(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】評価装置、制御装置、操作主体感向上システム、評価方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20230130BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20230130BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20230130BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20230130BHJP
A61B 5/18 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
G08G1/16 F
A61B5/16 100
A61B10/00 W
A61B5/11
A61B5/18
(21)【出願番号】P 2018170741
(22)【出願日】2018-09-12
【審査請求日】2021-09-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2018年5月17日に「Spring Conference of the Ergonomics Society of Korea and 20th Korea-Japan Joint Symposium」(韓国人間工学会春季大会及び一般社団法人日本人間工学会第20回日韓ジョイントシンポジウム)の予稿集を配布 2018年5月17日に「Spring Conference of the Ergonomics Society of Korea and 20th Korea-Japan Joint Symposium」(韓国人間工学会春季大会及び一般社団法人日本人間工学会第20回日韓ジョイントシンポジウム)にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】和田 隆広
(72)【発明者】
【氏名】朝尾 隆文
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-200808(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0095708(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106426166(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
A61B 5/16
A61B 10/00
A61B 5/11
A61B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化する評価装置であって、
操作された前記被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、前記運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、前記入力値及び前記出力値の測定結果を用いて前記数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された前記内部パラメータに基づいて前記操作主体感の指標値を算出する演算部を備える
評価装置。
【請求項2】
前記入力値は、頭部運動の量を表す値である
請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記頭部運動の量を表す前記値は、頭部加速度、及び、頭部角速度のうちの少なくとも1つを含む
請求項2に記載の評価装置。
【請求項4】
前記不随意運動は、生体の反射である
請求項1~3のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項5】
前記生体の反射は、眼球運動を含む
請求項4に記載の評価装置。
【請求項6】
前記生体の反射に関連する前記出力値は、眼球の角速度、及び、角度のうちの少なくとも1つを含む
請求項5に記載の評価装置。
【請求項7】
前記生体の反射は、動揺病の発症を含む
請求項4に記載の評価装置。
【請求項8】
前記生体の反射に関連する前記出力値は、動揺病の程度の指標を含む
請求項7に記載の評価装置。
【請求項9】
前記数理モデルは、前記入力値に基づいて、遠心性コピーまたは感覚器を用いて得られる身体運動推定値に対応した値を算出し、前記身体運動推定値に対応した値に基づいて、不随意運動に関連する前記出力値を算出するよう構成されている
請求項1~8のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項10】
前記数理モデルは、前記入力値に基づいて遠心性コピーまたは感覚器を用いて得られる身体運動推定値に対応した値を算出する第1算出処理を含み、
前記内部パラメータは、前記第1算出処理における係数を含む
請求項1~9のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項11】
前記数理モデルは、前庭感覚器での知覚の処理に対応した処理を行って前記入力値から運動感覚量に対応した値を算出する処理と、中枢神経系に構築されている前庭感覚器の内部モデルでの運動感覚推定の処理に対応した処理を行って前記入力値から推定された運動感覚量である運動感覚推定量に対応した値を算出する処理と、を含み、
前記演算部は、前記運動感覚量と前記運動感覚推定量との差を用いて前記操作主体感の指標値を算出する
請求項1~10のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項12】
被操作装置をユーザ操作に基づいて動作させる制御装置であって、
操作者の前記被操作装置に対する操作主体感を定量化する評価装置からの、前記操作主体感の指標値に基づいて前記被操作装置を制御し、
前記評価装置は、操作された前記被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、前記運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、前記入力値及び前記出力値の測定結果を用いて前記数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された前記内部パラメータに基づいて前記操作主体感の指標値を算出する
制御装置。
【請求項13】
被操作装置と、
操作者の前記被操作装置に対する操作主体感を定量化する評価装置と、
前記評価装置から取得した前記操作主体感の指標値に基づいて前記被操作装置を制御する制御装置と、を備え、
前記評価装置は、操作された前記被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、前記運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、前記入力値及び前記出力値の測定結果を用いて前記数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された前記内部パラメータに基づいて前記操作主体感の指標値を算出する
操作主体感向上システム。
【請求項14】
操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化することで前記操作主体感を評価する
ことをコンピュータに実行させる方法であって、
操作された前記被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、前記運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、前記入力値及び前記出力値の測定結果を用いて前記数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された前記内部パラメータに基づいて前記操作主体感の指標値を算出する
評価方法。
【請求項15】
操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化する評価装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータを、
操作された前記被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、前記運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、前記入力値及び前記出力値の測定結果を用いて前記数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された前記内部パラメータに基づいて前記操作主体感の指標値を算出する演算部として機能させる
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、評価装置、制御装置、操作主体感向上システム、評価方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や建機等は、ユーザ操作に従って動作する被操作装置である。これら装置の技術開発が進み、その性能は大いに向上している。さらに高度な車両開発には、人間の感覚特性を加味した、運動操作性能のさらなる向上が望まれている。例えば、高度な車両として、運転支援を行う車両がある。
【0003】
運転支援機能を有する車両では、車両の制御システムと人とが協調して一つの作業を実現するような支援形態が存在する。人に対する乗り物の影響については、非特許文献にも紹介されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】上地,丸尾,和田,土居、「乗員の動揺知覚特性に基づく車酔いのモデル化に関する研究」、自動車技術会論文集、公益社団法人自動車技術会、2008年、第39巻第2号、pp.381-386
【文献】Joseph L. Demer, John G. Oas, Robert W. Baloh、“VISUAL-VESTIBULAR INTERACTION IN HUMANS DURING ACTIVE AND PASSIVE, VERTICAL HEAD MOVEMENT”、Journal of Vestibular Research、Vol. 3、pp.101-114、1993
【発明の概要】
【0005】
このような運転支援を利用する際に、人はしばしば違和感を覚えたり,操作感が低下したりすることが指摘されている。この違和感は操作者が当該操作を自分で行っている感覚である操作主体感と関連していると考えられている。そのため、機械操作への違和感の解消や操作感を向上させる観点から、操作主体感の定量化が望まれる。
【0006】
ある実施の形態に従うと、評価装置は操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化する評価装置であって、操作された被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、入力値及び出力値の測定結果を用いて数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された内部パラメータに基づいて操作主体感の指標値を算出する演算部を備える。
【0007】
他の実施の形態に従うと、制御装置は被操作装置をユーザ操作に基づいて動作させる制御装置であって、操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化する評価装置からの、操作主体感の指標値に基づいて被操作装置を制御し、評価装置は、操作された被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、入力値及び出力値の測定結果を用いて数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された内部パラメータに基づいて操作主体感の指標値を算出する。
【0008】
他の実施の形態に従うと、操作主体感向上システムは、被操作装置と、操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化する評価装置と、評価装置から取得した操作主体感の指標値に基づいて被操作装置を制御する制御装置と、を備え、評価装置は、操作された被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、入力値及び出力値の測定結果を用いて数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された内部パラメータに基づいて操作主体感の指標値を算出する。
【0009】
他の実施の形態に従うと、評価方法は操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化することで操作主体感を評価する方法であって、操作された被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、入力値及び出力値の測定結果を用いて数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された内部パラメータに基づいて操作主体感の指標値を算出する。
【0010】
他の実施の形態に従うと、コンピュータプログラムは操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化する評価装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、コンピュータを、操作された被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、入力値及び出力値の測定結果を用いて数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された内部パラメータに基づいて操作主体感の指標値を算出する演算部として機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施の形態にかかるシステムの構成の概略を示す図である。
【
図2】
図2は、システムに含まれる評価装置の装置構成の概略を示したブロック図である。
【
図3】
図3は、操作者の操作と不随意運動である眼球運動との関連を説明するための図である。
【
図5】
図5(A)~(D)は、
図4の半規管に対応した処理部、ローパスフィルタ、半規管の内部モデルに相当する処理部、及び、MSI算出部の内容を表した図である。
【
図6】
図6は、
図4の数理モデルを簡略化した図である。数理モデルに従った評価装置の演算部の処理の流れを表した図である。
【
図7】
図7は、演算部として機能する評価装置のプロセッサでの処理フローの一例を表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.評価装置、制御装置、操作主体感向上システム、評価方法、及びコンピュータプログラムの概要]
(1)本実施の形態に含まれる評価装置は操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化する評価装置であって、操作された被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、入力値及び出力値の測定結果を用いて数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された内部パラメータに基づいて操作主体感の指標値を算出する演算部を備える。
【0013】
被操作装置はユーザ操作に従って動作する装置であって、車両等の乗り物、マウスやタッチパネルなどの操作情報を入力する操作装置、などである。操作された被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激は、例えば、頭部に与えられる運動刺激(頭部運動)である。運動刺激に応じて生じる不随意運動は、測定可能な生体の事象であって、例えば、運動量を測定可能な生体の事象である。運動量を測定可能な生体の事象は、例えば、操作者の反射による運動である。操作者の反射による運動は、例えば、前庭動眼反射(VOR:Vestibulo-ocular reflex)、頸反射、瞳孔反射、動揺病の程度(MSI)、などである。
【0014】
不随意運動に関連する出力値は、運動指令のコピー(遠心性コピー)に基づいて、中枢神経系で構築される内部モデルにおける推定処理に対応した処理によって算出される。好ましくは、不随意運動に関連する出力値は、さらに、前庭感覚器による運動感覚信号に基づいて算出される。運動感覚信号は、前庭感覚器での知覚の処理に対応した処理により運動感覚量に対応した値として入力値から算出される値である。
【0015】
内部モデルでは、遠心性コピーに基づいて、運動感覚推定量に相当する値が算出される。好ましくは、内部モデルでは、遠心性コピーと、感覚器による運動感覚信号に基づく値とから、運動感覚推定量に相当する値が算出される。感覚器は、例えば、前庭感覚器である。前庭感覚器による運動感覚信号に基づく値は、例えば、前庭感覚器による運動感覚信号の値と運動感覚推定信号の値との差分である。運動感覚推定信号は、感覚器の内部モデルにおける推定処理に対応した処理によって算出される運動感覚量を示す信号である。
【0016】
数理モデルは、入力値から出力値を出力させる演算を実行させる演算モデルである。入力値及び出力値の測定結果を用いて数理モデルの有する内部パラメータを算出することは、数理モデルに基づく演算式に、数理モデルへの入力値の測定結果、及び、出力値の測定結果を代入することを含む。これにより、数理モデルの有する内部パラメータが算出される。演算部は、例えば、内部パラメータから操作主体感の指標値を得る演算式を予め記憶しておき、算出された内部パラメータを演算式に代入することで操作主体感の指標値を算出する。
【0017】
(2)好ましくは、入力値は、頭部運動の量を表す値である。これにより、身体に与えられた運動刺激を容易に測定できる。
【0018】
(3)好ましくは、頭部運動の量を表す値は、頭部加速度、及び、頭部角速度のうちの少なくとも1つを含む。これにより、加速度計やジャイロセンサなどを用いて容易に測定できる。
【0019】
(4)好ましくは、不随意運動は、生体の反射である。
【0020】
(5)好ましくは、生体の反射は、眼球運動を含む。これにより、不随意運動に関連する出力値を容易に測定できる。
【0021】
(6)好ましくは、生体の反射に関連する出力値は、眼球の角速度、及び、角度のうちの少なくとも1つを含む。これにより、眼球の撮影画像を解析するなどして容易に測定できる。
【0022】
(7)好ましくは、生体の反射は、動揺病の発症を含む。
【0023】
(8)好ましくは、生体の反射に関連する出力値は、動揺病の程度の指標を含む。動揺病の程度の指標は、例えば、動揺病発症率(MSI:Motion Sickness Incidence)である。MSIは、物理刺激に対して嘔吐に至る被験者数の割合である。動揺病の程度の指標は、例えば、運動情報を用いて、前庭感覚器での処理に対応した処理によって得られた運動感覚量と、前庭感覚器の内部モデルでの運動感覚推定の処理に対応した処理によって得られた運動感覚推定量と、に基づいて算出することができる。
【0024】
(9)好ましくは、数理モデルは、入力値に基づいて、遠心性コピーまたは感覚器による身体運動推定値に対応した値を算出し、身体運動推定値に対応した値に基づいて、不随意運動に関連する出力値を算出するよう構成されている。
【0025】
(10)好ましくは、数理モデルは、入力値に基づいて遠心性コピーまたは感覚器による身体運動推定値に対応した値を算出する第1算出処理を含み、内部パラメータは、この第1算出処理における係数を含む。第1算出処理は、例えば、入力値にゲインを乗じる処理である。この場合、内部パラメータはゲインに相当する。この内部パラメータを用いて指標値を算出することで、操作主体感を定量化することができる。
【0026】
(11)好ましくは、数理モデルは、前庭感覚器での知覚の処理に対応した処理を行って入力値から運動感覚量に対応した値を算出する処理と、中枢神経系に構築されている前庭感覚器の内部モデルでの運動感覚推定の処理に対応した処理を行って入力値から推定された運動感覚量である運動感覚推定量に対応した値を算出する処理と、を含み、演算部は、運動感覚量と運動感覚推定量との差を用いて操作主体感の指標値を算出する。算出された数理モデルの有する内部パラメータに基づいて操作主体感の指標値を算出することは、算出された内部パラメータを利用して演算された値を用い、指標値を算出することを含む。運動感覚量に対応した値を算出する処理における係数、及び、運動感覚推定量に対応した値を算出する処理における係数は、入力値及び出力値の測定結果を用いて算出される数理モデルの有する内部パラメータに含まれる。そのため、運動感覚量と運動感覚推定量との差を用いても、操作主体感を精度よく定量化することができる。
【0027】
(12)本実施の形態に含まれる制御装置は被操作装置をユーザ操作に基づいて動作させる制御装置であって、操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化する評価装置からの、操作主体感の指標値に基づいて被操作装置を制御し、評価装置は、操作された被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、入力値及び出力値の測定結果を用いて数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された内部パラメータに基づいて操作主体感の指標値を算出する。指標値に基づく被操作装置の制御は、例えば、評価装置からの指標値を予め記憶している閾値に近づけるように制御量を変化させることである。この制御装置は、(1)~(10)に記載の評価装置から取得した評価結果に基づいて被操作装置を制御するものであるため、これら評価装置と同様の効果を奏する。これにより、被操作装置の操作主体感を向上させることができる。
【0028】
(13)本実施の形態に含まれる操作主体感向上システムは、被操作装置と、操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化する評価装置と、評価装置から取得した操作主体感の指標値に基づいて被操作装置を制御する制御装置と、を備え、評価装置は、操作された被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、入力値及び出力値の測定結果を用いて数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された内部パラメータに基づいて操作主体感の指標値を算出する。この操作主体感向上システムは、(1)~(10)に記載の評価装置を含むものであるため、これら評価装置と同様の効果を奏する。これにより、被操作装置の操作主体感を向上させることができる。
【0029】
(14)本実施の形態に含まれる評価方法は操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化することで操作主体感を評価する方法であって、操作された被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、入力値及び出力値の測定結果を用いて数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された内部パラメータに基づいて操作主体感の指標値を算出する。この評価方法は、(1)~(10)に記載の評価装置における動揺病の程度の評価方法であるため、これら評価装置と同様の効果を奏する。
【0030】
(15)本実施の形態に含まれるコンピュータプログラムは操作者の被操作装置に対する操作主体感を定量化する評価装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、コンピュータを、操作された被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、入力値及び出力値の測定結果を用いて数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された内部パラメータに基づいて操作主体感の指標値を算出する演算部として機能させる。このコンピュータプログラムは、コンピュータを(1)~(10)に記載の評価装置として機能させるコンピュータプログラムであるため、これら評価装置と同様の効果を奏する。
【0031】
[2.評価装置、制御装置、操作主体感向上システム、評価方法、及びコンピュータプログラムの例]
[第1の実施の形態]
<システムの構成>
図1は、本実施の形態にかかるシステム100の構成の概略を示す図である。本システム100は、被操作装置の一例としての車両Vに対する、操作者(運転者)の操作主体感を評価するシステムである。被操作装置は、他の例として、船舶、電車、航空機、などの他の乗り物、マウスやタッチパネルなどの操作情報を入力する操作装置、などであってもよい。
【0032】
図を参照して、システム100は、評価装置1を含む。評価装置1は、車両V内に設置された第1のセンサSE1からのセンサ信号I1及び第2のセンサSE2からのセンサ信号I2を入力として演算を行い、その結果を出力する。
【0033】
第1のセンサSE1は、操作者の頭部に与えられる運動刺激を検出し、運動刺激に対応した運動情報を出力する。第1のセンサSE1の出力信号I1は、運動情報を表す。以下、第1のセンサSE1からの出力を運動情報I1ともいう。運動情報I1は、頭部加速度及び頭部角度である。その他、頭部速度、又は、これらのうちの2以上の組み合わせ、などであってもよい。第1のセンサSE1は、例えば、乗員の頭部(例えば帽子)に取り付けられ、頭部加速度を計測する加速度センサ、及び、頭部角度を計測するジャイロセンサである。
【0034】
なお、運動情報I1は、乗員の頭部に与えられる運動刺激とみなされる運動に関する情報であってもよく、例えば、車両V自体の加速度及び角度であってもよい。車両Vの加速度及び角度が車両Vの乗員のそれと同じであると推定されるためである。この場合、第1のセンサSE1は車載の加速度センサ及びジャイロセンサである。
【0035】
第2のセンサSE2は、操作者の操作による動作に関連して生じる不随意運動を検出し、不随意運動に関連した情報I2を出力する。不随意運動は、操作者の反射による運動を含み、例えば、前庭動眼反射(VOR:Vestibulo-ocular reflex)である。VORは、頭部運動を前庭器官(三半規管,耳石器)で受容し、眼球を頭とほぼ同じ速さで反転させることによって安定した視界を得るための、反射性の眼球運動である。
【0036】
不随意運動がVORである場合、情報I2は眼球運動情報であって、眼球の角速度、及び、角度のうちの少なくとも1つを含み、又は、両方であってもよい。眼球運動情報は、他の例として、操作者の眼球の撮影画像であってもよい。以下、第2のセンサSE2からの出力を眼球運動情報I2ともいう。第2のセンサSE2は、例えば、操作者の頭部(例えば帽子)に取り付けられ、操作者の眼球を撮影するカメラである。
【0037】
第1のセンサSE1及び第2のセンサSE2は、それぞれ、予め規定された間隔(例えば10msec間隔)でセンシングを実行し、運動情報I1及び眼球運動情報I2を評価装置1に対して出力する。
【0038】
以降の説明では、第1のセンサSE1及び第2のセンサSE2はそれぞれ独立したセンサであって、それぞれ、運動情報I1及び眼球運動情報I2を評価装置1に対して出力するものとする。
【0039】
システム100は、車両Vに搭載された運転制御装置5を含む。運転制御装置5は、被制御装置である車両Vに対する操作者の操作を支援する装置であって、例えば、車間距離制御(ACC:Adaptive Cruise Control)や先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance Systems)などである。運転制御装置5は、一例として、車載の電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)やゲートウェイなどで構成される。
【0040】
システム100は、運転制御装置5を制御する制御装置3を有する。制御装置3は、例えば、車両Vに搭載されている。制御装置3は、車両Vに含まれるECUや、1つ又は複数のECUを制御するゲートウェイ、などであってもよい。制御装置3は、評価装置1から演算結果の入力を受け付けて、演算結果に基づいて運転制御装置5を制御する。
【0041】
<評価装置の装置構成>
図2は、評価装置1の装置構成の概略を示したブロック図である。評価装置1は、プロセッサ11と、記憶部12と、を有する一般的なコンピュータなどで構成される。プロセッサ11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。
【0042】
評価装置1は、センサインタフェース(I/F)14を備える。センサI/F14は、第1のセンサSE1及び第2のセンサSE2それぞれと有線、又は、無線で接続されて、センサ信号I1,I2の入力を受け付ける。センサI/F14は、入力されたセンサ信号I1,I2をプロセッサ11に入力する。
【0043】
記憶部12は、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM、RAM(Random Access Memory)などを含む。記憶部12は、1又は複数のプログラムからなる演算プログラム121を記憶する。プロセッサ11は、センサ信号に応じて記憶部12に記憶された演算プログラム121を読み出し、演算処理111を実行する演算部110として機能する。演算プログラム121は、CD-ROMや(Compact Disc Read only memory)やDVD-ROM(Digital Versatile Disk ROM)などの記録媒体に記録した状態で譲渡することもできるし、サーバコンピュータなどのコンピュータ装置からのダウンロードによって譲渡することもできる。演算プログラム121は、ウェブブラウザ上で動作するいわゆるウェブアプリケーションであってもよいし、プロセッサ11でのみ動作するいわゆる専用アプリケーションであってもよい。
【0044】
評価装置1は、制御装置インタフェース(I/F)13を備える。制御装置I/F13は、制御装置3と有線、又は、無線で接続されている。制御装置I/F13は、演算プログラム121を実行することによるプロセッサ11での演算処理111の演算結果を、制御装置3に入力する。
【0045】
<操作主体感と不随意運動との関係の説明>
被操作装置を操作する際、操作者の脳から身体に対して操作指令が出力され、その指令に従って操作の動作が行われる。このときの人の運動制御をモデル化すると、次のように考えられる。すなわち、中枢神経系には、感覚器における物理刺激に対する処理の過程を模擬したモデルである内部モデルが構築されていると考えられている。内部モデルは、脳から出力された操作指令のコピーである遠心性コピーを用いて、脳からの指令に従って操作された車両Vの動きに伴って身体に与えられる刺激を予測(推定運動刺激)する。
【0046】
推定運動刺激に応じて、反射など不随意運動が生じる。この反射は、一例として前庭動眼反射である。例えば、内部モデルで操作によって身体に与えられる揺れが予測され(推定揺れ)、推定揺れに抗して視点を目標位置に保持するように、推定揺れと逆方向に眼球を移動させるなどと制御されることで前庭動眼反射が生じる。
【0047】
図3は、操作者の操作と不随意運動である眼球運動VORとの、以下に説明する人の内部での関連をモデル化した図である。図を参照して、操作者が目標とする運動(操作)を設定すると(ステップS1)、脳が、その操作を実現するための操作指令cを身体に与える(ステップS2)。例えば、ステップS1で右折するためにハンドルを右に回す操作が設定されると、ステップS2では、ハンドルに対して右回転のトルクを与える動作をさせる操作指令cが、ハンドルを把持する左右の手に対して与えられる。
【0048】
操作者の身体はこの指令cに従って操作動作をすることで(ステップS3)、被操作装置である車両Vに操作opが与えられる。車両Vは操作opに従って動き、その動きに伴って操作者の身体に運動刺激mが与えられる。
【0049】
身体に与えられた運動刺激mは、感覚器によって受容される(ステップS4)。感覚器は、例えば前庭感覚器であって、前庭感覚器は、耳石器及び半規管を含む。前庭感覚器では受容した運動刺激に対応した運動感覚信号(前庭感覚信号)sg1が生じる。ハンドルに右回転のトルクを与える操作opを行った場合、車両Vは右折するために、操作者の身体には右回転させる運動刺激mが与えられる。その運動刺激mは前庭感覚器によって右方向への傾きと右回転を伴った加速度として受容される。その結果、前庭感覚器は、受容した運動指摘mに応じた運動感覚信号sg1を出力する。
【0050】
身体運動推定値生成部において、身体運動推定値ccが生成される(ステップS5)。身体運動推定値生成部は、遠心性コピー模擬部を含む。脳から操作指令cが身体に与えられるとともに、遠心性コピー模擬部にも渡され、遠心性コピー模擬部において身体運動推定値ccが生成される(ステップS51)。なお、身体運動推定値ccは、遠心性コピーに加えて、他の感覚器からの感覚信号に基づいて生成されてもよい。他の感覚器からの感覚信号は、例えば、筋、関節などからくる深部感覚や、触覚による皮膚感覚受容器などの体性感覚である。身体運動推定値生成部は、体性感覚模擬部を含み、体性感覚模擬部において、深部感覚や皮膚感覚受容器などの体性感覚に基づいて身体運動推定値ccが生成される(ステップS52)。以降の説明での遠心性コピー等に基づいて身体運動推定値ccを生成する、との表現は、遠心性コピーのみに基づいて身体運動推定値ccを生成することと、他の感覚信号のみに基づいて生成することと、遠心性コピーと他の感覚信号との両方に基づいて生成することと、を含む。つまり、身体運動推定値生成部は、遠心性コピーまたは感覚器を用いて得られる身体運動推定値に対応した値を算出する。生成された身体運動推定値ccは、内部モデルに入力される。内部モデルは、中枢神経系に構築されていると考えられている、感覚器における物理刺激に対する処理の過程を模擬したモデルである。
【0051】
内部モデルは身体モデルと感覚器モデルとを含む。身体モデルは、遠心性コピー等によって生成された身体運動推定値ccに基づいて身体の動き(操作)を推定する(ステップS6)。感覚器モデルは、推定された身体の動きに基づいて、その操作がなされた車両Vの動きに伴って身体に与えられる運動感覚量を推定する。そして、感覚器モデルは、推定された運動感覚量を示す運動感覚推定信号sg2を出力する(ステップS7)。さらに、運動感覚量に対する反射としての眼球運動が生じる(ステップS8)。なお、ステップS8の眼球運動の量を算出する際に、身体運動推定値ccに加えて、身体運動推定値ccの他の運動感覚信号に示される値が用いられてもよい。他の運動感覚信号に示される値は、例えば、後述する感覚矛盾coである。
【0052】
また、運動感覚信号sg1に示される運動感覚量と運動感覚推定信号sg2に示される運動感覚量との差(誤差)coが算出される(ステップS9)。誤差coは感覚矛盾の一つである。算出された感覚矛盾coは身体モデルにフィードバックされてもよい。フィードバックされることで、上記のように、眼球運動の量を算出する際に遠心性コピー等によって生成された身体運動推定値ccに加えて感覚矛盾coが用いられる。また、感覚矛盾(例えば重力方向の運動感覚量の誤差)coに基づいて操作者の動揺病(いわゆる車酔い)の程度が算出されてもよい。動揺病の程度は、例えば、動揺病発症率(MSI:Motion Sickness Incidence)である。MSIは、物理刺激に対して嘔吐に至る被験者数の割合である。
【0053】
図4は、数理モデルMを示したブロック図である。数理モデルMは、不随意運動が生じる過程を模した処理をコンピュータに実行させる。
図4は、数理モデルMに従ったプロセッサpによって実現される各機能を示している。
【0054】
図4を参照して、数理モデルMは、運動刺激mに基づいてMSIを算出するための第1の数理モデルM1と、運動刺激mに基づいて反射眼球運動を推定して眼球運動情報VORを出力するための第2の数理モデルM2と、を含む。
【0055】
プロセッサpには、操作者の身体に与えられた運動刺激mが入力値として入力される。入力値は、操作者の頭部にかかる運動刺激を表す値であって、重力加速度gと慣性加速度aとの和である頭部加速度f(f=g+a)と、頭部角速度ωと、慣性加速度aと、である。
【0056】
プロセッサpは、感覚器処理部21を含む。感覚器処理部21は、前庭感覚器での運動知覚の処理に対応した処理を実行する。感覚器処理部21は、耳石器での運動知覚の処理に対応した処理を実行する処理部OTO、及び、半規管での運動知覚の処理に対応した処理を実行する処理部SCCを含む。処理部OTOには頭部加速度fが、処理部SCCには頭部角速度ωが入力される。処理部OTO及び処理部SCCの伝達特性は、いずれも頭部固定座標系で記述された式で表される。処理部OTOの伝達特性は単位行列で表される。
図5(A)は、処理部SCCの伝達特性を示している。処理部SCCの伝達特性は
図5(A)中の式(1)で表される。なお、式(1)中のτa、τdは時定数である。
【0057】
処理部OTOからは信号f’が出力され、処理部SCCからは信号ω’が出力される。信号f’及び信号ω’に対してローパスフィルタLPを適用することで、運動感覚量である、慣性加速度aの感覚量as、頭部角速度ωの感覚量ωs、及び、重力方向速度の感覚量vsが得られる。
図5(B)は、ローパスフィルタLPを示している。ローパスフィルタLPの特性は、
図5(B)中の式(2)で表される。なお、式(2)中のτは時定数である。感覚量as,ωs,vsは、
図3の運動感覚信号sg1に対応する。
【0058】
プロセッサpは、内部モデル処理部23を含む。内部モデル処理部23は、前庭感覚器の内部モデルでの運動感覚推定の処理に対応した処理を実行する。内部モデル処理部23は、耳石器の内部モデルに相当する処理部<OTO>と、半規管の内部モデルに相当する処理部<SCC>と、を含む。表記「<>」で挟まれた符号は、内部モデルに相当する処理を行う処理部を指している。以降の説明でも同様である。
【0059】
処理部<OTO>の伝達特性は単位行列で表される。
図5(C)は、処理部<SCC>の伝達特性を示している。処理部<SCC>の伝達特性は
図5(C)中の式(3)で表される。処理部<OTO>は信号41を出力し、処理部<SCC>は信号42を出力する。信号41,42に対してローパスフィルタ<LP>を適用することで、運動感覚推定量である、慣性加速度aの推定量as^、頭部角速度ωの推定量ωs^、及び、重力方向速度の推定量vs^が得られる。ローパスフィルタ<LP>の特性は、
図5(B)中の式(2)と同じである。推定量as^,推定量ωs^,vs^は、
図3の運動感覚推定信号sg2に対応する。
【0060】
プロセッサpは、誤差算出部26を含む。誤差算出部26は、感覚器処理部21で得られた運動感覚量と、内部モデル処理部23で得られた運動感覚推定量との誤差を算出する。誤差算出部26は、処理部OTO及び処理部SCCそれぞれから出力された感覚量as、感覚量vs、及び、感覚量ωsと、処理部<OTO>及び処理部<SCC>それぞれから出力された推定量as^、推定量ωs^、及び、推定量vs^との誤差Δa、Δv、Δωを算出し、それぞれを示す信号61,62,63を出力する。信号61,62,63の示す誤差Δa、Δv、Δωは、
図3の感覚矛盾coに対応する。
【0061】
プロセッサpは、適応処理部28を含む。適応処理部28は、
図3に示されたフィードバックに対応する処理を行う。すなわち、適応処理部28は、誤差算出部26から入力された誤差を蓄積し、内部モデルでの処理に適応させる処理を実行する。適応処理部28は、信号61,62,63に示される誤差Δa、Δv、Δωをそれぞれ積分し、それぞれにゲインKac、Kωc、Kvcを乗じて得られた処理後の誤差Δa’、Δv’、Δω’を出力する。
【0062】
プロセッサpは、コピー部22を含む。コピー部22は、ステップS5の身体運動推定値ccの生成を行う身体運動推定値生成部に相当する。コピー部22は、神経系での遠心性コピー等によって推定された運動の推定値の生成を模した第1算出処理を実行する。コピー部22には、頭部角速度ω及び慣性加速度aが入力される。第1算出処理は、一例として、運動刺激mに規定のゲインを乗じる処理である。コピー部22は、頭部角速度ωにゲインKωを乗じて得られた頭部角速度ω~、及び、慣性加速度aにゲインKaを乗じて得られた慣性加速度a~を出力する。頭部角速度ω~及び慣性加速度a~は、
図3の遠心性コピー等による身体運動推定値ccに対応する。
【0063】
プロセッサpは、統合処理部29を含む。統合処理部29は、自身の身体運動を把握するために人が行っている様々な感覚情報の統合に対応した処理である統合処理を実行する。統合処理部29には、適応処理部28から誤差Δa’、Δv’、Δω’、及び、コピー部22から頭部角速度ω~、慣性加速度a~が入力される。
【0064】
統合処理は、一例として加算処理である。そのため、統合処理部29は加算器64,65,67を含む。加算器67は、頭部角速度ω~と誤差Δω’とを加算した結果を示す信号54を処理部<SCC>に入力する。加算器64は、慣性加速度a~と誤差Δa’とを加算した結果を示す信号51を加算器65に入力する。加算器65は、慣性加速度a~と誤差Δa’との加算結果、と誤差Δv’とを加算した結果を示す信号53を処理部<OTO>に入力する。
【0065】
好ましくは、プロセッサpは、MSIを算出するMSI算出部27を含む。MSI算出部27には、誤差算出部26から出力された誤差Δvが入力される。誤差Δvは、主観的重力方向誤差(Subjective Vertical Conflict)とも呼ばれる。
【0066】
MSI算出部27は、誤差Δvに2次のHill関数及び2次遅れ伝達関数を適用する処理を実行する。
図5(D)はMSI算出部27を示している。MSI算出部27の2次のHill関数は
図5(D)中の式(4)で表される。また、MSI算出部27の2次遅れ伝達関数は
図5(D)中の式(5)で表される。
【0067】
MSIを算出する処理は第2算出処理の一例であって、感覚器処理部21、コピー部22、内部モデル処理部23、誤差算出部26、適応処理部28、統合処理部29、及び、MSI算出部27が、眼球運動推定量を算出する処理を実行する処理に含まれる。
【0068】
数理モデルM2に従う処理を実行するプロセッサpは、眼球運動算出部24を含む。眼球運動算出部24は、加算器68を含む。眼球運動算出部24は、第2算出処理の一例として、内部モデル処理部23で得られた運動感覚推定量に所定の演算を行うことで眼球運動量を予測し、眼球運動推定量を示す眼球運動情報VORを出力する。眼球運動推定量を算出する処理は、遠心性コピー等によって生成された身体運動推定値ccに対応する頭部角速度ω~及び慣性加速度a~と、その他の感覚情報である誤差Δa’、Δv’、Δω’とが用いられる。
【0069】
なお、眼球運動算出部24は、環境情報に基づいて眼球運動量を予測してもよい。すなわち、眼球運動算出部24は環境情報によって眼球運動推定量の算出方法を変えてもよい。環境情報は、例えば、被験者が見ている向き、被験者前方の環境、などである。
図4の例では、眼球運動算出部24は、眼球から注視対象までのベクトルp^を用いて眼球運動推定量を算出する。ベクトルp^は人間の眼球位置から注視点位置を結ぶベクトルを示す。
【0070】
眼球運動算出部24にも、信号51,54が入力される。眼球運動算出部24は、信号54で示される頭部角速度ω~と誤差Δω’との加算結果に対して反転処理を施すことによって角度眼球運動情報を得る。また、眼球運動算出部24は、信号51で示される慣性加速度a~と誤差Δa’との加算結果に対して時定数を考慮した積分を施すことで重力方向速度の推定値を得る。眼球運動算出部24は、重力方向速度の推定値に所定の定数を乗じて並進眼球運動情報を得、加算器68によって角度眼球運動情報に加算することで眼球運動情報VORを得る。
【0071】
ここで、Joseph L. Demer, John G. Oas, Robert W. Baloh、“VISUAL-VESTIBULAR INTERACTION IN HUMANS DURING ACTIVE AND PASSIVE, VERTICAL HEAD MOVEMENT”、Journal of Vestibular Research, Vol. 3, pp. 101-114, 1993)には、アクティブな(自分で能動的に自分の身体を動かす)被験者と、パッシブな(受動的に身体が動かされた)被験者とでは、前庭動眼反射の運動量が異なることが開示されている。そして、発明者らは、前庭動眼反射の運動量の相違は、人間が自分で能動的に自分の体を動かす場合と受動的に身体が動かされた場合とで生じるだけでなく、被操作装置に対する操作が能動的であるか受動的であるかによっても生じることを見出した。すなわち、発明者らは、被操作装置に対してアクティブな被験者とパッシブな被験者とでは前庭動眼反射の運動量が異なることを見出した。
【0072】
被操作装置に対してアクティブであるかパッシブであるかは、操作主体感が高い場合と低い場合とに対応していると考えることができる。アクティブであるかパッシブであるかによって前庭動眼反射の運動量が異なるという事実から、操作主体感の程度により前庭動眼反射の運動量が異なると考えられる。すなわち、前庭動眼反射の運動量は操作主体感を反映したものである。言い換えると、同じ運動刺激が身体に与えられている場合でも、被操作装置の操作者による操作主体感に応じて、操作者から測定される前庭動眼反射の量が異なると考えられる。
【0073】
図4の数理モデルMは、身体に与えられた運動刺激を入力値とし、その運動刺激に応じて生じる前庭動眼反射を出力値としたものである。同じ運動刺激が身体に与えられている場合でも、操作主体感に応じて、前庭動眼反射の量は異なることから、操作主体感が高い場合の数理モデルMの内部パラメータと、操作主体感が低い場合の数理モデルMの内部パラメータとは、異なるものとなる。このように、数理モデルMの内部パラメータは、操作主体感の程度を反映したものとなっている。従って、操作時に測定された入力値と出力値との関係を表す数理モデルMの内部パラメータは、操作主体感の程度を示すものといえる。
【0074】
ここで、
図4で示された数理モデルMを簡略化すると、
図6のように表される。すなわち、
図6を参照して、数理モデルMは、人の身体に与えられた運動刺激である頭部運動の運動量を表す入力値から、前庭動眼反射の運動量を出力値として出力する関数で表される。その関数の係数Kは、数理モデルMの内部パラメータである。係数Kは、
図4の各部における係数を総合したものと考えてもよいし、頭部運動の運動量を表す入力値から、前庭動眼反射の運動量を出力するシンプルな伝達関数の係数であると考えてもよい。
【0075】
操作主体感が小さくなると、操作時に測定された入力値と出力値との関係が、操作主体感が大きい場合の数理モデルMで得られる関係から乖離する。そのため、操作主体感が低い場合の操作時に測定された入力値と出力値との関係から逆算された数理モデルMの係数は、操作主体感が高い場合の係数Kとは値が異なる。つまり、操作時に測定された入力値と出力値との関係から得られた係数Kの値が、操作主体感が高い場合の値から乖離しているほど操作主体感が低くなる、とも言い換えることができる。
【0076】
そこで、本実施の形態にかかる評価装置1は、操作時に身体に与えられた運動刺激である入力値と、その運動刺激に応じて生じる前庭動眼反射である出力値との測定値を用いて係数Kを算出し、算出された係数Kの値に基づいて操作主体感を定量化する。
【0077】
<演算処理の概要>
演算処理111は、操作時に測定された入力値と出力値とから係数Kを算出し、算出された係数Kの値から操作者の操作主体感を示す指標値IDを算出する処理である。係数Kを算出するために、評価装置1は、数理モデルMに基づいた、入力値と出力値とから係数Kを算出するための第1の演算式を予め記憶しておく。演算部110は、第1のセンサSE1から運動情報I1、及び、第2のセンサSE2から眼球運動情報I2の入力を受け付けると、第1の演算式に代入することで係数Kを算出する。
【0078】
数理モデルMの内部パラメータである係数Kは、
図4の各部における係数を総合したものである。例えば、
図5の各部のうちのコピー部22以外の各部の係数は数理モデルMの内部パラメータの値に固定して、コピー部22の係数(ゲインKa,Kω)を未知数とすると、係数Kの値は、ゲインKa,Kωに相当する。係数Kは、コピー部22以外の係数であってもよい。
【0079】
算出された係数Kから指標値IDを算出するために、評価装置1は、係数Kの値から指標値IDを算出するための第2の演算式を予め記憶しておく。演算部110は、算出された係数Kの値を第2の演算式に代入することで指標値IDを算出する。第2の演算式は、例えば、係数Kの値から指標値を算出するための関数として構成される。
【0080】
第2の演算式は、例えば、以下の式である。
ID=-|K-1|+1
この場合、係数Kが0から2の間と仮定すると(0<K<2)、K=1のときに指標値IDは最大値1となり(ID=1)、K=0又はK=2のときに指標値IDは0となる(ID=0)。指標値IDが0であることは、操作主体感が0であることを意味する。
【0081】
他の例として、指標値IDは係数Kの値からのみならず、係数Kの値から求められる値から算出されてもよい。係数Kの値から求められる値は、例えば係数Kがコピー部22の係数(ゲインKa,Kω)である場合、身体運動推定値ccである。
【0082】
なお、操作時に測定された入力値と出力値とから、係数Kとして
図4に示された各部すべての係数を算出することができる。この場合、係数Kの値から求められる値として、例えば、誤差算出部26で算出される感覚器処理部21で得られた運動感覚量と、内部モデル処理部23で得られた運動感覚推定量との誤差であってもよい。この誤差から指標値IDが算出されてもよい。
【0083】
<演算処理の処理フロー>
図7は、演算部110として機能するプロセッサ11での処理フローの一例を表したフローチャートである。図を参照して、プロセッサ11は、第1のセンサSE1から操作者の頭部運動量の測定結果である運動情報I1と、第2のセンサSE2から操作者の眼球運動量の測定結果である眼球運動情報I2と、の入力を受け付ける(ステップS101)。
【0084】
プロセッサ11は、運動情報I1と眼球運動情報I2とを、予め記憶している数理モデルMに基づく上記の第1の演算式に代入することで、例えばコピー部22で用いられるゲインKω及びゲインKaである係数Kを算出する(ステップS103)。
【0085】
プロセッサ11は、算出された係数Kの値を、予め記憶している指標値IDを算出するための上記の第2の演算式に代入することで、指標値IDを算出する(ステップS105)。そして、プロセッサ11は、ステップS105で算出した指標値IDを制御装置3に対して出力する(ステップS107)。
【0086】
<実施の形態の効果>
評価装置1は、数理モデルMの内部パラメータである係数Kを用いて操作主体感の指標値IDを算出する。このため、操作者による被操作装置である車両Vの操作主体感を容易に定量化することができる。上記のように、前庭動眼反射などの不随意運動は操作主体感に関係するため、操作時に測定された身体に与えられた運動刺激及び不随意運動から求められた係数Kの値を用いることで、評価装置1では操作主体感を精度よく定量化できる。
【0087】
評価装置1において指標値IDが算出されることで、評価装置1を含む本実施の形態にかかるシステム100では、指標値IDを用いて被操作装置である車両Vの制御などに操作者の操作主体感を用いることができる。
【0088】
一例として、システム100では、車両Vの操作主体感を向上させるように車両Vの操作支援を行うことができる。例えば、制御装置3は操作主体感が高いと言える指標値IDの閾値を予め記憶しておき、評価装置1から入力された指標値IDの閾値からの乖離度合い(例えば差分)を算出する。制御装置3は、乖離度合いごとに運転制御装置5の制御量を予め記憶しておき、算出された乖離度合いに応じた制御量を指示する制御信号を運転制御装置5に対して出力する。つまり、操作主体感を高めるような制御量を運転制御装置5に指示する。制御量は、例えば、ハンドルトルクに対するヨーレートの特性(ゲイン)、ブレーキ効力(減速度/踏力)などである。これにより、本システム100では、車両Vの操作者の操作主体感を向上させることができる。
【0089】
他の例として、操作主体感は操作者による車両Vの操作への集中度も表していることに着目し、システム100では、集中度を向上させるように車両Vの操作支援を行うことができる。例えば、上記の例と同様にして、制御装置3は、指標値IDの閾値からの乖離度合いに応じた制御量を指示する制御信号を運転制御装置5に対して出力する。つまり、操作主体感、つまり、集中度を高めるような制御量を運転制御装置5に指示する。制御量は、例えば、エアコンの温度や、オーディオの音量、表示装置の輝度、などである。これにより、本システム100では、車両Vの操作者の操作への集中度を向上させることができる。
【0090】
[第2の実施の形態]
評価装置1で指標値IDの算出に用いられる不随意運動は、反射眼球運動に限定されない。数理モデルMで算出可能であり、すなわち、推定運動刺激に基づいて生じる生体の事象であり、かつ、測定可能な他の事象であってもよい。例えば、頸反射、瞳孔反射、動揺病の程度(MSI)、などであってもよい。これらの事象もまた、センサを用いて測定され、評価装置1は、センサから測定結果である生体信号を取得する。
【0091】
この場合も、評価装置1は、数理モデルMに基づく第1の演算式に、運動情報I1とセンサから得られた生体信号に示される運動量とを入力することで内部パラメータである係数Kを算出し、算出された係数Kの値から指標値IDを算出することができる。そのため、第1の実施の形態にかかるシステム100と同様に操作主体感を定量化することができる。また、操作主体感を向上させる制御や、操作への集中度を向上させる制御などを行うことができる。
【0092】
[第3の実施の形態]
評価装置1はシステム100のみならず、単独で用いられてもよい。例えば、評価装置1は通信機能を有し、評価結果を予め規定されたサーバ等の装置に対して出力してもよい。これにより、他の装置を用いて、運転支援機能の開発、車載装置の開発、などに用いることができる。
【0093】
[第4の実施の形態]
操作主体感は車両V等の乗り物に限定されず、スマートフォンやタブレット端末、PC(パーソナルコンピュータ)などの電子機器、テレビやエアコン(エアコンディショナ)などの家電製品、各種機器などの装置の操作主体感であってもよい。この場合も、評価装置1で操作主体感が定量化されることによって、これら装置の操作に対するレスポンスを制御したり、該当する機能を指標値IDに基づいて改良したり、操作主体感の向上が期待される。
【0094】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 :評価装置
3 :制御装置
5 :運転制御装置
11 :プロセッサ
12 :記憶部
13 :制御装置I/F
14 :センサI/F
21 :感覚器処理部
22 :コピー部
23 :内部モデル処理部
24 :眼球運動算出部
26 :誤差算出部
27 :MSI算出部
28 :適応処理部
29 :統合処理部
41 :信号
42 :信号
51 :信号
53 :信号
54 :信号
61 :信号
62 :信号
63 :信号
64 :加算器
65 :加算器
67 :加算器
68 :加算器
100 :システム
110 :演算部
111 :演算処理
121 :演算プログラム
I1 :運動情報
I2 :眼球運動情報
c :操作指令
cc :身体運動推定値
co :感覚矛盾
K :係数
Ka :ゲイン
Kac :ゲイン
Kω :ゲイン
Kωc :ゲイン
LP :ローパスフィルタ
m :運動刺激
M :数理モデル
M :数理モデル
M1 :第1の数理モデル
M2 :第2の数理モデル
MSI :動揺病発症率
op :操作
OTO :処理部
p :プロセッサ
sg1 :運動感覚信号
sg2 :運動感覚推定信号
SCC :処理部
SE1 :第1のセンサ
SE2 :第2のセンサ
V :車両
VOR :眼球運動
VOR :眼球運動情報
a :慣性加速度
as :感覚量
as^ :推定量
f :頭部加速度
f’ :信号
g :重力加速度
vs :推定量
vs^ :感覚量
Δa :誤差
Δa’ :誤差
Δv :誤差
Δv’ :誤差
Δω’ :誤差
ω :頭部角速度
ω’ :信号
ωs :感覚量
ωs^ :推定量