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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】スラブの連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/115 20060101AFI20230130BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20230130BHJP
   B22D 11/16 20060101ALN20230130BHJP
【FI】
B22D11/115 B
B22D11/00 A
B22D11/16 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019155613
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021030290
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】森下 雅史
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/115
B22D 11/00
B22D 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有量が0.10mass%以上0.18mass%以下であり、硫黄含有量が0.0001mass%以上0.005mass%以下である中炭素鋼を鋳造するに際し、電磁撹拌装置を用いるスラブの連続鋳造方法であり、
前記電磁撹拌装置は、鋳型の互いに対向する1対の長辺部のうち一方の長辺部の長手方向に沿って配置された第1リニアモータと、前記1対の長辺部のうち他方の長辺部の長手方向に沿って配置された第2リニアモータとを有し、
前記電磁撹拌装置により、前記鋳型内におけるメニスカスから0.05m以上0.25m以下の領域において、時間軸に対して磁束密度を正弦波状に振動させ、且つ、磁束密度のピーク位置が前記一対の長辺部の長手方向に移動する交流移動磁場を、静磁場と重畳させることなく単独で発生させることにより、前記1対の長辺部のうち一方の長辺部近傍の溶鋼と他方の長辺部近傍の溶鋼とを前記長辺部の長手方向に平行な方向について互いに逆向きに駆動するように溶鋼を旋回撹拌し、
前記鋳型内において、前記一対の長辺部の長手方向に平行な方向について、前記鋳型の両端の短辺部から100mm以内の領域を除く領域における交流移動磁場の磁束密度Byを0.05T以上0.14T以下とし、
前記第1リニアモータのポール数N1を5以上6以下とし、
前記第2リニアモータのポール数N2を5以上6以下とし、
ここで、N1およびN2は自然数である、
下記式で算出される交流移動磁場の位相速度Vを0.3m/s以上1.0m/s以下とすることを特徴とするスラブの連続鋳造方法。
V=2・f・P
ここで、fは鋳型内の交流移動磁場の周波数(Hz)であり、
Pは電磁撹拌装置のポールピッチである
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型内溶鋼に磁場を作用させるスラブの連続鋳造方法に関する。特に大断面の中炭素鋼スラブを鋳造する機会が多い厚板向けスラブの連続鋳造において、鋳型内溶鋼に交流移動磁界を作用させて湯面直下の溶鋼を旋回攪拌しながら鋳造する連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼会社の鋼板製品は、1枚ずつ扁平な直方体状に切断して出荷される厚板製品と、長い鋼板を巻きとったコイル状態で出荷される薄板製品とに大別される。いずれの鋼板製品も圧延素材となるスラブ鋳片の殆どは連続鋳造により生産されているが、薄板と厚板とは、用途や要求される特性が異なるため、鋼種やスラブサイズも異なり、連続鋳造の設備や方法についても、簡単に比較すれば、およそ表1に示すような差が生じる事が多い。
【0003】
【表1】
【0004】
このうち、プレス成形などの塑性加工によって成形される薄板には、鋼種として、延性の優れた極低炭素鋼(炭素含有量が0.005mass%以下)や低炭素鋼(炭素含有量が0.10mass%未満)が採用されることが多い。極低炭素鋼や低炭素鋼は鋳造性も良く、2.0m/min程度の高い鋳造速度で連続鋳造しても、鋳造中に凝固殻が破断して内部の溶鋼が漏出する、ブレークアウトと呼ばれるトラブルを引き起こすリスクは小さい。しかしながら、極低炭素鋼や低炭素鋼には、鋳型内の湯面直下で、溶鋼中に懸濁する気泡や介在物が凝固界面に捕捉されて、スラブ鋳片表層部に気泡・介在物欠陥が生じやすいという問題がある。表層に気泡・介在物欠陥が存在したままのスラブ鋳片を圧延すると、圧延後の製品にも、スリバーと呼ばれる表面欠陥が発生しやすい。自動車外板など人の目に触れる部位に使用されることが多い薄板製品は、表面品質に非常に厳格であるため、薄板向けスラブ鋳片の表層気泡・介在物欠陥は、製品の歩留まり低下や、鋳片表層部を溶削して手入れするためのコスト増加に直結する、重大な問題である。
【0005】
鋳片表層の気泡・介在物欠陥を低減するために、連続鋳造鋳型内の溶鋼に交流移動磁場を作用させて旋回攪拌する電磁攪拌技術が利用されている(例えば、特許文献1参照)。
電磁攪拌を適用すると、鋳型内の湯面直下で凝固界面から気泡や介在物が洗い流される結果、スラブ鋳片表層の気泡・介在物欠陥が減少するのである。
本発明者も、薄板向け連続鋳造設備において、極低炭素鋼スラブ、低炭素鋼スラブの表層気泡・介在物欠陥が電磁攪拌によって低減する効果を確認し、実操業に適用することで、薄板製品のスリバー欠陥低減効果を享受してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-98398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、造船や建築などに用いられる厚板には、鋼種として、強度と溶接性のバランスに優れた中炭素鋼(炭素含有量が0.10mass%以上0.18mass%以下)が採用されることが多い。中炭素鋼は、極低炭素鋼や低炭素鋼に比べると、鋳片表層に気泡・介在物欠陥が捕捉されにくく、鋳片表層の気泡・介在物欠陥が問題になりにくい。その一方、中炭素鋼には、凝固時に包晶反応による変形が生じるため、鋳片表面に縦小割れが発生しやすいという問題がある。縦小割れを有するスラブをそのまま圧延すると製品欠陥につながる場合があるため、特に深い縦小割れ、すなわち、加熱炉中でスケールとともに除去されて無害化されないような深さ1.5mm以上の深い縦小割れ欠陥は、発生を防止する必要がある。中炭素鋼スラブの縦小割れ欠陥についても、鋳型内の湯面直下で溶鋼を旋回させる電磁攪拌を適用すると抑制効果が得られることが知られている。本発明者も、電磁攪拌設備を有する薄板向け連鋳機を使用して中炭素鋼スラブを鋳造し、この効果を確認した。しかしながら、中炭素鋼に極低炭素鋼や低炭素鋼と同様な電磁攪拌条件を適用した場合には、ブレークアウトが多発する問題が生じた。
【0008】
中炭素鋼には、凝固時の包晶反応に起因して縦小割れ欠陥が発生しやすい問題に加えて、鋳片表面が変形して鋳型と鋳片表面の間に空隙が生じ易いため、鋳型内での凝固が不均一になり、ブレークアウトも発生しやすいという問題がある。電磁攪拌を適用したことで中炭素鋼のブレークアウトが増加した原因は十分明確にできていないが、電磁攪拌を適用して鋳型内の湯面の変形が増加する事により、パウダーの噛み込みやパウダー切れを起こしてブレークアウトが増加した可能性がある。あるいは、電磁攪拌を適用して、浸漬ノズルからの高温の吐出流が局所的に加速された結果、吐出流の衝突による凝固遅れが助長され、ブレークアウトが増加した可能性もある。
【0009】
このため、中炭素鋼には、極低炭素鋼や低炭素鋼に比べて、攪拌力を弱めた条件で電磁攪拌を適用し、ブレークアウト防止と縦小割れ防止の両立を図ってきた。前述したように、中炭素鋼は、極低炭素鋼や低炭素鋼に比べると、気泡・介在物欠陥が生じにくいので、極低炭素鋼や低炭素鋼に比べて弱い攪拌力でも、気泡・介在物欠陥は問題ないレベル(鋳片表面を溶削するスカーフを省略して黒皮のまま圧延する操業を実施できるレベル)に抑制できている。(なお、鋼の硫黄含有量が多い場合には、中炭素鋼であっても、気泡・介在物欠陥が問題になる場合があるが、厚板向け中炭素鋼は、硫黄含有量が0.0001mass%以上0.005mass%以下に調整されていることが多く、このような中炭素鋼では、電磁攪拌の撹拌力を弱めた条件でも、気泡・介在物欠陥は問題とならない。)
【0010】
しかしながら、一般的に、連鋳機のスラブ断面サイズは、薄板向けより厚板向けの方が大きいので、電磁攪拌を厚板向け連鋳機に適用すると、薄板向け連鋳機での経験以上にブレークアウトが増加し、ブレークアウト防止と縦小割れ防止との両立が困難となる懸念がある。このため、近年は、鋳型内溶鋼に交流移動磁場を作用させる電磁攪拌だけでなく、静磁場を作用させて鋳造安定化(ブレークアウト防止)を図る鋳型内電磁ブレーキを併設し、電磁攪拌と電磁ブレーキとを切り替えて適用する方法や、同時に適用する方法も開発されている。しかしながら、電磁攪拌と電磁ブレーキを併設する方法は、設備費が大きくなるだけでなく、既存連鋳機を改造する場合、設置スペースの制約から適用できない場合も多い。
【0011】
本発明の目的は、特に断面サイズを限定するものではないが、大断面スラブが鋳造される事の多い中炭素鋼スラブの連続鋳造において、静磁場と交流移動磁場とを併用することなく、交流移動磁場のみを作用させて鋳型内の溶鋼を旋回攪拌させることにより、縦小割れを抑制するとともに、ブレークアウトをも安定して抑制できる連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は、上記知見を基に研究をさらに進めた。そして、これまでの中炭素鋼の電磁撹拌条件に加えて、電磁撹拌装置のポール数に着目することに至った。これらを含む条件で中炭素鋼を鋳造することにより、鋳型内の磁束密度や電磁力等を均一にできるという知見が得られた。また、鋳型内の磁束密度や電磁力等が均一になることにより、不均一凝固が改善されることがわかった。これにより、中炭素鋼の鋳造において、縦割れの発生およびブレークアウトの発生を抑制できることがわかった。
【0013】
本発明は、炭素含有量が0.10mass%以上0.18mass%以下であり、硫黄含有量が0.0001mass%以上0.005mass%以下である中炭素鋼を鋳造するに際し、電磁撹拌装置を用いるスラブの連続鋳造方法である。前記電磁撹拌装置は、鋳型の互いに対向する1対の長辺部のうち一方の長辺部の長手方向に沿って配置された第1リニアモータと、前記1対の長辺部のうち他方の長辺部の長手方向に沿って配置された第2リニアモータとを有する。前記電磁撹拌装置により、前記鋳型内におけるメニスカスから0.05m以上0.25m以下の領域において、時間軸に対して磁束密度を正弦波状に振動させ、且つ、磁束密度のピーク位置が前記一対の長辺部の長手方向に移動する交流移動磁場を、静磁場と重畳させることなく単独で発生させることにより、前記1対の長辺部のうち一方の長辺部近傍の溶鋼と他方の長辺部近傍の溶鋼とを前記長辺部の長手方向に平行な方向について互いに逆向きに駆動するように溶鋼を旋回撹拌する。前記鋳型内において、前記一対の長辺部の長手方向に平行な方向について、前記鋳型の両端の短辺部から100mm以内の領域を除く領域における交流移動磁場の磁束密度Byを0.05T以上0.14T以下とする。前記第1リニアモータのポール数N1を5以上6以下とする。前記第2リニアモータのポール数N2を5以上6以下とする。ここで、N1およびN2は自然数である。
下記式で算出される交流移動磁場の位相速度Vを0.3m/s以上1.0m/s以下とする。
V=2・f・P
ここで、fは鋳型内の交流移動磁場の周波数(Hz)であり、
Pは電磁撹拌装置のポールピッチである。
ポール数は、電磁撹拌装置の鋳型長辺方向長さWとポールピッチPを用いたW/Pで表される自然数である。ポールピッチとは、鋳型長辺方向に隣り合うN極とS極の間の距離である。電磁撹拌装置の鋳型長辺方向長さWは、電磁撹拌装置において鋳型長辺方向に並んだコイルの数Nc(-)と、鋳型長辺方向に隣り合うコイルの中心間隔C(m)とを用いて、以下の式によって表される。
W=Nc・C
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、中炭素鋼の鋳造において、縦割れの発生およびブレークアウトの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】連続鋳造機の一部を示す斜視図である。
図2】鋳型及び電磁撹拌装置の平面図(図1のII矢視図)ある。
図3】連続鋳造機の一部を示す模式断面図(図1のIII-IIIの面における断面図)である。
図4】鋳型内溶鋼の流速分布を示す図である。
図5A】磁束密度と鋳型幅中央(鋳型の幅方向中央)からの距離との関係を示す図である。
図5B】時間平均電磁力と鋳型幅中央(鋳型の幅方向中央)からの距離との関係を示す図である。
図6】電磁撹拌装置の変形例を示す平面図である。
図7】電磁撹拌装置の他の変形例を示す平面図である。
図8】電磁撹拌装置の他の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0017】
図1に、鋳型1、浸漬ノズル2および電磁撹拌装置3を示している。鋳型1、浸漬ノズル2および電磁撹拌装置3は、スラブの連続鋳造機の一部である。鋳型1は、互いに対向する一対の長辺部11、12と、互いに対向する一対の短辺部13、14とを有する。鋳型1内の鋳片横断面は、概略長方形である。浸漬ノズル2の下部は、鋳型1の中央付近に配置されている。電磁撹拌装置3は、第1リニアモータ3aと、第2リニアモータ3bとを有する。第1リニアモータ3aは、長辺部11の長手方向に沿って配置されている。第2リニアモータ3bは、長辺部12の長手方向に沿って配置されている。以下において、鋳型1内の鋳片横断面の長辺に平行な方向を、長辺方向又は鋳型長辺方向と称することがある。長辺方向は、幅方向と称することもある。鋳型1内の鋳片横断面の長辺に平行な方向とは、鋳型の平面視において長辺部11、12の長手方向に平行な方向である。
【0018】
スラブ連続鋳造用の鋳型は、鋳片幅(鋳片横断面の長辺方向長さ)が種々異なるスラブ鋳片を鋳造できるように、鋳型の短辺部13,14が長辺方向に可動に構成されている事が一般的であり、短辺部13と短辺部14の内壁同士の間隔を鋳型幅Wと呼ぶ。(通常、鋳型にはテーパを持たせているため、鋳型の上部と下部では鋳型幅が異なるが、スラブ連続鋳造の鋳型内電磁攪拌は鋳型上部に設置するので、ここでいう鋳型幅Wは、鋳型上部幅のことである。鋳型を抜けた後の鋳片は、更に熱収縮するので、鋳型幅Wは目標鋳片幅に対して熱収縮分だけ大きく設定する。)
【0019】
本実施形態では、炭素含有量が0.10mass%以上0.18mass%以下であり、硫黄含有量が0.0001mass%以上0.005mass%以下である中炭素鋼を鋳造する。鋳造速度は、鋳造開始直後や、鋳造終了間際などの非定常鋳造時を除くと、例えば0.7m/min以上1.6m/min以下である。鋳型1の内寸の長辺長さWは、可変長とする事が一般的であるが、その最大値は、例えば、1780mm以上2200mm以下である。鋳型1の内寸の短辺長さは、固定長とする場合もあれば可変長とする場合もあるが、例えば、230mm以上330mm以下である。
【0020】
第1リニアモータ3aおよび第2リニアモータ3bは、図2に示すように、極間巻き方式のリニアモータである。第1リニアモータ3aは、鉄芯21と、複数のコイル22-1、22-2、・・・、22-18とを有する。鉄芯21は、長辺部11の長手方向に平行な方向に延在している。複数のコイル22-1、22-2、・・・、22-18は、長辺方向に隙間なく並んでいる。長辺方向に隣り合う2つのコイル(例えば、コイル22-1とコイル22-2)は互いに接している。複数のコイル22-1、22-2、・・・、22-18は、鉄芯21の軸を周回するように、鉄芯21に巻回されている。
【0021】
第2リニアモータ3bは、第1リニアモータ3aと同様な構成である。第2リニアモータ3bは、鉄芯31と、複数のコイル32、33、34、35とを有する。鉄芯31は、長辺部12の長手方向に平行な方向に延在している。複数のコイル33-1、33-2、・・・、33-18は、長辺方向に隙間なく並んでいる。長辺方向に隣り合う2つのコイル(例えば、コイル32-1とコイル32-2)は互いに接している。複数のコイル33-1、33-2、・・・、33-18は、鉄芯31の軸を周回するように、鉄芯31に巻回されている。
【0022】
各コイルに図示しない交流電源が接続されている。電磁撹拌装置3には、例えば、2相交流電流や3相交流電流を用いる方式がある。図2に、3相交流電流を用いた電磁撹拌装置を示している。3相交流電流を用いる電磁撹拌装置は、60°ずつ位相が異なる電流コイル6つで、移動磁場のN極とS極を一組形成するものである。3相交流電流を用いる電磁撹拌装置において、N極の位置は、夫々の電流コイルに通電する交流電流の位相が60°変化する毎に、隣り合う電流コイルの中心間隔Cに相当する距離だけ移動する。S極の位置も、N極の位置の移動と同様に移動する。2相交流電流を用いる電磁撹拌装置は、90°ずつ位相が異なる電流コイル4つにより、移動磁場のN極とS極を一組形成するものである。N極の位置は、夫々の電流コイルに通電する交流電流の位相が90°変化する毎に、隣り合う電流コイルの中心間隔Cに相当する距離だけ移動する。S極の位置も、N極の位置の移動と同様に移動する。
【0023】
図2に、例として、3相交流電流を用いた電磁撹拌装置1のコイルに電流を流したときの、ある瞬間のN極とS極の位置を例示している。また、図2には、電磁撹拌装置1に3相交流電流を用い、電磁撹拌装置1のポール数Nが6である場合の、隣り合う電流コイルの中心間隔CとポールピッチPを示している。ポールピッチPとは、長手方向に隣り合うN極とS極において、N極の中心位置からS極の中心位置までの距離である。ポール数については、後述する。電磁撹拌装置3の構成は、図2に示すものに限られない。電磁撹拌装置の他の例については後述する。
【0024】
各コイルに交流電流を流すと、鋳型1内の溶鋼に交流移動磁場が発生する。この磁場は、時間軸に対して磁束密度が正弦波状に振動し、且つ、磁束密度のピーク位置が、長辺部11近傍と長辺部12近傍とにおいて長辺方向に互いに逆向きに移動する磁場である。これにより長辺部11近傍の溶鋼と長辺部12近傍の溶鋼とが長辺方向に互いに逆向きに駆動されることにより、溶鋼が旋回撹拌される。図2には、ある時点を基準(電流の位相=0°)として、その時点での磁極の位置と、電流の位相が進んだときに磁力線が移動する方向(黒色矢印)と、溶鋼が移動磁場に駆動されて撹拌される方向(白色矢印)とを示している。2相交流電流と3相交流電流の何れを用いた場合も、電流の位相が180°変化すると、N極とS極の位置が入れ替わり、電流の位相が360°変化すると、N極とS極の位置が電流の位相が0°だった元の状態と同じ位置に戻る。電流の位相が0°から360°まで変化する所要時間が周期T(s)、周期Tの逆数であるf=1/T(Hz、1/s)が周波数であるので、磁場が(磁束密度のピーク位置が)、距離Pだけ移動して、N極とS極の位置が入れ替わる所要時間は、T/2=1/(2・f)となり、磁場の移動速度(位相速度)Vは、V=2・P・fと表される。
【0025】
本実施形態では、鋳型1内の溶鋼に交流移動磁場を発生させるが、鋳型1内の溶鋼に、交流移動磁場に重畳して静磁場を発生させなくてよい。交流移動磁場を単独で発生させることにより、静磁場を重畳して発生させる場合に比べて、電磁撹拌装置3の構造が複雑化せず、消費電力の低減及び設備コスト低減を図ることができる。
【0026】
図2に示すように、長辺方向に隣り合うN極とS極の間の距離(ポールピッチ)をP(m)、電流コイル中心間距離をC(m)とすると、2相の電磁撹拌装置ではP=2・Cとなり、3相の電磁撹拌装置ではP=3・Cとなる。
【0027】
図2に示すW(m)は、鋳型長辺方向に並んだ電流コイルの数Nc(-)と、鋳型長辺方向に隣り合う電流コイルの中心間隔C(m)とを用いて、W=Nc・Cと表す事ができる。以下では、Wを電磁撹拌装置の鋳型長辺方向長さWと称することがある。上述したように、鋳型1の内寸の長辺長さは可変長とする事が一般的であり、鋳型1の内寸の長辺長さを最大値にして鋳造するときにも、鋳型内全体を効率良く電磁攪拌するために、電磁攪拌装置の長辺方向長さWは、鋳型1の内寸の長辺方向長さの最大値と概略等しくすることが望ましい。従って、鋳型1の内寸の長辺方向長さを最大値より小さくして鋳造する場合、電磁攪拌装置の長辺方向長さWは鋳型1の内寸の長辺長さより大きくなくなることが多い。電磁撹拌装置1のポール数Nが6である場合、電流コイルの数Ncは18個である。図2に示すように、第1リニアモータ3および第2リニアモータ4に、それぞれ、コイルが18個並んでいる。
【0028】
電磁撹拌装置の鋳型長辺方向長さW(m)とポールピッチ(隣り合うN極とS極の間の距離)P(m)から、ポール数N(-)は下記式で表される。
N=W/P
ここで、Nは、自然数である。
ポール数Nは、極数でもある。第1リニアモータ3aのポール数N1と第2リニアモータ3bのポール数N2は同じである。本実施形態では、電磁撹拌装置3のポール数を、第1リニアモータ3aのポール数N1又は第2リニアモータ3bのポール数N2とする。図2では、第1リニアモータ3aのポール数N1が6であり、第2リニアモータ3bのポール数N2が6である。この場合、電磁撹拌装置3のポール数は6である。
【0029】
電磁撹拌装置3は、図3に示すように、メニスカスから0.05m以上0.25m以下の領域Rに存在する溶鋼に交流移動磁場が発生するように配置されている。例えば、鋳型1の上端から下端までの鉛直方向長さl1が900mmであり、メニスカスが鋳型上端から鉛直下方向に100mm離れた場所に位置する場合、電磁撹拌装置3の鉄芯の上端をメニスカスの高さに一致させる。この場合、鉄芯として、例えば、上端から下端までの鉛直方向長さl2図3のl2参照)が300mmの鉄芯を用いる。この場合、鋳型1内のメニスカスレベルが例えば±30mm程度変化しても、メニスカスから0.05m以上0.25m以下の領域Rの溶鋼に交流移動磁場が発生させることができる。なお、メニスカスからの距離が0.05m以上0.25m以下の領域Rの溶鋼に交流移動磁場を発生させる方法は、上記に限定されない。
【0030】
鋳型1内には、図3に示すように、溶鋼5の上にフラックス6が浮遊している。溶鋼5が鋳型1によって冷却されることにより、鋳型1の壁面に沿って凝固殻7が形成される。凝固殻7において溶鋼5と接する面は、凝固界面8と称される。
【0031】
図4に、鋳型1内の溶鋼を撹拌したときの流速分布を示している。図4の流速分布は、鋳型1内において領域Rに存在する溶鋼の流速分布である。図4の縦軸は、領域Rの溶鋼流速である。図4の横軸は、領域Rにおける、凝固界面間の水平方向距離yである。図4の横軸の一端は、鋳型1の長辺部11に近い凝固界面A(例えば、図3のA地点)であり、図4の横軸の他端は、鋳型1の長辺部12に近い凝固界面B(例えば、図3のB地点)である。
【0032】
連続鋳造における凝固界面のような壁面近傍には、壁面から遠い主流部とは異なる境界層流れが生じる。鋳型内電磁攪拌や電磁ブレーキを適用せず、溶鋼に電磁力が作用しない条件下では、境界層に、流速が壁面からの距離に比例する粘性底層、流速が壁面からの距離の対数と直線関係にある対数則領域、粘性底層と対数則領域の中間に当たる遷移層等が存在する事が知られている。壁面近傍を溶鋼のような導電性の液体が流れ、壁面に垂直で強い静磁場が作用する場合、壁面近傍にハルトマン境界層と呼ばれる境界層が形成される事が知られている。ハルトマン境界層の厚さδHは、境界層外の主流の速度Uと境界層内の流速vとの差U-vが主流の最大流速Uの1/eとなる位置((U-v)/U=1/eとなる位置)までの壁からの距離と表すことができる。ただし、eは自然対数の底(e=2.71828・・・)である。図4では、一例として、境界層外の主流の速度が最大のときの速度をUとしている。
【0033】
ハルトマン境界層厚さδH(m)は、静磁場の磁束密度B(T)、導電性流体の電気伝導度σ(S/m)、導電性流体の粘性係数μ(Pa・s)を用いて、
δH=1/(B・(σ/μ)0.5)・・・(1)
と見積もられる。
【0034】
上記ハルトマン境界層は静磁場での考えであるが、本実施形態では鋳型内溶鋼に交流移動磁場を発生させている。交流移動磁場を発生させた場合について検討した結果、静磁場ではなく交流移動磁場を用いるスラブ連続鋳造の鋳型内電磁撹拌においても、交流移動磁場が壁面に垂直に作用する長辺鋳型凝固界面で、通常のハルトマン境界層と類似した、交流移動磁場ハルトマン境界層とも呼ぶべき、一種のハルトマン境界層が形成され、凝固界面から気泡・介在物を洗い流す効果には、この交流移動磁場ハルトマン境界層の厚さが影響する事がわかった。
【0035】
交流移動磁場ハルトマン境界層厚さδHaは、通常のハルトマン境界層との類推から、静磁場ハルトマン境界層厚さδHを見積もる(1)式における静磁場の磁束密度Bの代わりに、交流移動磁場の鋳型短辺方向成分の振幅B0、あるいは交流移動磁場の磁束密度の実効値Beff=B0/(√2)を用いて、
δHa=1/(Beff・(σ/μ)0.5
=1/(B0・(σ/2μ)0.5)・・・(2)
と見積もる事ができると考えられる。ここで、鋳型短辺方向成分の振幅B0は、特定の場所において時間変動する磁束密度の最大値(磁束密度の振幅)である。
【0036】
ここで、電磁撹拌装置3により、鋳型1内の溶鋼を旋回撹拌した場合、鋳型1内の主流の溶鋼の最大流速Uは、およそ
U=k・Beff・sqrt(W・f・P)・・・(A)
と見積もることができる。磁束密度の大きさは鋳型長片方向の位置によって変化するので、相乗平均的な考え方を採り入れると、(A)式はさらに、
U=k・sqrt(Bmax・Bmin・W・f・P)・・・(A')
となる。ここで、BmaxとBminは、リニアモータの中心高さで、鋳型壁面から10mm離れた位置について、交流移動磁場鋳型短辺方向成分の実効値の鋳型長辺方向分布を調べた時に、最大となる地点と最小となる地点における実効値である。
kは、比例定数である。溶鋼のUは実測困難なため、kの値を厳密に求める事は難しいが、溶鋼流速の指標となる事が知られている鋳片デンドライト傾角の測定結果から推算すると、およそ、k=2と見積もられる。
また、凝固界面近傍の流速uは、一方の凝固界面Aからの距離yを用いて
u=U・(1-exp(-(y/δHa))・・・(a)
と近似される。
ここで、δHa(m)は交流ハルトマン境界層厚さである。磁束密度が最小となる部位では、交流ハルトマン境界層厚さδHaは、上記(2)式から
δHa=1/(Bmin・(σ/2μ)0.5)・・・(b)
と表される。
凝固界面Aではy=0であるので、凝固界面Aの流速勾配は、(a)式をyで微分し、y=0としたときの
du/dy=U/δHa・・・(B)
により計算される。
上記(A')式および(B)式から、凝固界面Aの流速勾配は
du/dy=k・sqrt(Bmax・Bmin・f・P)/δHa・・・(C)
と見積もられる。
【0037】
凝固界面Aにおける流速勾配du/dyは、図4において、y=0における流速勾配(du/dy)である。
電磁攪拌を適用することで中炭素鋼の縦小割れが抑制されるメカニズムについては、凝固が均一化される事と関係づけて説明されることが多い。しかしながら、電磁攪拌を適用するとなぜ凝固が均一化されるかについては、明確にされていない。
電磁攪拌を適用しても凝固界面の溶鋼流速はゼロであるので、凝固界面の流速によって凝固が均一化されるわけではない。かといって、凝固界面から遠く離れた位置の流速が凝固の均一化に寄与するとも考えにくい。おそらくは、電磁攪拌によって鋳型幅全体にわたって凝固界面に流速勾配が付与される結果、溶鋼から凝固殻への熱伝達が増大し、湯面直下での凝固が抑制されると同時に均一化されて、縦小割れが抑制されるのだと考えられる。
従って、電磁攪拌による縦小割れ抑制効果は、凝固界面の流速勾配du/dyと密接に関係しているものと考えられる。
【0038】
一方、電磁攪拌の適用時に中炭素鋼のブレークアウトが発生しやすくなるメカニズムに関しては、前記のように明確ではないものの、湯面変形の増加や、吐出流の加速と関係している可能性が高い。これらの要因は、凝固界面の流速勾配du/dyよりも、電磁攪拌によって攪拌される最大流速Uとの関係が深い。
【0039】
そこで、縦小割れ抑制というメリットの指標として凝固界面の流速勾配に関する(B)式を採用し、ブレークアウトというデメリットの指標として最大流速Uを採用すると、デメリットに対するメリットの比 M/Dは、
M/D = (du/dy)/U = (U/δHa)/U = 1/δHa
と表される。上式に更に、(2)式を代入すると、
M/D = Beff ・(σ/2μ)0.5
と表される。溶鋼の物性値であるσ、μは変化させることができないので、M/Dを大きくするためには、磁束密度Beffを大きくすればよい。この理由は、最大流速Uが
U=k・Beff・sqrt(W・f・P)・・・再掲(A)式
からわかるように磁束密度Beffに比例して増加するのに対し、凝固界面の流速勾配は磁束密度Beffの2乗に比例して増加するためである。しかしながら、M/Dを大きくするために、他の条件を一定としたままBeffを増加させると、Uが増加してブレークアウトリスクが増大してしまう事となる。
【0040】
本願発明者は、磁束密度Beff増大にともなうUの増加を抑制する手段として、(A)式に現れる周波数fや、ポールピッチPを低減する効果について検討した。本発明者が鋳造実験に使用した薄板向け連続鋳造機の鋳型内電磁攪拌装置は、周波数fが可変になっており、周波数fを低減する効果については実鋳造で容易に確認することができる。一方、ポールピッチPを変更するためには、リニアモータを作り直す必要が有り、多大な投資を要する。しかしながら、(A)式で、周波数fを低減する効果とポールピッチPを低減する効果は同等であるため、実鋳造で周波数fを低減する効果を確認できれば、ポールピッチPを低減する効果についても、十分な確度で推定できると考えられる。そこで、今回、周波数fを低減する効果を実鋳造で確認し、ポールピッチPを低減した場合の磁束密度分布変化等の効果は、3次元磁場解析ソフトInfolitica Magnet 7を用いる数値解析によって確認した。なお、磁場解析の精度については、予め、薄板連鋳機用の既存の電磁攪拌装置についての解析を実施して、十分な精度を有する事を検証した。
【0041】
先ず、周波数fを低減する効果を実鋳造で確認した実験について説明する。
【0042】
薄板向けスラブ連続鋳造機で中炭素鋼を鋳造した。鋳造条件は、下記表2に示す条件とした。
【表2】
【0043】
鋳片の品質については、以下の方法で調査した。
2ストランドの薄板向け垂直曲げ型連続鋳造機で、鋳造速度が0.9~1.1m/minの範囲の定常状態あるときに、両ストランドの鋳型内電磁攪拌条件をそれぞれ3種類(実験1、実験2、実験3)に切り替える鋳造実験を5キャスト繰り返し、それぞれの鋳造の両ストランドから、各電磁攪拌条件のスラブ鋳片を採取して、以下のように、気泡欠陥、縦小割れを調査した。湯面変形量については、代表部位について調査した。実験3は、極低炭素鋼又は低炭素鋼を鋳造したとき、極低炭素鋼又は低炭素鋼に気泡欠陥が生じない条件で実施した実験である。実験2は、周波数fを実験3の周波数fより低減した実験である。
【0044】
・気泡欠陥
スラブ鋳片そのままでは、気泡の検出が困難なため、気泡欠陥を調査するスラブについては、鋳片表面を目標深さ1.5mmで全面スカーフ(溶削)し、スカーフ後の鋳片表面を目視検査して、直径3mm以上の気泡欠陥の有無を調査した。
検出された欠陥個数を調査面積で割って算出した個数密度がどの程度小さければ、スラブ鋳片のスカーフを省略して、黒皮のまま圧延しても、操業がなりたつか、過去の経験でわかっているので、以下のように判定した。
〇:直径3mm以上の気泡の個数密度が、0.1個/m2以下
×:直径3mm以上の気泡の個数密度が、0.1個/m2より多い
【0045】
・縦小割れ
縦小割れを調査するスラブについては、スカーフを実施しない黒皮のまま、冷却して、表裏面について、鋳造方向の割れを検出するために、鋳型長辺方向の磁場を付与する磁粉探傷試験を行った。検出される縦小割れの殆どは、加熱炉中でスケールとともに除去されて圧延後には残らない程度に浅くて無害なものであるが、割れ個数を調査面積で割って個数密度が大きい場合は、深くて圧延後の製品に有害となる縦小割れが発生している場合があるという、過去の経験に照らし、以下のように判定した。
〇:縦小割れの個数密度が、1個/m2以下
×:縦小割れの個数密度が、1個/m2より多い
【0046】
・湯面変形
鋳型内電磁攪拌を適用すると、攪拌流がスラブコーナー部に衝突して、コーナー部の湯面の盛り上がりが大きくなる傾向がある。湯面変形は、鋳片のオシレーションマークに痕跡が残るので、オシレーションマークの変形量を調査することで、湯面変形を評価可能である。各電磁攪拌条件の黒皮鋳片からコーナー部サンプルを切り出し、オシレーションマークを良く観察できるよう、水ブラスト処理を行ってスケールを除去したのち、オシレーションマークの変形量を測定し、過去の経験に照らし、以下のように判定した。
〇:湯面変形量の平均値が6mm以下である(合格レベル)。ブレークアウトが起こるおそれがない。
×:湯面変形量の平均値が6mmより大きい。長時間にわたって実験を続ける場合、ブレークアウトが起こるおそれがある。
【0047】
実験条件と実験結果の一覧を表3に示す。
【表3】
【0048】
・気泡欠陥
電磁攪拌を適用してない実験1の条件では、気泡欠陥の個数密度が1.0個/m2程度と合格判定基準の約10倍大きかったのに対し、電磁攪拌を適用した実験2、実験3の条件では、何れも合格レベルに低減した。
【0049】
・縦小割れ
電磁攪拌を適用してない実験1の条件では、縦小割れの個数密度が4.5個/m2と大きかったのに対し、電磁攪拌を適用した実験2、実験3の条件では、何れも合格レベルに低減した。
【0050】
・湯面変形
電磁攪拌の周波数を3Hzとした実験3の条件では、湯面変形量が9mmと大きくなったのに対し、電磁攪拌を適用してない実験1と、電磁攪拌の周波数を1Hzと実験2では、何れも合格レベルにおさまった。
【0051】
以上、ポールピッチPをP=0.45mに保った今回の実験から以下のことがわかった。
電磁撹拌を適用しなかった実験1では、気泡欠陥及び縦小割れが発生した。
低炭素鋼の電磁撹拌条件で電磁撹拌を適用した実験3では、湯面変形が大きい。そのため、ブレークアウトが発生するおそれがある。
一方、周波数を3Hz(実験3)から1Hz(実験2)に低減して、交流移動磁場の位相速度を、2.7m/s(実験3)から0.9m/s(実験2)に低減して攪拌力を弱める事で、中炭素鋼の気泡欠陥防止効果、縦小割れ防止効果を同等に維持しつつ、電磁攪拌による湯面変形を抑制して、ブレークアウトが起こる確率の増大を抑制できる事を確認できた。
【0052】
上記実験により、実鋳造で周波数fを低減することにより、上記効果が得られることを確認できた。周波数fを低減することによって得られる効果とポールピッチPを低減することによって得られる効果は、上述したように同等である。そのため、ポールピッチPを低減することによっても、周波数fを低減することによって得られた上記効果、具体的には、中炭素鋼の気泡欠陥防止効果、縦小割れ防止効果を同等に維持しつつ、電磁攪拌による湯面変形を抑制して、ブレークアウトリスクの増大を抑制できる効果が得られると考えられる。
【0053】
これを確認するため、ポールピッチPを低減した場合の磁束密度分布変化等の効果を、3次元磁場解析ソフトInfolitica Magnet 7を用いる数値解析によって確認した。なお、磁場解析の精度については、予め、薄板連鋳機用の既存の電磁攪拌装置についての解析を実施して、十分な精度を有する事を検証した。以下に、数値解析について説明する。
【0054】
ここでは、中炭素鋼に多い厚板向けスラブ連続鋳造機で鋳造する場合について解析した。厚板向けスラブ連続鋳造機では、薄板向けスラブ連続鋳造機より鋳型幅が大きくなる事がある。撹拌力に関する(A)式より、鋳型幅Wが大きくなると、周波数fや、ポールピッチPが一定でも、攪拌力が大きくなり、最大流速Uが大きくなるため、ブレークアウトのリスクが高まる。
また、鋳型幅Wの増加に対応できるよう、ポール数Nを一定(一般的なポール数N=4)としたまま、リニアモータ幅Wmを大きくすると、ポールピッチP=Wm/N も必然的に大きくなるので、ポールピッチPの増加によっても、攪拌力が大きくなり、最大流速Uが大きくなるため、ブレークアウトのリスクが更に高まってしまう。
【0055】
薄板連鋳機より鋳型幅が大きくなる事がある厚板連鋳機で、静磁場を利用する電磁ブレーキを併用することなく、電磁攪拌によるブレークアウトリスク増大を防止しつつ、縦小割れの発生を抑制するためには、上記(A)式において、W・P・fの積を薄板連鋳機で実績のある範囲内に抑制する必要があり、そのためには、fの低減とともに、Nを増加させてPを低減することが有効であることを着想した。しかしながら、主に中炭素鋼を鋳造する厚板連鋳機の旋回攪拌方式の鋳型内電磁攪拌で、ポール数Nを4より大きくする前例がないため、本解析では、ポール数Nを4より大きくした磁場解析(計算2~4)をさらに実施した。
【0056】
表4に、解析条件および解析結果を示している。本解析では、溶鋼の電気伝導度σ:7×105S/m、溶鋼の粘性係数μ:0.0056Pa・Sとした。
【0057】
【表4】
【0058】
気泡欠陥の指標、縦小割れの指標および湯面変形の指標として、実験2および実験3の「凝固界面の流速勾配の最小値」と「電磁撹拌による最大流速」を採用した。具体的には、気泡欠陥の指標および縦小割れの指標として、「凝固界面の流速勾配の最小値」の最も小さい値「56(1/s)」を採用した。湯面変形の指標として、「電磁撹拌による最大流速」の最も大きい値「0.18(m/s)」を採用した。以下に、判定方法を説明する。
・気泡欠陥および縦小割れ
○:凝固界面の流速勾配が56(1/s)以上。この場合、気泡欠陥および縦小割れが発生しないと判定した。
×:凝固界面の流速勾配が56(1/s)未満。この場合、気泡欠陥および縦小割れが発生すると判定した。
・湯面変形
○:電磁撹拌による最大流速が0.18(m/s)以下。この場合、ブレークアウトが発生しないと判定した。
×:電磁撹拌による最大流速が0.18(m/s)を超える。この場合、ブレークアウトが発生すると判定した。
【0059】
計算1では、一般的なポール数N=4とした。上述したように、厚板向けスラブ連続鋳造機の鋳型幅Wの増加に対応できるよう、ポール数Nを一定(一般的なポール数N=4)としたまま、リニアモータ幅Wmを大きくすると、ポールピッチPの増加によって、攪拌力が大きくなり、ブレークアウトのリスクが更に高まってしまう。そのため、計算1で、湯面変形が「×」となったと考えられる。
【0060】
計算2~4では、ポール数Nを4より大きくし、ポール数N=4のときよりポールピッチPを小さくした。計算4は、電流値を計算3の電流値を1.43倍した条件で解析したものある。計算2および計算4から、ポール数N=5およびN=6のとき、中炭素鋼の気泡欠陥防止効果、縦小割れ防止効果を同等に維持しつつ、電磁攪拌による湯面変形を抑制して、ブレークアウトリスクの増大を抑制できる効果が得られることがわかった。なお、計算3は、ポール数N=5であるが、磁束密度が小さいため、気泡欠陥防止効果、縦小割れ防止効果が得られないと考えられる。
【0061】
図5Aおよび図5Bに、計算1~3の結果を示している。図5Aの縦軸は磁束密度であり、図5Aの横軸は、鋳型長辺方向について鋳型の幅方向中央からの距離である。図5Bに、電磁力と鋳型の幅方向中央からの距離との関係を示している。図5Bの縦軸は電磁力であり、図5Bの横軸は、鋳型長辺方向について鋳型の幅方向中央からの距離である。電磁力は、周波数(f)×磁束密度(By)2に比例する。なお、図5Aおよび図5Bには計算4の結果を示していないが、計算4は、計算3の電流値を1.43倍した条件で解析したものある。そのため、計算4でも、計算3と同様な分布になると考えられる。
【0062】
図5Aおよび図5Bから、計算2(ポール数N=5)と計算3(ポール数N=6)では、計算1(ポール数N=4)より、磁束密度および電磁力の大きさが鋳型長辺方向(鋳型幅方向)に均一であることがわかった。このことから、中炭素鋼の鋳造では、ポール数Nを5~6とすることにより、鋳型内の磁束密度や電磁力等が均一になることにより、不均一凝固が改善されると期待できる。これにより、ブレークアウトの発生を抑制できることがわかった。
以上より、中炭素鋼の鋳造では、ポール数Nを5~6とすることが有効であることがわかった。
【0063】
上記知見を基に、以下の知見が得られた。
中炭素鋼の鋳造において、鋳型1内の領域Rに発生する交流移動磁場の磁束密度Byを0.05T以上0.14T以下とし、位相速度Vを0.3m/s以上1.0m/s以下とし、第1リニアモータ3aのポール数N1を5以上6以下とし、第2リニアモータ3bのポール数N2を5以上6以下とする。これにより、中炭素鋼の鋳造において、縦割れの発生およびブレークアウトの発生を抑制できる。
【0064】
中炭素鋼の鋳造において、磁束密度Byを0.05T未満とした場合、縦割れが発生するおそれがある。中炭素鋼の鋳造において、磁束密度Byが0.14Tを超える場合、ブレークアウトが発生するおそれがある。また、中炭素鋼の鋳造において、位相速度Vを0.3m/s未満とした場合、縦割れが発生するおそれがある。中炭素鋼の鋳造において、位相速度Vが1.0m/sを超える場合、ブレークアウトが発生するおそれがある。縦割れが発生しているかは、例えば、磁粉探傷試験により確認することができる。
【0065】
なお、本願発明者の研究から、中炭素鋼のスラブにおいて、両端の短辺からスラブ幅方向に100mmまでの領域では、縦割れが発生しにくいことがわかった。このことから、中炭素鋼を鋳造する際、図2に示すように、鋳型1内において、鋳型の短辺部13、14から長辺方向(幅方向)に100mm以内の領域m1、m2では、磁束密度Byを0.05T以上0.14T以下にしなくても、縦割れが殆ど発生しないといえる。
【0066】
上記より、中炭素鋼を鋳造する際、鋳型1内において、鋳型の短辺部13、14から長辺方向に100mm以内の領域m1、m2を除く領域で、磁束密度Byが0.05T以上0.14T以下となるようにする。なお、鋳型1内において、鋳型の短辺部13、14から長辺方向に100mm以内の領域m1、m2で、磁束密度Byが0.05T以上0.14T以下であってもよい。
【0067】
ここで、縦小割れ抑制効果が得られる凝固界面の流速勾配du/dyの例を説明する。上述した実験1~3から、du/dyが56以上のとき、縦小割れ抑制効果が得られると考えられる。du/dyの上限は特に限定されないが、例えば、以下の方法によって算出される。
実験1~3の結果から、ブレークアウトを抑制可能な流速Uの最大値を0.18と考えた場合、上記(B)式からdu/dy=0.18/δHaである。上記(2)式から、δHa=1/(Beff・(σ/μ)0.5)である。Beffを上述した磁束密度Byの最大値0.14Tとした場合、δHa=0.00064mである。δHa=0.00064mのとき、上記(B)式からdu/dy=18/0.00064=281m/sである。
上記より、縦小割れ抑制効果が得られる凝固界面の流速勾配du/dyは、例えば、56以上281以下である。
ブレークアウトを抑制可能な流速Uは、実験1~3から、例えば0.18m/s以下である。
【0068】
上記では、図2において極間巻き方式の電磁撹拌装置3の一例を示したが、電磁撹拌装置は、図2に示す構成以外の構成でもよい。例えば、図2に示す電磁撹拌装置3とは別の極間巻き方式の電磁撹拌装置を用いてもよい。また、極間巻き方式以外の方式の電磁撹拌装置を用いてもよい。以下に、図6及び図7を参照しつつ、電磁撹拌装置の変形例を説明する。図6及び図7に示す電磁撹拌装置は3相であり、ポール数は6である。また、図6及び図7には、コイルに電流を流したときのある瞬間のN極とS極を示している。
【0069】
図6には、他の極間巻き方式の電磁撹拌装置の例を示している。図6に示すように、電磁撹拌装置103は、第1リニアモータ103aと第2リニアモータ103bを有する。
第1リニアモータ103aは、鉄芯121と、複数のコイル122-1、122-2、・・・、122-18とを有する。図6では、鉄芯121とコイルとを区別しやすいように、鉄芯121にハッチングを付している。鉄芯121は、長辺方向に延在している。鉄芯121は、鉄芯本体121Tと、鉄芯本体121Tから鋳型1に向かって突出した櫛の歯状の複数の突極121a、121bとを有する。複数の突極121a、121bは、長辺方向に所定の間隔で並んでいる。隣り合う2つの突極間に、コイルが巻回されている。例えば、突極121aと突極121bの間に、コイル122-1が巻回されている。第2リニアモータ103bは、第1リニアモータ103aと同様な構成である。
【0070】
図7には、突極巻き方式の電磁撹拌装置の一例を示している。図7に示すように、電磁撹拌装置203は、第1リニアモータ203aと第2リニアモータ203bを有する。
第1リニアモータ203aは、鉄芯221と、複数のコイル222-1、222-2、・・・、222-18とを有する。鉄芯221は、本体221Tと、本体221Tから鋳型1の長辺部11に向かって突出した複数の突極221a、221b、・・・、221rを有する。複数の突極221a、221b、・・・、221rは、長辺方向に所定の間隔で並んでいる。複数のコイル222-1、222-2、・・・、222-18は、複数の突極221a、221b、・・・、221rにそれぞれ巻回されている。
第2リニアモータ203bは、第1リニアモータ203aと同様な構成である。
【0071】
図2図6及び図7には、ポール数が6の電磁撹拌装置を示したが、電磁撹拌装置のポール数は5でもよい。電磁撹拌装置のポール数が5であるとは、電磁撹拌装置が有する一対のリニアモータにおいて、一方のリニアモータのポール数が5であり、他方のリニアモータのポール数が5であることである。
【0072】
図8には、ポール数が5である電磁撹拌装置の一例を示している。図8には、3相交流電流の電磁撹拌装置303を示している。電磁撹拌装置303には、図2に示す電磁撹拌装置3と同様な極間巻き方式が採用されている。図8には、コイルに電流を流したときのある瞬間のN極とS極を示している。
【0073】
電磁撹拌装置303は、第1リニアモータ303aと、第2リニアモータ303bとを有する。第1リニアモータ303aは、鉄芯321と、複数のコイル322-1、322-2、・・・、322-15とを有する。鉄芯321は、長辺部11の長手方向に平行な方向に延在している。複数のコイル322-1、322-2、・・・、322-15は、長辺方向に隙間なく並んでいる。長辺方向に隣り合う2つのコイル(例えば、コイル322-1とコイル322-2)は互いに接している。複数のコイル322-1、322-2、・・・、322-15は、鉄芯21の軸を周回するように、鉄芯21に巻回されている。電磁撹拌装置303のポール数が5である場合、第1リニアモータ303aおよび第2リニアモータ303bに、それぞれ、コイルが15個並んでいる。電磁撹拌装置303のポール数が5である場合、電流コイルの数Ncは15個である。
電磁撹拌装置303の第2リニアモータ303bは、第1リニアモータ303aと同様な構成である。
【0074】
ポール数が5の電磁撹拌装置は、図8に示す構成以外の構成でもよい。また、図8には、3相交流電流の電磁撹拌装置の一例を示したが、2相の電磁撹拌装置を用いてもよい。2相の電磁撹拌装置のポール数は5でもよく、6でもよい。2相の電磁撹拌装置には、極間巻き方式を採用してもよく、突極巻き方式を採用してもよい。
【0075】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0076】
例えば、本実施形態及び変形例では、図2図6図7および図8において、3相の電磁撹拌装置1を例示したが、2相の電磁撹拌装置を用いてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 鋳型
2 浸漬ノズル
3 電磁撹拌装置
3a、103a、203a、303a 第1リニアモータ
3b、103b、203b、303b 第2リニアモータ
11、12 長辺部
13、14 短辺部
21、31、121、131、221、231、321 鉄芯
22-1、22-2、22-18、122-1、122-2、122-18、222-1、222-2、222-18、322-1、322-2、322-15 コイル
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8