(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法
(51)【国際特許分類】
E04H 7/18 20060101AFI20230130BHJP
【FI】
E04H7/18 302
E04H7/18 301Z
(21)【出願番号】P 2018088948
(22)【出願日】2018-05-02
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000147729
【氏名又は名称】株式会社石井鐵工所
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏治
(72)【発明者】
【氏名】田山 昇
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大伸
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-095265(JP,A)
【文献】特開2014-205972(JP,A)
【文献】特開2014-084592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 5/00- 5/12,7/00- 7/32,12/00-14/00
B65D 88/00-90/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の内槽を囲繞して配設されるコンクリート製の外槽を備えた固定屋根式平底円筒形タンクの構築における、金属製の固定屋根を吊り上げる工程と、前記外槽の側壁を構築する工程を並行して施工する固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法であって、前記内槽の側板を前記外槽の側壁構築における内側型枠とし、円筒状の該内側型枠の外面からコンクリートの打設幅を離隔した距離に前記外槽の側壁構築に用いる外側型枠を仮設し、前記内槽の内部の下部で組立てた前記固定屋根を該内槽の頂部まで吊り上げる吊り上げ手段と、前記固定屋根の吊り上げと並行して前記外側型枠を上昇させる型枠上昇手段とを具備した前記外槽の側壁構築のための型枠スライド工法において、前記内槽の底板と側板を先行して施工する工程と、該内槽の内部の下部で前記固定屋根を組み立てる工程と、前記固定屋根の外縁部に、前記コンクリート打設による前記内槽の側板の半径方向の変形を防止する補強構造を取付ける工程とで構成する前工程と、前記吊り上げ手段で前記補強構造と共に前記固定屋根を吊り上げ、前記型枠上昇手段で前記外側型枠を上昇させる工程と、前記内槽の側板を前記固定屋根及び補強構造とで補強しつつ、前記内槽の側板と外側型枠の間にコンクリートを打設して凝固させる工程とを複数回順次繰り返して、前記外槽の側壁を下方から上方へ構築する工程とで構成する本工程と、前記固定屋根を前記内槽の側板の頂部に固定する後工程とで構成することを特徴とする固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法。
【請求項2】
前記固定屋根は、該固定屋根の平面視中心から前記内槽側板に向かって放射状に延伸して設置した複数のラフターと、該ラフターの間に該固定屋根の平面視中心を中心とする同心円状に設置した複数のガーダーとを具備した屋根骨構造であって、前記補強構造は、前記内槽の側板の内周面に沿って水平方向の円弧状に湾曲した複数段の水平補強材と、該水平補強材と直交する鉛直方向に設けた複数列の縦補強材とを接合して、前記内槽の側板の内周面に沿うように形成した格子状のフレーム構造であって、前記水平補強材或いは前記縦補強材に固定した複数の屋根骨固定用ブラケットとを具備し、各々の該屋根骨固定用ブラケットと前記屋根骨構造の複数の前記ラフターの全ての先端部或いは複数の先端部とをボルトとナットによって固定する構造とし、前記吊り上げ手段で前記補強構造と共に前記固定屋根を吊り上げる際に、該補強構造の外周面を前記内槽の側板内周面に当接させることによって、前記内槽の側板を内面側から補強することを特徴とする請求項1記載の固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法。
【請求項3】
前記補強構造は、カウンターウエイトとアームとから構成される補助補強構造を備え、該補助補強構造は、前記吊り上げ手段で前記補強構造と共に固定屋根を吊り上げる際に、前記補助補強構造の前記アームの中間部を中心として働く前記カウンターウエイトによる回転モーメントの働きで、該補強構造の外周面を前記内槽の側板内周面に強く当接し、前記固定屋根と共に該内槽の側板を内面側から補強することを特徴とする請求項1又は2記載の固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法。
【請求項4】
前記後工程は、前記固定屋根及び前記補強構造を前記吊り上げ手段で前記内槽の側板の頂部まで上昇させ、該固定屋根及び補強構造の吊り上げ状態を維持しながら、前記固定屋根の上方から前記補強構造の屋根骨固定用ブラケットのボルトとナットを取外して前記補強構造を前記屋根骨構造から取り外して撤去する工程を施工した後、前記内槽の側板の頂部に固定した複数の固定屋根固定用ブラケットに前記固定屋根をボルトとナットで固定する工程を施工することを特徴とする請求項
2記載の固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、重油などの液体を貯蔵するためのコンクリート製外槽を備えた固定屋根式の平底円筒形タンクの施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重油等を貯蔵する鋼製平底円筒形タンクが、大地震に伴って発生した津波により押し流されて、タンク貯蔵液が市街地に流出して火災を広げ、津波被害を深刻にしたことから、津波に容易に押し流されないタンクが求められている。
一般に、石油類を貯蔵する平底円筒形タンクは鋼製の底板と側板とで構成され、アンカーボルト等で基礎上に固定されずに載置されているだけの場合が多く、そのため貯蔵液量が少ない場合には、津波の圧力と浮力により押し流され易い状況にある。
【0003】
タンクの流出を防止する技術の例として、特許文献1の「構造物の地震・津波対策構造」の発明がある。この発明には、タンクの周囲の地盤に、複数の矢板及び鋼管矢板を打設し、地震や津波による構造物の他の構造物への衝突、漂流物の構造物への衝突等を防ぐことが可能な構造物の地震・津波対策構造が開示されている。
【0004】
また、鋼製タンクよりも自重が大きく、かつ津波による側圧を受け止めることが可能となるコンクリート側壁を有する浮屋根式タンクの施工方法の発明がなされており、本出願人による特許文献2の「コンクリート壁を備えたタンクの施工方法」の発明がある。この発明は、タンク内槽を構築し、その内槽をコンクリート打設用の内側型枠として利用し、かつ該内槽内に注水して内槽内に設置された浮屋根を浮上させ、該浮屋根の外周部に沿って環状に取付けた加圧バッグ内に注入した流体で加圧することにより、内槽の側板を内面から補強した状態で、コンクリートを打設する方法であり、設計高さまで順次外側型枠と浮屋根を上昇させ、外槽となるコンクリート側壁を下方から上方へ構築するコンクリート壁を備えた浮屋根式平底円筒形タンクの構築方法の先願である。
【0005】
さらに、スリップフォーム工法により、型枠と屋根を同時に上昇させる従来技術がある。
特許文献3の「スリップフォーム工法におけるルーフサポートストラクチャーの同時リフトアップ工法」の発明がある。この発明には、型枠及び該型枠を取付けた可動部材を油圧ジャッキにより一時的に順次上昇させて塔体構造物を建造するスリップフォーム工法において、可動部材に固着した部材に吊り下げたルーフサポートストラクチャーを前記型枠及び可動部材と一体的に上昇させるスリップフォーム工法におけるルーフサポートストラクチャーの同時リフトアップ工法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4の「スリップフォーム工法」の発明がある。この発明には、基礎部分を土台として屋根鉄骨の建方を行い、前記建方終了後、前記屋根鉄骨の脚部に、対向して配置される一対のコンクリート型枠をリフトアップしながら前記型枠間に連続的にコンクリートを打設していくことによりコンクリート壁を構築するためのスリップフォーム装置を取り付け、前記屋根鉄骨を前記型枠に設けた支持部により支持しながらリフトアップするスリップフォーム工法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献5の「LNG地上式タンクの施工方法」には、スリップフォーム工法又はスリップジャンプ工法により防液堤を施工すると共に、鉄骨屋根を型枠支保工に連結して型枠及び前記型枠支保工と共に上昇させるLNG地上式タンクの施工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-231768号公報
【文献】特願2017-231290号
【文献】特開昭59-109656号公報
【文献】特許第3412505号公報
【文献】特許第6251591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のようにタンク周囲に流出防止用の杭や矢板等を設置する津波対策は、タンクに作用する津波の圧力や浮力、流出した建築物の木材の衝突を避けることはできず、必ずしもタンク本体の損傷を免れることはできない。
また、様々な配管類が縦横に敷設されたタンクのヤード内に多数の杭を打設することは容易ではない。
故に、該金属製タンクに接するように囲繞してコンクリート製の側壁を配設する構造を採用し、さらに該金属製タンクをコンクリート側壁構築時の内側型枠として利用し、コンクリート製外槽を構築する方法が、危険物貯蔵タンクの津波対策として最も合理的である。
このような津波対策用のコンクリート製外槽を有する平底円筒形タンクとしては、
図9に示すような金属製のタンク1の外周部に内槽4の側板4bの全体又は大部分を囲繞できる設計高さHcのコンクリート製の外槽3の側壁3bを構築した二重殻構造の固定屋根式の平底円筒形タンク1が考えられる。
【0010】
ところで、平底円筒形タンクは、貯蔵液による内圧を基にその側板の必要板厚を求める設計がなされているため、該鋼製タンクをコンクリート側壁の構築のための型枠とする場合には、コンクリート打設時の外圧による鋼製タンク側板の変形を考慮する必要がある。
さらに、コンクリート側壁構築の工程を短縮するためには、一回のコンクリート打設高さをできるだけ高くすることが必要であるが、前記した鋼製タンクの変形の影響を考慮する必要が生じ、一回のコンクリート打設高さは型枠の強度により自ずと制限される。
鋼製タンクの津波対策としてコンクリート壁で囲繞するための内側型枠として鋼製タンク自体を利用するうえで、コンクリート打設時の外圧による変形を抑制するには鋼製タンクの側板板厚を厚くすれば良いが、タンク構築コストが増大する。
【0011】
鋼製タンクを内側型枠とする既存のスリップフォーム工法は、外側型枠のみを上昇させ、該タンクに仮設の補強構造を設置し、設計高さのコンクリート製の側壁を構築することが可能であるが、当該工法は、タンクと同じ高さを有す補強部材を円周間隔に複数設ける必要がある等、コスト等で様々な問題点が有った。
【0012】
特許文献1の「構造物の地震・津波対策構造」は、タンクの周囲の地盤に複数の矢板及び鋼管矢板を打設し、タンクの移動やタンクに漂流物が衝突することを防ぐ構造であるが、タンクに作用する津波の側圧や浮力自体を避ける構造ではなく、タンク側板の半径方向の変形を防止する構造に関するものでもない。
【0013】
特許文献2の「コンクリート壁を備えたタンクの施工方法」の発明は、コンクリート製の外槽を構築する際、外側型枠を順次コンクリート打設高さまで上昇させ、タンク内槽内に注水して浮屋根を上昇させ、浮屋根外周部に沿って環状に取付けた加圧バッグ内に流体を注入して内槽の側板を加圧補強した状態でコンクリートを打設する工法であるが、内槽の底板上で組立てた固定屋根を前記内槽の頂部まで上昇させて取り付ける過程において、該固定屋根の上昇と並行して外槽のコンクリートを下方から上方へ構築する固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法に関するものではない。
【0014】
特許文献3の「スリップフォーム工法におけるルーフサポートストラクチャーの同時リフトアップ工法」は、塔体構造物のルーフストラクチャーを取付ける作業に使用するルーフサポートストラクチャーを型枠やヨーク等と一緒に上昇させ、該ルーフサポートストラクチャーにより型枠の水平方向の変形を防止できる工法であるが、固定屋根式平底円筒形タンクの構成部材である固定屋根及び該固定屋根に取付けた補強構造を利用して、型枠の変形を防止する構造に関するものではない。
また、二重殻構造の平底円筒形タンクの内槽の側板をコンクリート打設用の内側型枠とする工法でもない。
【0015】
特許文献4の「スリップフォーム工法」の発明は、屋根鉄骨の脚部に一対のコンクリート型枠を取付け、前記屋根鉄骨を前記型枠に設けた支持部により支持しながらリフトアップし、前記型枠間に連続的にコンクリートを打設するスリップフォーム工法に関するものであるが、固定屋根式平底円筒形タンクの構成部材である固定屋根及び該固定屋根に取付けた補強構造を利用して、型枠の変形を防止する構造に関するものではない。
また、二重殻構造の平底円筒形タンクの内槽の側板をコンクリート打設用の内側型枠とする工法でもない。
【0016】
特許文献5の「LNG地上式タンクの施工方法」の発明は、鉄骨屋根を型枠及び型枠支保工と共に上昇させるスリップフォーム工法によりLNG地上式タンクを施工する方法であって、鉄骨屋根の剛性で型枠支保工及び型枠の形状を保持する施工方法に関するものであるが、二重殻構造の平底円筒形タンクの内槽の側板をコンクリート打設用の内側型枠とする工法でもない。
【0017】
この発明は上述のような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、津波対策等の目的でコンクリート製の外槽を備えた金属製の固定屋根式平底円筒形タンクを構築するに当たって、金属製の内槽である固定屋根式平底円筒形タンクの側板をコンクリート製の外槽の側壁構築用の内側型枠とするとともに、前記内槽の内部で組み立てた固定屋根と該固定屋根の外縁部に固定した補強構造を前記内槽から前記コンクリートの打設幅を離隔した距離に仮設した外側型枠と並行させて吊り上げることにより、前記内槽の側板を半径方向に変形させることなく、垂直立設状態を維持した状態で、前記コンクリート製の外槽の側壁を下方から上方へ構築することが可能な型枠スライド工法による固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1の発明に係る固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法は、金属製の内槽を囲繞して配設されるコンクリート製の外槽を備えた固定屋根式平底円筒形タンクの構築における、金属製の固定屋根を吊り上げる工程と、前記外槽の側壁を構築する工程を並行して施工する固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法であって、前記内槽の側板を前記外槽の側壁構築における内側型枠とし、円筒状の該内側型枠の外面からコンクリートの打設幅を離隔した距離に前記外槽の側壁構築に用いる外側型枠を仮設し、前記内槽の内部の下部で組立てた前記固定屋根を該内槽の頂部まで吊り上げる吊り上げ手段と、前記固定屋根の吊り上げと並行して前記外側型枠を上昇させる型枠上昇手段とを具備した前記外槽の側壁構築のための型枠スライド工法において、前記内槽の底板と側板を先行して施工する工程と、該内槽の内部の下部で前記固定屋根を組み立てる工程と、前記固定屋根の外縁部に、前記コンクリート打設による前記内槽の側板の半径方向の変形を防止する補強構造を取付ける工程とで構成する前工程と、前記吊り上げ手段で前記補強構造と共に前記固定屋根を吊り上げ、前記型枠上昇手段で前記外側型枠を上昇させる工程と、前記内槽の側板を前記固定屋根及び補強構造とで補強しつつ、前記内槽の側板と外側型枠の間にコンクリートを打設して凝固させる工程とを複数回順次繰り返して、前記外槽の側壁を下方から上方へ構築する工程とで構成する本工程と、前記固定屋根を前記内槽の側板の頂部に固定する後工程とで構成することを特徴とする。
【0019】
請求項2の発明に係る固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法の固定屋根は、該固定屋根の平面視中心から前記内槽側板に向かって放射状に延伸して設置した複数のラフターと、該ラフターの間に該固定屋根の平面視中心を中心とする同心円状に設置した複数のガーダーとを具備した屋根骨構造であって、前記補強構造は、前記内槽の側板の内周面に沿って水平方向の円弧状に湾曲した複数段の水平補強材と、該水平補強材と直交する鉛直方向に設けた複数列の縦補強材とを接合して、前記内槽の側板の内周面に沿うように形成した格子状のフレーム構造であって、前記水平補強材或いは前記縦補強材に固定した複数の屋根骨固定用ブラケットとを具備し、各々の該屋根骨固定用ブラケットと前記屋根骨構造の複数の前記ラフターの全ての先端部或いは複数の先端部とをボルトとナットによって固定する構造とし、前記吊り上げ手段で前記補強構造と共に前記固定屋根を吊り上げる際に、該補強構造の外周面を前記内槽の側板内周面に当接させることによって、前記内槽の側板を内面側から補強することを特徴とする。
【0020】
請求項3の発明に係る固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法の補強構造は、カウンターウエイトとアームとから構成される補助補強構造を備え、該補助補強構造は、前記吊り上げ手段で前記補強構造と共に固定屋根を吊り上げる際に、前記補助補強構造の前記アームの中間部を中心として働く前記カウンターウエイトによる回転モーメントの働きで、該補強構造の外周面を前記内槽の側板内周面に強く当接し、前記固定屋根と共に該内槽の側板を内面側から補強することを特徴とする。
【0021】
請求項4の発明に係る固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法は、前記後工程において、前記固定屋根及び前記補強構造を前記吊り上げ手段で前記内槽の側板の頂部まで上昇させ、該固定屋根及び補強構造の吊り上げ状態を維持しながら、前記固定屋根の上方から前記補強構造の屋根骨固定用ブラケットのボルトとナットを取外して前記補強構造を前記屋根骨構造から取り外して撤去する工程を施工した後、前記内槽の側板の頂部に固定した複数の固定屋根固定用ブラケットに前記固定屋根をボルトとナットで固定する工程を施工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明に係る固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法は、金属製の内槽を囲繞して配設されるコンクリート製の外槽を備えた固定屋根式平底円筒形タンクの構築における、金属製の固定屋根を吊り上げる工程と、前記外槽の側壁を構築する工程を並行して施工する固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法であって、前記内槽の側板を前記外槽の側壁構築における内側型枠とし、円筒状の該内側型枠の外面からコンクリートの打設幅を離隔した距離に前記外槽の側壁構築に用いる外側型枠を仮設し、前記内槽の内部の下部で組立てた前記固定屋根を該内槽の頂部まで吊り上げる吊り上げ手段と、前記固定屋根の吊り上げと並行して前記外側型枠を上昇させる型枠上昇手段とを具備した前記外槽の側壁構築のための型枠スライド工法において、前記内槽の底板と側板を先行して施工する工程と、該内槽の内部の下部で前記固定屋根を組み立てる工程と、前記固定屋根の外縁部に、前記コンクリート打設による前記内槽の側板の半径方向の変形を防止する補強構造を取付ける工程とで構成する前工程と、前記吊り上げ手段で前記補強構造と共に前記固定屋根を吊り上げ、前記型枠上昇手段で前記外側型枠を上昇させる工程と、前記内槽の側板を前記固定屋根及び補強構造とで補強しつつ、前記内槽の側板と外側型枠の間にコンクリートを打設して凝固させる工程とを複数回順次繰り返して、前記外槽の側壁を下方から上方へ構築する工程とで構成する本工程と、前記固定屋根を前記内槽の側板の頂部に固定する後工程とで構成するので、
内槽の側板の補強とコンクリート打設を繰り返して実施することにより、外槽のコンクリートの打設によって内槽の側板を半径方向に変形させることなく、内槽の側板の垂直立設状態を維持して設計高さが大きいコンクリート製の外槽の側壁を構築することが可能である。
固定屋根式平底円筒形タンクの構成部材である固定屋根と該固定屋根に連結した補強構造を組み合わせ、コンクリート打設時の補強構造として使用することができるため、前記固定屋根に取付ける補強構造の大きさや重量を小さくすることができ、側板全体に補強構造等を取付けて補強する場合と比較して施工性、経済性が向上するとともに、外槽の側壁のコンクリート打設時の安全性も向上する。
固定屋根式平底円筒形タンクの側板を内側型枠として使用するため、別途コンクリート製の外槽の側壁打設用の内側型枠を仮設・撤去する必要がなく、工期短縮と建設コストの低減を図ることができる。
【0023】
請求項2の発明に係る固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法の固定屋根は、該固定屋根の平面視中心から前記内槽側板に向かって放射状に延伸して設置した複数のラフターと、該ラフターの間に該固定屋根の平面視中心を中心とする同心円状に設置した複数のガーダーとを具備した屋根骨構造であって、前記補強構造は、前記内槽の側板の内周面に沿って水平方向の円弧状に湾曲した複数段の水平補強材と、該水平補強材と直交する鉛直方向に設けた複数列の縦補強材とを接合して、前記内槽の側板の内周面に沿うように形成した格子状のフレーム構造であって、前記水平補強材或いは前記縦補強材に固定した複数の屋根骨固定用ブラケットとを具備し、各々の該屋根骨固定用ブラケットと前記屋根骨構造の複数の前記ラフターの全ての先端部或いは複数の先端部とをボルトとナットによって固定する構造とし、前記吊り上げ手段で前記補強構造と共に前記固定屋根を吊り上げる際に、該補強構造の外周面を前記内槽の側板内周面に当接させることによって、前記内槽の側板を内面側から補強するので、
固定屋根及び補強構造による荷重を、内槽の側板に確実に作用させることができ、前記内槽の側板のコンクリート打設に対する補強を適切に行った状態でコンクリートを打設することが可能となり、施工性を向上させることができる。
【0024】
請求項3の発明に係る固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法の補強構造は、カウンターウエイトとアームとから構成される補助補強構造を備え、該補助補強構造は、前記吊り上げ手段で前記補強構造と共に固定屋根を吊り上げる際に、前記補助補強構造の前記アームの中間部を中心として働く前記カウンターウエイトによる回転モーメントの働きで、該補強構造の外周面を前記内槽の側板内周面に強く当接し、前記固定屋根と共に該内槽の側板を内面側から補強するので、
前記アームの中間部を中心としたカウンターウエイトによる回転モーメントの働きで固定屋根外縁部の補強構造を内槽の側板の内面に押し付けることが可能となり、固定屋根や補強構造のみで内槽の側板を補強する場合と比較して、内圧を大きくすることができ、一回当たりの外槽の側壁のコンクリート打設高さをより高くすることが可能となる。
【0025】
請求項4の発明に係る固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法は、前記後工程において、前記固定屋根及び前記補強構造を前記吊り上げ手段で前記内槽の側板の頂部まで上昇させ、該固定屋根及び補強構造の吊り上げ状態を維持しながら、前記固定屋根の上方から前記補強構造の屋根骨固定用ブラケットのボルトとナットを取外して前記補強構造を前記屋根骨構造から取り外して撤去する工程を施工した後、前記内槽の側板の頂部に固定した複数の固定屋根固定用ブラケットに前記固定屋根をボルトとナットで固定する工程を施工するので、前記固定屋根を前記内槽の側板の頂部に固定する際に、不要になった補強構造を容易に取り外すことが可能なため、補強構造を固定屋根から取り外すための足場が不要となり、経済性、施工性、安全性を向上させることが可能である。また、補強構造に取付けた屋根骨固定用ブラケットを、固定屋根を内槽の側板頂部に取付けるための固定屋根固定用ブラケットと兼用することにより、コストダウンすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法の吊り上げ装置22で固定屋根6及び補強構造20を吊り上げる事例の全体側面説明図である。
【
図2】本発明に係る固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法の吊り上げ装置22で固定屋根6及び補強構造20を吊り上げる他の事例の全体側面説明図である。
【
図3】固定屋根式平底円筒形タンク1の構築開始から型枠上昇装置11、吊り上げ装置22設置完了までの前工程の手順の概略を説明するためのフローチャートである。
【
図4】固定屋根式平底円筒形タンク1の外槽3の側壁3bの構築開始から終了までの本工程の手順の概略を説明するためのフローチャートである。
【
図5】固定屋根式平底円筒形タンク1の固定屋根6から補強構造20を取り外して、固定屋根6を内槽4の側板4bの頂部に取付ける後工程の手順の概略を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図1のA部の拡大図で、固定屋根6及び補強構造20を吊り上げ装置22で吊り上げる事例を示す側面説明図である。
【
図7】
図2のB部の拡大図で、固定屋根6及び補強構造20を吊り上げ装置22で吊り上げる他の事例を示す側面説明図である。
【
図8】固定屋根式平底円筒形タンク1の固定屋根6を内槽4の側板4bの頂部まで吊り上げ、固定する事例を示す側面説明図である。
【
図9】固定屋根式平底円筒形タンク1の事例を示す全体側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法の実施形態例について
図1から
図8を参照しながら説明する。なお、本発明は下記の実施形態にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で下記の構成要素の省略または付加、構成要素の形状等の実施形態の変更を加えることが出来るのはもちろんである。また、図は概略を示すもので、一部のみを描き詳細構造は省略した。
【0028】
図1及び
図2は、本発明に係る固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法の吊り上げ装置22で固定屋根6及び補強構造20を吊り上げる事例の全体側面説明図で、2は基礎、3は外槽、4は内槽を示す。
この二重殻構造の平底円筒形タンク1は、金属製の内槽4と該内槽4を囲繞して配設されるコンクリート製の外槽3とを備えた構造である。
図1、
図2はこのコンクリート製の外槽3の施工段階の断面図を示している。
前記内槽4は、基礎2上に打設したコンクリート製の底版3a上に設置され、金属製の底板4aと、該底板4a上に立設した筒体状の金属製の側板4bとからなる構造であり、内槽4の側板4bの頂部には、トップアングル7が設置されている。また、内槽4の側板4bの高さ方向上部に、雨水浸入防止措置9を備え、内槽4の側板4bと外槽3の側壁3b間への雨水5の浸入を防止する。
また
図1及び
図2は、底板4a上の屋根架台8(図示しない)上にてH鋼等の形鋼材からなる屋根骨構造6aを放射状に組み、該屋根骨構造6a上に屋根板6bを貼設して溶接し、固定屋根6を形成する。
前記屋根骨構造6aは、該固定屋根6の平面視中心から前記内槽4の側板4bに向かって放射状に延伸して設置した複数のラフター6a1と、該ラフター6a1の間に該固定屋根6の平面視中心を中心とする同心円状に設置した複数のガーダー6a2とを具備した構造とする。
前記固定屋根6は、
図1に示す通り、その外縁部に、前記コンクリート打設による前記内槽4の側板4bの半径方向の変形を防止する補強構造20を取付けた構造とし、必要に応じて
図2に示す通り、補強構造20の上部に補助補強構造21を備えた構造とする。
固定屋根6形成後は、該固定屋根6を内槽4の側板4bの頂部又はその近傍に設置した吊り上げ装置22で吊り上げて、該内槽4の側板4bの頂部に固定する。
なお
図1及び
図2は、吊り上げ装置22にジャッキアップ装置を用いているが、リフトアップ装置や電動ウィンチ等も使用することが可能である。
前記外槽3は、前記コンクリート製の底版3aと、前記内槽4の側板4bを囲繞するコンクリート製の外槽3の側壁3bとからなる構造である。通常底版3aは鉄筋コンクリート、側壁3bはプレストレストコンクリートで構築する。
【0029】
タンク1は、その内槽4の頂部又は頂部近傍に外側型枠3b1の型枠上昇手段11(以下、型枠上昇装置11)を備えていることとする。
図1、
図2は、内槽4の上部に円周等間隔に仮設した架台12上に当該型枠上昇装置11を備えた事例を示している。なお、この架台12には、内槽4の側板4bの頂部又は上部外周面に設けた点検架台やウィンドガーダー等のタンクの補強構造を使用しても良い。
この型枠上昇装置11は、一端部13a1が前記外側型枠3b1に固定された線材13aを、前記架台12上部に仮設した滑車15に巻装させた後、当該線材13aの他端部13a2を巻き付ける電動巻き取り機14で構成されている。
前記線材13aには、ワイヤーやロープ等を使用する。
【0030】
図3は、固定屋根式平底円筒形タンク1の構築開始から型枠上昇装置11、吊り上げ装置22設置完了までの前工程の概略を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、新設の固定屋根式平底円筒形タンクのコンクリート製の外槽3の側壁3bを構築する場合の工程の事例を示す。
まず、工程(A)において、コンクリート製の底版3aを打設する。
続いて、外槽3の側壁3bの構築に先行して内槽4を構築し、コンクリート打設用の内側型枠4bとする。該内槽4、すなわち内側型枠4bは以下の工程(B)~(D)で構築する。
工程(B)において、底版3a上に底板4aを設置する。
工程(C)において、該底板4a上に円筒状の側板4bを構築する。
工程(D)において、該底板4a上部で屋根骨構造6aと屋根板6bとから構成される固定屋根6を組み立てる。
工程(E)において、前記固定屋根6の外縁部に補強構造20を取付け、必要に応じて該補強構造20に補助補強構造21を取付ける。
続いて、工程(F)において、内槽4の側板4bの頂部又は頂部近傍に型枠上昇装置11を仮設する。型枠上昇装置11の線材13aは、一端部13a1を外側型枠3b1の支持部材17aに固定し、架台12上に仮設した滑車15に巻装させ、上昇駆動装置18の電動巻き取り機14に巻き付ける。
続いて、工程(G)において、コンクリート打設用の外側型枠3b1を仮設する。
続いて、工程(H)において、型枠上昇装置11の線材13aの一端部13a1を外側型枠3b1に固定し、前記架台12上部に仮設した滑車15に巻装した後、他端部13a2を電動巻き取り機14に巻き付ける。
続いて、工程(I)において、内槽4の側板4bの頂部又は側部に設けた前記架台12上に吊り上げ装置22を仮設する。架台12は、外側型枠3b1の架台12と別の架台を使用しても良い。なお、吊り上げ装置22は、ジャッキアップ装置、リフトアップ装置、電動ウィンチ等とする。
【0031】
図4は、固定屋根式平底円筒形タンク1の外槽3の側壁3bの構築開始から終了までの本工程の手順の概略を説明するためのフローチャートである。
内槽4の頂部又は頂部近傍に型枠上昇装置11及び吊り上げ装置22を仮設した後、工程(a)において、コンクリート打設中心高さHpを制御装置19に設定する。なおコンクリート打設中心高さHpは、
図1又は
図2に示す通り、凝固したコンクリートの高さHp1に打設するコンクリートの下端からその中心までの高さHp2を足した高さであり、コンクリート打設時はこの高さを補強の中心高さHrと同じにする。
続いて、工程(b)において、吊り上げ装置22を駆動し、設定したコンクリート打設中心高さHpまで固定屋根6及び補強構造20を吊り上げる。
続いて、工程(c)において、型枠上昇装置11を駆動し、外側型枠3b1に固定された線材13aが電動巻き取り機14で巻き取られ、外側型枠3b1を前記工程(b)において固定屋根6を吊り上げた高さと同じ高さの外槽3の側壁3b構築のためのコンクリート打設中心高さHpまで並行して上昇させる。
続いて、工程(d)において、固定屋根6及び補強構造20で前記内槽4の側板4bを補強した状態で、前記内槽4の側板4bと外側型枠3b1間の該内槽4の側板4bが半径方向に変形しない所定の高さまで外槽3の側壁3bのコンクリートを打設する。
続いて、工程(e)において、打設したコンクリートを凝固させる。
設計高さHcまで外槽3の側壁3bのコンクリートが打設されていない場合は、前記工程(b)、(c)に戻って、吊り上げ装置22及び型枠上昇装置11を駆動させて固定屋根6及び補強構造20、外側型枠3b1を再び上昇させ、前記工程(b)から工程(e)までの工程を再度実施する。
この一連の工程(b)から工程(e)を複数回順次繰り返し実施し、設計高さHcのコンクリート製の外槽3の側壁3bの構築を完了する。
設計高さHcのコンクリートを打設した後、外槽3の側壁3bがプレストレストコンクリートの場合は、該コンクリートにPC鋼線(図示しない)等で緊張力を与える。
【0032】
図5は、固定屋根式平底円筒形タンク1の固定屋根6から補強構造20を取り外して、固定屋根6を内槽4の側板4bの頂部に取付ける後工程の手順の概略を説明するためのフローチャートである。
まず、工程(f)において、コンクリート製の外槽3の側壁3bの高さに位置する内槽4内の固定屋根6及び補強構造20を、前記吊り上げ装置22で内槽4の側板4b頂部までの残りの高さ分上昇させ、当該頂部位置で該固定屋根6及び補強構造20の吊り上げ状態を維持する。
続いて、工程(g)において、該固定屋根6の上方から前記補強構造20の屋根骨固定用ブラケット20aのボルトとナット20bを取外して前記補強構造20を前記屋根骨構造6aから取り外して撤去する。
続いて、工程(h)において、前記内槽4の側板4bの頂部に固定した複数の固定屋根固定用ブラケット23aに前記固定屋根6をボルトとナット23cで固定する。
続いて、外側型枠3b1、型枠上昇装置11及び吊り上げ装置22を解体撤去し、工事を終了する。
【0033】
本工程では、内槽4の側板4bの補強とコンクリート打設を繰り返して実施することにより、外槽3のコンクリートの打設によって内槽4の側板4bを半径方向に変形させることなく、内槽4の側板4bの垂直立設状態を維持して設計高さHcが大きいコンクリート製の外槽3の側壁3bを構築することが可能である。
固定屋根式平底円筒形タンク1の構成部材である固定屋根6と該固定屋根6に連結した補強構造20を組み合わせ、コンクリート打設時の補強構造として使用することができるため、前記固定屋根6に取付ける補強構造の大きさや重量を小さくすることができ、側板全体に補強構造等を取付けて補強する場合と比較して施工性、経済性が向上するとともに、外槽3の側壁3bのコンクリート打設時の安全性も向上する。
固定屋根式平底円筒形タンク1の内槽4の側板4bを内側型枠として使用するため、別途コンクリート製の外槽3の側壁3b打設用の内側型枠を仮設・撤去する必要がなく、工期短縮と建設コストの低減を図ることができる。
【0034】
図6は、
図1のA部の拡大図で、固定屋根6及び補強構造20を吊り上げ装置22で吊り上げる事例を示す側面説明図である。なお
図6は、固定屋根6を固定屋根吊り上げ装置22aで吊り上げる事例を示している。
前記補強構造20は、前記内槽4の側板4bの内周面に沿って水平方向の円弧状に湾曲した複数段の水平補強材20cと、該水平補強材20cと直交する鉛直方向に設けた複数列の縦補強材20dとを接合して、前記内槽4の側板4bの内周面に沿うように形成した格子状のフレーム構造であって、前記水平補強材20c或いは前記縦補強材20dに固定した複数の屋根骨固定用ブラケット20aとを具備し、各々の該屋根骨固定用ブラケット20aと前記屋根骨構造6aの複数の前記ラフター6a1の全ての先端部或いは複数の先端部とをボルトとナット20bによって固定する構造とする。なお格子状のフレームは、H形鋼、C形鋼、L形鋼等の形鋼材で形成する。
また
図6は、固定屋根6又は補強構造20の吊り上げ装置22をジャッキアップ装置で構成した事例を示す。
以下、前記ジャッキアップ装置で固定屋根6を吊り上げる事例について説明する。
前記固定屋根6のジャッキアップ装置は、一本のワイヤ或いはロッド等からなる吊り材22bの下端に吊りピース22cを係止し、固定屋根6と該固定屋根6に取付けた補強構造20を水平に保持しつつ同時に吊り上げる。該吊りピース22cは、屋根骨構造6aのラフター6a1の半径方向外方側の各々の先端部の上部に固定する。
前記構成とすることにより、固定屋根6及び補強構造20による荷重を、内槽4の側板4bに確実に作用させることができ、前記内槽4の側板4bのコンクリート打設に対する補強を適切に行った状態でコンクリートを打設することが可能となり、施工性を向上させることができる。
また、補強構造20上部に吊りピース22fを取り付け、内槽4の側板4bの頂部で、
固定屋根吊り上げ装置22aと別に設けた補強構造吊り上げ装置22dの吊り材22eを前記吊りピース22fに係止した後、固定屋根6から取り外した補強構造20のみを吊り上げて、撤去することが可能となる。
吊り上げ装置22には、ジャッキアップ装置だけでなく、リフトアップ装置や電動ウィンチ等を使用することが可能である。
また、吊り上げ装置22は、固定屋根6及び補強構造20の両方に設ける構造としても良い。
【0035】
図7は、
図2のB部の拡大図で、固定屋根6及び補強構造20を吊り上げ装置22で吊り上げる他の事例を示す側面説明図である。
前記補強構造20は、カウンターウエイト21dとL字状等のアーム21bとから構成される補助補強構造21を備える。該補助補強構造21は、固定屋根6上に固定した固定用ピース21eに取付用アーム21gの下端部をボルトとナット21c等で固定し、該取付用アーム21gの上端部と前記アーム21bの中間部21b2をピン21f等で回動可能に連結し、かつ前記アーム21bの中間部21b2より上方の上端部21b1に前記カウンターウエイト21dをボルトとナット21c又はピン21f等で固定した構造とする。また前記アーム21bの下端部21b3を、前記補強構造20の側部等に設けた取付用ピース21aにボルトとナット21c等で固定し、前記カウンターウエイト21dの回転モーメントが働いた際に、前記補強構造20を内槽4の側板4bに押圧する方向に力が働くようにする。また、取付用アーム21gの下端部を固定屋根6と溶接で固定する構造等としても良い。
前記補助補強構造21を補強構造20に設けることにより、前記アーム21bの中間部21b2を中心としたカウンターウエイト21dによる回転モーメントの働きで固定屋根6外縁部の補強構造20を内槽4の側板4b内面に押し付けることが可能となり、固定屋根6や補強構造20のみで内槽4の側板4bを補強する場合と比較して、内圧を大きくすることができ、一回当たりの外槽3の側壁3bのコンクリート打設高さをより高くすることが可能となる。
【0036】
前記外側型枠3b1は、複数の型枠上昇装置11で吊持され、外槽3のコンクリート打設箇所の外側に形成されたリング状のトラス梁3b2と、該トラス梁3b2の上面に取付けた作業足場3b5と、前記トラス梁3b2の内周面に取付けた型枠支持部3b4と、該型枠支持部3b4の内周面に取付け、コンクリートと接する型枠パネル3b3と、前記内槽4の側板4b外面と該型枠パネル3b3との間隙の間隔を保持するガイド部材3b7と、前記作業足場3b5上に設置した手摺り3b8とで構成する。
前記型枠支持部3b4は、H形鋼やみぞ形鋼等で形成し、前記型枠パネル3b3の外周部に沿って環状に複数段取付ける。該型枠支持部3b4及び型枠パネル3b3は、全体で円筒状になるように円周方向に溶接等によって繋ぎ合わせる。また、該型枠支持部3b4及び型枠パネル3b3は、外槽3のコンクリート打設の影響を受けないようにその数量、大きさ、位置を設計する。
前記型枠パネル3b3は、外槽3を高さ方向に複数分割した内の一回のコンクリート打設高さより大きい高さを有すパネルとする。また、当該型枠パネル3b3の下部が前段の凝固したコンクリートと接触するように高さを設計することが好ましい。
前記型枠支持部3b4又は型枠パネル3b3に沿って前記作業足場3b5同士を環状に連結する。
前記ガイド部材3b7は、前記内槽4の側板4b外面と型枠パネル3b3の内面間の間隙の間隔を保持することが可能な長さを有し、前記型枠パネル3b3の内周面上部に水平方向に取付け、外側型枠3b1を上下方向に移動した際に、前記内槽4の側板4b外周面と該型枠パネル3b3内周面との間隙の間隔を保持する。また、このガイド部材3b7の先端部にローラー3b6を設け、当該ローラー3b6を回転させて前記外側型枠3b1昇降時に内槽4の側板4b外面に沿ってガイドさせても良い。
また、外側型枠3b1外周部を囲繞するように、ワイヤーやターンバックルで締結したり、押さえ金具や重り等(何れも図示しない)を設置することにより、外側型枠3b1が外槽3のコンクリート打設で水平方向に揺動しないようにする。
なお、16はコンクリート打設用の鉄筋類である。
【0037】
図8は、固定屋根式平底円筒形タンク1の施工方法の固定屋根6を内槽4の側板4bの頂部まで吊り上げ、固定する事例を示す側面説明図である。
補強構造20は、該固定屋根6の平面視中心から前記内槽4の側板4bに向かって放射状に延伸して設置した複数のラフター6a1の全ての先端部或いは複数の先端部と固定するための複数の屋根骨固定用ブラケット20aを円周方向の所定の間隔毎に備え、各屋根骨固定用ブラケット20aと放射状に形成されたラフター6a1の全ての先端部或いは複数の先端部がボルトとナット20bで着脱自在に固定された構造とする。
固定屋根6の屋根骨構造6aと補強構造20が連結された状態で内槽4の側板4bの頂部まで吊り上げた後、前記固定屋根6の上方から前記ボルトとナット20bを容易に取外して前記補強構造20を取り外して解体撤去する。
その後、内槽4の側板4b内面の頂部に、該内槽4の側板4bの円周方向の一定間隔毎に取付けた複数のブラケット23aと固定屋根6の屋根骨構造6aのラフター6a1の各々の先端部をボルトとナット23cで固定する。
【0038】
前記固定屋根6の補強構造20は、該固定屋根6を前記内槽4の側板4bの頂部に固定する際に、不要になった補強構造20を容易に取り外すことが可能なため、補強構造20を固定屋根6から取り外すための足場が不要となり、経済性、施工性、安全性を向上させることが可能である。
また、補強構造20に取付けた屋根骨固定用ブラケット20aを、固定屋根6を内槽4の側板4b頂部に取付けるための固定屋根固定用ブラケット23aと兼用することにより、コストダウンすることが可能である。
さらに、補強構造20に断面形状が逆L字型の形鋼材等を使用することにより、固定屋根6の上方向から取り外す作業が容易となる。
さらにまた、補強構造20を固定屋根6から取り外すことにより、補助補強構造21も同時に取り外すことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
前記固定屋根式平底円筒形タンクの施工方法は、地震時のタンクの耐震性能の向上、殊に外部からの津波対策などが望まれる固定屋根式タンク、タンク以外の貯蔵庫などの構築物にも適用することができ、特に設計高さが大きいコンクリート製の外槽の側壁を打設する必要がある構築物に有効である。
【符号の説明】
【0040】
1 タンク
2 基礎
3 (コンクリート製の)外槽
3a 底版
3b 側壁
3b1 外側型枠
3b2 トラス梁
3b3 型枠パネル
3b4 型枠支持部
3b5 作業足場
3b6 ローラー
3b7 ガイド部材
3b8 手摺り
4(金属製の)内槽
4a 底板
4b 側板(内側型枠)
5 雨水
6 固定屋根
6a 屋根骨構造
6b 屋根板
7 トップアングル
8 屋根架台
9 雨水浸入防止措置
10 貯蔵液
11 型枠上昇装置(手段)
12 (型枠上昇装置11及び又は外側型枠3b1設置用の)架台
13 線材
13a 外側型枠3b1の線材
13a1 外側型枠3b1の線材の一端部
13a2 外側型枠3b1の線材の他端部
14 電動巻き取り機
15 (型枠上昇装置11の)滑車
16 鉄筋類
17 支持部材
17a (外側型枠3b1の)支持部材
18 型枠上昇駆動装置(手段)
19 型枠上昇制御装置(手段)
20 補強構造(形鋼材)
20a (補強構造取付用)ブラケット
20b ボルト・ナット
20c 水平補強材
20d 縦補強材
21 補助補強構造
21a (補助補強構造取付用)ピース
21b アーム
21b1 (アームの)上端部
21b2 (アームの)中間部
21b3 (アームの)下端部
21c ボルトとナット
21d カウンターウエイト
21e 固定用ピース
21f ピン
21g 取付用アーム
22 吊り上げ装置(手段)
22a 固定屋根吊り上げ装置
22b (固定屋根6の)吊り材
22b1 (固定屋根6の)吊り材の端部
22c (固定屋根6の)吊りピース
22d 補強構造吊り上げ装置
22e (補強構造20の)吊り材
22e1 (補強構造20の)吊り材の端部
22f (補強構造20の)吊りピース
23 屋根骨取付材
23a (屋根骨取付用の)ブラケット
23b (屋根骨取付用の)保護板
23c ボルトとナット
Hcコンクリート側壁3bの設計高さ
Hr 補強の中心高さ
Hp コンクリートの打設中心高さ
Hp1 凝固したコンクリートの高さ
Hp2 打設するコンクリートの下端から中心までの高さ