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特許7218034局所観察方法、プログラム、記録媒体および電子線適用装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】局所観察方法、プログラム、記録媒体および電子線適用装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/244 20060101AFI20230130BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J37/28 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022177548
(22)【出願日】2022-11-04
【審査請求日】2022-11-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516040121
【氏名又は名称】株式会社Photo electron Soul
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】西谷智博
(72)【発明者】
【氏名】荒川裕太
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-082487(JP,A)
【文献】特開2021-025959(JP,A)
【文献】特開2013-206641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線適用装置における照射対象の局所観察方法であって、
該局所観察方法は、前記照射対象の第1領域に電子ビームを照射した時に、その影響を受ける第2領域を観察する方法であり、
前記電子線適用装置は、
光源と、
前記光源から照射された励起光の受光に応じて、放出可能な電子を生成するフォトカソードと、
前記フォトカソードとの間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
前記電子ビームを照射した前記照射対象から放出された放出物を検出し、検出信号を生成する検出器と、
制御部と、
を含み、
前記局所観察方法は、前記制御部が、
前記照射対象における前記第1領域および前記第2領域の位置情報を設定する位置情報設定工程と、
前記第1領域に照射する電子ビームのパラメータを設定する第1電子ビームパラメータ設定工程と、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき、前記第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームと、前記第2領域に照射する電子ビームの照射条件を設定する電子ビーム照射条件第1設定工程と、
前記電子ビーム照射条件第1設定工程で設定した照射条件に基づき、前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された前記第1領域と前記第2領域から放出された放出物の放出量を前記検出器で検出し、検出信号を生成する検出工程と、
を実施するように制御する
局所観察方法。
【請求項2】
前記位置情報設定工程の前に、第1領域および第2領域位置情報取得工程を含み、
前記第1領域および第2領域位置情報取得工程は、
前記照射対象に電子ビームを照射する工程と、
前記電子ビームが照射された照射領域から放出された放出物の放出量を前記検出器で検出し、検出信号を生成する検出工程と、
前記検出工程で生成した検出信号を前記照射領域の位置情報と関連付けて出力する検出データ出力工程と、
を実施し、
前記検出データ出力工程で出力した前記照射領域の位置情報と関連付けられた検出データに基づき、前記位置情報設定工程が行われる
請求項1に記載の局所観察方法。
【請求項3】
前記電子線適用装置が、前記電子ビームを前記照射対象上で走査する電子ビーム偏向装置を更に含み、
前記制御部が、
前記電子ビーム照射条件第1設定工程において、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき、前記第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームの照射タイミングと、前記第2領域に照射する電子ビームの照射タイミングを設定する電子ビーム照射タイミング第1設定工程を実施し、
前記電子ビーム照射工程において、
前記電子ビーム偏向装置を制御することで、前記電子ビーム照射タイミング第1設定工程で設定したタイミングで、前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する
請求項1に記載の局所観察方法。
【請求項4】
前記電子線適用装置が、前記電子ビームを前記照射対象上で走査する電子ビーム偏向装置を更に含み、
前記制御部が、
前記電子ビーム照射条件第1設定工程において、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき、前記第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームの照射タイミングと、前記第2領域に照射する電子ビームの照射タイミングを設定する電子ビーム照射タイミング第1設定工程を実施し、
前記電子ビーム照射工程において、
前記電子ビーム偏向装置を制御することで、前記電子ビーム照射タイミング第1設定工程で設定したタイミングで、前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する
請求項2に記載の局所観察方法。
【請求項5】
前記電子ビーム照射タイミング第1設定工程が、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に加え、
前記第1領域に電子ビームを照射した後に、前記第2領域に影響が現れる時間および影響が継続する時間に基づき、
前記第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームの照射タイミングと、前記第2領域に照射する電子ビームを照射するタイミングを設定する
請求項3に記載の局所観察方法。
【請求項6】
前記第2領域に照射する電子ビームのパラメータを設定する観察用電子ビームパラメータ設定工程を含む
請求項1に記載の局所観察方法。
【請求項7】
前記第1領域に照射される電子ビームおよび前記第2領域に照射される電子ビームが、
同一のフォトカソードの異なる場所から引き出される、または、
異なるフォトカソードから引き出される
請求項1に記載の局所観察方法。
【請求項8】
前記制御部が、
前記電子ビーム照射条件第1設定工程において、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき、前記第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームのサイズ及び/又は形状と、前記第2領域に照射する電子ビームのサイズ及び/又は形状とを設定する電子ビーム照射サイズ及び/又は形状第1設定工程を実施し、
前記電子ビーム照射工程において、
前記電子ビーム照射サイズ及び/又は形状第1設定工程で設定したサイズ及び/又は形状で、前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する
請求項1に記載の局所観察方法。
【請求項9】
前記制御部が、
前記電子ビーム照射条件第1設定工程において、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき、前記第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームのサイズ及び/又は形状と、前記第2領域に照射する電子ビームのサイズ及び/又は形状とを設定する電子ビーム照射サイズ及び/又は形状第1設定工程を実施し、
前記電子ビーム照射工程において、
前記電子ビーム照射サイズ及び/又は形状第1設定工程で設定したサイズ及び/又は形状で、前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する
請求項2に記載の局所観察方法。
【請求項10】
請求項1に記載の検出工程を実施後に、前記制御部が、
前記第1領域に照射する電子ビームのパラメータについて、前記第1電子ビームパラメータ設定工程で設定したパラメータと異なる電子ビームパラメータを設定する第2電子ビームパラメータ設定工程と、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき、前記第1領域に照射する第2電子ビームパラメータを有する電子ビームと、前記第2領域に照射する電子ビームの照射条件を設定する電子ビーム照射条件第2設定工程と、
前記電子ビーム照射条件第2設定工程で設定した照射条件に基づき、前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された前記第1領域と前記第2領域から放出された放出物の放出量を前記検出器で検出し、検出信号を生成する検出工程と、
を実施するように制御する
請求項1に記載の局所観察方法。
【請求項11】
前記照射対象が金属酸化膜半導体電界効果トランジスタであり、
前記第1領域がゲートであり、
前記第2領域がドレインであり、
前記第1領域に電子ビームを照射することで、ソースとドレインの間に電流が流れる状態を観察する
請求項1に記載の局所観察方法。
【請求項12】
前記電子線適用装置が、
走査電子顕微鏡、
電子線検査装置、
X線分析装置、
透過電子顕微鏡、または、
走査型透過電子顕微鏡、
である
請求項1に記載の局所観察方法。
【請求項13】
請求項1~12の何れか一項に記載の各工程を前記電子線適用装置の前記制御部に実行させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項15】
光源と、
前記光源から照射された励起光の受光に応じて、放出可能な電子を生成するフォトカソードと、
前記フォトカソードとの間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
前記電子ビームを照射した前記照射対象から放出された放出物を検出し、検出信号を生成する検出器と、
制御部と、
を含む、電子線適用装置であって、
前記制御部には、請求項13に記載のプログラムが格納されている
電子線適用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、電子線適用装置を用いた照射対象の局所観察方法、電子線適用装置に局所観察方法を実施するためのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体および電子線適用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトカソードを搭載した電子銃、当該電子銃を含む電子顕微鏡、自由電子レーザー加速器、検査装置等の電子線適用装置が知られている。
【0003】
フォトカソードは、受光する励起光の強度に応じた電子ビームを射出することができる。当該フォトカソードの特性を利用し、フォトカソードを含む電子銃の構成部材のみで、所望の電子ビームパラメータを有する電子ビームを照射できる電子銃および当該電子銃を搭載した電子線適用装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6968473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電子銃を搭載した電子線適用装置を用いると、同一の照射対象の所望の箇所に所望の電子ビームパラメータを有する電子ビームを照射できる。したがって、照射対象である試料のチャージアップの解消や、試料の凹凸がより鮮明になる等の効果が得られる。ところで、本発明者らは、電子線適用装置を用いて照射対象を観察する際に、照射対象の凹凸等の形状以外にも、照射対象の特定の領域(第1領域)に電子ビームを照射した際にその影響を受ける第2領域を好適に観察するというニーズが発生すると想定している。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の電子銃を搭載した電子線適用装置は、フォトカソードを含む電子銃の構成部材のみで、同一の照射対象の所望の箇所に所望の電子ビームパラメータを有する電子ビームを照射できることに留まる。特許文献1には、第1領域に電子ビームを照射した時に、その影響を受ける第2領域を好適に観察することは記載されていない。
【0007】
本出願は上記問題点を解決するためになされたものである。鋭意研究を行ったところ、電子線適用装置において、(1)第1領域に照射する電子ビームのパラメータ(第1電子ビームパラメータ)を設定し、(2)照射対象における第1領域および第2領域の位置情報に基づき、第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームと、第2領域に照射する電子ビームの照射条件を設定し、(3)設定した照射条件に基づき、第1領域および第2領域に電子ビームを照射し、(4)電子ビームが照射された第1領域と第2領域から放出された放出物の放出量を検出器で検出し検出信号を生成することで、照射対象の第1領域に電子ビームを照射した時に、その影響を受ける第2領域を局所的に観察できることを新たに見出した。
【0008】
すなわち、本出願における開示は、照射対象の第1領域に電子ビームを照射した時にその影響を受ける第2領域の局所観察方法、電子線適用装置に局所観察方法を実施するためのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体および電子線適用装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願は、以下に示す、局所観察方法、電子線適用装置に局所観察方法を実施するためのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体および電子線適用装置に関する。
【0010】
(1)電子線適用装置における照射対象の局所観察方法であって、
該局所観察方法は、前記照射対象の第1領域に電子ビームを照射した時に、その影響を受ける第2領域を観察する方法であり、
前記電子線適用装置は、
光源と、
前記光源から照射された励起光の受光に応じて、放出可能な電子を生成するフォトカソードと、
前記フォトカソードとの間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
前記電子ビームを照射した前記照射対象から放出された放出物を検出し、検出信号を生成する検出器と、
制御部と、
を含み、
前記局所観察方法は、前記制御部が、
前記照射対象における前記第1領域および前記第2領域の位置情報を設定する位置情報設定工程と、
前記第1領域に照射する電子ビームのパラメータを設定する第1電子ビームパラメータ設定工程と、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき、前記第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームと、前記第2領域に照射する電子ビームの照射条件を設定する電子ビーム照射条件第1設定工程と、
前記電子ビーム照射条件第1設定工程で設定した照射条件に基づき、前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された前記第1領域と前記第2領域から放出された放出物の放出量を前記検出器で検出し、検出信号を生成する検出工程と、
を実施するように制御する
局所観察方法。
(2)前記位置情報設定工程の前に、第1領域および第2領域位置情報取得工程を含み、
前記第1領域および第2領域位置情報取得工程は、
前記照射対象に電子ビームを照射する工程と、
前記電子ビームが照射された前記照射領域から放出された放出物の放出量を前記検出器で検出し、検出信号を生成する検出工程と、
前記検出工程で生成した検出信号を前記照射領域の位置情報と関連付けて出力する検出データ出力工程と、
を実施し、
前記検出データ出力工程で出力した前記照射領域の位置情報と関連付けられた検出データに基づき、前記位置情報設定工程が行われる
上記(1)に記載の局所観察方法。
(3)前記電子線適用装置が、前記電子ビームを前記照射対象上で走査する電子ビーム偏向装置を更に含み、
前記制御部が、
前記電子ビーム照射条件第1設定工程において、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき、前記第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームの照射タイミングと、前記第2領域に照射する電子ビームの照射タイミングを設定する電子ビーム照射タイミング第1設定工程を実施し、
前記電子ビーム照射工程において、
前記電子ビーム偏向装置を制御することで、前記電子ビーム照射タイミング第1設定工程で設定したタイミングで、前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する
上記(1)に記載の局所観察方法。
(4)前記電子線適用装置が、前記電子ビームを前記照射対象上で走査する電子ビーム偏向装置を更に含み、
前記制御部が、
前記電子ビーム照射条件第1設定工程において、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき、前記第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームの照射タイミングと、前記第2領域に照射する電子ビームの照射タイミングを設定する電子ビーム照射タイミング第1設定工程を実施し、
前記電子ビーム照射工程において、
前記電子ビーム偏向装置を制御することで、前記電子ビーム照射タイミング第1設定工程で設定したタイミングで、前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する
上記(2)に記載の局所観察方法。
(5)前記電子ビーム照射タイミング第1設定工程が、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に加え、
前記第1領域に電子ビームを照射した後に、前記第2領域に影響が現れる時間および影響が継続する時間に基づき、
前記第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームの照射タイミングと、前記第2領域に照射する電子ビームを照射するタイミングを設定する
上記(3)に記載の局所観察方法。
(6)前記第2領域に照射する電子ビームのパラメータを設定する観察用電子ビームパラメータ設定工程を含む
上記(1)に記載の局所観察方法。
(7)前記第1領域に照射される電子ビームおよび前記第2領域に照射される電子ビームが、
同一のフォトカソードの異なる場所から引き出される、または、
異なるフォトカソードから引き出される
上記(1)に記載の局所観察方法。
(8)前記制御部が、
前記電子ビーム照射条件第1設定工程において、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき、前記第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームのサイズ及び/又は形状と、前記第2領域に照射する電子ビームのサイズ及び/又は形状とを設定する電子ビーム照射サイズ及び/又は形状第1設定工程を実施し、
前記電子ビーム照射工程において、
前記電子ビーム照射サイズ及び/又は形状第1設定工程で設定したサイズ及び/又は形状で、前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する
上記(1)に記載の局所観察方法。
(9)前記制御部が、
前記電子ビーム照射条件第1設定工程において、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき、前記第1領域に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームのサイズ及び/又は形状と、前記第2領域に照射する電子ビームのサイズ及び/又は形状とを設定する電子ビーム照射サイズ及び/又は形状第1設定工程を実施し、
前記電子ビーム照射工程において、
前記電子ビーム照射サイズ及び/又は形状第1設定工程で設定したサイズ及び/又は形状で、前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する
上記(2)に記載の局所観察方法。
(10)上記(1)に記載の検出工程を実施後に、前記制御部が、
前記第1領域に照射する電子ビームのパラメータについて、前記第1電子ビームパラメータ設定工程で設定したパラメータと異なる電子ビームパラメータを設定する第2電子ビームパラメータ設定工程と、
前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき、前記第1領域に照射する第2電子ビームパラメータを有する電子ビームと、前記第2領域に照射する電子ビームの照射条件を設定する電子ビーム照射条件第2設定工程と、
前記電子ビーム照射条件第2設定工程で設定した照射条件に基づき、前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された前記第1領域と前記第2領域から放出された放出物の放出量を前記検出器で検出し、検出信号を生成する検出工程と、
を実施するように制御する
上記(1)に記載の局所観察方法。
(11)前記照射対象が金属酸化膜半導体電界効果トランジスタであり、
前記第1領域がゲートであり、
前記第2領域がドレインであり、
前記第1領域に電子ビームを照射することで、ソースとドレインの間に電流が流れる状態を観察する
上記(1)に記載の局所観察方法。
(12)前記電子線適用装置が、
走査電子顕微鏡、
電子線検査装置、
X線分析装置、
透過電子顕微鏡、または、
走査型透過電子顕微鏡、
である
上記(1)に記載の局所観察方法。
(13)上記(1)~(12)の何れか一つに記載の各工程を前記電子線適用装置の前記制御部に実行させるためのプログラム。
(14)上記(13)に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
(15)光源と、
前記光源から照射された励起光の受光に応じて、放出可能な電子を生成するフォトカソードと、
前記フォトカソードとの間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
前記電子ビームを照射した前記照射対象から放出された放出物を検出し、検出信号を生成する検出器と、
制御部と、
を含む、電子線適用装置であって、
前記制御部には、上記(13)に記載のプログラムが格納されている
電子線適用装置。
【発明の効果】
【0011】
本出願で開示する電子線適用装置を用いた局所観察方法は、照射対象の第1領域に電子ビームを照射した時に、その影響を受ける第2領域を観察できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1の実施形態に係る電子線適用装置1を模式的に示す図である。
図2図2は第1の実施形態に係る局所観察方法の概略を説明するための図で、照射対象Sをフォトカソード3側から見た図である。
図3図3は、第1の実施形態に係る局所観察方法のフローチャートである。
図4図4は、第1の実施形態に係る電子線適用装置1において、設定した電子ビームパラメータとするための制御部6の制御例の概略を説明するための図である。
図5図5は、第2の実施形態に係る電子線適用装置1Aのフォトカソード3部分を拡大した図である。
図6図6は、第2の実施形態に係る電子線適用装置1Aにおいて、照射対象Sをフォトカソード3側から見た図である。
図7図7は、第3の実施形態に係る電子線適用装置1Bのフォトカソード3部分および照射対象Sを拡大した図である。
図8図8は、実施例で準備したサンプルのイメージを示すイメージ図である。
図9図9は、実施例2の局所観察方法の概略を説明するための図である。
図10図10は、実施例3の局所観察方法を実施したSEM像から得られた結果を示すための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、局所観察方法、電子線適用装置に局所観察方法を実施するためのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体および電子線適用装置について詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一または類似の符号が付されている。そして、同一または類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0014】
また、図面において示す各構成の位置、大きさ、範囲などは、理解を容易とするため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、本出願における開示は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0015】
(電子線適用装置の第1の実施形態および局所観察方法の第1の実施形態)
図1図4を参照して、第1の実施形態に係る電子線適用装置1および第1の実施形態に係る局所観察方法について説明する。図1は、第1の実施形態に係る電子線適用装置1を模式的に示す図である。図2は局所観察方法の概略を説明するための図で、照射対象Sをフォトカソード3側から見た図である。図3は、局所観察方法のフローチャートである。図4は、設定した電子ビームパラメータとするための制御部6の制御例の概略を説明するための図である。
【0016】
図1に示す第1の実施形態に係る電子線適用装置1は、光源2と、フォトカソード3と、アノード4と、検出器5と、制御部6と、電子ビーム偏向装置8と、を少なくとも含んでいる。なお、図1には、電子線適用装置1が電子銃部分1aと相手側装置1b(電子線適用装置1から電子銃部分1aを除いた部分)に分けて形成した例が示されている。代替的に、電子線適用装置1は一体的に形成されてもよい。また、電子線適用装置1は、任意付加的に、フォトカソード3とアノード4との間に電界を発生させるための電源7を設けてもよい。更に、図示は省略するが、電子線適用装置1の種類に応じた公知の構成部材を含んでもよい。なお、第1の実施形態では電子ビーム偏向装置8は必須の発明特定事項であるが、後述する第3の実施形態では、電子ビーム偏向装置8は必須の発明特定事項ではない。
【0017】
光源2は、フォトカソード3に励起光Lを照射することで、電子ビームBを射出できるものであれば特に制限はない。光源2は、例えば、高出力(ワット級)、高周波数(数百MHz)、超短パルスレーザー光源、比較的安価なレーザーダイオード、LED等があげられる。照射する励起光Lは、パルス光、連続光のいずれでもよく、目的に応じて適宜調整すればよい。なお、図1に示す例では、光源2が、真空チャンバーCB外に配置され励起光Lが、フォトカソード3の第1面(アノード4側の面)側に照射されている。代替的に、光源2を真空チャンバーCB内に配置してもよい。また、励起光Lは、フォトカソード3の第2面(アノード4とは反対側の面)側に照射されてもよい。
【0018】
フォトカソード3は、光源2から照射される励起光Lの受光に応じて、放出可能な電子を生成する。フォトカソード3が励起光Lの受光に応じて放出可能な電子を生成する原理は公知である(例えば、特許第5808021号公報等を参照)。
【0019】
フォトカソード3は、石英ガラスやサファイアガラス等の基板と、基板の第1面(アノード4側の面)に接着したフォトカソード膜(図示は省略)で形成されている。フォトカソード膜を形成するためのフォトカソード材料は、励起光を照射することで放出可能な電子を生成できれば特に制限はなく、EA表面処理が必要な材料、EA表面処理が不要な材料等が挙げられる。EA表面処理が必要な材料としては、例えば、III-V族半導体材料、II-VI族半導体材料が挙げられる。具体的には、AlN、CeTe、GaN、1種類以上のアルカリ金属とSbの化合物、AlAs、GaP、GaAs、GaSb、InAs等およびそれらの混晶等が挙げられる。その他の例としては金属が挙げられ、具体的には、Mg、Cu、Nb、LaB、SeB、Ag等が挙げられる。前記フォトカソード材料をEA表面処理することでフォトカソード3を作製することができ、該フォトカソード3は、半導体のギャップエネルギーに応じた近紫外-赤外波長領域で励起光の選択が可能となるのみでなく、電子ビームの用途に応じた電子ビーム源性能(量子収量、耐久性、単色性、時間応答性、スピン偏極度)が半導体の材料や構造の選択により可能となる。
【0020】
また、EA表面処理が不要な材料としては、例えば、Cu、Mg、Sm、Tb、Y等の金属単体、或いは、合金、金属化合物、又は、ダイアモンド、WBaO、CsTe等が挙げられる。EA表面処理が不要であるフォトカソードは、公知の方法(例えば、特許第3537779号等を参照)で作製すればよい。特許第3537779号に記載の内容は参照によりその全体が本明細書に含まれる。
【0021】
なお、本明細書中における「フォトカソード」と「カソード」との記載に関し、電子ビームを射出するという意味で記載する場合には「フォトカソード」と記載し、「アノード」の対極との意味で記載する場合には「カソード」と記載することがあるが、符号に関しては、「フォトカソード」および「カソード」のいずれの場合でも3を用いる。
【0022】
アノード4は、カソード3と電界を形成できるものであれば特に制限はなく、電子銃の分野において一般的に用いられているアノード4を使用すればよい。カソード3とアノード4との間で電界を形成することで、励起光Lの照射によりフォトカソード3に生成した放出可能な電子を引き出し、電子ビームBを形成する。
【0023】
図1には、カソード3とアノード4との間に電界を形成するため、電源7をカソード3に接続した例が示されているが、カソード3とアノード4との間に電位差が生じれば電源7の配置に特に制限はない。
【0024】
検出器5は、電子ビームBを照射した照射対象Sから放出された放出物SBの放出量を検出する。放出物SBは、電子ビームBを照射することで照射対象Sから発せられる信号を意味し、例えば、二次電子、反射電子、特性X線、オージェ電子、カソードルミネセンス、透過電子等が挙げられる。検出器5は、これらの放出物SBの放出を検出できるものであれば特に制限はなく、公知の検出器・検出方法を用いればよい。
【0025】
制御部6は、プロセッサ(CPU)、あるいは、CPUを搭載した汎用コンピュータ等が挙げられる。
【0026】
電子ビーム偏向装置8は、形成した電子ビームBを照射対象S上で走査する。電子ビーム偏向装置8は、電子ビームBの進行方向と交差する方向の電界を生成する偏向用電極等、公知の装置を用いればよい。
【0027】
次に、図2および図3を参照し、本出願で開示する局所観察方法(換言すると、電子線適用装置1が具備する制御部6の制御内容およびプログラム内容)について説明する。図2は照射対象Sをフォトカソード3側から見た図である。図3は、局所観察方法のフローチャートである。
【0028】
局所観察方法は、位置情報設定工程(ST1)と、第1電子ビームパラメータ設定工程(ST2)と、電子ビーム照射条件第1設定工程(ST3)と、電子ビーム照射工程(ST4)と、検出工程(ST5)と、を含む。
【0029】
位置情報設定工程(ST1)は、照射対象Sにおける第1領域R1および第2領域R2の位置情報を設定する。第1領域R1は電子ビームBを照射、換言すると、第1領域R1に電荷を注入した際に、他の領域(第2領域)に影響を与える領域である。そして、第2領域R2は、第1領域R1に電子ビームBが照射されることにより、何らかの影響を受ける領域である。第1領域R1と第2領域R2は、上記のとおり、電子ビームBが照射されることで何らかの影響を受けるものであれば特に制限はない。限定されるものではないが、例えば、第1領域と第2領域に該当する照射対象(試料)Sとしては、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor;MOSFET)、太陽電池、全固体電池、有機EL素子、チューブリン、シナプス等が挙げられる。
【0030】
MOSFETの場合、第1領域R1はゲート、第2領域R2はドレインが例示できる。例えばnMOSであれば、第1領域R1であるゲートに電子ビームBを照射すると、ソースからドレインへキャリアである電子が移動する。一方、ゲートに照射する電子ビームBの電子ビームパラメータを弱く設定(或いは電子ビームの照射をOFF)すると、ソースからドレインに電子が移動しなくなり、第2領域R2であるドレインのSEM像は暗くなる。詳しくは後述する実施例で説明するが、nMOSの場合、ゲート(第1領域R1)に照射する電子ビームBの強さ、換言すると、注入する電荷量を変えることで、ソースからドレインへ電子が移動する状態をドレインの明るさとして観察できる。なお、本明細書において「電子が移動する状態」すなわち「電流が流れる状態」と記載した場合、電流の流れ有り(on)、電流の流れ無し(off)に加え、流れる電流の量の変化も意味する。なお、pMOSの場合はキャリアが正孔となり、電流は正孔によって運ばれる。
【0031】
太陽電池、全固体電池、有機EL素子は、電荷の蓄積により電子、ホール、イオン等が移動するデバイスである。上記のとおり、本出願で開示する局所観察方法は、第1領域R1に電子ビームBを照射することで、第2領域R2から放出される放出物の放出量が変わるものであればよい。太陽電池、全固体電池、有機EL素子の場合は、電荷の蓄積により電子、ホール、イオン等の移動の起点となる箇所を第1領域R1とし、電子、ホール、イオン等の移動先を第2領域R2とすればよい。
【0032】
微小管は細胞内で細胞骨格をなすタンパク質構造体であり、温度によって構造が変わることが知られている。例えば、微小管周辺の任意の箇所に電子ビームBを照射すると、電子ビームBのエネルギーにより当該箇所の温度が上昇することに伴い微小管が加熱される。したがって、微小管周辺の任意の箇所を第1領域R1として電子ビームBを照射し、チューブリンのその他の箇所を第2領域R2として微小管の重合/脱重合反応を観察すればよい。
【0033】
シナプスは、神経細胞間あるいは筋繊維(筋線維)、神経細胞と他種細胞間に形成される、シグナル伝達などの神経活動に関わる接合部位とその構造である。シナプスの場合、例えばシグナルを伝える方の細胞であるシナプス前細胞を第1領域R1とし、シグナルを伝えられる方の細胞であるシナプス後細胞を第2領域R2とすればよい。第1領域R1に電子ビームBを照射することで細胞膜電位、イオンチャンネルが局所的に影響を受けることから、第2領域R2から放出される放出物の量の変化を観察すればよい。
【0034】
なお、上記のMOSFET、太陽電池、全固体電池、有機EL素子、チューブリン、シナプスは、本出願の局所観察方法の単なる例示である。後述する通り、本出願で開示する局所観察方法は、電子ビームBが照射された第1領域R1と第2領域R2から放出された放出物の放出量を検出するが、検出する放出物としては、例えば、二次電子、反射電子、特性X線、オージェ電子、カソードルミネセンス、透過電子等が挙げられる。したがって、本明細書において「照射対象の第1領域に電子ビームを照射した時に、その影響を受ける第2領域を観察する」と記載した場合、影響を受けるとは、照射対象Sの第1領域R1に電子ビームBを照射することで、検出器5で検出する第2領域R2から放出される放出物の放出量(例えば、二次電子、反射電子、特性X線、オージェ電子、カソードルミネセンス、透過電子等)が変化することを意味する。
【0035】
なお、図2に示す例では、第2領域R2は一つであるが、上記のとおり第2領域R2は、第1領域R1に電子ビームBを照射することでその影響を受ける領域であれば、領域の数および/または形状に制限はない。例えば、一つの第1領域R1に対して、2つ、3つ、4つ、5つ以上の第2領域R2があってもよい。また、形状に関して、例えば、照射対象Sが平面状の場合、第2領域R2は第1領域R1を中心にドーナッツ状に形成されてもよいし、MOSFETのように構造的に第1領域R1と第2領域R2の場所が決まっている場合は、当該構造にしたがった形状となる。また図示は省略するが、一つの第2領域R2に対して、2つ、3つ、4つ、5つ以上の第1領域R1があってもよい。例えば、回路を含むデバイスにおいて、回路の2つ以上の箇所(第1領域R1)に電子ビームBを照射した場合に回路の通電が確認できる箇所が第2領域R2として考えられる。
【0036】
位置情報設定工程(ST1)では、照射対象Sの局所観察する領域が、例えば、MOSFET等の予め照射対象Sにおける第1領域R1および第2領域R2の位置が設計上決まっている場合は、当該位置情報に基づき第1領域R1および第2領域R2の位置情報を設定すればよい。また、後述する通り、第1領域R1と第2領域R2の位置情報が決まっていない場合は、位置情報設定工程(ST1)の前に照射対象Sをスキャンすることで検出データを出力し、当該検出データに基づき第1領域R1および第2領域R2の位置情報を設定すればよい。
【0037】
第1電子ビームパラメータ設定工程(ST2)では、第1領域R1に照射する電子ビームのパラメータを設定する。電子ビームパラメータは、観察目的に応じて適宜設定すればよい。限定されるものではないが、電子ビームパラメータとしては、例えば、第1領域R1に照射する電子ビームの強さ(強さには0を含む。)、電子ビームの加速エネルギーの大きさ、電子ビームのサイズ、電子ビームの形状、電子ビームの射出時間および電子ビームのエミッタンス等が挙げられる。
【0038】
図4を参照して、制御部6が設定したパラメータに基づく制御例について説明する。なお、以下の説明は制御の一例である。本出願で開示する技術思想の範囲内であればその他の制御であってもよい。また、図面の複雑化を避けるため、制御部6からの回路や構成要素の記載の一部が省略される場合もある。
【0039】
先ず、設定するパラメータが電子ビームBの強さの場合の制御について説明する。なお、本明細書において「電子ビームの強さ」とは、照射される電子ビームBに含まれる電子量(電流値)の大小を意味する。電子ビームBの強さは、フォトカソード3に照射される励起光Lの光量に依存する。したがって、パラメータとして電子ビームBの強さを設定した場合、制御部6は設定した電子ビームBの強さとなるように、フォトカソード3に照射される励起光Lの光量を制御すればよい。図1に示す例では、制御部6は光源2の光量を制御している。代替的に、光源2とフォトカソード3との間に液晶シャッター等の光量調整装置61を設け、光源2の光量は一定とし、液晶シャッターの制御によりフォトカソード3に到達する光量を制御してもよい。
【0040】
電子ビームBの加速エネルギーの大きさは、カソード3とアノード4との間の電界強度を変化することで制御できる。カソード3とアノード4との電圧差が大きくなるほど、加速エネルギーが大きくなる。したがって、パラメータとして電子ビームBの加速エネルギーの大きさを設定した場合、制御部6は設定した電子ビームBの加速エネルギーの強さとなるように、電源7の電圧を制御すればよい。
【0041】
電子ビームBのサイズは、フォトカソード3に照射する励起光Lのサイズを変化することで制御できる。励起光Lのサイズが大きくなるほど、電子ビームBのサイズも大きくなる。したがって、パラメータとして電子ビームBのサイズを設定した場合、制御部6は設定した電子ビームBのサイズとなるように、レンズや液晶シャッター等の励起光サイズ調整装置62を制御すればよい。代替的に、或いは、任意付加的に、射出した電子ビームBの光軸上に電磁レンズやアパーチャ等の電子ビームサイズ調整装置63を設け、制御部6が電子ビームサイズ調整装置63を制御してもよい。更に代替的に、或いは、任意付加的に、カソード3とアノード4との間に中間電極64を形成してもよい。制御部6が、(1)電源7を制御することでカソード3と中間電極64とアノード4との間の電位差を調整、或いは、(2)中間電極64を移動制御することでカソード3と中間電極64とアノード4との相対的位置関係を調整、することで相手側装置1bに到達する際の電子ビームBの焦点位置を調整、換言すると、対象領域Rに到達する際の電子ビームBのサイズを制御できる。なお、中間電極64の構成、制御方法および焦点位置を制御できる原理は、特許第6466020号公報に詳しく記載されている。特許第6466020号公報に記載事項は、参照により本出願に含まれる。
【0042】
電子ビームBの形状は、射出した電子ビームBの光軸上に電磁レンズやアパーチャ等の電子ビーム形状調整装置65を設けることで制御できる。したがって、パラメータとして電子ビームBの形状を設定した場合、制御部6は設定した電子ビームBの形状となるように、電子ビーム形状調整装置65を制御すればよい。代替的に、レンズや液晶シャッター等の励起光サイズ調整装置62と同様の装置を用い、フォトカソード3に照射する励起光Lの形状を調整することで、電子ビームBの形状を制御してもよい。
【0043】
電子ビームBの射出時間は、光源2が射出する励起光Lの射出時間により制御できる。したがって、パラメータとして電子ビームBの射出時間を設定した場合、制御部6は設定した電子ビームBの射出時間となるように、光源2のON-OFF制御をすればよい。代替的に、図示は省略するが、光源2とフォトカソード3との間にシャッターを設け、制御部6がシャッターを制御することで、電子ビームBの射出時間を制御してもよい。
【0044】
電子ビームBのエミッタンスは、光源2が射出する励起光Lの波長により制御できる。したがって、パラメータとして電子ビームBのエミッタンスを設定した場合、制御部6は設定した電子ビームBのエミッタンスとなるように、励起光Lの波長を制御すればよい。図示は省略するが、光源2とフォトカソード3との間に公知の波長可変フィルタを設け、制御部6で波長可変フィルタを制御すればよい。
【0045】
上記例示した電子ビームパラメータは、一つ以上を組み合わせて設定してもよい。
【0046】
電子ビーム照射条件第1設定工程(ST3)は、第1領域R1および第2領域R2の位置関係に基づき、第1領域R1に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームBと、第2領域R2に照射する電子ビームBの照射条件を設定する。第1の実施形態では、図2に示すように、電子ビームBは、電子ビーム偏向装置8により照射領域Rをライン状に走査されるが、走査するスピードは電子ビーム偏向装置8により調整することができる。したがって、第1領域R1と第2領域R2の位置関係が通常の電子ビームBの走査スピードで到達する位置関係より離れている場合は、電子ビームBの走査スピードを速くすればよい。逆に、第1領域R1と第2領域R2の位置関係が通常の電子ビームBの走査スピードで到達する位置関係より近い場合は、電子ビームBの走査スピードを遅くすればよい。換言すると、第1の実施形態における電子ビーム照射条件第1設定工程(ST3)は、第1領域R1および第2領域R2の位置関係に基づき、第1領域R1に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームの照射タイミングと、第2領域R2に照射する電子ビームの照射タイミングを設定する(以下、「電子ビーム照射タイミング第1設定工程」と記載することがある)。なお、第1領域R1と第2領域R2の位置関係が通常の電子ビームBの走査スピードで到達できる場合は、通常の走査スピードで電子ビームBを走査すればよい。第1の実施形態における電子ビーム照射条件第1設定工程(電子ビーム照射タイミング第1設定工程)(ST3)は、第1領域R1および第2領域R2の位置関係に基づき、第1領域R1に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームBの照射タイミングと、第2領域R2に照射する電子ビームBの照射タイミングを設定すればよく、設定した結果が通常の電子ビームBの走査スピードと同じになることを包含する。
【0047】
電子ビーム照射工程(ST4)は、電子ビーム照射条件第1設定工程(ST3)で設定したタイミングに基づき、制御部6が電子ビーム偏向装置8を制御することで、第1領域R1および第2領域R2に電子ビームBを照射すればよい。
【0048】
検出工程(ST5)は、電子ビームBが照射された第1領域R1と第2領域R2から放出された放出物の放出量を検出器5で検出し、検出信号を生成する。なお、本出願の開示では、第1領域R1および第2領域R2に特に着目して、電子ビームBのパラメータや照射タイミングについて説明しているが、勿論、第1領域R1および第2領域R2以外のその他の領域に対しても電子ビームBを照射し、放出物の検出を行ってもよい。
【0049】
第1の実施形態に係る電子線適用装置1および局所観察方法により、以下の効果を奏する。
(1)照射対象Sの第1領域R1に電子ビームBを照射した時に、その影響を受ける第2領域R2を観察できる。
(2)MOSFET等の微細な構成部品を集積したICの検査は、MOSFET等の個々の微細な構成部品が正しく機能しているのか局所的に観察することは難しい。そのため、従来のICの検査は、製造したIC自体が正しく機能するか否か、或いは、プローブテスタのプローブを接触できる程度に製造した段階で動作確認を行っている。一方、本出願で開示する電子線適用装置および局所観察方法を用いることで、製造途中の各段階で、個々の微細な構成部品の動作確認を局所的に観察(検査)することができる。したがって、製造工程の各段階で不具合等が発生した場合でも、その原因を究明することができる。
(3)プローブテスタを用いてIC等の検査対象の検査をする場合、プローブを検査対象に接触する必要がある。そのため、プローブの接触により検査対象に損傷を与える場合がある。一方、本出願で開示する電子線適用装置および局所観察方法は、検査対象への物理的接触を伴わない観察(検査)をできることから、検査対象を損傷する恐れが少なくなる。
【0050】
(電子線適用装置の第2の実施形態および局所観察方法の第2の実施形態)
図1図6を参照し、第2の実施形態に係る電子線適用装置1Aおよび局所観察方法について説明する。図5は、第2の実施形態に係る電子線適用装置1Aのフォトカソード3部分を拡大した図である。図6は、照射対象Sをフォトカソード3側から見た図である。
【0051】
第2の実施形態に係る電子線適用装置1Aは、フォトカソード3から2以上の電子ビームBが引き出されるように、フォトカソード3の異なる2以上の場所に光源からの励起光Lが照射される点で第1の実施形態に係る電子線適用装置1と異なり、その他の点は第1の実施形態に係る電子線適用装置1と同じである。したがって、第2の実施形態では、第1の実施形態と異なる点を中心に説明し、第1の実施形態において説明済みの事項についての繰り返しとなる説明は省略する。よって、第2の実施形態において明示的に説明されなかったとしても、第2の実施形態において、第1の実施形態で説明済みの事項を採用可能であることは言うまでもない。
【0052】
フォトカソード3の異なる2以上の場所に光源2からの励起光Lを照射するためには、図示は省略するが、光源2を複数設ければよい。或いは、単一の光源2からスプリッタ、空間光位相変調器等の励起光分割装置を用いて励起光Lを2以上に分割してフォトカソード3に照射をしてもよい。なお、フォトカソード3の異なる2以上の場所から電子ビームBを引き出す場合、一つの検出器5で放出物SBの放出量を検出する場合は、第1領域R1と第2領域R2に電子ビームBを照射するタイミングをずらせばよい。また、第1領域R1と第2領域R2に同じタイミングで電子ビームBを照射する場合は、同時に照射する電子ビームBの数に応じて検出器5を設ければよい。なお、図示は省略するが、フォトカソード3を2つ以上設け、異なるフォトカソード3から、それぞれ電子ビームBを引き出してもよい。
【0053】
第2の実施形態に係る局所観察方法において、位置情報設定工程(ST1)および第1電子ビームパラメータ設定工程(ST2)は、第1の実施形態と同様に実施をすればよい。電子ビーム照射条件第1設定工程(ST3)は、第1領域R1と第2領域R2の位置関係に加え、フォトカソード3から引き出される電子ビームBの数に基づき、第1領域R1に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームの照射タイミングと、第2領域R2に照射する電子ビームの照射タイミングを設定すればよい。なお、第1領域R1及び/又は第2領域R2が2つ以上ある場合、引き出される任意の電子ビームBは、第1領域R1または第2領域R2の一方のみを照射するように設定してもよいし、第1領域R1および第2領域R2の両方に照射するように設定してもよい。また、第2の実施形態では、1つの電子ビーム偏向装置8で2つ以上の電子ビームBを偏向しながら走査してもよいし、引き出される電子ビームBの数に応じて複数の電子ビーム偏向装置8を設けてもよい。第2の実施形態に係る電子ビーム照射条件第1設定工程(ST3)は、電子ビーム偏向装置8の数も考慮し、第1領域R1および第2領域R2に照射する電子ビームBの照射タイミングを設定してもよい。
【0054】
電子ビーム照射工程(ST4)は、電子ビーム照射条件第1設定工程(ST3)で設定したタイミングに基づき、制御部6が1つまたは2つ以上の電子ビーム偏向装置8を制御することで、第1領域R1および第2領域R2に電子ビームBを照射すればよい。
【0055】
第2の実施形態に係る電子線適用装置1Aおよび局所観察方法は、複数の電子ビームBを照射対象に照射できる。したがって、第1の実施形態に係る電子線適用装置1および局所観察方法が奏する効果に加え、以下の効果を奏する。
(1)第1の実施形態に係る電子線適用装置1および局所観察方法では、電子ビーム偏向装置8の走査スピードを調整することで、第1領域R1および第2領域R2に電子ビームBを照射するタイミングを調整できる。しかしながら、照射する電子ビームBが一つの場合、一般的に、電子ビームBは図2に示すように照射領域Rをライン状に走査する。したがって、図6Aに示すように第2領域R2が第1領域R1より走査方向の上流側にある場合、図6Bに示すように第1領域R1と第2領域R2が極端に離れている場合、図6Cに示すように第1領域R1に対して第2領域R2が複数ある場合は、電子ビーム偏向装置8の走査スピードの調整のみでは対応が難しい場合がある。また、図示は省略するが、一つの第2領域R2に対して、2つ以上の第1領域R1がある場合、2つ以上の第1領域R1に適切なタイミングで電子ビームBを照射することが難しい場合がある。一方、第2の実施形態に係る電子線適用装置1Aおよび局所観察方法は、複数の電子ビームBを照射対象Sに照射できることから、第1領域R1および第2領域R2の多様な位置関係に対応できる。
【0056】
(電子線適用装置の第3の実施形態および局所観察方法の第3の実施形態)
図1図4および図7を参照し、第3の実施形態に係る電子線適用装置1Bおよび局所観察方法について説明する。図7は、第3の実施形態に係る電子線適用装置1Bのフォトカソード3部分および照射対象Sを拡大した図である。
【0057】
第3の実施形態に係る電子線適用装置1Bは、電子ビーム偏向装置8を使用せず、非走査型である点で第1および第2の実施形態に係る電子線適用装置1、1Aと異なり、その他の点は第1および第2の実施形態に係る電子線適用装置1、1Aと同じである。したがって、第3の実施形態では、第1および第2の実施形態と異なる点を中心に説明し、第1および第2の実施形態において説明済みの事項についての繰り返しとなる説明は省略する。よって、第3の実施形態において明示的に説明されなかったとしても、第3の実施形態において、第1および第2の実施形態で説明済みの事項を採用可能であることは言うまでもない。
【0058】
図7に示すように、第3の実施形態に係る電子線適用装置1Bは、第1電子ビームパラメータを有し且つ第1領域R1をカバーできるサイズ及び/又は形状の電子ビームB1と、第2領域R2をカバーできるサイズ及び/又は形状の電子ビームB2が、フォトカソード3から引き出されている。なお、フォトカソード3と照射対象Sの間には、電子ビームB1、B2を集束する集束装置(図示は省略)、電子ビームサイズ調整装置63、中間電極64、電子ビーム形状調整装置65等が含まれる場合がある。フォトカソード3から電子ビームB1、B2を引き出す際には、集束装置、電子ビームサイズ調整装置63、中間電極64、電子ビーム形状調整装置65等も考慮した上で、フォトカソード3に照射する励起光Lのサイズ及び/又は形状を調整すればよい。
【0059】
単一の光源2から図7に示す電子ビームB1およびB2を形成する場合は、空間光位相変調器を用いて位相が異なる2以上の励起光Lに分割すればよい。位相を変調することで電子ビームB1とB2の強度を変えることができる。電子ビームのサイズや形状等のその他の電子ビームパラメータは、第1の実施形態と同様に調整すればよい。また、図7に示す例では、単一の光源2から強度の異なる電子ビームB1、B2を照射対象Sに照射する例が示されているが、光源2を2以上設け、それぞれの光源2から電子ビームB1、B2を照射対象Sに照射してもよい。
【0060】
第3の実施形態に係る局所観察方法において、位置情報設定工程(ST1)および第1電子ビームパラメータ設定工程(ST2)は、第1の実施形態と同様に実施をすればよい。電子ビーム照射条件第1設定工程(ST3)は、第1領域R1と第2領域R2の位置関係に基づき、第1領域R1に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームのサイズ及び/又は形状と、第2領域R2に照射する電子ビームのサイズ及び/又は形状とを設定する(以下、「電子ビーム照射サイズ及び/又は形状第1設定工程」と記載することがある。)
【0061】
電子ビーム照射工程(ST4)は、電子ビーム照射条件第1設定工程(ST3)で設定した電子ビームのサイズ及び/又は形状となるように、制御部6が、空間光位相変調器に加え、必要に応じて、光量調整装置61、励起光サイズ調整装置62、電子ビームサイズ調整装置63、中間電極64、電子ビーム形状調整装置65等から選択される一つ以上を制御すればよい。
【0062】
なお、第3の実施形態に係る電子線適用装置1Bは、反射型および透過型の何れに対しても用いることができるが、透過型として用いる場合、検出工程(ST5)では、放出物SBとして透過電子、散乱電子(非弾性/弾性)を検出すればよい。
【0063】
第3の実施形態に係る電子線適用装置1Aおよび局所観察方法は、第1の実施形態に係る電子線適用装置1および局所観察方法が奏する効果に加え、以下の効果を奏する。
(1)第1領域R1および第2領域R2に電子ビームBを同時に照射できることから、電子ビームBをスキャンすることによるタイムラグが発生しない。したがって、第1領域R1に電子ビームBを照射した時に第2領域R2に影響が瞬時に現れる場合にも、その影響を観察できる。
(2)従来の非走査型の電子線適用装置では、照射対象Sには同じ電子ビームパラメータを有する電子ビームBが照射されていた。一方、第3の実施形態では、第1領域R1には予め設定した電子ビームパラメータを有する電子ビームを照射できる。したがって、例えば、粒内、粒界、結晶界面、転位等への局所的な加熱による、原子の拡散、結晶構造の変化、欠陥等を観察することができる。また、生物試料やタンパク質の局所的な加熱による変性や構造変化を観察することができる。
【0064】
電子線適用装置1としては、例えば、走査電子顕微鏡、電子線検査装置、X線分析装置、透過電子顕微鏡、または、走査型透過電子顕微鏡等が挙げられる。第1および第2の実施形態に係る電子線適用装置1、1Aは走査型であることから、走査電子顕微鏡、電子線検査装置、X線分析装置、走査型透過電子顕微鏡等が挙げられる。第3の実施形態に係る電子線適用装置1Bは非走査型であることから、電子線検査装置、X線分析装置、透過電子顕微鏡等が挙げられる。
【0065】
(電子線適用装置および局所観察方法の実施形態において採用可能な構成例)
続いて、上記第1、第2および第3の実施形態に係る電子線適用装置1、1A、1Bおよび局所観察方法において採用可能な構成例について説明する。なお、以下の説明は、局所観察方法の工程として説明するが、電子線適用装置1、1A、1Bの場合は制御部6の制御内容に相当する。また、特に断りのない限り、以下に記載の採用可能な構成例は、第1乃至第3の実施形態に何れにも採用可能である。採用できる実施形態が限定される場合は、採用可能な構成例を説明する際に採用できる実施形態を記載する。
【0066】
(第1領域および第2領域位置情報取得工程)
局所観察方法は、位置情報設定工程(ST1)の前に、第1領域および第2領域位置情報取得工程を実施してもよい。第1領域および第2領域位置情報取得工程は、照射対象Sに電子ビームBを照射する工程と、電子ビームBが照射された照射領域Rから放出された放出物の放出量を検出器5で検出し、検出信号を生成する検出工程と、検出工程で生成した検出信号を照射領域Sの位置情報(例えば、第1および第2の実施形態では電子ビーム偏向装置8の走査情報。第3の実施形態では電子ビームBの照射位置情報。)と関連付けて出力する検出データ出力工程と、を実施する。そして、位置情報設定工程(ST1)は、検出データ出力工程で出力した照射領域Rの位置情報と関連付けられた検出データに基づき実施される。
【0067】
第1領域および第2領域位置情報取得工程を実施する場合は、照射領域Rにおける第1領域R1および第2領域R2の設計上の位置情報が不明であっても、実際に照射領域Rに電子ビームBを照射することで、第1領域R1および第2領域R2の位置情報取を取得できるという効果を奏する。
【0068】
(電子ビーム照射タイミング第1設定工程(ST3))
第1および第2の実施形態において、局所観察方法の電子ビーム照射タイミング第1設定工程(ST3)は、第1領域R1および第2領域R2の位置関係に加え、第1領域R1に電子ビームを照射した後に、第2領域R2に影響が現れる時間および影響が継続する時間に基づき、第1領域R1に照射する第1電子ビームパラメータを有する電子ビームBの照射タイミングと、第2領域R2に照射する電子ビームBを照射するタイミングを設定してもよい。照射対象Sによっては、第1領域R1に電子ビームBを照射することで第2領域R2に影響が現れる時間の長短があることが想定される。また、現れた影響が持続する場合と直ぐに消滅する場合も想定される。第1電子ビーム照射タイミング設定工程(ST3)が、第1領域R1および第2領域R2の位置関係に加え、影響が現れる時間および影響が継続する時間を考慮した場合、第2領域R2への影響をより精緻に観察できるという効果を奏する。
【0069】
(観察用電子ビームパラメータ設定工程)
局所観察方法は、第2領域R2に照射する電子ビームBのパラメータを設定する観察用電子ビームパラメータ設定工程を含んでもよい。本出願で開示する局所観察方法は、第1領域R1に第1電子ビームパラメータを有する電子ビームBを照射することで第2領域R2が受ける影響を観察できれば、第1領域R1以外に照射する電子ビームBのパラメータは同じであってもよい。代替的に、第2領域R2が受ける影響が大きい場合は、第2領域R2への影響をより精緻に観察するため、第2領域R2に照射する電子ビームBのパラメータを設定してもよい。例えば、上記nMOSの場合、キャパシタンスが大きいnMOSでは第1領域R1であるゲートを起動するため、第1領域R1に強い電子ビームBの照射が必要な場合がある。その場合、第2領域R2であるドレインにより多くの電子が移動することから、観察したSEM像の第2領域R2が白飛びする可能性がある。その場合、第2領域R2には電子ビームBを弱く設定した(電流値を小さくした)観察用電子ビームを照射すればよい。逆に、第2領域R2に移動する電子が少なくなる場合は、第2領域R2に照射する電子ビームBが強くなるように、観察用電子ビームパラメータを設定すればよい。観察用電子ビームパラメータは、照射対象Sの種類等により異なるが、設定する電子ビームパラメータの種類としては、第1電子ビームパラメータと同じパラメータを用いればよい。観察用電子ビームパラメータを設定した場合は、第2領域R2の影響を精緻に観察できるという効果を奏する。
【0070】
(局所観察方法の繰り返し)
第1乃至第3の実施形態に係る局所観察方法を実施後に、制御部6は、
第1領域R1に照射する電子ビームBのパラメータについて、第1電子ビームパラメータ設定工程で設定したパラメータと異なる電子ビームパラメータを設定する第2電子ビームパラメータ設定工程と、
第1領域R1および第2領域R2の位置関係に基づき、第1領域R1に照射する第2電子ビームパラメータを有する電子ビームと、第2領域R2に照射する電子ビームBの照射条件を設定する電子ビーム照射条件第2設定工程(より具体的には、第1および第2の実施形態では「電子ビーム照射タイミング第2設定工程」、第3の実施形態では「電子ビーム照射サイズ及び/又は形状第2設定工程」)と、
電子ビーム照射条件第2設定工程で設定した照射条件に基づき、第1領域R1および第2領域R2に電子ビームBを照射する電子ビーム照射工程と、
電子ビームBが照射された第1領域R1と第2領域R2から放出された放出物の放出量を検出器5で検出し、検出信号を生成する検出工程と、
を実施するように制御してもよい。
【0071】
照射対象Sの種類や観察目的によっては、第2領域R2への影響の有無以外に、第1領域R1に異なるパラメータを有する電子ビームBを照射した際の第2領域R2への影響の変化を観察したい場合もある。第1領域R1にパラメータの異なる電子ビームBを照射する局所観察方法を繰り返して実施することで、第2領域R2の変化を観察できるという効果を奏する。なお、第1領域R1が複数ある場合、局所観察方法を繰り返して実施する際には、実施毎の各々の第1領域R1に照射する電子ビームBのパラメータは同じであっても異なっていてもよい。
【0072】
なお、上記の電子線適用装置1、1A、1Bおよび局所観察方法の実施形態において採用可能な構成例は、任意の一つ以上の構成例を組み合わせてもよい。
【0073】
(プログラムおよび記録媒体の実施形態)
上記電子線適用装置1、1A、1Bおよび局所観察方法の実施形態、並びに、当該実施形態において採用可能な構成例は、電子線適用装置1、1A、1Bの制御部6の制御により実施することができる。したがって、制御部6には、図4に示す各工程(採用可能な構成例を含む)が実施できるように作成したプログラムがインストールされていればよい。また、プログラムは、読み取り可能な記録媒体に記録して提供してもよい。従来の電子線適用装置1、1A、1Bの制御部6に本出願で開示するプログラムをインストールすることで、本出願で開示する局所観察方法を実施できる。
【0074】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例
【0075】
[電子線適用装置1の作製]
<実施例1>
光源2には、レーザー光源(Toptica製iBeamSmart)を用いた。フォトカソード3は、Daiki SATO et al. 2016 Jpn. J. Appl. Phys. 55 05FH05に記載された公知の方法で、InGaNフォトカソードを作製した。フォトカソード表面のEA処理は、公知の方法により行った。作製した電子銃部分を、市販のSEMの電子銃部分と置き換えた。なお、市販SEMの仕様は、電子銃がコールド型電界放出電子源(CFE)を用いており、電子ビーム偏向装置8として偏向コイルを備えていた。電子ビームの加速電圧は最大で30kv、最大で100万倍での観察が可能である。電子線適用装置1の制御部6は、実施形態で説明した各工程が実施できるように、プログラムを作成・改良した。
【0076】
[局所観察方法の実施]
<実施例2>
(サンプルの調整)
市販のフラッシュメモリを破壊・研磨し、微細なnMOSが顕わになるようにした。図8に準備したサンプルのイメージを示す。
【0077】
(nMOS局所観察の実施)
図8を参照し、本出願で開示する局所観察方法によるnMOSの観察の概略を説明する。通常のSEMでは視野内で一様の強度の電子ビームBが照射される。換言すると、一様の電子量の電子ビームBがnMOSに照射される。低加速SEMにおいては、電気的に孤立したものは正電荷蓄積のため電位差コントラスト(VC)を生じ暗くなる。図8に示すnMOSにおいて、ドレイン、ゲート、ソース(接地)は、ゲートのみ電気的に孤立しており正電荷蓄積状態である。ゲートの正電荷蓄積が十分な電位であれば、ソースからドレインへ電子が移動する。実施例2では、ゲートに照射する電子ビームBの強さを変えることで、ソースからドレインへ電子が移動する状態を観察した。
【0078】
実施例1で作製した電子線適用装置1を用いて、以下の条件でサンプルに電子ビームを照射した。
・加速電圧:0.8kV
・倍率:3000倍
・第1領域(ゲート)に照射する第1電子ビームパラメータ:局所観察方法の効果の比較のため、電子ビーム非照射と、ゲートに3Vの電位差を与えられる照射電流値2種類を設定。
・電子ビーム照射条件第1設定:ソース、ドレイン、ゲートの位置関係に基づき、第1領域および第2領域に照射する電子ビームBの照射タイミングを設定した。
【0079】
図9に、実施例2の局所観察方法の概略を示す。実施例2では、図9に示す「ゲート」の内、上方部分には3Vの電位差を与えられる照射電流値の電子ビームBを照射し、下方部分の「電子ビーム非照射」と記載された部分には電子ビームBを照射しなかった。SEM像を撮影したところ、電子ビームBを照射しなかったゲートに隣接したドレインは暗くなった。これは、ソースから電子が移動しなくなったドレインが電気的に孤立しVCが起こったためと考えられる。一方、電子ビームBを照射したゲートに隣接したドレインは明るくなった。以上の結果から、第1領域R1であるゲートに所定の電子ビームパラメータを有する電子ビームBを照射することで、第2領域R2であるドレインが影響を受けたか否か観察できることを確認した。
【0080】
<実施例3>
次に、ゲートに0V~3Vの電位差を与えられるように、照射電流値が異なる8種類の第1電子ビームパラメータを設定し、ゲートの異なる箇所に強度が異なる電子ビームBを照射した時のドレイン(ドレインを観察する電子ビームの強度は同じ)を実施例2と同様の手順で観察した。
【0081】
図10に、実施例3の局所観察方法を実施したSEM像から得られた結果を示す。図10のゲートの右側の数値は、ゲートに照射した電荷量(クーロン)を表す。なお、ゲートの右側の数値は、ゲートの最も下側の明るさをゼロと設定した時の値である。また、図10のドレインの左側の数値は、前記電荷量をゲートに照射した際のSEM像の明るさを表しており、最も明るかったSEM像を1とした相対値である。図10から明らかなように、ゲートに電流値(電荷量)が大きな電子ビームBを照射すると、ドレインのSEM像が明るくなった。これは、ゲートに照射する電流値(電荷量)が多くなるほど、ソースからドレインに移動する電子の量が多くなることを意味する。以上の結果より、本出願で開示する局所観察方法は、第1領域R1に電子ビームBを照射した時に、第2領域R2への影響の有無に加え、第2領域R2への影響の変化についても観察できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本出願で開示する電子線適用装置および当該電子線適用装置を用いた局所観察方法により、照射対象の第1領域に電子ビームを照射した時に、その影響を受ける第2領域を観察できる。したがって、電子顕微鏡や電子線検査装置等の生産業者や、照射対象の検査・観察等を行う業者にとって有用である。
【符号の説明】
【0083】
1、1A、1B…電子線適用装置、1a…電子銃部分、1b…相手側装置、2…光源、3…フォトカソード(カソード)、4…アノード、5…検出器、6…制御部、61…光量調整装置、62…励起光サイズ調整装置、63…電子ビームサイズ調整装置、64…中間電極、65…電子ビーム形状調整装置、7…電源、8…電子ビーム偏向装置、B、B1、B2…電子ビーム、CB…真空チャンバー、L…励起光、R…照射領域、R1…第1領域、R2…第2領域、S…照射対象、SB…放出物、ST1…位置情報設定工程、ST2…第1電子ビームパラメータ設定工程、ST3…電子ビーム照射条件第1設定工程、ST4…電子ビーム照射工程、ST5…検出工程、
【要約】      (修正有)
【課題】照射対象の第1領域に電子ビームを照射した時に影響を受ける第2領域を局所的に観察できる電子線適用装置を提供する。
【解決手段】フォトカソードを備えた電子線適用装置における観察方法は、照射対象における第1領域および第2領域の位置情報を設定する位置情報設定工程と、前記第1領域に照射する電子ビームのパラメータを設定する第1電子ビームパラメータ設定工程と、前記第1領域および前記第2領域の位置関係に基づき前記第1領域に照射する電子ビームと前記第2領域に照射する電子ビームの照射条件とを設定する電子ビーム照射条件第1設定工程と、前記電子ビーム照射条件第1設定工程で設定した照射条件に基づき前記第1領域および前記第2領域に電子ビームを照射する電子ビーム照射工程と、前記電子ビームが照射された前記第1領域と前記第2領域から放出された放出物の放出量を検出器で検出し検出信号を生成する検出工程と、を備える。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10