IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パウダーテック株式会社の特許一覧

特許7217973Mn-Zn系フェライト粒子、樹脂成形体、軟磁性混合粉及び磁芯
<>
  • 特許-Mn-Zn系フェライト粒子、樹脂成形体、軟磁性混合粉及び磁芯 図1
  • 特許-Mn-Zn系フェライト粒子、樹脂成形体、軟磁性混合粉及び磁芯 図2A
  • 特許-Mn-Zn系フェライト粒子、樹脂成形体、軟磁性混合粉及び磁芯 図2B
  • 特許-Mn-Zn系フェライト粒子、樹脂成形体、軟磁性混合粉及び磁芯 図3
  • 特許-Mn-Zn系フェライト粒子、樹脂成形体、軟磁性混合粉及び磁芯 図4
  • 特許-Mn-Zn系フェライト粒子、樹脂成形体、軟磁性混合粉及び磁芯 図5
  • 特許-Mn-Zn系フェライト粒子、樹脂成形体、軟磁性混合粉及び磁芯 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】Mn-Zn系フェライト粒子、樹脂成形体、軟磁性混合粉及び磁芯
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20230130BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230130BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230130BHJP
   H01F 1/36 20060101ALI20230130BHJP
   H01F 1/37 20060101ALI20230130BHJP
   H01F 1/33 20060101ALI20230130BHJP
   H01F 3/08 20060101ALI20230130BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20230130BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
C01G49/00 B
C08K3/22
C08L101/00
H01F1/36
H01F1/37
H01F1/33
H01F3/08
H01F27/255
H01F1/34 140
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019545654
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2018036141
(87)【国際公開番号】W WO2019065923
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2017190071
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 隆志
(72)【発明者】
【氏名】石井 一隆
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆男
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 哲也
(72)【発明者】
【氏名】安賀 康二
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-019077(JP,B1)
【文献】特開2011-114321(JP,A)
【文献】特開2005-112665(JP,A)
【文献】特開2005-240138(JP,A)
【文献】特開2010-010529(JP,A)
【文献】特開平06-325918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
H01F 1/34
C08K 3/22
C08L 101/00
H01F 1/36
H01F 1/37
H01F 1/33
H01F 3/08
H01F 27/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを44~60質量%、Mnを10~16質量%、Znを1~11質量%含有するMn-Zn系フェライト粒子であって、
当該フェライト粒子は、平均粒径が1~2000nmの単結晶体であり、且つ、平均球形度が0.85以上0.95未満であって多面体状の粒子形状を備えることを特徴とするMn-Zn系フェライト粒子。
【請求項2】
前記フェライト粒子の飽和磁化が50~65Am/kgである請求項1に記載のMn-Zn系フェライト粒子。
【請求項3】
前記フェライト粒子の平均粒径が5~1500nmである請求項1又は請求項2に記載のMn-Zn系フェライト粒子。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のMn-Zn系フェライト粒子を含有することを特徴とする樹脂成形体。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のMn-Zn系フェライト粒子と、軟磁性粉末とを含むことを特徴とする軟磁性混合粉。
【請求項6】
請求項5に記載の軟磁性混合粉を含むことを特徴とする磁芯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mn-Zn系フェライト粒子、当該フェライト粒子を含有する樹脂成形体、軟磁性混合粉及び磁芯に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭電気製品、OA機器、産業機器等の直流電源を必要とする各種電気機器の電源部分にはスイッチング電源が組み込まれている。このスイッチング電源を構成するトランスの磁芯(コア・ヨーク)に使用される磁性材料には、高飽和磁束密度、低保磁力、高透磁率であることが要求される。
【0003】
従来、磁芯材料として、平均粒径が0.1~30μmの単結晶体であり、且つ、粒子形状が球状であるMn-Zn系フェライト粒子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、Mn-Zn系フェライト粒子の飽和磁束密度が3880~3970ガウスであることや、Mn-Zn系フェライト粒子を加圧成形したリングコアの比透磁率μ’が1~100MHzの周波数帯域では32程度で一定であるが、100MHzを超えるにつれて上昇して400~500MHzの周波数帯域では70に近い値となることが示されている。
【0004】
そして、軟磁性金属粉末と絶縁体ナノパウダーとが樹脂に分散された軟磁性金属複合体をインダクタに用いる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、軟磁性金属粉末としてFe-Si-Cr系、Fe-Ni-Mo系、Fe-Si-Al系の粉末を用いること、そして、絶縁体ナノパウダーとしてAl、SiO、TiO等のセラミックナノパウダーやNiZn系、NiCuZn系フェライトを用いることが示されている。上記軟磁性金属複合体によれば、軟磁性金属粉末単体の場合と比較して、耐電圧特性を向上させ、透磁率を維持できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2002-25816号公報
【文献】日本国特開2016-92403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたMn-Zn系フェライト粒子は、球形度が0.95~1の範囲であって真球状である。真球状の粒子は粒子表面が強制的に球状化されることにより結晶格子のひずみが大きい。そのため、様々な磁気特性、特に透磁率の周波数依存性に影響を与えるおそれがあるため好ましくない。そして、特許文献2に開示された軟磁性金属複合体は、軟磁性金属粉末単体の場合と比較して透磁率を維持できるとされているが、厳密には透磁率が低下しているため好ましくない。従って、鉄粉、鉄合金粉、フェライト粒子等の軟磁性粉末と共に用いられたときに当該軟磁性粉末単体よりも透磁率を向上できるMn-Zn系フェライト粒子が望まれる。
【0007】
そこで、本発明の課題は、軟磁性粉末と共に用いられたときに当該軟磁性粉末単体よりも透磁率を向上することができるMn-Zn系フェライト粒子を提供することである。さらに本発明の課題は、当該Mn-Zn系フェライト粒子を含む樹脂成形体、軟磁性混合粉及び磁芯を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、具体的には下記の手段により達成される。
[1]
Feを44~60質量%、Mnを10~16質量%、Znを1~11質量%含有するMn-Zn系フェライト粒子であって、
当該フェライト粒子は、平均粒径が1~2000nmの単結晶体であり、且つ、平均球形度が0.85以上0.95未満であって多面体状の粒子形状を備えることを特徴とするMn-Zn系フェライト粒子。
[2]
前記フェライト粒子の飽和磁化が50~65Am/kgである[1]に記載のMn-Zn系フェライト粒子。
[3]
前記フェライト粒子の平均粒径が5~1500nmである[1]又は[2]に記載のMn-Zn系フェライト粒子。
[4]
[1]から[3]のいずれか一項に記載のMn-Zn系フェライト粒子を含有することを特徴とする樹脂成形体。
[5]
[1]から[3]のいずれか一項に記載のMn-Zn系フェライト粒子と、軟磁性粉末とを含むことを特徴とする軟磁性混合粉。
[6]
[5]に記載の軟磁性混合粉を含むことを特徴とする磁芯。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、軟磁性粉末と共に用いられたときに当該軟磁性粉末単体よりも高い透磁率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1のフェライト粒子のSTEM観察による二次電子像の画像である。
図2A図2Aは、実施例1のフェライト粒子のTEM像(倍率20万倍)の画像である。
図2B図2Bは、実施例1のフェライト粒子のTEM像(倍率40万倍)の画像である。
図3図3は、実施例1のフェライト粒子の電子線回折による画像である。
図4図4は、実施例1~2及び比較例1~3のフェライト粒子の複素透磁率の実部μ´の周波数依存性を示すグラフである。
図5図5は、実施例3~4及び比較例4~6の軟磁性混合粉の体積抵抗の電界強度依存性を示すグラフである。
図6図6は、実施例3~4及び比較例4~6の軟磁性混合粉の複素透磁率の実部μ´の周波数依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
<本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子>
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子(以下、「本発明のフェライト粒子」ともいう)は、Feを44~60質量%、Mnを10~16質量%、Znを1~11質量%含有するMn-Zn系フェライト粒子であって、当該フェライト粒子は、平均粒径が1~2000nmの単結晶体であり、且つ、平均球形度が0.85以上0.95未満であって多面体状の粒子形状を備えることを特徴とする。本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子によれば、飽和磁束密度が高く、軟磁性粉末と共に用いられたときに当該軟磁性粉末単体よりも高い透磁率を得ることができる。
【0012】
(組成)
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、Feを44~60質量%、Mnを10~16質量%、Znを1~11質量%含有する。このため、本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、所望の飽和磁束密度と所望の透磁率を得ることができる。
【0013】
本発明のフェライト粒子におけるFeの含有量が44質量%未満の場合には、所望の透磁率を得られないため好ましくない。一方、Feの含有量が60質量%を超えると、組成がマグネタイトに近くなり残留磁化が大きくなってフェライト粒子同士が凝集し易くなるため好ましくない。
本発明のフェライト粒子におけるFeの含有量は、好ましくは45質量%以上であり、更に好ましくは、45.5質量%以上である。
本発明のフェライト粒子におけるFeの含有量は、好ましくは58質量%以下であり、更に好ましくは、55質量%以下である。
【0014】
本発明のフェライト粒子におけるMnの含有量が10質量%未満の場合には、所望の透磁率を得られなくなるおそれがあるため好ましくない。また、残留磁化が大きくなってフェライト粒子同士が凝集し易くなるため好ましくない。一方、Mnの含有量が16質量%を超える場合には、高い飽和磁束密度を得られなくなるおそれがあるため好ましくない。
本発明のフェライト粒子におけるMnの含有量は、好ましくは11質量%以上であり、更に好ましくは、12質量%以上である。
本発明のフェライト粒子におけるMnの含有量は、好ましくは15質量%以下であり、更に好ましくは、14質量%以下である。
【0015】
本発明のフェライト粒子におけるZnの含有量が1質量%未満の場合には、保磁力が大きくなりすぎたり、粒子形状が多面体状でなく球体状に近付くため好ましくない。一方、Znの含有量が11質量%を超える場合には、高い飽和磁束密度が得られなくなるため好ましくない。
本発明のフェライト粒子におけるZnの含有量は、好ましくは2質量%以上であり、更に好ましくは、3質量%以上である。
本発明のフェライト粒子におけるZnの含有量は、好ましくは10質量%以下であり、更に好ましくは、9質量%以下である。
【0016】
(平均粒径)
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、平均粒径が1~2000nmであり、5~1500nmであることが好ましく、10~300nmであることがより好ましい。平均粒径がこの範囲であることにより、Mn-Zn系フェライト粒子と軟磁性粉末とを混合して軟磁性混合粉を調製して当該軟磁性混合粉によって磁芯を形成するときに、Mn-Zn系フェライト粒子が軟磁性粉末の粒子間の空隙に入り込み、優れた充填性を得ることができる。Mn-Zn系フェライト粒子の平均粒径が1nm未満では、Mn-Zn系フェライト粒子に表面処理を行ったとしても当該粒子が凝集してしまうため好ましくない。一方、Mn-Zn系フェライト粒子の平均粒径が2000nmを超えると、Mn-Zn系フェライト粒子が軟磁性粉末の粒子間の空隙に入り込みづらくなって充填性が低下したり、単結晶を得るのが困難になるため好ましくない。
【0017】
上記フェライト粒子の平均粒径は、次のようにして求めることができる。まず、走査型電子顕微鏡としてのFE-SEM(SU-8020、株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて倍率10~20万倍でフェライト粒子を撮影する。このとき、1視野にフェライト粒子5~50粒子が入っていて、フェライト粒子の形状がはっきりと視認できる状態で、複数の視野を撮影する。撮影したSEM画像を画像解析ソフト(Image-Pro PLUS、メディアサイバネティクス(MEDIA CYBERNETICS)社)に読み込ませ画像解析を行う。そして、倍率10~20万倍で撮影した画像から、マニュアル測定によって少なくとも200粒子以上のフェライト粒子の水平フェレ粒径を計測し、その平均値を「平均粒径」とする。
【0018】
(結晶形態)
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、その形態が単結晶体である。単結晶体である当該フェライト粒子は、交流磁場により生成された磁壁が粒界面を通過することがないため周波数特性に優れる上に、磁壁の共鳴による透磁率の極大があったとしても低周波側から高周波側までの幅広い帯域においてほぼ一定の透磁率を得ることができる。一方、多結晶体であるフェライト粒子の場合には、焼成による結晶成長の過程で1粒子内の微細構造において結晶粒界が生じる。そして、交流磁場により生成された磁壁が粒界面を通過するときに結晶粒界で磁壁が足止めされ、周波数特性が低下するため好ましくない。
フェライト粒子の結晶形態は、例えば、透過型電子顕微鏡HF-2100 Cold-FE-TEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いてフェライト粒子のTEM像からフェライト粒子の結晶粒界の有無を観察することで測定することができる。
【0019】
また、フェライト粒子の結晶形態は、例えば、透過型電子顕微鏡HF-2100 Cold-FE-TEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて制限視野電子回折像を撮影することにより観察することができる。
【0020】
(粒子形状)
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、平均球形度が0.85以上0.95未満である多面体状である。当該フェライト粒子は、単結晶体であることを反映して多面体状となる。そのため、平均球形度が0.85未満である粒子は、組成の偏析により単結晶構造が崩れていることがある。一方、平均球形度が0.95以上である粒子では、多面体状というよりもむしろ球体状である。球体状である粒子は、粒子表面が強制的に球状化されることで結晶格子のひずみが大きい。その場合、様々な磁気特性に影響を与えるおそれがあるため好ましくない。
【0021】
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、平均球形度が0.85以上0.95未満であるが、この場合は多面体状となる。
なお、多面体状(多面体形状)とは、典型的には10面体以上であり、10面体以上100面体以下が好ましく、12面体以上72面体以下がより好ましく、14面体以上24面体以下がさらに好ましい。
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子の形状は、例えば、走査透過電子顕微鏡HD-2700 Cs-corrected STEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察することができる。
【0022】
(平均球形度)
上記フェライト粒子の平均球形度は、Wadellの実用球形度の平均値であり、次のようにして求めることができる。まず、平均粒径と同様に画像解析を行い、少なくとも200粒子以上のフェライト粒子について、粒子の投影面積に等しい円の直径と、粒子の投影像に外接する最小円の直径とを求める。そして、以下の式(1)によって各粒子の球形度を算出し、その平均値を「平均球形度」とする。
球形度=(粒子の投影面積に等しい円の直径)/(粒子の投影像に外接する最小円の直径)・・・(1)
【0023】
(BET比表面積)
上記Mn-Zn系フェライト粒子は、BET比表面積が1~30m/gであることが好ましい。BET比表面積が1m/g未満では粒子が大きいことを意味している。BET比表面積が1以上の場合、当該粒子を樹脂に混合してフィラーとして使用する際に粒子間の空隙が大きくならず、フィラー充填率を高くすることができるため好ましい。一方、本特許記載のMn、Zn及びFeから組成されるフェライト粒子では表面状態が平滑な粒子が生成されることが多いため、通常、Mn-Zn系フェライト粒子のBET比表面積が30m/gを超えることはない。
【0024】
そして、本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、上記組成及び上記粒子形態を備えることにより、所定の磁気特性を得ることができる。なお、これらの磁気特性は、Mn-Zn系フェライト粒子を粉末の状態で測定したものではなく、セルに充填したり加圧成形した状態で測定したものである。
【0025】
(飽和磁束密度)
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、4000~5000ガウスの飽和磁束密度を得ることができる。飽和磁束密度が4000ガウス以上では、当該フェライト粒子を磁芯の構成材料としたときに磁芯の小型化を実現できるため好ましい。飽和磁束密度が5000ガウスを超えてもよいが、上記組成及び上記粒子形態のMn-Zn系フェライト粒子において、通常、5000ガウスを超える飽和磁束密度を実現するのは困難である。
なお、10000ガウス(G)=1テスラ(T)である。
【0026】
(飽和磁化)
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、飽和磁化が50~65Am/kgであることが好ましい。なお、本明細書において、前記フェライト粒子を所定のセルに充填し、磁気測定装置で5K・1000/4π・A/mの磁場を印加したときの磁化を「飽和磁化」と称す。飽和磁化が50Am/kg以上であると、4000~5000ガウスの飽和磁束密度を得られ易くなるため好ましい。飽和磁化が65Am/kgを超えてもよいが、上記組成及び上記粒子形状のMn-Zn系フェライト粒子において、65Am/kgを超える場合、残留磁化が大きくなりやすく、フェライト粒子の透磁率の周波数特性が悪くなる可能性がある。
【0027】
(残留磁化)
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、残留磁化が8Am/kg未満であることが好ましい。なお、本明細書において、前記フェライト粒子を所定のセルに充填し磁気測定装置で5K・1000/4π・A/mの磁場を印加した後に、印加磁場を減少させ、記録紙上にM-Hヒステリシスループを作成し、このループにおいて印加磁場が0K・1000/4π・A/mであるときの磁化を「残留磁化」と称す。当該フェライト粒子は、残留磁化が8Am/kg未満であることにより、粒子の凝集を防ぎ優れた分散性を得ることができる。残留磁化が8Am/kg以上であると、粒子が凝集して優れた分散性を得られないため好ましくない。また、当該フェライト粒子を鉄粉などの磁性金属粉と混合したときに当該磁性金属粉に吸着する等して、当該フェライト粒子と当該磁性金属粉とを均一に混合することができないため好ましくない。
【0028】
(保磁力)
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、保磁力が60~80Oeであることが好ましい。なお、本明細書において、上記M-Hヒステリシスループにおいて残留磁化がある状態から逆向きの外部磁化を印加して磁化がゼロになったときの磁場の大きさを保磁力とした。当該フェライト粒子は、保磁力が60~80Oeと低いために、低損失を実現することができる。平均粒径が1~2000nmであるMn-Zn系フェライト粒子では、通常、保磁力が60Oeを下回ることはない。保磁力が80Oe以下であれば、所望の透磁率を得られ易くなるため好ましい。
なお、1A/m=4π/10Oeである。
【0029】
(透磁率)
透磁率μは、一般的に複素透磁率μ=μ’-jμ”として表現される(jは虚数単位)。複素透磁率の実部μ’は通常の透磁率成分を表し、虚部μ”は損失を表す。本件発明に係るMn-Zn系フェライト粒子では、縦軸を複素透磁率の実部μ’としてグラフ化したときに、複素透磁率の実部μ’は、低周波数側では一定の値を示すものの、周波数が高くなるにつれて直線的に低下する。そして、複素透磁率の実部μ’は、1~100MHzの周波数帯域だけでなく100MHz~1GHzの周波数帯域においても1を上回る一定以上の数値を示す。なお、本件発明に係るMn-Zn系フェライト粒子の複素透磁率の実部μ’は極大を示す場合と示さない場合があり、実部μ’の極大は磁壁共鳴が起こりやすさに起因すると考えられている。
【0030】
(Fe2+量)
本発明のフェライト粒子において、Fe2+量は、0.1質量%以下であることが好ましい。Fe2+量を0.1質量%以下とすることで、フェライト粒子の表面にマグネタイトが多く存在しないため好ましい。マグネタイトは、フェライト粒子の電気抵抗を低下させ、且つ、残留磁化を高くする方向に作用する。
フェライト粒子において、Fe2+量は、過マンガン酸カリウム溶液による酸化還元滴定によって、測定することができる。酸化還元滴定はJIS M 8213に準じて行うことができ、二クロム酸カリウムの代わりに過マンガン酸カリウムを用いることもできる。
【0031】
(真密度)
本発明のフェライト粒子の真密度は、樹脂と混合する際、高い充填率を上げることで、樹脂組成物における磁気特性の能力を最大限に発揮させる観点で、4.9g/cm~5.0g/cmであることが好ましい。
真密度の測定は、JIS Z 8807:2012に準拠して、気体置換法で行うことができる。
【0032】
本発明のフェライト粒子は、Feを44~60質量%、Mnを10~16質量%、Znを1~11質量%含有するが、その他の金属成分を含有していても良い。その他の金属成分としては、Li、Si、Ca、Ti,Al、Cu等が挙げられる。
本発明のフェライト粒子は、金属成分としてFe、Mn、Zn以外の成分を含有していても良いが、金属成分として、Fe、Mn、Znのみ含有することが好ましい。
【0033】
<Mn-Zn系フェライト粒子の製造方法>
上記Mn-Zn系フェライト粒子は、例えば、次のようにして得ることができる。まず、フェライト原料からなる造粒物を一次焼成した後に、大気中で溶射することにより、一次焼成粉を溶融してフェライト化する。そして、得られたフェライト粒子を急冷凝固させた後、粒径が所定範囲以下のフェライト粒子のみを回収する。以下、Mn-Zn系フェライト粒子の製造方法について詳しく説明する。
【0034】
上記フェライト原料を調製する方法は、特に制限はなく、従来公知の方法が採用することができ、乾式による方法を用いてもよく、湿式による方法を用いてもよい。
【0035】
フェライト原料(造粒物)の調製方法の一例を挙げると、Zn原料と、Mn原料と、Fe原料とを所望のフェライト組成となるように秤量した後、水を加えて粉砕しスラリーを調製する。調製したスラリーをスプレードライヤーで造粒し、分級して所定粒径の造粒物を調製する。造粒物の粒径は、得られるフェライト粒子の粒径を考慮すると、5~30μm程度が好ましい。また、他の例としては、組成が調製されたフェライト原料を混合し、乾式粉砕を行い、各原材料を粉砕分散させ、その混合物をグラニュレーターで造粒し、分級して所定粒径の造粒物を調製してもよい。
【0036】
続いて、このように調製された造粒物を大気中で一次焼成する。一次焼成は、温度850~1250℃、2~6時間保持することにより行い、その後粉砕する。これにより、平均粒径3.5~28μmの一次焼成粉を得る。
【0037】
次に、得られた一次焼成粉を本焼成してフェライト化する。本焼成は、大気中で溶射することにより行う。溶射温度は、1000~3500℃が好ましく、2000~3500℃がより好ましい。
【0038】
溶射には、可燃性ガス燃焼炎として燃焼ガスと酸素との混合気体を用いることができ、燃焼ガスと酸素の容量比は1:3.5~6.0である。可燃性ガス燃焼炎における酸素の割合が燃焼ガスに対して3.5未満では、溶融が不十分となることがあり、酸素の割合が燃焼ガスに対して6.0を超えると、フェライト化が困難となる。例えば燃焼ガス10Nm/hrに対して酸素35~60Nm/hrの割合で用いることができる。
【0039】
上記溶射に用いられる燃焼ガスとしては、プロパンガス、プロピレンガス、アセチレンガス等を用いることができ、特にプロパンガスを好適に用いることができる。また、造粒物を可燃性ガス燃焼中に搬送するために、造粒物搬送ガスとして窒素、酸素又は空気を用いることができる。搬送される造粒物の流速は、20~60m/secが好ましい。
【0040】
上記溶射によって、一次焼成粉が溶融してフェライト化すると共に、フェライト成分の一部が気化する。より具体的には、一次焼成粉を構成する元素であるFe、Mn、Znのいずれの沸点よりもガスフレームの温度が高温であるため、一次焼成粉が高温のガスフレーム中を通過する際に、一次焼成粉の表面においてそれらの元素が気化する。そして、ガスフレーム中を通過した粒子が冷却される過程でそれらの元素が析出することにより、単結晶粒子が生成する。ただし、一次焼成粉はすべて気化するわけではなく、気化しなかった一次焼成粉はガスフレーム中を通過する際に溶融し、表面張力によって球状化され、ガスフレーム通過後に冷却される。そのため、気化しなかった一次焼成粉から生じたフェライト粒子は一次焼成粉に近い粒径を有するのに対し、一次焼成粉から気化した成分から生じたフェライト粒子は、一次焼成粉よりもはるかに小さい粒径を有するものとなる。
【0041】
続いて、溶射によって生成したフェライト粒子を、大気中で空気給気による気流に乗せて搬送することにより、平均粒径が1~2000nmであるフェライト粒子を捕集し回収する。
【0042】
また、上記捕集は、急冷凝固及び析出したフェライト粒子を空気給気による気流に乗せて搬送し、粒径が大きい粒子は気流搬送の途中で落下する一方、それ以外の粒子は下流まで気流搬送されることを利用し、上記範囲の平均粒径を備えるフェライト粒子を気流の下流側に設けたフィルターによって捕集する方法により行うことができる。
【0043】
前記気流搬送時の流速を20~60m/secとすることにより、粒径が大きいフェライト粒子を気流搬送の途中で落下させ、気流の下流で上記範囲の平均粒径を備えるフェライト粒子のみを効率よく回収することができる。上記流速が20m/sec未満では、粒径の小さいフェライト粒子までも気流搬送の途中で落下してしまうため、気流の下流で回収されるフェライト粒子の平均粒径が1nm未満となるか、或いは、気流の下流で回収されるフェライト粒子の絶対量が少なくなって生産性が低下するため好ましくない。一方、上記流速が60m/secを超えると、粒径の大きいフェライト粒子までも下流まで気流搬送され、気流の下流で回収されるフェライト粒子の平均粒径が2000nmを超えることがあるため好ましくない。
【0044】
その後、回収されたフェライト粒子について、必要に応じて分級を行い、所望の粒径に粒度調整する。分級方法としては、既存の風力分級、メッシュ濾過法、沈降法等を用いることができる。例えば、分級によって粒径が2000nmを超えるフェライト粒子を除去してもよい。以上により、平均粒径が1~2000nmであるMn-Zn系フェライト粒子を得ることができる。
【0045】
また、得られたMn-Zn系フェライト粒子に対して、カップリング剤で表面処理を施すことが好ましい。カップリング剤で表面処理することにより、フェライト粒子の樹脂への分散性をより向上することができる。カップリング剤としては、各種シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤を用いることができ、より好ましくはデシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシランを用いることができる。表面処理量は、フェライト粒子のBET比表面積にもよるが、シランカップリング剤換算でフェライト粒子に対して0.05~2質量%であるのが好ましい。
【0046】
<Mn-Zn系フェライト粒子の用途>
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、上記磁気性能を備えることから、磁芯(コア、ヨーク)やインダクタ等に好適である。その場合、Mn-Zn系フェライト粒子単独で磁芯等を構成してもよく、Mn-Zn系フェライト粒子と樹脂とを含む樹脂成形体によって磁芯等を構成してもよく、Mn-Zn系フェライト粒子と軟磁性粉末とを含む軟磁性混合粉によって磁芯等を構成してもよい。
本発明は、前記軟磁性混合粉を含む磁芯にも関する。
【0047】
本件発明に係るMn-Zn系フェライト粒子と軟磁性粉末とを含む軟磁性混合粉によれば、当該軟磁性粉末単体と比較して、透磁率を高くすることができる上に、電気抵抗を高くすることができる。前記軟磁性混合粉の透磁率は、Mn-Zn系フェライト粒子と軟磁性粉末との重量混合比を考慮した透磁率の算術計算値よりも高い値を実現することができる。
【0048】
前記樹脂成形体を構成する際にMn-Zn系フェライト粒子と共に用いられる樹脂として、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、PPS樹脂、LCP樹脂を用いることができる。
樹脂成形体における本発明のMn-Zn系フェライト粒子の含有量は、樹脂成形体の全量に対して、10~98質量%であることが好ましく、30~98質量%であることがより好ましく、45~98質量%であることが更に好ましい。
【0049】
前記軟磁性混合粉を構成する際にMn-Zn系フェライト粒子と共に用いられる軟磁性粉末として、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、金属磁性体である鉄粉、鉄合金粉や、酸化物磁性体であるフェライト粒子を用いることができる。鉄粉、鉄合金粉としては、カルボニル鉄粉、Fe-Si合金粉、Fe-Si-Al合金粉、Fe-Si-Cr合金粉、Fe-Ni合金粉等、種々の鉄粉や鉄合金粉を用いることができる。カルボニル鉄粉は、酸化第二鉄を還元して得られる還元鉄と一酸化炭素を加圧下で加熱反応させて生成された粉末である。フェライト粒子としては、Ni-Zn系フェライト、Ni-Zn-Cu系フェライト、Mg-Zn系フェライト、Mn-Mg系フェライト、(本発明のMn-Zn系フェライト粒子以外の)Mn-Zn系フェライト等を用いることができる。
【0050】
これらの軟磁性粉末は、例えば平均粒径が2~20μmのものを好適に使用することができる。軟磁性粉末の平均粒径が2μm未満の場合には、粒径が本件発明に係るフェライト粒子の粒径と同程度であるために、軟磁性粉末の粒子間の空隙にMn-Zn系フェライト粒子が入り込みにくなる。そのため、軟磁性粉末の粒子間に空隙が残存することとなり、反磁場の影響が大きくなるため、透磁率向上効果を期待できない。一方、軟磁性粉末の平均粒径が20μmを超える場合には、軟磁性粉末の粒子間の空隙が大きいために、その空隙をフェライト粒子によって充填するためにはフェライト粒子を大量に添加する必要がある。
【0051】
上記軟磁性混合粉におけるMn-Zn系フェライト粒子と軟磁性粉末との混合比は、5~50:95~50(Mn-Zn系フェライト粒子:軟磁性粉末(質量比)が、5~50:95~50)とすることが好ましく、7.5~50:92.5~50とすることがより好ましく、10~30:90~70とすることが更に好ましい。
軟磁性混合粉におけるMn-Zn系フェライト粒子の含有量は、Mn-Zn系フェライト粒子と軟磁性粉末の合計量に対して、5~50質量%であることが好ましく、7.5~50質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが更に好ましい。
Mn-Zn系フェライト粒子の含有量が5質量%以上の場合には、電気抵抗を高くする効果が減少しないため好ましい。一方、Mn-Zn系フェライト粒子の含有量が50質量%以下の場合には、透磁率が大きくなり易いため好ましい。
【実施例
【0052】
以下、実施例等に基づき本発明を具体的に説明する。
1.フェライト粒子の作製
〔実施例1〕
酸化鉄(Fe)と酸化マンガン(MnO)と酸化亜鉛(ZnO)とをモル比で59:30:11の割合で計量し、混合した。得られた原料混合物に水を加えて粉砕し固形分50質量%のスラリーを作製した。作製されたスラリーをスプレードライヤーで造粒し、一次焼成を行い、気流分級機により分級して平均粒径25μmの造粒物を作製した。
【0053】
続いて、得られた造粒物を大気中で1100℃で4時間保持した後に、ハンマーミルにより粉砕することにより、平均粒径20μmの一次焼成粉を得た。
【0054】
次に、得られた一次焼成粉をプロパン:酸素=10Nm/hr:35Nm/hrの可燃性ガス燃焼炎中に流速約40m/secの条件で溶射を行うことによりフェライト化した。溶射温度(焼成温度)は2000℃であった。続いて、空気給気による気流に乗せて搬送することによって大気中で急冷した。造粒物を連続的に流動させながら溶射し急冷したため、得られた粒子は互いに結着することなく独立していた。続いて、冷却された粒子を気流の下流側に設けたバグフィルターによって捕集した。このとき、粒径が大きい粒子は、気流の途中で落下したため、バグフィルターで捕集されなかった。次に、捕集(回収)された粒子について、分級によって粒径が2000nmを超える粗粉を除去し、フェライト粒子を得た。よって、得られたフェライト粒子のうち粒径が最大である粒子の粒径は2000nm以下であった。表1に、造粒物の製造条件及び一次焼成粉の化学分析結果を示す。一次焼成粉の化学分析は、後述するICP分析装置によってフェライト粒子の化学分析と同様に行った。
【0055】
〔実施例2〕
本実施例では、酸化鉄と酸化マンガンと酸化亜鉛とをモル比で52.5:36.6:10.9として原料混合物を調製した以外は、実施例1と同様にしてフェライト粒子を作製した。
【0056】
〔比較例1〕
本比較例では、酸化鉄と酸化マンガンと酸化亜鉛とをモル比で50:35.5:14.5として原料混合物を調製した以外は、実施例1と同様にしてフェライト粒子を作製した。
【0057】
〔比較例2〕
本比較例では、酸化亜鉛を添加せずに酸化鉄と酸化マンガンとをモル比で80:20として原料混合物を調製した以外は、実施例1と同様にしてフェライト粒子を作製した。
【0058】
〔比較例3〕
本比較例では、酸化マンガン及び酸化亜鉛を添加せず酸化鉄のみを用いて原料混合物を調製した以外は、実施例1と同様にしてフェライト粒子を作製した。
【0059】
2.フェライト粒子の評価
得られた実施例1~2及び比較例1~3のフェライト粒子について、化学分析を行うと共に、平均粒径、粒子形状、平均球形度、結晶形態、スピネル相の有無、Fe2+量、BET比表面積、真密度及び磁気特性(飽和磁化、残留磁化、保磁力、飽和磁束密度)を測定した。各測定方法は以下のとおりである。結果を表2に示す。
【0060】
(化学分析)
フェライト粒子における金属成分の含有量は、次のようにして測定した。まず、フェライト粒子0.2gを秤量し、純水60mLに1Nの塩酸20mL及び1Nの硝酸20mLを加えたものを加熱し、フェライト粒子を完全溶解させた水溶液を調製した。得られた水溶液をICP分析装置(ICPS-1000IV、株式会社島津製作所)にセットし、フェライト粒子における金属成分の含有量を測定した。なお、フェライト粒子の組成比(化学分析結果)は、原料混合物における組成比(計算値)とは一致しない。その理由は、Fe、Mn及びZnの各元素の飽和蒸気圧が異なるために、一次焼成粒子を溶射してフェライト粒子を生成する過程における各元素の気化速度及び析出速度が異なるからであると考えられる。
【0061】
(平均粒径)
上述した方法によって測定した水平フェレ径を平均粒径とした。
【0062】
(粒子形状)
フェライト粒子の粒子形状は、走査透過電子顕微鏡HD-2700 Cs-corrected STEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察した。加速電圧は200kVとした。図1に、実施例1のフェライト粒子のSTEM観察による二次電子像(倍率20万倍)の画像を示す。
【0063】
(平均球形度)
上述した方法によってフェライト粒子100粒子について球形度を測定し、その平均値(平均球形度)を算出した。
【0064】
(結晶形態)
フェライト粒子の結晶形態を評価するために、フェライト粒子を、透過型電子顕微鏡HF-2100 Cold-FE-TEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察した。加速電圧は200kVとした。図2A及び図2Bに実施例1のフェライト粒子のTEM像の画像を示す。図2Aは倍率20万倍、図2Bは倍率40万倍である。
【0065】
さらに、透過型電子顕微鏡HF-2100 Cold-FE-TEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて制限視野電子回折像を撮影した。図3に実施例1のフェライト粒子の電子線回折像を示す。
【0066】
(スピネル相)
測定装置としてパナリティカル社製「X’Pert PRO MPD」を用いた。X線源としてCo管球(CoKα線)を用い、集中型光学系によって0.2°/secの連続スキャンで測定した。高速検出器として「X’Celarator」を用いた。測定結果は、通常の粉末の結晶構造解析と同様に解析用ソフトウエア「X’Pert HighScore」を用いて解析した。解析結果においてスピネル相の存在が確認されたときには「有」と判定し、存在が確認されなかったときには「無」と判定した。なお、スピネル相の存在が確認されたとき、その粒子(粉末)がソフトフェライトであることを意味している。
【0067】
(Fe2+量)
過マンガン酸カリウム溶液による酸化還元滴定によって、Mn-Zn系フェライト粒子におけるFe2+の有無を評価した。酸化還元滴定はJIS M 8213に準じて行い、二クロム酸カリウムの代わりに過マンガン酸カリウムを用いた。
【0068】
そして、Fe2+量が0.1質量%以下であるときには「無」と判定し、Fe2+量が0.1質量%を超える場合には「有」と判定した。Fe2+が「有」であるとき、フェライト粒子の表面にマグネタイトが多く存在することを意味している。マグネタイトは、フェライト粒子の電気抵抗を低下させ、且つ、残留磁化を高くする方向に作用する。そのため、Fe2+量は「無」であることが好ましい。
【0069】
(BET比表面積)
BET比表面積の測定は、比表面積測定装置(Macsorb HM model-1208、株式会社マウンテック)を用いて行った。まず、得られたフェライト粒子約10gを薬包紙に載せ、真空乾燥機で脱気して真空度が-0.1MPa以下であることを確認した後に、200℃で2時間加熱することにより、フェライト粒子の表面に付着している水分を除去した。続いて、水分が除去されたフェライト粒子を当該装置専用の標準サンプルセルに約0.5~4g入れ、精密天秤で正確に秤量した。続いて、秤量したフェライト粒子を当該装置の測定ポートにセットして測定した。測定は1点法で行った。測定雰囲気は、温度10~30℃、相対湿度20~80%(結露なし)であった。
【0070】
(真密度)
真密度の測定は、JIS Z 8807:2012に準拠して、ピクノメーターを用いて行った。溶媒としてメタノールを用い、温度25℃にて測定を行った。
【0071】
(磁気特性)
磁気特性(飽和磁化、残留磁化、保磁力及び飽和磁束密度)の測定は、振動試料型磁気測定装置(VSM-C7-10A、東英工業株式会社)を用いて行った。まず、得られたフェライト粒子を内径5mm、高さ2mmのセルに充填し、上記装置にセットした。上記装置において、磁場を印加し、5K・1000/4π・A/mまで掃引した。次いで、印加磁場を減少させ、記録紙上に、磁化Mと磁場Hとの関係を表すM-Hヒステリシスループを作成した。このループにおいて、印加磁場が5K・1000/4π・A/mであるときの磁化を飽和磁化とし、印加磁場が0K・1000/4π・A/mであるときの磁化を残留磁化とし、残留磁化がある状態から逆向きの外部磁化を印加して磁化がゼロになったときの磁場の大きさを保磁力とした。また、印加磁場が5K・1000/4π・A/mであるときの磁束密度を飽和磁束密度とした。
【0072】
(フェライト粒子の透磁率)
実施例1~2及び比較例1~3のフェライト粒子について、以下のようにして透磁率を測定した。透磁率の測定は、アジレントテクノロジー社製E4991A型RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ 16454A磁性材料測定電極を用いて行った。まず、実施例1~2及び比較例1~3のフェライト粒子4.5gとフッ素系粉末樹脂(KYNAR(登録商標)301F、平均粒径0.5μm)0.5gとを100ccのポリエチレン製容器に収容し、100rpmのボールミルで30分間撹拌して混合した。撹拌終了後、得られた混合物0.8g程度を、内径4.5mm、外径13mmのダイスに充填し、プレス機で40MPaの圧力で1分間加圧した。得られた成形体を熱風乾燥機によって温度140℃で2時間加熱硬化させることにより、測定用サンプルを得た。そして、測定用サンプルを測定装置にセットする共に、事前に測定しておいた測定用サンプルの外径、内径、高さを測定装置に入力した。測定は、振幅100mVとし、周波数1MHz~3GHzの範囲を対数スケールで掃引し、透磁率(複素透磁率の実部μ’)を測定した。但し、周波数2GHzを超える周波数帯域では測定冶具の影響が大きいために、測定結果は得られたが信頼できるものではないので考慮しないこととする。得られたグラフを図4に示す。
【0073】
次に、実施例1~2のMn-Zn系フェライト粒子を軟磁性粉末に混合した実施例3~4の軟磁性混合粉について、体積抵抗及び透磁率を評価した。結果を表3及び図5~6に示す。
【0074】
(体積抵抗)
体積抵抗の測定は次のように行った。まず、実施例1~2のMn-Zn系フェライト粒子と軟磁性粉末とを100ccのポリエチレン製容器に収容し、100rpmのボールミルで30分間撹拌して混合することにより実施例3~4の軟磁性混合粉を調製した。前記軟磁性粉末としては、平均粒径3.5μmの鉄粉(カルボニル鉄粉)を用いた。
【0075】
そして、実施例3の軟磁性混合粉は、実施例1のフェライト粒子と鉄粉とを10:90の質量比で混合することにより調製したものであり、実施例4の軟磁性混合粉は、実施例1のフェライト粒子に代えて実施例2のフェライト粒子を用いたものである。また、比較例4~6の軟磁性混合粉を用意した。比較例4の軟磁性混合粉は、フェライト粒子を全く用いずに鉄粉のみを用いたものであり、比較例5の軟磁性混合粉は実施例1のフェライト粒子に代えて平均粒径200nmのTiO粒子を用いたものであり、比較例6の軟磁性混合粉は平均粒径12nm(一次粒子径)のSiO粒子を用いたものである。
【0076】
続いて、得られた実施例3~4及び比較例4~6の軟磁性混合粉を、断面積が1.77cmのフッ素樹脂製のシリンダーに1kgの分銅を乗せた状態で高さ4mmとなるように充填することにより測定用サンプルを作製した。測定用サンプルの両端に電極を取り付けた後、ケースレー社製6517A型絶縁抵抗測定器を用いて、上記電極に測定電圧を0~1000Vの範囲で印加し、印加後10秒間が経過した時点の電流値を測定した。そして、治具の断面積、測定用サンプルの高さ、印加電圧、電流値から体積抵抗を算出した。結果を図5及び表3に示す。なお、比較例4~5の軟磁性混合粉は、電気抵抗が過度に低かったため、体積抵抗を算出できなかった。
【0077】
(透磁率)
ここでは、フェライト粒子4.5gに代えて、実施例3~4及び比較例4~6の軟磁性混合粉4.5gを用いたこと以外は、上記フェライト粒子の透磁率の測定方法と同様にして、軟磁性混合粉の透磁率を測定した。さらに、実施例1~2のフェライト粒子、鉄粉、TiO粒子及びSiO粒子の周波数10MHzにおける透磁率(複素透磁率の実部μ’)の実測値を基に、実施例3~4及び比較例4~6の軟磁性混合粉について、10MHzにおける透磁率の算術計算値を算出した。結果を図6及び表3に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
3.フェライト粒子の評価結果
図1及び図2Aから、実施例1のフェライト粒子は多面体状の粒子形状を備えることが分かる。図2Bから、フェライト粒子の内部に結晶粒界が観察されないことから、実施例1のフェライト粒子は単結晶体であることが分かる。また、図3からも、実施例1のフェライト粒子は単結晶体であることが分かる。そして、実施例2のフェライト粒子について、実施例1と同様に観察したところ、実施例1のフェライト粒子と同様の粒子形状及び結晶形態を備えることが判明した。
【0082】
そして、表2に示すように、実施例1~2のフェライト粒子は、特許文献1に開示されたMn-Zn系フェライト粒子と比較して高い飽和磁束密度を備えている。
【0083】
一方、比較例1のフェライト粒子は、Fe含有量が44質量%未満、Zn含有量が11質量%を超えており、実施例1~2のフェライト粒子と比較して、Fe含有量が少なく且つZn含有量が多い。そして、比較例1のフェライト粒子は、実施例1及び実施例2のフェライト粒子と比較して、飽和磁化及び飽和磁束密度が低い。
【0084】
比較例2のフェライト粒子は、Fe及びMnを含むがZnを含有しておらず、比較例3のフェライト粒子はFeを含むが実質的にMn及びZnを含有していない。なお、比較例3のフェライト粒子に含まれるMnは、原料である酸化鉄に含まれる不純物に由来する不可避的不純物である考えられる。そして、比較例2~3のフェライト粒子は、実施例1~2のフェライト粒子と比較して、飽和磁化及び飽和磁束密度は高いものの保磁力が高いため、磁芯やインダクタとしての用途には不向きであると考えられる。
【0085】
そして、図4に示すように、実施例1~2のフェライト粒子の透磁率(複素透磁率の実部μ’)は、1~100MHzの周波数帯域で5.5~6.5であって、200~300MHzの周波数帯域で6~7のピークとなり、300MHzを超えると徐々に低下していき、1GHzでも3程度である。このことから、実施例1~2のフェライト粒子は、特許文献1に開示されたMn-Zn系フェライト粒子と比較して、透磁率の周波数変動を小さくすることができることが分かる。そして、実施例1~2のフェライト粒子は、比較例1、3のフェライト粒子と比較して、高い透磁率を得ることができる。
【0086】
さらに、図5及び表3に示すように、実施例1~2のフェライト粒子と軟磁性粉末とを含む実施例3~4の軟磁性混合粉は、比較例4の軟磁性混合粉としての軟磁性粉末単体と比較して、体積抵抗を高くすることができる。
【0087】
そして、図6及び表3に示すように、実施例1~2のフェライト粒子と鉄粉とを含む実施例3~4の軟磁性混合粉は、比較例4の軟磁性粉末単体と比較して、透磁率(複素透磁率の実部μ’)を高くすることができ、その実測値は算術計算値よりも高い。これに対し、特許文献2に開示された軟磁性金属複合体(軟磁性混合粉)は、軟磁性金属粉末(軟磁性粉末)と絶縁体ナノパウダーとしてのNiZn系フェライトナノパウダーを含むものであって、軟磁性金属粉末単体と比較して、透磁率が低下している。よって、実施例1~2のMn-Zn系フェライト粒子は、特許文献2に絶縁体ナノパウダーとして開示されたNiZn系フェライトやNiCuZn系フェライトとは異なり、軟磁性粉末と共に用いたときに、軟磁性粉末単体よりも透磁率を向上することができることが分かる。
【0088】
さらに、図5~6から、TiO粒子と鉄粉とを含む比較例5の軟磁性混合粉は、実施例3~4の軟磁性混合粉と比較して、体積抵抗が低く、透磁率も低い。SiO粒子と鉄粉とを含む比較例6の軟磁性混合粉は、実施例3~4の軟磁性混合粉と比較して、体積抵抗は大幅に高いものの、透磁率が低い。このことから、軟磁性粉末と組み合わせる粉体としては、TiO粒子やSiO粒子よりも実施例1~2のフェライト粒子が好ましく、体積抵抗を高くし、且つ、透磁率を高くする効果に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、高飽和磁束密度である上に、軟磁性粉末と混合されて軟磁性混合粉として用いられたときに、軟磁性粉末単体よりも高い透磁率を得ることができる。そのため、当該フェライト粒子は、磁芯、インダクタ等の用途に好適である。
【0090】
さらに、本発明に係るMn-Zn系フェライト粒子は、粒径が小さく、かつ、残留磁化、及び、保磁力が小さいため、当該フェライト粒子を樹脂溶液や分散媒中に分散させたときに凝集しにくいという利点がある。そのため、当該フェライト粒子は、磁性インクや、当該磁性インクを用いた成型方法、回路パターン形成方法に好適に用いることができる。
【0091】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2017年9月29日出願の日本特許出願(特願2017-190071)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6