(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】衛生マスク用シート
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20230130BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20230130BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
D04H3/16
A62B18/02 C
(21)【出願番号】P 2021203621
(22)【出願日】2021-12-15
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2021012296
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】茂木 知之
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 諒太
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅隆
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕太
【審査官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-192248(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110943(WO,A1)
【文献】特開2021-006337(JP,A)
【文献】特開2019-151692(JP,A)
【文献】特許第6755067(JP,B1)
【文献】国際公開第2016/199883(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/010178(WO,A1)
【文献】特開平04-180808(JP,A)
【文献】特表2007-515248(JP,A)
【文献】特開2018-172804(JP,A)
【文献】特開2020-133041(JP,A)
【文献】特開2002-105826(JP,A)
【文献】特開平06-192951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/11
D04H 3/16
A62B 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のシートを備える衛生マスク用シートであって、
前記衛生マスク用シートは、一方の面と他方の面とを有し、少なくとも一方の面に、自然状態において厚み方向外方に突出する複数の凸部と、複数の該凸部に挟まれた凹部とを有する凹凸シートを備え、
前記凹凸シートは、繊維層と保護シートとを含んでなり、
該保護シートは、不織布であり、前記繊維層を保護するための強度を有し、
前記繊維層は、前記衛生マスク用シートを構成するシートのうち、平均繊維径が最も細く、該繊維層は、平均繊維径が1000nm以下で、密度が0.2g/cm
3超であり、
前記繊維層の前記一方の面に前記保護シートが沿わされており、
前記凹凸シートの前記繊維層を配する前記他方の面に、平面状の基底シートが積層されており、
該基底シートは、不織布であり、前記繊維層よりも高強度であり、
前記凹凸シートは前記凹部において前記基底シートと接合され、前記凸部の内部が中空である、衛生用マスク用シート。
【請求項2】
前記
保護シートの不織布の剛軟度が、30mm以上70mm以下である、請求項
1記載の衛生マスク用シート。
【請求項3】
前記凹凸シートの前記凸部の高さは自然状態において、1mm以上4mm以下であり、隣接する前記凸部の中心間距離は、6mm以下である、請求項1
又は2記載の衛生用マスク用シート。
【請求項4】
前記繊維層の平均繊維径に対する前記保護シートの平均繊維径の比が25以上である、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の衛生用マスク用シート。
【請求項5】
前記基底シートは伸縮性シートである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の衛生マスク用シート。
【請求項6】
前記繊維層の坪量は、2g/m
2以上10g/m
2以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の衛生マスク用シート。
【請求項7】
前記保護シートの坪量は前記繊維層の坪量よりも大きい、請求項1~
6のいずれか1項に記載の衛生マスク用シート。
【請求項8】
前記保護シートの坪量は12g/m
2以上18g/m
2以下である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の衛生マスク用シート。
【請求項9】
前
記基底シートの坪量は15g/m
2以上45g/m
2以下である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の衛生マスク用シート。
【請求項10】
前記衛生マスク用シートを構成するシートのうち、前記繊維層の密度が最も高い、請求項1~
9のいずれか1項に記載の衛生マスク用シート。
【請求項11】
前記凹凸シートの前記凸部が突出する前記一方の面を衛生マスクにおける肌対向面として有する、請求項1~
10のいずれか1項に記載の衛生マスク用シート。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の衛生マスク用シートを、衛生マスクにおける衛
生マスク本体に着脱可能なフィルタシートとして用いる、衛生マスク用シートの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衛生マスク用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
衛生マスクは、人の口や鼻を覆い、空気中の粒子等(例えば埃、塵、花粉、ウイルスやウイルス等を含む飛沫)の外部からの侵入を防止する目的で使用される。該衛生マスクの使用目的には、ウイルス等を含む飛沫が口及び鼻から外部へ拡散することを防止することも含まれる。
このような衛生マスクについて、これまで様々な技術が提案されてきた。
例えば、特許文献1には、最外層、中間層及び口許層を有する不織布マスクが記載されている。前記中間層には特定の繊維を含む緩衝層が配され、不織布マスクの圧縮特性WCを0.5~2.0gf・cm/cm
2としている。該不織布マスクの各層は、同文献の
図2に示されるように互いに密着して平坦なシート構造をなし、密着した状態でプリーツ加工が施される技術が記載されている。
特許文献2には、連続気泡発砲体シートからなる第一基材及び第二基材で中間繊維層を挟持したウイルス除去用フィルター及びこれを用いたマスクが記載されている。このフィルターは、上記の3層を面状に一体化した形状を有する。前記連続気泡発砲体シートについて、連続発泡体からセル膜を除去し、セル数を所定の範囲としてマスクの通気度を大きくする技術が記載されている。
特許文献3には、谷部及び峰部を備えた波形濾過構造と弾性ブリッジフィラメントとを備えたマスク本体が記載されている。該マスク本体において、前記弾性ブリッジフィラメントを波形濾過構造の複数の峰部を橋渡すようにして配することで、前記峰部の局所的な変形を抑える技術が開示されている。
特許文献4には、織編物からなるマスク本体の内側に不織布シートを口当て布として配したマスクが記載されている。前記不織布シートは折り目が付けられ、面ファスナー等によって、マスク本体の両端部に部分的に固定されて使用される。これにより、前記不織布シートは取替可能にされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/199883号
【文献】特開2018-16904号公報
【文献】特表2018-500467号公報
【文献】特開平9-192247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衛生マスクには、不織布等のシート状物からなるものがある。不織布は、布よりも一般的に目が細かく、粒子等に対する捕集性(濾過性)が高い。特にメルトブローン製法で得られた不織布(以下、メルトブローン不織布ともいう)は、繊維径がマイクロメートルオーダーの繊維からなり、捕集性に優れる。
このような不織布は、捕集性に優れる一方で繊維が密になり、布よりも硬さが増してしまい、肌触りの点においては改善の余地があった。そのため従来、不織布を用いた衛生マスク用シートにおいて、前記の粒子等の捕集性と肌触りとを両立させるのが難しかった。この両立を実現する手段について前述の特許文献1~4には記載がない。
これ以外に発泡ウレタン製のマスクは、連続気泡スポンジで構成され柔らかく装着感が良い一方で、気泡径が大きく捕集性に劣る。また、高捕集性のいわゆる防塵マスクは、形状が3次元賦形されて固定化されているため硬く装着感が悪い。このように不織布以外の素材からなるマスクにおいても粒子等の捕集性と肌触りとを両立することが難しかった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、空気中の粒子等を対象とした高い捕集性と柔らかい肌触りとを両立した衛生マスク用シートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、厚み方向の最大圧力までの仕事量を示すWC値(以下、圧縮仕事量(WC)と記載)が0.3Pa・m以上である、衛生マスク用シートを提供する。
好ましくは、前記衛生マスク用シートは、粒径1μm超の粒子の捕集率が85%以上である。
【0007】
また、本発明は、一枚以上のシートを備える衛生マスク用シートを提供する。
好ましくは、前記衛生マスク用シートは、平均繊維径が3000nm以下である。
好ましくは、前記衛生マスク用シートは、密度が0.05g/cm3以上である繊維層を有する。
好ましくは、前記衛生マスク用シートが有するシートの一枚は、一方の面と他方の面とを有し、少なくとも一方の面に、自然状態において厚み方向外方に突出する複数の凸部と、複数の該凸部に挟まれた凹部とを有する凹凸シートである。
【0008】
また、本発明は、前記衛生マスク用シートを、衛生マスクにおける衛生マスク本体に着脱可能なフィルタシートとして用いる、衛生マスク用シートの使用方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の衛生マスク用シートは、空気中の粒子等を対象とした高い捕集性と柔らかい肌触りとを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の衛生マスク用シートの厚みと該衛生マスク用シートへの圧力との関係を示すグラフである。
【
図2】(A)は粒子の捕集率を測定する装置を示す分解斜視図であり、(B)及び(C)は(A)に示す装置における上部側の治具及び下部側の治具の断面斜視図である。
【
図3】第1実施形態の衛生マスク用シートの一例を示す斜視図である。
【
図4】第1実施形態の衛生マスク用シートの別の例を示す斜視図である。
【
図5】第1実施形態の衛生マスク用シートのX方向に沿う断面図である。
【
図6】(A)及び(B)は、衛生マスク用シートの平面投影視での単位面積当たりの凹凸シートの表面積の比率を測定する方法を示す説明図である。
【
図7】第1実施形態の衛生マスク用シートの更に別の例を示す断面図である。
【
図8】第2実施形態の衛生マスク用シートの一例を示すX方向に沿う断面図であり、(A)は細密繊維層からなる凹凸シートと基底シートとの積層体の例を示し、(B)は細密繊維層及び保護シートからなる凹凸シートと基底シートとの積層体の例を示している。
【
図9】第2実施形態の衛生マスク用シートの例を示す斜視図であり、(A)は、
図3に示す凹凸構造を有する細密繊維層からなる凹凸シートと基底シートとの積層体の例を示し、(B)は、
図4に示す凹凸構造を有する細密繊維層からなる凹凸シートと基底シートとの積層体の例を示し、(C)は、細密繊維層を含まない凹凸シートと細密繊維層からなる基底シートとの積層体の例を示している。
【
図10】(A)は第2実施形態の衛生マスク用シートにおいて、伸長方向を示す説明図であり、(B)は圧縮荷重を加える状態を示す説明図であり、(C)は(B)図の状態における圧縮荷重の伝搬する経路を模式的に示す説明図である。
【
図11】第2実施形態の衛生マスク用シートにおいて、凹凸シートと基底シートとの接合点の配置形態の一例を示す斜視図である。
【
図12】(A)~(C)は、第2実施形態の衛生マスク用シートにおけるシートの積層形態の変形例を示す斜視図である。
【
図13】第3実施形態の衛生マスク用シートの一例を示す斜視図であり、(A)は、
図3に示す凹凸構造を有する細密繊維層からなる凹凸シートと基底シート及び被覆シートとの積層体の例を示し、(B)は、
図4に示す凹凸構造を有する細密繊維層からなる凹凸シートと基底シート及び被覆シートとの積層体の例を示している。
【
図14】(A)は第3実施形態の衛生マスク用シートに圧縮荷重を加える状態を示す説明図であり、(C)は(B)図の状態における圧縮荷重の伝搬する経路を模式的に示す説明図である。
【
図15】(A)~(C)は、第3実施形態の衛生マスク用シートにおけるシートの積層形態の変形例を示す斜視図である。
【
図16】基底シート及び被覆シートとして用いられる伸縮性シートを示す一部切欠斜視図である。
【
図17】第2実施形態の衛生マスク用シートの製造方法の一例を示す説明図である。
【
図18】第2実施形態の衛生マスク用シートの製造方法の別の例を示す説明図である。
【
図19】第2実施形態の衛生マスク用シートの製造方法の更に別の例を示す説明図である。
【
図20】第2実施形態の衛生マスク用シートの製造方法の更に別の例を示す説明図である。
【
図21】(A)は、本発明の衛生マスク用シートを備えた衛生マスクの装着状態を示す斜視図であり、(B)は、(A)に示す衛生マスクを内側から示す斜視図である。
【
図22】本発明の衛生マスク用シートを備えたフィルタシートの、衛生マスクへの装着する状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において数値の上限値若しくは下限値又は上下限値が規定されている場合、上限値及び下限値そのものの値も含まれる。また特に明示がなくても、数値の上限値以下若しくは下限値以上又は上下限値の範囲内におけるすべての数値又は数値範囲が記載されているものと解釈される。
本明細書における上述の開示及び以下の開示に照らせば、本発明の様々な変更形態や改変形態が可能であることが理解される。したがって、請求の範囲の記載に基づく技術的範囲内において、本明細書に明記されていない実施形態についても本発明の実施が可能であると理解すべきである。
上述の特許文献及び以下の特許文献の記載内容は、それらのすべての内容が本明細書の
内容の一部として本明細書に組み入れられる。
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。本発明は、衛生マスクに用いられるシート材料(以下、衛生マスク用シートという。)に関する。本明細書において「衛生マスク」とは、呼吸のために人の顔面に着用されて、空気を人の呼吸器官に吸い込む前に濾過し、人が吐く息中の飛沫を外部に排出する前に濾過する物品のことである。そのため、本発明に係る衛生マスク用シートは、好適には、少なくとも人の口及び鼻を覆うに足る寸法及び形状を有する。
【0013】
本発明の衛生マスク用シートは、厚み方向の圧縮仕事量(WC)が0.3Pa・m以上であることが好ましい。また、本発明の衛生マスク用シートは、粒径1μm超の粒子の捕集率が85%以上であることが好ましい。このような本発明の衛生マスク用シートは、繊維材料若しくは発泡シート材料、多孔シート材料又は両材料を主成分として有することが好ましい。なお、主成分とは、最大含有量の構成材料をいう。
【0014】
本発明の衛生マスク用シートは、シート全体の厚み方向の圧縮仕事量(WC)が0.3Pa・m以上であることにより厚み方向の変形性を適度に備えて硬さが抑えられ、肌触りが柔らかいものとなる。この観点から、シート全体の厚み方向の圧縮仕事量(WC)は、1.5Pa・m以上がより好ましく、2.5Pa・m以上が更に好ましい。
また、本発明の衛生マスク用シートの厚み方向の圧縮仕事量(WC)は、20Pa・m以下が好ましく、15Pa・m以下がより好ましく、6.5Pa・m以下が更に好ましく、3.5Pa・m以下が殊更好ましい。この上限以下とすることで、本発明の衛生マスク用シートは前記圧縮仕事量を適度に有し、適度に肌の形状に追随することで衛生マスク用シートと肌との隙間を減少させることができる。
シート全体の厚み方向の圧縮仕事量を適切に抑制することにより、顔に装着時の肌触りの柔らかさと、それに必要なシート厚みと弾力性とを保持することができる。
【0015】
本発明の衛生マスク用シートは、シート全体の厚み方向の圧力と厚みとの直線性を示すLC値(以下、圧縮直線性(LC)と記載する)が0.5以上であることにより厚み方向に変形が起こっても圧縮特性の変化が起こりにくく、肌触りが維持されるものとなる。この観点から、シート全体の厚み方向の圧縮直線性(LC)は、0.6以上が好ましく、0.65以上がより好ましい。
また、本発明の衛生マスク用シートの厚み方向の圧縮直線性(LC)は、現実的には1以下、より現実的には0.9以下、更に現実的には0.85以下である。
【0016】
本発明の衛生マスク用シートは、前述の圧縮仕事量(WC)及び圧縮直線性(LC)の両方の特性を有することで、更に優れた柔らかさを備え、かつ圧縮方向に変形してもその柔らかさをより維持できる衛生マスクを形成することができる。
【0017】
加えて、本発明の衛生マスク用シートは、粒径1μm超の粒子の捕集率が85%以上であることにより、埃、塵、花粉、ウイルスやウイルスを含む飛沫等を人が吸引することを効果的に抑制することができる。同時に、本発明の衛生マスク用シートは、上記の高い捕集率を有することにより、人が吐く息中の飛沫等を外部へ拡散させる比率を効果的に抑制することができる。上記の効果を一層高める観点から、前記捕集率は88%以上が好ましく、90%以上とするがより好ましい。
上記の粒子の捕集率はその値が高いほど捕集性能が高いことを示し、100%以下が現実的である。
【0018】
本発明の衛生マスク用シートは、上記の捕集率のためにシート素材(例えば繊維材料、発泡シート材料 、多孔シート材料)が密な状態の層を有していても、前述の厚み方向の圧縮特性とすることで厚み方向の高い変形性を備え、柔らかい肌触りが得られる。これにより、本発明の衛生マスク用シートは、粒子等に対する高い捕集性と柔らかい肌触りとを両立させたものとなる。
【0019】
本発明の衛生マスク用シートの上記の厚み方向の圧縮仕事量(WC)、圧縮直線性(LC)及び粒径1μm超の粒子の捕集率は、下記の方法により測定することができる。
【0020】
(厚み方向の圧縮仕事量(WC)、圧縮直線性(LC)の測定方法)
本発明において、圧縮仕事量(WC)、圧縮直線性(LC)は以下の方法により測定できる。測定は23℃、相対湿度50%で行う。測定機器は、カトーテック株式会社製KES-G5圧縮試験機を用いる。自然状態に静置した衛生マスク用シートに対し、加圧板の面積は2.0cm
2、圧縮変形速度は0.02mm/秒とし、最大圧縮荷重を4.9kNの条件で評価を行う。
図1に、圧縮仕事量(WC)、圧縮直線性(LC)を算出するためのグラフを示す。図中、y軸方向(縦軸方向)は衛生マスク用シートへの圧力P(gf/cm
2)を示し、図中x軸方向(横軸方向)は衛生マスク用シートの厚みT(mm)を示す。図中x軸上のT1は圧力Pが0である場合の衛生マスク用シートの厚みを示し、図中x軸上のTMは圧力Pが最大圧縮荷重(PM)である4.9kNである場合の衛生マスク用シートの厚みを示す。
図1に示すグラフのように、衛生マスクシートの厚みと衛生マスク用シートへの圧力の関係は次のように変化する。すなわち、
図1に示すグラフにおいて、(x軸座標、y軸座標)とした場合、(T1、0)から圧力をかけて、曲線V1に沿って(TM、PM)に到達する。その後、圧力を減じることで曲線V2に沿って(T1、0)に戻る。そして圧縮仕事量(WC)は、TがT1からTMにおける圧力Pの積分値、即ち図中のA+Bの面積として算出される。圧縮直線性(LC)は以下の式で算出される。
圧縮直線性(LC)=2×圧縮仕事量(WC)/(T1-TM)/PM
【0021】
(粒径1μm超の粒子(微粒子)の捕集率の測定方法)
ハンドヘルド型気中パーティクルカウンター(ベックマン・コールター株式会社製の「MET ONE HHPC6+」)を用いて、該カウンターの測定端子を評価対象のシートで塞ぐように該シートを固定する。この際、測定端子とシートの隙間から空気が漏れないように密着させて塞ぐ必要があり、
図2(A)~(C)に示すような専用治具を用いて測定する。同図に示す治具は治具601及び治具602を有する。治具601と治具602との間にはゴムパッキン603が配置され、ゴムパッキン603と治具601との間に、測定対象となるシート100が配置される。治具601は中央に空気の吸入口601Aを有する。吸入口601Aは、測定端子と同じ径を有し、治具601の上面から下面に亘る貫通孔である。治具602は中央に測定端子の挿入口602Aを有する。測定端子の挿入口602Aは、治具602の下面から上面に亘る貫通孔である。
この治具601及び602を用い、25℃、50%RHにおける大気中の粒子(粒子径1.0μm以上)を対象として、シートを通過した粒子個数P1を測定する。これとは別に、シートを配さない状態で、粒子個数P2を測定する。測定された各粒子個数P1及びP2から微粒子の捕集率(%)を以下の式に基づいて算出する。微粒子の捕集率はその値が高いほど、マスク用シートによる微粒子の捕集性能が高いことを意味する。測定に用いるシートのサイズは40mm×40mmとし、10枚のシートについてそれぞれ捕集率を測定し、それら測定値の平均値を捕集率とする。
微粒子捕集率(%)=100×(P2-P1)/P2
【0022】
本発明の衛生マスク用シートが後述するような複数層の積層構造である場合、繊維層毎の捕集率は、各繊維層間で剥離して測定すればよい。繊維層どうしの接合状態によっては、うまく層間剥離ができない場合がある。例えば、繊維層同士が熱融着されている構成の場合は、層間剥離すると接合部において強度の低い繊維層が強度の強い繊維層に引っ張られることに起因して、強度の弱い繊維層に穴あきが生じてしまう。このような場合は、強度の強い繊維層の剥離後の捕集率H1(%)と剥離前の複合状態の衛生マスク用シートの捕集率H(%)を測定し、以下の式に基づいて強度の弱い繊維層の捕集率H2を算出する。
H2(%)={1-(100-H)/(100-H1)}×100
繊維層同士がホットメルト剤等で接着されている場合は、市販の冷却スプレーでホットメルト剤を脆性状態として剥離する。なお、衛生マスク用シートが3層以上の繊維層を有する場合、これらの繊維層間の剥離に関しても同様である。
この剥離方法は本明細書の他の測定方法においても共通である。
【0023】
本発明の衛生マスク用シートは、上記の特性を有するものとして、繊維のネットワーク構造を備えたシート状の繊維層若しくは発泡シート材料を用いたスポンジのような柔らかいシート状の多孔層、又はこれらの組み合わせを有することが好ましい。本発明の衛生マスク用シートは単層からなってもよく、複数層からなってもよい。
前記繊維層における繊維のネットワーク構造は、繊維同士の絡合若しくは接合又はこれらの組み合わせにより形成され、これにより層としての形状が維持される。このような繊維層は、繊維間距離を短くすることにより粒子の通過を阻害したり、粒子の通過経路を複雑化して前述の捕集率を向上させたりすることができる。該繊維層として典型的にはシート状の不織布が挙げられる。
本発明の衛生マスク用シートが捕集率を向上させる上記の繊維層を有する場合、該繊維層は例えば繊維の太さを細くしたり、これにより繊維間距離を短くしたりすることが有利である。
【0024】
本発明の衛生マスク用シートは、前述の捕集率、圧縮仕事量(WC)及び圧縮直線性(LC)の特性を実現するために、平均繊維径が3000nm以下である繊維層(以下、細密繊維層Aともいう)を有することが好ましい。
細密繊維層Aは、繊維のネットワーク構造において、繊維間の目(離間距離)がナノメートルオーダーの濾過層となる。これにより本発明の衛生マスク用シートは、高い捕集性を実現することができる。例えば一般的に3μm以上5μm以下の粒径を有するとされる花粉や飛沫、更にはこれらよりも粒径の小さい粒子等をより効果的に捕集することが可能となる。また、細密繊維層Aがナノメートルオーダーの極細の繊維からなることで繊維間の目をより小さくでき、より薄い衛生マスク用シートで高い捕集性を実現することが可能となる。そして衛生マスク用シートの厚さが薄くなることで通気しやすくなるとともに柔軟性も高いものとなり、本発明の衛生マスク用シートを顔に装着した際の肌触りの柔らかさ、並びに装着感の向上に有利である。
この観点から、細密繊維層Aの平均繊維径は、2000nm以下がより好ましく、1000nm以下が更に好ましく、900μm以下が殊更好ましい。
また、細密繊維層Aの平均繊維径は、通気性を適度に確保して衛生マスク用シートの使用者が呼吸を楽に行いやすくする観点から、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、200nm以上が更に好ましく、250μm以上が殊更好ましい。
【0025】
細密繊維層Aは、密度が0.05g/cm3以上であることが好ましい。これにより本発明の衛生マスク用シートは、花粉や飛沫、更にはこれらよりも粒径の小さい粒子等をより効果的に捕集することが可能となるとともに、細密繊維層Aの強度を向上することができる。
この観点から、細密繊維層Aの密度は、0.1g/cm3以上がより好ましく、0.15g/cm3以上が更に好ましく、0.2g/cm3超が殊更好ましい。
また、細密繊維層Aの密度は、通気性を適度に確保して衛生マスク用シートの使用者が呼吸を楽に行いやすくしたり、圧縮弾性の低減及び柔らかい肌触りを実現したりする観点から、0.6g/cm3以下が好ましく、0.55g/cm3以下がより好ましく、0.5g/cm3以下が更に好ましく、0.4g/cm3以下が殊更好ましい。
【0026】
細密繊維層Aの平均繊維径及び密度は、次の方法により測定することができる。
【0027】
(細密繊維層Aの平均繊維径)
細密繊維層Aの平均繊維径は、繊維長さ方向に直交する繊維断面における最大差し渡し長さを、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。具体的な手順は以下のとおりである。
衛生マスク用シートを丁寧に剥がして何層の構成になっているかを確認した上で、繊維径が最も細い層(濾過材として機能する層)を測定対象の繊維層とする。SEM観察による二次元画像から、繊維の塊、繊維どうしの交差部分、ポリマー液滴といった欠陥を除いた繊維を任意に500本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引いたときの長さを繊維径として直接読み取る。測定した繊維径の頻度分布(ヒストグラム)から累積頻度が全体の50%となるメジアン繊維径を求め、これを、測定対象の繊維層を構成する繊維の平均繊維径とする。
【0028】
(細密繊維層Aの密度の測定方法)
細密繊維層Aの密度は、以下の方法で測定することができる。まず、不織布構造体を外力のかからない自然状態に静置し、フェザー安全剃刀株式会社製の片刃(品番FAS-10)を使用して不織布構造体を切断し、不織布構造体の断面を形成する。
続いて、日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡(型番JCM-5100)、並びにマイクロスコープ等を使用して、切り出した断面を拡大観察する。拡大観察した断面を画像データや印刷物とし、無荷重での細密繊維層Aの厚みを測定する。不織布構造体の表面に不可避的に存在している毛羽立った繊維は、測定対象から除外する。不織布構造体の厚みは、上述の方法によって拡大観察した画像における厚みの平均値とする。なお、細密繊維層Aが後述する
図3~8等に示すように凹凸構造を有する場合、上記の「細密繊維層Aの厚み」は、凹凸の起伏高さ(細密繊維層Aの第1面1S側と第2面1R側との間の厚み方向の見かけ厚み)ではなく、凹凸の起伏に沿う繊維層自体の厚みを意味する。
その後、自然状態に静置した不織布構造体を所定の面積(例えば2cm×2cm)となるように切断して、細密繊維層A以外の繊維層を除去し、細密繊維層Aの質量と表面積を計測し、質量を面積で除することで坪量を算出する。その後、坪量を厚みで除して、密度を算出する。なお、細密繊維層Aが凹凸構造を有する場合、上記の切断する「所定の面積」は、凹凸の起伏に沿った面積(又は凹凸をフラットに伸ばした状態での面積)を意味する。また、細密繊維層Aの「表面積」は、後述の(S0に対するS1の比の測定方法)に記載の方法で測定される凹凸の表面積S1を意味する。
【0029】
細密繊維層Aは、一定以上の坪量を有することが、前述の捕集率を高める観点から好ましい。前述の捕集率を高め、濾過性能を均一にする観点から、細密繊維層Aの坪量は、2g/m2以上が好ましく、2.5g/m2以上がより好ましく、3g/m2以上が更に好ましい。
また通気抵抗を下げ、シートを薄くして剛性の低減及び使用感の向上を行い、コストも低減させる観点から、細密繊維層Aの坪量は、15g/m2以下が好ましく、10g/m2以下がより好ましく、5g/m2以下が更に好ましい。
細密繊維層Aの坪量がこのような範囲にあることによって、粒子等の高い捕集性能と柔らかい肌触りとを安定的に発現でき、通気性も良好で且つ薄型にすることに起因する使用感の向上も達成することができる。
【0030】
細密繊維層Aの坪量は、前述の(細密繊維層Aの密度の測定方法)で算出される。
【0031】
細密繊維層Aは、エレクトロスピニング(電界紡糸)法によって製造された繊維層であることが好ましい(以下、このような細密繊維層Aをエレクトロスピニング繊維層ともいう)。エレクトロスピニング法は、繊維形成能を有する樹脂の溶液又は溶融液を帯電させて電界中に吐出し、該電界によって吐出液を引き延ばすことで繊維を形成し、該繊維を捕集体上に堆積させることで細密繊維層Aを製造することができる。
この製法では、吐出された樹脂の溶液又は溶融液が電界中のクーロン力で延伸されることによって、従来のエアー等による延伸では実現できない、ナノメートルオーダーの極細の繊維が得られる。この点、従来の不織布の製法、例えばメルトブローン法では、吐出した溶融樹脂を高温気体の吹き付けによって延伸して繊維を形成しており、本発明における細密繊維層Aのような繊維は得難く、主にマイクロメートルオーダーの繊維が限界である。
したがって、細密繊維層Aは、エレクトロスピニング法により、従来のメルトブローン法では得られない桁違いの、ナノメートルオーダーの極細の繊維の集合層となる。
このような細密繊維層Aを構成する繊維の成分は、融点80℃以上200℃以下の熱可塑性樹脂であることが好ましい。例えば、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂、ニトリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、天然系樹脂等が挙げられる。特にナノファイバを首尾よく形成する観点から、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0032】
このようなエレクトロスピング繊維層は、前述の粒子等に対する高い捕集性に必要な密度を有しながら、メルトブローン法により製造された不織布(以下、メルトブローン不織布ともいう)よりも密度が適度に抑えられ、更に柔軟性に優れたものとなる。これは、両者の製法の違いによる。エレクトロスピニング法では、電気の力による延伸で繊維を引き延ばしているため、メルトブローン法における高温気体の吹き付けによる延伸に比べて、繊維が切れずに長繊維が形成される。また、電界におけるクーロン力で吐出された溶液は延伸されるとともに溶媒が瞬時に蒸発し、原料は凝固しながらナノファイバが形成される。そのためエレクトロスピニング繊維層は、長繊維同士が融着していないことが多く、繊維同士の絡まりによって形成されるため繊維同士の動きが阻害されず高い柔軟性が得られる。これに対し、メルトブローン法により製造された不織布(以下、メルトブローン不織布ともいう)では、高温気体の吹き付けで繊維が切れ、溶融したまま繊維が積層、融着されている。そのためメルトブローン不織布は、エレクトロスピング繊維層よりも厚み方向の嵩が潰れるとともに繊維同士の動きが阻害されて剛性が相対的に高くなる。
このようにエレクトロスピング繊維層は、繊維の状態がメルトブローン不織布と異なり比較的嵩高くなりやすく、更に柔軟性に富んだものとなる。
このような細密繊維層Aを含んだ本発明の衛生マスク用シートは、前述の高い捕集性を維持しながら、より一層柔らかい肌触りのものとなる。
【0033】
本発明の衛生マスク用シートは、前述の細密繊維層A単独からなるものであってもよいが、衛生マスク用シート全体の強度を担保する観点から前述の細密繊維層Aと他のシートとの組み合わせたものが好ましい。
他のシートとしては、種々の素材のものを用いることができ、例えば不織布等の繊維シートであってもよく、ポリウレタン材料等からなる発泡シート;ポリオレフィン材料、ポリエステル材料等からなるシートに多数の空隙を有する多孔シートであってもよい。他のシートは、複数種類のシートを組み合わせたものでもよい。また、他のシートで細密繊維層Aを挟み込んでもよい。
【0034】
他のシートが不織布である場合、該不織布は、本発明の衛生マスク用シートの前述の特性を損なわない限り、種々のものを用いることができる。例えば、前述のメルトブローン不織布、エレクトロスピニング不織布、スパンボンド法により得られた不織布(スパンボンド不織布)、エアスルー法に製造された不織布(エアスルー不織布)、スパンレース法により製造された不織布(スパンレース不織布)、若しくはニードルパンチ法により製造された不織布(ニードルパンチ不織布)、又はこれらの不織布のうちの2種以上の不織布の積層体、若しくはこれらの不織布とそれ以外の不織布やその他の材料との積層体などが挙げられる。その中でもスパンボンド不織布やニードルパンチ不織布等が好ましい。これらスパンボンド不織布やニードルパンチ不織布は、他の種類の不織布よりも強度が高かったり、クッション性が高かったりするため、本発明の衛生マスク用シートの保護材として好適に機能する。また、前記不織布は、後述のように弾性体を含むものであってもよい。
これらの不織布を構成する樹脂は、繊維形成能を有するものである限りその種類に特に制限はない。例えばポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。また、後述の接合点21を形成する観点、接合部5Mを形成する観点から、熱可塑性繊維が含まれることが好ましい。
【0035】
本発明の衛生マスク用シートが前述の細密繊維層Aと他のシートとを含み、他のシートが不織布等の繊維からなるものである場合、細密繊維層Aの平均繊維径が、本発明の衛生マスク用シートを構成するシートの中で最も細いことが好ましい。
これにより、細密繊維層Aを本発明の衛生マスク用シートにおける濾過層とし、他のシートを本発明の衛生マスク用シートにおける強度を高める保護材として機能を分担させることができる。他のシートは厚み方向の圧縮仕事量(WC)、圧縮直線性(LC)を付与する弾性層としての機能も分担させることができる。これにより、衛生マスク用シート全体として、前述の特性をより効果的に実現することができる。加えて、細密繊維層Aの意図しない損傷を防ぎ、捕集性を維持することができる。
また上記の平均繊維径の違いにより、本発明の衛生マスク用シートは、細密繊維層Aによって前述の高い捕集率を実現しながら、他のシートによって通気性を高め、蒸れの低減と楽な呼吸とを可能にし得る。この通気性及び前述の捕集率に関しては、本発明の衛生マスク用シートは、後述する凹凸シートを含むことが好ましい。前記凹凸シートは、細密繊維層Aを含んで構成されていてもよく、上記の他のシートを含んで構成されていてもよい。また通気性及び前述の捕集率に関し、前記凹凸シートが、後述の平面投影視での単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率の要件を満たすことが好ましい。
【0036】
細密繊維層Aの平均繊維径(Q1)に対する他のシートの平均繊維径(Q2)の比(Q2/Q1)は上記の観点から、Q1<Q2であって、5以上が好ましく、25以上がより好ましい。
また、現実的には、細密繊維層Aの平均繊維径(Q1)に対する他のシートの平均繊維径(Q2)の比(Q2/Q1)は、Q1<Q2であって、50以下である。
【0037】
本発明の衛生マスク用シートが前述の細密繊維層Aと他のシートとを含み、他のシートが不織布等の繊維からなるものである場合、細密繊維層Aの密度が、本発明の衛生マスク用シートを構成するシートの中で最も高いことが好ましい。これにより、細密繊維層Aでの粒子捕集性能を向上するとともに、他のシートの通気性を向上することができ、衛生マスク用シートとして、捕集性の向上と通気性の低下抑制とを同時に行うことができる。
【0038】
濾過層として機能する細密繊維層Aと保護材として機能する他のシートとは、粒径1μm超の粒子の捕集率及び/又は平均繊維径によって区別される。本明細書においては、後述する保護シート、基底シート、被覆シートの全てが保護材である。
前記捕集率に関しては、細密繊維層Aは、他のシートよりも高くされている。他のシートにおける前記捕集率をC1(%)とし、細密繊維層Aにおける前記捕集率をC2(%)としたとき、本発明の衛生マスク用シートの前記捕集率Cは、以下の式で算出される。
C(%)={1-(1-C1/100)×(1-C2/100)}×100
C1の値は50%以下であることが好ましく、C2の値は70%以上であることが好ましい。すなわち、C1/C2の値は好ましくは0以上0.7以下となる程度に両層の捕集率が相違することが、細密繊維層Aと他のシートとがそれぞれ担う役割を明確に区別し得る点から好ましい。
Cの値は、85%以上であることが好ましく、88%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが一層好ましく、100%以下であることが好ましい。粒子の捕集率の測定方法に関しては上述したとおりである。
【0039】
次に、本発明の衛生マスク用シートの好ましい実施形態について説明する。
本発明の衛生マスク用シートは、一枚以上のシートを備え、該衛生マスク用シートが有するシートの一枚は、一方の面と他方の面とを有することが好ましい。少なくとも一方の面に、自然状態において厚み方向外方に突出する複数の凸部と、複数の該凸部に挟まれた凹部とを有する凹凸シートであることが好ましい。更に前述の細密繊維層Aを有することが好ましい。
ここで「自然状態」とは、本発明の衛生マスク用シートに伸長力を加えずに、シート面を広げて静置した状態を意味する。また、前記の一方の面と他方の面とは、凹凸シートにおける表裏面を意味する。以下、本明細書において、一方の面を第1面、他方の面を第2面として説明する。
【0040】
本発明の衛生マスク用シートが細密繊維層Aを有する場合、前記凹凸シートは、細密繊維層Aとは別の部材(例えば、細密繊維層Aに対する保護材として挙げた前述の不織布)であってもよく、細密繊維層Aを含んでいてもよい。細密繊維層A自体が、上記の凹凸シートをなしていてもよい。前記凹凸シートが細密繊維層Aを含まない場合、細密繊維層Aは平坦な形状であってもよく、凹凸形状であってもよい。
上記の凹凸シートは、繊維のネットワーク構造を備えた繊維シートであることが好ましく、前述の不織布を含むシートであることがより好ましい。このような凹凸シートは、本発明の衛生マスク用シートの圧縮仕事量(WC)をより向上させることができ、柔らかい肌触りの向上に寄与し得る。
この観点から、前記凹凸シートの一定領域又は全面に亘って、前述の凸部及び凹部が規則的に交互に複数配置されていることが好ましい。
【0041】
本発明の衛生マスク用シートが前述の凹凸シートを含み、該凹凸シートが保護シートを有していてもよい。該保護シートが不織布である場合、該保護シートの剛軟度は、20mm以上が好ましく、25mm以上がより好ましく、30mm以上が更に好ましい。これにより、凹凸形状にした保護シートが細密繊維層Aを保護するための強度を維持することができる。
また、前記保護シートの剛軟度は、150mm以下が好ましく、100mm以下がより好ましく、70mm以下が更に好ましい。これにより、凹凸形状にした保護シートのクッション性及柔らかい肌触りを保持することができる。加えて、凹凸形状が潰れにくくなることで、後述の平面投影視での単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率を維持し、通気抵抗を低め、呼吸がしやすい衛生マスクとすることができる。
前記凹凸シートを構成する前記不織布が上記範囲の剛軟度を有することにより、本発明の衛生マスク用シートが有する前述の厚み方向の圧縮仕事量(WC)をより好適に実現することができる。
上記と同様の観点から、本発明の衛生マスク用シートは、前述の不織布を含む凹凸シートを備え、該凹凸シートの凸部の高さ及び中心間距離を後述の所定の範囲とし、細密繊維層Aを備えることが好ましい。これにより、本発明の衛生マスク用シートにおける前述の厚み方向の圧縮仕事量(WC)、圧縮直線性(LC)及び粒径1μm超の粒子の捕集率をより好適に実現することができる。
【0042】
(剛軟度の測定方法)
衛生マスク用シートから、衛生マスクの長手方向、並びに短手方向に幅20mmの測定サンプルを切り取る。測定対象のシートを傷つけないように、丁寧に他のシートから剥離する。測定対象のシートと他のシートが結合されている場合、測定対象のシートの剛軟度に影響を与えなくなるまで他のシートの繊維を刃物等を用いて除去する。そして、23℃、相対湿度50%で24時間以上静置する。その後、剛軟度の測定は、JIS L 1096「8.21.剛軟度測定法」A法(45°カンチレバー法)に従って行い、衛生マスクの長手方向、並びに短手方向に切り取ったサンプルの剛軟度結果を平均する。
【0043】
本発明の衛生マスク用シートが1枚の凹凸シートで構成されている場合、例えば、次のような形態の衛生マスク用シート10(第1実施形態)が挙げられる。
第1実施形態の衛生マスク用シート10(以下、単にシート10ともいう)は、一方の面(第1面)1Sに、自然状態において厚み方向外方に突出する複数の凸部1と、複数の凸部1に挟まれた凹部2とを有する凹凸シート8からなる。
凹凸シート8は、前述の細密繊維層Aのみの単層体、細密繊維層Aと他のシートとが積層された積層体が挙げられる。以下、細密繊維層Aのみの単層体の具体例として凹凸シート8A、凹凸シート8Bを挙げて説明する。また、細密繊維層Aと他のシートとの積層体の具体例として凹凸シート8Cを挙げて説明する。
【0044】
第1実施形態の衛生マスク用シート10を構成する凹凸シート8Aは、第1面1Sの凸部1が、記凹凸シート8Aの平面視において一方向に延出する形状を有する。該凸部1が複数配されている。典型的には、凸部1は一方向に連続して延出し、該一方向に交差する他の方向に複数が等間隔で離間して第1面1Sの全面に亘って配置されている。凹凸シート8Aの具体例は
図3に示される。
図3に示す例において、前記一方向はY方向であり、該一方向の交差する他の方向はX方向である。
凹部2も、第1面1Sの平面視において、凸部1が延出する方向と同方向に沿って連続して延出する形状を有する。該凹部2も複数配されている。典型的には、凹部2は一方向に連続して延出し、前記一方向に交差する方向に複数が等間隔で離間して第1面1Sの全面に亘って配置されている。
これによりシート10の第1面1Sは、一方向Yに延出する凸部1及び凹部2が一方向Yと交差する他の方向Xに交互に配された畝溝構造を有する。
【0045】
一方向Y及び他の方向Xは、任意に決めることができ、互いに直交する方向であることが好ましい。また一方向Yと交差する他の方向Xとは、シート10の短手方向と長手方向であることが好ましい。更に、一方向Yが、衛生マスクにおける着用者の鼻、口及び顎を繋ぐ正中線に沿う方向に向けられ、交差する他の方向Xが衛生マスクにおける着用者の口から耳へと向かう方向に向けられることが好ましい。
他の方向Xが衛生マスクにおける着用者の口から耳へと向かう方向に向けられる場合、凸部1及び凹部2が交互配置される方向も同方向に向けられる。これにより、凹凸シート8Aからなる衛生マスク用シート10は、衛生マスクを耳にかける際の伸長方向に伸縮しやすくなり、衛生マスクの柔らかい肌触りの向上、並びに衛生マスクの装着性の向上、密着性の向上に寄与し得る。
【0046】
第1実施形態の衛生マスク用シート10においては、第1面1Sの反対面である第2面1Rにも、自然状態において厚み方向外方に突出する複数の凸部3と、複数の凸部3に挟まれた凹部4とを有する。この第2面1Rにおいても、凸部3及び凹部4が一方向Xに延出し、他の方向Xに交互に複数配置されている。第2面1Rにおける凹部4は第1面1Sにおける凸部1に対応しており、凸部1と凹部4とが表裏の関係にある。第2面1Rにおける凸部3は第1面1Sにおける凹部2に対応しており、凹部2と凸部3とが表裏の関係にある。このような配置関係において、第1面1Sの凸部1及び第2面1Rの凸部3はそれぞれ内部が中空にされている。これにより、シート10は両面が凹凸のトタンのような波板形状を有する。
【0047】
第1実施形態の衛生マスク用シート10が細密繊維層Aからなる凹凸シート8Aであることで、濾過機能の有効面積を増加させて、前述の捕集率、並びに捕集量を更に高くすることができる。
同時に、細密繊維層Aは、前述のように極細繊維からなる非常に柔らかい層であり、凹凸シート8Aとすることで柔らかいまま嵩高くなってクッション性が高まる。また、細密繊維層Aは、凹凸シート8Aとすることで、押圧や引っ張りに対する耐性が高くなり嵩高さが保持されやすい。これにより、衛生マスク用シート10は、前述の高い捕集性と同時に、柔らかい肌触りが更に高められる。
また、凹凸シート8Aの凹凸構造が空気の通過する有効面積を増やすことに繋がり、空気の圧力損失の低下を可能にする。従来、一般的にはシートの平均繊維径や密度等の上昇により前記捕集率を向上させると空気のシート通過性が低下しやすく、両性能の同時向上は難しい。これに対し、第1実施形態の衛生マスク用シート10は、細密繊維層Aを凹凸シート8Aにしたことで、前記捕集率及び通気性の両方を同時に向上させることができる。これにより、第1実施形態の衛生マスク用シート10は、衛生マスクにおける粒子等に対する濾過機能を高め、同時に呼吸をしやすくするとともに、繰り返しの使用や長時間の使用においても、前述の粒子等に対する高い捕集性と柔らかい肌触りとの両立をより長く持続させることができる。
更に、衛生マスク用シート10は、衛生マスクに適用して顔に装着した場合、主として凹凸シート8Aの凸部1で肌と当接し、接触面積が低減する。そのため、肌との擦れが大幅に低減し、衛生マスク用シート10及びこれを用いた衛生マスクの装着感が高められる。
また、凸部1及び凹部2が前述のような一方向Yに延出する配置を有することで、衛生マスク用シート10をX方向に伸長させた場合でも、細密繊維層Aの凹凸がなくなる前の状態であれば細密繊維層Aの繊維構造が変化することが無い。このため、衛生マスク用シート10は、変形に伴う捕集性の変化を抑制し、安定した捕集性能を発揮することができる。
【0048】
凹凸シート8Aによる通気性の向上に関し更に詳述する。
人がマスク越しに呼吸するという現象は、肺等の収縮運動により、外気圧に対してマスクの内側に圧力差を生じさせ、この圧力差によってマスクを通過する空気流が生じるという現象である。一般的に捕集率の高い濾過層を備えたマスクほど、空気流に対する抵抗が大きいので、呼吸に必要な空気量を確保するためには、より大きな圧力差を作り出す必要がある。これが息苦しさの原因となる。また、蒸れの発生の原因ともなる。ここで、仮に圧力差が同じであり、濾過層の有効面積が2倍であれば、濾過層単位面積当たりの空気流量は変わらないが、全体の空気流量は2倍になる。これは換言すると、捕集性能の高い濾過層でも、空気の通過する有効面積を増やせば、少ない圧力差で十分な空気流量が得られるということである。
このことから、第1実施形態の衛生マスク用シート10は、細密繊維層Aを凹凸シート8の形状に賦形したことが、通気抵抗を低減、すなわち通気性の向上に有効である。
【0049】
衛生マスク用シート10の通気抵抗は、前述の微粒子の捕集率を高いレベルに維持しつつ、可能な限り低いことが好ましい。この観点から、衛生マスク用シート10の通気抵抗は、0.5kPa・s/m以下であることが好ましく、一層円滑な呼吸を可能とする観点から0.4kPa・s/m以下であることがより好ましく、0.3kPa・s/m以下であることが更に好ましい。通気抵抗はその値が低いほど、呼吸が円滑となり、蒸れが発生しづらいことを意味する。
衛生マスク用シート10の通気抵抗は現実的には0kPa・s/m超である。
なお、通気抵抗の上記の範囲は、第1実施形態の衛生マスク用シート10のみならず、後述の衛生マスク用シート20及び30を含む様々な層構造の衛生マスク用シートでも満たされることが好ましい。
【0050】
(通気抵抗の測定方法)
通気抵抗は、通気度測定機(カトーテック株式会社製「KES-F8-AP1」、商品名)を用いて測定する。通気度測定機の通気穴を塞ぐように測定対象の衛生マスク用シートを固定し、25℃、50%RHにおける空気がシートを通過したときの通気抵抗(kPa・s/m)を測定する。
【0051】
第1実施形態の衛生マスク用シート10において、凹凸シート8Aが有する第1面1Sの凸部1及び第2面1Rの凸部3の少なくとも一方が中空であることが好ましい。これにより、衛生マスク用シート10は更に肌触りの柔らかいものとなる。すなわち、厚み方向に外力が加わった場合に、凸部が外力に対する緩衝作用を発現して高いクッション感を呈するという利点がある。加えて、凸部が横から外力を受けたときに凸部がしなやかに変形しやすくなるので、肌との擦れが低減されるという利点もある。また、凸部の内部が中実になっている場合と比較して、通気抵抗の上昇を効果的に抑制できるという利点もある。
【0052】
前述の「中空」とは、第1凸部1及び第2凸部3の内部において実質的に繊維で満たされていない空間であり、具体的には、繊維密度が5本/mm2未満であることを意味する。「中実」とは、凸部1の裏面側10Rの内部が実質的に繊維で満たされていることをいい、具体的には、繊維密度が5本/mm2以上であることを意味する。
【0053】
(中空であるか否かの確認方法)
凹凸シートを液体窒素に浸して凍らせ、凍った状態のままカミソリで、測定対象の凸部の頂部を通るように厚み方向に切断する。SEMを使用して切断面を拡大観察し、一定面積の切断面内の切断されている繊維の断面を数える。拡大観察は、繊維断面が30本から60本程度計測できる倍率(150倍以上500倍以下)に調節する。次に、1mm2当たりの繊維の断面数に換算し、これを繊維密度(本/mm2)とする。3カ所の測定結果を平均して、そのサンプルの繊維密度とする。なお、上記SEMとしては、種々の装置を用いることができる。例えば、日本電子株式会社製のJCM-5100(商品名)などが挙げられる。
【0054】
衛生マスク用シート10を構成する凹凸シート8の凹凸構造は、本発明の衛生マスク用シートにおける前述の効果を損なわない限り、前述したものに限らず、様々な形態を取り得る。
例えば、凹凸シート8Aの変形例として、第2面1Rが平坦になっていてもよい。また、凸部1、3が中実であってもよい。
【0055】
他の変形例として、第1面1Sの凸部1が連続的に延出した形状ではなく、間欠配置されている凹凸シート8Bが挙げられる。一方向Yにおいて、凸部1と凹部2とが交互に配されて列をなしている。凹凸シート8Bは凸部1及び凹部2の形状が異なる以外は凹凸シート8Aと同様の構成を有する。
凹凸シート8Bの第1面1Sにおいて、凸部1が散点状に配置されている。
凹凸シート8Bの具体例は
図4に示される。
凹凸シート8Bの第1面1Sにおいて、散点状の凸部1は規則的に離間配置されていることが好ましい。例えば、一方向Yに沿って凸部1と凹部2とが交互に配置された列が、他の方向Xに複数並列されていることが好ましい。これにより、凸部1は間欠的に一方向に延出した状態で配置されることとなる。このとき、他の方向Xにおいても、凸部1と凹部2とが交互に配されて列をなしていることが好ましい。具体的には、他の方向Xに隣り合う「一方向Yに沿って凸部1と凹部2とが交互に配置された列」同士において、一方の列における凸部1が、他方の列における凸部1と他の方向Xで一致しない配置とすることが好ましい。特に、他の方向Xに隣り合う「一方向Yに沿って凸部1と凹部2とが交互に配置された列」同士において、一方の列における凸部1が、他方の列におけるY方向に並ぶ凸部1、1間に配置されていることが好ましい。これにより、凹凸シート8Bは、凹凸シート8Aと同様に、凸部1及び凹部2が他の方向Xに交互に配置される。
このように凸部1を散点状に配置した凹凸シート8Bからなる第1実施形態の衛生マスク用シートは、凸部と凹部が千鳥状、もしくは並列状に配置されていてもよいし、ランダムに配置されていてもよい。凸部、凹部の形状も、円状、楕円状、四角状、不定形状に限定されない。また、複数の異なる大きさの凸部、凹部が配置されていてもよい。
【0056】
凹凸シート8Bにおいて、第2面1Rは凹凸シート8Aの形態と同様に、上記の
図4に示す第1面1Sの凹凸構造を裏返した構成とすることもできるし、異なる構成とすることもできる。また、第2面1Rが平坦になっていてもよく、凸部が中実であってもよい。
本発明の衛生マスク用シートが上記のような凹凸シート8Bからなる場合、通気抵抗を効果的に小さくすることができて呼吸が楽になるとともに、顔に装着した場合、接触面積をより低減する。そのため、肌との擦れが大幅に低減し、衛生マスク用シート10及びこれを用いた衛生マスクの装着感が更に高められる。
【0057】
衛生マスク用シート10において、第1面1Sにおける、凹凸シート8の凸部1の高さは自然状態において次のようにすることが好ましい。ここで言う「凸部1の高さ」とは、衛生マスク用シート10の第2面1Rを下にして水平面に静置してその側面を見たときに、
図5に示すように、凸部1の頂部と、該凸部1に隣接する凹部2の底部における第1面1S側の表面との間の厚み方向における高低差Eを意味する。このときの厚み方向は、凹凸シート8を静置した前記水平面に対する鉛直方向を意味する。
第1面1Sにおける凸部1の高さは自然状態において、1mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましく、2mm以上が更に好ましい。このような高低差は、通常のエンボスによるものよりも遥かに大きなものとなる。これにより、凸部1における衛生マスク用シート10のクッション性が高まり、柔らかい肌触りを更に向上させることができる。
また、第1面1Sにおける凸部1の高さは自然状態において、4mm以下が好ましく、3.5mm以下がより好ましく、3mm以下が更に好ましい。これにより、凸部1の形状安定性が高まるとともに、衛生マスクの厚さが低減されるので装着時の違和感を少なくすることができる。その結果、衛生マスク用シート10の繰り返しの使用や長時間の使用においても、前述の粒子等に対する高い捕集性と柔らかい肌触りとの両立をより長く持続させることができる。
【0058】
凹凸シート8において、第2面1Rが凹凸構造を有する場合、第1面1Sにおける上記の凸部1の高さの要件は、第2面1Rにおいても満たされることが好ましい。前記凸部1の高さの要件は、第1面1S及び第2面1Rの両面で満たされることで、上記の効果が更に高められる。
【0059】
(凸部1の頂部と、該凸部1に隣接する凹部2の底部における第1面1S側の表面との間の厚み方向における高低差Eの測定方法)
前述の高低差Eは次の方法で測定することができる。
まず、
図5に示すとおり、衛生マスク用シート10の表裏面間の厚みとしてT1を測定する。これは、衛生マスク用シート10の第2面1Rを水平面に静置した際の水平面の位置から凸部1の頂部までの鉛直方向の高さを言う。
次に凹部2の底部における第1面1S側の表面の高さとしてT2を測定する。これは、前述の水平面の位置から凹部2の底部における第1面1S側の表面までの鉛直方向の高さを言う。
上記の測定を基に、高低差EはT1-T2で算出できる。
具体的な測定方法としては、衛生マスク用シート10の厚み方向断面をマイクロスコープで拡大撮像し、画像処理から高低差E、換言すれば中空空間の高さEを直接測定すればよい。又は、レーザー変位計をマスク用シート10の上面から走査させてT1,T2を測定し、高低差Eを算出してもよい。なお、凹凸シート8において、後述する保護シート81が該保護シート以外のシートと積層されている場合(
図7参照)でも、高低差Eの定義は変わらないので、同様の方法で測定すればよい。後述の第2実施形態の衛生マスク用シート20及び第3実施形態の衛生マスク用シート30の場合でも、高低差Eの定義は変わらず、同様の方法で測定すればよい。この場合、前記厚みT1は、第2実施形態及び第3実施形態いずれも場合でも凹凸シート8及び基底シート91全体の鉛直方向の厚みである(
図8(A)及び(B)参照)。
【0060】
衛生マスク用シート10の表裏面間の厚み(T1)は、通気抵抗を効果的に小さくすることができて呼吸が楽になるとともに、凹凸シート8によるクッション性の確保、及び柔らかい肌触りを保持する観点から、1mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましく、2mm以上が更に好ましい。
また、衛生マスク用シート10の表裏面間の厚み(T1)は、衛生マスク用シート10の取り扱い性の向上、及び外観を向上する観点から、6mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、4mm以下が更に好ましい。
【0061】
更に衛生マスク用シート10の自然状態での第1面1S側の平面視において、凹凸シート8の隣接する凸部1の中心間距離、つまり凸部1のピッチは、6mm以下にすることが好ましく、5mm以下にすることがより好ましく、4mm以下にすることが更に好ましい。これにより、衛生マスク用シート10は、凹凸により構成される表面積を効率的に大きくして、通気抵抗を効果的に小さくすることができて呼吸が楽になる。また、肌との接触面積を低減し、肌との擦れが大幅に低減することができるとともに、衛生マスク用シート10及びこれを用いた衛生マスクの装着感が更に高めることができる。加えて、衛生マスク用シート10の厚み方向の圧縮仕事量を向上し、顔に装着時の肌触りの柔らかさを付与することができる。
また、衛生マスク用シート10の自然状態での平面視において、隣接する凸部1の中心間距離を1mm以上に設定することが好ましく、1.5mm以上に設定することが更に好ましく、2mm以上に設定することが一層好ましい。これにより、凸部1の形状安定性が高まる。その結果、衛生マスク用シート10の繰り返しの使用や長時間の使用においても、前述の粒子等に対する高い捕集性と柔らかい肌触りとの両立をより長く持続させることができる。
【0062】
凹凸シート8において、第2面1Rが凹凸構造を有する場合、第1面1Sにおける上記の凸部1のピッチの要件は、第2面1Rにおいても満たされることが好ましい。前記凸部1のピッチの要件は、第1面1S及び第2面1Rの両面で満たされることで、上記の効果が更に高められる。
【0063】
また、衛生マスク用シート10の自然状態において、構成する凹凸シート8(例えば前述の凹凸シート8A及び凹凸シート8B)の第1面1S側からの平面視した際の面積に関し、次のようにすることが好ましい。
まず、凹凸シート8の第1面1S側を平面投影視したときの単位面積をS0とし、当該単位面積S0における凹凸の表面積をS1とする。このとき、凹凸シート8の第1面1Sが凹凸構造を有することに起因して、S1の値はS0の値よりも大きくすることが好ましい。つまり、シート10の第1面1S側が凹凸構造を有することで、シート10の第1面1S側が凹凸構造を有さない場合に比べて空気が通過する有効面積が増加する。有効面積が増加することでシート10の通気抵抗を効果的に低くできる。加えて、前述の粒子等に対する濾過実行面積が増加し、前述の捕集率を高めやすくする。
この観点から、シート10の自然状態において、平面投影視での単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率(S1/S0)を1超とすることが好ましく、1.3以上とすることが更に好ましく、1.5以上とすることが一層好ましい。
また、凸部の形態安定性の観点から、シート10の自然状態において、平面投影視での単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率を3以下とすることが好ましく、2.8以下とすることが更に好ましく、2.5以下とすることが一層好ましい。
【0064】
凹凸シート8において、第2面1Rが凹凸構造を有する場合、第1面1Sにおける上記の単位面積S0における凹凸の表面積S1の比率の要件は、第2面1Rにおいても満たされることが好ましい。前記単位面積S0における凹凸の表面積S1の比率の要件は、第1面1S及び第2面1Rの両面で満たされることで、上記の効果が更に高められる。
【0065】
(S0に対するS1の比の測定方法)
衛生マスク用シート10を構成する凹凸シート8を自然状態にして、任意の面積S0’(例えば、10cm×10cm=100cm
2)に切り出す。切り出した凹凸シート8を皺なく平坦な状態にしたときの面積S1’を測定し、以下の式からS0に対するS1の比率を算出する。
S1/S0=S1’/S0’
ただし、凹凸シート8が後述するように他のシートと接合されている場合、その接合状態によっては、層間剥離する際に凹凸シート8が塑性変形を生じてしまう場合がある。そのような場合は、例えば
図6(A)に示すような第2実施形態の凹凸シート8と基底シート91とが離間している凸部1において、基底シート91をカッター等で切断し(上向き矢印の位置)、基底シート91を個々の独立した小片に分割すればよい。こうすることで、凹凸シート8を平坦な状態に広げることが可能となるので(
図6(B))、前記S1’が測定可能となる。なお、凹凸シート8が、後述するように細密繊維層Aと保護シート81との積層体である場合は、これらを一体のもとして、上記と同様の方法で測定すればよい。
【0066】
第1実施形態の衛生マスク用シート10において、凹凸シート8は細密繊維層Aのみからなる場合に限らず、細密繊維層Aと他のシートとが積層体であってもよい。他のシートは1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。また、他のシートは、種々の素材のものを用いることができ、肌触りの観点から不織布であることが好ましい。該不織布としては、前述の通り種々のものを用いることができる。その中でも、本発明の衛生マスク用シートの強度確保、細密繊維層Aの保護の観点から、スパンボンド不織布やニードルパンチ不織布が好ましい。
上記の他のシートは、衛生マスク用シート10を構成する凹凸シート8における第1面1S及び第2面1Rのいずれに配されていてもよい。
このような衛生マスク用シート10の具体例として、下記に示す凹凸シート8Cからなるものが挙げられる。
凹凸シート8Cは、細密繊維層Aを第2面1Rに、前記他のシートとして保護シート81を第1面1Sに配置した構成を有する。細密繊維層A及び保護シート81が積層された状態で揃って凹凸形状にされている。この具体例は
図7に示される。
【0067】
凹凸シート8Cにおいて、保護シート81の凹凸形状は、細密繊維層Aの凹凸形状と相補形状になっていることが好ましく、保護シート81が細密繊維層Aに沿った形状を有することが好ましい。
保護シート81と細密繊維層Aとが密着して両者間に空隙が存在していないことが好ましい。
保護シート81と細密繊維層Aとは、繊維の絡合によって結合しているか、又は接着剤によって結合していることが好ましい。衛生マスク用シート10の風合いを低下させないようにする観点から、保護シート81と細密繊維層Aとは繊維の絡合によって結合していることが好ましい。
保護シート81における凸部は細密繊維層Aにおける凸部と同位置にあることが好ましい。同様に、保護シート81における凹部は細密繊維層Aにおける凹部と同位置にあることが好ましい。
【0068】
このような積層体の凹凸シート8Cにおいて、平面方向の凹凸構造は種々の形態をとることができ、例えば前述の凹凸シート8A、凹凸シート8B等が挙げられる。
凹凸シート8Cにおいて、保護シート81の存在により、細密繊維層Aへの外力の直接的な印加が防御され得る。これにより、細密繊維層Aが破損等で性能が低減することを抑制できる。特に、凹凸シート8Cの第1面1Sが衛生マスクの肌当接面となる場合に効果的である。この観点から、凹凸形状の保護シート81は前述の剛軟度を有することが好ましい。
【0069】
細密繊維層A及び保護シート81の積層に関し、予め製造しておいた保護シート81の一面に、紡糸した繊維を体積させて細密繊維層Aを得ることが生産性の観点から好ましい。例えば、予め製造しておいたスパンボンド不織布の原反の一面に、エレクトロスピニング法によって紡糸された繊維を堆積させて凹凸シート8Cを製造することができる。これにより、保護シート81と細密繊維層Aとを繊維の絡合によって結合させることができる。
【0070】
凹凸シート8Cにおいて、保護シート81を細密繊維層Aよりも高強度のものとする観点から、保護シート81の平均繊維径は細密繊維層Aの平均繊維径よりも大きいことが好ましい。保護シート81の平均繊維径は、前述の、細密繊維層Aの平均繊維径(Q1)に対する他のシートの平均繊維径(Q2)の比(Q2/Q1)の要件を満たす範囲で適宜決められることが好ましい。
また、上記と同様の観点から、保護シート81の密度は、細密繊維層Aの密度(M1)よりも低いことが好ましい。
【0071】
凹凸シート8Cにおいて、保護シート81に被覆された細密繊維層Aの坪量は、前述した範囲にあることが好ましい。
保護シート81の坪量は、保護シート81をよりも高強度のものとする観点から、細密繊維層Aの坪量よりも大きいことが好ましい。
保護シート81の坪量は、保護シート81の強度と柔軟性を確保し細密繊維層Aを保護する観点から、5g/m2以上が好ましく、10g/m2以上がより好ましく、12g/m2以上が更に好ましい。
また、保護シート81の坪量は、凹凸シート8の剛性を低下させ、凹凸シート8によるクッション性の確保、及び柔らかい肌触りを保持するとともに、人の顔面に装着した際に隙間なくフィットさせる観点から、30g/m2以下が好ましく、20g/m2以下がより好ましく、18g/m2以下が更に好ましい。
【0072】
凹凸シート8Cにおいて、前述の凸部1の高さ(T1-T2)、凸部1のピッチ及び平面投影視での単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率(S1/S0)の要件は、細密繊維層Aと保護シート81との積層体全体として満されることが好ましい。
【0073】
凹凸シート8Cにおいて、保護シート81は細密繊維層Aを保護するだけでなく、細密繊維層Aの粒子等に対する捕集性能を補完する機能を担う。すなわち、保護シート81は細密繊維層Aに対する保護材として比較的太い繊維を有し、比較的大きな粒子が捕集される。そのため、細密繊維層Aはこれよりも粒径の小さい微粒子の捕集に特化することができ、結果として凹凸シート8Cは濾過材としての寿命が延びることが期待できる。このように、保護シート81と細密繊維層Aとの間で捕集機能の分担を行う観点から、保護シート81の捕集率は細密繊維層Aの捕集率よりも低く、且つ、両捕集率間にある程度の相違があることが好ましい。
この観点から、保護シート81は、粒径1μm超の粒子の捕集率が、細密繊維層Aより低いことが好ましい。具体的には保護シート81は、粒径1μm超の粒子の捕集率が0%以上60%未満であることが好ましく、50%未満であることがより好ましい。
【0074】
次に、本発明の衛生マスク用シートが凹凸シート8と他のシートとの積層体で構成されている場合、例えば、次のような形態の衛生マスク用シート20(第2実施形態)が挙げられる。
第2実施形態の衛生マスク用シート20(以下、単にシート20ともいう)は、凹凸シート8の第2面1Rに、他のシートとして平面状の基底シート91が積層されている。
凹凸シート8は、前述のとおり細密繊維層Aのみの単層からなるもの(例えば凹凸シート8A,8B)であってもよく、細密繊維層Aと他のシート(例えば保護シート81)とが積層されたもの(例えば凹凸シート8C)であってもよい。凹凸シート8Cを用いる場合、該凹凸シート8Cの細密繊維層Aの側を基底シート91に向けて積層されていることが好ましい。これにより、細密繊維層Aが第1面1S及び第2面1Rの両面で露出せず、衛生マスク用シート20における高い捕集率及び優しい肌触りが持続し得る。
これらの具体例は
図8(A)及び(B)に示される。
【0075】
第2実施形態の衛生マスク用シート20において、凹凸シート8は、前述の第1実施形態の衛生マスク用シート10において示した種々の要件を満たすことが好ましい。
凹凸シート8の凹凸構造は種々の形態のものを用いることができ、例えば前述の凹凸シート8A及び凹凸シート8Bに示される凹凸構造等が挙げられる。
基底シート91は、前述の他のシートについて述べたとおり、種々の素材のものを用いることができ、肌触りの観点から不織布であることが好ましい。該不織布としては、前述の通り種々のものを用いることができる。
上記の凹凸構造を備えた衛生マスク用シート20の具体例は
図9(A)及び9(B)に示される。
図9(A)に示す具体例においては、凹凸シート8Aと基底シート91とが積層されている。
図9(B)に示す具体例においては、凹凸シート8Bと基底シート91とが積層されている。
【0076】
衛生マスク用シート20において、基底シート91を細密繊維層Aよりも高強度のものとする観点から、基底シート91の平均繊維径は細密繊維層Aの平均繊維径よりも大きいことが好ましい。基底シート91の平均繊維径は、前述の、細密繊維層Aの平均繊維径(Q1)に対する他のシートの平均繊維径(Q2)の比(Q2/Q1)の要件を満たす範囲で適宜決められることが好ましい。
また、上記と同様の観点から、基底シート91の密度は、細密繊維層Aの密度(M1)よりも低いことが好ましい。
【0077】
衛生マスク用シート20において、基底シート91に積層された細密繊維層Aの坪量は、前述した範囲にあることが好ましい。
基底シート91の坪量は、基底シート91を細密繊維層Aよりも高強度のものとする観点から、細密繊維層Aの坪量よりも大きいことが好ましい。
基底シート91の坪量は、基底シート91の強度を向上し、衛生マスク用シートの保形性を確保する観点から、5g/m2以上が好ましく、10g/m2以上がより好ましく、15g/m2以上が更に好ましい。
また、基底シート91の坪量は、基底シート8の剛性並びに通気抵抗を低下させ、衛生マスク用シート10及びこれを用いた衛生マスクの装着感を高める観点から、55g/m2以下が好ましく、50g/m2以下がより好ましく、45g/m2以下が更に好ましい。
【0078】
衛生マスク用シート20が、凹凸シート8と基底シート91との積層体であることで、凹凸シート8の形状が安定し、押圧後の形状回復性がより高められる。また、適度な圧縮弾性が得られる。加えて、衛生マスク用シート20全体の強度が増す。特に
図10(A)に示すように、凹凸が繰り返すX方向(矢印F1の方向)に衛生マスク用シート20を伸長させた場合でも型崩れが生じ難く、伸長状態を解除した後に形状が回復されやすい。また、厚み方向の押圧があっても、凹凸シート8の凹凸構造が回復しやすくなる。
これにより、衛生マスク用シート20は、繰り返しの外力の印加があっても、前述の濾過機能、柔らかい肌触り、通気性、蒸れ低減性が十分に保持され、持続しやすい。
【0079】
凹凸シート8は凹部2において基底シート91と接合されていることが好ましい。より具体的には、第1面1Sの凹部2の第2面1R側の表面と基底シート91が接合されていることが好ましい。この接合には種々の方法をとることができ、例えば、エンボスによる融着や接着剤による接着が挙げられる。エンボスとしては、この種の物品において通常用いられる種々の方法を取り得る。例えば、熱エンボス、超音波エンボス等が挙げられる。また、エンボスは、凹凸シート8と基底シート91との接地部分における点エンボスであることが好ましい。
この具体例は
図10(B)及び(C)に示される。
図10及び(C)において、前記接合は接合点21で示されている。
このような接合により、凸部1がアーチ構造となり圧縮荷重F2に強くなる。すなわち、第1面1Sに加えられる圧縮荷重F2が、凸部1の頂部から裾野へと分岐して伝搬し(矢印F3、F3)、接合部21で分散吸収される。加えて、凸部1間で窪んだ凹部2に接合点21が配されて肌に触れ難くされ、またこれにより接合領域が抑制されていることで、凹凸シート8の圧縮弾性が抑えられ、該凹凸シート8によるクッション性及び柔らかい肌触りが保持される。
【0080】
接合点21は、凹部2の延出する方向(前記一方向Y)に沿って間欠的に複数形成されて接合点列をなしていることが好ましい。この具体例は
図11に示されている。
接合点21の形状は、典型的には円形である。しかし接合点21の形状はこれに限られず、円形以外の形状、例えば三角形、四角形及び六角形等の多角形、並びにその他の形状であってもよい。
また、接合点21は、凹部2の延出する方向に沿った長さを有するものであってもよい。
凹凸シート8及び基底シート91の風合いや肌触りを損なわないようにする観点からは、接合点21を間欠的に形成することが好ましい。また、衛生マスク用シート10の柔らかい肌触りを保持し、通気抵抗の上昇を効果的に抑制する観点からも接合点21を間欠的に形成することが好ましい。
【0081】
一つの接合点列に着目したとき、凹部2の延出する方向に沿って隣り合う接合点21間の距離は同じであってもよく、異なっていてもよい。また、一つの接合点列に着目したとき、該接合点列を構成する個々の接合点21の形状はすべて同じであってもよく、あるいは異なる二種以上の形状の接合部を含んでいてもよい。
【0082】
第2実施形態の衛生マスク用シート20の2層構造の形態は、上記のものに限定されず、本発明の効果を損なわない限り種々の形態をとり得る。
例えば、その変形例として、細密繊維層Aが平面状のシートとされ、他のシートが、細密繊維層Aを含まない凹凸シート92とされたものが挙げられる。衛生マスク用シート20がこの形態であることで、顔に接触する凹凸シート素材の選択自由度を向上することができ、圧縮弾性等の機械的特性向上、保湿性付与等の機能を加えることができる。その具体例は
図9(C)に示される。
【0083】
他の変形例として、細密繊維層Aを含む凹凸シート8及び基底シート91のうち少なくとも一方が2枚以上の複数積層された形態が挙げられる。これにより、前述の粒子等に対する捕集率を更に高めることができる。また圧縮特性に関し、衛生マスク用シートの全体の厚さが厚くなることでクッション性が向上し、柔らかい肌触りを保持すると共に、衛生マスク用シート10及びこれを用いた衛生マスクの装着感を更に高めることができる。
例えば、基底シート91の第2面1Rに、更に別の凹凸シート8が配されている形態があげられる。これにより衛生マスク用シート20は、顔に装着した場合、顔に接触する面においては、前述したように肌との接触面積を低減し、肌との擦れが大幅に低減することができるとともに、衛生マスク用シート20及びこれを用いた衛生マスクの装着感が更に高めることができる。また顔に接触する面とは反対側の面において凹凸形状が配置され外観の向上がなされる。また、衛生用マスクシート20の両面に凹凸形状が配置されるため、手で取り扱う際に手触りが良く、感触に優れたものとなる。この具体例は
図12(A)に示される。
例えば、細密繊維層Aを含む凹凸シート8及び基底シート91の組み合わせを2組含む積層体の形態が挙げられる。これにより衛生マスク用シート20は、衛生マスク用シート20の全体の厚さが厚くなることでクッション性が向上し、柔らかい肌触りを保持すると共に、衛生マスク用シート20及びこれを用いた衛生マスクの装着感を更に高めることができる。また、凹凸シート8の凸部がそれぞれ基底シート91と接合されることにより、凹凸シート8の形状が安定し、衛生マスク全体の保形性が向上する。この具体例は
図12(B)に示される。
例えば、細密繊維層Aを含む凹凸シート8及び基底シート91の組み合わせを2組含む積層体の第2面1R側に更に、別の凹凸シート8が積層された形態が挙げられる。これにより衛生マスク用シート20は、衛生マスク用シート20の全体の厚さが更に厚くなることで、クッション性が格段に向上し、柔らかい肌触りを保持すると共に、衛生マスク用シート20及びこれを用いた衛生マスクの装着感を更に高めることができる。また、顔に接触する面とは反対側の面において凹凸形状が配置され外観の向上がなされるとともに、衛生用マスクシート20の両面に凹凸形状が配置されるため、手で取り扱う際に手触りが良く、感触に優れたものとなる。この具体例は
図12(C)に示される。
このような変形例において、複数枚の凹凸シート8の凹凸構造は
図12(A)~(C)に示したものに限らず、種々の形態のものを用いることができる。また、凹凸シート8同士が同じ凹凸構造を有してもいてもよく、異なる凹凸構造を有していてもよい。また、複数枚の基底シート91同士が同じ素材のものであってもよく、異なる素材のものであってもよい。
【0084】
本発明の衛生マスク用シートが凹凸シート8と他のシートとの積層体で構成されている場合の別の形態として、例えば、次のような形態の衛生マスク用シート30(第3実施形態)が挙げられる。
第3実施形態の衛生マスク用シート30(以下、単にシート30ともいう)は、第2実施形態の衛生マスク用シート20の積層体に更に、凹凸シート8の凸部1が突出する第1面1Sに、他のシートとして平面状の被覆シート93が積層されている。これにより、シートによるハニカム構造が形成される。
被覆シート93は、前述の他のシートについて述べたとおり、種々の素材のものを用いることができ、肌触りの観点から不織布であることが好ましい。該不織布としては、前述の通り種々のものを用いることができる。
衛生マスク用シート30の具体例は、例えば
図13(A)及び(B)のものが挙げられる。
図13(A)に示す具体例においては、凹凸シート8Aが基底シート91及び被覆シート93とで挟持されている。
図13(B)に示す具体例においては、凹凸シート8Bが基底シート91及び被覆シート93とで挟持されている。
【0085】
衛生マスク用シート30において、被覆シート93を細密繊維層Aよりも高強度のものとする観点から、被覆シート93は前述の基底シート91と同様のものを用いることが好ましい。
【0086】
衛生マスク用シート30が、凹凸シート8Bを基底シート91及び被覆シート93で挟持した積層体であることで、凹凸シート8の形状安定性及び押圧後の形状回復性が更に高められる。
【0087】
この観点から、凹凸シート8が凸部1において被覆シート93と接合されていることが好ましい。より具体的には、第1面1Sの凸部1の第1面1S側の表面と被覆シート93が接合されていることが好ましい。この接合には、前述の第2実施形態において示した接合点21によることが好ましい。接合点21の配置形態及び接合手段も第2実施形態と同様に種々のものとすることが好ましい。なお第3実施形態において、凹凸シート8の凸部1と被覆シート93との接合点を接合点21Aといい、凹凸シート8の凹部2と基底シート91との接合点を接合点21Bと区別していうことがある。
この具体例は
図14(A)及び(B)に示される。
このような接合により、衛生マスク用シート30に厚み方向に加わる圧縮荷重F2が、被覆シート93側の接合点21Aから、凹凸シート8を介して基底シート91側の接合点21Bに伝搬して分散吸収される(矢印F3、F3)。また、逆方向の荷重があっても、基底シート91側から被覆シート93側へと前記荷重が伝搬して分散吸収される。これにより、凸部1のアーチ構造の耐荷重性が更に強化され、凹凸シート8によるクッション性及び柔らかい肌触りが更に高められる。
【0088】
第3実施形態の衛生マスク用シート30の3層構造の形態は、上記のものに限定されず、本発明の効果を損なわない限り種々の形態をとり得る。
例えば、その変形例として、細密繊維層Aを含む凹凸シート8、基底シート91及び被覆シート93のうち少なくともいずれか1種が2枚以上の複数積層された形態が挙げられる。これにより、前述の粒子等に対する捕集率を更に高めることができる。また圧縮特性に関し、衛生マスク用シートのクッション性が向上し、柔らかい肌触りを保持すると共に、衛生マスク用シート30及びこれを用いた衛生マスクの装着感を更に高めることができる。
例えば、被覆シート93の第1面1Sに、更に別の凹凸シート8が配されている形態があげられる。これにより衛生マスク用シート30は、圧縮荷重に対する耐性を向上し、クッション性において硬めの感触を付与することが可能となる。また、凹凸シート8の凸部がそれぞれ被覆シート93と接合されることにより、凹凸シート8の形状が安定し、衛生マスク全体の保形性が向上する。この具体例は
図15(A)に示される。
例えば、被覆シート93の第1面1S及び基底シート91の第2面1Rの両面に別の凹凸シート8が配されている形態が挙げられる。これにより衛生マスク用シート30は、衛生マスク用シートの衛生マスク用シートの全体の厚さが更に厚くなることで、クッション性が格段に向上し、柔らかい肌触りを保持すると共に、衛生マスク用シート30及びこれを用いた衛生マスクの装着感を更に高めることができる。また、顔に接触する面とは反対側の面において凹凸形状が配置され外観の向上がなされるとともに、衛生用マスクシート30の両面に凹凸形状が配置されるため、手で取り扱う際に手触りが良く、感触に優れたものとなる。この具体例は
図15(B)に示される。
例えば、被覆シート93の第1面1Sに更に別の凹凸シート8及び被覆シート93が配されている形態、又は、基底シート91の第2面1Rに更に別の凹凸シート8及び基底シート91が配されている形態が挙げられる。これにより衛生マスク用シート30は、衛生マスク用シート30の厚さが更に厚くなることで、クッション性が格段に向上し、柔らかい肌触りを保持すると共に、衛生マスク用シート10及びこれを用いた衛生マスクの装着感を更に高めることができる。また、凹凸シート8の凸部がそれぞれ被覆シート93と接合されることにより、凹凸シート8の形状が安定し、衛生マスク全体の保形性が向上する。この具体例は
図15(C)に示される。
このような変形例において、複数枚の凹凸シート8の凹凸構造は
図15(A)~(C)に示したものに限らず、種々の形態のものを用いることができる。また、凹凸シート8同士が同じ凹凸構造を有してもいてもよく、異なる凹凸構造を有していてもよい。また、複数枚の基底シート91同士及び被覆シート93同士が同じ素材のものであってもよく、異なる素材のものであってもよい。
【0089】
第2実施形態の衛生マスク用シート20及び第3実施形態の衛生マスク用シート30において、第1面1Sの凸部における凹凸シート8と基底シート91との間、及び、第1面1Sの凹部2における凹凸シート8と被覆シート93との間の、一方又は両方が離間していることが好ましい。これにより、柔らかい肌触りが更に向上し、通気性が更に高められる。
【0090】
第2実施形態の衛生マスク用シート20及び第3実施形態の衛生マスク用シート30において、基底シート91及び被覆シート93の一方又は両方は伸縮性シートであることが好ましい。伸縮性シートとしては、例えば伸縮性繊維からなる不織布、伸縮性繊維と非伸縮性繊維とからなる不織布、非伸縮性の不織布と弾性体(例えば弾性フィラメント)との複合不織布などが挙げられる。
この場合、凹凸シート8は非伸縮性であることが好ましい。これにより、衛生マスク用シート20及び30をX方向に伸長した場合に、凹凸シート8が凹凸状態にある場合と、凹凸シート8の凹凸がなくなって以降に伸長させようとする場合の引張強度に顕著な差を生じさせることができる。この引張強度の顕著な差の発現により、凹凸シート8単体が引張荷重を受け繊維構造の変化に伴う捕集性能の変化が生じることなく使用できる引張限界を、衛生マスク用シートの使用者が認識することができる。
【0091】
ここで「伸縮性」とは、100の長さのシートを、力を一方向に加えて150の長さまで伸長させた後に、力を除することで100以上110以下の長さまで収縮する性質を言う。「非伸縮性」とは、150の長さまで伸長させることができないか、伸長できても力を除したときに100以上110以下の長さまで収縮しない性質を言う。
衛生マスク用シート20及び30において、基底シート91及び被覆シート93の「伸縮性」を確認するには、凹凸シート8が「非伸縮性」であることを利用し、衛生マスク用シート20及び30をそのまま用いて前記方法で確認すればよい。又は、前述の方法と同じように、衛生マスク用シート20及び30を層間剥離によって基底シート91及び被覆シート93と凹凸シート8に分離し、基底シート91及び被覆シート93の「伸縮性」を前記方法で直接測定してもよい。
【0092】
基底シート91及び被覆シート93の一方又は両方が伸縮性シートであることで、典型的には衛生マスク用シート20及び30が全体として伸縮性を発現する。この場合、凸部1及び凹部2の延出する方向は、基底シート91及び被覆シート93の伸縮方向と直交する方向にすることが好ましい。また、基底シート91及び被覆シート93の伸縮方向が、前述の接合点21がなす接合点列の延出方向(前記一方向Y)と直交する方向(前記他の方向X)であることが好ましい。すなわち、基底シート91及び被覆シート93の伸縮方向が、第1面1Sの凸部1及び凹部2が交互に配置される前記他の方向Xであることが好ましい。
【0093】
例えば、衛生マスク用シート20及び30を衛生マスクに適用するに当たっては、基底シート91及び被覆シート93の伸縮方向を口元から耳に向かう方向と略一致させることが、フィット性を高める観点から好ましい。換言すれば、凸部1及び凹部2の連続的又は間欠的に延出する方向は、衛生マスクにおける口元から耳に向かう方向と略直交していることが好ましい。更に、前述の接合点21がなす接合点列の方向は、衛生マスクにおける口元から耳に向かう方向と略直交していることが好ましい。
これにより、口元から耳に向かう方向に沿って衛生マスクの伸長が円滑に発現されやすく、衛生マスクの鼻、口及び顎を繋ぐ方向の長さが保持されて顔の口元及び鼻を十分に覆いやすく、衛生マスクの機能が良好に発現されやすくなる。
特に、濾過機能を備えた凹凸シート8は、非伸縮性の素材であっても凹凸構造による可動域を有し、基底シート91及び被覆シート93によって伸縮される。これにより、衛生マスク用シート20及び30からなる衛生マスクが、着用者の鼻、口元、顎及びその周辺の領域に対して柔らかい肌触りでしっかりと当接して肌面に追従しやすくなる。この追従性により、衛生マスクは、肌面との接触面積が抑制されていても、肌からの浮きが抑えられる。一方で、衛生マスクがしっかりと肌面と当接していても、衛生マスク用シート20及び30からなる衛生マスクは、凸部1で当接した肌面の変形等に応じて柔軟に動き、つっぱる感じが無く柔らかい肌触りが続きやすい。また、肌面との当接があっても凹凸構造により前述のように通気抵抗が低く、肌との接触面積が抑えられて蒸れが抑えられる。更に、前述の接合部列の延出方向に沿って、衛生マスクが着用者の鼻、口及び顎を結ぶ正中線に沿う方向の領域を確実に覆いやすくする。これにより、衛生マスクによって、飛沫等の粒子の外部からの流入及び外部への漏洩をより効果的に抑制し得る。
【0094】
基底シート91及び被覆シート93として特に好ましく用いられる伸縮性シートは、弾性フィラメントを含む不織布であり、とりわけ好ましく用いられる伸縮性シートは、非伸縮性の不織布と弾性体(例えば弾性フィラメント)との複合不織布である。
特に、一対の非伸縮性の不織布94、94が弾性フィラメント95の融着により接合された複合不織布からなる伸縮性シート96が好ましい。その具体例は
図16に示される。
伸縮性シートとしては、伸縮性シート96の他に、弾性繊維と非弾性繊維とが混綿された不織布に延伸加工を施したものでもよい。
【0095】
弾性フィラメント95は、実質的に非伸長状態で、非弾性繊維を含む不織布94、94に接合されていることが好ましい。また、複数の弾性フィラメント95が一対の不織布94、94に接合されていることが好ましい。
複数の弾性フィラメント95は、互いに交差せずに前記他の方向Xに延びるように配列していることが好ましく、こうすることにより伸縮性シート96は前記他の方向Xに伸縮可能になる。また、これにより伸縮性シート96からなる基底シート91及び被覆シート93、並びにこれらを備えた衛生マスク用シート20及び30は、弾性フィラメント95が延出する方向に伸長させたときに、該方向に直交する幅が縮む幅縮みが生じにくい利点がある。この幅縮みの抑制には、前述の接合点列が前記一方向Yに延出していることが更に有利である。
各弾性フィラメント95は、互いに交差しない限り、直線状に延びていてもよく、あるいは蛇行しながら延びていてもよい。また、複数の弾性フィラメント95は、前記他の方向Xと直交する前記一方向Yに間隔をあけて配置されていることが好ましい。この具体例は
図16に示されている。
【0096】
伸縮性シート96を構成する1枚又は複数の不織布94はいずれも伸長可能であることが好ましい。1枚又は複数枚の不織布94は、典型的には実質的に非弾性の繊維を含んでなるものであり、実質的に非弾性である。弾性フィラメント95の「弾性」及び不織布94の「非弾性」は、前述の「伸縮性」及び「非伸縮性」の定義と同義である。
不織布94は、弾性フィラメント95の延出する前記他の方向Xと同方向に伸長可能となっていることが好ましい。
ここで「伸長可能」とは、(イ)不織布94の構成繊維自体が伸長する場合と、(ロ)構成繊維自体は伸長しなくても、交点において結合していた繊維同士が離れたり、繊維同士の結合等により複数本の繊維で形成された立体構造が構造的に変化したり、構成繊維がちぎれたり、繊維のたるみが引き伸ばされたりして、不織布全体として伸長する場合とを包含する。
各不織布94は、弾性フィラメント95と接合される前の原反の状態で既に伸長可能になっていてもよい。あるいは、弾性フィラメント95と接合される前の原反の状態では伸長可能ではないが、弾性フィラメント95と接合された後に伸長可能となるように延伸加工が施されて、伸長可能になるものであってもよい。不織布94を伸長可能にするための具体的な方法としては、熱処理、ロール間延伸、歯溝やギアによるかみ込み延伸、テンターによる引張延伸などが挙げられる。弾性フィラメント95を不織布20に溶着させるときの該不織布94の搬送性が良好になる等の点から、該不織布94はその原反の状態では伸長可能でないことが好ましい。
【0097】
複数の弾性フィラメント95はそれぞれ、伸縮性シート96の全長にわたって実質的に連続していることが好ましい。各弾性フィラメント95は典型的には弾性樹脂を含んでいる。
【0098】
弾性フィラメント95は、糸状の合成ゴムや天然ゴムであり得る。あるいは乾式紡糸(溶融紡糸)や、湿式紡糸によって得られたものであり得る。弾性フィラメント95は、これを一旦巻き取ることなしに直接溶融紡糸によって得られたものであることが好ましい。
弾性フィラメント95は、未延伸糸を延伸して得られたものであることが好ましい。
弾性フィラメント95は、弾性樹脂が溶融又は軟化した状態で延伸されて形成されたものであることが好ましい。これにより、弾性フィラメント95を、非伸長状態で不織布94に的確に接合させることができる。
延伸の具体的な操作としては、(a)弾性フィラメント95の原料となる樹脂を溶融紡糸して一旦未延伸糸を得、その未延伸糸の弾性フィラメントを再度加熱して軟化温度(ハードセグメントのガラス転移点温度Tg)以上の状態で延伸する操作や、(b)弾性フィラメント95の原料となる樹脂を溶融紡糸して得られた溶融状態の繊維を直接延伸する操作が挙げられる。弾性フィラメント21は、溶融紡糸して得られた溶融状態の繊維を直接延伸することにより得られることが、特に好ましい。
【0099】
各弾性フィラメント95は、その全長にわたって不織布94に接合されていることが好ましい。
「その全長にわたって接合されている」とは、弾性フィラメント95と接触しているすべての繊維(不織布94の構成繊維)が、該弾性フィラメント94と接合されていることを要しない。すなわち、意図的に形成された非接合部が存在しないような態様で、弾性フィラメント95と不織布94の構成繊維とが接合されていることを意味する。
弾性フィラメント95と不織布94との接合の様式としては、例えば溶着、接着剤による接着などが挙げられる。溶融紡糸により得られた弾性フィラメント95の固化前に、該弾性フィラメント95を不織布94に溶着させることも好ましい。この場合、不織布94と弾性フィラメント95とを接合させる前に、補助的な接合手段として接着剤を塗布することができる。あるいは、各不織布94と弾性フィラメント95とを接合させた後に、補助的な接合手段として、熱処理(スチームジェット、ヒートエンボス)や、機械交絡(ニードルパンチ、スパンレース)などを行うこともできる。
不織布94と弾性フィラメント95との接合は、溶融又は軟化した状態の弾性フィラメント95が、不織布94と接触した状態で固化することのみによって達成されていること、すなわち接着剤を用いずに接合されていることが、伸縮性シート96の柔軟性の向上の点から好ましい。
【0100】
伸縮性シート96の伸縮性は、弾性フィラメント95の弾性に起因して発現する。伸縮性シート96を弾性フィラメント95の延出する方向と同方向に引き伸ばすと、弾性フィラメント95及び不織布94が伸長する。そして伸縮性シート96の引き伸ばしを解除すると、弾性フィラメント95が収縮し、その収縮に連れて不織布94が引き伸ばし前の状態に復帰する。
【0101】
このような伸縮性シート96は、典型的には、特開2008-179128号公報の段落[0055]~[0085]に記載の方法により製造することができる。具体的には、非伸縮性の一対の不織布94、94に、溶融状態にある弾性フィラメント95を非伸長状態で接合して非伸長状態の複合材を作製する。該複合材を、互いに噛み合い可能な状態で対向配置された一対の歯溝ロール間に通過させることによって伸縮発現させる延伸処理を行って、伸縮性シート96が得られる。
【0102】
本発明の衛生マスク用シートは、前述の効果を損なわない範囲で、様々なシートの積層構造を取り得る。
また、本発明の衛生マスク用シートは、第1面1S及び第2面1Rのどちらの面を衛生マスクにおける肌当接面としてもよい。
本発明の衛生マスク用シートの凸1が突出する第1面1Sを衛生マスクにおける肌当接面とする場合、前述の凹凸シートが本発明の衛生マスク用シートの最表層に配され、該最表層を前記肌対向面とすることが好ましい。この場合、本発明の衛生マスク用シートをマスクに適用したときに、シートと肌との接触面積を低減でき、摩擦による肌負担を低減して優しい装着感を付与することができる。
また、本発明の衛生マスク用シートの第2面1Rを衛生マスクにおける肌当接面とする場合、基底シート91又は被覆シート93が本発明の衛生マスク用シートの最表層に配され、該最表層を前記肌対向面とすることが好ましい。この場合、本発明の衛生マスク用シートをマスクに適用したときに、外部空気が凹凸の隙間から侵入する可能性をより抑制することができる。
【0103】
次に、本発明の衛生マスク用シートの製造方法の好ましい実施形態について説明する。
まず、本発明の衛生マスク用シートが第1実施形態の衛生マスク用シート10である場合、凹凸シート8の原反シート800に対して凹凸賦形工程を施す製造方法が好ましい。
前記凹凸賦形工程は、歯部と溝部とを備えた一対の歯溝ロールを用いて行うことが好ましい。該一対の歯溝ロールは互いに噛み合い可能な状態で対向配置され、原反シート800を挟持して凹凸賦形する。
前記歯溝ロールが有する歯部及び溝部は、凹凸シート8が有する凸部1及び凹部2に応じた態様で配置されていることが好ましい。
例えば、凹凸シート8が前述の凹凸シート8Aのように波板形状の凹凸形状を有する場合、一対の歯溝ロールはそれぞれ、軸方向に延出する筋状の歯部及び筋状の溝部をロール表面に有することが好ましい。このような歯溝ロールを用いた凹凸賦形工程として、例えば特開2007-177384号公報の段落[0011]~[0057]に記載の方法が挙げられる。
また、凹凸シート8が前述の凹凸シート8Bのように、一方向Y及び他の方向Xにおいて、凸部1と凹部2とが交互に配されて列をなしている場合、一対の歯溝ロールはそれぞれ次のような表面構造を有することが好ましい。すなわち、前記歯溝ロールはそれぞれ、ロール軸に沿って歯部と溝部とが交互に列状に配置され、該列がロール回転方向に複数配列され、隣り合う列同士においては、歯部の配置が半ピッチずれている表面を有することが好ましい。このような歯溝ロールを用いた凹凸賦形工程として、例えば特開2013-14876号公報の段落[0019]~[0059]に記載の方法が挙げられる。
原反シート800は、目的の凹凸シート8の層構造に合わせて、前述の細密繊維層Aのみの単層からなるものであってもよく、細密繊維層Aと他のシート(例えば保護シート81)とが積層されたものであってもよい。
【0104】
本発明の衛生マスク用シートが第2実施形態の衛生マスク用シート20である場合、凹凸シート8を得る凹凸賦形工程と、凹凸シート8と基底シート91との接合工程とを含む製造方法を行うことが好ましい。凹凸賦形工程と接合工程とは、それぞれ独立した工程であってもよく、同時に行う工程であってもよい。
【0105】
凹凸賦形工程と接合工程とがそれぞれ独立した工程である場合、凹凸賦形工程の後に接合工程を行うことが好ましい(実施形態(I))。実施形態(I)では、一方の歯溝ロールの歯部101と他方の歯溝ロールの歯部102とがそれぞれ原反シート800に対して反対側から押し込んで凹凸賦形する(凹凸賦形工程)。次いで、前記一方の歯溝ロールの歯部101を押し込んだまま基底シート91と積層する。この状態で、原反シート800は、前述の一方の面1Sに凸部1及び凹部2を備えた凹凸原反シート801となる。凹凸原反シート801と基底シート91とを積層した状態で、基底シート91を下にして台座300上に静置する。この状態で接合装置200を用いて、凹凸原反シート801の第1面1Sの凹部2の底部と基底シート91とを部分接合する(接合工程)。この具体例は
図17(A)~(D)に示される。
【0106】
上記の接合装置200は、凹部2の底部において的確にポイント接合し得る種々のものを用いることが好ましい。これにより、接合しない部分の柔らかさが保持され、本発明の衛生マスク用シートの柔らかい肌触りを得ることができる。例えば、ヒートシール装置、超音波シール装置、高周波シール装置等を用いることができる。その中でも、超音波シール装置が特に好ましい。これらの装置は、部材同士を点エンボスしながら部分的に融着させて前述の接合点21を形成することができる。
なお、接合装置200は、上記具体例のように凹凸原反シート801側から接合処理を行う場合に限らず、基底シート91側から接合処理を行うようにしてもよい。即ち、凹凸賦形工程の後、前記他方の歯溝ロール102を押し込んだまま、凹凸原反シート801の上に基底シート91を積層し、基底シート91側から接合装置200を当てて接合処理を行うということである。このとき、接合処理において、前記他方の歯溝ロール102が前記台座300の代わりとなる。
【0107】
また、凹凸賦形工程と接合工程とがそれぞれ独立した工程である場合の別の実施形態(実施形態(II))として次のようなものが挙げられる。まず、原反シート800を引き延ばさないように凹凸賦形して、凹凸賦形部の固定処理を行って凹凸原反シート801を形成する。次いで、凹凸原反シート801と基底シート91とを積層し、接合装置200を用いて上記の同様の部分接合をする。この具体例は
図18(A)及び(B)に示される。実施形態(II)の場合、原反シート800を引き延ばさない凹凸賦形処理及び凹凸賦形部の固定処理は、例えば、凹凸原反シート801のY方向の両端部において、凹凸形状に沿った金型で原反シート801を挟み込みY方向に張力をかける方法や、凹凸原反シート801のY方向の両端部等で、バインダ等を用いて凹凸形状に固定する固定部を設ける方法等がある。
【0108】
一方、凹凸賦形工程と接合工程とを同時に行う場合、例えば次のように実施する(実施形態(III))。すなわち、原反シート800に対して部分的な凹凸賦形処理と基底シート91への接合処理とを1単位の工程とし、該工程を繰り返し行う方法が挙げられる。この具体例は
図19(A)及び(B)に示される。
実施形態(III)の場合、実施形態(II)と同様に、原反シート800を引き延ばさないように凹凸賦形することが好ましい。
【0109】
なお、第2実施形態の衛生マスク用シート20の変形例として示された、細密繊維層Aが平面状のシートとされ、他のシートが細密繊維層Aを含まない凹凸シート92とされた例については、シートの素材を入れ替える以外は上記と同様にして製造することができる。
【0110】
基底シート9が伸縮性シートである場合、特に次のような製造方法であることが好ましい(実施形態(IV))。
すなわち、基底シート91をその伸縮方向に沿って伸長させた状態で、凹凸賦形されていない非伸縮性の原反シート800を積層する。この状態で同時に、原反シート800の凹部2の底部となる部分802とその位置の基底シート91とをポイント接合する。その後、基底シート91の伸長を解いて収縮させる。これに伴い原反シート800が凹凸状に変形して、凹部2で基底シート91に部分接合された凹凸シート8が形成される。従来の凹凸賦形においては、細密繊維層Aを凹凸加工する際に引張等による繊維構造が破損する可能性もあった。しかし、この製造方法は、原反シート800の凹凸加工を行わないために、細密繊維層Aを凹凸加工する際の引張等による繊維構造の破損を防ぎ、フィルタ性能の低下を抑制することができる。加えて、基底シートの伸長度合いを変えるだけで、凸部の中心間距離を任意に調整可能である。従来の凹凸賦形においては困難であった、凸部の中心距離を小さくすることも容易にできる。また、原反シート800を凹凸形状に維持したままハンドリングする必要が無いため、生産速度を速めることができ、第2実施形態の衛生マスク用シート20が精度良く、効率的に製造される。この具体例は
図20(A)~(C)に示される。
【0111】
本発明の衛生マスク用シートが第3実施形態の衛生マスク用シート30である場合、被覆シート93と凹凸シート8との接合は、前述の実施形態(I)~(IV)それぞれの中で行うことが好ましい。
具体的には、前述の実施形態(I)~(III)において、凹凸原反シート801の形成時に、凸部1のみにバインダーを塗布した後に被覆シート93を積層することができる。
また、前述の実施形態(IV)において、被覆シート93が伸縮性シートである場合、被覆シート93と基底シート91をその伸長方向に沿って伸長させた状態で、まず基底シート91と凹凸賦形していない非伸縮性の原反シート800を積層する。この状態で原反シート800の凹部2の底部となる部分とその位置の基底シート91とを超音波接合によりポイント接合する。その次に、被覆シート93を原反シート800側に更に積層させる。この状態で原反シート800の凸部1の頂部となる部分とその位置の被覆シート93とをバインダー等を用いてポイント接合する。このとき、基底シート91と原反シート800との接合部に対して、被覆シート93と原反シート800の接合部は伸長方向に沿って位置が異なるように接合する。その後、被覆シート93と基底シート91の伸長を解いて収縮させる。これに伴い原反シート800が凹凸状に変形して、凸部1と被覆シート93、凹部2と基底シート91が部分接合された凹凸シート8が形成される。尚、原反シート800に対して被覆シート93及び基底シート91を積層して接合する順番は逆でもよい。また、接合手段は双方バインダーを用いてもよい。少なくとも後から積層して接合する方に関しては、3つのシートが全て接合してしまわないように、バインダーを用いることが好ましい。
【0112】
以上のようにして、本発明の衛生マスク用シートを好適に製造することができる。
【0113】
このようにして得られた本発明の衛生マスク用シートは、それ自体が衛生マスク500として用いることができる。この衛生マスク500は、顔を覆う衛生マスク本体501と衛生マスク本体501の装着状態を固定する耳掛け部502とを有する。少なくとも衛生マスク本体501が本発明の衛生マスク用シートを備えていることが好ましい。
例えば、本発明の衛生マスク用シートは、凸部1及び凹部2が一方向Yに連続的又は間欠的に延出して配置されている凹凸シートを有する場合(例えば、凹凸シート8又は凹凸シート92)、次のように衛生マスク本体501に組み込まれることが好ましい。すなわち、凸部1の延出方向が衛生マスク本体501の縦方向5Yとなるようにして、本発明の衛生マスク用シートが衛生マスク本体501に組み込まれることが、良好な使用感の観点から好ましい。なお、衛生マスク本体501の縦方向5Yとは、衛生マスク500を着用したときに、衛生マスク500における着用者の鼻、口及び顎を繋ぐ正中線に沿う方向を意味する。この具体例は
図21(A)及び(B)に示される。
また、本発明の衛生マスク用シートは、基底シート91及び被覆シート93の少なくともいずれか一方が前述の伸縮性シート96を有し、それによって全体として伸縮性を有する場合、次のように衛生マスク本体501に組み込まれることが好ましい。すなわち、伸縮方向が衛生マスク本体501の横方向5Xとなるようにして、本発明の衛生マスク用シートが衛生マスク本体501に組み込まれることが、衛生マスク本体501のフィット性を高める観点から好ましい。なお、衛生マスク本体501の横方向5Xとは、衛生マスク本体501を着用したときに、衛生マスク500における着用者の口から耳へと向かう方向を意味する。このとき、上記の伸縮方向は、前述の凸部1及び凹部2の延出する一方向Yに交差する他の方向Xであることが好ましい。
更に、本発明の衛生マスク用シートは、凹凸シートが最表層として配される面を肌当接面として用いることが、良好な使用感の観点から好ましい。
【0114】
本発明の衛生マスク用シートは、衛生マスク本体501として用いるだけでなく、衛生マスク本体501及び耳掛け部502として用いることもできる。この場合、衛生マスク本体501及び耳掛け部502が一体に形成され、両者間に継ぎ目等の接合箇所が存在しないことが好ましい。この具体例は
図21(A)及び(B)に示される。
例えば、本発明の衛生マスク用シートが、凸部1及び凹部2が一方向Yに連続的又は間欠的に延出して配置されている凹凸シートを有する場合、凸部1及び凹部2が延出する一方向Yに交差する他の方向Xに二つ折りする。あるいは、2枚の本発明の衛生マスク用シートを凸部1及び凹部2が延出する一方向Yを一致させて積層する。二つ折り及び積層いずれの場合も、凹凸シートが最表層として配される面同士を対向させることが好ましい。次に、二つ折り又は積層したシート同士を接合する。接合部5Mは、着用者の鼻、口及び顎にかけて衛生マスク500の縦中心線がフィットするような曲線形状に形成されることが好ましい。また、接合部5Mの曲線形状は、前記一方向Yに向けられていることが好ましく、前述の伸縮方向と交差する方向であることが好ましい。接合部5Mの形成手段としては、熱融着、超音波接合、バインダーによる接合等が挙げられる。最後に、二つ折り又は積層した状態のシートを、衛生マスク本体501及び耳掛け部502が一体で形成されるように打抜く。これらの手順を経て目的の衛生マスクを好適に製造できる。
【0115】
本発明の衛生マスク用シートは、衛生マスク500そのものとして用いる以外に、衛生マスク500に着脱可能なフィルタシート503として用いることができる。例えば、衛生マスク本体501とその内側に配されるフィルタシート503とを備えた衛生マスク500におけるフィルタシート503として、本発明の衛生マスク用シートを用いることができる。
このフィルタシート503は、衛生マスク本体501と同様に立体形状を有することが好ましい。この具体例は
図22に示される。
例えば、本発明の衛生マスク用シートは、配置の向きを、マスク本体に用いた場合と同様にすることが好ましい。
更に、本発明の衛生マスク用シートは、凹凸シートが最表層として配される面を肌当接面として用いることが、良好な使用感の観点から好ましい。
【0116】
本発明の衛生マスク用シートを用いた衛生マスク500及びフィルタシート503に関し前述の実施形態に限定されるものでなく、その機能を阻害しない範囲で種々の形態をとり得る。
例えば、衛生マスク本体501のみを本発明の衛生マスク用シートから構成し、耳掛け部502は他の材料、例えばゴム紐や伸縮性不織布などから構成されてもよい。
また、本発明の衛生マスク用シートが適用される衛生マスク500及びフィルタシート503を、立体的な形状ではなく、平面視矩形であってもよい。更に、衛生マスク500及びフィルタシート503が横方向に延びる数個の襞を有していてもよい。
【0117】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の衛生マスク用シート、衛生マスク及び衛生マスク用シートの使用方法を開示する。
【0118】
<1>
厚み方向の最大圧力までの仕事量を示すWC値が0.3Pa・m以上であり、かつ、粒径1μm超の粒子の捕集率が85%以上である、衛生マスク用シート。
【0119】
<2>
前記厚み方向の最大圧力までの仕事量を示すWC値が1.5Pa・m以上、好ましくは2.5Pa・m以上である、前記<1>に記載の衛生マスク用シート。
<3>
前記厚み方向の最大圧力までの仕事量を示すWC値が20Pa・m以下、好ましくは15Pa・m以下、より好ましくは6.5Pa・m以下、更に好ましくは3.5Pa・m以下である、前記<1>又は<2>に記載の衛生マスク用シート。
<4>
粒径1μm超の粒子の捕集率が88%以上、好ましくは90%以上である、前記<1>~<3>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<5>
粒径1μm超の粒子の捕集率が100%以下である、前記<1>~<4>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
【0120】
<6>
前記厚み方向の圧力と厚みとの直線性を示すLC値が0.5以上、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.65以上である、前記<1>~<5>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<7>
前記厚み方向の圧力と厚みとの直線性を示すLC値が1以下、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.85以下である、前記<1>~<6>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
【0121】
<8>
平均繊維径が3000nm以下である繊維層を有する、前記<1>~<7>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<9>
前記繊維層の密度が0.05g/cm3以上である、前記<8>に記載の衛生マスク用シート。
【0122】
<10>
前記衛生マスク用シートは、一枚以上のシートを備え、
前記衛生マスク用シートが有するシートの一枚は、一方の面と他方の面とを有し、少なくとも一方の面に、自然状態において厚み方向外方に突出する複数の凸部と、複数の該凸部に挟まれた凹部とを有する凹凸シートである、前記<1>~<9>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
【0123】
<11>
一枚以上のシートを備える衛生マスク用シートであって、
平均繊維径が3000nm以下であり、密度が0.05g/cm3以上である繊維層を有し、
前記衛生マスク用シートが有するシートの一枚は、一方の面と他方の面とを有し、少なくとも一方の面に、自然状態において厚み方向外方に突出する複数の凸部と、複数の該凸部に挟まれた凹部とを有する凹凸シートである、衛生用マスク用シート。
<12>
前記繊維層の平均繊維径が2000nm以下、好ましくは1000nm以下、より好ましくは900μm以下である、前記<8>~<11>のいずれか1に記載の衛生用マスク用シート。
<13>
前記繊維層の平均繊維径が50nm以上、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上、更に好ましくは250μm以上である、前記<8>~<12>のいずれか1に記載の衛生用マスク用シート。
<14>
前記繊維層の密度が0.1g/cm3以上、好ましくは0.15g/cm3以上、より好ましくは0.2g/cm3超である、前記<9>~<13>のいずれか1に記載の衛生用マスク用シート。
<15>
前記繊維層の密度が0.6g/cm3以下、好ましくは0.55g/cm3以下、より好ましくは0.5g/cm3以下、更に好ましくは0.4g/cm3以下である、前記<9>~<14>のいずれか1に記載の衛生用マスク用シート。
<16>
前記凹凸シートの前記凸部の高さは自然状態において、1mm以上、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは2mm以上である、前記<10>~<15>のいずれか1に記載の衛生用マスク用シート。
<17>
前記凹凸シートの前記凸部の高さは自然状態において、4mm以下、好ましくは3.5mm以下、より好ましくは3mm以下である、前記<10>~<16>のいずれか1に記載の衛生用マスク用シート。
<18>
前記衛生マスク用シートを構成するシートのうち、前記繊維層の平均繊維径が最も細い、前記<10>~<17>のいずれか1に記載の衛生用マスク用シート。
<19>
前記衛生マスク用シートは、シートとして前記繊維層と他のシートとを含み、
前記繊維層の平均繊維径に対する前記他のシートの平均繊維径の比は、5以上、好ましくは25以上である、前記<10>~<18>のいずれか1に記載の衛生用マスク用シート。
<20>
前記衛生マスク用シートは、シートとして前記繊維層と他のシートとを含み、
前記繊維層の平均繊維径に対する前記他のシートの平均繊維径の比は、50以下である、前記<10>~<19>のいずれか1に記載の衛生用マスク用シート。
<21>
前記凹凸シートが、前記繊維層に対する保護シートを有し、該保護シートが不織布であり、該不織布の剛軟度が、20mm以上、好ましくは25mm以上、より好ましくは30mm以上である、前記<10>~<20>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<22>
前記凹凸シートが、前記繊維層に対する保護シートを有し、該保護シートが不織布であり、該不織布の剛軟度が、150mm以下、好ましくは100mm以下、より好ましくは70mm以下である、前記<10>~<21>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<23>
前記衛生マスク用シートを構成するシートのうち、前記繊維層の密度が最も高い、前記<10>~<22>のいずれか1に記載の衛生用マスク用シート。
【0124】
<24>
前記凹凸シートの前記他方の面に平面状の基底シートが積層されている、前記<10>~<23>のいずれか1に記載の衛生用マスク用シート。
<25>
前記凹凸シートは前記凹部において前記基底シートと接合されている、前記<24>に記載の衛生用マスク用シート。
<26>
前記凹凸シートの前記一方の面に平面状の被覆シートが積層されている、前記<24>又は<25>に記載の衛生マスク用シート。
<27>
前記凹凸シートは前記凸部において前記被覆シートと接合されている、前記<26>に記載の衛生用マスク用シート。
<28>
前記凸部における前記凹凸シートと前記基底シートとの間、及び、前記凹部における前記凹凸シートと前記被覆シートとの間の、一方又は両方は離間している、前記<24>~<27>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<29>
前記被覆シート及び前記基底シートの一方又は両方は不織布である、前記<24>~<28>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<30>
前記基底シート及び前記被覆シートの一方又は両方は伸縮性シートである、前記<24>~<29>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<31>
前記伸縮性シートは、一対の不織布が弾性フィラメントの融着により接合された複合不織布である、前記<24>~<30>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<32>
前記伸縮性シートは、100の長さのシートを、力を一方向に加えて150の長さまで伸長させた後に、力を除することで100以上110以下の長さまで収縮する性質を有する、前記<30>又は<31>に記載の衛生マスク用シート。
【0125】
<33>
前記凸部が、前記凹凸シートの平面視において一方向に延出する形状を有し、該凸部が複数配されている、前記<10>~<32>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<34>
前記凹部が、前記凹凸シートの平面視において一方向に延出する形状を有し、該凹部が複数配されている、前記<10>~<33>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
【0126】
<35>
前記凹凸シートの前記凸部が突出する前記一方の面を衛生マスクにおける肌対向面として有する、前記<10>~<34>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<36>
前記凹凸シートの前記他方の面を衛生マスクにおける肌対向面として有する、前記<10>~<35>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<37>
前記凹凸シートが前記繊維層を有する、前記<10>~<36>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<38>
隣接する前記凸部の中心間距離は、6mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下である、前記<10>~<37>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<39>
隣接する前記凸部の中心間距離は、1mm以上、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは2mm以上である、前記<10>~<38>のいずれか1に記載の衛生マスク用シート。
<40>
衛生マスク本体が、前記<1>~<39>のいずれか1に記載の衛生マスク用シートを備える衛生マスク。
<41>
衛生マスク本体と、該衛生マスク本体に着脱可能なフィルタシートとを備え、
前記フィルタシートが、前記<1>~<39>のいずれか1に記載の衛生マスク用シートを備える、衛生マスク。
<42>
前記<1>~<41>のいずれか1に記載の衛生マスク用シートを、衛生マスクにおける衛生マスク本体に着脱可能なフィルタシートとして用いる、衛生マスク用シートの使用方法。
【実施例】
【0127】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において「部」および「%」は、特に断らない限りいずれも質量基準である。下記表1中における、「-」は、項目に該当する値を有さないこと等を意味する。「←」は、左側の欄と同じ値を有することを意味する。
【0128】
(実施例1)
図20に示す製造方法によって
図9(A)に示す、実施例1の衛生マスク用シート試料を作製した。
基底シート91は、
図16に示す伸縮性シート96からなり、以下の方法で製造した。
平均繊維径が18μmで、坪量が18g/m
2である、ポリプロピレン(以下、PPともいう)樹脂からなるスパンボンド不織布を2枚用い、両不織布間に直径100μmの弾性フィラメントを複数本配置した。弾性フィラメントの全坪量は、9g/m
2であった。この積層シートを、一対の歯溝ロール間に通して伸縮性を発現させて伸縮性シート96を製造した。
凹凸シート8は、
図7に示す保護シート81と細密繊維層Aを積層させたものとし、以下の方法で製造した。
平均繊維径が15μmで、坪量が17g/m
2である、PP樹脂からなるスパンボンド不織布を保護シート81として準備した。その後、本保護シート上にエレクトロスピニング法によって紡糸された繊維を堆積させて保護シート上に細密繊維層Aを積層し凹凸シートの原反シート800を準備した。
その後、
図20に示す方法に従い、伸縮性シートを1.5倍に伸長させた状態下に、凹凸シートの原反シート800を重ね合わせて接合することで、衛生マスク用シートを製造した。
細密繊維層Aの平均繊維径、坪量、厚み及び密度は表1に示すとおりとした。また、凹凸シート8の凸部高さ、ピッチ、単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率(S1/S0)は、表1に示すとおりとした。なお、細密繊維層Aの厚みは、凹凸の起伏高さ(細密繊維層Aの第1面1S側と第2面1R側との間の厚み方向の見かけ厚み)ではなく、凹凸の起伏に沿う繊維層自体の厚みを意味する。
【0129】
(実施例2)
被覆シート93を積層した以外は実施例1と同様にして、
図13(A)に示す積層構造を備えた実施例2の衛生マスク用シート試料を作製した。
被覆シート93としては、表1に示すスパンボンド不織布を用いた。
【0130】
(実施例3)
実施例2の衛生マスク用シート試料S2の第1面1Sに更に別の凹凸シート8を積層した以外は実施例2と同様にして、
図15(A)に示す積層構造を備えた実施例3の衛生マスク用シート試料を作製した。
別の凹凸シート8は、もう1方の凹凸シート8と同じものを用いた。
【0131】
(実施例4)
基底シート91として表1に示すポリウレタン材料からなる多孔シートを用い、細密繊維層A及び保護シート81の積層体を凹凸にせず平坦にした以外は実施例1と同様にして、実施例4の衛生マスク用シート試料を作製した。
多孔シートは、市販の「PITTA MASK」(商品名、株式会社アラクス製)から切り出して用いた。
【0132】
(実施例5)
凹凸シート8の凸部高さ、ピッチ、単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率(S1/S0)を表1に示すものとし、基底シート91として表1に示すものを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5~7の衛生マスク用シート試料を作製した。
【0133】
(実施例6及び7)
凹凸シート8の凸部高さ、ピッチ、単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率(S1/S0)を表1に示すものとした以外は実施例1と同様にして、実施例5~7の衛生マスク用シート試料を作製した。
【0134】
(実施例8)
細密繊維層Aの坪量、厚みを表1に示すものとし、凹凸シート8の凸部高さ、ピッチ、単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率(S1/S0)を表1に示すものとした以外は実施例1と同様にして、実施例8の衛生マスク用シート試料を作製した。
【0135】
(比較例1)
細密繊維層Aを表1に示すものとし、細密繊維層A及び保護シート81の積層体を凹凸にせず平坦にした以外は実施例1と同様にして、比較例1の衛生マスク用シート試料を作製した。
【0136】
(比較例2)
基底シート91を表1に示すものとした以外は、比較例1と同様にして、比較例2の衛生マスク用シート試料を作製した。
【0137】
(比較例3)
細密繊維層Aを含まず、保護シート81のみで凹凸シートを形成した以外は、実施例5と同様にして、比較例3の衛生マスク用シート試料を作製した。
【0138】
(比較例4)
市販の「PITTA MASK」(商品名、株式会社アラクス製)を比較例4の衛生マスク用シート試料を作製した。
【0139】
上記の各実施例及び比較例について、圧縮仕事量(WC)、圧縮直線性(LC)、捕集率及び通気抵抗について、前述の(厚み方向の圧縮仕事量(WC)、圧縮直線性(LC)の測定方法)、(粒径1μm超の粒子の捕集率の測定方法)及び(通気抵抗の測定方法)に基づいて測定した。
【0140】
【0141】
表1に示す通り、実施例1~8の衛生マスク用シート試料は、圧縮仕事量(WC)及び捕集率の両方において高い値を示しており、比較例1~4の衛生マスク用シート試料ではなし得ない、空気中の粒子等を対象とした高い捕集性と柔らかい肌触りと両立できていた。加えて、実施例1~8の衛生マスク用シート試料は、前述の圧縮仕事量(WC)に加え、圧縮直線性(LC)の値も高く、更に優れた柔らかさを備え、かつ、圧縮方向に変形してもその柔らかさをより維持できるものであった。
また、単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率(S1/S0)を1よりも高めた実施例1~3、5~8の衛生マスク用シート試料は、従来はトレードオフの関係にあるとされる、高い捕集率と低い通気抵抗との両立を実現できていた。そして、実施例1~3、5~8の衛生マスク用シート試料は、これを用いた衛生マスクにおける呼吸を楽にし、装着感を更に高めることができるものとなっていた。
【符号の説明】
【0142】
1 第1面の凸部
2 第1面の凹部
3 第2面の凸部
4 第2面の凹部
8、8A、8B、8C (細密繊維層を含む)凹凸シート
A 細密繊維層
10、20、30 衛生マスク用シート