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特許7217941流量制御装置、流量制御装置の制御方法、流量制御装置の制御プログラム
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  • 特許-流量制御装置、流量制御装置の制御方法、流量制御装置の制御プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】流量制御装置、流量制御装置の制御方法、流量制御装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20230130BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019056496
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020160552
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103872
【弁理士】
【氏名又は名称】粕川 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149456
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 喜幹
(74)【代理人】
【識別番号】100194238
【弁理士】
【氏名又は名称】狩生 咲
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐之
(72)【発明者】
【氏名】廣田 智一
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-263131(JP,A)
【文献】特開2011-39651(JP,A)
【文献】特開2018-45642(JP,A)
【文献】特開2016-162025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/00- 7/06
G05B 23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御弁と、
記憶部と、
前記制御弁の動作履歴を前記記憶部に保存する動作履歴保存処理部と、
を備え、
前記動作履歴保存処理部は、
前記制御弁の開閉回数を前記記憶部に保存する開閉回数更新部と、
前記制御弁の開度指示値の変化量の総計を積算して前記記憶部に保存する指示値変化量更新部と、
を有する、
流量制御装置。
【請求項2】
各フィードバックループにおいて、測定される流量に基づいて前記開度指示値を計算し、流れ出る流体の流量が設定値になるように前記制御弁の開度を制御するフィードバック制御部をさらに備え、
前記指示値変化量更新部は、前記フィードバックループにおいて前記開度指示値の変化量を算出し、前記開度指示値の変化量の総計に加算する、
請求項1記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記指示値変化量更新部は、前記流量制御装置の起動中においてそれぞれ定期的に前記開度指示値の変化量を更新する、
請求項1又は2記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記開閉回数更新部は、前記流量制御装置に設定される流量の設定値が0になるとき、前記開閉回数を更新する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項5】
前記記憶部は、揮発性メモリと不揮発性メモリを備え、
前記開閉回数更新部および前記指示値変化量更新部は、前記開閉回数および前記開度指示値の変化量をそれぞれ前記揮発性メモリに書込み、
前記動作履歴保存処理部は、前記揮発性メモリに保存されている前記開閉回数および前記開度指示値の変化量を、前記不揮発性メモリに書き込む保存処理部をさらに有する、
請求項1乃至4のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項6】
前記指示値変化量更新部による更新処理と、前記保存処理部による保存処理は、非同期に実行される、
請求項5に記載の流量制御装置。
【請求項7】
前記動作履歴保存処理部は、
前記制御弁の稼働時間を前記記憶部に保存する稼働時間更新部をさらに有し、
前記保存処理部は、前記稼働時間をさらに含む動作履歴を前記不揮発性メモリに書き込む、
請求項5又は6記載の流量制御装置。
【請求項8】
前記動作履歴に基づいて、前記流量制御装置の損耗度を計算する損耗度計算部をさらに備える、
請求項1乃至7のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項9】
前記損耗度計算部は、前記動作履歴を入力とするニューラルネットワークにより構成される、
請求項8記載の流量制御装置。
【請求項10】
前記制御弁は、ダイヤフラムと弁座とを備え、前記ダイヤフラムが前記弁座に対して開閉することにより流体の流量を調整するものである、
請求項1乃至9のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項11】
制御弁と、
記憶部と、
を備える流量制御装置の制御方法であって、
前記制御弁の開閉回数を前記記憶部に保存する開閉回数更新ステップと、
前記制御弁の開度指示値の変化量の総計を積算して前記記憶部に保存する指示値変化量更新ステップと、
を含む、
流量制御装置の制御方法。
【請求項12】
前記記憶部は、揮発性メモリと不揮発性メモリを備え、
前記開閉回数更新ステップおよび前記指示値変化量更新ステップは、前記開閉回数および前記開度指示値の変化量をそれぞれ前記揮発性メモリに書込むステップであり、
前記揮発性メモリに保存されている前記開閉回数および前記開度指示値の変化量を、前記不揮発性メモリに書き込む保存処理ステップをさらに含み、
前記指示値変化量更新ステップおよび前記保存処理ステップは、非同期に実行される、
請求項11記載の流量制御装置の制御方法。
【請求項13】
制御弁と、
記憶部と、
を備える流量制御装置の制御プログラムであって、
前記制御弁の開閉回数を前記記憶部に保存する開閉回数更新命令と、
前記制御弁の開度指示値の変化量の総計を積算して前記記憶部に保存する指示値変化量更新命令と、
をコンピュータに実行させる、
流量制御装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御装置、ならびにその制御方法および制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
流量センサで測定した流量に基づいて制御弁を調整することで、下流へ流れ出る流体の流量を設定値に調整する流量制御装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、マスフローコントローラ(以下、「MFC」ともいう。)によって測定される圧力、流量、応答時間およびオーバーシュートといったデータについて、統計処理を施して長期メモリに保存する、MFCの動作の管理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-504766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のMFCでは、動作上の状態の変化があったときに、データを保存する。動作上の状態の変化とは、例えば流量の設定値の変更である。しかしながら、設定値の変更がない場合であっても、フィードバック制御の結果として制御弁の開度が細かく制御される場合があり、例えば、MFCに供給される圧力に時間的な変化が生じる場合が該当する。特許文献1のMFCにおいては、設定値の変更とは独立して発生する制御弁の動作に関しては保存することができない。そこで、機械的な部品劣化を記録することを目的に、簡素な方法で制御弁の動作履歴を記録することができる流量制御装置が必要とされている。
【0006】
そこで、本発明は、簡素な方法で制御弁の動作履歴を記録することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一の観点に係る流量制御装置は、制御弁と、記憶部と、前記制御弁の動作履歴を前記記憶部に保存する動作履歴保存処理部と、を備え、前記動作履歴保存処理部は、前記制御弁の稼働時間を前記記憶部に保存する稼働時間更新部と、前記制御弁の開閉回数を前記記憶部に保存する開閉回数更新部と、前記制御弁の開度指示値の変化量の総計を前記記憶部に保存する指示値変化量更新部と、を有する。
【0008】
各フィードバックループにおいて、測定される流量に基づいて前記開度指示値を計算し、流れ出る流体の流量が設定値になるように前記制御弁の開度を制御するフィードバック制御部をさらに備え、前記指示値変化量更新部は、前記フィードバックループにおいて前記開度指示値の変化量を算出し、前記開度指示値の変化量の総計に加算するものとしてもよい。
【0009】
前記指示値変化量更新部は、前記流量制御装置の起動中においてそれぞれ定期的に前記開度指示値の変化量を更新するものとしてもよい。
【0010】
前記開閉回数更新部は、前記流量制御装置に設定される流量の設定値が0になるとき、前記開閉回数を更新するものとしてもよい。
【0011】
前記記憶部は、揮発性メモリと不揮発性メモリを備え、前記動作履歴保存処理部は、前記開閉回数および前記開度指示値の変化量を前記揮発性メモリに書込み、前記動作履歴保存処理部は、前記揮発性メモリに保存される前記開閉回数および前記開度指示値の変化量を含む動作履歴データを、前記不揮発性メモリに書き込む保存処理部をさらに有するものとしてもよい。
【0012】
前記指示値変化量更新部による更新処理と、前記保存処理部による保存処理は、非同期に実行されるものとしてもよい。
【0013】
前記動作履歴保存処理部は、前記制御弁の稼働時間を前記記憶部に保存する稼働時間更新部をさらに有し、前記保存処理部は、前記稼働時間をさらに含む動作履歴データを前記不揮発性メモリに書き込むものとしてもよい。
【0014】
前記動作履歴データに基づいて、前記流量制御装置の損耗度を計算する損耗度計算部をさらに備えるものとしてもよい。
【0015】
前記損耗度計算部は、前記動作履歴データを入力とするニューラルネットワークにより構成されるものとしてもよい。
【0016】
前記制御弁は、ダイヤフラムと弁座とを備え、前記ダイヤフラムが前記弁座に対して開閉することにより流体の流量を調整するものであってもよい。
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の別の観点に係る流量制御装置の制御方法は、制御弁と、記憶部と、を備える流量制御装置の制御方法であって、前記制御弁の稼働時間を前記記憶部に保存する稼働時間更新ステップと、前記制御弁の開閉回数を前記記憶部に保存する開閉回数更新ステップと、前記制御弁の開度指示値の変化量の総計を前記記憶部に保存する指示値変化量更新ステップと、を含む。
【0018】
前記記憶部は、揮発性メモリと不揮発性メモリを備え、前記開閉回数更新ステップおよび前記指示値変化量更新ステップは、前記開閉回数および前記開度指示値の変化量をそれぞれ前記揮発性メモリに書込むステップであり、前記揮発性メモリに保存されている前記開閉回数および前記開度指示値の変化量を、前記不揮発性メモリに書き込む保存処理ステップをさらに含み、前記指示値変化量更新ステップおよび前記保存処理ステップは、非同期に実行されるものとしてもよい。
【0019】
上記目的を達成するため、本発明のさらに別の観点に係る流量制御装置の制御プログラムは、制御弁と、記憶部と、を備える流量制御装置の制御プログラムであって、前記制御弁の稼働時間を前記記憶部に保存する稼働時間更新命令と、前記制御弁の開閉回数を前記記憶部に保存する開閉回数更新命令と、前記制御弁の開度指示値の変化量の総計を前記記憶部に保存する指示値変化量更新命令と、をコンピュータに実行させる。
なお、コンピュータプログラムは、インターネット等のネットワークを介したダウンロードによって提供したり、CD-ROMなどのコンピュータが読取可能な各種の記録媒体に記録して提供したりすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡素な方法で制御弁の動作履歴を記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明にかかる流量制御装置の実施の形態を示す全体概略図である。
図2】上記流量制御装置の機能ブロック図である。
図3】(a)上記流量制御装置の流量設定値を更新する工程を示すフローチャート、(b)上記流量制御装置が開度指示値を更新する工程を示すフローチャート、(c)上記流量制御装置が動作履歴データを不揮発性メモリに保存する工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明にかかる流量制御装置ならびにその制御方法および制御プログラムの実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1に示すように、流量制御装置1は、バルブボディ101、流量センサ102、変換部103、制御部104、および制御弁105を備える。流量制御装置1は、マスフローコントローラ(「MFC」ともいう。)とも呼ばれる装置である。
【0024】
バルブボディ101は、上流流路101aおよび下流流路101bを画定する略筒状の部材である。上流流路101aの上流側および下流流路101bの下流側は、制御対象の流体が流れる管や流路ブロックにそれぞれ接続されている。
【0025】
上流流路101aは、上流側から流体から流入する流路である。上流流路101aは途中で、流量センサ102を通る流路とバイパス流路101cとに分岐した後に合流し、制御弁105へと流出する。制御弁105は、ダイヤフラム110と、ダイヤフラム110に対向する弁座112を有する。ダイヤフラム110と弁座112の間の空間は上流流路101aと下流流路101bとの間を連通する空間となっている。ダイヤフラム110をアクチュエータ111により変形させることで、ダイヤフラム110が弁座112に対して開閉することにより流体の流量が調整可能である。図1においてアクチュエータ111の内部構造は図示省略しているが、制御弁105は、例えば金属製ダイヤフラムを、アクチュエータ111内部のピエゾ素子(ピエゾアクチュエータ)を用いて開閉するピエゾ素子駆動型制御弁である。
【0026】
下流流路101bは、上流側から制御弁105により流量制御された流体が流入し、流量制御装置1の下流側に流出するように構成されている。
バイパス流路101cは、流体が層流になる程度に細い流路が多数並列になった構造の層流素子を有する流路である。本実施例では、エッチング加工により溝が掘られた板(バイパスシート)を複数枚積み重ねることによって層流素子が構成されている。
【0027】
流量センサ102は、センサチューブ102aに流れる流体の流量を計測するセンサである。流量センサ102は、例えばセンサチューブ102aの上流および下流に発熱抵抗体102b、102cを有していて、発熱抵抗体102b、102cの温度の違いに基づいて、センサチューブ102aに流れる流体の流量を電圧に変換する。バイパス流路101cに流れる流量とセンサチューブ102aに流れる流量の割合は既知であるので、センサチューブ102aに流れる流量を計測することにより、上流流路101aの流量を算出することができる。流量センサ102は、流量が増加してくると出力値が飽和するため、計測可能な流量の範囲は限られているが、バイパス流路101cを調整することで、上流流路101aの流量、つまり流量制御装置1として計測可能な流量の範囲、を調節する事ができる。
【0028】
変換部103は、流量設定値を流量センサ102の出力値と比較可能な状態に変換した上で、流量センサ102の出力値と共に制御部104に出力する機能部である。変換部103は、流量センサ102の出力値を整流および増幅したり、ノイズ除去のために出力値にローパスフィルタをかけたりしてもよい。変換部103は、流量設定値に対して、流体の種類に応じた差異、および流量制御装置1の個体差等により生じる測定誤差を補正した上で、センサ出力目標値として制御部104に出力する。
【0029】
制御部104は、流量センサ102の出力値と、センサ出力目標値とを比較し、比較の結果に基づいて制御弁105を制御する機能部である。
【0030】
制御部104は、例えばフィードバック制御を行うことにより、下流流路101bから排出される流量が流量設定値となるように、制御弁105の開度を制御する。制御部104は、CPU、メモリM、A/Dコンバータ等を内蔵している。制御部104は、後述する動作を実行するように構成されたコンピュータプログラムを含んでいてよく、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせによって実現され得る。
【0031】
図2を用いて、制御部104が有する、制御弁105の動作履歴を保存する構成について説明する。制御部104は、フィードバック制御部11、動作履歴保存処理部12、損耗度計算部13、および記憶部20を備える。なお、本実施形態においては、制御弁105に隣接して配置される1個の筐体内に全ての機能部が格納されているように説明しているが、本発明の技術的範囲はこれに限られない。流量制御装置1は、機構部と計算部とを含む、複数の装置が接続されるシステムを含む概念である。例えば、一部又は全部の機能部が、制御弁105とは物理的に離間して配置されていて、有線又は無線で接続されていてもよい。
【0032】
記憶部20は、揮発性メモリ21および不揮発性メモリ22を有する。揮発性メモリ21は、高速にアクセスできる記憶部であり、例えばレジスタードメモリ等のDRAMにより構成されている。不揮発性メモリ22は、例えばフラッシュメモリ等、電源を入り切りした場合にも記録データを保持する記憶部である。不揮発性メモリ22への保存処理は、例えば1回につき5ms程度を要し、揮発性メモリ21と比較して時間を要する。
【0033】
フィードバック制御部11は、測定される流量に基づいて、下流へ流れ出る流体の流量が設定値になるように前記制御弁の開度をフィードバック制御する機能部である。フィードバック制御部11は、各フィードバックループにおいて、測定される流量に基づいて開度指示値を計算する。
【0034】
動作履歴保存処理部12は、制御弁の動作履歴を更新して保存する機能部である。動作履歴保存処理部12は、稼働時間更新部121、開閉回数更新部122、指示値変化量更新部123および保存処理部124を有する。
【0035】
稼働時間更新部121は、制御弁105の稼働時間を更新して揮発性メモリ21に保存する機能部である。稼働時間は、通電される部品の寿命に対応する。また、稼働時間は、特に制御部104に搭載されるコンデンサ等の電気回路を含む、機械的動作に関係のない部品の寿命の指標である。
【0036】
開閉回数更新部122は、制御弁105の開閉回数を更新して揮発性メモリ21に保存する機能部である。開閉回数更新部122は、流量制御装置1が流量設定値を変更するコマンドを受信し、制御弁105が閉じられるコマンドであるとき、閉になった回数の計数を行う。開閉回数、特に閉になった回数は、バルブが閉じられ、ダイヤフラム110が弁座112に着座する時の衝撃の指標である。
【0037】
指示値変化量更新部123は、制御弁105の開度指示値の変化量の総計を更新して揮発性メモリ21に保存する機能部である。指示値変化量更新部123は、開度指示値の変化量を算出して総和を記録する。より具体的には、指示値変化量更新部123は、フィードバック制御部11により計算される開度指示値と、直前の開度指示値との差の絶対値を算出し、開度指示値の変化量の総計に加算する。開度指示値を示す制御部104からの伝達信号は、例えば電圧であり、さらに電流に変換されてアクチュエータ111を駆動してもよい。開度指示値の変化量は、ダイヤフラムの変形の総量の指標である。すなわち、連続的な金属の変形に起因する金属体の寿命に対応する。
【0038】
稼働時間更新部121、開閉回数更新部122および指示値変化量更新部123によりそれぞれ取得される稼働時間、開閉回数および開度指示値の変化量の総計は、流量制御装置1の動作履歴である。稼働時間、開閉回数、および開度指示値の変化量を少なくとも含むデータ群を、動作履歴データともよぶ。
【0039】
保存処理部124は、揮発性メモリ21に保存される動作履歴データを、不揮発性メモリ22に書き込む機能部である。動作履歴データを定期的に不揮発性メモリ22に保存する構成によれば、流量制御装置1の電源が突如オフになっても、データを保持することができる。
【0040】
不揮発性メモリ22への保存処理は、揮発性メモリ21よりも時間を要する。保存処理の所要時間は、一般的なマイコンのデータフラッシュ特性において、例えば5ms程度である。したがって、稼働時間更新部121、開閉回数更新部122および指示値変化量更新部123は各処理においては揮発性メモリ21に一時保存した上で、保存処理部124による定期的な割込処理により不揮発性メモリ22へ再保存する。この構成によれば、開閉回数更新部122および指示値変化量更新部123による処理の応答時間に影響を与えずに、不揮発性メモリへの保存処理を実現できる。また、不揮発性メモリとして典型的なフラッシュメモリは書き換え可能回数が比較的少ないが、この構成によれば不揮発性メモリ22への保存処理の頻度を下げることができ、不揮発性メモリ22の使用可能な時間を延ばす事ができる。
【0041】
損耗度計算部13は、動作履歴データに基づいて、流量制御装置1の損耗度を計算する機能部である。稼働時間、開閉回数、および開度指示値の変化量は、いずれも値が大きいほど損耗度が大きいことを示す。稼働時間、開閉回数、および開度指示値の変化量は、上述したように、それぞれ制御部104およびダイヤフラム110における異なる故障モードに対応する指標であり、かつそれぞれの指標が複合的に別の故障モードに影響を及ぼす。例えば、電気回路の寿命は、動作時間に加えて、開度指示値の変化量と相関のあるアクチュエータ111への供給電力量にも依存する。また、開度指示値の変化量はある値から下では閉め切り力を増加させるだけでダイヤフラム110の変形をおこさない領域があり、ダイヤフラム110の損耗度は、開度指示値の変化量だけではなく開閉回数についても考慮する事が望ましい。したがって、複数の指標を組み合わせて損耗度を計算することで、流量制御装置1の損耗度を精度良く評価することができる。特に本実施形態において採用する3個の指標は、電気的負荷および物理的負荷を考慮して損耗度を精度良く計算することができる。
【0042】
稼働時間、開閉回数、および開度指示値の変化量は、それぞれ積算値で構成される1個の値である。すなわち、過去の値の履歴を複数保持する必要がないため、データ量が小さく、揮発性メモリ21および不揮発性メモリ22に短時間で記憶させることができる。
【0043】
損耗度計算部13は、動作履歴データを入力とするニューラルネットワークにより構成されている。ニューラルネットワークのパラメータは統計データから計算され、あらかじめ格納されている。この教師データは、異なる稼働シーケンス下に置かれた流量制御装置1に対して故障発生率を求めたり、フィードバック制御における制御対象システムの応答特性の製造時からの変化量を求めたりすることによって、統計的に作成される。流量制御装置1の内部には、これらの教師データによって学習された学習済みモデルが搭載されている。損耗度計算部13は、損耗度算出の命令に基づいて、この学習済みモデルを用いたニューラルネットワークにより、動作履歴データから損耗度を計算する。
【0044】
損耗度計算部13は、適宜の通信手段を有していて、通信手段を介して算出される損耗度を外部機器に出力可能である。外部機器は、損耗度の指標を表示してもよい。また、損耗度計算部13は、損耗度に基づいて、各部品の交換頻度が妥当かどうかの検証を行ったり、交換時期が近いかどうかの判定を行って使用者に通知する機能を有していてもよい。また、損耗度計算部13は、損耗度が所定の条件を満たすか判定し、当該条件を満たすとき、外部機器に出力する機能を有していてもよい。
【0045】
●動作履歴データを不揮発性メモリに保存するフローチャート
図3(a)に示すように、流量設定値の変更処理S10は、流量設定値を変更するコマンドを受信することで開始される(S11)。次いで、現在設定されている流量設定値が0以外であって、新たに設定される流量設定値が0であるか否かを判定する(S12)。流量設定値が0以外から0に変更される場合、閉回数Nに1を加算する(S13)。流量設定値が0以外から0に変更されることは、制御弁105を閉じることを意味するためである。次いで、流量設定値を新に設定される値に更新する(S14)。ステップS13は、開閉回数更新部122による開閉回数更新処理に相当する。
【0046】
図3(b)に示すように、フィードバックループS20は、一定時間ごと、例えば1msごとに実行されるループ処理である。まず、計測される流量と流量設定値との値に基づいて新たな開度指示値が決定される、フィードバック処理が行われる(S21)。次いで、S21で決定される新たな開度指示値と、直前の開度指示値との差の絶対値を算出し、開度指示値の変化量の総計Vchに加算する(S22)。ステップS22は、指示値変化量更新部123による更新処理に相当する。
【0047】
図3(c)に示すように、保存処理S30は、フィードバックループS20よりも長い間隔で、一定時間ごと、例えば10分ごとに実行されるループ処理である。まず、稼働時間tを更新する(S31)。次いで、開度指示値の変化量の総計Vch、稼働時間t、および閉回数Nを不揮発性メモリ22に保存する(S32)。なお、ステップS32の所要時間は数msを要する。ステップS32は、保存処理部124による保存処理に相当する。
【0048】
なお、本実施形態においては、稼働時間の記録を保存処理S30において行う。保存処理S30はフィードバックループS20に比べて実行間隔が大きいため、電源がオフされるときに保存が間に合わなかった時間データ損失が存在し得る。しかしながら、損失される時間データは10分未満であり、流量制御装置1の寿命に対して十分小さく、無視できる量である。
【0049】
稼働時間更新部121および指示値変化量更新部123は、流量制御装置1の起動中においてそれぞれ定期的に稼働時間および開度指示値の変化量を更新する。稼働時間の更新は、約10分ごと、開度指示値の変化量の更新は、約1msごとである。このように、流量制御装置1の起動中に常に定期的に動作履歴データを更新する構成によれば、例えば流量設定値が変更になったときのみ動作履歴を記憶する構成と比較して、測定したい対象の特性に応じた的確な頻度で動作履歴を保存することができる。
【0050】
指示値変化量更新部123による指示値変化量更新処理S22と、保存処理部124による保存処理S32は、非同期に実行される。開閉回数更新処理S13は、指示値変化量更新処理S22および保存処理S32とは非同期に実行される。言い換えれば、開閉回数更新処理S13、指示値変化量更新処理S22および保存処理S32をそれぞれ含む変更処理S10、フィードバックループS20および保存処理S30は、マルチスレッド処理により実行される。これら3種類の処理系列は、それぞれ別の割込処理により処理され、複数のスレッドを切り替えながらプログラムを実行する。
【0051】
なお、流量設定値の受信処理や保存処理は、ポーリングで処理されていてもよい。また、FPGA等を用いて並列処理が可能な回路ブロックを構成してもよい。
【0052】
なお、電源投入時には、開度指示値の変化量の総計Vch、稼働時間t、および閉回数Nを不揮発性メモリ22から読みだして揮発性メモリ21に配置した後に、流量設定値の変更処理S10、フィードバックループS20および保存処理S30を許可する処理を行い、各処理を開始する。
【0053】
このように、本発明にかかる流量制御装置によれば、簡素な方法で制御弁の動作履歴を記録することができる。
【0054】
また、本発明にかかる流量制御装置によれば、開度指示値の変化量の積算値を算出することにより、ダイヤフラムの変形に寄与する指標を取得することができる。
【0055】
さらに、本発明にかかる流量制御装置によれば、流量制御装置1の起動中に常に定期的に動作履歴データを更新する構成によれば、例えば流量設定値が変更になったときのみ動作履歴を記憶する構成と比較して、高頻度で精確な動作履歴を保存することができる。
【0056】
さらに、本発明にかかる流量制御装置によれば、流量の設定値が0になるときに開閉回数を更新するため、閉回数の回数を効率よく確実に計数することができる。
【0057】
さらにまた、本発明にかかる流量制御装置によれば、指示値変化量の更新処理とは非同期に、動作履歴データを不揮発性メモリに書き込む処理を行うことができる。したがって、不揮発性メモリへの保存処理に要する時間が、フィードバックループの応答性に影響を与えることを回避することができる。また、不揮発性メモリに動作履歴データを保持するため、電源を入り切りした場合にも、以前の動作履歴を引き継いで記録を継続することができる。
【0058】
さらにまた、本発明にかかる流量制御装置によれば、動作履歴データに基づいて損耗度を計算することで、ダイヤフラムの損耗の程度を正確に算出することができる。また、動作履歴データには複数の指標が含まれているので、複数の指標を複合的に考慮して損耗度を算出することができる。
【0059】
さらにまた、本発明にかかる流量制御装置によれば、ニューラルネットワークを用いて損耗度を計算することで、ダイヤフラムの損耗の程度をより正確に算出することができる。
【0060】
1 流量制御装置
104 制御部
11 制御部(フィードバック制御部)
12 動作履歴保存処理部
121 稼働時間更新部
122 開閉回数更新部
123 指示値変化量更新部
124 保存処理部
20 記憶部
21 揮発性メモリ
22 不揮発性メモリ
図1
図2
図3