IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝キヤリア株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-冷凍サイクル装置 図1
  • 特許-冷凍サイクル装置 図2
  • 特許-冷凍サイクル装置 図3
  • 特許-冷凍サイクル装置 図4
  • 特許-冷凍サイクル装置 図5
  • 特許-冷凍サイクル装置 図6
  • 特許-冷凍サイクル装置 図7
  • 特許-冷凍サイクル装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/18 20060101AFI20230130BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
H02P25/18
F25B1/00 351U
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018174693
(22)【出願日】2018-09-19
(65)【公開番号】P2020048320
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】金森 正樹
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-273348(JP,A)
【文献】特開2014-225999(JP,A)
【文献】特開2018-129925(JP,A)
【文献】特開平4-322176(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0271056(US,A1)
【文献】特開2008-219956(JP,A)
【文献】国際公開第2014/002251(WO,A1)
【文献】特開2015-127621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/18
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室外ユニットに収容された圧縮機と、
互いに非接続状態の複数の相巻線を有する圧縮機駆動用のモータと、
前記各相巻線の他端の相互間に接続され、閉成により前記各相巻線を星形結線し、開放により前記各相巻線を非接続状態とする開閉器と、
前記室外ユニットに収容された室外制御基板と、
前記室外制御基板に設けられ、複数のスイッチング素子を単一のパッケージに収納し、これらスイッチング素子により前記モータの各相巻線の一端への通電を制御する第1インバータと、
前記第1インバータと離れた状態で前記室外制御基板に設けられ、複数のスイッチング素子を単一のパッケージに収納し、これらスイッチング素子により前記モータの各相巻線の他端への通電を制御する第2インバータと、
前記モータの停止時、前記開閉器を開放し、前記第1インバータのスイッチング素子及び前記第2インバータのスイッチング素子を通して前記モータの相巻線へ予熱用の電流を流す制御手段と、
を備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記モータの停止時、外気温度が設定値未満の場合に、前記開閉器を開放し、前記第1インバータのスイッチング素子及び前記第2インバータのスイッチング素子を通して前記モータの相巻線へ予熱用の電流を流す
ことを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記モータの停止時、前記外気温度が第2設定値未満かつ第1設定値(<第2設定値)以上の場合、前記開閉器を閉成し、その開閉器および前記第1インバータのスイッチング素子を通して前記モータの相巻線へ予熱用の電流を流し、前記外気温度が前記第1設定値未満の場合、前記開閉器を開放し、前記第1インバータのスイッチング素子および前記第2インバータのスイッチング素子を通して前記モータの相巻線へ予熱用の電流を流す
ことを特徴とする請求項2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記室外制御基板は、前記室外ユニットの電装品箱に収容され、前記第1インバータおよび前記第2インバータを他の電気部品と共に搭載している
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記第1インバータおよび前記第2インバータは、前記室外制御基板の四つの角部のうち対角位置の二つの角部に互いに離れた状態で配置されていることを特徴とする請求項4に記載の冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに非接続状態の複数の相巻線を有する永久磁石同期モータいわゆるオープン巻線モータを圧縮機駆動用モータとして用いる冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機や熱源機などの冷凍サイクル装置では、圧縮機の停止時、冷媒が圧縮機内に溜まり込んで液化するいわゆる寝込みを生じる。とくに、外気温度の低下が著しい冬季や寒冷地では、温度が低下した液冷媒が圧縮機内の潤滑油に溶け込み、潤滑油の粘度を低下させてしまい、起動における圧縮機への大きな負荷に対して潤滑不足を引き起こし、圧縮機の寿命に悪影響を与える。
【0003】
そこで、圧縮機が停止しているときには、圧縮機に巻回されたクランクケースヒーターに通電したり、圧縮機内のモータの巻線に電流を流して巻線を発熱させ、その発熱によって寝込み冷媒および潤滑油を予熱する制御が一般的に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5901765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
外気温度の低下が著しい冬季や寒冷地では、寝込み冷媒および潤滑油だけでなく、電装品箱に収容されている電子部品を含む各種電気部品の温度も大きく低下する。例えば-20℃以下に冷えた環境下では、電気部品は動作が不安定になることがあり、それは冷凍サイクルの運転に悪影響を与える。
【0006】
本発明の実施形態の目的は、電装品箱に収容されている電気部品を効率よく温めることができ、これにより電気部品を安定して動作させることが可能な信頼性にすぐれた冷凍サイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の冷凍サイクル装置は、圧縮機および室外制御基板を収容した室外ユニットと;互いに非接続状態の複数の相巻線を有する圧縮機駆動用のモータと;前記各相巻線の他端の相互間に接続され、閉成により前記各相巻線を星形結線し、開放により前記各相巻線を非接続状態とする開閉器と;前記室外制御基板に設けられ、複数のスイッチング素子を単一のパッケージに収納し、これらスイッチング素子により前記モータの各相巻線の一端への通電を制御する第1インバータと;前記第1インバータと離れた状態で前記室外制御基板に設けられ、複数のスイッチング素子を単一のパッケージに収納し、これらスイッチング素子により前記モータの各相巻線の他端への通電を制御する第2インバータと;前記モータの停止時、前記開閉器を開放し、前記第1インバータのスイッチング素子及び前記第2インバータのスイッチング素子を通して前記モータの相巻線へ予熱用の電流を流す制御手段と;を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1および第2実施形態の構成を示す図。
図2】第1および第2実施形態における室外制御基板上の電気部品の配置を示す図。
図3】第1および第2実施形態におけるモータ駆動部の構成および予熱用電流の経路を示す図。
図4】第1実施形態の予熱制御条件を示す図。
図5】第1実施形態のモータ制御部の制御を示すフローチャート。
図6】第2実施形態の予熱制御条件を示す図。
図7】第2実施形態のモータ制御部の制御を示すフローチャート。
図8】第2実施形態における予熱用電流の経路を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]第1実施形態について説明する。
図1に示すように、モータ1Mを駆動用モータとして内蔵する密閉型の圧縮機1の吐出口に、四方弁2を介して室外熱交換器3の一端が配管接続され、その室外熱交換器3の他端に減圧器である電動膨張弁4を介して室内熱交換器11の一端が配管接続されている。そして、室内熱交換器11の他端が上記四方弁2を介して圧縮機1の吸込口に配管接続されている。これら冷凍サイクル部品の配管接続により、冷房および暖房が可能な空気調和機用のヒートポンプ式冷凍サイクルが構成されている。
【0010】
モータ1Mは、複数の相巻線を有する永久磁石同期モータであって、後述する3つの相巻線Lu,Lv,Lwを互いに非接続状態とした構成のオープン巻線モータ(Open-Windings Motor)である。電動膨張弁4は、供給される駆動パルスの数に応じて開度が連続的に変化するパルス・モータ・バルブ(PWM)である。
【0011】
冷房運転時は、図1中に実線矢印で示すように、圧縮機1から吐出されるガス冷媒が四方弁2を介して室外熱交換器3に流れる。室外熱交換器3に流れたガス冷媒は、外気に熱を放出して凝縮する。この室外熱交換器(凝縮器)3から流出する液冷媒は、電動膨張弁4で減圧された状態で室内熱交換器11に流れる。室内熱交換器11に流れた液冷媒は、室内空気から熱を奪って蒸発する。この室内熱交換器(蒸発器)11から流出するガス冷媒は、四方弁2を通って圧縮機1に吸い込まれる。暖房運転時は、四方弁2の流路が切換わることにより、図1中に破線矢印で示すように、圧縮機1から吐出されるガス冷媒が四方弁2を介して室内熱交換器11に流れる。室内熱交換器11に流れたガス冷媒は、室内空気に熱を放出して凝縮する。この室内熱交換器(凝縮器)11から流出する液冷媒は、電動膨張弁4で減圧されて室外熱交換器3に流れる。室外熱交換器3に流れた液冷媒は、外気から熱を奪って蒸発する。この室外熱交換器(蒸発器)3から流出するガス冷媒は、四方弁2を通って圧縮機1に吸い込まれる。
【0012】
室外熱交換器3の近傍に室外ファン5が配置され、その室外ファン5の外気吸込み風路に、外気温度Toを検知する外気温度センサ6が配置されている。室内熱交換器11の近傍に室内ファン12が配置され、その室内ファン12の室内空気吸込み風路に、室内温度Taを検知する室内温度センサ13が配置されている。
【0013】
上記圧縮機1、四方弁2、室外熱交換器3、電動膨張弁4、室外ファン5などの冷凍サイクル部品および外気温度センサ6は、室外制御部7が納められた電装品箱8と共に室外ユニットAに収容されている。上記室内熱交換器11、室外ファン12などの冷凍サイクル部品および室内温度センサ13は、室内制御部(室内制御基板ともいう)14と共に室内ユニットBに収容されている。
【0014】
室外制御部7は、図2に示すように、矩形状の室外制御基板7aおよびその室外制御基板7aに搭載された各種電子部品を含む電気部品により構成され、室外ユニットA内の電装品箱8に収容されている。この場合、室外制御基板7aは、例えば下辺が電装品箱8の下方側に位置して上辺が電装品箱8の上方側に位置するように略垂直に立てた状態で電装品箱8に収容される。室外制御基板7aに搭載される電気部品は、ノイズフィルタ21、直流電源回路22、モータ制御部23、リレー駆動部24、リレー51,52、電流センサ53u,53v,53w、インバータ30,40などのモータ駆動部20、室外ユニットAの運転を制御する主制御部60、室外ファン5の駆動モータへの駆動電力を出力するファンモータ(FM)用インバータ61、四方弁2を駆動する四方弁駆動部62、電動膨張弁4を駆動するPWM駆動部63である。
【0015】
とくに、インバータ30は、2つのスイッチング素子の直列回路を3組並列に接続してなる主回路と、この主回路の6つのスイッチング素子を駆動する駆動回路などの周辺回路とを、単一のパッケージに収納したモジュールいわゆるIPM(Intelligent Power Module)である。インバータ40も、同じ構成のIPMである。これらインバータ30,40が、室外制御基板7aの四つの角部のうち、対角位置の二つの角部に、互いに離れた状態で配置されている。すなわち、室外制御基板7aの下辺(下縁)における左端位置の角部にインバータ30が配置され、室外制御基板7aの上辺(上縁)における右端位置の角部にインバータ40が配置される。
【0016】
モータ駆動部20の具体的な構成を図3に示す。
3相交流電源10にノイズフィルタ21を介して直流電源回路22が接続され、その直流電源回路22の出力端とモータ1Mの相巻線Lu,Lv,Lwの一端との間に、相巻線Lu,Lv,Lwの一端への通電を制御するインバータ(第1インバータやマスタインバータともいう)30が接続されている。モータ1Mは、互いに非接続状態の3つの相巻線Lu,Lv,Lwを有する永久磁石同期モータである。
【0017】
直流電源回路22の出力端とモータ1Mの相巻線Lu,Lv,Lwの他端との間に、相巻線Lu,Lv,Lwの他端への通電を制御するインバータ(第2インバータやスレーブインバータともいう)40が接続されている。インバータ30,40を共通の直流電源回路22に接続する電源共通方式を採用している。電源共通方式に限らず、インバータ30,40を別々の直流電源回路に接続する電源絶縁方式を採用してもよい。
【0018】
インバータ30は、スイッチング素子である例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)31,32を直列接続しそのIGBT31,32の相互接続点が相巻線Luの一端に接続されるU相直列回路、IGBT33,34を直列接続しそのIGBT33,34の相互接続点が相巻線Lvの一端に接続されるV相直列回路、IGBT35,36を直列接続しそのIGBT35,36の相互接続点が相巻線Lwの一端に接続されるW相直列回路を主回路として含む。IGBT31~36には、回生用ダイオード(フリー・ホイール・ダイオードともいう)31a~36aが逆並列接続されている。
【0019】
インバータ40は、IGBT41,42を直列接続しそのIGBT41,42の相互接続点が相巻線Luの他端に接続されるU相直列回路、IGBT43,44を直列接続しそのIGBT43,44の相互接続点が相巻線Lvの他端に接続されるV相直列回路、IGBT45,46を直列接続しそのIGBT45,46の相互接続点が相巻線Lwの他端に接続されるW相直列回路を主回路として含む。IGBT41~46には、回生用ダイオード41a~46aが逆並列接続されている。
【0020】
相巻線Luの他端と相巻線Lvの他端との相互間に、開閉器たとえばリレー51の常開形接点(リレー接点という)51aが接続されている。相巻線Lvの他端と相巻線Lwの他端との相互間に、開閉器たとえばリレー52の常開形接点(リレー接点という)52aが接続されている。リレー51,52は、後述のモータ制御部23により、付勢および消勢が互いに同期した状態で制御される。リレー接点51a,52aが閉成すると、相巻線Lu,Lv,Lwの他端が相互接続されて相巻線Lu,Lv,Lwが星形結線状態となる。リレー接点51a,52aが開放すると、相巻線Lu,Lv,Lwが非接続状態(オープン状態)となって相巻線Lu,Lv,Lwが電気的に分離する。
【0021】
インバータ30と相巻線Lu,Lv,Lwの一端との間の各通電ラインに電流センサ53u,53v,53wが配置され、これら電流センサ53u,53v,53wの検知信号がモータ制御部23に送られる。このモータ制御部23に、リレー51,52を付勢または消勢するリレー駆動部24が接続されている。
【0022】
モータ制御部23は、モータ1Mの停止時(圧縮機1の停止時)はリレー接点51a,52aを開放して相巻線Lu,Lv,Lwの非接続状態を保つが、モータ1Mの起動に際してはリレー接点51a,52aを閉成して相巻線Lu,Lv,Lwを星形結線しかつインバータ30を単独でスイッチングする星形結線モードを設定する。そして、モータ制御部23は、インバータ30による強制転流等の通電によるモータ1Mの起動後、電流センサ53u,53v,53wの検知結果からモータ1Mの速度(回転数)を推定し、その推定速度が主制御部60から指令される目標速度となるようにインバータ30の単独スイッチングを制御する(センサレスベクトル制御)。目標速度が低い間は、モータ1Mはインバータ30のみで駆動され、空調運転が継続される。続いて目標速度が上方向に変化し、それに伴って、モータ制御部23が、インバータ30によってモータ1Mの速度を上昇させていった結果、モータ1Mの推定速度が上昇して所定の高速度運転域に入った段階で、リレー接点51a,52aを開放して相巻線Lu,Lv,Lwを非接続状態としかつインバータ30,40を互いに協調してスイッチングするオープン巻線モードを設定し、推定速度が目標速度となるようにそのインバータ30,40の協調スイッチングを制御する(センサレスベクトル制御)。
【0023】
主制御部60は、主要な制御手段として第1制御部60aおよび第2制御部60bを含む。
【0024】
第1制御部60aは、室内温度センサ13の検知温度(室内温度)Taから当該冷凍サイクル装置の空調負荷を求め、求めた空調負荷に応じてモータ1Mの目標速度を設定し、設定した目標速度をモータ制御部23に指令する。
【0025】
第2制御部60bは、圧縮機1の停止時(モータ1Mの停止時)、インバータ30のスイッチング素子(IGBT)及びインバータ40のスイッチング素子(IGBT)を通る経路でモータ1Mの相巻線へ予熱用の電流を流す。
【0026】
具体的には、第2制御部60bは、圧縮機1の停止時(モータ1Mが停止し相巻線Lu,Lv,Lwが非接続状態)、モータ制御部23との連係により、インバータ30における上流側のスイッチング素子をオンしかつインバータ40における下流側のスイッチング素子のオン,オフを繰り返することにより、モータ1Mの相巻線に予熱用の電流を流す。オン,オフを繰り返すスイッチング素子のオン,オフデューティを調整することにより、相巻線への通電時間つまり相巻線の発熱量を適切な状態に設定することができる。なお、インバータ40における上流側のスイッチング素子のオン,オフを繰り返しかつインバータ30における下流側のスイッチング素子を連続してオンするようにしてもよい。要は、少なくとも1つの相巻線Lu,Lv,Lwに電流が流れるようにインバータ40とインバータ30のそれぞれのスイッチング素子をオン及びオフさせれば、通電された相巻線Lu,Lv,Lwが発熱する。ただし、継続して通電するとスイッチング素子や相巻線に流れる電流が過大になったり、スイッチング素子や相巻線が許容範囲を超えて過熱したりしてしまうため、相巻線への通電時間を制限するよう適宜定められた時間間隔でスイッチング素子をオン及びオフさせる必要がある。以下、相巻線Lu,Lv,Lwが非接続状態である時に圧縮機1を予熱することを両側予熱(または両側予熱運転)という。
【0027】
つぎに、圧縮機1の停止時に主制御部60が実行する制御を図4の予熱制御条件および図5のフローチャートを参照しながら説明する。フローチャート中のステップS1,S2…については、単にS1,S2…と略称する。
【0028】
外気温度Toが下降方向に変化するとき(S1のYES)、主制御部60は、外気温度Toが設定値To2未満であるか否かを判定する(S2)。外気温度Toが設定値To2未満でない場合(S2のNO)、主制御部60は、インバータ30,40の全てのIGBTをオフ状態に維持する予熱なしの処理を実行し(S4)、モータ1Mの相巻線Lu,Lv,Lwに予熱用の電流を流さない。ここで、設定値To2は、例えば5℃が用いられる。
【0029】
外気温度Toが設定値To2未満に下降した場合(S2のYES)、主制御部60は、インバータ30の上流側の2つのスイッチング素子たとえばIGBT31,33をオンし、このIGBT31,33とそれぞれ相巻線Lu,Lvを介して接続状態にあるインバータ40の下流側のIGBT42,44のオン,オフを繰り返す両側予熱運転を実行する(S3)。この両側予熱運転では、図3に破線矢印で示すように、直流電源回路22の正側出力端からインバータ30のIGBT31を通る経路で相巻線Luに予熱用の電流(直流電流)が流れ、その相巻線Luを経た電流がインバータ40のIGBT42を通る経路で直流電源回路22の負側出力端へと流れる。さらに、直流電源回路22の正側出力端からインバータ30のIGBT33を通る経路で相巻線Lvに予熱用の電流が流れ、その相巻線Lvを経た電流がインバータ40のIGBT44を通る経路で直流電源回路22の負側出力端へと流れる。
【0030】
相巻線Lu,Lvに電流が流れることにより、相巻線Lu,Lvが発熱し、その発熱によって圧縮機1内の寝込み冷媒および潤滑油が予熱される。この予熱により、次の圧縮機1の起動に際し、圧縮機1に加わる負荷が軽減され、圧縮機1が滑らかにかつ速やかに起動する。
【0031】
しかも、相巻線Lu,Lvに流れる電流がインバータ30のIGBT31,33およびインバータ40のIGBT42,44を通るので、インバータ30,40がそれぞれ発熱する。このインバータ30,40の発熱により、インバータ30,40が納められている電装品箱8の内部空間の温度が上昇する。
【0032】
とくに、インバータ30,40が室外制御基板7aの対角位置の二つの角部に互いに離れた状態で配置されており、離れた2つのインバータ30,40が発熱するので、外気温度Toが設定値To2未満に低下していても、電装品箱8の内部空間の温度を全体的に効率よく上昇させることができる。この効率のよい温度上昇により、室外制御基板7aに搭載されている各種電気部品が斑なく温められる。温められた電気部品は安定して動作するようになり、ヒートポンプ式冷凍サイクルの安定かつ信頼性の高い運転が可能となる。温め用の電気ヒータを新たに用意する必要がないので、コストの上昇を生じない。
【0033】
外気温度Toが上昇方向に変化するとき(S1のNO、S5のYES)、主制御部60は、外気温度Toが設定値“To2+ΔT”以上であるか否かを判定する(S6)。外気温度Toが設定値“To2+ΔT”以上でない場合(S6のNO)、主制御部60は、上記S3の両側予熱運転を継続する(S3)。ΔTは制御のチャタリングを防ぐためのヒステリシス値である。
【0034】
外気温度Toが設定値“To2+ΔT”以上に上昇した場合(S6のYES)、主制御部60は、上記S4の予熱なしの処理に移行する(S4)。この状態では、圧縮機1及び各種電気部品の温度が高いため、起動に備えて両者を予熱する必要はない。
外気温度Toに下降または上昇の変化がない場合(S1のNO、S5のNO)、主制御部60は、S1,S5の判定を繰り返す。
【0035】
なお、この第1実施形態では、両側予熱運転において、インバータ30の上流側の2つのIGBT31,33およびインバータ40の下流側の2つのIGBT42,44を通して2つの相巻線Lu,Lvに予熱用の電流を流す構成としたが、それに限らず、インバータ30の上流側の例えば1つのIGBT31およびインバータ40の下流側の1つのIGBT42を通して1つの相巻線Luのみに通電してもよい。さらに、インバータ30の上流側の3つのIGBT31,33,35およびインバータ40の下流側の3つのIGBT42,44,46を通して3つの相巻線Lu,Lv,Lwに予熱用の電流を流す構成としてもよい。2つの相巻線に通電する場合及び1つの相巻線にのみ通電する場合は、モータ1Mが回転を始める恐れはないが、3つの相巻線に通電する場合はモータ1Mが回転しない通電タイミング、オン,オフデューティ、または通電周波数を設定しておく必要がある。
【0036】
[2]第2実施形態について説明する。
主制御部60の第2制御部60bは、圧縮機1の停止時(モータ1Mの停止時)、外気温度Toが設定値(第2設定値)To2未満かつ設定値(第1設定値)To1(<To2)以上の場合、リレー接点51a,52aを閉成し、その開閉器51a,52aのいずれかおよびインバータ30における上流側のスイッチング素子および下流側のスイッチング素子を通してモータ1Mの相巻線へ予熱用の電流を流す片側予熱(以下、片側予熱運転という)を実行し、外気温度Toが設定値To1未満の場合、リレー接点51a,52aを開放し、インバータ30における上流側のスイッチング素子およびインバータ40における下流側のスイッチング素子を通してモータ1Mの相巻線へ予熱用の電流を流す両側予熱運転を実行する。ここで、To1は、各種電気部品の動作温度もしくは保存温度の下限値以上の温度であり、例えば-15℃である。
他の構成は第1実施形態と同じである。
【0037】
圧縮機1の停止時に主制御部60が実行する制御を図6の予熱制御条件および図7のフローチャートを参照しながら説明する。
【0038】
外気温度Toが下降方向に変化するとき(S11のYES)、主制御部60は、外気温度Toが設定値To2未満であるか否かを判定する(S12)。外気温度Toが設定値To2未満でない場合(S12のNO)、主制御部60は、インバータ30,40の全てのIGBTをオフ状態に維持する予熱なしの処理を実行し(S16)、モータ1Mの相巻線Lu,Lv,Lwに予熱用の電流を流さない。
【0039】
外気温度Toが設定値To2未満に下降した場合(S12のYES)、主制御部60は、外気温度Toが設定値To1未満であるか否かを判定する(S13)。外気温度Toが設定値To1未満でない場合(S13のNO)、主制御部60は、リレー接点51a,52aを閉成するとともに、インバータ30における上流側のIGBT31をオンしかつ同インバータ30における下流側のIGBT34のオン,オフを繰り返す片側予熱運転を実行する(S15)。
【0040】
この片側予熱運転では、図8に破線矢印で示すように、直流電源回路22の正側出力端からインバータ30のIGBT31を通る経路で相巻線Luに予熱用の電流が流れ、その相巻線Luを経た電流がリレー接点51aを通って相巻線Lvに流れ、その相巻線Lvを経た電流がインバータ30のIGBT34を通る経路で直流電源回路22の負側出力端へと流れる。
【0041】
相巻線Lu,Lvに電流が流れることにより、相巻線Lu,Lvがそれぞれ発熱し、その発熱によって圧縮機1内の寝込み冷媒および潤滑油が予熱される。この予熱により、次の圧縮機1の起動に際し、圧縮機1に加わる負荷が軽減され、圧縮機1が滑らかかつ速やかに起動する。
【0042】
この場合、予熱用の電流が相巻線Lu,Lvの直列回路に流れるので、その予熱用の電流の値は、第1実施形態のように相巻線Lu,Lvにそれぞれ流れる予熱用の電流の合計値よりも小さくなる。予熱用の電流の値が小さいとIGBT31,34の発熱量も小さくなるが、外気温度がまだ設定値To1未満に下降していないので、電装品箱8の内部空間および電気部品を温める必要はなく、圧縮機1の起動時に問題は生じない。また、予熱用の電流の値が小さい分だけ、消費電力(待機電力ともいう)を抑制することができる。
【0043】
その後、外気温度Toが設定値To1未満に下降した場合(S13のYES)、主制御部60は、リレー接点51a,52aを開放するとともに、インバータ30における上流側のIGBT31をオンしかつインバータ40における下流側のIGBT42のオン,オフを繰り返す両側予熱運転を実行する(S14)。
【0044】
この両側予熱運転では、第1実施形態において、すでに説明した通り、図3に破線矢印で示すように、直流電源回路22の正側出力端からインバータ30のIGBT31を通る経路で相巻線Luに予熱用の電流が流れ、その相巻線Luを経た電流がインバータ40のIGBT42を通る経路で直流電源回路22の負側出力端へと流れる。
【0045】
相巻線Luに予熱用の電流が流れることにより、相巻線Luが発熱し、その発熱によって圧縮機1内の寝込み冷媒および潤滑油が予熱される。
【0046】
しかも、相巻線Luに流れる電流がインバータ30のIGBT31およびインバータ40のIGBT42を通るので、インバータ30,40がそれぞれ発熱する。このインバータ30,40の発熱により、電装品箱8の内部空間の温度が上昇する。
【0047】
とくに、インバータ30,40が室外制御基板7aの対角位置の二つの角部に互いに離れた状態で配置されており、その離れた2つのインバータ30,40が発熱するので、外気温度Toが設定値To1未満に冷えていても、電装品箱8の内部空間の温度を全体的に効率よく上昇させることができる。この効率のよい温度上昇により、室外制御基板7aに搭載されている他の電気部品を斑なく温めることができる。温められた電気部品は安定して動作するようになり、よってヒートポンプ式冷凍サイクルの安定かつ信頼性の高い運転が可能となる。
【0048】
外気温度Toが上昇方向に変化するとき(S11のNO、S17のYES)、主制御部60は、外気温度Toが設定値“To1+ΔT”以上であるか否かを判定する(S18)。外気温度Toが設定値“To1+ΔT”以上でない場合(S18のNO)、主制御部60は、上記S14の両側予熱運転を継続する(S14)。
外気温度Toが設定値“To1+ΔT”以上に上昇した場合(S18のYES)、主制御部60は、外気温度Toが設定値“To2+ΔT”以上であるか否かを判定する(S19)。外気温度Toが設定値“To2+ΔT”以上でない場合(S19のNO)、主制御部60は、上記S15の片側予熱運転に移行する(S15)。
【0049】
外気温度Toが設定値“To2+ΔT”以上に上昇した場合(S19のYES)、主制御部60は、上記S16の予熱なしの処理に移行する(S16)。
【0050】
外気温度Toに下降または上昇の変化がない場合(S11のNO、S17のNO)、主制御部60は、S11,S17の判定を繰り返す。このように制御の切り替えを判定する外気温度Toにヒステリシスを設けているのは、閾値近傍で頻繁な切り替えが繰り返されるのを防止するためである。
【0051】
[変形例]
上記実施形態では、インバータ30を室外制御基板7aの下辺(下縁)における左端位置の角部にインバータ30が配置し、インバータ40を室外制御基板7aの上辺(上縁)における右端位置の角部に配置したが、インバータ40を室外制御基板7aの下辺(下縁)における右端位置の角部に配置してもよい。この場合、インバータ30の上方位置に存する電気部品にインバータ30の発熱が効率よく上昇して伝わることに加え、インバータ40の上方位置に存する電気部品にインバータ40の発熱が効率よく上昇して伝わる。なお、インバータ30,40を2つの制御基板に分けて搭載し、これら2つの制御基板を同じ電装品箱8内の互いに離れた位置に収容する構成としてもよい。この場合、2つの制御基板を電装品箱8内の下方に配置することが望ましい。
【0052】
上記各実施形態では、開閉器がリレー接点51a,52aである場合を例に説明したが、半導体スイッチを開閉器として用いることもできる。
上記各実施形態では、圧縮機の駆動用モータとして用いるオープン巻線モータを例に説明したが、他の用途に用いるオープン巻線モータについても同様に実施できる。
【0053】
その他、上記各実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な各実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態や変形は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
A…室外ユニット、1…圧縮機、1M…オープン巻線モータ、Lu,Lv,Lw…相巻線、6…外気温度センサ、7…室外制御部、7a…室外制御基板、8…電装品箱、20…モータ駆動部、23…モータ制御部、30…インバータ(第1インバータ)、40…インバータ(第2インバータ)、51a,52a…リレー接点(開閉器)、60…主制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8