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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/28 20060101AFI20230130BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20230130BHJP
   E04F 13/02 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
B05D1/28
B05D5/06 101B
E04F13/02 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019066967
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020163303
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000159032
【氏名又は名称】菊水化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】有賀 秀仁
(72)【発明者】
【氏名】山内 秀樹
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-036348(JP,A)
【文献】特開2010-234305(JP,A)
【文献】特開2019-013863(JP,A)
【文献】特開2013-072227(JP,A)
【文献】特開昭61-074680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B05C 1/00-21/00
E04F 13/00-13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改修工事の塗装で、模様の高低差が5~15mmの範囲の凹凸部を有する被塗装面に、
隠ぺい率が90以上の下塗用塗料を被塗装面全面に塗装し、塗装用ローラーの塗料保持層が凹凸部の高低差より薄い厚みの塗装用ローラーを用いて上塗用塗料を凹凸部の凸部に塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
改修工事の塗装で、模様の高低差が5~15mmの範囲の凹凸部を有する被塗装面に、
隠ぺい率が90以上の下塗用塗料を凹部のみを刷毛で塗装し、塗装用ローラーの塗料保持層が凹凸部の高低差より薄い厚みの塗装用ローラーを用いて上塗用塗料を凹凸部の凸部に塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の塗装方法であって、
凹凸部の凸部に高低差が1~5mmの範囲の小凹凸部を有し、塗料保持層が小凹凸部の高低差より薄い厚みの塗装用ローラーを用いて、
前記上塗用塗料と色差ΔEが1以上で、隠ぺい率が90以上である小凸部用塗料を小凹凸部の凸部を塗装する塗装方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の塗装方法であって、
凹凸部の凸部が意匠材であり、凹部が目地部である塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、凹凸状の模様のある被塗装面に対しての塗装であって、その凹凸面の凸部と凹部では色調の異なる仕上げ面を形成することのできる塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、凹凸のある下地面(平坦な下地に塗材を塗装することによって形成された凹凸面あるいはエンボス加工された凹凸のある基材の両者を含む)に対して、その表面を塗り分ける発明がいくつか存在した。
例えば、特許文献1では、着色材料により凹凸面を有する下塗り層を設け、凸部頂を平面にした後、平面部に着色層を設け、全面に透明塗料を施す工法が記載されている。この工法によれば、凸部とその他の部分に色調の異なる仕上げ面を提供することができる。
【0003】
また、特許文献2では、被塗物基材が基底面と一段高い第1段面と更に一段高い第2段面とを有し、塗膜が被塗物基材の一方面に沿ってその全面に形成された下地乾燥塗膜と被塗物基材の第1段面上及び第2段面上に下地乾燥塗膜を介して形成された下地乾燥塗膜と色調の異なる第1着色塗膜と被塗物基材の第2段面上に下地乾燥塗膜及び第1着色塗膜を介して形成された第1着色塗膜と色調の異なる第2着色塗膜で構成されている多色化粧板及びその製造方法が記載されている。
【0004】
この方法によれば、工場等でのライン生産においてより少ない工程で、多彩色で、立体感のある凹凸模様を有し、高級感もあるような多色化粧板を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭51-11861号公報
【文献】特開2000-167478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の開示では、意匠的には、優れているものの、その凹凸面の凸部頂を平面にする必要がある。そのため、手間や平面にするために凸部を削る際に粉塵が発生することがある。又、その意匠も凸部が平坦となり限定的となる。
特許文献2の開示では、多段面を有する被塗物基材の表面を段差や凹凸等に応じてそれぞれ異なるローラーの条件、塗装の条件を整えロールコーターにより塗装するもので、その都度、塗装条件を整えなければならないことになる。又、その塗装も水平面に対して行うものである。
【0007】
また、生産ラインでの塗装は、比較的容易であるが、建築現場での塗装であっては、ロールコーターなどの塗装機械を用いることができないため、このような塗装を行うことは、困難である。
本開示は、段差のある凹凸面のある被塗装面の凸部に対して塗装するものであり、その被塗装面の水平や垂直など方向や塗装環境に関わらず容易に塗装することができ、凸部と凹部との色が異なる意匠的に優れた仕上げ面を形成できる塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
改修工事の塗装で、模様の高低差が5~15mmの範囲の凹凸部を有する被塗装面に、隠ぺい率が90以上の下塗用塗料を被塗装面全面に塗装し、塗装用ローラーの塗料保持層が凹凸部の高低差より薄い厚みの塗装用ローラーを用いて上塗用塗料を凹凸部の凸部に塗装することである。
このことにより、劣化した下地の改修でも下地が透けることが少なく、被塗装面の水平や垂直などの方向や塗装環境に関わらず容易に凸部と凹部との色が異なる意匠的に優れた仕上げ面を形成することができる。
【0009】
改修工事の塗装で、模様の高低差が5~15mmの範囲の凹凸部を有する被塗装面に、 隠ぺい率が90以上の下塗用塗料を凹部のみを刷毛で塗装を行い、塗装用ローラーの塗料保持層が凹凸部の高低差より薄い厚みの塗装用ローラーを用いて上塗用塗料を凹凸部の凸部に塗装することである。
このことにより、凹凸部をより簡単に塗り分けることができ、凸部と凹部との色が異なる意匠的に優れた仕上げ面を形成することができる。
【0010】
凹凸部の凸部に高低差が1~5mmの範囲の小凹凸部を有し、塗料保持層が小凹凸部の高低差より薄い厚みの塗装用ローラーを用いて、前記上塗用塗料と色差ΔEが1以上で、隠ぺい率が90以上である小凸部用塗料を小凹凸部の凸部を塗装することである。
このことにより、容易に複数色に塗り分けることができ、被塗装面全体がより立体的で深みがある仕上がりとすることができる。
【0011】
凹凸部のある被塗装面の凸部が意匠材であり、凹部が目地部である。
被塗装面がタイル貼り模様や石積み模様のような凸部が意匠材であり、凹部が目地部である場合、上記の塗装方法を行うことで、目地部を明確に表すことができ、これらの模様の存在を強調することができるためその効果をより発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】塗装用ローラー全体を示す斜視図の一例を示す。
図2】塗装用ローラーカバーの一例を示す。
図3】凸部の立ち上り角度の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の実施形態を説明する。
この開示は、模様の高低差が5mm~15mmの範囲の凹凸部を有する被塗装面を、塗装用ローラーの塗料保持層が凹凸部の高低差より薄い厚みの塗装用ローラーを用いて塗装することである。
【0015】
まず、この塗装方法での被塗装面とは、主に、壁面や床面,天井面など建築物などの表面であり、又これらを構築する外壁サイディング,内装ボード,天井材などの板材の表面のことである。
他にも塗装することが可能なものも含まれ、家具や什器などの表面などもある。
【0016】
この塗装には、一般的に用いられる塗料で、これらには、水系塗料や溶剤系のものが有る。
そのまま塗装することができる1液型の塗料や硬化剤を必要とする2液型のものなどがある。この中でも近年、塗装環境などから水系塗料が用いられることが多くなってきている。
【0017】
この水系塗料は、水溶性又は水分散型の合成樹脂をバインダーとしたもので、JIS K 5660にあるつや有合成樹脂エマルションペイント,JIS K 5663にある合成樹脂エマルションペイント,JIS K 5668にある合成樹脂エマルション模様塗料などが挙げられる。
この中でも塗料により形成される塗膜の耐久性から水分散型の合成樹脂である合成樹脂エマルションをバインダーとした水系塗料が使われることが多い。
【0018】
合成樹脂エマルションは、乳化重合のような常用の重合技術で製造することができる。
この合成樹脂エマルションは一般的なもので良く、アクリル樹脂,シリコーン樹脂,スチレン樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂などの樹脂により製造された合成樹脂エマルションなどが挙げられる。
【0019】
このバインダーの他に白色顔料,体質顔料や着色顔料などの顔料成分、充填材や艶消し剤などのフィラー成分、湿潤剤や分散剤や消泡剤などの界面活性剤、凍結防止剤,可塑剤や造膜助剤などの高沸点溶剤、増粘剤などの粘性調整剤などにより構成されているものである。
また、必要に応じ、pH調整剤,防腐剤,防黴剤,防藻剤,抗菌剤,吸着剤,紫外線吸収剤,酸化防止剤,光安定剤等のような一般に塗料製造に配合されている。又、繊維や艶消し剤などを添加することもある。
【0020】
塗装用ローラーは、一般的に市販されているものを用いることができ、その塗装用ローラー13全体を図1に示す。
この塗装用ローラーは、図1に示したように塗装用ローラーカバー11をローラー器具12に装着することにより塗装用ローラー13を構成する。
【0021】
このローラー器具12は、把手14と支持部15とローラー支持体16により構成されている。
把手14は、この塗装用ローラー13を塗装に用いる場合に作業員が手で持って塗装作業を行う時に使うための持ち手であり、ローラー支持体16は、塗装用ローラーカバー11をローラー器具12に固定する部分であり、把手14とローラー支持体16を繋ぐ部分が支持部15である。
【0022】
図2には、円筒状部材17と塗料保持層18により構成されている塗装用ローラーカバー11の一例を示したものである。この塗装用ローラーカバーは、円筒状部材17に塗料保持層18が配置されているものである。
円筒状部材17は、塗料保持層18を固定させ、ローラー支持体16を挿入し、ローラー器具12と一体させるためのものである。
【0023】
塗料保持層18は、塗料を含められることができるものであり、繊維毛状のものやスポンジ状のものが用いられ、円筒状部材17の表層に配置される。
多くの場合、繊維毛状のものが使われ、この塗装用ローラーは、円筒状部材17に繊維毛を植毛して作られているもので、ウールローラーと呼ばれるものなどがあり、繊維毛状が羊毛状のものを用いたものがある。
【0024】
このウールローラーは、毛丈,素材,サイズや形状などの異なったものが多様にある。
ウールローラーは、大きく分けると3種類に分類でき、円筒状部材17の表面から毛先までの長さ(以下、毛足)で分類されている。この毛足が塗料保持層18になる。
【0025】
毛足が4~5mm程度と短い短毛ローラー,毛足が13mm程度と中程度の長さの中毛ローラーや毛足が20mm以上の長さを持つ長毛ローラーがある。
また、必要に応じこの毛足を切断などすることにより、塗料保持層18を調整することも可能である。
【0026】
この短毛ローラーは、毛足が短いことから滑らかな仕上がりを得ることができ、塗装を均一に保ちやすく、外壁の模様をそのまま活かした状態で塗装する場合に用いられることが多い。
中毛ローラーは、最も広く使われているウールローラーで、長毛ローラーは、凸凹のある塗装面でも毛足が長いので容易に塗装することができるものである。
【0027】
スポンジ状の塗装用ローラーは、スポンジローラーや砂骨ローラーと呼ばれ、そのスポンジの厚みや空隙を変えることで、塗料保持層18を調整することができる。
この塗料保持層18をその塗装対象となる被塗装面の凹凸により使い分けることになる。
【0028】
この塗料保持層18は、その内部に塗料を含ませることができる空間が有り、塗料に浸し圧力を掛け、変形させ圧力を開放すると空間の空気と置換される形で液体を吸い取り塗料を保持することができる。
このように保持された塗料は、被塗装面に接し、塗装時の圧力により放出され、塗装することができる。
【0029】
この塗料保持層18が被塗装面の凹凸部より薄い厚みであることが必要である。この塗料保持層18が被塗装面の凹凸部より厚い場合では、凹部にも塗装を行うことになり、凸部のみを塗装することができなくなり、凹部にも塗料が付着してしまい凹部と凸部で色調の異なる仕上げ面を形成することができない。
また、薄過ぎる場合では、塗料の保持量が少なくなり、塗装の手間が掛かることになる。
【0030】
塗装用ローラーの塗料保持層18の長さLは、50mm~300mmの範囲のものが好ましく用いられる。50mmより小さい場合では、塗装作業での塗り継ぎが多くなり、塗装斑が目立つことがある。
また、300mmより大きい場合では、扱い難いことがある。100~200mmの範囲のものであれば作業が行い易く、塗り継ぎが比較的少なくなるためより好ましいものである。
【0031】
塗料保持層18の外径が直径で20mm~75mmの範囲が好ましく、この範囲であることで、塗装作業性に適したものであり、保持することができる塗料の量が適切となり、安定的に塗装することができるものである。
凹凸部全体を塗装する場合には、塗装用ローラーで塗装することも可能であるが、エアースプレーガンやエアレススプレーガンによるスプレー塗装や刷毛での塗装も可能である。
【0032】
このスプレー塗装では、被塗物全面を塗装する場合、塗装用ローラーにより塗装する場合より効率的に均一に塗装することができる。その後、塗料保持層18が凹凸部の高低差より小さい厚みの塗装用ローラーを用いて凹凸部の凸部のみを塗装し、凹凸部をより容易に塗り分けることができる。
また、刷毛での塗装の場合は、凹部のみを刷毛で塗装を行い、その後、塗料保持層18が凹凸部の高低差より小さい厚みの塗装用ローラーを用いて凹凸部の凸部のみを塗装し、凹凸部をより簡単に塗り分けることができる。
【0033】
この被塗装面の模様として、高低差が5mm~15mmの範囲の凹凸部を有するものであり、タイル調や石張り調,石積調など建築物の外観として使用されているものが代表例として挙げられる。
これらは、タイルや石などの意匠材で凹凸を形成する場合もあり、タイルなどの意匠材とその周辺にある目地とにより壁面などに凹凸形状を構成する。
【0034】
これらのタイル貼り模様,石積み模様は、その意匠材と目地によりその模様を構成されるもので、意匠材の部分を凸部とし、目地部を凹部としたものである。
このような模様における目地部は、凹部色を明確に表すこととなり、タイル貼り模様あるいは石積み模様の存在を強調することができる。
【0035】
この凹部である目地の幅は、2mm~15mmの範囲であることが多く、意匠的には、4mm~8mmにあるもの好ましく用いられる。この範囲内であれば、目地である凹部の塗装が比較的行い易いものである。
また、モルタルや塗材によって形成されたコテ塗り調や吹付け模様調,エンボス調など任意の凹凸形状を作ることも可能であり、これにより、高低差が5mm~15mmの範囲の凹凸部を形成する場合もある。
【0036】
さらに、これらの模様を板材などに切削やプレスによる加工で、高低差が5mm~15mmの範囲の凹凸部を形成する場合もある。
この凹凸部の高低差が5mm~15mmの範囲であり、好ましくは7mm~10mmの範囲である。
【0037】
5mmより低い場合では、凸部と凹部との色が異なる仕上げ面を形成できることが困難な場合が生じ、意匠的に欠けることがある。これは、凹部の幅などその形状にもよるが、凸部の塗装時に凹部の一部に塗料が付いてしまうことがある。
15mmより高い場合では、塗装用ローラーの塗料保持層が厚くなるため塗装用ローラーが大きくなり、その塗料保持層に含まれる塗料の量も多くなり、塗装作業が難しくなる場合がる。
【0038】
また、塗料の量が多くなることで、塗装中に塗料が垂れたりすることもあり仕上がりが悪くなることがある。
さらに、平坦部に15mmより高い凸部を形成する場合では、その凸部を形成するための塗材やモルタルなどの材料が多くなり、板材に負荷が掛かることにもなる。
【0039】
この凹凸部の高低差が7mm~10mmの範囲内であることが好ましく、この範囲内であれば、塗装作業が容易となり、凸部と凹部との色が異なる仕上げ面を形成できることができ、意匠的に優れた仕上がりを得ることができる。
この被塗装面にある凸部のうち隣り合うもの同士の間の間隔は必ずしも一定でなくてもよい。すなわち、凸部は必ずしも規則的に配置されている必要はなく、ランダムに配置されていてもよい。
【0040】
凹凸部の凸部に高低差が1~5mmの範囲の小凹凸部を有するものが好ましいものである。
このことにより、凸部に陰影ができ、風合いや質感が生まれ、立体的でボリューム感のあるものとなり、意匠感の優れた仕上りとすることができる。
【0041】
この凹凸部,小凹凸部のいずれか又は両方の一部又は全部の立ち上がり角度が5~90°の範囲であるものが好ましい。
これにより、立ち上り部分が塗り易いものである。又、その立ち上り部分も比較的簡単に塗装することで、凸部がより立体的になりより意匠感に優れた仕上がりを容易に得ることができる。
【0042】
この立ち上がり角度が90°を超える場合は、各凸部の立ち上がり部分に塗装することが困難になり、5°未満の場合には、立体的でボリューム感のある意匠を実現することが難しくなることがある。
より好ましくは、10~60°の範囲であり、この範囲内であれば、立体的でボリューム感のある意匠となり、塗装もし易いものとなる。
【0043】
この立ち上がり角度とは、図3においてαで示される角度のことであり、被塗装面の表面(又は凸部の周辺部)と凸部の立ち上がり部分との間のなす角度と言い換えることもできる。
図3に凸部の立ち上り角度の一例を示す。
【0044】
この図3に示されている凸部の場合では、凸部の頂点を除き、凸部を画定している面の全体が被塗装面の表面に対して傾斜している。
また、図に示されている凸部の場合では、凸部の立ち上がり部分から頂点に近づくにつれて、凸部を画定している面の接線の傾きが徐々に小さくなっているが、これに限定されない。
【0045】
例えば、凸部の立ち上がり部分から頂点に近づくにつれて、同接線の傾きが徐々に大きくなる部分又は変わらない部分を含んでもよい。
この立ち上り部の立ち上り部分から凸部までの間のうち中間部から下部までの間までが塗装されていることが好ましい。これにより、より立体的でボリューム感のある意匠となる。
【0046】
この凹凸部が形成された板材に対して、本開示の塗装をすることもあり、この加工された板材により構築された建築物に対して塗装する場合もある。
これら被塗装面に対しての塗装方法は、工場内での塗装に用いられる他に、既に下地となる面が固定された状態あるいは、組み立てられた状態にある建築物への現場塗装等においても利用可能となる。
【0047】
この建築物では、劣化した下地の改修工事としての塗装には、その建築物の意匠感が向上することもあり、好適に用いられ、この塗装方法では、被塗装面の水平や垂直など方向や塗装環境に関わらず容易に塗装することができるため、既存建築物の改修工事において好適に用いられる。
塗装環境が多様な改修工事では、容易に凸部と凹部との色が異なる多色を用いた意匠的に優れた仕上りを得ることができる。
【0048】
この被塗装面は、既存の色を利用して行うことも可能ではあるが、改修工事に用いられる場合などは、被塗装面全体を塗装した後に、塗料保持層が凹凸部の高低差より薄い厚みの塗装用ローラーを用いて凹凸部の凸部を塗装することが好ましく用いられる。
これにより、凹凸部を任意の色により容易に塗り分けることができ、色彩豊かな意匠的に優れた仕上がりとすることができる。
【0049】
これらにより構成される塗装方法を実施形態により詳細に説明する。
実施形態1の塗装方法では、戸建て住宅の改修工事を対象としたもので、その住宅の外壁には、工場で塗装された塗装済みのサイディングボートが使われている。
【0050】
このサイディングボードの表面は、210mm×60mmのタイル調の模様が規則正しく表現されていて、その目地部になる凹部の幅が10mmである。凹凸の高低差は、8mmである。
凸部であるタイル調の表面は、平坦であり、その凸部の立ち上がり角度が60°である。
【0051】
この塗装には、壁面全体を塗装する下塗用塗料と凸部を塗装する上塗用塗料の2種類の塗料を用いた。
この2種類の塗料は、一般的に用いられる1液型の水系塗料であり、JIS K 5660にある合成樹脂エマルションペイントに該当するものである。
【0052】
この水系塗料は、塗装作業性などの塗料適性、耐水性などの塗膜の物性などから、アクリル樹脂より製造されたアクリル系合成樹脂エマルションをバインダーとしたものである。
このアクリル系合成樹脂エマルションは、(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸ブチル,アクリル酸2-エチルヘキシル,アクリル酸デシルなどのモノマー類より製造された(コ)ポリマーからなるものである。
【0053】
この下塗用塗料は、黒色であり、上塗用塗料は、グレー色であり、白色顔料,体質顔料や着色顔料を組み合わせ、調色を行ったものを用いた。
塗装用ローラーは、一般的に市販されているもので、塗料保持層18の長さLは、160mmの繊維毛状のウールローラーを用いた。
【0054】
下塗用塗料は、塗料保持層18の外径が直径で40mm、その毛足が20mmの長毛ローラーを使い、上塗用塗料には、塗料保持層18の外径が直径で20mm、その毛足が4mmの短毛ローラーを使用した。
まず、プライマーを下塗用塗料の塗装に用いる長毛ローラーを使い塗装を行った。これによりサイディングボードの凹凸に関わらず全面に均一に塗装することができた。
【0055】
次に、下塗用塗料の塗装を行った。プライマー同様に長毛ローラーを用いることで全面を均一に塗装することができ、目地部の底部まで黒色に塗装することができた。
このように下塗用塗料を塗装した後に上塗用塗料の塗装を行った。これには、短毛ローラーを使用することで、タイルを表現した凸部の表面を均一に塗装することができ、目地が黒色で、グレーのタイルが貼ってあるかのような仕上がりとなった。
【0056】
このように凹凸面の凸部と凹部で色調の異なる仕上げ面を形成することができ、凹凸部を任意の色により容易に塗り分けることができ、色彩豊かな意匠的に優れた仕上がりとすることができた。
戸建て住宅の改修工事のような塗装環境であっても容易に塗装することができ、この実施形態1の凸部のみ塗装する場合の凹部など塗装しない箇所を養生テープ等で覆うことなく塗り分けることができる。
【0057】
このように実施形態1では、凹凸部の全体を塗装した後に凸部を塗装することになるため、下塗用塗料と上塗用塗料とでは、同種の塗料を用いれば問題がない。
また、異種の塗料を用いる場合には、その密着性に問題ないことを確かめた後、利用することができる。
【0058】
このように塗り重ねを行うため、下塗用塗料により形成された塗膜の色などが透けないことが好ましいため、上塗用塗料の隠蔽率は、塗り重ねをする際に下地が透けない程度の隠ぺい率を持った塗料を塗装することが好ましい。
そのため、隠ぺい率は90以上が好ましく、95以上がより好ましい。90以下の場合は、下地が透けることがあり色調の違いがぼやけることがある。95以上の場合は下地が透けることがなく意匠性に優れた風合いや質感が生まれる。
【0059】
下塗用塗料についても同様な隠蔽率であれことが望ましく、被塗装面の色などを隠すことができ下地が透けることなく、良好な仕上がりとなる。
さらに、それぞれの塗料の色差ΔEは、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、その色差ΔEが1未満の場合、目視では色調の違いを判別することが困難である。ΔEが2以上の場合は色調の違いを表現することができ意匠性の優れた風合いや質感が生まれる。
【0060】
次の実施形態2の塗装方法では、実施形態1と同様で戸建て住宅の改修工事で、その外壁には、塗装済みのサイディングボートが使われている。
このサイディングボードの表面は、210mm×60mmのタイル調で、その表面には、高低差が5mm以内の小凹凸のあるランダムな割れ肌模様が表現され、この割れ肌模様が小凹凸部にあたるものである。
【0061】
目地部に当たる凹部の幅が7mmであり、この高低差が15mmであり、凸部の立ち上がり角度が80°である。
このサイディングボードで構成される住宅の壁面の塗装を行った。この塗装に用いる塗料は、水系1液型のアクリル系合成樹脂エマルションペイントを用い、下塗用塗料,上塗用塗料と小凸部用塗料の3色を使用した。
【0062】
下塗用塗料(凹凸部の凹部用塗料)には、グレー色の塗料を使い、上塗用塗料(凹凸部の凸部用塗料又は、小凹凸部の凹部用塗料)は、濃黄色の塗料で、小凸部用塗料(小凹凸部の凸部用塗料)には、黄色の塗料を用いた。
塗装用ローラーは、一般的に市販されているもので、塗料保持層18の長さLは、160mmの繊維毛状のウールローラーを用いた。
【0063】
下塗用塗料は、ウールローラーの塗料保持層18の外径が直径で40mm、その毛足が20mmの長毛ローラーを用いた。
上塗用塗料には、ウールローラーの塗料保持層18の外径が直径で20mm、その毛足が10mmの中毛ローラーを使い、小凸部用塗料には、塗料保持層18の外径が直径で20mm、その毛足が2mmの短毛ローラーを使った。
【0064】
まず、壁面の洗浄を行い、乾いた後にプライマーを下塗用塗料の塗装に用いる長毛ローラーを使い塗装を行い、サイディングボードの凹凸部や小凹凸部に関わらず全面に均一に塗装を行った。
次に、下塗用塗料の塗装を、長毛ローラーを使って行い、壁面全面を均一に塗装した。
【0065】
下塗用塗料を塗装した後に上塗用塗料の塗装を行った。これには、中毛ローラーを使用することで、タイルを表現した凸部の表面の小凹凸部まで均一に塗装することができた。
その後、上塗用塗料が乾燥した後に、短毛ローラーを用い凸部の表面にある小凹凸部の小凸部のみに塗装を行った。
【0066】
この塗装により、目地部がグレー色で、凸部が黄色系のタイル調模様を表現でき、その凸部表面にある小凹凸部に陰影ができ、立体的でボリューム感のあるものとなり、意匠感の優れた仕上りとすることができた。
また、より容易に複数色に塗り分ることができ、複数色で塗り分けることで、多色でありながら整った色合いに仕上がり、被塗装面全体がより立体的で深みのある凹凸の意匠感のある仕上がりとすることができる。
【0067】
さらに、15mmある立ち上り部の立ち上り部分から凸部までの間の表面から10mmの間までが塗装されていることができ、より立体的でボリューム感のある意匠となった。
このように実施形態2では、凹凸部の全体を塗装した後に凸部を塗装し、小凸部を塗装することになるため、下塗用塗料,上塗用塗料と小凸部用塗料では、同種の塗料を使用することで密着性の良好なものとなった。又は、異種の塗料の場合には、密着性の確認したものを使用することも可能である。
【0068】
下塗用塗料,上塗用塗料と小凸部用塗料の塗り重ねを行うため、上塗用塗料の隠ぺい率が90以上、より好ましくは95以上であることで、下塗用塗料により形成された塗膜の色などが透けなく、意匠性に優れた風合いや質感が生まれる。
上塗用塗料と小凸部用塗料とでは、濃黄色と黄色の同系色の塗料であることから隠ぺい率が90より低くても問題がない。つまり、同系色の塗料であれば、隠ぺい率が90より低い場合でも塗膜の透けの影響が少ないことである。
【0069】
下塗用塗料については、隠蔽率で90以上であることから被塗装面の色などを隠すことができ下地が透けることなく、良好な仕上がりとなる。
さらに、下塗用塗料と上塗用塗料の色差ΔEが1以上であることから凹部と凸部との境界が明確にわかりメリハリのついた仕上がりとなった。
【0070】
上塗用塗料と小凸部用塗料との色差ΔEが1未満であったが、同系色の塗料で、陰影感を表現するためのものであったため、その陰影感は十分に表現された仕上りであった。
つまり、陰影感を表現する場合で、その色が同系色の塗料であれば、色差ΔEが1未満でもその陰影感が表現されるものであった。
【0071】
以上のように、この実施形態によれば次のような効果が発揮される。
模様の高低差が5mm~15mmの範囲で、好ましくは、その範囲が7mm~10mmの凹凸部を有する被塗装面を、塗装用ローラーの塗料保持層が凹凸部の高低差より薄い厚みの塗装用ローラーを用いて塗装することである。
【0072】
これにより、段差のある凹凸面のある被塗装面の凸部に対して塗装するもので、その被塗装面の水平や垂直など方向や塗装環境に関わらず容易に塗装することができ、凸部と凹部の色が異なる意匠的に優れた仕上げ面を形成できる。
更に、塗装作業が容易となり、凸部と凹部との色が異なる仕上げ面を形成できることができ、意匠的に優れた仕上がりを得ることができる。
【0073】
モルタルや塗材によって形成されたコテ塗り調や吹付け模様調,エンボス調などの模様の高低差が5mm~15mmの範囲の凹凸部を有する被塗装面を塗装用ローラーの塗料保持層が凹凸部の高低差より薄い厚みの塗装用ローラーを用いて塗装することである。
これにより、現場に合った任意の形状を作り、その凸部を形成するための塗材やモルタルなどの材料が比較的少なく、板材に負荷が掛かることも少なくなる。又、その被塗装面の水平や垂直など方向や塗装環境に関わらず容易に塗装することができ、凸部と凹部との色が異なる意匠的に優れた仕上げ面を形成できることである。
【0074】
凹凸部,小凹凸部のいずれか又は両方の一部又は全部の立ち上がり角度は5~90°の範囲で、より好ましくは、10~60°の範囲であるものである。
このことにより、立ち上り部分が塗り易いものである。又、その立ち上り部分も比較的簡単に塗装することで、凸部がより立体的になりより意匠感に優れた仕上がりを容易に得ることができる。更に、立体的でボリューム感のある意匠となり、塗装もし易いものとなる。
【0075】
この立ち上り部の立ち上り部分から凸部までの間のうち中間部から下部までの間までが塗装されているものである。
これにより、より立体的でボリューム感のある意匠となる。
【0076】
塗装用ローラーの塗料保持層の長さLが50mm~300mmの範囲で、好ましくは、100mm~200mmの範囲で、外径が直径で20mm~75mmの範囲である。
このことにより、扱い易く、塗装作業性に適したもので、保持することができる塗料の量が適切となり、安定的に塗装することができるもので、塗装作業での塗り継ぎが比較的少なくなり、塗装斑が目立ちにくいものである。
【0077】
被塗装面の高低差が5mm~15mmの範囲の凹凸部を有する模様がタイル調や石張り調,石積調のいずれかの意匠材で、その意匠材と目地によりその模様を構成され、意匠材の部分を凸部とし、目地部を凹部としたものである。
このことにより、凹部色を明確に表すこととなり、タイル貼り模様あるいは石積み模様の存在を強調することができる。
【0078】
凹部である目地の幅が2mm~15mmの範囲で、好ましくは、4mm~8mmにあることにより、目地である凹部の塗装が比較的行い易いものである。
【0079】
本開示の塗装方法が劣化した下地の改修工事としての塗装方法であることにより、被塗装面の水平や垂直など方向や塗装環境に関わらず容易に塗装することができ、塗装しない箇所を養生テープ等で覆うことなく塗り分けることができた。
また、凸部と凹部との色が異なる凹凸部を任意の色により容易に塗り分けることができ、色彩豊かな意匠的に優れた仕上がりとすることができる。
【0080】
凹凸部全体をスプレー塗装した後に、塗料保持層が凹凸部の高低差より小さい厚みの塗装用ローラーを用いて凸部のみを塗装することにより、効率的に均一に塗装することができる。
凹部のみを刷毛での塗装した後に、塗料保持層が凹凸部の高低差より小さい厚みの塗装用ローラーを用いて凹凸部の凸部のみを塗装することにより、凹凸部をより簡単に塗り分けることができる。
【0081】
本開示で使用される塗料により形成された塗膜の隠ぺい率が90以上で、より好ましくは、95以上であることにより、下地が透けることが少なく色の違いがぼやけることないもので、意匠性に優れた風合いや質感が生まれるものである。
それぞれの塗料の色差ΔEが1以上で、より好ましくは、2以上であることにより、色の違いを十分に判別することでき、色の違いを表現することができ意匠性の優れた風合いや質感が生まれる。
【符号の説明】
【0082】
11・・・塗装用ローラーカバー
12・・・ローラー器具
13・・・塗装用ローラー
14・・・把手
15・・・支持部
16・・・ローラー支持体
17・・・円筒状部材

図1
図2
図3