操作部61のポジションの変化に連動して状態が切り替わる切替機構部70(図6図8参照)を有している。切替機構部70の詳細については後述する。切替装置60と各接点(5a、5b)とは、ケース180の内部で配線などにより接続されている。
【0041】
充電器155は、コンデンサ51に電圧を加え、電荷を蓄えるためのものである。ユーザは、充電器155の2本のコードそれぞれの先端電極を挿入穴8aと挿入穴8bとに差し込み、各先端電極をコンデンサ51の各端子に接続させることにより、コンデンサ51の充電を行うことができる。注射器110は、挿入穴8a及び挿入穴8bを有さず、ケース180の外側に充電用の一対の端子が設けられた構成を採ってもよい。この場合、充電器155は、注射器110を縦置き又は横置きにして充電できるよう、注射器110を載置する箇所に電極を備えた構成としてもよい。
【0042】
次いで、図6図8を参照し、駆動部20と切替機構部70とコンデンサ51との間の回路構成について説明する。切替機構部70は、コンデンサ51のプラス端子51a及びマイナス端子51bと、駆動部20の第1電極23a及び第2電極23bとに接続されている。切替機構部70は、第1切替部71と第2切替部72とを有している。第1切替部71は、第1電極23aをプラス端子51a側につないだ状態と、マイナス端子51b側につないだ状態とを切り替えるものである。第2切替部72は、第2電極23bをプラス端子51a側につないだ状態と、マイナス端子51b側につないだ状態とを切り替えるものである。
【0043】
切替機構部70は、図6に例示する停止状態と、図7に例示する吸引状態と、図8に例示する吐出状態と、を有している。停止状態は、駆動部20の動作を停止させている状態、すなわち多孔質体24に浸潤している駆動液の流動を停止させている状態である。切替機構部70が停止状態のとき、駆動部20には電圧が印加されず、コンデンサ51は蓄えている電荷を保持する。
【0044】
吸引状態は、第1電極23aがコンデンサ51のプラス端子51a側につながり、第2電極23bがコンデンサ51のマイナス端子51b側につながった状態である。切替機構部70が吸引状態のとき、駆動部20は、第1流路31内の駆動液を吸引するポンプとして機能し、多孔質体24内の駆動液が第1電極23a側から第2電極23b側へ移動する。よって、注射針90を通じて第1流路31内に吸引対象の液体又は気体が流入する。
【0045】
吐出状態は、第1電極23aがコンデンサ51のマイナス端子51b側につながり、第2電極23bがコンデンサ51のプラス端子51a側につながった状態である。切替機構部70が吐出状態のとき、駆動部20は、第2流路41内の駆動液を吸引し、第1流路31内の液体を押し出すポンプとして機能し、多孔質体24内の駆動液が第2電極23b側から第1電極23a側へ移動する。よって、注射器110は、切替機構部70が吐出状態のとき、注射針90の針先から液体又は気体を吐出する。
【0046】
操作部61には、切替機構部70の各状態に対応する3つのポジションが設定されている。すなわち、切替装置60は、操作部61のポジションとして、停止状態に対応する停止ポジションと、吐出状態に対応する吐出ポジションと、吸引状態に対応する吸引ポジションと、を有している。図4及び図5では、切替装置60として、スライド式のスイッチを例示しているが、これに限定されない。切替装置60は、少なくとも3段階の切り替えが可能なものであれば、プッシュスイッチ、トグルスイッチ、シーソースイッチ、ロータリースイッチ、マイクロスイッチ、リードスイッチ、ディップスイッチ、タクティルスイッチなど、種々のスイッチを採用してもよい。切替機構部70の構成は、図6図8の回路構成と同様に機能すれば、各図の例に限定されない。切替装置60は、プッシュスイッチを採用する場合、操作部61として、停止状態から吸引状態に切り替えるための切替ボタンと、停止状態から吐出状態に切り替えるための切替ボタンと、を有する構成を採るとよい。
【0047】
次に、注射器110の使用方法の一例について説明する。コンデンサ51には、充電器155を用いて適時電荷が蓄えられるものとし、コンデンサ51への蓄電処理については省略する。その他、注射器10の使用方法と同様の操作及び状態については説明を省略又は簡略化する。
【0048】
<吸引操作>
液体又は気体を吸引する場合、第1流路31に駆動液が貯留され、第2流路41には空気が入っており、切替機構部70が停止状態(図6参照)にある注射器110を用いる。このとき、操作部61は停止ポジションとなっている。ユーザは、注射器110のケース180を握り、人体等に注射針90の針先を刺し、又は容器等に注射針90の針先を挿入する。
【0049】
(停止状態→吸引状態)
次にユーザは、操作部61を吸引ポジションに切り替える。すると、切替機構部70は、第2切替部72の切替処理により、第2電極23bがマイナス端子51b側に接続された状態となる(図7参照)。すなわち、切替機構部70は吸引状態に切り替わり、注射針90を通じて第1流路31内に吸引対象の液体又は気体が流入する。
【0050】
(吸引状態→停止状態)
所定量の液体又は気体の吸引が終わると、ユーザは、操作部61を停止ポジションに切り替える。すると、切替機構部70は、第2切替部72の切替処理により、第2電極23bがプラス端子51a側に接続された状態、つまり停止状態に切り替わる(図6参照)。
【0051】
<吐出操作>
液体又は気体を吐出する場合、第1流路31に吐出用の液体又は気体が貯留され、第2流路41に駆動液が貯留され、切替機構部70が停止状態(図6参照)にある注射器110を用いる。ユーザは、注射器110のケース180を握り、人体等に注射針90の針先を刺し、又は容器内等に注射針90の針先を配置する。
【0052】
(停止状態→吐出状態)
次にユーザは、操作部61を吐出ポジションに切り替える。すると、切替機構部70は、第1切替部71の切替処理により、第1電極23aがマイナス端子51b側に接続された状態となる(図8参照)。すなわち、切替機構部70は吐出状態に切り替わり、注射針90の針先から液体又は気体が吐出される。
【0053】
(吐出状態→停止状態)
所定量の液体又は気体の吐出が終わると、ユーザは通常、操作部61を停止ポジションに切り替える。すると、切替機構部70は、第1切替部71の切替処理により、停止状態となる(図6参照)。なお、切替装置60としてプッシュスイッチを採用した場合、切替ボタンを押し下げた状態を解除すれば、切替機構部70は吸引状態又は吐出状態から停止状態に切り替わる。
【0054】
以上のように、注射器110は、前流路部30と後流路部40とで挟まれた駆動部20と、コンデンサ51を含む電源部50と、を有しており、コンデンサ51が駆動部20に電圧を印加するよう構成されている。そのため、注射器の操作性を改善し、安全性を高めることができる。また、注射器110は、注射針90を刺し終われば、コンデンサ51に蓄えられた電荷により、電動で液体が吸引され又は吐出されるため、刺した注射針90の定位置での維持が容易となる。よって、ユーザの経験や習熟度の影響を低減することができ、安全性及び信頼性を高めることができる。
【0055】
さらに、注射器110は、第1電極23a及び第2電極23bとコンデンサ51との接続状態を切り替える切替機構部70を備え、切替機構部70は吸引状態と吐出状態とを有している。したがって、手作業によるコンデンサ51の方向転換が不要となるため、作業性の向上を図ることができる。注射器110は、切替機構部70の状態の切替操作を受け付ける操作部61を有している。よって、ユーザは、人体等に刺した注射器110を定位置で維持し、かつ注射針90から液体を吸引又は吐出する作業を片手で行うことができるため、ユーザビリティーの向上を図ることができる。
【0056】
従来の注射器は、両手での操作が基本となるため、注射器の使用時には、生検時の超音波による観察など、他の作業を一時中断する必要が出てくる。この点、注射器110を用いれば、少なくとも注射針90を対象物に刺した後は、片手での操作が可能となる。また、注射器110は、容器からの液体吸引や容器への液体吐出に用いる場合、吸引操作及び吐出操作を片手で行うことができる。
【0057】
ところで、上記の説明では、切替機構部70が停止状態と吸引状態と吐出状態とを有する例を示したが、これに限定されない。切替機構部70は、吸引状態を有さず、停止状態及び吐出状態だけを有する構成としてもよい。この場合、切替装置60は、2段階の切替が可能なものであればよい。切替機構部70は、配線を用いて構成してもよく、集積回路等を用いたワンチップの構成であってもよい。他の効果等については、実施の形態1の注射器10と同様である。
【0058】
〔変形例A〕
図9及び図10を参照し、本実施の形態2の変形例Aに係る注射器110の切替機構部70A及びその周辺構成について説明する。本変形例Aにおける切替機構部70Aは、注射器110の吐出時において、第1電極23aとマイナス端子51bとの間に抵抗が介在するようになっており、図6図8に例示する構成とは、切替機構部70に対するコンデンサ51の向きが反転している。
【0059】
切替機構部70Aは、第1電極23aをプラス端子51a側に接続するための接点1pと、第2電極23bをプラス端子51a側に接続するための接点2pと、接点1pと接点2pとをつなぐ導線部3pと、を有している。切替機構部70Aは、第1電極23aをマイナス端子51b側に接続するための接点1mと、第2電極23bをマイナス端子51b側に接続するための接点2mと、接点1mと接点2mとをつなぐ導線部3mと、を有している。導線部3mには、駆動部20の動作速度を低減させる調整抵抗3Rが設けられている。調整抵抗3Rは、駆動部20が液体又は気体を吐出する速度を低減するよう配置されている。調整抵抗3Rは、固定抵抗に限らず、半固定抵抗又は可変抵抗により構成してもよい。
【0060】
図9に示すように、切替機構部70Aが吸引状態のときは、図7の切替機構部70と同等の接続状態となる。一方、図10に示すように、切替機構部70Aが吐出状態のときは、第1電極23aとマイナス端子51bとの間に調整抵抗3Rが介在するため、駆動部20への電流の流れが緩和される。よって、本変形例Aの駆動部20によれば、吐出時の動作速度を吸引時よりも遅くすることができる。
【0061】
実施の形態3.
図11図16に基づき、実施の形態3における注射器210及び注射ユニット300の構成例について説明する。上述した実施の形態1及び2と同等の構成部材については同一の符号を用いて説明は省略又は簡略化する。各図での注射器210の向きは、実施の形態1と同様、垂直に交わる3軸に対応づけている。各図では、説明の便宜上、外部からは視認できない構成の一部又は全部を破線により記載し、煩雑さを避けるために符号等の一部を適宜省略する。
【0062】
まず図11図13を参照し、注射ユニット300の全体的な構成について説明する。注射ユニット300は、注射器210と充電器255とにより構成されている。注射器210は、駆動部20と、前流路部30と、後流路部40と、電源部250と、切替装置160と、ケース280と、を有している。
【0063】
電源部250は、充電後の最大両端電圧及び最大静電容量が異なる2つのコンデンサを含み、駆動部20の第1電極23aと第2電極23bとの間に電圧を印加するものである。より具体的に、電源部250は、第1コンデンサ53と、第1コンデンサ53よりも充電後の最大両端電圧及び最大静電容量が小さい第2コンデンサ54と、を有している。第1コンデンサ53及び第2コンデンサ54は、注射器110の用途に合わせ、適切な仕様のものを選定するとよい。例えば、目の硝子体内に薬液を注入する場合、第1コンデンサ53として、両端電圧が400V、静電容量が100μFのコンデンサを用い、薬液20μLを10秒以内に針先から吸引して前流路部30に貯留してもよい。そして、第2コンデンサ54として、両端電圧が80V、静電容量が100μFのコンデンサを用い、前流路部30に貯留した薬液のうち10μLを40秒~60秒程度かけて目の硝子体内に吐出してもよい。体の局所に麻酔薬を注入する場合も、上記同様に第1コンデンサ53と第2コンデンサ54とを選定してもよい。
【0064】
第1コンデンサ53は、プラス端子53mとマイナス端子53nとを有している。電源部250は、プラス端子53mの接続用の接点5mと、マイナス端子53nの接続用の接点5nと、を有している。第2コンデンサ54は、プラス端子54pとマイナス端子54qとを有している。電源部250は、プラス端子54pの接続用の接点5pと、マイナス端子54qの接続用の接点5qと、を有している。
【0065】
ケース280は、駆動部20、前流路部30、後流路部40、及び電源部250を収容するものであり、筒状に形成されている。各図に示すケース280は、上ケース281と下ケース282とにより構成されている。ケース280は、駆動部20、前流路部30、後流路部40、及び電源部250が定置された下ケース282に、上ケース281を対向させて嵌め込むことで、一体的な構成となる。これにより、ユーザは、注射器210をペンのように握り、取り扱うことができる。
【0066】
上ケース281は、切替装置160を取り付けるための開口が形成されている。図11図13の上ケース281は、前流路部30の上部に切替装置160が取り付けられる。本実施の形態3の注射器210は、充電用の一対のコードを備えた充電器255を用いてコンデンサ51に充電するよう構成されている。そのため、上ケース281は、プラス端子53mとの接続用の挿入穴8mと、マイナス端子53nとの接続用の挿入穴8nと、プラス端子54pとの接続用の挿入穴8pと、マイナス端子54qとの接続用の挿入穴8qと、を有している。また、上ケース281は、内側に、接点5n及び接点5mが取り付けられる端子台87が設けられている。
【0067】
下ケース282は、駆動部20を配置するスペースと前流路部30を配置するスペースとの間に仕切り85が設けられており、仕切り85は、前流路部30を嵌め込んで支持するための切欠き85aが形成されている。下ケース282は、内側に、接点5p及び接点5qが取り付けられる端子台86が設けられている。
【0068】
切替装置160は、第1電極23a及び第2電極23bと、第1コンデンサ53及び第2コンデンサ54との接続状態を切り替えるものであり、該接続状態の切替操作を受け付ける操作部161を有している。また、切替装置160は、操作部161のポジションの変化に連動して状態が切り替わる切替機構部170(図14図16参照)を有している。切替機構部170の詳細については後述する。切替装置160と各接点(5m、5n、5p、5q)とは、ケース280の内部で配線などにより接続されている。
【0069】
充電器255は、第1コンデンサ53及び第2コンデンサ54に電圧を加え、電荷を蓄えるためのものである。充電器155と同様、先端に電極を備えた2本のコードを有している。充電器255は、充電用の挿入穴(8m、8n、8p、8q)を有さず、ケース280の外側に各コンデンサの充電用の端子が設けられた構成を採ってもよい。この場合、充電器255は、注射器210を縦置き又は横置きにして充電できるよう、注射器210を載置する箇所に電極を有する構成としてもよい。
【0070】
次いで、図14図16を参照し、駆動部20と切替機構部170と第1コンデンサ53及び第2コンデンサ54との間の回路構成について説明する。切替機構部170は、第1コンデンサ53のプラス端子53m及びマイナス端子53nと、第2コンデンサ54のプラス端子54p及びマイナス端子54nと、駆動部20の第1電極23a及び第2電極23bとに接続されている。切替機構部170は、第1切替部171と第2切替部172とを有している。
【0071】
第1切替部171は、第1電極23aを第1コンデンサ53のプラス端子53m側につないだ状態と、第1電極23aを第2コンデンサ54のマイナス端子54q側につないだ状態とを切り替えるものである。第2切替部172は、第2電極23bを第1コンデンサ53のマイナス端子53n側につないだ状態と、第2電極23bを第2コンデンサ54のプラス端子54p側につないだ状態とを切り替えるものである。
【0072】
切替機構部170は、図14に例示する停止状態と、図15に例示する吸引状態と、図16に例示する吐出状態と、を有している。切替機構部170の各状態に対応する駆動部20の動作は、実施の形態2と同様である。すなわち、停止状態は、駆動部20の動作を停止させている状態である。吸引状態は、第1電極23aが第1コンデンサ53のプラス端子53m側につながり、第2電極23bが第1コンデンサ53のマイナス端子53n側につながった状態である。切替機構部170が吸引状態のとき、駆動部20は、第1流路31内の駆動液を吸引するポンプとして機能するため、注射針90を通じて第1流路31内に、吸引対象の液体又は気体が流入する。
【0073】
吐出状態は、第1電極23aが第2コンデンサ54のマイナス端子54q側につながり、第2電極23bが第2コンデンサ54のプラス端子54p側につながった状態である。切替機構部170が吐出状態のとき、駆動部20は、第1流路31内の液体を押し出すポンプとして機能し、注射針90の針先から液体又は気体を吐出させる。本実施の形態3における注射器210は、第1コンデンサ53よりも第2コンデンサ54の方が充電後の両端電圧が小さいため、吐出時の駆動部20の動作速度を吸引時よりも遅くすることができる。したがって、例えば、薬液を容器から吸引する場合のように、人体等に影響が及ばない場面では、吸引速度を速めて時間短縮を図り、薬液を人体等に注入する場面では、安全性等を考慮して吐出速度を緩める、といったポンプ制御が可能となる。
【0074】
切替装置160は、操作部161のポジションとして、停止状態に対応する停止ポジションと、吐出状態に対応する吐出ポジションと、吸引状態に対応する吸引ポジションと、を有している。図11及び図12では、切替装置160として、スライド式のスイッチを例示しているが、少なくとも3段階の切り替えが可能なものであれば、トグルスイッチやプッシュスイッチなどの種々のスイッチを採用してもよい。切替機構部170の構成は、図14図16の回路構成と同様に機能すれば、各図の例に限定されない。
【0075】
次に、注射器210の使用方法の一例について説明する。第1コンデンサ53及び第2コンデンサ54には、充電器255を用いて適時電荷が蓄えられるものとし、第1コンデンサ53及び第2コンデンサ54への蓄電処理については省略する。その他、注射器10及び110の使用方法と同様の操作及び状態については説明を省略又は簡略化する。
【0076】
<吸引操作>
液体又は気体を吸引する場合、第1流路31に駆動液が貯留され、第2流路41には空気が入っており、切替機構部170が停止状態(図14参照)にある注射器210を用いる。ユーザは、注射器210のケース280を握り、人体等に注射針90の針先を刺し、又は容器等に注射針90の針先を挿入する。
【0077】
(停止状態→吸引状態)
次にユーザは、操作部161を吸引ポジションに切り替える。すると、切替機構部170は、第2切替部172の切替処理により、第2電極23bがマイナス端子53n側に接続された状態となる(図15参照)。すなわち、切替機構部170は吸引状態に切り替わり、注射針90を通じて第1流路31内に、吸引対象の液体又は気体が流入する。
【0078】
(吸引状態→停止状態)
所定量の液体又は気体の吸引が終わると、ユーザは、操作部161を停止ポジションに切り替える。すると、切替機構部170は、第2切替部172の切替処理により、第2電極23bがプラス端子54p側に接続された状態、つまり停止状態に切り替わる(図14参照)。
【0079】
<吐出操作>
液体又は気体を吐出する場合、第1流路31に吐出用の液体又は気体が貯留され、第2流路41に駆動液が貯留され、切替機構部170が停止状態にある注射器110を用いる。ユーザは、注射器210のケース280を握り、人体等に注射針90の針先を刺し、又は容器内等に注射針90の針先を配置する。
【0080】
(停止状態→吐出状態)
次にユーザは、操作部161を吐出ポジションに切り替える。すると、切替機構部170は、第1切替部171の切替処理により、第1電極23aがマイナス端子54q側に接続された状態となる(図16参照)。すなわち、切替機構部170は吐出状態に切り替わり、注射針90の針先から液体又は気体が吐出される。
【0081】
(吐出状態→停止状態)
所定量の液体又は気体の吐出が終わると、ユーザは通常、操作部161を停止ポジションに切り替える。すると、切替機構部170は、第1切替部171の切替処理により、停止状態となる(図14参照)。
【0082】
以上のように、注射器210は、前流路部30と後流路部40とで挟まれた駆動部20と、第1コンデンサ53及び第2コンデンサ54を含む電源部250と、を有している。そして、注射器210は、第1コンデンサ53又は第2コンデンサ54が駆動部20に電圧を印加するよう構成されている。したがって、従来の注射器に備わっていたプランジャが不要となり、プランジャによる操作も不要となるため、注射器の操作性を改善し、安全性を高めることができる。また、注射器210は、注射針90を刺し終われば、第1コンデンサ53又は第2コンデンサ54に蓄えられた電荷により、電動で液体が吸引され又は吐出されるため、刺した注射針90の定位置での維持が容易となる。よって、ユーザの経験や習熟度の影響を低減することができ、安全性及び信頼性を高めることができる。
【0083】
さらに、注射器210は、第1電極23a及び第2電極23bと、第1コンデンサ53又は第2コンデンサ54との接続状態を切り替える切替機構部170を備え、切替機構部170は吸引状態と吐出状態とを有している。したがって、手作業によるコンデンサ51の方向転換が不要となるため、作業性の向上を図ることができる。加えて、注射器210は、切替機構部170の状態の切替操作を受け付ける操作部161を有している。よって、ユーザは、人体等に刺した注射器210を定位置で維持しつつ注射針90から液体を吸引し又は吐出する作業を片手で行うこともできるため、ユーザビリティーの向上を図ることができる。
【0084】
そして、注射器210は、第1コンデンサ53よりも第2コンデンサ54の方が充電後の最大両端電圧及び最大静電容量が小さいため、液体等の吐出速度を吸引速度よりも遅くすることができる。したがって、吐出時の安全性を高めると共に、吸引時の迅速性を確保することができる。他の効果等については、注射器10及び注射器110と同様である。もっとも、第1コンデンサ53及び第2コンデンサ54としては、充電後の最大両端電圧及び最大静電容量が互いに等しいコンデンサを用いてもよい。
【0085】
上記の説明では、2つのコンデンサを吸引時と吐出時とで使い分ける構成例を示したが、これに限定されない。注射器210は、駆動部20の電源としての3つ以上のコンデンサの使い分けが可能な構成を採ってもよい。かかる構成を採る場合、例えば吐出時の速度を段階的に変化させるなど、用途に応じて切替機構部170を組み替え、これに合わせて操作部161に係る機構等を調整するとよい。切替機構部170は、配線を用いて構成してもよく、集積回路等を用いたワンチップの構成であってもよい。
【0086】
〔変形例B〕
図17等を参照し、本実施の形態3の変形例Bに係る注射器210に含まれる切替機構部270及びその周辺構成について説明する。本変形例Bにおける注射器210は、切替装置160として、プッシュ式のスイッチを採用している。よって、外観の図示は省略するが、注射器210は、操作部161として、停止状態から吸引状態に切り替えるための第1切替ボタンと、停止状態から吐出状態に切り替えるための第2切替ボタンと、を有している。切替装置160は、図17に示す切替機構部270を有しており、第1切替ボタンの動きに連動する第1切替部271と、第2切替ボタンの動きに連動する第2切替部272と、を有している。
【0087】
図17に例示する切替機構部270は、第1コンデンサ53のプラス端子53m側に接続された第1回路部71Cと、第2コンデンサ54のプラス端子54p側に接続された第2回路部72Cと、を有している。第1回路部71Cは、トランジスタ71tと、補助電源71dと、第1切替部271と、を有している。第2回路部72Cは、トランジスタ72tと、補助電源72dと、第2切替部272と、を有している。補助電源71d及び補助電源72dは、例えばボタン電池により構成される。
【0088】
トランジスタ71tは、エミッタがプラス端子53mに接続され、ベースが補助電源71dのプラス側に接続され、コレクタが第1電極23aに接続されている。第1切替部271は、補助電源71dのマイナス側と、第1電極23aとトランジスタ71tのコレクタとをつなぐ導線に接続されている。
【0089】
トランジスタ72tは、エミッタがプラス端子54pに接続され、ベースが補助電源72dのプラス側に接続され、コレクタが第2電極23bに接続されている。第2切替部272は、補助電源72dのマイナス側と、第2電極23bとトランジスタ72tのコレクタとをつなぐ導線に接続されている。
【0090】
ユーザが第1切替ボタンを押下すると、第1切替部271がオンとなり、切替機構部270は吸引状態となる。より具体的に、第1切替部271がオンになると、第1回路部71Cに電流が流れ始め、それに起因して第1コンデンサ53と駆動部20とトランジスタ71tとが連結された回路にも電流が流れ始める。これにより、駆動部20が作動し、注射器210は液体等を吸引する。
【0091】
ユーザが第2切替ボタンを押下すると、第2切替部272がオンとなり、切替機構部270は吐出状態となる。より具体的に、第2切替部272がオンになると、第2回路部72Cに電流が流れ始め、それに起因して第2コンデンサ54と駆動部20とトランジスタ72tとが連結された回路にも電流が流れ始める。これにより、駆動部20が作動し、注射器210は液体等を吐出する。
【0092】
以上のように、本変形例Bの注射器210は、電気浸透流ポンプである駆動部20と、駆動部20の電源としてのコンデンサとの間にトランジスタを配置し、トランジスタのベース側には電池とスイッチとが配置されている。ここで、トランジスタは、ベースとエミッタとの間に微弱な電圧をかけると、エミッタとコレクタとの間に大きな電力(高電圧・高電流)を発生させることができる。つまり、注射器210は、図17のようにトランジスタが組み込まれており、補助電源が微弱電圧の発生源として機能するため、駆動部20にかかる電圧・電流を増幅することができる。よって、駆動部20の電源として高電圧のコンデンサを使用した場合でも、第1切替部271及び第2切替部272にかかる電圧を低減することができるため、図14図16の回路構成よりも耐電圧の低い切替装置160を使用することが可能となる。
【0093】
また、図17の切替機構部270は、第2コンデンサ54の充電後の最大両端電圧及び最大静電容量が第1コンデンサ53よりも小さいため、液体等の吐出速度を吸引速度よりも遅くすることができる。したがって、吐出時の安全性を高めると共に、吸引時の迅速性を確保することができる。もっとも、第1コンデンサ53及び第2コンデンサ54としては、充電後の最大両端電圧及び最大静電容量が互いに等しいコンデンサを用いてもよい。
【0094】
上述した各実施の形態は、注射器及び注射ユニットにおける好適な具体例であり、本発明の技術的範囲は、これらの態様に限定されるものではない。例えば、実施の形態1及び2では、1つのコンデンサ51を有する注射器10、110を例示したが、これに限定されない。注射器10、110は、駆動部20の電源として複数のコンデンサ51を有していてもよい。複数のコンデンサ51は、直列接続されたものであってよく、並列接続されたものであってもよく、これらの接続を組み合わせたものであってもよい。実施の形態3では、吸引時に用いる1つの第1コンデンサ53と、吐出時に用いる1つの第2コンデンサ54と、を有する注射器210を例示したが、これに限定されない。注射器210は、吸引時に用いる複数の第1コンデンサ53を有していてもよく、吐出時に用いる複数の第2コンデンサ54を有していてもよい。
【0095】
変形例Aの構成は、実施の形態3の注射器210に適用してもよい。このように、注射器210の切替機構部170又は切替機構部270に調整抵抗3Rを組み込めば、注射器210の吐出時又は吸引時における駆動部20の動作速度を低下させることができる。変形例Bの構成は、実施の形態2の注射器110にも適用してもよい。例えば、注射器110の切替機構部70が、吸引状態を有さず、停止状態及び吐出状態だけを有する構成を採る場合、第2回路部72Cのような低電圧回路を、第2電極23bとコンデンサ51のプラス端子51aとの間に設けるとよい。前流路部30及び後流路部40の形状等は、各図の例に限定されない。前流路部30及び後流路部40のうちの少なくとも一方は、S字形状、連続S字形状、蛇行形状など、種々の湾曲形状を採ってもよい。ただし、ケース80、180、280の省スペース化の観点から、他の構成部材の定置の妨げとならないよう留意する必要がある。
【0096】
1m、1p、2m、2p、5a、5b、5m、5n、5p、5q 接点、3m、3p 導線部、3R 調整抵抗、8a、8b、8m、8n、8p、8q 挿入穴、10、110、210 注射器、20 駆動部、21 駆動流路、22 基部、23a 第1電極、23b 第2電極、24 多孔質体、30 前流路部、31 第1流路、35 連結部、40 後流路部、41 第2流路、45 通気穴、50、150、250 電源部、51、53、54 コンデンサ、51a、53m、54p プラス端子、51b、53n、54q マイナス端子、51c 凹部、52 電源ケース、52a 凸部、52s マーカ、54 第2コンデンサ、55、155、255 充電器、60、160、260 切替装置、61、161 操作部、70、70A、170、270 切替機構部、71、171、271 第1切替部、71d、72d 補助電源、71t、72t トランジスタ、71C 第1回路部、72、172、272 第2切替部、72C 第2回路部、80、180、280 ケース、80u 切欠き、81、181、281 上ケース、82、182、282 下ケース、83、84、85 仕切り、83a、85a 切欠き、84a、86、87 端子台、88 受け部、88a 前マーカ、88b 後マーカ、90 注射針、91 針管、92 針もと、100、200、300 注射ユニット。
【要約】
【課題】操作が容易で且つ安全性の高い注射器及び注射ユニットを提供すること。
【解決手段】第1電極、第2電極、及び第1電極と第2電極とで挟まれた多孔質体を含む駆動部と、一端部に注射針が連結され、他端部が駆動部の第1電極側の端部に接続され、第1流路を有する前流路部と、一端部が駆動部の第2電極側の端部に接続され、第2流路を有する後流路部と、を有する注射器。注射器は、1又は複数のコンデンサを含み、第1電極と第2電極との間に電圧を印加する電源部を有する。注射器は、少なくとも駆動部と前流路部と後流路部とを収容する筒状のケースを有する。駆動部は、第1流路と第2流路とを連通する駆動流路が形成されており、コンデンサに蓄えられた電荷により動作するものである。
【選択図】図1

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