(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】性能を強化したタップドリル
(51)【国際特許分類】
B23G 5/06 20060101AFI20230130BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230130BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20230130BHJP
B23B 51/00 20060101ALI20230130BHJP
B23B 51/08 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
B23G5/06 C
C23C14/06 P
C23C14/06 A
C23C14/06 B
B23B27/14 A
B23B51/00 J
B23B51/08 Z
(21)【出願番号】P 2020506233
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2018071255
(87)【国際公開番号】W WO2019025629
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-27
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100182903
【氏名又は名称】福田 武慶
(72)【発明者】
【氏名】クラポブ,デニス
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-530772(JP,A)
【文献】特許第4704335(JP,B2)
【文献】国際公開第2009/001681(WO,A1)
【文献】特開2015-093337(JP,A)
【文献】国際公開第2016/071104(WO,A1)
【文献】特開2003-027236(JP,A)
【文献】特開2010-275639(JP,A)
【文献】特開2013-176837(JP,A)
【文献】特開2014-122415(JP,A)
【文献】特表2010-512459(JP,A)
【文献】特表2018-510070(JP,A)
【文献】米国特許第07348074(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34
B23B 51/00-51/14
B23C 1/00-9/00
B23G 1/00-11/00
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(2)およびコーティング(3)を含むタップドリル(1)であって、前記コーティング(3)は、前記ドリルのヘッドを含む前記基板(2)の少なくとも一部に堆積され、前記コーティング(3)は、前記基板(2)上に直接堆積された第1層(4)と、前記第1層(4)の上に堆積された第2層(5)とを含み、前記第1層(4)は、HiPIMSにより堆積された(Al、Cr)Nの耐摩耗層であり、前記第2層(5)は、摩擦低減層であり、
前記第2層(5)は、マグネトロンスパッタリン
グタイプの物理蒸着(PVD)プロセスを使用して堆積した金属炭化物
層であることを特徴とする、タップドリル(1)。
【請求項2】
前記第2層(5)が、HiPIMSを使用して堆積されることを特徴とする、請求項1に記載のタップドリル。
【請求項3】
前記金属炭化物層は、
炭化チタン層または炭化タングステン
層であることを特徴とする、請求項1または2に記載のタップドリル。
【請求項4】
基板(2)およびコーティング(3)を含むタップドリル(1)の製造方法であって、前記コーティング(3)は、前記ドリルのヘッドを含む前記基板(2)の少なくとも一部に堆積され、前記コーティング(3)は、第1層(4)および第2層(5)を含み、
前記第1層(4)は(AlCr)Nの耐摩耗層であり、HiPIMSによって前記基板(2)上に直接堆積され、
前記第2層(5)は、摩擦低減層であり、前記第2層(5)は金属炭化物
層であり、マグネトロンスパッタリングタイプ
の物理蒸着(PVD)プロセスを使用して堆積される、製造方法。
【請求項5】
前記第2層(5)は、炭化チタ
ン層であり、アルゴンおよび炭素含有ガ
スを含む雰囲気中でTiまたはTiCターゲットのスパッタリングにより堆積されることを特徴とする、請求項
4に記載のタップドリル(1)の製造方法。
【請求項6】
HiPIMS技術
が、TiCターゲットの前記Tiのスパッタリングに使用されることを特徴とする、請求項
5に記載のタップドリル(1)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al-Cr-Nの耐摩耗層と、耐摩耗層の上に堆積された摩擦低減層とを含む、性能が向上したタップドリル、およびタップドリルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
文献US9540726 B2では、ドリルの少なくともヘッドをコーティングすることにより、ドリル、特にタップドリルおよびマイクロドリルの性能を改善することが提案されている。コーティングは、ドリル基板に直接適用され、少なくとも1つの窒化物および/または炭化物および/または酸化物の少なくとも1つの層と、HiPIMS層に設けられたアモルファスカーボンまたはDLC層を含む、少なくとも1つのHiPIMSコーティングを含む。HiPIMSコーティングは(Al、Cr)N層にし得、DLC層は金属含有DLC層にし得る。US9540726 B2に示されるドリルは、ステンレス鋼ワークピースの穿孔作業に使用できるが、工具寿命は比較的短い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、従来技術と比較して、ステンレス鋼ワークピースの穿孔作業において、より優れた性能と相対的な工具寿命を示すことができるコーティングタップドリルおよびタップドリルの製造方法を提供することである。特に、摩擦の低減と冷間圧接の低減特性に関して、より良い性能が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0004】
本発明の目的は、基材とコーティングとを含むタップドリルを提供することにより達成され、コーティングは、ドリルのヘッドを含む基板の少なくとも一部に堆積され、コーティングは、基板上に直接堆積された第1層と、第1層の上に堆積された第2層を含み、第1層はHiPIMSにより堆積された(Al、Cr)Nの耐摩耗層であり、第2層は摩擦低減層であり、その特徴は、
・第2層が、マグネトロンスパッタリング、好ましくは高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)タイプの物理蒸着(PVD)プロセスを使用して堆積した金属炭化物層または金属炭化物含有層であることである。
【0005】
HiPIMS法は、用語ハイパワーパルスマグネトロンスパッタリング(high power pulsed magnetron sputtering)のため、HPPMS法としても知られている。
【0006】
スパッタリング、特にHiPIMSによって生成されたコーティングは、特にアーク蒸着コーティングに後処理がない場合、アークによって生成されたコーティングに比べてはるかに優れた性能を示す。
【0007】
HiPIMSは、緻密で滑らかなコーティングを生成する可能性を提供する。
図1に示すAlCrN+WC/Cコーティングのようなコーティングは、1回の堆積で生成され得る。
【0008】
好ましくは、摩擦低減層は、炭素含有窒化チタンもしくはチタン炭窒化物または炭化タングステンでドープされたダイヤモンド状炭素あるいは炭化タングステン層であることが好ましい。
【0009】
本発明の好ましい実施形態によれば、金属炭化物層は炭化タングステン層であり得る、または大部分(50原子%以上)の炭化タングステンを含み、好ましくは70原子%以上、より好ましくは90原子%以上の炭化タングステンを含む。
【0010】
本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、金属炭化物層は炭化チタン層であり得る、または大部分(50原子%以上)の炭化チタンを含み、好ましくは70原子%以上、より好ましくは90原子%以上の炭化チタンを含む。
【0011】
好ましくは、第2層は、WC/Cタイプの層を含む炭化タングステンである。
【0012】
本発明の目的は、請求項6に記載のタップドリルの製造方法を提供することにより達成される。
【0013】
好ましくは、第2層は、WC/Cタイプの層を含む炭化タングステンであり、アルゴンおよび炭素含有ガス、好ましくはアセチレンガスを含む雰囲気中でWCターゲットのスパッタリングにより堆積される。
【0014】
好ましくは、WCターゲットのスパッタリングにはHiPIMS技術が使用される。
【0015】
好ましくは、第2層は、炭化チタン含有層であり、アルゴンおよび炭素含有ガス、好ましくはアセチレンガスを含む雰囲気中でTiまたはTiCターゲットのスパッタリングにより堆積される。
【0016】
好ましくは、TiCターゲットのTiのスパッタリングにはHiPIMS技術が使用される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明によるタップドリル用のコーティングを示す。
【0018】
図1は、本発明によるタップドリル1の写真を上部に示す。タップドリル1は、基板2とコーティング3を含む。コーティング3は、ドリル1のヘッドを含む基板2の少なくとも一部に堆積される。
【0019】
コーティング3は、第1層4を含む。第1層4は、基板2上に直接堆積される。コーティング3は、第2層5を含む。第2層5は、第1層4上に堆積される。
【0020】
第1層4は、(Al、Cr)Nの耐摩耗層である。第1層4は、HiPIMSにより堆積される。第2層5は摩擦低減層である。第2層5は、金属炭化物層または金属炭化物含有層である。また、好ましくは、炭素含有窒化チタンもしくはチタン炭窒化物またはタングステンでドープされたダイヤモンド状炭素あるいは炭化タングステン層であり得る。第2層5は、物理蒸着(PVD)プロセス、好ましくはマグネトロンスパッタリングタイプ、好ましくはHiPIMSタイプを使用して堆積される。
【0021】
これは、さまざまなコーティングや蒸着方法の相対的な工具寿命を図で示す
図2で見ることができる。ベンチマークツールの工具寿命は100%に定義されている。
図2では、ベンチマークツールはTiNで堆積されている。AlCrNコーティングは、ベンチマークと比較して同じ100%の工具寿命を示す。AlCrN+TiNコーティングは、アーク蒸着によって堆積され、粗さを低減するために後処理されており、ベンチマークと比較して160%の工具寿命を示す。大幅な工具寿命の増加が見られる。アーク蒸着によって堆積されたAlCrN+WC/Cコーティングは、ベンチマークと比較して3%の工具寿命を示す。HiPIMS蒸着により堆積されたAlCrN+WC/Cコーティングは、ベンチマークと比較して710%の工具寿命を示す。
【0022】
AlCrN+TiNコーティング(粗さを減らすためにアークと後処理で堆積)は、ベンチマークに対して大幅な工具寿命の増加を示す。
【0023】
滑らかなコーティング表面には利点がある。
【0024】
スパッタリング、特にHiPIMSによって生成されたコーティングは、特にアーク蒸着コーティングに後処理がない場合、アークによって生成されたコーティングに比べてはるかに優れた性能を示す。
【0025】
HiPIMSは、緻密で滑らかなコーティングを生成する可能性を提供する。
図1に示すAlCrN+WC/Cコーティングのようなコーティングは、1回の堆積で生成され得る。
【0026】
■AlCrN+Ti(CN)コーティングは、工具寿命の増加を示す。これは実際には出願のメイントピックである。
【0027】
好ましくは、第1層4は、HiPIMS技術を使用することにより、窒素反応性雰囲気(アルゴンおよび窒素または窒素のみを含む)中でCrターゲットをスパッタリングすることにより堆積される。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、第2層5は、アルゴンおよび炭素含有ガス、好ましくはアセチレンガスを含む雰囲気中で(すなわち、好ましくはアルゴンおよびアセチレンガスを含む雰囲気中で)WCターゲットのスパッタリングにより堆積され得るWC/C(WC+C)タイプの層を含む炭化タングステンである。この好ましい実施形態の変形によれば、従来のスパッタリング技術の代わりに、WCターゲットのスパッタリングにHiPIMS技術が使用される。
【0029】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、第2層5は、アルゴンおよび炭素含有ガス、好ましくはアセチレンガスを含む雰囲気中で(すなわち、好ましくはアルゴンおよびアセチレンガスを含む雰囲気中で)TiまたはTiCターゲットをスパッタリングすることにより堆積され得る炭化チタン含有層である。この好ましい実施形態の変形によれば、従来のスパッタリング技術の代わりに、TiまたはTiCターゲットのスパッタリングにHiPIMS技術が使用される。