IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 静岡県公立大学法人の特許一覧 ▶ 日本ケミファ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-固体分散体 図1
  • 特許-固体分散体 図2
  • 特許-固体分散体 図3
  • 特許-固体分散体 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】固体分散体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20230130BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230130BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20230130BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230130BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230130BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230130BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230130BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230130BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20230130BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20230130BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20230130BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230130BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P7/00
A61P19/06
A61P13/12
A61P9/00
A61P9/12
A61P43/00 111
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/16
A61K9/10
A61K47/38
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019557268
(86)(22)【出願日】2018-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2018043788
(87)【国際公開番号】W WO2019107412
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2017227807
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】000228590
【氏名又は名称】日本ケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】板井 茂
(72)【発明者】
【氏名】野口 修治
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 康範
(72)【発明者】
【氏名】平野 益治
(72)【発明者】
【氏名】太田 隆
(72)【発明者】
【氏名】山川 富雄
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/12153(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136727(WO,A1)
【文献】上田 廣,非晶質薬物の製剤開発における固体物性評価の重要性,ファルマシア,2016年,Vol.52, No.5,pp.392-396,Online ISSN:2189-7026,
【文献】丹野 史枝,固体分散体キャリヤとしての添加剤HPMCAS(ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル)の物性に関する考察,薬剤学,2013年,Vol.73, No.4,pp.214-222
【文献】CURATOLO, W. et al.,Utility of hydroxypropylmethylcellulose acetate succinate (HPMCAS) for initiation and maintenance of,Pharm. Res.,2009年,Vol.26、No.6,pp.1419-1431
【文献】FRIESEN, D.T. et al.,Hydroxypropyl methylcellulose acetate succinate-based spray-dried dispersions: an overview,Mol. Pharm.,2008年,Vol.5, No.6,pp.1003-1019
【文献】SUN, D.D. et al.,Probing the mechanisms of drug release from amorphous solid dispersions in medium-soluble and medium,J. Control. Release,2015年,Vol.211,pp.85-93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】
(式中、Rは無置換のフェニル基、又は置換基により置換されたフェニル基を表し、前記置換基は、炭素数1~8のアルキル基、ハロゲン原子で置換された炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数2~8のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、フェニル基及びフェノキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基を表し、Rはシアノ基又はニトロ基を表し、Rは水酸基を表し、Xは酸素原子又は-S(O)-を表し、nは0~2の整数を表し、Yは酸素原子又は硫黄原子を表す)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩及びヒプロメロース誘導体を含み、
前記ヒプロメロース誘導体が、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル又はヒプロメロースフタル酸エステルである、固体分散体。
【請求項2】
が、無置換のフェニル基、又はハロゲン原子により置換されたフェニル基である請求項1記載の固体分散体。
【請求項3】
Xが酸素原子である請求項1又は2記載の固体分散体。
【請求項4】
Yが硫黄原子である請求項1~3のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項5】
一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩が非晶質である請求項1~4のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項6】
一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、ヒプロメロース誘導体との重量比が、1:0.1~1:25である請求項1~5のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項7】
ヒプロメロース誘導体が、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルであり、前記ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルにおける1モノマー単位当たりの置換割合が、メトキシ基:21.0~25.0%、ヒドロキシプロポキシル基:5.0~9.0%、アセチル基:7.0~11.0%であり、サクシノイル基:10.0~14.0%である、請求項1~6のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項8】
一般式(I)で表される化合物が、2-(3-シアノ-4-フェノキシフェニル)-7-ヒドロキシチアゾロ[5,4-d]ピリミジンである、請求項1~7のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項9】
一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、ヒプロメロース誘導体との重量比が、1:2~1:5である、請求項1~8のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項10】
一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、ヒプロメロース誘導体との重量比が、1:3~1:4である、請求項9記載の固体分散体。
【請求項11】
求項1~10のいずれか一項記載の固体分散体を、スプレードライ法で製造することを特徴とする、固体分散体の製造方法。
【請求項12】
求項1~10のいずれか一項記載の固体分散体を含有する医薬組成物。
【請求項13】
形製剤である請求項12記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いキサンチンオキシダーゼ阻害活性を有する化合物又はその医薬的に許容され得る塩、及びヒプロメロース誘導体を含む固体分散体に関する。
本願は、2017年11月28日に、日本に出願された特願2017-227807号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
高尿酸血症は痛風又は腎不全等を来たし、また冠動脈疾患の危険因子と考えられている。高血圧症をはじめとする生活習慣病の発症進展とも密接な関わりが指摘されている。したがって、高尿酸血症の治療は単に痛風の治療ばかりでなく、高齢化に伴う種々の生活習慣病の予防につながる。
現在、高尿酸血症の治療には、主にアロプリノール又はフェブキソスタット等のキサンチンオキシダーゼ阻害剤が用いられている。また、同様のメカニズムを有する化合物として、国際公開第2005/121153号パンフレット(特許文献1)記載の化合物が報告されている。
【0003】
本発明者らは、特許文献1に開示された高いキサンチンオキシダーゼ阻害活性を有する化合物について検討を行ったところ、本化合物を生体に経口投与したときの生体内における吸収性には、なお改善の余地があることを見出した。
【0004】
難溶性化合物の生体内における吸収性の改善方法については、難溶性化合物を微粉化する方法や、固体分散体とする方法が知られている。
例えば、非特許文献1には、化合物をナノレベルまで微粉化する方法が開示されている。特許文献2には、キサンチン誘導体をメタアクリル酸コポリマーに分散した固体分散体とする方法、特許文献3には、N4-(4-([1,2,4]トリアゾロ[1,5-a]ピリジン-7-イルオキシ)-3-メチルフェニル)-N6-(4,4-ジメチル-4,5-ジヒドロオキサゾール-2-イル)キナゾリン-4,6-ジアミン及び分散ポリマーを含む固体分散体とする方法が開示されている。
しかしながら、固体分散体とすることによって難溶性化合物の生体内における吸収性の改善を図るには、難溶性化合物を非晶質体にする必要があるが、難溶性化合物と高分子の組み合わせによっては、長期保存において、かかる難溶性化合物が非晶質体から結晶体へ転移するため、時間の経過とともに一定の溶解性が得られなくなるなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2005/121153号パンフレット
【文献】日本国特許第3938938号公報
【文献】日本国特許第5944514号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】難水溶性薬物の物性評価と製剤設計の新展開,株式会社シーエムシー出版,2010年、141~150頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特許文献1に開示された化合物又はその医薬的に許容され得る塩の生体内における吸収性を改善すること、及びそれらを有効成分として含有する医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特許文献1に開示された化合物又はその医薬的に許容され得る塩の吸収性の改善について種々検討を行った結果、特定の高分子と固体分散体を形成させることにより生体内における吸収性、及び保存安定性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の側面を有する。
[1]一般式(I)
【0010】
【化1】
(式中、Rは無置換のフェニル基、又は置換基により置換されたフェニル基を表し、前記置換基は、炭素数1~8のアルキル基、ハロゲン原子で置換された炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数2~8のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、フェニル基及びフェノキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基を表し、Rはシアノ基又はニトロ基を表し、Rは水酸基を表し、Xは酸素原子又は-S(O)-を表し、nは0~2の整数を表し、Yは酸素原子又は硫黄原子を表す)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩及びヒプロメロース誘導体を含む固体分散体;
[2]Rが、無置換のフェニル基、又はハロゲン原子により置換されたフェニル基である[1]記載の固体分散体。
[3]Xが酸素原子である[1]又は[2]記載の固体分散体;
[4]Yが硫黄原子である[1]~[3]のいずれか一項記載の固体分散体;
[5]一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩が非晶質である[1]~[4]のいずれか一項記載の固体分散体;
[6]一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、ヒプロメロース誘導体との重量比が、1:0.1~1:25である[1]~[5]のいずれか一項記載の固体分散体;
[7]ヒプロメロース誘導体が、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル又はヒプロメロースフタル酸エステルである[1]~[6]のいずれか一項記載の固体分散体;
[8][1]~[7]のいずれか一項記載の固体分散体を、スプレードライ法で製造することを特徴とする、固体分散体の製造方法;
[9][1]~[7]のいずれか一項記載の固体分散体を含有する医薬組成物;又は
[10]固形製剤である[9]記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固体分散体は、生体内における高い吸収性と、保存安定性を示すことから、高尿酸血症等の治療薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例9の固体分散体の保存前と、40℃/75%RH、開放条件下で1週間、3週間及び7週間保存後の粉末X線回折パターンを、それぞれ示す図である。
図2】実施例10の固体分散体の保存前と、40℃/75%RH、開放条件下で1週間、3週間及び7週間保存後の粉末X線回折パターンを、それぞれ示す図である。
図3】実施例11の固体分散体の保存前と、40℃/75%RH、開放条件下で1週間、3週間及び7週間保存後の粉末X線回折パターンを、それぞれ示す図である。
図4】実施例11の固体分散体のラットにおける血漿尿酸値低下作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
一般式(I)で表される化合物において、Rは無置換のフェニル基、又は置換基により置換されたフェニル基を表す。
で示されるフェニル基における置換基の「炭素数1~8のアルキル基」としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基が挙げられる。
【0014】
で示されるフェニル基における置換基の「ハロゲン原子で置換された炭素数1~8のアルキル基」としては、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、1,1-ジフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられ、好ましくはフルオロメチル基、トリフルオロメチル基が挙げられる。
【0015】
で示されるフェニル基における置換基の「炭素数1~8のアルコキシ基」としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられ、好ましくはメトキシ基が挙げられる。
【0016】
で示されるフェニル基における置換基の「炭素数2~8のアルコキシカルボニル基」としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基等が挙げられ、好ましくはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が挙げられる。
【0017】
で示されるフェニル基における置換基の「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子、塩素原子が挙げられる。
【0018】
としては、無置換のフェニル基が好ましい。
【0019】
一般式(I)で表される化合物において、Rはシアノ基及びニトロ基を表すが、シアノ基が好ましい。
【0020】
一般式(I)で表される化合物において、Xは酸素原子又は-S(O)-を表すが、酸素原子が好ましい。
【0021】
一般式(I)で表される化合物において、Yは酸素原子又は硫黄原子を表すが、硫黄原子が好ましい。
【0022】
一般式(I)で表される化合物の医薬的に許容され得る塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、又はリチウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられ、カリウム塩が好ましい。
【0023】
本発明の1つの実施態様である固体分散体に用いられる一般式(I)の化合物は、例えば特許文献1記載の合成法により得ることができる。
【0024】
本発明の固体分散体に用いられる一般式(I)の化合物において、好ましい化合物としては表1の化合物が挙げられる。表中、Meはメチル基を表す。
【0025】
【表1】
化合物1~化合物14は、医薬的に許容され得る塩を形成していてもよく、中でも、化合物3~化合物5、化合物8~化合物10、化合物13~化合物14、又はこれらの化合物の医薬的に許容され得る塩が好ましい。
【0026】
本発明に係る「ヒプロメロース誘導体」とは、ヒプロメロースそれ自体(HPMCと略す場合がある)、及びヒプロメロースの有機酸エステルを表す。ヒプロメロースは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとも称され、セルロースのメチル基及びヒドロキシプロピル基との混合エーテルである。ヒプロメロースとエステルを形成する有機酸としては、酢酸、コハク酸又はフタル酸等が挙げられる。本発明に係るヒプロメロースは、前記有機酸から選択される1又は2以上の有機酸とエステルを形成してもよい。
本発明で用いられるヒプロメロース誘導体としては、例えば、ヒプロメロース、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCASと略す場合がある)、ヒプロメロースフタル酸エステル(HPMCPと略す場合がある)等が挙げられ、好ましくはヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、ヒプロメロースフタル酸エステルである。
【0027】
本発明に係るヒプロメロースとしては、1モノマー単位当たりの置換割合が、メトキシ基につき28~30%、ヒドロキシプロポキシ基につき7~12%であるヒプロメロースが例示される。
本発明に係るヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルとしては、1モノマー単位当たりの置換割合が、メトキシ基につき20~26%、好ましくは21~25%であり、ヒドロキシプロポキシル基につき5~10%、好ましくは5~9%であり、アセチル基につき5~14%、好ましくは7~11%であり、サクシノイル基につき4~18%、好ましくは10~14%であるヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルが例示される。
本発明に係るヒプロメロースフタル酸エステルとしては、1モノマー単位当たりの置換割合が、メトキシ基につき18~24%であり、ヒドロキシプロポキシ基につき5~10%、カルボキシベンゾイル基につき、21~35%であるヒプロメロースフタル酸エステルが例示される。
上記ヒプロメロース誘導体における、メトキシ基、ヒドロキシプロポキシ基、アセチル基、サクシノイル基又はカルボキシベンゾイル基等の含有量は、第17改正日本薬局方で規定されているヒプロメロース、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル及びヒプロメロースフタル酸エステルの置換度の測定方法に準拠した方法で測定することができる。
【0028】
本発明に係るヒプロメロース誘導体の粘度としては、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、例えば、2.4~204mPa・sが挙げられ、2.4~3.6mPa・sが好ましい。
本発明に係るヒプロメロース誘導体の粘度は、第17改正日本薬局方で規定されているヒプロメロース、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル及びヒプロメロースフタル酸エステルの粘度の測定方法に準拠した方法で測定することができる。
【0029】
一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、ヒプロメロース誘導体との重量比は、1:0.1~1:25の範囲で適宜調整することができる。一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、ヒプロメロース誘導体との重量比の1つの側面は、1:0.1~1:10であり、別の側面は、1:0.1~1:4であり、また別の側面は、1:1~1:10であり、更に別の側面は、1:2~1:5であり、更にまた別の側面は、1:3~1:4である。
本発明の1つの実施態様としては、2-(3-シアノ-4-フェノキシフェニル)-7-ヒドロキシチアゾロ[5,4-d]ピリミジン又はその医薬的に許容され得る塩と、ヒプロメロース誘導体との重量比が、1:0.1~1:25であり、別の実施態様としては、1:0.1~1:10であり、また別の実施態様としては1:0.1~1:4であり、また別の実施態様としては、1:1~1:10であり、更に別の実施態様としては、1:2~1:5であり、更にまた別の実施態様としては、1:3~1:4である固体分散体が挙げられる。
【0030】
「固体分散体」とは、少なくとも2つの成分を含む固体の系であって、前記少なくとも2つの成分が均一に混合された系を形成している固体の組成物を意味する。また、前記固体分散体において、少なくとも1つの成分は、通常、前記系の全体にわたって、分散されている。
したがって、本発明の「固体分散体」の1つの側面は、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、ヒプロメロース誘導体とを含み、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩及びヒプロメロース誘導体が均一に混合された系を形成している固体の組成物である。
本発明の「固体分散体」の別の側面は、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩が、ヒプロメロース誘導体の全体にわたって分散された系を形成している固体の組成物である。この場合、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩が分散質として分散相を構成し、ヒプロメロース誘導体が分散媒として連続相を構成している。
【0031】
本発明の「固体分散体」は、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩、ヒプロメロース誘導体、及び所望により医薬的に許容され得る添加剤から構成されている。所望により含有される医薬的に許容され得る添加剤としては、例えば界面活性剤、pH調整剤、糖類及び可塑剤等から選択される添加剤が例示される。これらは適宜組み合わせて、本発明の固体分散体に必要量配合することができる。
使用することができる界面活性剤としては、ビス-(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(ドクセートナトリウム)、臭化アルキルトリメチルアンモニウム(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム(セトリミド))のような陽イオン性界面活性剤、ラウリル硫酸ナトリウムのような陰イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン(例えばツウィーン(TweenTM20、40、60、80又は85))、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、SpanTM20、40、60、80又は85)のような非イオン性界面活性剤が挙げられる。
使用することができるpH調整剤としては、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、アスパラギン酸等の酸、水酸化ナトリウムや酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、炭酸水素ナトリウム、L-アルギニン等のアルカリを用いることができる。
使用することができる糖類としては、乳糖、白糖、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース(麦芽糖)、還元麦芽糖、マルチトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール等が挙げられる。
使用することができる可塑剤としては、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール、トリアセチン等が挙げられる。
本発明の「固体分散体」は、前記医薬的に許容され得る添加剤を含んでいなくてもよいが、それらを含む場合には、例えば、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、前記界面活性剤との重量比は、1:0.01~1:2、より好ましくは1:0.02~1:1.5、更に好ましくは1:0.03~1:1.2であり、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、前記pH調整剤との重量比は、1:0.01~1:2、より好ましくは1:0.02~1:1.5、更に好ましくは1:0.03~1:1.2であり、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、前記糖類との重量比は、1:0.02~1:20、より好ましくは1:0.15~1:10であり、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、前記可塑剤との重量比は、1:0.02~1:20、より好ましくは1:0.15~1:10である。
本発明の「固体分散体」において、前記医薬的に許容され得る添加剤は、固体分散体の分散相を構成してもよく、連続相を構成してもよい。
【0032】
本発明の「固体分散体」において、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩は、その一部又は全部が非晶質として存在することが好ましい。ここで、非晶質とは、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩の原子間又は分子間に短距離秩序を有するが、結晶のように長距離秩序を有しない状態の物質を意味する。
本発明において、非晶質は、X線回折において、ハローピークを示すことにより特定することができる。
本発明において、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩の総重量に対して、50重量%以上が非晶質として存在することが好ましく、80%重量以上が非晶質として存在することがより好ましく、90重量%以上が非晶質として存在することがより好ましく、95重量%以上が非晶質として存在することが更に好ましく、98重量%以上が非晶質として存在することが更に好ましく、100重量%が非晶質であってもよい。上記非晶質の存在率は、X線回折法によって求めることができる。
【0033】
本発明の固体分散体は、それ自体公知の方法で製造することができ、例えば、混合粉砕法(メカノケミカル法)、溶媒法、溶融法、加熱混練溶融法等を用い製造することができる。
ここで、混合粉砕法とは、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、ヒプロメロース誘導体と、所望により医薬的に許容され得る添加剤とを混合した後、ボールミル、ハンマーミル等の混合機及び粉砕機を用いて常法で行うことができる。
溶媒法とは、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩及びヒプロメロース誘導体、並びに所望により医薬的に許容され得る添加剤を溶媒(有機溶媒、水又はその混液)に溶解又は懸濁させ、その後、前記溶媒を除去して固体分散体を析出させるか、又は前記溶媒中、固体分散体を析出させる方法をいう。
溶媒は、噴霧法(実施態様により、流動層法、噴霧乾燥法(スプレードライ法ともいう)、転動層法、攪拌法、又は超臨界法等に分類できる)、ろ過法、エバポレーション法、凍結乾燥法などの方法により除去することができ、好ましくは噴霧法が挙げられ、そのうち噴霧乾燥法が特に好ましい。
本発明の固体分散体を製造するにあたって用いることができる溶媒は、医薬的に許容され得る溶媒が好ましく、例えば、エタノール、メタノール、2-プロパノール、アセトン、2-ブタノン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、トルエン、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸、蟻酸、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
これらの溶媒中、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩、及び所望により配合される医薬的に許容され得る添加剤は溶解している方が好ましい。
噴霧乾燥法においては、それ自体公知の方法により固体分散体を製造することができ、例えば、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩及びヒプロメロース誘導体、並びに所望により医薬的に許容され得る添加剤を前記溶媒に加え溶液又は懸濁液とし、前記溶液又は懸濁液を回転円盤による遠心噴霧あるいは圧力ノズルによる加圧噴霧により微細な霧状にし、これを乾燥媒体中(加熱した空気又は窒素ガス)に噴出させ、粉状の乾燥物として、固体分散体を得ることができる。
噴霧乾燥法において、乾燥媒体の温度は、例えば、50~120℃、好ましくは50~90℃である。前記乾燥媒体は、一定方向に流動させていてもよく、例えば、0.2~0.6m/min、好ましくは0.3~0.5m/minの風量として流動させることができる。
溶媒法において析出させる方法は共沈法が好ましく、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩及びヒプロメロース誘導体、並びに所望により医薬的に許容され得る添加剤を溶媒に溶解又は懸濁させ、溶解した前記化合物(I)又はその医薬的に許容され得る塩及びヒプロメロース誘導体、並びに所望により添加される医薬的に許容され得る添加剤が不溶な溶媒の添加や、温度の低下などで溶解濃度を下げることによって析出させることにより固体分散体を得ることができる。
溶融法とは、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩及びヒプロメロース誘導体、並びに所望により医薬的に許容され得る添加剤をヒプロメロース誘導体の融点又は軟化点以上に加熱して攪拌等することにより、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩及び所望により添加される医薬的に許容され得る添加剤を、ヒプロメロース誘導体に溶解又は分散し、ついで急冷する方法をいう。その際、所望によりクエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール、トリアセチン等の可塑剤や界面活性剤等の添加剤を更に加えることができる。製造は、加熱装置付き攪拌造粒機を用いて行うことができる。
加熱混練溶融法とは、加熱装置を備えた押し出し機、例えば2軸エクストルーダー等により、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩及びヒプロメロース誘導体、並びに所望により医薬的に許容され得る添加剤とを加熱・加圧下で混合して、固体分散体を得る方法をいい、得られるプラスチック様の固体分散体を粉砕機を用いて粉砕することにより固体分散体の粉末を得ることができる。
【0034】
上記製造方法により製造した本発明の固体分散体は、公知の方法により、任意の粒子径を有する固体分散体の粒子とすることができ、前記固体分散体の粒子を、そのまま散剤又は顆粒剤として使用することができる。
【0035】
本発明の固体分散体を含有する医薬組成物は、前記固体分散体と、医薬的に許容され得る添加剤とを含み、医薬的に許容され得る添加剤として、例えば結合剤、崩壊剤、賦形剤、滑沢剤等を適宜組み合わせて必要量配合することにより、本発明の医薬組成物を製造することができる。
【0036】
本発明の医薬組成物で用いることができる結合剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、部分けん化ポリビニルアルコール、プルラン、部分α化デンプン、デキストリン、キタンサンガム、アラビアゴム末等が挙げられる。好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルピロリドンである。これらは単独であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0037】
本発明の医薬組成物で用いることができる崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース(カルメロース)、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、ヒドロキシプロピルスターチ、デンプン、部分α化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム等が挙げられ、好ましくはクロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドンであり、さらに好ましくはクロスポビドンである。用いられる崩壊剤の配合量は、医薬組成物の総重量に対して、5~30重量%が好ましく、さらに好ましくは5~15重量%である。また、錠剤に配合する場合には、打錠用顆粒中1~10重量%が好ましく、さらに好ましくは2~6重量%である。
【0038】
本発明の医薬組成物で用いることができる賦形剤は、練合物、造粒物及び後末に配合することができ、例えば結晶セルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース等)等のセルロース類、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、部分α化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチなどのデンプン類、ブドウ糖、乳糖、白糖、精製白糖、粉糖、トレハロース、デキストラン、デキストリンなどの糖類、(D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコール類、グリセリン脂肪酸エステル、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、無水リン酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩が挙げられ、好ましくは結晶セルロースが挙げられる。
【0039】
本発明の医薬組成物で用いることができる滑沢剤としては、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、軽質無水ケイ酸、硬化油、グリセリン脂肪酸エステル、タルク等が挙げられる。好ましくは、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステルである。これらは単独であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0040】
本発明の医薬組成物は、それ自体公知の製剤化工程に付すことにより、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤等の固形製剤、又は注射剤等の液状製剤に製剤化して提供することができる。なお、前記注射剤は、本発明の医薬組成物を固形製剤として提供し、用時に注射剤に調製して使用する形態であってもよい。
本発明は打錠障害の抑制効果をも有することから、特に固形製剤が錠剤の場合が好ましい。また、これらの固形製剤は、所望によりコーティングを施すことができる。
【0041】
本発明の医薬組成物における固体分散体の含量は、医薬組成物の総重量に対して、10~95重量%、好ましくは30~90重量%であってもよく、より好ましくは60~85重量%であってもよい。
【0042】
本発明の固体分散体又は前記固体分散体を含む医薬組成物は、ヒト又はその他の哺乳動物に経口的又は非経口的に投与することができ、高尿酸血症、又は痛風の治療薬として有用である。本明細書において、「治療」には、治療に加えて、予防又は予防的使用の概念を含んでいてもよい。
本発明の1つの側面は、本発明の固体分散体又は前記固体分散体を含む医薬組成物の治療的有効量を、高尿酸血症、又は痛風の治療が必要な対象に投与することを含む高尿酸血症、又は痛風の治療方法である。
本発明の別の側面は、高尿酸血症、又は痛風の治療における使用のための、本発明の固体分散体又は前記固体分散体を含む医薬組成物である。
本発明の更に別の側面は、高尿酸血症、又は痛風の治療薬の製造のための、本発明の固体分散体の使用である。
本発明の固体分散体又は前記固体分散体を含む医薬組成物の投与量は、本発明の固体分散体又は前記固体分散体を含む医薬組成物における、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩の含有量に応じて調整することができる。また、投与方法、投与対象の年齢、体重、性別、症状、薬剤への感受性等に応じて適宜決定されるが、症状の改善の状況に応じて投与量を調節してよい。
本発明の固体分散体又は前記固体分散体を含む医薬組成物の投与量は、例えば、成人においては、一般式(I)で表される化合物又はその医薬的に許容され得る塩の含有量に換算して、通常、注射剤では1日約0.1mg~100mg,経口投与では1日1mg~2000mgとなるように投与することができるが、年齢、症状等により増減することができる。また、投与回数としては、例えば、1日当たり、1~3回、好ましくは1~2回が挙げられる。
【実施例
【0043】
以下に実施例、比較例及び試験例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
<実施例1及び比較例1~9.固体分散体(ポリマー、25倍量)の製造>
2-(3-シアノ-4-フェノキシフェニル)-7-ヒドロキシチアゾロ[5,4-d]ピリミジン(以下、化合物Aと称する場合がある)250mgをテトラヒドロフランに溶解して100mLとした。表2に示すポリマー各125mgに混合溶液(ジクロロメタン/メタノール=50/15)5mLを添加して溶解させた。化合物A溶液2mLを試験管に入れ、上記ポリマー溶液5mLを添加し、ボルテックスミキサーで混合して均一にした。また、ポリマーを添加しない試料も調製した(比較例9)。これら試料に窒素気流を吹き付けることで溶媒を留去した後、一晩減圧乾燥して化合物Aの固体分散体試料を得た。
実施例1において使用したHPMCASはMF型(すなわち、1モノマー単位当たりの置換割合が、メトキシ基:21.0~25.0%、ヒドロキシプロポキシル基:5.0~9.0%、アセチル基:7.0~11.0%であり、サクシノイル基:10.0~14.0%、粘度:2.4~3.6mPa・s)である。
【0045】
【表2】
【0046】
<試験例1.溶解度試験>
実施例1及び比較例1~8の固体分散体並びに比較例9の試料に日本薬局方溶出試験第1液(pH1.2)5mL又は第2液(pH6.8)5mLを添加し、ガラス棒又はスパーテルで固体分散体を粉砕した後、37℃で2時間振盪した。0.45μmのフィルターで濾過した試料溶液600μLに直ちに混合溶液(アセトニトリル/水=3/2)400μLを添加し、HPLC((株)島津製作所)により試料溶液中の化合物Aの濃度を測定した。結果を表3に示した。なお、表中の値は繰り返し2回の平均値である。
【0047】
【表3】
比較例9における化合物Aの溶解度は第1液で0.39μg/mL、第2液で0.49μg/mLであったが、実施例1、比較例3及び4では溶解度が上昇して5.0μg/mL以上となった。特に、酸性条件の第1液では比較例3の塩基性ポリマーであるEudragit E-100が、中性条件の第2液では実施例1の酸性ポリマーであるHPMCASが、化合物Aの溶解度を向上させる効果が大きかった。
【0048】
<実施例2、比較例10及び11.固体分散体(ポリマー、25倍量)の製造>
化合物Aをテトラヒドロフランに溶解し、2.5mg/mLに調製した。表4に示す各ポリマーを混合溶媒(メタノール/ジクロロメタン=3/4)に溶解し、約45mg/mLに調製した。化合物Aとポリマーの重量比が1:25となるように、撹拌しながら上記ポリマー溶液に化合物A溶液を加えた。また、ポリマーを添加しない試料も調製した。直ちにナスフラスコに移し、ロータリーエバポレーター(N-1100、東京理化器械(株))で有機溶剤を留去した。ナスフラスコをデシケーターに移して、真空ポンプで約16時間減圧乾燥し、化合物Aの固体分散体を得た。固体分散体は乾燥後、メノウ乳鉢で粉砕、又はポータブル高速粉砕機(LM-PLUS、大阪ケミカル(株))で粉砕後、篩過(目開き:150μm)した。
【0049】
【表4】
【0050】
<試験例2.化合物Aの固体分散体のラットにおける吸収性>
絶食下、雄性ラット(8週齢、Crl:CD(SD)、日本チャールス・リバー(株))に、1%カルボキシメチルセルロース水溶液に懸濁した実施例2及び比較例10の固体分散体、比較例11の試料を化合物Aとして10mg/kg、又は30mg/kgの用量で単回経口投与した。対照として、化合物Aの結晶性の原薬を使用した(比較例12)。採取時点は、投与後0.5、1、2、4、8及び24時間とし、尾静脈から1時点あたり約300μL採血した(n=3)。得られた血液を1500×g、4℃で15分間遠心分離し、血漿を得た。この血漿中の化合物Aの濃度をHPLC((株)資生堂及び(株)日立ハイテクノロジーズ)により測定した。得られた血漿中濃度推移から最高血漿中濃度到達時間(Tmax)、最高血漿中濃度(Cmax)及び血漿中濃度・時間曲線下面積(AUC)を算出した。結果を表5に示した。なお、表中の値は3例の平均値±標準偏差である。
実施例2及び比較例10の固体分散体、並びに比較例11の試料は原薬に比べ、Cmax、AUCともに高い吸収改善効果を示したことから化合物Aはアモルファス化、さらには固体分散体化することにより吸収性が向上することが示された。また、HPMCASとの固体分散体はEudragitとの固体分散体よりも高い吸収改善効果を示した。
【0051】
【表5】
【0052】
<実施例3、4及び5.固体分散体(ポリマー、25倍量)の製造>
化合物Aをテトラヒドロフランに溶解し、2.5mg/mLに調製した。表6に示す各ポリマーを混合溶媒(メタノール/ジクロロメタン=3/4)に溶解し、約45mg/mLに調製した。化合物Aとポリマーの重量比が1:25となるように混合した後、ロータリーエバポレーター(N-1100、東京理化器械(株))により減圧下、約50℃で溶媒を留去した。得られた1次乾燥物をさらに真空ポンプで2次乾燥(室温/一晩)し、2次乾燥物について適宜ポータブル高速粉砕機(LM-PLUS、大阪ケミカル(株))で粉砕後、篩過(目開き:300μm)した。
実施例3において使用したHPMCASはLG型(すなわち、1モノマー単位当たりの置換割合が、メトキシ基:20.0~24.0%、ヒドロキシプロポキシル基:5.0~9.0%、アセチル基:5.0~9.0%であり、サクシノイル基:14.0~18.0%、粘度:2.4~3.6mPa・s)である。
実施例4において使用したHPMCASはMG型(すなわち、1モノマー単位当たりの置換割合が、メトキシ基:21.0~25.0%、ヒドロキシプロポキシル基:5.0~9.0%、アセチル基:7.0~11.0%であり、サクシノイル基:10.0~14.0%、粘度:2.4~3.6mPa・s)である。
実施例5において使用したHPMCASはHG型(すなわち、1モノマー単位当たりの置換割合が、メトキシ基:22.0~26.0%、ヒドロキシプロポキシル基:6.0~10.0%、アセチル基:10.0~14.0%であり、サクシノイル基:4.0~8.0%、粘度:2.4~3.6mPa・s)である。
【0053】
【表6】
【0054】
<試験例3.化合物Aの固体分散体のラットにおける吸収性>
絶食下、雄性ラット(7-9週齢、Crl:CD(SD)、日本チャールス・リバー(株))に、1%カルボキシメチルセルロース水溶液に懸濁した実施例3、実施例4及び実施例5の固体分散体を化合物Aとして10mg/kgの用量で単回経口投与した。採取時点は、投与後0.5、1、2、4、8及び24時間とし、尾静脈から1時点あたり約300μL採血した(n=3)。得られた血液を1500×g、4℃で15分間遠心分離し、血漿を得た。この血漿中の化合物Aの濃度をHPLC((株)資生堂及び(株)日立ハイテクノロジーズ)により測定した。得られた血漿中濃度推移から最高血漿中濃度到達時間(Tmax)、最高血漿中濃度(Cmax)及び血漿中濃度・時間曲線下面積(AUC)を算出した。結果を表7に示した。なお、表中の値は3例の平均値±標準偏差である。
実施例4の固体分散体において、Cmax、AUCともに最も高い血漿中濃度を示した。
【0055】
【表7】
【0056】
<実施例6~12.固体分散体(HPMCAS-MG、1~10倍量)の製造>
化合物Aをテトラヒドロフランに溶解し、2.5mg/mLに調製した。HPMCAS-MGを混合溶媒(エタノール/水=4/1)に溶解し、約45mg/mLに調製した。化合物Aと表8に示すポリマーの重量比が1:1~1:10となるように混合した後、ペリスタポンプ経由で約5mL/minの速度でスプレードライヤー(GB22、ヤマト科学(株))に汲み上げ、2流体ノズル(直径406又は508μm)から入口温度80℃、出口温度約60℃、乾燥空気風量0.32から0.47m/min、ノズル噴霧空気圧力1.0から3.1kgf/cmの条件で噴霧乾燥及び造粒を開始した。得られた1次乾燥物をさらに真空ポンプで2次乾燥(室温/一晩又は室温/一晩・40℃/1日)し、篩過(目開き:300μm)した。
【0057】
【表8】
【0058】
<試験例4.化合物Aの固体分散体のラットにおける吸収性>
絶食下、雄性ラット(7-9週齢、Crl:CD(SD)、日本チャールス・リバー(株))に、1%カルボキシメチルセルロース水溶液に懸濁した実施例6~8、10~12の固体分散体を化合物Aとして10mg/kgの用量で単回経口投与した。採取時点は、投与後0.5、1、2、4、8及び24時間とし、尾静脈から1時点あたり約300μL採血した(n=3)。得られた血液を1500×g、4℃で15分間遠心分離し、血漿を得た。この血漿中の化合物Aの濃度をHPLC((株)資生堂及び(株)日立ハイテクノロジーズ)により測定した。得られた血漿中濃度推移から最高血漿中濃度到達時間(Tmax)、最高血漿中濃度(Cmax)及び血漿中濃度・時間曲線下面積(AUC)を算出した。結果を表9に示した。なお、表中の値は3例の平均値±標準偏差である。
実施例6~8、10~12の固体分散体において、化合物Aに対するHPMCAS-MGの重量比が1、2及び3倍では血漿中濃度は重量比に依存して上昇したが、3、4、5及び10倍の範囲では血漿中濃度に重量比に依存した相違はみられなかった。
【0059】
【表9】
【0060】
<試験例5.化合物Aの固体分散体の非晶質状態の評価(粉末X線回折)>
固体分散体が経日保管後においても非晶質の特性を保持していることは非常に重要であるため、実施例9~11の固体分散体を40℃/75%RH、開放条件下で保存し、X線回折装置(D2 Phaser、Bruker)を用いて非晶質状態の変化を評価した。結果を図1~3に示した。
実施例9~11の固体分散体を40℃/75%RH、開放条件で保存した場合、検討した7週間までの保存において、経日的な粉末X線回折パターンの変化はみられなかった。
【0061】
<試験例6.化合物Aの固体分散体の非晶質状態の評価(ラットにおける吸収性)>
実施例9~11の固体分散体を40℃/75%RH、開放条件下で保存し、非晶質状態の変化をラット吸収性により評価した。
絶食下、雄性ラット(7-9週齢、Crl:CD(SD)、日本チャールス・リバー(株))に、1%カルボキシメチルセルロース水溶液に懸濁した実施例9~11の固体分散体を化合物Aとして10、30mg/kgの用量で単回経口投与した。採取時点は、投与後0.5、1、2、4、8及び24時間とし、尾静脈から1時点あたり約300μL採血した(n=3)。得られた血液を1500×g、4℃で15分間遠心分離し、血漿を得た。この血漿中の化合物Aの濃度をHPLC((株)資生堂及び(株)日立ハイテクノロジーズ)により測定した。得られた血漿中濃度推移から最高血漿中濃度到達時間(Tmax)、最高血漿中濃度(Cmax)及び血漿中濃度・時間曲線下面積(AUC)を算出した。結果を表10に示した。なお、表中の値は3例の平均値±標準偏差である。
実施例9~11の固体分散体を40℃/75%RHで開放保存した場合、検討した7週間までの保存において、経日的な血漿中濃度の低下は見られなかった。
【0062】
【表10】
【0063】
<試験例7.化合物Aの固体分散体のラットにおける血漿尿酸値低下作用>
絶食下、雄性ラット(8週齢、Crl:CD(SD)、日本チャールス・リバー(株))に、1%カルボキシメチルセルロース水溶液に懸濁した実施例11の固体分散体を化合物Aとして30mg/kgの用量で単回経口投与した。対照として、1%カルボキシメチルセルロース水溶液を使用した。採取時点は、投与前(0)、投与後2、6、12及び24時間とし、尾静脈から1時点あたり約300μL採血した(n=5)。得られた血液を1500×g、4℃で15分間遠心分離し、血漿を得た。この血漿中の尿酸の濃度をHPLC((株)日立ハイテクノロジーズ)により測定した。対照群と実施例11の各時点の血漿尿酸値について、ウェルチのt検定を行った。有意水準はp<0.05(両側)とした。結果を図4に示した。
実施例11の固体分散体を投与後の血漿尿酸値は対照群と比べて有意な低値を示し、その尿酸値低下作用は持続的であった。
【0064】
<実施例13及び14.固体分散体(HPMCAS-MG 3倍量、界面活性剤0.03倍量)の製造>
化合物Aをテトラヒドロフランに溶解し、2.5mg/mLに調製した。HPMCAS-MGを混合溶媒(エタノール/水=4/1)に溶解し、約45mg/mLに調製した。化合物Aと表11に示すポリマー、界面活性剤(ポリソルベート80:Tween 80、ラウリル硫酸ナトリウム:SLS)の重量比が1:3:0.03となるように混合した後、ペリスタポンプ経由で約5mL/minの速度でスプレードライヤー(GB22、ヤマト科学(株))に汲み上げ、2流体ノズル(直径406又は508μm)から入口温度80℃、出口温度約60℃、乾燥空気風量0.32から0.47m/min、ノズル噴霧空気圧力1.0から3.1kgf/cmの条件で噴霧乾燥及び造粒を開始した。得られた1次乾燥物をさらに真空ポンプで2次乾燥(室温/一晩又は室温/一晩・40℃/1日)し、篩過(目開き:300μm)した。
【0065】
【表11】
【0066】
<試験例8.化合物Aの固体分散体のラットにおける吸収性>
絶食下、雄性ラット(7-9週齢、Crl:CD(SD)、日本チャールス・リバー(株))に、1%カルボキシメチルセルロース水溶液に懸濁した実施例13及び14の固体分散体を化合物Aとして10mg/kgの用量で単回経口投与した。採取時点は、投与後0.5、1、2、4、8及び24時間とし、尾静脈から1時点あたり約300μL採血した(n=3)。得られた血液を1500×g、4℃で15分間遠心分離し、血漿を得た。この血漿中の化合物Aの濃度をHPLC((株)資生堂及び(株)日立ハイテクノロジーズ)により測定した。得られた血漿中濃度推移から最高血漿中濃度到達時間(Tmax)、最高血漿中濃度(Cmax)及び血漿中濃度・時間曲線下面積(AUC)を算出した。実施例8とともに結果を表12に示した。なお、表中の値は3例の平均値±標準偏差である。
実施例13及び14の固体分散体において、界面活性剤を含まない実施例8の血漿中濃度と相違はみられなかった。
【0067】
【表12】
【0068】
<製剤例1>
実施例5で得られる固体分散体6.0gに、常法によりカルボキシメチルスターチナトリウム2.8g、乳糖3.01g、含水二酸化珪素2.1g、ステアリン酸マグネシウム0.1gを添加し、ビニール袋中にて混合し、ロータリー式打錠機(VELA-5、(株)菊水製作所)にて打錠して錠剤を製造する。
<製剤例2>
実施例5で得られる固体分散体2gに、ステアリン酸マグネシウム0.3g及び乳糖適量を加えて全量23.5gとし、ビニール袋中にて混合し、1号カプセルに手充填してカプセル剤を製造する。
<製剤例3>
実施例5で得られる固体分散体1gに乳糖16.0gを添加し、ビニール袋中にて攪拌混合し、ローラーコンパクター(TF-MINI、フロイント産業(株))にて乾式造粒し、オシレーター(34-C-2、(株)菊水製作所)にて整粒して顆粒剤を製造する。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の固体分散体は、生体内における高い吸収性と、保存安定性を示すことから、高尿酸血症等の治療薬として有用である。
図1
図2
図3
図4